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2022/07/08

🇬🇹A型肝炎

A型肝炎とは、A型肝炎ウイルス(HAV)が原因のウイルス性肝炎の一種です。

日本では、だいたい60歳以下の戦後生まれの世代で、A型肝炎に対する抗体を持っていない人が多く、これらの人々がA型肝炎の流行地へ旅行することで感染するパターンが主。

A型肝炎ウイルスに汚染された水や野菜、魚介類などを生で食べることにより感染します。食物を介さずに、糞便に汚染された器具、手指などを経て人から人へ感染することもあります。 感染力が強く、集団発生することがあります。また、患者の発生報告には季節性があり、例年春先になると感染者数が増加するが、その理由は明らかではありません。

症状は発熱、下痢、腹痛、吐き気・嘔吐、黄疸、全身倦怠感などであり、初期には風邪と似た症状を呈することがあります。

A型肝炎の流行地へ旅行する際には、あらかじめ医療機関でA型肝炎ワクチンの接種を行うことで、予防することができます。

🇧🇻A群溶血性連鎖球菌感染症(猩紅熱)

のどの痛み、熱、発疹の現れる伝染病

A群溶血性連鎖球菌感染症とは、小児に多い発疹(ほっしん)性伝染病。猩紅(しょうこう)熱とも呼ばれます。

A群β溶血性連鎖球菌(A群溶血性連鎖球菌、A群溶連菌)という細菌の感染によって発症する疾患の一つで、昔は死亡することもあるとして恐れられ、明治時代に法定伝染病に指定されました。現在では抗生物質を正しく使用し、合併症を予防すれば完治が可能となったことから、1999年に施行された感染症新法により、法定伝染病ではなくなりました。

A群β溶血性連鎖球菌は溶連菌と通称され、のどに炎症を起こす咽頭(いんとう)炎を引き起こす細菌ですが、A群溶血性連鎖球菌感染症では咽頭炎だけでなく、全身に発疹も現れます。2歳~12歳までの子供に多く、幼稚園や小学校では秋から春にかけて集団発生することもあります。

溶連菌は、すでに感染している人の近くにいたり、感染者の咳(せき)から出た空気中の細菌を吸い込んだりすることで感染します。潜伏期間は1日~7日とされ、38〜39℃の突然の発熱で始まり、のどが痛みを伴って真っ赤にはれます。そのほかの症状としては、吐き気、頭痛、腹痛、筋肉痛、関節痛、中耳炎、首のリンパ節のはれなどがあります。この段階では、風邪との区別がつきません。

発熱から半日~2日後になってから、直径1ミリぐらいの赤くてやや盛り上がった発疹が、かゆみを伴って現れます。発疹は首、胸、わきの下などに現れ、少しずつ増えて全身が赤く見えるようになります。口の回りには発疹は出ないのが、一つの特徴です。3日~4日後には、舌がイチゴのように赤くプツプツするようになります。これをイチゴ舌と呼びます。

症状が消えた後、2週間ほどで指先の皮がむけることがあります。3週間ほどで軽快し、跡は残りません。

注意の必要な合併症には、急性腎炎(じんえん)、リウマチ熱などがあります。治療を行わなかった場合、これらの合併症は感染者の2~3パーセントに現れます。顔のむくみ、赤い尿、動悸(どうき)、息切れ、関節痛などの症状が現れた場合も、注意が必要です。

高熱や発疹のある場合はもちろん、のどのはれが2日以上治まらない時は、早めに小児科、循環器科、泌尿器科を受診しましょう。なお、高熱や発疹などの特徴的な症状が現れるのは4歳以上の場合が多く、乳児の場合は軽症で、単なるのど風邪症状のみであることがあります。

特に3歳未満の小児に、発熱に伴って発疹やイチゴ舌が現れた場合、川崎病との区別が必要とされます。

A群溶血性連鎖球菌感染症(猩紅熱)の検査と診断と治療

小児科、循環器科、泌尿器科の医師によるA群溶血性連鎖球菌感染症の診断では、多くの場合、臨床症状で判断を下すことが可能です。最近は、のどの抗原の迅速検査が、外来診断の主流となっています。確実に診断するには、のどや鼻の粘膜から綿棒で採取した検体の培養検査、血液による抗体の検査が必要となります。

小児科、循環器科、泌尿器科の医師によるA群溶血性連鎖球菌感染症の治療では、溶連菌に有効なペニシリン系の抗生物質を内服で用いるのが一般的です。数日で薬の効果が現れて、熱が下がり、発疹も目立たなくなります。皮膚は乾いて、皮がむけます。

しかし、症状が改善されても、溶連菌はのどに残っていることがあるので、再発や他人に感染させる可能性があります。急性腎炎やリウマチ熱などの合併症を予防するためにも、2週間程度は確実に抗生物質の服用を続けることが大切となります。皮膚のかゆみに対しては、抗ヒスタミン薬の内服、または軟膏(なんこう)を使用します。

症状が改善した後も、2週間~3週間後に尿の中に血液が混じっていないかを検査し、完全に治ったかどうかは、抗生物質の服用をやめてから、のどの粘膜の培養検査をして確かめる必要があります。繰り返しA群溶血性連鎖球菌感染症に感染する可能性もありますので、侮れません。家族内で感染する例も30〜50パーセントあることにも、注意が必要です。

薬を飲んでいる間は、安静を保ち、うがいと手洗いをしっかりと行い、なるべく刺激の少ない食事を取るように心掛けます。のどの痛みが強ければ、無理に食べなくてもかまいません。

🇧🇻AGA(男性型脱毛症)

男性の3人に1人にみられ、遺伝的に髪の毛が薄くなる状態

AGA(Androgenetic Alopecia)とは、主に男性にみられ、遺伝的に髪の毛が薄くなる状態。日本語でいうと、男性型脱毛症、男性型禿髪(とくはつ)症のことです。

AGAは思春期以降、額や頭頂部の髪の毛が細く薄くなり、抜け毛が進行します。発症年齢や進行の速さには個人差がありますが、確実に進行することが特徴。日本人男性の約3人に1人が、AGAとされます。

なぜ、髪の毛が抜け落ちて、ハゲや薄毛になるのでしょうか。ハゲることに関しては、「ホルモン悪人説」と「血統・遺伝説」という2大原因説があります。

性別を問わず、人間の毛髪はさまざまホルモンの影響を受けていますが、ハゲや薄毛には男性ホルモンが深くかかわっています。中でも、人間の毛髪に影響を及ぼす男性ホルモンは、「テストステロン」と「DHT(5αーデヒドロテストステロン)」の2種類で、とりわけDHTはハゲや薄毛の引き金となる怖いホルモンです。

DHTは、毛根鞘(しょう)にある5αーリダクターゼ2型という還元酵素によりテストステロンが変身したもので、頭髪以外の体毛には多毛化を促す反面、頭髪に対してだけは成長を抑制するため、結果的にハゲや薄毛へと導くことになります。これが「ホルモン悪人説」です。

このDHTは皮脂腺(せん)活性も高進させる作用を有するため、ハゲの人は皮脂過多になりやすい状況にあります。そのため、頭髪の皮脂軽減が発毛の根幹のように宣伝される傾向がありますが、皮脂の取りすぎはリバウンドで、さらに脱毛を悪化させることもありますので、適度がよいでしょう。

「ホルモン悪人説」の元凶とされるDHT以外に、人間の毛髪に影響を及ぼすホルモンには、テストステロン(男性ホルモン)、エストロジェン(女性ホルモン)、サイロキシン(甲状腺ホルモン)、 コルチゾン(副賢皮質ホルモン)があります。

テストステロンは、筋肉の増強を促し、男らしい体付きをつくります。エストロジェンは、頭髪が成長し続ける期間を長くする作用があり、全体からみれば頭髪の成長にプラスに働いているといえます。男性の頭髪成長期よりも、女性のほうが時間的に長いため、女性は腰のあたりまで髪を伸ばすことが可能なのです。

サイロキシンは、休止期にある頭髪の成長開始(成長活動)を早くするように、促す役目を持っています。同じ頭部でも、側頭部や後頭部はこの支配を受けているため、ハゲにくいといえます。コルチゾンは、甲状腺ホルモンであるサイロキシンとは逆に、頭髪成長期の開始を遅くします。しかし、分泌が過剰になると、全身多毛ということになります。

このように頭髪にはいろいろなホルモンが複雑に関係し、毛の成長をコントロールしています。その中でも、脱毛、抜け毛、ハゲ、薄毛に大きくかかわってくるのが男性ホルモンであることは、間違いのないところです。

若いうちからハゲてしまう若ハゲ(若年性脱毛症)は、遺伝性であることが非常に多く、それも家系の中で男性だけに現れる遺伝形式(伴性優性遺伝)で受け継がれていきます。AGAの実に80パーセント以上が遺伝性といわれるほどで、この場合もDHTに影響されやすい体質が受け継がれてしまうのです。これが「血統・遺伝説」です。

では、どのように血統が遺伝していくのでしょうか。私たちは両親から一個ずつの毛髪に関する遺伝子をもらいます。その遺伝子の組み合わせは、下の主な3つです。

1. 正常な遺伝子と正常な遺伝子、2. ハゲ・薄毛の遺伝子と正常な遺伝子、3. ハゲ・薄毛の遺伝子とハゲ・薄毛の遺伝子

男性は優性遺伝のため、ハゲ・薄毛の遺伝子が一つでもあればハゲてしまう確率は高くなり、父親にハゲ・薄毛の遺伝子が一つでもある場合は50パーセント、母親にもハゲ・薄毛の遺伝子がある場合は75パーセント。

これに比べて、両親ともに正常な遺伝子を持っていた場合、子供にハゲ、薄毛が現れることは、遺伝子学的にはありません。ただし、食生活や生活環境の乱れ、ストレスなどで薄毛になることもありますので、注意しましょう。

ちなみに女性にはハゲが少なく、あっても薄毛程度なのは、頭髪の成長にプラスに働く女性ホルモンが常に男性ホルモンより優位にあることのほかに、脱毛の仕方に違いがあるからです。

毛は通常、1つの毛根から2〜3本が生えています。脱毛の時、女性はその中から1本だけが抜けますが、男性は1つの毛根から生えているすべての毛が一度に抜けてしまうのです。

AGAを予防する3つのポイント

遺伝的要因を退治することは、不可能です。それでは、日常生活でできる中でハゲないためには、どうしたらよいのでしょうか。ポイントは、効果的なシャンプーで頭皮を清潔に保つことと、効果的な食事とストレスからの解放により健康的な生活習慣を心掛けることにあります。 

●効果的なシャンプー

毎日たくさんの脱毛に悩み、「シャンプー時には生きた心地がしない」という人は、意外に多いものです。だからといっても、頭皮を清潔に保つためにもシャンプーは欠かせません。

脱毛の悩みのある人は、皮脂過剰でベタつきがちな頭皮の場合が多いのですが、使用するとスッとするミント感覚のシャンプーや、「フケ防止」とうたう硫黄分が配合されているシャンプーは、かえって頭皮を刺激しすぎる結果となり、リバウンド現象としてますます皮脂を出してフケを増やしてしまうことがあります。

頭皮を保護するために最もお勧めできるのは、「ベビー用の低刺激性シャンプー」。頭皮を傷付けないように、毎日サッと洗うことです。もし、頭皮がパサついているようなら、シャンプー前にベビーオイルかオリーブオイルでマッサージしてから、髪を洗うようにしましょう。

●効果的な食事

ハゲ、薄毛によいというので、海藻類を多く食べるようにしたけれども、大した変化はみられなかった。こんな経験を持つ人も、少なくないと思います。そのほかにも、毛の成分であるタンパク質を多く取るのがよいという人もいます。

確かに、海藻などは毛髪の質をよくする効果はあるでしょう。しかし、それを食べることが髪が生えるための重要なポイントであるとはいえません。

より大切なことは、体の健康を保つための基本的な方法として、バランスのとれた食生活を心掛けることです。特に注意する点としては、皮脂が過剰にならないように、脂っこいものを食べすぎないようにすることです。

●ストレスからの解放

大きすぎるストレスは、脱毛を促進させるだけでなく、心身全体に悪い影響をもたらします。そこで、毎日のリラックス法をいろいろと考えましょう。

普通、人はストレスが高じるとイライラして髪をかきむしったり、食事、飲酒、喫煙などで発散させようとします。ところが、度がすぎると睡眠不足なども加わり、当然のように体や髪の健康に悪影響をもたらすことになります。

暴飲暴食は頭皮の血行を悪くしてしまい、喫煙も毛細血管を縮めるので、やはり血行を害してしまいます。髪にうまく栄養が送られなくなれば、脱毛はますます進むことになります。

また、いろいろな悩みで苦しんだりすると、精神だけでなく頭皮にも緊張が生まれ、血行が悪くなってしまいます。自分自身の心身を絶えずチェックして、ストレスを解消するように工夫し、体全体の代謝バランスを整えることが、髪にも必要なのです。

AGA(男性型脱毛症)の検査と診断と治療

AGAが気になる人は一度、皮膚科の医師に相談してみるのも一案です。AGAに効果のある飲み薬が普及し、気軽に治療を受ける人が増えているからです。

皮膚科の医師による診断では、まずは問診と視診を行い、円形脱毛症などほかの疾患ではないかをチェックし、AGAかどうかを確かめます。

皮膚科の医師による治療では、まず内服薬のフィナステリド(商品名プロペシア)を1カ月分処方します。服用は1日1回で、費用は1カ月分で約1万円。問題がなければ内服を続け、半数以上の人が半年から1年で効果を実感するとされます。

薬を内服することで勃起(ぼっき)不全など男性機能の低下を心配する人も多いものの、男性ホルモンそのものに働き掛ける薬ではないため、そうした副作用はありません。毛髪が丈夫になり、抜け毛が減るだけでも効果は大きく、見た目が若くなることで性格も明るくなり、前向きになる人も多いといいます。

フィナステリドは、テストステロンをDHT(5αーデヒドロテストステロン)に変身させる5αーリダクターゼ2型という還元酵素を阻害する内服薬で、1998年に米国で発売され、日本国内でも7年後の2005年から医師の処方薬として流通しています。

日本皮膚科学会は2008年4月、AGAの治療薬について5段階で評価した初の診療指針を発表。塗り薬のミノキシジル(商品名リアップ)と内服薬のフィナステリドを強く勧められる「A」と評価しています。

⚙AIS(アンドロゲン不応症)

男性ホルモンの受け皿が働かないために、外性器が女性化する先天性異常

AIS(Androgen Insensitivity Syndrome、アンドロゲン不応症)とは、男性ホルモンの受け皿が働かないために、男性への性分化に障害が生じる先天性の疾患群。TFS(testicular feminization syndrome、精巣性女性化症候群)とも呼ばれます。

男性仮性半陰陽(はんいんよう)の発生の原因となる疾患の1つに数えられます。このAISでは、染色体による性は46XY型の男性であり、男性の性腺である精巣からテストステロンを主とするアンドロゲン(男性ホルモン)が分泌されています。しかしながら、体の中の細胞の表面にあるアンドロゲン(男性ホルモン)受容体という、ホルモンの受け皿のような構造に遺伝子異常があるために、男性ホルモンの全部または一部を感知できません。その結果、外性器になる組織が男性型へ発達することができなくなります。

そもそも、性分化は性染色体による性に規定されます。具体的にはY染色体の有無が性を決定し、Y染色体上のSRY遺伝子が精巣決定因子として作用します。SRY遺伝子を有する男の胎児では未分化性腺から精巣が分化、発生し、SRY遺伝子を有しない女の胎児では卵巣に分化、発生し、それぞれ配偶子が精子と卵子に分かれていきます。

次いで、男の胎児では胎児期精巣のセルトリ細胞からミュラー管抑制因子、ライディッヒ細胞からアンドロゲンが分泌され、それぞれミュラー管の退縮とウォルフ管の発育が起こって、性器の男性化が起こります。

ところが、AISの場合、ミュラー管抑制因子は正常に分泌される一方、アンドロゲンの作用が発現しません。その結果、ミュラー管由来の女性内性器(子宮、卵管、腟〔ちつ〕上3分の1)と、ウォルフ管由来の男性内性器(精巣上体、精管、精嚢〔せいのう〕、射精管)はみられないということになります。

AISは、X染色体に依存する伴性遺伝であり、多くは母親が保因者となっています。染色体による性が46XX型の女性であれば、AISであっても特に症状はなく、疾患として発見されずに保因者となり、家族性に受け継がれることもあります。

AISは、アンドロゲンを全く感知しないCAIS(Complete Androgen Insensitivity Syndrome、完全型アンドロゲン不応症)、アンドロゲンを不完全に感知するIAIS(Incomplete Androgen Insensitivity Syndrome、不完全型アンドロゲン不応症)、アンドロゲンの一部を感知しないPAIS(Partial Androgen Insensitivity Syndrome、部分型アンドロゲン不応症)の3型に分かれます。

CAISでは、外性器は女性型で、上端がふさがっている腟があり、内性器は精巣を持つ男性型で、子宮、卵巣はありません。その精巣は体内にとどまる停留精巣で、造精機能は著しく低下しています。鼠径(そけい)ヘルニア、尿道下裂の合併が多い傾向も示します。第二次性徴は女性化乳房などがみられる女性型を示しますが、子宮、卵巣を持たないため月経はなく、妊娠、出産は不可能です。乳房はやや未発達で、陰毛、わき毛はありません。

IAISでは、外性器に軽度の男性化が認められ、陰核肥大、陰唇癒合などの男性化兆候がみられます。PAISでは、外性器が男女中間型を示し、男性器とも女性器とも判別しがたい形になることが多く認められます。外性器の形状により、女児もしくは男児として育てられます。

CAISでは、出生時に発見されることはほとんどないため、通常の女児として育てられ、本人も女性として認識して成長します。外見上は正常な女性で、膣も持ち、性交も可能。思春期になって第二次性徴が起きても初潮がない(原発性無月経)ことから、あるいは結婚後に妊娠しないことから、産婦人科などを受診して発見されるケースが多くみられます。

女性として育てられ、思春期あるいは結婚後に、染色体上は男性であるということが診断され、妊娠、出産は不可能と告げられるので、大きな精神的打撃を受ける恐れが大きく、精神的なケアが重要となります。本人や親、夫のショックを配慮して、医師が診断結果を告げないケースもあるといわれています。

出生時に医師や看護師によって、AISが発見することが望ましいのですが、思春期や成人後に発見されることもあるのが実態です。思春期になって女の子のはずなのに初潮(初経)がなかったりした場合には、できるだけ早く小児科、あるいは婦人科、産婦人科、内科、内分泌代謝内科などの専門医の診断を受けるようにします。

AIS(アンドロゲン不応症)の検査と診断と治療

小児科、婦人科、産婦人科、内科、内分泌代謝内科の医師によるAIS(アンドロゲン不応症)の診断では、染色体分析検査、性ホルモンの測定、アンドロゲン受容体の検査、超音波検査、X線造影検査、CTやMRI検査による内性器の存在確認を行います。

AISの治療では、戸籍上の性として育てていく性、生きていく性を決めることが最も大事です。一般的には、染色体や精巣によって将来の性を決めるより、現在の外性器の状態、将来の生活、本人の希望や心理状態をも考慮して、男性か女性かを決めます。CAIS(完全型アンドロゲン不応症)の場合、女性として生きていく人がほとんどとなります。

選択した性に合わせて、女性として生きていく決定をした場合で膣が短く、性交に支障を来すケースでは、腟形成術を行って膣を延長します。男性として生きていく決定をした場合には、陰茎形成術を行います。

体内にとどまる停留精巣はがん化するリスクが高いために早期に摘出手術を行う必要があるといわれていますが、成人前にがん化することは少ないため、現在では第二次性徴が完了した思春期以降に精巣摘出が行われています。思春期前に性腺を除去してしまうと、第二次性徴に必要なホルモン量が自前では不足するためです。

一般の男女でもそうですが、分泌された男性ホルモンの一部は体内で女性ホルモンに変換されて機能しており、CAISであっても精巣からのホルモン分泌が乳房の発育や女性らしい体形を形作るための重要な供給源となっています。

精巣摘出後は、更年期障害や骨粗鬆(こつそしょう)症を防ぐために、ホルモン補充療法によって女性ホルモンを補充します。ホルモン補充療法は一生涯に渡るため、精巣摘出の判断は慎重にしなければならず、精巣を摘出せずに、こまめに検診を受けて経過観察を行う場合もあります。

PAIS(部分型アンドロゲン不応症)の停留精巣はがん化リスクが50パーセントと高いのに対し、CAISの停留精巣はがん化リスクが2パーセントと高くなく、あえて摘出を必須とするほどではないともいわれています。

♋ALS(筋委縮性側索硬化症)

筋肉が委縮し、運動神経線維の側索が変性する疾患

ALS(Amyotrophic Lateral Sclerosis)とは、筋肉が次第に委縮し、同時に脊髄(せきずい)の運動神経線維である側索にも変性を起こしてくる疾患。筋委縮性側索硬化症とも呼ばれます。

神経性の疾患の中でも、難病の代表的なものといえます。この疾患の特徴は、上位運動ニューロンと下位運動ニューロンの両者を侵すことであり、運動ニューロン疾患と呼ぶこともあります。

上位運動ニューロンは、大脳皮質の運動領野から起こって、延髄または脊髄までいく神経系。下位運動ニューロンは、延髄または脊髄から末梢(まっしょう)神経を経て、筋肉に達する神経系。運動ニューロンが侵されると、脳から「手足を動かせ」という命令が伝わらなくなることにより、力が弱くなり、筋肉が委縮していくのです。一方、体の感覚や知能、視力や聴力、内臓機能などはすべて保たれることが普通です。

運動ニューロンが侵される疾患には、下位ニューロンだけが侵され、筋委縮の強い脊髄性進行性筋委縮症や、延髄の神経核が侵され、飲み下しにくくなる嚥下(えんげ)障害、言語障害などの延髄症状の強い進行性球まひなどもあります。いずれも経過をみると、最後には同じ状態となります。

ALSの原因はまだ、よくわかっていません。一部には遺伝的に発生するものもあり、体質も問題にされています。また、一部の発症者はがんに合併するので、何らかの因子が関与しているのではないかとも考えられています。1年間で新たに発症する人は人口10万人当たり約1人で、男女比は約2:1と男性に多く認めます。

発症は一般的に遅く、40〜60歳代に起こります。一般的には、手指の筋肉が次第に委縮し、力が入らなくなります。時には、足先から委縮が始まります。

委縮は次第に体の上のほうに進んで全身に及び、ついには舌の筋肉も委縮して、嚥下困難、発語困難となり、さらに進行すると呼吸筋もまひして、呼吸も十分にできなくなります。筋肉の委縮とともに、脊髄の下位運動ニューロンが変性するために、筋肉が勝手に細かくピクピクと収縮を起こすのも特徴です。

進行性に悪化するために、多くは平均3〜5年で死亡します。進行性球まひは進行が早く、平均約1年7カ月といわれています。時には、数十年にわたって徐々に進行するものもあります。

ALS(筋委縮性側索硬化症)の検査と診断と治療

神経内科、内科の医師による診断では、筋委縮が起こる場所の分布が特異的であるため、筋電図や、筋肉の組織の一部を切り取って顕微鏡などで調べる筋生検などで、運動ニューロンの病変を確かめられます。

末梢性筋委縮を示すものに、末梢神経炎や進行性筋ジストロフィー症の末梢型があり、時には区別の困難なこともあります。

神経内科、内科の医師による治療としては、進行を遅らせる作用のあるリルゾール(商品名:リルテック)という薬が日本でも承認されて、使用されるようになりました。一般的には、対症療法的にビタミン剤や、弱い筋弛緩(しかん)剤を用い、筋委縮が進行して呼吸障害を来した時には、呼吸管理を自動調節する機械であるレスピータを用います。

体の自由が効かないことや、疾患に対する不安などから起こる不眠には、睡眠薬や安定剤を使います。筋肉や関節の痛みに対しては、毎日のリハビリテーションが大切になります。

生活上の注意としては、疾患が進行性であることや特別な治療法のない点で、発症者は精神的にショックを受け、次第にわがままになる傾向がありますので、家族の理解が必要です。

疾患が進行してくると、食べ物を飲み込みにくくなりますが、このような場合は流動食よりも、ゼリーなどで半固形食にしたほうが飲み込みやすく、栄養もよく取れます。飲み込みにくさがさらに進行した場合には、おなかの皮膚から胃に管を通したり、鼻から食道を経て胃に管を入れて流動食を補給したり、点滴による栄養補給などの方法があります。

入浴も、一時的には浮力がついて手足を動かしやすくなりますが、疾患が進行すると入浴させるのがなかなか困難になります。

🇨🇵AMD(加齢黄斑変性)

加齢に伴って、眼球内部の網膜にある黄斑が変性を起こし、視力が低下する疾患

AMD(Age-related Macular Degeneration、加齢黄斑〔おうはん〕変性)とは、眼球内部の網膜にある黄斑が変性を起こして、視力が低下する疾患。加齢に伴って起こるもので、高齢者の失明原因の一つです。

黄斑とは、光を感じる神経の膜である網膜の中央に位置し、物を見るために最も敏感な部分であるとともに、色を識別する細胞のほとんどが集まっている部分。網膜の中でひときわ黄色く観察されるため、昔から黄斑と呼ばれてきました。

この黄斑に異常が発生すると、視力に低下を来します。また、黄斑の中心部には中心窩(か)という部分があり、ここに異常が発生すると、視力の低下がさらに深刻になります。

AMDには、網膜よりさらに外側に位置している脈絡膜から、異常な血管である新生血管(脈絡膜新生血管)が生えてくることが原因で起こる滲出(しんしゅつ)型と、新生血管は関与せずに黄斑そのものが変性してくる非滲出型(委縮型)の二つのタイプがあります。

新生血管とは、網膜に栄養を送っている脈絡膜から、ブルッフ膜を通り、網膜色素上皮細胞の下や上に伸びる新しい血管です。正常な血管ではないため、血液の成分が漏れやすく、破れて出血を起こしてしまいます。

滲出型のAMDの初期では、物がゆがんで見える変視症や、左右の目で物の大きさが違って見えるなどの症状を自覚するケースが多くみられます。新生血管が破れて黄斑に出血を起こすと、見たい物がはっきり見えない急激な視力低下や、見ようとする物の中心部が丸く黒い影になって見えなくなる中心暗点という症状が出現します。

病巣が黄斑に限られていれば、見えない部分は中心部だけですが、大きな出血が起これば、さらに見えにくい範囲が広がります。病状が進行すると、視力が失われる可能性があります。また、片目に病巣が認められたら、4割程度の人では経過とともに両目に発症するといわれています。医師に本疾患と診断された人は、良いほうの目も定期的に診てもらうべきです。

非滲出(委縮)型のAMDの場合は、黄斑の加齢変化が強く現れた状態で、網膜色素上皮細胞が委縮したり、網膜色素上皮細胞とブルッフ膜の間に黄白色の物質がたまったりします。病状の進行は緩やかで、滲出型と比較すると視力低下の程度も軽度であることがほとんどで、視力はあまり悪くなりません。

しかし、新生血管が発生することもあるので、定期的に眼底検査、蛍光眼底検査を行い、経過をみる必要があります。特に、片目がすでに滲出型のAMDになっている場合は、注意深く経過をみなければいけません。

AMDは高齢者に多く発症することから、黄斑、とりわけ網膜色素上皮細胞の加齢による老化現象が主な原因と考えられています。また、はっきりしたことはわかっていませんが、高血圧や心臓病、喫煙、ビタミンやカロチン、亜鉛などの栄養不足のほか、遺伝の関与も報告されています。しかし、AMDの原因と病態は完全には解明されておらず、現在もなお、さまざまな研究がなされています。

もともとAMDは欧米人に多く、日本人には少ない疾患でした。その主な理由としては、欧米人の目が日本人の目に比べて、目の老化を促進する原因となる光刺激に弱いことが挙げられます。アメリカでは現在、本疾患が中途失明を来す疾患のトップです。

最近では、日本でも発症数が増加の一途をたどっており、日本人の平均寿命の延びが原因として挙げられています。食生活を中心に生活様式が欧米化したことや、TVやパソコンの普及により目に光刺激を受ける機会が非常に多くなったことも、原因の一つと考えられています。日本人では、女性の約3倍と男性に発症しやすいことを示す研究報告もあります。

AMD(加齢黄班変性)の検査と診断と治療

健康診断で、AMD(加齢黄斑変性)が早期に発見されることもあります。50歳以後の中高年の人は、視力を保つために早めに検査を受けましょう。

今まではあまり有効な治療法はありませんでしたが、近年、新しい方法が試みられるようになり、早期発見、早期治療によって視力低下を最小限に抑えられる可能性が期待できるようになってきました。

疾患の診断、程度の判定、最適な治療を考える上で、眼科の医師による多くの検査が必要です。特に重要なのは、眼底検査と蛍光眼底検査。

眼底検査は、眼底にある網膜の状態を詳しく調べるために行われます。検査の前に目薬をさして、瞳孔(どうこう)を開きます。まぶしくて近くが見えない状態が約3時間続きますが、自然に元に戻ります。

蛍光眼底検査は、網膜や脈絡膜の血液の流れを把握する目的で行われ、腕の静脈に蛍光色素を注射してから眼底を調べます。蛍光色素によって血管だけが浮き彫りになりますから、血管の弱い部分や詰まった個所、新生血管の発生した位置を突き止めたり、病状の程度を判定したりすることが可能です。

その他、主として脈絡膜の血液循環を調べるための特殊な造影検査もあります。

AMDの治療では、レーザーによるレーザー光凝固術や、場合によっては手術が行われます。近年、経瞳孔温熱療法や光線力学療法などといった新しい治療法が一部の施設で試みられ始めており、この疾患の予後の向上が期待されるようになってきています。

レーザー光凝固術は、新生血管をレーザー光で焼き固める治療法です。正常な周囲の組織にもダメージを与えてしまいますので、新生血管が中心窩にある場合はほとんど実施されません。

手術には、新生血管抜去術と黄斑移動術があります。新生血管抜去術は、新生血管を外科的に取り去る治療法です。新生血管が中心窩にある場合も実施されますが、中心窩を傷付けてしまう可能性もあります。

黄斑移動術は、中心窩の網膜を新生血管から離れた場所に移動させることにより、中心窩の働きを改善する治療法です。新生血管が中心窩にある場合に実施されますが、物が二つに見えるなどの副作用が起こる場合もあります。

新しい治療法の経瞳孔温熱療法は、弱いレーザーを新生血管に照射し、軽度の温度上昇によって、新生血管の活動性を低下させる治療法です。

光線力学的療法のほうは、光に反応する薬剤を体内に注射し、それが新生血管に到達した時にレーザーを照射する治療法です。弱いレーザーによって薬剤が活性化され、新生血管を閉塞(へいそく)します。使用するレーザーは通常のレーザーとは異なり、新生血管周囲の組織にはほとんど影響を及ぼしません。継続的に行う治療法であり、3カ月ごとに検査を行い、その結果により必要に応じて再度実施されます。

薬物療法として、ステロイド剤や血管新生阻害剤などの投与が試みられています。効果を得るには繰り返しの投与が必要で、経瞳孔温熱療法との併用も考えられています。

治療後の視力は、病状の進行度によってさまざまです。一般に早期に治療を開始すると、良好な視力が保たれる傾向にあります。黄斑の中でも特に重要な中心窩に病態が現れている場合は、視力の低下は著明です。

治療後も、定期的に医師による目のチェックを受けるとともに、バランスの取れた食事で目の健康を保ち、全身の健康を維持しましょう。

亜鉛の血中濃度の低下とAMDの関連が、指摘されています。加齢に伴って、亜鉛が含まれている食品の摂取量が少なくなるとともに、腸の亜鉛を吸収する力が低下してしまうことから、亜鉛不足になりやすいといわれています。亜鉛を多く含んでいる食品である穀類、貝類、根菜類を、なるべく摂取するようにしましょう。

同じく、カロチン(カロチノイド)の摂取量が少ないと、AMDを発症しやすいという研究報告もあります。カロチンを多く含んでいるカボチャ、ニンジン、トマト、さやいんげん、ピーマンなどの緑黄色野菜を、なるべく摂取するようにしましょう。

🇨🇵APS(抗リン脂質抗体症候群)

自己抗体ができることによって全身の血液が固まりやすくなり、血栓症を繰り返す疾患

APS(Anti-phospholipid antibody syndrome)とは、血液中に抗リン脂質抗体(APA:anti-phospholipid antibody)という自己抗体ができることによって、全身の血液が固まりやすくなり、血栓症を繰り返す自己免疫疾患。抗リン脂質抗体症候群とも呼ばれます。

血栓症とは、動脈あるいは静脈で、血液の塊である血栓が血管の内腔(ないくう)をふさぐ結果、血液の流れが途絶えるために生じる臓器の障害です。このAPSの特徴として、血栓症は動脈、静脈ともに見いだされ、再発することがあります。

血栓ができる部位により、動脈では脳梗塞(こうそく)、心筋梗塞など、静脈では下肢に生じる深部静脈血栓症、肺梗塞などを生じます。また、妊娠可能な年齢の女性では胎盤梗塞も生じます。

通常、脳梗塞などは動脈硬化症に由来し、高齢者にみられます。しかし、APSでは、動脈硬化症の危険因子が認められない40歳代以下の若年者で、脳梗塞や一過性脳虚血発作などの血栓症がみられます。また、女性では、胎盤に血栓ができ、胎児への血流が不良になる胎盤梗塞が一因となって、妊娠早期(10週以前)の習慣性流産、子宮内胎児死亡、胎児発育遅延、妊娠中毒症などがみられます。

APSでは、動脈血栓症の中では脳梗塞が約25パーセントを占め、静脈血栓症の中では深部静脈血栓症が約75パーセントと高頻度にみられ、下肢のはれと痛みが繰り返し起こります。

このような全身の血栓症によって、てんかん、片頭痛、知能障害、意識障害、皮膚の壊死(えし)、手足のまひ、視力低下、失明などさまざまな症状が起きることがあります。

血液検査上で血小板が減少するというような所見も来します。しかし、血小板減少に関しては軽度であることが多く、皮膚に紫斑(しはん)ができたり、脳出血や、消化管出血による吐血や下血は少ないとされています。

APSの原因は、いまだ不明です。

若くて特に動脈硬化がないと思われるのに脳梗塞などの血栓症を起こした人や、流産を繰り返す習慣性流産の女性は、この疾患である可能性があります。リウマチ内科、血液内科の専門医、妊娠可能な年齢の女性の場合は産婦人科の受診が勧められます。

APS(抗リン脂質抗体症候群)の検査と診断と治療

リウマチ内科、血液内科、産婦人科の医師による診断では、動脈あるいは静脈の血栓症、習慣流産など産科的疾患のいずれかが認められ、血液検査所見として、抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラントなどの抗リン脂質抗体(APA)が6週間以上の間隔で2回以上陽性になることで、APS(抗リン脂質抗体症候群)と確定されます。

そのほかの血液検査所見として、血小板減少、活性化部分トロンボプラスチン時間(PTT)とプロトロンビン時間(PT)の延長などの凝固能異常などがみられます。

医師による治療では、急性期の動静脈血栓症の症状に対して、通常の血栓症の治療に準じて、ウロキナーゼやヘパリンを使った抗凝固療法が行われま す。慢性期には、血栓症の再発を防ぐ二次予防として、アスピリン内服などの抗血小板療法、あるいはワーファリン内服による抗凝固療法が行われます。

習慣性流産、子宮内胎児死亡の予防としては、アスピリン内服とヘパリン製剤の皮下注射による抗凝固療法が行われます。

抗リン脂質抗体(APA)が陽性の場合でも、血栓症の既往や症状がない場合には積極的な治療の必要性はなく、通常経過観察のみを行います。高齢者や血栓症のリスクが高いと思われる患者には、少量アスピリンを予防的に投与することもあります。

血小板減少があり出血症状が認められるような患者に対しては、副腎(ふくじん)皮質ステロイド薬や免疫抑制剤が使用されますが、出血症状がなければ通常は経過観察のみを行います。

♋ARDS(急性呼吸窮迫症候群)

さまざまな重症の疾患に起因して、突然起こる呼吸不全の一種

ARDS(Acute Respiratory Distress Syndrome)とは、さまざまな疾患に起因して、肺の中に液体がたまって血液中の酸素濃度を異常に低下させる急性呼吸不全の一種。急性呼吸窮迫症候群、急性呼吸促迫症候群とも呼ばれます。

このARDSは、死亡率が30〜40パーセントととても危険な疾患で、2〜3日間の短期間に強い息切れ、呼吸困難が起こり、左右の肺の中に液体がたまります。発症者の約3分の1は、敗血症という重く広範囲に及ぶ感染症の結果、発症しています。最初に膵臓(すいぞう)など、ほかの器官が重い損傷を受け、その後に発症することもあります。膵臓が損傷すると、酵素やサイトカインなどのたんぱく質が放出され、これが肺など体内のほかの器官や組織に障害を与えます。

ARDSの主な原因は、重く広範囲の敗血症、膵臓の炎症のほか、肺への食べ物の吸引、やけど、心肺バイパス手術、胸部の損傷、大量の煙の吸入、何らかの有毒ガスの吸入、高濃度の酸素吸入による肺の損傷、大量の輸血 、溺水(できすい)、ヘロイン・メサドン・プロポキシフェン・アスピリンなどの薬物の過剰使用、重症肺炎、長期間のまたは重度の低血圧(ショック)、肺塞栓(そくせん)症など。

肺胞や肺の毛細血管が傷付くと、血液や体液が肺胞の間の透き間に漏れ出し、やがて肺胞の内部にも入ってきます。多くの肺胞がつぶれる無気肺を起こし、サーファクタントという肺胞の内側の表面を覆い、肺の形を保つ働きをする液体の機能が低下します。

肺胞内に液体がたまり、多くの肺胞がつぶれると、吸い込んだ空気中から酸素を血液中に取り込めなくなるため、血液中の酸素濃度が急激に低下します。血液中から二酸化炭素を取り出し、空気中に放出する作用はそれほど影響を受けないため、血液中の二酸化炭素濃度はほとんど変化しません。

症状としては、まず息切れがみられ、普通は速く浅い呼吸を伴います。医師が聴診器を当てた場合、パチパチという水泡音(ベルクロラ音)や喘鳴(ぜんめい)音が肺から聞こえますが、異常音が何も聞こえないこともあります。血液中の酸素濃度の低下によって、皮膚に斑点(はんてん)や、皮膚の色が青っぽく変化するチアノーゼがみられたり、心臓などほかの器官に機能不全が生じ、心拍数の増加、錯乱、昏睡(こんすい)などが起こります。

ARDSによって血液中の酸素濃度が低下し、肺細胞で産生されるサイトカインなどの特定のたんぱく質や白血球が血流内へ漏れ出すことによって、ほかの器官に炎症や多臓器不全などの合併症が引き起こされます。

器官の機能不全は、ARDSの発症直後または数日後、数週間後に始まります。さらに、ARDSの発症者は、肺の感染症に対する抵抗力が弱まり、細菌性肺炎を起こしやすくなります。

ARDS(急性呼吸窮迫症候群)の検査と診断と治療

内科、ないし呼吸器科の医師による診断では、胸部X線像で両側の肺に液体の浸潤影が認められ、動脈血ガス分析で血液中の酸素濃度の低下が認められます。

ARDSは、呼吸器だけでなく腎臓や血液など多くの臓器の障害が起こるのが特徴であるため、集中治療室で治療されます。いまだに有効な治療法は確立されていませんが、必ず背景にある疾患に対する治療ができるかどうかに成否がかかっています。

現在、行われている治療は、呼吸管理と薬物療法の2つに大きく分けられます。いずれも早期診断と治療が重要で、予後を決定します。

呼吸管理では、肺の酸素を取り込む力が非常に低下しており、顔につけたマスクなどで酸素吸入をしても簡単には血液中の酸素が増えないため、口あるいは鼻腔(びくう)からチューブを気管に挿入する気管内挿管や、首の皮膚を切って気管に穴を開ける気管切開によって、気管にチューブを挿入し、人工呼吸器に接続します。

人工呼吸をするメリットは、高濃度の酸素を吸入することができること以外に、ピープ(PEEP)といって息を吐く時にも一定の圧力を肺にかけて肺胞がつぶれるのを防ぐことができ、呼吸を機械に任せ、自力で呼吸をしなくてもよいため、エネルギーの消耗を防げることなどが挙げられます。

逆に、人工呼吸に伴う合併症、例えば圧力を加えての呼吸による肺の損傷、感染症にかかる機会の増加などもあります。また、人工呼吸は根本的な治療ではなく、あくまでも肺の機能が回復してくるまでの時間稼ぎにすぎません。

薬物療法では、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)が最も一般的に使用されています。たんぱく分解酵素の1つであるエラスターゼの働きを阻害するウリナスタチンという薬もよく使われます。

そのほか、細菌から分泌される毒素で、敗血症の時に重要な役割をするエンドトキシンに対する抗体、ある種のサイトカインに対する抗体、好中球が毛細血管壁に接着する時に重要な役割をする接着分子に対する抗体などが使われることがあります。これらは、より根本的な治療薬となる可能性を持っていますが、確実性という点でまだ問題があります。

♋ATL(成人T細胞白血病)

ウイルスに感染して発症する白血病

ATL(Adult T-cell Leukemia)とは、レトロウイルス、腫瘍(しゅよう)ウイルスであるヒトTリンパ球向性ウイルス1型(Human T Lymphotropic Virus type 1:HTLVー1)の感染により発症する腫瘍性疾患。

悪性リンパ腫の一種ですが、大部分が白血病化するために、成人T細胞白血病と呼ばれたり、成人T細胞白血病リンパ腫(Adult T-cell Leukemia Lymphoma:ATLL)と呼ばれたりします。1976年に、京都大学の高月医師、内山医師らによって初めて報告、命名された疾患です。

このATLの発症は、ヒトTリンパ球向性ウイルス1型(HTLVー1)を体の中に持っているキャリアの分布と一致することが知られています。キャリアは、日本では120万人、世界では1000~2000万人いると推定されています。

日本では、従来から九州、沖縄など西南日本に多くみられますが、近年は関東、中部、近畿で増え、全国的にキャリアと発症者が存在しています。世界的には、カリブ海沿岸諸国、南アメリカ、アフリカ、南インド、イラン内陸部などにキャリアと発症者の集積が確認されています。それらの地域からの移民を介して、ヨーロッパ諸国、アメリカ合衆国などでも、キャリアと発症者の存在が報告されています。

ヒトTリンパ球向性ウイルス1型の感染経路としては、母乳を介する母子間垂直感染と、輸血、性交渉による水平感染が知られていて、出産時や母胎内での感染もあります。輸血では、感染リンパ球を含んだ輸血により感染し、血漿(けっしょう)成分輸血、血液製剤では感染しません。なお、日本では現在、献血に際して抗体スクリーニングが行われており、輸血後の発症はなくなりました。性交渉による感染に対しても、ATLを発症することは極めてまれであるため、今のところ特別な対策は立てられていません。

ほとんどが母乳感染により、乳幼児の感染者が40~60年の潜伏期を経て、ATLを発症します。日本で発症するのはヒトTリンパ球向性ウイルス1型のキャリア1万人について年間6〜7人あまり、発症の割合は3〜5パーセントほど。40歳以上の人がほとんどで、60~70歳に最も多く発症します。

リンパ球はリンパ系組織、血液、骨髄の中にあり、細菌やウイルスなどの感染と闘っていますが、機能の違いからT細胞、B細胞、ナチュラルキラ-細胞(NK細胞)に分けられます。ATLでは、T細胞が悪性化して、リンパ節や血液の中で異常に増加し、骨髄や肝臓、脾(ひ)臓、消化管、肺など全身の臓器に広がっていきます。末梢(まっしょう)血液中に出現する場合、特徴的な花びらのような形状をした核を有し、花細胞と呼ばれています。

症状としては、首、わきの下、足の付け根など全身のリンパ節がはれたり、肝臓や脾臓の腫大、皮膚紅斑(こうはん)や皮下腫瘤(しゅりゅう)などの皮膚病変、下痢や腹痛などの消化器症状がしばしばみられます。病勢の悪化によって、血液中のカルシウム値が上昇して高カルシウム血症になると、全身倦怠(けんたい)感、便秘、意識障害などを起こします。

悪性化したリンパ球が骨髄に広がった場合には、正常な赤血球や血小板が作られなくなります。このために動悸(どうき)、息切れなどの貧血の症状や、鼻血、歯肉出血などの出血症状がみられることがありますが、他の白血病と違ってあまり多くありません。悪性化したリンパ球が中枢神経と呼ばれる脊髄(せきずい)や脳に広がると、頭痛や吐き気が認められることもあります。

また、免疫担当細胞として重要なT細胞ががん化して、強い免疫不全を示すため、感染症にかかりやすくなり、真菌、原虫、寄生虫、ウイルスなどによる日和見感染症を高頻度に合併します。

ATL(成人T細胞白血病)の検査と診断と治療

ATL(成人T細胞白血病)は、ウイルス感染症、カビによる感染症、カリニ原虫による肺炎、糞線虫(ふんせんちゅう)症といった寄生虫感染症など、健康な人にはほとんどみられない日和見感染症が起こりやすいことで知られています。疲れやすい、熱が続く、リンパ節がはれる、皮疹(ひしん)が塗り薬でよくならないなどの症状が続く場合は、血液内科の専門医のいる病院を受診して検査を受けるようにします。

血液の悪性腫瘍が疑われた場合、まず血液細胞の数や内容を調べる血液検査が行われます。ATLでは、花びらのような形をした核を持つ異常なリンパ球の出現が特徴的です。また、血液検査では、ヒトTリンパ球向性ウイルス1型に感染して抗体があるかどうかも調べます。リンパ節がはれている場合には、リンパ節生検が行われ、局所麻酔による小切開でリンパ節を取り出し、顕微鏡で悪性細胞の有無を調べます。最終的にATLの診断を確定するためには、血液やリンパ節の悪性細胞の中に入り込んだウイルス遺伝子の検査が行われる場合もあります。

ATLと診断された後、疾患の広がりを調べるために全身の検査が行われます。目に見えない腹部や骨盤部のリンパ節がはれていないか、肝臓や脾臓に広がっていないかを調べるために、腹部CTや腹部超音波検査が行われます。胃や十二指腸に広がっていないかどうかを調べるためには、胃内視鏡検査やX線検査が必要です。肺に広がっていないかどうかを調べるためには、胸部X線検査や胸部CTが行われます。

骨髄に広がっていないかどうか調べるためには、骨髄穿刺(さくし)も行われます。骨髄穿刺は、局所麻酔後、胸骨または腰の骨に細い針を刺して骨髄液を吸引し、顕微鏡で観察します。その他、中枢神経である脳や脊髄への広がりを調べるために、局所麻酔後に腰の部分の背骨の間から針を刺して少量の脳脊髄液を採取する場合もあります。

ATLは多彩な症状、臨床経過をとることで知られていますが、一般には急性型、リンパ腫型、慢性型、くすぶり型、急性転化型の5つの病型に分類されています。

急性型は、血液中に花びらの形をした核を持つ異常リンパ球が出現し、急速に増えていくものです。リンパ節のはれや、皮疹、肝臓や脾臓の腫大を伴うことも多くみられ、消化管や肺に異常なリンパ球が広がる場合もあります。感染症や血液中のカルシウム値の上昇がみられることもあり、抗がん剤による早急な治療を必要とします。

リンパ腫型は、悪性化したリンパ球が主にリンパ節で増殖し、血液中に異常細胞が認められない型です。急性型と同様に急速に症状が出現するために、早急に抗がん剤による治療を開始する必要があります。

慢性型は、血液中の白血球数が増加し、多数の異常リンパ球が出現しますが、その増殖は速くなく、症状をほとんど伴いません。無治療で経過を観察することが、一般的に行われています。

くすぶり型は、白血球数は正常でありながら、血液中に異常リンパ球が存在する型で、皮疹を伴うことがあります。多くの場合、無治療で長期間変わらず経過することが多いため、数カ月に1回程度の外来受診で経過観察が行われます。

急性転化型は、慢性型やくすぶり型から、急性型やリンパ腫型へ病状が進む場合をいいます。この場合には、急性型やリンパ腫型と同様に、早急に治療を開始する必要があります。

ATLの治療として一般に行われているのは、抗がん剤を用いた化学療法です。抗がん剤は静脈注射や飲み薬などいろいろな種類があり、血管の流れによって全身に運ばれて悪性化したリンパ球を殺すため、全身療法>といわれています。また、髄腔内注射といって、腰の正中部より細い針で抗がん剤を髄液内に入れます。

ATLに対する抗がん剤は、通常、非ホジキンリンパ腫に有効な抗がん剤が用いられます。これらの抗がん剤の併用療法によって、30~70パーセントの場合で悪性細胞がかなり減少して、検査値異常が改善した状態が得られますが、最終的な治癒が期待できるのは残念ながらごく一部にとどまっています。

ATLの細胞には、抗がん剤が最初から効きにくかったり、途中から効きにくくなったりする性質があり、化学療法にしばしば抵抗性を示すからです。また、見掛け上症状がよくなったとしても、再発率は非常に高いことが知られています。

このように治療が難しい疾患ですが、よりよい治療法を開発するために臨床試験が行われています。研究段階の治療法の中で、現在最も期待されているのは同種造血幹細胞移植。化学療法により疾患がある程度コントロールされている、感染症を合併していない、全身状態がよい、50歳以下である、白血球の型が合っているドナーがいるなどの条件を満たす場合は、検討する価値のある治療法です。

また、ミニ移植といって、造血幹細胞移植の前の処置を軽くすることにより、50歳以上の高齢者にも適用可能な同種造血幹細胞移植法も検討されています。

⛎AVM(脳動静脈奇形)

一種の血管の奇形で、くも膜下出血や脳内出血、てんかんを起こす疾患

AVM(Cerebral arteriovenous malformation)とは、脳血管が形成される妊娠初期の胎児の異常により、毛細血管が作られずに動脈と静脈が直接つながった先天性の疾患。

脳動静脈奇形とも呼ばれます。一種の血管の奇形で、遺伝する疾患ではありません。

脳を栄養する血液は、動脈、毛細血管、静脈の順番で流れます。毛細血管は細かく枝分かれしており、脳へ栄養分や酸素を送り、老廃物や二酸化炭素を回収しています。ところが、AVMでは毛細血管がないので、本来は血管が細かく広がって分散される動脈血液が、高い圧力のまま直接静脈に流れ込み、非常に速い血流がナイダスと呼ばれる異常な血管の塊を少しずつ大きくすることがあります。

ナイダスは体のどこにでもできますが、脳の内部、脳の表面、硬膜など脳にできたものがAVMです。このAVMの血管は、正常な血管に比べて壁が弱く破れやすいため、脳出血、くも膜下出血を起こして死亡、または重い後遺症を生じることもあります。

また、毛細血管を通過しない血液は、脳との間で栄養分や酸素、老廃物や二酸化炭素の交換ができないため、脳が正常に働けなくなります。このためAVMの発生場所や大きさによっては、てんかん発作や認知症状で見付かることがあります。

約40~80パーセントは、AVMが破裂して、くも膜下出血あるいは脳出血の症状を起こします。AVMの出血は、動脈からではなく、静脈性出血である場合が多く、脳動脈瘤(りゅう)の破裂に比べると程度は軽いと考えられますが、出血量が多い場合は、より重症で死亡する例もあります。小さいAVMのほうが出血しやすいと見なされています。

AVMが破裂する頻度は毎年人口10万人当たり1人と、脳動脈瘤破裂の約10分の1ですが、好発年齢は20~40歳と20年近く若く、男性が2倍近く多いなどの特徴があります。

約20~40パーセントは、けいれん発作で発症します。体の一部にけいれんが見られ、次第に範囲が広がっていくジャクソン型けいれんが多いのですが、突然意識を失い、全身のけいれんが起こり、数十秒程度続く大発作も少なくありません。けいれんは、出血とは逆に、大きいAVMでよく見られます。

AVMのために毛細血管を通らない血液があっても、若いころは動脈硬化が強くないので、周りの正常血管が脳に血液を送り、脳の働きは正常であるのに対し、加齢に伴って動脈硬化が進行すると、脳が血流不足になりやすいため、精神症状、認知機能低下、手足のまひ、頭痛などを起こすことがあります。

発症者のAVMがいつ破裂するかの予測は、現在の医学水準では不可能です。しかし、10年、20年という単位で考えると、AVMが出血して重い後遺症をもたらす可能性は高いと考えられるので、早期に神経内科、ないし脳神経外科の専門医の診察を受けることが勧められます。

AVM(脳動静脈奇形)の検査と診断と治療

神経内科、脳神経外科の医師による診断では、造影剤を使った頭部CT、あるいは頭部MRIで確定できます。手術をするには、脳血管撮影で流入動脈、流出静脈を詳しく調べる必要があります。てんかん発作がある人には、脳波検査を行います。

医師による治療の原則は、外科手術によるAVMの全摘出です。実際には年齢、性別、AVMの部位、大きさ、合併症などによって手術をするかどうか決められます。手術を行う場合は、全身麻酔で頭の皮膚を切って頭蓋(ずがい)骨を開き、手術顕微鏡を使ってAVMに到達し、異常血管と正常血管の境界部分を金属製のクリップなどで止血して、AVMを摘出します。

手術が困難であるような発症者には、血管内治療による塞栓(そくせん)術や、ガンマナイフによる放射線治療も行われています。血管内治療による塞栓術では、局所麻酔で細いカテーテルを異常血管の入り口まで誘導し、異常血管を一本一本詰め、少しずつ疾患を小さくします。この方法だけで治療できるAVMは非常に限られるために、外科手術と放射線治療を補う第3の治療として行われています。

ガンマナイフによる放射線治療は、非常に狭い範囲に、高い線量の放射線を集中的に当てることで、正常な脳組織に及ぼす悪影響を最小限に抑え、病変を小さくする治療法です。必要とされる入院期間は二泊三日が標準で短く、発症者の負担も外科手術よりも少なくなります。ただし、病変のサイズが直径3センチ以下のものでなければ行えません。ガンマナイフ照射後、病変が消失するまでに平均して2~3年かかると考えられており、外科手術に比べて時間がかかるのが難点です。

てんかん発作を起こした人に対しては、抗てんかん剤を投与します。

⚛B型肝炎

B型肝炎ウイルス(HBV)の感染による肝炎のこと。一過性感染によって急性に発症する急性肝炎と、持続感染によって炎症が一定期間以上持続する慢性肝炎があります。

急性肝炎では、血液製剤の輸血や注射針の穿刺(さくし)、性交などが原因になります。慢性肝炎では、母親からの感染などが原因になり、肝硬変や肝細胞がんへ進展する頻度が高いとされています。

♑BCS(バッド・キアリ症候群)

肝臓から出る血液の流れが悪くなり、門脈圧高進症などの症状を示す疾患

BCS(Budd-Chiari Syndrome)とは、肝臓から出る血液の流れが悪くなるために、腸から肝臓につながる血管である門脈の血圧が上昇し、門脈圧高進症などの症状を示す疾患。バッド・キアリ症候群とも呼ばれます。

血液は心臓を中心に循環していますが、肝臓に入った血液は大きな3本の肝静脈から肝臓の外に出て、肝部下大静脈に集められ、心臓に戻ります。従って、肝静脈や下大静脈が何らかの原因で閉塞(へいそく)ないし狭窄(きょうさく)すると、肝臓を巡る血流全体が障害され、門脈圧の上昇から二次的な病態である静脈瘤(りゅう)、脾腫(ひしゅ)、腹水を生じる門脈圧高進症や、肝臓のうっ血を起こします。

原因がはっきりしない場合を原発性BCSといい、肝腫瘍(しゅよう)、炎症、腹部外傷、血液疾患、血管炎、血液凝固異常、経口避妊薬の使用など、原因が明らかな場合を続発性BCSといいます。原発性BCSが約70パーセントを占めており、なぜ肝静脈や下大静脈の血管が詰まりやすいのか、はっきりしたことはわかっていません。

また、BCSは比較的まれなものと考えられてきましたが、超音波検査の普及に伴い、発生例が増えています。経過からみると急性型と慢性型とに分けられ、日本ではほとんどが慢性型で、下大静脈の閉塞か狭窄によるものです。

急性型では腹痛、吐血、肝腫大、腹水がみられ、時に重篤な経過をたどり急性肝不全で死亡することもあります。これに対し、慢性型は数週から数カ月という経過の中で軽度の腹痛や肝臓の腫大が生じるようになりますが、腹痛は現れないこともあります。

下大静脈の閉塞の症状として、腹部や胸部の静脈が怒張して皮膚に血管が盛り上がって見えたり、下肢の浮腫が生じます。門脈圧高進症の症状は必発で、食道静脈瘤、胃静脈瘤、腹水がみられるようになります。脾臓が大きくなると脾機能高進症という状態になり、貧血を来すようになります。また、静脈瘤の血圧が上昇すると、静脈の血管が耐えきれな くなって破裂、出血し、吐血、下血などの症状が出ます。

BCS(バッド・キアリ症候群)の検査と診断と治療

内科、消化器科の医師による診断では、静脈からカテーテルを入れて、下大静脈や肝静脈造影を行い、これらの血管系の閉塞、狭窄が証明されればBCSと確定します。

最近では、腹部超音波検査、CT、MRIなどの検査も有用です。超音波検査を行うと、下大静脈の閉塞や血栓が見られます。また、超音波ドップラー法という検査を行うと、下大静脈や肝静脈に通常とは逆方向の血流がみられます。

内科、消化器科の医師による治療は、血管の閉塞、狭窄と門脈圧高進症に対して行います。続発性BCSの場合は、原因疾患の治療も必要です。

諸検査で血栓が確認されれば、血栓を予防したり、溶解させるために抗凝固療法を行います。また、その病態に応じて、狭窄部のバルーンカテーテルによる狭窄部拡張術や、閉塞、狭窄を直接排除するような手術を選択して行います。

門脈圧高進症の治療は、門脈圧の上昇から生じる二次的な病態である静脈瘤、脾腫、腹水などに対する対症療法が主体となります。中心になるのは食道静脈瘤、胃静脈瘤に対する治療で、予防的治療、待機的治療、緊急的治療があります。

予防的治療は、内視鏡検査により、出血しそうと判断した静脈瘤に対して行います。待機的治療は、静脈瘤の出血後、時期をおいて行うものです。緊急的治療は、出血している症例に止血を目的に行う治療です。緊急的治療では、出血している静脈を収縮させる薬を静脈注射で投与し、失われた血液を補うために輸血をします。大出血に際しては、内視鏡的に静脈瘤を治療します。

静脈瘤の治療は、1980年ころまでは外科医による手術治療が中心でしたが、最近では内視鏡を用いた内視鏡的硬化療法、静脈瘤結紮(けっさつ)療法が第一選択として行われています。

内視鏡的硬化療法には、直接、静脈瘤内に硬化剤を注入する方法と、静脈瘤の周囲に硬化剤を注入し、周囲から静脈瘤を固める方法があります。どちらも静脈瘤に血栓形成を十分に起こさせることにより、食道への側副血行路と呼ばれるバイパスを遮断するのが目的です。静脈瘤結紮療法は、特殊なゴムバンドで縛って静脈瘤を壊死(えし)に陥らせ、組織を荒廃させ、結果的に静脈瘤に血栓ができることが目的となります。

胃静脈瘤に対しては、血管造影を用いた塞栓(そくせん)療法も用いられます。また、門脈圧を下げるような薬剤を用いた治療、手術が必要な症例もあり、手術では側副血行路の遮断や血管の吻合(ふんごう)術が行われます。

出血が続いたり再発を繰り返す場合は、外科処置を行って、門脈系と体循環の静脈系の間にシャントと呼ばれるバイパスを形成し、肝臓を迂回(うかい)する血液ルートを作ることがあります。静脈系の血圧のほうがはるかに低いため、門脈の血圧は下がります。

脾腫を伴う場合は脾臓摘出術あるいは脾動脈塞栓術、腹水を伴う場合には利尿剤の投与などが行われます。

♾C型肝炎

C型肝炎ウイルス(HCV)の感染による肝炎のこと。かつては非A非B型肝炎と呼ばれていましたが、1988年にアメリカのカイロン社が開発したHCV抗体の検出法により診断が可能となりました。

主な感染経路は輸血でしたが、献血時の抗体スクリーニングが徹底して、輸血後肝炎としてのC型肝炎は激減。しかし、患者の半数には輸血歴がなく、母子感染や性行為などの経路も想定されます。肝がんを合併する例が多く、慢性肝炎の段階でのインターフェロン療法が期待されます。

♐CLL(慢性リンパ性白血病)

比較的成熟した小型リンパ球が血液中に増加し、リンパ節や脾臓、肝臓のはれを生じる疾患

CLL(Chronic Lymphocytic Leukemia)とは、血液のがんと一般的にいわれる白血病の一つで、比較的成熟した小型リンパ球が血液中に増加し、リンパ節や脾臓(ひぞう)、肝臓のはれを生じる疾患。慢性リンパ性白血病とも呼ばれます。

白血病にはいくつかの種類があり、がん化する細胞の種類から骨髄性とリンパ性とに分けられます。また、未熟なリンパ球が増加する場合と成熟したリンパ球が増加する場合とで、 ALL(Acute Lymphoid Leukemia、急性リンパ性白血病)とCLL(慢性リンパ性白血病)とに分けられます。これらは、骨髄やリンパ系組織の中で発症します。

通常、血液の中に成熟したリンパ球が著しく増加した状態が、CLLです。リンパ球の種類により、B細胞性とT細胞性とに分けられ、多くはB細胞性です。白血病細胞は、リンパ節、骨髄、脾臓などで非常にゆっくり増殖し蓄積します。

CLLは、小児には少なく、成人でも中年以降に好発し、男性に多いとされています。頻度は年間、10万人に1~3人の発症率。全白血病の約2~3パーセントを占め、比較的まれです。リンパ球のがんには、悪性リンパ腫(しゅ) やALLがありますが、これらとは病態が異なります。

CLLの原因は、まだ明確ではありません。そのため危険因子や予防方法も、明らかではありません。環境因子の影響、遺伝的要因、免疫学的異常などが、一部関与していると考えられています。

CLLの細胞は、リンパ節、骨髄、末梢(まっしょう)血の中で増殖しますが、細胞の増加による直接の症状はあまりみられません。一般的には、白血病細胞が増殖することにより、リンパ節や脾臓、肝臓がはれてきます。T細胞性白血病の場合には、皮膚や中枢神経に転移しやすい傾向があります。

また、骨髄の中で白血病細胞が著しく増加した場合には、正常な血液が造られず、貧血や血小板減少による出血傾向などの症状が起こることがあります。同時に、リンパ系の細胞の異常や免疫力の低下などにより、細菌やウイルスに対する抵抗力がなくなり、発熱や肺炎などの感染の症状が認められることがあります。白血病細胞の増殖により体重減少、倦怠(けんたい)感、発熱、寝汗などの症状がみられることもあります。

合併症として、体の抵抗力のもとである免疫の異常が起こることもあります。免疫の異常による溶血性貧血や、赤血球だけが少なくなる赤芽球癆(せきがきゅうろう)といった特殊な貧血、血小板減少がみられることもあります。

CLLの発症の初期は無症状なので、最近では健康診断での血液検査などで見付かったり、ある程度進行してから全身の症状が少しずつ出現して発見されることもあります。ほかのがん同様、早期発見が望ましいのですが、難しいのが実情です。

CLL(慢性リンパ性白血病)の検査と診断と治療

内科、血液内科の医師による診断では、倦怠感や微熱が続いたり、体のリンパ節がはれたり、肝臓や脾臓がはれたりしているような場合、まず血液検査を行います。血液検査で体の血液細胞の内容と数を調べ、異常が認められた場合には、骨髄の検査を行います。骨髄検査では、胸の胸骨や腰の骨である腸骨に細い針を刺して、骨髄液を吸引し、骨髄の中で増えている細胞が何であるかを調べます。

白血病の場合には、細胞の免疫学的検査により、白血病細胞がB細胞性か、T細胞性かなどを調べます。さらに、白血病細胞の染色体検査などを行います。

いくつかの診断基準がありますが、血液検査にて血液量1ml中にリンパ球が1万個以上あり、それらが明らかに成熟したリンパ球である場合には、まずCLL(慢性リンパ性白血病)が最も疑われますが、 ALL(急性リンパ性白血病)、特殊なタイプの白血病であるヘアリー細胞白血病と前リンパ性白血病、悪性リンパ腫の白血病化、成人T細胞性白血病などの疾患との鑑別が必要です。

CLLと確定診断された場合には、より詳しい検査により疾患の進行の程度、体の中での広がりの程度を調べる病期分類を行います。いくつかの分類がありますが、RAI分類がしばしば用いられ、次のように分けられます。

0期:リンパ球の増加のみの時期、1期:0期にリンパ節のはれを伴う時期、2期:さらに脾臓、肝臓のはれを伴う時期、3期:それらに貧血を伴う時期、4期:これらに血小板減少を伴う時期 。これらの病期分類は、予後とよく相関しています。

内科、血液内科の医師による治療では、リンパ球の増加のみである0期では経過観察を行い、1期以降では抗がん剤を用いた化学療法が主体となります。このほかに、放射線療法や造血幹細胞移植法、あるいはモノクローナル抗体による治療が行われることもあります。すでに確立されている標準的な治療方法がありますが、CLLを完全に治すことはなかなか難しいのが実情です。

化学療法は、抗がん剤が血流に乗り、全身に運ばれて白血病細胞を殺すため、全身療法と考えられています。抗がん剤には、注射や点滴、飲み薬などいろいろな種類があり、主に使用されるのはシクロフォスファミド、ビンクリスチン、フルダラビンなど。

抗がん剤以外では、生物製剤が使用されます。生物製剤は、すでに体の中にある活性物質を実験的に合成し、自分の体の抵抗力を増すような形で使われるもので、悪性度が低いB細胞悪性リンパ腫の治療に承認されたモノクローナル抗体も使用可能となりました。これはリツキサンと呼ばれる薬剤で、B細胞の表面に出ているCD20という抗原に特異的に結合するもので、高い治療効果が報告されています。

放射線療法は多くの場合、CLLが原因で大きくなった脾臓や、リンパ節、腫瘤(しゅりゅう)などによる圧迫症状を緩和するために行われ、放射線を照射します。これは局所治療であり、対症治療の一つです。

造血幹細胞移植法は、白血病に侵された骨髄を健康な骨髄に置き換える治療法です。白血球の型が完全に一致した兄弟、または非血縁者の健康な造血幹細胞をもらって移植するもので、全身状態が良好で臓器機能が正常であれば、50歳までは施行可能とされています。

合併症の治療では、感染に対しては抗生物質の投与などが行われます。自分の免疫の異常で起こる溶血性貧血などに対しては、免疫の異常を抑える目的で、プレドニゾロンなどのステロイドホルモン剤などの薬が使われることもあります。

♏CML(慢性骨髄性白血病)

未熟な細胞である白血病細胞が骨髄の中で増殖し、正常な血液細胞の増殖が抑えられる疾患

CML(Chronic Myelogenous Leukemia)とは、未熟な細胞である白血病細胞が骨髄の中で異常に増殖するため、正常な血液細胞の増殖が抑えられてしまう疾患で、ゆっくりと進行するもの。慢性骨髄性白血病とも、慢性顆粒(かりゅう)球性白血病とも呼ばれます。

血液のがんともいわれる白血病 (Leukemia)を発症すると、未熟な白血病細胞が骨髄を占領するために正常な血液を作る能力が障害され、赤血球、白血球、血小板が減少してきます。そのため、赤血球の減少による貧血、白血球の減少による感染、血小板の減少が原因となって出血が起こったりします。また、白血病細胞が血流に乗って全身の臓器に浸潤してその働きを障害し、肝脾腫(かんひしゅ)、リンパ節の腫大、骨痛、歯肉の腫脹(しゅちょう)などいろいろな症状を起こし、生命を脅かします。

白血病は、疾患の進行の速さと、がん化する細胞のタイプによって、AML(acute myelogenous leukemia、急性骨髄性白血病)、ALL(acute lymphoid leukemia、急性リンパ性白血病)、CML(慢性骨髄性白血病)、CLL(Chronic lymphocytic leukemia、慢性リンパ性白血病)という4つのグループに大別されます。急性白血病は急速に進行し、慢性白血病はゆっくりと進行します。骨髄性白血病では、好中球、好塩基球、好酸球、単球を作る骨髄性(顆粒球性)の細胞ががん化します。リンパ性白血病では、リンパ球やリンパ球を作るリンパ性の細胞ががん化します。

また、急性白血病では未熟な白血病細胞のみ増加しますが、慢性白血病では未熟な白血球から正常細胞に見える成熟細胞まで、いろいろな成熟段階の細胞が増加します。慢性骨髄性白血病では、骨髄および末梢(まっしょう)血液中に白血球の一種である顆粒球が異常に増加します。

急性と慢性に大別される白血病の原因は不明ですが、放射線被曝(ひばく)やある種の染色体異常、免疫不全症がある場合に、発症頻度が高いことが知られています。

白血病全体のうち、慢性白血病が約4分の1を占め、4分の3が急性白血病です。慢性白血病のほとんどはCML(慢性骨髄性白血病)で、CLL(慢性リンパ性白血病)はわずか数パーセントといわれています。慢性白血病は、主として成人に発症します。

CMLは、いつ発症したのかはっきりしないことが多く、進行もゆっくりです。通常、疾患の進展に伴い、慢性期、移行期、急性転化期に分けられます。いわゆる遺伝性のものではなく、子孫への影響はありません。

すべての遺伝子は細胞の中にある46本の常染色体と、2本の性染色体に存在していますが、CMLではほとんどの場合で、9番染色体と22番染色体が途中で切断され、それぞれ相手方の染色体と結合する異常が認められます。この異常な染色体をフィラデルフィア染色体と呼んでいます。

この結果、新たにBCRーABLと呼ばれる異常な遺伝子が形成されます。この遺伝子からBCRーABL蛋白(たんぱく)質が産生され、これがCMLの発生原因と考えられます。しかし、どのような原因によってフィラデルフィア染色体が形成されるのかは、わかっていません。

CMLの慢性期では、全身のだるさ、体重減少、皮膚のかゆみなどのほかに、肝臓あるいは脾臓の腫大による腹部膨満感を自覚することがあります。そのほか、胃潰瘍(かいよう)を合併することもあります。

しかし、自覚症状がない段階で、健康診断やほかの疾患の検査で偶然に発見されることも少なくありません。

急性転化期では、動悸(どうき)、息切れ、全身のだるさなどの貧血症状、皮下出血、鼻血、歯肉出血などの出血症状、発熱などの感染症状のほか、関節痛、骨痛などが現れる場合があります。

CMLの発症はやや男性に多く、すべての年齢層に起こり得ますが、40歳から50歳前後に多くみられます。 発症の頻度は、100万人に5人です。

CML(慢性骨髄性白血病)の検査と診断と治療

内科、血液内科の医師による診断では、血液検査、骨髄検査を行います。正常なら骨髄の中だけにある未熟な白血球が、骨髄だけでなく血液の中でも多数認められ、血小板も増加しています。また、骨髄では未熟な赤血球が極端に減少し、対照的に白血球が充満しています。

染色体を検査すると、特殊な染色体であるフィラデルフィア染色体が大部分の症例で見付かり、診断の決め手となります。

CML(慢性骨髄性白血病)の治療では、急性白血病のように強力な化学療法は行わず、外来で経口投与する抗がん剤によって、血液中の白血球数を抑えて、コントロールします。化学療法の進歩によって、ほぼ100パーセントの症例で寛解(かんかい)させることができますが、最後は急性白血病に変わっていくことが少なくありません。

CMLには近年、画期的な分子標的薬剤のグリベック(イマチニブ)が開発されました。グリベックはフィラデルフィア染色体上にある、この疾患の原因遺伝子のBCRーABLが産生するチロシンキナーゼの働きを特異的に阻害する薬剤。経口で投与でき、副作用が比較的軽度なので、外来で治療可能です。しかし、グリベックのみで完治することは難しいと考えられており、効果がある場合でも、長期間に渡って服用を続けることが必要とされています。

グリベックが効かない場合や、副作用によりグリベックを続けることができないケースなどで、ダサチニブ(スプリセル)、ニロチニブ(タシグナ)といった新薬も使われるようになってきています。

通常では50歳以下の年齢であること、白血球の型が一致したドナーがいることなどの条件が整えば、造血幹細胞移植が選択肢の一つとなります。治癒をもたらし得ることがわかっている唯一の治療法ですが、移植に伴う合併症の危険についても十分に考慮する必要があり、その適応は慎重に検討されなければなりません。

発症者には比較的高齢者が多いため、移植時に行う前処置の治療毒性を軽減した非破壊性造血幹細胞移植も試みられています。

♈CMPD(慢性骨髄増殖性疾患)

骨髄の働きが病的に盛んになり、赤血球、白血球、血小板が増加する慢性疾患群

CMPD(chronic myeloproliferative disorders)とは、骨髄の働きが病的に盛んになって、赤血球、白血球、あるいは血小板が増加する疾患の総称。慢性骨髄増殖性疾患とも呼ばれます。

全身を巡る血液中には、酸素を運ぶ役割をする赤血球や、感染防御をする白血球、出血を止める働きをする血小板という血液細胞が含まれています。これらの赤血球、白血球、血小板は、骨の中心にあるゼラチン様の骨髄で造られ、血液中で一定の数に保たれています。感染や出血などの体の変化に対応して、赤血球などの数値は変化することもありますが、体が正常に戻ると数値も正常化します。

しかし、骨髄の働きが病的に盛んになって、赤血球、白血球、あるいは血小板が増加することがあり、CMPDを生じます。

骨髄の細胞が増殖するという意味で、急性白血病を骨髄増殖性疾患(MPD:myeloproliferative disease)の急性型に入れたり、骨髄の異形成の増殖という点で骨髄異形成症候群も骨髄増殖性疾患に含める場合もあります。一般的には、慢性の経過をたどるものを総称してCMPDと呼んでいます。

このCMPDには、慢性骨髄性白血病(CML:chronic myelogenous leukemia)、真性多血症(PV:polycytemia vera)、本態性血小板血症(ET:essential thrombocythemia)、特発性骨髄線維症(IM: idiopathic myelofibrosis)などが属しています。日本におけるCMPDの発症頻度は明らかではないものの、100万人当たり数人で、アメリカと同程度と考えられます。

慢性骨髄性白血病は、血液のがんともいわれる白血病が緩やかに進行する疾患で、未熟な細胞である造血細胞(白血病細胞)が骨髄の中で異常に増殖するため、正常な血液細胞の増殖が抑えられてしまい、血液において白血球や時に血小板が増加します。主として成人に発症し、いつ発症したのかはっきりしないことが多く、また、ゆっくりと進行します。貧血、体のだるさ、脾臓(ひぞう)あるいは肝臓部のしこりを生じます。

真性多血症では、赤血球の増加が著しくなることにより、顔が赤ら顔となります。白血球に含まれるヒスタミンという物質などの放出によって、全身にかゆみが生ずる場合もあります。多くの場合、自覚することはないものの、脾臓がはれています。

本態性血小板血症は、血小板が著しく増加することが特徴で、増加する血小板の働きが高進する場合と低下する場合があり、それぞれ血栓症や出血症状が現れることがあります。血管が詰まることによっていろいろな症状が発生し、痛みや冷感を伴ったり、紫斑(しはん)と呼ばれる青あざなどが生じます。

特発性骨髄線維症では、骨髄の線維化によって造血が正常に行われず、脾臓や肝臓などの骨髄以外のところでの髄外造血によって血液が造られるようになります。疾患の進行によって貧血が生じたり、脾臓がはれることにより腹部が張ったりする症状が出ることがあります。

これらのCMPDでは、全く症状のない場合もあります。赤血球、白血球、血小板の算定は、採血さえすればどこででもできる簡単な検査なので、健康診断や病院を受診した際の血液検査の結果、異常値によってCMPDが疑われることもあります。

CMPD(慢性骨髄増殖性疾患)の検査と診断と治療

内科の医師による診断では、慢性骨髄性白血病が疑われた場合、血液検査、骨髄検査を行います。正常なら骨髄の中だけにある未熟な白血球が、骨髄だけでなく血液の中でも多数認められ、血小板も増加しています。また、骨髄では未熟な赤血球が極端に減少し、対照的に白血球が充満しています。染色体を検査すると、フィラデルフィア染色体という特殊な染色体が大部分の症例で見付かり、診断の決め手となります。

真性多血症が疑われた場合、放射性同位元素や色素などにより循環赤血球量を測定したり、動脈の酸素濃度を調べたり、超音波検査などによって、脾臓がはれているかどうかを調べます。

本態性血小板血症が疑われた場合、特異的な検査法がないため、慢性骨髄性白血病などのほかのCMPD(慢性骨髄増殖性疾患)を除外し、がんや鉄欠乏性貧血や各種の感染症などによる二次性の血小板増加症との鑑別を行います。

特発性骨髄線維症が疑われた場合、骨髄穿刺(せんし)によって骨髄液を採ろうとしても線維が増えているために十分に採ることができないため、骨髄の組織の一部を採取して調べる生検により骨髄の線維化を証明することで確定します。骨髄の線維化は、白血病や悪性リンパ腫、あるいはがんの骨髄転移によっても起こり、膠原(こうげん)病や結核などが原因になる場合もあるので、これらの疾患を除外する必要があります。

特発性骨髄線維症の初期段階では、若い細胞が血液に出てきたり、普通はみられない変形したものがみられたりするため、慢性骨髄性白血病と血液検査のデータが類似し、判別が難しいことがあります。慢性骨髄性白血病と判別するためには、骨髄生検の結果のほかに、フィラデルフィア染色体およびBCRーABL遺伝子を認めないこと、一般的に好中球アルカリフォスファターゼ活性が低下しないことが重要になります。

CMPDを治すことは困難ですが、検査値を正常に近付けるような治療により、合併症もなく外来通院で長い間、普通の日常生活を送ることが可能です。

内科の医師による慢性骨髄性白血病の治療では、急性白血病のように強力な化学療法は行わず、外来で経口投与する抗がん剤によって、血液中の白血球数を抑えて、コントロールします。化学療法の進歩によって、ほぼ100パーセントの症例で寛解(かんかい)させることができますが、最後は急性白血病に変わっていくことが少なくありません。

慢性骨髄性白血病には近年、画期的な分子標的薬剤のグリベック(イマチニブ)が開発されました。グリベックはフィラデルフィア染色体上にある、この疾患の原因となるBCRーABL遺伝子が産生するチロシンキナーゼの働きを特異的に阻害する薬剤。経口で投与でき、副作用が比較的軽度なので、外来で治療可能です。しかし、ドナーのある場合は、骨髄移植が依然として治癒を狙う第1選択の治療戦略です。

真性多血症の治療では、赤血球数の増加により血管が詰まって血栓症が生じたり、心不全になる可能性があるため、初診時の検査値によっては、点滴で水分を補給しながら200~400mlくらいの採血を繰り返す瀉血(しゃけつ)を行うことがあります。ヘマトクリット(血液中の赤血球成分の割合)を45パーセントくらいに保つことによって、血栓症や出血による症状を防ぐことができますので、多くの場合は、瀉血をする場合でも、同時に経口剤を併用したり、注射をして赤血球の産生を抑え、赤血球数をコントロールします。

これらの治療は検査値を見ながら行いますので、必ずしも長期間続けるわけではなく、断続的に繰り返すことがよくあります。

本態性血小板血症の治療では、血小板数を減らすために経口剤や点滴注射を行います。また、機械により自動的に採血した血液を遠心し、血小板のみを取り除いて再び体に戻すような成分採血による血小板除去を行うこともあります。血小板の機能を抑えるために、血小板凝集抑制作用のある薬剤を併用することもあります。これらの治療を断続的に繰り返したり継続しながら、血小板数をコントロールします。

特発性骨髄線維症の治療では、根本的な治療法はまだ確立されていないため、専ら対症的に治療を行うことになります。症状に応じて、経口抗がん薬の投与や輸血療法などが選択され、条件が整えば、治癒を目的として行われる唯一の方法である造血幹細胞移植も考慮されます。

白血球や血小板の増加が著しく、脾臓のはれが目立つ場合に、メルファラン(アルケラン)、ハイドロキシウレア(ハイドレア)などの経口抗がん薬が使用されます。脾臓のはれのための圧迫感や痛みがある場合には、手術による脾臓の摘出や脾臓への放射線治療なども考慮されます。貧血や血小板減少が進行した場合には、輸血療法が行われます。

通常では50歳以下の年齢であること、白血球の型が一致したドナーがいることなどの条件が整えば、造血幹細胞移植が選択肢の一つとなります。しかし、移植に伴う合併症の危険についても十分に考慮する必要があり、その適応は慎重に検討されなければなりません。発症者には比較的高齢者が多いため、移植時に行う前処置の治療毒性を軽減した非破壊性造血幹細胞移植も試みられています。

経過はさまざまなものの、約15〜20パーセントの発症者では、急激に悪化して急性白血病などに移行します。この場合は治療が極めて難しく、予後不良です。

♐COPD(慢性閉塞性肺疾患)

せきやたん、息切れを主な症状とし、肺への空気の流れが悪くなる疾患

COPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease)とは、せきやたん、息切れを主な症状とし、慢性気管支炎か慢性肺気腫(はいきしゅ)のどちらか、または両方によって肺への空気の流れが悪くなる疾患。慢性閉塞(へいそく)性肺疾患とも、たばこ病とも呼ばれます。

世界保健機関(WHO)では、死亡原因の第4位に挙げていて、2020年には第3位になると予測しています。2005年には、世界中で年間300万人がCOPDにより命を落としました。

日本では、1999年の厚生労働省による調査で、21万2000人の患者がいるとされましたが、2000年から2001年にかけて行った調査では、COPDの潜在患者は40歳以上の8・5パーセント(男性13・1パーセント、女性4・4パーセント)に相当する530万人と推測されました。その潜在患者のうち治療を受けているのは、5パーセント未満といわれています。

厚生労働省の統計によると、2005年に14416人がCOPDにより死亡し、死亡原因の10位、男性に限ると7位を占めています。

別名、たばこ病ともいわれるように、最大の原因は喫煙で、患者の90パーセント以上は喫煙者です。長年に渡る喫煙が大きく影響するという意味で、まさに肺の生活習慣病です。

たばこを吸わない人でも、4・7パーセントの人がCOPDにかかっています。これは、副流煙による受動喫煙の危険性を物語っています。副流煙には、喫煙者が吸う主流煙よりも発がん物質を始めとする有害物質、例えばタール、トルエン、メタンなどが多く含まれています。

喫煙者が近くにいる人は、たばこを吸わなくても喫煙者と同等か、それ以上の有害物質を吸い込んでいるのです。家族がヘビースモーカーだったり、分煙されていない職場で仕事をしている人は、COPDにかかる危険性が高まります。

たばことCOPDの関連を示す数字として、「喫煙指数」があります。「喫煙指数」=1日に吸うたばこの本数×喫煙している年数。

例えば、1日に40本、20年間喫煙している場合は40×20=800で、喫煙指数は800。この指数が700を超えるとCOPDだけでなく、咽頭(いんとう)がんや肺がんの危険性も高くなるといわれています。喫煙指数が同程度の男女を比較すると、男性よりも女性のほうが重症化しやすい傾向があることがわかっています。

COPDには、頑固なせきやたんが続き気管支が狭くなる慢性気管支炎と、肺の組織が破壊されて息切れや呼吸困難を起こす慢性肺気腫が含まれます。どちらも初期には自覚症状がほとんどない場合が多く、ゆっくりと進行して、次第に重症になっていきます。呼吸機能の低下が進んで、通常の呼吸では十分な酸素を得られなくなると、呼吸チューブとボンベの酸素吸入療法なしには日常生活が送れなくなってしまいます。

COPD(慢性閉塞性肺疾患)の検査と診断と治療

内科、呼吸器科の医師による診断は、スパイロメトリー検査によって行われます。息を深く吸い込んで思い切り最後まで吐き出した量が肺活量ですが、最初の1秒間に吐き出す息の量が肺活量に占める割合(1秒率)によって、呼吸機能を計測します。この1秒率が70パーセント以下の場合に、COPD(慢性閉塞性肺疾患)と診断されます。

次には、気管支を拡張させるような吸入薬を吸って、その前後で精密な肺機能検査を行って疾患の重症度を判断し、これに基づいて治療方針が決められます。

また、息切れが心臓の疾患など、ほかの原因で起こっていないかを調べます。胸部のCT検査は、肺胞と呼ばれる肺の細かな構造が広い範囲で壊れているかどうかの手掛かりとなり、肺がんの合併をチェックすることができます。

内科、呼吸器科の医師による治療は、COPDになると呼吸機能が元の健康な状態には戻らないため、今より悪くしないことが最も重要な眼目になります。喫煙者の場合は、症状をそれ以上に進めないよう、まずは禁煙。同時に、気道を広げて呼吸を楽にする気管支拡張剤、せきを切れやすくする去痰(きょたん)剤などが、対症療法的に用いられます。

息が切れると動くのが面倒になり、運動不足になって運動機能が低下し、呼吸困難がさらに悪化するという悪循環になりがちなため、ウォーキングなどの軽い運動や腹式呼吸も効果的です。

予防は、いうまでもなく禁煙です。家族にたばこを吸う人がいる場合は、喫煙の有害性を話し合って、禁煙を勧めましょう。禁煙したくてもなかなかできない人は、禁煙外来などで医師に相談してみて下さい。

肺や気管支の障害は、インフルエンザや肺炎などにかかった場合に重症化する危険性があります。インフルエンザが流行する冬にはうがいを励行する、秋には前もってワクチン接種受けておくなど、十分に注意することも大切です。

☦CRS(先天性風疹症候群)

妊娠初期の女性が風疹ウイルスに感染し、生まれた新生児に形態異常を起こす先天異常症

CRS(congenital rubella syndrome、先天性風疹〔ふうしん〕症候群)とは、風疹ウイルスに免疫のない妊婦が妊娠初期に風疹(Rubella)にかかることにより、胎盤を介して胎児に感染し、生まれた新生児に多様な形態異常や障害を生じる先天異常症。

発疹性の皮膚伝染病である風疹(三日ばしか)を発生させる風疹ウイルスが原因で、1941年にオーストラリアの眼科医グレッグが初めて報告しています。

形態異常や障害の程度とその頻度は、風疹ウイルス感染と妊娠の時期の関係によります。妊娠1カ月以内に風疹にかかると約50パーセント、妊娠3カ月以内の場合は約20パーセントの確率で、CRSの新生児が生まれます。妊娠6カ月をすぎれば、胎児に感染は起こっても、CRSは出現しなくなります。

低出生体重のほか、形態異常や障害には、生後一過性に認められるものと永久障害を残すものとがあります。生後一過性に認められるものとしては、血小板減少性紫斑(しはん)病、肝脾腫(かんひしゅ)、肝炎、溶血性貧血、大泉門膨隆(だいせんもんぼうりゅう)、間質性肺炎などがあります。

永久障害を残すものとしては、眼球異常、心臓の奇形、聴力障害、中枢神経障害などがあります。眼球異常には白内障、緑内障、網膜症、小眼症、心臓の奇形には動脈管開存症、心室中隔欠損症、心房中隔欠損症、肺動脈狭窄(きょうさく)症、聴力障害には感音性難聴、中枢神経障害には精神発達遅延、脳性まひ、小頭症、水頭症などがあります。

こうしたCRSの新生児は1965年に、沖縄県で400人以上生まれました。また、1977~79年の全国的な風疹の大流行の際は、影響を恐れた多くの妊婦が人工妊娠中絶をしました。最後の全国規模の風疹流行の1993年以降は、CRSの発生数も対応して減少しています。

CRSの症状に気付いた際は、ウイルス感染症を専門とする小児科医に相談してください。

CRS(先天性風疹症候群)の検査と診断と治療

ウイルス感染症を専門とする小児科医による診断は、咽頭(いんとう)ぬぐい液など患児の検体からのウイルス分離、患児血清からのIgM高値、風疹特異的IgM抗体の確認が大切です。

CRS(先天性風疹症候群)の治療は、それぞれの形態異常や障害に対して行うことになります。例えば、心臓の疾患は軽度であれば自然治癒することもありますが、手術が可能になった時点で手術をします。白内障についても手術可能になった時点で、濁り部分を摘出して視力を回復します。摘出後、人工水晶体を使用することもあります。いずれにしても、遠近調節に困難が伴います。感音性難聴については人工内耳が開発され、乳幼児にも応用されつつありますが、従来は聴覚障害児教育が行われてきました。

何よりも大切な予防法は、幼児期に風疹ワクチンの接種を受け、風疹ウイルスに対する免疫性を持つ抗体を作っておくことです。

風疹ワクチンの接種の対象は1977年から94年までは中学生の女子のみでしたが、同年の予防接種法改正以来、その対象は生後12カ月以上~90カ月未満の男女とされました。さらに、2006年以降は、風疹ワクチンは麻疹・風疹混合ワクチン(MRワクチン)として接種、第1期(1歳児)と第2期(小学校入学前年度の1年間に当たる子)に計2回接種しています。これは1回の接種では免疫が長く続かないため、2回目を接種して免疫を強め、成人になってから風疹や麻疹(はしか)にかからないようにするためです。

2008年4月1日から5年間の期限付きで、麻疹・風疹混合ワクチンの予防接種対象が、第3期(中学1年生相当世代)、第4期(高校3年生相当世代)にも拡大され、接種機会を逸して1回しか接種されていない子も2回接種が可能になっています。

現在、妊娠を望むものの風疹抗体がないか少ない成人女性も、積極的に麻疹・風疹混合ワクチンの予防接種を受けることが望まれます。ただし、妊婦の風疹ワクチン接種は禁忌で、風疹ワクチン接種後2~3カ月間は妊娠を避けることが望ましいでしょう。風疹抗体がないか少ない女性が妊娠した場合、風疹の流行期は特に注意が必要で、抗体価検査を定期的に行い、経過観察を続ける必要があります。

身近に妊娠を望む女性がいる場合、麻疹・風疹混合ワクチン未接種で風疹にかかったことがない成人の男性も、ワクチンを接種して予防することが望まれます。

☮CS(化学物質過敏症)

身の回りにある微量な化学物質に反応し、頭痛やせきなどの症状が起きる疾患

CS(Chemical Sensitivity)とは、身の回りにある微量な化学物質に過敏反応を起こし、頭痛やせきなどの症状が起きる疾患。化学物質過敏症、本態性環境不耐症とも呼ばれます。

過去に大量の化学物質に曝露(ばくろ)されて体の耐性の限界を越えた後、または長期間に渡って慢性的に低濃度の化学物質に曝露されて体の耐性の限界を越えた後、極めて微量の化学物質に再接触した際に過敏反応し、頭痛やせきを始め、アレルギーに似た症状、情緒不安、神経症などさまざまな症状を示します。

CSの発症原因の半数以上は、室内空気汚染です。この室内空気汚染による健康影響は、シックハウス症候群(Sick House Syndrome)、あるいはシックビルディング症候群(Sick building syndrome)とも呼ばれています。自宅や職場、学校などの新築、改修、改装で使われる建材、塗料、接着剤から放散されるホルムアルデヒド、揮発性有機化合物などが、室内空気を汚染するのです。建築物自体だけでなく、室内で使われる家具、カーテンに含まれる防炎・可塑剤、殺虫剤、防虫剤や、喫煙なども室内空気汚染を引き起こし、CSの発症原因になります。

また、大気汚染物質、排気ガス、除草剤、食品の残留農薬、食品添加物(保存料、着色料、甘味料、香料など)、医薬品、石鹸、シャンプー、化粧品、洗剤、芳香剤などもCSの発症原因になります。

CSで起きる症状は、アレルギー疾患の特徴と中毒の要素を併せ持つとされ、その症状は多岐に渡ります。粘膜刺激症状(結膜炎、鼻炎、咽頭〔いんとう〕炎、口渇) 、皮膚炎、気管支炎、喘息(ぜんそく)、循環器症状(動悸〔どうき〕、不整脈) 、消化器症状(下痢、便秘、悪心)、自律神経障害 (異常発汗、手足の冷え、易疲労性)、精神症状 (不眠、不安、うつ状態、記憶困難、集中困難、価値観や認識の変化)、中枢神経障害 (けいれん)、頭痛、発熱、疲労感、末梢(まっしょう)神経障害、運動障害、四肢末端の知覚障害などがあります。

化学物質の摂取量と症状との関係などは未解明で、化学物質に対する耐性は個人差が大きいとされ、その症状や度合い、進行速度、回復速度なども多種多様であるといわれます。

CSの定義、診断方法などの検証が十分とはいえない部分もあり、世界的にはCSを特定の疾患と認めることに否定的な意見が大勢を占め、心身症と考える意見が強いとされます。日本でも多数の医師はCSに関心を持っておらず、診療できる医師は限られているため、疲れや軽い風邪、精神疾患、心身症、更年期障害など別の疾患として診断されたり、原因不明として放置されているケースもあるものと見なされます。

CS(化学物質過敏症)の検査と診断と治療

日本では現在、CS(化学物質過敏症)を専門に扱う化学物質過敏症外来などを設けている医療機関もあります。

室内空気汚染によるCSの一種であるシックハウス症候群について述べると、医師による診断のポイントは、第1に自覚症状が出現した経過です。原因となった住居への入居前後での体調の変化を詳細に問診します。つまり、自覚症状の発症経過と居住環境の変化が1つの線で結び付けられるかどうかが、重要となります。

初診時に症状が出現する場所の空気測定結果を持参することは、大きな診断の助けとなります。この室内空気の測定は、新築、改修などを行った施工業者が有料で、最寄りの保健所が簡易測定を無料で行ってくれます。

シックハウス症候群の大半のケースでは、何らかの中枢神経系あるいは自律神経系の機能障害が認められるため、診断のための検査では神経眼科検査が有用。神経眼科検査では、目の動きが滑らかかどうかを評価する眼球電位図(EOG)、目の感度を評価する視覚コントラスト感度検査(視覚空間周波数特性検査)、光に対する瞳(ひとみ)の反応を評価する電子瞳孔(どうこう)計による瞳孔検査などがあり、シックハウス症候群では異常値を示すケースが多いことがわかっています。

例えば、目の動きを調べる眼球電位図(EOG)検査では、程度に差はあるもののシックハウス症候群発症者の85パーセント以上に滑動性追従運動異常が認められます。また、開眼時、閉眼時重心動揺検査でも、高い頻度で異常値を認めます。ただ、これらの検査は、シックハウス症候群発症者にみられる一般的特徴を調べるもので、確定診断法としてのツールにはなりません。

確定診断法として唯一の方法は、ブーステストあるいはチャレンジテストと呼ばれ、実際に揮発性化学物質を発症者に曝露し、何らかの症状が誘発されるかどうかを結果の再現性も含めて確認する検査方法しかありません。しかし、この検査を行うためには、化学物質を低減化したクリーンルームが設備として必要で、今のところこの設備を有する特殊専門病院は国内でも数カ所程度しかなく、現在の医療水準では確定診断は難しいといわざるを得ない状況です。

CSの半数以上を占めるシックハウス症候群の治療は、原因となった居住環境の改善という建築工学的アプローチと、身体状況の改善という医学的アプローチの二本立てで行います。

居住環境の改善としては、自覚症状の原因が室内空気汚染ですから、空気汚染の原因はどこにあるのか、何をどのように改善すればよいのか、汚染された建材や建材関連品の交換、新しい家具などの吟味、十分な換気量の確保を含めて、施工業者と十分に相談して善後策を立てることです。化学物質以外のカビやダニなど微生物による空気汚染が広い意味でのシックハウス症候群の原因となることも考えられるため、これらの発生防止や除去なども必要です。

身体状況の改善としては、ゆっくり歩いて30分などの軽い運動療法、少しぬるいと感じる39度前後の半身浴、60度前後の低温サウナなどの温熱療法が自覚症状の改善に有効で、居住環境が整えば数カ月~6カ月程度で、多くの症状は軽快します。また、解毒剤、水溶性ビタミン剤も身体状況の改善に有効であり、タチオン、タウリン散、ノイロビタン、アスコルビン酸末などの服薬治療も併せて行うことが一般的です。

また、一般的な意味での体調管理も重要です。暴飲暴食を避け、バランスの取れた規則的な食事や、十分な休養と睡眠、定期的な軽い運動を心掛けて体調がよければ、同じ環境負荷に対しても反応は軽くてすみます。

発症者によっては、シックハウス症候群を契機に、通常では気にならないほんのわずかな芳香剤、たばこ、香水などのにおいが気になったり、極めて微量の化学物質にさらされるだけでも多彩な症状が出現するようになったりするケースもまれにみられます。このようなケースでは、多くの場合、社会生活が制限されるため、心療内科医によるケアを併せて行う必要があります。

☪DID(解離性同一性障害)

2つ以上の人格が一人の中に存在し、それらの人格が交代で現れる疾患

DID( Dissociative Identity Disorder、解離性同一性障害)とは、2つ以上のはっきりと区別される人格が一人の中に存在し、それらの人格が交代で現れて独立した行動をする疾患。DD(Dissociative Disorder、解離性障害)の一つで、MPD(Multiple Personality Disorder、多重人格障害)とも呼ばれる疾患です。

DDは本人にとって耐えられない状況を、離人症性障害のようにそれは自分のことではないと感じたり、解離性健忘のようにその時期の記憶や意識、知覚を切り離し、思い出せなくして心のダメージを回避しようとすることから引き起こされる障害ですが、その中でDIDは最も重く、切り離した記憶や意識、知覚が成長して、別の人格となって表面に現れるものです。

発症するのは12歳以前、多くは3〜9歳の幼児期、小児期であると考えられていますが、症状が明らかになるのは多くの場合、思春期以降、10歳代後半から20歳代で、特に20歳代の女性に現れやすく、成人女性が成人男性の3〜9倍多く、一人の中に存在する人格の数も女性で15 名、男性で8名と性差があります。

原因ははっきりとわかっていませんが、幼児期に受けた心的外傷(トラウマ)やストレスが関係しているといわれます。心的外傷にはさまざまな種類があり、災害、事故、親や周りの親しかった人との死別、暴行を受けるなど一過性のものもあれば、肉体的虐待、性的虐待、重い病気の治療、長期にわたる監禁状態など慢性的に何度も繰り返されるものもあります。そのようなつらくて苦しい体験によるダメージを回避するため、精神が緊急避難的に機能の一部を停止させることが、DIDにつながると考えられています。

DIDの症状は、強くなったり、弱くなったりを繰り返しながら、一般には慢性に経過します。そして、過去の心的外傷の記憶が突然、かつ非常に鮮明に思い出されるフラッシュバックを契機として、症状が悪化し明らかになります。

表面に現れるそれぞれの人格は、記憶や意識、知覚や自己同一性(アイデンティティ)の統合の失敗を反映しています。通常、その人本来の人格で、より受身的で情緒的にも控えめな人格と、より支配的、自己主張的、保護的、または敵対的で、時には性的にもより積極的、開放的な人格という、対照的な2つの主要な人格を持ちます。

そのほかに小児や児童、思春期の人格を持つのが普通で、数名から数十名の人格を示します。数十名、あるいは百名以上の断片化した人格を持つ発症者は、長期にわたる肉体的虐待、性的虐待を幼児期に受けている可能性が高いと考えられます。二次的人格は、年齢だけでなく、性別、人種、好み、利き手、筆跡、使用言語、癖、家族などがそれぞれ異なることもあります。

通常、出生して最初に持つ本来の人格である基本人格(オリジナル人格)と、ある時期において大部分の時間、心身を管理的に支配している人格である主人格(ホスト人格)とを区別します。基本人格が主人格である場合が最も多いものの、発症者によっては、基本人格が長期間にわたって休眠状態だったり、たまに短時間出現するだけだったりする場合もあるからです。その場合には、時間的にも、相互関係的にも、成長後に分離した人格である二次的人格が支配的であるという期間が、長期間、時には数年間以上続き、二次的人格が主人格であるということになります。

それぞれの人格は、それぞれの機能を持っています。例えば、孤独な基本人格を保護し、慰める友人役であったり、基本人格の代わりに痛みや悲しみを引き受けたり、基本人格には許されないような積極さや活動性や奔放な性格を持っていたり、基本人格が戻りたい幼児期の人格を持っていたり、基本人格が持つには危険すぎる攻撃性や自殺衝動を持っていたりします。

基本人格は二次的人格の言動についての記憶がないのが通例ですが、二次的人格はそれぞれの人格の間で、ある程度の共通記憶を持っていたり、主要な二次的人格は基本人格が優勢な時にも、ある種の共通意識を持っていたりします。

人格の交代は、突然に始まり、時には極めて微妙、時には極めて顕著に交代します。人格の交代は、何らかの情緒的ストレスが引き金になって、あるいは他人の希望、要求や暗示によって誘発され、時には意識的に、時には自然発生的に起こります。

二次的人格へ人格が交代している期間は、基本人格にとっては空白期間、つまり記憶喪失として体験されます。DIDでは、このような記憶障害は必発で、多くの場合は記憶喪失の期間は数分から数時間ですが、時には数日から数年におよびます。また、より長期の、心的外傷に関連した小児期の生活史に関する記憶喪失がみられることもあります。

話し方や声が突然に代わったり、全く違う人格に変わるので、真っ先に家族が気付くと思われます。こうした兆候が何度もあり、日常の生活に支障を来すような場合は、精神科、神経科、心療内科の受診を考慮します。

DID( 解離性同一性障害)の検査と診断と治療

精神科、神経科、心療内科の医師による診断は、主に症状に基づいて行われます。

症状が明らかになるのは多くの場合、思春期以降、10歳代後半から20歳代ですが、発症者本人や家族の情報から、あるいは医療記録から、12歳以前の幼児期、小児期の発症が確かめられることも少なくありません。見逃されたり、統合失調症(精神分裂病)などと誤診されたりしやすいために、DID( 解離性同一性障害)が幼児期に診断されることはまれなものの、その時期に診断された発症者では、治療期間が成人の場合に比べて短いと見なされます。

精神科、神経科、心療内科の医師による治療は、通常の薬物療法を主体とした保険診療では対応が難しく、精神療法を主にして治療することになります。

DIDの発症者の多くが、うつ気分、自傷行為、自殺行為、攻撃的行動、気分障害、アルコール・薬物依存症、摂食障害、睡眠障害、性障害、境界型人格障害など多彩な精神症状、身体症状を合併し、極めて不安定な状態です。ほとんどの発症者が幼児期、小児期に肉体的虐待、性的虐待を受けていますから、他人を信頼する能力に欠けています。

従って、治療では、安全な場所を確保し、多彩な精神症状や身体症状に対処しながら、基本人格だけでなく二次的人格とのコミュニケーションをとり、それぞれの機能や役割を整理し、複数の人格を一人にまとめることを目指します。

その中で、医師との信頼関係を築き、必要に応じて個人精神療法、集団療法、家族療法、教育的治療、社会機能訓練、認知行動療法、自助グループ、抗不安剤・抗精神病剤・抗うつ剤による薬物療法などを組み合わせて行います。

心的外傷で傷付いた体験をいやすには、相当な時間がかかります。主人格が怒りや自殺衝動、性的衝動などへの対処を学習し、人格が離れている理由がなくなり、人格を一人にまとめるにも、たくさんの困難があります。多くの場合、5〜6年を要する長期治療になります。

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 静岡県は26日、直近1週間(15~21日)のデータから「RSウイルス感染症が流行入りしている」と発表しました。定点医療機関となっている小児科1カ所当たりの患者数は1・64人で、県が流行入りの目安としている「1人」を大きく上回りました。前週の0・9人よりも8割増加し、急拡大が懸...