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2022/07/16

🇦🇫溶血性尿毒症症候群

細菌が産生するベロ毒素によって引き起こされ、腎臓や脳などが侵される疾患

溶血性尿毒症症候群とは、細菌が産生する、主にベロ毒素によって引き起こされ、腎臓(じんぞう)や脳などが侵される疾患。HUS(Hemolytic Uremic Syndrome)とも呼ばれます。

先天的な原因によるものもありますが、子供の場合ほとんどが腸管出血性大腸菌Oー157や赤痢菌によって汚染された食べ物を摂取することで、発症します。Oー157などは人の腸内でベロ毒素という毒素を放出し、これが血液中に入って、赤血球の破壊による溶血性貧血や、血小板という出血を防ぐ細胞の減少を引き起こしたり、急性腎不全を引き起こしたりします。

最初は、先行感染による発熱、吐き気、嘔吐(おうと)、下痢、腹痛などの胃腸炎や、上気道炎の症状で始まります。下痢は、水様便で始まり、数日以内に血便になります。

下痢が始まってから3~10日ころに、感染者の約5〜10パーセントで、溶血性尿毒症症候群に進行し、貧血のために疲労感を訴えたり、顔色が悪くなったりします。急性腎不全になると尿の量が減り、尿毒症を発症して、本来なら尿の中に排出される老廃物や毒素が血液中にたまることで、むくみ、意識障害、けいれん、血尿、皮下出血、黄疸(おうだん)など、さまざまな中毒症状が現れます。

また、毒素による脳の症状のため、刺激に過敏になり、重症の場合、けいれんを起こしたり、意識がなくなり死亡する場合もあります。

溶血性尿毒症症候群の90パーセントは子供が発症していますが、10パーセントは成人が発症しています。子供ではほとんどが感染症によるものであるのに対して、成人では90パーセントに何らかの基礎疾患があるとされています。基礎疾患としては、HIV感染、抗リン脂質抗体症候群、分娩(ぶんべん)後腎不全、悪性高血圧、全身性強皮症、抗がん剤治療(マイトマイシン、シクロスポリン、シスプラチン、ブレオマイシンなど)などが挙げられます。

子供では、発熱とともに腹痛、血便を伴う下痢、嘔吐がみられたら、小児科医を受診して便の細菌検査を受けます。成人では、内科か腎臓内科を受診します。

溶血性尿毒症症候群の検査と診断と治療

小児科の医師による診断は、胃腸炎の段階では便の細菌検査をし、腸管出血性大腸菌Oー157によるものかどうかを検査します。この菌の感染と判明した場合、溶血性尿毒症症候群に進行していないかどうか、血液検査や尿検査で貧血、血小板の数、腎機能などを症状が落ち着くまで検査します。

Oー157の感染から3~10日後に、5〜10パーセント程度の子供に溶血性尿毒症症候群が発症しており、この場合には症状と血液検査の結果から容易に確定でき、貧血、血小板減少、尿素窒素値とクレアチニン値の上昇がみられます。

小児科の医師による治療は、胃腸炎の段階では十分に水分を補給して、脱水状態にならないようにします。強い下痢止めは菌や毒素が体から排出されるのを遅くする可能性があるため、使用しません。

抗生剤の使用については、医師の意見が分かれています。強力に大腸菌を殺菌すると、大量のベロ毒素の放出が促進されて症状を悪化させる可能性があるということで、抗生剤を使用しない考え方もありますが、いまだに意見の一致はみていません。抗生剤を使用する場合は、症状の発現後できるだけ速やかに、3〜5日間投与するのが一般的です。

溶血性尿毒症症候群に進行した場合、2週間ほど入院して治療します。貧血の強い場合には、輸血が必要になります。急性腎不全になり、尿毒症を発症した場合には、一時的に血液透析が必要になります。人工透析か腹膜透析による血液透析で、血中尿素窒素(BUN)を除去し、血中電解質(主にナトリウム、クロール、カリウム、カルシウム)を正常に保ちながら、腎機能の回復を待ちます。

そのほかの治療として、新鮮凍結血漿(けっしょう)の輸注、大量ガンマグロブリン療法、血漿交換などが行われます。

以前は死亡率の高い疾患でしたが、現在は95パーセント以上の子供は救命可能です。ただし、溶血性尿毒症症候群が回復して退院した場合も、長期に渡って腎臓の障害が残ることがあるので、長期間の定期的診察を受ける必要があります。

予防のためには、Oー157は生焼けのひき肉や殺菌処理されていない牛乳やチーズ、あるいは汚染された井戸水などによって感染するので、十分な手洗いや食品の加熱を心掛けることです。Oー157は熱に弱く、75度で1分間以上加熱すれば死滅しますので、ひき肉などは中心部まで加熱し生焼けの部分を残さないようにします。

🇦🇩溶血性貧血

赤血球の寿命が短くなり、骨髄が赤血球を作る代償機能が追い付かずに現れる貧血

溶血性貧血とは、何らかの理由で赤血球の寿命が短くなり、骨髄が赤血球を作る代償機能が追い付かなくなることで現れる貧血。先天性の溶血性貧血と後天性の溶血性貧血とに分かれます。

正常な人の赤血球は、流血中で約120日の寿命があります。赤血球の寿命が短くなっても、骨髄には普通の状態の6~8倍に当たる赤血球を作る能力があるため、その程度が軽い場合には貧血は起こりません。赤血球の寿命が15~20日より短くなって、初めて貧血が起こり、動悸(どうき)、息切れ、疲れやすいなどの症状がみられます。

加えて、赤血球が壊れると、血色素(ヘモグロビン)が多量に血球外に出される溶血という現象が発生し、これから黄色いビリルビン(胆汁色素)ができるため、皮膚や眼球粘膜が黄色く見え、尿の色も濃くなります。このため、溶血性黄疸(おうだん)とも呼ばれ、しばしば脾臓(ひぞう)がはれてきます。脾臓は胃の左側にある小さな臓器で、白血球の一部を作り、不用の血球を壊しています。

先天性の溶血性貧血は、赤血球そのものの異常が溶血の原因となって起こります。その中で代表的な疾患は、遺伝性球形赤血球症。正常な人の赤血球は、中央部がへこんだ円盤状をしていますが、この疾患では球形に近い形をしていて溶血しやすく、貧血と黄疸がみられます。溶血が慢性化すると、ビリルビンが胆嚢(たんのう)にたまるため、胆石症を合併する頻度が高くなります。

一方、後天性の溶血性貧血は、発作性夜間血色素尿症など一部を除いて、赤血球に対する抗体や血管壁の異常など、赤血球以外の異常が溶血の原因となって起こります。その中で代表的な疾患は、自己免疫性溶血性貧血で、自己の赤血球に対する抗体が体の中に作られて、赤血球が早期に壊されます。

ウイルス感染や、薬剤の使用に引き続いて起こることもありますが、ほとんどの例で誘因は不明です。全身性エリテマトーデスのような膠原(こうげん)病や、悪性リンパ腫(しゅ)を合併している例もあります。

医師による溶血性貧血の診断では、血液の検査が最も重要です。これによって、貧血とともに、ビリルビンや乳酸脱水素酵素(LDH)といわれる物質の上昇が認められれば、溶血が強く疑われます。

身内に溶血性貧血の人がいる場合、先天性の溶血性貧血の可能性があり、遺伝子や蛋白(たんぱく)の異常を生化学的に検査していきます。また、赤血球に対する自己抗体を検出する検査はクームス試験といわれ、これが陽性であれば自己免疫性溶血性貧血と診断できます。

先天性の溶血性貧血の代表的な疾患である遺伝性球形赤血球症の治療では、適当な薬物療法がないため、赤血球を取り込んで破壊する脾臓を手術で摘出します。これによって赤血球の形は変わりませんが、黄疸や貧血は著しく改善します。脾臓の摘出手術は、学齢期以後の小児や成人に行った場合、何らの障害も残しません。胆石症の合併の恐れがある場合には、胆嚢の摘出をすることもあります。

後天性の溶血性貧血の治療は、その原因によって異なります。自己免疫性溶血性貧血の場合は、ステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン)の投与が有効です。ステロイド剤の第一選択薬であるプレドニンにより、約9割の発症者が改善します。

プレドニンが無効の場合には、シクロホスファミド(エンドキサン)やアザチオプリン(イムラン)などの免疫抑制薬が投与されます。近年では、抗体を作っているBリンパ球に対するモノクローナル抗体製剤のリツキサンが、難治性の自己免疫性溶血性貧血に有効であることが示されています。

🇦🇨葉酸欠乏症

ビタミンB群の一つである葉酸の欠乏が原因となって、主に貧血を起こす疾患

葉酸欠乏症とは、ビタミンB群の一つである葉酸の欠乏が原因となって、主に悪性貧血を起こす疾患。同様の疾患に、ビタミンB12の欠乏が原因となって起こる悪性貧血があります。

悪性貧血は巨赤芽球性貧血とも呼ばれ、赤血球を作る際に必要な葉酸やビタミンB12が欠乏するために、赤血球に成熟する前段階の赤芽球が増殖障害によって巨大化した巨赤芽球が骨髄中に認められます。

悪性貧血の初期症状は、疲労感です。肌が青白い、神経過敏、息切れ、めまい、呼吸困難など貧血の一般的な症状に加えて、舌の赤いただれ、味覚の低下、下痢、体重の減少、下痢などが起こります。

葉酸はビタミンB12とともに、正常な赤血球の形成を始め、細胞の遺伝情報をつかさどる核酸(DNA)の合成に必要不可欠ですが、体はごく少量の葉酸しか蓄えていないため、葉酸が少ない食事を続けていると、数カ月で葉酸欠乏症になります。十分な量の生野菜や柑橘(かんきつ)類を食べない人が多いため、葉酸欠乏症はよくみられます。

アルコール依存症による栄養不良もよくある原因で、大量の飲酒も葉酸の吸収と代謝を妨げます。また、妊娠中や授乳中の女性と、腎(じん)不全に陥って人工透析を受けている人は、葉酸の必要量が増しているため、葉酸欠乏症になりやすい傾向があります。

妊娠中の女性が葉酸欠乏症になると、胎児に先天性の脊椎(せきつい)奇形が生じることがあります。葉酸には先天障害の発症リスクを低下させる効果があるため、特に妊娠中の女性は積極的な摂取が必要とされ、厚生労働省は2000年、妊娠を希望している女性に対して1日当たり0・4ミリグラム以上の摂取を推奨しました。

なお、葉酸は水溶性のため、過剰に摂取された分はすべて排出されるので、体の組織や器官内にたまることはないとされています。しかし、まれに皮膚にアレルギー反応が出た例があるようです。

医師による悪性貧血の診断では、まず葉酸欠乏かビタミンB12欠乏かを血液検査で調べ、続いて骨髄を調べて巨赤芽球が認められれば確定されます。

治療では、葉酸を多く含む食品を積極的に摂取したり、葉酸サプリメントを摂取したりします。妊娠中の女性または妊娠を希望している女性の場合は、葉酸サプリメントを多めに摂取して、胎児に先天異常が生じる危険性を減らします。

また、葉酸の代謝や吸収を阻害する薬を服用している場合は、予防のために葉酸サプリメントを摂取すべきです。例えば、がんや関節リウマチの治療に使うメトトレキサートや抗生物質のトリメトプリム‐スルファメトキサゾール(ST合剤)は、葉酸の代謝を妨げます。 フェニトインやフェノバルビタールなどの抗けいれん薬や、スルファサラジンなどの潰瘍(かいよう)性大腸炎の治療に使う薬は、葉酸の吸収を低下させます。

葉酸を多く含む食品には、ホウレン草などの緑黄色野菜、果物、レバー、卵黄、胚芽(はいが)、牛乳などが挙げられます。ただし、調理や長期間の保存による酸化によって、葉酸は壊れてしまうため、新鮮な生野菜や果物がよい供給源となります。

葉酸は赤血球を作って悪性貧血を予防するほか、口内粘膜を強化して口内炎などを予防する作用もあり、血液中に蓄積する有害なアミノ酸物質ホモシステインの濃度を下げ、心臓病や脳卒中のリスクを軽減させるという報告もあります。がん予防に役立つともいわれています。

🇦🇪痒疹

赤い発疹が体に散在し、非常にかゆい皮膚病

痒疹(ようしん)とは、非常にかゆい赤い発疹が、体のいろいろなところに、離ればなれにできる皮膚病。

体のいろいろなところに、一つひとつの硬いはっきりしたボツボツができますが、お互いにくっつくことなく、いつまでも独立したままです。かくと病状が悪化し、強いかゆみのために眠れなくなることもあります。移る疾患ではありません。

原因は人によって異なり、虫刺されで起こるもの、アトピー性皮膚炎に伴うもの、内臓の疾患などと関係のあるもの、妊娠に伴うもの、原因不明のものなどがあります。

虫刺されの場合は、刺された跡をかいている間に、いわゆるストロフルスと呼ばれる水っぽい丘疹となり、さらにかいている間に、硬い結節になる型と、虫刺されが一度治ってから、数カ月から半年後に再びかゆくなってくる型があります。前者を急性痒疹、後者を慢性痒疹、結節性痒疹、固定じんましんとも呼びます。急性痒疹は、主として5歳以下の乳幼児に起こります。

アトピー性皮膚炎に伴うものは、小児や成人に多く、湿疹病変を長期間かいている間に、胴体や四肢に大豆大までの暗赤褐色の、硬い、いぼ状の小結節が多発します。これをベニエ痒疹とも呼びます。

内臓の疾患などと関係のあるものには、中年以後の人の腰や下腹部を中心に、小さい丘疹状の痒疹が多発するものがあります。胃腸障害、肝臓病、糖尿病、血液疾患などに伴って現れると見なされています。

妊娠に伴うものは、妊娠3〜4カ月以降に主として四肢に激しい発作性のかゆみが生じ、かゆみを伴う丘疹が四肢、腹部、背部に多発します。初回妊娠で発症することもありますが、ほとんど2回目以降の妊娠で発症するという特徴があります。一般に、出産の度に再発を繰り返すことが多く、出産後は軽快するのも特徴です。これを妊娠性痒疹とも呼びます。

痒疹の検査と診断と治療

診断は、特徴的な発疹とその分布、経過から判断します。発疹の一部を切って顕微鏡で調べる組織検査で、診断は確定します。胃腸障害、肝臓病、糖尿病、血液疾患に伴って現れることもあるため、血液検査を行うこともあります。

中年以後の人では、内臓の疾患などとの関係を見付けることが治療につながる重要な点です。原因を発見できない時には慢性となり、長年に渡って続くことがあります。

治療としては、発疹にはステロイド外用剤が使われます。かゆみが強い場合は、抗アレルギー剤の内服が行われます。治りにくい場合は、発疹部にステロイド含有テープを張ったり、ステロイド注射液を直接注射することもあります。紫外線療法や液体窒素を使った冷凍療法、シクロスポリンの内服が効果的な場合もあります。なお、妊娠性の場合は胎児への影響も考え、内服は控えることが多くなります。

胃腸障害、肝臓病、糖尿病、血液疾患などに伴ってみられる場合は、こうした疾患を治療することも必要です。

🇦🇫羊水過少症

妊婦の羊膜中にある羊水の量が極端に少なくなった状態

羊水過少症とは、胎児を包んで保護する羊膜の中にある羊水の量が極端に少なくなった状態。明確な定義ではありませんが、一般に羊水の量が100ミリリットルを下回ることが、目安となります。

羊水は妊娠中、胎児がその中で自由に運動し、伸び伸びと発育することを助ける働きがあります。また一方、胎児が活発に動き回っても、直接母体に強く響くのを防ぎ、外からの刺激から胎児を守る役目も果たしています。

出産の際には、子宮筋の収縮による強い圧迫が直接、胎児に加わることを防ぐとともに、破水した後は胎児が通る道、つまり子宮頸管(けいかん)から膣(ちつ)などの軟産道を潤して滑らかにし、胎児を通りやすくします。

このように胎児にとっても母体にとっても重要な働きをしている羊水の量は通常、胎児が嚥下(えんげ)する量と排尿する量とのバランスで決まります。従って、胎児の排尿量が減少すれば、羊水量は減少することになります。

胎児の排尿量の減少する原因としては、先天異常による腎臓の無形成や尿路閉鎖などの胎児尿産生障害による場合と、それ以外の胎児尿産生量の低下による場合、すなわち胎児発育不全や、胎盤機能不全による胎児低酸素症、過期妊娠(出産予定日から2週間以上を過ぎてもお産にならない状態)、妊娠高血圧症候群、薬剤の使用、感染などの場合があります。また、破水により羊水が子宮外に漏出している場合も、羊水過少症の原因となります。

一卵性双胎児などの多胎妊娠で双胎間輸血症候群を伴う場合には、一児が羊水過多症、もう一児が羊水過少症を呈します。双胎間輸血症候群は、一卵性双胎児が胎盤を共有した状態の時に、共通胎盤上の吻合(ふんごう)血管を通して引き起こされる血流移動のアンバランスによって、両児の循環不全を生じる病態を指します。

羊水過少症は、胎児の発育や健康状態の悪化と関連があり、さらに長期間の羊水過少が続くと、胎児の運動が制限されるために、四肢の圧迫による変形、肺低形成、臍帯(さいたい)の圧迫による胎児仮死なども合併しやすくなります。肺低形成は、肺が小さいため出生直後から呼吸ができないという、新生児における最重症の呼吸障害です。

羊水過少症の検査と診断と治療

産科、産婦人科の医師による診断は通常、分娩(ぶんべん)の前に超音波断層法を用いて行われます。超音波検査により、羊水ポケット(子宮内壁と胎児の間で最も遠い距離)が2センチメートル未満である時、または羊水インデックス(妊婦の腹部を4つの部分に分けて、各部分で最も羊水量が多いところの合計値:AFI〔amniotic fluid index〕)が5センチメートル未満の時に羊水過少症とされます。

羊水過少症の原因となる先天異常がないかについても、超音波で検索します。羊水量が少ないと超音波検査で胎児を観察することが困難になるため、羊水の代用液を子宮内に注入してから検査が行われることもあります。

妊娠後期に羊水過少症が認められる場合には、胎児の健康状態に問題がある可能性があるため、連続胎児心拍モニタリングなどにより胎児の状態を十分に検索し、分娩時期、分娩方法の決定がなされます。胎児発育不全、過期妊娠には羊水過少を伴うことが多く、胎児仮死や子宮内胎児死亡に至ることもあるために、緊急に帝王切開を行う頻度が高くなります。

妊娠のかなり早い時期から羊水過少症が認められる場合には、胎児の先天異常を伴っていることが多く、一般的には有効な治療法はなく、予後不良です。先天異常の種類によっては、胎児手術により救命されることもあります。

前期破水をした場合は、肺低形成の発生を予防するために、胎児の健康状態が悪化していなくても早期に分娩とすることもあります。また、人工羊水の補充療法により肺低形成を予防しようという試みも行われており、生理的食塩水あるいは乳酸リンゲル液を子宮内に注入しますが、必ずしも有効とは限りません。

🇦🇩羊水過多症

妊婦の羊膜中の羊水の量が極端に多くなる疾患

羊水過多症とは、胎児を包んで保護する羊膜の中の羊水の量が極端に多くなる疾患。羊水の量が800ミリリットルを超えることが、目安となります。

羊水は妊娠中、胎児がその中で自由に運動し、伸び伸びと発育することを助ける働きがあります。また一方、胎児が活発に動き回っても、直接母体に強く響くのを防ぎ、外からの刺激から胎児を守る役目も果たしています。

出産の際には、子宮筋の収縮による強い圧迫が直接、胎児に加わることを防ぐとともに、破水した後は胎児が通る道、つまり子宮頸管(けいかん)から膣(ちつ)などの軟産道を潤して滑らかにし、胎児を通りやすくします。

このように胎児にとっても母体にとっても重要な働きをしている羊水の量が極端に多くなるのは、妊婦に腎臓(じんぞう)病、糖尿病、梅毒、ウイルス感染、胎盤腫瘍(しゅよう)などがある場合に、羊水を分泌している羊膜の分泌機能が異常に高まって、羊水がどんどん分泌されるために起こりやすいといわれています。また、胎児に中枢神経系や消化器系などの先天異常があったり、巨大児、双生児などの多胎妊娠である場合にも、羊水の量が増える傾向があります。しかし、羊水過多の半数以上は、原因が不明です。

この羊水過多症には、妊娠5カ月ごろから徐々に増える慢性型と、8~9カ月ごろになって急に増える急性型とがあります。急性型の場合は、妊婦の腹部が急に大きくなって、腹痛、腰背部痛、吐き気、足のむくみ、時には呼吸困難、動悸(どうき)、嘔吐(おうと)などが起こります。自然に陣痛が始まるか、早期破水を起こして流産することもあります。

慢性型の場合は、急性型と同様の自覚症状が25週ごろから現れますが、症状は軽いのが普通です。前期破水を来し、早産に至ることもあります。

羊水過多症になると、胎児の位置もわかりにくく、心音も聞き取りにくくなります。他の妊娠トラブルと同様、産科、産婦人科の医師を受診し、慎重に経過を診てもらう必要があります。

羊水過多症の検査と診断と治療

産科、産婦人科の医師による診断では、軽度、中度の羊水過多症の場合は、巨大児や糖尿病の合併を推測して、胎児計測や血糖検査を行います。重度の羊水過多症については、胎児の消化器系の奇形などの可能性を探るため、超音波検査、染色体検査を行います。

羊水過多症の多くは、特別な治療を要しません。ただし、母体に持続的な腹痛が現れる時には、腹部の圧迫症状を軽くするため、水分を制限したり、利尿剤を処方したりします。母体に持続的な呼吸障害も現れる時には、入院して腹部に針を刺して羊水を抜くこともあります。1~2時間をかけて1~2リットルの羊水を除去するのが一般的ですが、この際に子宮の収縮を伴って腹部が張る場合には、子宮収縮抑制剤を投与する場合もあります。

このほか、羊水過多症の合併症に注意します。合併症としては、早産や前期破水、常位胎盤剥離(はくり)、産後の弛緩(しかん)出血などが挙げられます。胎児が骨盤位(逆子)になっているケースも多いので、なるべく破水などの起こらないように、慎重に過ごすごすように妊婦に注意を促します。

羊水過多症の妊婦の分娩(ぶんべん)に際しては、子宮が大きく伸びている状態のため微弱陣痛になりやすい傾向もあり、通常の経腟分娩では合併症も起こしやすいため、帝王切開が行われることが多くなります。

🇦🇨羊水塞栓症

羊水や胎児成分が母体の血液中に混入して、血管が詰まる疾患

羊水塞栓(そくせん)症とは、胎児を包んで保護する羊膜の中の羊水や、その中に存在する胎児成分が母体の血液中に混入して、血管が詰まる疾患。胎児成分とは、胎児のうぶ毛、髪の毛、皮膚の細胞、胎便、胎児の皮膚に付着している胎脂などです。

発症率は2万~3万人に1人と極めて低いものの、死亡率は6~8割と非常に高く、低血圧や呼吸不全を起こしてショック状態に陥ります。

従来、肺塞栓症の特殊な型と考えられ、子宮の静脈などから混入した羊水や胎児成分が母体の肺動脈系などの血管に塞栓を作り、血液の流れを遮断してしまうことが原因だといわれてきました。 しかし、子宮の血管を詰まらせ異常出血を引き起こするケースが多いことも判明していますし、羊水や胎児成分に含まれるある種の化学活性物質による、アレルギー反応のような化学的な反応が起こっているのではないかともいわれています。

典型的な経過は、特に何の合併症もない妊婦が分娩(ぶんべん)中もしくは分娩直後に、突然の呼吸困難と胸痛を訴えて、あっという間に全身が黒くなってショック状態に陥り、意識を回復することなく、1時間以内に死亡するというものです。 ただ、初発症状の呼吸困難や胸痛が必ずあるわけではなく、急激な血圧低下などから発症することもあります。

肺の塞栓が軽度の場合には、血液が固まらず血が止まらなくなる播種(はしゅ)性血管内凝固症候群(DIC)を続発し、著しく出血します。分娩中に起こった場合などは、胎盤の剥離(はくり)面から大出血を起こすこともあります。

羊水塞栓症の検査と診断と治療

産科、産婦人科、婦人科の医師による治療は、急性ショック状態に対する救急処置、播種性血管内凝固症候群に対する薬物療法が主体となります。

呼吸困難で酸素が足りなくなるので、まず迅速に酸素投与が行われます。重症化している場合には、気管にチューブを入れる気管内挿管により、人工換気が行われます。 ショック状態に対しては輸液や循環改善薬の投与などが行われます。発症すると急速に症状が進行するので、高次医療への搬送が必須になるものの、手を尽くしても救命できないことも多いのが現状です。

確定診断にはバフィーコート法といって、妊婦の心臓の右心系の血液を採取して、胎児の皮膚や胎脂に由来する成分が含まれていないか調べる方法が用いられることもあります。

一般的には、羊水塞栓症で確定診断となるのは、そのほとんどが死亡した妊婦の剖検例です。剖検例では、肺の細かな血管の中に胎児成分が証明されます。生存例では迅速な診断法がないため、その特徴的な症状から推定して診断され、治療が行われます。

🇦🇪腰椎圧迫骨折

衝撃を受けて腰椎の椎体が圧迫され、押しつぶされるように変形する疾患

腰椎(ようつい)圧迫骨折とは、必要以上に強い衝撃を受けることによって、胸椎と腰椎の移行部の椎体が圧迫され、押しつぶされるように変形する疾患。

骨粗鬆(こつそしょう)症がある高齢者によくみられ、多くは第11胸椎、第12胸椎、第1腰椎、第2腰椎などの胸腰椎移行部に症状が現れます。骨が正常である成人男子にはまれな疾患で、高い所からの転落事故や交通事故、スポーツ中の事故などで、大きな力が脊椎(せきつい)の軸方向に加わった場合にしか起こりません。こうした事故の場合、胸腰椎移行部の椎体の圧迫骨折だけでなく、骨盤骨折や下肢骨骨折、臓器の損傷を伴うこともまれではありません。

しかし、骨粗鬆症がある高齢者では骨がもろくなっている状態のため、比較的軽い衝撃が加わっただけで、椎体の圧迫骨折が起こることがあります。多くが転倒によって生じますが、しりもちでも起こります。

症状としては、圧迫骨折が起こった部分の腰や背中に、痛みを覚えます。急性期には、寝返りや前かがみさえもできないほどの強い痛みを覚えます。これらの痛みは、体を動かした際、骨折部分に負担が掛かるために生じるものです。そのほかにも、押しつぶされた椎体の影響で後方にある脊髄神経が圧迫されると、下肢の痛みやしびれを伴うことがあります。

本来、折れた骨はくっついて固まるので痛くなくなりますが、骨粗鬆症が進んでいると、折れた部分が固まらない場合があります。この場合は痛みが残ったりして、安静にしている時には痛みは和らいでも、動こうとすると強く痛み、特に起床時などには痛みが激しく歩行が困難になり、次第に起き上がることすらも難しくなります。

また、症状が一度消失しても、骨折後数カ月が経過してから、腰や背中の痛み、下肢のしびれ、動きにくさなどの症状が出てくることがあります。

腰椎圧迫骨折の検査と診断と治療

 整形外科の医師による診断では、単純X線撮影を行っても特に変形を認められないこともあり、確定診断にはMRI検査が必要になります。MRI検査による画像では、圧迫骨折した胸腰椎移行部の椎体は出血により、ほかの椎体と違う濃度で描出されるため判別が可能となり、圧迫骨折の程度もわかります。また、脊髄神経に接している椎体後壁の骨折の有無で、脊髄神経への圧迫の有無がわかります。

整形外科の医師による治療では、下肢のしびれなどの神経症状がなければ、安静による保存療法が基本となります。脊髄神経に接している椎体後壁が折れていれば、陥没して骨片が脊髄神経に刺さったり、圧迫したりして、下肢のしびれやまひを起こすこともあるため、手術が必要になることもあります。

>安静による保存療法では、1カ月以上入院してベッド上で臥床(がしょう)して、腰に垂直方向の力をかけないようにし、椎体の骨を癒合させていきます。入院初期の段階では、腰椎圧迫骨折による痛みがあることも多く、鎮痛剤の投与や、体幹ギプス、腰椎軟性コルセットの使用などで治療を行います。また、長期臥床が原因で、運動不足になったり睡眠が不規則になったりするため、背中や肩の凝りや痛みを伴う場合もあります。

高齢者が長期間ベッドで安静にしていると、呼吸器や尿路系の感染を起こしたり、認知症を発症したり、急速に下肢の筋力が低下し、起立、歩行できるようになるまで、さらに長期間を要することもあります。

リハビリが開始されると、貧血に注意しながら、徐々に起立訓練や歩行訓練を行っていきます。この時期では、運動量増加に伴う疲労性の筋肉痛と、腰部周囲筋を中心に背筋群の筋肉が硬くなるスパズムの軽減のために、骨に影響がない程度の軽いマッサージを行うことで痛みの軽減が図れます。

近年では、腰椎圧迫骨折の急性期や、時間が経っても骨折部分が十分に治らず強い痛みが続く場合などに、骨セメントを椎体内に注入することにより骨折部を安定させて、手早く痛みを取るバルーン・カイフォプラスティ(バルーン椎体形成術、経皮的後湾矯正術)が行われるようになっています。

X線で確認しながら、圧迫骨折した胸腰椎移行部の椎体で風船(バルーン)を膨らませ、つぶれた骨をできる限り復元した後、風船によって作られた空洞に骨セメントを詰めます。極めて負担は軽く、かつ速やかに痛みが取れるため、1990年代にアメリカで開発されて以来、欧米では広く行われてきた手術方法で、日本でも2011年1月から保険診療として特定の施設で行うことが認められました。治療後の長期安静は不要で、早ければ手術の翌日に退院できます。

腰椎圧迫骨折を防ぐために最も大切なことは、転倒したりしないことです。そのためには、日ごろからできるだけ散歩などの運動をすること、外に出てさまざまな刺激を受け、はつらつとした気分を保つことです。室内に閉じこもってばかりいると、年を取るにつれて、運動能力や反射神経が減退するばかりでなく、骨粗鬆症も進行します。

🇦🇫腰椎すべり症

腰椎がずれて、背骨の中の神経を圧迫し、腰痛や下肢の痛み、しびれが生じる疾患

腰椎(ようつい)すべり症とは、腰に5つある腰椎の1つ、または複数が前後にずれて、背骨の中の神経を圧迫し、腰痛や下肢の痛み、しびれが生じる疾患。

腰椎は通常、簡単にずれたりしないようになっていますが、腰椎を連結している左右1対の椎間関節と呼ばれる背骨の関節が壊れたり、腰椎をつないでいる椎間板の異常などによってずれてしまうことがあります。

腰椎すべり症には、骨が後ろ側へずれる後方すべりと、骨が前側へずれる前方すべりがありますが、ほとんどは前方すべりです。その原因によって、形成不全性すべり症、分離すべり症、変性すべり症(無分離すべり症)の大きく3つのタイプに分けられます。そのほか、外傷によるすべり症や、腫瘍(しゅよう)や感染に基づく骨破壊によるすべり症が生じることもありますが、まれです。

形成不全性すべり症は、生まれ付き脊椎(せきつい)の発育に問題があるために起こります。非常にまれながら、比較的若いうちから症状が出てくることがあります。

分離すべり症は、腰椎分離症が原因でずれるものです。腰椎分離症は、腰椎の椎間板の付いている前方部分の椎体と、椎間関節の付いている後方部分の椎弓との間にある椎弓根が割れて、椎体と椎弓、つまり背骨の前方部分と後方部分の連続性が絶たれて離れ離れになった状態です。これにより、椎体が前方へすべるのが分離すべり症です。

 この場合、椎弓は後方に残ったままの形になるので、変性すべり症とは症状の出方が少し異なります。また、分離すべり症は、第5腰椎に多いのが特徴です。

腰椎分離症自体は、日本人の5~7パーセントくらいにあるといわれています。そのうちの一部が分離すべり症を発症しますが、椎弓根の大きさや靭帯(じんたい)の幅などの特徴によって、すべりやすい人とそうでない人がいるといわれています。

変性すべり症は、最も頻度が高いものです。第4腰椎が前にすべることが多く、第5、第3腰椎でもずれが生じます。

女性に多い疾患で、50~60歳くらいの閉経のころにかけて多く発症します。このことから、女性ホルモンの影響や、女性ホルモンの減少による骨粗鬆(こつそしょう)症の進行によって、それまで支えられていた骨が支えられなくなって、変性すべり症が起こると見なされています。

また、椎間関節の傾きが前方にすべりやすい形をしているので変性すべり症が起こるという説、あるいは、年齢とともに膝(ひざ)や股(こ)関節が悪くなるのと同じように腰椎も変性して変性すべり症が起こるという説もあります。ただし、詳しい原因はまだわかっていません。

症状は形成不全性すべり症、分離すべり症、変性すべり症のタイプによって違いがありますが、変性すべり症の主な症状は、腰痛、下肢痛、下肢のしびれです。腰椎がずれても安定していれば軽い症状が多いものの、不安定だと日常の行動でも、背骨の中にある神経がより刺激され、腰痛や下肢痛などが生じ、日によってよかったり、悪かったりします。

症状が進行すると、腰椎のずれによって神経組織が圧迫されて、腰部脊柱管狭窄(きょうさく)症と同じような状態になるので、足のしびれや痛みで歩けなくなり、一休みするとまた歩ける間欠性跛行(はこう)などの歩行障害、足のしびれや冷感、違和感などさまざまな下肢の症状を示すことがあります。

座っているなど安静時にはあまり症状が出ずに、立ったり、動いたり、長時間歩いたりすることによって、腰痛や下肢痛、下肢のしびれが増強するのが特徴です。さらに症状が進行すると、安静時でも痛くなるようになります。

また、変性すべり症の起こる部位は、馬尾(ばび)神経がまとまってある部分で、尿や便など排泄(はいせつ)の機能を支配している神経も通っているため、膀胱(ぼうこう)直腸障害を来すこともあります。さらに、会陰(えいん)部障害といって、股関節から陰部にかけての知覚障害やほてり感が出ることもあります。

症状が悪化する前に、整形外科の医師を受診し、病態を理解することも大切です。

腰椎すべり症の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、一般的には、体の正面と側面のX線(レントゲン)検査を行います。腰椎すべり症の人の中には、ふだんは何ともなく前かがみになると腰椎がずれという人もいるため、前屈位でのX線検査も行うこともあります。

腰椎分離症を合併していれば分離すべり症、骨盤の中心にある仙骨上縁のドーム化や分離、二分脊椎などの形成不全を合併していれば形成不全性すべり症、それらがなければ変性すべり症とされます。

圧迫されている部位、神経の圧迫の度合、腰椎すべり症以外の狭窄を詳しく調べるためには、MRI(磁気共鳴画像)検査を行います。ただし、このMRI検査も寝ている状態で行うので、動いている時の状態を調べるために、入院の上、脊髄造影検査やCT(コンピューター断層撮影)検査を行うこともあります。

腰椎すべり症と診断されても、すべり症以外の部位に狭窄が見付かるということも実際にあり、その場合は治療や手術の方法も違ってくるため、正確な診断が必要となります。

ほかの疾患との鑑別も、重要です。椎間板ヘルニアや、腰部脊柱管狭窄症などの脊椎疾患、閉塞(へいそく)性動脈硬化症という血管性の病変によっても、下肢痛やしびれ、歩行障害を来す場合があるからです。

整形外科の医師による治療では、軽い腰痛や下肢痛、しびれがある場合、コルセットで腰をサポートし、痛み止め、神経の循環を改善させる薬剤などを使います。

下肢痛がひどい場合には、神経ブロックを行って痛みを止める治療法が有効です。神経ブロックは、局所麻酔剤を用いて、神経の流れを一時的に遮断する治療法で、血液循環がよくなるとともに、神経の緊張が和らぎ、その神経が支配している領域の痛みを止めることができますす。これには、腰の左右に5から6対ある神経根に直接針を刺して局所麻酔剤を注入する神経根ブロックと、腰椎を覆っている一番外にある硬膜の外側の空間へ局所麻酔剤を注入する硬膜外ブロックがあります。

神経の圧迫や刺激がひどくなると、手術が必要です。手術では、神経の圧迫を取り除くため、腰椎の後方部分の椎弓を部分切除します。すべりの程度や不安定性が強い場合は、グラグラの部分を固める脊椎固定術を追加します。

脊椎固定術には、前方固定、後側方固定、後方椎体間固定などの方法があり、一長一短があります。固定術には、すべりの矯正、確実な骨癒合のために、脊椎にスクリューやワイヤーやロッドなどの金属を用いる方法が併用されています。

 予防では、日ごろから腰の使い方に気を付けて、負担のかからないよう配慮することが最も大切。腹筋、背筋の筋力や足のストレッチなどで体をほぐし、体の状態を良好に保つことも必要です。

🇦🇩腰椎椎間板ヘルニア

腰椎の椎間板の一部がずれて、神経を圧迫する疾患

腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニアとは、脊柱(せきちゅう)のうち腰部にある腰椎の椎間板の一部がずれ、神経を圧迫する疾患。頸椎(けいつい)、胸椎など、どこにでも発生する椎間板ヘルニアの1つです。

腰椎は、脊柱(背骨)のうちで腰の部分を構成する骨で、5つの椎骨からなります。上から第1腰椎、第2腰椎と呼び、一番下が第5腰椎。その椎骨の連結の主な部分は、前部の椎体と後部の脊椎関節突起で、前部の椎体と椎体の間にはそれぞれ椎間板が挟まっていて、クッションのような役割を果たしています。椎間板は円板状の軟骨組織で、中心部に髄核と呼ばれるゼラチン状の軟らかい組織があり、それを線維輪と呼ばれる丈夫な組織が取り囲んでいます。

体重や外部からの荷重が椎体に加わると、椎間板が分散して受け止めて次の椎体に伝え、ある程度弾力的に伸縮するために、背中や腰を曲げたり伸ばしたりすることができるような構造になっています。

ところが、椎間板には血管がないために、何かの具合で損傷を受けると、回復が遅い上に組織の老化的な変性が起こりやすく、そこに荷重が加わると線維輪に亀裂(きれつ)が入り、中にある髄核が脱出して腰椎椎間板ヘルニアを起こします。

脱出は前でも横でもどちらの方向へ出てもヘルニアですが、後方へ出たのが一番問題になります。後方の脊柱管には、脊髄ないし馬尾(ばび)神経と、それから枝分かれして末梢(まっしょう)へ分布する神経の根部があるため、ヘルニアによって圧迫されると激しい痛みやまひを起こすからです。

腰椎椎間板ヘルニアは、第4、第5腰椎間に起こることが最も多く、次いで第5腰椎とその下の仙椎間に多く認められ、10歳代の後半から30歳代までの比較的若い年齢層によく起こります。

切っ掛けとなるのは、重い物を持ち上げようとした時や、体をひねった時などです。腰がぎくりとして、そのまま立ち上がれなくなったというような急性腰痛症(ぎっくり腰)の症状で現れるのが一般的。また、顔を洗おうとして前かがみになった拍子とか、特別な動作をしないのに自然に起こることもあります。

初期は腰痛のみのことが多いのですが、次第に脚の痛みやしびれを伴ってきます。腰痛と左右どちらかの脚の痛みを現すことが多いのですが、時に両脚のしびれを来すことがあります。この脚の症状は、座骨神経を刺激することによって起こる座骨神経痛です。仰向けに寝て、ひざを伸ばしたまま痛む側の足を上げようとしても、痛みがひどくなって十分に上げられません。若年者の腰椎椎間板ヘルニアでは、脚の症状がなく腰痛のみのこともあります。

さらに症状が進むと、運動神経も障害されるようになり、脚の筋力が低下します。排尿障害、排便機能の異常が現れることもあります。

第4腰椎以下の下部腰椎部のヘルニアは、片側だけの症状にとどまることが多いのに対し、第3腰椎以上の上部腰椎部の場合は、両側に症状が起こることが多く、脊髄腫瘍(しゅよう)と同じような症状を現すことがあるので、その区別が必要になります。

腰椎椎間板ヘルニアの検査と診断と治療

腰痛だけではなく、脚の痛み、特にひざよりも先まで痛みがある場合は、整形外科を受診します。無理に腰椎部に外力を加えると、まひ症状が増悪することがあるので、安静を心掛けます。

医師による診断では、問診を重視し、腱反射異常、知覚障害、筋力低下などを検査して、どの神経が壊れているかを検討します。レントゲン検査で、腰椎のずれたり、ぐらぐらする状態や、椎間板の軟骨が磨り減り、つぶれた状態、脊髄を取り囲んでいる骨の状態などを検討します。

レントゲン検査では主に骨の情報しか得られないので、詳細な検討にはMRI検査が必要となります。近年は、MRI検査によって診断が容易になりましたが、無症候性のヘルニアが多数見付かる問題も生じています。症例によっては、脊髄腫瘍との見極めが必要となる場合もあります。

治療では、骨盤の牽引(けんいん)療法が効果的です。腰部の牽引と休止を繰り返すことにより、痛み、しびれを緩和します。局所の安静のためには、腰部のコルセットなども効果的です。

薬物療法としては、非ステロイド性消炎鎮痛剤、筋弛緩(しかん)剤、神経賦活剤、ビタミンB製剤などが投与されます。痛みが長期に渡って慢性化した場合や、心的因子やストレスが関与していると思われる場合は、不安や緊張の緩和と筋弛緩作用を期待して抗不安剤が投与されることもあります。速効性を要する時には、脊髄の硬膜外ブロック療法といって、脊髄の硬膜外腔(がいくう)に麻酔薬を注射し、痛みをとる方法が用いられます。

血行を促進し筋肉の凝りや痛みを軽減するためにホットパックなどの温熱療法、体操療法、腰部のストレッチング、筋力強化訓練などで改善が得られることもあります。

以上のような手術をしないで治す保存的療法で効果がない時には、脱出して神経を圧迫している髄核を摘出する手術や、その後の再発予防のために、骨を移植して2つの脊椎を癒着させて動かないようにする、脊椎固定手術などが行われます。移植する骨は、骨盤の骨でベルトのかかる部分に当たる腸骨から採取します。

🇬🇧腰椎分離症

腰に5つある腰椎の前方と後方の骨が分離して連続性が絶たれ、腰痛が生じる状態

腰椎(ようつい)分離症とは、腰に5つある腰椎の前方部分と後方部分の骨が分離し、連続性が絶たれた状態。主な症状は、腰痛です。

腰椎の椎間板の付いている前方部分の椎体と、椎間関節の付いている後方部分の椎弓との間にある椎弓根が割れて、椎体と椎弓、つまり腰椎の前方部分と後方部分の連続性が椎弓根の部分で絶たれて、離れ離れになった状態です。

腰椎分離症には、先天性のものと後天性のものがあります。先天性の腰椎分離症は生まれ付きのもので、分離以外にも椎体や椎弓の形態異常を認めることが多く、腰椎の1つ、または複数が前後にずれて、腰椎の中の神経を圧迫し、腰痛や下肢の痛み、しびれが生じる腰椎すべり症を生ずることがあり、注意が必要です。

後天性の腰椎分離症の多くは、骨も筋肉も成長途中で未熟な青少年期、特に10歳から14歳くらいで激しいスポーツなどを行い、繰り返し腰椎に負荷がかかったために、椎弓根が疲労骨折を起こしたために生じています。腰に重い負担がかかる激しい陸上運動や、激しい腰のひねり、強い屈伸や背屈を伴う運動が原因になることもあります。しかし、スポーツは原因の一つであり、体質的に骨が弱い要素もあります。

この腰椎分離症は、積み木のように重なっている腰椎の第4、第5腰椎に特に多く発症します。分離した腰椎とその下の腰椎の連結が椎間板だけとなるために、腰椎が不安定になります。不安定の状態で、筋肉や靭帯(じんたい)に腰椎を支えるための重い負担がかかると、炎症も起こりやすくなります。

最も多い症状は鈍く重い腰痛で、急性腰痛症(ぎっくり腰)のような急な痛みではありません。まれに、下肢の痛みやしびれを伴う場合があります。そのほかの症状としては、同じ姿勢を続けると腰が痛くなったり、背中を後ろに反らせる、座る、立つ、歩くのがつらいなどが一般的です。激しい運動中に腰が抜けるなどの症状も出ます。

腰椎に分離が生じると、これを修復しようと生体反応が起こり、分離部には肥厚した骨や線維性組織が形成されます。これらの組織が椎弓の関節突起部の真下を通る神経根を圧迫すると、下肢に痛みやしびれを生じさせることになります。背中を後ろに反らせると、分離部に圧迫が加わるために、痛みの程度がかなり増すことになります。

青少年で腰椎分離症を発症し、激しい痛みがないために安静にもせずに成人までほうっておいて、その後、痛みが出ることもあります。この成人の腰椎分離症の場合、同じ姿勢を続けたり、長時間の立ち仕事や重労働の後に腰の痛みが強くなります。痛みが強くなる原因は多くあり、場合によっては腰を曲げられなくなるほどの激しい痛みが強く出ることもあります。

腰椎分離症は、日本人の5~7パーセントくらいにあるといわれています。青少年のスポーツ活動で腰痛が出現する場合は、腰椎分離症を疑ってみることも必要です。腰椎分離がたまたま撮られたX線(レントゲン)検査により発見されても、全く無症状で痛みがない場合もあり、症状が軽度であれば心配する必要はありません。

しかし、腰痛とともに下肢の痛みやしびれがある場合は、整形外科で相談されることが勧められます。腰椎分離症を治療せず放置しておくと、大人になってから腰椎が前後にずれる腰椎すべり症などの慢性腰痛の原因になることもあるからです。

腰椎分離症の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、X線(レントゲン)検査を行えば、容易に腰椎分離症と確定できます。しかし、腰椎分離があっても、必ずしも症状を現しているとは限らないので、注意を要します。

そのほかの画像検査としてCT(コンピューター断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像)検査がありますが、これらは主に手術を前提に神経の圧迫の状態を調べたり、腰椎分離部をはっきりと観察するために行うことが多くなっています。

整形外科の医師による治療では、青少年の腰椎分離症の場合、急性期であれば6カ月ほどのコルセット着用で分離部の骨癒合が期待できます。この時に用いるコルセットは、整形外科で腰部の型をとって作るもので、市販のコルセットでの効果は確認されていません。

成人の腰椎分離症の場合、仕事中にコルセットを着用することによって、労働による腰痛の予防効果があります。

薬物療法では、痛みに対して消炎鎮痛剤や筋弛緩(しかん)剤などを用います。また、神経賦活剤や末梢(まっしょう)循環改善剤なども用いて、神経の修復を助ける働きを起こさせます。

そのほかの保存療法には、腰痛に対しての温熱療法を主とした理学療法や、下肢痛やしびれに対しての神経ブロック療法などがあります。

これらの保存治療でも症状が改善しない場合は、手術療法が選択肢に入ってきます。腰椎分離症では、椎体と椎弓の連絡性が途絶えた不安定な状態が原因なので、通常、脊椎固定術と呼ばれる手術が行われます。

固定術は不安定な腰椎同士を固定して動きをなくす方法で、最近ではチタン合金の固定器具が補助的に用いられるようになっています。特殊な例として、椎間板変性のない青少年の腰椎分離症に対して、分離部をつなぐ分離部修復術と呼ばれる方法も行われつつあります。

🇫🇷腰痛

腰痛を訴える人のほとんどは、デスクワークをしている人で車好きな人だといわれています。いすや車の座席に座りっ放しになると、体全体で支えるべき体重を腰の1カ所に集めてしまいます。そうすると、血液の循環が悪い腰部の椎間板というクッションに負担がかかり、神経が圧迫され痛みを感じるようになります。

それでも若いうちは、デスクワークの合間に一休みして、屈伸運動などをしていれば腰が軽くなってきます。ところが、ミドルになり、運動不足が高じてくると、背中の筋肉がこわばり、腰の周辺の筋肉が使われないために、腰を支える力が弱くなって痛み出すのです。 

●腰痛とは

 太古の昔、私たち人間の祖先が二足歩行を始めた時から、腰痛と人との関係はなかば宿命的なものとなりました。

地面に対して垂直に立った人の背骨は、上半身にかかる重力のすべてを支えなければならず、さらに、その負担は、少し前屈の姿勢をとったり、重い物を持った時などで大きく増えます。

 こうして常に重力というストレスに曝されている背骨が「もう、だめだ」と悲鳴を上げた状態が、「腰痛」です。

ただし、一口に腰痛といっても、実際に背骨に起こっている異常は、さまざまです。年齢によっても、特徴があります。20~30歳代は椎間板(ついかんばん)ヘルニアや腰痛症、脊椎(せきつい)分離症、40歳代以降は変形性脊椎症や骨粗鬆症が多くなります。このほか、内臓の病気や精神的ストレスから腰痛が起こることもあります。

1.背骨のしくみ

頭の骨を頭蓋骨、肩の前面にある骨を鎖骨というように、背骨は正式には「脊柱(せきちゅう)」、あるいは「脊椎(せきつい)」と呼ばれます。脊柱が曲がるのは、「椎体(ついたい)」と「椎弓(ついきゅう)」が組み合わされたものが重なってできているためです。

これらを連結しているのが、椎体と椎体の間にある「椎間板(ついかんばん)、椎間円板」、椎弓同士を連結している「椎間関節」、および、これらを補強するように走っている「靱帯(じんたい)」です。椎間板は軟骨でできており、椎骨にかかる衝撃を和らげるクッションの役割を果たしています。

 脊柱は、これらの小さな部品が巧妙に連結して作られているために、体を支え、曲げることもできるのです。 

さらに、椎体と椎弓の間には「椎孔(脊柱管)」という穴があり、神経の束である「脊髄」が入っています。脊髄は脳からつながっている中枢神経で、脊髄からはたくさんの脊髄神経が伸びており、脊髄神経は椎弓の隙間から出て体の各所へ走っています。

なお、脊髄は腰の辺りで終わるため、それより下の部分は脊髄神経が脊柱管の中を占め、少しずつ分かれて脊柱管を出ていきます。脊髄神経が脊髄から出たばかりの部分は「神経根(しんけいこん)」と呼ばれ、脊柱管の下部に入っている神経根はとくに「馬尾(ばび)」と呼ばれています。

椎間板や椎骨、椎弓には神経がないため、腰痛というのは、靱帯などの周囲の組織の神経や筋肉から発せられたメッセージということになります。

また、腰痛の原因となった腰の部分の脊柱(腰椎)の異常が馬尾などの神経根を傷めると、その神経が分布している筋肉が動かせなくなったり(筋力低下)、皮膚の感覚が鈍くなったり(感覚鈍麻)、腰から足にかけて痛みが走ったり(坐骨神経痛)します。 

2.腰痛の原因

 腰痛は、一般には姿勢の悪さや激しい労働や運動、老化が原因で背骨に異常が生じたために起こります。

しかし、その他にも、内臓の病気、あるいは精神的ストレスによって起こることもあります。腰痛を起こす原因は、実にさまざまなのです。 

●こんなことに気を付けよう-予防法

 腰痛を予防するためには、腰に負担をかけないよう、よい姿勢を心掛けることや、危険な動作をしないよう注意することが大切です。 

1.よい姿勢

日頃から、背筋を伸ばしたよい姿勢を心掛け、前かがみや反らしすぎの悪い姿勢にならないように気を付けましょう。特に腰に負担がかかるのは、椅子に腰かけた姿勢で重い物を持ち、20度おじぎをする姿勢です。 

2.動作に注意

床に置かれた重い物を移動する際に、両膝を伸ばしたまま、前かがみの姿勢で持ち上げるなどの動作は、禁物です。腰を落としてから、重い物をつかみ、腹筋に力を込めて、腰と膝で持ち上げるようにすれば、腰の負担は軽減できます。 

3.腰に優しい靴 

* つま先に余裕があり、足の指を締めつけない。

* 靴底が適度に厚く、着地の衝撃が膝や腰に響かない。

* かかとが高すぎず、安定している。 

4.腰痛体操と歩く習慣

腰痛体操の目的は治療というよりも予防が中心で、痛みがない時に腰痛の再発を防ぐために行います。この腰痛体操には、脊椎の配列を正しくして(姿勢をよくして)筋肉や靱帯のこわばりを解く運動と、脊椎を支える腹筋と背筋を強くする運動とがあります。

毎日続けることが大切です。運動すると、かえって悪くなるような場合はしてはいけません。いずれにせよ、腰痛体操を行う時は、医師と相談してから実施するようにしてください。

徒歩(ウォーキング)や水泳(クロール、背泳ぎ)も腰痛予防に役立つ運動です。特に、歩くことは腰に負担が少なく、気軽に筋肉を鍛えることができます。よい姿勢で、汗ばむ程度の速さで歩きましょう。腰をひねるゴルフや全身を屈伸するテニスのサーブなどは、腰痛持ちの人にはよくありません。 

5.太りすぎない・やせすぎない 

太りすぎは重い荷物を背負っているのと同じで、腰に負担をかけます。太っている人は、減量しただけで腰痛がよくなることも少なくありません。一方、やせすぎると、筋力が低下して背骨を支える機能が低下してしまいます。

 標準体重を保つことは、あらゆる病気の予防に大切なことなのです。 

6.骨を丈夫に

 若い時からカルシウムに富む食事をとり、適度な運動を続けることが大切となります。 

7.腰を冷やさない

 とりわけ、夏場のエアコンは要注意。冷気を直接、当てるのは最悪です。 

8.横になって休息する 

 できれば、1時間に10分くらい、横になって休息すると、自らの腰にとっては大助かりです。 

2022/07/15

🇬🇧腰部脊柱管狭窄症

腰椎の脊柱管が狭くなって中の神経が圧迫され、腰痛や下肢のしびれが起こる疾患

腰部脊柱管狭窄(せきちゅうかんきょうさく)症とは、腰椎(ようつい)の脊柱管の内部が狭くなり、中を通る神経が圧迫されて、腰痛や下肢のしびれが起こる疾患。

脊柱管の後方を構成する椎間関節や椎弓、靭帯(じんたい)などは、加齢により変性、肥厚します。また、脊柱管の前方を構成する椎間板も突出してきます。この結果、脊柱管に収められている馬尾(ばび)神経や、座骨神経の根本である神経根が、慢性的に圧迫を受けて、腰部や下肢に痛みやしびれが出てきます。

腰部脊柱管狭窄症は椎間板ヘルニアとともに腰痛の二大疾患の一つで、ヘルニアと異なり、加齢とともに症状を訴える人が増加し、病状も進行する傾向があります。生まれ付き脊柱管が狭いことも素因になりますが、必ずしも症状が出るというものではありません。こうした素因に、加齢による変形性腰椎症や腰椎すべり症などが加わると、腰椎の脊柱管の狭窄状態が起こることになります。

特に、若いころから腰に負担がかかる職業に携わってきた人や、逆にあまり筋肉を使わずにいたために筋力が低下している人が、なりやすい傾向があります。

また、腰部脊柱管狭窄症には脊柱管の狭窄の場所などにより、脊柱管の中心部で圧迫を受ける中心型と、脊柱管の外側で圧迫を受ける外側型、一本一本の神経が出て行く椎間孔というトンネルで圧迫を受ける椎間孔型の三タイプがあります。中心型は馬尾神経が圧迫され、外側型と椎間孔型は神経根が圧迫されます。

中心型の典型的な症状は、歩行とともに下肢のこわばりやしびれ、脱力が出現します。歩けなくなるほどですが、しばらく座ったり、しゃがんだりして休むとまた歩けるようになるという間欠性跛行(はこう)の症状を繰り返すことが特徴です。間欠性跛行は立ったり、歩いたりことで構造上、腰椎の脊柱管が一層狭くなって神経を圧迫するために起こり、体が前かがみになると脊柱管がやや広くなり、神経圧迫は解除されて症状はなくなります。背筋を伸ばして歩けなくなっても、自転車ならいくらでもこげるという場合もあります。

中心型では、足にまひを起こしたり、排尿障害、排便障害を伴う場合もあります。 外側型と椎間孔型では、片方の下肢に中心型と同じような症状が現れ、椎間板ヘルニアでみられるような座骨神経痛も現れます。通常は、三タイプが単独、または複合して神経症状が出てきます。

 間欠性跛行がある場合は、整形外科を受診することです。年齢のせいと考えて放置すると、どんどん症状が進行することがあります。とりわけ、両脚のしびれや、まひがある場合は、重い症状であると認識することが必要です。

整形外科の医師による診断では、主にX線検査やCT、MRIで腰部の脊柱管狭窄があるかどうかを検査しますが、狭窄があるから症状が必ず出るとは限りません。本当に腰部脊柱管狭窄症が原因であるかどうかを確かめるためには、他の疾患と鑑別する必要があります。

この疾患は高齢者に多いために、変形性膝(しつ)関節症のような脚の関節の疾患や、閉塞(へいそく)性動脈硬化症のような血管の疾患でも、同様な症状が出ます。これらの疾患を除外し、さらに腰椎の神経に麻酔薬を注入する神経ブロック注射を行うことにより、一過性にでも症状がなくなることが認められれば、診断の確定が可能となります。

整形外科の医師による治療では、まず姿勢や日常生活の指導を行い、神経を圧迫するような姿勢や動作を避けてもらいます。例えば、背中を反らせる姿勢は脊柱管をより狭くして、神経を圧迫するため、脊柱管を少し広くするために、歩く際に前かがみの姿勢を心掛けてもらいます。杖(つえ)やカートを使ったり、自転車に乗るなど日常生活を少し工夫することでも、かなり症状を軽減できます。

痛みを除くためには、消炎鎮痛薬や血流改善薬などを使用します。薬で痛みが改善しない場合は、神経ブロック注射が有効です。神経ブロック注射を数回行うことで症状が消えることもあります。加えて、コルセットを装着したり、腰の牽引(けんいん)療法や温熱療法、腰痛体操などの運動療法を併用して治療します。

このような保存的治療を3カ月ほど行っても症状が改善しない場合や、排尿障害や排便障害を伴う場合には、手術的治療が考慮されます。手術的治療の基本は、脊柱菅を狭くしている部分の骨を背中側から削り、神経の圧迫を取り除くこと。手術方法には、開窓術、椎弓切除術、脊柱管拡大術などがあり、神経の圧迫の受け方により選択されます。

🇫🇷溶連菌感染症

溶連菌がのどに感染して起こる疾患の総称で、イチゴ舌が特徴的な症状

溶連菌感染症とは、A群β溶血性連鎖球菌、略して溶連菌という細菌がのどに感染して起こる疾患の総称。溶連菌はよくいる有り触れた細菌の一つです。

一般的に乳児が感染することは比較的少なく、感染したり発症したりするのは幼児や学童が中心で、幼稚園や小学校で秋から春にかけて、溶連菌感染症が集団発生することもあります。

すでに感染している人の近くにいたり、感染者のせきから出た空気中の溶連菌を吸い込んだりすることで感染します。潜伏期間は1日~7日とされ、38〜39℃の突然の発熱で始まり、のどが痛みを伴って真っ赤にはれます。そのほかの症状としては、吐き気、嘔吐(おうと)、頭痛、腹痛、筋肉痛、関節痛、中耳炎、首のリンパ節のはれなどがあります。この段階では、風邪との区別が付きません。

発熱から半日~2日後になってから、直径1ミリぐらいの赤くてやや盛り上がった発疹(はっしん)が、かゆみを伴って現れます。発疹は首、胸、わきの下などに現れ、少しずつ増えて全身が赤く見えるようになります。顔はほおだけが赤く目立ち、口の回りには発疹は出ないのが、一つの特徴です。3日~4日後には、舌がイチゴのように赤くプツプツするようになります。これをイチゴ舌と呼びます。

合併症がなければ1週間前後で解熱し、発疹も3〜7日で消えて一般状態もよくなります。2〜3週間ほどで、指先、わきの下の皮がむけ、手のひら、足の裏が膜のように大きくむけることがあります。発疹が軽快すれば、跡は残りません。

また、溶連菌の中でも特殊な毒素を出すタイプに感染すると、高熱とともに全身の皮膚に赤い発疹が強く出ます。これがいわゆる猩紅(しょうこう)熱で、昔は死亡することもある疾患として恐れられ、明治時代に法定伝染病に指定されて、発症すると隔離されました。現在では抗生物質を正しく使用し、合併症を予防すれば完治が可能となったことから、1999年に施行された感染症新法により、法定伝染病ではなくなりました。そのため、一般の溶連菌感染症の一つとして扱われています。

注意の必要な合併症には、急性腎炎(じんえん)、高熱と関節の痛みといった症状が出るリウマチ熱、アレルギー性紫斑(しはん)病などがあります。治療を行わなかった場合、これらの合併症は症状が治まってから1〜2週間後、感染者の2~3パーセントに現れます。顔のむくみ、赤い尿、動悸(どうき)、息切れ、関節痛などの症状が現れた場合も、注意が必要です。 

溶連菌感染症の検査と診断と治療

高熱や発疹のある場合はもちろん、のどのはれが2日以上治まらない時は、早めに小児科などの医療機関を受診します。なお、高熱や発疹などの特徴的な症状が現れるのは4歳以上の場合が多く、乳児の場合は軽症で、単なるのど風邪の症状のみであることがあります。

多くの場合は、臨床症状で診断が可能です。最近は、のどの抗原の迅速検査が、外来診断の主流となっています。確実に診断するには、のどや鼻の粘膜から綿棒で採取した検体の培養検査、血液による抗体の検査が必要となります。

医師による治療では、溶連菌に有効なペニシリン系の抗生物質を内服で用いるのが一般的です。ほかに、鎮咳(ちんがい)剤や去痰(きょたん)剤などのいわゆる風邪薬を併用することもあります。発熱に対しては、必要に応じて解熱剤を内服します。皮膚のかゆみに対しては、抗ヒスタミン薬の内服、または軟こうを使用します。

数日で抗生物質の効果が現れて、熱が下がり、発疹も目立たなくなります。皮膚は乾いて、皮がむけます。

しかし、症状が改善されても、溶連菌はのどに残っていることがあるので、再発や他人に感染させる可能性があります。急性腎炎やリウマチ熱などの合併症を予防するためにも、2週間程度は確実に抗生物質の服用を続けることが大切となります。

症状が改善した後も、2週間~3週間後に尿の中に血液が混じっていないかを検査し、完全に治ったかどうかは、抗生物質の服用をやめてから、のどの粘膜の培養検査をして確かめる必要があります。繰り返しに感染する可能性もありますので、侮れません。家族内で感染する例も30〜50パーセントあることにも、注意が必要です。

 薬を飲んでいる間は、安静を保ち、うがいと手洗いをしっかりと行い、なるべく刺激の少ない食事を取るように心掛けます。のどの痛みが強ければ、無理に食べなくてもかまいません。

🇪🇸抑うつ状態

私たちの気分が落ち込み、憂うつになる状態を指します。集中力や注意力がない、疲れやすい、眠れない、寝すぎる、食欲がない、食べすぎる、自分を責める、自信を喪失する、将来を悲観的に見る、自傷または自殺したい気持ちになるなど、いろいろな症状がみられます。

さまざまな出来事がきっかけになって、抑うつ状態は起こります。身内やペットの死、仕事や学業上の重大なトラブルなどは、周りの人も比較的気が付きやすい原因ですが、ストレス社会の中で生きている現代人にとっては、日常的にも気分的にめいるような小さな事件が少なくありません 。

しかし、多くの人は、自力で、または時間の経過に伴って、抑うつ状態から抜け出すことができます。不可能な人は、うつ病などの病気の可能性があります。長く症状が続いて、生活に支障が出ている場合は、精神科の受診が勧められます。

🇩🇪翼状陰茎

陰茎の腹側の皮膚と陰嚢の前面の皮膚が融合し、翼状を示す奇形

翼状陰茎とは、男性の陰茎の下側と陰嚢(いんのう)の上側の皮膚がくっついている状態。

先天的な形質状の奇形で、胎児期の皮膚の発生において、陰茎の下側の皮膚の欠損が生じ、陰嚢の上側の皮膚と融合することによって発症すると考えられています。

陰茎を持ち上げると、接着した部分が翼状あるいは水かき状の外観を示します。その結果、陰茎が小さく見えたり、陰茎が陰嚢に埋もれて見えたり、陰嚢が陰茎にぶら下がって見えたりすることがあります。

陰茎からの排尿など機能上の問題は少ないものの、尿道下裂、尿路奇形、尿路感染症、精巣上体炎などを伴うことがあります。

尿道下裂は、尿道の出口が陰茎の先端になくて、陰茎の途中や陰嚢などにある状態で、陰茎の上側の包皮が過剰なため、陰茎が下に向くことが多い先天的な尿道の奇形です。精巣上体炎は、陰嚢内に左右各1個あって卵形をしている精巣の上面、および後面に付着している精巣上体に、炎症が起こる疾患です。

翼状陰茎の問題の主体は、美容上です。多感な幼少期に、周囲の子供と陰茎の形状が異なることは、本人にとって十分な心的外傷(トラウマ)になり得ます。そのためにも、翼状陰茎の発症者に対しては、周囲の十分な配慮が必須です。

また、生殖年齢になっても翼状陰茎が自然に消失していない場合、病状によってはパートナーの女性との性行為の際に陰茎を膣(ちつ)に挿入することが困難となり、性交困難症を二次的に引き起こす可能性もあります。

翼状陰茎の多くは、両親などが異常に気付いて、小児泌尿器科、泌尿器科を受診します。大多数は成長に伴う改善が期待できますが、高度な場合は医師による手術を要します。

翼状陰茎の検査と診断と治療

小児泌尿器科、泌尿器科の医師による診断では、生下時からのエピソードの問診、陰茎の外観の観察による視診、ならびに触診を行います。画像診断などを行わなくても、ほとんどは容易に判断されます。

診断に際しては、矮小(わいしょう)陰茎(ミクロペニス)、埋没陰茎などとの鑑別を行います。

小児泌尿器科、泌尿器科の医師による治療では、翼状陰茎は成長に伴い、正常化することが多いとされているものの、生下時より異型性が非常に強い場合や、成長に伴う改善が十分にみられなかった場合、生殖年齢になって性交困難症を示すような二次的な実害がある場合においては、形成手術を施行します。

形成手術では、陰茎に付着している部分で陰嚢の皮膚を横に切開して、陰茎、陰嚢の両方とも皮膚を縦に縫合することで形成します。基本的には局所麻酔でも実行可能な、体への負担の少ない手術です。

尿道下裂を伴っている場合は、包皮を用いて尿道の出口を新しく作り、曲がった陰茎をできるだけ真っすぐにし、必要なら亀頭の形成も行います。

成長に伴う翼状陰茎の改善を待つ場合、多感な幼少期に形質の違う性器を持っているというで、深い心的外傷(トラウマ)を形成する可能性もあります。性器に関連した深い心的外傷(トラウマ)は、三次的な実害として、心因性(機能性)勃起障害(ED )を引き起こしかねないので、十分な注意が必要です。

医師による心因性勃起障害の場合の治療は、カウンセリング、性的教育などが主体となりますが、薬物療法を用いることもしばしばあります。

🇨🇳翼状片

結膜が伸びて、角膜に侵入してくる眼疾

翼状(よくじょう)片とは、白目の表面を覆う結膜が伸びて、黒目の表面を覆う角膜に侵入してくる疾患。しばしば両目に起こります。

>普通、鼻側の白目の表面を覆う結膜から、まれに耳側の白目の表面を覆う結膜から、黒目の表面を覆う角膜に向かって、少し赤みのある三角形の膜状の翼状片ができ、三角形の頂点を角膜の中央に向け、徐々に進んでいきます。角膜は翼状片が進んでくる方向へ引っ張られ、角膜の乱視が出現します。

この翼状片は、結膜の下にある線維芽細胞が必要以上に増えて、角膜へ入り込んできたために生じたもので、結膜は巻き込まれて角膜へ入ってきます。血管が豊富な結膜が、本来血管のない部位の角膜に入るため、黒目の部分が充血したように赤く見えます。

まれに耳側と鼻側の両側の結膜から、角膜に翼状片が侵入してくる場合もあり、角膜の中央に侵入が及ぶと、視力を著しく損ないます。ひどい場合は、両側から侵入した翼状片が橋のようにつながることもあります。

自覚症状としては、充血や異物感などがあります。痛みはありません。徐々に侵入していく翼状片は、鏡を見ると自分でわかります。

原因は不明ですが、中年以後の野外労働者や高齢者に多くみられ、緯度の低い地方、日本なら沖縄県に多い傾向があるため、発生には紫外線が関係しているといわれています。

目の外傷、熱傷、角膜潰瘍(かいよう)、酸やアルカリが目に入った場合などの回復過程でも、翼状片に似た症状が出現することがあります。これを偽翼状片と呼びます。

翼状片の検査と診断と治療

翼状片は徐々にしか進行しませんが、症状に気付いたら眼科の専門医の診察を受けます。

医師は、細隙(さいげき)灯顕微鏡による検査で容易に診断できます。

翼状片自体は悪性の組織ではなく、症状がなければ放置しても問題はありませんが、充血や異物感が強い場合は、点眼薬などによる治療を行います。点眼薬治療で翼状片が退縮することはなく、進行すれば手術をして切除する以外に治療法はありません。

異物感やごろつくといった自覚症状がある場合、数カ月間点眼薬治療で様子をみても充血が減少しない場合、翼状片の角膜中央への進行によって角膜の乱視が生じた場合が、手術の対象となります。

黒目の表面を覆う角膜の周囲から中央までの中間点に、翼状片の先端が近付いた時期が、手術には適しています。翼状片の先端が角膜の中央の瞳孔(どうこう)付近にまで及ぶと、手術してもよい視力が得られないことがあるためです。

手術では、局所麻酔をして、角膜に侵入した翼状片組織とその根元の結膜自体を切除します。この時、角膜自体も表層が混濁しているため、薄く切除する必要があります。手術時間はおよそ20分程度で、入院の必要はありません。

問題は、手術後再発するケースが少なからずあること。翼状片は結膜の下の線維芽細胞が増えすぎたために起こる疾患ですから、翼状片組織を手術で切除しただけでは、時間がたつと線維芽細胞が再び増殖する可能性が高くなります。翼状片組織をを単純に切除しただけでは、再発率は3割から5割までに及び、多くは手術後3カ月以内に再発します。

そのため、翼状片組織を切除だけでなく、再発を予防する方法が必要となってきます。再発を少なくするため、マイトマイシンという一種の抗がん剤を用いることもあります。手術中に3分間、マイトマイシンを点眼し、後はきれいに洗い流します。再発率は確実に減少するものの、角膜や、目の外側を覆っている白色の膜である強膜に対する毒性に気を付けなければなりません。

再発を少なくするため、放射線を用いることもあります。がんの治療に用いられている放射線を手術に応用し、翼状片組織の切除後に線維芽細胞が増えすぎないように、放射線を照射します。

現在のところ、マイトマイシンを用いても、放射線を用いても再発率をゼロにすることはできません。特に、年齢が50歳以下のケースでは、再発率が高いため、注意が必要です。

また、手術方法自体もいろいろ工夫されています。主として結膜を切除した欠損部に、ほかの場所の健常な結膜を移植する結膜弁移植、自己結膜移植などといわれる方法ですが、こちらも再発率はゼロには至っていません。

手術翌日、眼科で手術した部位をチェックしますので、外来を受診します。手術後は、感染、炎症を抑えるために点眼剤、眼軟こう、内服剤を使います。手術後に痛みが出る場合には、鎮痛剤を内服します。手術に用いる糸は自然に溶けていくものが用いられていますが、必要に応じてある程度の時期で抜糸します。

偽翼状片の治療は、翼状片に準じて行われます。

2022/07/14

🐞横川吸虫症

横川吸虫が小腸に寄生することで引き起こされる寄生虫病

横川吸虫症とは、横川吸虫が小腸に寄生することで引き起こされる寄生虫病。横川吸虫という名前は、台湾のアユから初めてこの寄生虫を検出した医学者、横川定にちなんでいます。

横川吸虫の幼虫は淡水魚のうろこの下や筋肉内に寄生していて、幼虫を持つ淡水魚を生、または加熱処理が不十分な状態で食べると感染します。最も重要な感染源はアユで、シラウオ、ウグイ、ヤマメ、フナ、コイなどにも寄生しています。

横川吸虫の成虫が寄生している小腸で産み落とした虫卵は、糞便(ふんべん)とともに水中や土壌中に流出しても、孵化(ふか)しません。第1中間宿主(しゅくしゅ)で、湖沼や低湿地に生息する巻貝の一種、カワニナに摂食されると、消化管内で孵化してセルカリアに成長、さらに第2中間宿主の淡水魚に入り、メタセルカリアに成長します。これを人が食べると、小腸に感染して成虫にまで成長します。

幼虫のメタセルカリアは直径約0.1ミリの球形で、肉眼では見えません。成虫は体長が約1ミリで、小判型をしていて、雌雄同体です。

少数が小腸粘膜に寄生しても、ほとんど自覚症状はありません。成虫が多数が寄生すると、下痢、軟便、粘血便、腹痛などを起こします。慢性カタル性腸炎を起こすこともあります。

日本における感染者は、アユ漁の盛んな島根県高津川流域やシラウオ漁の盛んな茨城県霞ケ浦周辺の住民に多くみられます。都市部では、こうした比較的高価に流通している淡水魚を刺身や握りずしなど、非加熱で食べる機会の多い裕福な階層や、アユ釣りの愛好家に多くみられます。

横川吸虫症の検査と診断と治療

ほとんどの場合、深刻な自覚症状がないので、検便で偶然に横川吸虫の虫卵が見付かっています。

医師による診断は、便の中から虫卵を検出することで確定します。しかし、横川吸虫が感染していても、成虫が自然に排出されて虫卵が検出されなくなることもあります。血清検査は行いません。

治療は、早朝空腹時に駆虫剤のプラジカンテル(ビルトリシド)を投与し、約2時間後に下剤を与えて排出を促します。

予防のためには、淡水に生息する魚を生、または加熱処理が不十分な状態で食べないことが大切です。横川吸虫はアユやシラウオに高率に寄生していますが、ほかにも多くの種類の淡水魚に寄生していることが知られています。

🤱4pモノソミー

4番染色体の短腕の一部分が欠損していること、また、それが原因で引き起こされる重度の先天性障害

4p(よんぴー)モノソミーとは、22対ある常染色体のうち、4番染色体の短腕(4p)の一部分が欠損していること、また、それが原因で引き起こされる重度の先天性障害。4p欠失症候群、4pー(まいなす)症候群、ウォルフ・ヒルシュホーン症候群とも呼ばれます。

常染色体は性染色体以外の染色体のことであり、人間の体細胞には22対、44本の常染色体があります。それぞれの常染色体はX型をしていて、短腕(p)と長腕(q)という部分があり、4番染色体の短腕の一部分が欠損している状態が、4pモノソミーに相当します。

4pモノソミーは、常染色体の一部分が欠けている常染色体部分モノソミーの一種で、常染色体部分モノソミーが起こった場合は、胎児が生きて生まれても知的障害を含む重い先天性障害を併発します。通常、2本で対をなしている常染色体が1本になる常染色体モノソミーが起こった場合は、胎児が生きて生まれることはできません。

4pモノソミーの主な原因は、突然変異による4番染色体の変化が原因で、欠損が短腕の約半分に及ぶものから、欠損が微小なものまであります。なぜ突然変異が起こるのか、どの遺伝子がどの症状と関係しているのかまではわかっていません。

まれに、両親からの遺伝が原因で起こります。転座といって、ほかの染色体の一部分が4番染色体の短腕に間違ってくっついていることにより起こり、この場合は両親の片方が染色体異常の保因者であることがあります。

従来、5万人に1人程度の新生児に4pモノソミーが発症するとされてきましたが、医師に誤診されていたり、認識されていない発症者もいることから、頻度はもっと高いと推測されます。

4pモノソミーの新生児は、鼻筋の高く通った幅広い鼻や、弓状の眉毛(まゆげ)、両眼隔離、小さい顎(あご)などを特徴とする顔立ちをしています。また、子宮内から始まる成長障害、重度精神遅滞、筋緊張低下、難治性てんかん、ほ乳障害、摂食障害を認めます。そのほかにも、骨格異常、先天性心疾患、聴覚障害、視神経異常、唇裂口蓋(こうがい)裂、尿路奇形、脳の構造異常などの症状を示します。

体重の増加もゆっくりで精神と運動の発達遅滞がみられますが、個人差はあっても年齢とともに、食事、着衣、脱衣など日常の家庭内での単純な作業の分担もできるようになります。疾患自体による生命予後は比較的良好で、個々の予後は合併症の重症度によります。

4pモノソミーの検査と診断と治療

小児科、遺伝科の医師による診断は、特徴的な顔立ち、成長障害、精神遅滞、てんかん発作により疑いを持ち、染色体検査により4番染色体の短腕欠損を検出することにより確定します。大人になってから4pモノソミーと診断されたり、子供のうちに診断される数は増えています。

小児科、遺伝科の医師による治療は、対症療法が基本となります。てんかんのコントロールが最初の重要な治療で、抗けいれん薬(バルプロ酸など)を投与します。嚥下(えんげ)障害があれば、経管栄養や摂食訓練が必要となることもあります。

精神遅滞のためにコミュニケーションが困難ですが、仕草や表情である程度の意思疎通は可能で、運動発達、認知、言語、社会性の能力を伸ばすための訓練を行います。

骨格異常、先天性心疾患、聴力障害、眼科的異常などの合併症に対しては、標準的な対症療法を行います。

🟧RSウイルス感染症が「流行入り」 静岡県が注意呼び掛け

 静岡県は26日、直近1週間(15~21日)のデータから「RSウイルス感染症が流行入りしている」と発表しました。定点医療機関となっている小児科1カ所当たりの患者数は1・64人で、県が流行入りの目安としている「1人」を大きく上回りました。前週の0・9人よりも8割増加し、急拡大が懸...