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2022/08/31

🇺🇿太田母斑

褐青色の色素斑が、まぶたから額、頬にかけてできる皮膚の疾患

太田母斑(おおたぼはん)とは、片側のまぶたから額、頬(ほお)にかけてできる、境界の不明瞭な褐青色の色素斑。眼上顎部(がんじょうがくぶ)褐青色母斑とも呼ばれます。

母斑は、皮膚の一部分に色調や形状の異常が現れる状態で、あざとも呼ばれ、皮膚から盛り上がることはありません。

太田母斑は、詩人や作家としてのペンネーム木下杢太郎(もくたろう)でも知られる皮膚科の医学者・太田正雄東大教授が、1939年(昭和14年)に初めて報告した疾患で、日本人など東洋人に比較的多くみられます。

通常は顔の片側に色素斑ができますが、両側にできる場合もあります。また、生後間もなく色素斑ができる早発型と、小児期や思春期に色素斑ができて徐々に拡大する遅発型の2種類があります。

さらに、色素斑は顔面の皮膚だけでなく、眼球結膜や口の粘膜、鼓膜にできることがあります。

色素斑は、三叉(さんさ)神経の第1・第2枝の支配領域にみられ、青みを帯びた色素斑の中に褐色調の小さな斑点が散在した状態で現れます。皮膚の表面は滑らかで、盛り上がったりしません。

原因は、メラノサイト(メラニン細胞、メラニン形成細胞、色素細胞)にあります。通常は表皮にあって、メラニンという皮膚の色を濃くする色素を作り出すメラノサイトが、深い部分の真皮の上層に存在し増殖しているために、皮膚が褐青色に見えてしまいます。

色素斑が拡大したり、色調が濃くなったりすることもあり、自然に消えることはありませんが、悪性化を心配することもありません。

なお、同様の色素斑が肩から上腕に見られることがあり、これは伊藤母斑と呼ばれます。

本人が特に気にしなければ、太田母斑の治療の必要はありません。見た目が気になるようなら、カバーマークによる化粧で色を隠すのも選択肢の一つですが、皮膚科、皮膚泌尿器科、ないし形成外科を受診し色素斑を除去することも勧められます。

太田母斑の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科、ないし形成外科の医師による診断では、部位や色素斑の様子から視診で判断します。皮膚をほんの少し切り取って病理組織検査を行うと、真皮上層に色素含有メラノサイトが認められます。

また、異所性蒙古(もうこ)斑、青色母斑などの皮膚疾患と鑑別します。

皮膚科、皮膚泌尿器科、ないし形成外科の医師による治療では、悪性化の心配はないため、見た目の問題で気になるならQスイッチレーザー治療により、色素斑を除去します。

Qスイッチレーザーには、ルビーレーザー、アレキサンドライトレーザー、ヤグレーザーなどがあり、レーザーの種類により多少の効果や経過の違いがみられます。特定のレーザー光線を照射すると、皮膚の中にあるメラニン色素に対してのみ反応するため、周辺の正常な皮膚組織へのダメージを極力抑えながら、色素斑の元になっているメラニン色素だけを破壊することができます。

いずれのレーザー治療も痛みを伴うため、麻酔シール、注射などを使用して痛みの緩和を行います。治療対象となる太田母斑の色が濃く、範囲が広い場合は、1〜2回のレーザー照射だけは不十分で、およそ3カ月の間隔で、少なくとも5~6回の照射を行います。

治療時期は何歳からでも可能ですが、小児の場合は全身麻酔が必要なため3歳ごろから開始するのが普通で、早期から開始するほうが効果が高いといわれています。成人の場合でも、かなり色調が改善し、完全に色素斑を除去できることもあります。

眼球の色素斑はレーザー照射ができないので、現在は治療法がありません。

2022/08/01

🇱🇻横隔膜ヘルニア

横隔膜に穴が開き、腹部の内臓が胸腔内に入り込んだ状態

横隔膜ヘルニアとは、横隔膜に穴が開き、腹部の内臓が胸腔(きょうくう)内に入り込んだ状態。

横隔膜とは、肺の下に位置して、胸部と腹部を区切る膜です。この筋肉層の丈夫なドーム状の膜が上下することによって呼吸ができますが、完全に区切られているわけではなく、大動脈裂孔、大静脈裂孔、食道裂孔という3つの穴が開いていて、そこがヘルニアを起こしやすい部分となっています。

横隔膜ヘルニアには、外傷によるものと非外傷のものがあり、非外傷のものには、さらに先天性と後天性のものがあります。

外傷性の横隔膜ヘルニアでは、胸部や腹部への外傷で横隔膜が破れ、その裂け目から腹部の臓器が胸腔内に流れ込み、生命を脅かす危険も高くなります。事故などで胸に強い打撲を受けるのが原因となることが多いのですが、強いせきなど、ちょっとしたタイミングで横隔膜が破れることもあります。

症状としては、呼吸困難、ショック症状、吐き気、嘔吐(おうと)などがよくみられます。まれに、外傷を受けてから2〜3年後に発症する場合があります。

非外傷性の横隔膜ヘルニアには、ほぼ先天性でしかみられないボックダレック孔ヘルニア、傍胸骨孔ヘルニアの2種と、後からでもなる可能性が高い食道裂孔ヘルニアがあります。

ボックダレック孔ヘルニアは、ほぼ先天性でしか発見されません。しかし時々、生まれた時は何ともなかったのに成長してから強いせきをしたり、胸に打撲を受けたりすると発症することもあります。これを遅発性といいます。

このボックダレック孔ヘルニアは、新生児がすぐに呼吸困難などの症状を呈してしまうと、半数は予後不良を起こすという怖いヘルニアで、新生児2000〜3000人に1人の割合で認められます。遅発性であれば、速やかに手当てを受ければほぼ助かります。

胎児が母胎にいる時、次第に横隔膜が形成されてきて、やがてしっかりと横隔膜が胸部と腹部を区切るのですが、何らかの原因で横隔膜がきっちりと閉じ切らないことがあります。こうなるとヘルニアを起こしてしまい、横隔膜が閉じようとしても脱出した臓器がじゃまをして閉じられなくなってしまうのが、ボックダレック孔ヘルニアの原因です。

最大の症状は、呼吸困難が挙げられます。胎児の場合はへその緒から酸素をもらっているので平気なのですが、出産後は自分で呼吸しなければならないため、生まれてすぐに呼吸困難を起こすことが多くなります。また、腹部にうまく空気が回らないので、へこんでいるのも特徴。脱出した臓器によって肺が圧迫されているため、肺の生育不良や疾患を伴っていることもあります。

傍胸骨孔ヘルニアは、本来しっかりと胸骨にくっついているはずの横隔膜のつながりが弱く、ちょっとした弾みでくっつきが外れて、そこに臓器が侵入してくることによって起こるヘルニアです。自覚症状も少なく、発症者本人も気付かないことがあります。ただし自然に治るようなことはなく、まれに呼吸困難などの深刻な症状に発展することがあります。

食道裂孔ヘルニアは、横隔膜ヘルニアの中で最も多く、横隔膜を貫く食道裂孔の一部分に異常が生じ、胃が胸腔内に入り込むヘルニアです。本来、食道と胃の接合する位置は、横隔膜の下になっています。食道裂孔ヘルニアの場合は、食道と胃の接合部を含めて胃の上部が一緒に胸腔へ脱出する滑脱型と、食道と胃の接合部は横隔膜の下にあって胃の一部だけが脱出する傍食道型、および両者が混じった形で脱出する混合型があります。

大部分は滑脱型であり、あまり大きな症状が出ることは少ないのですが、この状態では胃の中のものが食道へと逆流するのを防ぎようがありません。そのため、食道炎を併発することになります。全体の1割程度と数は少ない傍食道型は、胃の一部が食道のわきを通った状態で横隔膜に挟まれるため出血したり、逆に血が巡らなくなったりするなど、滑脱型より重い症状を起こしやすくなります。混合型は、まれにしかみられません。

先天性のものもありますが、大部分は老化、脊椎(せきつい)変形、肥満、便秘、多産などが、食道裂孔ヘルニアの誘因となります。特に、コルセットをしている変形性脊椎症の高齢者に、よく起こります。いずれも、腹腔内の圧である腹圧が上昇し、横隔膜の筋力が低下するのが原因となっています。どちらかというと女性に多く、特に老化によるものであればさらに女性の割合が増えます。

胸焼け、胸骨下の痛み、みぞおちの痛み、吐き気、食べ物のつかえ、貧血などの症状が、数カ月から数年に渡って、よくなったり悪くなったりする状態が続きます。

これらの症状の多くは、同時に併発しやすい逆流性食道炎や、ヘルニア内に生じるびらん性胃炎、胃潰瘍(かいよう)によるもの。そのほか合併しやすい疾患には、瘢痕(はんこん)性食道狭窄(きょうさく)、出血性貧血などがあります。

食道裂孔ヘルニアがあっても、自分では気付かず、胃の検査で偶然発見されることも少なくありません。

横隔膜ヘルニアの検査と診断と治療

横隔膜ヘルニアでは基本的に内科を受診しますが、外傷性の横隔膜ヘルニアでは外科を受診する必要があります。ただし、病院ごとに異なることがあり、特に複数の診療科目を持っている総合病院では、違いが出ると思われます。なお、ヘルニアによる合併症などを治療するため、複数の科目を受診する必要があるケースもあります。

外傷性の横隔膜ヘルニアは、緊急性が高く、すぐにでも適切な治療と手術が必要とされます。手術によって治療できた後で、リハビリテーションや投薬治療が行われます。

先天性でボックダレック孔ヘルニアを持って生まれてくる場合、大抵は胎児が母胎の中にいるうちに医師がこのヘルニアに気付き、早期に帝王切開で出産することになります。成長すればするほど脱出した臓器が胎児の肺を押しつぶし、危険な状態になっていくからで、出生直後から人工呼吸管理を行った上、できるだけ早期に、手術に耐えられるようになった時点で速やかに、生育時に閉じ切れなかった横隔膜を閉じる手術が行われます。しかし、最高の環境で早期に手術が行われても、生存率は芳しくないのが実情です。

傍胸骨孔ヘルニアは、自然に治るようなことはなく、まれに呼吸困難などの深刻な症状に発展することがあるので、見付けた場合は手術が行われます。手術の成功率は高く、比較的治しやすいヘルニアといえるでしょう。

食道裂孔ヘルニアは、軽ければ特に薬による治療の必要はありません。腹部を圧迫しないように帯、ベルトを緩くし、便秘や肥満を治し、脂肪食を制限すれば十分です。逆流性食道炎があれば、H2受容体拮抗(きっこう)薬やプロトンポンプ阻害薬を服用します。

内科的治療でよくならない食道炎や、炎症の跡が引きつれたようになって食道の内腔が狭まる瘢痕性食道狭窄などは、手術が必要となります。

傍食道型食道裂孔ヘルニアの場合も、形態的変化であるため、原則的に手術を行う必要があります。傍食道型では横隔膜が胃を締め付けてしまうため、締め付けられた胃が出血したり、逆に血の巡りが悪くなったりして、滑脱型より危険度が高く、自然治癒が難しい点や合併症を未然に防ぐなどの理由で、手術で治すケースが多くみられます。

脱出している胃を腹腔内に引き戻し、開大している食道裂孔を縫縮し、逆流防止手術を追加します。手術後の治癒率は、良好です。

🇪🇪横隔膜まひ

横隔膜を支配している神経のまひにより、呼吸困難が発生

横隔膜まひとは、横隔膜神経のまひにより横隔膜機能が弱まったり、消えた状態。横隔膜の疾患のうち、最も多くみられる疾患です。

横隔膜は、肺の下に位置していて胸腔(きょうくう)と腹腔を区切る膜で、上のほうは胸膜、下のほうは腹膜で覆われています。この筋肉層の丈夫なドーム状の膜である横隔膜の上下運動と、肋間(ろっかん)の呼吸筋の上下運動が協調して行われることによって、呼吸ができます。

左右一対の横隔膜神経は、頸部(けいぶ)、胸腔内と長い道筋を経て、横隔膜へと達しています。その経路が心臓手術などで切断されたり、多発神経炎、頸髄(けいずい)疾患、甲状腺(せん)や肺の腫瘍(しゅよう)による圧迫や浸潤によって遮断されたりすることで、横隔膜神経が圧迫を受け、まひします。

まひが起こるのは大抵、ドーム状になっている横隔膜が2カ所に隆起した部分を作っているうちの、どちらか1カ所です。まひの起こった横隔膜は、動かなくなり、緊張度を失って緩みます。この片側性の横隔膜まひがほとんどで、肺がんなどの腫瘍による横隔膜神経への浸潤が原因です。まれに、頸髄疾患によって両側性の横隔膜まひを起こすこともあります。

通常みられる片側だけのまひでは、呼吸困難も軽くてすみます。しかし、まひが左側の横隔膜の場合は、胃がねじれるため、消化不良が起こります。

両側まひでは、肺の換気容積が少なくなって著しい呼吸困難が発生します。特に、呼吸困難の症状は仰向けで強くなります。また、正常では吸気時に腹部は膨らむのと反対に、吸気時に腹部が陥没する奇異性呼吸がみられます。

横隔膜まひの検査と診断と治療

片側性の横隔膜まひは症状が軽いので、自分では気付きません。仰向けで強くなる呼吸困難を感じたら、両側性の横隔膜まひの可能性があるので、内科の専門医を受診します。

医師は胸部X線検査を行い、まひ側の横隔膜が持ち上がり、呼吸を行ってもほとんど動かないことによって診断します。

横隔膜まひは一時的なものと、永続的なものがあり、多発神経炎、頸髄疾患、肺がんなどの原因に応じて適切な治療が行われます。

両側性の横隔膜まひでは、人工呼吸が必要になります。近年では、鼻マスクによる非侵襲的陽圧呼吸療法も行われています。この呼吸療法がが気管内挿管に比べて優れているのは、話せること、飲み下しができること、 そして気管内挿管に伴うすべての合併症を回避できることです。

🇱🇻黄色腫症

皮膚などに黄色い盛り上がりや丘疹ができる状態

黄色腫(おうしょくしゅ)症とは、血漿(けっしょう)中のリポ蛋白(たんぱく)質という脂肪と蛋白質の結合物を取り込んで、脂肪分をためたマクロファージ由来の泡沫(ほうまつ)細胞が集合して、皮膚や腱(けん)などの組織に存在する状態。

黄色腫症を発症する原因は、家族性の高脂血症(高リポ蛋白血症、脂質異常症)や正脂血症(高脂血症のないもの)、肝臓、腎(じん)臓、膵(すい)臓などの疾患や糖尿病などに合併する二次性高脂血症です。

黄色腫が皮膚に存在する形態には、結節型、発疹(はっしん)型、偏平型、手掌線条(しゅしょうせんじょう)型があります。ほかにも眼瞼(がんけん)黄色腫症、腱黄色腫、二次性黄色腫症があります。

結節型黄色腫症では、皮膚から1センチ以上盛り上がった黄色から赤褐色の結節が生じます。高コレステロール血症に多くみられ、膝(ひざ)、肘(ひじ)、手指、足指の関節に生じます。

発疹型黄色腫症では、皮膚から1センチ以下の盛り上がった丘疹が多発します。高トリグリセリド血症(中性脂肪血症)に合併しやすいものです。

手掌線条型黄色腫症では、手のひらのしわに沿って黄色腫が生じます。高コレステロール血症に多くみられます。

眼瞼黄色腫症では、上まぶたの目頭に偏平に盛り上がる黄色の結節が生じます。黄色腫症で最も頻度が高く、3分の2は正脂血症に伴うものです。

腱黄色腫では、皮膚表面に近い腱の肥厚として触れ、アキレス腱、手指伸筋腱に好発します。

二次性黄色腫症では、四肢関節の背面に発疹が生じ、長期の高脂血症に合併します。

黄色腫症に気付いたら、皮膚科、ないし皮膚泌尿器科、内科を受診します。

黄色腫症の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科、内科の医師による診断では、組織検査で泡沫細胞の存在を証明します。高脂血症の検査で、高脂血症に伴うものかどうかを区別します。

偏平型黄色腫症では、骨髄腫(しゅ)の合併も調べます。眼瞼型黄色腫症では、動脈硬化性疾患の合併も調べます。正脂血症に伴う黄色腫症では、ランゲルハンス細胞組織球症、びまん性偏平黄色腫、若年性黄色肉芽腫と区別します。

皮膚科、皮膚泌尿器科、内科の医師による治療では、食餌(しょくじ)療法と薬物療法を行ないます。

食餌療法では、高脂血症のタイプに従って、欧米風の高カロリー食品やコレステロール値の高い食品、脂分の多いファーストフードの過剰な摂取を制限します。そして、野菜や果物、魚といった低カロリー食や低脂肪食、低炭水化物食を中心とした食生活に切り替えます。発疹型と手掌線条型は、食事療法で改善しやすいものです。

薬物治療では、抗高脂血症剤のプロブコールを使用して、黄色腫の退縮を図ります。眼瞼黄色腫症には、切除手術や、液体窒素による冷凍療法、レーザー治療を行ないます。

また、生活習慣の改善も、黄色腫症の予防法として効果的です。適切な体重の維持につながるばかりか、適度な運動を行なうことで基礎代謝の向上効果が期待できます。

🇧🇾黄色靱帯骨化症

脊椎椎弓の前面を上下に連結し、脊椎を縦走する黄色靭帯が骨化し、神経障害が出る疾患

黄色靱帯骨化症(おうしょくじんたいこっかしょう)とは、脊椎(せきつい)の後方部分を構成する椎弓と呼ばれる円柱状の骨の前面を上下に連結し、脊椎を縦走する黄色靭帯が骨化する疾患。特定疾患(難病)である脊柱靭帯骨化症の一種です。

背骨、すなわち脊椎の骨と骨の間は、靭帯で補強されています。椎弓の前面に位置し、脊髄の通り道である脊柱管の後面に位置する黄色靭帯は、骨に適度な動きと安定性をもたらしています。

この黄色靭帯が分厚くなって骨のように硬くなると、脊髄の通り道である脊柱管が狭くなり、脊髄や脊髄から分枝する神経根が圧迫されて、知覚障害や運動障害が症状として現れます。

頸椎(けいつい)にも黄色靱帯骨化症は出現しますが、ほとんどは胸椎の下部に出現します。黄色靱帯が骨化する脊椎の部位によって、頸椎黄色靭帯骨化症、胸椎黄色靭帯骨化症、腰椎黄色靭帯骨化症に分類することもあります。

年齢的には20歳以降に出現しますが、一般的には40歳以上に出現します。男女の性差なく出現します。

黄色靱帯が骨化する原因は不明。遺伝的素因、カルシウムやビタミンDの代謝異常、老化現象、全身的な骨化傾向、骨化部位における局所ストレスなど複数の要因が関与して発症すると推測されているものの、原因の特定には至っていません。ほとんどが胸椎の下部に出現する原因は、胸椎と腰椎の連結する部分に相当し負担がかかるためと見なされています。

同じ脊柱靭帯骨化症の一種で、後縦(こうじゅう)靭帯骨化症という、脊椎の前方部分を構成する椎体と呼ばれる四角い骨の後面を上下に連結し、脊椎を縦走する後縦靭帯が骨化する疾患と合併しやすく、この場合は特に家族内発症が多いことから、遺伝子の関連が有力視されています。

胸椎に黄色靭帯骨化が起こった場合に最初に出てくる症状としては、下肢の脱力やこわばり、しびれがあります。腰背部痛や下肢痛が出現してくることもあります。

また、長い距離を歩くと下肢の痛みが起こるようになり、休息しながら歩くようになる間欠性跛行(はこう)を来すこともあります。重症になると、両下肢まひを来して歩行困難となり、日常生活に障害を来す状態になります。

症状の進行は年単位の長い経過をたどり、軽い痛みやしびれで長年経過する場合もある一方で、年単位の経過で足の動作がかなりの程度傷害される場合もあります。また、軽い外傷、例えば転倒などを切っ掛けに、急に足が動かしづらくなったり、今までの症状が強くなったりすることもあります。

黄色靭帯骨化症の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、まずX線(レントゲン)検査を行います。しかし、胸椎に多い黄色靭帯骨化症を見付けることが困難なことが多いため、CT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査などで精査します。CT検査は骨化の範囲や大きさを判断するのに有用で、MRI検査は脊髄の圧迫程度を判断するのに有用です。

整形外科の医師による治療では、原因が不明で経過が予測できないため、消炎鎮痛剤などを投与して経過を観察します。下肢や腰背部の痛みが強い場合には、脊髄の周囲の硬膜外腔(がいくう)に局所麻酔薬を注射して、神経の痛みを和らげる硬膜外ブロックを行うこともあります。

経過観察中に進行がみられる場合や、神経症状が強い場合には、胸椎椎弓の骨化部位を取り除いて、脊髄や神経根の圧迫を解除する手術を行うこともあります。

黄色靭帯骨化症を完全に予防することはできませんが、仕事や遊び、泥酔などで転倒、転落することで神経症状を出現させたり、悪化させたりしないことが必要です。

🇲🇩黄色爪

外的物質や薬剤、皮膚疾患、全身疾患などによって、爪の甲が黄色になる状態

黄色爪(おうしょくそう)とは、爪(つめ)の甲が黄色になる状態。

外的物質や薬剤などによる爪の甲の着色ないし変色により、爪は黄色になります。また、爪の甲の発育や成長を遅らせる皮膚疾患あるいは全身疾患によっても、爪は黄色になります。

外的物質としては、たばこや、爪を強化する爪硬化剤、爪に光沢や色をつけるネイルラッカーなどがあり、爪の甲の表面への染み込み具合により黄色調は異なります。

薬剤としては、抗生物質のテトラサイクリン、免疫抑制剤のDーペニシラミン、骨が壊れるのを防ぐビタミンD3などがあります。

皮膚疾患としては、乾癬(かんせん)、掌蹠膿疱(しょうせきのうほう)症、円形脱毛症、爪の水虫である爪白癬(はくせん)、爪甲剥離(はくり)症などで、爪は黄色になります。

全身疾患としては、黄色爪症候群が最も多い疾患で、それ以外にも糖尿病、心不全、黄疸(おうだん)を示す高ビリルビン血症、柑皮(かんぴ)症、カロチン血症、気管支の疾患、胆汁の分泌障害、アミロイドーシス、シェーグレン症候群、エイズなどで、爪が黄色になることがあります。

爪の水虫である爪白癬では、色の変化として白く濁ることが最も多いものの、一部の爪がかなり濃い黄色になることもあります。1本の足指や手指の爪から始まってゆくことが多く、徐々に他の指に進んでゆくこともあります。全部の指の爪に色の変化が現れた場合でも、黄色調は一定ではありません。

これに対して、黄色爪症候群などの全身疾患によって黄色爪になる場合は、ほとんどすべての爪に色調の変化が同時に現れてきます。

黄色爪症候群は、黄色い爪、体のむくみ、呼吸器の病変の3つを特徴とする全身疾患。3つの特徴がすべて現れることは40パーセントから60パーセント程度にとどまり、黄色爪症候群と見なすには、少なくとも2つの特徴が現れることが必要とされています。

最も特徴的なのは、爪が黄色くなり、爪の成長速度が遅くなって爪が伸びなくなること。爪の成長速度は、正常の5分の1ないし10分の1になります。正常な爪は週に0・5~1・2ミリ成長しますが、週に0・2ミリ以下しか成長しません。

爪の甲を根元で固定している皮膚である後爪郭(こうそうかく)の炎症が起こることで、この部分のリンパ管の閉塞(へいそく)が増悪し、爪の根元を覆っている後爪郭が後退します。これにより爪の甲が肥厚し、爪の成長速度が遅くなるのです。

また、手足のリンパ管が何らかの原因で詰まり、そのために体がむくむリンパ管浮腫(ふしゅ)が80パーセントの発症者にみられ、むくみは下肢や顔面に目立ちます。

呼吸器の病変は、ほぼ60パーセントの発症者にみられます。うち、片側や両側の肺に水がたまる胸水貯留が最も多くみられ、腹腔(ふくくう)内に水がたまる腹水貯留や、心臓の周囲を取り囲む袋である心嚢(しんのう)と心臓の間に水がたまる心嚢水貯留がみられることもあります。

それ以外にも、糖尿病や内臓のがんなど種々の疾患を合併することがあります。

黄色爪症候群の原因は、まだはっきりとわかっていません。しかし、先天性のリンパ還流異常がベースにあり、後天的に感染などを契機としてリンパ液の還流量が増加し、還流障害が助長されることによって、リンパ管浮腫や胸水が現れると考えられています。

また、膠原(こうげん)病や腫瘍(しゅよう)随伴症候群といった疾患がもとで、黄色爪症候群が起こるケースもあります。テトラサイクリン、D‐ペニシラミンなどの薬剤に誘発されて、黄色爪症候群が起こるケースもあります。

まれに生まれた時から、黄色爪症候群による体のむくみを生じることもありますが、多くは中年以降に発症します。発症の平均年齢は61歳、男女比はほぼ同等とされています。

黄色爪の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、爪の甲に黄色調の着色ないし変色を起こし得る外的物質や薬剤、あるいは皮膚疾患や全身疾患を検査して、原因がわかるようであれば、それを除去ないし治療します。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、確立されたものがないため、一般的に対症療法が行われます。ビオチンやビタミンEを含んだ飲み薬の内服、ビタミンE製剤の外用、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の局所注射、抗生物質のクラリスロマイシン(クラリス、クラリシッド)の内服、ビタミンA類似物質であるエトレチナート(チガソン)の内服などが行われます。

黄色爪症候群での黄色爪の多くは10〜20年以上持続するため、根気強く治療しなくてはいけません。特に、肺や気管支にほかの疾患がある人は、黄色爪症候群の完治が難しくなります。

🇺🇦黄色爪症候群

黄色い爪、体のむくみ、呼吸器の病変の3つを特徴とする全身疾患

黄色爪(おうしょくそう)症候群とは、黄色い爪(つめ)、体のむくみ、呼吸器の病変の3つを特徴とする全身疾患。

3つの特徴がすべて現れることは40パーセントから60パーセント程度にとどまり、黄色爪症候群と見なすには、少なくとも2つの特徴が現れることが必要とされています。

最も特徴的なのは、爪が黄色くなり、爪の成長速度が遅くなって爪が伸びなくなること。爪の成長速度は、正常の5分の1ないし10分の1になります。正常な爪は週に0・5~1・2ミリ成長しますが、週に0・2ミリ以下しか成長しません。

爪の甲を根元で固定している皮膚である後爪郭(こうそうかく)の炎症が起こることで、この部分のリンパ管の閉塞(へいそく)が増悪し、爪の根元を覆っている後爪郭が後退します。これにより爪の甲が肥厚し、爪の成長速度が遅くなるのです。

また、手足のリンパ管が何らかの原因で詰まり、そのために体がむくむリンパ管浮腫(ふしゅ)が80パーセントの発症者にみられ、むくみは下肢や顔面に目立ちます。

呼吸器の病変は、ほぼ60パーセントの発症者にみられます。うち、片側や両側の肺に水がたまる胸水貯留が最も多くみられ、腹腔(ふくくう)内に水がたまる腹水貯留や、心臓の周囲を取り囲む袋である心嚢(しんのう)と心臓の間に水がたまる心嚢水貯留がみられることもあります。

それ以外にも、糖尿病や内臓のがんなど種々の疾患を合併することがあります。

黄色爪症候群の原因は、まだはっきりとわかっていません。しかし、先天性のリンパ還流異常がベースにあり、後天的に感染などを契機としてリンパ液の還流量が増加し、還流障害が助長されることによって、リンパ管浮腫や胸水が現れると考えられています。

また、膠原(こうげん)病や腫瘍(しゅよう)随伴症候群といった疾患がもとで、黄色爪症候群が起こるケースもあります。

まれに生まれた時から、黄色爪症候群による体のむくみを生じることもありますが、多くは中年以降に発症します。発症の平均年齢は61歳、男女比はほぼ同等とされています。

黄色爪症候群の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、爪の甲に黄色調の着色ないし変色を起こし得る外的物質や薬、あるいは皮膚疾患や全身疾患を検査して、原因がわかるようであれば、それを除去ないし治療します。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、確立されたものがないため、一般的に対症療法が行われます。ビオチンやビタミンEを含んだ飲み薬の内服、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の局所注射、抗生剤(抗生物質)のクラリスロマイシンの内服などが行われます。

黄色爪症候群での黄色爪の多くは10〜20年以上持続するため、根気強く治療しなくてはいけません。特に、肺や気管支にほかの疾患がある人は、黄色爪症候群の完治が難しくなります。

🇧🇬黄色斑眼底

20歳以前に発症し、視力障害を起こしたり、失明したりする遺伝性の疾患

黄色斑(おうしょくはん)眼底とは、眼球内部の網膜が変性を起こして、視力障害を起こしたり、失明したりする遺伝性の疾患。スタルガルト病、スターガルト病、シュタルガルト病、斑状網膜症候群などとも呼ばれます。

ドイツの眼科医、カール・スタルガルトが1901年に初めて報告した疾患ですが、現時点でも治療法は見付かっていません。

若年性の黄斑変性では最も多いか最も一般的な疾患であり、通常、常染色体劣性の遺伝形式で受け継がれ、20歳以前に発症します。学童期から10歳代に矯正視力の低下を切っ掛けに発見されることが多く、眼鏡でもコンタクトレンズでも補正できない視野の中央の暗点は、最も早い症状です。症状が進むにつれて、黄斑が変性、委縮して、さらに視力が低下します。

その黄斑とは、光を感じる神経の膜である網膜の中央に位置し、物を見るために最も敏感な部分であるとともに、色を識別する細胞のほとんどが集まっている部分。網膜の中でひときわ黄色く観察されるため、昔から黄斑と呼ばれてきました。この黄斑に異常が発生すると、視力が低下し、また、黄斑の中心部にある中心窩(か)という部分に異常が発生すると、視力の低下が深刻になります。

黄色斑眼底では、黄斑部の網膜色素上皮または網膜深層に、円形または類円形のリポフスチンといわれる黄白色の不規則な斑点が蓄積される結果として、黄斑が変性し、さらに委縮性の病変となります。

両方の目の視野の中央に進行性の欠損が起きて暗点ができますが、周辺視野にはほとんど影響が出ません。夜間や暗い場所での視力が著しく衰え、色を感知する機能が衰えることもあります。

進行性の疾患ながら、その進行速度は個人によって異なります。視力が著しく低下して失明に至るケースがある一方で、30歳代になっても良好な視力を維持しているケースもあります。

黄色斑眼底の検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、両眼対称性であること、進行性であること、家族にかかった人がいること、薬物や感染症など外因がないことなどが、重要な手掛かりになります。フルオレセイン蛍光眼底検査、網膜電図などの電気生理学的検査も、診断を確実にするには必須です。黄斑部の網膜色素上皮に異常を起こすABCR遺伝子が突き止められているので、この遺伝子の検索も決め手になります。

黄色斑眼底には有効な治療法は見いだされていませんので、視力の大幅な低下を避けることはできません。発症者の網膜に漏出点があればレーザー光凝固の処置が行われますが、それは欠けた視野を戻すのではなく、さらなる悪化を避けるだけです。

症状に応じて、遮光眼鏡、弱視眼鏡、拡大読書器、望遠鏡などの補助具を使用することが有用で、周辺視野と残った中心視を活用できます。その他のリハビリテーションも重要です。

いつの日か、先端的医療の進歩が根本的な治療法を可能にすることが期待されていますが、弱視学級や盲学校での勉学、職業訓練など、将来を見通して現実的に対応することが有益でしょう。

🇦🇹凹足

足の甲が極端に高く、起立時や歩行時に土踏まずの部分が地面に接しない状態の足

凹足とは、足の甲が極端に高く、起立時や歩行時に土踏まずの部分が地面に接しない状態の足。ハイアーチと呼ばれたり、足の甲が高く盛り上がっていることから甲高と呼ばれることもあります。

足の裏にはアーチと呼ばれる緩やかな盛り上りがあり、踵(かかと)から親指の付け根を通る土踏まず、すなわち内側の縦アーチ(内側縦足弓)、踵から小指の付け根を通る外側の縦アーチ(外側縦足弓)、親指の付け根から小指の付け根を通る横アーチ(横足弓、メタタザールアーチ)の3つから構成されています。3つのアーチは、足が地面に着地する際にスプリングの役目を果たし、体に加わる衝撃を和らげる働きをしています。

凹足では、アーチの湾曲が強く、しなやかさに欠けるために、スプリング機能の働きが悪く、足の裏が本来持つ能力である衝撃吸収や、力の分散がうまく発揮できず、さまざまな症状が現れます。

まず、体の重みを踵や親指と小指の付け根の点で支えることになるため、足の指の付け根や踵に、皮膚表面の角質層が部分的に厚くなるたこや、魚の目ができます。

足の甲の部分に5本存在する中足骨(ちゅうそくこつ)の骨頭の太くなっている部分にかかる圧力が高くなるため、中足骨骨頭部痛を起こすこともあります。足の甲の部分にある第1中足骨の骨頭下部にある種子骨の周囲に炎症が起き、足の親指の裏側に痛みが生じることもあります。

親指が圧迫を受けて変形する外反母趾(がいはんぼし)と逆に、小指が圧迫を受けて変形する内反小趾(ないはんしょうし)を起こすこともあります。足の指、特に第2指と第3指が曲がってハンマートゥの状態になり、浮き指になる傾向もあります。

足の裏が本来持つ能力である衝撃吸収がうまく発揮できない場合は、足の裏のアーチを支えている足底筋膜に炎症が起こる足底筋膜炎や、脛(すね)に沿った筋肉に損傷が生じて痛むシンスプリント(脛骨〔けいこつ〕疲労性骨膜炎)を起こすこともあります。

さらに、足の裏の縦アーチが高いために、いつも足底筋が縮んだままで、足の裏全体で均一なバランスをとれないので、ふくらはぎや足の裏が極めて疲れやすく、たくさん歩いたり運動をすると、ふくらはぎや足の裏がつるような痛みを感じることもあります。そして、常にバランスをうまくとれない状態になることで、足裏だけではなく、膝(ひざ)や腰、背筋にも負担がかかり痛みが出てくることもあります。

凹足の原因の多くは遺伝によるもので、足を形作る筋力の不均衡が成長の過程で現れ、発症しやすいといわれています。末梢(まっしょう)神経に原因があり、かつ遺伝性の疾患であるシャルコー・マリー・トゥース病では、特徴的な甲高の足がみられます。

後天的にハイアーチを発症するケースもあり、遺伝性で進行性に筋力が低下してくる筋ジフトロフィーや神経のまひなどが原因で発症するものと、ハイヒールなどの踵が高い靴を長期間にわたって履き続けることにより、筋肉のバランスが崩れるなどの習慣が原因で発症するものとがあります。

ハイヒールを履き続けて凹足を発症するケースでは、つま先で立つような状態が長期間にわたって続くために、脛前面の筋肉である前脛骨筋と足の裏の筋肉である足底筋群のバランスが崩れ、徐々に足のゆがみが起こり、凹足へと進行していきます。

一度、凹足になると、スニーカーなどの踵の低い靴よりも踵の高い靴を履いていたほうが楽なので、好んで踵の高い靴を履くようになります。こうなるとさらに足のゆがみが進行し、重度の凹足になることもあります。

凹足の検査と診断と治療

整形外科、形成外科、ないし足の外科の医師による診断では、足の土踏まずが地面に付かずに不自然にアーチを描いている特徴的な骨の変形であるため、見た目ですぐに状態がわかります。

骨の変形の状態を詳しく知るために、X線(レントゲン)検査を行って足の状態を撮影し、骨の変形が影響している別の部分の状態も調べます。

整形外科、形成外科、ないし足の外科の医師による治療では、骨の変形の程度が軽い場合は、日常生活の中での心掛けや意識した足指の運動を行うことにより、症状の改善を図ります。

骨の変形の程度の重い場合は、足の裏のアーチを緩めるために足底筋膜や中足骨を切るといった手術を行うこともあります。

日常生活の中での心掛けには、必ずといっていいほどできているたこ、魚の目を取り除くことと、正しい歩き方をすることがあります。正しい歩き方は、踵が地面に接触したら足の裏全体をつけるような感じで体重移動させ、足の親指で地面をけるように意識するものです。

足指の運動には、弱くなった下腿(かたい)の腓骨(ひこつ)筋群を鍛え、緊張している足底筋群の緩和を目的として、両方の足のひらをバンドで巻き付け、つま先の開閉をゆっくり行うといった方法があります。また、つま先立ちを繰り返すなど、足の裏の縦アーチが伸びるようなストレッチ運動をするのも効果的です。

必要に応じ、靴での圧迫部分の保護と痛みの軽減を目的として、一人一人に合った足形を取り、中敷き(インソール)を作るのも効果的です。縦アーチを保護する大きめの中敷きで、足の指の付け根や踵だけに掛かる荷重を分散して、足底部でも受け止めるようにします。これで足底筋群への負担を少なくして、痛みや疲労感を軽減できますし、中敷きと組み合わせて、たこ、魚の目ができにくい足にすることもできます。

🇦🇹黄疸

血液中にビリルビンが一定量以上に増えて組織に蓄積し、皮膚や眼球結膜が黄色みを帯びる状態

黄疸(おうだん)とは、血液中にビリルビン(胆汁色素)が一定量以上に増えて組織に蓄積する結果、皮膚や眼球結膜が黄色みを帯びる状態。肝臓などの臓器に疾患が起こった際に現れる症状で、黄疸が現す特定の疾患名はありません。

ビリルビンは、寿命を120日とする赤血球が古くなって壊される際に、その中のヘモグロビン(血色素)から作られ、健康な人では血液1dl中に0・2~1・0mgみられます。これが2mg程度以上になると、体の皮膚や、白目の表面を覆っている眼球結膜が黄色みを帯びて、肉眼的に判断可能です。これを顕性黄疸といいます。1~2mgの間では、皮膚や眼球結膜の黄色みは不明瞭であり、不顕性黄疸といいます。

みかんなどの柑橘(かんきつ)類やニンジンを過剰に摂取した場合に、手のひらなどの皮膚が黄色になることがありますが、柑橘類などがカロチン(カロチン)を多く含むために血液中のカロチン濃度が高くなり、その黄色色素が皮膚に沈着して黄色になる柑皮症によるものです。黄疸とは異なり、眼球結膜が黄色みを帯びないことや、血液中のビリルビンの上昇がないことで区別できます。

脾臓(ひぞう)などで作られたビリルビンは血液に入って肝臓に運ばれ、肝臓で生成される消化液である胆汁の中へ排出され、その胆汁の成分として小腸の一部である十二指腸の中に排出されます。ビリルビンが胆汁中に排出されなかったりすると、血液の中にたまった過剰なビリルビンは皮膚などの組織にどんどんと蓄積され、黄疸が起こります。

血液中のビリルビン値が高い場合、肝臓の疾患が原因による場合と、胆汁の排出通路である胆管系の疾患が原因による場合が考えられます。例えば、肝臓に炎症や繊維化などの損傷があれば、ビリルビンの胆汁中への排出が阻害されて血液の中にたまり黄疸が起こりますし、胆汁の排出通路である肝臓と十二指腸をつなぐ胆管系が胆石や悪性腫瘍(しゅよう)などでふさがっていれば、ビリルビンが血液の中にたまり黄疸が起こります。

黄疸を起こす肝臓の疾患としては、急性ウイルス性肝炎、薬剤性肝障害、慢性肝炎の急性増悪期、肝硬変、肝細胞がん、アルコール性肝障害、自己免疫性肝炎、急性脂肪肝、寄生虫性肝障害、感染性肝障害などがあり、肝細胞の壊死(えし)が広範におよぶ結果、ビリルビンの処理が円滑に行われなくなったことで黄疸が起こります。

黄疸を起こす胆管系の疾患としては、毛細胆管から肝内胆管の間の異常で胆汁の流れが障害される肝内胆汁うっ滞症と、総胆管を含む肝外胆管が狭窄(きゅうさく)したり閉鎖して胆汁の流れが障害される胆道閉鎖症があります。肝内胆汁うっ滞症は、肝炎や薬物性肝障害、原発性胆汁性肝硬変などが原因となります。胆道閉鎖症は、結石や悪性腫瘍、炎症などが原因となります。

また、溶血性貧血などで、血液の中に含まれる赤血球が過剰に破壊され、肝臓の処理能力を超える大量のビリルビンが生成される場合にも、黄疸は出現します。これは新生児の黄疸で多くみられます。

さらに、先天的に肝臓でのビリルビンの処理機構が障害されている場合にも、黄疸は出現します。これは体質性黄疸と呼ばれ、10歳前後から過労などを契機に黄疸が出現しては自然に消える状態を繰り返すものですが、遺伝性で生命にかかわるものではなく、治療の必要はありません。

一般に病的な黄疸をみる場合には、全身の倦怠(けんたい)感や疲労感、皮膚のかゆみ、感冒様症状、発熱、尿が茶褐色になるなどの、ほかの症状を伴います。黄疸症状がひどくなると、汗まで黄色になり、皮膚と接触する肌着が黄色になることがあります。

黄疸の初期の段階では特にケアは必要がありませんが、原因となる疾患が進行してくると症状が急激に悪化してくることも予想されます。皮膚に関するケアは、かかないようにすることや常に清潔な状態を保つように心掛けることが必要になります。

黄疸の検査と診断と治療

内科、消化器科の医師による診断では、黄疸の原因を調べるために、血液を採取して血液像や肝機能などを調べるとともに、X線(レントゲン)検査、腹部超音波(エコー)検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査を行い、必要に応じて肝血管造影検査、逆行性胆管造影検査、肝生検を行います。

内科、消化器科の医師による治療では、血液中のビリルビン値が上昇する原因となる肝臓の疾患や胆管系の疾患の改善を図ります。

肝臓自体の疾患が原因となるウイルス性肝炎などの場合は、肝臓の状態の改善とともにビリルビン値が正常に戻れば、黄疸も軽快します。

手術が必要なのは胆管系の疾患のみで、胆道閉鎖が原因の場合は、内視鏡治療や外科手術を行い閉鎖した胆管を再び開通させます。手術不可能な場合は、胆石や腫瘍などが原因で胆汁の流れが悪くなっている部位にチューブなどを通して、胆汁の流れをよくするドレナージによる減黄や、狭窄している部位に金属製の筒を置いて、狭まりを防ぐステント留置などを行います。

🇫🇮黄疸出血性レプトスピラ病

病原性レプトスピラの感染によって起こる急性発熱性の感染症

黄疸(おうだん)出血性レプトスピラ病とは、病原性レプトスピラがネズミやイヌに感染し、その尿に汚染された水や土から経皮的、経口的に人間へと感染する急性発熱性の疾患。ワイル病とも呼ばれます。

レプトスピラは、螺旋(らせん)状の特殊な細菌の一群であるスピロヘータの一種です。黄疸出血性レプトスピラ病を含め、レプトスピラによる感染症を総称して、レプトスピラ病、ないしレプトスピラ症と呼びます。

レプトスピラの血清型の違いによってレプトスピラ病はいくつかの種類に分けられ、重症型の黄疸出血性レプトスピラ病を始め、軽症型の秋季レプトスピラ病やイヌ型レプトスピラ病などがあります。

病原性レプトスピラは、ネズミ、イヌ、ウシ、ウマ、ブタなどの保菌動物の腎臓(じんぞう)に保菌され、尿中に排出されます。人間には、保菌動物の尿で汚染された水や土壌から経皮的、経口的に感染します。人から人への感染はありません。

ドイツの医師ワイルにより、1886年に初めて報告され、日本の稲田龍吉、井戸泰両博士により、1915年に世界で初めて病原体が発見されました。

日本では古来より、秋疫(しゅうとう、あきやみ)、用水病、七日病(なのかびょう、なぬかやみ)と呼ばれる地方病として、農作業や土木従事者の間で発症し、1970年代前半までは年間50人以上の死亡が報告されていましたが、近年では感染者数、死亡者数とも激減しました。現在は沖縄県などで、散発性に発生するのみです。

2003年の感染症法の改正により、レプトスピラ病は4類感染症に位置付けられ、保健所への届出が必要になりました。それ以降4年間で93例の届出があり、うち87例の国内発症例の約半数が沖縄県での感染と推定されています。

国外では、現在でも全世界的にレプトスピラ病が流行しており、ブラジル、ニカラグアなどの中南米や、フィリピン、タイなどの東南アジアなど、熱帯、亜熱帯の国々での大流行が挙げられます。

病原性レプトスピラの種類によって、症状は軽症から重症までさまざまです。軽症型では、風邪のような症状だけで軽快します。

重症型の代表である黄疸出血性レプトスピラ病の主症状は、黄疸のほか、出血傾向、高熱、吐き気、嘔吐(おうと)、腎障害、蛋白(たんぱく)尿、筋肉痛、結膜充血などで、感染後3〜14日の潜伏期をへて悪寒を伴う発熱で発症します。

ふくらはぎの筋肉痛、眼球結膜の充血が特徴的ですが、全身倦怠感(けんたいかん)、頭痛、腰痛などのさまざまな症状が現れます。発症して4~5日後に、黄疸や出血傾向が増強する場合もあります。進行すると、腎不全、心不全が起こる場合もあります。

黄疸出血性レプトスピラ病の感染の機会があり、ふくらはぎの筋肉痛や、眼球結膜の充血を伴う発熱が現れた場合には、早急に内科、消化器科を受診することが必要になります。経過は極めて速く、治療開始時期が遅れるとしばしば重症化します。

黄疸出血性レプトスピラ病の検査と診断と治療

内科、消化器科の医師による診断では、症状とレプトスピラ病の流行地への旅行歴、保菌動物の尿に汚染された水への接触などが診断の助けとなります。

黄疸出血性レプトスピラ病(ワイル病)では、発病初期から蛋白尿がみられ、血液検査で白血球数が増え、体の中の炎症反応を調べる検査であるCRP(C反応性蛋白)が陽性になります。確定診断には、血液、髄液、尿からの病原体の分離、血清診断、遺伝子増幅検査を行います。

内科、消化器科の医師による治療では、黄疸出血性レプトスピラ病の場合は抗生剤(抗生物質)を早期に投与します。感染早期ではペニシリン系、テトラサイクリン系など多くの抗生剤の効果が認められ、ストレプトマイシンが最も有効です。合併症では、その治療を行います。

黄疸出血性レプトスピラ病などのレプトスピラ病を予防する上では、中南米や東南アジアなど流行地域へ旅行した場合には、不用意に水の中に入らないことが重要です。特に洪水の後は、感染の危険性が高まります。

また、1999年夏に沖縄八重山地域において、観光ガイドやカヤックインストラクターなど、河川でのレジャー産業に従事する人たちの集団感染が報告されていますので、水辺のレジャーにも注意が必要です。海外では、トライアスロンなどのウオータースポーツによる集団感染も報告されています。

水田作業、土木工事、野外調査などを目的に海外の流行地域へ行く場合、可能なら感染症の予防に用いるワクチンを接種します。また、薬物による予防として、テトラサイクリン系に属する抗生剤であるドキシサイクリンの効果が報告されています。

🇫🇮嘔吐下痢症

ウイルスなどを原因として引き起こされ、嘔吐、下痢を主な症状とする胃腸炎

 嘔吐(おうと)下痢症とは、ウイルス、細菌、原虫などの病原微生物を原因として引き起こされ、嘔吐、下痢、発熱を主な症状とする胃腸炎の総称。感染性胃腸炎とも呼ばれます。

一年を通じて発生しますが、冬から春にかけてはウイルスによるもの、夏は細菌によるものが起こりやすくなります。

原因となる主な病原微生物は、ノロウイルスやロタウイルス、サポウイルス、アデノウイルス、アストロウイルスなどのウイルスと、病原性大腸菌やサルモネラ属菌などの細菌があります。

主な症状は、腹痛、下痢、嘔吐、発熱です。ロタウイルス、アデノウイルスによる嘔吐下痢症は、乳幼児に多くみられます。

これらの嘔吐下痢症は、症状のある期間が比較的短く、特別な治療法がないことから、ウイルスなどの検査を行わず、流行状況や症状から嘔吐下痢症と診断されることもあります。

ノロウイルス、ロタウイルスによる嘔吐下痢症は、1~2日間の潜伏期間を経て、典型的には腹痛、下痢、吐き気、嘔吐、37℃台の発熱がみられます。ノロウイルスを原因とする場合、症状が続く期間は1~2日と短期間ですが、ロタウイルスを原因とする場合は5~6日持続することもあります。また、ロタウイルスによる嘔吐下痢症の場合、便が白色になることもあります。

ノロウイルスやロタウイルスなどが、人の手などを介して、口に入った時に感染する可能性があります。ノロウイルスによる嘔吐下痢症の場合は、人から人への感染と、汚染した食品を介して起こる食中毒に分けられ、次のような感染経路があります。

1)感染した人の便や吐物に触れた手指を介してノロウイルスが口に入った場合、2)便や吐物が乾燥して、細かなちりとして舞い上がり、そのちりと一緒にウイルスを体内に取り込んだ場合、3)感染した人が十分に手を洗わず調理した食品を食べた場合、4)ノロウイルスを内臓に取り込んだカキやシジミなどの二枚貝を、生または不十分な加熱処理で食べた場合。

ノロウイルスは2002年8月、国際ウイルス学会で命名されましたが、元はSRSV(小型球形ウイルス)と呼ばれていました。ちなみに、ノロとは発見された地名に由来しています。

非常に小さい球形の生物で、直径0・03マイクロメーター前後の蛋白(たんぱく)質でできた球の中に遺伝子(RNAリボ核酸)が包まれた構造をしています。近年、新しい検査法(PCR法)の普及によって、食品からのウイルスの検査が可能になり、100粒子以下の少量で感染するなど食中毒との関係が明らかになってきました。多くの遺伝子型が存在しますので、一度感染したからといって次に感染しないとは限らず、何度でも感染します。

嘔吐下痢症の治療と予防のポイント

下痢止めの薬を控え、水分補給と消化のよい食事での対処が基本です。ただし、激しい腹痛や血便がみられた場合や、体力の弱い乳幼児や高齢者は下痢などによる脱水症状を生じることがありますので、早めに内科、消化器科、胃腸科、小児科を受診してください。また、症状が長引く場合は、受診してください。

特に高齢者は、嘔吐物が気管に入る誤嚥(ごえん)により肺炎を起こすことがあるため、体調の変化に注意しましょう。嘔吐の症状が治まったら少しずつ水分を補給し、安静に努め、回復期には消化しやすい食事を取るよう心掛けましょう。

内科、消化器科、胃腸科、小児科の医師による治療は、ウイルスが原因の場合は有効な薬がないため対症療法になり、細菌が原因の場合は抗生剤の投与による治療が行われることがあります。

脱水症状がひどい時は点滴で水分を補い、症状に応じて整腸剤や鎮痛剤、解熱剤などを服用します。下痢止めはかえって症状を長引かせることがあるため、原則として使いません。

予防のポイントとして最も大切なのは、手を洗うことです。特に排便後、また調理や食事の前には、せっけんと流水で十分に手を洗いましょう。便や吐物を処理する時は、使い捨て手袋、マスク、エプロンを着用し、処理後はせっけんと流水で十分に手を洗いましょう。また、カキなどの二枚貝を調理する時は、中心部まで十分に加熱しましょう。

🇵🇦黄熱

黄熱ウイルスにより引き起こされる感染症

黄熱(おうねつ)とは、黄熱ウイルスにより引き起こされる感染症。黄熱病、黒吐(こくと)病とも呼ばれます。

黄熱ウイルスは日本脳炎ウイルスと同様のフラビウイルスという仲間に分類され、人間以外にも猿や蚊の中でも生息することが可能であり、人は蚊に刺されることで病原体に感染します。

主に媒介するネッタイシマカはアフリカおよび南アメリカの熱帯ないし亜熱帯地域に広く生息しており、同地域に一致して黄熱は流行しています。具体的には、アフリカは赤道南北それぞれ15度の緯度の範囲、南米においてはパナマから南緯15度までの地域で流行しています。

ネッタイシマカに刺されて黄熱ウイルスに感染しても、多くの場合は症状が出現しません。しかし、感染後3〜6日ほどの潜伏期間をへて、症状を示す人もいます。その初発症状は高熱と頭痛であり、手足の痛み、腰痛、嘔吐(おうと)、正常よりも脈が遅くなる徐脈などが起こります。重症化することがなければ、3日程度の経過で症状は改善します。

感染者のおよそ15%で重症化し、初発症状から改善したようにみえて、数時間から1日後に突然高熱が再燃します。高熱であっても、1分間に50回ほどの徐脈を示し、60~100回の通常より遅くなることが特徴です。特に肝臓と腎臓(じんぞう)に対する障害が強く、典型的な症状としては、黄疸(おうだん)、鼻や口、目、皮膚、消化管からの出血、蛋白(たんぱく)尿の3つを挙げることができます。

黄疸とは、皮膚や眼球が黄色を示すようになる状態であり、このことから黄熱と呼ばれます。黄疸、出血、蛋白尿の3症状が現れるようになると、黒色の嘔吐、無尿、心不全、肝性昏睡(こんすい)などに陥り、1週間から10日までに亡くなる場合があります。

世界保健機関(WHO) の推定によると、1990年代の初めから、全世界で毎年3万人の死亡者を伴う20万人の黄熱患者が発生し、そのうち90%はアフリカで発生しています。ブラジルでは、2017年7月1日から2018年2月15日までに、死亡者118人を含む409人の黄熱の確定患者が出ました。これは、2016年から2017年の同じ時期に報告された死亡者166人を含む532人の黄熱の確定患者よりも少なくなっています。

日本での黄熱の扱いとしては、感染症法にて4類感染症に指定されており、患者を診断した医師から保健所への届け出が義務付けられている全数把握対象疾患となっています。これによると、日本での発症例は認めていませんが、海外の流行地域に赴く際には注意が必要です。「黄熱に感染する危険のある国」の情報は、厚生労働省検疫所が適時情報を流しています。

黄熱に対してはワクチンによる予防接種が可能であり、入国に際して予防接種証明書の提示が義務付けられている場合もあります。黄熱ワクチンはどの医療施設でも接種可能というものではないため、黄熱の流行地域へ渡航する際は時間的な猶予を持って対応することが必要で、渡航の10日前までに予防接種を受けることが推奨されています。接種者の95%以上で、10日目以後10年以上にわたり中和抗体が保持されます。

なお、細菌学者の野口英世が黄熱の研究中に感染し、西アフリカのガーナで1928年に死亡したことは有名です。

黄熱の検査と診断と治療

内科、感染症科の医師による予備的診断は、症状、渡航地域と渡航日、渡航中の活動に基づいて行います。検査室診断では、血液検査を行い、血液から黄熱ウイルスやその特徴的な遺伝子を検出すること、あるいは特異的な抗体を検出することで確定します。

また、合併症の有無を評価します。肝臓と腎臓に障害を起こすことが多く、これらの評価が重要です。肝臓に関連して黄疸の原因となるビリルビン(胆汁色素)が高くなり、消化管出血の原因となる血液の止血にかかわる凝固機能にも異常を伴います。黄熱では蛋白尿を認めることもあるため、尿検査にてこれを確認することもあります。

さらに、黄熱の流行地域でのほかの感染症も含めて、広く鑑別を行います。鑑別を要する疾患は、ウイルス性出血熱であるエボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、ラッサ熱、マールブルグ病、南米出血熱などのほか、ワイル病、回帰熱、急性ウイルス性肝炎、マラリア、レプトスピラ症です。

内科、感染症科の医師による治療では、黄熱に特化した抗ウイルス薬がないため、症状に応じた対症療法を主体にします。肝不全、腎不全に対する治療が中心となり、腎不全に対しては人工透析を行うことがあります。

出血傾向を引き起こす血液の凝固異常に対しては、新鮮凍結血漿(けっしょう)や赤血球などの輸血を行います。高熱を伴うことから、熱に対しての対応も重要になります。

🇵🇦黄斑円孔

眼底の中心にある黄斑部の網膜に穴が開く疾患

黄斑円孔(おうはんえんこう)とは、眼底の中心にある黄斑部の網膜に穴が開く疾患。黄斑部の網膜は物を見るための中心に相当するため、非常に物が見えにくくなったり、物がゆがんで見えます。

十数年前までは治療不可能とされていましたが、最近では手術でほとんど、黄斑円孔による網膜の穴を閉鎖することができるようになっています。高齢者に多い疾患ですが、ボールや花火が目に当たるなどの強い衝撃で若い人にも起こることがあります。

高齢者の黄斑円孔の場合、目の老化、特に網膜に接しているゼリー状の硝子体(しょうしたい)の加齢による変化が、原因です。加齢とともに硝子体がしぼんでいくために、硝子体の最も外側にあって、黄斑部網膜と接する部分である硝子体皮質に、接線方向の張力が加わります。すると、黄斑部網膜と硝子体皮質は中心部で強く接着しているため、網膜の中心に前方への牽引力(けんいんりょく)が加わり、黄斑部網膜に亀裂(きれつ)が入って黄斑円孔ができると考えられています。

穴自体は直径1ミリメートルに満たない小さなものですが、最も視力が鋭敏な部分にできるため、大きな影響が現れます。完全な穴が形成されてしまうと、視力は近視などを矯正した状態で0・1~0・2程 度まで低下します。

硝子体の収縮が関係して起きるので、後部硝子体剥離(はくり)が起こる60歳代をピークに、その前後の年齢層の人に多発します。特に、硝子体の液化が進みやすい近視の人や女性に多い傾向があります。

黄斑円孔は多くの場合、変視症で症状が始まり、物がゆがんで見えます。この変視症は特徴的で、しばしば「すぼんで見える」「吸い込まれるように見える」と表現されます。 視力は初期には比較的良好ですが、進行するにつれて下がっていきます。

黄斑円孔による変視症に気付いたら、早急に眼科の医師の診断を受ける必要があります。早く手術をするほど円孔が閉鎖する率は高く、視力の回復は良好です。時間がたちすぎると、円孔は閉鎖しても視力はあまり回復しません。

強い衝撃が原因の黄斑円孔の場合、半数は自然にふさがります。3カ月から半年ほど様子をみて、ふさがらなければ手術を受けるべきです。最初のけがでどのくらいダメージを受けたかが、回復にも大きく影響します。目の奥が出血するようなけがでは、回復にしくい傾向があります。

黄斑円孔の検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、眼底検査で一目瞭然(りょうぜん)となります。OCT(光学的干渉断層計)を使用すれば、黄斑円孔の断面をきれいに映し出すことができます。進行の過程によって、ステージ1~4に分けられています。

高齢者の黄斑円孔の場合、ごくまれに自然に治ることがありますが、一般的には硝子体手術が唯一の治療法です。手術で最も重要なポイントは、後部硝子体皮質を網膜の表面から剥離(はくり)することにあります。

手術ではまず、後部の硝子体を切除します。硝子体を切除しても、視覚に直接的な影響はありません。次に、網膜の表面にある薄い膜をはがし、眼球内部にガスを注入します。最近は、内境界膜という網膜の最表面にあり、後部硝子体皮質と接する膜を併せて取り除く方法が広まっています。

手術後は黄斑円孔の周囲の網膜がガスで抑えつけられている間、円孔が小さくなっています。すると、円孔中心に残っているわずかな透き間に、グリア細胞という周囲の細胞をつなぎ合わせる働きをする細胞が現れ、円孔をふさいでくれます。

ただし、ガスは気体で常に眼球の上に移動してしまうため、手術後3日間から1週間ほど入院し、ガスが円孔部分からずれないように、うつ伏せの姿勢を保つ必要があります。これを守らないと、再手術が必要になる確率が高くなります。

うつ伏せの姿勢を保つのはかなりつらいことですが、今では手術によって90パーセント以上は円孔が閉鎖するようになっていますから、頑張る価値はあります。円孔が閉鎖すると、直後から変視症は大幅に改善しますが、視力の回復はさまざまです。

一般的には、手術前に0・1だった視力が10日ほどで0・3程度になり、その後は黄斑部の組織が修復されるとともに、1年ほどかけてゆっくりと回復していきます。1回の手術で8~9割の人は、不自由なく暮らせるレベルの視力に戻ると見なされています。

手術は穴をふさぐことが目的なため、閉鎖しなければ再手術の対象にはならず、自然の治癒力に期待するしかありません。

🇧🇸黄斑ジストロフィー

眼球内部の網膜にある黄斑に進行性の変性がみられるタイプの疾患群

黄斑(おうはん)ジストロフィーとは、眼球内部の網膜にある黄斑に進行性の変性がみられる目の疾患の総称。先天性黄斑変性症とも呼ばれます。

黄斑ジストロフィーは遺伝性の目の疾患であり、両目の黄斑に変性がみられます。ジストロフィーとは、遺伝子の異常により組織や臓器が徐々に変性することを指します。目のみならず、ほかの臓器などでも使われます。

黄斑ジストロフィーと一口にいっても疾患の種類は多数あり、先天網膜分離症(若年網膜分離症)、錐体(すいたい)ジストロフィー、卵黄状黄斑変性(卵黄状黄斑ジストロフィー)、スタルガルト病(黄色斑眼底)、網膜色素変性症、オカルト黄斑ジストロフィー、家族性ドルーゼン(網膜ジストロフィー)、家族性滲出(しんしゅつ)性硝子体(しょうしたい)網膜症などがあり、症状もそれぞれ異なります。黄斑ジストロフィーのいくつかでは、どの遺伝子に異常があるのかがわかっています。

眼球内部にある黄斑は、光を感じる神経の膜である網膜の中央に位置し、物を見るために最も敏感な部分であるとともに、色を識別する細胞のほとんどが集まっている部分。網膜の中でひときわ黄色く観察されるため、昔から黄斑と呼ばれてきました。

この黄斑に変性がみられると、視力に低下を来します。また、黄斑の中心部には中心窩(か)という部分があり、ここに変性がみられると、視力の低下がさらに深刻になります。

黄斑ジストロフィーには、網膜よりさらに外側に位置している脈絡膜から、異常な血管である新生血管(脈絡膜新生血管)が生えてくることが原因で起こる滲出型と、新生血管は関与せずに黄斑そのものが変性してくる非滲出型(委縮型)の二つのタイプがあります。

新生血管とは、網膜に栄養を送っている脈絡膜から、ブルッフ膜を通り、網膜色素上皮細胞の下や上に伸びる新しい血管です。正常な血管ではないため、血液の成分が漏れやすく、破れて出血を起こしてしまいます。

滲出型の初期では、物がゆがんで見える変視症や、左右の目で物の大きさが違って見えるなどの症状を自覚するケースが多くみられます。新生血管が破れて黄斑に出血を起こすと、見たい物がはっきり見えない急激な視力低下や、見ようとする物の中心部分が丸く黒い影になって見えなくなる中心暗点という症状が出現します。病巣が黄斑に限られていれば、見えない部分は中心部だけですが、大きな出血が起これば、さらに見えにくい範囲が広がります。病状が進行すると、視力が失われる可能性があります。

非滲出型(委縮型)の場合は、黄斑の変性が強く現れた状態で、網膜色素上皮細胞が委縮したり、脈絡膜の血管に委縮性の変化が生じて、徐々に視力が低下します。疾患の種類によって違いますが、視力低下のほか、見ようとする物の中心部分がぼやけたり、中心部分が丸く黒い影になって見えなくなる中心暗点、物がゆがんで見える変視症、明るい光をまぶしく感じる羞明(しゅうめい)、色覚異常などの症状が現れます。症状が進んでくると、視力が0・1~0・2まで下がるなど顕著な視力低下が起こります。最終的には、中心部が全く見えなくなってしまいます。

黄斑ジストロフィーは疾患の種類によって、ある程度年齢が高くなってから症状が現れることも、幼少時にすでに発症していて気付いた時にはかなり進行していることもあります。

黄斑ジストロフィーの検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、両眼対称性であること、進行性であること、家族にかかった人がいること、薬物や感染症など外因がないことなどが重要な手掛かりになります。フルオレセイン蛍光眼底検査、網膜電図などの電気生理学的検査も、診断を確実にするには必須です。異常を起こす遺伝子が突き止められている黄斑ジストロフィーのいくつかでは、遺伝子の検索も決め手になります。

残念ながら、黄斑ジストロフィーの多くでは有効な治療法は見いだされていませんので、視力の大幅な低下を避けることはできません。

新生血管が生えてくることが原因で起こる滲出型の場合、治療の方法は新生血管の位置によって変わってきます。新生血管が中心窩から離れているケースでは、新生血管をレーザーで焼く光凝固が治療の方法となります。新生血管が中心窩に近いケースでは、治療が困難な例が多くなります。新生血管のレーザー光凝固を行うと中心窩も損傷を受けて、さらに視力が低下する危険性が高いからです。そこで、新生血管の栄養血管の光凝固、抗血管新生薬などの治療法が行われます。

黄斑ジストロフィーの多くでは、症状に応じて遮光眼鏡、弱視眼鏡、拡大読書器、望遠鏡などの補助具を使用することが有用で、周辺視野と残った中心視を活用できます。その他のリハビリテーションも重要です。

いつの日か、先端的医療の進歩が根本的な治療法を可能にすることも期待されていますが、弱視学級や盲学校での勉学、職業訓練など、将来を見通して現実的に対応することが有益でしょう。

🇧🇸黄斑前膜

網膜の黄斑部の手前に膜が癒着し、物がゆがんで見えたり、視力が低下する疾患

黄斑前膜(おうはんぜんまく)とは、網膜の中心部の黄斑部の手前に線維性の膜が癒着した結果、網膜にしわが生じ、物がゆがんで見えたり、視力が低下する疾患。黄斑上膜とも呼ばれます。

加齢に伴う老化現象のほかに、他の眼底の疾患に続いて、あるいは網膜剥離(はくり)や網膜裂孔の治療後に生じることもあります。

老化現象による黄斑前膜の場合は、50歳、60歳代に多く、女性に多い傾向があります。初期には、血管が膜に引っ張られて蛇行するものの、膜が透明のために視力などは正常で自覚症状はありません。進行して、膜の厚みが増したり、網膜の収縮の度合いが増して、網膜にしわが生じたり、網膜がずれたり、網膜の中心部の中や下に水がたまったりすると、物がゆがんで見えたり、大きく見えたり、霧がかかったように見えたり、視力が低下したります。

線維性の膜ができる原因は、網膜に接している硝子体(しょうしたい)の加齢による変化です。眼球の内部は透明なゼリー状の物質である硝子体で満たされていますが、硝子体は年齢とともに少しずつ液体に変化して、体積が小さくなってきます。そのために、60歳くらいになると硝子体が眼底から離れてきます。これは誰にでも起きる状態で、後部硝子体剥離といい、物がチラチラ見えるようになります。

硝子体と網膜の癒着が強いと、うまく離れないで硝子体の一部だけが網膜に張り付いてしまいます。残った硝子体の一部から、新しい細胞が増殖してきたり、眼球内のごみが付着して、少しずつ膜を作ってきます。これが黄斑部の手前を覆う前膜です。

黄斑前膜では、網膜の黄斑部に穴が開く疾患である黄斑円孔(えんこう)のように視野の中心が全く見えなくなることはありませんが、頻度的には黄斑円孔よりも多くみられます。

黄斑前膜が自然に治る可能性は5パーセント程度とされていますので、物がゆがんで見えたり、視力が低下するなどの自覚症状がある場合は、眼科を受診し手術を受けたほうが、症状が改善する可能性が高くなります。

黄斑前膜との検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、眼底検査で簡単に黄斑前膜と確定できます。OCT(光学的干渉断層計)を使用すれば、黄斑前膜の下にある網膜の状態をきれいに映し出すことができ、有用です。

眼科の医師による治療では、硝子体手術が唯一の方法となります。黄斑前膜を薬で改善させることはできませんし、進行を止めることもできませんので、疾患が進行したら、手術が必要になります。最近では、手術法の進歩によりかなり治せるようになってきました。

手術をする場合、視力がかなり低下してしまってからだと、膜を除去しても視力がよくならないことがあります。ただし、急に悪化するような疾患でもないので、急を要することもありません。ゆがみが気になったり、視力低下が気になるようなら手術を行います。視力の目安としては、0・6くらいと考えられます。

適切な時期を選んで手術を行い、硝子体を取り除き、黄斑部の手前に癒着している薄い膜を除去すれば、視力は正常になります。薄い膜を除去した後の網膜の状態によっては、眼球内にガスを注入して終了することがあり、その際は手術後、うつ伏せの姿勢を保つ必要があります。

手術の合併症として一番多いのが、白内障です。多くの場合、白内障も同時に手術します。手術法が進歩した最近では、内境界膜という網膜の最表面にあり、後部硝子体皮質と接する膜を併せて取り除く方法が広まっており、黄斑前膜の再発は少なくなっています。

手術後、視力が落ち着いてくるのは、半年から1年です。最終的な視力は、手術前の状態によりさまざまですが、物がゆがんで見える変視症は手術後も残ることが多く、改善するのは50パーセントくらいにとどまります。

🇻🇺黄斑変性症

高齢者の失明原因となる疾患の一つ

黄斑(おうはん)変性症とは、眼球内部の網膜にある黄斑が変性を起こして、視力が低下する疾患。加齢に伴って起こるもので、高齢者の失明原因の一つです。加齢黄斑変性とも呼ばれます。

黄斑とは、光を感じる神経の膜である網膜の中央に位置し、物を見るために最も敏感な部分であるとともに、色を識別する細胞のほとんどが集まっている部分。網膜の中でひときわ黄色く観察されるため、昔から黄斑と呼ばれてきました。

この黄斑に異常が発生すると、視力に低下を来します。また、黄斑の中心部には中心窩(か)という部分があり、ここに異常が発生すると、視力の低下がさらに深刻になります。

黄斑変性症には、網膜よりさらに外側に位置している脈絡膜から、異常な血管である新生血管(脈絡膜新生血管)が生えてくることが原因で起こる滲出(しんしゅつ)型と、新生血管は関与せずに黄斑そのものが変性してくる非滲出型(委縮型)の二つのタイプがあります。

新生血管とは、網膜に栄養を送っている脈絡膜から、ブルッフ膜を通り、網膜色素上皮細胞の下や上に伸びる新しい血管です。正常な血管ではないため、血液の成分が漏れやすく、破れて出血を起こしてしまいます。

滲出型黄斑変性症の初期では、物がゆがんで見える変視症や、左右の目で物の大きさが違って見えるなどの症状を自覚するケースが多くみられます。新生血管が破れて黄斑に出血を起こすと、見たい物がはっきり見えない急激な視力低下や、見ようとする物の中心部が丸く黒い影になって見えなくなる中心暗点という症状が出現します。

病巣が黄斑に限られていれば、見えない部分は中心部だけですが、大きな出血が起これば、さらに見えにくい範囲が広がります。病状が進行すると、視力が失われる可能性があります。また、片目に病巣が認められたら、4割程度の人では経過とともに両目に発症するといわれています。眼科の医師に本疾患と診断された人は、良いほうの目も定期的に診てもらうべきです。

非滲出(委縮)型黄斑変性症の場合は、黄斑の加齢変化が強く現れた状態で、網膜色素上皮細胞が委縮したり、網膜色素上皮細胞とブルッフ膜の間に黄白色の物質がたまったりします。病状の進行は緩やかで、滲出型と比較すると視力低下の程度も軽度であることがほとんどで、視力はあまり悪くなりません。

しかし、新生血管が発生することもあるので、定期的に眼底検査、蛍光眼底検査を行い、経過をみる必要があります。特に、片目がすでに滲出型黄斑変性症になっている場合は、注意深く経過をみなければいけません。

加齢黄斑変性は高齢者に多く発症することから、黄斑、とりわけ網膜色素上皮細胞の加齢による老化現象が主な原因と考えられています。また、はっきりしたことはわかっていませんが、高血圧や心臓病、喫煙、ビタミンやカロチン、亜鉛などの栄養不足のほか、遺伝の関与も報告されています。しかし、黄斑変性症の原因と病態は完全には解明されておらず、現在もなお、さまざまな研究がなされています。

もともと黄斑変性症は欧米人に多く、日本人には少ない疾患でした。その主な理由としては、欧米人の目が日本人の目に比べて、目の老化を促進する原因となる光刺激に弱いことが挙げられます。アメリカでは現在、本疾患が中途失明を来す疾患のトップです。

最近では、日本でも発症数が増加の一途をたどっており、日本人の平均寿命の延びが原因として挙げられています。食生活を中心に生活様式が欧米化したことや、TVやパソコンの普及により目に光刺激を受ける機会が非常に多くなったことも、原因の一つと考えられています。日本人では、女性の約3倍と男性に発症しやすいことを示す研究報告もあります。

黄斑変性症の検査と診断と治療

健康診断で、黄斑変性症が早期に発見されることもあります。50歳以後の中高年の人は、視力を保つために早めに検査を受けましょう。

今まではあまり有効な治療法はありませんでしたが、近年、新しい方法が試みられるようになり、早期発見、早期治療によって視力低下を最小限に抑えられる可能性が期待できるようになってきました。

疾患の診断、程度の判定、最適な治療を考える上で、眼科の医師による多くの検査が必要です。特に重要なのは、眼底検査と蛍光眼底検査。

眼底検査は、眼底にある網膜の状態を詳しく調べるために行われます。検査の前に目薬をさして、瞳孔(どうこう)を開きます。まぶしくて近くが見えない状態が約3時間続きますが、自然に元に戻ります。

蛍光眼底検査は、網膜や脈絡膜の血液の流れを把握する目的で行われ、腕の静脈に蛍光色素を注射してから眼底を調べます。蛍光色素によって血管だけが浮き彫りになりますから、血管の弱い部分や詰まった個所、新生血管の発生した位置を突き止めたり、病状の程度を判定したりすることが可能です。

その他、主として脈絡膜の血液循環を調べるための特殊な造影検査もあります。

黄斑変性症の治療では、レーザーによるレーザー光凝固術や、場合によっては手術が行われます。近年、経瞳孔温熱療法や光線力学療法などといった新しい治療法が一部の施設で試みられ始めており、この疾患の予後の向上が期待されるようになってきています。

レーザー光凝固術は、新生血管をレーザー光で焼き固める治療法です。正常な周囲の組織にもダメージを与えてしまいますので、新生血管が中心窩にある場合はほとんど実施されません。

手術には、新生血管抜去術と黄斑移動術があります。新生血管抜去術は、新生血管を外科的に取り去る治療法です。新生血管が中心窩にある場合も実施されますが、中心窩を傷付けてしまう可能性もあります。

黄斑移動術は、中心窩の網膜を新生血管から離れた場所に移動させることにより、中心窩の働きを改善する治療法です。新生血管が中心窩にある場合に実施されますが、物が二つに見えるなどの副作用が起こる場合もあります。

新しい治療法の経瞳孔温熱療法は、弱いレーザーを新生血管に照射し、軽度の温度上昇によって、新生血管の活動性を低下させる治療法です。

光線力学的療法のほうは、光に反応する薬剤を体内に注射し、それが新生血管に到達した時にレーザーを照射する治療法です。弱いレーザーによって薬剤が活性化され、新生血管を閉塞(へいそく)します。使用するレーザーは通常のレーザーとは異なり、新生血管周囲の組織にはほとんど影響を及ぼしません。継続的に行う治療法であり、3カ月ごとに検査を行い、その結果により必要に応じて再度実施されます。

薬物療法として、ステロイド剤や血管新生阻害剤などの投与が試みられています。効果を得るには繰り返しの投与が必要で、経瞳孔温熱療法との併用も考えられています。

治療後の視力は、病状の進行度によってさまざまです。一般に早期に治療を開始すると、良好な視力が保たれる傾向にあります。黄斑の中でも特に重要な中心窩に病態が現れている場合は、視力の低下は著明です。

治療後も、定期的に眼科の医師による目のチェックを受けるとともに、バランスの取れた食事で目の健康を保ち、全身の健康を維持しましょう。

亜鉛の血中濃度の低下と黄斑変性症の関連が、指摘されています。加齢に伴って、亜鉛が含まれている食品の摂取量が少なくなるとともに、腸の亜鉛を吸収する力が低下してしまうことから、亜鉛不足になりやすいといわれています。亜鉛を多く含んでいる食品である穀類、貝類、根菜類を、なるべく摂取するようにしましょう。

同じく、カロチン(カロチノイド)の摂取量が少ないと、黄斑変性症を発症しやすいという研究報告もあります。カロチンを多く含んでいるカボチャ、ニンジン、トマト、さやいんげん、ピーマンなどの緑黄色野菜を、なるべく摂取するようにしましょう。

🇻🇺オウム病(クラミジア肺炎)

微生物のクラミジアを吸入して、肺に起こる感染症

オウム病とは、ウイルスに近いクラミジア・シッタシという微生物が原因となって生じる肺炎。クラミジア肺炎とも呼ばれます。

オウム病は本来、動物の疾患であり、人はクラミジア・シッタシに感染したオウムやインコなどの鳥類から感染する人畜共通の感染症の一つです。病原体がオウムから初めて分離されたことからオウム病と名付けられましたが、インコ、ハト、ニワトリ、ガチョウ、シチメンチョウ、アヒルなどオウム以外のペット鳥、家禽(かきん)類、野鳥でもクラミジアに感染した鳥が確認されています。

クラミジアに感染している鳥は、糞便(ふんべん)中にクラミジアを排出します。乾燥した糞便が、ほこりや羽毛などとともに舞い上がり、人はそれを吸入することで感染します。感染している鳥に口移しで餌(えさ)を与えたり、鳥の羽根や排出物や鼻汁に直接触れたりなど、鳥との濃厚な接触で感染することもあります。

オウム病は小児よりは成人に、男性よりは女性に多くみられ、発症は5〜6月に多い傾向がみられます。地域的に流行することもあれば、散発的に発生することもあります。肺炎に占めるオウム病の頻度は、1〜2パーセント程度。

症状は軽度のインフルエンザ様から、多臓器障害を伴う劇症型まで極めて多彩です。 一般的には、感染後1〜2週間の潜伏期間を経て急激に発症します。頭痛や筋肉痛、関節痛を伴って、発熱、せき、胸痛、全身倦怠(けんたい)感、食欲不振、血たんなどの症状が現れます。重症になると、肺臓を主体に、全身の臓器に病変が認められるようになります。特に、肝臓、脾臓(ひぞう)、心臓が炎症を起こし、さらに、脳神経に異常を来して意識障害が現れ、死亡するケースもあります。

オウム病の検査と診断と治療

鳥との接触歴があったり、鳥の飼育をしている人に発熱、せきが現れた場合はオウム病が疑われるので、内科、呼吸器内科、呼吸器科の専門医を受診します。ペット鳥、家禽類が死んでいる場合は、特に疑いが濃くなるので、そのことを受診先の医師に伝えます。

医師による診断では、原因菌に対する抗体の検出のほか、原因菌の分離、原因菌の遺伝子の検出が行われることもあります。

治療には、テトラサイクリン系の抗生物質、またはマクロライド系の抗生物質が用いられます。ニューキノロン系の抗生物質も有効ですが、セファム系の抗生物質は無効です。早期診断と早期治療で完治できます。

オウム病予防のためのワクチンは、開発されていないので、感染している鳥への接触には注意が必要です。鳥ではクラミジア菌を保有していても、外見上ほとんど健常にみえます。弱った時や、ヒナを育てる時期などでストレスが加わった時、他の感染症を合併した時などに、糞便中に菌を排出し、人への感染源になります。

鳥への過度の接触を避けること、鳥にストレスを与えないように飼育すること、鳥に触れたらよく手を洗うこと、かごや飼育舎の掃除をこまめに行うこと、素手で糞便に触れないことなどが、予防のために大切となります。

🇵🇦大田原症候群

新生児期から乳児早期に発症する難治性のてんかん

大田原症候群とは、新生児期から生後3カ月以前の乳児早期に発症する難治性のてんかん。早期乳児てんかん性脳症とも、EIEE(early infantile epileptic encephalopathy with suppression burst)とも呼ばれます。

生後4カ月から1歳ころに発症するウエスト症候群(点頭てんかん)、2歳~8歳に発症するレノックスガストー症候群とともに、年齢依存性てんかん性脳症に分類されます。それぞれのてんかんの好発年齢が乳幼児期にみられること、大田原症候群からウエスト症候群へ、さらにウエスト症候群からレノックスガストー症候群へと年齢とともに移行することが多いため、脳の発達過程とこれらのてんかんの発症が密接に関連しているものと考えられています。

てんかんは、脳の神経細胞の伝達システムに一時的な機能異常が発生して、反復性の発作が起こる疾患です。発作時には意識障害がみられるのが普通ですが、動作の異常、けいれんなどだけの場合もあります。こうした異常な症状が長期間に渡って何度も繰り返し現れるのが、てんかんの特徴です。

大田原症候群の発症者は、10万人に1人以下とみられています。発症すると、強直発作を頻発します。強直発作は全身を強直させて、頭部を前屈し、両上肢を挙上させ、眼球が上転する数秒~30秒程度の発作で、発作の発見時には多くの場合、一過性に呼吸を止めて、唇や爪(つめ)が青紫色になるチアノーゼが見られます。覚醒(かくせい)時にも睡眠にも、発作は出現します。

脳波を調べると、覚醒時、睡眠時を問わず持続的に、サプレッションバーストという特徴的な脳波が認められます。サプレッションバーストは、振幅の小さい波の時(サプレッション)と、振幅の大きい波の時(バースト)とが交互に現れるものです。発作を起こしている時の脳波は、ほとんどが全般性脱同期を示します。

強直発作に伴って脳の働きが弱まり、知的障害や運動障害などを来します。

大田原症候群は、脳の低酸素や感染症、事故などよる脳損傷によっても生じますが、一部は脳で働くARX、およびSTXBP1という遺伝子の配列の異常によって生じます。ARXという遺伝子は、ガンマアミノ酪酸(GABA、ギャバ)と呼ばれる脳の興奮を抑える物質を含む神経細胞の発生に関係しています。

小児科、あるいは神経内科の医師による治療では、抗てんかん薬の内服のほか、ビタミンB6の内服、副腎(ふくじん)皮質刺激ホルモン(ACTH)療法、甲状腺(こうじょうせん)刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)の注射などが行われます。

しかしながら、大田原症候群の発作は難治で、多くは抗てんかん剤および副腎皮質刺激ホルモンに反応しません。薬剤が部分的に有効で発作が消退しても、重症の心身障害を残し予後は極めて不良で、早期死亡の例も少なくありません。

脳の前頭葉に焦点性皮質形成異常のある大田原症候群の場合には、外科治療が精神運動発達と発作コントロールの両方に有益な効果があります。

🇵🇦太田母斑

褐青色の色素斑が、まぶたから額、頬にかけてできる皮膚の疾患

太田母斑(おおたぼはん)とは、片側のまぶたから額、頬(ほお)にかけてできる、境界の不明瞭な褐青色の色素斑。眼上顎部(がんじょうがくぶ)褐青色母斑とも呼ばれます。

母斑は、皮膚の一部分に色調や形状の異常が現れる状態で、あざとも呼ばれ、皮膚から盛り上がることはありません。

太田母斑は、詩人や作家としてのペンネーム木下杢太郎(もくたろう)でも知られる皮膚科の医学者・太田正雄東大教授が、1939年(昭和14年)に初めて報告した疾患で、日本人など東洋人に比較的多くみられます。

通常は顔の片側に色素斑ができますが、両側にできる場合もあります。また、生後間もなく色素斑ができる早発型と、小児期や思春期に色素斑ができて徐々に拡大する遅発型の2種類があります。

さらに、色素斑は顔面の皮膚だけでなく、眼球結膜や口の粘膜、鼓膜にできることがあります。

色素斑は、三叉(さんさ)神経の第1・第2枝の支配領域にみられ、青みを帯びた色素斑の中に褐色調の小さな斑点が散在した状態で現れます。皮膚の表面は滑らかで、盛り上がったりしません。

原因は、メラノサイト(メラニン細胞、メラニン形成細胞、色素細胞)にあります。通常は表皮にあって、メラニンという皮膚の色を濃くする色素を作り出すメラノサイトが、深い部分の真皮の上層に存在し増殖しているために、皮膚が褐青色に見えてしまいます。

色素斑が拡大したり、色調が濃くなったりすることもあり、自然に消えることはありませんが、悪性化を心配することもありません。

なお、同様の色素斑が肩から上腕に見られることがあり、これは伊藤母斑と呼ばれます。

本人が特に気にしなければ、太田母斑の治療の必要はありません。見た目が気になるようなら、カバーマークによる化粧で色を隠すのも選択肢の一つですが、皮膚科、皮膚泌尿器科、ないし形成外科を受診し色素斑を除去することも勧められます。

太田母斑の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科、ないし形成外科の医師による診断では、部位や色素斑の様子から視診で判断します。皮膚をほんの少し切り取って病理組織検査を行うと、真皮上層に色素含有メラノサイトが認められます。

また、異所性蒙古(もうこ)斑、青色母斑などの皮膚疾患と鑑別します。

皮膚科、皮膚泌尿器科、ないし形成外科の医師による治療では、悪性化の心配はないため、見た目の問題で気になるならQスイッチレーザー治療により、色素斑を除去します。

Qスイッチレーザーには、ルビーレーザー、アレキサンドライトレーザー、ヤグレーザーなどがあり、レーザーの種類により多少の効果や経過の違いがみられます。特定のレーザー光線を照射すると、皮膚の中にあるメラニン色素に対してのみ反応するため、周辺の正常な皮膚組織へのダメージを極力抑えながら、色素斑の元になっているメラニン色素だけを破壊することができます。

いずれのレーザー治療も痛みを伴うため、麻酔シール、注射などを使用して痛みの緩和を行います。治療対象となる太田母斑の色が濃く、範囲が広い場合は、1〜2回のレーザー照射だけは不十分で、およそ3カ月の間隔で、少なくとも5~6回の照射を行います。

治療時期は何歳からでも可能ですが、小児の場合は全身麻酔が必要なため3歳ごろから開始するのが普通で、早期から開始するほうが効果が高いといわれています。成人の場合でも、かなり色調が改善し、完全に色素斑を除去できることもあります。

眼球の色素斑はレーザー照射ができないので、現在は治療法がありません。

🟧RSウイルス感染症が「流行入り」 静岡県が注意呼び掛け

 静岡県は26日、直近1週間(15~21日)のデータから「RSウイルス感染症が流行入りしている」と発表しました。定点医療機関となっている小児科1カ所当たりの患者数は1・64人で、県が流行入りの目安としている「1人」を大きく上回りました。前週の0・9人よりも8割増加し、急拡大が懸...