女性の卵巣に発生する悪性の腫瘍
卵巣がんとは、卵巣に発生する腫瘍(しゅよう)のうち、悪性腫瘍の代表となる疾患。女性特有の疾患であり、命の危険もあります。
卵巣は、子宮の左右に一つずつある親指くらいの楕円(だえん)形の小さな臓器です。卵巣の中で卵子を成熟させ、放出するという働きがあり、周期的に卵胞ホルモンと黄体ホルモンという2種類のホルモンを分泌して女性の機能を調整しており、妊娠と出産のためにはなくてはならない臓器です。
この卵巣には、人体の臓器の中で最も多くの種類の腫瘍が発生します。腫瘍は大きく、良性群、中間群(境界悪性)、悪性群に分けられ、悪性の代表が卵巣がん。それらを正確に判断するためには、手術によって腫瘍を摘出し、顕微鏡で調べなければなりません。
年齢的には少女から高齢者まで幅広く、卵巣がんは発症しますが、40歳代から発症する人が増加し、50歳代から70歳代の女性に最も多く発症します。女性の70人に1人が発症していると見なされ、婦人科系のがんの中では2番目に発症率が高く、死亡率は1番目といわれています。食生活の欧米化に伴って年々少しずつ発症する人が増えており、特に50歳以降に発症すると死亡率は高くなっています。
死亡率が高い原因には、卵巣がんの早期発見が難しいという点が挙げられます。卵巣は、骨盤内にあって腹腔(ふくくう)内に隠れている臓器なので、自覚症状が出るのが遅くなります。医療機関での画像診断でも、ある程度の大きさにならないと診断することが難しい面があります。進行してがんがかなり大きくなったり、他の臓器への転移が起こって初めて、気付くというケースが多くみられます。
卵巣がんが小さい時は、症状は何もありません。がんが大きくなってくると、下腹部にしこりを感じたり、圧迫感により尿が近くなるといった症状が現れてきます。胃が圧迫されることによる食欲不振や、下腹部の消化不良のような不快感、腰痛や吐き気、疲労感、不正性器出血などといった症状も現れてきます。
さらに進行すると、卵巣が腫大して腹水がたまり、妊娠時のように腹が膨らんできます。そうなると、貧血や体重の減少などもみられるようになってきます。
人体の臓器の中でもとても小さな卵巣ですが、そこにできるがんにはさまざまなものがあります。卵巣の中にある表層上皮、胚(はい)細胞(卵細胞)、性ホルモンを分泌する性索間質などすべての細胞から、さまざまながんが発生します。
その発生する細胞から、上皮性卵巣がん、胚細胞性卵巣がん、性索間質性卵巣がんの3つに大きく分けられ、さらに組織学的に細かく分類されています。
卵巣がんのうち、90パーセント以上を占めるのが表皮上皮から発生する上皮性卵巣がんで、40歳代から60歳代の女性に多くみられます。上皮性卵巣がんの中でも組織学的な分類でみると、漿液性腺(しょうえきせいせん)がん、粘液性腺がん、類内膜腺がん、明細胞腺がんが多くみられます。粘液性腺がんの場合は、若年層でも発症することがあります。
また、卵子を生じる細胞から発症する胚細胞性卵巣がんの場合は、30歳未満の比較的年齢の低い女性に多くみられるものの、発症頻度は非常に少ないとされています。性ホルモンを分泌する性索間質卵巣がんのうち、顆粒(かりゅう)膜細胞腫という中間群に分類される腫瘍は、10歳代という若年層に発症します。
他の臓器へ最も転移しやすいのは、腹膜播種(はしゅ)と呼ばれるもので、卵巣から横隔膜にも転移し、そこから胸腔内に広がることがあります。このように卵巣がんが転移した場合、腹水のために腹が大きく張ったり、胸水による息切れがみられるなどの症状が現れます。逆に、胃がんや大腸がんなどの他の臓器のがんの転移によって、卵巣がんが発症したというケースもみられます。
卵巣がんの治療は、その卵巣がんの種類によって異なってきます。適切な治療を行うためにも、自分の卵巣がんの種類を把握することは大切なことです。
卵巣がんの検査と診断と治療
何らかの自覚症状が現れてから医療機関で検査を受けると、その時点ですでに進行が進み転移が起きている場合が多くあります。卵巣がんを少しでも早い段階で発見するためにも、定期的に婦人科、産婦人科で検診を受けることが大切になります。
卵巣がんは子宮がん検診のように細胞をとって検査することはできないため、エコー検査による検診が行われています。エコー検査によって卵巣に腫瘍が認められた場合や、下腹部の圧迫感やしこりなどといった症状を感じている場合は、CTやMRIなどの画像検査により卵巣がんやそれに伴う転移、腫瘍の性質や進行度などといった詳しい状態を検査していきます。
卵巣にできる腫瘍には良性と悪性があるので、腫瘍マーカーによる検査が行われ良性、悪性の判断が行われます。
しかし、腫瘍マーカーは初期や低年齢の女性の場合は陰性のことが多いため、正確に判断するためには手術によって組織を摘出し、病理組織検査によって調べる必要があります。
従って、種々の検査で、卵巣の直径が5センチ以上となっている場合は、原則的に手術が行われ、摘出物の病理組織検査で、その後の治療方法が決まります。
手術中の肉眼的な所見で、腫瘍が良性か悪性かはおおよそわかりますが、どちらかはっきりしない場合は、手術中の迅速病理組織疹の結果で、子宮まで摘出するか否か決定されます。
がんが卵巣内にとどまっている場合は、がんのできている卵巣と卵管だけを切除するだけでよいこともあります。がんが卵巣外にも及んでいる場合は、両側の卵巣と卵管、子宮、胃の下部から垂れて腸の前面を覆う薄いである大網(だいもう)、リンパ節などを広範に摘出しなければなりません。大網は最も卵巣がんが転移しやすい部位とされ、早期がんの場合でも切除することがあります。
がんが卵巣外に広く散らばっている場合には、手術の後、抗がん剤による強力な化学療法が必要となります。抗がん剤はがんの種類によってかなり有効で、残ったがんが縮小したり、消失することもあります。この場合は、もう一度手術を行い、残った腫瘍を完全に摘出したり、化学療法を中止する時期を決定します。
なお、卵巣がんは乳がん同様に家族性腫瘍とみられ、家族の中に子宮がんや乳がん、大腸がんの人がいる場合は、リスク因子が高くなっています。また、出産歴がない場合や第1子を高齢で出産した場合、初潮を早く迎えた場合、閉経が遅い場合なども、リスク因子として挙げられています。生活習慣からみるリスク因子には、喫煙、食事での動物性脂肪の多量摂取、肥満などがあります。
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