条虫の一種である包虫によって引き起こされる寄生虫病
包虫症とは、条虫の一種である包虫によって、引き起こされる寄生虫病。エキノコックス症、エキノコッカス症とも呼ばれます。
この包虫症には、単包虫(単包条虫)による単包虫症(単包性エキノコックス症)と、多包虫(多包条虫)による多包虫症(多包性エキノコックス症)の2つがあります。単包虫症はシベリア、南米、地中海地域、中東、中央アジア、アフリカ、アメリカ、およびカナダに発生し、日本では輸入感染症とされています。一方、多包虫症は20世紀以降に北海道に定着したと考えられ、現在、北海道全域で流行しています。
北海道ではキタキツネが最も重要な感染源で、約60パーセントのキタキツネが感染していると報告されています。北海道で飼育されているイヌでも、1パーセント以上が感染していると報告されています。最近、本州でも多包虫症が報告されていますが、その感染ルートは不明です。
包虫の成虫は体長1センチ以下と小さく、キタキツネやイヌの小腸に寄生しています。虫卵はそれらの動物の糞便(ふんべん)と一緒に排出され、虫卵が混じった水や食物を人が摂取したり、成虫が寄生しているイヌとの接触によって虫卵を経口摂取すると、感染が成立します。虫卵から放出された幼虫は腸壁に侵入し、血流あるいはリンパ流に運ばれて主に肝臓に寄生し、そこで成虫になって増殖します。
包虫の増殖は遅く、感染してから小児では5年以上、成人では10年以上の長期に渡って無症状ですが、包虫が増殖してスポンジ状の大きな病巣を形成するようになります。肝臓に寄生している場合、肝臓がはれて上腹部に痛みを感じるようになり、黄疸(おうだん)の症状が出て、皮膚の激しいかゆみ、腹水をもたらすことがあります。
また、包虫は脳や肺などの臓器や骨に転移することがあり、脳転移では神経症状が現れます。症状が現れてから治療せずにいると、5年後で70パーセント、10年後で90パーセント以上のの発症者が死亡します。
包虫症の検査と診断と治療
包虫症を放置した場合の生存率は低いため、発症前の診断と治療開始が重要です。医師による診断は、血清検査と画像検査を併用して行われます。
治療においては、外科的な手術で病巣を切り取るのが有効です。しかし、自覚症状が出現した時点では、もはや切り取れないことが多く、病巣の位置と発症者の状態から切り取るのが困難な場合もあります。手術が困難な場合には、アルベンダゾールなどを駆虫剤として投与します。
感染初期には無症状なので、予防が最も大切です。北海道の各市町村の保健所では、住民の包虫(エキノコックス)血清検査を無料で実施していますので、キタキツネや感染犬と接触のある人は血清検査を受けます。
北海道への旅行者は、キタキツネと接触しないことが大切です。キタキツネのすんでいる地域では、土や草木などに触れたら手を十分に洗ったり、沢水や井戸水を生で飲まないなど、虫卵が口に入らないように気を付けます。包虫は熱には弱く、60度10分間の加熱で死滅するため、現地で採った山菜などはよく洗うか火を通して食べるなどの予防法もあります。
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