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2022/08/27

🇦🇴膠原病

膠原(こうげん)病とは、全身の細胞と細胞を結び付けている結合組織に、炎症による病変が現れる病気の総称。免疫の働きに異常が生じて、血管や皮膚、筋肉、関節、内臓など、体のさまざまな場所に同時に炎症を起こします。発熱や湿疹、関節の痛みなどの症状が、共通して見られます。

全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、全身性強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎などの病気が、膠原病に含まれています。厚生労働省では、治療に公費負担のある特定疾患、いわゆる難病に、その多くを指定しています。

日本の最新医療技術をもってしても完治はせず、改善したり悪化したりを繰り返して、長期の治療を必要としますので、早期の診断と治療開始が大切。ステロイドや消炎剤などを使用することで、炎症が抑制され、日常生活に支障のない程度にコントロールすることは可能です。 ステロイドだけでは制御できない症状には、漢方薬などの治療法も試みられています。

なお、全身のコラーゲン(膠)に変性が見られる一連の疾患群の総称として、1942年に膠原病という名称が定義され、後に、コラーゲンの変性が病態の本質ではないことが明らかになって、「結合組織病」とも呼ばれるようになりました。

🇹🇿混合性結合組織病(MCTD)

2つ以上の膠原病の症状が混合して現れる疾患

混合性結合組織病(Mixed Connective Tissue Disease: MCTD)とは、全身性エリテマトーデス、皮膚筋炎・多発性筋炎、強皮症などの膠原(こうげん)病の症状が少しずつ混在した疾患。関節リウマチの関節症状が現れることもあります。

性別では圧倒的に女性に多い疾患で、30〜40歳代の女性に多くみられます。1972年に米国のシャープらによって提唱された疾患概念で、日本では1993年から厚生労働省が特定疾患に指定していることもあり、MCTD診断名は広く用いられています。

他の膠原病と同様に混合性結合組織病の原因は不明ですが、自分の体の細胞核成分を攻撃する抗核抗体(自己抗体)の一つである、抗U1—RNP抗体の産生が関係していると考えられています。この抗核抗体の産生には、多くの遺伝的要因とウイルス感染などの環境因子が関与していると推定されています。

初発症状として、寒冷時や精神的に緊張した時に手指の皮膚が白色や青紫色になるレイノー現象、手指のはれ、手指の皮膚硬化、顔面紅斑(こうはん)、関節痛、筋力低下、筋肉痛、リンパ節のはれなど、さまざまな膠原病の症状がみられます。食道運動低下による嚥下(えんげ)困難、胸焼け、肺線維症(間質性肺炎)による空ぜき、息切れを認めることもあります。

そのほか、肺の血管の抵抗が強くなって心臓に負担がかかる肺高血圧症、顔の一部がピリピリする知覚障害がみられる三叉(さんさ)神経痛、胸や心臓に水がたまる胸膜炎、甲状腺(せん)のはれ、シェーグレン症候群を伴うこともあります。

混合性結合組織病の検査と診断と治療

混合性結合組織病の診断に必須なのは、血液検査を行って、抗核抗体の一つである抗U1—RNP抗体を調べることです。皮膚筋炎・多発性筋炎の合併例では、クレアチンキナーゼなどの筋由来の酵素の増加を認めるほか、筋電図が異常を示します。胸部X線検査では、約30パーセントの頻度で肺線維症を認めます。

原因が不明で、原因に基づく治療を行うことができない混合性結合組織病では、症状や重症度に応じて、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)を中心とする薬物療法が基本となります。また、関節痛に対しては非ステロイド性消炎鎮痛剤が用いられます。レイノー現象に対しては、寒冷やストレスを避けるようにし、血管を広げて血行を促す血管拡張剤が用いられます。

予後は良好な疾患ですが、治療が難しい肺高血圧症の頻度がやや高く、死因の第1位となっているので注意を要します。肺高血圧に対しては、副腎皮質ホルモン、免疫抑制剤、血管拡張剤、抗凝固剤などが用いて、症状の進行を遅らせます。

🇰🇪シェ-グレン症候群

目と口が乾燥する自己免疫疾患

シェーグレン症候群とは、自己免疫の異常によって発症する自己免疫疾患。主症状とされる目の乾燥(ドライアイ)、口の乾燥(ドライマウス)のほかにも、全身にさまざまな障害を引き起こすことがあります。

自己免疫による疾患であり、自分の体の細胞に対して免疫反応を起こすことによって発症しますが、遺伝的要因、ウイルスなどの環境要因、さらに女性ホルモンの要因も複雑に関連し合っていると考えられています。免疫システムが涙を作る涙腺(るいせん)と唾液(だえき)を作る唾液腺を破壊してしまうために、目や口の乾燥が起こります。乾燥が進むと、目や口に傷が付いたり、涙や唾液の殺菌作用が働かず、感染症にかかりやすくなります。

シェ-グレン症候群という病名は、スウェーデンの眼科医ヘンリック・シェーグレンが1933年に発表した論文にちなんで、付けられています。

発症するパターンは2種類あり、医学的にもその2種類に大別されています。1つ目は原発性シェーグレン症候群で、関節リウマチなどの膠原(こうげん)病の合併のない種類です。 2つ目は続発性(二次性)シェーグレン症候群で、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、皮膚筋炎、混合性結合組織病などの膠原病に合併する種類です。

原発性シェーグレン症候群の発症者の内訳をみると、約45パーセントの人は目と口の乾燥の症状のみを発症しています。ほとんど健康に暮らしている人もいますが、ひどい乾燥症状に悩まされている人もいます。約50パーセントの人は全身性の何らかの臓器障害を伴っていて、残り約5パーセントの人は悪性リンパ腫(しゅ)や原発性マクログロブリン血症を発症しています。

厚生省研究班の調査では、日本国内において1年間に、17000人が医療機関で治療を受けたという結果がまとまりました。 しかし、病気自体の認知度の向上や診断基準の普及などによって、発見、診断される率が高くなったことにより、シェーグレン症候群の患者数は近年、増加しています。 専門医の間では、診断を受けていない潜在的な発症者を含めると、約10~30万人と推定されています。

発症者は40~60歳の女性に多いのが特徴で、男女比は男性1人:女性14人。50歳代にピークがあり、子供や80歳以上のの老人が発症することも少数ながらあります。

続発性(二次性)シェーグレン症候群については、関節リウマチの発症者の約20パーセントにシェーグレン症候群が併発し、その他の膠原病の発症者にも併発しています。

シェ-グレン症候群の自覚症状は、以下のように現れます。

目の乾燥(ドライアイ)

涙が出ない、目がゴロゴロする、目がかゆい、目が痛い、目が疲れる、物がよく見えない、まぶしい、目やにがたまる、悲しい時でも涙が出ないなど。

口の乾燥(ドライマウス)

口が渇く、唾液が出ない、食事の際によく水を飲む、口が渇いて日常会話が続けられない、食べ物の味がよくわからない 、口内が痛む、夜間に飲水のために起きる、虫歯が多くなったなど。

鼻腔(びくう)の乾燥

鼻が渇く、鼻の中にかさぶたができる、鼻出血があるなど。

その他

唾液腺(だえきせん)の腫(は)れと痛み、息切れ、熱が出る、関節痛、毛が抜ける、肌荒れ、夜間の頻尿、紫斑(しはん)、皮疹(ひしん)、手指や足先が蒼白(そうはく)になり次いで紫色になってピリピリ痛んだりするレイノー現象、アレルギー、日光過敏、膣(ちつ)乾燥(性交不快感)など。全身症状として、疲労感 、記憶力低下、頭痛は特に多い症状で、めまい、集中力の低下、気分が移りやすい、うつ傾向などもよくあります。

病気の診断と、目や口の乾燥症状の治療

医師による診断では、1)口唇小唾液腺の生検組織でリンパ球浸潤がある、2)唾液分泌量の低下が証明される、3)涙の分泌低下が証明される、4)抗SSS‐A抗体か抗SS‐B抗体が陽性である、という4項目の中で2項目以上が陽性であれば、シェーグレン症候群と見なされます。

治療では、目や口などの乾燥症状を軽快させることと、疾患の活動性を抑えて進展を防ぐことが目的とされます。現状では、根本からシェーグレン症候群を治す治療法はありません。

目の乾燥(ドライアイ)に対する治療法は、涙の分泌の促進、涙の補充、涙の蒸発の防止、涙の排出の低下を目的に行われます。

涙の分泌を促進する方法として、ステロイド薬による抗炎症作用や炎症細胞の浸潤抑制による効果が一部で期待されます。

涙の補充には、人工涙液や種々の点眼薬を1日3回以上使用します。傷害された角膜上皮の再生促進や角膜炎の治療の目的として、ヒアルロン酸、コンドロイチン、ビタミンA、フィブロネクチンなどを含んだ点眼薬も使用されます。別の治療法として、自己血清を採取してこれを薄めて使用する方法が推奨されています。血清の中には、上皮成長因子、ビタミンなどさまざまな物質が入っているからです。

涙の蒸発を防ぐために、眼鏡の枠にビニール製のカバーをつけたモイスチャー・エイド(ドライアイ眼鏡)があります。

涙の排出を低下させるためには、鼻側の上下にある涙の排出口である涙点を閉じる方法があります。それには涙点プラグで詰める方法や、手術によって涙点を閉鎖する方法があります。

口の乾燥に対する治療法は、唾液の分泌促進、唾液の補充、虫歯の予防や口内の真菌感染予防、口腔(こうくう)内環境の改善を目的に行われます。

唾液の分泌を促進するものとして、アネトールトリチオン(フェルビテン)、ブロムヘキシン(ビソルボン)のほか、漢方薬なども用いられます。副腎(ふくじん)ステロイド剤も有効であり、症状に合わせて使用されます。

唾液の補充には、サリベートや2パーセントのメチルセルロースが人工唾液として使われます。サリベートは噴霧式で舌の上だけでなく、舌下、頬(ほお)粘膜に噴霧したほうが口内で長持ちします。また、冷蔵庫保存で不快な味が消えます。

虫歯の予防や口内の真菌感染、口角炎を予防するものとしては、イソジンガーグル、ハチアズレ、オラドール、ニトロフラゾン、抗真菌剤などが用いられます。歯の管理と治療としては、ブラッシング、歯垢(しこう)の除去と管理、虫歯、歯周病対策などがあります。オーラルバランスという口腔保湿剤もあります。

なお、全身性の臓器病変のある人の場合は、内科などでステロイド薬や免疫抑制薬などを含めて適した治療を受けるべきです。全身性の病変の中には、白血球減少、高γグロブリン血症、皮膚の発疹、間質性肺炎、末梢神経症、肝病変、腎病変、リンパ腫などがあります。

2022/08/26

🇱🇨シックハウス症候群

新築住居などの室内空気の汚染で起こる疾患

シックハウス症候群とは、新築や改築直後の室内の空気汚染によって引き起こされる疾患。

建材や建材関連品には、大量の揮発性化学物質が使われています。それらは、建材の防腐剤や接着剤、塗料の成分として、さらにはシロアリなど昆虫の防虫剤として、家のあらゆるところに使用されています。新築や改築直後の家の中に入ると、ツーンと鼻をつく匂いがしますが、これらの多くは放散しているホルムアルデヒドやトルエン、エチルベンゼン、クロルピリホス(防蟻〔ぎ〕剤)などの揮発性化学物質の臭気であり、微量でも極めて有害な成分が含まれる場合があります。

新築や改築直後から遅くても数カ月以内に、家の中に入ると目がしみる、涙が出てくる、鼻水が出る、鼻が詰まる、のどが痛い、動悸(どうき)がする、頭が重い、めまいがするなど、多彩な症状が出現するようになります。また、不眠や慢性的な疲労感、倦怠(けんたい)感として、症状が始まる場合もまれではありません。

症状には個人差が大きく、同じ家で起居していても、非常に強く症状の出る人から、まったく症状の出ない人もいることから、いわゆる引越し疲れと思い込んで生活している場合もあり、初期の対応が遅れるケースがほとんどです。さらに、もともとアレルギー疾患を有する子供では、アトピー性皮膚炎や小児気管支喘息(ぜんそく)の悪化という形で出現する場合もあり、注意が必要です。

シックハウス症候群の予防には、シックハウス対策に十分な知識と経験のある施工業者を選定し、事前に十分な打ち合わせをすること、新築中、改築中も施工業者任せにしないで、自ら足を運んで作業工程を確認、把握することが必要です。近年では、揮発性有機化合物(VOC)放散量の低い建材や接着剤、塗料が開発、発売されています。不幸にもシックハウスと思われる症状が出現したら、まず施工業者か、最寄りの保健所に相談し、室内空気の質を評価してもらうことが肝要です。保健所の場合は簡易測定にはなりますが、無料で行ってもらえます。

室内から原因物質を減らすためには、十分な換気が必要。建物の高気密化がシックハウス症候群の一因ともなっており、換気設備が設置されている場合には運転しておくことが望まれます。一方、カビや微生物による空気汚染が広い意味でのシックハウス症候群の原因となることも考えられるため、これらの発生防止や除去なども必要です。日常生活で使われる殺虫剤や香料などが原因となる場合もあり、注意が必要です。

なお、海外ではシックビルディング症候群と呼ばれますが、日本では住居以外のオフィスビルや病院などの建築物で起きるものを特にシックビル症候群と呼んでいます。また、新品の自動車でも同様の症状が報告されており、シックカー症候群と呼んでいます。

シックハウス症候群の検査と診断と治療

医師による診断のポイントは、第1に自覚症状が出現した経過です。原因となった住居への入居前後での体調の変化を詳細に問診します。つまり、自覚症状の発症経過と居住環境の変化が1つの線で結び付けられるかどうかが、重要となります。初診時に症状が出現する場所の空気測定結果を持参することは、大きな診断の助けとなります。

シックハウス症候群の大半のケースでは、何らかの中枢神経系あるいは自律神経系の機能障害が認められるため、診断のための検査では神経眼科検査が有用。神経眼科検査では、目の動きが滑らかかどうかを評価する眼球電位図(EOG)、目の感度を評価する視覚コントラスト感度検査(視覚空間周波数特性検査)、光に対する瞳(ひとみ)の反応を評価する電子瞳孔(どうこう)計による瞳孔検査などがあり、シックハウス症候群では、異常値を示すケースが多いことがわかっています。

例えば、目の動きを調べる眼球電位図(EOG)検査では、程度に差はあるもののシックハウス症候群発症者の85パーセント以上に滑動性追従運動異常が認められます。また、開眼時、閉眼時重心動揺検査でも、高い頻度で異常値を認めます。ただ、これらの検査は、シックハウス症候群発症者にみられる一般的特徴を調べるもので、確定診断法としてのツールにはなりません。

確定診断法として唯一の方法は、ブーステストあるいはチャレンジテストと呼ばれ、実際に揮発性化学物質を発症者に曝露(ばくろ)し、何らかの症状が誘発されるかどうかを結果の再現性も含めて確認する検査方法しかありません。しかし、この検査を行うためには、化学物質を低減化したクリーンルームが設備として必要で、今のところこの設備を有する特殊専門病院は国内でも数カ所程度しかなく、現在の医療水準では確定診断は難しいといわざるを得ない状況です。

シックハウス症候群の治療は、身体状況の改善という医学的アプローチと、原因となった居住環境の改善という建築工学的アプローチの二本立てで行います。

身体状況の改善としては、ゆっくり歩いて30分などの軽い運動療法、少しぬるいと感じる39度前後の半身浴、60度前後の低温サウナなどの温熱療法が自覚症状の改善に有効で、居住環境が整えば数カ月~6カ月程度で、多くの症状は軽快します。また、解毒剤、水溶性ビタミン剤も身体状況の改善に有効であり、タチオン、タウリン散、ノイロビタン、アスコルビン酸末などの服薬治療も併せて行うことが一般的です。

発症者によっては、シックハウス症候群を契機に、通常では気にならないほんのわずかな芳香剤、たばこ、香水などのにおいが気になったり、極めて微量の化学物質にさらされるだけでも多彩な症状が出現するようになったりするケースもまれにみられます。このようなケースでは、多くの場合、社会生活が制限されるため、心療内科医によるケアを併せて行う必要があります。

居住環境の改善としては、自覚症状の原因が室内空気汚染ですから、空気汚染の原因はどこにあるのか、何をどのように改善すればよいのか、汚染された建材や建材関連品の交換、新しい家具などの吟味、十分な換気量の確保を含めて、施工業者と十分に相談して善後策を立てることです。

🇧🇴住血吸虫症

住血吸虫が体の中に寄生することによって、引き起こされる寄生虫病

住血吸虫症とは、吸盤を持った住血吸虫が人体に寄生することによって、引き起こされる寄生虫病。

アフリカ、中東、南アメリカ、アジアの亜熱帯地方で2億人以上がかかっており、それによる重篤な合併症での死亡が毎年2万人あると推定されていて、マラリアやフィラリアとともに世界の3大寄生虫病の1つとされています。 人に感染するのは主に3種類で、尿管と膀胱(ぼうこう)に感染するビルハルツ住血吸虫、腸に感染するマンソン住血吸虫と日本住血吸虫があります。

日本では戦後しばらく、甲府盆地、利根川流域、広島県片山地方、九州の筑後川流域などの特定地域に多数の日本住血吸虫症の発症者がいましたが、日本住血吸虫の幼虫を体内に宿し増殖させる中間宿主(しゅくしゅ)である巻き貝の一種、ミヤイリガイの駆除などで制圧され、1978年を最後に新たな発生はありません。しかし、最近は日本人が流行地に旅行や滞在をしたり、外国人の日本訪問が増えるにつれて、住血吸虫症の輸入感染症としての重要性が高まりつつあり、国内医療機関で適切な対応を行う必要性が増しています。

ビルハルツ住血吸虫、マンソン住血吸虫、日本住血吸虫がいる淡水で泳いだり、水浴びをしたりすることで人に感染します。住血吸虫の幼虫は、水中に生息する巻き貝の体内で増殖し、水中に放出されて自由に泳ぎ回ります。人の皮膚に触れると中に侵入し、血流を通って肺に到達し、そこで成虫になります。

成虫は血流に戻り、最終的なすみかである膀胱や腸の小静脈に行き、そこで何年も過ごします。成虫は膀胱や腸の壁に大量の卵を産みますが、その一部は血流に入って肝臓に到達します。これらの卵は炎症反応を誘発し、膀胱、腸、肝臓の静脈を詰まらせる結果、潰瘍(かいよう)や局部の出血、瘢痕(はんこん)が生じます。

卵は、自らが尿中や便に入り込むための酵素を作ります。感染者が水中に放尿や排便をすると、卵も水中に放出され、再び同様のライフサイクルが始まります。

マンソン住血吸虫と日本住血吸虫の卵は通常、腸と肝臓に宿り、ビルハルツ住血吸虫の卵は膀胱に宿ります。そこで炎症反応が起こり、瘢痕が生じ、腸管から肝臓へ血液を送る静脈である門脈の圧が上がります。門脈圧が上がると、脾臓(ひぞう)が腫大(しゅだい)し、食道の静脈から出血が起こります。肺、脊髄(せきずい)、脳を侵すこともあります。

住血吸虫の幼虫が最初に皮膚から侵入した時、かゆみを伴う皮膚炎が生じることがあります。体内に入ってから4〜8週間ほどたって、成虫になった住血吸虫が卵を産み始めるころになると、発熱、悪寒、節々の痛み、頭痛、せきがみられます。肝臓、脾臓、リンパ節が一時的に腫大し、また元に戻ります。

けいれん性の腹痛が起きて血便や血尿が出るため、貧血になることもあります。慢性の尿路感染症になると閉塞(へいそく)を生じ、後に膀胱がんに進行する原因にもなります。

住血吸虫症の検査と診断と治療

住血吸虫症は、検便や検尿で卵の有無を調べて診断します。血液検査で調べる方法もあります。尿管や肝臓の超音波検査で、感染症の重症度も判断できます。

ビルハルツ住血吸虫症、マンソン住血吸虫症、日本住血吸虫症のいずれの住血吸虫症の治療でも、駆虫剤のプラジカンテルを内服します。プラジカンテルを内服しても幼虫に対する効果は顕著でないことから、3か月後に虫卵検査を行い、プラジカンテルを再内服することもあります。脊髄、脳の中枢神経系に病変が現れた場合は、プラジカンテル単独では症状が悪化することも懸念され、ステロイド剤が併用されます。

最良の予防は、住血吸虫がいるとわかっている危険地域の湖や川で泳いだり、水浴びをしたり、歩いて渡ったりしないことです。海や、通常の塩素処理をされたプールでは感染することはありません。淡水に入るのが避けられない場合には、ゴム長靴、ゴム手袋などを着用することです。

なお、日本住血吸虫症の中間宿主である巻き貝の一種、ミヤイリガイが甲府盆地などではいまだ多数生息しており、これらは中国やフィリピン、インドネシアの日本住血吸虫にも感受性があるため、人間や動物の移動に伴って外国産の日本住血吸虫が侵入した場合、国内で寄生虫病が再興する可能性も否定することはできません。

この点、日本には中間宿主である特定の巻貝が存在しない、ビルハルツ住血吸虫症、マンソン住血吸虫症とは大きく異なります。

🇨🇴重症熱性血小板減少症候群

野外のマダニが媒介する新しいウイルス性感染症

重症熱性血小板減少症候群とは、ブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類されるSFTSウイルスを保有する野外のマダニが媒介して、引き起こされる新しいウイルス性感染症。SFTS (Severe fever with thrombocytopenia syndrome)とも呼ばれます。

2013年1月に日本で初めて山口県で確認され、5月現在も西日本を中心に広がっています。

重症熱性血小板減少症候群を媒介するマダニは、フタトゲチマダニやオウシマダニなどのマダニで、固い外皮に覆われた体長3~4ミリと比較的大型の種類。食品などに発生するコナダニや、衣類や寝具に発生するヒョウヒダニなど、家庭内に生息するイエダニとでは種類が異なります。広くアジアやオセアニアに分布し、日本国内でも青森県以南の主に森林や草地などの屋外に生息しており、市街地周辺でも見られます。

このマダニにかまれることで、重症熱性血小板減少症候群は主に感染し、6日から2週間とされる潜伏期間を経て、発症します。

発症すると、発熱や、食欲低下、吐き気、嘔吐(おうと)、下痢、腹痛といった消化器症状が現れます。時に、頭痛、筋肉痛や、意識障害、けいれん、昏睡(こんすい)といった神経症状、リンパ節腫脹(しゅちょう)、せきといった呼吸器症状、紫斑(しはん)、下血といった出血症状を起こします。

重症の場合は、血液中の血小板が減少して出血が止まらなくなったり、腎臓(じんぞう)の機能が低下したりして死亡することもあります。

致死率は約10〜30パーセントで、感染者の血液、体液を介して、人から人に接触感染することもあるとみられています。

厚生労働省が情報収集を始めた2013年1月以降、5月初旬までの国内での感染者は13人で、うち死亡が確認されたのは8人。8人の内訳は山口県の女性2人、鹿児島県の女性1人と、広島県、愛媛県、長崎県、佐賀県、宮崎県の各男性1人です。

感染者は2005年から2013年に発症しており、発症時期はマダニの活動が活発になる4月中旬から11月下旬の春から晩秋にかけて。

重症熱性血小板減少症候群は、2009年3月から7月中旬にかけて、中国中央部の湖北省および河南省の山岳地域で、原因不明の疾患が集団発生したことで存在が明らかとなり、2011年に原因ウイルスであるSFTSウイルスが確認され、現在は7省で発生が確認されています。アメリカでも2009年、ミズーリ州において2人の発症者が確認されています。

日本の発症者の血液などから検出されたSFTSウイルスは、中国のSFTSウイルスとは遺伝子配列の一部が異なっていることから、以前から国内に広がっていた可能性があるとされます。

マダニにかまれることでかかる感染症には、重症熱性血小板減少症候群のほかにも、日本紅斑(こうはん)熱があり、ダニの一種であるツツガムシにかまれることでかかるツツガムシ病もあるので、山野などに出掛けた後、発熱や消化器症状などの症状が出た場合は、速やかに医療機関を受診することが必要です。

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の検査と診断と治療

内科、感染症内科、皮膚科の医師による診断では、血小板減少(10 万/mm3未満)、白血球減少、血清電解質異常(低Na血症、低Ca血症)、血清酵素異常(AST、ALT、LDH、CK上昇)、尿検査異常(タンパク尿、血尿)などの検査所見がみられます。

確定診断には、血液などのサンプルからのSFTSウイルスの分離・同定、RTーPCR(逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応法)によるSFTSウイルス遺伝子の検出、急性期および回復期におけるSFTSウイルスに対する血清中IgM(免疫グロブリンM)抗体価、中和抗体価の有意な上昇の確認といったウイルス学的検査が必要であり、現在、国立感染症研究所ウイルス第一部で実施可能です。

なお、発症者がマダニにかまれたことに気が付いていなかったり、刺し口が見付からなかったりする場合も多くあります。

内科、感染症内科、皮膚科の医師による治療では、有効な抗ウイルス薬などの特異的な治療法はないため、対症療法が主体になります。中国では、多数のウイルスに効果を示す抗ウイルス薬のリバビリンが使用されていますが、効果は確認されていません。ブニヤウイルス科のウイルスは酸や熱に弱く、消毒用アルコールなどの一般的な消毒剤や台所用洗剤、紫外線照射などで急速に失活します。

重症熱性血小板減少症候群の予防ワクチンはないため、マダニに刺されないことが、唯一の感染予防法です。

ポイントは、レジャーや農作業などで、草むらややぶなどマダニが多く生息する場所に入る時は、肌をできるだけ出さないように、長袖(ながそで)、長ズボン、手袋、足を完全に覆う靴などを着用すること。また、肌が出る部分には、人用の防虫スプレーを噴霧し、地面に直接寝転んだり、腰を下ろしたりしないように、敷物を敷くこと。帰宅後は衣類を家の外で脱ぎ、すぐに入浴し体をよく洗って、新しい服に着替えることです。

万が一マダニにかまれた時は、マダニをつぶしたり、無理に引き抜こうとせず、できるだけ病院で処置してもらうことが大切です。マダニの多くは、人や動物に取り付くと、皮膚にしっかりと口器を突き刺し、数日から長いもので10日間、吸血します。無理に引き抜こうとするとマダニの一部が皮膚内に残ってしまうことがあるので、吸血中のマダニに気が付いた時は、病院で処置してもらって下さい。

2022/08/25

🇭🇳春季カタル

子供に多くみられるアレルギー性の結膜炎

春季カタルとは、子供に多くみられる重症のアレルギー性結膜炎。カタルというのは古い名称ですが、粘膜にみられる炎症を意味します。

一昔前までは春から夏にかけて発症、悪化し、秋から冬にかけて症状が軽くなったことから、春季という名がつけられています。近ごろでは環境の変化により、必ずしも季節を選ばなくなってきています。

アレルギー性結膜炎は、何らかの刺激物質に対する、異常に高進した生体防御反応によって結膜に炎症の起こる疾患の総称で、アレルギー反応を生じさせる刺激物質には花粉、ダニ、ハウスダスト、動物の毛、コンタクトレンズなどたくさんあります。アレルギー性結膜炎の一種である春季カタルの場合は、何が症状を誘発するのかまだはっきりわかっていません。

症状は両眼性で、かなり強いかゆみがあり、白目は赤く充血します。濃く粘液のような目やにも出ます。上まぶたがはれることもあり、引っくり返してまぶたの裏側を覆っている眼瞼(がんけん)結膜をみると、ごつごつとした多数の突起が石垣のように並んでいることがあります。突起は石垣状乳頭増殖と呼ばれます。

他のアレルギー性結膜炎と異なり、黒目の部分を覆っている角膜に影響を及ぼすことが多く、まず角膜近くの白目の表面を覆っている眼球結膜が発赤し、ぐるりと分厚くはれることもあります。角膜にも、びらんや潰瘍(かいよう)ができることがあり、かゆみに加え目がとても痛くなり、明るい光を非常にまぶしく感じるようになります。

潰瘍が治りかけると、その部分に白いかさぶた状の角膜プラークができ、それがちょうど黒目の部分の瞳(ひとみ)の前にあると、光の通り道を妨げて視力が落ちます。

春季カタルは小学生の男子に多く見られ、特に10歳以下で湿疹(しっしん)や喘息(ぜんそく)、季節性アレルギーのある男子に多いのが特徴です。症状が悪くなったり、軽くなったりしながら、毎年繰り返すことが多いものの、普通は青年期までに自然に治ります。

春季カタルの検査と診断と治療

春季カタルは、強いかゆみを伴う結膜の充血、目やになどから診断されます。結膜をこすり取ったサンプルからは、アレルギーに特有の白血球(好酸球)が証明されます。

治療では、主にステロイド剤の点眼薬や眼軟こう、および非ステロイド性の消炎剤の点眼薬などを用います。ステロイド剤の結膜下注射や、内服による全身投与を行うこともあります。ただし、ステロイド剤は強い抗炎症作用を持つ一方、長期間使用すれば眼圧上昇などの副作用が出る場合があるので、症状が軽減したら非ステロイド性の消炎剤や抗アレルギー剤に切り替えます。

最近では、ステロイド剤と異なる作用機序で、眼圧上昇の心配がない免疫抑制剤の点眼薬も、使用されています。眼瞼結膜にできた石垣状乳頭増殖は、手術によって切除することもあります。

いずれも対症療法で、完治させることは困難です。点眼などをしている間は症状が治まっていますが、点眼を止めると悪化するという悪循環を繰り返すことが多いようです。しかし、通常は年齢とともに軽快し、成人まで続くことはあまりありません。

2022/08/24

🇮🇪食物アレルギー

食物アレルギーとは、特定の食物を摂取した時に免疫機序を介して、アレルギー症状が出現する状態のこと。食品過敏症とも呼ばれます。

アレルギー体質の人では、特定のたんぱく質にIgE抗体を作りやすい免疫傾向があり、摂取した食物とこれらのIgE抗体を介して症状が起こるとされています。多くは食物を摂取してすぐから2時間程度でみられる即時型反応を示しますが、やや遅れて症状が出たりすることもあります。

アレルギーの原因になるものをアレルゲン(抗原)といいますが、食物アレルギーを引き起こすアレルゲン食品として卵、牛乳、小麦の割合が多くなっています。そのほか、さばやいかなどの魚介類、バナナやキウイなどのフルーツ、大豆、米、ピーナッツ、アーモンド、そばなどがあります。これらのアレルゲン食品は、年齢によって原因となる割合が異なります。

アレルギー症状は、口唇、口腔(こうくう)粘膜の接触皮膚炎様の湿疹(しっしん)から、気管支喘息(ぜんそく)、じんましん、胃腸障害を引き起こすものまでさまざまです。時には、血圧低下、顔面蒼白(そうはく)、呼吸困難、意識混濁など生命にかかわる急激なアレルギー反応であるアナフィラキシーショックを起こす場合もあります。

食物アレルギーは乳幼時期に多く、成長とともに軽快、治癒する可能性があります。小麦、大豆、米は比較的早く、3歳までに耐性が獲得されるという結果もあります。卵、牛乳は少し遅れるので、小学校低学年までは卵、牛乳が重要な食物アレルゲンとなります。9歳ころには約8割が耐性を獲得し、反応を起こさなくなります。

しかし、食物アレルギーの経過も個人差があり、中には特定の食物アレルギーが長く続く場合があります。ナッツ類、魚介類、果実、ソバ、種子類は、耐性化しにくい食物アレルゲンとされています。

平成14年4月より、加工食品のアレルギー表示制度がスタートしました。表示の目的は、重篤なアレルギー症状が起きるのを避け、表示を見ることで食べても大丈夫な加工食品を選べることにあります。

現在、表示されているアレルギー物質には、義務品目として必ず表示される特定原材料7品目と、推奨品目として表示が勧められている特定原材料20品目があります。必ず表示される7品目には、患者の人数の多い卵(玉子、マヨネーズなど)、乳(牛乳、乳製品、チーズなど)、小麦(パン、うどんなど)、えび、かにと、重篤な症状に至ることが多いそばと落花生(ピーナッツ)が指定されています。

表示が勧められているもの20品目には、あわび、いか、いくら、オレンジ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、さけ、さば、大豆、鶏肉、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン、バナナ、ごま、カシューナッツが指定されています。

医師による治療は原因食物の除去が原則ですが、食物アレルギーの発症者は乳幼児に多く、厳しい除去食は栄養価の面で悪影響を及ぼす恐れがあります。原因が特定できない場合は、アレルギー専門医の受診が望まれます。

アナフィラキシーショックを起こした場合は、アナフィラキシーショックの治療を行います。魚介類、ナッツ類、ソバは、重篤なアナフィラキシーを起こすことが多いことが知られています。また、喘息(ぜんそく)の既往がある発症者も、重篤なアナフィラキシーを起こす可能性が高いといわれています。

2022/08/23

🇮🇲成人スティル病

子供のスティル病と同様の症状が成人に起こる疾患

成人スティル病とは、子供の若年性関節リウマチのうち、高熱が出るタイプのスティル病と似ている症状が、大人に起こる疾患。成人スチル病ともいわれます。

スティル病は長い間、子供ににしかかからない疾患と考えられていましたが、1971年にイギリスのバイウォータースが、16歳以上になって発病するケースがあることを報告しました。以降、同様のケースが世界中で報告され、現在では大人になってから発病したスティル病(成人発症スティル病)と、子供の時に発病し、その後大人の年齢になって再発した場合(小児発症スティル病の再発)を併せて、成人スティル病と総称しています。

20~40歳代の比較的若い成人に多いと見なされますが、まれに高齢者にもみられます。日本における男女比は、約1:2です。成人スティル病が発病する決定的な原因は、不明です。ウィルスなどの病原微生物による感染が引き金となり、それに免疫異常が絡んで発症するのではないかと考えられています。また、近年、発病者ではインターロイキン6あるいは18などサイトカイン(炎症を引き起こす液性因子)が著しく高くなっていることが知られ、遺伝子レベルでも研究が進んでいます。

一日のうちに、高熱が上がったり下がったりする発熱が、症状として特徴的です。一般には、夕方から夜間に発熱がみられ、 昼間は平熱であることが多いようです。そして、発熱時に薄いピンク色の発疹(はっしん)が前胸部や腕に現れますが、これは一過性のもので、かゆみなどの症状に乏しいため気付かれにくい傾向があります。

手やひざの関節の痛みとはれ、リンパ節のはれ、のどの痛み、肝臓や脾(ひ)臓のはれも伴います。

成人スティル病の検査と診断と治療

急性期の検査では、白血球増加や炎症所見、肝機能障害などを認めます。また、血液中にフェリチンという、組織中で鉄を貯蔵する役割を持つ蛋白(たんぱく)が増加することも。特徴です。なお、関節リウマチや他の膠原(こうげん)病で陽性になることが多いリウマトイド因子や、抗核抗体などの自己抗体(自己の組織成分に対する抗体)は、この成人スティル病では通常、陰性です。

治療の中心は抗炎症療法で、非ステロイド性消炎鎮痛剤が用いられます。十分に解熱しない場合、肝障害がある場合、薬剤アレルギーがみられる場合は、中等量の副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)が用いられ、多くのケースでは症状の改善がみられます。副腎皮質ホルモンが十分効かなかった場合は、免疫抑制剤を併用し、関節炎が持続する場合には、リウマチの際に使われる抗リウマチ剤が併用されることもあります。

再発は比較的多くみられますが、全身症状の経過は一般に良好です。副腎皮質ホルモンによる治療が開始されたら、自己調節することなく、根気よく治療を続けることです。副腎皮質ホルモンを中止できない場合には、骨粗鬆(こつそしょう)症など副作用にも注意するべきです。

2022/08/22

🇲🇲セリアック病

小麦に含まれる蛋白質のグルテンが小腸粘膜に障害を起こし、栄養素の吸収が減少する疾患

セリアック病とは、小麦に含まれる蛋白(たんぱく)質のグルテンが小腸粘膜に障害を起こし、栄養素の吸収不良が現れる疾患。グルテン腸症、グルテン過敏性腸炎、グルテン腸症候群、グルテン不耐症、スプルー、セリアックスプルーなどとも呼ばれます。

グルテンは主に小麦に含まれ、大麦、ライ麦、オート麦など他の麦類では含有量が比較的少量です。このグルテンに対する遺伝性の不耐症がセリアック病であり、発症した人がグルテンを含んだ食品を摂取すると、グルテンの分解ができず、腸管免疫システムがそれを異物と認識して過剰に働くことで、産生された抗体が小腸の絨毛(じゅうもう)を攻撃し、慢性的な炎症が起こります。

この炎症によって、上皮細胞が変性したり、絨毛が委縮して、その突起が平坦(へいたん)になったりします。その結果、平坦になった小腸粘膜は糖、カルシウム、ビタミンB群などの栄養素の吸収不良を起こし、小腸がしっかり機能しなくなることで、さまざまな症状が出てきます。

しかし、グルテンを含んだ食品の摂取をやめると、正常な小腸粘膜のブラシ状の表面とその機能は回復します。

セリアック病は、小児のころに発症する場合と、成人になるまで発症しない場合とがあります。症状の程度は、炎症によって小腸がどれだけ影響を被ったかで決まります。

成人で発症する場合は通常、下痢や栄養失調、体重減少が起こります。中には、消化器症状が何も現れない人もいます。セリアック病の発症者全体のおよそ10パーセントに、小さな水疱(すいほう)を伴い痛みとかゆみのある湿疹(しっしん)がみられ、疱疹性皮膚炎と呼ばれます。

小児のころに発症する場合は、グルテンを含む食品を食べるまでは症状が現れません。通常、パンやビスケット、うどんなどによってグルテンを摂取するようになる2歳から3歳の時に発症します。

子供によって、軽い胃の不調を経験する程度から、痛みを伴って腹部が膨張し、便の色が薄くなり、異臭がして量が多くなる脂肪便を起こすこともあります。

セリアック病による吸収不良から起こる栄養素の欠乏は、全身の栄養状態の悪化を招いて栄養失調を起こし、さらに別の症状を起こします。別の症状は、特に小児で現れやすい傾向にあります。

一部の小児は、成長障害を起こし身長が低くなります。鉄欠乏による貧血では、疲労と脱力が起こります。血液中の蛋白質濃度が低下すると、体液の貯留と組織の浮腫(ふしゅ)が起こります。

ビタミンB12の吸収不良では、神経障害が起こり、腕と脚にチクチクする感覚を生じます。カルシウムの吸収不良では、骨の成長異常を来し、骨折のリスクが高くなり、骨と関節が痛みます。

また、カルシウムの欠乏では、歯のエナメル質の欠陥と永久歯の障害を起こします。セリアック病の女児では、エストロゲンなどのホルモン産生が低下し、初潮がありません。

下痢、脂肪便、体重減少、貧血などのセリアック病を疑わせる症状に気付いたら、消化器内科を受診します。

セリアック病の検査と診断と治療

消化器内科の医師による診断では、小腸のX線検査と小腸の内視鏡検査を行います。小腸の繊毛が委縮、平坦化している状態が認められることと、グルテンを含む食品の摂取をやめた後に小腸粘膜の状態が改善していることにより確定します。また、グルテンを含む食品を摂取した時に産生される特異抗体の濃度を測定する検査を行うこともあります。

消化器内科の医師による治療としては、グルテンを含まない食事を摂取し、各種の栄養剤、ビタミンを補給します。

少量のグルテンでも症状を起こすので、グルテンを含む食品をすべて避けなければなりません。グルテンを含まない食事への反応は迅速に起こり、小腸のブラシ状の表面とその吸収機能は正常に戻ります。

ただし、グルテンはさまざまな食品中に広く含まれているので、避けるべき食品の詳細なリストと栄養士の助言が必要です。

グルテンを含む食品の摂取を避けても症状が継続する場合は、難治性セリアック病と呼ばれる状態に進んだ可能性があり、プレドニゾロンなどのステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン剤)で治療します。

まれに、グルテンを含む食品の摂取を避け、薬物療法を行っても改善しなければ、静脈栄養が必要となります。小児では初診時に非常に重篤な状態になっている場合もあり、グルテン除去食を開始する前にしばらく静脈栄養の期間が必要になります。

グルテンを避ければ、セリアック病のほとんどの発症者はよい状態を保てますが、長期間にわたってセリアック病が継続すると、まれに腸にリンパ腫(しゅ)を形成し、死に至ることもあります。グルテン除去食を厳格に守ることで、腸のリンパ腫やがんなどの長期間にわたる合併症のリスクを減少させられるかどうかは、不明です。

セリアック病の人は、グルテンを含まない穀物である米やトウモロコシを中心に、卵、肉、魚、牛乳、乳製品、野菜類、豆類、果物類を中心に摂取することになります。加工食品の場合、グルテンを含まないと表示されている物以外は注意が必要。

摂取できない食品としては、パン、うどん、ラーメン、ヌードル、パスタ(スパゲッティ、マカロニ)、ビスケット・クッキー・クラッカーなどの菓子、ケーキ、ビール、大麦水などが挙げられます。

グルテンを含んでいる可能性がある食物としては、豚肉(ソーセージ、ボローニャソーセージ)、缶詰のパテや肉、ミートボール、ハンバーガー、ホットドッグ、ソース、トマトソース、調味料、コーヒー代用品、チョコレート、ココア、アイスクリーム、キャンディー、食品色素などが挙げられます。

2022/08/21

🇨🇿全身性エリテマトーデス

全身に症状が現れる膠原病の一つ

全身性エリテマトーデスとは、全身に症状が現れる疾患で、代表的な膠原(こうげん)病の一つ。現在の日本では10万人に7〜8人の発症率で、発症しやすい年齢は20歳〜40歳、その90パーセントは女性です。

発症させる原因は、まだ解明されていません。体質、素因、免疫の異常、環境因子が関係して発症すると推定されています。免疫の異常は、自分の体の成分に対して反応する異常であるために、自己抗体が血液中にみられます。特に抗核抗体、中でもDNA(デオキシリボ核酸)に対する抗体が血液中に現れるのが、特徴です。

全身性エリテマトーデスを発症させる誘因には、海水浴やスキーなどで強い紫外線を浴びたり、薬剤、ウイルス感染、外傷、ストレス、さらには妊娠、出産などがあります。

全身性エリテマトーデスの最も特徴的な症状は、皮膚の露出部に赤い斑点(はんてん)、紅斑が現れることです。顔では鼻を中心に両側のほおにかけて、蝶(ちょう)が羽を広げたような形の蝶型紅斑ができます。また、手のひら、つめの周囲、足の裏、胸にも紅斑がみられます。

紅斑は厚く盛り上がることもありますが、痛みやかゆみはありません。ただし、紅斑が治った跡に瘢痕(はんこん)が残ったり、色素沈着や色素脱失になることがあります。

髪の毛が抜けたり、つめが変形したり、日光に当たるとひどい日焼けをして火膨れができる光線過敏症などもみられます。寒冷刺激や精神的ストレスに反応して、手や足の指が真っ白になったり、青紫色になったりし、しびれ、冷感、痛みなどの症状を伴うレイノー現象も、よくみられます。

内臓に現れる症状では、腎(じん)臓がよく侵されます。これはループス腎炎と呼ばれ、むくみや蛋白(たんぱく)尿がみられますが、初期には症状として出にくいため要注意。心膜や胸膜に炎症が起こることもあり、胸痛、発熱を起こします。

脳や神経に障害が起こると、けいれん、まひがみられることもあります。関節痛もみられますが、関節リウマチのような関節の変形、運動機能の障害はありません。

全身性エリテマトーデスの検査と診断と治療

診断のために必要な検査は、免疫血清や血液の検査です。免疫血清検査では、全身性エリテマトーデスに高頻度にみられる血清中の抗核抗体を調べます。また、血液検査によって 貧血の程度や白血球減少、血小板減少の有無を調べます。

そのほか、尿や血液の検査によって、ループス腎炎やネフローゼ症候群、腎臓の機能障害が起こっていないかを調べます。また、侵された臓器の病状を知るために、必要に応じてX線検査、CT検査、MRI検査、心電図などの検査を行います。

全身性エリテマトーデスの治療においては、内臓の炎症には副腎皮質ホルモン(ステロイド剤)が有効で、効果を発揮しています。炎症が強くて症状が重い場合には、大量に投与され、症状が安定すれば徐々に量を減らしていきます。腎臓に障害が現れた場合には、免疫抑制剤が用いられたり、血漿(けっしょう)交換療法が行われることもあります。

ステロイド剤の使用により、予後はかなり改善しましたが、治療に用いられる薬はいずれも副作用があります。加えて、いつ、どれぐらいの期間をかけて投与量を減らすかが非常に難しいため、医師の指示を守って治療を続けることが大切。腎臓の機能低下が起こった場合には、血液透析が必要になります。

生活上の注意としては、全身性エリテマトーデスを発症させる誘因があると悪化するため、強い紫外線や感染症には細心の配慮が必要です。治療のためにステロイド剤を使うと感染症にかかりやすくなるため、清潔を心掛け、インフルエンザが流行している時期は人込みを避けるなど、注意します。

比較的若い女性がかかることが多いため、妊娠や出産の問題があった際には、医師に相談します。病状が安定していれば、妊娠、出産は十分に可能です。また、経済的な問題では、全身性エリテマトーデスは厚生労働省の特定疾患に認定されているので、医療費の助成を受けることができます。

2022/08/19

🇯🇵日本紅斑熱

日本紅斑熱リケッチアを保有するマダニに刺されることによって、引き起こされる感染症

日本紅斑熱(こうはんねつ)とは、細菌の一種である日本紅斑熱リケッチア(リケッチア・ジャポニカ)を保有するマダニ類に刺されることによって、引き起こされる感染症。

森林や野山に入り、この日本紅斑熱リケッチアを持ったキチマダニ、フタトゲチマダニ、ヤマアラシチマダニ、ヤマトマダニなどのマダニ類に刺されることによって、日本紅斑熱に感染します。感染時の行動は、農作業や森林作業のほか、山登り、散歩などさまざまで、住居の周りで感染したと考えられるケースもあります。

1984年に徳島県で発見された新興感染症で、高熱と紅斑を伴う疾患が3例続いて発生し、その症状と刺し口などから当初はダニ類のツツガムシが媒介するツツガムシ病が疑われましたが、ワイル・フェリックス反応と呼ばれる患者の血清中に生じる抗体を利用した検査法を用いて鑑別した結果、これまでに知られていない紅斑熱群に分類されるリケッチアによる感染症であることが明らかになり、日本紅斑熱と名付けられました。

1986年に病原体が分離され、日本紅斑熱リケッチアと名付けられました。1999年には、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律の制定に伴って、日本紅斑熱は四類感染症に指定されました。2012年の春には、治療薬の保険適用が認められました。

1984年の発見以降、西日本の太平洋沿岸を中心に温暖な地域で発生がみられていたものの、近年では日本海側や東北地方にも発生が広がり、全国32都府県で患者が報告されています。患者の届け出は、1994年までは年間10〜20名程度で推移し、1995年以降は年間40〜60名程度に増加し、2007年には98名、2011年には過去最高の178名を記録したほか、2011年までに5名の死亡例があります。

発生時期をみると、1998年以前は7~9月をピークに4~11月の間に発生がみられ、夏を中心に発生するといわれていました。しかし、1999 年以降は4月~10月に継続して多くの発生がみられ、さらに3月、11月、12月にも発生がみられています。

一般に森林性のマダニ類は、その一生を通じて1〜3回のみ、シカや野ネズミなどの哺乳(ほにゅう)類や鳥類などの温血動物から吸血を行い、その栄養を元にして、幼虫から若虫への脱皮、若虫から成虫への脱皮、交尾と産卵を行います。この吸血の際に、日本紅斑熱リケッチアを保有するダニ類から吸血された動物に伝達されます。その一方で、吸血された動物が日本紅斑熱リケッチアを保有している場合に、保有していないダニ類が吸血すると日本紅斑熱リケッチアに感染し、ダニが有毒化します。加えて、紅斑熱群に分類されるリケッチアは、親ダニから卵への経卵感染(垂直感染)も起こすことが知られており、生まれながらにして有毒なダニも存在しています。

日本紅斑熱リケッチアを保有するマダニ類が吸血のため人を刺すと、体内にリケッチアが侵入して感染します。人から人には感染しません。

2~8日の潜伏期間を経て、頭痛、全身倦怠(けんたい)感、39~40度以上の高熱、悪寒、関節痛、筋肉痛などを伴って発症します。高熱の後にやや遅れてて、米粒大から小豆大の紅斑が四肢や手のひら、顔面に現れ全身に広がります。この紅斑に、痛みやかゆみはありません。リンパ節腫脹(しゅちょう)はあまりみられません。

注意深く全身を探すと、腹部か背部、外陰部、大腿(だいたい)部など隠れた部分の皮膚に、ダニ類の刺し口が見付かり、通常は1〜2週間ほどの期間見られます。しかし、刺し口が小さい場合には、数日で消えたり、頭部など体毛で覆われた部分を刺された場合には、刺し口が見付けづらいこともあります。

重症例で治療が遅れると、全身の血管内で血液が固まってしまう播種(はしゅ)性血管内凝固症候群(DIC)や、多臓器不全が引き起こされ、死亡することもあります。

なお、日本紅斑熱は日本特有の疾患ですが、同様の紅斑熱群リケッチア症は広く世界に分布しており、輸入感染症としても重要です。代表的な紅斑熱群リケッチア症は、北米大陸にみられるロッキー山紅斑熱、ユーラシア大陸にみられるシベリアマダニチフスやボタン熱、地中海沿岸にみられる地中海紅斑熱、オーストラリアにみられるクインズランドダニチフスなど。

野外での作業、レジャーなどから帰って数日から8日前後で、発熱、発疹などが認められた場合には、できるだけ早い時期に内科、感染症内科、皮膚科を受診して、日本紅斑熱あるいはツツガムシ病に感染した可能性があることを告げ、検査、治療を受けて下さい。

日本紅斑熱の検査と診断と治療

内科、感染症内科、皮膚科の医師による診断では、一般検査で、細菌などに感染すると血液中で一気に増えるCRP(C反応性タンパク)強陽性、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)およびALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)などの肝酵素の上昇、白血球や血小板の減少がほとんどの例にみられます。

確定診断は、主に間接蛍光抗体法または間接免疫ペルオキシダーゼ法という方法によって、日本紅斑熱リケッチアに対する血清抗体価の4倍以上の上昇、またはIgM(免疫グロブリンM)抗体の有意の上昇を測定することで行われます。PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法などによって、日本紅斑熱リケッチアの遺伝子の検出も行うこともあります。

検査所見はツツガムシ病のものと類似するため、鑑別が必要となります。ツツガムシ病との鑑別は難しいものの、一般にツツガムシ病ではリンパ節腫脹がしばしば見られることや、ツツガムシ病では発疹が四肢よりも体幹部に多く見られること、ツツガムシ病のほうが刺し口の中心部の黒色痂皮(かひ)部(かさぶた)がしばしば1センチメートル以上と大きい傾向があることなどの点で、違いが現れることがあります。

内科、感染症内科、皮膚科の医師による治療では、症状から日本紅斑熱が疑われたら、早期にテトラサイクリン系の抗菌薬(抗生物質)を点滴静脈内注射か内服で投与することが最も有効です。テトラサイクリン系とニューキノロン系の2種類の抗菌薬の併用投与も行われています。

細胞壁がペプチドグリカンを持たないというリケッチアの生物学的特性のため、ペニシリンを始めとするβ—ラクタム系抗菌薬は無効です。

日本紅斑熱の予防ワクチンはないため、キチマダニ、フタトゲチマダニなどのダニ類に刺されないことが、唯一の感染予防法です。

そのポイントは、森林作業や農作業、レジャーなどで、草むらややぶなどダニ類が多く生息する場所に入る時は、肌をできるだけ出さないように、長袖(ながそで)、長ズボン、手袋、足を完全に覆う靴などを着用することです。また、肌が出る部分には、人用の防虫スプレーを噴霧し、地面に直接寝転んだり、腰を下ろしたりしないように、敷物を敷きます。森林や野山などから帰宅後は衣類を家の外で脱ぎ、すぐに入浴し体をよく洗って、新しい服に着替えます。

万が一マダニ類に刺され、吸着された時は、つぶしたり無理に引き抜こうとせず、入浴して体をよく洗って注意深く取り除くか、医療機関で処理してもらうことです。

🇯🇵日本住血吸虫症

日本住血吸虫が感染して引き起こされる寄生虫病

日本住血吸虫症とは、吸盤を持った日本住血吸虫が門脈という血管の中に生息することによって、引き起こされる寄生虫病。

この日本住血吸虫という名前は、日本での研究が盛んだっことに由来していて、世界で唯一住血吸虫を撲滅した国でもあります。かつては甲府盆地、利根川流域、広島県片山地方、九州の筑後川流域などが流行地として知られていましたが、1978年以来新しい発症者は出ておらず、すでに絶滅したと考えられています。しかし、中国やフィリピン、インドネシアなどの東南アジアでは、いまだ多くの発症者が出ています。

また、日本住血吸虫症を含む住血吸虫症になると、世界中で2億人が発症していると推定され、マラリアやフィラリアとともに世界の3大寄生虫病の1つとされています。

日本住血吸虫の成虫は、オスが1.2〜2.0センチ、メスが 1.5〜3.0センチの体長で、細長く、人間などの寄生する動物、すなわち宿主(しゅくしゅ)の小腸から肝臓へつながる静脈血管である門脈の中に生息して、 宿主の赤血球を食べています。 成虫の寿命は通常3~5年ですが、まれには30年の長きに渡ることもあります。

日本住血吸虫は一生のうち、何度も姿を変えます。成虫が寄生している門脈で産み落とされた虫卵は、糞便(ふんべん)とともに水中に流出すると、虫卵の中でミラシジウムが活発に動き、卵のからを破って水中に泳ぎ出します。ミラシジウムは中間宿主で、湖沼や低湿地に生息する巻貝の一種、ミヤイリガイの皮膚から侵入し、その体内で成長します。中間宿主とは普通、寄生虫の幼虫を宿す宿主で、この体内で寄生虫は無性生殖を行います。中間宿主がないと、寄生虫は生きていくことができません。

長さ5ミリほどのミヤイリガイに侵入したミラシジウムは、スポロシストという姿になり、貝の中で2世代を過ごします。2世代目のスポロシストは、セルカリアという姿に成熟します。セルカリアは2つに枝分かれした尾を持ち、貝から水中に出て泳ぎ回り、終宿主である人間などの動物が水中に入ってくると、蛋白(たんぱく)質を溶かす酵素を使って皮膚を溶かしながら体内に侵入します。終宿主とは普通、寄生虫の成虫を宿す宿主で、この体内で寄生虫は有性生殖を行います。

皮膚から侵入する時に尾を切り捨て、セルカリアは血液に乗って体内を移動します。心臓から肺に行き、それから再び心臓に戻り、大循環によって門脈に達した後、そこで成虫になるまで過ごします。セルカリアが人に侵入してから成虫になるまで、およそ40日ほどかかります。

成虫は門脈系の細い血管に行き、そこで産卵を行います。産卵された虫卵は、体内のさまざまな部位に運ばれます。腸管内に運ばれたものは、糞便と一緒に体外に排出されます。また、肝臓や脳に運ばれるものもあります。

日本住血吸虫症の症状としては、まずセルカリアが皮膚より侵入した時に、かゆみのある皮膚炎を起こします。侵入から5~10週の間、セルカリアが体内を移行することによって、せき、発熱、ぜんそく様発作、リンパ腺(せん)炎などが起こり、時に肝臓や脾(ひ)臓がはれることもあります。

侵入後10~12週で、虫体が成熟して産卵が始まると、発熱、腹痛、下痢などの症状が現れます。虫卵が肝臓に流入した場合には、虫卵が血管を詰まらせて炎症を起こし、最終的に肝硬変になることもあります。肝硬変になると、腹水がたまり、腹部がはれてきます。多くの虫卵が血管を通って脳に流入した場合には、てんかん様発作、頭痛、運動まひ、視力障害などのさまざまな症状が現れます。

日本住血吸虫症で一番恐ろしいのは、肝臓や脳に対する症状で、悪化すると死に至ることも少なくありません。

日本住血吸虫症の検査と診断と治療

医師による確定診断は、肝生検あるいは直腸粘膜の生検によって、組織中に虫卵を確認することによってなされます。現在の日本の発症者の多くは、過去に感染していてもすでに炎症は消退し、古くなった虫卵は石灰化しています。超音波検査やCTでは、肝臓の表面は特徴的な亀甲(きっこう)状あるいは網目状の肝硬変像を示し、石灰化した虫卵と線維化がみられます。

治療においては、駆虫剤のプラジカンテルの内服が有効ですが、副作用があるので注意します。過去に感染している場合には、肝硬変や肝細胞がんの合併があり得るので、画像診断による経過観察が行われます。

予防法としては、セルカリアのいる水に接触することにより感染が成立するので、汚染された水に直接触れないことに尽きます。しかし、日本住血吸虫が撲滅されていない外国で漁業や農業をする人は、水に直接触れることを避けられないので、予防は大変困難です。

日本住血吸虫症を根本的に撲滅するためには、中間宿主であるミヤイリガイの数を減らす必要があります。日本では、さまざまな殺貝剤をまいたり、水路をコンクリートに変え、ミヤイリガイが繁殖しにくいような環境にすることによって、撲滅に成功しました。汚染地域が比較的限られていた日本と異なり、外国では汚染地域が広大であり、ミヤイリガイの撲滅は簡単ではありません。

なお、甲府盆地などではミヤイリガイがいまだ多数生息しており、これらは中国やフィリピンの日本住血吸虫にも感受性があるため、人間や動物の移動に伴って外国産の日本住血吸虫が侵入した場合、国内で寄生虫病が再興する可能性も否定することはできません。

2022/08/17

🇵🇬多種化学物質過敏症

身の回りにある微量な化学物質に反応し、頭痛やせきなどの症状が起きる疾患

多種化学物質過敏症とは、身の回りにある微量な化学物質に過敏反応を起こし、頭痛やせきなどの症状が起きる疾患。化学物質過敏症、本態性環境不耐症、本態性環境不寛容状態とも呼ばれます。

過去に大量の化学物質に曝露(ばくろ)されて体の耐性の限界を越えた後、または長期間に渡って慢性的に低濃度の化学物質に曝露されて体の耐性の限界を越えた後、極めて微量の化学物質に再接触した際に過敏反応し、頭痛やせきを始め、アレルギーに似た症状、情緒不安、神経症などさまざまな症状を示します。

多種化学物質過敏症の発症原因の半数以上は、室内空気汚染です。この室内空気汚染による健康影響は、シックハウス症候群、あるいはシックビル症候群とも呼ばれています。自宅や職場、学校などの新築、改修、改装で使われる建材、塗料、接着剤から放散されるホルムアルデヒド、揮発性有機化合物などが、室内空気を汚染するのです。建築物自体だけでなく、室内で使われる家具、カーテンに含まれる防炎・可塑剤、殺虫剤、防虫剤や、喫煙なども室内空気汚染を引き起こし、多種化学物質過敏症の発症原因になります。

また、大気汚染物質、排気ガス、除草剤、食品の残留農薬、食品添加物(保存料、着色料、甘味料、香料など)、医薬品、石鹸(せっけん)、シャンプー、化粧品、洗剤、芳香剤なども多種化学物質過敏症の発症原因になります。

多種化学物質過敏症で起きる症状は、アレルギー疾患の特徴と中毒の要素を併せ持つとされ、その症状は多岐に渡ります。粘膜刺激症状(結膜炎、鼻炎、咽頭〔いんとう〕炎、口渇) 、皮膚炎、気管支炎、喘息(ぜんそく)、循環器症状(動悸〔どうき〕、不整脈) 、消化器症状(下痢、便秘、悪心)、自律神経障害 (異常発汗、手足の冷え、易疲労性)、精神症状 (不眠、不安、うつ状態、記憶困難、集中困難、価値観や認識の変化)、中枢神経障害 (けいれん)、頭痛、発熱、疲労感、末梢(まっしょう)神経障害、運動障害、四肢末端の知覚障害などがあります。

化学物質の摂取量と症状との関係などは未解明で、化学物質に対する耐性は個人差が大きいとされ、その症状や度合い、進行速度、回復速度なども多種多様であるといわれます。

多種化学物質過敏症の定義、診断方法などの検証が十分とはいえない部分もあり、世界的には多種化学物質過敏症を特定の疾患と認めることに否定的な意見が大勢を占め、心身症と考える意見が強いとされます。日本でも多数の医師は多種化学物質過敏症に関心を持っておらず、診療できる医師は限られているため、疲れや軽い風邪、精神疾患、心身症、更年期障害など別の疾患として診断されたり、原因不明として放置されているケースもあるものと見なされます。

多種化学物質過敏症の検査と診断と治療

日本では現在、多種化学物質過敏症(化学物質過敏症)を専門に扱う化学物質過敏症外来などを設けている医療機関もあります。

室内空気汚染による多種化学物質過敏症の一種であるシックハウス症候群について述べると、医師による診断のポイントは、第1に自覚症状が出現した経過です。原因となった住居への入居前後での体調の変化を詳細に問診します。つまり、自覚症状の発症経過と居住環境の変化が1つの線で結び付けられるかどうかが、重要となります。

初診時に症状が出現する場所の空気測定結果を持参することは、大きな診断の助けとなります。この室内空気の測定は、新築、改修などを行った施工業者が有料で、最寄りの保健所が簡易測定を無料で行ってくれます。

シックハウス症候群の大半のケースでは、何らかの中枢神経系あるいは自律神経系の機能障害が認められるため、診断のための検査では神経眼科検査が有用。神経眼科検査では、目の動きが滑らかかどうかを評価する眼球電位図(EOG)、目の感度を評価する視覚コントラスト感度検査(視覚空間周波数特性検査)、光に対する瞳(ひとみ)の反応を評価する電子瞳孔(どうこう)計による瞳孔検査などがあり、シックハウス症候群では異常値を示すケースが多いことがわかっています。

例えば、目の動きを調べる眼球電位図(EOG)検査では、程度に差はあるもののシックハウス症候群発症者の85パーセント以上に滑動性追従運動異常が認められます。また、開眼時、閉眼時重心動揺検査でも、高い頻度で異常値を認めます。ただ、これらの検査は、シックハウス症候群発症者にみられる一般的特徴を調べるもので、確定診断法としてのツールにはなりません。

確定診断法として唯一の方法は、ブーステストあるいはチャレンジテストと呼ばれ、実際に揮発性化学物質を発症者に曝露し、何らかの症状が誘発されるかどうかを結果の再現性も含めて確認する検査方法しかありません。しかし、この検査を行うためには、化学物質を低減化したクリーンルームが設備として必要で、今のところこの設備を有する特殊専門病院は国内でも数カ所程度しかなく、現在の医療水準では確定診断は難しいといわざるを得ない状況です。

多種化学物質過敏症の半数以上を占めるシックハウス症候群の治療は、原因となった居住環境の改善という建築工学的アプローチと、身体状況の改善という医学的アプローチの二本立てで行います。

居住環境の改善としては、自覚症状の原因が室内空気汚染ですから、空気汚染の原因はどこにあるのか、何をどのように改善すればよいのか、汚染された建材や建材関連品の交換、新しい家具などの吟味、十分な換気量の確保を含めて、施工業者と十分に相談して善後策を立てることです。化学物質以外のカビやダニなど微生物による空気汚染が広い意味でのシックハウス症候群の原因となることも考えられるため、これらの発生防止や除去なども必要です。

身体状況の改善としては、ゆっくり歩いて30分などの軽い運動療法、少しぬるいと感じる39度前後の半身浴、60度前後の低温サウナなどの温熱療法が自覚症状の改善に有効で、居住環境が整えば数カ月~6カ月程度で、多くの症状は軽快します。また、解毒剤、水溶性ビタミン剤も身体状況の改善に有効であり、タチオン、タウリン散、ノイロビタン、アスコルビン酸末などの服薬治療も併せて行うことが一般的です。

さらに、一般的な意味での体調管理も重要です。暴飲暴食を避け、バランスの取れた規則的な食事や、十分な休養と睡眠、定期的な軽い運動を心掛けて体調がよければ、同じ環境負荷に対しても反応は軽くてすみます。

発症者によっては、シックハウス症候群を契機に、通常では気にならないほんのわずかな芳香剤、たばこ、香水などのにおいが気になったり、極めて微量の化学物質にさらされるだけでも多彩な症状が出現するようになったりするケースもまれにみられます。このようなケースでは、多くの場合、社会生活が制限されるため、心療内科医によるケアを併せて行う必要があります。

2022/08/16

🇧🇳ヒトアジュバンド病

美容整形で用いられるシリコンなどの注入で発症

ヒトアジュバンド病とは、美容整形や形成術で用いられるシリコン、パラフィンなどの異物の注入が原因となって起こる疾患。異常な免疫反応が起こることによって、強皮症やシェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、関節リウマチなどの膠原(こうげん)病に似た症状が起こります。

ほとんどの例はシリコンやパラフィンを直接注入する豊胸術、隆鼻術を受けており、術後数年から10年以上経過してから発症しています。シリコンを袋の中に密封した上で挿入する方式での発症は、まれです。そのため、体内に埋め込まれた異物が直接組織と接触することにより、過剰な免疫反応を引き起こした結果と考えられています。1970年以降にみられましたが、近年は形成術が進歩したため、発症が少なくなっています。

初発症状は、関節や筋肉の痛みや発熱など非特異的な症状が多く、レイノー現象、皮膚硬化、紅斑(こうはん)、目や口の渇き、骨の変形や癒着など典型的な膠原病の症状を呈することもあります。

ヒトアジュバンド病の検査と診断と治療

ヒトアジュバンド病の血液検査では、炎症反応が上昇し、免疫異常を示す抗核抗体、リウマトイド因子(リウマチ反応)、抗DNA抗体などがみられます。これらは、この疾患に特徴的な所見ではありません。診断に際しては、豊胸術など美容外科手術の既往が大切で、その際の術式や用いられた材質に関する情報も有用です。

ヒトアジュバンド病の治療は、初期であれば、体内に注入された異物を取り除くことによって、症状が軽くなったり治ることもあります。多くの例では効果が不十分なため、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)による治療が必要になります。骨の変形など組織の変化まで進んでいる場合は、非ステロイド性抗炎症剤、副腎皮質ホルモンを使用し、膠原病に準じた治療が行われます。

🇸🇪慢性じんましん

大小の赤いはれが繰り返し現れ、かゆみを伴う皮膚病

慢性じんましんとは、蚊に刺されたような大小の赤いはれが繰り返し生じ、かゆみを伴う皮膚病。はれを膨疹(ぼうしん)と呼びます。

この慢性じんましんは、体のどこかに毎日赤いはれができていて、一年くらい続く続くものです。急激に全身の皮膚にできて数日で治るものは、急性じんましんです。

原因としては、肌が服などにこすれる機械的刺激、食べ物、温熱、寒冷、日光、薬剤、内臓の疾患などさまざまです、時には疲労や精神的な影響によるものもあります。機械的刺激が原因で生じやすいのは、ベルトやブラジャーなどの下です。食べ物で原因となりやすいのは、サバなどの背の青い魚、貝類、エビ、カニ、卵、牛乳、チーズ、そば、チョコレート、ナッツ類などが挙げられます。合成着色料、保存料、食肉に含まれる抗生物質などの食品添加物も、原因となります。

アレルギー性のものは、多くはありません。原因の不明なものは、少なくありません、

慢性じんましんの症状としては、蚊に刺されたような大小さまざまな膨疹が突然できて、徐々に拡大していきます。1個1個の膨疹は数時間で消えますが、違う部分からまた新たな膨疹が出てきたりします。かゆみがあるため手で膨疹をかくと、どんどん拡大します。目の中や唇にできることもあり、夏に発症することが多い傾向があります。

膨疹は皮膚や粘膜のやや深い部分にできる水膨れで、血管の中を流れている血液の液体成分が血管の外にあふれ出てくるために発生します。目には見えませんが、血管には小さい穴がたくさん開いており、この穴が何らかの原因で大きくなると、血液の液体成分が漏れて血管の外に出てきます。穴より大きな赤血球や白血球は漏れません。

この血管の穴を大きくするものの一つに、ヒスタミンという物質があります。ヒスタミンはまた、神経を刺激して、かゆみを起こします。じんましんのほとんどは、このヒスタミンかそれに似た物質によって起こされています。

ヒスタミンは体の中では、主に肥満細胞(マスト細胞)の中に蓄えられており、アレルギー反応の結果として肥満細胞から出てくる場合と、そうでない場合があります。アレルギー反応による場合は、原因となる食べ物などの抗原に対するIgE(免疫グロブリンE)と呼ばれる抗体がまず肥満細胞にくっつき、そこに抗原がさらにくっつくと、肥満細胞がヒスタミンを放出します。アレルギー反応によらない場合は、物理的刺激などその他の原因で肥満細胞がヒスタミンを放出します。

最も危険なじんましんは、喉頭浮腫(こうとうふしゅ)といって、気管の入り口の粘膜がはれるタイプです。急に起こると、一気に窒息してしまうこともあります。気管支の粘膜がはれると、ぜんそくの症状が出ます。また、腸の粘膜がはれると、下痢、腹痛、嘔吐(おうと)などの腹部の症状が出ます。これらの症状が出た場合は、じんましんが体の内部の粘膜にも出ているという印です。その程度が強い場合には、血液の成分がたくさん血管外に漏れ出ており、循環している血液量が減り、ショック状態となる場合があります。

慢性じんましんの検査と診断と治療

皮膚科の医師による慢性じんましんの治療は、原因を早く発見して、それを避けるようにすることが基本となります。 原因を探るには、どんな時にどんな症状が出たか、医師に詳しく伝えることが必要です。

最も手軽で一般的なのは、血液検査で特定のものに対するIgE抗体を調べる検査です。これが高いものは、じんましんの原因である可能性が高くなります。ヒスタミン遊離テストは少し進めて、原因のものが本当に肥満細胞からヒスタミンを出すかどうかを血液を培養して調べるものです。皮内注射によるテストはさらに進んで、直接皮膚に疑わしいものを入れて、じんましんが出るかどうかを確かめる検査です。

皮膚をボールペンの頭などでこするとみみずばれができることを皮膚描記症といい、機械的じんましんの診断となります。1カ月以上長引いたり、繰り返す慢性じんましんの場合は、肝機能や血沈、CRPなどの炎症反応を調べて、慢性の感染症や膠原(こうげん)病などが隠れていないかどうかチェックします。

急性じんましんでは、原因があってから1時間以内に出ることが多いので、その直前に何を食べたか、何をしたか、何を触ったか、どこに行ったかなどを考えると原因に思い当たることがあります。2回、3回と繰り返し起こってきたら、原因がより確信できます。しかし残念ながら、原因がわからないことが大半。また、同じ原因があっても、必ずしも毎回じんましんが出るとは限りません。体調の悪い時、特に下痢をしている時などに出やすくなります。

原因不明の慢性じんましんの一部は、自分自身の体のどこかの部分に対して、アレルギー反応を起こしているのではないかと考えられています。

もし、原因がわかりましたら、再発を防ぐために可能な限りそれを避けることです。軽いじんましんは、抗アレルギー剤や抗ヒスタミン剤の内服で消えます。眠くなることがありますが、数日間飲んだほうがよいでしょう。最近開発されたものは、眠気が少なくなっています。

薬剤の効果は、個人差があります。通常1~3日飲んで効果のない薬は効果が期待できませんので、内服剤の変更が必要です。急性じんましんは、効果のある内服剤で1~2週間でよくなります。それ以上続く慢性じんましんは、できない薬剤と量を見付け、徐々に減らしながらやめるようにします。治療に抵抗するようなら、原因を見付ける検査などをする必要があります。妊娠早期では、抗アレルギー剤や抗ヒスタミン剤の内服には注意が必要です。

ひどいじんましんは、強力ネオミノファーゲンシー(強ミノ)やステロイドの注射をします。危険なじんましんの場合は、直ちに点滴で水分を補給し、ボスミン、ステロイドなどの注射をします。アナフィラキシーを起こしてしまった場合は、緊急処置としてエピネフリンの自己注射(エピペン)を行います。

かゆい時はできるだけかかないで、冷やすなどして我慢します。温まると、じんましんはひどくなります。子供の場合は、多くは自然に起こらなくなりますので、特に原因が見当たらなくてもあまり心配いりません。

🇭🇰ベーチェット病

多彩な症状を示す膠原病類縁疾患

ベーチェット病とは、原因不明の膠原(こうげん)病類縁疾患。目のぶどう膜炎に加えて、口腔(こうくう)粘膜のアフタ性潰瘍(かいよう)、皮膚症状、外陰部潰瘍を主症状とし、血管、神経、消化器などの病変を副症状として、急性炎症性発作を繰り返すことを特徴とします。

疾患名は、トルコの医師フルス・ベーチェットが1936年、初めて報告したことに由来しています。日本では現在、厚生労働省の特定疾患医療に認定されている難病の一つで、平成19年3月末現在、ベーチェット病の特定疾患医療受給者数は16638人を数えます。

地域的には、中近東諸国や地中海沿岸諸国、日本、韓国、中国に多くみられるため、シルクロード病ともいわれています。日本においては北海道、東北に多くて、北高南低の分布を示し、男女比は1対1、20歳代後半から40歳代にかけての働き盛りに、多く発症しています。

疾患の原因は、現在も不明です。しかし、遺伝因子など何らかの内因と、感染病原体やそのほかの環境因子など何らかの外因が関与して、白血球の異常が生じるために発症すると考えられています。単純な遺伝性疾患と捕らえるのは、妥当ではありません。

内因中の遺伝因子で一番重要視されているのは、ヒトの組織適合性抗原であるヒト白血球抗原(HLA)のHLA-B51というタイプです。HLAのうちB51を持っている日本人の一般的割合は10~15パーセントですが、べーチェット病の発症者では50~60パーセントと非常に高い割合になっています。

また、そのほかの遺伝因子についても、発症や病状に影響を及ぼす可能性が指摘されています。

外因としては、ある種の工業汚染物質の影響を考える説もありますが、虫歯菌を含む細菌やウイルスなどの微生物が関わっているのではないかという考え方が有力です。

ベーチェット病の主な症状は、以下の4症状です。

●目の症状 

この疾患で最も重要な症状が目のぶどう膜炎で、ほとんど両目が侵されます。ぶどう膜とは、虹彩(こうさい)、毛様体、脈絡膜の総称です。

目に最初に出現する自覚症状として最も多いのは、目のかすみや視力低下。医師が細隙燈(さいげきとう)顕微鏡で見ると、角膜と虹彩とに囲まれた前眼房が混濁し、ベーチェット病のぶどう膜炎特有の白色の蓄積物が認められます。これを前眼房蓄膿(ちくのう)といいます。

再発を繰り返しながら、徐々に視力低下を来しますが、発症者本人がその再発を直接的に自覚する場合が多く、眼発作と呼ばれています。障害が蓄積され、網膜脈絡膜炎に進む例では、失明に至ることもあります。

●口腔粘膜のアフタ性潰瘍

頬(きょう)粘膜、舌、口唇、歯肉に白く、痛みのある、アフタという円形の潰瘍ができます。初発症状として最も頻度の高い症状ですが、経過を通じて繰り返しできることも特徴です。

●皮膚の症状

皮膚に結節性紅斑(こうはん)や、にきびのような発疹(はっしん)がみられます。結節性紅斑は、隆起性で圧痛を伴う紅斑が手足に現れます。にきびのような発疹は、前胸部、背部、頸部(けいぶ)などに現れます。

皮膚は過敏になり、かみそり負けを起こしやすかったり、針反応といって、注射や採血で針を刺した後、赤く腫(は)れたりすることがあります。

●外陰部の潰瘍

男性では陰嚢(いんのう)、陰茎、亀頭に、女性では大小陰唇、膣(ちつ)粘膜に有痛性の潰瘍がみられます。外見は口腔粘膜のアフタ性潰瘍に似ていますが、深掘れになることもあり、傷跡を残すこともあります。ベーチェット病に特徴的な症状で、しばしば発症者が自らの病気を自覚するきっかけになります。

4つの主症状以外に、以下の副症状があります。後期に起こる症状であり、生命や予後に影響を及ぼします。

●関節炎

膝(ひざ)、足首、手首、肘(ひじ)、肩などの大関節が侵され、一般的には、むくみがみられます。急性、亜急性で繰り返す場合と、慢性に持続する場合があります。非対称性で、変形や剛直を残さず、手指などの小関節が侵されない点で、関節リウマチとは異なります。

●血管病変

この疾患で大きな血管に病変がみられた時、血管型ベーチェット病といい、圧倒的に男性に多い病型です。動脈、静脈ともに侵されますが、静脈病変が多く、深部静脈血栓症などの原因となることがあります。深部静脈血栓症は下肢に多くみられ、皮下静脈に沿った発赤、圧痛と周囲のむくみが主な症状です。

動脈病変は少ないのですが、大動脈炎を起こしたり、肺動脈炎から大量喀血(かっけつ)を来すことがあります。血管病変に伴う脳血管障害や心筋梗塞(こうそく)を起こす場合もあります。

●消化器病変

腸管の潰瘍を起こした時、腸管型ベーチェット病といいます。主症状は、腹痛、下痢、下血など。部位は右下腹部に当たる回盲部が圧倒的に多く、上行結腸、横行結腸にもみられます。潰瘍は深く下掘れし、消化管出血や腸管穿孔(せんこう)により、緊急手術を必要とすることもあります。

●神経病変

神経症状が前面に出た時、神経型ベーチェット病といいます。難治性で、男性に多い病型です。髄膜(ずいまく)炎、脳幹脳炎として急性に発症するタイプと、片まひ、小脳症状などの神経症状に加えて認知症などの精神症状を来し、慢性的に進行するタイプに大別されます。慢性的に進行するタイプは特に予後不良で、あまり治療も効きません。

●副睾丸(こうがん)炎

男性に頻度が高く、特徴的症状として挙げられています。睾丸部の圧痛と、むくみを伴います。

ベーチェット病の検査と診断と治療

ベーチェット病の主症状が2つ以上あれば、定期的な経過観察が重要となりますので、リウマチ・膠原病科、眼科、皮膚科の専門医を受診します。

診断のための特殊な検査はなく、これがあればベーチェット病だと診断できる特別な症状もありませんが、主症状と副症状から総合的に診断が行なわれます。HLA―B51陽性や針反応は、診断の参考になります。

主症状がすべて出現した時は診断はそれほど難しくはありませんが、副症状が主体になる時は診断が困難なことがあります。また、多彩な症状は一度に出てくるわけではなく、長い年月をかけて症状がそろい、初めてベーチェット病と診断される場合も少なくありません。

目、口、皮膚、外陰部の4主症状すべてがそろったものを完全型ベーチェット病、2~3主症状に加えて2副症状を示したものを不全型ベーチェット病と呼ぶこともあります。

ベーチェット病の症状は非常に多彩ですので、現在のところ、すべての症状に対応できる単一の治療はありません。急性炎症性発作を完全に食い止める治療法もなく、いかに発作を軽症化し、回数を減らすかが治療の最大の課題となっています。

現在の治療は、ステロイド剤(副じん皮質ホルモン)と免疫抑制剤が中心となっています。生命に影響を及ぼす臓器病変や、重篤な目の病変などでは、高用量のステロイド剤や免疫抑制剤を含む強力な治療が行なわれます。

一度臓器病変を起こした場合や、血管型、神経型、腸管型に分類される特殊型ベーチェット病の場合は、症状が軽減、解消した後も容易に再燃するのを防ぐため、少量のステロイドを飲み続けるケースが多くなります。

難治性の目の病変に対しては、抗腫瘍(しゅよう)壊死因子抗体のインフリキシマブを使用することもあります。インフリキシマブは世界に先駆けて2007年1月、日本で保険適用となったもので、まだ長期成績は出ていませんが、従来の治療薬にない効果が期待されています。

皮膚などの軽度の症状や、症状が軽減、解消した時期には、コルヒチン、サラゾピリンなども用いられます。

主症状に関しては、慢性的に繰り返し症状が出現するものの、一般に予後は悪くありません。10年くらい経つと疾患の勢いは下り坂となり、20年くらいを越えるとほぼ再燃しないと見なされています。ただし、目の病変については、治療が遅れるなどすると失明することもあり、若年者の失明の重大な原因の一つです。特殊型ベーチェット病も、いろいろな後遺症を残すことがあります。

🇨🇫非熱帯性スプルー

小麦に含まれる蛋白質のグルテンが小腸粘膜に障害を起こし、栄養素の吸収が減少する疾患

非熱帯性スプルーとは、小麦に含まれる蛋白(たんぱく)質のグルテンが小腸粘膜に障害を起こし、栄養素の吸収不良が現れる疾患。グルテン腸症、グルテン過敏性腸炎、グルテン腸症候群、グルテン不耐症、セリアック病、セリアックスプルーなどとも呼ばれます。

グルテンは主に小麦に含まれ、大麦、ライ麦など他の麦類では含有量が比較的少量です。このグルテンに対する遺伝性の不耐症が非熱帯性スプルーであり、発症した人がグルテンを含んだ食品を摂取すると、グルテンの分解ができず、腸管免疫システムがそれを異物と認識して過剰に働くことで、産生された抗体が小腸の絨毛(じゅうもう)を攻撃し、慢性的な炎症が起こります。

この炎症によって、上皮細胞が変性したり、絨毛が委縮して、その突起が平坦(へいたん)になったりします。その結果、平坦になった小腸粘膜は糖、カルシウム、ビタミンB群などの栄養素の吸収不良を起こし、小腸がしっかり機能しなくなることで、さまざまな症状が出てきます。

しかし、グルテンを含んだ食品の摂取をやめると、正常な小腸粘膜のブラシ状の表面とその機能は回復します。

非熱帯性スプルーは、小児のころに発症する場合と、成人になるまで発症しない場合とがあります。症状の程度は、炎症によって小腸がどれだけ影響を被ったかで決まります。

成人で発症する場合は通常、下痢や栄養失調、体重減少が起こります。中には、消化器症状が何も現れない人もいます。非熱帯性スプルーの発症者全体のおよそ10パーセントに、小さな水疱(すいほう)を伴い痛みとかゆみのある湿疹(しっしん)がみられ、疱疹性皮膚炎と呼ばれます。

小児のころに発症する場合は、グルテンを含む食品を食べるまでは症状が現れません。通常、パンやビスケット、うどんなどによってグルテンを摂取するようになる2歳から3歳の時に発症します。

子供によって、軽い胃の不調を経験する程度から、痛みを伴って腹部が膨張し、便の色が薄くなり、異臭がして量が多くなる脂肪便を起こすこともあります。

非熱帯性スプルーによる吸収不良から起こる栄養素の欠乏は、全身の栄養状態の悪化を招いて栄養失調を起こし、さらに別の症状を起こします。別の症状は、特に小児で現れやすい傾向にあります。

一部の小児は、成長障害を起こし身長が低くなります。鉄欠乏による貧血では、疲労と脱力が起こります。血液中の蛋白質濃度が低下すると、体液の貯留と組織の浮腫(ふしゅ)が起こります。

ビタミンB12の吸収不良では、神経障害が起こり、腕と脚にチクチクする感覚を生じます。カルシウムの吸収不良では、骨の成長異常を来し、骨折のリスクが高くなり、骨と関節が痛みます。

また、カルシウムの欠乏では、歯のエナメル質の欠陥と永久歯の障害を起こします。非熱帯性スプルーの女児では、エストロゲンなどのホルモン産生が低下し、初潮がありません。

下痢、脂肪便、体重減少、貧血などの非熱帯性スプルーを疑わせる症状に気付いたら、消化器内科を受診します。

非熱帯性スプルーの検査と診断と治療

消化器内科の医師による診断では、小腸のX線検査と小腸の内視鏡検査を行います。小腸の繊毛が委縮、平坦化している状態が認められることと、グルテンを含む食品の摂取をやめた後に小腸粘膜の状態が改善していることにより確定します。また、グルテンを含む食品を摂取した時に産生される特異抗体の濃度を測定する検査を行うこともあります。

消化器内科の医師による治療としては、グルテンを含まない食事を摂取し、各種の栄養剤、ビタミンを補給します。

少量のグルテンでも症状を起こすので、グルテンを含む食品をすべて避けなければなりません。グルテンを含まない食事への反応は迅速に起こり、小腸のブラシ状の表面とその吸収機能は正常に戻ります。

ただし、グルテンはさまざまな食品中に広く含まれているので、避けるべき食品の詳細なリストと栄養士の助言が必要です。

グルテンを含む食品の摂取を避けても症状が継続する場合は、難治性の非熱帯性スプルーと呼ばれる状態に進んだ可能性があり、プレドニゾロンなどのステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン剤)で治療します。

まれに、グルテンを含む食品の摂取を避け、薬物療法を行っても改善しなければ、静脈栄養が必要となります。小児では初診時に非常に重篤な状態になっている場合もあり、グルテン除去食を開始する前にしばらく静脈栄養の期間が必要になります。

グルテンを避ければ、非熱帯性スプルーのほとんどの発症者はよい状態を保てますが、長期間にわたって非熱帯性スプルーが継続すると、まれに腸にリンパ腫(しゅ)を形成し、死に至ることもあります。グルテン除去食を厳格に守ることで、腸のリンパ腫やがんなどの長期間にわたる合併症のリスクを減少させられるかどうかは、不明です。

非熱帯性スプルーの人は、グルテンを含まない穀物である米やトウモロコシを中心に、卵、肉、魚、牛乳、乳製品、野菜類、豆類、果物類を中心に摂取することになります。加工食品の場合、グルテンを含まないと表示されている物以外は注意が必要。

摂取できない食品としては、パン、うどん、ラーメン、ヌードル、パスタ(スパゲッティ、マカロニ)、ビスケット・クッキー・クラッカーなどの菓子、ケーキ、ビール、大麦水などが挙げられます。

グルテンを含んでいる可能性がある食物としては、豚肉(ソーセージ、ボローニャソーセージ)、缶詰のパテや肉、ミートボール、ハンバーガー、ホットドッグ、ソース、トマトソース、調味料、コーヒー代用品、チョコレート、ココア、アイスクリーム、キャンディー、食品色素などが挙げられます。

🇨🇳皮膚筋炎、多発性筋炎

筋肉の炎症で筋力の低下、筋肉痛が出現

皮膚筋炎、多発性筋炎とは、筋肉に炎症が起こって、筋力の低下や筋肉痛が起こる疾患。まぶたや顔、関節の伸側部などに皮疹(ひしん)がみられるものを皮膚筋炎と呼び、紅斑を伴わない多発性筋炎と区別されます。

2つの疾患は40歳〜60歳ぐらいの成人に多く発症しますが、5歳〜15歳の小児にもみられます。いずれも女性に多く、男性の2倍の割合で発症すると見なされ、日本での有病率は10万人に2〜5人。成人では、皮膚筋炎と多発性筋炎が単独で発症することもあれば、>。

2つの疾患の原因は不明ですが、ウイルスなどの感染や自己免疫の異常などが関係すると推定されます。がんも2つの疾患を誘発する要因と考えられていて、がんに対する免疫反応が筋肉内の物質を直接標的として攻撃するとみられています。

症状は多くのケースで徐々に進行し、どの年齢層でも同じような症状を示します。通常、成人よりも小児のほうが突発的に発熱して、発症するケースも多くみられます。

感染症にかかっている時や治った直後から発症し、対称性の筋力低下、筋肉痛、関節痛、嚥下(えんか)障害、発熱、疲労、体重減少などが現れます。他の結合組織疾患を合併している場合には、レイノー現象も現れ、寒冷や感情的動揺に対する反応として手の指が突然青白くなってピリピリしたり、しびれます。

数週間から数カ月で、症状が悪化していきます。筋力の低下は首や肩、上腕部、腰回りなど体の中心部に近い四肢に起こるため、腕を肩から上へ上げる、階段を昇り降りする、いすから立ち上がるなどの動作が困難になります。首の筋肉が障害を受けると、頭を枕から持ち上げられなくなることもあります。肩や腰の筋力がより低下すると、ベッド上の生活や車いすの使用を強いられることもあります。なお、手、足、顔の筋肉が障害を受けることはありませんし、関節の痛みと炎症は軽度な傾向にあります。

食道上部の筋肉が障害を受けると、食物の嚥下障害や逆流の原因となります。通常、のどや食道以外の内臓器官は侵されません。しかし、肺と心臓は侵されることがあります。肺では、肺胞と肺胞の間や血管の回りにある間質に炎症が起こり、空ぜき、息切れ、呼吸困難が生じます。心臓では、不整脈、心不全などが生じます。

皮膚筋炎では、筋力低下や他の症状の発症と同時に、皮疹が現れる傾向があります。ぼんやりした赤や紫色の皮疹が顔に現れ、目の回りが赤味がかった紫色にはれるのが特徴です。うろこ状で滑らかな、または少し隆起した別の皮疹が全身の各所、特に手の甲側の指関節や、ひじの関節の伸側部、ひざの関節の伸側部に多く現れることもあります。皮疹が消失した後には、茶色の色素沈着、瘢痕(はんこん)、皮膚の委縮、色素脱落などが現れることがあります。

皮膚筋炎、多発性筋炎の検査と診断と治療

皮膚筋炎、多発性筋炎では、筋肉ばかりでなく他の臓器も障害されることがあり、どの診療科が最適と簡単には決められません。一般に、膠原病・自己免疫疾患の一つとしてリウマチ内科や膠原病・免疫内科、筋肉の疾患として神経内科、皮膚症状を中心に皮膚科を受診される発症者が大多数です。大切になるのは、障害された臓器を中心に全身を総合的に診療できる専門医に診てもらうことです。

医師による診断では、血液検査で筋肉の障害に由来するクレアチンキナーゼなどの酵素を調べたり、筋電図や筋肉の生検で炎症による障害があるかどうかを調べます。40歳以上の高年者の場合には、がんを体のどこかに合併していることがあるため、がんの検査として胃がん、肺がん、乳がんなどを調べます。

治療においては、炎症が最も激しい急性期の場合、活動を制限して安静にし、筋肉に負担をかけないようにすることがしばしば有効です。一般に副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)、通常はプレドニゾロンを高用量で経口投与すると、徐々に筋力が回復して痛みやはれも改善し、疾患をコントロールできます。投与後およそ6〜12週間で、クレアチンキナーゼなど筋肉酵素の値は正常値に戻り、筋力も回復します。

以後は、再発を来さないように配慮しながら、薬の投与量を徐々に減量していきます。多くの成人は、再発防止のため低用量のプレドニゾロンの投与を何年も続けます。小児の場合、約1年間薬物療法を行うと症状はなくなります。筋力の回復、関節の硬化予防のためのリハビリテーションは、順調な筋力の改善を確認してから、徐々に開始します。食事は、高蛋白(たんぱく)、高カロリー食で消化のよいものを取るようにします。

時折、プレドニゾロンの副作用によって症状が悪化することがあります。このような場合は、免疫抑制剤を代わりに投与するか、プレドニゾロンと併用投与します。効果がない場合は、さまざまな抗体を多量に含む製剤であるガンマグロブリンを静脈注射する方法もあります。ただし、長期の有効性や副作用は不明で、今後の検討が必要です。

がんが見付かった際は、がんを治療することが優先されます。がんの治療がうまくいけば通常、症状は改善されます。成人で嚥下障害、栄養失調、肺炎、呼吸不全、心不全がある重症のケースでは、死に至ることがあります。

2022/08/15

🇺🇿乳糖不耐症

小腸粘膜に存在する乳糖分解酵素の欠損などにより、乳糖を含む牛乳などを摂取すると下痢を生じる状態

乳糖不耐症とは、小腸粘膜に存在する乳糖分解酵素(ラクターゼ)が欠損していたり、少量しか産生されないために、牛乳や乳製品などの乳糖を含む食物を摂取すると、腹痛、腹鳴、腹部膨満感、水様性下痢を生じる状態。牛乳不耐症、選択的二糖類分解酵素欠損症とも呼ばれます。

乳糖(ラクトース)は、単糖のガラクトース(脳糖)とグルコース(ブドウ糖)が結合した二糖類で、牛乳や乳製品、母乳などに含まれる栄養素。口から摂取された乳糖は、小腸粘膜に存在する乳糖分解酵素によって分解されて、小腸粘膜より吸収されます。

乳糖不耐症では、乳糖分解酵素が生まれ付き欠損したり、少量しか産生されないために、酵素活性が低くて小腸での乳糖の分解がうまくいかずに、不消化の状態で腸内に残ります。分解されなかった乳糖は、大腸の中で腸内細菌によって発酵し、脂肪酸と炭酸ガスと水になります。

この脂肪酸や炭酸ガスは、腸を刺激して蠕動(ぜんどう)という自発運動蠕を高進させます。また、不消化の食物の残りかすにより大腸の中の浸透圧が高くなるために、腸管の粘膜を通して体の中から水分が腸管の中に移動し、水様性下痢を引き起こします。

生まれ付き遺伝的に乳糖分解酵素を持たない場合は、先天性乳糖不耐症といいます。乳糖分解酵素は小腸粘膜の先端部位にあるため、小腸粘膜が傷害される多くの疾患で二次的に酵素活性が低下する場合は、後天性(二次性)乳糖不耐症といいます。

先天性乳糖不耐症では、乳児が水様便を頻回に排出するようになります。続いて嘔吐(おうと)も出現し、ほうっておくと脱水症状や発育障害、慢性栄養障害を起こす原因になります。

乳児に多いのは後天性乳糖不耐症で、ウイルスや細菌による腸炎の後で腸粘膜が傷害されて、酵素活性が低下し、乳糖不耐症の症状が一過性に出現することがよくあります。小腸を休ませて粘膜が回復すれば、また乳糖を分解することができるようになります。

ミルクが主食の乳児期には乳糖分解酵素は十分に作られますが、成長するに従って特別な疾患がなくても、次第に乳糖分解酵素の活性が低下します。乳糖分解酵素の活性は、白人では高く、黄色人種、黒色人種ではあまり高くありません。従って、日本人の成人の約40パーセントで乳糖分解酵素の活性が低いといわれています。

また、成人になるにつれて乳糖分解酵素の活性が低下してくるので、子供のころは症状がなくても成人になってから症状が出現することがあります。これは、牛乳を多く摂取する食習慣を持たなかったためと推測されます。

このような状況で乳糖を多く含む牛乳や乳製品を摂取すると、腹痛、腹鳴、腹部膨満感を生じ、腸の蠕動が高進して、酸っぱいにおいのするガス成分に富んだ水様性下痢を生じます。

成人の乳糖不耐症の場合、牛乳や乳製品を摂取しなければ、症状は治まります。自覚がないことも少なくなく、長い間下痢に悩んでいた人が、牛乳を飲むのをやめたら症状が治まったということもあります。

乳糖不耐症は緊張や不安などのストレスが原因で起こる過敏性腸症候群と似ていますが、牛乳を温めて飲んでも、それを分解する酵素がないか少ないために、栄養素が吸収されず、下痢などを生じます。

乳糖不耐症の検査と診断と治療

小児科、あるいは消化器内科の医師による乳糖不耐症の診断では、乳糖を飲ませて血糖値が上がらないこと、便中に糖が排出されることで判断できます。小腸粘膜を採取して乳糖分解酵素(ラクターゼ)の活性を調べると確実ですが、乳児などで後天性(二次性)乳糖不耐症が疑われる場合は、経過や病歴、乳糖除去ミルクの使用で症状が改善するかどうかで判断できます。

小児科、消化器内科の医師による乳糖不耐症の治療としては、乳糖を含む牛乳、乳製品などの食物を除去、制限します。乳製品でもあらかじめ乳糖を分解してある食品は、摂取可能です。

乳児に対しては、乳糖を含まないラクトレス、ボンラクトなどの特殊なミルクを使用します。一過性に生じる後天性乳糖不耐症の場合は、治療薬剤として乳糖分解酵素(ラクターゼ)製剤があり、その粉薬をミルクなどに混ぜるという方法もあります。

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 静岡県は26日、直近1週間(15~21日)のデータから「RSウイルス感染症が流行入りしている」と発表しました。定点医療機関となっている小児科1カ所当たりの患者数は1・64人で、県が流行入りの目安としている「1人」を大きく上回りました。前週の0・9人よりも8割増加し、急拡大が懸...