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2022/08/01

🇳🇵エイパート症候群

頭の形と顔貌が特徴的で、手足の指の癒合がある先天性疾患

エイパート症候群とは、複数の特定の奇形を持っている先天性の異常疾患。アペール症候群とも、尖頭(せんとう)合指症候群とも呼ばれます。

エイパート症候群の主な症状は、頭蓋(とうがい)骨縫合早期癒合症、合指症、合趾(ごうし)症で、頭の形と顔貌(がんぼう)が特徴的で、手足の指に癒合などの奇形があります。症状が似ているため、クルーゾン病と同一視する場合もあります。

乳児の頭蓋骨は何枚かの骨に分かれており、そのつなぎを頭蓋骨縫合と呼びますが、乳児期には脳が急速に拡大しますので、頭蓋骨もこの縫合部分が広がることで脳の成長に合わせて拡大します。成人になるにつれて縫合部分が癒合し、強固な頭蓋骨が作られるわけです。

頭蓋骨縫合早期癒合症は狭頭症とも呼ばれ、染色体や遺伝子の異常が原因となって、頭蓋骨縫合が通常よりも早い時期に癒合してしまう疾患。その結果、頭蓋骨や顔面骨に形成不全がみられて、頭、顔、あごに変形が生じます。頭蓋骨の変形は、早期癒合が起こった縫合線と関係があり、長頭、三角頭、短頭、斜頭などと呼ばれる変形が生じます。

眼球突出、両目の離間、気道狭窄(きょうさく)、歯列のかみ合わせ異常、高口蓋や口蓋裂など、さまざまな症状もみられます。また、頭蓋骨の変形によって脳が圧迫されるなどの障害が発生し、水頭症の合併、頭蓋内圧の上昇を認めることも少なくありません。

合指症は、隣り合った手の指がくっついている疾患。エイパート症候群における合指症の場合、人差し指から小指までの4本の合指、または親指から小指まで5本全部の合指の2つのパターンに大きく分かれるようです。手の指の間が皮膚によって互いにくっついている場合と、骨によって互いにくっついている場合とがあります。

合趾症は、隣り合った足の指がくっついている疾患。5本全部の指がくっついていることが多いようです。合指症と同じく、足の指の間が皮膚によって互いにくっついている場合と、骨によって互いにくっついている場合とがあります。そのままでも歩行に問題はありません。

水頭症のほか、聴力の障害、精神発達障害を伴うこともありますが、ほとんどは知能の発達に異常はありません。発生頻度は1万6000人に1人とされ、典型的な症状を持つ発症者は常染色体性優性遺伝をすることがわかっています。

乳児の頭蓋骨は、子宮内での圧迫、産道を通る際の圧迫、また寝癖などの外力で容易に変形します。こうした外力による変形は自然に改善することが多いので心配ないものの、エイパート症候群における頭蓋骨縫合早期癒合症との鑑別が大切です。

エイパート症候群の検査と診断と治療

乳幼児の頭の形がおかしい、手足の指が癒着していると心配な場合は、形成外科や小児脳神経外科の専門医を受診します。

エイパート症候群の症状には、軽度なものから重度なものまであり、形成外科や脳神経外科の領域のほか、呼吸、循環、感覚器、心理精神、内分泌、遺伝など多くの領域に渡る全身管理を要します。乳幼児の成長、発達を加味して適切な時期に、適切な方法で治療を行うことが望ましいと考えられ、関連各科が密接な連携をとって 集学的治療が行われます。

頭蓋骨縫合早期癒合症の治療は、放置すると頭の変形が残ってしまうばかりでなく、脳組織の正常な発達が抑制される可能性があるため、外科手術になります。

手術法としては従来から、変形している頭蓋骨を切り出して、骨の変形を矯正することで正常に近い形に組み直す頭蓋形成術が行われています。乳幼児の骨の固定には、できるだけ異物として残らない吸収糸や吸収性のプレートが用いられます。

近年では、この頭蓋形成術に延長器を用いた骨延長術も行われています。具体的には、頭蓋骨に刻みだけ入れて延長器を装着し、術後に徐々に刻みを入れた部分を延長させ、変形を治癒させるという方法。

骨延長術のメリットとして、出血が少なく手術時間の短縮が図れる、骨を外さないため血行が保たれるので委縮や変形が少ない、骨欠損が比較的早期に穴埋めされる、皮膚も同時に延長可能である、術後に望むところまで拡大可能であるなど挙げられます。一方、デメリットとして、頭蓋形成術より治療期間が長く1カ月程度は入院しなければならない、延長器を抜去する手術が必要となるなどが挙げられます。

さらに、内視鏡下で骨切りを行い、ヘルメットで頭の形を矯正するなどの手術方法も開発されています。水頭症予防の手術が必要になる場合もあります。

単純な頭蓋骨縫合早期癒合であれば、適切な時期に適切な手術が行われれば、一度の手術で治療は完結することが期待できることがあります。エイパート症候群性の頭蓋骨縫合早期癒合症では、複数回の手術が必要になることもまれではありません。頭蓋骨の形態は年齢により変化しますので、長期に渡る経過観察が必要です。

頭蓋骨の手術だけでなく、顔面骨を骨切りして気道を拡大し、眼球突出や不正咬合(こうごう)を適切な位置へ移動させる手術も行われます。

手足の指の癒着は、皮膚だけでなく骨まで癒着している場合、機能を損ねないように慎重に分離手術が行われます。歯列矯正を行う時には、エイパート症候群の場合は健康保険が適用されます。

🇳🇿栄養失調

標準体重より体重が20パーセント以上減少している状態

栄養失調とは、一般的に、標準体重より体重が20パーセント以上減少している状態。栄養不良、栄養不足、羸痩(るいそう)とも呼ばれます。

標準体重より少ないからといって、人それぞれで体重がほぼ一定している場合には、すぐ病的だとはいえません。しかし、過去6カ月以内に元来の体重から10パーセント以上減った場合は、医学的に問題となります。

この栄養失調は、栄養過多による肥満の反対、つまり脂肪だけが減っているということではありません。筋肉など、脂肪以外の組織も減少している状態をいいます。

栄養失調を起こす原因には、さまざまなものがあります。大きく分けて、食事で摂取する熱量(カロリー)が体の要求を満たすのに十分でない場合と、摂取する熱量は足りていても十分に吸収・利用がされない場合に、栄養失調の状態になります。

食事で摂取する熱量が体の要求を満たすのに十分でない場合の栄養失調の一般的な形態は、蛋白(たんぱく)・エネルギー栄養失調と、微量栄養素栄養失調に分かれます。

蛋白・エネルギー栄養失調は、体に必要なエネルギーと蛋白質の不十分な吸収と利用を示します。微量栄養失調は、体に少量必要なビタミンや微量元素などの不足が原因で、さまざまな疾患につながり、体の正常な機能を損ないます。

摂取する熱量は足りていても十分に吸収・利用がされない場合は、消化器系の疾患や、がん、糖尿病、甲状腺(こうじょうせん)機能高進症などのいろいろな疾患が原因となっている場合があります。

消化管である胃腸に疾患があると、食欲不振に陥ると同時に、食べた物の消化・吸収も正常に行われなくなるため、栄養失調になります。消化器系の疾患で多いのは、胃潰瘍(かいよう)と十二指腸潰瘍です。また、消化液や酵素を分泌する腺臓器である肝臓、膵臓(すいぞう)に、慢性肝炎、肝硬変、慢性膵炎などの疾患があるケースでも、食欲が減退して、栄養失調になります。

体のどの臓器、組織にできたがんでも、初期症状として栄養失調になり、体重が落ち、やせてきます。がん細胞が体の栄養を奪ってしまうために起こり、特に消化器系に発生したがんでは顕著です。末期になると、体がやせ細ってきます。

糖尿病の初期には太り出すことがありますが、放置して進行すると食欲があるのに栄養失調になり、体がやせてきて、のどの渇き、多尿などの症状が現れます。糖尿病は膵臓から出るインシュリンの働きが悪くなり、血糖値が高くなる疾患で、進行すると目、腎臓(じんぞう)、神経などに合併症を来す全身病。親や兄弟に糖尿病の人がいると、発症率が高くなります。

甲状腺ホルモンが過剰に分泌される疾患が甲状腺機能高進症で、代謝が活発になって消費カロリーが増えるため食欲が増しますが、それ以上に代謝が激しいので、急激に栄養失調になります。動悸(どうき)がする、汗をかきやすい、手が震えるなどの症状も伴います。男女比で見ると、約1対4で女性に多く、多くは20歳~50歳代で発症します。

そのほか、神経性食欲不振症、過度のダイエットが、栄養失調の原因となっている場合があります。

神経性食欲不振症は若い女性に多く、肥満に対する強い不安などが原因で食欲不振になり、食べても自ら吐いてしまうこともあります。その結果、栄養失調となり、極度のやせ、無月経などを引き起こします。本人には、栄養失調の自覚がないことが多いとされています。

減量を目的とした自己流の過度のダイエットによる食事制限によって、栄養失調、摂取エネルギー不足に陥って、極端にやせるケースもあります。貧血や肝機能障害などの合併症を引き起こす危険性もあります。

そのほか、感染症、外傷、手術なども、栄養失調を起こす原因となります。

栄養失調の一般的な症状は徐々に起こってきますが、自覚症状としては、倦怠(けんたい)感、無気力、脱力感があり、体重は次第に減少し、体温も下がり、脈が少なくなります。やがてむくみ、貧血、下痢が現れ、末期には昏睡(こんすい)状態になって死亡します。

1カ月で2~3キロ以上体重が減ったら、念のため内科を受診しましょう。

栄養失調の検査と診断と治療

内科の医師による診断では、さまざまな疾患を念頭に入れて、食欲や食事摂取の有無を始めとした病状を詳しく聞いた後に、必要な診察や検査を迅速に行います。

内科の医師による治療では、原因となっている疾患がある場合は、その疾患を治療することが先決です。

原因となっている疾患が特に見当たらなければ、十分な熱量と、牛乳、卵、大豆など良質な蛋白質を与えれば、容易に回復します。全体の摂取カロリーに占める糖質、脂肪、蛋白質の割合は、およそ3対1対1になるのがよいとされています。加えて、食事は1日3回、規則正しく取ることが大事です。

重症者では、消化機能も低下し、慢性下痢を伴っているものが多いので、初めは流動食を少量ずつ1日数回に分けて与えます。食べ物は、糖質食品(くず湯やかゆなど)、消化の良い蛋白質、脂肪(バター)の順で増加していきます。むくみが強い場合には、食塩を制限します。

🇳🇿会陰裂傷

主に分娩に際して会陰部の組織に生じる裂傷

会陰(えいん)裂傷とは、主に分娩(ぶんべん)に際して、会陰部が過度に押し広げられて生じる裂傷。会陰破裂とも呼ばれます。

裂傷は膣(ちつ)入口部と肛門(こうもん)の間、長さにして3センチほどの部分に生じ、傷口からの出血や痛みが生じます。分娩時、新生児の頭が膣壁や会陰部の組織を圧迫して引き伸ばし、最終的には約10センチほどもある頭が膣入口部から出てきます。最初は厚ぼったかった会陰部の組織は、新生児の頭が出る直前はぺらぺらの紙のように薄く引き伸ばされ、裂傷が生じやすくなります。

裂傷の程度によって、1度から4度までに分類されます。1度会陰裂傷は会陰部の皮膚および皮下組織、膣粘膜のみの裂傷で、2度会陰裂傷はさらに会陰部や膣壁の深部筋層まで及んだものをいいます。3度会陰裂傷では肛門括約筋、膣と直腸の間にある膣中隔の一部にまで達し、4度会陰裂傷は肛門粘膜や直腸粘膜をも損傷するものをいいます。

これらの裂傷は、膣や会陰の伸展が十分でない若年、もしくは高年の初産婦や、新生児の体が大きい時に生じやすくなります。経産婦は一度膣壁や会陰部が引き伸ばされた経験があるので、次の出産の際は引き伸ばされやすい傾向があります。

分娩後直ちに縫合すれば通常は後遺症を残しませんが、感染したり血液がたまって血腫(けっしゅ)をつくると、縫合部が離開して治癒に日数を要することがあります。4度会陰裂傷で治癒が不完全な場合は、膣と直腸が通じてしまう直腸膣瘻(ろう)を形成することもあります。

会陰裂傷を予防するために、介助者が新生児の頭の通過をゆっくり進行させて会陰の急速な伸展を防ぐ会陰保護を行うことが、古くから行われてきました。しかし、目に見える会陰裂傷を生じていなくても、皮下組織や深部筋層の断裂、あるいは過度な伸展によって産後の膣壁の弛緩(しかん)を生じ、後に性生活に不満を残すことがあります。

あらかじめ予防的に会陰を切開しておいたほうが治癒が早く、肛門括約筋や直腸粘膜に達するような裂傷を生じにくいことなどから、会陰部がある程度伸展した時点で人為的に切開する会陰切開が行われることも多くなっています。会陰切開は切開部位によって正中切開法と正中側切開法に分けられ、キザギザに裂ける会陰裂傷よりは縫合も簡単で治癒も早いのが特徴です。

会陰裂傷の検査と診断と治療

産婦人科、産科、産科・婦人科の医師による診断は、新生児が生まれ出て胎盤が子宮から出た直後に、赤い色の出血が見られ、膣入り口部と肛門の間の会陰組織、もしくは膣壁が裂けていることが視診で確認されると、会陰裂傷と判断します。

肉眼的に損傷の程度を確認して2度会陰裂傷かと思っても、膣の奥深くで直腸粘膜が裂けて4度会陰裂傷となっている場合もまれにあるので、分娩直後の直腸診も行い、肛門括約筋が正常に機能するか、肛門粘膜や直腸粘膜に損傷がないか確認します。

産婦人科、産科、産科・婦人科の医師による治療は、裂傷部を縫合することになります。合成吸収糸という時間がたつと自然と溶けてしまう細い糸を使用して縫合するため、一般的な裂傷では抜糸は必要ないことが多くなります。

1度会陰裂傷の場合、裂傷が1センチ以上あり出血がある際は、傷が密着して出血が止まる程度の強さで縫合します。2度会陰裂傷の場合、深い部分の傷は合成吸収糸を使う埋没縫合で止血し、表面の傷は1度会陰裂傷と同様に縫合します。2度会陰裂傷までは一般的に起こり得るもので、10分もあれば縫合も終わります。

3度会陰裂傷の場合、まず断裂した肛門括約筋を縫合します。不完全な断裂であっても、肛門括約筋は肛門の周囲を取り囲む輪ゴムのような筋肉で、断裂すると肛門の締まりが緩くなり、排便障害などの後遺症を残すことがあるため、断裂した筋肉を元のように引き寄せて縫合し、残りの傷は2度会陰裂傷と同様に縫合します。分娩後3~4日は便が硬くなりすぎて傷に負担がかからないように、便を柔らかくする緩下剤を使う場合があります。

4度会陰裂傷の場合、裂傷を縫合する前に、肛門から直腸の厳重な消毒を行います。次に破れた直腸粘膜の縫合と肛門括約筋の縫合を行い、後は2度会陰裂傷と同様に縫合します。縫合に1時間以上かかることもあります感染予防のために抗生物質の投与し、さらに3~4日程、便を止める場合もあります。また、直腸の挫滅(ざめつ)がひどく縫合がうまくいかずに直腸と膣がつながってしまう直腸膣瘻を形成することもあります。この際は抗生物質を用いて炎症を抑え、傷がある程度落ち着いてから再度縫合を行うこともあります。

会陰裂傷後に特に気を付けるべきことは、排便などで息む時に縫合部分に負担をなるべくかけないことです。そのため、緩下剤などで便の柔らかさをコントロールする必要があり、水分もこまめに飲むように心掛けます。傷の痛みが強い時には、授乳中も服用できる鎮痛剤を服用します。ほかにも、滅菌コットンなどでのふき取り、洗浄、ワセリンの塗布で、傷口を清潔に保つことが必要です。

🇳🇨エーラス・ダンロス症候群

皮膚、関節が過伸展し、結合組織がもろくなる遺伝性の疾患

エーラス・ダンロス症候群とは、皮膚や骨、血管、さまざまな臓器などを支持する結合組織が脆弱(ぜいじゃく)になる遺伝性の疾患。

原因や症状、遺伝形式の違いに基づき、複数の病型に分類されています。1998年の世界保健機関(WHO) の国際疾病分類では古典型、関節可動性高進型、血管型、後側湾(こうそくわん)型、多関節弛緩(しかん)型、皮膚脆弱型の6つの病型とその他の病型に分類されていましたが、2017年に改定されて13病型になりました。

従来は非常にまれな疾患と見なされていたものの、最近では、すべての病型を合わせると、世界的にみて5000人に1人程度の有病率であると推定されています。

エーラス・ダンロス症候群は遺伝子の変異によって起こる疾患で、発症に関連する原因遺伝子が複数報告されています。例えば、病型の1つである古典型については、COL5A1やCOL5A2といったⅤ型コラーゲン遺伝子上における異常が認められています。

ほとんどの病型が、コラーゲン生成にかかわる遺伝子の異常、もしくはコラーゲンの成熟に必須の酵素生成にかかわわる遺伝子の異常で起こります。コラーゲンは、体を構成している全蛋白(たんぱく)質の30%を占めている重要な構成成分で、さまざまな結合組織に強度と弾力性を与える働きをしているため、遺伝子に異常が起こることで、コラーゲンや結合組織の強度や構造を保つためのさまざまな成分の生合成が阻害され、その結果、エーラス・ダンロス症候群が引き起こされると考えられます。

ほとんどの病型で共通して認められる症状としては、関節の過伸展性、皮膚の過伸展性、結合組織の脆弱性が挙げられます。関節を支える靭帯(じんたい)などの結合組織がもろくなることから、関節は正常な可動域を超えて動き、脱臼(だっきゅう)しやすくなります。皮膚は健常な人と比べて非常に伸びやすく、感触は柔らかで滑らか、もろくて傷が付きやすい、できた傷も治りにくいといった特徴が認められます。

また、コラーゲンには多くの種類があり、結合組織によりその構成や代謝が異なるために、各病型においては特徴的な症状が現れ、程度には個人差があります。

病型にもよりますが、エーラス・ダンロス症候群で問題となる症状の1つは、血管がもろくなることです。特に血管型では、易(い)出血性であざができやすいほか、動脈解離や動脈破裂、外傷による出血、腸管や子宮などの内臓破裂が起きることがあり、予防や早期の適切な対応が必要になります。

エーラス・ダンロス症候群に気付いた際は、皮膚科、皮膚泌尿器科、小児科、整形外科、形成外科、循環器科、遺伝科を受診します。

エーラス・ダンロス症候群の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科、小児科、整形外科、形成外科、循環器科、遺伝科の医師による診断では、特徴的な臨床症状や病歴、家族歴から疾患の可能性を考え、さらにいずれの型に該当するか、将来どんな合併症が起こり得るかを特殊な検査で検討します。

ほとんどの病型で共通して認められる関節症状や皮膚症状に関しては、関節の可動性や皮膚の過伸展性、委縮性瘢痕(はんこん)などの有無を調べます。皮膚組織の一部を採取する皮膚生検、採取した細胞や尿の成分を調べる検査などを行う場合もあります。心血管超音波(エコー)検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査、骨のX線(レントゲン)検査などの画像検査も検討されます。

また、コラーゲンの生成や成熟に重要な蛋白質や酵素にかかわる遺伝子異常が複数見付かっていることから、一部の病型では遺伝子解析により、遺伝子に異常がないかどうかを調べる場合もあります。

皮膚科、皮膚泌尿器科、小児科、整形外科、形成外科、循環器科、遺伝科の医師による治療では、エーラス・ダンロス症候群自体に対する治療法はまだないため、それぞれの症状に応じた対症療法が中心となります。痛みが強い場合には鎮痛剤、血管がもろくなる場合は血圧を下げる薬の処方が検討されます。

また、関節や皮膚、血管が脆弱であることから、激しい運動を避ける、サポーターを装着するといった予防も重要です。病型によって症状や経過が異なるので、正確な診断と適切な管理が必要となります。

例えば血管型の場合には、動脈解離、動脈瘤(りゅう)、動脈破裂、腸管破裂、妊娠時の子宮破裂といった重篤な合併症を来す恐れもあるため、予防のための生活管理、専門医による定期的なフォローが必要です。体に負担のかかる検査や手術は、なるべく避けます。

予後は、血管型以外は良好です。

🇳🇨腋臭症

わきの下から特有のにおいが出る症状

腋臭(えきしゅう)症とは、わきの下の汗が原因で体臭が気になる疾患。わきがとも呼ばれます。

思春期になると、わきの下からの汗が刺激のある独特なにおいを発するようになります。においが強い場合が、腋臭症に相当します。

わきの下には、アポクリン腺(せん)があります。アポクリン腺は乳暈(にゅううん)、外陰部などにもあり、性ホルモンの影響を受けているので、思春期になると分泌が活発になります。 アポクリン腺から分泌された直後の汗にはにおいはありませんが、汗には脂肪酸が含まれているため、皮膚の表面についている細菌により分解されることにより、においを発するようになります。また、アポクリン腺以外のもう一つの汗腺であるエクリン腺も、そのにおいの発散にかかわっています。

汗をかいたままほうっておくと、においは強くなります。衣服のわきの下の部分が、黄色く変色します。

汗のにおいが気になるという人と、においより汗の量が多く、服に染みができて困るという人がいます。狭義では、前者を腋臭症、ないしわきがと呼び、後者は多汗症といって区別します。

腋臭症に気付いたら、わきの下を清潔に保つことが大切です。汗をかいた後はシャワーや入浴で汗をよく洗い流し、清潔な下着にこまめに取り替えます。腋毛があると汗が付着して細菌が繁殖しやすくなるので、わきの下の毛を切ったり脱毛すると、においを減らす効果があります。

このアポクリン汗腺の汗がにおう体質は、遺伝します。世界的に腋臭症体質者の割合を見ると、日本人では10人に1人、中国人では30人に1人、白人では10人に8人、黒人では10人すべてとされています。

このように日本人では腋臭症を持つ者が少数派という事情と、日本人が清潔好きという理由があいまって、自分の腋臭症の症状が気になり、仕事や勉強に集中できない、においを嗅(か)がれるのが怖くて他人と交流できないなど、悩みを持つ人の中には、専門の医師による手術を希望するケースも多々あるようです。

しかし、腋臭症は生命を左右するような疾患ではないため、たとえわきの下の汗が多くてにおいが強いからといって、必ず手術しなければいけないものでもありません。本人が気にしなければ、においが強くても治療の対象にはならないということです。

腋臭症の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科、あるいは形成外科、美容外科の医師による診断では、わきの下の汗をガーゼなどでぬぐい、においを嗅ぐことにより確定できます。

皮膚科、皮膚泌尿器科、あるいは形成外科、美容外科の医師による治療としては、外用治療、ボトックス注入、スマートリポ、医療レーザー脱毛、手術療法などがあります。

外用治療では、何より清潔にすることが大切で、殺菌作用のあるせっけんでよく洗い、制汗剤をつけます。制汗剤としては、塩化ベンザルコニウム液や塩化アルミニウム液が用いられます。汗をかいた時は、汗ふきシートのようなものを塗ります。

ボトックスは顔のしわの治療で知られますが、わきの下に注入することで、汗腺の活動を抑制し、汗の分泌を抑えます。注入後3~7日間で効果が現れ、約3、4カ月~半年の間は、汗の量を抑えることが可能です。

スマートリポでは、腋臭症の原因となるわきの下のアポクリン腺とエクリン腺に、スマートリポレーザーを照射し、汗腺を燃焼させます。メスを使用せず、直径1mmの針状のレーザーを毛根部に差し込んで、汗腺を直接照射するので、傷跡が残る心配もありません。治療時間が約30分と短く、治療後すぐに帰宅が可能です。

医療レーザー脱毛では、高い出力レベルに設定したレーザーで、毛穴に沿って存在しているアポクリン腺を毛穴ごと破壊してしまうことで、においを軽減します。ただし、この治療法で腋臭症を治療する場合、3 回程度の照射を必要とするなど、症状の適応に限界があります。1回の治療は5分ほどで、日常生活に制限はありません。腋毛の脱毛も、同時に可能です。

手術療法には、剪除(せんじょ)法(皮弁法)、吸引法、皮下組織削除法 、切除法がありますが、現在、保険適応で行われているのはほとんどが剪除法(皮弁法)です。わきの下の皮膚のしわに合わせ、3センチから4センチほどの切開を1本ないし2本入れ、指で皮膚を裏返し、目で確認しながらハサミでアポクリン腺を切り取っていきます。後は、切開した部分を縫い合わせるだけです。

🇯🇵エキノコックス症(包虫症)

条虫の一種であるエキノコックスによって引き起こされる寄生虫病

エキノコックス症とは、条虫の一種であるエキノコックス(包虫)によって、引き起こされる寄生虫病。エキノコッカス症、包虫症とも呼ばれます。

このエキノコックス症には、単包条虫による単包性エキノコックス症と、多包条虫による多包性エキノコックス症の2つがあります。単包性エキノコックス症はシベリア、南米、地中海地域、中東、中央アジア、アフリカ、アメリカ、およびカナダに発生し、日本では輸入感染症とされています。一方、多包性エキノコックス症は20世紀以降に北海道に定着したと考えられ、現在、北海道全域で流行しています。

北海道ではキタキツネが最も重要な感染源で、約60パーセントのキタキツネが感染していると報告されています。北海道で飼育されているイヌでも、1パーセント以上が感染していると報告されています。最近、本州でも多包性エキノコックス症が報告されていますが、その感染ルートは不明です。

エキノコックスの成虫は体長1センチ以下と小さく、キタキツネやイヌの小腸に寄生しています。虫卵はそれらの動物の糞便(ふんべん)と一緒に排出され、虫卵が混じった水や食物を人が摂取したり、成虫が寄生しているイヌとの接触によって虫卵を経口摂取すると、感染が成立します。虫卵から放出された幼虫は腸壁に侵入し、血流あるいはリンパ流に運ばれて主に肝臓に寄生し、そこで成虫になって増殖します。

エキノコックスの増殖は遅く、感染してから小児では5年以上、成人では10年以上の長期に渡って無症状ですが、エキノコックスが増殖してスポンジ状の大きな病巣を形成するようになります。肝臓に寄生している場合、肝臓がはれて上腹部に痛みを感じるようになり、黄疸(おうだん)の症状が出て、皮膚の激しいかゆみ、腹水をもたらすことがあります。

また、エキノコックスは脳や肺などの臓器や骨に転移することがあり、脳転移では神経症状が現れます。症状が現れてから治療せずにいると、5年後で70パーセント、10年後で90パーセント以上のの発症者が死亡します。

エキノコックス症の検査と診断と治療

エキノコックス症を放置した場合の生存率は低いため、発症前の診断と治療開始が重要です。医師による診断は、血清検査と画像検査を併用して行われます。

治療においては、外科的な手術で病巣を切り取るのが有効です。しかし、自覚症状が出現した時点では、もはや切り取れないことが多く、病巣の位置と発症者の状態から切り取るのが困難な場合もあります。手術が困難な場合には、アルベンダゾールなどを駆虫剤として投与します。

感染初期には無症状なので、予防が最も大切です。北海道の各市町村の保健所では、住民のエキノコックス(包虫)血清検査を無料で実施していますので、キタキツネや感染犬と接触のある人は血清検査を受けます。

北海道への旅行者は、キタキツネと接触しないことが大切です。キタキツネのすんでいる地域では、土や草木などに触れたら手を十分に洗ったり、沢水や井戸水を生で飲まないなど、虫卵が口に入らないように気を付けます。エキノコックスは熱には弱く、60度10分間の加熱で死滅するため、現地で採った山菜などはよく洗うか火を通して食べるなどの予防法もあります。

🇯🇵疫痢

日本人の小児にみられた細菌性赤痢の重症型

疫痢とは、2歳から5歳ぐらいの小児にみられた細菌性赤痢の重症型。小児赤痢、小児劇症赤痢とも呼ばれます。

赤痢菌が腸に感染することが原因で起こる小児の特殊な感染症で、1914年伊東祐彦により独立疾患とされ,1922年に旧伝染病予防法により法定伝染病として取り扱われるようになりました。

赤痢菌が混入した食べ物や飲み物を食べたり飲んだりして感染し、1〜3日の潜伏期間の後、水のような下痢、激しい腹痛、嘔吐(おうと)といった通常の細菌性赤痢でもみられる典型的な胃腸炎症状で始まります。下痢は血便になることもあり、しばしば38度以上の高熱を伴います。

疫痢は胃腸にとどまらず、急激に進行し、心臓・脳・神経などにもダメージを与え、血圧低下、手足の冷え、顔面蒼白(そうはく)、けいれん、意識障害、昏睡(こんすい)、自家中毒症状などが現れ、やがて多臓器不全を起こします。早急に治療しなければ、多くは短時日で死亡していました。 経過が急で死亡率が高いことから、疾風(はやて)とも呼ばれました。

どうして小児が赤痢菌に感染すると疫痢の症状を示すのかという本態については、ヒスタミン中毒説、体質説、副腎(ふくじん)皮質機能不全説、低カルシウム血症説などの諸説が出されました。しかし、これについては未解決のまま推移しているうちに、細菌性赤痢の発生減少に伴って、疫痢そのものが1964年以降発生がみられなくなりました。

🗽エコノミークラス症候群

エコノミークラス症候群とは、飛行機内などで長時間、同じ姿勢を取り続けて発症する一連の症候群としてよく知られており、旅行者血栓症やロングフライト血栓症、静脈血栓塞栓(そくせん)症、深部静脈血栓症とも呼ばれます。

飛行機のエコノミークラス以外の座席、飛行機以外の交通機関や施設の座席でも、発生が報告されています。

長時間、座ったままの同じ姿勢でいると、血液の流れが徐々に悪くなり、脚や腕などの静脈に、血の固まりである血栓が生じやすくなります。この血栓が血流に乗って肺へ流れ、肺動脈が詰まると、肺塞栓(そくせん)症となります。

肺動脈が詰まると、その先の肺胞には血液が流れずガス交換ができなくなる結果、換気血流に不均衡が生じ、動脈血中の酸素分圧が急激に低下、呼吸困難を起こします。また、肺の血管抵抗が上昇して、全身の血液循環に支障を起こします。

軽度であれば胸焼けや発熱程度で治まりますが、最悪の場合は死亡します。

飛行機内などでは、血液が固まりにくいように水分を補給したり、長時間にわたって同じ姿勢を取らないようにし、着席中に足を少しでも動かして血液循環をよくすることで、エコノミークラス症候群は予防できます。

💅エッグシェルネイル

爪の甲が薄く白くなり、爪の先端が内側に湾曲する状態

エッグシェルネイルとは、爪(つめ)の甲が薄く白くなり、爪の先端が内側に湾曲する状態。卵殻爪(らんかくそう)とも呼ばれます。

卵の殻のような形になって、しばらくほうっておけば元の爪の甲の形に戻るというわけではありません。薄くなった爪の甲は、健康な爪の甲よりもずっともろくなるため、ちょっとしたことで割れやすくなります。

爪が割れやすい状態は、ほかの爪の疾患を引き起こします。エッグシェルネイルがもとで、爪の甲が両側縁に向かって深く湾曲する巻き爪や陥入爪になるケースも珍しくありません。

エッグシェルネイルの発生には、過剰なダイエットによる栄養不足が大きく関係しています。爪は健康のバロメータであり、栄養状態が現れやすい部位ですから、男性よりもダイエットに取り組んでいるケースが多い女性がかかりやすいといえるでしょう。また、内臓の疾患、神経障害、薬物が原因で、エッグシェルネイルが発生することもあります。

エッグシェルネイルは命にかかわる疾患ではないので、あまり気にしない人も多いようですが、正常な状態とはほど遠く、悪化して巻き爪や陥入爪になれば、治療もより困難になります。エッグシェルネイルになったら、皮膚科、ないし皮膚泌尿器科を受診することが勧められます。爪が割れやすくなりますから、自己治療は危険です。

エッグシェルネイルの検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、エッグシェルネイルを起こし得る外的物質や薬物、あるいは皮膚疾患、内臓の疾患、細菌感染、栄養不足などを検査して、原因がわかるようであれば、それを除去ないし治療します。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、一般的には、爪の甲の角質に浸透しやすい保湿剤やステロイド剤をこまめに塗ったり、ビタミンEの飲み薬を使用する場合もあります。

栄養不足が原因でエッグシェルネイルを生じている場合、栄養バランスのとれた1日3食の食生活を心掛け、爪の健康に必要な栄養素である蛋白(たんぱく)質、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、ビタミンB、さらにコラーゲン、野菜や海藻類に多く含まれるミネラル類などをしっかり摂取してもらいます。

内臓などの疾患が原因でエッグシェルネイルを生じている場合、その原因となる疾患を治療することが先決です。

自分でできる対処法としては、圧力がかかって爪が割れる原因になるマニキュア、ネイルアート、小さい靴を履くなどを避けることです。

🗽エドワーズ症候群

染色体の異常により引き起こされる重度の先天性障害

エドワーズ症候群とは、18番目の常染色体が1本多い、3本あることが原因で引き起こされる重度の先天性障害。エドワード症候群、18トリソミー症候群、18トリソミーとも呼ばれます。

人間の体は、父親と母親からもらった遺伝子情報に基づいて作られます。遺伝子情報は、染色体という生体物質が担っています。一般の細胞の核には、1番から22番までの一対の常染色体が44本、それにXまたはYの性染色体の2本が加わって、合計46本の染色体がセットになって存在します。半数の23本ずつを父親と母親から継承しています。

合計46本の染色体のうち、ある染色体が過剰に存在し、3本ある状態がトリソミーです。卵子や精子が作られる過程で染色体が分離しますが、分離がうまくいかないことがトリソミーを引き起こします。

18番目の常染色体が3本あるトリソミーがエドワーズ症候群で、イギリスのジョン・エドワーズらのグループにより1960年に初めて報告されました。

日本では現在、新生児約5000人から8000人に1人の頻度でエドワーズ症候群が発生するといわれ、男児は流産する場合が多いため、女児に多くみられます。母親が高齢、特に35歳以上の場合は、若い母親よりも過剰な染色体が生じる原因となるため、エドワーズ症候群の新生児を産む確率が高くなります。しかし、過剰な染色体が生じる原因は、父親にあることもあります。

エドワーズ症候群のうち、約80パーセントが染色体が3本独立している標準型トリソミー、約10パーセントが正常細胞とトリソミーの細胞が混在しているモザイク型、約5パーセントが多い1本が他の染色体についている転座型、約5パーセントが詳細不明と見なされています。一部の転座型を除き、そのほとんどは細胞分裂時に起こる突然変異だと考えられており、遺伝的な背景は否定されています。

早産ではなくて満期産、過熟産で生まれることが多いものの、出生時の体重は2200グラム以下と低体重であり、死産になることも多くなっています。また、明らかな全身の発育不全で生まれ、精神発達遅滞のほか、後頭部の突出、両眼開離、口唇裂、口蓋(こうがい)裂、小顎(しょうがく)、耳介の低位、指の屈曲、多指、先天性心疾患、腹直筋ヘルニアなどの消化管の奇形、揺り椅子(いす)状の足といった多くの異常がみられます。

先天性心疾患はほぼ必発で、心室中隔欠損症、心内膜床欠損症などのほか、単心室、総肺静脈還流異常症、ファロー症候群など、極めて重篤なことも少なくありません。

誕生後の予後は一般的に悪く、生後2カ月以内に約半数、1年以内に90パーセント以上が死亡します。先天性心疾患の重症度が、特に生命予後に重要な影響を及ぼします。

モザイク型では、正常細胞とトリソミーの細胞の混在する割合や症状により、生命予後、成長発達に恵まれる場合もあり、中学生になるまで成長したケースも報告されています。

エドワーズ症候群の検査と診断と治療

産婦人科の医師による出生前の診断では、超音波検査異常または母体血清スクリーニングの異常所見から、エドワーズ症候群と確定します。

小児科の医師による出生後の診断では、特徴的な外見から疑われ、染色体検査で確定します。

小児科の医師による治療では、根本的な治療法がなく予後の改善は見込めないため、さまざまな症状に対する対症療法を行います。症状が安定している場合は、口唇裂、多指、腹直筋ヘルニアなどの手術に踏み切ることもあります。

🇼🇸エプスタイン・バーウイルス感染症

主にエプスタイン・バーウイルスの感染で起こり、青年期に多くみられる疾患

エプスタイン・バーウイルス感染症とは、主にエプスタイン・バーウイルスの感染で起こり、15~30歳くらいの青年期に多くみられる良性の疾患。EBウイルス感染症、伝染性単核球症とも呼ばれ、アメリカではキス病とも呼ばれています。

ヘルペスウイルスの仲間であるエプスタイン・バーウイルスはBリンパ球に感染しますが、感染Bリンパ球を排除するためにTリンパ球が増加します。サイトメガロウイルス、トキソプラズマ、またHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染した場合でも、同様の症状がみられることがあります。

エプスタイン・バーウイルスに感染する時期によって、症状の現れ方が異なります。日本人の70パーセントは2〜3歳までに初感染しますが、乳幼児期では病原菌に感染しても症状が現れない不顕性感染が多く、症状が現れても軽度です。

思春期以降に感染すると、約50パーセントが発症します。ただし、感染してもほとんどが4~6週間で、症状は自然になくなるといわれています。20歳代では90パーセント以上が抗体を持っているといわれていますが、成人になってから初感染した場合、症状が重くなります。6カ月以上症状が続く場合は、重症化している可能性があります。

エプスタイン・バーウイルスは一度感染すると、その後は潜伏感染状態となり、終生に渡って共存します。そのため、急性感染症以外にもいろいろな疾患を引き起こすことがわかってきました。再感染はしないものの、免疫力が低下した場合に発症することもあります。

キスや飲み物の回し飲みなどによる、既感染者の唾液を介した経口感染が、主要な感染経路です。まれに、輸血により伝播(でんぱ)されます。感染してから発症するまでの潜伏期間は、4~6週間といわれています。

主な症状は、発熱、頸部(けいぶ)リンパ節の腫脹(しゅちょう)、咽頭(いんとう)痛。 まず、頭痛、熱感、悪寒、発汗、食欲不振、倦怠(けんたい)感などの前駆症状が数日間続き、その後38℃以上の高熱が1~2週間続きます。発熱のないこともありますが、通常は発症から4~8日が最も高熱で、以後徐々に下がってきます。

頸部リンパ節の腫脹は、発症2週目ころから現れ、時に全身性のリンパ節腫脹もみられます。上咽頭のリンパ節腫大による鼻閉も、よく起こります。口蓋扁桃(こうがいへんとう)は発赤、腫脹し、口蓋に出血性の粘膜疹(しん)が出て咽頭痛が生じます。発疹は、抗生物質、特にペニシリン系を投与された後に現れることがしばしばあります。

肝臓や脾臓(ひぞう)が腫大することもあり、急激な腫脹のためにまれに脾臓の破裂を招くことがあります。

発熱が1週間続く場合は、内科あるいは耳鼻咽喉(いんこう)科の医師を受診し、精密検査を受けることが勧められます。症状が進行して、劇症肝炎や血球貪食(どんしょく)症候群などを併発すれば、生命の危険があります。リンパ節腫大が長引き、悪性リンパ腫と誤診されることがあるので、要注意です。ほとんどの大人は既感染者なので、他人への伝播を気にする必要はありません。

エプスタイン・バーウイルス感染症の検査と診断と治療

内科、耳鼻咽喉科の医師による診断では、血液検査を行い、白血球の増加、特に末梢(まっしょう)血中の単核球(リンパ球)の増加と、正常なリンパ球と異なった形の異型リンパ球の出現がみられることを確認します。ほとんどのケースで肝機能異常を認め、エプスタイン・バーウイルス血清中抗体価が陽性となることなどで、総合判断します。

このエプスタイン・バーウイルス感染症に特異的にみられるポール・バンネル反応を調べる血清試験があり、これが陽性ならば診断が決められます。しかし、日本人では検査が陽性にならないものが多く、頼りになりません。

ほかのウイルス感染や悪性リンパ腫、リンパ性白血病などとの区別が、必要になります。

内科、耳鼻咽喉科の医師による治療では、抗エプスタイン・バーウイルス薬はないため、安静と対症療法が中心です。咽頭痛がひどい場合は、アセトアミノフェンなどの消炎鎮痛薬を用います。血小板減少や肝機能障害の程度が強く、症状が長引く場合は、ステロイドホルモン剤を用いることもあります。肝機能障害には、肝庇護(ひご)剤を用いることもあります。 発疹が現れることがあるため、抗生物質、特にペニシリン系抗生物質の投与は避けます。

安静にしていれば経過は比較的良好で、1〜2週間で解熱し、リンパ節のはれも数週から数カ月で自然に消えます。

重症の場合は、血漿(けっしょう)交換療法や抗がん剤が用いられます。アシクロビル(ゾビラックス)などの抗ウイルス薬の有効性は、証明されていません。

異型リンパ球は、少数ながら数カ月残存しているケースもあります。肝臓や脾臓のはれも1カ月ほどで回復しますが、まれに脾臓破裂を起こすことがあるので、治った後も2カ月ほどは腹に圧力や衝撃がかかる運動などは避けるようにします。

また、疾患が治ったと思っても、数週間たってから肝機能障害などが悪化することがあるので、リンパ節のはれがなくなっても数週間は経過に注意し、医師の指示を受けることが大切です。

🇼🇸エボラ出血熱

エボラウイルスにより引き起こされる感染症

エボラ出血熱とは、エボラウイルスにより引き起こされる感染症。エボラウイルスにより引き起こされる感染症患者が必ずしも出血症状を示すわけではないことから、国際的にエボラ出血熱に代わってエボラウイルス病とも呼ばれています。

ラッサ熱、マールブルグ病、クリミア・コンゴ出血熱などとともに、ウイルス性出血熱の一疾患に分類されています。

エボラ出血熱は、マールブルグウイルスとともにフィロウイルス科に分類されるエボラウイルスに感染することで、発症します。そのエボラウイルスは、コウモリなどの動物に生息しています。コウモリ、チンパンジー、ゴリラなどの感染した動物に接触することで、エボラウイルスは人間へとうつり、エボラ出血熱を発症すると考えられています。

人から人への接触感染が起こることもあります。接触感染は、患者の血液や体液に、傷のある皮膚や体の粘膜が触れることで、感染が成立します。エボラウイルスに感染した患者の血液や、尿・唾液(だえき)・糞便(ふんべん)・吐物・精液などの体液には、ウイルスが排出されることが知られています。また、エボラウイルスが医療器具などに付着した場合、数時間から数日間は感染性を持ち続けることがわかっており、医療器具を介した感染も成立します。

なお、エボラウイルスが空気感染することはありません。また、エボラ出血熱は、せきやくしゃみを介して人から人に飛沫(ひまつ)感染するインフルエンザなどの疾患とは異なり、簡単に人から伝播(でんぱ)する疾患ではありません。

エボラウイルスに感染してから、ウイルスが体内で増殖して症状が出てくるまでには、2~21日程度、通常は7日程度の潜伏期間があります。この潜伏期間の後に突然の発熱を来すほか、悪寒(おかん)、頭痛、倦怠(けんたい)感、筋肉痛、嘔吐(おうと)、下痢などの症状も併発します。

さらに症状が進行すると、肝臓や腎臓(じんぞう)、血液の凝固機能にも影響が及ぶようになり、皮膚、口の中、目、消化管などから出血を起こすようになります。ただし、すべてのエボラウイルス感染例で出血がみられるわけではありません。

1976年6月末、アフリカ北東部に位置する南スーダン(旧スーダン)のヌザラという町の綿工場に勤める倉庫番の男性が出血熱様症状を示し、次いでほかの部署の男性2人も同様の症状で倒れました。これが初めてエボラ出血熱と認識された流行の幕開けでした。この3人の患者を源として家族内、病院内感染を通してエボラ出血熱の流行が拡大し、計284人がエボラ出血熱を発症して151人が死亡しました。

その流行とは別に、1976年8月末にアフリカ中部に位置するコンゴ民主共和国(旧ザイール)北部のヤンブクで、教会学校に勤める助手の男性が出血熱の症状を示しました。その患者が収容されたヤンブク教会病院での治療・看護を通じて、大規模な流行が発生。計318人の同様の患者が発生し、280人が死亡しましたが、これもエボラウイルスによる出血熱であることが確認されました。これらが、初めて確認されたエボラ出血熱の流行です。

ちなみにエボラの名は、ヤンブクの最初の男性患者の出身村を流れるザイール川支流のエボラ川に由来しています。

その後、南スーダン、コンゴ民主共和国、象牙海岸で散発的なエボラ出血熱の流行が確認されていましたが、1995年にコンゴ民主共和国中央部のバンドゥンドゥン州キクウィトの総合病院を中心として、エボラ出血熱の大規模な流行が発生しました。その流行では、計315人が発症して244人が死亡しました。

さらに、2014年3月には、アフリカ西部に位置するギニアでエボラ出血熱の流行が確認され、患者・感染者が国境を越えて移動することにより、隣国のリベリア、シエラレオネの3カ国を中心に過去最悪の規模で流行し、2016年1月にリベリアで終息するまでに2万8000人以上が発症し、世界全体で1万1300人以上が死亡しました。

2018年8月には、コンゴ民主共和国北東部の北キブ州において、同国10回目の新たなエボラ出血熱の流行が発生し、2019年6月現在、感染者が疑い例を含めると2000人を超え、死者が1400人を超えています。また、隣国のウガンダでも、コンゴ民主共和国から飛び火したエボラ出血熱により2人の死者が出たことが確認されました。

エボラ出血熱の検査と診断と治療

内科、感染症科、感染症内科の医師による診断では、エボラ出血熱が疑われる患者の血液を採取して、エボラウイルスの抗原や、エボラウイルスに対して特異的な抗体が存在するかどうかなどを調べます。血液だけではなく、のどから採取する咽頭(いんとう)ぬぐい液や尿も検体として用います。血液、体液などからウイルスを分離する検査法も重要な検査法ですが、通常1週間以上を要します。

鑑別すべき疾患には、マラリア、デング熱、腸チフスなどがあります。エボラ出血熱の感染が発生している地域は、マラリア、デング熱などの流行地域でもあり、発熱、頭痛、筋肉痛などといったエボラ出血熱の初期症状がマラリア、腸チフスなどと似ていることから、鑑別が必要になります。

内科、感染症科、感染症内科の医師による治療では、エボラウイルスそのものに対して科学的に治療効果が証明されている薬剤はないため、研究段階にあるいくつかの薬剤を投与しつつ、表面的な症状をやわらげる対症療法を行います。

嘔吐、下痢などによって脱水や血圧の低下が起こった場合は、輸液を行います。電解質のバランスが狂った場合も、それぞれの成分を補正します。呼吸状態が悪くなった場合は呼吸管理、血圧が下がった場合は循環管理と、それぞれの症状をコントロールするための治療を行います。

日本では、エボラ出血熱は感染症法において1類感染症に分類され、これらの患者の治療専用に設計されている病室に隔離して、治療を行います。

また、診断した医師は、無症状病原体保有者、疑似症患者例も含めてエボラ出血熱の患者および感染症死亡者の死体を認めた際には、直ちに都道府県知事(実際的には保健所)に届け出ることが義務付けられています。

エボラウイルスに感染しないための予防策を講じることも、重要になります。流行地域に赴く際には、コウモリやチンパンジーなどの野生動物に接触しないのはもちろん、調理状況のわからない肉類の摂取も避ける必要があります。また、葬儀で死者に対して接触する風習を持つ地域もありますが、こうした行為を避けることも大切です。

感染拡大を予防するためにも、渡航歴や症状からエボラ出血熱が疑われる場合には、検疫所で申告したり地域の保健所に連絡することも大切です。

ワクチンについては治療薬と同様で、一定の効果が期待できるものも開発されていますが、確実性のあるワクチンとして利用可能なものはありません。

🇪🇭エリテマトーデス

膠原病の一つで、顔面などに生じる紅斑を主症状とする疾患

エリテマトーデスとは、顔面などに生じる紅斑(こうはん、エリテマ)を主症状とする疾患。紅斑性狼瘡(こうはんせいろうそう)とも呼ばれます。

膠原(こうげん)病の一つで、自己免疫性疾患のうち最も代表的なものです。

急性で全身が侵される全身性エリテマトーデスと、慢性で皮膚に限局して円形の紅斑が現れる円板状エリテマトーデスに大別され、この間に中間型、移行型があります。

全身性エリテマトーデスは全身に症状が現れる膠原病の一つ

全身性エリテマトーデスは、全身に症状が現れる疾患で、代表的な膠原病の一つ。全身性紅斑性狼瘡とも呼ばれます。

現在の日本では10万人に7〜8人の発症率で、発症しやすい年齢は20歳〜40歳、その90パーセントは女性です。

発症させる原因は、まだ解明されていません。体質、素因、免疫の異常、環境因子が関係して発症すると推定されています。免疫の異常は、自分の体の成分に対して反応する異常であるために、自己抗体が血液中にみられます。特に抗核抗体、中でもDNA(デオキシリボ核酸)に対する抗体が血液中に現れるのが、特徴です。

全身性エリテマトーデスを発症させる誘因には、海水浴やスキーなどで強い紫外線を浴びたり、薬剤、ウイルス感染、外傷、ストレス、さらには妊娠、出産などがあります。

全身性エリテマトーデスの最も特徴的な症状は、皮膚の露出部に赤い斑点である紅斑が現れることです。顔では鼻を中心に両側の頬(ほお)にかけて、蝶(ちょう)が羽を広げたような形の蝶型紅斑ができます。また、手のひら、つめの周囲、足の裏、胸にも紅斑がみられます。

紅斑は厚く盛り上がることもありますが、痛みやかゆみはありません。ただし、紅斑が治った跡に瘢痕(はんこん)が残ったり、色素沈着や色素脱失になることがあります。

髪の毛が抜けたり、つめが変形したり、日光に当たるとひどい日焼けをして火膨れができる光線過敏症などもみられます。寒冷刺激や精神的ストレスに反応して、手や足の指が真っ白になったり、青紫色になったりし、しびれ、冷感、痛みなどの症状を伴うレイノー現象も、よくみられます。

内臓に現れる症状では、腎(じん)臓がよく侵されます。これはループス腎炎と呼ばれ、むくみや蛋白(たんぱく)尿がみられますが、初期には症状として出にくいため要注意。心膜や胸膜に炎症が起こることもあり、胸痛、発熱を起こします。

脳や神経に障害が起こると、けいれん、まひがみられることもあります。関節痛もみられますが、関節リウマチのような関節の変形、運動機能の障害はありません。

全身性エリテマトーデスの検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、免疫血清や血液の検査を行います。免疫血清検査では、全身性エリテマトーデスに高頻度にみられる血清中の抗核抗体を調べます。また、血液検査によって、貧血の程度や白血球減少、血小板減少の有無を調べます。

そのほか、尿や血液の検査によって、ループス腎炎やネフローゼ症候群、腎臓の機能障害が起こっていないかを調べます。また、侵された臓器の病状を知るために、必要に応じてX線検査、CT検査、MRI検査、心電図などの検査を行います。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療においては、内臓の炎症にはステロイド薬(副腎〔ふくじん〕皮質ステロイド薬)が有効で、効果を発揮しています。炎症が強くて症状が重い場合には、大量に投与され、症状が安定すれば徐々に量を減らしていきます。腎臓に障害が現れた場合には、免疫抑制剤が用いられたり、血漿(けっしょう)交換療法が行われることもあります。

ステロイド薬の使用により、予後はかなり改善しましたが、治療に用いられる薬はいずれも副作用があります。加えて、いつ、どれぐらいの期間をかけて投与量を減らすかが非常に難しいため、医師の指示を守って治療を続けることが大切。腎臓の機能低下が起こった場合には、血液透析が必要になります。

生活上の注意としては、全身性エリテマトーデスを発症させる誘因があると悪化するため、強い紫外線や感染症には細心の配慮が必要です。治療のためにステロイド薬を使うと感染症にかかりやすくなるため、清潔を心掛け、インフルエンザが流行している時期は人込みを避けるなど、注意します。

比較的若い女性がかかることが多いため、妊娠や出産の問題があった際には、医師に相談します。病状が安定していれば、妊娠、出産は十分に可能です。また、経済的な問題では、全身性エリテマトーデスは厚生労働省の特定疾患に認定されているので、医療費の助成を受けることができます。

円板状エリテマトーデスは皮膚限局型エリテマトーデスの一つ

円板状エリテマトーデスは、日光露出部である頭部、顔面、四肢などに、円板状の紅斑が好発する原因不明の皮膚疾患。慢性円板状エリテマトーデス、円板状紅斑性狼瘡とも呼ばれます。

膠原病の代表的な疾患で全身性の症状を伴う全身性エリテマトーデスと異なり、皮膚症状のみ出現する皮膚限局型エリテマトーデスの1つであり、慢性型のサブタイプに相当します。皮膚限局型エリテマトーデスには、急性型、亜急性型、中間型のサブタイプもあります。

円板状エリテマトーデスの症状は、類円形ないし不整形で、魚の鱗(うろこ)のようにはがれる鱗屑(りんせつ)を伴う円板状の紅斑が多発することを特徴とします。

円板状の紅斑は境目がはっきりしていて、頬、鼻、下唇、頭部など、日光が当たる部位にできます。皮膚面より少し盛り上がり、中心部は硬くなったり委縮していたりして、引きつったようになっています。口唇に症状が出る時はびらん、頭皮に症状が出る時は脱毛を伴うことがあります。また、かいたり刺激を与えたりすると、その部位に新たな円板状の紅斑が広がる傾向にあります。

この皮膚病変は、治癒過程で色素沈着ないし色素脱失、委縮を生じ、瘢痕を残します。ほかの症状として、発熱や倦怠(けんたい)感がみられることもあります。

全身性エリテマトーデスと異なり、全身の臓器障害はみられませんが、一部が全身性エリテマトーデスへ移行することがあります。全身性エリテマトーデスへ移行すると、円板状の紅斑が全身に広がり、内臓の炎症、腎臓の機能障害が起こります。

円板状エリテマトーデスは、35~45歳の女性が発症しやすいとされています。

現在のところ、円板状エリテマトーデスを発症する原因はわかっていません、しかし、紫外線や寒冷刺激、美容整形、妊娠・出産、タバコ、ウイルス感染、薬物などが関係していると考えられています。

全身性エリテマトーデスは、免疫システムが自己の細胞を攻撃する自己免疫が原因だとされていますが、円板状エリテマトーデスは自己免疫とは無関係と考えられています。皮膚が抗原刺激や物理的刺激を受けることで、白血球のうち、リンパ球と呼ばれる細胞の一種であるT細胞が増殖し、細胞間で情報を伝えるタンパク質であるサイトカインの生成が促進され、症状が現れると推測されています。遺伝との関係は、親族内や双子で発症する例が少ないことから、可能性は低いと考えられています。

円板状の紅斑ができて治りにくい場合、円板状エリテマトーデスの可能性があります。日光を避けて、皮膚科、ないし皮膚泌尿器科を受診しましょう。治った後でも、まれに皮膚がんである有棘(ゆうきょく)細胞がんの発生母地となることがあるため、症状が軽くてもしっかり治療をすることが大切となります。

円板状エリテマトーデスの検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、視診をした上で、皮膚生検といって皮膚の一部を採取して顕微鏡で調べる検査を行い、円板状エリテマトーデスと確定します。

血液検査を行うこともありますが、発症者の多くはほかの臓器に変化を伴わず正常です。しかし、一部の患者では、血液沈降速度(血沈)の高進、抗核抗体陽性、白血球減少がみられ、全身性エリテマトーデスに移行することがあります。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、瘢痕が残った皮膚病変を治すことはできませんが、新しい円板状の紅斑が広がらずに限られた範囲にできている場合は、ステロイド薬(副腎〔ふくじん〕皮質ステロイド薬)の軟こうを直接塗ることが一般的です。目立つほど顔にできている場合や、頭皮の脱毛がひどい場合は、内服のステロイド薬を使用します。

また、内服薬ではヒドロキシクロロキンなどのマラリア治療薬が皮膚症状に有効であり、欧米では第1選択薬の1つです。以前の日本では副作用のために使用が禁止され保険適応がありませんでしたが、2015年に承認されました。ヒドロキシクロロキンの長期間の効果としては半数弱の人に有効であり、残りの半分強は、内服のステロイド薬などが必要になります。

免疫抑制剤の1つであるレクチゾールやミゾリビンの内服も有効なことがわかっていますが、貧血などの副作用が現れやすいため、慎重に使用する必要があります。

全身性エリテマトーデスを合併する場合には、内臓の炎症に対して内服のステロイド薬が有効で、効果を発揮しています。炎症が強くて症状が重い場合には、大量に投与し、症状が安定すれば徐々に量を減らしていきます。腎臓の障害に対して、免疫抑制剤を用いたり、血漿交換療法を行うこともあります。

円板状エリテマトーデスの悪化を防ぐためには、紫外線を避ける必要があります。肌の露出を控えるために、日焼け止めや帽子、サングラス、長袖(ながそで)などの対策が大切です。肌に過剰な刺激を与えることも悪影響なので、かゆみがある時でもかいたり刺激を与えないように気を付ける必要があります。薬を塗る時なども、手を洗い清潔な状態で塗るようにします。

寒冷による刺激も極力受けないほうがいいため、しっかりと防寒することが重要で、夏場は清潔な服を着る、通気性のよい天然素材の洋服を着るなどの対策も大切です。加えて、ストレスを避け、適度な運動と休養をとり、バランスのとれた食事をします。

🇪🇭エリトラスマ

蛍光発色性ジフテロイドという特殊な細菌に、皮膚の表層部が感染する疾患

エリトラスマとは、コリネバクテリウム属の蛍光発色性ジフテロイドという特殊な細菌に、皮膚の表層部が感染する疾患。紅色陰癬(こうしょくいんせん)とも呼ばれます。

蛍光発色性ジフテロイドは常在菌ですが、主に成人がかかり、特に糖尿病、多汗症、肥満症といった基礎疾患を持つ人がかかりやすい傾向にあります。健康な人には症状を起こさない菌が、抵抗力の弱い人に感染症を起こす日和見感染の一種と考えられています。また、熱帯地方などの高温多湿な環境では、比較的多くみられます。

皮膚と皮膚が接触する部位、すなわち、乳房の下、わきの下、足の指と指の間、性器周辺、尻(しり)の割れ目に多く発症します。このような場所は、皮膚と皮膚が接触して発汗しやすいため、汗や皮脂を栄養源とする細菌が増殖しやすい部位です。

特に男性の場合は、陰嚢(いんのう)が熱に弱いため、陰嚢の皮膚が汗を出して冷やそうとする働きがあるため、腿(もも)と陰嚢が接触する部位によくできます。特に肥満症の中年女性や糖尿病患者の場合は、乳房の下、わきの下、腹部のひだ、会陰部にも発症することがあります。

最初は、皮膚と皮膚が接触する部位に、不規則な形のピンク色の皮疹(ひしん)ができます。この皮疹はやがて、鱗屑(りんせつ)といわれる茶色く、うろこ状にカサカサした状態に変わります。皮疹が、胴体や肛門(こうもん)周辺に広がることもあります。足の指と指の間では、皮膚がふやけて白くなります。

正常な皮膚との境界ははっきりとしており、かゆみなどの自覚症状はほとんどありません。まれなケースでは、灼熱(しゃくねつ)感やかゆみを自覚することもあります。

白癬などの真菌感染症とエリトラスマが混同されることがありますが、体部白癬、股部(こぶ)白癬、陰嚢白癬、足白癬などとは異なり、周囲に炎症が広がって中央はきれいになる中心治癒傾向を示さず、水疱(すいほう)や丘疹も発生させません。

エリトラスマの検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師によるエリトラスマ(紅色陰癬)の診断では、ウッド灯という長波長の紫外線を出す蛍光管で病変部を照らすと、蛍光発色性ジフテロイドがサンゴのような紅色に輝くので、すぐ診断がつきます。また、鱗屑の多い病変部をセロテープではがして、細菌類を色素によって染色する方法の一つであるグラム染色した後、検鏡を行うことでも、増殖している蛍光発色性ジフテロイドを確認できます。

白癬、カンジダ症、癜風(でんぷう)、脂漏性皮膚炎などとの区別が必要ですが、ウッド灯での紅色蛍光で区別できます。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、クリンダマイシンやミコナゾールなどの抗真菌剤、エリスロマイシンあるいはテトラサイクリンなどの抗生剤の軟こうまたはクリームを塗ります。範囲が広い場合には、エリスロマイシンあるいはテトラサイクリンを内服します。クロルヘキシジンなどの抗菌せっけんを使うのも、効果があります。

紅色陰癬は6〜12カ月以内に再発することがあるので、その場合は再度治療します。肥満症や多汗症の人は病変部が再び蒸れやすく、再発を繰り返して完治しにくい場合も多いようです。

股部や陰部周辺の紅色陰癬を予防するには、常日ごろから通気性がよく、蒸れない下着を着用し、清潔に保ち、乾燥させるように心掛けることが大切です。

🇳🇪エルシニア食中毒

低温細菌であるエルシニア菌によって引き起こされる食中毒

エルニシア食中毒とは、5℃以下でも増殖する低温細菌であるエルシニア菌によって引き起こされる食中毒。

ペストの原因となるペスト菌の仲間であるエルニシア菌には、5種類あります。そのうち食中毒を引き起こすのは2種類で、エルシニア・エンテロコリチカとエルシニア・シュードツベルクローシス(偽結核菌)。1982年(昭和57年)に、厚生労働省からエルシニア・エンテロコリチカが食中毒菌に指定されています。

土壌、水中などの自然環境中に分布しているほか、豚、牛、犬、猫、猿、鼠(ねずみ)などのほ乳類の腸管に分布しており、井戸水や湧水(ゆうすい)、簡易水道水など消毒不十分な水の飲用、汚染された豚などの食肉、牛乳、乳製品などの摂取、ペット動物との接触が食中毒の原因となります。腸炎ビブリオ食中毒やブドウ球菌食中毒に比べると発生例ははるかに少ないものの、小中学校などの集団給食で発生したケースでは、加工乳が原因となって発症者が1000名を超える大型の集団食中毒も起こっています。

多くの食中毒細菌は10℃以下になるとほとんど増殖しないし、毒素も産生しなくなるのに対して、エルシニア菌は0~ 5℃という低温で増殖することに特徴があります。冷蔵庫の中でも、どんどん増え続けますので、食肉を冷蔵庫で長期間保存しておくとほかの食品を汚染し、二次感染を招くこともあります。しかし、65℃以上の加熱で容易に死滅するため、加熱調理を心掛ければ完全に予防することができます。

感染すると2~5日間の潜伏期間を経て、特に右下腹部に起こる虫垂炎のような猛烈な腹痛、38℃以上の発熱、下痢を起こします。下痢の症状は大人と幼児で異なり、大人の場合の下痢回数は1日2~4回ほど、2歳以下の幼児の場合は何度も下痢を繰り返します。発熱とともに発疹(はっしん)が出ることも多く、発疹性の食中毒にかかったらエルシニア食中毒の可能性が高いといえます。

この食中毒(胃腸炎)の症状のほかに、エルニシア菌は虫垂炎、腸管膜リンパ節炎、終末回腸炎、敗血症などの病型を示すこともあります。3歳以下の乳幼児では食中毒が多くみられるのに対して、成人ではほかの病型が多くみられ結節性紅斑、関節炎を起こすこともあります。

厚生労働省から食中毒菌に指定されていないエルシニア・シュードツベルクローシス(偽結核菌)について付け加えると、げっ歯類に結核様病変を起こすことで知られていた菌であり、近年になって人への感染ケースが明らかにされました。人では、エルシニア・エンテロコリチカと同様に食中毒(胃腸炎)などの症状を起こすほか、しょう紅熱様または泉熱様の病型を集団発生させたこともあります。

エルシニア食中毒の検査と診断と治療

腹痛、発熱、下痢などエルニシア食中毒の症状が現れた場合は、医療機関を受診し適切な処置を受けます。

医師は急性の中毒症状から感染を疑いますが、エルシニア食中毒と確定するには、実際に糞便(ふんべん)や原因と疑われる食品などから原因となっている菌を分離することが必要です。発熱とともに発疹が出ることも多いため、発疹性の食中毒にかかったらエルシニア食中毒の可能性が高いといえます。

感染初期や軽症の場合は、整腸剤を投与したり、輸液によってブドウ糖液、リンゲル液などの電解質液、あるいは水を補充して症状の改善を待ちます。虫垂炎、腸管膜リンパ節炎などのほかの病型を示した場合は、それらに応じた治療を行います。

エルシニア食中毒を予防するためには、以下のことを心掛けます。食肉は中心温度が70℃以上になるように十分加熱し、調理後は早めに食べる。生の食肉を保存する時は、5~10℃の普通の電気冷蔵庫中での保存は短時間に限り、長く保存する時は冷凍する。まな板、包丁、ふきんなどはよく洗い、熱湯や漂白剤で殺菌する。

🇳🇪円回内筋症候群

肘関節周辺で正中神経が圧迫され、肘関節前面の痛みや、手のしびれが生じる疾患

円回内筋(えんかいないきん)症候群とは、手にとって最も重要な神経である正中神経が肘(ひじ)関節周辺で圧迫されることにより、肘関節の前面の筋肉に痛みが生じたり、手のしびれが生じたりする疾患。回内筋症候群とも呼ばれます。

円回内筋は、上腕の骨である上腕骨と尺骨(しゃくこつ)、橈骨(とうこつ)という計3つの骨をつなぎ、肘から前腕の中間までに付いている筋肉で、主に肘を曲げたり、腕を内側に回転したり、ひねったりする際に使われます。正中神経は、肘の辺りの上腕骨内側上顆(じょうか)の下方2・5から4センチを通ってから、上腕骨頭と尺骨頭の間にある円回内筋の2つの筋繊維の間を通ります。この部位で、正中神経が圧迫されることがよく起こります。

ちなみに、正中神経は円回内筋を横断するように通り過ぎると、浅指屈筋と深指屈筋という指を曲げる筋肉の間を通り、手首の辺りを通過します。その後、手の関節や指まで伸びます。

円回内筋症候群の症状は、正中神経が圧迫を受けている部位より手に近い部位に現れ、肘関節の前面の筋肉の痛みが生じ、手のしびれや知覚障害が生じます。この手のしびれや知覚障害は、正中神経が手首周辺で圧迫される手根管症候群と同様、親指、人差し指、中指の3本の指全体と、薬指の親指側半分に認められます。小指には、しびれなどは生じません。

通常、腕に徐々にだるさや倦怠(けんたい)感を覚えて後に、主に親指、人差し指、中指にしびれなどが生じます。そして、筋肉の衰えで指の力が入らなくなったり、指を曲げづらくなったりして、字を書く動作や物をつまむ動作が困難になるケースが多くみられます。手根管症候群と異なり、手のひらにも、はれや知覚異常が生じるのが特徴です。

円回内筋症候群を起こしやすい人は、この円回内筋を酷使している人で、円回内筋に過緊張や炎症が発生すると正中神経を圧迫し、神経障害が発症する場合があります。例えば、大工でドライバーをよく使う人、工場などの作業で繰り返し手や腕を使う人、前腕の筋肉を酷使するテニス、バドミントン、野球、ボーリングなどのスポーツをする人、長時間のパソコン作業をする人、ピアニストなどにみられます。また、腕を伸ばして重たい荷物を押したり、突然重い荷物を持ち上げた際に、発症する人もいます。

円回内筋症候群の検査と診断と治療

整形外科、神経内科の医師による診断では、症状や電気生理学的検査などにより判断します。神経伝導検査と筋電図検査を行うことで、正中神経の障害の程度や正確な障害部位が評価できます。

整形外科、神経内科の医師による治療では、軽症の場合は誘引となるような動作の中止、肘と手関節の安静、軽いマッサージ、低周波治療器の使用、消炎鎮痛剤の服用、ステロイド注射などを行います。一般に、円回内筋症候群は一時的な神経まひで、肘と手関節の安静や消炎鎮痛剤の服用などの保存療法によって、50パーセントから70パーセントのケースでは数カ月以内に治ると見なされています。

症状が続きなかなか治らない場合は、手術により肘の部位で正中神経の圧迫を取り除きます。手術の結果は良好で、診断が間違っていない限り、80パーセント以上のケースで有効と見なされています。

🇳🇮円形脱毛症

円形脱毛症とは、髪の毛が丸く抜け落ちて、はげになる疾患です。1カ所のみに脱毛部位ができるタイプは単発型と呼ばれ、最も治りやすいタイプです。

単発型のほか、多発型、多発融合型などのタイプに、分類されています。脱毛の部位が2カ所以上あるのが多発型で、病巣部位が融合しているものが多発融合型です。

症状は大多数、毛髪にできますが、まゆ毛、あごひげ、腋毛(わきげ)、陰毛にできることもあります。子供の円形脱毛症では、75パーセントにアトピー性皮膚炎が合併します。

一般的には、心配事や疲労、精神的ショック、環境の変化などに起因する「ストレス」によって、円形脱毛症は誘発されることが多いと考えられ、遺伝的・体質的素因も関係すると見なされています。また、「免疫不全」も円形脱毛症の原因の一つではないかと、最近では疑われています。

治療に関しては、育毛剤やステロイド剤などを脱毛部位に塗布する局所治療と、ビタミン剤などの飲み薬を処方する全身治療が併用されるのが、一般的です。脱毛部位への局所治療としては、ドライアイスを使った冷凍療法や、紫外線療法、温熱療法もあります。内服薬に使われるのは、血管を拡張する作用がある薬で、ビタミンE・B・C、ステロイド剤、漢方薬などです。

軽度の円形脱毛症であれば、自然治癒することもありますす。突然の脱毛に気付いた際は、皮膚科で診断を受けるとともに、心療内科などでカウンセリングを受けるなど、心身両面からのケアを心掛けるのがいいかもしれません。

🇳🇮嚥下障害

食べ物を口の中に取り込んで飲み込むまでの過程が正常に機能しない状態

嚥下(えんげ)障害とは、食べ物や水分を口の中に取り込んでから飲み込むまでの過程が正常に機能しない状態。嚥下困難、摂食嚥下障害とも呼ばれます。

物を食べることは、食べ物を認識し、口に入れ、噛(か)んで、飲み込むまでの一連の動作からなります。このうちの飲み込むという動作が、嚥下に当たります。

嚥下は、主に舌の運動により食べ物を口腔(こうくう)から咽頭(いんとう)に送る口腔期、嚥下反射により食べ物を咽頭から食道に送る咽頭期、食道の蠕動(ぜんどう)運動により胃まで運ぶ食道期に分けられます。嚥下には多くの器官がかかわっており、これらが障害を受けるさまざまな疾患で、嚥下障害が起こります。

嚥下障害が起こると、食物摂取障害による栄養低下と、食べ物が気道へ流入する誤嚥による嚥下性肺炎(誤嚥性肺炎)が問題になります。

嚥下障害を引き起こす疾患にはさまざまなものがありますが、脳出血や脳梗塞(こうそく)、認知症、パーキンソン病、筋委縮性側索硬化症などが原因となることがあります。

嚥下する際には嚥下にかかわる筋力が必要となるため、筋ジストロフィーや重症筋無力症などで筋力が低下することが原因となります。

加齢により咀嚼(そしゃく)や嚥下に必要な筋力が衰えるのも、原因の一つです。加齢に伴い唾液(だえき)が少なくなったり、歯の本数が少なくなったりすることから食べ物を噛みにくくなることも、原因として挙げられます。筋力が低下すると飲み込む時に気道を閉じることができなくなり、食べ物が気管に入りやすくなります。高齢者の肺炎のかなりの部分は、加齢による嚥下機能の低下による誤嚥によって引き起こされるともいわれています。嚥下性肺炎を発症すると、発熱、咳(せき)や痰(たん)の増加、呼吸回数の増加、息苦しさなどを認めます。

そのほか、口腔がんや咽頭がんなどの悪性腫瘍(しゅよう)や、口唇口蓋(こうがい)裂、精神的要因、薬剤、環境要因、姿勢なども嚥下障害の原因となります。

嚥下障害を起こすと、食べ物が飲み込みにくい、飲み込めない、つかえるとの自覚や、食事の時のむせ込みなどの症状が現れます。明らかな症状がないこともありますが、食事の状態で判断することもできます。固い物、ぱさついた物、まとまりのない物、味噌(みそ)汁など固形物と水物の混合した物は飲み込みにくい食べ物であり、食事に時間がかかるようになります。

誤嚥の有無は、食べ物を飲み込んだ後の咳や、食後によく痰が出るなどからも判断できます。声質の変化もよくみられる症状で、食べ物を飲み込んだ後に声がかすれたり、口腔内に食べ物が残留することから痰が絡みやすくなり、がらがらした声になったりします。

嚥下障害の検査と診断と治療

耳鼻咽喉(いんこう)科、飲みこみ外来、嚥下外来などの医師による診断では、精神機能や身体機能も含めた全身状態をチェックします。次に口腔・咽喉頭の所見から、おおよその嚥下機能を判断します。舌の運動性は口腔期の食べ物の移動に、咽頭の知覚は咽頭期を引き起こすのに重要です。

口腔から咽頭にかけては比較的簡単に観察できますが、下咽頭や喉頭の機能を確認するには、喉頭ファイバースコープなどの内視鏡検査が必要になります。実際に食べ物などを嚥下させて誤嚥などを検出する検査には、嚥下内視鏡検査があります。また、実際に食べ物がどのように飲み込まれるかを調べる方法としては、造影剤を用いて嚥下状態をX線透視下に観察する嚥下造影検査があり、現在では最も信頼性の高い方法と考えられています。

耳鼻咽喉科、飲みこみ外来、嚥下外来などの医師による治療では、嚥下障害を引き起こす原因があればそれを取り除くことが重要です。また、嚥下障害の程度により、栄養摂取と誤嚥防止の観点から対応や治療法を決定します。

嚥下障害が軽度な場合には、誤嚥が起こりにくいように、食べ物の硬さや形状を工夫します。水のようなものは誤嚥しやすいためトロミを付けることなどが、その代表例です。ある程度以上の嚥下障害があると、経口のみでは栄養摂取が不十分になるため、ほかの栄養補給法に頼らざるを得ません。栄養摂取については、高カロリー輸液を静脈内に投与する方法や、さまざまな経管栄養が発達してきており、生活スタイルに合わせてある程度の選択が可能です。

一方、誤嚥の防止は非常に難しい問題になってきます。誤嚥は肺炎を引き起こし、生命の危険を招く可能性があります。厄介なことに、肺炎の発症は誤嚥の程度だけで決定されるものではありません。誤嚥物の性質、気道からの吐き出す力、肺の状態や全身状態などが複雑にかかわり、場合によっては少量の誤嚥でも肺炎を起こします。

必要に応じ、嚥下リハビリテーション(嚥下訓練)や口腔ケアで、嚥下機能を保持したり、改善させたりすることを図ります。改善しないケースでは、肺炎すなわち誤嚥を防止するために、気管切開を行った上でカフ付きの気管カニューレという器具を装着することが必要な場合もあります。嚥下障害の改善や誤嚥防止を目的として、手術治療が行われることもあります。誤嚥をできるだけ少なくして経口摂取を可能にしようとする嚥下機能改善手術と、誤嚥をなくすことを主眼とした気道と食道を分離する誤嚥防止手術に大別されます。

嚥下機能改善手術だけで嚥下機能が完全に回復するわけではないので、食事を取るためには術後の嚥下リハビリテーションが必須です。誤嚥防止手術では発声機能が失われるリスクがあるため、手術には医師による慎重な判断と、患者、家族の理解が必要となります。

2022/07/31

🇳🇪嚥下性肺炎

誤嚥によって、口の中の細菌が気管や肺に流れ込んで生じる肺炎

嚥下(えんげ)性肺炎とは、口の中に常在する細菌が唾液などの分泌物とともに気管内に入る誤嚥に引き続いて、発症する肺炎。誤嚥性肺炎とも呼ばれます。

飲み物や食べ物を飲み込む動作を嚥下といい、食道を通って胃に運ばれます。食道と気管は隣り合わせで、気管の入り口である喉頭(こうとう)が大きく開いており、このままでは飲み物や食べ物が気管に入ってしまいます。それを防ぐために、フタの役目を持つ喉頭蓋(がい)という軟骨からなる部分が、嚥下の動作とともに気管の入り口をふさぎます。

健常者でも、本来は胃の中に運ばれなければならない飲み物などが誤って気管内に入る誤嚥を起こしますが、むせたり、せき込んだりして気管から吐き出そうとします。たとえ誤嚥により口の中の細菌が唾液などの分泌物とともに気管や気管支、肺に入り込んだとしても、体力や抵抗力、免疫力により細菌を駆除できるので、生活していく上でさほど影響はありません。

高齢や脳の病気などの影響で嚥下機能の低下がある人は、飲み物や食べ物をうまく飲み込めず、喉頭蓋の動きが低下し、さらに誤嚥した際のむせたり、せき込んだりといった動作も鈍くなり、気管への誤嚥を招きやすくなります。誤嚥によって口の中の細菌が気管や気管支、肺に入り込んだ場合、体力や抵抗力、免疫の低下などにより細菌を駆除することができす、嚥下性肺炎にかかる危険度が増します。

超高齢化社会を迎えて、肺炎の重要性が増しています。抗生物質(抗菌剤)の発達にもかかわらず、肺炎は全死亡原因の第4位、高齢者に限ってみると第1位です。高齢者の肺炎のほとんどは、この嚥下性肺炎に相当し、再発を繰り返す特徴があります。

再発を繰り返すと、耐性菌が発生して抗生物質による治療に抵抗性を持つため、優れた抗生物質が開発された現在でも、体力や抵抗力、免疫力が全般的に落ちている高齢者が多く死亡する原因になっています。

嚥下性肺炎の原因となる誤嚥は、胃液などの消化液が食べ物とともに食道を逆流して肺に流れ込むような明らかで大量の誤嚥よりも、不顕性誤嚥といって、口の中の分泌物や胃液が少量ずつ肺内へ吸引される誤嚥のほうが原因として重要です。この不顕性誤嚥に合わせて、口の中の細菌が気管や気管支に吸引され、嚥下性肺炎が引き起こされます。

不顕性誤嚥は、特別な現象ではありません。元気な高齢者であっても、夜間は嚥下機能が低下するため、容易に誤嚥してしまいます。加齢とともに、のど仏の位置は下がり、嚥下の時に喉頭蓋が気管の入り口をふさぐのに時間がかかるようになるからです。特に、鎮静薬、向精神薬などの薬を服用している場合は、嚥下反射が抑えられ、不顕性誤嚥を起こしやすくなります。

肺炎は一般に、発熱、せき、痰(たん)、呼吸困難、胸痛などを主な症状としますが、これらの訴えが高齢者の場合ははっきりしません。また、肺炎は一般的に38℃以上の高熱を起こしますが、高齢者の場合は体温の上昇をみないか、あっても微熱程度のものが少なくありません。それに対して、呼吸数は増え、皮膚や舌の乾燥、すなわち脱水状態になることが多いといわれています。

嚥下性肺炎の検査と診断と治療

内科、呼吸器内科、呼吸器科の医師による診断は、胸のX線(レントゲン)検査で行われます。嚥下性肺炎では低酸素血症に陥っていることが多くあるため、パルスオキシメーターという医療機器によりSpO2(動脈血酸素飽和度)をモニターすることが、診断の参考となります。

原因となった細菌の特定のため、喀痰(かくたん)の培養検査を行います。気管支鏡で気管内採痰ができれば診断がより確実になりますが、発症者の状態があまりよくないことが多いので、細菌の特定は難しいこともしばしばあります。嚥下性肺炎を引き起こす主な原因となるのは、肺炎球菌です。

内科、呼吸器内科、呼吸器科の医師による治療では、原因となった細菌を殺菌するペニシリン系、セフェム系などの抗生物質を投与します。胃液を肺の中に吸い込んで肺炎になった場合、ステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン剤)を短期に用いて肺炎を鎮める場合もあります。

さらに、低酸素血症に陥って呼吸不全(酸素欠乏)になった場合は、酸素吸入を行います。重症の呼吸不全では、人工呼吸器などによる治療も併せて行います。

嚥下性肺炎の多くは抗生物質の投与で治るものの、肺炎の原因である不顕性誤嚥が減らなければ、いったん改善した肺炎が悪化します。そこで、誤嚥を減らす予防策が重要となります。

何より大事なのは口の中を清潔に保ち、口の中でたくさんの細菌を増殖させないようにすることです。歯磨きを毎日して口の中の細菌を減らしたり、たとえ歯がなくともブラッシングをしたり、就寝前にポピヨンヨードでうがいすることも有効な方法です。

寝たきりの高齢者の場合は、仰向けに寝かして放置していると誤嚥が悪化するので、頭部や上半身をベッドで高くしたり、口腔(こうくう)ケアなどを行うと有効です。栄養状態の低下、筋力の低下、意識レベルの低下が誤嚥を増やすため、日ごろよりこれらに対処しておきます。

また、医師による治療で、嚥下機能を改善するアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、抗血小板薬(シロスタゾール)を投与することもあります。アンジオテンシン変換酵素阻害薬は高血圧の薬ですが、嚥下反射物質の濃度を上昇させて肺炎を予防します。抗血小板薬も脳梗塞(こうそく)の予防薬ですが、嚥下反射を高めて肺炎を予防します。

唐辛子(とうがらし)に含まれるカプサイシンにも、同様の作用が認められています。カプサイシンの入った辛い物を食べて、嚥下反射あるいはせき反射を高めておくことは、誤嚥予防、肺炎予防に役立ちます。

🇳🇮遠視

調節しないと、遠いところも近いところもはっきり見えない状態

遠視とは、目の屈折異常の一つで、自動的に調整しないと、遠いところも近いところもはっきり見えない状態。遠視眼、遠眼とも呼ばれます。

目には、近くを見る時に網膜上に正しく焦点を合わせるため、目の中の筋肉である毛様体筋を働かせて、水晶体の屈折を強くする調節力が備わっています。調節力は、小児の時に最大に備わっており、それ以後は加齢とともに徐々に減少します。

この調節力を働かせていない状態で、遠方から眼内に入った平行光線が網膜より後ろで焦点を結ぶのが、遠視です。遠いところにある物も、近いところにある物も、調節力を自動的に働かせないと、はっきり見ることができません。遠視とは、遠くがよく見える状態ではないのです。遠くがよく見える目は、屈折異常のない目である正視です。

正視の場合、5メートル以上の遠方を見ている時には、調節力はほとんど働いておらず、近くを見る時にだけ使っています。遠視の場合、遠方を見ている時にも、本来は近くを見る時にしか使わない調整力を自動的に働かせ、遠視を補正しようとします。いわば、常に眼内の毛様体筋を働かせて、水晶体を厚くした状態を維持しなければなりません。調節し切れない場合には、物がぼやけて見えてしまいます。特に、近くを見る時は、より強い調節が必要になります。

角膜や水晶体の屈折力が弱いために起こる遠視と、眼球の長さが通常より前後に短いために起こる遠視とがあります。前者を屈折性遠視、後者を軸性遠視と呼びます

小児期は眼球が小さく長さも短いため、遠視であることが普通で特別なことではありません。5歳までの小児では、90パーセントに遠視が認められます。成長するにつれて遠視が弱くなり、正視になったり、通り越して近視になることが多くなります。

 小児が遠視であっても調節力が強いため、症状が現れない場合が多いのですが、豊富な調節力をもってしても補正できないほどの強度遠視になると、目が寄ってきて内斜視になったり、視力の発達が止まって弱視になったりします。目が疲れやすく、集中して物を見ることが難しくなるために、行動にむらが出て、周囲から「落ち着きがない」、「集中力がない」、「飽きっぽい」などといわれることもあります。

軽度の遠視でも年を取るにつれ、絶えず目の調節を必要とするために、眼精疲労や体の疲労の原因になります。集中できないために、学習や仕事の能率が上がらない原因にもなります。また、光をまぶしく感じたり、肩凝りや頭痛を覚えことも多くなります。

60歳以上になると、正視だった目が遠視になったり、遠視だった目の度数が強くなる傾向があります。これは老人性遠視と呼ばれます。 60歳以前に「遠視になった」といわれるものは、ほとんどの場合、若いころは自覚されなかった軽度の遠視が調節力の低下により、自覚されるようになったものです。

遠視の検査と診断と治療

人間の視覚の発育は、6歳ころまでにほぼ終わります。小児の強度遠視が疑われた場合には、早めに発見して適切な処置をとるために、小学校入学前にでも念のため、眼科医による検診を受けます。

小児以外の遠視の場合では、目の疲れを中心とした症状に、体の疲労が加わります。近くを見る作業を長く続けると、目や体に疲れがたまりやすいようであれば、眼科医に相談してみます。

眼科では遠視を見付けるために、調節を一時的に休ませる目薬を用いて検査します。子供では調節力が強いため、幼稚園や学校の視力検診で発見されないのが普通です。

遠視の治療としては、凸レンズの眼鏡、コンタクトレンズなどで屈折率を高め、矯正します。凸レンズは、レンズに平行に入ってきた光を集め、屈折力を強めるように働くので、 網膜の後ろで像を結ぶ遠視の矯正に用いられます。凸レンズの度数は、調節力を働かせない状態で遠方にピントが合って、はっきり見える状態に設定されます。

子供の場合は、生理的な状態にあるものにまで矯正をする必要はありません。しかし、遠視の度が強かったり、斜視や弱視がある時、また眼精疲労を訴える時には、矯正を行います。

🟧RSウイルス感染症が「流行入り」 静岡県が注意呼び掛け

 静岡県は26日、直近1週間(15~21日)のデータから「RSウイルス感染症が流行入りしている」と発表しました。定点医療機関となっている小児科1カ所当たりの患者数は1・64人で、県が流行入りの目安としている「1人」を大きく上回りました。前週の0・9人よりも8割増加し、急拡大が懸...