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2022/08/30

🇵🇱歯周病

■歯周病とはどのような病気なのか?■

歯を取り巻く組織にかかわる歯周病は、生活習慣病の一つとされていて、40歳以上の日本人の約8割が悩んでいると見なされています。歯と歯茎(はぐき)の間の歯肉に、細菌の塊(プラーク)が異常繁殖して炎症を起こし、歯肉炎→歯周炎→歯槽膿漏へと進行する病気です。

歯肉の腫れ、出血、膿が出ていると口臭を伴います。放置しておくと、最終的には歯が抜けてしまいます。

歯周病の原因となる細菌として、十数種類が発症に深く関係しております。歯茎より上で繁殖して、歯肉炎を起こす好気性菌(酸素が必要な細菌)としては、アクチノマイセス・ビスコーサス、アクチノマイセス・ネスランディ、アクチノバジルス・アクチノマイセテン、オイコネラ・コロデンス、キャプノサイトファーガ・オクラセアなどがあります。

歯茎より下で繁殖して、歯周病を起こす嫌気性菌(酸素が不要な細菌)としては、ポルフィノモナス・ジンジバリス、プレボテラ・インテルメディア、アクチノバチラス・アクチノミセテムコミタンス、ポルフィロモナス・ジンジバーリス、フソバクテリウム・ヌクレアトゥム、トレポネーマ・デンティコーラなどがあります。

最近の研究によれば、これらの歯周病菌が全身の病気を引き起こすのではないかと疑われ、糖尿病、ガン、心筋梗塞などとの関連性も明らかになっています。

歯周病菌が血管に入り込み、体内を循環するために糖尿病の悪化の原因、心筋梗塞の引き金になります。歯周病の患者さんは、歯周病のない患者さんに比べ致命的な心臓発作を起こす危険が約2.8倍、早産の確率が7.5倍高いようです。

歯周病を原因とする炎症が、心臓の冠状動脈に脂性沈殿物を付着させ、血管腔が狭くなります。そこで、心筋梗塞や心内膜を起こしやすくなるのです。誤嚥性肺炎(黄色ブドワ球菌や緑膿菌)も起こすようです。

■歯周病の予防法と治療法■

1日1度10分間のブラッシングを行いましょう。特に歯と歯茎との間をブラッシングしてプラークを除去することが、必要となります。糸ようじなどのデンタルフロスで歯と歯の間を掃除することも、大切です。歯科医で定期的に検診を受け、歯垢や歯石を除去しましょう。

また、常に口の中を清潔にし、細菌の繁殖を防ぐために偏食をなくし、規則正しい食事をとりましょう。過労、ストレス、睡眠不足、喫煙もなくしましょう。

歯周病の薬物治療としては、嫌気性細菌に有効な抗生物質を歯周ポケットに直接注入する方法があります。麻酔をしてメスで切開し、同時に抗生物質の投与を行います。この他、レーザーで細菌数を減少させ、炎症組織を焼き取る手術も行われています。

最近では、3DS(デンタル・ドラッグ・デリバリー・システム、歯科薬剤到達システム)と呼ばれる方法が実施されています。歯型に合わせた樹脂製のマウスピースの内側に薬剤を塗り、1日5分間歯にかぶせることにより歯周病菌を殺菌して減少させ、歯周病をなくす治療法です。

2022/08/27

🇧🇯口角炎

さまざまな原因により、唇の両端である口角部が切れたような状態になる炎症性疾患

口角炎とは、唇の両端である口角部が切れたような状態になる炎症性疾患。口角びらん、口角亀裂(きれつ)とも呼ばれ、俗にカラスの灸(きゅう)とも呼ばれます。

口角部の皮膚から粘膜にかけて赤くなり、次いで亀裂が生じて出血してただれ、潰瘍(かいよう)となります。そのうち、かさぶたで覆われます。普通は、左右の口角部に同時に生じることが多いようです。

大きく口を開けると痛みがあり、かさぶたがはがれて出血したりしますが、一般には2週間程度で治ります。

しかし、長期化して数カ月も治らないケースや、再発を繰り返すケースもあります。

直接的には、持続的な唾液による湿潤、連鎖球菌やブドウ球菌などの細菌の感染、真菌の一種であるカンジダ菌などの感染が原因となって、口角炎が起こります。

高熱の出る疾患、ビタミンB2やビタミンB6やニコチン酸などのビタミン欠乏、貧血や糖尿病などの重症の慢性疾患による衰弱など、全身的な疾患が誘因になることもあります。

また、胃腸などの消化器官の不調、体調の乱れ、ストレス、口腔内の不衛生が誘因になることもあります。

原因が複数あるため自分で見極めるのが危険なケースもあること、全身的な疾患が誘因となって長期化、再発化しているケースもあることから、症状がひどい場合は皮膚科、内科、歯科口腔(こうくう)外科などを受診することが勧められます。

口角炎の検査と診断と治療

皮膚科、内科、歯科口腔外科の医師による診断では、どの疾患がもとにあって発症したのかを調べます。病変部の皮膚を数ミリ切り取って調べる病理組織検査である皮膚生検は、もとの疾患が何かを知る上で有用です。

皮膚科、内科、歯科口腔外科の医師による治療では、もとの疾患があればそれを治すことが先決です。そうでないと、いったん治っても再発を繰り返します。

全身的にはビタミン剤や鉄剤の服用が有効であることが多いのですが、糖尿病によって抵抗力が低下している場合には、抗菌剤(抗生物質)や抗真菌剤の入った軟こうを口角に塗ったりもします。

細菌やカンジダ菌の感染が原因になっている場合も、抗菌剤や抗真菌剤の入った軟こうを口角に塗ります。

また、1週間くらいは大きく口を開けないように注意して生活することも必要です。心身の安静とバランスのとれた食事を心掛け、口唇と口腔内の清潔保持に努めることも必要です。

🇨🇫口腔異常感症

はれなどの異常が口腔内に存在しないのに、痛み、しびれ、乾燥感などの異常を感じる疾患

口腔(こうくう)異常感症とは、はれや炎症などの異常が口腔内に存在しないのに、痛み、しびれ、乾燥感、知覚過敏、違和感、異物感などの異常を感じる疾患。中でも多いのは、舌の表面には外見上の異常がないのに、舌に痛み、しびれなどを感じる症状で、これを特にに舌痛(ぜっつう)症といいます。

発症者の多くは女性で、年齢的には更年期を迎える40歳代、50歳代に多いのが特徴です。主に舌の先端や側面に、ヒリヒリした痛みや、焼けるような痛み、しびれ、違和感が現れ、長期間続きます。食事がおいしくない、本来の味がしないなどの味覚異常などを併発していることも、しばしばあります。

舌の痛みやしびれは我慢できないほどではないものの、1日中気になって 舌に意識が集中したり、精神的に緊張したりした時に、症状が出やすいようです。口の中が痛いので、イライラしたり、他のことをやる気がそがれたりすることもあります。

食事や会話には支障がないことが多いものの、食べ終わった後や長電話の後に、また午前中よりも夕方から夜にかけて舌の痛みやしびれが悪化する傾向があります。痛む部位が移動することもあり、唇や口蓋(こうがい)にヒリヒリした痛みが現れることもあります。ガムやアメなどを口に入れておくと、少し痛みが紛れることがあります。

不眠、肩凝り、頭痛など自律神経症状を伴うことが多い傾向もあります。

この口腔異常感症は歯科治療の後に発症することがしばしばあり、入れ歯や歯列矯正具が口に合わず物理的な刺激によって痛みが出たり、歯の治療に用いる金属のアレルギーが原因になっていることもあります。

また、別の原因として、生体内の微量金属である鉄、亜鉛、銅やビタミンB12が欠乏しても、舌の表面が荒れやすくなり、舌の痛みなどを生じやすくなります。 味覚異常を伴っている場合には、血液中の亜鉛欠乏が一因となっている場合もあります。

更年期の女性に多いことから、ホルモンのアンバランスや自律神経の変調なども関係があるとも考えられています。

2002年以降の研究では、ドライマウス(口腔〔こうくう〕乾燥症)も原因になっていると考えられています。ドライマウスでは、唾液(だえき)の分泌量の低下により口の中が乾燥します。口の中の乾燥は症状の進行程度により舌にも悪影響を及ぼし、舌の乾燥、舌の表面のひび割れ、味覚障害などさまざまな症状となって現れます。カンジダ菌という真菌の増殖による舌痛、口角炎も認められます。シェーグレン症候群からもたらされるドライマウスもあります。

薬物の服用によっても、ドライマウスが生じます。従来から、口腔異常感症の原因の大半は心身症あるいは心気症とされてきた関係で、舌の痛みに対する不安を取り除く心理面の治療として、精神安定剤(抗不安剤)、抗うつ剤、向精神剤などが処方されるケースが一般的でした。これらの薬物は、精神面での不安を和らげる効果があるものの、かえって症状が進行するケースもあります。

精神安定剤、抗うつ剤などには、唾液腺(せん)を支配している神経に作用し、唾液分泌量を低下させる作用があることが知られており、ドライマウスの症状が現れることもあります。

口腔異常感症の原因の大半は現在、心身症あるいは心気症と考えられています。日常生活でストレスを抱えている時に発症することがありますし、ストレスを抱えている時に行った歯科治療を契機に発症することがあります。これは心身症と考えられます。

舌の痛いことにとらわれて、舌をいつも観察しては片時も舌の痛みから解放されず、舌がんノイローゼにまでなるような場合は、舌が気になることが疾患で、舌そのものが悪いわけではありません。これは心気症と考えられます。この口腔異常感症が原因で、舌がんになることはありません。

舌の痛みなどを自覚した場合、できるだけ早期に口腔内科、あるいは歯科心療科、心療歯科のような専門機関を受診して、検査を受けることが勧められます。現在のところ、診療する医療機関が割合少ないため、適切な診断と治療がされていないケースが非常に多くなっています。

口腔異常感症の検査と診断と治療

口腔内科などの医師による診断では、まず、視診で口腔内の検査をして、はれや炎症などの原因となる疾患がないかを確認します。また、問診では食事で症状が増強しないか、消失するかを確認します。

安静時と刺激時の唾液量を測定し、唾液腺機能を調べます。血液検査で鉄、亜鉛、銅などの微量金属やビタミンB12の値も調べます。口腔内菌検査は、食事などの影響を受けない早朝の唾液を検体としますが、真菌の一種であるカンジダ菌の増殖の有無には、とりわけ注意します。

心因的要因は問診の際に感じ取れますが、いろいろのアンケートを行って、より客観的に診断します。診断に苦慮する際は軽い精神安定剤(抗不安剤)を少量使用し、症状の変化をみることもあります。

口腔内科などの医師による治療では、検査で異常があった場合は、その治療を行います。入れ歯などの刺激が一因なら、改善する必要があります。微量金属やビタミンの不足の場合は、亜鉛製剤などで不足した物質を補充することで容易に症状は改善します。

舌の痛みやしびれ、乾燥感などの原因となるようなはれや炎症などは見付からず、神経のまひも認められず、血液検査でも特に異常値が認められない場合は心身症と見なし、薬物療法と心理療法などを行います。

最も有効な治療法は抗うつ剤を中心とした薬物療法で、不眠や不安を伴う場合は睡眠導入剤や精神安定剤を併用します。漢方薬が有効なこともあります。抗うつ剤には、その作用機序から三環系、選択的セロトニン取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン取り込み阻害薬(SNRI)などがあります。

抗うつ剤を服用すると、早ければ4日から5日目、遅くても1週間から10日くらいで、舌の痛みが緩和していきます。理想的に治療が進展していけば、3週間から4週間後には痛みは7割方改善していきます。胃腸の調子が少し悪くなる場合もあるものの、軽い整腸剤を併用すればすぐに治まります。

効果が十分得られたら、そのまま数カ月は抗うつ剤の服用を続けて再発を防ぎますが、半年から1年くらいは続けたほうがよい場合が多いようです。年単位で継続しても、きちんと通院していれば特に副作用などの問題は心配ありません。しかしながら、抗うつ剤の鎮痛効果には個人差があります。

心気症の場合は、口腔内に舌がんなどの疾患のないことを根気よく説明し、必要以上に口の中を鏡で見たり、指で触ったりしないようにと説明します。症状が治まらない際は、軽い精神安定剤を用います。

ドライマウス(口腔乾燥症)の場合は、唾液の分泌を促す薬や、ジェルやスプレー状の保湿剤で口の中を潤します。夜間の乾燥を防ぐ保湿用マウスピース(モイスチャープレートなど)、夜間義歯などを症状に応じて用います。薬の副作用が原因なら、主治医と相談して薬の変更や減量を検討します。原因がはっきりすることでストレスが軽くなり、ドライマウス自体が改善する場合もあります。

シェーグレン症候群からもたらされるドライマウスでは、残念ながら根本的な治療法はありません。口や目などの乾燥症状を軽快させることと、疾患の活動性を抑えて進展を防ぐことを目的に、内服薬と症状に応じた人工唾液、口腔乾燥症状改善薬、保湿剤、含嗽(がんそう)剤(うがい薬)などによる対症療法に頼らざるを得ないのが現状です。

日常生活上の注意としては、体内の鉄のほか、亜鉛の低下でも起こりやすくやすくなるので、偏食を避けることが重要です。口腔異常感症は、唾液量の低下もその要因の1つですが、唾液量の低下に引き続いて起こりやすいカンジダの増殖も重要で、歯磨き、うがいなどで口腔内を清潔に保つことを心掛ける必要があります。

🇨🇫口腔カンジダ症(鵞口瘡)

カンジダ菌の感染で、口の粘膜が白い苔状物で覆われる疾患

口腔(こうくう)カンジダ症とは、口腔内に常在するカンジダ菌という真菌によって、主として斑点(はんてん)状の白い苔(こけ)のようなものが生じる疾患。急性偽膜性カンジダ症とも呼ばれ、以前は鵞口瘡(がこうそう)とも呼ばれていました。

乳幼児や老人に多い疾患ですが、生後間もない健康な乳児にみられるものは、放置しておいても自然に消えます。成人がかかることもあります。

原因は真菌(かび)の一種のカンジダ菌の感染で、カンジダ・アルビカンスが圧倒的に多い原因菌となり、カンジダ・トロピカーリス、カンジダ・パラプシローシスなどが原因菌となることもあります。誘因としては全身の衰弱、抗生物質の長期連用、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)、免疫抑制剤、抗がん剤などの使用、がんの放射線治療、ビタミン欠乏、全身疾患による免疫機能の低下が挙げられます。

カンジダ菌は酵母菌(イースト)の一種で、元来、人間の口腔粘膜や腸管の中に住んでいます。これが誘因があってたまたま増殖すると、口腔カンジダ症や皮膚カンジダ症になるのですが、このカンジダ菌は水虫などを起こす白癬菌とは異なって、体の内部に侵入する力があります。そのため、免疫機能の低下がある時には、全身に増殖して、重篤な疾患になることがあります。

口腔カンジダ症の最初は、口腔粘膜、舌、歯肉が赤くはれ、表面が白い斑点状の苔状物の膜で覆われます。この苔状物の膜は軟らかくて、こするとすぐはがれ、はがれたところは赤くただれます。普通、痛みは軽度ですが、舌のズキズキする痛み、違和感、味覚異常を伴うこともあります。熱などの全身症状は、ほとんどありません。

適切な処置をすれば、比較的早くよくなりますが、まれには進行して咽頭(いんとう)から食道、肺に広がって、カンジダ性肺炎を生じることもあります。

口腔カンジダ症の検査と診断と治療

口腔カンジダ症が味覚異常の原因になっていることもありますので、口の中を清潔に保ち、消毒力のあるうがい薬を使ってみます。それで舌などの口腔内の違和感が治らない場合、また全身状態が悪い場合には、食道や肺に広がることがあるので、口腔外科や内科などで治療を受けます。

医師は病状から診断しますが、カンジダ菌が証明されれば確定します。証明のためには、KOH検査(皮膚真菌検査)と培養検査が行われます。KOH検査では、綿棒で皮膚の表面をこすり、それを水酸化カリウム溶液で溶かして、顕微鏡で観察します。5分もあれば結果が出ますが、カンジダ菌の種類の特定までは困難です。培養検査では、クロモアガー・カンジダ培地などで培養します。検査に時間がかかりますが、菌の種類を特定できます。

治療においては、抗真菌剤の外用が主体で、殺菌性消毒剤による口すすぎも有効です。外用剤では、イミダゾール系のものが抗菌域が広く、カンジダ菌に対しても有効性が高く、第一選択薬といえます。ネチコナゾール(アトラント)、ケトコナゾール(ニゾラール)、ラノコナゾール(アスタット)などの新しい薬は、抗菌力が強化されています。基剤としては、軟こう剤、クリーム剤、液剤、ゲル剤があります。口腔カンジダ症ではただれの症状を示すことが多いので、刺激が少ないクリーム剤か軟こう剤が無難です。

なお、抗真菌剤の外用剤は近年、たくさんの新しい薬剤が開発されかなり有効ですが、中には白癬菌にだけ効き、カンジダ菌には効きにくい薬剤もありますので、注意が必要です。

症状が強い場合には、抗真菌剤の内服を行います。内服剤では、トリアゾール系のイトラコナゾール(イトリゾール)が、抗菌域が幅広く、第一選択薬です。副作用は比較的少ないのですが、血液検査は必要で、併用に注意する薬剤があります。特殊な内服剤として、口腔・食道カンジダ症用で、ほとんど吸収されないミコナゾール(フロリード)ゲルがあります。1日1〜2本を4回に分けて内服しますが、口腔カンジダ症では病変部に塗るだけでも有効です。

🇬🇶口腔乾燥症

唾液の分泌量が低下し、口腔内が乾く疾患

口腔(こうくう)乾燥症とは、唾液(だえき)の分泌量が少なくなって唾液の質に異常を来し、口の中やのどが渇く疾患。ドライマウスとも呼ばれます。

ストレスやうつ病による影響が主な原因ですが、さまざまな原因が考えられます。アレルギーを抑える抗ヒスタミン剤、抗うつ剤、血圧を下げる降圧剤、鎮痛剤、抗パーキンソン剤など多くの薬の副作用でも起こります。

自分の免疫細胞が唾液腺(せん)や涙腺を攻撃してしまうシェーグレン症候群でも、口や目が渇きます。糖尿病や更年期障害、腎(じん)障害、唾液腺障害、口腔周囲の筋力の低下、食習慣、放射線が関係することもあります。

保湿や抗菌作用がある唾液が足りないと、食べ物の味がよくわからない味覚障害、水分の少ない食品が飲み込めないなどの嚥下(えんげ)障害、口の中がネバネバするなどの不快感、口腔の粘膜の乾燥、夜間の乾燥感といった症状が現れます。さらに、義歯の不適合、装着時の痛み、カンジダ菌という真菌の増殖による舌痛(ぜっつう)や口角炎も認められます。

虫歯の多発や悪化、歯周病、舌苔(ぜったい)の肥厚、舌表面のひび割れ、口内炎や口臭、食事がとれない摂食障害、会話時に話しづらいなどの発音障害を引き起こすこともあります。

口腔乾燥症の検査と診断と治療

歯科口腔外科、歯科、内科の医師による診断では、安静にして自然に出てくる唾液を15分間採取し1・5ミリリットル以下だと、口腔乾燥症の可能性が高いと判断します。

原因により対処は異なりますので、原因を明らかにします。血液検査や画像検査で、シェーグレン症候群などの判別もできます。

歯科口腔外科、歯科、内科の医師による治療は、唾液の分泌を促す薬や、ジェルやスプレー状の保湿剤で口の中を潤します。夜間の乾燥を防ぐ保湿用マウスピース(モイスチャープレートなど)、夜間義歯などを症状に応じて処方します。

薬の副作用が原因なら、主治医と相談して薬の変更や減量を検討します。原因がはっきりすることでストレスが軽くなり、口腔乾燥症自体が改善する場合もあります。

あごをよく動かして食べ物をかむことも大切。ほおや唇の内側など、口の中に広がっている唾液腺を刺激するマッサージも有効です。舌を転がして押し付けたり、指を入れて軽くこすったりします。口腔筋機能療法も、筋力を強化させ唾液分泌を促進させる効果が期待できます。

シェーグレン症候群からもたらされる口腔乾燥症では、残念ながら根本的な治療法はありません。口や目などの乾燥症状を軽快させることと、疾患の活動性を抑えて進展を防ぐことを目的に、内服薬と症状に応じた人工唾液、口腔乾燥症状改善薬、保湿剤、含嗽(がんそう)剤(うがい薬)などによる対症療法に頼らざるを得ないのが現状です。

>なお、シェーグレン症候群で全身性の臓器病変のある人の場合は、内科などでステロイド剤や免疫抑制剤などを含めて適した治療を受けるべきです。

🇬🇦口腔粘膜粘液嚢胞

主に下唇の粘膜側に生じる半透明のドーム状隆起

口腔粘膜粘液嚢胞(こうくうねんまくねんえきのうほう)とは、主に下唇の粘膜側に、水膨れのような半透明のドーム状隆起が生じる疾患。
 唾液(だえき)の流出障害によって起こり、唾液腺(せん)本体がはれるためにドーム状隆起が生じます。唾液は主に、大唾液腺と呼ばれる耳下腺、舌下腺、顎下(がっか)腺から分泌されますが、口唇や舌、頬(ほお)粘膜には小唾液腺と呼ばれる組織が多数存在しており、各々の唾液腺には唾液を出す細い管が存在します。大唾液腺での発症より、小唾液腺で高い頻度で発症する疾患ですが、唾液腺が存在する部位であれば口腔内のどの部位にでも発症する可能性があります。
 口腔粘膜粘液嚢胞の原因や誘因として、唾液を口腔内に流すホースの役目をする部位である唾液腺導管の閉塞(へいそく)、慢性外傷、慢性炎症、異物の存在が挙げられます。これらにより唾液が正常に流出できず、唾液腺導管の中に唾液がたまって粘膜の下に水風船のようなものができることで、水膨れのような半透明のドーム状隆起が生じます。
 内容液が透けて見え、触ると軟らかく、大きさは直径2ミリから10ミリ以上になることもありますが、はれても無痛性であることがほとんどです。隆起の表面は白くふやけていることも多いのですが、逆に周囲よりも赤く見えることもあります。
 特に下唇の裏側の粘膜に生じる頻度が高く、歯でかんだり傷付けたりと慢性的に外傷を受けやすい部位であるためと見なされます。自然に破れて内容液が流出し消失することもありますが、時間が経つと再発することもあります。
 皮膚科などを受診し、診断を確定した上で、治療するかどうかを相談してください。

口腔粘膜粘液嚢胞の検査と診断と治療

 皮膚科、皮膚泌尿器科、内科、口腔外科、歯科口腔外科などの医師による診断では、通常、見た目で診断できます。針を刺す穿刺(せんし)をすれば、黄色調で透明なゼリー状の粘液が排出されます。
 皮膚科、皮膚泌尿器科、内科、口腔外科、歯科口腔外科などの医師による治療では、診断が確定すれば、放置しておいて差し支えありません。
 口腔内にできる粘液嚢胞は、それ自体が悪性の腫瘍(しゅよう)など病的なものではなく、放置しても二次的な疾患を生じることはありません。ドーム状隆起が自然に消えていくこともあるため、普段の生活で邪魔でなければ、無治療で経過観察しても構いません。
ただ、放置しておくと粘液嚢胞が大きくなって生活に支障が出たり、歯が当たってまた膨れてくるというように再発を繰り返す場合もあり、根本的に治したい場合は、はれた唾液腺本体である粘液嚢胞を手術で摘出します。

摘出が終わった後は傷口を糸で縫いますので、10日ほどに後に受診してもらって糸を取ります。最初はしこりが残ったり、手術した周囲にしびれが残ったりすることがありますが、ほとんどのケースでは時間とともに、しびれの範囲が小さくなります。

🇬🇦口腔白板症

舌や口腔粘膜の上皮が白濁、角化する疾患

口腔白板(こうくうはくばん)症とは、舌や口腔粘膜の表面が白く濁り、触れると硬い疾患。白板症とも、ロイコプラキーとも呼びます。

この粘膜上皮が白濁、角化する状態は、いろいろな原因で起こります。継続的に作用する物理的、化学的な刺激で起こるもの、粘膜苔癬(たいせん)など慢性の炎症があって起こるもの、カンジダがついて起こるもののほかに、がん前駆症としての口腔白板症もあります。原因不明なものも少なくありません。従って、口腔白板症のすべてが悪性というわけではありません。

継続的に作用する物理的、化学的な刺激としては、たばこ、アルコール飲料、刺激性食品、過度なブラッシングによる擦過、虫歯、不適合な補綴(ほてつ)物と充填(じゅうてん)物である金冠や金属の詰め物、入れ歯などが挙げられます。

この口腔白板症は、女性の2倍と男性に多くみられ、年齢では50歳〜70歳代に多くみられます。好発部位は舌で、次いで歯肉、ほお、口蓋(こうがい)、口腔底などが続きます。

症状としては、舌や口腔粘膜の一部がさまざまな程度の白色になり、徐々に表面にしわができます。白色の程度も高度になり、いぼ状に隆起してくるものもあります。また、隆起はしないで、赤い部分が混在してくるものもあります。白斑(はくはん)のみでは痛むことはありませんが、紅斑が混在するものでは痛みを伴うようになります。

長期に経過すると、口腔白板症からがんが発生することもあります。ある確率で、がんに発展するような皮膚の異常をがん前駆症といいますが、がん前駆症としての口腔白板症は、舌の側面に最も起こりやすく、不規則な形をしています。その一部が崩れて、腫瘍(しゅよう)やびらんができたり、割れ目を生じたり、隆起してくる場合には、注意が必要です。口腔扁平(へんぺい)上皮がんに進展する確率が高く、すでにがんを発生している場合があります。

口腔白板症の検査と診断と治療

口の中に、白色あるいは白色と赤色の混在する病変を見付けた場合、あるいは長い間続いていた口の中の異常が急に変化して、びらん、潰瘍(かいよう)を生じたり、大きさが増したりした場合には、すぐに皮膚科、口腔外科の専門医の診断を受けます。

口腔白板症の診断のためには、実際の病変の一部を切り取って、顕微鏡で組織検査をする生検を行います。広範囲に病変が存在する場合は、複数の部位より切り取ります。口腔白板症の病理組織像は多彩で、種々な程度の角化の高進、有棘(ゆうきょく)層の肥厚、上皮下への炎症性細胞浸潤、上皮の種々の程度の異形成などが認められます。特に、がん化との関連性においては、上皮異形成の程度は重要になります。

治療としては、まず刺激源になっているものがあれば、除去します。次に、ビタミンAを投与し、反応するか否かを観察します。ビタミンAによる薬物治療に反応せず、生検で上皮異形成と診断される病変があれば、病変の粘膜を手術で切除します。広範囲の病変では、切除すると機能障害が出ます。

なお、口腔白板症のすべてが悪性というわけではなく、良性の変化にとどまることも多く、必ず治療しなければならないというものではありません。また、口腔白板症から口腔扁平上皮がんに進展しても、経過観察を定期的に行えば、極めて早期に対処することも可能です。

🇿🇼溝状舌

舌の表面に多数の溝が形成されている状態

溝状舌(こうじょうぜつ)とは、舌の表面に多数の溝(みぞ)が形成されている状態で、しばしば左右の側面に対称的に溝が生じます。皺襞舌(しゅうへきぜつ)とも呼ばれます。

ほとんどは先天性で、染色体の異常によって生じるダウン症候群では80%に確認されます。一方で何らかの全身疾患の症状として生じることもあり、虫歯が悪化して発症するメルカーソン・ローゼンタール症候群では前兆現象として出現することもあります。

舌の表面に溝、あるいは亀裂(きれつ)、しわができる原因は、わかっていません。人によって舌にできる溝の数や走行方向、深さなどに違いがあり、特定の形状の溝ができるという法則がないことが一因として考えられます。

溝状舌には、遺伝性である先天性溝状舌と、全身疾患や外傷感染、口腔(こうくう)乾燥などが原因で生じる後天性溝状舌があります。

ほとんどが先天性溝状舌とされており、これは形成異常、奇形、変型症といった疾患に分類されます。

一方、後天性溝状舌は、小児期にはまれで、青年期で増加して症状も顕著になり、老年期が最も多く、加齢とともに頻度が上昇するのが特徴です。

後天性溝状舌は、舌炎や外傷、ビタミン欠乏症、メルカーソン・ローゼンタール症候群などの全身疾患に付随して起こることもあります。メルカーソン・ローゼンタール症候群では、再発性顔面神経まひ、肉芽腫(にくげしゅ)性口唇炎とともに溝状舌を併発することがあります。高齢者では、免疫力や唾液(だえき)分泌量の低下による口腔衛生状況の悪化が切っ掛けで、発症しやすくなるともいわれています。

舌の表面の形成異常のためほぼ無症状で、発声、味覚、嚥下(えんげ)機能などの舌の諸機能に対する影響もありません。

溝状舌による溝は幅が狭く、安静時には溝が密着しているため、歯磨きやうがいによる清掃が不十分だと細菌の増殖や炎症などが生じ、口臭、痛み、味覚障害や運動障害が生じる場合があります。

また、舌ブラシで舌の表面を強くこすりすぎて粘膜を損傷したために、痛みが生じる場合もあります。舌の表面の粘膜にある多数の微小な小突起である舌乳頭の発達が不良で、舌の表面に淡紅色の地図のような1ミリから3ミリの模様が見られる地図状舌を合併していることも多く見受けられます。

溝状舌の検査と診断と治療

歯科口腔外科、口腔内科などの医師による診断では、舌の表面に特徴的な形成異常が出現するため、基本的には視診と問診を実施します。

ほとんどの場合では、組織の一部を採取し顕微鏡で調べる生検は不要とされていますが、全身疾患の関与が考えられる場合や、症状がひどい場合には生検を実施することもあります。

歯科口腔外科、口腔内科などの医師による治療では、症状がない場合の溝状舌は正常範囲と考え、処置を施しません。

しかし、溝に舌苔(ぜったい)がたまって細菌が付着しやすいため、日ごろから溝の内部が不潔にならないように、舌ブラシなどを用いて舌の表面を清掃したり、マウスウォッシュ(洗口液)を用いて口腔内の清潔を保つことが重要です。

炎症のため症状がある場合には、殺菌効果のあるうがい薬(イソジンガーグルなど)が効果的です。

🇲🇿口唇炎

唇への刺激によって炎症を起こし、皮がめくれて乾燥し、むくんでいるような症状が出る疾患

口唇炎とは、唇への何らかの刺激によって炎症を起こし、皮がめくれて乾燥し、むくんでいるような症状が出る疾患。

繰り返すと、唇に色素沈着が見られます。比較的、女性に多くみられます。

原因となる刺激の多くは、口紅やリップクリームに含まれる香料、保存料などが唇に合わずに起きます。まれには、食べ物や歯磨き粉でなる人もいます。

また、唇をなめる癖がある人やアトピー性皮膚炎のある人は、唇を保護する皮のバリアーが弱く、症状が出やすくなります。ビタミンB2とビタミンB6の欠乏も原因になります。

感染症との区別が必要で、水疱(すいほう)を伴う時はヘルペスなどのウイルス感染、白い苔(こけ)のようなものが付着するものはカンジダなどによる真菌感染、ただれが強いものは細菌感染が考えられます。

まれですが、皮膚がんになる前の状態を口唇炎と勘違いしていることも考えられます。侮らず、皮膚科、ないし皮膚泌尿器科を受診することが勧められます。

口唇炎の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、炎症を抑え再発させないためには刺激の原因を取り除くことが大切なので、成分を直接肌につけて反応をみるパッチテストを行い、原因を探ります。口唇ヘルペスとの鑑別が大切になります。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、炎症を抑えるステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン)を朝晩塗れば、通常は1〜2週間で治ります。

症状が長引く場合は、原因を取り除けていない可能性が高く、使っているリップクリームなどを改めて見直すことが必要です。

予防としては、食事後に唇を洗いすぎるのは要注意で、なめすぎるのと同じで、唇を保護している皮のバリアーを失います。皮を無理にむくのも厳禁。日々の唇のケアには、刺激になるような成分が入っていないワセリンを使うのが勧められます。

🇲🇿口唇口蓋裂

上唇の一部に裂け目が現れたり、上顎に破裂が現れたりする先天性異常

口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)とは、上唇(うわくちびる)の皮膚の一部に裂け目が現れる状態の口唇裂と、口と鼻を隔てている上顎(うわあご)に破裂が現れる状態の口蓋裂との総称。唇裂口蓋裂とも呼ばれ、先天性異常の一つです。

妊娠初期に複雑な発生の過程をへて、顔面が形成されます。胎生期第4~7週ころに、前頭突起(内側鼻隆起)と左右の上顎(じょうがく)突起が癒合して上唇ができます。この癒合が障害されると、口唇裂になります。口唇裂といえば通常、上唇の一部に裂け目が現れる上唇裂をいい、下唇の一部に裂け目が現れる下唇裂は非常にまれです。口唇裂は、唇裂、兎唇(としん)とも呼ばれ、三つ口とも俗称されます。

この口唇裂は、裂け目が鼻まで達する完全口唇裂、裂け目が鼻まで達しない不完全口唇裂、左右の唇のどちらか一方に裂け目がある片側口唇裂、左右両側に裂け目がある両側口唇裂、さらに、唇の縁の小さなへこみや、唇から鼻の穴までの傷跡のように見える軽微な口唇裂である痕跡(こんせき)口唇裂に分けられます。

口唇裂は、さまざまな要因が複雑に絡み合って現れると考えられており、特に特定の原因があるわけではありません。口腔(こうくう)の発生にかかわる遺伝子の変異が関係したり、妊娠中の喫煙、胎内での風疹(ふうしん)感染、胎児脳内圧の異常高進、薬物などの環境要因が関係していると考えられています。染色体異常に伴う場合は、内臓疾患や生後の発育、発達の遅れがみられる場合があります。

顔面の口や鼻が形成された後、胎生期第7~12週ころの間に、口の中では口蓋がつくられます。口腔と鼻腔の間に口蓋突起が左右から伸び、前方から後方へと癒合が進んで上顎(口蓋)が形成されます。この過程が障害されると、口蓋突起が最期まで癒合せずに口腔と鼻腔が破裂したままになり、口蓋裂ができます。

口蓋裂は、口蓋の奥の部分の軟口蓋に破裂があるもの、口蓋の前方3分2の部分の硬口蓋に破裂があるもの、軟口蓋と硬口蓋の両方に破裂があるものに分けられます。

口唇裂と口蓋裂は別々にみられることもありますが、両者が合併した口唇口蓋裂が多くみられます。さらに、歯を支えている顎骨である歯槽骨の破裂が現れる顎裂を合併することもあります。口唇裂、口蓋裂、顎裂を含めると、発生頻度は全出産の0・2パーセントといわれています。

生後すぐ、あるいは胎児期の超音波検査で、口唇裂が認められます。

口唇口蓋裂があると、歯の形態異常、欠損、歯列不正などが認められます。口蓋裂があると、授乳障害があり、ミルクが鼻から逆流しやすくなったり、発音が鼻に抜けたりする症状がみられ、中耳炎、誤嚥(ごえん)性肺炎を合併することが多くみられます。

出生後、口唇口蓋裂、口唇裂、口蓋裂、痕跡口唇裂が認められた場合は、口唇口蓋裂を専門に治療し、発育、発達の定期的なフォローも含め、総合的に診療している口腔外科、形成外科を紹介してもらい、受診することが望まれます。痕跡口唇裂は外見上は軽微な変化であっても、その下にある口輪筋への影響があり、深刻度を判断してもらう必要があります。

口唇口蓋裂の検査と診断と治療

口腔外科、形成外科の医師による治療は、矯正歯科、小児歯科、耳鼻咽喉(いんこう)科、言語聴覚士、小児科など各科の医師とのチーム医療で行われることが一般的です。

口腔外科、形成外科の医師による治療は、手術が主体で、手術前にはホッツ床というプレートを上顎にはめて、授乳しやすくします。

手術時期は、口唇裂と口蓋裂で異なり、発音機能と上顎の発育の両面を考えながら決めます。一般的には、口唇裂はミラード法などで生後3カ月ころに実施し、裂けた口唇の閉鎖と再建、変形した鼻の位置の適正化、口輪筋の連続性の再建を図ります。口蓋裂は1歳以降に、ファーロー法などの手術を実施し、口蓋部分における口腔と鼻腔の閉鎖、軟口蓋における口蓋帆挙筋などの左右に分かれた筋群の再建を図ります。

多くの場合、年齢が大きくなってから、形成や矯正の手術が必要になります。言語聴覚士による発音の訓練も必要です。

🇺🇬口唇ヘルペス

単純ヘルペスウイルス1型の感染によって、口や唇の回りに小さな水膨れができる疾患

口唇ヘルペスとは、単純ヘルペスウイルス1型の感染によって、口唇や口の周囲に小さな水膨れができる疾患。口唇疱疹(ほうしん)とも呼ばれ、単純性疱疹と呼ばれることもあります。

口唇ヘルペスという病名は初耳でも、風邪で体調を崩した時や疲れがたまった時などに、口唇や口の周囲にできる出来物に悩んだ経験のある人は、多いのではないでしょうか。風邪の華、熱の華とも呼ばれるこの症状が、実は口唇ヘルペス。

日本人の10人に1人が罹患(りかん)したことがあるといわれるほど、一般的な疾患なのです。

単純ヘルペスウイルス1型に初めて感染した時の症状は、乳幼児期のヘルペス性歯肉口内炎などで現れることもありますが、小児期は大抵、口唇ヘルペスの症状が出ません。初感染の後、単純ヘルペスウイルス1型は神経細胞に潜み、何らかの切っ掛けで暴れ出して、口唇ヘルペスなどとして再発します。初感染で口唇ヘルペスということもありますが、日常みられるのはほとんどが再発型です。

口唇ヘルペスの症状は、初め口唇や口の周囲が赤くなり、数日後、小さな水膨れの集団ができます。ムズムズとしたかゆみや、皮膚のほてり、ピリピリとした痛みを感じることもあります。大抵、水膨れはやがて乾燥して、かさぶたをつけ、1〜2週間くらいで治ります。

しかし、口唇ヘルペスの厄介なところは、再発しやすいことです。単純ヘルペスウイルス1型などのヘルペスウイルスの特徴は、感染すると症状が治った後も人の神経細胞の中にじっと隠れていて、ふだんは症状が出てこない点。ところが、風邪や疲れなどで体の抵抗力が落ちると、突然また出てきて暴れ出します。その回数は、年に1~2回が多いようです。

口唇ヘルペスのピリピリ、チクチク、ムズムズといった症状が現れたら、早めに皮膚科、ないし皮膚泌尿器科を受診するようにします。早い時期に治療を始めるほど、軽い症状ですむし、治りも早くなります。水膨れの中にウイルスがありますから、他人に移さないようにします。

口唇ヘルペスの検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、単純ヘルペスウイルス1型の増殖を抑える働きがあるバラシクロビル、アシクロビル、ビダラビンなどの抗ヘルペス剤を使用します。強い痛みに対しては、鎮痛剤などを使用することもあります。

抗ヘルペス剤には塗り薬と飲み薬がありますが、体内に潜んでいた単純ヘルペスウイルス1型が逆戻りをして口唇ヘルペスの症状が起きるため、飲み薬で体のもとからウイルスの増殖を抑えることが、有効といわれています。

再発性の口唇ヘルペスの治療では、痛みが強ければ、二次感染を防ぐ意味を兼ねて、抗生物質含有軟こうを塗布します。再発性では症状の程度が軽くなり重症化することは少ないため、10日程度で治すことができます。

症状が出ている時期は、患部の水膨れや唾液中に単純ヘルペスウイルス1型が存在しているため、注意が必要です。患部は清潔にして、水膨れは破らないことです。

患部を自分自身で触ることで、他の部位に移してしまう危険もあります。ピリピリ、チクチク、ムズムズといった症状が気になって、無意識に触ってしまうこともあるから注意しましょう。患部に触れた後や、塗り薬を塗った後には、しっかり手を洗うことです。

また、単純ヘルペスウイルス1型がついたタオルやコップなどの食器を介して感染することもあるので、家族間での共用は避けることです。タオルは洗濯してできる限り日光に当て、食器は洗剤できちんと洗うことです。

口唇ヘルペスは体の抵抗力が落ちた時に再発しやすいのが特徴なので、日ごろから睡眠を十分とって、バランスのよい食事をとり、疲れやストレスをためないことが大切です。

🇺🇬口唇裂

上唇の一部に裂け目が現れる先天性異常

口唇裂とは、上唇(うわくちびる)の皮膚の一部に裂け目が現れる先天性異常。唇裂、兎唇(としん)とも呼ばれ、三つ口とも俗称されます。

妊娠初期に複雑な発生の過程をへて、胎児の顔面が形成されます。胎生期第4~7週ころに、前頭突起(内側鼻隆起)と左右の上顎(じょうがく)突起が癒合して上唇ができます。この癒合が障害されると、口唇裂になります。口唇裂といえば通常、上唇の皮膚の一部に裂け目が現れる上唇裂をいい、下唇の皮膚の一部に裂け目が現れる下唇裂は非常にまれです。

この口唇裂は、裂け目が鼻まで達する完全口唇裂、裂け目が鼻まで達しない不完全口唇裂、左右の唇のどちらか一方に裂け目がある片側口唇裂、左右両側に裂け目がある両側口唇裂、さらに、唇の縁の小さなへこみや、唇から鼻の穴までの傷跡のように見える軽微な口唇裂である痕跡(こんせき)口唇裂に分けられます。

口唇裂は、さまざまな要因が複雑に絡み合って現れると考えられており、特に特定の原因があるわけではありません。口腔(こうくう)の発生にかかわる遺伝子の変異が関係したり、妊娠中の喫煙、胎内での風疹(ふうしん)感染、胎児脳内圧の異常高進、薬物などの環境要因が関係していると考えられています。染色体異常に伴う場合は、内臓疾患や生後の発育、発達の遅れがみられる場合があります。

口唇裂は単独でみられることもありますが、口と鼻を隔てている上顎(うわあご)に先天性に破裂が現れる口蓋裂(こうがいれつ)と合併した口唇口蓋裂が多くみられます。さらに、歯を支えている顎骨である歯槽骨の破裂が現れる顎裂を合併することもあります。

口唇裂の発生頻度は、全出産の0・08パーセントといわれています。口唇裂、口蓋裂、口唇口蓋裂、顎裂を含めた発生頻度は、全出産の0・2パーセントといわれています。

胎児の顔面の口や鼻が形成された後、胎生期第7~12週ころの間に、口の中では口蓋がつくられます。口腔と鼻腔の間に口蓋突起が左右から伸び、前方から後方へと癒合が進んで上顎(口蓋)が形成されます。この過程が障害されると、口蓋突起が最期まで癒合せずに口腔と鼻腔が破裂したままになり、口蓋裂ができます。

口蓋裂は、口蓋の奥の部分の軟口蓋に破裂があるもの、口蓋の前方3分2の部分の硬口蓋に破裂があるもの、軟口蓋と硬口蓋の両方に破裂があるものに分けられます。

生後すぐ、あるいは胎児期の超音波検査で、口唇裂が認められます。

口唇口蓋裂があると、歯の形態異常、欠損、歯列不正などが認められます。口蓋裂があると、授乳障害があり、母乳やミルクが鼻から逆流しやすくなったり、発音が鼻に抜けたりする症状がみられ、中耳炎、誤嚥(ごえん)性肺炎を合併することが多くみられます。

出生後、口唇裂のほか、口蓋裂、口唇口蓋裂、痕跡口唇裂が認められた場合は、口唇口蓋裂を専門に治療し、発育、発達の定期的なフォローも含め、総合的に診療している口腔外科、形成外科を紹介してもらい、受診することが望まれます。痕跡口唇裂の場合、外見上は軽微な変化であっても、その下にある口輪筋への影響があり、深刻度を判断してもらう必要があります。

口唇裂の検査と診断と治療

口腔外科、形成外科の医師による治療は、矯正歯科、小児歯科、耳鼻咽喉(いんこう)科、言語聴覚士、小児科など各科の医師とのチーム医療で行われることが一般的です。

口腔外科、形成外科の医師による治療は、手術が主体で、手術前にはホッツ床という柔らかい樹脂でできた入れ歯のようプレートを上顎にはめて、授乳しやすくします。

手術時期は、口唇裂と口蓋裂で異なり、発音機能と上顎の発育の両面を考えながら決めます。一般的には、口唇裂はミラード法などで生後3カ月以後、体重5キログラムを目安に実施し、裂けた口唇の閉鎖と再建、変形した鼻の位置の適正化、口輪筋の連続性の再建を図ります。

口蓋裂は1歳以降に、ファーロー法などの手術を実施し、口蓋部分における口腔と鼻腔の閉鎖、軟口蓋における口蓋帆挙筋などの左右に分かれた筋群の再建を図ります。

高度な完全口唇裂では、初回の手術だけで完全な形態の再建が完成するとは限らず、就学前あるいは青年期に、口唇や鼻の修正手術を必要とすることがあります。言語聴覚士による発音の訓練も必要です。

🇹🇿光線性口唇炎

日光照射が原因で生じる光線角化症が口唇に生じたもの

光線性口唇炎とは、長い年月にわたって日光に当たったことが原因で生じる口唇炎の一種。日光口唇炎、慢性日光口唇炎とも呼ばれます。

太陽の光線である日光に含まれる紫外線を受けやすい顔面、耳、前腕、手の甲、頭部の皮膚に好発する光線角化症(日光角化症)が口唇に生じたもので、炎症性疾患ではなく腫瘍(しゅよう)性病変で、前がん性の皮膚変化と考えられています。

光線角化症が有棘(ゆうきょく)細胞がんにまで発展するケースは1%と見なされているのに対して、光線性口唇炎は有棘細胞がんにまで発展するケースが11%の可能性があるとの報告もあり、発症した場合には、高リスク型の前がん性の皮膚変化と認識した上で、適切に管理することが不可欠となります。

光線角化症は、長年にわたって慢性的に日光に含まれる紫外線、特に中波長紫外線を受けることにより、皮膚の表皮細胞のDNAに傷ができるのが、その原因と考えられています。

日光に含まれる紫外線は肉眼では見えませんが、皮膚に最も大きな影響を与えます。体がビタミンDを作り出すのを助ける働きがあるので、少量ならば紫外線は有益なものの、大量に浴びると遺伝物質であるDNAが損傷を受け、皮膚細胞が作り出す化学物質の量と種類が変わってしまうのです。

とりわけ口唇は人のみにみられる特殊な皮膚とされ、組織学的にも汗腺(かんせん)や毛包などの皮膚付属器を欠如しています。また、メラニンという皮膚の色を濃くする色素を作り出すメラノサイトは少なく、皮膚の最も表面にあってケラチンからなる角質層(角層)は薄いといった組織的特徴があります。

これらの組織的な理由に加え、人は直立するため、最も紫外線を多く有する真昼の直射日光を口唇、特に下唇は垂直に浴びることになり、下唇は紫外線の影響を強く受けると考えられます。

ゆえに、光線性口唇炎にかかると、表皮基底細胞層での異常増殖が生じるため、主に下唇が赤くはれ、膨張したり、水疱(すいほう)となったりします。膨張や水疱とならなかった場合には、下唇が全体にわたってひび割れを起こしたり、かさかさと乾燥したり、かさぶたができたり、出血したりする症状もみられます。

水疱や乾燥によるかゆみの誘発や、水疱が破れた時の痛みも症状の1つです。ヒリヒリとした痛みが続くこともあり、苦痛を感じます。

口唇の表層の角質層がダメージを受けるため、バリア機能が正常に作用せず、唾液(だえき)や飲み物などの刺激によって強い痛みを感じることも少なくありません。また、口唇周囲の皮膚にまで症状が波及することもあります。

発症者は中高年層がほとんどで、男性のほうが女性より多い傾向があります。女性に少ない理由は、戸外の労働が男性よりも少ないため紫外線の蓄積照射量が少ないこと、口紅の使用によって紫外線が防御されることが挙げられています。

光線性口唇炎の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、目視での口唇の視診と患者への問診が主な方法になります。問診では、症状が出始めた時期、アレルギーの有無、過去の病歴などをカウンセリング方式で質問していきます。

口唇の回りの部位にも何らかの症状が出ていないか視診し、場合によっては口腔(こうくう)内も検査対象になります。

光線性口唇炎自体は生命に問題はないものの、有棘細胞がんに発展すれば、その予後は不良であるため、診断は有棘細胞がんの発生の予防につながるという意味で重要です。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、通常、局所麻酔は行わず、液体窒素を浸した綿棒などを腫瘍性病変に押し付けて凍結、壊死させて除去する凍結療法を施します。簡便な処置法ですが、凍結時にかなり強い痛みを伴います。また、多くの場合、数回の処置が必要となります。

高齢者では、液体窒素による凍結療法やCO2レーザー(炭酸ガスレーザー)照射なども行います。

有棘細胞がんに発展している可能性がある場合は、局所麻酔を行い、腫瘍性病変をメスで切除する外科切除を施します。下唇全体を筋層上で切除した場合は、後面の口唇粘膜を1センチほど剥離(はくり)して、引き上げるように下唇の皮膚と単純縫合します。

薬物療法として、抗がん剤の1種であるフルオロウラシル入りのローションやクリーム、またはイミキモド(ベセルナクリーム)を腫瘍性病変に塗ることもあります。フルオロウラシル入りのローションやクリームは、1日2回単純に塗布するか、1日1回塗布後にラップ類で密封します。イミキモドは、1日1回、週3回、患部に直接塗布します。

薬物療法は、塗り薬の副作用で皮膚が荒れて、びらん、痛みが出ることがありますが、治療に伴うものであるため頻度を調節して継続すると、多くは症状が軽快します。

治療後は、再発の予防のため、口唇への長時間の直射日光照射を避けることも重要で、サンスクリーン剤(日焼け止め化粧品)の使用が勧められます。

🇰🇪シェ-グレン症候群

目と口が乾燥する自己免疫疾患

シェーグレン症候群とは、自己免疫の異常によって発症する自己免疫疾患。主症状とされる目の乾燥(ドライアイ)、口の乾燥(ドライマウス)のほかにも、全身にさまざまな障害を引き起こすことがあります。

自己免疫による疾患であり、自分の体の細胞に対して免疫反応を起こすことによって発症しますが、遺伝的要因、ウイルスなどの環境要因、さらに女性ホルモンの要因も複雑に関連し合っていると考えられています。免疫システムが涙を作る涙腺(るいせん)と唾液(だえき)を作る唾液腺を破壊してしまうために、目や口の乾燥が起こります。乾燥が進むと、目や口に傷が付いたり、涙や唾液の殺菌作用が働かず、感染症にかかりやすくなります。

シェ-グレン症候群という病名は、スウェーデンの眼科医ヘンリック・シェーグレンが1933年に発表した論文にちなんで、付けられています。

発症するパターンは2種類あり、医学的にもその2種類に大別されています。1つ目は原発性シェーグレン症候群で、関節リウマチなどの膠原(こうげん)病の合併のない種類です。 2つ目は続発性(二次性)シェーグレン症候群で、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、皮膚筋炎、混合性結合組織病などの膠原病に合併する種類です。

原発性シェーグレン症候群の発症者の内訳をみると、約45パーセントの人は目と口の乾燥の症状のみを発症しています。ほとんど健康に暮らしている人もいますが、ひどい乾燥症状に悩まされている人もいます。約50パーセントの人は全身性の何らかの臓器障害を伴っていて、残り約5パーセントの人は悪性リンパ腫(しゅ)や原発性マクログロブリン血症を発症しています。

厚生省研究班の調査では、日本国内において1年間に、17000人が医療機関で治療を受けたという結果がまとまりました。 しかし、病気自体の認知度の向上や診断基準の普及などによって、発見、診断される率が高くなったことにより、シェーグレン症候群の患者数は近年、増加しています。 専門医の間では、診断を受けていない潜在的な発症者を含めると、約10~30万人と推定されています。

発症者は40~60歳の女性に多いのが特徴で、男女比は男性1人:女性14人。50歳代にピークがあり、子供や80歳以上のの老人が発症することも少数ながらあります。

続発性(二次性)シェーグレン症候群については、関節リウマチの発症者の約20パーセントにシェーグレン症候群が併発し、その他の膠原病の発症者にも併発しています。

シェ-グレン症候群の自覚症状は、以下のように現れます。

目の乾燥(ドライアイ)

涙が出ない、目がゴロゴロする、目がかゆい、目が痛い、目が疲れる、物がよく見えない、まぶしい、目やにがたまる、悲しい時でも涙が出ないなど。

口の乾燥(ドライマウス)

口が渇く、唾液が出ない、食事の際によく水を飲む、口が渇いて日常会話が続けられない、食べ物の味がよくわからない 、口内が痛む、夜間に飲水のために起きる、虫歯が多くなったなど。

鼻腔(びくう)の乾燥

鼻が渇く、鼻の中にかさぶたができる、鼻出血があるなど。

その他

唾液腺(だえきせん)の腫(は)れと痛み、息切れ、熱が出る、関節痛、毛が抜ける、肌荒れ、夜間の頻尿、紫斑(しはん)、皮疹(ひしん)、手指や足先が蒼白(そうはく)になり次いで紫色になってピリピリ痛んだりするレイノー現象、アレルギー、日光過敏、膣(ちつ)乾燥(性交不快感)など。全身症状として、疲労感 、記憶力低下、頭痛は特に多い症状で、めまい、集中力の低下、気分が移りやすい、うつ傾向などもよくあります。

病気の診断と、目や口の乾燥症状の治療

医師による診断では、1)口唇小唾液腺の生検組織でリンパ球浸潤がある、2)唾液分泌量の低下が証明される、3)涙の分泌低下が証明される、4)抗SSS‐A抗体か抗SS‐B抗体が陽性である、という4項目の中で2項目以上が陽性であれば、シェーグレン症候群と見なされます。

治療では、目や口などの乾燥症状を軽快させることと、疾患の活動性を抑えて進展を防ぐことが目的とされます。現状では、根本からシェーグレン症候群を治す治療法はありません。

目の乾燥(ドライアイ)に対する治療法は、涙の分泌の促進、涙の補充、涙の蒸発の防止、涙の排出の低下を目的に行われます。

涙の分泌を促進する方法として、ステロイド薬による抗炎症作用や炎症細胞の浸潤抑制による効果が一部で期待されます。

涙の補充には、人工涙液や種々の点眼薬を1日3回以上使用します。傷害された角膜上皮の再生促進や角膜炎の治療の目的として、ヒアルロン酸、コンドロイチン、ビタミンA、フィブロネクチンなどを含んだ点眼薬も使用されます。別の治療法として、自己血清を採取してこれを薄めて使用する方法が推奨されています。血清の中には、上皮成長因子、ビタミンなどさまざまな物質が入っているからです。

涙の蒸発を防ぐために、眼鏡の枠にビニール製のカバーをつけたモイスチャー・エイド(ドライアイ眼鏡)があります。

涙の排出を低下させるためには、鼻側の上下にある涙の排出口である涙点を閉じる方法があります。それには涙点プラグで詰める方法や、手術によって涙点を閉鎖する方法があります。

口の乾燥に対する治療法は、唾液の分泌促進、唾液の補充、虫歯の予防や口内の真菌感染予防、口腔(こうくう)内環境の改善を目的に行われます。

唾液の分泌を促進するものとして、アネトールトリチオン(フェルビテン)、ブロムヘキシン(ビソルボン)のほか、漢方薬なども用いられます。副腎(ふくじん)ステロイド剤も有効であり、症状に合わせて使用されます。

唾液の補充には、サリベートや2パーセントのメチルセルロースが人工唾液として使われます。サリベートは噴霧式で舌の上だけでなく、舌下、頬(ほお)粘膜に噴霧したほうが口内で長持ちします。また、冷蔵庫保存で不快な味が消えます。

虫歯の予防や口内の真菌感染、口角炎を予防するものとしては、イソジンガーグル、ハチアズレ、オラドール、ニトロフラゾン、抗真菌剤などが用いられます。歯の管理と治療としては、ブラッシング、歯垢(しこう)の除去と管理、虫歯、歯周病対策などがあります。オーラルバランスという口腔保湿剤もあります。

なお、全身性の臓器病変のある人の場合は、内科などでステロイド薬や免疫抑制薬などを含めて適した治療を受けるべきです。全身性の病変の中には、白血球減少、高γグロブリン血症、皮膚の発疹、間質性肺炎、末梢神経症、肝病変、腎病変、リンパ腫などがあります。

2022/08/26

🇯🇲舌なめずり口唇炎

唇の皮が繰り返して、はがれ続ける疾患

舌なめずり口唇炎とは、唇が乾燥して皮がはがれたり、めくれたり、赤くなったり、ひび割れたり、かさぶたがみられたりする疾患。剥脱(はくだつ)性口唇炎、落屑(らくせつ)性口唇炎とも呼ばれます。
 難治性で、症状が繰り返し出現し、治るまでに時間がかかることも少なくありません。

原因ははっきりしませんが、自分の舌で唇を繰り返しなめる、もしくは自分の手指で唇の皮をむしるなどの物理的な刺激による炎症と考えられています。大人より子供のほうが舌で唇をなめる機会が多く、子供がかかりやすい口唇炎であることから、舌なめずり口唇炎と呼ばれます。

唇が乾燥している状態であり、舌で唇をなめると唾液(だえき)で一時的に潤ったように感じられますが、舌なめずりのような刺激が繰り返し加わることで、唇の油分が減り、唾液に含まれる消化酵素が乾燥を助長し、唇の皮膚の表層にある角質層がはがれやすくなります。その結果、皮膚のターンオーバー(新陳代謝)が早まり、角質層が正常に形成されないため、外部からの刺激や異物の侵入から守ったり、内側に蓄えている水分が逃げないようにしたりする皮膚のバリア機能が失われた状態となります。

唇は極度に乾燥し、それによってさらに舌なめずりを繰り返すことで、症状が悪化するという悪循環を生じます。唇の皮がはがれたり、めくれたり、赤くなったり、ひび割れたり、かさぶたがみられたりするほか、出血などの症状がみられるようになります。また、口角に亀裂(きれつ)が入ったり、唇の内側の皮がむけたりするなど周囲の皮膚にまで炎症が波及することもあります。唾液や飲み物などの刺激によって、ヒリヒリ感、痛み、かゆみを生じることもあります。

特に冬季などの空気が乾燥した時期に、舌なめずり口唇炎は起こりやすくなります。

舌なめずり口唇炎は時には大人にもみられ、栄養不足、ビタミンの欠乏、精神的な背景なども原因になることもあります。

感染症による口唇炎を伴うケースもあり、唇に水疱(すいほう)ができるものはヘルペスなどのウイルス感染、白い苔(こけ)のようなものが唇に付着するものはカンジダなどによる真菌感染、ただれが強いものは細菌感染が考えられ、強い痛みやはれ、発熱などが現れることもあります。

舌なめずり口唇炎の検査と診断

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、舌なめずり口唇炎と確定するためには、アレルギー性の接触性口唇炎、いわゆる、かぶれを除外することが必要です。かぶれの原因として、食べ物や口紅、リップクリーム、歯磨き粉、治療で使用している外用薬などが考えられるので、これらに対しパッチテストを行い、かぶれかどうかを判断します。

また、口の中にいる一般的なカビであるカンジダや細菌、ウイルスなどの感染を伴うこともあり、それぞれ治療法が異なるので、検査を行います。

舌なめずり口唇炎と同じような症状を示す特殊な疾患として粘膜苔癬(たいせん) があるので、この疾患を除外するために、唇の組織を一部切り取って顕微鏡で調べる生検を行うこともあります。
 皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、ワセリンなどの保湿剤を使用し、炎症が強い時はステロイド剤(副腎〈ふくじん〉皮質ホルモン剤)や非ステロイド剤の外用薬を使います。また、栄養バランスに気を付け、ビタミン、特にビタミンB2、B6を補うことも治療の一つとなります。

感染症による口唇炎を伴っている場合には、抗生物質(抗菌剤)、抗ウイルス薬、抗真菌薬など、それぞれの病原体に適した塗り薬や内服薬を使用します。

精神的な原因が背景にある場合には、抗うつ剤の内服薬の使用で改善するケースもありますが、無意識のうちに舌で唇をなめたり、皮をむしったりしてしまうことがあって、治りにくくなるので、ストレスをためないなど日常生活を工夫することも大切です。

🇵🇷歯肉がん(歯茎がん)

上下の歯茎に発生するがんで、口腔がんの一つ

歯肉(しにく)がんとは、歯茎に発生するがん。歯茎がんとも呼ばれます。

口の中にできるがんを口腔(こうくう)がんと呼びますが、歯肉がんはそのうちの一つでもあります。口腔がんとしては、舌にできるがんである舌(ぜつ)がんの次に多く発生します。口腔がん自体が身体全部のがんの中で約2~3パーセントの率とあまり多くはないので、歯肉がんも比較的まれながんであるといえます。

その多くは、上あごの歯茎よりも下あごの歯茎、前歯よりも奥歯の部分に発生します。ほとんどは、歯肉の粘膜の扁平(へんぺい)上皮細胞から発生します。 年齢別で40歳以上に多く、性別では女性より男性に多くみられます。

原因は、まだはっきりしたことはわかっていません。ただ、喫煙、アルコールの刺激、虫歯、歯石、入れ歯や歯に入れている金属による慢性的な歯茎への刺激、口の中を不潔にしているなど、さまざまな原因が複合することで発生すると考えられています。

歯肉がんの初期の段階では、歯茎の炎症と同じような症状が起こります。例えば、歯の痛み、歯茎のはれなどを自覚するようになります。歯を抜いた後に、急速に大きくなることもあります。

進行すると、凸凹したこぶ状のしこりとなって、表面に潰瘍(かいよう)ができ、 悪臭や神経痛のような痛みが出たり、出血することもあります。

さらに進行すると、歯肉のすぐ下にある上顎(じょうがく)骨や下顎骨へとがんが広がっていき、これを破壊します。そのために、歯が緩んだり、抜け落ちたりすることがあります。

そして、がんはほおの粘膜、舌の根元を包んでいる口腔底、口腔と鼻腔の間にあってアーチ形の上壁をなす口蓋(こうがい)などの周囲へと進んでいきます。顎下リンパ節、頚部首筋のリンパ節、肺に転移することもあります。

歯肉がんの検査と診断と治療

歯肉がんは口内炎と誤診されやすく、発症者もすぐ治るだろうと思って放置している場合が多く見受けられます。そのために腫瘍(しゅよう)が大きくなりすぎたり、周囲組織への強い浸潤を伴うケースがしばしばみられますので、疑わしい症状があればまず歯科口腔外科を受診します。

 医師による診断では、X線検査やCT検査、MRI検査を行い、最終的には組織片を調べて確定します。

治療は、ごく初期のケースでは放射線照射だけで治癒することもあります。上下のあごの骨までがんが達している多くのケースでは、ほとんど手術が必要となります。

手術は、歯肉とともに上顎骨や下顎骨を切除します。上顎骨を切除した場合には、特殊な入れ歯を作製し、使用します。下顎骨を切除した場合には、咀嚼(そしゃく)に不便を感じることが多いものの、嚥下(えんげ)や会話は可能。

近年では、肋骨(ろっこつ)、腸骨、腓骨(ひこつ)、 肩甲骨などを用いて下顎骨を再建するようになってきているため、手術後の障害は大幅に解消されつつあります。

また、歯肉がんの中には、抗がん剤による化学療法のかなり有効なタイプのものもあります。

2022/08/25

🇲🇽上咽頭がん

鼻の奥で、頭蓋底の直下の部分に発生する咽頭がん

上咽頭(じょういんとう)がんとは、鼻の奥で、口を開けても見えない頭蓋(とうがい)底の直下の部分に発生するがん。中咽頭がん、下咽頭がんとともに咽頭がんの一つで、前二者に比べると発生頻度はやや少ない傾向があります。

上咽頭は上気道の一部で、頭蓋底、副鼻腔(びくう)に囲まれ、その下方は中咽頭に続き、その外側は耳管によって両側の中耳腔とつながっています。周辺には内頸(けい)動脈、脳神経が存在します。

初期症状は、がんのために耳管が閉塞(へいそく)されて起こる難聴、鼻詰まり、鼻出血などで、首のリンパ節がしばしば大きくはれてきます。

進行すると、脳神経まで侵され、ものが二重に見えたり、三叉(さんさ)神経などの脳神経障害が出てきて、頭痛がしたり、顔面の知覚が鈍くなったり、痛みが出たりします。また、肺、肝臓、骨などへの転位が多いのも、上咽頭がんの特徴です。

上咽頭がんの検査と診断と治療

医師による診断では、内視鏡検査やCT検査、MRI検査などの画像検査を行い、最終的には組織片を調べて確定します。

治療は放射線照射が主体ですが、従来の成績はあまり良好ではありませんでした。近年では、放射線治療の前後に、抗がん剤の注射療法を行い、肺、肝臓などへの転位を防止します。

この化学療法を実施することで、従来は40パーセント以下だった5年生存率は、60パーセントまで向上するようになっています。

2022/08/24

🇩🇪シルクロード病(ベーチェット病)

目のぶどう膜炎など多彩な症状を示す膠原病類縁疾患

シルクロード病とは、原因不明の膠原(こうげん)病類縁疾患。ベーチェット病とも呼ばれ、トルコの医師フルス・ベーチェットが1936年、初めて報告したことに由来しています。

目のぶどう膜炎に加えて、口腔(こうくう)粘膜のアフタ性潰瘍(かいよう)、皮膚症状、外陰部潰瘍を主症状とし、血管、神経、消化器などの病変を副症状として、急性炎症性発作を繰り返すことを特徴とします。

日本では現在、厚生労働省の特定疾患医療に認定されている難病の一つで、平成19年3月末現在、シルクロード病(ベーチェット病)の特定疾患医療受給者数は16638人を数えます。

地域的には、絹の道とも呼ばれるシルクロード沿いに発症者が多く、中近東諸国や地中海沿岸諸国、日本、韓国、中国に多く認められます。日本においては北海道、東北に多くて、北高南低の分布を示し、男女比は1対1、20歳代後半から40歳代にかけての働き盛りに、多く発症しています。

疾患の原因は、現在も不明です。しかし、遺伝因子など何らかの内因と、感染病原体やそのほかの環境因子など何らかの外因が関与して、白血球の異常が生じるために発症すると考えられています。単純な遺伝性疾患と捕らえるのは、妥当ではありません。

内因中の遺伝因子で一番重要視されているのは、ヒトの組織適合性抗原であるヒト白血球抗原(HLA)のHLA-B51というタイプです。HLAのうちB51を持っている日本人の一般的割合は10~15パーセントですが、シルクロード病の発症者では50~60パーセントと非常に高い割合になっています。

また、そのほかの遺伝因子についても、発症や病状に影響を及ぼす可能性が指摘されています。

外因としては、ある種の工業汚染物質の影響を考える説もありますが、虫歯菌を含む細菌やウイルスなどの微生物が関わっているのではないかという考え方が有力です。

シルクロード病の主な症状は、以下の4症状です。

●目の症状 

この疾患で最も重要な症状が目のぶどう膜炎で、ほとんど両目が侵されます。ぶどう膜とは、虹彩(こうさい)、毛様体、脈絡膜の総称です。

目に最初に出現する自覚症状として最も多いのは、目のかすみや視力低下。医師が細隙燈(さいげきとう)顕微鏡で見ると、角膜と虹彩とに囲まれた前眼房が混濁し、シルクロード病のぶどう膜炎特有の白色の蓄積物が認められます。これを前眼房蓄膿(ちくのう)といいます。

再発を繰り返しながら、徐々に視力低下を来しますが、発症者本人がその再発を直接的に自覚する場合が多く、眼発作と呼ばれています。障害が蓄積され、網膜脈絡膜炎に進む例では、失明に至ることもあります。

●口腔粘膜のアフタ性潰瘍

頬(きょう)粘膜、舌、口唇、歯肉に白く、痛みのある、アフタという円形の潰瘍ができます。初発症状として最も頻度の高い症状ですが、経過を通じて繰り返しできることも特徴です。

●皮膚の症状

皮膚に結節性紅斑(こうはん)や、にきびのような発疹(はっしん)がみられます。結節性紅斑は、隆起性で圧痛を伴う紅斑が手足に現れます。にきびのような発疹は、前胸部、背部、頸部(けいぶ)などに現れます。

皮膚は過敏になり、かみそり負けを起こしやすかったり、針反応といって、注射や採血で針を刺した後、赤く腫(は)れたりすることがあります。

●外陰部の潰瘍

男性では陰嚢(いんのう)、陰茎、亀頭に、女性では大小陰唇、膣(ちつ)粘膜に有痛性の潰瘍がみられます。外見は口腔粘膜のアフタ性潰瘍に似ていますが、深掘れになることもあり、傷跡を残すこともあります。シルクロード病に特徴的な症状で、しばしば発症者が自らの病気を自覚する切っ掛けになります。

4つの主症状以外に、以下の副症状があります。後期に起こる症状であり、生命や予後に影響を及ぼします。

●関節炎

膝(ひざ)、足首、手首、肘(ひじ)、肩などの大関節が侵され、一般的には、むくみがみられます。急性、亜急性で繰り返す場合と、慢性に持続する場合があります。非対称性で、変形や剛直を残さず、手指などの小関節が侵されない点で、関節リウマチとは異なります。

●血管病変

この疾患で大きな血管に病変がみられた時、血管型シルクロード病といい、圧倒的に男性に多い病型です。動脈、静脈ともに侵されますが、静脈病変が多く、深部静脈血栓症などの原因となることがあります。深部静脈血栓症は下肢に多くみられ、皮下静脈に沿った発赤、圧痛と周囲のむくみが主な症状です。

動脈病変は少ないのですが、大動脈炎を起こしたり、肺動脈炎から大量喀血(かっけつ)を来すことがあります。血管病変に伴う脳血管障害や心筋梗塞(こうそく)を起こす場合もあります。

●消化器病変

腸管の潰瘍を起こした時、腸管型シルクロード病といいます。主症状は、腹痛、下痢、下血など。部位は右下腹部に当たる回盲部が圧倒的に多く、上行結腸、横行結腸にもみられます。潰瘍は深く下掘れし、消化管出血や腸管穿孔(せんこう)により、緊急手術を必要とすることもあります。

●神経病変

神経症状が前面に出た時、神経型シルクロード病といいます。難治性で、男性に多い病型です。髄膜(ずいまく)炎、脳幹脳炎として急性に発症するタイプと、片まひ、小脳症状などの神経症状に加えて認知症などの精神症状を来し、慢性的に進行するタイプに大別されます。慢性的に進行するタイプは特に予後不良で、あまり治療も効きません。

●副睾丸(こうがん)炎

男性に頻度が高く、特徴的症状として挙げられています。睾丸部の圧痛と、むくみを伴います。

シルクロード病の検査と診断と治療

シルクロード病(ベーチェット病)の主症状が2つ以上あれば、定期的な経過観察が重要となりますので、リウマチ・膠原病科、眼科、皮膚科の専門医を受診します。

診断のための特殊な検査はなく、これがあればシルクロード病だと診断できる特別な症状もありませんが、主症状と副症状から総合的に診断が行なわれます。HLA―B51陽性や針反応は、診断の参考になります。

主症状がすべて出現した時は診断はそれほど難しくはありませんが、副症状が主体になる時は診断が困難なことがあります。また、多彩な症状は一度に出てくるわけではなく、長い年月をかけて症状がそろい、初めてシルクロード病と診断される場合も少なくありません。

目、口、皮膚、外陰部の4主症状すべてがそろったものを完全型シルクロード病、2~3主症状に加えて2副症状を示したものを不全型シルクロード病と呼ぶこともあります。

シルクロード病の症状は非常に多彩ですので、現在のところ、すべての症状に対応できる単一の治療はありません。急性炎症性発作を完全に食い止める治療法もなく、いかに発作を軽症化し、回数を減らすかが治療の最大の課題となっています。

現在の治療は、ステロイド剤(副じん皮質ホルモン)と免疫抑制剤が中心となっています。生命に影響を及ぼす臓器病変や、重篤な目の病変などでは、高用量のステロイド剤や免疫抑制剤を含む強力な治療が行なわれます。

一度臓器病変を起こした場合や、血管型、神経型、腸管型に分類される特殊型シルクロード病の場合は、症状が軽減、解消した後も容易に再燃するのを防ぐため、少量のステロイドを飲み続けるケースが多くなります。

難治性の目の病変に対しては、抗腫瘍(しゅよう)壊死因子抗体のインフリキシマブを使用することもあります。インフリキシマブは世界に先駆けて2007年1月、日本で保険適用となったもので、まだ長期成績は出ていませんが、従来の治療薬にない効果が期待されています。

皮膚などの軽度の症状や、症状が軽減、解消した時期には、コルヒチン、サラゾピリンなども用いられます。

主症状に関しては、慢性的に繰り返し症状が出現するものの、一般に予後は悪くありません。10年くらい経つと疾患の勢いは下り坂となり、20年くらいを越えるとほぼ再燃しないと見なされています。ただし、目の病変については、治療が遅れるなどすると失明することもあり、若年者の失明の重大な原因の一つです。特殊型シルクロード病も、いろいろな後遺症を残すことがあります。

2022/08/22

🇨🇳舌がん

口の中に発生するがんで、大部分は舌の両サイドに発生

舌(ぜつ)がんとは、口の中の舌前方に発生するがん。歯肉がん、唾液腺(だえきせん)がんなど口の中に発生するがんの中では、最も頻度が高くて約50パーセントを占めます。

この舌がんは、普通に鏡で見える範囲の舌前方の3分の2、すなわち舌背部後方にある8〜10個の突起に相当する有郭(ゆうかく)乳頭より、前方部に生じたがんをいいます。有郭乳頭より後方に発生したものは、舌根がんと分類されます。

好発部位は舌の側縁から下面で、特に臼歯(きゅうし)部に相当する側縁部に多く発症し、舌の先端、中央、裏面にできるのはまれです。組織学的には、その大多数が扁平(へんぺい)上皮がんですが、まれに腺系(せんけい)がんも発生します。初期の舌がんではアフタ性口内炎と間違えやすく、放置していると進行がんになります。

病変の表面には、こぶ状に膨らむ腫瘤(しゅりゅう)、びらん、潰瘍(かいよう)を形成することが多く、白板、肉芽(にくげ)、乳頭状を示すものもあります。白板型、肉芽型および乳頭型のがんは外向性に発育し、粘膜表層を広範囲に侵すものの、深部への浸潤は比較的少ない傾向があります。腫瘤型や潰瘍型は内向性に発育し、深部組織に深く浸潤して、嚥下(えんげ)障害や構音障害などを生じます。

頸部(けいぶ)リンパ節への転移も多くみられ、治療後に現れる後発転移も多く認められます。全経過をみると、約50パーセントに転移が認められます。通常、口腔(こうくう)がんでは病変と同じ側の頸部リンパ節へ転移しますが、舌がんでは両側に転移することもあります。

女性の約2倍と男性に多く、50〜70歳代に多く発生します。最近では、20歳代の若い人にも認められつつあります。発生の原因は、不明です。誘因としては、口腔内の不衛生、喫煙、飲酒、義歯や虫歯による持続的な刺激が考えられています。

早期では、ほかのがんと同じように、ほとんど自覚症状はありません。ただ舌の表面がわずかにザラザラしたり、白い斑点(はんてん)状の病変が認められるものが多いようです。

最初から浅いびらんや潰瘍ができる場合には、舌が歯にこすれて痛い、食べ物がしみるなどの症状がみられます。進行してくると、舌に硬いしこりが触れるようになり、しこりの表面には潰瘍を生じ、出血しやすく、次第に激しい痛みを伴うようになります。舌の動きが悪くなり、ろれつが回らない、飲み込みにくいなどの症状も現れます。

舌がんの検査と診断と治療

口内炎が治りにくかったり、舌の側縁に白い斑点があったり、しみて痛かったりしたら、耳鼻咽喉(いんこう)科や、口腔外科、頭頸部外科を受診します。

医師による診断では、触診を重視します。触診により、周囲の舌の軟らかさとがんの浸潤による硬さとの違いがはっきりします。表在性のがんの場合でも、触診に勝る診断法はありません。

舌の深部に浸潤している場合には、CT検査やMRI検査を行い、がんの広がりを診断すると同時に、頸部のリンパ節転移の有無を診断します。しかし、口腔のCT検査、MRI検査では、歯の治療に使われた金属材料のため十分な所見が得られないこともあります。確定診断には、潰瘍部の細胞片を採取して調べます。

治療方法には、大きく分けて手術治療と放射線治療の2つがあります。

長径2センチ未満や、長径2〜4センチ未満の舌がんでは、放射線治療が有効です。外から放射線を照射する方法ではなく、放射線を出す線源と呼ばれる針やワイヤーを舌に刺して、直接組織内に放射線を照射する方法です。治療の数日後に、刺した線源を抜き取ります。また、放射線を出して、次第にエネルギーが減衰していく金属の小粒子を埋め込む方法もあります。これらの放射線治療は、比較的浅い部分にあるがんで有効。

一方、手術治療は小さいがんでも有効です。大きな進行がんでは、切除手術と再建手術を同時に行います。舌がんでは部分切除術、半側切除術、亜全摘術、全摘術などがあります。部分切除術以上の切除では、再建手術を行います。

半側切除までであれば、手術後の言語は十分に保たれます。切除した部分が大きいほど、言語と咀嚼(そしゃく)、嚥下などの機能障害が強く出ます。近年では、再建手術が進歩したため、舌の3分の2を切除しても術後の機能は比較的良好で、社会復帰が容易にできるようになっています。

手術の前後に、放射線照射を行ったり、抗がん剤による化学療法を加えることもあります。術後は積極的に舌を動かして、リハビリテーションを行う必要があります。

頸部リンパ節転移に対する治療も、大切になります。初診時になかったリンパ節転移が治療後に現れることが、約20〜30パーセントにみられます。見付けたら早急に、転移のあるリンパ節のみならず、頸部のリンパ節を周囲の組織も含めてすべて摘出することが必要です。

リンパ節の後発転移が予後に影響し、舌がんの5年生存率は全体で約60パーセントです。

🇳🇵舌痛症

舌の表面は外見上異常がないのに、舌に痛みを伴う疾患

舌痛(ぜっつう)症とは、はれや炎症など舌の表面には外見上の異常がないのに、舌に痛みを感じる疾患。

発症者の多くは女性で、年齢的には更年期を迎える40歳代、50歳代に多いのが特徴です。主に舌の先端や側面に、ヒリヒリした痛みや、焼けるような痛み、しびれ、違和感が現れ、長期間続きます。食事がおいしくない、本来の味がしないなどの味覚異常などを併発していることも、しばしばあります。

舌の痛みやしびれは我慢できないほどではないものの、1日中気になって 舌に意識が集中したり、精神的に緊張したりした時に、症状が出やすいようです。口の中が痛いので、イライラしたり、他のことをやる気がそがれたりすることもあります。

食事や会話には支障がないことが多いものの、食べ終わった後や長電話の後に、また午前中よりも夕方から夜にかけて舌の痛みやしびれが悪化する傾向があります。痛む部位が移動することもあり、唇や口蓋(こうがい)にヒリヒリした痛みが現れることもあります。ガムやアメなどを口に入れておくと、少し痛みが紛れることがあります。

不眠、肩凝り、頭痛など自律神経症状を伴うことが多い傾向もあります。

この舌痛症は歯科治療の後に発症することがしばしばあり、入れ歯や歯列矯正具が口に合わず物理的な刺激によって痛みが出たり、歯の治療に用いる金属のアレルギーが原因になっていることもあります。

また、別の原因として、生体内の微量金属である鉄、亜鉛、銅やビタミンB12が欠乏しても、舌の表面が荒れやすくなり、舌の痛みを生じやすくなります。 味覚異常を伴っている場合には、血液中の亜鉛欠乏が一因となっている場合もあります。

更年期の女性に多いことから、ホルモンのアンバランスや自律神経の変調なども関係があるとも考えられています。

2002年以降の研究では、ドライマウス(口腔〔こうくう〕乾燥症)も原因になっていると考えられています。ドライマウスでは、唾液(だえき)の分泌量の低下により口の中が乾燥します。口の中の乾燥は症状の進行程度により舌にも悪影響を及ぼし、舌の乾燥、舌の表面のひび割れ、味覚障害などさまざまな症状となって現れます。カンジダ菌という真菌の増殖による舌痛、口角炎も認められます。シェーグレン症候群からもたらされるドライマウスもあります。

薬物の服用によっても、ドライマウスが生じます。従来から、舌痛症の原因の大半は心身症あるいは心気症とされてきた関係で、舌の痛みに対する不安を取り除く心理面の治療として、精神安定剤(抗不安剤)、抗うつ剤、向精神剤などが処方されるケースが一般的でした。これらの薬物は、精神面での不安を和らげる効果があるものの、かえって症状が進行するケースもあります。

精神安定剤、抗うつ剤などには、唾液腺(せん)を支配している神経に作用し、唾液分泌量を低下させる作用があることが知られており、ドライマウスの症状が現れることもあります。

舌痛症の原因の大半は現在、心身症あるいは心気症と考えられています。日常生活でストレスを抱えている時に舌痛症を発症することがありますし、ストレスを抱えている時に行った歯科治療を契機に舌痛症を発症することがあります。これは心身症と考えられます。

舌の痛いことにとらわれて、舌をいつも観察しては片時も舌の痛みから解放されず、舌がんノイローゼにまでなるような場合は、舌が気になることが疾患で、舌そのものが悪いわけではありません。これは心気症と考えられます。この舌痛症が原因で、舌がんになることはありません。

舌の痛みなどを自覚した場合、できるだけ早期に口腔内科、あるいは歯科心療科、心療歯科のような専門機関を受診して、検査を受けることが勧められます。現在のところ、診療する医療機関が割合少ないため、適切な診断と治療がされていないケースが非常に多くなっています。

舌痛症の検査と診断と治療

口腔内科などの医師による診断では、まず、視診で口腔内の検査をして、はれや炎症などの原因となる疾患がないかを確認します。また、問診では食事で症状が増強しないか、消失するかを確認します。

安静時と刺激時の唾液量を測定し、唾液腺機能を調べます。血液検査で鉄、亜鉛、銅などの微量金属やビタミンB12の値も調べます。口腔内菌検査は、食事などの影響を受けない早朝の唾液を検体としますが、真菌の一種であるカンジダ菌の増殖の有無には、とりわけ注意します。

心因的要因は問診の際に感じ取れますが、いろいろのアンケートを行って、より客観的に診断します。診断に苦慮する際は軽い精神安定剤(抗不安剤)を少量使用し、症状の変化をみることもあります。

口腔内科などの医師による治療では、検査で異常があった場合は、その治療を行います。入れ歯などの刺激が一因なら、改善する必要があります。微量金属やビタミンの不足の場合は、亜鉛製剤などで不足した物質を補充することで容易に症状は改善します。

舌の痛みやしびれの原因となるようなはれや炎症などは見付からず、神経のまひも認められず、血液検査でも特に異常値が認められない場合は心身症と見なし、薬物療法と心理療法などを行います。

最も有効な治療法は抗うつ剤を中心とした薬物療法で、不眠や不安を伴う場合は睡眠導入剤や精神安定剤を併用します。漢方薬が有効なこともあります。抗うつ剤には、その作用機序から三環系、選択的セロトニン取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン取り込み阻害薬(SNRI)などがあります。

抗うつ剤を服用すると、早ければ4日から5日目、遅くても1週間から10日くらいで、舌の痛みが緩和していきます。理想的に治療が進展していけば、3週間から4週間後には痛みは7割方改善していきます。胃腸の調子が少し悪くなる場合もあるものの、軽い整腸剤を併用すればすぐに治まります。

効果が十分得られたら、そのまま数カ月は抗うつ剤の服用を続けて再発を防ぎますが、半年から1年くらいは続けたほうがよい場合が多いようです。年単位で継続しても、きちんと通院していれば特に副作用などの問題は心配ありません。しかしながら、抗うつ剤の鎮痛効果には個人差があります。

心気症の場合は、口腔内に舌がんなどの疾患のないことを根気よく説明し、必要以上に口の中を鏡で見たり、指で触ったりしないようにと説明します。症状が治まらない際は、軽い精神安定剤を用います。

ドライマウス(口腔乾燥症)の場合は、唾液の分泌を促す薬や、ジェルやスプレー状の保湿剤で口の中を潤します。夜間の乾燥を防ぐ保湿用マウスピース(モイスチャープレートなど)、夜間義歯などを症状に応じて用います。薬の副作用が原因なら、主治医と相談して薬の変更や減量を検討します。原因がはっきりすることでストレスが軽くなり、ドライマウス自体が改善する場合もあります。

シェーグレン症候群からもたらされるドライマウスでは、残念ながら根本的な治療法はありません。口や目などの乾燥症状を軽快させることと、疾患の活動性を抑えて進展を防ぐことを目的に、内服薬と症状に応じた人工唾液、口腔乾燥症状改善薬、保湿剤、含嗽(がんそう)剤(うがい薬)などによる対症療法に頼らざるを得ないのが現状です。

日常生活上の注意としては、体内の鉄のほか、亜鉛の低下でも起こりやすくやすくなるので、偏食を避けることが重要です。舌痛症は、唾液量の低下もその要因の1つですが、唾液量の低下に引き続いて起こりやすいカンジダの増殖も重要で、歯磨き、うがいなどで口腔内を清潔に保つことを心掛ける必要があります。

🟪インフルエンザの患者数が注意報の基準を超える 新型コロナと同時に流行ピークの恐れも

 インフルエンザの感染状況について、厚生労働省は20日、全国約5000の定点医療機関から9〜15日の1週間に報告された感染者数が1医療機関当たり19・06人だったと発表しました。前週(9・03人)と比べ2・11倍に急増し、「注意報」の基準の10人を超まし た。  都道府県別では...