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2022/09/11

🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿知覚異常性大腿痛

大腿の感覚をつかさどる神経が傷害されて、痛みなどが生じる神経痛の一つ

知覚異常性大腿痛(だいたいつう)とは、大腿の前面と外側の感覚をつかさどる外側大腿皮(がいそくだいたいひ)神経が傷害されて、痛みなどが生じる神経痛の一つ。外側大腿皮神経痛、大腿外側皮神経痛とも呼ばれます。

外側大腿皮神経は第2、第3腰椎(ようつい)から出て前方へ向かい、腰の部位で急激に曲がって鼠径(そけい)部の辺りから皮膚の下に出て、大腿の前面と外側の皮膚に分布します。そのため、腰椎部で神経が圧迫された時に、大腿の周辺に痛みや知覚異常が生じることがあるほか、外側大腿皮神経が鼠径靭帯(じんたい)を貫通する骨盤の前上腸骨棘(こっきょく)部で筋肉や靭帯により圧迫された時にも、大腿の周辺に痛みや知覚異常が生じることがあります。

前上腸骨棘部で外側大腿皮神経が圧迫された時には、股(こ)関節の位置や格好で症状が生じたり、治まったりすることもあります。コルセットの着用、窮屈な下着やズボンの着用、べルトの締めすぎ、自動車のシートベルトの締めすぎなどにより、前上腸骨棘部で外側大腿皮神経が圧迫された時にも、痛みや知覚異常が生じます。

また、肥満、妊娠により骨盤周囲の筋肉の緊張が強くなることで、外側大腿皮神経が障害されることもあります。妊婦においては胎児が正常な位置にいない場合に、知覚異常性大腿痛としてしびれが出ることもあります。鼠径ヘルニアの手術や股関節の手術の後に、一時的な外側大腿皮神経の圧迫により障害されることもあります。

症状は、大腿の前面から外側にかけて、ヒリヒリと痛んだり、しびれが出たり、知覚が鈍くなったりします。服が皮膚にこすれるのが苦痛になることもあります。しかし、外側大腿皮神経は感覚だけをつかさどる神経で運動をつかさどらないため、足がまひして上がらなくなったり、歩行に支障を来すことはありません。大腿の内側や膝(ひざ)より下に、症状が出ることもありません。

知覚異常性大腿痛の多くは、姿勢や動作によって症状に変化がみられます。

骨盤の前面を走る前上腸骨棘部で外側大腿皮神経を直接圧迫することによって、痛みが憎します。起立や歩行時は、外側大腿皮神経が牽引(けんいん)気味になり痛みが増します。

股関節の伸展は、外側大腿皮神経を牽引し痛みが増します。反対に、股関節を深く屈曲することでも、外側大腿皮神経自体を圧迫し痛みが増します。うつぶせに寝ている時は、外側大腿皮神経が軽く圧迫され、股関節が伸展されるので痛みが増強する傾向があります。仰向けに寝て軽く膝(ひざ)を曲げている時は、痛みが軽減します。

案外多い病態ですが、正確な診断を受けていないことが多いようです。もし、知覚異常性大腿痛の症状に思い当たることがあれば、整形外科、神経内科の医師を受診することが勧められます。

知覚異常性大腿痛の検査と診断と治療

整形外科、神経内科の医師による診断は、特徴的な症状と、前上腸骨棘部の周囲で軽く皮膚の上をたたくと大腿の前面と外側に響くようなしびれと痛みが出るチネルサインで判断します。念のために、腰椎や骨盤のX線写真、MRI検査などで、変形性腰椎症や腰椎椎間板ヘルニアなどの疾患がないかどうかをチェックします。

坐骨(ざこつ)神経痛との鑑別が必要ですが、しびれなどの場所が坐骨神経痛と知覚異常性大腿痛では違いますので、鑑別は簡単です。坐骨神経痛では、尻(しり)から大腿の裏側、下腿などにしびれや痛みが出ます。

整形外科、神経内科の医師による治療は、外側大腿皮神経を圧追する原因を取り除くことが第一です。体重を減らすことや、骨盤部の矯正、窮屈な下着やズボンの着用の禁止などが、効果を発揮します。

また、消炎鎮痛剤の内服、外用を行い、痛みが強い場合は局所麻酔薬を注射して痛みを和らげる神経ブロックを行います。この場合、1 回の注射では一時的に症状が緩和しても、数時間から1日で元の症状に戻ったりしますので、何回か注射を繰り返すこともあります。局所麻酔薬と一緒に、ステロイドホルモン剤という炎症を抑える薬を注射することもあります。

腰椎部で神経が圧迫された時には、脊髄(せきずい)の周囲の硬膜外腔(がいくう)に局所麻酔薬を注射して、神経の痛みを和らげる硬膜外ブロックを行います。

症状が治まらず、日常生活に支障を来す場合は、外側大腿皮神経を剥離(はくり)、または切離する手術を行うこともあります。炎症を起こした神経は周囲の靱帯や筋肉と癒着した状態にありますので、その癒着を手術で解き放つのを剥離、神経そのものを切除して痛みを感じなくするのを切離といいます。

🇳🇿脳卒中

 動脈硬化などで血液の流れが悪くなり、脳内の血管や中枢神経が障害を受けると、突然手足が動かなくなったり意識がなくなる発作が起こります。これが脳卒中です。

 治療技術の進歩により、年々死亡率は低下していますが、逆に脳卒中にかかる人の数は増加しています。高齢化が進んだり、食生活が欧米化することによって、動脈硬化の原因となる高血圧、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病が増えてきたことに原因があると思われます。

 脳卒中は、以下の2つに大きくわけられます。

  脳出血(脳内出血、クモ膜下出血)   脳梗塞(脳血栓、脳塞栓)

 脳内出血は、長期間の高血圧状態により、脳内の動脈に強い圧力がかけられた結果、血管がもろくなり破れて出血するものです。

 症状は出血した部位により異なりますが、出血によって脳内の圧力が高まるため頭痛や吐き気が見られ、時間の経過とともに半身が麻痺したり、意識がもうろうとすることもあります。 

 出血が少なければ症状は軽く薬物療法で対応することも可能ですが、根本的には高血圧体質を改善する必要があります。

 日中に起こることが多く、仕事中や運動中、入浴時などに起こります。

 クモ膜下出血は、脳の表面にある血管が破裂して、脳を覆っている柔らかい膜(クモ膜)の下に出血が広がった状態です。

 原因は脳の表面を走る動脈にできたこぶが破裂するものが最も多く、中高年の人に多くみられます。

 症状としては、前触れなしに突然激しい頭痛が起こり、「バットで殴られたような痛み」とも表現されます。嘔吐、痙攣が見られることもあります。

 また、時間とともに後頭部から首の後ろが痛んで硬くなり、首が曲がらなくなり硬直してきます。出血が起こるのが脳の表面であるため、発作時に手足の麻痺が起こることは少ないものの、出血がひどくなると、時には言語障害や半身麻痺を引き起こします。

 発作後2週間以内の再発率が高く、その場合は死亡の確率が非常に高くなるため、繰り返し頭痛が続くなどの兆候がある場合は、いつでも医療機関と連絡がとれるような体制をつくっておくことが必要です。

 脳血栓は、脳の血管に動脈硬化などが起こり、細くなった部分に血栓が詰まった状態です。血圧が低下すると血流がさらに弱まるため、血圧の低い睡眠中や起床時に起こりやすい病気です。

 突然、手足に力が入らなくなったりする症状が出たら要注意で、そこから少しずつ麻痺が進んでいくケースが一般的です。

 症状は、動脈硬化とともに徐々に進行していきますが、発症の兆候としては頭痛、めまい、言語障害、半身麻痺などが見られます。

 脳塞栓は、血栓が血液の流れに乗って脳の血管の中に入り、血流を止めてしまう状態です。

 発作は突然起こり、手足のしびれ・麻痺、ろれつが回らなくなるなどのほか、言葉が出ない、人の顔の判断がつかない、道がわからない、など痴呆に似た症状が出ることもあります。 

 私たち人間の脳には身体全体の約30%の血液が必要ですが、血流が不足して酸素が行きわたらなくなると、脳細胞は大きなダメージを受けます。

 今までに脳卒中を起こしたことがある人や、高血圧、心臓病、糖尿病、高脂血症などの病気にかかったことがある人、オーバーウエイトの人は、特に注意が必要です。

 脳卒中は、命はとりとめても言語や運動機能に大きな障害を残すことが多いため、早期発見と予防が何よりも大事です。 

* 手足のまひ

* ろれつが回らない

* 激しい頭痛・めまい・吐き気がある

* 視野がせばまる

 など脳卒中の前ぶれがあった時は、ただちに医療機関にかかるようにします。

 血管は加齢とともに弾力性が落ちていきますから、年齢が上がると発症しやすくなります。また、心臓に障害がある場合に起こりやすくなるので、不整脈、弁膜症、心筋梗塞などの心配がある方は、特に注意が必要です。

 食生活などに気を配り、ストレスをためないようにしましょう。定期的に脳ドックによる検査を受けることも、お勧めします。

 このほか、夏は脱水症状にならないよう適度な水分補給を心掛けましょう。夏は発汗のために血液が濃くなり、血栓ができやすくなるからです。

 また、冬は気温が下がり、血管が収縮して血圧が高くなる傾向にあるので、入浴や外出時など急激な温度差には十分注意して、心臓や血管に過度の負担をかけないようにしましょう。

2022/09/05

🇳🇱脳梗塞

●脳梗塞の原因による3タイプ

脳梗塞(こうそく)とは、脳の血管が詰まって血流を止めてしまうため、脳に供給される酸素や栄養が不足して、脳が十分な機能を果たせなくなる病気です。動脈硬化などがあると、脳の細動脈に血栓、凝固塊、脂肪塊、石灰片、腫瘍(しゅよう)塊などが詰まりやすくなり、ある日突然、発症します。

この脳梗塞には「脳血栓」と「脳塞栓」の2通りがありますが、その原因によって次の3タイプに分けられます。

1、アテローム血栓性脳梗塞

太い血管の動脈硬化が原因となります。糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病による動脈硬化によって、脳の太い動脈や頚動脈が詰まるタイプで、特に睡眠時に多く発症します。現在、脳梗塞患者の3割以上を、このタイプが占めると見なされています。

2、ラクナ梗塞

高血圧などによって、脳の細い血管が詰まるのが原因となります。梗塞部が小さいので症状が全く出ないか、出ても比較的軽いのが特徴で、特に睡眠時に多く発症します。脳梗塞患者の約4割を、このタイプが占めるとされています。

3、心原性脳塞栓

心臓にできた血栓が血流に乗って脳に流れて行き、血管が詰まるのが原因となります。心房細動、急性心筋梗塞、心臓弁膜症、心筋症、不整脈などにより、心臓内の血液が停滞してできた血栓や血の塊が脳血管を詰まらせて血流がストップし、脳組織が壊死した 状態に陥るので、重症の脳梗塞を起こします。

突然の発作として起こるタイプで、日中の活動時に多く発症します。脳梗塞患者の約2割を占めると見なされ、 60~70歳代の人に多くみられます。

脳梗塞の症状としては、半身不随、半身麻痺(まひ)、しびれ、感覚の低下、手足の運動障害、意識障害、言語障害、昏睡(こんすい)などが見られます。脳血栓では、症状が数日かけてゆっくり出現することが多いのに対して、脳塞栓では突然、意識障害などが出てきます。

統計学的にみると、「脳梗塞」と「脳出血」、「くも膜下出血」の総称である「脳血管障害」、いわゆる「脳卒中」による死亡者数は、2004年の統計で約12万9000人。2006年現在では、脳卒中の死亡者の70パーセントが脳梗塞、20パーセントが脳出血、10パーセントがくも膜下出血となっています。食生活の欧米化などによって、30数年前には脳梗塞より多かった脳出血が減少し、最近は脳梗塞が増加しております。

脳梗塞を含む脳卒中は、がん、心臓病に次いで、日本人の死亡原因の第3位です。しかし、3大疾病の中でも脳卒中は有病率が増加しており、突然、何かに当たったように発症する怖い病気なのです。脳卒中の「卒」には「突然」、「中」には「当たる」という意味があります。幸いにして一命をとりとめても、寝たきりになったり、手足の麻痺や言語障害などの後遺症が残ったりする、厄介な病気でもあります。

●前ぶれ症状と治療法について

脳梗塞は急に起きますが、発症前に30パーセントの人に一過性脳虚血発作(TIA)と呼ばれる前ぶれ症状が現れます。

TIAの症状としては、運動障害として、ふらふらしてまっすぐ歩けない、感覚障害として、片方の手足のしびれ、片足を引きずる、手足から急に力が抜ける、ものにつまずきやすい、知覚障害として、片方の目が一時的に見えなくなる、物が二重に見える、言語障害として、言葉がで出なかったり・理解できない、バランス感覚の障害として、急にめまいがするようになったなどです。

一時的にでも前ぶれ症状があったら、1分でも早く脳卒中専門医を受診してください。

医師の側でも、脳梗塞が脳血栓によるものか、脳塞栓によるものかを正確に診断するのは困難です。脳梗塞が疑われる場合、病変の起きた部位を確認するために、CT、MRI、脳血管撮影などの検査を行います。心原性脳梗塞の場合は、心房細動が原因となるのでホルター心電図(24時間心電図)をとって調べます。

脳梗塞の治療法としては、急性期には抗血栓療法、脳保護療法、抗脳浮腫療法があります。抗血栓療法には、血小板の働きを抑えて血栓ができるのを防止する抗血小板療法とフィブリンができるのを防止する抗凝固療法があります。

欧米では10年以上前から、組織プラスミノーゲンアクチベータ(tPA)という血栓溶解剤を用いた血栓溶解療法が実施され、日本でも2005年10月より健康保険に導入されました。脳保護療法には活性酸素の働きを防止するエダラボンという薬剤を発症後24時間以内に使用すると後遺症が軽減されます。

脳梗塞を起こした部位が1~2日するとむくみが起こるので、抗脳浮腫療法により脳浮腫の原因となる水分を取り除きます。脳梗塞になって3時間以内の場合は血栓や塞栓を溶かす薬を使って治療します。薬が効いた場合には詰まった脳動脈が再度開通し、血流が流れます。

脳循環の改善薬や血栓・塞栓を予防する薬を使います。発症時にカテーテルを使い血管の血流を再開通させることも可能です。頚動脈の血栓内膜剥離術とバイパス手術により脳血流を改善させる手術も行います。いずれの治療法も脳の血管が詰まって壊死しかけている脳細胞(ケナンブラ)を助けることを目的としております。

●危険因子を取り除く生活改善を

脳梗塞を起こした人が社会復帰するまでの間に、いろいろな訓練が必要になります。これがリハビリテーションです。リハビリテーションの目的は残された機能を最大限に引き上げて、家庭復帰や職場復帰をさせるために行います。

脳梗塞の再発を防ぐには、血液をサラサラにして血栓を作らないようにすることが重要です。そのために抗血小板薬としてアスピリン、塩酸チクロピジン、シロスタゾールなどを用います。またフィブリンができるのを防ぐためにワルファリンカルシウムを用います。ただし、納豆を食べると薬の効果が弱くなるので、注意しましょう。

このほか、肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病を管理しましょう。食べすぎないよう注意し、適度な運動、禁煙、禁酒が必要です。再発の兆候を見つけるために、1年に1回MRIやMRA、頚動脈エコーなどの検査をして画像診断で脳血管や頚動脈の状態を調べましょう。

突然起こる脳梗塞は、さまざまな危険因子を抱えている人に、ある日発症しかねません。脳梗塞の危険因子としては、60歳以上の人、脳卒中の罹病(りびょう)歴のある家族がいる人、動脈硬化、高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病を持っている人、喫煙、大量飲酒、ストレスなどです。

脳梗塞にならないためには、生活習慣を改善しましょう。塩分を控えめにして1日に10g以内に抑え、ナトリウムの排泄を促すりんご、枝豆、バナナ、カボチャなどの食品を積極的に摂取しましょう。血圧を下げる作用がある乳製品などの食品や、マグネシウムを含む焼きのり、昆布、ごまなどの食品も食べましょう。

逆に、動物性脂肪やコレステロールを多く含む食品は控えめにし、アジ、サバ、イワシなどに多く含まれるEPA、DHAなどの不飽和脂肪酸を積極的にとりましょう。

適度な運動で積極的に体を動かし、太りすぎないように注意しましょう。十分な睡眠と休養、禁煙、節酒を心掛けましょう。夏は脱水症や夏風邪から脳梗塞になる人が多いので、水分を十分補給しましょう。

2022/08/27

🇨🇩高グリシン血症

血液中に高濃度にグリシンが蓄積し、けいれん、呼吸障害などの神経症状を引き起こす疾患

高グリシン血症とは、脳や肝臓に存在するグリシン開裂酵素系の遺伝的な欠損のために、血液中や脳にグリシンが大量に蓄積することにより発症する疾患。グリシン脳症とも呼ばれ、先天性代謝異常症の一種です。

グリシンは中枢神経系で神経伝達物質として働くため、グリシン蓄積が重篤な神経障害をもたらします。新生児期に無呼吸となり突然死に至る重症型と、筋緊張の低下と精神発達の遅滞のみを示し、成人で偶然診断されることもある軽症型(遅発型)が存在します。いずれも常染色体の劣性形質として遺伝します。

日本における発症率は、新生児60~70万人当たり1人と見なされます。欧米では新生児25万人当たり1人の割合で発症しますが、国によって大きな差があり、フィンランド北部で発症頻度が高く、発症率は新生児1万人当たりに1人となっています。カナダのブリティッシュ・コロンビア州で、新生児6万人当たり1人という報告もあります。

グリシン開裂酵素系は複合酵素で、GLDC、AMT、GCSH、DLDの4つの遺伝子にコードされる酵素により構成されています。遺伝子に変異が生じると、遺伝子情報に基づいて合成された蛋白(たんぱく)質を基にして構成されている酵素にも変異が生じ、グリシンの分解反応を進めることが不可能になる結果、分解されなかったグリシンが血液中に蓄積し、高グリシン血症を発症します。

高グリシン血症の約6割ではGLDC遺伝子に変異を認め、残りの約2割ではAMT遺伝子に変異を認めます。GCSH 遺伝子の変異は極めてまれです。DLD遺伝子変異はリー脳症を引き起こしますが、高グリシン血症とはなりません。

重症型は、生後数日以内に活力低下、筋緊張の低下、無呼吸、しゃっくり、昏睡(こんすい)などが始まり、後に30分以上けいれんが持続するけいれん重積が起こり、しばしば死に至ります。

人工換気などの治療で新生児期を乗り切ると、自発呼吸が出てきます。その後、成長は認められますが、精神機能や運動機能の発達の遅れが目立つようになります。

重症型には、左右の大脳半球をつなぐ脳梁(のうりょう)の欠損、大脳皮質にあるシワの隆起した部分である脳回(のうかい)の異常、水頭症などの脳形成異常が高率に合併します。

軽症型は、新生児期をほぼ無症状に過ごし、乳幼児期から発達の遅れや筋緊張の低下が現れます。診断の手掛かりとなる特異的な症状を欠くため、多くは未診断のままと考えられます。軽症型では、多動、衝動的行動などの注意欠損多動症候群に類似した行動異常を伴います。

高グリシン血症の検査と診断と治療

小児科、小児神経科の医師による診断では、CTやMRIなどの頭部画像検査、血液検査、尿検査、脳脊髄(せきずい)液検査、脳波検査などを適宜行います。最近では、13Cグリシン呼気試験によって残存酵素の活性の程度を検査することもあります。

小児科、小児神経科の医師による治療では、有効な治療法が確立していないため、体内に蓄積したグリシンの排出目的で安息香酸(あんそくこうさん)ナトリウムの大量投与を行います。

グルタミン酸受容体の一種のNMDA型グルタミン酸受容体の拮抗(きっこう)剤(ブロッカー)であるデキストロメトルファン、ケタミンなどの投与による治療が、重症型の高グリシン血症の早期新生児期の障害を軽減してくれますが、長期予後はよくありません。

🇨🇬後脛骨神経炎

足首にある足根管で神経が圧迫、損傷されて、足の裏に痛みとしびれが起こる疾患

後脛骨(こうけいこつ)神経炎とは、足首内のトンネルである足根管の中を走る後脛骨神経が圧迫、損傷されて、足の裏に痛みとしびれが生じる疾患。足根管(そくこんかん)症候群とも呼ばれます。

足根管は内踝(うちくるぶし)の下にあり、足指を曲げる腱(けん)と後脛骨神経が一緒に通っています。この足根管の入り口の部位では、後脛骨神経は骨の上を通るために外からの圧迫に弱く、損傷を受けやすくなっています。

後脛骨神経炎の原因としては、事故やスポーツによる足首の強い圧迫、深い切創(せっそう)、骨折、足首の変形やゆがみ、静脈瘤(りゅう)、ガングリオン(結節腫〔しゅ〕)、腱鞘(けんしょう)炎などが挙げられます。

発症すると、立ったり、歩いたりする際に、足底(足の裏)に痛みとしびれが生じます。しかし、両方の足底に同時に痛みとしびれが生じることはありませんし、足背(足の甲)と踵(かかと)に痛みとしびれが生じることもありません。足首を動かすと痛んだり、内踝の下を押すと痛い部位があり、足の裏から足先に痛みが響きます。

休んでいると痛みは基本的に治まってきますが、安静にしていても痛みが続くこともあります。ピリピリと焼き付くような痛みが出る場合もあり、特に夜間や就眠時に症状が悪化する傾向があり、つま先にまで痛みの範囲が広がっていきます。

特定の靴を履いた場合に、痛みを感じることもあります。

足根管の後脛骨神経を圧迫するような原因に心当たりがある場合は、これを取り除いて様子をみます。心当たりがなければ、整形外科、神経内科の医師を受診することが勧められます。足の裏が痛み、しびれる疾患はたくさんありますので、自己診断は簡単ではありません。

後脛骨神経炎の検査と診断と治療

整形外科、神経内科の医師による診断では、チネルサインがあれば、傷害部位が確定できます。チネルサインとは、破損した末梢(まっしょう)神経を確かめる検査で、障害部分をたたくと障害部位の支配領域に放散痛が生じます。足根管症候群では、足の裏から足先に痛みが広がります。

確定診断には、電気生理検査を行います。 また、神経伝導速度を測定し、後脛骨神経の伝導速度に遅れが認められると、後脛骨神経炎と確定されます。

整形外科、神経内科の医師による治療は、まず神経ブロック注射により患部の炎症を抑えます。靴の中に特殊な矯正用具を入れておくと、後脛骨神経の圧迫が軽減されることもあります。効果がみられない場合は、足根管を広げて後脛骨神経の圧迫を取り除く手術が必要となってきます。

🇸🇹高血圧性脳症

著しい高血圧を伴って、頭痛、悪心、意識障害など脳の障害を示す症状

高血圧性脳症とは、著しい血圧上昇に伴って、頭痛、視力障害、けいれん、意識障害など脳に起因する症状が起こる症候群。

脳の血管には、血圧の上昇・下降に対して血管を収縮・拡張させて血管抵抗を増大・減少させ、脳の血流を一定に保とうとする働きがあります。これを脳血管の自動調節能といいます。しかし、その調節能の範囲を超えて血圧が著しく持続的に上昇すると、脳の血流は異常に増え、脳の毛細血管内から血管外へ血漿(けっしょう)成分が染み出して脳浮腫(ふしゅ)を起こし、頭蓋(ずがい)内圧が高進します。このような現象が高血圧性脳症で、もともと高血圧のある人や、腎(じん)機能障害のある人に起こりやすく、降圧剤の中断や腎機能障害の悪化などが誘因となります。

もともと高血圧のある人といっても、ほとんどは腎機能障害を持つ重症高血圧、あるいは悪性高血圧の人に起こるほか、急性腎炎や妊娠高血圧症候群(旧妊娠中毒症)の人にも起こることがあります。従って、その発生には年齢や性別などによる特徴はありません。

頭痛、悪心(おしん)、嘔吐(おうと)など、いわゆる頭蓋内圧高進症状が起こります。頭痛の多くは後頭部から後頸部(けいぶ)にかけての激しい痛みで、著しい高血圧と悪心、嘔吐を伴うためにくも膜下出血とよく似ています。血圧は、最高血圧(収縮期血圧)が200mmHgを大幅に超え、最低血圧(拡張期血圧)も130mmHgを超えることが多く、異常な高血圧を示します。

両側性の視力低下を訴えるケースも少なくありません。初めのうち不安感や興奮、失見当識などの精神症状がみられるケースもあり、中には昏睡(こんすい)状態に至るケースもあります。まれに、全身の強直性けいれんを起こすケースがあります。放置すると、脳出血や心不全、腎不全により死亡します。

高血圧性脳症に気付いたら、直ちに神経内科の専門医の診察を受け下さい。

高血圧性脳症の検査と診断と治療

神経内科の医師による診断では、著しい高血圧を伴って、頭痛、悪心、嘔吐、意識障害など脳の障害を示す症状から、高血圧性脳症を念頭に置きます。似たような症状を示すもので最も重要なのは、脳卒中、とりわけくも膜下出血で、その鑑別にはCTスキャンやMRIを用います。高血圧性脳症の画像では、大きな梗塞(こうそく)や出血の所見はなく、ほぼ正常ないし脳が全般的にはれている脳浮腫の所見が得られます。

血液検査も診断に有用です。高血圧性脳症では腎機能障害を基盤とすることが多く、クレアチニン値の上昇などの所見が得られます。また、高血圧性脳症と似た症状を示す肝性脳症、糖尿病性昏睡など代謝性の脳症との鑑別に、血中アンモニア値、血糖値などの検索が必要です。

神経内科の医師による治療では、速やかに血圧を下げます。降圧が速やかに得られ、用量を調節しやすく、また効果が確実な静脈内投与の降圧剤で治療します。血圧を測定し神経症状を監視しながら、降圧速度を調整します。

意識障害などを示す脳症状の強い場合では、脳の浮腫に対する静脈内投与の抗脳浮腫剤で治療します。強直性けいれんがある場合では、静脈内投与の抗けいれん剤で治療します。

速やかに降圧が得られれば、1~2日で症状は消失します。降圧治療が多少遅れた場合には、症状の改善に数日を要することもありますが、一般に予後は良好です。ただし、治療開始までにあまりにも時間を要した場合には、脳症の不可逆的な進行や脳卒中の合併で後遺症を残したり、肺水腫(すいしゅ)の併発で死亡に至る例もあり注意が必要です。

腎機能障害などの基盤となる疾患がある場合には、それらに対する治療の継続がその後も必要です。

高血圧性脳症の予防のためには、高血圧症を治療している人は、自己判断で降圧剤の中断をしないようにすることが必要です。特に、腎機能障害を伴っている慢性高血圧症の人の場合は、内服の継続による厳重な血圧の管理が必要です。

🇩🇯趾間神経痛

足先への過度の荷重が原因で、足指や足指の付け根にしびれ、痛みが生じる疾患

趾間(しかん)神経痛とは、体のバランスを保つ中足骨(ちゅうそくこつ)の間の神経がはれて、足指や足指の付け根にしびれ、痛みを生じる疾患。モートン病、モルトン病、モートン神経腫(しゅ)とも呼ばれます。

古くから靴の文明が発達していた欧米人に多く見られた足指の神経痛の一種ですが、1876年にトーマス・モートンが足指の第3趾と第4趾の間の付け根にある神経の炎症であると、初めて報告しました。

日本では第2次世界大戦中に、多くの陸軍の歩兵がこの趾間神経痛に悩まされたといわれており、行軍腫とも呼ばれています。戦後は、おしゃれな靴が好まれるようになり、多くの女性が悩まされることとなりました。

足先への過度の荷重が発症の原因とされていて、ハイヒールや窮屈な靴の常用、中腰の姿勢での作業などで、足の指の付け根の関節でつま先立ちをする格好が長時間続く人に、起こりやすくなります。幅の狭い靴、底が薄くて硬い靴を履くことの多い人、硬い床の上でダンスをする人、硬い路面の上でランニングなどの反復性の運動をする人に、起こることもあります。

また、趾間神経痛は足底の横アーチの崩れとも関係していて、足が徐々に偏平になってくる中年以降の女性に多く発症します。

足の中足骨は深横中足靭帯(じんたい)によってつなぎ止められていて、その間を指神経(固有底側指神経)と呼ばれる感覚の神経が通っています。そして、足指の第3趾と第4趾の間の付け根には、指神経が交錯する神経腫と呼ばれる神経の固まりがあります。

この神経腫が深横中足靱帯と地面の間で圧迫されて、足指や足指の付け根にしびれ、痛みを生じるほか、第2趾と第3趾の間の付け根にある滑液包と呼ばれるクッションが繰り返される刺激によって炎症を起こして、指神経を圧迫し、足指や足指の付け根にしびれ、痛みを生じることもあります。

症状として、前足部に体重がかかったり、ハイヒールや窮屈な靴を履くと、足指や足指の付け根にしびれ、痛みや、異物感を感じます。歩くだけで激しい痛みを感じる場合があり、足指にかけての知覚障害が発生する場合もあります。時には、痛みが下腿(かたい)まで及ぶこともあります。一般的には、障害部位は第3趾と第4趾にまたがって起き、第2趾と第3趾、第4趾と第5趾にまたがることもあります。

通常は片側の足だけに生じるものの、時には両足に同時に障害が起こることもあります。圧迫部の近位に仮性神経腫といわれる有痛性の神経腫が形成される場合は、足底から第3趾または第4趾の付け根を圧迫すると痛みがあったり、前足部を手で両側から締め付けるようにすると痛みが誘発されます。

趾間神経痛の検査と診断と治療

整形外科、神経内科の医師による診断では、 障害神経の足指間に感覚障害、中足骨頭間の足底に有痛性の仮性神経腫があり、仮性神経腫をたたくとその支配領域に痛みが放散するチネルサインがあれば、診断は確定できます。また、足指を背屈するか、つま先立ちをしてもらうと痛みが強くなります。

X線(レントゲン)検査、筋電図検査、MRI検査、超音波検査なども、必要に応じて行われます。

整形外科、神経内科の医師による治療では、まずハイヒールの使用や中腰での作業を禁止して局所の安静を図り、消炎鎮痛剤などの薬剤内服、足の横アーチを整える足底板の靴底への挿入、筋肉の伸びを制限することで痛みの緩和を図るキネシオテーピング 、靴の変更、温熱療法、運動療法、痛みを和らげるブロック注射などを用いた保存的療法を行います。

発症から治療までの期間が短ければ短いほど、保存療法で治る割合が高くなっています。鍼灸(しんきゅう)治療が有効な場合もあります。

3カ月ほど様子をみて保存療法で症状が回復しない場合や、日常生活に支障を来す場合は、手術が必要になることもあります。手術には、神経剥離(はくり)、神経腫摘出、深横中足靱帯の切離などがあります。しかし、神経腫を切除しても痛みが楽にならないこともあるので、仮性神経腫状態にしないことが肝心です。

そのためには、足指と足底筋を鍛えて足のアーチを維持する必要があり、足じゃんけん、ビー玉拾いエクササイズ、歩行運動などが勧められます。足じゃんけんは、指全体を曲げてグー、親指だけ立ててチョキ、全部広げてパーをするもので、風呂の中などでするのも一案です。

また、足に負担をかけないためにも適切な体重を維持するとともに、自分の足に合った靴を選ぶことも大切です。お勧めの靴は、つま先に1~1・5cmくらいの余裕があり、靴紐(ひも)かマジックベルトが付いていて、靴底は硬めで、ある程度の重さのあるタイプ。

2022/08/26

🇨🇺耳性帯状疱疹

耳を中心に起こった帯状疱疹で、耳介や外耳道に痛み、水膨れが出現

耳性帯状疱疹(じせいたいじょうほうしん)とは、耳を中心に起こった帯状疱疹。耳(みみ)ヘルペスとも呼ばれます。

ヘルペスウイルス属の1つである水痘(すいとう)・帯状疱疹ウイルスに乳幼児期に初感染すると、水ぼうそう(水痘)になります。全身に次々と小さな水膨れが現れ、かゆみ、発熱を伴います。水膨れは胸の辺りや顔に多くみられるほか、頭髪部や外陰部、口の中の粘膜など、全身の至る所にみられます。水膨れの数が少なく軽症な場合には、熱も38~39℃くらいで3~4日で解熱します。重症の場合には、39℃前後の熱が1週間ほど続くこともあります。

また、かゆみを伴うために引っかいてしまうと、細菌の二次感染を起こす危険性があります。水膨れが乾燥し、かさぶたになってから、2週間くらいでかさぶたはとれます。少し跡が残ることがあります。

乳幼児期に一度かかると免疫ができるため、この水ぼうそうに再びかかることはほとんどありません。しかし、水ぼうそうの原因である水痘・帯状疱疹ウイルスは、水ぼうそうが治った後も体のいろいろな神経節に潜伏しています。そして、数十年後に、疲れがたまったり、体の抵抗力が落ちたりするなど、何らかの切っ掛けにより、潜んでいたウイルスが再び暴れ出すと症状が現れます。

この場合、水ぼうそうのように全身に水膨れが現れることはなく、神経に沿って帯状に水膨れが現れる帯状疱疹として発症します。体のどこにでも帯状疱疹の症状は現れますが、胸から背中にかけてが一番多く、顔や手足、腹や尻(しり)の下などに現れることもあり、耳を中心に起こった帯状疱疹が耳性帯状疱疹に相当します。

耳性帯状疱疹を発症すると、発熱、寒けなどとともに、外に張り出している片側の耳介や、耳の穴から鼓膜まで続く外耳道に激しい痛みが現れ、数日の内に小さな水膨れができます。軟口蓋(なんこうがい)や舌など、口の中にも発生することがあります。また、顔面神経まひを伴うこともあります。

顔面神経まひのほかに、感音難聴、耳鳴り、めまいなどの内耳障害を伴うものをラムゼー・ハント症候群(ハント症候群)といいます。これは、顔面神経の膝(しつ)神経節という場所に潜んでいた水痘・帯状疱疹ウイルスが再活性化し、顔面神経やその周辺の聴神経に感染して起こるものです。

片側の耳に痛みや水膨れができ、片側の顔の動きが悪いことに気付いた時には、早期に耳鼻咽喉(いんこう)科の医師の診察を受けることが勧められます。

耳性帯状疱疹の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、耳や口の中などの視診により帯状疱疹の有無を調べます。水膨れ中か唾液(だえき)中の水痘・帯状疱疹ウイルスのDNAを検出するのが最も確実な診断法で、中の抗水痘帯状疱疹ウイルスIgM抗体価の上昇を確認するのも、診断の助けになります。

>顔面神経まひがあれば、筋電図検査、神経興奮性検査を行って、まひの程度、顔面神経の障害部位を診断します。難聴、めまいがあれば、聴力検査、平衡機能検査、脳神経検査など通常の耳科的検査も実施し、他の脳神経に異常がないかどうかを調べます。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、水痘・帯状疱疹ウイルスが原因であることがはっきりすれば、アシクロビル製剤、バラシクロビル製剤などの抗ウイルス薬を注射します。発症から約3~4日以内に投与すれば回復が早いとされています。

これに加え、神経周辺の炎症を抑制する副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の注射か内服、ビタミンB12剤、代謝を活性化するATP剤、鎮痛薬の内服、病変部への軟こうの塗布(とふ)などを行うこともあります。

顔面神経まひには、顔面マッサージが行われます。これらの治療を行っても、顔面神経まひが治らず、発症者が希望した場合は、顔面神経減荷術という手術が行われ、まひが回復することもあります。

後遺症として、耳介や外耳道の水膨れが治った後も長期間にわたって、痛みが続く帯状疱疹後神経痛が起こることは、胸部に起こる帯状疱疹に比べて少ないといえます。

なお、水痘・帯状疱疹ヘルペスウイルスは体内の神経節に潜み、体力や抵抗力が低下した時に増殖し、発症する特徴があるので、再発を防ぐ上でも疲労、ストレス、睡眠不足を避け、免疫力を維持しておくことも大切です。

🇵🇷膝内障

膝関節を構成する組織のどれかが、外傷によって損傷された状態

膝内障(しつないしょう)とは、膝(ひざ)関節を構成する組織のどれかが外傷によって、損傷された状態。

膝関節は、大腿骨(だいたいこつ)、下腿骨(かたいこつ)のうちの脛骨(けいこつ)および膝蓋骨(しつがいこつ)との間に形成され、これらを関節嚢(のう)や靱帯(じんたい)が結び合わせています。さらに、脛骨上面には2枚の三日月状の半月板(はんげつばん)という軟骨組織があって、大腿骨との間のクッションのような役目を果たしています。

靱帯は膝関節の内、外の側面にあり、大腿骨と下腿骨(脛骨および腓骨〔ひこつ〕)とを連結し、それぞれ内、外側の側副(そくふく)靱帯と呼ばれます。また、関節の中にも前後に2本の十字靱帯があります。これらの靱帯は、いろいろな膝関節の肢位(しい)に応じて、その安定性に大きく寄与している構造物です。

医学の進歩した現在では、膝内障で損傷された組織によって、症状や治療法が異なるため、膝内障という総称的な疾患名よりも、個々の損傷部位の疾患名を付けることが多くなっています。

代表的なものとして、半月板損傷、側副靱帯損傷、十字靱帯損傷の3つがあります。これらはしばしば、合併して起こります。

半月板損傷は、膝関節の左右にある内側半月板、外側半月板がスポーツ外傷や、変性などにより損傷、断裂した状態です。三日月状の半月板は弾性に富んだ線維軟骨でできていて、大腿骨と脛骨の内側、外側の透き間にあり、関節の適合性をよくして安定性を与え、荷重ストレスを吸収、分散するクッションの役目もしています。

この半月板は、膝にひねりが加わるスポーツ活動で損傷を来すことがあります。半月板損傷の発生部位は外側半月板に多いのが特徴とされてきましたが、近年はスポーツ損傷の増加で、内側半月板のほうが頻度が高くなりました。内側の半月板損傷は、膝のひねりに過度の屈曲、伸展が加わって、クッションの限界を超えてしまうために亀裂が入り、そのために分離した部分が骨の間にはまり込んだり、半月板が異常な動きをするために起こります。

外側半月板損傷のほうは、生まれ付き半月板が大きくて、正常では半月(C字)型をしている半月板が円板状になっている場合に、発症することが多いのが特徴です。明らかな外傷がなくても、膝の伸展障害を示します。

半月板損傷を発症すると膝関節が痛み、太ももの筋肉が委縮してきます。次いで、炎症を起こして関節に水がたまったり、屈伸に際してポキポキと異常音がしたりします。

初期にはギプスなどによる固定と、その膝に体重をかけないことが有効ですが、ある程度進行した場合は手術が必要になります。手術は膝関節鏡を使った半月板部分切除術や、半月板縫合術が行われており、手術後の成績は良好で、スポーツをすることも可能です。

側副靱帯損傷は、膝の内側と外側にあって、関節の横ぶれを防ぐ役目をしている側副靱帯が損傷、断裂した状態です。この損傷は内側に多く、スキーやサッカーなどのスポーツで急激な反転、方向転換をした時に起こります。損傷を受けると、階段を降りる時や歩行などの時に膝がグラグラして、安定しなくなります。断裂すると、断裂部の圧痛と膝を軽く屈曲した位置での側方への動揺性をみます。

軽症のものでは数週間のギプス固定、重症のものでは靱帯縫合術とギプス固定、しばらく治療されずに放置されて動揺関節を生じたものでは、靱帯再建術が行われます。

十字靱帯損傷は、膝関節の前方へのぶれを防ぐ役目をしている前十字靱帯、膝関節の後方へのぶれを防ぐ役目をしている後十字靱帯が損傷、断裂した状態です。激しいスポーツが盛んになるに連れて、この靱帯の断裂が増加しており、多くは前十字靱帯に起こって半月板や側副靱帯の損傷を合併しています。

断裂すると、関節血腫(けっしゅ)を起こし、膝関節が前後方向へ動揺しやすくなって、走行時、走行停止時などに不安感を持つようになります。

合併損傷のない場合は、膝関節周囲の筋肉強化を続けることで、日常生活を送るには特に不便を感じなくなります。しかし、合併損傷があったり、激しいスポーツを続けたい場合は、靱帯再建術が勧められます。

🇵🇷ジデナム舞踏病

リウマチ熱に由来する脳の障害で、不随意運動が出現

ジデナム舞踏病とは、リウマチ熱に由来する脳の障害で、手足が勝手に動いてしまう不随意運動を起こす疾患。小舞踏病とも呼ばれます。

通常5~15歳くらいの子供、特に女子に多くみられます。原因となるのは免疫反応で、リウマチ熱の引き金になる溶血性連鎖球菌(溶連菌)の感染に起因します。 溶血性連鎖球菌と人体の組織が似たような抗原部分を持つため、自分自身の免疫が誤って自分の体の中枢神経を攻撃し、発症します。

症状はまず、発熱、関節症状、皮膚症状、扁桃(へんとう)炎、心筋炎、心内膜炎などリウマチ熱に付随する症状を示し、多くのケースでは3〜6カ月後に不随意運動(舞踏運動)を生じます。リウマチ熱に付随する他の症状を伴わず、不随意運動が単独で出現することもあります。

手足が自分の意思とは無関係に動いてしまい、不自然に肩が動いたり、顔を曲げたり、踊るような歩き方をします。不随意運動は両手、両足や顔面において両側性に発生しますが、一側性のケースも見られます。

精神的にも不安定で、行動も落ち着きがなく、言葉もはっきりしないし、字を書かせると、健康な時と違って大小不同であり、たいへん下手になります。疾患の悪い時には、一人では食事がとれません。また、疲れたり興奮したりすると、症状がひどくなります。眠っている時は、症状が出ません。

軽い場合には、「落ち着きがない」「行儀が悪い」と見られる程度で、見逃されることも少なくありません。チックや多動症と誤診されることもあります。

ジデナム舞踏病の検査と診断と治療

小児科の医師によるジデナム舞踏病の診断は、リウマチ熱の症状と溶血性連鎖球菌の存在によって行われます。

治療としては、不随意運動のコントロールに抗精神病薬が用いられます。中には6〜8週間、不随意運動が続くケースもありますが、通常は数日で自然に症状が消えます。ほかに、安静が維持できない場合に、鎮静剤を用いることもあります。最近では、リウマチ性変化に対して、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)、バルプロ酸ナトリウム剤を使用することもあります。また、心合併症を防止するためには、ペニシリン剤の長期投与が必要とされます。

ジデナム舞踏病は1週間~2年ほど持続しますが、75パーセントは6カ月以内に消失します。

🇹🇹シモンズ病

下垂体の前葉で作られるホルモンの分泌が損なわれて起こる疾患

シモンズ病とは、下垂体(脳下垂体)の前葉で作られるさまざまなホルモンの分泌が損なわれて起こる疾患。1914年にドイツの医師シモンズが最初に発見し、下垂体前葉機能低下症とも呼ばれます。

脳の下にある小さな分泌腺(せん)に相当し、ホルモンの倉庫である下垂体は前葉と後葉とに分けられ、前葉で作られる下垂体前葉ホルモンには、成長ホルモン、副腎(ふくじん)皮質刺激ホルモン、プロラクチン、甲状腺刺激ホルモン、性腺刺激ホルモンなどがあります。

下垂体前葉ホルモンの分泌の低下は、下垂体前葉自身の障害により起こるものと、下垂体を調節する働きを持つ視床下部の障害によって起こるものとがあります。また、単一のホルモンの分泌が損なわれる場合だけでなく、いくつかのホルモンの分泌が損なわれる場合、すべてのホルモンの分泌が損なわれる場合など、いろいろなタイプがあります。

シモンズ病は、さまざまな原因によって起こります。分娩(ぶんべん)時の大出血で、下垂体への血流が一時的に途絶え、視床下部と下垂体をつないでいる下垂体門脈という血管の梗塞(こうそく)によって、下垂体前葉細胞が死んでしまうこともあります。これはシーハン症候群とも呼ばれます。

男性で最も多い原因は、下垂体腫瘍(しゅよう)です。ほかに、結核などの炎症性疾患、自己免疫性の下垂体炎、頭部外傷や手術、放射線治療後の障害などで起こります。まれに、下垂体の発生・形成異常、遺伝子異常によって起こることもあります。

基本的に、それぞれのホルモンの分泌低下を反映する症状が出現します。成長ホルモンの分泌低下が発育期に起こると、下垂体性小人(しょうじん)症(成長ホルモン分泌不全性低身長症)になります。成人では、体脂肪の増加、筋肉量や骨塩量の低下、気力、活動性の低下がみられます。

副腎皮質刺激ホルモンの分泌低下では、副腎皮質ホルモンの分泌が損なわれて、倦怠(けんたい)感や疲れやすさが増し、筋力の低下や血圧の低下を招きます。低血糖、食欲不振の原因になることもあります。感染症やけがを切っ掛けに、ショック状態に陥ることもあります。

甲状腺刺激ホルモンの分泌低下では、寒けがして皮膚が乾燥し、むくみ、脱毛、集中力と記憶力低下などが出ます。小児期に性腺刺激ホルモンの分泌が損なわれると、二次性徴の発現が起こりません。成人では性欲の低下を来し、男性では勃起(ぼっき)不能、体形の女性化、成人女性では無月経になります。大きな下垂体腫瘍が原因の場合では、視力が損なわれます。視床下部が損なわれると、尿崩症、食欲異常、体温異常を生じます。

シモンズ病の症状に気付いたら、原因の精密検査とホルモン分泌の障害に応じた補充療法が必要です。適切な治療を行わないと、低血糖などにより、けいれん、意識障害に陥ることがあります。内科、内分泌科、内分泌代謝内科の専門医の診察を受けて下さい。

シモンズ病の検査と診断と治療

内科、内分泌科、内分泌代謝内科の専門医による検査では、どのホルモンが損なわれているか、血液中の下垂体前葉ホルモンの値を調べます。また、ホルモンの分泌を刺激する検査を行うことで、障害の程度とその部位を推測します。頭部MRI、頭部CTなどの画像検査で、視床下部や下垂体の病変を発見できます。

内分泌専門医による治療では、シモンズ病を引き起こした原因の治療と、損なわれたホルモンの補充を行います。腫瘍がある場合は、脳の手術を行って下垂体の腫瘍を摘出します。また、放射線を照射して腫瘍細胞を消滅させる放射線療法が有効なこともあります。結核などでは、原疾患の治療を行います。

下垂体性小人症(成長ホルモン分泌不全性低身長症)では成長ホルモンによる治療を行い、副腎皮質刺激ホルモンの障害にはステロイドホルモン、甲状腺刺激ホルモンの障害には甲状腺ホルモンを投与します。性腺刺激ホルモンの障害では、障害の程度と性腺機能維持に応じた補充療法が行われます。

🇬🇫若年性健忘症

20歳代から30歳代で、日常生活や仕事に影響を及ぼす記憶障害が出る症状

若年性健忘症とは、比較的若い20歳代から30歳代で、日常生活や仕事に影響を及ぼすような物忘れが出る症状。健忘症は記憶障害の一つで、健忘の健は「甚だ」の意味です。

最近は激しい物忘れの症状を訴えて、病院を訪れる若い世代が増えているとされます。ただし、単なる物忘れとの境界もあいまいで、原因もはっきりしないために、医学上の正式な疾患名とはなっていません。

健忘症を発症すると、数秒前に体験した出来事、数日前までの出来事、さらにもっと以前の出来事を部分的に、または完全に思い出せなくなります。出来事の記憶には脳の多くの機能がかかわっているため、どのような種類の脳の損傷であっても、記憶を失うことがあります。損傷が重症でない場合は、ほとんどの健忘症は数分から数時間で、特に治療をしなくても自然に症状が消えます。脳の損傷が大きい場合には、健忘症の症状は恒久的に続きます。

この健忘症の多くは、脳血管障害や脳腫瘍(しゅよう)、認知症(痴呆〔ちほう〕症)など脳の損傷が原因で起こる器質性健忘症で、アルコールや一酸化炭素、薬物中毒に伴うケースも含まれます。けれども、健忘症の原因は、部分的にしか解明されていません。

一方、若年性健忘症は、脳血管障害など脳の損傷が原因ではありません。CT(コンピューター断層撮影)、MRI(磁気共鳴画像)など脳の形態をみる検査をしても、何も異常は見付かりません。

報告されている症状はさまざまで、

1)強いストレスから、ある日突然過去3年間ほどの記憶が消え失せた。

2)自分の携帯電話をどこに置いたのか忘れてしまい、その度に他の電話から携帯に電話をかけて見付ける。

3)他人との会話が続けられない。

4)一流大学を卒業した男性が一流証券会社入社後5年、30歳代前半のころ、パソコンを使う単純作業を覚えられなくなり、会社を辞めた。

5)大手電機メーカーに電車通勤をする20歳代後半の男性が、突然降りる駅がわからなくなった、などです。

実は人間の脳は、与えられる刺激が少なかったり、日ごろから使っていないと、年齢に関係なく、機能が徐々に低下します。マニュアル通りに仕事をこなしている人や、誰とも会わずパソコンのモニターに向かい続ける仕事をしている人などは、若年性健忘症になりやすいと見なされます。

このほか、仕事に一日中追われて、ほとんど自由な時間がない多忙な人も、若年性健忘症になりやすいと見なされます。仕事に必要な部分しか脳が働いていない場合、脳の他の部分の機能低下が進んで、深刻な物忘れも起こり得るのです。

現代社会特有の便利な生活環境も、若年性健忘症が起こる背景にあると見なされています。手帳を見なくても、携帯電話にカレンダーや住所録の機能が付いています。計算は電卓が、漢字はパソコンの変換ソフトがやってくれます。人と話さなくても、コンビニやファーストフードさえあれば生活できます。

また、最近の研究で、脳の前頭葉の中にある46野という部分が関係していることがわかってきました。46野は脳の側頭葉に蓄えられた記憶や知識を引き出す役割を果たしていると考えられていて、この46野がうまく動かないと、記憶や知識を引き出してくることができないのです。電卓やパソコンなど便利な機器に頼りすぎたり、他人とコミュニケーションをとる機会が少ないと、46野の機能が低下するのではないかと指摘する専門家もおり、特殊な装置で脳の血液量を量ってみると、46野の機能は若者だけでなく子供達も低下しているようです。

若年性健忘症の予防法として挙げられるのは、次の3つ です。

1)1日最低3人、家族以外の人と話す。家族との会話は緊張感に欠けるため、ある程度気を付かう必要のある他人がよいのです。

2)1日10分間、文章を書く。日記でも手紙でもとにかく自分の手で書くことが大切。文字の意味や形を思い出しながら書くことに意味があります。

3)1日20分間、外を歩く。歩き慣れた道ではなく、なるべく知らない道を歩くことが大切。五感を通して入ってくるさまざまなな情報が、脳を活性化させます。

🇬🇾若年性認知症

18~64歳で発症する認知症の総称

若年性認知症とは、働き盛りの年代の18歳以上、65歳未満で発症する認知症の総称。40歳代、50歳代を中心とした比較的若い世代の認知症であり、初老期認知症とも呼ばれます。

老年性認知症と総称される65歳以上の高齢者で発症する認知症と同じく、脳の障害によって起きる脳の疾患ですが、原因がつかめているものと、原因がつかめていないものに分かれます。

厚生労働省では、旧厚生省時代の1996年の研究で、患者数は2万5000人~3万7000人と推計しています。現実には、その3倍以上に及ぶともいわれています。

初期症状は一時的な物忘れから始まりますが、やがて進行していくと新しいことが覚えられなかったり、物忘れがひどくなったり、判断力の低下などが起こります。会議の予定を忘れたり、同僚の名前や取引先の場所がわからなくなったりするため、仕事を続けることもできなくなります。また、徘徊(はいかい)などの行動障害も出てきます。

若年性認知症の主な種類として、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、ピック病が挙げられます。

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症というと、高齢者の疾患のように思われがちですが、もともとは若年性の疾患で、1907年にドイツの精神医学者アロイス・アルツハイマーが最初の症例報告を行った患者は50歳代だった、という記録が残っています。

アルツハイマー型認知症は、脳の変性委縮によって発症します。その原因としては、脳の中の記憶に関係する部位である海馬や側頭葉、頭頂葉に、アミロイドという蛋白(たんぱく)の一種が蓄積していくことが始まりと考えられていて、さらにタウという蛋白も神経細胞の中に蓄積するようになり、神経細胞を壊していくことがわかっています。

なぜこのような現象が起こるのか、アミロイドの産生高進や蓄積が発症の直接原因なのか、それとも結果であるのかについては、まだ結論は得られていません。

いまだに原因がよくわかっていないアルツハイマー型認知症ですが、最近になって、遺伝的要因があると考えられるようになりました。親族にアルツハイマー型認知症の患者がいる人は、発症する割合が高くなりますし、発症する年齢は30~50歳くらいといわれています。

若い人にみられるアルツハイマー型認知症では、脳の委縮スピードも若いぶん、高齢者に比べると速くなります。40歳代の場合、高齢者に比べ2倍以上のスピードで病気が進行します。

アルツハイマー型認知症では大脳皮質という知能活動の中核が第一義的に侵されることから、記憶力などすべての認知機能が一様に低下し、その程度も大きくなります。加えて、自分が病気であるという病識が早くからなくなり、多幸性、多弁であることが多くみられます。

もう一つ重要なことは、アルツハイマー型認知症では、人格の崩壊といって、全く人柄が変わってしまうことが多い点です。いつかわからないほど発症はゆっくりで、進み方も徐々であり、かつ絶えず進行性であるのが、特徴といってよいでしょう。幻覚や幻視、被害妄想が現れ、暴言、暴力などの問題行動が見られることもあります。

脳血管性認知症

脳血管性認知症は、脳の血管に血栓という血の固まりが詰まった脳梗塞(こうそく)や、脳の血管が破れて出血した脳出血など、脳の血管に異常が起きた結果、脳細胞の働きが低下するために起こります。男性に多く、50~60歳で発病しやすくなります。

主な症状は、日常生活に支障を来すような記憶障害と、その他の認知機能障害である言葉、動作、注意、物事を計画的に行う能力などの障害です。末期を除けば、すべての認知機能が一様に、顕著に低下するわけではありません。

脳の一部の機能が低下してしまうため、記憶力の低下ははっきりしていても、計算力はある程度残っているとか、時間や場所はわかるとか、対応は全く正常であるという場合が少なくありません。

脳血管障害を発症した経験があったり、高血圧、糖尿病、心疾患、動脈硬化症、高脂血症など脳血管障害を起こしやすい危険因子を持っている人に、よく起こります。危険因子のほとんどは、生活習慣病といわれるものに相当します。

ピック病

ピック病は、人格の変化や理解不能な行動を特徴とする認知症の一種。働き盛りの40歳~60歳に多く発症し、大脳皮質のうち前頭葉から側頭葉にかけての部位が委縮します。

1898年にチェコのアーノルド・ピックにより報告された疾患で、100年以上経過してもまだ世界共通の明確な診断基準すらなく、正確な発生頻度も不明。疾患を正しく診断できる医師が少ないために、アルツハイマー型認知症と誤診されたり、うつ病や統合失調症と間違えられて、不適切な治療やケアを受けるケースも少なくありません。

若年性認知症の代表疾患で、40歳代~50歳代にピークがあり、平均発症年齢は49歳、早ければ20歳で発病することも。女性の発症率が多いアルツハイマー型認知症に対して、そういった性差はありません。

初期では、記憶力などの認知機能は保たれています。目立つのは人格障害で、認知症の中では人格の変化が一番激しくなります。その人格障害には、易怒、不機嫌、爽快なども認められ、人を無視した態度、人に非協力な態度、不まじめな態度、ひねくれた態度、人をばかにした態度などが目立つようになります。しかし、本人に病識はありません。

ピック病特有の症状といえる滞続言語も、認められます。滞続言語とは特有な反復言語で、会話や質問の内容とは無関係に、同じ内容の話を繰り返したり、おうむ返しを続けたりします。これらは持続的で、制止不能です。

自制力の低下により、周囲には理解不能な行動、状況に合わない行動もみられます。例えば、場所や状況に不適切と思われる悪ふざけや、配慮を欠いた行動をしたり、周囲の人に対して無遠慮な行為や身勝手な行為を示します。

また、自発性が低下し、考え不精がみられる一方で、多動、外出、徘徊(はいかい)、落ち着きのなさ、多弁、衝動行為、粗暴行為が増加することもあります。窃盗や万引きなどの犯罪を犯す場合もありますが、反省したり説明したりできず、同じ違法行為を繰り返すこともあります。

症状が進行すると、意欲減退が生じ、仕事を放棄して引きこもったり、何もしないなどの状態が持続し、自発性行動の少なさは改善しません。身だしなみにも無関心になり、不潔になります。周囲の出来事にも無関心になります。

やがて、記憶障害や言葉が出ないなどの神経症状が現れます。最終的には、重度の認知症に陥ります。

その他の若年性認知症

その他、交通事故や転倒で脳障害を起こしたのが原因で、若年性認知症になる場合もあります。 また、脳腫瘍(しゅよう)、薬物・アルコール依存症、クロイツフェルト・ヤコブ病、パーキンソン病、エイズなども、若年性認知症を発症する原因となる疾患として挙げられます。

若年性認知症の治療と予防

若年性認知症には、高齢者の発症する老年性認知症とは異なる問題や課題が存在しています。その一つは、年齢が若いので、家族や仕事仲間、医療関係者さえも、まさか認知症が始まっているとは考えられず、早期受診、早期治療に結び付かないケースが多いという点です。

うつ病と誤診されたり、職場では怠けていると誤解されたりすることも多いようです。何年もかかってやっと専門医を受診し、正確な診断に至ったケースも見受けられます。また、正確に診断できたとしても、職場での対応の調整や、介護環境の調整も重要です。

日常生活は保たれているものの、記憶力の障害があるとか、集中力が欠けているとか、言語能力が低下しているなど、認知症の症状が現れたら少しでも早く、医師の診断を受けるようにしましょう。

一口に若年性認知症といっても、医師による治療や対応法はさまざまです。実際、若年性認知症の種類は、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症、ピック病だけではなく、頭部外傷や脳腫瘍の後遺症などとても多彩で、診断が難しいものもあります。

残念ながら、まだアルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、ピック病などほとんどの認知症では、完治に至る根本的な治療法はありません。ピック病の場合は、錯乱して暴れるなど、介護は危険を伴うので、在宅でのケアは難しくなります。感染症にかかりやすく、数年で死に至るケースもあります。

しかし、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症では、早期に発見し適切な治療を受けてリハビリに努めれば、症状を軽くして進行を遅らせることはできますし、回復の可能性もあります。

薬物療法と心理社会的療法による早期治療によって、脳の代償機能と呼ばれるメカニズムが働くようにすることができれば、残された認知機能は維持され、社会生活機能を保つことは可能です。

脳にはもともと、ある部位の機能が失われても、他の障害されていない部位の神経細胞がその機能を補うように働く代償機能が備わっており、たとえ脳の病変があったとしても、代償機能が働くことで発症を抑えたり、症状の進行を抑制することが可能なのです。

散歩などによる昼夜リズムの改善、なじみのある写真や記念品をそばに置いて安心感を与える回想法、昔のテレビ番組を見るテレビ回想法などが、不眠や不安などに有効な場合もあります。

若年性認知症の予防には、生活改善がカギとなります。きちんとした食事や睡眠、適度な運動を心掛けるなど生活習慣を見直せば、発病の確率は減らせるはず。また、趣味や職場以外の社交場を持つなど、毎日を生き生きと暮らす工夫も大切。

とりわけ、以下の食習慣、運動習慣、知的生活習慣が、認知症の予防に効果があることがわかっています。

食習慣では、EPA・DHAなどの脂肪酸を多く含むサバ、サンマ、イワシ、アジなどの青魚の摂取、ビタミンE・ビタミンC・βカロテンなどを多く含む野菜や果物の摂取、さらにポリフェノールを多く含む赤ワイン、緑茶、ゴマの摂取が、発症を抑えます。これらの食品を3度の食事で、バランスよく食べるようにします。

運動習慣では、ウォーキングなどの有酸素運動を行えば、脳血管障害の危険因子である高血圧やコレステロールのレベルが下がり、脳血流量も増し、発症の危険性を下げます。ある研究では、普通の歩行速度を超える運動強度で週3回以上運動している人は、全く運動しない人と比べて、発症の危険が半分になっていました。

知的生活習慣も、発症の危険性を下げます。テレビ・ラジオを視聴し、トランプ・チェスなどのゲームをし、文章を読み、楽器の演奏をし、ダンスなどをよく行う人は、発症の危険性が減少するという研究があります。

また、旅行、パソコン、園芸、料理など、計画を立てたり、考えたりすることが必要な趣味の活動が、脳を活性化し、軽い認知機能の衰えがある認知症予備軍の高齢者でも、記憶力や注意力、計画力を改善するという研究もあります。

もしも、経済的な一家の大黒柱や子育て中の人が若年性認知症になってしまったら、経済的な問題や心理的ストレスは、とても大きいものになります。高齢者と違い、若いだけに体力もあるので、介護する側もエネルギーを消耗してしまいます。

現在のところ、専門施設や情報の不足も深刻です。とはいえ少しずつではありますが、助け合いの輪は生まれつつあります。自分たちだけで抱え込まず、いざという時は専門医やケアマネージャー、精神科病院のソーシャルワーカーなどに相談してみることをお勧めします。また、介護する側も息抜きを忘れずに。

🇧🇷若年性脳梗塞

40歳あるいは45歳ころまでの人に発症する脳梗塞

若年性脳梗塞(こうそく)とは、40歳あるいは45歳ころまでの人に発症する脳梗塞。20歳代、30歳代、さらには10歳代でも発症するケースもみられます。

 脳梗塞とは、脳の血管が詰まって血流を止めてしまうため、脳に供給される酸素や栄養が不足して脳細胞が壊死し、脳が十分な機能を果たせなくなる疾患です。動脈硬化などがあると、脳の細動脈に血栓、凝固塊、脂肪塊、石灰片、腫瘍(しゅよう)塊などが詰まりやすくなり、ある日突然、発症します。

この脳梗塞は高齢者に多い疾患として知られていますが、最近の脳梗塞の20~30パーセントは若年性脳梗塞が占めています。

若年性脳梗塞の症状としては、徐々に進行するものから突発的に完成するものまでさまざまで、半身まひ、半身不随、手足の運動障害、手足のしびれ、感覚の低下、脱力感、意識障害、言語障害、昏睡(こんすい)、激しい頭痛、回転性のめまい、視野狭窄(きょうさく)など、人によっていろいろな症状がみられます。

脳梗塞の起こった部位によっては若干症状が異なり、脳梗塞で最も多い症状である半身まひでは、左側の大脳が障害されると右半身にまひが生じます。脳幹に梗塞が起こった場合には、顔面と体のまひの方向が異なるなどの交代性まひが起こることもあります。

高齢者に多い脳梗塞の主な原因としては、動脈硬化や心房細動によるものが多いのに対し、若年性脳梗塞の原因の20~30パーセントも動脈硬化が占めます。 その動脈硬化の誘因としては、高血圧症が最も多く、次いで高脂血症、喫煙、糖尿病、肥満などがあります。

若年性脳梗塞の原因の3分の1から4分の1は、心原性または動脈原性脳塞栓が占めます。脳塞栓は、心臓や心臓から脳に至る血管の中にできた血液の塊がはがれて流れていき、突然に脳の血管を詰まらせるものです。心臓弁膜症などの先天性の心臓病や、心房細動などの不整脈、足の深部静脈血栓症があると起こりやすくなります。

動脈硬化による血管の異常以外による若年性脳梗塞の原因としては、抗リン脂質抗体症候群といった自己免疫疾患や、奇異性脳塞栓症、もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)といった特異な塞栓によるものが多いと見なされています。

抗リン脂質抗体症候群は、自己抗体ができることによって、全身の血液が固まりやすくなり、動脈塞栓、静脈塞栓を繰り返す疾患で、習慣性流産の原因ともなっています。

もやもや病は、日本人に多発する原因不明の脳血管疾患で、脳底部のウィリス動脈輪に狭窄や閉塞がみられ、脳虚血症状を示し、体の各部のまひ、知覚異常、不随意運動、頭痛、けいれんなどを起こします。発症時の年齢分布には2つのピークがあり、5歳を中心とする10歳までの子供は脳虚血で発症することが多く、30〜40歳代の大人は脳出血で発症することが多くなっています。

脳梗塞と聞くと、ある日突然、急に発症して倒れてしまうという印象があるかもしれませんが、突発的に完成する脳梗塞でも発症前の兆候はあるとされています。例えば、めまいや頭痛のほか、立て続けに立ちくらみが起こるとか、突然耳鳴りがするようになるなどです。

こうした脳からの小さなサインは、若ければ若いほど疲れやストレスなどのせいにしがちで見逃してしまう場合がありますが、早期に脳神経外科、神経内科の医師を受診すれば大事に至ることはありません。

若年性脳梗塞の検査と診断と治療

脳神経外科、神経内科の医師による若年性脳梗塞の診断では、主に血液検査、心電図検査、CT、MRI、X線撮影などが行われます。

医師による治療では、脳梗塞の急性期か慢性期かによって方法が異なります。

急性期の治療は、血管の詰まりのもととなる血栓を溶かす薬が最優先で使われます。これは発症後3時間以内に治療を開始すれば、効果が期待できる治療法です。時間の経過とともに梗塞部は拡大していき脳へのダメージも大きくなりますので、早期発見、早期治療が大切になります。そのほか、脳へのダメージを抑えて保護したり、脳のむくみを防止する治療などが行われます。

慢性期の治療は、再発防止も視野に入れた薬物療法が主な治療になります。点滴や内服薬で血圧を下げながら、ドロドロになった血液をサラサラにしたり、血液が固まらないように血液の循環をよくする治療が行われます。また、症状や状態に応じてリハビリを行ったり、それと同時に食生活や生活習慣を見直ことも大切です。

食生活に関しては、塩分を控えめにして1日に10グラム以内に抑え、ナトリウムの排出を促すりんご、枝豆、バナナ、カボチャなどの食品を積極的に摂取します。血圧を下げる作用がある乳製品などの食品や、マグネシウムを含む焼きのり、昆布、ごまなどの食品も食べます。

逆に、動物性脂肪やコレステロールを多く含む食品は控えめにし、アジ、サバ、イワシなどに多く含まれるEPA、DHAなどの不飽和脂肪酸を積極的に摂取します。

 適度な運動で積極的に体を動かし、太りすぎないように注意します。十分な睡眠と休養、禁煙、節酒を心掛けます。夏は脱水症や夏風邪から脳梗塞になる人が多いので、水分を十分補給します。

🇧🇷若年性パーキンソン病

40歳以下の若年層に発症するパーキンソン病で、多くは遺伝性

若年性パーキンソン病とは、40歳以下の若年層に発症するパーキンソン病。15万人近い患者がいるとされるパーキンソン病のうち、約5〜10パーセントを占めると見なされています。

50~60歳代で発症することが多い一般的なパーキンソン病は、さまざまな環境要因、生活習慣、性格、遺伝などが重複することによって発症するとされています。中脳にあるドーパミン神経の変性と脱落により、手足の震えや、筋肉の硬直、姿勢制御の障害などさまざまな運動障害が起こり、病状が進行すると日常生活を送ることが極めて困難になります。

一方、若年性パーキンソン病の場合は、遺伝によるものが多く、常染色体劣性遺伝(APーJP)という形式をとります。原因となる遺伝子として、Parkin(パーキン)、PINK1(ピンク・ワン)という蛋白(たんぱく)質を作る遺伝子が確認されています。どちらかに変異が起こり、本来持っているはずの異常発生したミトコンドリアを排出していく力が失われ、異常なミトコンドリアが細胞内に蓄積されて、中脳にあるドーパミン神経の変性と脱落が起こり、発症に至るとされています。

この常染色体劣性遺伝形式で発症する若年性パーキンソン病では、両親のどちらかに近親婚、大部分はいとこ婚の前例があり、早い人では10歳代で発症しており、最年少では7歳で発症というデータも存在しています。また、10歳代や20歳代といった早い時期での発症の場合は大抵、兄弟姉妹などとそろって発症するというデータも残されています。

この遺伝性の若年性パーキンソン病の特徴として、L-ドーパというパーキンソン病に有効な薬の効力が非常にあり、一般的なパーキンソン病に比べても長期間効力を維持することができます。また、睡眠効果がはっきりしていて、睡眠が深ければ薬もよく効き、睡眠が浅ければ薬の効き目も悪くなります。

症状の進行は、一般的に非常に緩やかで、発症している期間は30年から50年以上と長くかかります。その症状は、1日のうちの移り変わりが大きく、朝目覚めた後は症状が軽く、時間がたつにつれ症状が重くなります。朝目覚めた後、症状が軽くなるのは、睡眠による効果で、昼寝の後も同じように症状が軽くなることがあります。

初発症状は歩行障害のことが多く、ジスキネジアという無意識に足が震える不随意運動がよく見受けられます。一般的なパーキンソン病の若年性発症では、振戦という手の震えが初発であることが多いのと対照的です。

振戦が現れても微細なものが多く、関節の固縮、動作が緩慢にある無動はあまりひどくありません。姿勢保持障害(後方突進現象)が目立つことが多く、かなり特徴的な症状です。発症後数年たつと、すくみ足も出現することが多くみられます。

幻覚・幻聴など自律神経症状・精神症状の頻度が高いという特徴もあります。物忘れなど認知障害は認められません。

若年性パーキンソン病の検査と診断と治療

神経内科の医師による診断には、さまざまな方法があります。まず、最も一般的な検査方法としては、脳のCT検査、MRI検査のほかに、血液検査や尿検査、髄液検査などがあります。ただ、これらの検査によってパーキンソン病と診断することは非常に困難を極めているため、SPECTやPETといった検査も必要になることがあります。

また、遺伝性の若年性パーキンソン病が疑われる場合には、血液検査が有効とされています。近年は、遺伝子診断も可能になっています。

若年性パーキンソン病の治療は、主に薬物療法によって行われています。使用される薬物の多くは、ドーパミンの補充や分解抑制などを目的に、L-ドーパなどのドーパミン関連の薬物となり、非常によく効きます。

しかし、L-ドーパなどのドーパミン関連の薬物の使用によりジスキネジアが現れやすく、 服薬が長くなると薬の効果の持続時間が短くなり、症状の日内変動が激しくなってきます。これらの症状をを防ぐためには、多剤を併用することが多くみられます。

その他の治療法としては、外科的方法(手術)や、リハビリ、食事療法などがあります。

手術では、定位脳手術およびドーパミン産生組織の移植が挙げられます。ただし、手術が行われるのは薬物療法で効果が期待できず、また、薬物による治療が断念されるような場合に限られています。

リハビリでは、身体的なリハビリはもちろんのこと、精神的リハビリも同時に行われることが重要です。どのような場合でも、無理をせず自分に合ったリハビリを少しずつ毎日行うことで快方に向かっていきます。

食事療法では、低蛋白を心掛けたメニューをメインとして取り組んでいくことになります。

🇺🇾シャルコー・マリー・トゥース病

遺伝性に起きる末梢神経疾患で、遺伝性ニューロパチーの一種

シャルコー・マリー・トゥース病とは、遺伝性に起きる原因不明の末梢(まっしょう)神経疾患。遺伝性ニューロパチーのうちの、遺伝性運動感覚性ニューロパチーの一種にも相当する疾患です。

このシャルコー・マリー・トゥース病には、末梢神経の神経細胞を構成する軸索の周囲を覆っている髄鞘(ずいしょう)たんぱく(ミエリン)の合成が障害されて、線維組織に置き換えられる肥厚型(1型)と、髄鞘の障害を伴わない軸索型(2型)があります。欧米では多い疾患ですが、日本での頻度はあまり高くないとされています。

多くは、両親のどちらかが素因を持つ常染色体優性遺伝形式をとります。常染色体劣性遺伝形式をとるもの、X染色体劣性遺伝形式をとるものなどもあります。

重症度はさまざまですが、通常、小児期から運動が苦手で、大腿(だいたい)下部より下が細くなる、いわゆる逆シャンペンボトル型の筋委縮と、歩行時につま先が垂れて引っかかる垂れ足が自覚されます。感覚障害は、障害を受けた上下肢の部分が、手袋や靴下を履いように見える手袋靴下型で現れます。

進行すると、手の筋肉も委縮してきます。疾患は慢性的で、症状は極めてゆっくり進行するため、歩行などに不自由はあっても、症状の割には日常生活での障害は少ないものです。

しかし、重症例では、脳神経障害による嚥下(えんか)障害、声帯まひ、胸鎖乳突筋という首にある筋肉の一つの筋力低下、自律神経障害による不整脈・低血圧、側弯(そくわん)症による呼吸障害を合併することもあります。

シャルコー・マリー・トゥース病の検査と診断と治療

内科、神経内科の医師による診断では、運動まひの特徴的な分布、足の変形、家族歴から疾患が示唆されますが、末梢神経幹を電気で刺激し、神経や筋肉の活動電位をみる末梢神経伝導検査が必要です。神経の障害が大きくなるほど、これら活動電位が小さくなりますが、特に肥厚型(1型)では、神経伝導速度が極めて遅くなります。

近年、肥厚型(1型)の多くで遺伝子診断ができるようになりました。症状を自覚した状態での確定診断のため遺伝子診断もありますが、全く症状がない状態での発症前遺伝子診断もあります。

シャルコー・マリー・トゥース病を治したり、症状の悪化を防ぐような根本的な治療法はありませんが、内科、神経内科の医師は薬や理学療法で、少しでも快適に過ごせるよう工夫します。テーピングをしたり、下肢装具の利用は垂れ足の矯正に有用であり、歩行障害はかなり軽減されます。足を安定させる整形外科手術も、有用なことがあります。

🇵🇪帯状疱疹

■水ぼうそうウイルスが再活動

私たちが子供の頃によくかかる病気の一つに、水ぼうそう(水痘)があります。ウイルス性の病気である水ぼうそうは、一度発症して治ってしまうと一生感染しません。

ところが、その時のウイルスは死んでしまったのでなく、長い間、体の中の神経節に潜り込んでいたのです。このウイルスが、病気などで抵抗力が弱くなった時や疲れた時、あるいは年を取ったことにより再び活動を始めることがあります。これが、皮膚の病気「帯状疱疹(たいじょうほうしん)」です。

ただし、子供の頃に水ぼうそうにかかったといっても、必ずしも帯状疱疹になるわけではありません。10人に1〜2人の確率とされています。

■体の片側に出る帯状の水ぶくれ

帯状疱疹は神経の通っている部分に、それも体の左右どちらかに帯のように現れます。

初めはピリピリ、チクチクした痛みから始まり、しばらくするとその部分が帯状に赤くなり、やがて水ぶくれになって神経痛のような激しい痛みを伴います。

一番、多いのは、肋間(ろっかん)神経のある胸から背中にかけてです。顔面にある三叉(さんさ)神経に沿って現れる場合は、失明や顔面神経麻痺を伴うこともあるので、特に注意が必要です。この他、下腹部、腕、足、おしりの下などにも現れます。

痛みが始まってから水ぶくれが治るまでの期間は、通常、約3週間〜1カ月です。痛みは水ぶくれが治る頃に消えますが、治った後も長期間にわたって、しつこく痛むことがあります。こちらは「帯状疱疹後神経痛」と呼ばれ、高齢者に多いものです。

帯状疱疹の自覚症状は非常にわかりやすいものですから、帯状疱疹後神経痛にまで進行する前に、できるだけ早く皮膚科で診てもらうようにしましょう。

■体力が低下した時が要注意

加齢、病気、疲労、ストレスなどで体の抵抗力が落ち、おとなしかったウイルスが活動し始めることで、帯状疱疹は起こります。

完全に帯状疱疹を予防する方法はありませんが、日ごろから栄養と睡眠を十分にとり、適度に運動を行うなど、心身の健康に気を配って体力を低下させないことが、最も大切な予防法です。

■できるだけ初期に治療を

どんな病気でも同じですが、帯状疱疹にかかった場合も、できるだけ初期に治療を始めたほうが早く治ります。

帯状疱疹後神経痛は、ウイルスによって神経が破壊されることが原因と考えられています。従って、治癒に時間がかかるほど、また発症時の痛みが強いほど、帯状疱疹後神経痛に進みやすくなります。

帯状疱疹の治療では、原因療法として抗ウイルス剤、対症療法として消炎鎮痛剤が処方されています。

抗ウイルス剤は、ウイルスの増殖を阻止して治癒を早めます。神経がまだ破壊されていない初期の段階で使用すれば、帯状疱疹後神経痛の予防が期待できます。

また、痛みがひどい場合は、神経ブロックを行って痛みを止める治療法が有効です。

神経ブロックとは、局所麻酔剤を用いて、神経の流れを一時的に遮断する治療法です。この治療法によって血液循環がよくなるとともに、神経の緊張が和らぎ、その神経が支配している領域の痛みを止めることができるのです。

2022/08/25

🇨🇷手根管症候群

手首にある手根管というトンネル内で神経が圧迫されて、手や指がしびれ、痛みが起こる疾患

手根管症候群とは、手首の手のひら側にある骨と靭帯(じんたい)に囲まれた手根管というトンネルの中で、神経が慢性的な圧迫を受け、しびれや痛み、運動障害を起こす疾患。

手根管というトンネルは、手関節部にある手根骨と横手根靱帯で囲まれた伸び縮みのできない構造になっており、その中を1本の正中神経と、9本の指を動かす筋肉の腱(けん)が滑膜性の腱鞘(けんしょう)を伴って通っています。

初期には人差し指、中指がしびれ、痛みが出ますが、最終的には親指から薬指にかけての親指側にしびれ、痛みが出ます。

このしびれ、痛みは明け方に強く、目を覚ますと指がしびれ、痛みます。ひどい時は夜間の睡眠中に、痛みやしびれで目が覚めます。この際に手を振ったり、指を曲げ伸ばしすると、楽になります。手のこわばり感もあります。

進行すると親指の付け根の母指球筋という筋肉がやせてきて、親指と人差し指できれいな丸(OKサイン)ができなくなります。細かい作業が困難になり、縫い物がしづらくなったり、細かい物がつまめなくなります。

原因が見いだせない特発性というものが多く、原因不明とされています。妊娠期や出産期、更年期の女性に多く生じるのが特徴で、骨折などのけが、仕事やスポーツでの手の使いすぎ、腎不全のために人工透析をしている人などにも生じます。腫瘍(しゅよう)や腫瘤(しゅりゅう)などの出来物でも、生じることがあります。

妊産婦と中年の女性にはっきりした原因もなく発症する特発性の手根管症候群は、女性のホルモンの乱れによる滑膜性の腱鞘のむくみが誘因と考えられ、手根管の内圧が上がり、圧迫に弱い正中神経が偏平化して症状を示すと見なされています。けがによるむくみや、手の使いすぎによる腱鞘炎などでも、同様に正中神経が圧迫されて症状を示すと見なされています。

 指にしびれ、痛みがあり、朝起きた時にひどかったり夜間睡眠中に目が覚めるようなら、整形外科を受診することが勧められます。

手根管症候群の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、手首の手のひら側を打腱器などでたたくとしびれ、痛みが指先に響きます。これをティネル様サイン陽性といいます。手首を手のひら側に最大に曲げて保持し、1分間以内にしびれ、痛みが悪化するかどうかをみる誘発テストを行い、症状が悪化する場合はファレンテスト陽性といいます。母指球筋の筋力低下や筋委縮も診ます。

補助検査として、電気を用いた筋電図検査を行い、手根管を挟んだ正中神経の伝導速度を測定します。正中神経を電気で刺激してから筋肉が反応するまでの時間が、手根管症候群では長くなります。知覚テスターという機器で感覚を調べると、手根管症候群では感覚が鈍くなっています。 腫瘤が疑われるものでは、エコーやMRIなどの検査を行います。

首の病気による神経の圧迫や、糖尿病性神経障害、手指のほかの腱鞘炎との鑑別も行います。

整形外科の医師による治療では、消炎鎮痛剤やビタミンB12などの内服薬、塗布薬、運動や仕事の軽減、手首を安静に保つための装具を使用した局所の安静、腱鞘炎を治めるための手根管内腱鞘内へのステロイド剤注射など、保存的療法が行われます。

保存的療法が効かない難治性のものや、母指球筋のやせたもの、腫瘤のあるものなどは、手術が必要になります。以前は手のひらから前腕にかけての大きな皮膚切開を用いた手術が行われていましたが、現在はその必要性は低く、靭帯を切って手根管を開放し、神経の圧迫を取り除きます。手根管の上を4~5cm切って行う場合と、手根管の入り口と出口付近でそれぞれ1~2cm切って内視鏡を入れて行う場合とがあります。

とりわけ母指球筋のやせたものは、手術を含めた早急な治療が必要となります。母指球筋のやせた状態が長く続くと、手根管を開放する手術だけでは回復せず、腱移行術という健康な筋肉の腱を移動する手術が必要になります。

🇬🇹手指屈筋腱損傷

手指を曲げるための屈筋腱が断裂し、手指を曲げることができなくなる障害

手指屈筋腱(けん)損傷とは、親指に1本、他の指に2本ずつある屈筋腱が断裂し、手指を曲げることができなくなる障害。

屈筋腱が断裂すると、前腕にある手指を曲げる筋肉が収縮しても、その力は手指の骨に伝達されないので、手指を曲げることができなくなります。手指や手のひら、手首の辺りの切創や挫創(ざそう)による開放性損傷と、創傷がなくて生じる閉鎖性損傷があり、閉鎖性損傷には皮下断裂、腱付着部の断裂の2つがあります。

皮下断裂は、手指がドアに挟まれたりして屈筋腱が皮下で断裂した時に起こります。また、腱付着部の断裂は、手指を曲げようとした際に反対方向に強い力で手指が伸ばされて、手指の骨に付いている屈筋腱がはがれた時に起こります。

開放性損傷では、屈筋腱の断裂と同時に、並走する神経や動脈の断裂を伴うことも珍しくありません。その時は、手指の感覚が障害されたり、血液が噴出して止まりにくくなることがあります。

手指の屈筋腱は、親指には長母指屈筋腱の1本、他の人差し指、中指、薬指、小指には深指(しんし)屈筋腱と浅指(せんし)屈筋腱の2本があります。親指では1本、他の指では2本が断裂した場合は、手指が伸びた状態となり、全く曲げることができなくなります。

深指屈筋腱のみが断裂して、浅指屈筋腱が残っている場合は、手指の先端の第1関節(DIP関節)だけが伸びた状態となり、曲げることができなくなるものの、手指の中央の第2関節(PIP関節)を曲げることは可能です。手指の中央の第2関節(PIP関節)も曲げることができない場合は、浅指屈筋腱も断裂しています。

手指屈筋腱を断裂した場合には早期の治療が必要なので、創傷が治ってから判断しようと考えて様子見することは間違いで、整形外科医、ないし手の外科をすぐに受診することが勧められます。

手指屈筋腱損傷の検査と診断と治療

整形外科、ないし手の外科の医師による診断では、手指や手のひら、手首の辺りの創傷の存在、受傷歴の有無、親指の第1関節(IP関節)や他の指の第1関節(DIP関節)、第2関節(PIP関節)の屈曲が可能かどうかなどで、容易に判断できます。

整形外科、ないし手の外科の医師による治療では、手の外傷の治療の中で屈筋腱損傷の治療が最も難しいものの一つであるため、屈筋腱を縫合する手術である腱縫合術を行います。屈筋腱の損傷と同時に神経や動脈の断裂を伴う場合は、それらの修復も行います。

開放性損傷の屈筋腱断裂では、創傷の程度が強くない限り受傷当日に速やかに手術を行うことが望ましく、遅くとも3週間以内に腱縫合を行います。創傷の程度が強い時などすぐに腱縫合できない場合は、2次的に前腕にある長掌(ちょうしょう)筋腱などの腱で置き換える手術である腱移植術を行います。

閉鎖性損傷の皮下断裂、腱付着部の断裂の場合も、多くは手術的に屈筋腱の再建を行います。

治療成績には、年齢、受傷様式、受傷から手術までの期間、手術操作、手術後のリハビリテーション(後療法)などが影響します。

治療が難しい理由は、2つの問題があるからです。1つは再断裂の問題で、屈筋腱の断端同士が癒合する前に、強い力がかかれば、縫合した糸が切れて屈筋腱の断端は再び離れてしまいます。もう1つは癒着の問題で、周囲の組織と屈筋腱がくっついてしまうと、屈筋腱は治っても、手指を曲げられない、あるいは屈曲が不十分という状態が生じます。

このため、手術には正確で丁寧な操作が求められますし、手術後早期からのリハビリテーションが非常に重要です。

損傷した手指がある程度自由に動かすことができるようになるまでは、およそ3週間かかります。屈筋腱が完全な強度に達するまでには、およそ3カ月かかります。

屈筋腱と周囲の組織の癒着が起こった場合は、2次的に癒着をはがす腱剥離(はくり)術という手術を行うことがあります。

🇺🇸症候性顔面神経まひ

顔面神経が侵されて、顔の筋肉の運動がまひする疾患で、明らかな原因があるもの

症候性顔面神経まひとは、明らかな原因があることにより、顔面神経が侵されて、顔の筋肉の運動がまひする疾患。

顔面神経は顔面神経管と呼ばれる骨で取り囲まれた狭いトンネルを通って脳から外に出ますが、何らかの疾患などが原因となって、顔面神経管の中で顔面神経がはれて圧迫されると、筋肉の運動まひが現れます。

症候性顔面神経まひの最も多い原因は、単純ヘルペスウイルス、水痘(すいとう)・帯状疱疹(たいじょうほうしん)ウイルスなどのウイルスの感染、もしくは神経に潜伏していた単純ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルスなどのウイルスの再活性化によるものです。

水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化によるものには、耳を中心に起こった帯状疱疹と、ハント症候群があります。耳性帯状疱疹を発症すると、片側の耳に痛みや水膨れができ、顔面神経まひを伴うこともあります。

ハント症候群を発症すると、顔面神経まひのほかに、難聴、耳鳴り、めまいなどの内耳障害を伴います。これは、顔面神経の膝(しつ)神経節という場所に潜んでいた水痘・帯状疱疹ウイルスが再活性化し、顔面神経やその周辺の聴神経に感染して起こるものです。

また、外傷により顔面神経が伸びたり、はれたり、切れたりすることで、症候性顔面神経まひを生じることがあります。受傷後すぐに生じる場合と、少し時間が経ってから生じる場合があり、受傷の程度、範囲によっては難聴や耳鳴り、めまいを伴うこともあります。

そのほか、顔面神経の経路にある耳下腺(せん)や中耳の腫瘍(しゅよう)、顔面神経そのものの腫瘍、中耳炎、糖尿病や自己免疫疾患、白血病などの全身の疾患、先天性の疾患、手術の合併症などによっても症候性顔面神経まひが生じることがあります。

顔面神経以外の脳神経まひも起こっている場合は、脳出血、脳梗塞(こうそく)、髄膜炎、脳炎、脳腫瘍によって症候性顔面神経まひが生じている可能性があります。

症候性顔面神経まひは、急性あるいは亜急性に発症します。症状は普通、片側だけに起こります。まれには、両側に起こります。

侵された側の表情筋が緩むために、顔がゆがむ、額にしわが寄らず仮面様の顔付きになる、口の一方が曲がって食べ物やよだれが出てしまう、目が完全に閉じられない、などの症状が現れます。

そのほか、まひ側の舌の前方3分の2の味覚障害を伴うこともあり、物を食べた時、金属を口に入れたような感じがしたりします。まひ側の耳が過敏になり、音が大きく響くように感じることもあります。目が閉じにくいために目を涙で潤すことができず、夜間などに角膜が乾燥しやすくなるため、角膜に潰瘍(かいよう)ができることもあります。

症候性顔面神経まひの検査と診断と治療

症候性顔面神経まひは基本的に、耳鼻咽喉(いんこう)科の外来で治療可能な場合が多いのですが、検査が必要な場合、診断がはっきりしない場合、顔面神経まひの程度が強い場合などでは、入院が必要です。

耳鼻咽喉科の医師による診断は、典型的な顔の表情から比較的容易ですが、顔面神経まひの原因を調べるためにいろいろな検査を行います。脳の異常、外傷、腫瘍、中耳炎の有無などを確認するとともに、耳の穴や耳介に水膨れができていないかを観察します。

両側に同時に発症したり何度も繰り返す場合などは、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査などの画像診断が必要です。サルコイドーシス、ライム病などの珍しい疾患で起こった可能性が疑われる場合には、血液検査などの検査が必要になります。障害の程度や回復の正確な評価のために、筋電図や誘発電位検査を行うこともあります。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、それぞれの病態に応じて、顔面神経まひの改善を図ります。

耳性帯状疱疹、ハント症候群の治療では、水痘・帯状疱疹ウイルスが原因であることがはっきりすれば、アシクロビル製剤、バラシクロビル製剤などの抗ウイルス剤を注射します。発症から約3~4日以内に投与すれば回復が早いとされています。

これに加え、神経周辺の炎症を抑制するステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン)の注射か内服、ビタミンB12剤、代謝を活性化するATP剤、鎮痛薬の内服、病変部への軟こうの塗布(とふ)などを行うこともあります。

目が閉じにくい場合、人工涙液を点眼して角膜を保護します。顔面神経まひには、顔面マッサージを行います。

耳性帯状疱疹、ハント症候群が原因で症候性顔面神経まひが起こった場合には、比較的、経過が長く、顔面の筋肉の運動まひがある程度残ることが多いようです。また、再生した顔面神経が本来の支配先と異なった筋を支配してしまった場合には、口を閉じると目が一緒に閉じたり、熱い物や冷たい物を食べた時に涙が出たりする異常連合運動が起こることがあります。

顔面神経まひが治らず、発症者が希望した場合は、顔面神経減荷術という手術を行い、まひが回復することもあります。

なお、水痘・帯状疱疹ヘルペスウイルスは体内の神経節に潜み、体力や抵抗力が低下した時に増殖し、発症する特徴があるので、再発を防ぐ上でも疲労、ストレス、睡眠不足を避け、免疫力を維持しておくことも大切です。

また、症候性顔面神経まひは、リハビリテーション療法も重要です。家庭でできる顔面マッサージとしては、朝夕30分間ほど、手で額や目の周りの筋肉をゆっくりと回すようにしてマッサージしたり、まひした口角を引っ張り上げるようにしたり、顔面の筋肉を働かせるために百面相の練習をしたりすると、効果があります。

🟧RSウイルス感染症が「流行入り」 静岡県が注意呼び掛け

 静岡県は26日、直近1週間(15~21日)のデータから「RSウイルス感染症が流行入りしている」と発表しました。定点医療機関となっている小児科1カ所当たりの患者数は1・64人で、県が流行入りの目安としている「1人」を大きく上回りました。前週の0・9人よりも8割増加し、急拡大が懸...