重度の薬疹で、表皮の壊死や剥離など重篤な症状を伴う皮膚障害
ライエル症候群とは、重度の薬疹(やくしん)で、表皮の壊死(えし)や剥離(はくり)など重篤な症状を伴う皮膚障害。イギリスの皮膚科医ライエルが1956年に初めて報告した疾患で、ライエル症候群型薬疹、中毒性表皮壊死症、中毒性表皮壊死融解症などとも呼ばれます。
このライエル症候群は、その多くが医薬品によるものと考えられています。原因と推定される医薬品は、抗生物質、解熱消炎鎮痛薬、抗てんかん薬を始め、痛風治療薬、サルファ剤、消化性潰瘍(かいよう)薬、催眠鎮静薬、抗不安薬、精神神経用薬、緑内障治療薬、筋弛緩(しかん)薬、高血圧治療薬など広範囲に渡り、その他の医薬品によっても発生することが報告されています。また、総合感冒薬(風邪薬)のような市販の医薬品が原因となることもあります。
ライエル症候群の一部は、単純疱疹(ほうしん)ウイルス、肺炎マイコプラズマ、細菌、真菌などの種々のウイルスや細菌による感染症が原因となって発症します。原因不明な場合も、まれにあります。
38度以上の高熱とともに急激に発症し、全身が広範囲に渡って赤くなり、全身の10パーセント以上にやけどのような水膨れ、皮膚のはがれ、ただれなどが認められます。皮膚や口にできるぶつぶつ、目の充血、のどの痛み、排尿・排便時の痛みなどの症状を伴います。その症状が持続したり、急激に悪くなったりします。肝障害、腎(じん)障害、呼吸器障害、消化器障害などの合併症により、死に至ることもあります。
発生頻度は、人口100万人当たり年間0・4〜1・2人。発症メカニズムについては、医薬品などにより生じた免疫・アレルギー反応によるものと考えられていますが、さまざまな説が唱えられており、いまだ統一された見解は得られていません。
なお、スティーブンス・ジョンソン症候群(皮膚粘膜眼症候群)とライエル症候群は一連の病態と考えられ、ライエル症候群の症例の多くがステ ィーブンス・ジョンソン症候群の進展型と考えられています。
原因と考えられる医薬品の服用後2週間以内に発症することが多く、数日以内あるいは1カ月以上たってから起こることもあります。
その症状が持続したり、急激に悪くなったりした場合、何らかの医薬品を服用している人は放置せずに、すぐに医師、薬剤師に連絡して下さい。その際には、服用した医薬品の種類、服用からどのくらいたっているのかなどを伝えて下さい。
ライエル症候群の診断と治療は、皮膚科の入院施設のある病院で行うことが望ましいとされています。入院に至った際は、皮膚科と眼科、呼吸器科などとのチーム医療が行われることになります。
ライエル症候群の検査と診断と治療
皮膚科の医師による診断では、皮膚生検で確定診断を早急に行い、血液検査、呼吸機能検査なども行います。剥離した皮膚を組織学的に検討すれば、壊死に陥った表皮が認められ、これが確定診断に役立つ特徴となります。また、原因と推定される医薬品や、ウイルスや細菌の感染などを検索します。
医薬品の服用後に高熱を伴う皮膚、粘膜、目の症状を認めたケースでは、原因と推定される医薬品の服用を直ちに中止することが最も重要で、最良の治療法となります。しかし、服用を中止しても重症化する場合があるので、注意が必要です。
一般に、ライエル症候群(中毒性表皮壊死症)を発症した場合、副腎(ふくじん)皮質ホルモン剤(ステロイド剤)の全身投与、あるいは血漿(けっしょう)交換療法、ビタミン類の投与、さらに二次感染予防の目的で抗生物質の投与が行われます。皮膚の症状に対しては、熱傷と同様の治療を行い、外用抗生物質、外用副腎皮質ホルモン剤が用いられます。粘膜の症状に対しては、うがい、洗眼など開口部の処置が行われます。