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2022/08/23

🇭🇰精神社会性低身長症

愛情を感じられないストレスから、子供の睡眠時に成長ホルモンが十分に分泌されず、低身長を生じる状態

精神社会性低身長症とは、母子関係や家族関係の問題によって、子供が十分な愛情を感じられないまま育った結果、成長ホルモンの分泌が低下して身長が伸びない状態。精神社会的小人症、心理社会性低身長症、愛情遮断性低身長とも呼ばれます。

低身長は、さまざまな原因で身長が伸びない状態のことで、年齢別平均身長より20%、あるいは標準偏差(SD)より2SD以上低い場合を目安としており、同性・同年齢の100人に2~3人が低身長という定義に当てはまります。

精神社会性低身長症は、乳幼児から6歳児程度の子供に多くみられます。母親など養育者からの愛情を感じられない極度のストレスや不安から、子供は心から安らいでグッスリ眠ることができず、成長するために必要な成長ホルモンが睡眠時に脳下垂体から十分に分泌されなくなる結果、身体的な成長に遅れが生じ、年齢別平均身長を著しく下回ると考えられています。

子供は愛情ばかりでなく、十分な栄養を与えられていないこともあり、栄養不足も年齢に見合った身長の伸びを止めてしまう原因の1つになります。身体的な成長の遅れだけでなく、情緒の発達、言語や知的能力の発達の遅れを生じたり、行動異常を示すこともあります。

入院、死亡、離婚などによる母親不在の環境が原因となったり、母親など養育者が深い悩みを抱えていたり、うつ状態であったり、薬物依存や知的障害、精神的な病気を持っていたりして、適切な子育てができないことが原因となったりします。

母親など養育者自身が子供時代に十分な愛情を受けて育っていない場合に、世代を超えて子育てに影響する世代間伝達、愛情不足の連鎖もあります。夫婦仲が悪く、家庭環境の雰囲気が悪いことが原因になることもあります。

栄養障害によって現れる症状として、身長が低い、体重の増えが悪い、腕や脚が細い、やせている、肋骨(ろっこつ)が目立つ、お尻がへこんでいるなどがあります。不適切な養育の結果として観察される症状としては、おむつかぶれがひどい、皮膚が汚い、汚い服を着ているなどがあります。子供の心理的な変化や行動異常によって現れる症状としては、目を合わせない、表情が乏しい、感情表現が乏しい、動作が緩慢、抱きついたり寄り添ったりしない、親に抱かれるのを嫌がる、異様な食欲増進、尿や便をもらす、寝付きが悪い、かんしゃくを起こすなどがあります。

愛情不足の養育や、より重大な問題がある虐待やネグレクト(育児放棄)が生後1年以内に始まり、3年以上続く時は、情緒や知能の障害が永久に回復しないといわれています。

養育者が子供の精神社会性低身長症に気付いたら、母子手帳の成長曲線をつけてみたり、子供らしい豊かな表情をしているかどうか、気を配りましょう。心配なことがあれば、小児科医や保健師に相談しましょう。

精神社会性低身長症の検査と診断と治療

小児科の医師による診断では、過去から現在までの身長、体重、頭囲の計測値から成長曲線をつくり、子供の成長を評価します。食事の内容から、栄養学的な分析をします。また、養育環境についての情報を集めます。

小児科の医師による治療では、食事の内容について養育者に栄養指導を行い、子供の年齢に見合った十分な食事を与えるようにします。

また、子供と養育者にとって、ストレスの少ない環境になるように調整をします。母親など養育者に対する心理カウンセリングが必要な場合もあります。養育者は子供に対してストレスを与えていないつもりでも、気付いていない家庭の習慣が子供のストレスになっている場合もあります。

子供にとってストレスの少ない環境で、年齢に見合った十分な栄養を与えると体重が増加し、成長ホルモンの反応も回復して身長の伸びが促進されなど、成長の遅れは取り戻されます。

しかし、虐待やネグレクト(育児放棄)など養育者の子育てに重大な問題がある場合、ケースによっては養育者と子供を遠ざけることも必要です。入院で治療を受けさせたり、乳児院など保護観察施設で養育したりすることで遅れていた成長が改善されることもあります。

母親が不在の場合、あるいは母親がいても子供に愛情を十分に与えることができない場合には、母親に代わって父親や親に代わる養育者が十分な愛情を注ぐことで防ぐことは可能です。

🇭🇰精神遅滞(精神薄弱)

全般的な知能が低く、環境への適応に障害

精神遅滞とは、知的機能が全般的に平均よりも低く、同時に環境への適応機能の障害が認められる発達障害の一つ。法令上は18歳までに、多くは一般的に生まれた時点、あるいは早期の乳幼児期に障害が生じ、日常生活において、何らかの援助や介助が必要となります。

以前は精神薄弱と呼ばれていましたが、この用語は最近ではほとんど用いられず、1994年頃から精神遅滞と呼ばれるようになりました。日本では2000年から、法律用語、行政用語としては知的障害が用いられています。知的機能が遅れていることで、精神遅滞は自閉症や学習障害と混同されることがあります。

多くは原因不明です。原因として想定されているものは、以下に示すようにさまざまです。髄膜炎や脳炎などの感染症、頭部外傷、フェニールケトン尿症などの代謝異常症、ダウン症などの染色体異常、子宮内胎児発育遅延や母体のアルコール摂取といった出生前要因などが挙げられ、脳の機能の成熟障害が存在すると見なされています。

心理的、環境的な原因で発達が遅れている場合には、精神遅滞とはいいません。

症状の現れ方については、重度の精神遅滞の子供は一般に、首の座りが遅い、座ることができないなど、運動の発達が遅いことで乳児期に気付きます。染色体異常による場合は、身体奇形を伴うことが多く、出産直後に判明するものも少なくありません。

身体発達に異常がない、軽度から中等度の精神遅滞の場合には、乳幼児の発達課題を乗り越えることができず、少しずつ明らかになってくることが多くみられます。初めの数年間は正常な発達をしているようにみえますが、バイバイをしないことや言葉が出ないことなど、言語の発達の遅れ、遊びの不得手、体の動きの不器用さなどから判明してきます。

全般的な知能が低いために、日常生活や社会生活への適応に障害が生じ、食事、衣服の着脱、トイレでの排便、排尿といった身の回りのことが一人でうまくできない、同じ年齢の子供と遊ばない、といった症状がみられます。小学校に入って、集団生活に適応できないために問題行動が目立ち、初めて精神遅滞に気付くこともあります。

成年期では、一般的な職場への就労はハードルが高いものの、本人の能力に合っている環境であれば問題はありません。一般的な職場での就労が困難な場合は、障害者の保護者やボランティアなどが開設する通所施設で活動するケースが多くみられます。

精神遅滞の検査と診断と治療

兄弟姉妹と比べて、あるいは近所の子供と比べて、自分の子供は発達が遅いのではないかという心配があれば、成長障害や身体的な病気の有無も含めて、小児科医、児童精神科医、小児神経専門医を始めとした医師の診察を受ける必要があります。

医師による診断では、面接や診察、質問用紙、知的水準を測る知能検査、ないし幼児では発達検査などを行って、症状を調べます。これらの検査は、発達の遅れている点を明らかにするだけでなく、子供の優れた能力を見いだすことにもなります。

専門医であっても、一度の診察や検査で長期的な発達の予測をすることは困難です。時間を空けて診察し、発達の経過も併せて判断することが必要です。

しかしながら、フェニールケトン尿症や被虐待児など、ごく一部の場合を除けば、精神遅滞に対する医学的治療はありません。元来が知的機能の遅れであり、その基礎は大脳皮質に存在する神経細胞の働きの弱さにあるため、薬物によって治したり、知能段階を高めることは不可能とされています。

合併する身体の病気が予想される場合には、必要な検査を定期的に行うことがあります。例えば、てんかんの合併が考えられる場合には、脳波検査を行います。もちろん、合併症の症状を改善させる治療も行います。

精神遅滞に対する医学的治療はないため、治療の目標は一人ひとりの子供に応じた教育と訓練に置かれます。つまり、現在の知能に沿った生活能力を訓練して、その知能段階で生きていける能力を開発することが、目標となります。身体機能訓練、言語訓練、作業療法、心理カウンセリングなどを開始し、現実的で達成可能な目標を定め、教育と訓練を行うことにより、子供の持つ発達の可能性を最大限に発揮させることができます。

心理的な問題、自傷行為などの行動の問題に対しては、カウンセリングや環境の調整を行います。十分に行き届いた指導やサポートのためには、個別や少人数集団における特別な教育環境が必要になります。

長期的には、身の回りのことが一人でできるようになること、将来の職業につながるような技能を身に着け、社会に適応していくことが目標となります。

精神遅滞の子供の抱える問題点は、年齢や発達段階によって変化します。周囲の人にとって大切なことは、年齢や発達の段階によって直面するハンディキャップを理解し、子供の能力に見合った教育手段を選ぶことです。小児科医などの医師、発達相談、地域の発達支援プログラムなどを利用して、情報を得るとよいでしょう。

ある程度の障害のある子供には、療育手帳を交付してもらい、特別児童扶養手当の受給手続きを取ることも大切です。公的援助の内容と手続きについては、児童相談所に相談してください。

🇨🇳成人夜尿症

睡眠時に無意識のうちに排尿する夜尿症を成人まで持続している状態

成人夜尿症とは、睡眠時に無意識のうちに排尿してしまう夜尿症を成人まで持続している状態。成人になってから初めて、夜尿症を出現した状態も含みます。

小児の夜尿症は5歳では約20パーセント弱の頻度でみられますが、10歳では約5パーセントまで減少し、成人まで持続する人は1パーセンと程度と考えられています。

乳児のころからずっと続いている夜尿症は、神経系の発達が未熟であることにより、膀胱(ぼうこう)が尿でいっぱいになっても目が覚めないことが原因の場合や、膀胱が尿でいっぱいになる前に勝手に縮んでしまう過活動膀胱が原因の場合があります。また、尿を濃縮し、尿量を減らすホルモンである抗利尿ホルモンは通常、昼間よりも夜間に多く分泌されますが、夜尿症児では夜間の抗利尿ホルモンの分泌の増加が不十分であることが認められています。

夜尿症には3タイプあり、多量の尿を漏らしてしまう多量遺尿型、少しだけ尿を漏らす排尿機能未熟型、そして、両者の混合型があります。成人の夜尿症では排尿機能未熟型が多くみられ、過活動膀胱が代表的な原因で、膀胱炎や前立腺(ぜんりつせん)肥大症などの病気、冷え性、常習性便秘によっても起こります。多量遺尿型は、抗利尿ホルモンの分泌不足、水分の取りすぎ、生活リズムの乱れ、精神的な問題が原因で起こります。

また、乳児のころからずっと夜尿症が続いている場合を一次性夜尿症、少なくとも半年間は夜尿症がなかった時期があり、再度出現した場合を二次性夜尿症と分類します。大人になってから初めて夜尿症が出現した場合も、二次性夜尿症に分類されます。

小児の場合では、二次性夜尿症は下の子供の誕生など精神的なものが原因となっていることがあります。しかし、成人の場合にはそのようなことは考えにくく、何らかの隠れた病気の存在を疑う必要があります。

成人夜尿症の原因の一つは、睡眠障害です。アルコールや睡眠薬が、その睡眠障害の原因になっていることもあります。睡眠障害のうちでも頻度の高い睡眠時無呼吸症候群では、夜間の尿量が増えるため、夜中に何回もトイレに起きるようになり、夜尿症の原因となることもあります。また、睡眠時遊行症、いわゆる夢遊病も、夜尿症を合併することが多いと考えられています。

尿を蓄えたり排出したりする働きを持つ膀胱は、手や足と同じように神経によって動きが調節されています。従って、神経の病気が夜尿症の原因となることがあります。脳血管障害や脳腫瘍(しゅよう)、免疫異常により神経系が障害される多発性硬化症などの重大な神経の病気が、夜尿症によって判明する場合もあります。

ただし、これら神経の病気では、昼間にも頻尿や尿失禁、排尿困難感などの症状を伴うことが多いようです。ほかにも、糖尿病や尿崩症のように極端に尿の量が増えるような病気でも、夜尿症が引き起こされることがあります。

このように、とりわけ成人になってから始まる夜尿症では、多様な原因を考える必要があり、重大な病気が隠れている場合もあるので、夜尿症が継続するようでしたら、一度泌尿器科の専門医を受診することが勧められます。

成人夜尿症の検査と診断と治療

成人夜尿症の原因は多種多様で、その原因に応じて治療法や治療薬などの対処法も異なります。膀胱炎や前立腺肥大症、睡眠障害、脳血管障害、脳腫瘍、多発性硬化症、糖尿病、尿崩症などの基礎疾患がある場合には、その治療を優先的に行います。

基礎疾患がないことが認められた場合は、泌尿器科の医師はまず、睡眠時におむつをして夜尿の量を測定する検査を行い、夜尿症のタイプを判別します。その後、診断結果を基にタイプ別の原因を調べて、その原因に応じた治療薬の投与が行います。

抗利尿ホルモンの量が少ないために夜尿の量が多くなる多量遺尿型の夜尿症では、イミプラミン(トフラニール)、クロミプラミン(アナフラニール)、アミトリプチン(トリプタノール)三環系抗うつ剤が使用されます。この治療薬が使用される目的は、精神の安定、膀胱括約筋の緊張を促すなどです。

膀胱に尿を多くためることができない排尿機能未熟型の夜尿症では、パップフォー、ポラキスなどの尿失禁治療薬が使用されます。成人がこれらの治療薬を用いた場合、副作用として、のどが渇く、目が乾く、排尿困難などが起こる可能性があります。 排尿機能未熟型のタイプの場合、尿意を感じた時にすぐにトイレにゆくのではなく、なるべく我慢する排尿抑制訓練も必要です。また、1日3回、肛門(こうもん)を締める運動を一緒に行うと効果的です。

尿が少し漏れるとアラームが鳴る装置を用い、排尿抑制を繰り返す夜尿アラーム療法という治療法も有効です。睡眠中の膀胱容量が増えてきますので、排尿の時間帯が遅くなってゆき、最終的には朝起きるまで排尿せずにすむようになります。

いずれのタイプの夜尿症も、基本になるのは日常生活でのケアです。例えば、夕食後は水分をあまり取らないようにし、就寝前には一切飲まないようにします。夜尿症は温度が低いことで悪化しやすいので、夏場にクーラーをつけすぎないようにします。冬は就寝前に入浴するようにし、できるだけ体を温めた状態で床に就くようにし、寝具は前もって温めておきます。また、抗利尿ホルモンという尿量を減らすホルモンは睡眠中に起こされると減ってしまうので、睡眠中には起こされないようにします。

2022/08/22

🇨🇳セックス依存症(性依存症)

性的な行為におぼれ、自らのコントロールを失う精神疾患

セックス依存症とは、セックスに限らず性的な行為におぼれ、自らのコントロールを失う精神疾患。性依存症とも呼ばれます。

日本ではいまだ認知度が低いものの、アメリカでは薬物やアルコール依存症と同じく代表的な依存症の一つとして、ホルモン療法などによる治療が行われています。

薬物がやめられない薬物依存症、酒がやめられないアルコール依存症と同じく、性的な行為がやめられない強迫性を持ち、自らの意思で興奮や刺激を求める性衝動をコントロールできなくなります。依存する対象には、実際に相手のある性交渉だけでなく、自慰行為やポルノへの過度な耽溺(たんでき)や収集、強迫的な売買春、乱交、露出、のぞき行為、盗撮、性的ないたずら電話、インターネットを介したアダルト・チャットなどすべての性的な行為が含まれます。

何らかのストレスや落ち込み、心理的な問題などで苦しんでいる状態で、セックスなどの性的な行為によって救われるという経験をすると、その快感を求めて繰り返すことになるのが主な原因。緊張感からの解放、現実やストレスからの逃避、生きていることの自己確認、男らしさ女らしさの証明など、いろいろなものが誘因となります。

セックス依存症のリスクとしては、性病、金銭的な負担、不倫などによる社会的地位の喪失、性犯罪などによる逮捕、異性関係を巡っての配偶者との不和、子供などの家族への虐待、性行為をしていない時の空虚感、不安感、焦燥感などが挙げられます。

なお、性的な行為への依存を依存症の一つとして位置づけられるのかどうか、また、どのあたりに正常と依存症の境界を引くかなど、アメリカでも1970年代から長い間論争が続いています。依存症ではなく行動制御障害であるという説もあり、セックス依存症という概念を一切認めないとする考えを持つ人々も存在します。

セックス依存症の検査と診断と治療

セックス依存症で苦しんでいる場合は、精神科、心療内科、あるいはメンタルクリニックを受診します。また、各都道府県に設置されている精神保健センターには相談できる部門がありますので、予約の上、精神科医、臨床心理士(カウンセラー)の面接を受けることができます。

医師の側は、依存症に至った原因を探り、薬物療法や精神療法などの方法で矯正を図ります。薬物療法では、精神安定剤、抗うつ剤、抗不安剤、睡眠薬などが処方され、精神療法では、臨床心理士によるカウンセリングや催眠療法、各種療法が行われます。

また、同じような境遇の人々が集まり、お互いに影響を与えるセックス依存症の自助グループに参加することが、有効な場合もあります。日本でも小規模ではありますが、首都圏にグループがあり、定期的に集まるなどして個々に快復へ向けた活動を続けています。

2022/08/21

🇱🇰双極性障害(躁うつ病)

●躁状態と、うつ状態を繰り返す気分障害

双極性障害とは、躁(そう)状態とうつ状態を繰り返す精神疾患であり、気分障害の1つ。従来、躁うつ病と呼ばれていた病気に相当し、双極性感情障害とも呼ばれます。

双極性障害(躁うつ病)の生涯有病率は、0.2~1.6パーセントであるとされます。同じ気分障害の1つで、うつ病だけを繰り返す単極性障害(単極性うつ病)の生涯有病率6~15パーセントと比べると、低めではありますが、決して珍しい疾患ではありません。

発病年齢は、単極性障害の場合は年齢層が幅広く分布しているのに対して、双極性障害は20歳代にピークがあります。また、単極性障害は男女比が1対2と女性に多いのに対して、双極性障害では男女比は1対1となっています。

双極性障害は一度回復しても、再発を繰り返すことが多く、生涯に渡る薬物投与による予防が必要となることが普通です。

発症の原因はいまだ解明されていませんが、単極性障害と同様、疾患脆弱(ぜいじゃくせい)性、すなわち病気になりやすい性質を持つ人に身体的、あるいは心理的負荷がかかり、脳の機能のバランスが取れなくなると発病するとされています。

疾患脆弱性を規定する因子は複雑ですが、その1つに遺伝があり、双極性障害の親を持つ人の2~3割は発病すると見なされています。双生児で一方が発病した場合、他方も発病する一致率は6~8割ともいわれています。しかし、他の2~4割は遺伝以外の要因であり、遺伝と環境要因の両方で規定されると考えられます。

シナプスと、セロトニンやノルアドレナリンなどの脳内神経伝達物質を介した神経伝達機構に障害が生じることに、双極性障害の発症原因を求める仮説もあります。

双極性障害は、双極1型障害と双極2型障害に分けられています。双極1型障害の方が躁状態が激しいもので、双極2型障害は軽躁状態を伴うものです。

躁状態とは、気分の異常な高揚が続く状態です。軽躁状態とは、基本的に躁状態と同じ症状で、社会的、職業的機能に影響のない程度のものを指します。双極2型障害においては、軽躁状態そのものが発症者本人や家族に認識されていないことも多く、自覚的には反復性の単極性障害(単極性うつ病)であると考えている発症者も多くみられます。

自尊心の肥大、多弁、注意散漫、活動の増加といった躁状態が1回認められれば、双極1型障害と診断されます。1回の躁状態で終わるケースはまれで、一般的には、症状のない回復期を伴いつつ、うつ状態と躁状態のいずれかが繰り返していくケースが多くみられます。

躁状態から次の躁状態までの間隔は、数カ月から5年と幅があります。再発を繰り返すにつれて、病状の持続期間は長くなる一方、病状と病状の間隔は短くなります。うつ状態から急に躁状態になる躁転もまれではなく、一晩のうちに躁転することもあります。

中には、1年のうちに4回以上、躁状態とうつ状態を繰り返すケースもあり、これを急速交代型(ラピッドサイクラー)と呼びます。時に、躁とうつの症状が混じり合って同時に現れることがあり、これを混合状態と呼びます。

双極性障害の症状は、躁状態とうつ状態で対照的です。基本的には、感情やエネルギーが高まった躁状態に対して、うつ状態は感情やエネルギーの低下状態と理解できます。

具体的な躁状態の診断基準は、以下の症状が3ないし4つ以上みられる状態が1週間以上続き、社会活動や人間関係に著しい障害を生じることとなります。

1. 自尊心の肥大=自分は何でもできるなどと、気が大きくなる

2. 睡眠欲求の減少=眠らなくても、いつも元気なまま過ごせると思い込む

3. 多弁=一日中しゃべりまくったり、手当たり次第にいろいろな人に電話を掛けまくったり、メールを送りまくったりする

4. 観念奔逸=次から次へ新しい考えが浮かんでくる

5. 注意散漫=気が散って一つのことに集中できない

6. 活動の増加=仕事などの活動が増加し、よく動く

7. 快楽的活動に熱中=お金やクレジットカードを使いまくって買物をしたり、性的逸脱行動に出る

この躁状態の初期には、発症者は明るく開放的であることもありますが、症状が悪化するとイライラして、怒りっぽくなる場合も多くみられます。

本人の自覚的には、エネルギーに満ち、快いものである場合が多くて、苦痛を感じません。他人から見ると、感情のコントロールができなくなっていて危なっかしい状態で、社会的には、さまざまなトラブルを引き起こすことが多くみられます。本人は病気だという認識もないので、治療や入院も拒否しがちです。

逆に、うつ状態になると何週間も、憂うつな気分が続きます。朝が最も憂うつで、夜になってくると軽くなるのが普通です。食欲もなくなり、不眠になり、躁の時のことを思い出して自己嫌悪に陥ったり、悲観的なことばかり考えてしまいます。双極性障害のうつ状態では、不眠もありますが、過眠になることも多く見受けられます。

ひどい時は、ほとんど寝たきりになり、頭も働かず、生活ができなくなって入院することもあります。少し体力がついてきても、気分は悪いので、「破産してお金がない」といった貧困妄想や、「恐ろしいことをした」などの加害妄想が出るために将来を悲観し、自殺を図ったりする場合もあります。

●気分安定薬の継続的な服用が治療の柱

双極性障害(躁うつ病)は、発症者の結婚、職業、生活にしばしば深刻な影響を招く原因となります。離婚率も高く、健康な対照者の2~3倍とされています。また、自殺率も高くなっています。

躁状態が確認されれば、双極性障害の診断はさほど困難ではありません。しかし、うつ状態のみの場合は、単極性障害(単極性うつ病)と診断したケースのうち、2~3割が経過を追うと双極性に転じるので、注意が必要です。特に20歳以前、あるいは20歳代で発病する単極性障害の場合は、慎重に経過をみていく必要があります。

双極性障害の治療は単極性障害と同様、薬物療法、心理療法、社会的サポート(地域支援活動)の3本柱で行われますが、薬物療法は単極性障害と基本的に異なります。

双極性障害では、気分安定薬を中心に用いるのが原則で、躁状態だけでなく、うつ状態もある程度予防することが知られています。日本では、炭酸リチウム、カルバマゼピン、バルプロ酸の3種類の気分安定薬が使用できます。

炭酸リチウムは、気分安定薬のうち最も歴史が長く、その有効性について最も科学的研究が行われている薬物です。ただし、治療域と中毒域が近いために、血中濃度を定期的に測定する必要があります。全般的には副作用の少ない薬物ですが、一般的な副作用としては、手の指先の震えがあるほか、時に飲み始めの数週間に、極端な倦怠(けんたい)感が出て服用を止める患者もいます。有効血中濃度を超えた場合、複視、ふらつき、意識障害、腎障害などの中毒症状が現れます。

カルバマゼピンは元来、てんかん、三叉(さんさ)神経痛の治療薬であり、双極性障害に用いられ始めたのは比較的最近。一般的な副作用としては、眠気や倦怠感、めまいなどですが、極まれに、全身性の薬疹(やくしん)、肝機能障害、造血機能障害などが生じることがあり、重篤な状態となる場合もあります。リチウムと同様に、有効血中濃度を超えると中毒症状が現れるため、定期的な血中濃度測定が必要です。

バルプロ酸も元来、てんかんの治療薬ですが、最近、気分安定薬として用いられ始めました。副作用が比較的少ないため、使用しやすい薬物です。

これらの気分安定薬を用いた治療においては、ある種類が無効でも、他の気分安定薬が有効な場合もあります。また、2剤以上組み合わせることで有効な場合も。服薬が不規則であると効果がないため、薬を規則的に飲み、有効血中濃度に保つことが重要です。

激しい躁状態には鎮静効果のある抗精神病薬を、程度の重いうつ状態には抗うつ薬を、不眠に対して睡眠導入剤を用いますが、これらはあくまでも付加的なものです。

また、気分安定薬の長期使用により、双極性障害の6割は再発を予防することが可能なので、再発予防に重点を置いた治療計画が必要です。

しかし、発症者に服薬の必要性が十分、理解できていないこと、副作用を不快に感じること、一度に複数の種類の薬が処方されて混乱することなどにより、服薬が不規則になったり、中断することがあります。このような状態が続いた場合、再発する可能性が高まります。

医師の処方を守って服薬することを服薬順守、あるいはコンプライアンスといいますが、これを高めるために、医師や薬剤師から病状や治療法について十分な説明を受けて理解すること、家族など周囲の人も服薬に協力することが重要となります。

再発予防のためには、服薬順守を高めると同時に、ストレスを管理することが重要となります。一時的な好調、不調に振り回されずに、根本となっているストレスや性格を改善していくことで躁状態、うつ状態を繰り返さなくなります。

🛏早朝覚醒

朝早くに目が覚め、そのまま眠れなくなるタイプの不眠症

早朝覚醒(かくせい)とは、朝早くに目が覚めてしまって、そのまま眠れなくなるタイプの不眠症。不眠症と判断される目安となるのは、この症状が週に2回以上、かつ1カ月以上続いており、本人が苦痛を感じている場合です。

朝早く、4時くらいに目が覚めた後、もう一度眠ろうとしてもなかなか眠れませんし、眠れたとしても、うつらうつらするだけで熟睡できないため、かえって疲れてしまうこともあります。早くに目が覚めてしまうので、そのぶん、早く寝なければと早寝の習慣が付いてしまい、さらに早朝に目が覚めるという症状が進んでしまう場合もあります。

重要な試験や会議の前など特に緊張している場合、朝早く目が覚めてしまったり、なかなか眠れないということはありますが、長期間続くようだと昼間の生活にも支障が出てしまいます。早朝覚醒になると、活動中に集中力が落ちたり、何事も面倒に感じたり、気分が落ち込みがちになったり、昼間に我慢できない眠気に襲われることもあります。

この早朝覚醒には2つのパターンがあり、1つは老人性早朝覚醒です。人間は年を取ると、生活リズムが変化して朝方の生活になる傾向があります。朝が苦手だった人でも、年を取ると早起きになったという話もよく聞きます。眠り方というのは、年齢とともに変化するのが自然なのです。

若い人の場合、1回の睡眠中に深い眠りのレム睡眠が2~3回繰り返されます。しかし、年を取るとともにレム睡眠に達する回数は少なくなり、浅い睡眠状態になります。また、眠るための物質であるメラトニンの分泌量が少なくなり、眠る能力が低下してきます。そのため、朝早くに目が覚める早朝覚醒や、夜中に目が覚める中途覚醒が起こりやすいのです。

不眠症の中で最も罹患(りかん)率の低いタイプが早朝覚醒ですが、高齢者の不眠症では最も多いタイプに相当します。ほかの不眠症と違い、ある程度の年齢で熟睡感があり、生活に支障がなければ問題はありません。早く目が覚めてしまえば、無理に再び眠ろうとせず、そのまま一日を始めてもいいのです。

疲労がたまったり、昼間の活動中に眠気を感じる場合には、改善を行うのがお勧めです。朝日が差し込まないように遮光カーテンを引いたり、雨戸を閉めて、早い時間に覚醒しないようにするのも一案。

早朝覚醒のもう1つのパターンには注意が必要です。それは、うつ病、双極性障害(躁うつ病)、躁病などの精神疾患の症状として現れます。

ストレスや不規則な生活が続くと、知らず知らずのうちに軽度のうつ病になっていることがあります。うつ病と不眠症は関係が深く、うつ病の症状の一つに不眠が挙げられます。うつ病として軽い段階だと、本人も病気だという自覚症状がないままで、どんどん睡眠状況が変化するため、睡眠不足と気分の上下動で混乱してしまいます。

うつ病の場合は、起きる時間が早くなっていく以外にも、中途覚醒、入眠障害など睡眠そのものが不規則になるため、日常のパターンが崩れやすくなり、生活に支障を来すことが多いものです。

精神疾患の症状としての早朝覚醒は、日中に体を動かしたり、日の光をきちんと浴びたり、精神的なストレスを軽減したり、睡眠の環境を整えたりといった方法で、改善する場合もあります。しかし、断続的に不規則な眠りに悩まされる場合、気分の変調、落ち込みなどの問題がある場合は、できるだけ早く心療内科や精神科を受診して、専門医に相談することがお勧めです。

精神疾患の治療の一環で、睡眠薬を出してくれる医療機関も数多くあります。医師と相談の上、睡眠薬などの服用が必要である場合もあります。

🇮🇶退職うつ病

会社を定年退職後に、抑うつ気分に陥り日常生活に支障が出る状態

退職うつ病とは、今まで勤めてきた会社を定年退職後に、抑うつ気分などの、うつ病の症状が現れ、日常生活に支障が出てくるようになった状態。定年退職うつ病、退職症候群、定年症候群などとも呼ばれます。

うつ病は、気分障害の一種であり、抑うつ気分や不安、焦燥、精神活動の低下、食欲低下、不眠症などを特徴とする精神疾患。一般に、うつ病を発症しやすい年齢は25歳から35歳ですが、何歳からでも起こる可能性があり、退職や転居といった人生の節目、生活の大きな変化で起こる場合もあるのです。

退職うつ病は、定年退職後になるばかりでなく、定年の数年前から退職後の年金生活などに不安を感じて、抑うつ的になってしまう人もいます。退職うつ病を発症しやすいタイプは、学校を卒業してからずっと同じ会社に勤め、仕事中心にひたすら頑張ってきた会社人間の人です。40年前後働き続けて定年退職を迎えると、自分の人生の中心であった仕事を失い、何をしてよいのやら途方に暮れてしまいます。また、会社を辞めるということは、愛着を持ってきた仕事、地位や肩書き、所属していた集団、経済的基盤といったものを失い、さまざまな喪失感を伴うものです。

特に、現代社会では寿命が長くなり、60歳代もまだまだ働ける年齢です。多少の衰えは感じていても、自分としては十分働く気がある時期に会社を辞めなくてはならないというのは、社会から必要とされていないように思ってしまい、必要以上に自分を過小評価したり、劣等感にさいなまれたり、むなしさ、寂しさを感じたりもします。それとともに、家庭では主(あるじ)としての地位が揺らいでいることを感じ、プライドさえも打ち砕かれます。

同時に、これまでの生活リズムが一気に大きく変化し、行動範囲が会社から地域へと変化します。出勤する必要がなくなった長い一日をどのように過ごしたらよいか、わからなくなってしまい、気分が沈み込んで何かをする気力がなくなったり、回りのことに興味が持てなくなって人生が味気なく感じられるようになります。意欲減退、無気力、無感動のほか、頭が重い、めまいがする、胃の調子が悪い、疲れやすいなどの身体症状が現れたり、記憶力が衰えるというようなこともあります。

そのような状態が長く続くと、食欲も低下し、睡眠障害なども起こって、日常生活に支障が出てくるようになります。最悪の場合は、自分を責め、自殺を図ることさえあります。

うつ病の原因は十分にわかっていませんが、脳内の神経伝達の一部が一時的に悪くなって、情報(刺激)の伝わり方が部分的に悪くなっているのではないかと考えられています。だから、うつ病の人がやる気をなくしてぐったりしているのは、決して怠けているわけではないのです。脳、あるいは神経という臓器が一時的に不調になっていると考えたほうが、わかりやすいかもしれません。

退職うつ病の症状がみられたら、早期に発見して治療を受けるようにしましょう。うつ病と診断された場合は、抗うつ薬による薬物療法がメインに行われます。SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれる抗うつ薬を中心に、気分を安定させる気分安定薬や抗精神病薬、不安や不眠を改善する抗不安薬や睡眠薬など、さまざまなものが選択されます。

薬を服用することで、落ち込みやイライラが改善され、気分が安定して楽になりますが、3カ月から6カ月、1年くらいの時間がかかります。風邪の熱が解熱剤で翌日には下がったというような治り方はせず、一進一退で、調子が悪くなったり調子がよくなったりという状態を繰り返しながら、次第に軽快していき、ある日気付いてみたら、全く元通りの健康な状態になっていたというような経過をたどります。

調子がよくなったり、副作用が出たりからといって自己判断で薬の服用を中止すると、うつ病が再発することもあるので、注意が必要です。医師と相談しながら、根気よく治すことが大切です。

なお、周囲の人が励ますとかえって本人が重荷に感じ、症状が悪化することもあるので、ストレスを与えないような気配りが必要です。

退職うつ病を予防するには、早めに定年後の第二の人生の計画を立て、その準備をしておくことです。定年前から、仕事以外に熱中できる趣味などを持つようにしましょう。また、休日は家族と一緒にどこかへ出掛けるなど、家庭でのコミュニケーションを増やし、自分の居場所を作っておきましょう。趣味のサークル、地域の行事などに積極的に参加し、会社や家庭以外の人間関係も築いておくのもよいでしょう。

何よりも定年退職後の人生を明るく前向きにとらえ、「これからは、今までやりたくてもやれなかったことをやる」というような考え方をすれば、うつ病とは無縁な第二の人生が送れるでしょう。

2022/08/19

🇹🇭不安障害

不安を主症状とする精神疾患の総称

不安障害とは、不安を主な症状とする精神疾患全般のことをいいます。

誰(だれ)もが感じる不安とは、明確な対象を持たない恐怖のことを指し、その恐怖に対して自己が対処できない時に発生する感情の一種です。不安を感じるからといって、日常生活に支障を来すことはあまりありませんが、不適切な状況下で生じたり、度重なって生じる場合、あるいは日常生活に支障を来すほど強く長く続く場合には、不安障害と見なされます。

この不安障害とは、神経症やノイローゼといわれている症状の比較的新しい呼び方です。呼称が変更された要因には、心理学的レベルだけではなく、脳機能から病態をとらえた医学的レベルで診断、治療を行うという考え方があります。

以下に、不安障害に分類され得る精神疾患を挙げます。

●恐怖症性不安障害

広場恐怖

社会恐怖(社会不安障害)

特定恐怖(単一恐怖)

対人恐怖症

● 他の不安障害

全般性不安障害

パニック障害過敏性腸症候群

混合性不安抑うつ障害

●強迫性障害

●重度ストレス反応、及び適応障害

心的外傷後ストレス障害(PTSD )

急性ストレス障害

適応障害

●一般身体疾患による不安障害

●物質誘発性不安障害

●特定不能の不安障害

原因と診断と治療

不安障害の原因は完全には解明されていませんが、心身両面の要因が関係しています。不安障害が多発する家族がありますので、おそらく遺伝も一因となっていると思われます。

不安は心理学的には、大切な人間関係が破たんする、生命に危険が及ぶような災害に遭うといった環境的なストレスに対する反応とも見なされます。ストレスに対する反応が不適切なケースや、遭遇した出来事に大きな打撃を受けたようなケースに、不安障害が発症することがあります。

例えば、大勢の人の前で話をするのを楽しいと感じる人がいる半面、人の目にさらされたり、注目を浴びたりすることに、非常に強い恐怖や恥ずかしさを感じて、発汗、恐怖感、心拍数の増加、震えなどの症状が現れる人もいます。

また、甲状腺(こうじょうせん)機能亢進(こうしん)症などの体の異常や、処方されたコルチコステロイド薬の服用、コカインの違法使用などにより、不安障害の症状が生じることがあります。

不安の出現は、パニックを起こした時のように突然生じることもあれば、数分間、数時間、あるいは数日間かけて徐々に生じることもあります。不安そのものが持続する時間は、数秒間から数年間までさまざま。

不安の強さは、軽いめまい程度のものから、本格的なパニック発作まで多岐に渡り、発汗、息切れ、動悸(どうき)、頻脈、胸痛、頭痛、下痢などといった身体症状として現れることもあります。不安障害が大きな苦痛をもたらして、うつ病に至ることもあり、逆に、うつ病の人が後から不安障害を発症するケースもあります。

医師による診断は、主に症状に基づいて行われます。不安に耐えられる程度は個人差が大きく、どのような状態が異常な不安であるかを判断するのは、時に困難です。心的外傷後ストレス障害を除く不安障害では、家族の発症の有無が診断の参考になります。

不安障害の種類によって治療法が異なるため、その正確な診断が重要です。さらに、他の精神障害から不安が生じている場合も治療法が異なるため、不安障害と区別する必要があります。

不安障害の種類に応じて、薬物療法や心理療法(認知療法、認知行動療法など)のいずれか、または両者を併用する方法で、大半のケースで苦痛や心身の機能不全をかなり軽減できます。薬物療法では、ベンゾジアゼピン系などの抗不安薬、フルボキサミンに代表されるSSRIなどの抗うつ薬などが中心となります。鍼(はり)治療も有効との報告もあります。

🇨🇳ヒステリー球(食道神経症)

食道には病変がないのに、食道の違和感などを覚える疾患

ヒステリー球とは、食道そのものに病変がなく正常にもかかわらず、食道の違和感や胸痛など覚える疾患。食道神経症とも呼ばれます。

症状は、食道にヒステリー球と呼ばれる異物が存在している感じ、食べ物が食道につかえる感じ、胸焼け、吐き気、胸部圧迫感、胸痛など多彩です。

発症者の多くは女性で、ストレス、自律神経失調症、情緒不安定、貧血などが背景にあります。いたずらに精神的なもの、気のせいと判断することは禁物で、発症者が不安を持つ食道由来の胸痛の原因としては、胃食道逆流によるものが多くみられます。そのほかに、食道運動機能異常、食道知覚過敏、精神疾患との関連があり、これらが相互に関係して発症することが多いようです。

中年女性では、食道通過障害の症状のほかに、鉄欠乏性貧血、舌炎を合併するプランマー・ビンソン症候群という疾患もあります。食道上部にある慢性食道炎が通過障害の原因とも考えられていますが、こちらも食道そのものに病変は認められず、心因性要素も関係しているようです。

ヒステリー球の検査と診断と治療

胸が何となくおかしいなど、食道由来の胸部違和感や胸痛を訴える症例の多くは、胃液が食道に逆流して起こる胃食道逆流症が主な原因です。この診断のためには、まず心電図や心臓エコー検査を行って心臓疾患を否定します。次に内視鏡検査やバリウム造影で食道を調べます。

ここで胃食道逆流症による食道粘膜の病変の存在が確認されれば、そのまま治療に入ります。通常は、酸分泌抑制薬の内服が選択されます。

前記の検査で胃食道逆流症が証明されない際には、食道内酸逆流の程度を食道内腔(ないくう)に設置したpHセンサーで証明する方法が最も確実です。近年では鼻から挿入する有線型のセンサーではなく、食道内に固定する無線式のセンサーが使用できるようになっています。

以上の食道の内視鏡検査や食道内のpHのモニタリングで病変が観察されない場合は、心臓の精密検査となります。この目的は、虚血性心疾患の診断です。心臓の冠動脈造影で異常がみられる場合には、心疾患の治療を行います。冠動脈造影で異常が認められず、胃食道逆流症も否定される場合には、骨格筋由来の胸痛の検査に入ります。

最近では、心臓に異常を認めない非心臓性胸痛(NCCP)という概念が普及しています。非心臓性胸痛の約半数は、胃食道逆流症によるものと考えられています。従って、最も専門的な治療経験が要求される食道神経症をいたずらに精神的なもの、気のせいと判断することは禁物で、順序を追った検査体制で診断を進めていくことが大切となります。

精密検査を進めても、食道などに病変がなければ、過敏になっている神経を沈めるための鎮静薬や精神安定薬が投与されます。また、抱えている問題やストレスになっている原因を突き止め、その問題についてのカウンセリングを行うことで、自然とヒステリー球など食道の違和感、胸部の違和感が消えていくこともあります。

日常生活では、運動や趣味に励み、精神的、身体的機能を高めることが望まれます。

🇨🇳ヒステリー性混迷

突然、意識がはっきりせず、もうろうとした状態になる体の機能障害

ヒステリー性混迷とは、突然、意識がはっきりせず、もうろうとした状態になる体の機能障害。解離性障害の一種であり、解離性混迷と呼ばれることもあります。

過去に虐待にあったり、心がひどく傷付けられたなどの心的外傷(トラウマ)があると、自分では意識していないような心理的ストレスが積み重なっており、過去の心的外傷の記憶が突然、かつ非常に鮮明に思い出されるフラッシュバックを契機として、心が無意識のうちに逃れようとします。

すると、体の機能には全く異常がないにもかかわらず、意識はあるがはっきりとせず、もうろうとした状態となって、長時間にわたってほとんど動かず、横たわったり、座ったりしている状態となります。外部からの接触や光、音などの刺激に対して、反応が鈍くなります。

症状が重くなると、外部から話し掛けたり、体を揺すったりと刺激を加えたとしても、反応しなくなってしまう場合があります。

この状態となっても筋緊張は正常なため、静止姿勢や呼吸機能は保持されたままとなっていますが、自分の意思によって体が動かせなくなります。症状が現れている間は、発語したり、眠ったり、食事を取ったりといった行動もできなくなります。

ヒステリー性混迷の発症により、意識が回復した後に精神的なダメージを受けてしまい、苦痛を味わうことになります。そして、ヒステリー性混迷を頻繁に発症してしまうことを気にしすぎてしまうことにより、うつ状態となってしまう恐れもあります。

ヒステリー性混迷を自分自身で解決することは、非常に困難です。周りの人の協力が必要となってきます。また、症状に気が付いたり、周りの人から指摘されたりした際には、直ちに精神科、神経科、心療内科を受診する必要があります。

ヒステリー性混迷の検査と診断と治療

精神科、神経科、心療内科の医師による診断では、症状を注意深く観察し、体を診察して、一般的な体の疾患を除外するための検査を行います。

精神科、神経科、心療内科の医師による治療では、症状が出現する背景となった心理的なストレスに焦点を当てた心理療法やカウンセリングを行います。

心理療法では、本人が無意識のうちに抑圧している心理的なストレスを明らかにする記憶想起法や、催眠療法、認知行動療法などを行い、発症者がストレス対処法を自ら身に着けていくことを目指します。

また、発症者の精神的な健康を回復させるために、抗うつ剤や精神安定剤が有効なこともあります。時には、家族などの協力も得ながら、生活上の問題の解決を支援し、現実生活への適応を促します。

ヒステリー性混迷の克服には、場合によっては非常に長い時間を要してしまうこともあります。しかし、正常な日常生活を送るためには、確実に努力して克服することが必要です。

🇨🇦ヒステリー性失声症

ヒステリー性失声症とは、心因的なストレスが原因となって、声が出ない、話せない、声が出てもかすれ声や、しわがれ声になってしまう病気です。心因性失声症とも呼ばれています。30歳以上の女性に多くみられ、突然、声が出なくなるため、周囲の人たちも驚きます。

心理的な要因によることが多く、これに性格が反映して発症します。周囲への依存性が高く、自己顕示欲が強いなど、ヒステリー性格を持っている人に多い、と分析されています。心理的に厳しい立場に立っている時、欲求が満たされない時など特殊な状況下では、内的な葛藤を自分で処理することができなくなり、性格が未熟な人では、体に症状として現れてきてしますのです。一種の逃避である場合もあります。

放っておいても、自然治癒することが多い病気ですが、なかなか治らなかったり、繰り返し発症する場合は、耳鼻咽喉(いんこう)科を受診しましょう。声帯などに異常がないことが判明した場合は、精神科や心療内科を受診しましょう。

精神科などでのヒステリー性失声症の治療では、発症の原因になっている心理的な要因を探ります。医師の説明を受け、本人が病歴とともに生育暦、生活暦などを、よく把握することが大切となります。その上で、発声の訓練と、カウンセリングなどによる心理療法の二つの治療が進められ、精神安定剤を用いることもあります。

治療効果が高いため、病気は比較的すぐ、だいたい1週間くらいで治るのが、一般的と見なされています。

2022/08/18

🇺🇿ピック病

人格の変化が目立つ認知症の一種

ピック病とは、人格の変化や理解不能な行動を特徴とする疾患で、認知症の一種。働き盛りの40歳~60歳に多く発症し、大脳皮質のうち前頭葉から側頭葉にかけての部位が委縮します。

ピック病の発症ケースは、同じく大脳皮質のうち頭頂葉と側頭葉後部が委縮するアルツハイマー型認知症よりもはるかにまれです。

1898年にチェコのアーノルド・ピックにより報告された疾患で、100年以上経過してもまだ世界共通の明確な診断基準すらなく、正確な発生頻度も不明。疾患を正しく診断できる医師が少ないために、アルツハイマー型認知症と誤診されたり、うつ病や統合失調症と間違えられて、不適切な治療やケアを受けるケースも少なくありません。

認知症も発症する年代によって、40~60歳代で発症する初老期認知症と、60歳、ないし65歳以降に発症する老年期認知症に大まかに分けられますが、ピック病は初老期認知症の代表疾患。40歳代~50歳代にピークがあり、平均発症年齢は49歳。女性の発症率が多いアルツハイマー型認知症に対して、そういった性差はありません。

記憶力の低下を主症状とするアルツハイマー型認知症に対し、ピック病の初期では、記銘力・記憶力、見当識(けんとうしき)、計算力などの知的機能は保たれています。

初期で目立つのは人格障害で、認知症の中では人格の変化が一番激しくなります。アルツハイマー型認知症の人格障害はピック病に比べれば軽く、脳血管性認知症ではさらに軽いといわれます。

人格障害には、易怒、不機嫌、爽快なども認められ、人を無視した態度、人に非協力な態度、不まじめな態度、ひねくれた態度、人をばかにした態度などが目立つようになります。しかし、本人に病識はありません。

ピック病特有の症状といえる滞続言語も、認められます。滞続言語とは特有な反復言語で、会話や質問の内容とは無関係に、同じ内容の話を繰り返したり、おうむ返しを続けたりします。これらは持続的で、制止不能です。

時刻表のように毎日決まった時間に、散歩や食事、入浴など日常生活のさまざまな行為を行うようになることもあります。この際、やめさせたり、待たせたりすると怒ります。毎日、同じ物、特に甘い物しか食べない場合もあり、際限なく食べる場合もあります。

自制力の低下により、周囲には理解不能な行動、状況に合わない行動もみられます。例えば、場所や状況に不適切と思われる悪ふざけや、配慮を欠いた行動をしたり、周囲の人に対して無遠慮な行為や身勝手な行為を示します。

また、自発性が低下し、考え不精がみられる一方で、多動、外出、徘徊(はいかい)、落ち着きのなさ、多弁、衝動行為、粗暴行為が増加することもあります。窃盗や万引きなどの犯罪を犯す場合もありますが、反省したり説明したりできず、同じ違法行為を繰り返すこともあります。

症状が進行すると、意欲減退が生じ、仕事を放棄して引きこもったり、何もしないなどの状態が持続し、自発性行動の少なさは改善しません。身だしなみにも無関心になり、不潔になります。周囲の出来事にも無関心になります。

やがて、記憶障害や言葉が出ないなどの神経症状が現れます。最終的には、重度の認知症に陥ります。

検査と診断と治療

できるだけ早めに医療機関を受診し、詳細な診断を受けることが勧められます。また、医療機関を受診する際には、できればピック病の専門医を訪ねることが併せて勧められます。

医師による検査では、CT、MRIによって、前頭葉と側頭葉に目立った局所性の脳委縮が認められるかを調べます。SPECT、PETという脳血流や脳ブドウ糖代謝を見る検査によって、前頭葉と側頭葉の血流、あるいは代謝の低下が認められるかも調べます。

診断に際しては、アルツハイマー型認知症、統合失調症との鑑別が行われます。アルツハイマー型認知症では記銘・記憶力、見当識、計算力などの知的機能低下が初期症状ということを始め、症状、検査などの特徴によって、知的機能が保たれているピック病と鑑別されます。統合失調症では幻聴がみられるということを始め、症状、検査などの特徴によって、幻聴はほとんどみられないピック病と鑑別可能です。

ピック病は原因が不明であるため、その研究が立ち遅れていて、治療法は今のところ発見されていません。対症療法をアルツハイマー型認知症と同様に行うのが一般的で、落ち着きのなさ、多動、徘徊などに対して、抗精神病薬を使うことがあります。

介護も重要となりますが、40歳代~50歳代に多発するピック病の人はまだ若いので、老人に比べると力も強く、その上徘徊などもあるため、その対応は困難を伴うことも多くみられます。場合によっては、精神病院への入院を余儀なくされることもあります。

予後は不良とされ、全経過は短めで2~3年から、長くても8~10年で衰弱し死亡することが多く、アルツハイマー型認知症よりも短い傾向にあります。

🇦🇿非定型うつ病

若い女性に多い、典型的でないうつ病

非定型うつ病とは、典型的なうつ病とは異なるタイプのうつ病。発症した人は周囲から、うつ病と思われないことや、社会不安障害など他の心の病気を合併することが少なくありません。

非定型うつ病は従来、不安障害(神経症)や人格障害などと診断されることが多かったものですが、最近は米国などで、典型的なうつ病とは違うアプローチで治療され、その割合も米国では、うつ病全体の3~4割を占めています。日本では精神科医の間でもようやく認知されてきた段階で、大きな環境の変化に対応できない適応障害と間違われて、診断されるケースもあります。

従来の典型的なうつ病は定型うつ病、メランコリー型うつ病、あるいは気分障害の中の大うつ病性障害などと呼ばれるもので、気分の落ち込み、意欲・食欲・集中力・性欲の低下、不眠などが主な症状となります。

この定型うつ病とは現れる症状が違うのが非定型うつ病で、気分の落ち込みはあるものの、何か楽しいことがある時には元気が出るのが大きな特徴です。その他、タ方になると調子が悪くなったり、過食や過眠ぎみになるなどの特徴もみられます。

20~30歳代でかかるうつ病では、多くがこの非定型うつ病に相当すると考えられます。特に、女性の場合は8割が相当し、男性と比べ3~5倍多いとされています。

以下、定型うつ病と非定型うつ病の症状を比較します。気分の面では、定型うつ病は終始落ち込んで、元気や気力がないのが特徴。出来事の内容を問わず、何に対してもやる気が持てず、今まで積極的に楽しんでいた趣味にも、関心や喜びが持てなくなります。

一方、非定型うつ病は気分の落ち込みや気力、集中力の低下など、うつ病に特有の症状はあるものの、楽しいことやいいことがあると明るくなります。すなわち、出来事に反応して気分が変わる「気分の反応性」がみられます。発症者は常に落ち込んでいずに気分が高揚している時もあり、社会生活の適応度もそれほど悪くないため、周りからの理解を得にくくなります。

リズムの面では、定型うつ病は「モーニング・デプレッション」と呼ばれ、朝起きた時に調子が悪く、気分が落ち込みます。家事や仕事も面倒で、何をやる気にもなれないという憂うつな気分がダラダラと続き、やがてタ方くらいになると少し気が楽になってくるのが特徴。

一方、非定型うつ病は1日のうちでは、タ方になると気持ちが不安定になりやすいのが特徴。午前中から昼は比較的穏やかに過ごせるものの、「サンセット・デプレッション」と呼ばれて、タ方から夜になると不安やイライラが高まって調子が悪くなります。時には、気分が高ぶって泣きわめいたり、リストカットなどをしてしまうことも。調子の悪い時間帯が、定型うつ病と全く逆になります。

睡眠の面では、定型うつ病は夜、布団に入っても、なかなか眠れず、夜中にも度々目が覚める上、朝早くに目が覚めてしまい、そのまま眠れません。特に早朝に目覚める傾向が強く、慢性の睡眠不足になりがちです。

一方、非定型うつ病は1日の睡眠時間が10時間以上にも及ぶほど、「過眠」傾向にあります。睡眠時間が長いにもかかわらず、昼間に眠気を感じ、いくら寝ても寝足りないような気がします。

食欲の面では、定型うつ病は性欲などを含めた基本的な欲求が低下するのが特徴で、食欲が落ちて食べる量も減るため、やせて体重が落ちます。

一方、非定型うつ病は食べることで、気持ちを紛らわしたり、甘い物が無性に欲しくなって発作的に食べる「過食」傾向がみられ、体重も増加しがち。

また、非定型うつ病では、疲労感を通り越して、手足に鉛がついたように、体が重くなる「鉛様まひ」を示すこともあります。

発症する人の性格を分析すると、定型うつ病では、きちょうめんで、まじめで、完壁主義な人ほどなりやすい傾向があります。

一方、非定型うつ病の場合には、相手からどう見られるかを気にし、他人の顔色をうかがう性格傾向がみられ、特に他人から拒絶されることに過敏になる「拒絶性過敏」が重要な特徴となっています。他人の何気ない一言であっても、過剰な気分の落ち込みの引き金となりやすいのです。

その根底には、他人の評価が気になってしょうがないといった不安があり、子供のころから、常に相手のいうことを尊重し、従うために「いい子」といわれていた人、人見知りがある人、人前で上がりやすい人、うまく自己主張するのが苦手な人がなりやすい傾向にあります。

原因を分析すると、定型うつ病では、脳内で情報交換をしている神経伝達物質のセロトニンやノルアドレナリンが少なくなるために、発病するといわれています。非定型うつ病でも、神経伝達物質のノルアドレナリンが関係していると見なされていますが、まだはっきりしたことはわかっていません。

非定型うつ病の日常生活における支障としては、他人の批判を過剰に受け止めてしまうために、親密な人間関係を築くのが困難であったり、他人の批判を恐れるあまりに、人間関係に気を使いすぎてしまうことが挙げられます。過眠傾向にあるため、朝、起きれなくて、約束の時間に遅刻してしまうこともあります。

また、病気の影響で、大脳の前頭葉の血流が悪くなりやすくなります。ここは、思考や情動をつかさどっていて、人間が人間らしくあるために大切な部分。血流が悪くなると、前頭葉がスムーズに機能しにくくなって、心身の不調として出ることがあります。

薬物療法と心理療法による治療

非定型うつ病の症状が2週間以上続き、つらい時には、我慢をせず精神科や心療内科へ相談に行き、適切な治療を受けましょう。

病院によっては、定型うつ病と非定型うつ病を区別して診断しないこともありますが、治療法や対処法に異なる部分があるため、注意が必要です。そもそも、この非定型うつ病がうつ病の一種として認識されたのは、日本では近年のこと。従来は、適切な治療や投薬が行われないために治りづらく、ほかの病気と診断されることも多かったのです。

非定型うつ病の治療には、薬の服用による薬物療法が行われるほか、生活のリズムを改善するための生活指導や、考え方を整理し捕らえ直すための心理療法が行われます。

時には、入院による治療が行われることもあります。うつ病には、定型・非定型を問わず自殺の危険性があり、特に非定型では、人間関係のやり取りの中で感情が激し、衝動的に自殺を完遂してしまう恐れがあることに、対処しなければならないためです。

非定型うつ病に使われる薬は、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれる抗うつ薬を中心に、気分を安定させる気分安定薬や抗精神病薬、不安や不眠を改善する抗不安薬や睡眠薬など、さまざまなものが選択されます。通常、定型うつ病に多く使われるパキシルなどのSSRIだけでは、非定型うつ病にはあまり有効でないことがわかっているために、薬を組み合わせるのです。

薬を飲むことで、落ち込みやイライラが改善され、気分が安定して楽になりますが、治るまでには1年は続けて飲むことが必要です。

薬による治療に加え、認知行動療法などの心理療法的なアプローチも重要です。とりわけ、認知行動療法には薬物療法と同等の効果があることが確認されています。

非定型うつ病の人は、マイナス思考に捕らわれがちで多角的な思考ができず、突発的な問題が起きると、状況や自分の気持ちを整理することが困難になってしまいます。気分の不安定さを解消するために、ギャンブルや買い物、セックス、お酒などに依存する傾向もあり、そうしたものにのめり込む罪悪感から自傷行為を繰り返してしまうことも。

そこで、認知行動療法の助けを借りて、自分の考え方の癖を知り、よりよい行動に修正する方法で、カウンセリングやグループ療法を通じて、ストレスへの有効な対処法や人間関係の結び方を身に着けます。この認知行動療法は、前頭葉の働きを高めるのにも効果的な治療法です。

認知行動療法のプログラム例としては、親など大切な人から愛されているという認知の増強・確認、劣等感の除去、自己主張のスキル、自己の客観視の向上、ストレスヘの対処、情動コントロールがあります。

しかしながら、休養を取り、薬を第一とした適切な治療を受けることで回復していく定型うつ病と異なり、非定型うつ病の場合は悪循環を繰り返すことが多く、なかなか治りにくいのが現状です。

治療を続けるうちに、ふとしたきっかけによって、よくなることもあります。人間関係で不快な刺激が少なくなるなど、人によってそのきっかけはさまざま。職場の人間関係が影響する場合、異動を申し出たり、転職を試みるの>症状が治まっても、うつ病は再発しやすい病気ですので、薬を飲み続けることが大切。自己判断で薬をやめるのは禁物です。治癒には平均3年かかるとされるので、焦りも禁物。

そして、医師による治療も大切ですが、この非定型うつ病の改善には、普段の生活習憤も重要なカギを握っています。

非定型うつ病を改善する生活のヒント

非定型うつ病では過眠傾向になるため、昼夜が逆転し、生活リズムが乱れがちになります。生活のリズムを乱れたままにしておくと、憂うつ、イライラなどの気分や、体の重さといった症状がますます悪化してしまいます。

規則正しい生活を心掛け、軽い運動を行う。この当たり前のことが、気持ちを安定させる一番の特効薬となります。とりわけ、仕事に行くなど昼間は目的を持って活動することが、リズムの乱れを改善するために大切です。

具体的な方法を、以下に紹介します。

規則正しい生活をする

朝はきちんと起きて、3度の食事を食べ、夜は12時前には寝るという規則正しい生活を心掛けましょう。人間の体内リズムは、朝起きて光を浴びることで調整されます。目に光が入ると、脳の松果体から出るメラトニンという睡眠物質の分泌が抑制され、体内リズムがリセットされることによって、1日およそ24時間で一巡する体のリズムが整います。

可能な場合は仕事に行く

仕事に行ける場合には、多少つらくても時間どおり会社に出勤し、業務に取り組むことも必要です。やらなければいけないことがあり、それに取り組むことが、精神の覚醒(かくせい)を促すため、体内リズムを正常にしてくれるのです。

毎日、何か目標を持って生きる

仕事を持っていない人の場合には、朝起きたら「今日はこれをしよう」、「何かをやり遂げよう」と、その日の目標を持って、毎日を生きることが大切。「この本を読もう」など簡単なことでかまいません。自覚を持つことが、昼間の覚醒を促します。

掃除や片付けなど、整理整頓を心掛ける

体を動かす方法としては、掃除や片付けなどの整理整頓(せいとん)もお勧め。適度な運動になるだけでなく、「今日は部屋の掃除をする」ということが目標になって、リズム調整に役立ちます。きれいになると達成感もあり、周囲の人に感謝されることで人間関係の改善にもなり、気分がよくなります。

外に出て散歩などで体を動かす

1日1回は外に出て、太陽の光を浴び、公園を散歩するなど体を動かすようにします。ウォーキングなどの軽い有酸素運動をすると、脳では気分を安定させる脳内物質の分泌が増え、心も体もリラックスします。

身近な人がうつ病になったら

うつ病のタイプによって、接し方が違います。典型的なうつ病である定型うつ病の場合は、とにかくゆっくりと体を休め、休養を取ることが必要。周囲の人が「頑張れ」と言葉を掛けたり、励ましたりすると、本人が自分自身を追い込んでしまうため、よくありません。

逆に、非定型うつ病の場合は、少し励ますことがかえって本人のためになります。「決まった時間に起きて会社に行こうよ」、「1日1万歩を目指して歩いてみたら」など掛ける言葉は優しくても、心は厳しく持ちながら、本人の気力を奮い立たせるように接することが大切です。

また、非定型うつ病では、周囲の人に助けを求めるサインとして、衝動的に自殺を企てる恐れがあります。不安や焦燥感が強い時は、しっかり見守ることが大切になります。

🇦🇲パーソナリティー障害

人格の著しい偏りで社会生活に支障

パーソナリティー障害(人格障害)とは、精神医学の領域において、生来持っている人格傾向が思春期、青年期に顕著に出てきて、その人格の著しい偏りのために、社会生活を営むことに支障を伴う状態を指します。

物事の認識の仕方や行動が逸脱していて、対人関係の機能が障害され、自分自身や他人、または両方を苦める傾向が目立ちます。パーソナリティー障害は精神疾患の一つに含まれますが、その他の精神疾患と比べて慢性的であり、全体としての症状が長期に渡って変化しないことに特徴があります。

従来は人格異常、精神病質と呼ばれていた病気の概念で、新たに人格障害と一般的に呼ばれてきましたが、この人格障害は否定的なニュアンスが強いことから、近年はパーソナリティー障害と呼ばれることが多くなっています。日本精神神経学会では2008年5月に、人格障害をパーソナリティー障害に用語改定をすることを発表しました。性格障害と呼ばれることもあります。

パーソナリティー障害(人格障害)にはさまざまなパターンがあり、時代や国によって分類方法も変わってきます。現在、アメリカの精神医学会によって作られた診断基準では、パーソナリティー障害は3つのグループに分けられています。

A群は、妄想性パーソナリティー障害、統合失調症質パーソナリティー障害、統合失調症型パーソナリティー障害。統合失調症(精神分裂病)に近いパーソナリティー障害です。

これらのパーソナリティー障害の特徴は、思考、感情、行動などの統一性を失う統合失調症のようなはっきりとした精神症状はありませんが、それとよく似た傾向を持っています。自閉的で、しばしば妄想を持ちやすく、奇妙で風変わりな傾向を示します。

B群は、反社会性パーソナリティー障害、境界性パーソナリティー障害、演技性(ヒステリー性)パーソナリティー障害、自己愛性パーソナリティー障害。感情が不安定、かつ激しいのが特徴的なパーソナリティー障害です。ストレスに対して弱く、他人を巻き込むことが多い傾向を示します。

C群は、回避性(不安性)パーソナリティー障害、依存性パーソナリティー障害、強迫性パーソナリティー障害。不安やおびえ、引きこもりなどを特徴とするパーソナリティー障害です。周りの評価が気になり、それがストレスとなる傾向を示します。

その他、 抑うつ性パーソナリティー障害 、受動攻撃性パーソナリティー障害も、診断基準の付録に挙げられています。

これらパーソナリティー障害の人には、融通が利かず、問題に対して適切に対処できない傾向があるため、しばしば家族、友人、職場の同僚との関係の悪化を招きます。問題への不適応や、物事の認識の仕方や行動の逸脱は多くの場合、思春期、青年期から成人期初期にかけて始まり、時を経ても変わることはありません。

ただし、一部のパーソナリティー障害の人では、30~40歳代までに状態が改善していく傾向があるとされ、晩熟現象と呼ばれています。加齢による生理的なものの影響だけではなく、仕事等の社会生活を通じて多くの人々に触れ、世の中には多様な生き方、考え方があるということを知り、それを受容することに基づく現象と考えられています。

パーソナリティー障害者の診断と治療

パーソナリティー障害(人格障害)の人は、自らの思考や行動のパターンに問題があることに気付いていません。このため、自分から医師に治療や助力を求めることは、あまりありません。当人の行動がほかの人に迷惑をかけているなどの理由で、友人や家族、社会的機関によって、医療機関に連れてこられることは、より多くあります。自主的に受診するのは、不安、抑うつ、薬物乱用など、つらい症状がある場合が主です。

医師の側では、既往歴、特に繰り返し現れる不適応的な思考や行動のパターンに基づいて、パーソナリティー障害を診断します。統合失調症や気分障害など他の精神疾患でも、パーソナリティー障害の症状を示すことがあるため、区別に注意しなくてはなりません。また、受診者の年齢が幼いほど、パーソナリティー障害の診断に慎重になる必要があります。人格発達が不完全な未成年者では、いずれかのパーソナリティー障害の傾向を示すことが珍しくないためです。

パーソナリティー障害がある人では、行動の結果が思わしくない場合にもそのパターンを頑固に変えようとしないため、他人の目にも明らかになりがちです。問題への心理的な対処のメカニズムの不適切も、よく目に付きます。この対処メカニズムは誰(だれ)もが無意識に用いるものですが、パーソナリティー障害がある人の場合はその使い方が未熟で不適応的であるために、日常生活にまで支障を来します。

パーソナリティー障害の治療には、長い時間がかかります。パーソナリティー障害は一時的な心の病ではなく、問題が人格といえるほどに当人の心の奥底まで浸透し、長期に渡って変化せずに安定していますので、社会適応の妨げとなる特性が短期間で改善されることはあまり望めません。

パーソナリティー障害の人は何よりも他人を信頼しないので、医師との治療関係に持っていくまでが大変ですし、治療関係自体を良好なまま維持していくのにも工夫が必要とされます。

何らかの精神症状が出ている場合、妄想などの内容が過激で生活にかなりの支障が出ている場合には、薬物を投与しながら治療していくほうが好ましいとされます。薬物療法や環境ストレスの低減により、不安や抑うつなどの症状はすぐに軽快します。ただし、薬には症状を緩和させるだけの限られた効果しかなく、パーソナリティー障害から起こる不安や悲しみなどの感情は、薬で十分に軽減されることはまずありません。

薬物療法や環境ストレスの低減により、不安や抑うつなどの症状を軽減した後、心理・対話療法が行われ、その人独自の思い込みを少しずつ解いていくことが試みられます。

パーソナリティー障害のタイプにより治療法は異なりますが、思い込みを解くことはすべての治療法に共通する原則の1つ。当人は自らの行動に問題があるとは思っていないため、状況に適応していない思考や行動が引き起こす有害な結果に、直面させる必要があります。それにはまず、当人の思考や行動パターンから生じる望ましくない結果を、心理療法士が繰り返し指摘する必要があります。時には、怒って声を張り上げるのを禁じて、普通の声で話させるなど、行動に制限を加えることも必要とされます。

家族の行動は、本人の問題行動や思考に良くも悪くも影響するため、家族の関与は治療に役立ち、多くの場合不可欠でもあります。グループ療法や家族療法、専用施設での共同生活、治療を兼ねた社交サークルや自助グループなどが、社会的に望ましくない行動を変えていく上で役立ちます。

心理・対話療法は通常、不適応行動や対人関係のパターンに何らかの変化がみられるまで、1年以上は続けなければなりません。医師とパーソナリティー障害の人との間に、親密で協力的な信頼関係ができると、当人はそこから自らの悩みの根源を理解し、不信、ごう慢、人に付け込むといった対人問題の原因となる態度や行動を、より明確に認識するのに役立ちます。一般的に、不適応行動の変化は1年以内に生じますが、対人関係の変化にはなお時間がかかります。

パーソナリティー障害の中でも、特に適応の妨げとなる態度や期待、信念などがある自己愛性パーソナリティー障害、強迫性パーソナリティー障害などの場合には、精神分析的精神療法を受けることが勧められ、通常は少なくとも3年間続けられます。

境界性パーソナリティー障害、反社会性パーソナリティー障害、回避性パーソナリティー障害の場合には、当人の行動の変化が最も重要と見なされ、落ち着きがない、社会的に孤立している、自己主張が欠如している、怒りやすいなどの行動を変えるのに、認知行動療法が役立ちます。ただし、反社会性パーソナリティー障害または妄想性パーソナリティー障害の場合は、どの治療法でも成功することはまれです。

🇲🇺歯ぎしり

睡眠中に歯をこすり合わせたりする習癖

歯ぎしりとは、睡眠中に上あごと下あごの歯をこすり合わせたりする習癖。歯には、咬耗(こうもう)と呼ばれる歯が擦り減った跡が見られます。

歯ぎしりの仕方には、歯をこすり合わせるほか、歯をカチカチ合わせる、歯をくいしばるという3タイプがあります。

上下の歯をこすり合わせるのが一般的で、下のあごが左右に素早く動いた状態を繰り返し、ギリギリ、ガリガリという音が出ます。この動きは、起きていて意識がある時に再現するのは難しく、無意識に早く、大きく動かしている人が多くみられます。

歯をカチカチ合わせるのは、下のあごが上下に素早く動く状態を繰り返し、上下の歯をぶつけ合うので、カチカチ、カンカンといった音が出ます。軽くカチカチ当てる人から、強く当てる人までさまざまです。

歯をくいしばるのは、あごに力を入れて上下の歯をギュッと強くかみ締めた状態で睡眠していて、音はほとんどしません。自分の体重ほどの力で、無意識にかむ人もいます。起床時にあごの疲れを感じたら、このタイプの歯ぎしりが疑われます。

3タイプの歯ぎしりを全部する人もいますし、人によってさまざま。いずれにせよ、歯ぎしりは歯や体の健康にとってあまりいいものではありません。

周囲の人にとっても、夜中に隣で寝ている人にギリギリ、ガリガリ、カチカチ、カンカンと大きな音を立てられると、たまったものではありません。目が覚めたら最後、不快な音が気になってなかなか寝付けなくなってしまうでしょう。ところが、歯ぎしりをしている当の本人は、音をさせながらもスヤスヤと夢の中にいます。

自分自身が立てている音に気付かないのは、だれもが睡眠中は感覚器の伝達経路が遮断されているためです。起きている時は、音は筋肉から脊髄(せきずい)を通り脳へと伝えられますが、睡眠中はこの回路が全く働かなくなるため、脳はすぐそばのあごで起こっている歯ぎしりの音を感知できなくなるのです。

つまり、周囲にいるほかの人から注意されない限り、自分自身の歯ぎしりに気付くことはほとんどないでしょう。ほとんど音を発することなく、ギュッと歯をかみ締めるタイプの歯ぎしりは、他の人に気付かれることも少ない一方、あごの痛みで目を覚ます人も中にはいます。

日中に上下の歯が接触している時間は、食事の時間がほとんどで、累積は約15分といわれています。睡眠中の夜間の歯ぎしりにおいては、最長90分程度接触しているといわれています。日中の数倍の時間というだけでなく、夜間の歯ぎしりによって歯にかかる力は日中の数倍、または数十倍ともいわれています。

歯ぎしりの原因として、精神的ストレス、肉体的ストレスとの関連が指摘されているほか、歯のかみ合わせが悪い人にもよくみられます。継続的に起こるケースが危険なので、特に歯のかみ合わせが問題視されます。

歯のかみ合わせが悪い原因としては、あごの筋肉の緊張がアンバランスとなっていることが挙げられます。例えば、虫歯があって歯が痛い時や虫歯治療の金属冠の高さが不適合な時、歯を抜いた後ほったらかしにしたりすることでかみ合わせがおかしくなっている時は、あごの筋肉の緊張がアンバランスになっているといえます。

精神的ストレス、肉体的ストレスから起こっている場合は、寝ている間に歯ぎしりすることによって、日常の不安や憂うつを発散させているのです。かみ合わせに問題がない場合は、今ストレスを抱えていないか、よく考え、なるべくストレスを回避することが大切です。

大人だけでなく、子供も同じようにストレスが要因で 歯ぎしりをすることもあるようです。自分の子供が歯ぎしりをしたら、かみ合わせだけでなく、何かストレスに感じていることはないか考えてみましょう。

激しい歯ぎしりが続くと、単に眠りの妨げになるばかりでなく、 歯が擦り減る、歯周組織が損傷する、知覚過敏症になる、外骨腫(がいこつしゅ)が起こるなどのダメ−ジを受ける恐れもあります。知覚過敏症とは、歯の根元が擦り減ったようにえぐれて、水などがしみる疾患です。外骨腫とは、歯の回りの骨が異常に突出する疾患です。

また、肩凝り、あごの痛み、あごのだるさ、目の奥の痛み、偏頭痛や顎(がく)関節症を引き起こすこともありますし、耳鳴りがする、熟睡できないなど自律神経失調症による体の異変が現れることもあります。

最も気を付けたいのは、睡眠時無呼吸症候群と関連が深い点です。この睡眠時無呼吸症は、歯ぎしりの直後に頻発することが確認されており、眠っている間に呼吸が停止する結果、脳が酸欠状態となり、突然死を引き起こすこともあります。

歯ぎしりが気になったら、なるべく歯科医と相談し、それぞれに合った治療法を探すことが大切です。

歯科医による治療法としては、歯のかみ合わせの調整、マウスピースの装着、精神的ストレスの緩和、自己暗示療法などが挙げられます。薬局などで手軽に購入できるマウスピースも、種類が豊富にあります。

🇵🇬パチンコ依存症

パチンコ依存症とは、パチンコによって得られる精神的高揚に強く捕らわれ、自らの意思でやめることができなくなった状態を指します。精神医学的には病的賭博(とばく)という精神障害の一種のことであり、一般的にはギャンブル依存症の一種に相当します。

現在、パチンコ依存症の人は、推定100万人以上といわれています。 健全な範囲では一過性の娯楽としてパチンコを行うのに対し、パチンコ依存症では行う状態を維持するために借金までして行い続けることが問題視されます。症状が進むとパチンコでできた借金をパチンコで勝つことにより清算しようとするなど、合理的ではない考えを抱き、実行したりという問題行動が繰り返されます。

パチンコ依存症になる理由として多いのは、打っている時や勝った時の精神的高揚や快楽感が癖になってしまい、負けても負けても一時の快楽を追い求めることを繰り返し、知らぬ内に深みにはまってしまうというものです。パチンコの大当たりの時には、脳から脳内麻薬とも呼ばれる、大量のβ-エンドルフィン、ドーパミンなどの神経伝達物質が分泌されるため、一種の薬物依存に近い状態に陥ることにより、理性が弱まって大金を浪費しまうともいわれています。

パチンコ依存症になる人は、熱中しやすい性格で、自分の過ちを認めたがらないという傾向があるともいわれ、抑圧された感情をうまく吐き出せず、パチンコで発散している人も多いといわれています。

このパチンコ依存症により、若年者が勉学意欲や勤労意欲を喪失しニート化するケースや、借金をしてまでパチンコにのめり込むあまり多重債務に陥るケース、借金苦から逃れるために自殺にまで陥るケースがあります。道徳心が希薄になり、詐欺や横領などの犯罪に走るケースも散見されます。

近年では、高齢者のパチンコ依存症が増加しています。高齢者の場合、孤独や退屈を紛らわすために始めたパチンコが唯一の趣味になっていることが多く、依存症であることを自覚できていないケースが目立つとされています。

また、依存状態にある本人のみならず、家族もトラブルに巻き込まれることがあり、家庭不和から離婚に発展するケースもあります。

パチンコ依存症の結果、深刻な借金苦に陥るケースが跡を絶たないのには、日本では破産法により浪費や賭博(とばく)など射幸行為をしたことによる負債では破産が認められず、弁済の義務を放棄することができないといった事情もあります。

消費者金融の有り様と併せて社会問題視(クレサラ問題)されたことから、2005年ころから東京都遊技業協同組合などの業界団体でも、パチンコ依存症に対する注意の呼び掛けや、問題解消のためのカウンセリングの紹介といった事業が始められました。

2006年からは日本全体の業界団体である全日本遊技事業協同組合連合会でも同様の取り組みを開始しており、パチンコ依存症は治療を要する病気であるとともに、業界団体としても救済を必要とする問題と位置付けて5年間分の運営費1億円を負担、同依存症に対する研究を進めるほか、専門相談員の育成にも乗り出しています。

パチンコ依存症にならないためには、遊びの範囲内で抑えることが大切です。勝つ時もあれば負ける時もあるのがパチンコであり、負ける時のほうが圧倒的に多いのだということを認識したいものです。

近年、パチンコ業界は娯楽の多様化や、古臭いイメージによる若者離れ、高くなったギャンブル性と依存性が指摘され、ピークの参加人口からは年々減少し2007年に過去最低水準にありましたが、再び参加人口が増えつつあります。一方、市場規模は年々縮小し続け、現在過去最低水準にあります。

パチンコ店は娯楽を提供する性質のサービス業である以上、必要とする利益を差し引いた金銭が客に再分配されているにすぎません。長期的にパチンコを行うということは、それだけ当たり外れが平均化され、よほどのまぐれなどが続かない限り、客の側からすれば利益を上回る支出が出るのが必定。

パチンコに関する自己分析をし、自己の症状を認識することも大切です。パチンコ業界団体ウェブサイトなどで簡易チェックリストが用意されていますので、これを利用して自己の状態を客観的に認識することも可能です。

外出先でも現金を手にできるキャッシュカードやクレジットカードを持ち歩かないことも、パチンコ依存症にならないために有効です。パチンコ店に近付かないようにすること、何か熱中できる趣味を見付けることも効果があります。

🇦🇶チック症

不随意に急速な運動や発声が起きる疾患

チック症とは、チックという一種の癖のようなものが固定、慢性化した疾患。心身症ないし神経症レベルのチック症や、チック症の重症型といわれる慢性多発性のトゥレット症候群は、学童期、思春期の子供に比較的多くみられます。

チックというのは、ある限局した一定の筋肉群に、突発的、無目的に、しかも不随意に急速な運動や発声が起きるもの、とされています。従って、チック症の症状には、運動性チック、音声(発声)チックがあります。

運動性チックの症状としては、まばたき(瞬目)、首振り、顔しかめ、口すぼめ、肩上げなど上位の身体部位によく現れますが、飛び跳ね、足踏み、足けりなど全身に及ぶものもあります。音声(発声)チックの症状としては、咳(せき)払い、鼻鳴らし、舌鳴らしのほか、叫びや単語を連発するものがあります。

3〜4歳の幼児期から11歳ごろに発症することが多く、ピークは6〜8歳です。男児に多い傾向にあり、男女比は3対1。その意味付けに関して定説はありませんが、一応この時期の男女の成長、発達の特異性によるものと考えられています。

原因は、慢性的なものであれば、遺伝的なものを含め脳にあると考えられていますが、環境や心の問題も症状に影響します。一過性のものの中には、心因性のものもあると考えられていますが、その場合自然に軽快することが多いといわれています。脳については、線状体の障害説などがあります。

チック症は、 一過性チック症、 慢性チック症、トゥレット症候群(トゥレット障害)に分類されます。

一過性チック症は、1種類または多彩な運動性チックおよび音声チックが、頻回に起こりますが。1年以内に症状が消失するものです。心と体の成長、発達の過程で、子供の10~20パーセントに何らかのチック症が見られるとされていますが、多くは一過性と考えられています。

慢性チック症は、1種類または多彩な運動性あるいは音声チックのどちらかが、頻回に起こり1年以上持続するものです。

トゥレット症候群(トゥレット障害)は、多彩な運動性チックおよび1つまたはそれ以上の音声チックが、同時ではなくても頻回に起こり1年以上持続するものです。10歳過ぎになると、卑猥(ひわい)な単語などをいってしまう汚言症、他人のいった言葉などを繰り返す反響言語、音声や単語を繰り返す反復言語などの複雑な音声チックが出現することがあります。このトゥレット症候群、時に慢性チック症にも併発することがあるものとして、強迫性障害、注意欠陥/多動性障害(AD/HD)、学習障害、不登校、衝動性、攻撃性の高進、自傷・他害行為が挙げられます。

以上の3つの障害は、連続するものかどうかは明らかでありませんが、大きく見れば1つの集合と考えられています。そして問題なのは、どのようなタイプの一過性チック症が、慢性チック症あるいはトゥレット症候群に進展するかがわかっていないことです。

チック症の検査と診断と治療

チック症の診断は、一般には症状や治療経過の特徴などからなされています。精神科などでの治療は、「チック症という疾患を治すのではなく、チック症の子供を治療する」ことになります。治療の目標は、ストレスなどへの適応性を高め、人格の発達援助を目指すことです。

軽症の場合は、遊戯療法などの行動療法的なアプローチが有効とされています。その際は、親へのカウンセリングが重要になります。親の対応としては、症状を誘発する緊張や不安を軽減、除去することや、それへの耐性(精神的抵抗力)を高めるように援助することが肝要です。症状の出現をやめるように、いたずらに叱責(しっせき)して注意を促すことは、避けるべきです。チックは、緊張や不安、興奮、疲労などによって影響されます。ちょっとした変動で、一喜一憂しないことです。

学校ではチックが目立たないのに、家庭では多い場合もあります。これは家庭に問題があるのではなく、むしろリラックスできるからであることが多いと思われます。 本人が症状に捕われすぎないように配慮し、ゆったりと過ごせるようにします。全身運動による発散に関心を向けさせ、一方では、何か興味を抱いて熱中できる、趣味的なものを持たせることが有効です。

チック症の症状が長期、慢性化し、多発、激症化する場合には、子供専門の精神科などの医療機関への受診が必要になります。トゥレット症候群や慢性チック症の治療には、主としてハロペリドールなどの向精神薬による薬物療法が有効です。その他の治療法の併用も行われます。

🇫🇲知的障害

出生時や乳幼児期に知的能力が低下した状態

知的障害とは、知的能力の発達が全般的に遅れた水準にとどまっている状態で、発達障害の1つ。かつては、精神薄弱とか精神遅滞という言葉が使われていましたが、日本の法律用語、行政用語では、知的障害という表現で統一されるようになっています。

知的能力とは、実際の日常生活において自分で物事を判断したり、必要に応じて適切な行動を行う能力であるといえます。一般的には、金銭の管理、読み書き、計算など、頭脳を使う知的行動を指します。臨床的には、知能検査、ないし幼児では発達検査を行って、知能指数が70以下の場合には、知的障害としてさまざまな援助の対象とされます。

療育手帳が交付され、各種料金の免除などの特典が与えられ、障害年金や特別障害者手当などの制度も利用できます。

知的能力の低下した状態には、痴呆(ちほう)もあります。こちらは、いったん知的能力が正常に発達した後に、何らかの理由で二次的に低下するもので、老年痴呆はその代表例です。知的障害は痴呆と違って、生まれた時点、あるいは早期の乳幼児期に知的能力の発達そのものがあまり進まない状態です。

知的障害とはどのような障害なのか、日本の法律では定義はされていませんが、厚生労働省の平成17年調査によると、知的障害のある人は54万7000人で、そのうち施設で暮らしている人が12万8000人、地域で暮らしている人は41万9000人です。現在、日本国内で運営されている施設は、3600を数えています。

知的障害を起こす要因は、おおまかに3つに分けて考えられています。

1つは生理的要因で、体には特別の異常が見られませんが、脳の発達障害によって知能が低い水準に偏ったと考えられるものです。生理的要因の知的障害がある親からの遺伝や、知的障害がない親から偶然に、知能指数が低くなる遺伝子の組み合わせで生まれたことなどが原因。

知的障害者の大部分はこのタイプで、合併症はないことが多く、健康状態はおおむね良好です。本人、家族などの周囲とも、障害にはっきりと気付かずに社会生活を営んでいて、障害の自認がない場合も多く見受けられます。

次は病理的要因で、脳に何らかの病気あるいは損傷があって、知能の発達が妨げられるものです。例えば、乳幼児期の脳外傷、髄膜炎や脳炎などの感染症、フェニールケトン尿症などの代謝異常症、ダウン症などの染色体異常などがあり、出産の際の障害も重要なものです。胎児の時期に母親が風疹(ふうしん)、梅毒などに感染することや、有機水銀など体外から入った物質の中毒によるものもあります。

この病理的要因で知的障害を起こす場合、脳性麻痺(まひ)やてんかんなどの脳の障害や、心臓病などの内部障害を合併していることも多く、身体的にも健康ではないことが多くなります。

第3は心理的、社会的要因で、知的発達に著しく不適切な環境に置かれている場合であり、養育者の虐待や会話の不足がその典型例です。リハビリによって知能が回復することが可能。

症状の現れ方については、ダウン症などの 染色体異常による場合は、身体奇形を伴うことが多く、出産直後に判明するものも少なくありません。身体発達に異常がない場合には、乳幼児の発達課題を乗り越えることができず、少しずつ明らかになってくることが多く認められます。

言葉の遅れ、遊びの不得手、体の動きの不器用さなどから判明してきます。知的能力の遅れだけではなく、社会生活への適応にも難のあることがみえてきます。

読み書き、計算など限定された部分の発達障害や、全体としての発達が水準以下だけれど部分的にずば抜けた能力を発揮する子供は、療育の上では別に考えるのがよいでしょう。

また、かつての日本では知的障害を3段階に分けて、重度知的障害を白痴、中度知的障害を痴愚、軽度知的障害を軽愚と呼んでいましたが、現在では国際疾病分類に合わせて、最重度、重度、中度、軽度の4段階に分けています。

最重度は、知能指数ないし発達指数が20以下。重度は、知能指数ないし発達指数が20~35程度。中度は、知能指数ないし発達指数が35~50程度。軽度は、知能指数ないし発達指数が50~70程度。

知的障害の検査と診断と治療

兄弟姉妹と比べて、あるいは近所の子供と比べて、自分の子供は発達が遅いのではないかという心配があれば、成長障害や身体的な病気の有無も含めて、小児科医、児童精神科医、小児神経専門医を始めとした医師の診察を受ける必要があります。

医師による診断では、面接や診察、質問用紙、知的水準を測る知能検査、ないし幼児では発達検査などを行って、症状を調べます。これらの検査は、発達の遅れている点を明らかにするだけでなく、子供の優れた能力を見いだすことにもなります。

専門医であっても、一度の診察や検査で長期的な発達の予測をすることは困難です。時間を空けて診察し、発達の経過も併せて判断することが必要です。

しかしながら、フェニールケトン尿症や被虐待児など、ごく一部の場合を除けば、知的障害に対する医学的治療はありません。元来が知的機能の遅れであり、その基礎は大脳皮質に存在する神経細胞の働きの弱さにあるため、薬物によって治したり、知能段階を高めることは不可能とされています。

合併する身体の病気が予想される場合には、必要な検査を定期的に行うことがあります。例えば、てんかんの合併が考えられる場合には、脳波検査を行います。もちろん、合併症の症状を改善させる治療も行います。

知的障害に対する医学的治療はないため、治療の目標は一人ひとりの子供に応じた教育と訓練に置かれます。つまり、現在の知能に沿った生活能力を訓練して、その知能段階で生きていける能力を開発することが、目標となります。身体機能訓練、言語訓練、作業療法、心理カウンセリングなどを開始し、現実的で達成可能な目標を定め、教育と訓練を行うことにより、子供の持つ発達の可能性を最大限に発揮させることができます。

心理的な問題、自傷行為などの行動の問題に対しては、カウンセリングや環境の調整を行います。十分に行き届いた指導やサポートのためには、個別や少人数集団における特別な教育環境が必要になります。

長期的には、身の回りのことが一人でできるようになること、将来の職業につながるような技能を身に着け、社会に適応していくことが目標となります。

知的障害の子供の抱える問題点は、年齢や発達段階によって変化します。周囲の人にとって大切なことは、年齢や発達の段階によって直面するハンディキャップを理解し、子供の能力に見合った教育手段を選ぶことです。小児科医などの医師、発達相談、地域の発達支援プログラムなどを利用して、情報を得るとよいでしょう。

ある程度の障害のある子供には、療育手帳を交付してもらい、特別児童扶養手当の受給手続きを取ることも大切です。公的援助の内容と手続きについては、児童相談所に相談してください。

2022/08/17

🇵🇬多重人格障害

2つ以上の人格が一人の中に存在し、それらの人格が交代で現れる疾患

多重人格障害とは、2つ以上のはっきりと区別される人格が一人の中に存在し、それらの人格が交代で現れて独立した行動をする疾患。正式には解離性同一性障害と呼ばれ、解離性障害の一種です。

解離性障害は本人にとって耐えられない状況を、離人症性障害のようにそれは自分のことではないと感じたり、解離性健忘のようにその時期の記憶や意識、知覚を切り離し、思い出せなくして心のダメージを回避しようとすることから引き起こされる障害ですが、その中で多重人格障害は最も重く、切り離した記憶や意識、知覚が成長して、別の人格となって表面に現れるものです。

発症するのは12歳以前、多くは3〜9歳の幼児期、小児期であると考えられていますが、症状が明らかになるのは多くの場合、思春期以降、10歳代後半から20歳代で、特に20歳代の女性に現れやすく、成人女性が成人男性の3〜9倍多く、一人の中に存在する人格の数も女性で15 名、男性で8名と性差があります。

原因ははっきりとわかっていませんが、幼児期に受けた心的外傷(トラウマ)やストレスが関係しているといわれます。心的外傷にはさまざまな種類があり、災害、事故、親や周りの親しかった人との死別、暴行を受けるなど一過性のものもあれば、肉体的虐待、性的虐待、重い病気の治療、長期にわたる監禁状態など慢性的に何度も繰り返されるものもあります。そのようなつらくて苦しい体験によるダメージを回避するため、精神が緊急避難的に機能の一部を停止させることが、多重人格障害につながると考えられています。

多重人格障害の症状は、強くなったり、弱くなったりを繰り返しながら、一般には慢性に経過します。そして、過去の心的外傷の記憶が突然、かつ非常に鮮明に思い出されるフラッシュバックを契機として、症状が悪化し明らかになります。

表面に現れるそれぞれの人格は、記憶や意識、知覚や自己同一性(アイデンティティ)の統合の失敗を反映しています。通常、その人本来の人格で、より受身的で情緒的にも控えめな人格と、より支配的、自己主張的、保護的、または敵対的で、時には性的にもより積極的、開放的な人格という、対照的な2つの主要な人格を持ちます。

そのほかに小児や児童、思春期の人格を持つのが普通で、数名から数十名の人格を示します。数十名、あるいは百名以上の断片化した人格を持つ発症者は、長期にわたる肉体的虐待、性的虐待を幼児期に受けている可能性が高いと考えられます。二次的人格は、年齢だけでなく、性別、人種、好み、利き手、筆跡、使用言語、癖、家族などがそれぞれ異なることもあります。

通常、出生して最初に持つ本来の人格である基本人格(オリジナル人格)と、ある時期において大部分の時間、心身を管理的に支配している人格である主人格(ホスト人格)とを区別します。基本人格が主人格である場合が最も多いものの、発症者によっては、基本人格が長期間にわたって休眠状態だったり、たまに短時間出現するだけだったりする場合もあるからです。その場合には、時間的にも、相互関係的にも、成長後に分離した人格である二次的人格が支配的であるという期間が、長期間、時には数年間以上続き、二次的人格が主人格であるということになります。

それぞれの人格は、それぞれの機能を持っています。例えば、孤独な基本人格を保護し、慰める友人役であったり、基本人格の代わりに痛みや悲しみを引き受けたり、基本人格には許されないような積極さや活動性や奔放な性格を持っていたり、基本人格が戻りたい幼児期であったり、基本人格が持つには危険すぎる攻撃性や自殺衝動を持っていたりします。

基本人格は二次的人格の言動についての記憶がないのが通例ですが、二次的人格はそれぞれの人格の間で、ある程度の共通記憶を持っていたり、主要な二次的人格は基本人格が優勢な時にも、ある種の共通意識を持っていたりします。

人格の交代は、突然に始まり、時には極めて微妙、時には極めて顕著に交代します。人格の交代は、何らかの情緒的ストレスが引き金になって、あるいは他人の希望、要求や暗示によって誘発され、時には意識的に、時には自然発生的に起こります。

二次的人格へ人格が交代している期間は、基本人格にとっては空白期間、つまり記憶喪失として体験されます。多重人格障害では、このような記憶障害は必発で、多くの場合は記憶喪失の期間は数分から数時間ですが、時には数日から数年におよびます。また、より長期の、心的外傷に関連した小児期の生活史に関する記憶喪失がみられることもあります。

話し方や声が突然に代わったり、全く違う人格に変わるので、真っ先に家族が気付くと思われます。こうした兆候が何度もあり、日常の生活に支障を来すような場合は、精神科、神経科、心療内科の受診を考慮します。

多重人格障害の検査と診断と治療

精神科、神経科、心療内科の医師による診断は、主に症状に基づいて行われます。

症状が明らかになるのは多くの場合、思春期以降、10歳代後半から20歳代ですが、発症者本人や家族の情報から、あるいは医療記録から、12歳以前の幼児期、小児期の発症が確かめられることも少なくありません。見逃されたり、統合失調症(精神分裂病)などと誤診されたりしやすいために、多重人格障害が幼児期に診断されることはまれなものの、その時期に診断された発症者では、治療期間が成人の場合に比べて短いと見なされます。

精神科、神経科、心療内科の医師による治療は、通常の薬物療法を主体とした保険診療では対応が難しく、精神療法を主にして治療することになります。

多重人格障害の発症者の多くが、うつ気分、自傷行為、自殺行為、攻撃的行動、気分障害、アルコール・薬物依存症、摂食障害、睡眠障害、性障害、境界型人格障害など多彩な精神症状、身体症状を合併し、極めて不安定な状態です。ほとんどの発症者が幼児期、小児期に肉体的虐待、性的虐待を受けていますから、他人を信頼する能力に欠けています。

従って、治療では、安全な場所を確保し、多彩な精神症状や身体症状に対処しながら、基本人格だけでなく二次的人格とのコミュニケーションをとり、それぞれの機能や役割を整理し、複数の人格を一人にまとめることを目指します。

その中で、医師との信頼関係を築き、必要に応じて個人精神療法、集団療法、家族療法、教育的治療、社会機能訓練、認知行動療法、自助グループ、抗不安剤・抗精神病剤・抗うつ剤による薬物療法などを組み合わせて行います。

心的外傷で傷付いた体験をいやすには、相当な時間がかかります。主人格が怒りや自殺衝動、性的衝動などへの対処を学習し、人格が離れている理由がなくなり、人格を一人にまとめるにも、たくさんの困難があります。多くの場合、5〜6年を要する長期治療になります。

2022/08/16

🇲🇭ボーダーライン

対人関係や情緒の不安定、衝動性に特徴を持つ人格障害

ボーダーラインとは、思春期または成人期に生じる人格障害。境界性人格障害、境界型人格障害、境界性パーソナリティー障害、境界例などと呼称されることもあります。

もともとは精神分析治療の場から生まれてきた概念で、当初は神経症と精神病の中間領域にある病態を指していましたが、次第に概念が明確になり、1980年代に入ってから一般的な診断の対象として普及してきた障害です。

疫学調査では人口の1~2パーセント程度にボーダーラインが存在するといわれ、最近は増加傾向にあります。ほかの人格障害と比べても発症者が多く、決して珍しい障害ではありません。男性よりも女性に多く、年齢は20~30歳代がピークになります。これには、女性ホルモンの影響による気分変動の起こりやすさが関係していると考えられています。なお、年齢を重ねると、状態は落ち着いていく傾向が認められます。

原因としては、遺伝的要因と環境的要因の相互作用により現れてくると推定されています。遺伝的要因には先天的な脳の脆弱(ぜいじゃく)性、環境的な要因には幼少期の身体的虐待、性的虐待、過干渉、機能不全家庭などの経験があります。

ボーダーラインの人の特徴として、慢性的抑うつ感、空虚感、情緒不安定性、対人関係の不安定さ、衝動性などが挙げられ、現れる症状はさまざまです。一定の感情を保持することが難しいため、元気でいたかと思うと急に落ち込みます。怒りに対する耐性が低いこともあって、対人関係は非常に不安定で、衝動に駆られて激しい怒りを身近な人にぶつけたり、ほめていた相手を急にこき下ろしたりします。

また、愛する人や大事な人に見捨てられるという不安を絶えず抱えていて、 不安感を解決させるために、自我の内部で自己の評価を上げることもあります。対人関係の不安定さを回避しようと、引きこもりのような状態になることもあります。窃盗や万引き、過度の買い物などで、不安感を消そうとする行動に出る場合もあります。手首を切る、大量服薬するなどの自殺企図も、多々みられます。

アメリカ精神医学会による診断基準DSM−IV(「精神障害のための診断と統計のマニュアル」第4版)の診断基準では、ボーダーラインは以下9項目のうち5つ以上を満たすこととなっています。

1、見捨てられ不安。2、理想化とこき下ろしに特徴付けられる不安定な対人関係。3、不安定な自己像または自己感にみられる同一性の障害。4、自己を傷付ける可能性のある衝動性。5、自殺企図。6、感情不安定。7、慢性的な空虚感。8、怒りの制御の困難。9、一過性の妄想様観念または解離性症状。

ボーダーラインの検査と診断と治療

ボーダーライン(境界性人格障害)の症状が自分に該当する場合は、早めに信頼できる治療者を見付け、治療を継続していくことが大切となります。まずは、治りたいという気持ちを持つことが必要で、自分自身が変わりたいと思わないと治療はうまくいきません。周囲の人が無理やり受診させても治療がうまくいかないことが多く、通院も続きません。

医師による診断では、発症者の状態、成長過程での変化などをみていきます。家族に立ち会ってもらったり、心理テストを行ったりすることもあります。また、発症者自身が障害とその治療について勉強することも大切です。医師や薬への依存だけでは根本的に回復しないということを理解し、しっかりと治療への動機付けを行う、治療目標を設定する、最低限のルールを決めるといったことが必要になります。対人関係の面で医療スタッフと衝突することもあり、あらかじめルールを決めることで、できないことをはっきりさせ、発症者の欲求のままの行動や治療の混乱を防ぎます。不適切な行動がみられた場合は、やむなく治療の中断や入院治療へ切り替わることなどがあります。

ボーダーラインの治療には数年、あるいはそれ以上の長期間を必要としますが、今日では外来通院や、デイケアなどの中間施設の利用、および短期の入院が治療の主流で、長期の入院治療は重篤な症例を除き行われなくなってきています。一般に、30歳を過ぎると社会適応は改善する場合が少なくなく、この年齢まで自殺を予防し、生存を確保することが、治療上重要とされます。

ボーダーラインの実際の治療では、精神分析的精神療法、認知行動療法などの精神療法を主体とし、薬物療法が併用されます。不眠や不安、急激な怒りなどを薬によってある程度抑えることはできますが、向精神病薬はあまり効きません。あくまでも、精神療法が治療の柱となります。

精神療法では、心の内面を探り、問題の在りかと解決策を探ります。自分の気持ちをコントロールし、もっと楽に人間関係を築けるようにすることが目的です。まずは、治療の具体的な目標を定めます。ここでは、学校に行く、仕事に就くといった具体的な行動を定めることが大切です。

そして、なぜ問題行動が起こるのか、問題行動によって不安や恐怖から逃れることができたのかどうか、を本人に考えてもらいます。その時の気持ちを自分の言葉で表すことで結果を振り返り、問題行動が何も解決しないということを認識します。また、よい自分、悪い自分、大人の自分、幼い自分など、どんな自分も本人の大切な一部であると考えられるようにします。そのことで、ほどほどの感覚が身に着き、自分を受け入れられるようになります。

病院での精神療法は、週1回程度、1回につき30分~1時間程度かけるのが一般的です。精神分析的精神療法は性格の育て直しや自己洞察のために、行動療法やリミット・セッティングは行動を変えていくために、認知療法は物の考え方を変えるために、グループ精神療法は人間関係の改善のために行われ、人によっては大変有効ながら、有効でない人も少なくありません。最近では、認知行動療法を修正した弁証法的行動療法(DBT)が、自殺や衝動行為の制御に有効性が高いという報告もあります。

うつ、感情のコントロールの悪さ、気分の変動、不安、衝動の強さ、不眠といった症状を和らげるために、対症的に薬物療法が用いられることは少なくありません。実際、9割以上の人は、薬による治療を受けているといわれています。薬の種類や量は、発症者の状態によって異なります。薬には副作用がありますので、必ず医師の指示どおりに服用します。

抗精神病薬は、 焦燥感や怒りの感情を静める効果があり、衝動性を抑えるのに役立ちます。代表的なものにリスペリドン、オランザピン、クエチアピン、ペロスピロンなどがあります。SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)は、シナプス内のセロトニン濃度を選択的に上げる薬で、うつがある時に使用されます。代表的なものにフルボキサミン、パロキセチン、セルトラリンなどがあります。抗けいれん薬も、衝動性の抑制のためにしばしば使用されます。

生活の仕切り直しを目的に、短期の入院治療も行われます。自傷行為や自殺企図などの問題行動が激しい時、うつなどがひどくて治療に通えない時、暴力などで家族の負担が重い時、発症者自身に休息が必要な時などに入院治療が適応になります。病院に押し込めるというイメージがありますが、発症者だけでなく家族にとっても入院が望ましいこともあるので、肯定的に捕らえるようにします。入院生活では、定期的に医師の診察を受け、薬の調整などを行って生活します。状態がよくなれば、医師や本人、家族と相談して退院を考えます。退院後のことも、入院中にしっかりと話しておきます。

家族が積極的に治療に関わることで、治療の結果も異なります。発症者と家族が一緒に面接を受ける、発症者と家族がそれぞれ面接を受ける、数家族が集まって行うグループミーティングに参加するなど、家族が治療に関わることでよい結果が生まれやすくなります。家族も現状を理解し、対応を見直すことで、発症者と程よい距離を保ち、発症者本人にとって良い環境を作ってあげることが大切です。

発症者が社会復帰を図るためには、病院やクリニックなどで行われるデイケアなどの社会療法も、有効な手段と考えられています。発症者が対人関係でトラブルを抱えるのは、適切な社会的行動が取れていないからです。発症者が集い、一緒にさまざまな活動をすることによって、実社会に戻る練習ができます。ある程度落ち着いてきたら、デイケアの利用も考えられます。

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