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2022/08/25

🇦🇱ポイツ・イェガース症候群

消化管にポリープが多数できるとともに、皮膚粘膜に色素沈着を伴う遺伝性疾患

ポイツ・イェガース症候群とは、消化管にポリープが多数できるとともに、消化管以外の全身の臓器にも異常を伴いやすい消化管ポリポーシスの一種。

10万人に1人が発症するとされる常染色体性優性遺伝性疾患であり、LKB1遺伝子と呼ばれている19番染色体において異常が認められています。

消化管に過誤腫(かごしゅ)性ポリープ、つまり過剰に発育した良性腫瘍(しゅよう)が多数できるとともに、皮膚粘膜に色素沈着を伴います。

ポリープは、食道を除く胃から大腸までの消化管全体に発生します。特に、小腸が好発部位で、しばしば上方の腸管が下方の腸管の中に入り込む腸重積(じゅうせき)を伴い、イレウス( 腸閉塞〔へいそく〕)症状や腹痛を起こします。血便、ポリープの肛門(こうもん)脱出を認めることがあります。

消化管のほか、膵(すい)臓、卵巣、子宮、肺など多臓器にわたってがんが高率に合併します。

色素沈着は、口唇や口腔(こうくう)粘膜、四肢末端部に、2~3ミリの小さな黒褐色の色素斑(はん)として認められます。口唇の色素斑は、縦方向に長い形状となります。手の色素斑は、指紋に一致した方向に長い形状となります。

これらの色素沈着は、ポリープの発生よりも早く、生後数カ月ころから幼児期までに出現し、思春期にかけて数を増すものの、その後は徐々に軽快することが多いといわれています。

血便、ポリープの肛門脱出などが現れた場合は、消化器科、消化器外科、外科、あるいは肛門科の医師を受診します。

ポイツ・イェガース症候群の検査と診断と治療

消化器科などの医師による診断では、口や手足の先の色素沈着で気が付くことがあります。このポイツ・イェガース症候群を疑い、胃や腸の内視鏡検査やX線検査、生検などを行うことで確定します。

消化器科などの医師による治療は、消化管の大きなポリープに対して、内視鏡下で切除する内視鏡的ポリペクトミー(内視鏡的ポリープ切除術)を行います。内視鏡を挿入した後、スネアとよばれる金属でできた輪でポリープの根元を引っ掛けて絞扼(こうやく)し、高周波電流を流して焼き切る方法(スネアリング)が一般的で、開腹など外科的手術に比べて患者の負担が少ないというメリットがあります。

小腸ポリープについては、従来は開腹下で切除していましたが、最近では小腸内視鏡で切除することが多くなっています。しかし、腸重積を伴う場合は、即時に手術を行います。

全身の臓器にわたってがんが高率に合併するため、定期的な検査を受ける必要もあります。

なお、口唇や皮膚の色素沈着が美容的な観点から問題になる時は、皮膚科あるいは形成外科で診療の上、レーザーで治療します。

🇦🇱蜂窩織炎、丹毒

細菌の感染によって起こる皮膚の化膿性炎症

蜂窩織(ほうかしき)炎とは、皮膚の真皮の深いところから皮下脂肪組織にかけて、細菌の感染によって起こる化膿(かのう)性炎症です。蜂巣炎とも呼ばれます。

丹毒とは、皮膚の真皮の浅いところに、連鎖球菌の感染によって起こる化膿性炎症です。皮膚の浅いところに生じた蜂窩織炎ともいえます。

蜂窩織炎では、毛穴や汗の出る管を通じて細菌が真皮内に増殖する場合と、直接に表皮の間を通過して細菌が侵入する場合とが考えられます。

原因菌は主としてブドウ球菌によりますが、連鎖球菌など他の細菌によって生じることもあります。感染を受けた皮膚は全体に赤くはれ、皮下に硬い板状のしこりができます。周囲の正常な皮膚との境界は不鮮明で、圧痛、自発痛が強く、時には膿汁(のうじゅう)が出ることもあります。周囲のリンパ腺(せん)は、はれ上がり、発熱を伴うこともあります。

また、せつ、いわゆるおできから悪化する場合もありますが、足指の間の水虫を放置しておいて、そこからブドウ球菌が侵入し、足の甲が赤くはれ上がるケースが最も多くみられます。

丹毒では、原因菌は蜂窩織炎と異なり、連鎖球菌が主です。連鎖球菌は皮膚の表面から真皮内に入り炎症を生じますが、他の部位から血液を介して連鎖球菌が真皮に達し生じることもあります。

突然、38度以上の発熱、悪寒、全身の倦怠(けんたい)感を伴って、皮膚に境界のはっきりした鮮やかな赤い色のはれが現れ、急速に周囲に広がります。表面は皮膚が張って硬く光沢があり、その部分は熱感があり、圧痛、自発痛もありますが、皮下のしこりはあまりありません。水疱(すいほう)や出血斑(はん)を伴うこともあります。

顔、下肢、上肢、手足に多くみられ、近くのリンパ節がはれて痛みがあるのが普通です。また、一度できると、同じ場所に何回も繰り返し、できることがあります。高齢者や免疫力の低下した人に、多く発症します。

蜂窩織炎、丹毒の検査と診断と治療

蜂窩織炎の血液検査では、白血球が増え、CRPの上昇がみられます。CRPは蛋白(たんぱく)質の一種で、体内に炎症が起きたり組織の一部が壊れたりした場合に、血液中に現れます。丹毒の血液検査では、白血球が増え、CRPの上昇、赤沈の高進がみられます。連鎖球菌に対する抗体が上昇することもあります。

蜂窩織炎と丹毒との区別は、必ずしも簡単ではありません。

蜂窩織炎の治療は、赤く熱感のある局所を安静にして冷やし、適切な抗菌剤の内服または点滴静注をします。

丹毒の治療は、赤く熱感のある局所を安静にして冷やし、発熱などの全身症状が強いために、大量のペニシリン系抗菌剤の内服または点滴静注をします。高熱が下がるまでは、全身的な安静も必要です。

適切な治療により、1週間前後で表面の皮がはがれてきて治りますが、再発予防や合併症も考え、よくなってからも約10日間は抗菌剤を内服します。正しい治療が行われないと、敗血症、髄膜炎、腎(じん)炎などを合併して重篤になることがあります。

予防法としては、蜂窩織炎、丹毒は習慣的に引っかく鼻粘膜の傷や、湿疹(しっしん)、水虫などの小さい傷が原因になることも多いので、小さい傷でも早めに手当てする必要があります。

🇦🇱包茎

包茎というのは、男性のペニス(陰茎)の先の亀頭部が包皮に包まれたままの状態を指し、包皮が亀頭に比べて小さいために翻転できないことです。

この包茎には、包皮のむけ具合によって、いろいろな程度があります。大別すると、「真性包茎」と「仮性包茎」の二つがあり、真性は完全にむけないもの、仮性は平常時には亀頭を覆っているが、勃起時や包皮を手で陰茎部のほうにたぐれば、亀頭が簡単に出てくるものをいいます。

一般的にいわれている仮性包茎は病的状態ではなく、むしろ、大部分の日本人男性が仮性包茎状態です。常に亀頭部が露出した状態はむしろ少数であることは、あまり知られていません。

小児では、亀頭は完全に包皮に包まれているのが普通です。思春期以後から、包皮を押しのけて亀頭が表れるようになります。つまり、一人前の大人の男性として、ペニスの脱皮が図られるようになるのです。包皮に保護された温室から外界に出て、ペニスは幾多の試練?に合うことになります。

思春期以後、ペニスがうまく発育して亀頭が露出すれば、問題はありません。そうはうまくゆかないから、困ります。

幼児や小児では、ペニスは排尿さえできればよいのですが、思春期を迎えて性ホルモンが活発に働き始めると分泌物が多くなり、これが白く、黄色く、特殊な臭いがする恥垢(ちこう、ちく)となって、包皮の内側にたまってきます。清潔にしないでほうっておくと、包皮炎や亀頭炎を起こすこともあります。

手を加えて包皮の翻転ができるなら、時々、皮をめくって、ぬるま湯とせっけんできれいに垢(あか)をとるべきです。もし炎症が起こっていれば、マーキュロを塗布します。きつい消毒液は、粘膜を痛めるので使用しないことです。

極端な包茎では、亀頭が包皮によってピッチリ覆われ、排尿障害を起こすことがあります。また、「篏頓(かんとん)包茎」の場合、無理に包皮を翻転させると、そのまま戻らなくなって包皮が腫脹(しゅちょう)し、亀頭に不快な痛みが生じます。

これらは、睡眠中に起こったり、外陰部に強い圧力がかかったり、激しいマスターベーションを行った際などにみられます。処置としては、温湿布で局部のむくみをとってからぬるま湯で洗い、両手で包皮を整復すればよいでしょう。

また、女性にとって都合が悪いということでも、包茎が問題となります。排尿ができて、射精するのみならば、包茎は男性にとってさほどの障害にはなりませんが、セックスパートナーとなる女性にも喜んでもらうためには、真性包茎、嵌頓包茎では支障が生じます。

日ごろ包皮に包まれ、外界に接触していない亀頭粘膜は、すこぶる敏感なのです。ちょっとした刺激でも興奮して、射精が早く起こる早漏になりやすいのです。一般的に包茎の人の多数が早漏といわれるのも、粘膜が敏感なためで、セックスに対する経験不足によって、脳中枢での興奮刺激のコントロールができない点も加われば、女性にとって歓迎すべきことではありません。

恥垢がたまりやすい包茎では、女性側の子宮内膜炎の原因にもなりかねません。また、男性側の包皮も皮膚炎を起こしやすく、女性と接触後、相手の体液やコンドームの潤滑剤により、アレルギー性の皮膚のかゆみ、発疹(はっしん)を起こすことがあります。亀頭粘膜も弱いため、粘膜感染しやすく、性病にかかりやすいと見なされます。

包茎は早めに、適切に処置すべきです。子供のころから、排尿の時、適当にペニスをむいて用を足すように習慣づければ、包茎は自然に解消されます。自分で処置できない時は、泌尿器科か外科の専門医に相談するのが望ましいでしょう。

🇲🇪膀胱(ぼうこう)異物

入った異物が膀胱炎の原因になることも

膀胱(ぼうこう)異物とは、何らかの原因で膀胱内に異物が入ったもの。いたずらや自慰行為の際、尿道内に挿入した物が膀胱内に入り込んで、出せなくなってしまうケースがよくみられます。

これには体温計、ろうそく、鉛筆、細いビニール管、針金、チューインガム、ヘアピン、乾電池などがみられます。そのほか、魚の骨が腸を突き抜けて膀胱に入る場合や、手術時に使用した糸などが膀胱内に残る場合もあります。尿道カテーテル留置中に、膀胱内でカテーテルが損傷した場合などにも膀胱異物となります。

症状として、頻尿、排尿時疼痛(とうつう)、血尿が出現し、残尿感、下腹部痛、血尿などを伴うことがあります。膀胱内に異物がある場合には、細菌などの病原体がつきやすいため、抗菌薬を投与しても完治しにくいことが多く、慢性膀胱炎の原因になります。また、膀胱異物には結石の基となる結晶が付着しやすいことから、異物を核とした膀胱結石ができることもあります。

膀胱異物の検査と診断と治療

頻尿、排尿時疼痛、尿混濁、血尿、残尿感、下腹部違和感などの膀胱炎の症状が続く場合には、泌尿器科の専門医に相談して、これまでの泌尿器などの疾患の有無や生活習慣などをきちんと話します。また、異物を尿道内に挿入することは避けなければなりません。

病歴上、膀胱異物の診断が明らかな場合もありますが、X線や超音波検査、膀胱鏡検査などにより、膀胱内の異物を確認します。

可能であれば膀胱鏡で除去しますが、異物の大きさや形状によっては非常に困難な場合もあります。放置すれば膀胱炎、膀胱結石、膀胱穿孔(せんこう)などの可能性があり、膀胱鏡で除去できない場合には開腹手術を行うこともあります。

🇲🇪膀胱(ぼうこう)炎

女性に多い膀胱粘膜の炎症

膀胱(ぼうこう)炎とは、膀胱内の粘膜に炎症が起こる疾患です。女性に多いのが特徴で、特に妊娠可能な年齢で多発しますが、男性にも起こります。細菌の感染による急性膀胱炎がすぐに治るのに対して、慢性膀胱炎は完治が難しいといえます。

急性膀胱炎の場合、症状は急激ながら経過は短く、泌尿器科の疾患では最も普通にみられます。原因の大部分は細菌感染で、大腸菌が最も多く、ブドウ球菌、連鎖(状)球菌などによることもあります。

感染経路としては、尿道からの細菌の侵入が最も多く、腎(じん)臓からの感染、周囲の臓器からの感染もあります。この疾患が女性に多発する理由として、尿道が男性に比べて短いために細菌が尿道に入りやすいこと、細菌のいる腟(ちつ)や肛門と尿道との距離が近いことなどが挙げられます。

膀胱は細菌に対して抵抗力があるので、単に細菌が侵入してきただけでは炎症は起こりにくいのですが、体力の低下、尿の停滞、排尿の我慢のしすぎ、便秘、不潔な性交、妊娠、冷えなどが誘因になって発症します。

男性では、膀胱炎は女性ほど一般的ではありません。男性はまず尿道が感染し、その感染が前立腺(ぜんりつせん)から、膀胱に広がって発症します。

症状としてみられるのは、頻尿、残尿感、尿の出が悪い、排尿時の痛み、尿の濁りが特徴。発熱はほとんどみられません。

医師による治療では、原因菌に有効な抗生物質、抗菌剤が投与されます。一般に女性では、合併症が起こっていなければ、2~3日で症状は軽快します。感染が長引く際には、抗生物質を7~10日間服用します。男性では投与期間が短いと再発を繰り返すため、一般に抗生物質を10~14日間服用します。

男女とも、水分の摂取を多くして尿量を増やし、細菌を洗い流すほか、尿の刺激性を低下させて症状を和らげます。症状の強い際は、十分な休息、睡眠を確保するようにします。

慢性膀胱炎と間質性膀胱炎

慢性膀胱炎の場合、症状は比較的軽く、ほとんど自覚しないこともあります。尿検査で偶然に発見されることが、普通です。膀胱に腫瘍(しゅよう)、結石があったり、結核、前立腺、腎臓の病気などが膀胱炎の陰に隠れている際に、慢性化しやすいものです。

治療では、抗生物質や抗菌剤が2~4週間、使用されます。原因疾患がある際には、そちらを治療しない限り、完治しません。特に原因疾患もなく、症状のほとんどない際は、経過観察となることもあります。

また、間質(かんしつ)性膀胱炎という特殊な膀胱炎が近年、増加しています。感染症がみられなくても膀胱が炎症を起こす疾患で、痛みを伴う頻尿などの症状があります。顕微鏡で検査すると、尿中に膿(うみ)や血液が認められ、尿に血が混じっているのが肉眼で見えることもあります。

中年女性に多くみられ、男性がかかることはめったにありません。欧米では以前から割合多くみられていて、いくつかの病因による症候群と見なされていますが、いまだ治療法は確立されていません。

長期に渡る慢性的な炎症によって膀胱は委縮し、重症の場合は外科手術による膀胱の除去が必要になることも、まれにあります。小腸の一部である回腸を使って代用膀胱を作るか、腎臓にチューブを直接挿入し、体の外に装着した袋に尿を排出することになります。

🇲🇪膀胱がん

膀胱の表面を覆う上皮ががん化することで起こる疾患

膀胱(ぼうこう)がんとは、膀胱の内部表面を覆う移行上皮ががん化することで引き起こされる疾患。組織学的には、移行上皮がんが全体の90パーセントを占めています。

膀胱は骨盤内にある臓器で、腎臓(じんぞう)で作られた尿が腎盂(じんう)、尿管を経由して運ばれた後に、一時的に貯留する一種の袋の役割を持っています。膀胱がたまった尿で伸展されると、それを尿意として感じ、筋肉が収縮することによって排尿して、膀胱より尿を出し切るといった働きがあります。その膀胱の表面を覆う移行上皮は、伸縮性に富むことが特徴的です。

泌尿系のがんの中では、膀胱がんが最も死亡者数が多く、7割以上を占めます。罹患(りかん)数も最多で、泌尿系のがん全体の約半数を占めます。

年齢別にみた罹患率は、40歳以上に多く、男女とも60歳以降で急増します。男性のほうが女性より罹患率が高く、女性の約4倍です。罹患率の国際比較では、欧米白人で高く、日本人を含む東アジア系民族では低い傾向があります。日本では、年間10万人中約10人の罹患率。

膀胱がんのはっきりとした原因は、不明です。確立されたリスク要因としては、喫煙が挙げられています。喫煙する人では喫煙しない人と比較して、2〜3倍多くなります。古くはアニリン系色素やゴム工場従事者に多く発生し、職業がんとして有名でした。現在では、ベンチジンなど、がんと因果関係のはっきりしているものの使用は禁止されています。

長期間、膀胱結石があったり、膀胱周囲の血管系に寄生するビルハルツ住血吸虫症に感染していたりすると、その慢性的な刺激により発がんすることがあります。医薬品では、フェナセチン含有鎮痛剤やシクロホスファミドに発がん作用が認められています。

初発症状として最も多いのは血尿で、赤色や褐色の尿で気付いたり、尿検査などで発見されます。この血尿は膀胱炎とは異なり、痛みなどを伴わないのが特徴で、無症候性血尿と呼ばれます。血尿は数日経過すると止まることもありますが、また出たり止まったりを繰り返しながら、疾患は進行します。

病変の部位が膀胱の出口に近い尿道口や膀胱頸部(けいぶ)にあると、頻尿、排尿時の疼痛(とうつう)、尿の混濁、残尿感など膀胱炎と非常に類似した症状や、排尿障害などが現れます。さらに尿管が閉塞(へいそく)してしまうと、尿が流れないために腎臓がはれたり、尿管が拡張する水腎症の症状が現れたり、それによって腎臓機能が低下することがあります。進行すると痛み、排便の異常、直腸や子宮からの出血などが現れることもあります。

膀胱がんの検査と診断と治療

膀胱がんは血尿で始まることが多い疾患ながら、血尿があればすべて膀胱がんというわけではありません。しかし、肉眼的な血尿を自覚したり、尿検査などで指摘されたりした場合には、いろいろな疾患も考えられるため、泌尿器科や腎臓内科の専門医を受診します。

通常、膀胱がんは隆起しているので、膀胱鏡検査でその一部分を採取して顕微鏡検査をすることで、医師の診断は確定します。この膀胱鏡検査では、病変の性状や大きさ、数、発生部位なども観察することができます。膀胱がんは多発することがあり、膀胱鏡検査で見ただけではわかりにくい場合は、肉眼的に正常と思われる部位からも生検します。

尿中に混じっている異常細胞を調べる尿細胞診も行われますが、小さな乳頭状のがんでははっきりがん細胞と断定できないことがあります。

進行度を調べるためには、腹部のCT検査やMRI検査、腹部および経尿道超音波検査、排泄(はいせつ)性尿路造影などが行われます。転移がないかどうかを調べるためには、胸部X線検査、腹部CT検査、骨シンチグラフィなども行われます。膀胱と同様に移行上皮がある腎盂や尿管に異常がないかどうかも、排泄性尿路造影などで検査します。

膀胱がんの治療は、検査によって得られたがんの状態や転移の有無、発症者の年齢や体力などを考慮して決定されます。膀胱壁の比較的浅い部分までに限局している表在性腫瘍では、経尿道的膀胱腫瘍切除術が行われます。これは腰椎(ようつい)麻酔をした上で尿道から膀胱鏡を入れ、電気メスで腫瘍を切除する治療です。再発防止のために、抗がん薬の膀胱内注入が行われることもあります。

がんが膀胱壁の最も浅い層である粘膜内に限局している上皮内がんには、BCG(結核のワクチン)の膀胱内注入が行われることがあります。これは外来で行うことができ、週に一度の注入を数回行います。

膀胱壁のより深い部分に及んでいる浸潤性腫瘍では通常、膀胱全摘除術、および膀胱を切除した後に尿を出すための経路を作る尿路変更(変向)術が行われます。膀胱全摘除術は全身麻酔下で行われる手術で、膀胱と周囲のリンパ節のほかに、男性であれば前立腺(せん)、精嚢(せいのう)などを、女性であれば尿道、腟(ちつ)前壁などを同時に摘出します。

続いて行う尿路変更術には、尿管皮膚瘻(ろう)、回腸導管造設術、自然排尿型代用膀胱などがあります。尿管皮膚瘻は、左右の尿管を皮膚につなぎ、腎臓までカテーテルを入れて、そこから排尿するものです。手術としては簡単ですが、常に尿が出てくるので袋をつけておかなければなりませんし、感染の危険もあります。

回腸導管造設術は、小腸の一部を切り取って、そこに左右の尿管をつなぎ、その小腸の一端を皮膚につないで排尿するものです。感染などの合併症が少ない方法ですが、やはり常に袋をつけておく必要があります。

自然排尿型代用膀胱は、小腸を用いて作成した代用膀胱を元の膀胱と置き換えて、元と同じ尿道口より排尿する方法です。最も生理的な方法ですが、尿道を温存できる場合しか適応となりません。腹圧によって排尿することができますが、うまくできない場合には自己導尿が必要になることもあります。

転移があるような進行がんや、全身状態に問題があったり、手術を希望しない場合には、抗がん剤による化学療法が行われ、通常2種類以上の薬剤が組み合わせて投与されます。メトトレキサート(メソトレキセート)、ビンブラスチン(エクザール、ビンブラスチン)、ドキソルビシン(アドリアシン)、シスプラチン(ランダ、ブリプラチン)の4剤を組み合わせたM—VAC療法が、膀胱がんに対して最もよく行われる化学療法です。近年、タキソールやジェムシタビンといった新しい抗がん剤を用いる治療も注目されています。

また、手術の前に抗がん剤による治療を行うこともあり、これは術前補助療法と呼ばれます。一方、手術の後に抗がん剤による治療を行うこともあり、こちらは術後補助療法と呼ばれています。

放射線併用治療も行われています。放射線にはがん細胞を死滅させる効果があるので、がんを治すため、またはがんにより引き起こされる症状をコントロールするために使われます。放射線治療の適応となるものは、基本的に浸潤性腫瘍です。膀胱の摘出手術では尿路変更が必要となるデメリットがあるため、あえて放射線治療や、放射線治療に化学療法を合わせて治療し、膀胱を温存することもあります。

膀胱がんは膀胱が存在する限り、膀胱内に再発する可能性は常にあります。経尿道的膀胱腫瘍切除術の後は、定期的に外来に通院し、膀胱鏡や尿の細胞診でチェックする必要があります。膀胱を摘出した場合には、転移が出現していないかなど定期的なチェックももちろんのこと、回腸導管や、腸管で作られた新しい膀胱が機能しているか、腎障害が出てきていないかなどのチェックも必要になってきます。

🇷🇸膀胱憩室

膀胱の壁の弱い部分が、尿が通過する際の圧力により膨らんで袋状の憩室ができ、外側に突出する疾患

膀胱(ぼうこう)憩室とは、膀胱の内腔(ないくう)の壁の一部の弱い部分が排尿の圧力によって膨らみ、袋状の憩室ができて外側に突出する疾患。

膀胱から尿道口までに、何らかの通過障害があって、排尿に際して膀胱内の圧力が高まった時に、膀胱憩室の状態になります。通常、膀胱粘膜が筋層を貫いています。

その成因から、先天性膀胱憩室と後天性膀胱憩室に分けられます。先天性は男児に多く、後天性は中高齢の男性に多くみられます。

先天性膀胱憩室は、尿管が膀胱壁を通過する部分や、膀胱頸部(けいぶ)に憩室が好発し、尿路感染の素因を作り、膀胱尿管逆流を伴いやすくなります。通常は幼児期に、繰り返す尿路感染症の検査の際に発見されます。

後天性膀胱憩室は、前立腺(ぜんりつせん)肥大症、神経因性膀胱、尿道狭窄(きょううさく)などによる下部尿路の通過障害の影響が最も多く、そのほか膀胱損傷の後遺症、膀胱手術の合併症などで発症します。

憩室の内部には尿がたまるため、尿路感染が発生しやすく、繰り返す膀胱炎、憩室炎、結石、腫瘍(しゅよう)などの原因となり、頻尿、排尿時の痛み、尿の混濁、残尿感、下腹部違和感などの症状が出ることもあります。

憩室は長い時間をかけて次第に大きくなるため、排尿後、時間がたっていないのにもう一度ある程度の量の排尿がある二段排尿がみられたり、尿道を圧迫して排尿困難を来すこともあります。

膀胱炎の症状が長く続く時や、膀胱炎を繰り返す時には、泌尿器科を受診することが勧められます。

膀胱憩室の検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断では、超音波検査、排せつ性尿路造影、膀胱造影などを行います。膀胱憩室が認められた場合には、膀胱鏡検査で憩室の入り口や、可能であればその内部を観察し、結石、腫瘍が発生していないか確認します。

泌尿器科の医師による治療では、小児にみられる先天性膀胱憩室の場合、できるだけ早期に憩室を切除します。

後天性膀胱憩室の場合、憩室が小さくて自覚症状もなく、膀胱炎、憩室炎、内部の結石などの合併症がなければ、経過観察します。

憩室がある程度大きい時や、強い自覚症状、合併症のある時には、内視鏡を尿道から入れて憩室を電気凝固します。憩室が大きい時や、悪性腫瘍を合併している時には、開腹して憩室を切除する手術を行うことになります。

🇷🇸膀胱頸部硬化症

尿道に移行する部分の膀胱の筋肉が硬くなって、排尿障害を起こす疾患

膀胱頸部(ぼうこうけいぶ)硬化症とは、膀胱の出口と尿道の境目にある膀胱頸部の筋肉が硬く厚くなって、排尿時に開きにくくなることが原因で、排尿障害を起こす疾患。主に男性にみられます。

前立腺(ぜんりつせん)炎や前立腺肥大症、膀胱炎から二次的に発症したり、前立腺の手術後などに発症します。まれに、先天性の膀胱頸部硬化症もみられます。

成人の膀胱頸部硬化症が起こる原因や仕組みに関しては、現在のところ解明されていません。先天的な筋肉の発生発育障害によるという説や、加齢・炎症など後天的要因に起因するという説など諸説があります。

症状としては、膀胱頸部の膀胱壁が硬く厚くなって排尿時に開きにくくなるために、尿が出始めるまでの時間が延長したり、尿の出が悪かったり、尿線が細かったり、尿が出始めてから終了までに時間がかかったりし、残尿感、頻尿が生じます。まれに、閉尿といって、尿が膀胱にあっても排尿できない状態になることもあります。

症状は前立腺肥大症によく似ていて、症状だけから見極めることはできません。

ほとんど男性にみられますが、時に女性でも慢性膀胱頸部炎などのため、膀胱頸部に慢性の刺激が加わり、同様の症状がみられることがあります。

成人の膀胱頸部硬化症では、しばしば尿路感染症や結石を合併し、小児にみられる先天性の膀胱頸部硬化症では、水腎症、腎機能障害を起こす場合があります。

尿の出が悪い、残尿感、頻尿などの症状がある場合には、前立腺肥大症も含めて検査する必要がありますので、泌尿器科で診察を受けて下さい。

膀胱頸部硬化症の検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断では、膀胱造影検査、膀胱鏡検査などが行われます。前立腺肥大症、前立腺がん、尿道狭窄(きょうさく)、神経因性膀胱など頻尿や排尿障害を起こす疾患でないことを確認し、膀胱頸部の硬化や狭窄などから膀胱頸部硬化症と確定されます。

泌尿器科の医師による治療では、膀胱頸部の緊張をとる目的で、交感神経遮断薬(α遮断薬)を使用する薬物療法、膀胱頸部を広げることのできるチューブ状の器具を用いる尿道ブジー療法などの保存的治療を行います。

根治的に治すためには、尿道から内視鏡を挿入して膀胱頸部を切開する場合が多いのですが、膀胱頸部を切除する手術を要することもあります。いずれにしても、処置後も比較的長期間、ある程度の拡張処置を外来で続ける必要があります。

🇷🇸膀胱(ぼうこう)結石

腎臓結石がとどまったり、膀胱内で結石ができたりする状態

膀胱(ぼうこう)結石とは、腎臓(じんぞう)結石が膀胱まで落ちてきたり、膀胱内でできた状態。石は少なくて1個、たくさんできてしまう人は数10個までできてしまいます。

発症者には、高齢の男性が多いのが特徴です。結石が小さいうちに尿とともに排出されずに、膀胱内で大きくなったことが原因で、その背景には、前立腺(せん)肥大症、膀胱頸部(けいぶ)硬化症、神経性膀胱機能障害、尿道狭窄(きょうさく)などの尿路通過障害などの疾患があることが多くみられます。

また、尿路通過障害や膀胱内異物などに合併しやすい尿路感染は、尿素分解細菌の働きによって、リン酸マグネシウムアンモニウム結石などのいわゆる感染結石を作る原因となります。膀胱炎にかかりやすい人では、こうした感染結石が約半数を占めるといわれています。

さらに、膀胱留置カテーテルなどの異物には、結石の基となる結晶が付着しやすいことから、異物を核とした結石の形成がみられることもあります。男性に多い尿酸結石は、生活習慣病である高尿酸血症などの尿酸代謝の異常や酸性尿が関係しています。

排尿後に痛みを感じる、尿が濁る、尿が近くなる、血尿が出る、頻尿が起こる、膀胱部が痛むといった症状が現れます。排尿の途中で結石が膀胱出口をふさいでいると、急に尿が止まってしまうこともあります。中には、無症状な人もいます。

膀胱結石の検査と診断と治療

治療としては、膀胱結石を作る原因となる疾患の治療をし、外部から結石を破壊したり、手術をして摘出をします。

膀胱結石の手術による治療法では、経尿道的手術と膀胱切石術が代表的です。

経尿道的手術は、 腰椎(ようつい)麻酔(ますい)下に、尿道から挿入した内視鏡を用いて結石を摘出する方法です。腹部を切開せずにすみ、回復も早いため、最近ではほとんどの膀胱結石に対して、この治療法が行われます。手術の合併症として、出血や膀胱損傷、尿道損傷のほか、尿路性感染症による発熱がみられることがあります。

膀胱切石術は、 腰椎麻酔下に、下腹部から膀胱前壁を切開して結石を取り出す方法です。大きな結石や数が多い場合、あるいは前立腺肥大症や膀胱憩室の手術とともに行われることがあります。合併症としては、細菌感染による皮膚や膀胱壁の縫合不全が起こることがあります。

🇸🇮膀胱神経症

泌尿器の異常が認められないのに、頻尿などを起こす疾患

膀胱(ぼうこう)神経症とは、腎臓(じんぞう)や膀胱などの泌尿器に異常が認められないにもかかわらず、頻尿や尿意切迫感を起こす疾患。神経性頻尿、過敏性膀胱とも呼びます。

一般に、女性に多くみられる傾向があります。神経質で几帳面(きちょうめん)、強迫的傾向にある人に多いようです。

膀胱神経症を発症する原因は、精神的な要因やストレス、恐怖心などです。膀胱は精神的な影響を受けやすい器官で、排尿には精神的、心理的な要因が関係してくることが少なくありません。例えば、試験や試合、デートや会食、発表会や演奏会、大事な面接や会議、プレゼンテーションなど、人それぞれの勝負時や本番など緊張する場面でトイレが近くなる状態は、誰でも経験することです。 

この状態が一過性の現象として終わらず、その後も排尿回数が日常生活に支障を来すほど頻繁になる場合があります。また同じことが起きるのではないかという不安や恐怖心が先立ち、殊更に尿意が意識されてしまう結果、実際に度々尿意を感じるようになり、意識すればするほど我慢できなくなって頻尿のパターンに陥ります。

精神的負担やストレスを感じる場面で精神が高ぶり、何度もトイレに行きたくなった経験や、電車や車の中でトイレを我慢したエピソードなどを切っ掛けに、膀胱神経症は発症します。職場や学校、家庭でのストレスを始め、いじめや暴行、事故や災害などによる重大な精神障害を機に発症することもあります。

通常、排尿痛や発熱は見られず、尿意を意識せずに何かに熱中している時や、夜眠っている時には症状はありません。逆に、尿意を気にしたり、意識すれば意識するほど、膀胱に少量の尿がたまっただけで強い尿意を感じ、我慢できなくなります。

 男性では、職場や仕事上のストレスなどで無菌性の前立腺(せん)炎を起こす場合があり、膀胱神経症の症状と複合して長引くケースも少なくありません。

女性では、軽い膀胱炎を実際に患い、それを切っ掛けに膀胱神経症を発症するケースも多く認められます。この場合、頻尿や尿意切迫感のほかに、排尿痛、残尿感、下腹部の不快感など、膀胱炎と同じ症状を認めることがあります。

膀胱神経症の検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断では、まず尿検査を行うと膀胱炎などのように膿(うみ)や血尿などは出ないので、すぐに膀胱神経症と判断できます。就寝中に排尿がみられないことも、診断の手掛かりになります。

さらに、問診によって、他の自覚症状の有無や頻尿に至った心理的要因を把握していく過程で、残尿感などを訴える発症者には、超音波検査による残尿測定などを行うこともあります。頻尿に伴い、切迫性の尿失禁などの症状を訴える発症者には、膀胱内圧測定や、婦人科的な検査を行うこともあります。

検査の結果、器質的疾患がないことがわかれば、膀胱容量が正常であることを確認するために、一日の排尿回数と排尿量を記録してもらいます。朝一番の排尿量が300ミリリットルあれば、膀胱容量が正常であることがわかります。

泌尿器科の医師による治療では、膀胱の過敏性を和らげ、余分な収縮を抑える抗コリン薬を服用したり、心因的な要素が強い時には抗不安薬や自律神経調整薬などを服用することもあります。

抗コリン薬の服用期間中には、排尿記録を基に目標を決めて、排尿間隔を開け、一回量を増やすような生活を心掛けます。服薬を中止することによる頻尿の再発を心配することはありません。 精神面が大きく作用する膀胱神経症の場合、数週間の服用で頻尿の習慣が消え、服薬を中止しても大丈夫な人が多いものです。 改善したら、予防法など考えず、排尿回数に無関心になることが最大の予防法といえるでしょう。

🇸🇮膀胱尿管逆流症

膀胱に尿が一杯になった時や排尿する時に、尿が尿管、腎盂に逆流する現象

膀胱(ぼうこう)尿管逆流症とは、膀胱に尿が一杯になった時や排尿する時に、尿が尿管、腎盂(じんう)に逆流する現象。

正常な状態では、膀胱に尿がたまってきたり、排尿時に息むと、尿管膀胱移行部の逆流防止機能が働いて、膀胱壁内尿管が膀胱の壁に押し付けられ、尿の逆流が起こらないようになっています。この逆流防止機能が不十分だと、逆流を起こします。膀胱尿管接合部の形態や、膀胱壁内尿管と膀胱壁との進入角度、膀胱壁内尿管の長さなどによって、逆流を起こすと考えられています。

逆流防止機能の未熟な小児にみられることが多いのですが、成人になっても前立腺(ぜんりつせん)肥大などによって膀胱からの尿の出が悪くなった場合にも、膀胱尿管逆流症は起こります。

頻度は、新生児までは男児に多くみられますが、その後は女児および女性に多くみられます。また、家族内発生や多因子による遺伝もあるとされています。

常時、細菌の混じった汚い膀胱内の尿が逆流している場合には、尿管が正常よりも膨らむ水(すい)尿管症、尿が腎盂や腎杯内にたまって膨らむ水腎症を示すようになります。

🇸🇮房室回帰性頻拍

発作があると危険な頻脈性の不整脈

房室回帰性頻拍とは、脈拍が速くなる頻脈性の不整脈を生じる疾患の一つ。WPW症候群(Wolff-Parkinson-White syndrome)とも呼ばれます。

不整脈は、一定感覚で行われている心臓の拍動のリズムに、何らかの原因によって乱れが生じる疾患です。

1915年ころから房室回帰性頻拍の存在が知られ始め、1930年に多くの症例についての詳しい報告がなされ、世に知られるようになりました。この際の3人の研究者であるウォルフ、パーキンソン、ホワイト各博士の頭文字から、WPW症候群とも名付けられました。

血管系統の中心器官である心臓には、4つの部屋があります。上側の右心房と左心房が、血液を受け入れる部屋です。下側の右心室と左心室が、血液を送り出す部屋です。4つの部屋がリズミカルに収縮することで、筋肉でできている心臓は絶え間なく全身に血液を送り出すことができるのです。このリズムを作っているのが心臓の上部にある洞結節(どうけっせつ)と呼ばれる部分で、1分間に60~80回の電気刺激を発生させて、心臓を規則正しく収縮させています。この電気刺激が正常に働かなくことによって、拍動のリズムが乱れる不整脈が生じます。

房室回帰性頻拍の多くの原因としては、右心房と右心室、左心房と左心室の間にケント(Kent)束と呼ばれるバイパス(副伝導路)が存在することによって、電気刺激の旋回(空回り、リエントリー)が起こることが挙げられます。

通常は洞結節から発した電気信号は心房を経由して心室へと伝達されますが、この疾患では電気信号が通常のルートのほかケント束を経由する2つのバイパスを伝わるため、一度心室に伝わった電気刺激がバイパスを伝わって再び心房に戻ってしまう時に頻拍が起こります。電気刺激が回路を旋回し続けてしまい、心房と心室が絶え間なく拍動し、頻脈性の不整脈となってしまいます。

主な症状は、脈が突然速くなったり、動悸(どうき)が突然生じたり消えたりします。さらに、胸部に違和感があります。頻拍が長時間続くと、心機能が低下してうっ血性心不全になる場合もあります。

しかし、バイパスがあっても症状が出る人は一部で、多くは健康診断などで発見されるまで、自覚症状がないため気付かずにいます。

従来は危険性のそれほどない疾患として高血圧、高脂血症、肥満、喫煙等の生活習慣をコントロールすることで改善されることがあるとだけされてきましたが、1980年代からの研究により、心房細動から心室細動に移行したケースがあることが判明し、危険な不整脈であると位置づけられたため、発作がみられた場合は即座に循環器科、内科循環器科、内科などの医師に診察してもらう必要があります。

房室回帰性頻拍の検査と診断と治療

循環器科、内科循環器科、内科などの医師による診断では、心電図検査で房室回帰性頻拍が見付かり、危険度の高いタイプかどうかもわかります。

循環器科、内科循環器科、内科などの医師による治療では、動悸がない場合は、治療は必要ありません。

脈拍数が150回以上で、突然始まって突然止まる動悸、あるいは全く不規則に脈が打つ動悸がある危険度の高い場合は、不整脈を抑える薬を飲み続けて発作を抑えます。カテーテル焼灼法(カテーテルアブレーション)といって、鼠径(そけい)部などから管を挿入し、バイパス部分を焼いてしまう根治療法も行われています。

危険度の高いタイプでなければ、経過をみていけばいいのですが、禁煙と肥満解消を心掛け、食事などによる高血圧や高脂血症の予防と改善が大切です。過激な運動、過労や睡眠不足、不摂生、強いストレスなどは発作の引き金になるので注意が必要です。

🇭🇷紡錘細胞性母斑

一般に子供の顔面に多く発現し、急速に大きくなる良性の腫瘍

紡錘細胞性母斑(ぼはん)とは、特に顔面に、また小児に多く発現する腫瘍(しゅよう)のこと。最初の報告者の名前をとってスピッツ母斑、あるいは若年性黒色腫、若年性良性黒色腫とも呼ばれます。

腫瘍といっても、ほくろのがんと呼ばれることもある悪性黒色腫(メラノーマ)とは違って良性です。青壮年にできることもありますが、主に3~13歳の幼児や小児にでき、突如として顔面に現れると、急速に1センチ程度まで大きくなるという特徴があります。

一見すると、ほくろのように思えることもありますが、色がやや淡い淡紅色から淡紅褐色のことが多いことや、円形や楕円(だえん)形に盛り上がった部位の表面が滑らかで、光沢があるという特徴を持っています。また、病変の周囲が赤みを帯びることもあります。傷付いたり、出血しやすく、黒褐色の色素沈着を伴うこともあります。

顔面だけではなく、ほかの部位にできることもありますし、皮膚のすべての部位にできる褐色から青黒色、あるいは黒色の色素性母斑(母斑細胞性母斑)の病変内に、紡錘細胞性母斑ができることもあります。

原因は、色素性母斑と同じとされていて、メラニンを作る機能を持っているメラノサイトが表皮や真皮の境界部で、集中してしまうことが挙げられています。

紡錐細胞性母斑で悪性化することはありませんが、悪性黒色腫との区別が難しいともいわれているので、見極めが重要になってきます。ただし、この見極めは素人には困難だとされているので、皮膚科や皮膚泌尿器科、形成外科で検査してもらい、慎重な対応をしていくことがポイントになります。

紡錘細胞性母斑の検査と診断と治療

医師による紡錐細胞性母斑の診断では、見た目だけでは迷うことが多く、最終的には切除した組織の病理検査で確定診断します。組織学的には、著しく色素沈着した真皮表皮接合部に、深部へと広がる多核巨大細胞、類上皮細胞様細胞、長い紡錘状細胞など混在する細胞が認められます。

鑑別すべき他の疾患として、悪性黒色腫のほか、化膿(かのう)性肉芽腫、偽リンパ腫があります。

医師による治療では、外科的切除が一般的です。切除は、紡錐細胞性母斑を紡錐形(木の葉型)に切り取って縫合をします。目立ちにくい、しわの方向に切除して形成外科的な縫合をするため、傷跡はできるものの、それほど目立たなくなります。

切除した組織の病理検査が必要になるケースが多いため、ほとんどの組織が焼き消えてしまうレーザー治療は通常、行われません。

🇭🇷乏精子症

男性の精液に含まれ、卵子と結合して個体を生成する精子の数が少ない状態

乏精子症とは、男性の精液の中に含まれる精子の数が正常よりも極端に少ない状態。ただし、国際保健機関(WHO)の基準により、精子の数だけでなく精子濃度、精子運動率、奇形率などを総合的にみて、乏精子症と見なすこともあります。

男性の精液の大部分は、陰茎の奥にある前立腺(ぜんりつせん)と、その前立腺の奥にある精嚢腺(せいのうせん)で作られ、前立腺成分が約20パーセント、 精嚢腺成分が約70パーセントを占めます。そのほかにも、精巣(睾丸〔こうがん〕)や精巣上体(副睾丸)、精管でも一部作られます。

運動能力を持ち、卵子と結合して個体を生成する男性の精子のほうは、精巣の中で精原細胞から分化して作られ、精子を運ぶ精管が精巣のすぐ近くで膨れている精巣上体において成熟し、精嚢腺と前立腺で分泌された精液と一緒になって、尿道に出ていくのが射精です。射精によって精液が尿道から出ていく際には、最初は主に前立腺からの成分、続いて精嚢腺からの成分が出ていきます。

乏精子症は男性不妊症の原因となり、夫婦生活による自然妊娠を難しくすると考えられます。その程度により、軽度乏精子症、中等度乏精子症、重症度乏精子症に分けられます。

精子の数の正常値は1ml当たり6000~8000万以上であり、約5000万の場合は軽度乏精子症、1000万以下の場合は中等度乏精子症、100万以下の場合は重症度乏精子症に相当します。自然妊娠には精子の数が4000万以上あることが望ましいとされるものの、数100万で自然妊娠することも、ごくまれにあります。

乏精子症の原因には、精巣の静脈に血液が逆流することで起きる精索静脈瘤(りゅう)、あるいは、精巣の働きの悪さから精子が作られにくい造精機能障害などがあります。詳細に検査をしても、原因が判明しない特発性造精機能障害によることも多くみられます。

造精機能障害を起こす原因疾患としては、X染色体が1つ以上多いクラインフェルター症候群などの染色体異常症、脳下垂体と視床下部の障害による性腺刺激ホルモンの低下、おたふく風邪による精巣炎、高プロラクチン血症による精子形成の低下、薬の副作用による性腺刺激ホルモンの低下などがあります。

精索静脈瘤は、精巣の上の精索部の静脈が拡張し、静脈瘤ができた状態。後天性の乏精子症、男性不妊症の主要な原因となっています。

静脈には、血液の逆流を防ぐ弁があります。精索内の静脈弁に障害があると、腎(じん)静脈から内精索静脈へ血液が逆流することにより、陰嚢(いんのう)上部にある精索の静脈(蔓〈つる〉状静脈叢〈そう〉)が蛇行して、こぶ状に拡張し、うっ血します。その程度が強い場合は、陰嚢内に腫瘤(しゅりゅう)を形成します。

この精索静脈瘤の大部分は、左側に生じます。左側の精索静脈は右に比べて長く、左の腎静脈へと合流していますが、還流障害が生じて静脈血が停滞、逆流する原因としては、静脈弁の先天性不全や、左腎静脈が上腸間膜動脈により圧迫されることが考えられています。

精索静脈のうっ血により、陰嚢内の温度が上昇して、体温より2度ほど低い温度でよく機能する精巣の発育不全、委縮、機能低下、精子の形成不全、男性ホルモンを作るライディッヒ細胞の機能の低下などを引き起こして生殖機能が損なわれることで、乏精子症、男性不妊症の原因になります。

精索静脈瘤は、一般の健康な青年男性の10〜15パーセントに認められるのに対し、男性不妊症の人では20~40パーセントと高率に認められます。思春期以降に多くみられますが、小児にもみられます。大抵は無症状です。時には、陰嚢や鼠径(そけい)部の痛みや突っ張り感などの不快な症状を生じる場合もあります。

乏精子症の検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断では、間隔を空けながら精液検査を数回行い、射出精液中に存在する精子の数が常に正常値を下回る場合に乏精子症と判断します。

精索静脈瘤に対しては、視診と触診を行い、精巣の上部に腫瘤を触れたり、陰嚢や鼠径部の痛みを認めることもあります。数分間立位して腹圧をかけると、静脈の拡張がはっきりします。立位で容易に静脈瘤が触知できたり、陰嚢皮膚ごしに静脈瘤が見えることもあります。片側の精巣サイズが小さいこともあります。アイソトープを使った診断法もありますが、通常は視診、触診と超音波検査で十分診断できます。

泌尿器科の医師による治療では、明確な原因の判明しない乏精子症のケースでは効果的な治療が難しいため、軽度乏精子症の場合には人工授精、中等度乏精子症の場合には体外受精、重症度乏精子症の場合や受精しにくい場合には顕微授精を用いて、妊娠を期待するのが一般的です。

精索静脈瘤の場合は、精液所見が悪い成人男性でいずれ子供が欲しいと考えているケースや、陰嚢や鼠径部の痛みや違和感があるケースで、外科手術を行います。 思春期の男性でも、片側の精巣サイズが小さくなっているケースには、将来の不妊を予防するため手術が考慮されます。片側の精巣サイズが小さくなっていない場合は、年1回の診察と精液検査を行います。

外科手術では、病変のある静脈を縛る結紮(けっさつ)を行います。手術により、精液所見は60~70パーセントで改善し、30~50パーセントでパートナーの妊娠が得られるといわれています。手術後の精液検査は、3カ月後に行われます。精子の作り始めから精子として射出されるまで、約3カ月かかるためです。

何らかの原因により性腺刺激ホルモンが低下し、造精機能が障害されている場合には、ホルモン補充療法を行い、精巣で精子が作られるようになることを期待します。

🇭🇷蜂巣炎(眼窩蜂窩織炎)

目のくぼみへ細菌が入り、眼球に起こる急性の炎症

蜂巣(ほうそう)炎とは、目のくぼみに入っている眼球に起こる急性の炎症。眼窩蜂窩織(がんかほうかしき)炎、眼窩蜂巣炎とも呼ばれます。

眼球は、筋肉や脂肪組織に包まれて、骨で取り囲まれた目のくぼみである眼窩内に入っています。この眼窩内に病原菌が侵入すると、眼球の周囲や後部が脂肪組織を中心として強い炎症を起こし、化膿(かのう)した状態になります。急性の細菌感染症であり、起炎菌としては黄色ブドウ球菌が多いと見なされています。

最も多い原因は、副鼻腔(びくう)からの蓄膿(ちくのう)症などの炎症の波及です。次いで多いのは、耳や歯の化膿性炎症の波及です。そのほか、ものもらいや涙嚢(るいのう)炎など目の周辺の炎症、外傷によって刺さった眼窩内異物が原因となる場合もあります。

急に目が赤くなり、まぶたもはれて赤くなり、強い痛みを伴います。まぶたを触るとより痛く、時には眼球が後ろから押されるように飛び出し、眼球の動きも障害されます。重い場合には、炎症が眼球の周囲や後部から眼球内に波及し、視力障害が生じたり、 物が二重に見える複視が生じたりすることもあります。

全身的には発熱、全身倦怠(けんたい)感、頭痛、吐き気などの症状がみられます。まれに、髄膜炎、海綿静脈洞血栓症を引き起こすので、油断できません。

蜂巣炎の検査と診断と治療

外傷によって細菌が付着した異物が刺さった時はもちろんですが、目やまぶたが赤くなって激痛を伴っている時は、入院も覚悟して早急に眼科を受診します。手遅れになると、生命の危険が生じるケースもあります。

専門の医師は、目を見ただけである程度の診断は可能ですが、まず急性結膜炎と区別します。視力を測定し、次には、眼球内に炎症が波及していないかを観察する細隙灯(さいげきとう)顕微鏡検査を暗室で行います。緊急にCT、MRIなどの画像撮影も行い、眼窩内の病状を把握すると同時に、副鼻腔などの状態をチェックして炎症の原因となった細菌がわかれば、薬剤に対する感受性検査を行います。

蜂巣炎の治療では、点滴などで全身的に大量の広域抗菌剤の投与を行います。黄色ブドウ球菌などの起炎菌が特定された場合は、感受性のある抗菌剤を用います。切開して膿(うみ)を出すこともあります。周囲の副鼻腔、耳、歯などの炎症が原因の時は、それぞれの専門医に治療を依頼し、原因となる疾患の除去を図ります。

🇷🇴包虫症(エキノコックス症)

条虫の一種である包虫によって引き起こされる寄生虫病

包虫症とは、条虫の一種である包虫によって、引き起こされる寄生虫病。エキノコックス症、エキノコッカス症とも呼ばれます。

この包虫症には、単包虫(単包条虫)による単包虫症(単包性エキノコックス症)と、多包虫(多包条虫)による多包虫症(多包性エキノコックス症)の2つがあります。単包虫症はシベリア、南米、地中海地域、中東、中央アジア、アフリカ、アメリカ、およびカナダに発生し、日本では輸入感染症とされています。一方、多包虫症は20世紀以降に北海道に定着したと考えられ、現在、北海道全域で流行しています。

北海道ではキタキツネが最も重要な感染源で、約60パーセントのキタキツネが感染していると報告されています。北海道で飼育されているイヌでも、1パーセント以上が感染していると報告されています。最近、本州でも多包虫症が報告されていますが、その感染ルートは不明です。

包虫の成虫は体長1センチ以下と小さく、キタキツネやイヌの小腸に寄生しています。虫卵はそれらの動物の糞便(ふんべん)と一緒に排出され、虫卵が混じった水や食物を人が摂取したり、成虫が寄生しているイヌとの接触によって虫卵を経口摂取すると、感染が成立します。虫卵から放出された幼虫は腸壁に侵入し、血流あるいはリンパ流に運ばれて主に肝臓に寄生し、そこで成虫になって増殖します。

包虫の増殖は遅く、感染してから小児では5年以上、成人では10年以上の長期に渡って無症状ですが、包虫が増殖してスポンジ状の大きな病巣を形成するようになります。肝臓に寄生している場合、肝臓がはれて上腹部に痛みを感じるようになり、黄疸(おうだん)の症状が出て、皮膚の激しいかゆみ、腹水をもたらすことがあります。

また、包虫は脳や肺などの臓器や骨に転移することがあり、脳転移では神経症状が現れます。症状が現れてから治療せずにいると、5年後で70パーセント、10年後で90パーセント以上のの発症者が死亡します。

包虫症の検査と診断と治療

包虫症を放置した場合の生存率は低いため、発症前の診断と治療開始が重要です。医師による診断は、血清検査と画像検査を併用して行われます。

治療においては、外科的な手術で病巣を切り取るのが有効です。しかし、自覚症状が出現した時点では、もはや切り取れないことが多く、病巣の位置と発症者の状態から切り取るのが困難な場合もあります。手術が困難な場合には、アルベンダゾールなどを駆虫剤として投与します。

感染初期には無症状なので、予防が最も大切です。北海道の各市町村の保健所では、住民の包虫(エキノコックス)血清検査を無料で実施していますので、キタキツネや感染犬と接触のある人は血清検査を受けます。

北海道への旅行者は、キタキツネと接触しないことが大切です。キタキツネのすんでいる地域では、土や草木などに触れたら手を十分に洗ったり、沢水や井戸水を生で飲まないなど、虫卵が口に入らないように気を付けます。包虫は熱には弱く、60度10分間の加熱で死滅するため、現地で採った山菜などはよく洗うか火を通して食べるなどの予防法もあります。

🇸🇦ボーエン様丘疹症

ヒト乳頭腫ウイルスが感染して、性器にいぼができる疾患

ボーエン様丘疹(きゅうしん)症とは、主にヒト乳頭腫(にゅうとうしゅ)ウイルス(ヒトパピローマウイルス)16型が感染して、性器や肛門(こうもん)周囲などにいぼができる疾患。ボーエン様丘疹症は皮膚科での呼び名で、婦人科では外陰上皮内腫瘍(しゅよう)と呼ばれます。

性行為感染症の1つとされており、一般に20~30歳代の性活動が盛んな年代に多くみられ、ヒト乳頭腫ウイルスがセックスの時などに感染することで起こります。性的パートナーがウイルスを体内に保有しているキャリアならほぼ感染するほど、ヒト乳頭腫ウイルスの感染力は強く、皮膚や粘膜との直接的または間接的な接触により感染し、唾液(だえき)、血液、生殖器からの分泌液などの体液からは感染しません。

感染後3週間から6カ月程度で、性器に2ミリから1センチくらいの黒褐色のいぼ、すなわち丘疹が多発します。個々の丘疹が癒合して、大きな平面状になることもあります。

同じ性行為感染症の1つで、ヒト乳頭腫ウイルス6型と11型が感染して、性器に1ミリから3ミリくらいのカリフラワー状の丘疹を生じる尖圭コンジロームと、区別が付きにくい場合もあります。混合感染して、ボーエン様丘疹症と尖圭コンジロームを一緒に発症することもあります。

また、ボーエン様丘疹症の病変は、病理組織学的にはボーエン病の病変に類似しているとされています。ボーエン病は、境のはっきりした褐色の色素斑(はん)が体幹や四肢に好発する皮膚病で、かなり高い確率で将来がんに移行し得る皮膚がん前駆症の一つです。

しかし、比較的若い人に生じたボーエン様丘疹症が悪性化することは少なく、90パーセントは体内の免疫力で数カ月から3年以内で、ウイルスは自然消滅します。

10パーセントはウイルスが細胞の中に残り、その中の10パーセントから20パーセントは悪性で、さらにその中の10パーセントは子宮頸(けい)がんや口腔(こうくう)がん、舌がん、喉頭(こうとう)がん、肛門がんを発症するリスクがあります。

ボーエン様丘疹症の受診科は、泌尿器科、性病科、皮膚科、婦人科(女性)となります。

ボーエン様丘疹症の検査と診断と治療

泌尿器科、性病科、皮膚科、婦人科の医師による診断では、皮膚症状から視診で判断し、似たような尖圭コンジロームや、梅毒でみられる扁平(へんぺい)コンジロームなどのほかの疾患と鑑別します。判断が難しい場合は、いぼの一部を切除して顕微鏡で調べる組織検査で判定することもあります。時には、血液検査で梅毒ではないことを確認することもあります。

泌尿器科、性病科、皮膚科、婦人科の医師による治療では、一緒にできることもある尖圭コンジロームの場合と同じで、いぼが小さくて少数なら、局所免疫調節薬であるイミキモド軟こう、ポドフィリン液、5−FU軟こう、尿素軟こうなどの塗り薬も効果があるといわれています。

一般的には、液体窒素による凍結凝固や、レーザー、電気メスによる焼灼(しょうしゃく)が有効です。改善しない場合や悪性化が疑われる場合は、外科的切除も考慮します。

診断が確定したら、きちんと治るまで性行為は控えるか、コンドームを使用するようにします。また、子宮頸がんなどの発症の可能性があるという観点から、治癒が確認できるまで治療、あるいは経過観察を怠らないようにすべきです。ヒト乳頭腫ウイルス16型に長期間感染していると、子宮頸がんを発症する可能性があると考えられています。

なお、ボーエン様丘疹症を生じた男性の性的パートナーである女性は、子宮頸がんの発症に注意し、検診を定期的に行うことが勧められます。

🇵🇰ボーエン病

かなり高い確率でがんに移行し得る皮膚がん前駆症の一つ

ボーエン病とは、境のはっきりした褐色の色素斑(はん)が体幹や四肢に好発する皮膚病。1912年のジョン・T・ボーエン医師の論文から、命名された疾患です。

このボーエン病は、かなり高い確率で将来がんに移行し得る皮膚がん前駆症の一つであり、狭義には表皮内がんと同じです。表皮内がんというのは、がん細胞が皮膚の浅いところにだけあり、この状態では転移の心配はありません。

しかし、放置していて進行すると、皮膚の深いところである真皮内に、がんが浸潤し体をむしばむ可能性があります。それも広い意味でボーエン病ですが、区別してボーエンがんと呼ぶこともあります。さらに進行すると、リンパ節転移や内臓転移を起こし、ついには死に至ります。

ボーエン病は大人、特に60歳以上の高齢者に発症します。原因は、日光照射、ヒ素中毒、エイズを含む免疫抑制状態、ウイルス感染、皮膚傷害、慢性皮膚炎などです。

典型的な症状は、境界が鮮明で、不整形の褐色の色素斑が現れ、上にかさぶたがつき、皮がめくれたりします。有色民族の場合は褐色ですが、白人の場合は紅斑が現れます。かゆみはないものの、湿疹(しっしん)や乾癬(かんせん)のような皮膚病と間違いやすいものです。

日光の紫外線の影響による場合は、皮膚の露出部に色素斑が現れます。ヒ素やその他の影響による場合は、皮膚の露出部にも現れるとともに、服に覆われている体幹部や下肢、陰部が好発部位となります。

放置すると、症状が不変の場合もありますが、通常は徐々に拡大します。単発の場合もありますが、多発例も10~20パーセント程度あり、ヒ素による場合は、手のひらと足の裏の角化、体の色素沈着と点状白斑、つめの線状色素沈着などの皮膚症状がみられ、皮膚以外にも肝がん、肺がん、膀胱(ぼうこう)がんなどの内臓悪性腫瘍(しゅよう)を合併します。原因が飲料水のヒ素汚染の場合は、地域的に多数発生します。

ボーエン病の検査と診断と治療

かゆみのない褐色の色素斑ができているのに気付いたら、一度、皮膚科専門医を受診します。

専門医が視診すると診断がつくことが多いのですが、湿疹や乾癬など他の皮膚病との鑑別は必ずしも簡単ではありません。確実に診断するためには、病変の一部を切り取って組織検査をすることが必要です。

ボーエン病と診断されれば、合併率が高い内臓悪性腫瘍の検査も同時にする必要があります。多発性ボーエン病では、ヒ素中毒などを除外するための検査も必要です。

ボーエン病の治療としては、初期なら手術で病変を切り取れば、完治することがほとんどです。病変が小さければ切り取った後、傷を直接縫い合わせて閉じることもあります。病変が5センチとか10センチ以上では、切り取った後の皮膚欠損が大きく、複雑な形となり、直接縫合することができないこともあります。そういう場合は、植皮術や皮弁形成術で修復が可能です。

表皮内がんより進行したボーエンがんである場合は、病変の切除と植皮や皮弁で修復することに加え、リンパ節廓清(かくせい)術を組み合わせることがあります。また、状況により放射線療法、抗がん剤の投与、レーザー焼灼(しょうしゃく)、液体窒素による冷凍凝固療法などが行われることがあります。

病変を切り取った後の傷跡に、拘縮(こうしゅく)や外観の問題が生じることがあります。その場合、形成外科的な手法による改善が検討されます。病変の取り残しがないことや再発の有無をみるため、治療後も定期的な経過観察が必要です。

2022/08/16

💅ボーズライン(爪甲横溝)

つめの甲を横に走る溝状の変化

ボーズラインとは、つめの甲を横に走る水平の溝や波打った溝ができる状態。爪甲横溝(そうこうおうこう)、コルゲーテッドネイルとも呼ばれます。

つめに横溝ができるのは、つめの発育を抑えるような障害がつめを作り出す爪母に作用するためで、その障害の強さや期間によって深さや幅が変わってきます。非常に障害が強く加わると深くなり、期間が長くなると幅が広くなります。

初めに、爪半月(つめはんげつ)の外側の当たりに横溝が現れ、つめの発育とともに先端に移動して行きます。この横溝は爪母に障害が加わってできるものですから、現れるのは障害が加わってから数週間後です。現在できている横溝の位置から、いつごろ障害が起こったのか推測することは簡単です。また、1本のつめに横溝が2~3本同時に見られる場合は、正常な期間をおいて繰り返し障害が加わったと考えらます。

もしも、つめの横溝ができる原因が全身性疾患によるのものであるなら、すべてのつめの同じ場所に変化が見られます。一部のつめの変化の時は、爪母近くの皮膚の病変の影響が考えられます。 また、つめの根元にけがをしたり、マニキュアや薬剤によって爪母を傷付けた時に変化が見られることもあり、この時はつめの甲が凸凹になる場合もあります。

つめの横溝が生じる原因となる全身性疾患としては、急性熱性疾患のほか、尿毒症、糖尿病、ビタミンA欠乏症、低カルシウム血症、亜鉛欠乏症などの慢性疾患が挙げられます。皮膚の疾患としては、湿疹(しっしん)、皮膚炎、円形脱毛症、乾癬(かんせん)などが挙げられます。

さまざま原因がある中で、最も多いのは高熱で発病して、1~2週間で治るチフス、猩紅(しょうこう)熱などの感染症や、中毒の場合です。慢性疾患では代謝異常による疾患が多く、疾患が一時的に悪化した後に現れ、溝は浅く幅が広いのを特徴とします。

皮膚の疾患で最も多いのは、手の湿疹。手の湿疹の大部分は水仕事の多い主婦によくみられて、治りにくい慢性的な湿疹であり、つめの周辺の病変が急激に悪化して爪母にまで広がった場合に、横溝が生じます。これと同様な症状で、化膿(かのう)性爪囲炎(ひょうそう)やカンジタ菌による爪囲炎の時にも生じ、いずれもつめ周辺の疾患が治れば自然に消えて行きます。円形脱毛症や乾癬の時には、点状の凹みと同様に横溝も現れることがあります。

また、レイノー症状に伴って、横溝が現れることもあります。手が冷たい水や風に触れた時に、指が白くなる現象がレイノー症状であり、若い女性に多くみられて、指の小さな動脈が一時的に狭くなって血液が流れにくくなるために起こります。指先に血液が行かなくなると、つめの発育の障害になり、それが強く起こると横溝が現れます。何度も繰り返してレイノー症状が起こると、一枚のつめに何本もの横溝ができることもあります。

ボーズラインの検査と診断と治療

つめに横向きの溝ができるボーズラインは、一時的に爪母が障害されたために起こる場合がほとんどです。つめが形成される時期に体に何か異常があったということを示しているもので、現在の異常な状態を示すものではありません。過去、数週間から数カ月前に起こった異常の結果を見ているというわけなので、あまり気にしなくてもよいと思われます。

すべてのつめに変化が見られる全身性の慢性疾患があれば、その治療を行います。一部のつめの変化がみられる皮膚の疾患があれば、その治療を行います。

🇲🇭ボーダーライン

対人関係や情緒の不安定、衝動性に特徴を持つ人格障害

ボーダーラインとは、思春期または成人期に生じる人格障害。境界性人格障害、境界型人格障害、境界性パーソナリティー障害、境界例などと呼称されることもあります。

もともとは精神分析治療の場から生まれてきた概念で、当初は神経症と精神病の中間領域にある病態を指していましたが、次第に概念が明確になり、1980年代に入ってから一般的な診断の対象として普及してきた障害です。

疫学調査では人口の1~2パーセント程度にボーダーラインが存在するといわれ、最近は増加傾向にあります。ほかの人格障害と比べても発症者が多く、決して珍しい障害ではありません。男性よりも女性に多く、年齢は20~30歳代がピークになります。これには、女性ホルモンの影響による気分変動の起こりやすさが関係していると考えられています。なお、年齢を重ねると、状態は落ち着いていく傾向が認められます。

原因としては、遺伝的要因と環境的要因の相互作用により現れてくると推定されています。遺伝的要因には先天的な脳の脆弱(ぜいじゃく)性、環境的な要因には幼少期の身体的虐待、性的虐待、過干渉、機能不全家庭などの経験があります。

ボーダーラインの人の特徴として、慢性的抑うつ感、空虚感、情緒不安定性、対人関係の不安定さ、衝動性などが挙げられ、現れる症状はさまざまです。一定の感情を保持することが難しいため、元気でいたかと思うと急に落ち込みます。怒りに対する耐性が低いこともあって、対人関係は非常に不安定で、衝動に駆られて激しい怒りを身近な人にぶつけたり、ほめていた相手を急にこき下ろしたりします。

また、愛する人や大事な人に見捨てられるという不安を絶えず抱えていて、 不安感を解決させるために、自我の内部で自己の評価を上げることもあります。対人関係の不安定さを回避しようと、引きこもりのような状態になることもあります。窃盗や万引き、過度の買い物などで、不安感を消そうとする行動に出る場合もあります。手首を切る、大量服薬するなどの自殺企図も、多々みられます。

アメリカ精神医学会による診断基準DSM−IV(「精神障害のための診断と統計のマニュアル」第4版)の診断基準では、ボーダーラインは以下9項目のうち5つ以上を満たすこととなっています。

1、見捨てられ不安。2、理想化とこき下ろしに特徴付けられる不安定な対人関係。3、不安定な自己像または自己感にみられる同一性の障害。4、自己を傷付ける可能性のある衝動性。5、自殺企図。6、感情不安定。7、慢性的な空虚感。8、怒りの制御の困難。9、一過性の妄想様観念または解離性症状。

ボーダーラインの検査と診断と治療

ボーダーライン(境界性人格障害)の症状が自分に該当する場合は、早めに信頼できる治療者を見付け、治療を継続していくことが大切となります。まずは、治りたいという気持ちを持つことが必要で、自分自身が変わりたいと思わないと治療はうまくいきません。周囲の人が無理やり受診させても治療がうまくいかないことが多く、通院も続きません。

医師による診断では、発症者の状態、成長過程での変化などをみていきます。家族に立ち会ってもらったり、心理テストを行ったりすることもあります。また、発症者自身が障害とその治療について勉強することも大切です。医師や薬への依存だけでは根本的に回復しないということを理解し、しっかりと治療への動機付けを行う、治療目標を設定する、最低限のルールを決めるといったことが必要になります。対人関係の面で医療スタッフと衝突することもあり、あらかじめルールを決めることで、できないことをはっきりさせ、発症者の欲求のままの行動や治療の混乱を防ぎます。不適切な行動がみられた場合は、やむなく治療の中断や入院治療へ切り替わることなどがあります。

ボーダーラインの治療には数年、あるいはそれ以上の長期間を必要としますが、今日では外来通院や、デイケアなどの中間施設の利用、および短期の入院が治療の主流で、長期の入院治療は重篤な症例を除き行われなくなってきています。一般に、30歳を過ぎると社会適応は改善する場合が少なくなく、この年齢まで自殺を予防し、生存を確保することが、治療上重要とされます。

ボーダーラインの実際の治療では、精神分析的精神療法、認知行動療法などの精神療法を主体とし、薬物療法が併用されます。不眠や不安、急激な怒りなどを薬によってある程度抑えることはできますが、向精神病薬はあまり効きません。あくまでも、精神療法が治療の柱となります。

精神療法では、心の内面を探り、問題の在りかと解決策を探ります。自分の気持ちをコントロールし、もっと楽に人間関係を築けるようにすることが目的です。まずは、治療の具体的な目標を定めます。ここでは、学校に行く、仕事に就くといった具体的な行動を定めることが大切です。

そして、なぜ問題行動が起こるのか、問題行動によって不安や恐怖から逃れることができたのかどうか、を本人に考えてもらいます。その時の気持ちを自分の言葉で表すことで結果を振り返り、問題行動が何も解決しないということを認識します。また、よい自分、悪い自分、大人の自分、幼い自分など、どんな自分も本人の大切な一部であると考えられるようにします。そのことで、ほどほどの感覚が身に着き、自分を受け入れられるようになります。

病院での精神療法は、週1回程度、1回につき30分~1時間程度かけるのが一般的です。精神分析的精神療法は性格の育て直しや自己洞察のために、行動療法やリミット・セッティングは行動を変えていくために、認知療法は物の考え方を変えるために、グループ精神療法は人間関係の改善のために行われ、人によっては大変有効ながら、有効でない人も少なくありません。最近では、認知行動療法を修正した弁証法的行動療法(DBT)が、自殺や衝動行為の制御に有効性が高いという報告もあります。

うつ、感情のコントロールの悪さ、気分の変動、不安、衝動の強さ、不眠といった症状を和らげるために、対症的に薬物療法が用いられることは少なくありません。実際、9割以上の人は、薬による治療を受けているといわれています。薬の種類や量は、発症者の状態によって異なります。薬には副作用がありますので、必ず医師の指示どおりに服用します。

抗精神病薬は、 焦燥感や怒りの感情を静める効果があり、衝動性を抑えるのに役立ちます。代表的なものにリスペリドン、オランザピン、クエチアピン、ペロスピロンなどがあります。SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)は、シナプス内のセロトニン濃度を選択的に上げる薬で、うつがある時に使用されます。代表的なものにフルボキサミン、パロキセチン、セルトラリンなどがあります。抗けいれん薬も、衝動性の抑制のためにしばしば使用されます。

生活の仕切り直しを目的に、短期の入院治療も行われます。自傷行為や自殺企図などの問題行動が激しい時、うつなどがひどくて治療に通えない時、暴力などで家族の負担が重い時、発症者自身に休息が必要な時などに入院治療が適応になります。病院に押し込めるというイメージがありますが、発症者だけでなく家族にとっても入院が望ましいこともあるので、肯定的に捕らえるようにします。入院生活では、定期的に医師の診察を受け、薬の調整などを行って生活します。状態がよくなれば、医師や本人、家族と相談して退院を考えます。退院後のことも、入院中にしっかりと話しておきます。

家族が積極的に治療に関わることで、治療の結果も異なります。発症者と家族が一緒に面接を受ける、発症者と家族がそれぞれ面接を受ける、数家族が集まって行うグループミーティングに参加するなど、家族が治療に関わることでよい結果が生まれやすくなります。家族も現状を理解し、対応を見直すことで、発症者と程よい距離を保ち、発症者本人にとって良い環境を作ってあげることが大切です。

発症者が社会復帰を図るためには、病院やクリニックなどで行われるデイケアなどの社会療法も、有効な手段と考えられています。発症者が対人関係でトラブルを抱えるのは、適切な社会的行動が取れていないからです。発症者が集い、一緒にさまざまな活動をすることによって、実社会に戻る練習ができます。ある程度落ち着いてきたら、デイケアの利用も考えられます。

🟪インフルエンザの患者数が注意報の基準を超える 新型コロナと同時に流行ピークの恐れも

 インフルエンザの感染状況について、厚生労働省は20日、全国約5000の定点医療機関から9〜15日の1週間に報告された感染者数が1医療機関当たり19・06人だったと発表しました。前週(9・03人)と比べ2・11倍に急増し、「注意報」の基準の10人を超まし た。  都道府県別では...