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2022/09/11

🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿知覚異常性大腿痛

大腿の感覚をつかさどる神経が傷害されて、痛みなどが生じる神経痛の一つ

知覚異常性大腿痛(だいたいつう)とは、大腿の前面と外側の感覚をつかさどる外側大腿皮(がいそくだいたいひ)神経が傷害されて、痛みなどが生じる神経痛の一つ。外側大腿皮神経痛、大腿外側皮神経痛とも呼ばれます。

外側大腿皮神経は第2、第3腰椎(ようつい)から出て前方へ向かい、腰の部位で急激に曲がって鼠径(そけい)部の辺りから皮膚の下に出て、大腿の前面と外側の皮膚に分布します。そのため、腰椎部で神経が圧迫された時に、大腿の周辺に痛みや知覚異常が生じることがあるほか、外側大腿皮神経が鼠径靭帯(じんたい)を貫通する骨盤の前上腸骨棘(こっきょく)部で筋肉や靭帯により圧迫された時にも、大腿の周辺に痛みや知覚異常が生じることがあります。

前上腸骨棘部で外側大腿皮神経が圧迫された時には、股(こ)関節の位置や格好で症状が生じたり、治まったりすることもあります。コルセットの着用、窮屈な下着やズボンの着用、べルトの締めすぎ、自動車のシートベルトの締めすぎなどにより、前上腸骨棘部で外側大腿皮神経が圧迫された時にも、痛みや知覚異常が生じます。

また、肥満、妊娠により骨盤周囲の筋肉の緊張が強くなることで、外側大腿皮神経が障害されることもあります。妊婦においては胎児が正常な位置にいない場合に、知覚異常性大腿痛としてしびれが出ることもあります。鼠径ヘルニアの手術や股関節の手術の後に、一時的な外側大腿皮神経の圧迫により障害されることもあります。

症状は、大腿の前面から外側にかけて、ヒリヒリと痛んだり、しびれが出たり、知覚が鈍くなったりします。服が皮膚にこすれるのが苦痛になることもあります。しかし、外側大腿皮神経は感覚だけをつかさどる神経で運動をつかさどらないため、足がまひして上がらなくなったり、歩行に支障を来すことはありません。大腿の内側や膝(ひざ)より下に、症状が出ることもありません。

知覚異常性大腿痛の多くは、姿勢や動作によって症状に変化がみられます。

骨盤の前面を走る前上腸骨棘部で外側大腿皮神経を直接圧迫することによって、痛みが憎します。起立や歩行時は、外側大腿皮神経が牽引(けんいん)気味になり痛みが増します。

股関節の伸展は、外側大腿皮神経を牽引し痛みが増します。反対に、股関節を深く屈曲することでも、外側大腿皮神経自体を圧迫し痛みが増します。うつぶせに寝ている時は、外側大腿皮神経が軽く圧迫され、股関節が伸展されるので痛みが増強する傾向があります。仰向けに寝て軽く膝(ひざ)を曲げている時は、痛みが軽減します。

案外多い病態ですが、正確な診断を受けていないことが多いようです。もし、知覚異常性大腿痛の症状に思い当たることがあれば、整形外科、神経内科の医師を受診することが勧められます。

知覚異常性大腿痛の検査と診断と治療

整形外科、神経内科の医師による診断は、特徴的な症状と、前上腸骨棘部の周囲で軽く皮膚の上をたたくと大腿の前面と外側に響くようなしびれと痛みが出るチネルサインで判断します。念のために、腰椎や骨盤のX線写真、MRI検査などで、変形性腰椎症や腰椎椎間板ヘルニアなどの疾患がないかどうかをチェックします。

坐骨(ざこつ)神経痛との鑑別が必要ですが、しびれなどの場所が坐骨神経痛と知覚異常性大腿痛では違いますので、鑑別は簡単です。坐骨神経痛では、尻(しり)から大腿の裏側、下腿などにしびれや痛みが出ます。

整形外科、神経内科の医師による治療は、外側大腿皮神経を圧追する原因を取り除くことが第一です。体重を減らすことや、骨盤部の矯正、窮屈な下着やズボンの着用の禁止などが、効果を発揮します。

また、消炎鎮痛剤の内服、外用を行い、痛みが強い場合は局所麻酔薬を注射して痛みを和らげる神経ブロックを行います。この場合、1 回の注射では一時的に症状が緩和しても、数時間から1日で元の症状に戻ったりしますので、何回か注射を繰り返すこともあります。局所麻酔薬と一緒に、ステロイドホルモン剤という炎症を抑える薬を注射することもあります。

腰椎部で神経が圧迫された時には、脊髄(せきずい)の周囲の硬膜外腔(がいくう)に局所麻酔薬を注射して、神経の痛みを和らげる硬膜外ブロックを行います。

症状が治まらず、日常生活に支障を来す場合は、外側大腿皮神経を剥離(はくり)、または切離する手術を行うこともあります。炎症を起こした神経は周囲の靱帯や筋肉と癒着した状態にありますので、その癒着を手術で解き放つのを剥離、神経そのものを切除して痛みを感じなくするのを切離といいます。

2022/08/18

🇼🇸近目

遠くがはっきり見えず、近くがよく見える目の状態

近目(ちかめ)とは、遠方からの平行光線が網膜よりも前で像を結ぶために、遠くの物がはっきり見えず、近くの物がよく見える状態。近目は俗語で、医学用語としては近視を使うほか、近眼(きんがん)、近視眼とも呼ばれます。

角膜や水晶体の屈折力と、角膜頂点から網膜までの長さである眼軸(がんじく)長との相対関係において、屈折力が強すぎるか、眼軸長が長すぎるために、近目が起こると考えられています。角膜や水晶体の屈折力が強すぎるために起こる近目は、屈折性近視と呼ばれます。眼軸が長すぎるために起こる近目は、軸性近視と呼ばれます。大部分の近目は、軸性近視です。

近目の原因は現在のところ、よくわかっていませんが、遺伝的な要素と環境的な因子が関係すると考えられています。

眼軸の長さは、成長に伴い伸びていきます。新生児は眼軸の長さが短く、生まれた直後には軽い遠目(とおめ)、すなわち遠視の状態になっています。遠目とは網膜の後方でピントが合うため、遠くを見る時はもちろん、近くを見る時も調節しないとはっきり見えない目のことですが、新生児は角膜や水晶体の屈折力が強くなっているので、それほどひどくはありません。

眼球の発達とともに、眼軸の長さが伸びると角膜や水晶体の屈折力が弱くなり、全体のバランスが調整されるようになって、屈折異常のない目である正視になっていくことが多いものです。しかし、これらのバランスが崩れると、近目になると考えられています。

親が近目の場合、子供が近目になる可能性は比較的高く、遺伝的な要素が複雑に絡んでいると考えられます。一般的な近目の場合、環境的な因子も影響すると考えられています。勉強、読書、テレビ、コンピューターゲームといった近くを見る作業を長く続けていると、目が疲れ、好ましくないのはいうまでもありません。しかし、こういったことが近目の原因になるかどうか、はっきりした証明はありません。

近目は、適当な凹レンズの眼鏡、コンタクトレンズで矯正すれば、正視と同じように遠くの物も見えるようになります。

凹レンズで矯正しても、子供が遠くも近くも見にくくしているようであれば、病的近視の可能性があります。近目のごく一部である病的近視は、幼児期の段階から始まって進行します。眼軸が異常に長くて近目の度が強いため、眼鏡をかけてもあまりよく見えるようにはなりません。

また、眼球がかなり大きくなっているため、網膜が引き伸ばされて非常に薄くなっており、目をちょっと打っただけで、網膜の中心部がひび割れや出血によって委縮したり、網膜が眼底からはがれてくる網膜剥離(はくり)などの症状を起こします。このような病的近視は、発生する原因がまだ不明で、遺伝が関与しているともいわれます。

なお、近目のごく始まりの状態を仮性近視、あるいは偽近視といいます。若年者が照明や姿勢の不良のもとで、長い時間続けて本を読むなど、目を近付けての作業を続けた際、近目になりかけの状態のまま、毛様体筋という調節に関係する筋肉の緊張が続き、軽い近目状態になっているものです。

仮性近視の場合は、時々作業を中止して遠方を見て、目を休める必要があります。また、正確な屈折検査を受け、必要なら眼鏡、コンタクトレンズを使用します。

近目の検査と診断と治療

大部分の近目(近視)は疾患ではなく、遠くが見えにくいだけの普通の目です。現代社会では、近くを見る作業が多いため、近くがよく見える近目が有利な場合もあります。日ごろから目をいたわる生活を心掛け、見えにくくなってきたら眼科医に相談します。

近目の矯正は、凹レンズの眼鏡やコンタクトレンズを用いて行われるのが一般的。凹レンズにはピントが合う焦点を遠くにする働きがあり、適切な度の凹レンズを用いれば、網膜にピントが合って遠くがよく見えるようになりますので、正常の視力まで矯正できます。眼鏡やコンタクトレンズを作る場合は、眼科医に目の疾患や異常などを検査してもらった上で、適切なものを処方してもらいます。

近目になったからといって、日常生活に支障を来さなければ、すぐに眼鏡やコンタクトレンズを用いる必要はありません。教室の黒板の字が見えにくくなるような不都合が生じてきた場合に、用いればよいのです。 また、眼鏡では常にかける必要はなく、黒板や遠くを見る時など必要に応じてかければよいのです。眼鏡をかけたり外したりしても、近目の度が進むようなことはありません。

コンタクトレンズは、角膜の表面に接触させて用いるレンズで、目立たないことから眼鏡をかけたくない人に好まれています。左右の視力に差がありすぎて眼鏡が使えない場合でも矯正でき、眼鏡のように曇ったりせず、視野が広くなるという優れた点があります。一方、慣れるまでに時間がかかったり、異物感があったり、角膜を傷付けることがあったりという欠点があります。レンズの取り扱いや管理なども大変なので、小学生などには眼鏡を用いることが勧められます。

近目の治療には、点眼薬を用いる方法や手術的方法もあります。点眼薬を用いる治療法は、近目になりかけの仮性近視、偽近視の時期に行われることがあります。仮性近視では、近くを長く見続けた結果、毛様体筋が異常に緊張して水晶体が厚くなり、一時的に近目の状態になっているので、点眼薬で目の調節を休ませます。

手術的方法には、角膜周辺部分をメスで放射状に8本切開する放射状角膜切開術や、エキシマレーザーで角膜の中央部を凹面状に削る角膜切除術などがあります。放射状角膜切開術は、手術結果を予測できない点や、不正乱視の発生、切開創が弱いなどの欠点がみられます。角膜切除術は、光線の通るひとみの角膜を切除するため、切除した部分に薄い濁りが出ます。

また、手術的方法は強度の近目では効果が弱く、安定した視力が得られない場合もありますので、治療を受ける場合は、十分説明を聞いて納得してから受けます。

病的近視に対しては、現在のところ有効な治療方法はなく、研究が続けられています。網膜剥離や眼底出血などが起こらないように注意し、起きた場合は早急に手術する必要があります。

目は、非常に大切です。目を疲れさせないように、日ごろから目の健康を心掛けます。

正しい姿勢で、勉強や読書をします。背筋をきちんと伸ばし、目と字の距離は30センチくらい離します。勉強や読書を1時間したら、10分間くらい目を休ませます。本は、寝転んで読まないようにします。テレビを見たら、しばらく目を休ませます。パソコン作業やコンピューターゲームなどは、40分以上続けないようにします。

照明は、明るすぎたり、暗すぎたりすることのないよう注意します。読書や勉強をするには普通、300ルクスが必要です。蛍光灯のスタンドでは、15~20ワットの明るさに相当します。

運動や散歩などを行い、遠くを見る習慣をつけ、目に負担のかからない生活を送るようにします。栄養のバランスを考えて、緑黄色野菜などを十分に取り入れた食生活を送ります。

🇼🇸蓄膿症

蓄膿(ちくのう)症とは普通、慢性の副鼻腔(ふくびくう)炎のことをいいます。鼻腔の周りの骨の中にある大小の空洞が副鼻腔で、ここに炎症が起こり、うみがたまる病気が、慢性、あるいは急性の副鼻腔炎です。

蓄膿症は、風邪などによって一時的に起こる急性副鼻腔炎を繰り返しているうちに慢性化したものが多いのですが、インフルエンザ、はしか、チフス、肺炎、鼻の湾曲、虫歯などが原因となる場合もあります。

症状には、鼻水、鼻詰まり、頭重感などがあります。鼻水は粘液性のものや、膿性のこともあります。また、後鼻孔からのどへ鼻水が多く回り、これを後鼻漏(こうびろう)と呼びます。朝起きて、せきや、たんがやたらに出る人は、その可能性が高くなります。鼻詰まりのため口呼吸となり、のどへ回った鼻水が気管支へ入り、気管支炎を起こすこともあります。

頭重感は前頭部に起こることが多いのですが、頭全体が重苦しいこともあります。このほか、嗅(きゅう)覚障害を起こしたり、精神的に落ち着かず、集中力が低下することもあります。

医師による治療では、副鼻腔の洞内の粘液を排出しやすくして、粘膜のはれをとるために、鼻腔内に血管収縮薬をスプレーします。次いで、粘液を出してきれいになった鼻腔、副鼻腔に抗生物質、副腎(ふくじん)皮質ホルモン薬などの薬液を吸入するネブライザー療法を行い、炎症やはれを抑えます。

また、たんぱく分解酵素薬を内服することで、粘液、膿汁を少なくします。近年、マクロライド系抗生物質の少量長期間内服が、効果的と判明し行われています。

これらの治療が有効なのは軽度の場合で、程度によっては手術をします。手術には、鼻腔内から副鼻腔を開放して、膿や粘膜を取り除く方法、上唇の内側と歯肉の境目の口腔粘膜を切開し上顎(じようがく)洞を開放する方法があります。篩骨(しこつ)洞や前頭洞では鼻外からの手術も行われます。多くは局所麻酔で行われ、1~2週間の入院が必要です。最近では、内視鏡を用いる手術が盛んになっています。

子供の場合、副鼻腔は発達段階にあり、手術をすると歯の発育や顔の形に影響を与えることもあり、原則として手術は行いません。どうしても手術が必要な場合は、15歳ぐらいになってからがよいでしょう。

🇼🇸恥骨結合炎

左右2つの恥骨が骨盤の前方で結合している部分に、損傷が起こって炎症化する障害

恥骨結合炎とは、左右2つの恥骨が骨盤の前方で結合している部分に、損傷が起こって炎症化する障害。スポーツ活動などによる骨盤を左右にずらす動きにより、発生することが多い障害です。

恥骨は骨盤の一部であり、左右2つの恥骨がクッションの役割をしている軟骨円板によって結合している恥骨結合は、体幹の前面、ちょうど陰部付近に当たる体の中心に存在しています。また、恥骨には、上恥骨靱帯(じんたい)、恥骨弓靱帯、内転筋(内もも)、腹直筋、薄筋(はっきん)など、数多くの筋肉、腱(けん)、靱帯が付着しています。

恥骨結合は原則としてほとんど動かない部位なのですが、妊娠や出産により骨盤が緩んだり、ゆがんだりすると、あるいはスポーツ活動などにより骨盤を左右にずらす動きを行うと、恥骨結合に動きが生じます。

スポーツ活動では、ラグビーのタックルなどで直接、恥骨結合に打撲を受けた場合のほか、ランニングやキック動作、急激なストップ動作、方向転換を繰り返すことで、恥骨結合の軟骨円板がねじれたり、恥骨に付着している筋肉に引っ張られることで、恥骨結合周辺などの骨盤、股(こ)関節、鼠径(そけい)部が損傷し、炎症へと発展して、痛みが生じます。

恥骨結合炎の発生率が高いスポーツ活動は、サッカー、陸上競技中・長距離、ラグビー、ホッケー、ホッケーに似たラクロス、ウエートリフティングなどで、20歳前後の男子選手に多く発生しています。

とりわけサッカーでは、急激なダッシュ、ストップ、方向転換などを頻繁に行うために、骨盤や股関節には大きな負担がかかり、足の内側でボールをけるインサイドキックをすると、内転筋の恥骨付着部には大きな負荷が加わります。これらの動作を繰り返し行っているため、恥骨結合部の骨と軟骨円板がこすれ合い、炎症により痛みが出る恥骨結合炎が多く発生しています。

恥骨結合炎の主な症状は、恥骨結合の痛みです。初期は、痛みより、太ももの付け根に張りを覚える人が多いようです。しかし、この段階でも、恥骨結合部を押すと圧痛を生じます。進行すると、内転筋の動きに一致した運動痛、鼠径部や太もも、腹部にまで放散する痛みを生じます。

慢性化すると、鼠径部が常に痛みます。特に下肢を伸展して挙上、外転する動作で誘発されやすく、股関節の可動域制限、筋力低下がみられます。

恥骨結合炎の検査と診断と治療

整形外科、ないし形成外科の医師による診断では、恥骨結合の圧痛の有無を確認し、画像検査を行います。X線(レントゲン)検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査を行うと、典型例では、内転筋や薄筋の恥骨付着部の骨融解、恥骨結合の変形、左右の恥骨の高さの違いなどが認められます。ただし、骨まで変化が及ぶケースは、比較的少ないといえます。

整形外科、形成外科の医師による治療では、軽症の場合は、消炎鎮痛剤を服用することでスポーツ活動の継続も可能性です。

痛みがひかないほど進行している場合は、スポーツ活動を中止して安静を保ち、恥骨結合への負担を軽減する必要が出てきます。アイシング(冷却)、時にホットパックなどの温熱療法、消炎鎮痛剤の投与、ステロイドホルモン剤の局所注射などを用いますが、長期的には運動療法によるリハビリテーションが回復を促進します。

初期のリハビリテーションは、股関節の外転可動域訓練、筋力強化、内転筋のストレッチングから開始して、水中歩行、エアロバイクによる免荷訓練、その後ジョギング、2カ月でスポーツ活動の練習を行います。

保存療法を行っても痛みが長期間にわたって消失しない場合は、手術治療が考慮されます。手術にはさまざまな方法があり、恥骨結合の固定術、薄筋腱切離、骨片摘出術、内転筋内の血腫(けっしゅ)除去、ヘルニア修復術など、主な病変を特定して原因に対処します。

🇹🇻恥骨疲労骨折

スポーツ活動などで、小さい負荷が繰り返し骨盤に加わった場合に、骨盤の一部である左右2つの恥骨に生じる骨折

恥骨疲労骨折とは、正常な骨に通常は骨折を起こさない程度の負荷が、スポーツ活動などで繰り返し骨盤に加わった場合に、骨盤の一部である左右2つの恥骨に生じる骨折。

骨折は、骨が壊れることを意味し、ヒビも骨折ですし、骨の一部分が欠けたり、へこんだ場合も骨折です。正常な骨では、かなり大きな負荷がかからないと骨折しませんが、正常な骨に小さい負荷がかかる場合でも、同じ部位に繰り返し長期間かかり続けて、骨にヒビが入る微細な骨折を生じたり、ヒビが進んで完全な骨折に至る状態が疲労骨折です。

疲労骨折のほとんどは、スポーツ活動で激しいトレーニングをしている運動部の学生や社会人に生じます。陸上、サッカー、野球、バスケットボールなどあらゆるスポーツ活動で発生する可能性があり、それぞれのスポーツ活動ごとに疲労骨折を生じやすい部位があります。

恥骨に疲労骨折を生じる恥骨疲労骨折の場合は、長時間のランニングを要するマラソン、ジョギング、あるいはダッシュして急に止まりボールを拾うボーラー動作を要するバスケットボール、テニス、ホッケー、ホッケーに似たラクロスなどによって、前面の左右2つの恥骨、左右の腸骨、後面の仙骨で構成されている骨盤に、繰り返しの負荷がかかることにより生じます。

特に女性のマラソンランナーに、恥骨疲労骨折が発生しやすいことが知られています。発生部位は、恥骨の上枝と下枝に大別され、下枝のほうに多くみられます。

長時間のランニングによって、恥骨の上枝には、体幹の支持に必要な腹直筋の収縮によって引っ張り上げる牽引(けんいん)張力が働き、また恥骨下枝には、内ももの筋肉である内転筋の収縮によって太ももを内側に寄せる牽引張力が働き、これらの筋肉による負荷が反復されてかかることにより、恥骨疲労骨折が引き起こされます。

また、女性のマラソンランナーに多い理由として、女性の骨盤が横に幅広く、中心から離れた股(こ)関節に着地刺激を受けやすいためと考えられています。

さらに、恥骨疲労骨折は、骨粗髭(こつそしょう)症などにより骨密度が急激に減少して骨がもろくなった場合や、肥満により過度の体重負荷がかかった場合に、生じやすくなるともいわれています。骨粗鬆症の高齢者などの場合、平地で転んだだけでも生じることがあります。

恥骨疲労骨折を生じると、脚の付け根の鼠径(そけい)部の痛みを主として、太もも前面、殿(でん)部、腰部などに痛みが生じます。スポーツ活動時には股関節内側から内転筋に痛みが生じ、運動を継続していくと歩行困難を来すこともあります。

高齢者の場合、横になっても、座っても、股間にかなりの痛みを感じます。さらに、歩こうとすると痛みの症状は増すのが普通です。

明らかな外傷がなく、恥骨付近に著しい痛みを感じる場合は、恥骨疲労骨折が疑われますので、検査設備の整った整形外科などを受診することが勧められます。

恥骨疲労骨折の検査と診断と治療

整形外科、あるいは形成外科の医師による診断では、骨の痛みがある部位と症状、スポーツ活動の種類などから判断します。

骨折の初期の段階では、X線(レントゲン)検査を行ってもほとんど異常を示さず判断が難しいこともありますが、骨折後2~3週程度で骨膜反応という骨折の修復により異常がわかります。骨シンチグラフィー検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査を行うと、骨折の初期の段階の病変でも判断することが可能です。

整形外科の医師による治療では、骨折部に負担のかかるスポーツ活動を休止し、必要に応じて固定を行います。一般には、4〜8週間の固定が必要となることが多く、激しい負荷のかかる競技者の場合には、12〜16週間の固定による安静が必要となることもあります。

固定による安静期間の後に、徐々にリハビリを開始します。まずは、日常生活だけのリハビリを行い、続いて、痛みが生じない範囲に制限してスポーツ活動を再開します。疲労骨折の場合、同じ部位が再骨折する可能性が高いため、慎重に運動を再開する必要があります。

再発予防としては、恥骨疲労骨折が発生した要因を検討し、正しいフォームを習得したり、通常のトレーニングが過度にならないようにしたり、運動前後にストレッチを行ったりして、普段からコンディションの調整をすることも大切です。

特に女性では、閉経後には骨密度が急激に減少しますので、骨盤に負担がかかるような運動をする場合には、骨密度も同時に鍛える必要があります。

🇹🇻致死性不整脈

放置すると短時間で意識を失い、突然死に至る危険もある不整脈

致死性不整脈とは、放置したままでいると短時間で意識消失から突然死に至る危険性が高く、緊急な治療を必要とする不整脈。心臓の拍動が異常に速くなる頻脈性不整脈のうち、心室頻拍や心室細動が致死性不整脈に相当します。

重症頻脈性不整脈、重症不整脈とも呼ばれます。

血管系統の中心器官である心臓には、4つの部屋があります。上側の右心房と左心房が、血液を受け入れる部屋です。下側の右心室と左心室が、血液を送り出す部屋です。4つの部屋がリズミカルに収縮することで、心臓は絶え間なく全身に血液を送り出すことができるのです。このリズムを作っているのが心臓の上部にある洞結節(どうけっせつ)と呼ばれる部分で、1分間に60~80回の電気刺激を発生させて、心臓を規則正しく収縮させています。この電気刺激が何らかの原因で正常に働かなくなることによって、拍動のリズムに乱れが生じてしまいます。

不整脈は、拍動が不規則になる期外収縮、拍動が速くなる頻脈性不整脈、拍動がゆっくりになる徐脈性不整脈の3つに分類されます。

頻脈性不整脈は、1分間当たりの拍動が100回を大きく上回る症状をみせます。人間の血液量は一定なので拍動する回数が多くなると、1回の拍動で送り出される血液量が少なくなり、血圧の低下を招きます。

頻脈性不整脈のうちの心室頻拍は、心室から発生した異所性刺激によって、1分間当たりの拍動が100~200回という非常に速い発作性の頻脈を示します。血液の送り出しが阻害されて血圧も低下し、さらには心室細動に移行する可能性のある危険な病態です。

頻脈性不整脈のうちの心室細動は、心室の無秩序な興奮により異常な刺激を受け、1分間当たりの拍動が300~600回と極端に速くなる病態です。心室が小刻みに不規則に震える細動を伴って、電気刺激に心臓の反応が追い付かなくなり、拍動が弱まって血液の送り出しが不能な状態となり、血圧はゼロに下がります。胸痛や不快感が起き、血液が脳や体全体に届かなくなって、細動が10秒前後続くと意識を消失、さらに10分続くと脳死に至るともいわれています。

心臓突然死の多くは心室細動が原因で、即座に心臓マッサージを開始するか、公的機関やスポーツ施設を中心に配備されている自動体外式除細動器(AED)などを用いて細動を取り除かなければ、循環停止から呼吸停止に陥り死亡します。

心室細動は、もともと心臓の筋肉が弱っている人に多く起き、拡張型心筋症やブルガダ症候群と呼ばれる珍しい心臓病を持つ人にも起きます。また、遺伝的に致死性不整脈を起こしやすいタイプもあり、若者が睡眠中などの安静時や運動中に、心室細動を起こすこともあります。

 若者の場合、持病がなければ心室頻拍や心室細動などの致死性不整脈の兆候も現れにくく、たとえ不整脈で倒れても軽度で回復して、それに気付かない場合があって予知が難しく、突然死の原因になりやすいという特徴があります。

心室細動は活動時よりも安静時、特に睡眠時に起こりやすく、睡眠中に心室細動発作を繰り返していても本人には自覚されないこともあります。同居者がいた場合、夜間に突然もだえてうなり声を上げたり、体を突っ張ったり、失禁したりする全身症状を指摘され、初めて発作があったことがわかることもあります。睡眠時などの安静時の発作は、再発率が高くなっています。

日本国内では心臓が原因の突然死が年間7万人を超え、そのうち最も重大な直接原因が致死性不整脈と考えられています。

致死性不整脈は、命にかかわるものなので、まずは毎年の健康診断をきちんと受けること、そして健診で異常が見付かったり、胸の自覚症状があった際には循環器科、循環器内科、もしくは不整脈専門の不整脈科、不整脈内科を受診することが勧められます。

致死性不整脈の検査と診断と治療

循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科の医師による診断では、検査によって症状を特定します。普通の心電図検査を中心に、胸部X線、血液検査、さらにホルター心電図、運動負荷検査、心臓超音波検査などを行います。いずれの検査も、痛みは伴いません。

ホルター心電図は、携帯式の小型の心電計を付けたまま帰宅してもらい、体を動かしている時や、寝ている時に心電図がどう変化するかをみる検査。長時間の記録ができ、不整脈の数がどれくらいあるか、危険な不整脈はないか、症状との関係はどうか、狭心症は出ていないかなどがわかります。とりわけ、日中に発作が起こりにくい不整脈を発見するのに効果を発揮します。

運動負荷検査は、階段を上り下りしたり、ベルトの上を歩いたり、自転車をこいでもらったりする検査。運動によって不整脈がどのように変わるか、狭心症が出るかどうかをチェックします。

心臓超音波検査は、心臓の形態や動きをみるもので、心臓に疾患があるかどうかが診断できます。

循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科の医師による内科治療では、抗不整脈薬という拍動を正常化する働きのある薬を中心に行います。ただし、不整脈そのものを緩和、停止、予防する抗不整脈薬での治療は、症状を悪化させたり、別の不整脈を誘発したりする場合があり、慎重を要する治療法であるといえます。抗不整脈薬のほかに、抗血栓薬など不整脈の合併症を予防する薬なども用います。

循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科の医師による外科治療では、頻脈性不整脈に対して、体内に挿入したカテーテル(細い管)の先端から高周波を流し、心臓の過電流になっている部位を焼き切って正常化する、カテーテル・アブレーション法という新しい治療法が行われています。この治療法は、心臓の電位を測って映像化する技術が確立したことで実現しました。

薬物療法に応じず、血行動態の急激な悪化を伴い心室頻拍、心室細動、心房粗細動などを生じる重症頻脈性不整脈に対しては、直流通電(DCショック)を行います。また、慢性的に重症心室頻拍、心室細動の危険が持続する症状に対しては、植え込み型除細動器(ICD)の埋め込み手術も考慮されます。植え込み型除細動器は、致命的な不整脈が起きても、それを自動的に感知して止めてしまう装置です。

治療に関しては、疾患自体の原因がはっきりしていないため対症療法に頼るしかなく、現在のところ根治療法はありません。心室細動発作を起こした際は、自動体外式除細動器(AED)、または手術で体内に固定した植え込み型除細動器(ICD)などの電気ショックで回復します。

心室細動発作を起こしたことが心電図などで確認されていたり、原因不明の心停止で心肺蘇生(そせい)を受けたことがある人では、植え込み型除細動器(ICD)の適応が勧められます。このような発症者は今後、同様の発作を繰り返すことが多く、そのぶん、植え込み型除細動器(ICD)の効果は絶大といえます。また、診断に際して行う検査においてリスクが高いと判断された場合にも、植え込みが強く勧められます。

といっても、植え込み型除細動器(ICD)の植え込みはあくまで対症療法であり、発作による突然死を減らすことはできても、発作回数自体を減らすことはできないところに限界があるといわざるを得ません。

植え込み型除細動器(ICD)は通常、左の胸部に植え込みます。鎖骨下の静脈に沿ってリード線を入れ、心臓の内壁に固定します。治療には500万円ほどかかりますが、健康保険が利き、高額療養費の手続きをすれば、自己負担は所定の限度額ですみます。手術後は、入浴や運動もできます。

ただし、電磁波によって誤作動の危険性もあり、社会的な環境保全が待たれます。電子調理器、盗難防止用電子ゲート、大型のジェネレーター(発電機)などが、誤作動を誘発する恐れがあります。

万一、発作が起きた際の用心のため、高所など危険な場所での仕事は避けたほうがよく、車の運転も手術後の半年は原則禁止。電池取り替えのため、個人差もありますが、5〜8年ごとの再手術も必要です。確率は低いものの、手術時にリード線が肺や血管を破ってしまう気胸、血胸なども報告されています

🗺地図状舌

舌の表面部分に淡紅色の地図状の模様が生じる状態

地図状舌(ちずじょうぜつ)とは、外から見える舌の表面部分である舌背部(ぜっぱいぶ)に、淡紅色の地図のような1ミリから3ミリの模様が生じる状態。良性移動性舌炎、良性遊走性舌炎、遊走輪、遊走疹(しん)とも呼ばれます。

一見、舌の粘膜が赤くただれたような外観を示すことから、何か重症な病気にかかったのではないかと心配する人も少なくありませんが、その実態は舌背部の粘膜にある多数の微小な小突起である糸状乳頭の角化異常なので、それほど心配する必要はありません。

健康な舌の表面部分は、舌乳頭の1つで味覚を感知する糸状乳頭の小突起でびっしり覆われており、しっとりした滑らかな白い苔(こけ)が生えているようにみえます。これが角化異常により部分的に委縮、消失し、平たんでつるつるした淡紅色のまるで地図のようなまだら模様になってしまう状態が、地図状舌です。

地図のようなまだら模様は融合、拡大、委縮、消失を繰り返し、あたかも移動するように見え、その模様の形態、位置は、日々変化するのが特徴です。

多くは自覚症状がなく、痛みは生じません。不快感、違和感が主な症状で、舌に強い刺激を加えることで痛みや、ピリピリする、染みるといった症状が生じる場合もあります。

地図状舌の原因は、まだ解明されていません。体質異常、精神身体的障害、内分泌障害、消化器系障害、遺伝などいろいろ疑われていますが、定かではありません。気管支炎、鼻炎、喘息(ぜんそく)などとの関連性もいわれています。

かかりやすいのは、幼児と若い女性で、特に若い女性は月経との関連が指摘されています。

良性の病変で数日から数週間で自然に治ることもありますが、全体的には極めて慢性の経過を示し短期間での自然治癒、あるいは治療は望めません。

地図状舌は見た目がインパクトのある形態を示し、形態が日々変化するため、不安に感じる人も少なくありません。そういった場合は、まず専門医を受診することが勧められます。舌の異常が地図状舌とわかれば、不安も解消されます。地図状舌ではなく、別の病気である可能性も考えられますので、専門家の判断に委ねるのが一番です。

地図状舌の検査と診断と治療

歯科口腔外科、口腔内科、歯科などの医師による診断では、舌の表面に特徴的な形成異常が出現するため、基本的には視診と問診を実施します。カンジダ症との鑑別も行います。

歯科口腔外科、口腔内科、歯科などの医師による治療では、特に大きな問題がなければ経過観察します。

舌の痛みが強い場合は、鎮痛薬を投与したり、殺菌効果のあるうがい薬を用いたり、キシロカインビスカスなどの局所麻酔薬の塗布もありますが、極めて慢性の傾向を示すので一時的な対症的処置はあまり意味がありません。特に炎症所見の強い時には、塩化リゾチーム剤などの消炎剤を投与します。

舌の痛みや、ピリピリする、染みるといった症状がある場合は、熱い食べ物、香辛料、アルコール、たばこなどによる舌の局所的な刺激を避けてもらうこともあります。

🇹🇻膣委縮症

閉経後に女性ホルモンのレベルが低下し、膣粘膜の内層が委縮して薄くなる状態

膣(ちつ)委縮症とは、卵巣から分泌される女性ホルモンのエストロゲンが閉経後に低下し、膣壁が委縮して薄くなり、弾力性を失う状態。閉経後膣委縮症とも呼ばれます。

生理が止まった閉経後の女性は、エストロゲン(卵胞ホルモン)やプロゲステロン(黄体ホルモン)などの女性ホルモンの減少によって、さまざまな体の変化を経験します。その中でも、多くの女性が経験するのが、膣委縮症です。

女性生殖器系の器官である膣は、骨盤内にあって子宮と体外とをつなぐ管状の器官で、伸び縮みできる構造をしています。膣の前方には膀胱(ぼうこう)や尿道があり、後方には直腸があります。膣壁の内層は粘膜に覆われ、その粘膜面には横に走るひだがあります。このひだは正中部で集合し、前壁と後壁で中央に縦に走るひだになっています。このひだは出産の経験のない人に、多く認められます。

この膣の中は、温かく湿っていて有機物が豊富にある状態で、細菌の繁殖に適しています。しかし、膣には自浄作用という働きがあります。膣壁上皮は卵巣から分泌されるエストロゲンの作用により、表皮細胞への分化が促され、細胞質の内にグリコーゲンが蓄積されます。剥離(はくり)した細胞内のグリコーゲンは、ブドウ糖に分解されて、膣内の乳酸桿菌(かんきん)によって乳酸菌に換えられます。これにより膣内は酸性となり、酸性環境に弱い細菌の増殖が抑制されます。

閉経後の女性の場合、膣壁は女性ホルモンや少量の男性ホルモンの働きにより、閉経後十数年たっても若い時代の3分の2の厚さが保たれていますが、エストロゲンが不足してくると膣のひだが少なくなるとともに、膣壁そのものも委縮して薄くなり、膣分泌物の低下などが原因でコラーゲンが少なくなり、膣の乾燥感も起こります。

それとともに自浄作用も低下して、細菌やカビが繁殖するために、充血して炎症を生じる膣炎が半数に起こります。これは、委縮性膣炎、あるいは老人性膣炎と呼ばれます。

委縮性膣炎を発症すると、下り物が黄色っぽくなる、下り物に血が混じる、下り物に悪臭を伴うなどの症状が、現れることがあります。膣壁の痛みや灼熱(しゃくねつ)感などの不快感、膣入口や外陰部の乾燥感、掻痒(そうよう)感、違和感、痛みなどの症状が、現れることもあります。性行為に際して、痛みを伴ったり、出血、掻痒感などの症状が、現れることもあります。

エストロゲンの分泌が低下したり、膣壁が委縮して薄くなること自体は、閉経後の女性であれば当たり前のことですので、無症状であったり、症状が軽いこともあります。

膣委縮症、委縮性膣炎は必ずしも治療が必要なわけではありませんが、黄色い下り物は子宮体がんなどに伴う症状の可能性もありますので、注意が必要となります。

膣委縮症の検査と診断と治療

婦人科、産婦人科の医師による診断では、膣の内部や外陰部の肉眼的な観察を主に行います。さらに、細菌検査を行い、カビや細菌の有無を調べます。同時に、がん細胞の有無も確認します。

明らかにエストロゲンが低下している年齢でなければ、ホルモン検査を行うこともあります。

近年は、診断と治療的効果判定の数値化を目的に、膣健康指数を用いて診断する方法も行われるようになりました。

婦人科、産婦人科の医師による治療では、がん細胞がない場合は、女性ホルモンの膣錠、エストロゲンの経口剤や貼付(ちょうふ)剤、女性ホルモンの補充療法などで、症状の改善を図ります。

軽度の膣委縮症であれば、膣洗浄によって細菌を流し、症状を改善させることもあります。細菌感染がひどい場合は、抗生物質が入った膣錠を併用することもあります。性交痛などに対して、潤滑ゼリーを勧めることもあります。

膣委縮症、委縮性膣炎の多くは1~2週間の治療で治りますが、1カ月程度にわたって薬剤を使用しないと治らない人もいます。

外陰炎、外陰掻痒症を併発している時は、平行した治療で症状の改善を図ります。子宮体がんや乳がんなどの病歴がある人に対しては、別の治療法が選択されることもあります。

🇨🇻膣炎

女性生殖器系の器官である腟に、主に細菌が感染して炎症が起こる疾患

膣炎(ちつえん)とは、女性生殖器系の器官である腟に、主に細菌が感染して炎症が起こる疾患。

腟は、骨盤内にあって子宮と体外とをつなぐ管状の器官で、伸び縮みできる構造をしています。腟の前方には膀胱(ぼうこう)や尿道があり、後方には直腸があります。腟壁は粘膜に覆われ、その粘膜面には横に走るひだがあります。このひだは正中部で集合し、前壁と後壁で中央に縦に走るひだになっています。このひだは出産の経験のない人に、多く認められます。

この腟の中は、温かく湿っていて有機物が豊富にある状態で、細菌の繁殖に適しています。しかし、腟には自浄作用という働きがあります。腟壁上皮は卵巣から分泌される女性ホルモンであるエストロゲンの作用により、表皮細胞への分化が促され、細胞質の内にグリコーゲンが蓄積されます。剥離(はくり)した細胞内のグリコーゲンは、ブドウ糖に分解されて、腟内の乳酸桿菌(かんきん)によって乳酸菌に換えられます。これにより腟内は酸性となり、酸性環境に弱い細菌の増殖が抑制されます。

しかし、いろいろの原因で自浄作用の働きが低下すると、主に細菌が感染して膣に炎症が起こり膣炎となります。

症状は、膣炎の原因や程度により異なります。一般には、白色、黄色、膿性(のうせい)、血性などの下り物がみられます。膣入口部の灼熱(しゃくねつ)感、掻痒(そうよう)感なども起こります。性行為に際して、痛みを伴ったり、出血、掻痒感などの症状が現れることもあります。

原因によって、細菌性膣炎、カンジダ膣炎、トリコモナス膣炎、委縮性膣炎(老人性膣炎)などに分類されます。時には、異物、例えば生理用タンポンの取り忘れなどが、原因になることもあります。

細菌性膣炎は、大腸菌、ブドウ球菌、連鎖球菌、ガードネレラ菌、B群溶連菌などの一般細菌の増殖によって起こります。灰色または黄色の水っぽい下り物があり、魚のような生臭い悪臭を伴うこともあります。しかし、約半数の人は症状を感じません。

妊娠している場合に細菌性膣炎を見過ごしていると、流産や早産の原因になることがあり注意が必要です。特に、早産の原因の大部分は細菌性膣炎だとも見なされ、細菌性膣炎があると絨毛(じゅうもう)膜羊膜炎が起こり、その結果早産になるとされています。

カンジダ膣炎は、カンジダと呼ばれる真菌(かび)の一種の増殖によって起こります、下り物は白色または黄色で、クリーム状または粉チーズのものが増えます。外陰部の炎症を伴い、強いかゆみがあります。糖尿病患者や妊婦によく起こり、抗生物質を服用した後になることもあります。

トリコモナス膣炎は、トリコモナス原虫という単細胞生物の増殖が原因で起こります。トリコモナスはガスを産生するため、悪臭を伴った泡沫(ほうまつ)状、緑黄色の下り物が増えます。外陰部のかゆみを伴うこともあります。普通は性交で感染しますが、風呂やサウナなどでも移ることがあります。

委縮性膣炎は、卵巣から分泌される女性ホルモンのエストロゲンが閉経後に低下し、それとともに自浄作用も低下して細菌が繁殖するために、膣壁が委縮して起こります。通常は加齢に伴って発症するもので、生理が止まった閉経後の女性の多くが委縮性膣炎を生じている状態にあります。また、出産から最初の月経までの期間の産婦や、悪性腫瘍(しゅよう)で卵巣を摘出する手術をした女性にも発症することがあります。

下り物が黄色っぽくなる、血が混じる、悪臭を伴うなどの症状が、現れることがあります。腟壁の痛みや灼熱感などの不快感、腟入口の乾燥感、掻痒感、違和感などの症状が、現れることもあります。性行為に際して、痛みを伴ったり、出血などの症状が、現れることもあります。

下り物の増加は子宮がんのような悪性腫瘍でも起こるので、色の付いた下り物がある時は、婦人科、産婦人科を受診することが勧められます。

膣炎の検査と診断と治療

婦人科、産婦人科の医師による診断では、腟の分泌物を顕微鏡で観察し、炎症反応やその原因となった病原体を検出したり、時には培養したりして特定します。

婦人科、産婦人科の医師による治療では、まず膣炎の原因を探し、これを取り除きます。

細菌性膣炎は、膣錠が使っての治療が一般的です。薬が効けば通常、2~3日で症状は消えます。しかし、いろいろな細菌が原因となって起こるため、薬を投与しても増えている菌によっては効果がないこともあり、なかなか治らないような場合には、さまざまな薬を試していくこともあります。

最初の治療の前には、膣洗浄を行って増えた細菌を洗い流して症状を抑えます。この膣洗浄を行うのは、普通は初回の治療だけで、治療のたびに膣洗浄を行うと、せっかく増えた乳酸桿菌が消えてしまうためです。

カンジダ膣炎は、膣洗浄と、カンジダを殺す働きのある薬が入った膣錠を用います。外陰部のかゆみに対しては、カンジダに効く軟こうも併用します。多くは4、5日で症状がとれますが、自己判断で治療を中止すると再発しますので、根気よくきちんと治療を継続し、治療後の検査が欠かせません。

特に、妊娠時には徹底的に治しておかないと、出産に際して、腟内のカンジダが新生児の口の中に感染し、口腔カンジダ症の原因となります。性のパートナーに感染することがあり、かゆみを伴った小斑点(はんてん)状の発赤が陰部にみられることがあります。この場合は、カンジダに効く軟こうで治療します。

トリコモナス膣炎は、顕微鏡で小さい原虫であるトリコモナスが発見されたら、膣洗浄とメトロニダゾールの膣錠を用い、同時にメトロニダゾールの経口剤も用います。

メトロニダゾールは、アルコールと一緒に服用すると、悪酔いや吐き気、肌の紅潮を引き起こします。内服治療中は、アルコールは飲めません。性のパートナー間で感染するので、治療は2人で行ったほうが再発する頻度が少なくなります。

委縮性腟炎は、女性ホルモンの膣錠、エストロゲンの経口剤や貼付剤、女性ホルモンの補充療法などで、症状の改善を図ります。軽度の炎症であれば、膣洗浄によって細菌を流し、症状を改善させることもあります。細菌感染がひどい場合は、抗生物質が入った腟錠を併用することもあります。性交痛などに対して、潤滑ゼリーを勧めることもあります。

異物として時々みられるのが、生理用タンポンの取り忘れです。悪臭のある下り物が持続しますが、これを除けばすぐに治ります。

🇨🇻膣がん

膣の入り口の内側に発生する、まれながん

膣(ちつ)がんとは、膣の入り口の内側に発生するがん。膣の入り口の外側に発生すれば、外陰がんとなります。

腟は子宮頸部(けいぶ)と外陰をつなぐ筒状の組織で、長さ10~15 センチ、出産時には産道となります。腟の入り口周囲には腟前庭、その外側には小陰唇、陰核、大陰唇、会陰があり、総称して外陰と呼ばれています。

女性性器がんの中で、膣がんが占める割合は1〜2パーセントと、比較的少ないがんといえます。若い女性には少なく、一般に50〜60歳の女性にみられます。

膣の表面は粘膜で覆われており、この粘膜からがんが発生し、球状または長楕円(だえん)形の潰瘍(かいよう)状の硬い腫瘤(しゅりゅう)を形成します。多くは単独性で、扁平(へんぺい)上皮がんがほとんどです。腺(せん)がんはまれです。

がんが発生しやすいのは後ろ側の膣壁で、上3分の1の、いわゆる下り物がよくたまる部位。進行すると表面を広がったり、粘膜の下の筋肉に広がり、さらには周囲の臓器にまで広がることもあります。

直接、発がんと結び付く原因はまだわかっていませんが、高リスク因子としてヒトパピローマウイルスの感染が挙げられています。ヒトパピローマウイルスは、いぼを作るウイルスの一種で、男性性器の分泌物などに含まれています。このウイルスを持った男性との性交渉によって、膣、外陰、子宮頸部などの細胞に感染します。

最も多い症状は、生理以外や閉経後の不正出血、性交中や性交後の不正出血、血性の下り物です。進行すると、大きくなったがんが膀胱(ぼうこう)や直腸を圧迫するようになって、排尿障害や便秘などが起こり、腰痛や下腹部痛を伴うようにもなります。

膣がんの検査と診断と治療

他のがんと同様に、膣がんも早期発見、早期治療が第一です。自覚症状がある場合は、婦人科の専門医を受診します。比較的少ないがんといえるだけに、産婦人科医でも膣がんの経験がない医師もおり、発見や治療が遅れることがあるとされています。

医師による診断では、まず視診、触診、細胞診を行います。細胞診で異常な細胞が見付かった場合は、組織の一部を採取して顕微鏡で調べる生検で、がん細胞があるか、どのような種類のがん細胞であるかを詳しく調べます。

さらに、がんのできた場所と広がり程度を調べるために、膣の中だけでなく骨盤内の他の臓器についても、診察やCT、MRIなどの検査を行います。肺に転移していないかどうかを調べる胸部レントゲン検査などの検査も行います。

膣がんの治療には、外科療法、放射線療法、化学療法の3つの方法があり、がんの広がり程度である病期、扁平上皮がんないし腺がんの組織型、年齢、全身状態などによって選択します。ごく早期の膣がんに対しては、がんの部位を焼いて蒸散させるレーザー治療を行うこともあります。

外科療法は、がん病巣が膣の表層に限局している場合や、膣の上部3分の1にある場合に限って行われ、手術によってがんを切除します。 膣は、前方には膀胱、後方には直腸、肛門(こうもん)が近接し、側方は足に栄養を送る血管や神経が存在するため、手術が広範囲に及ぶ場合、どの機能をどの程度温存するかが問題となります。

子宮頸部や腟の周囲にがんが広がっている場合には、広汎(こうはん)性子宮全摘出術に加え、腟がんを含めて腟壁の切除を行います。

放射線療法は、高エネルギーX線によってがん細胞を消滅させ、腫瘤を縮小させるもので、単独で行ったり、手術の後の追加治療として行います。照射方法には2種類あり、放射線発生装置を用いて体外から放射線を照射する外照射と、放射線が発生する物質をがんのある部位にプラスチックの筒を通して挿入する膣内照射があります。

放射線療法では、子宮や腟が残せる半面、直腸に穴が開いて、腟から便が漏れる直腸腟ろうなどの障害が残り、人工肛門になることがあります。

化学療法は、経口剤や静脈注射によって抗がん剤を体内に投与するものです。抗がん剤は血流に乗って全身を巡り、膣壁などにあるがん細胞を消滅させるので、全身療法とも呼ばれています。一般的に、シスプラチン、カルボプラチン、タキソール、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ペプレオマイシン、フルオロウラシルなどの抗がん剤を組み合わせて使用します。

化学療法だけでは、完治することは難しいため、外科療法や放射線療法と併用して行われます。

膣がんの予後は一般的に不良で、5年生存率は40~50パーセントという報告が多いのが現状です。近接している直腸や膀胱などの臓器に、がんが広がる傾向が強いためと考えられています。

🇨🇻腟カンジダ症

真菌類のカンジダの感染によって起こり、激しいかゆみ、下り物の異常がある疾患

腟(ちつ)カンジダ症とは、カンジダと呼ばれる真菌(かび)の一種の増殖によって起こり、激しいかゆみ、下り物の異常が特徴となる疾患。カンジダ腟炎とも呼ばれます。

カンジダは本来、膣内を始め、口腔(こうくう)、気管支、肺など生体内に常在して生息し、病原性が弱いため害を及ぼしません。しかし、疲労が重なったり、病気で体の免疫力が低下している時、あるいは妊娠している時、糖尿病にかかっている時などに、カンジダが増殖して病原性が現れると、腟や外陰部に炎症を起こします。冬季の厚着、パンティーストッキングやジーンズの着用、こたつの使用などの高温多湿の環境や、抗生物質、風邪薬などの服用時などでも、増殖して炎症を起こしやすいとされています。

つまり、種々の原因でカンジダが増殖して、腟や外陰部に炎症を起こしたために症状が出た時、初めてカンジダ腟炎と見なされます。性行為により感染して炎症を起こす場合もあるので、性感染症の一つに挙げられています。

症状としては、腟や外陰部に激しいかゆみがあり、濃いクリーム状、または粉チーズのような下り物が増えてきます。外陰部が赤くただれ、ひどい時は皮膚がカサカサに乾燥します。

なお、男性の場合の症状としては、かゆみと発疹(はっしん)などが陰茎に出ることもありますが、無症状のことも多く見受けられます。

腟カンジダ症の症状を自覚した時は、婦人科、産婦人科、ないし泌尿器科を受診すべきです。受診をためらって市販のかゆみ止めなどに頼る女性もいますが、それで症状が改善されてもカンジダそのものは殺せないので、悪化や慢性化に注意する必要があります。

腟カンジダ症の検査と診断と治療

婦人科、産婦人科、泌尿器科の医師による診断では、自覚症状について聞いたり、治療中の病気や服用している薬を聞きます。確実な診断を得るためには、膣分泌物の顕微鏡検査や培養検査を行います。男性の場合も女性同様で、亀頭やその周辺を綿棒でこすって分泌物を採取して、培養検査を行います。

医師による治療は、腟内や外陰部の白色苔状(たいじょう)の下り物を十分ふき取った後、カンジダを殺す働きのある抗真菌剤が入った腟坐薬(ざやく)を腟の奥のほうに挿入するのが、一般的な方法です。できる限り毎日挿入する腟坐薬と、5~7日に1度挿入する腟坐薬の2種類があります。

外陰部の炎症には、カンジダに効く抗真菌剤の入った軟こうを1日数回、塗布します。抗真菌剤には、クロトリマゾール、イソコナゾール、ミコナゾールなどがあります。

1週間から10日間、治療は毎日続けます。多くは4、5日で症状がとれますが、自己判断で治療を中止すると再発しますので、根気よくきちんと治療を継続し、治療後の検査が欠かせません。特に、妊娠時には徹底的に治しておかないと、出産に際して、腟内のカンジダが新生児の口の中に感染し、口腔カンジダ症の原因となります。

カンジダの感染経路は、性交による場合や接触、入浴での家族内感染などがあります。また、再発を繰り返すことが、しばしばあります。その原因としては、治療の不徹底、男性の陰茎の冠状溝(かんじょうこう)に移ったカンジダが性交により、再び女性のほうに移行するピンポン感染などが挙げられます。

完治するまで、性交時にはコンドームを使用すべきであり、男性がかゆみを訴えたら、カンジダに効く抗真菌剤の入った軟こうで治療します。

また、このような局所的治療ばかりでなく、発症の誘因となる病気を治療することが大切であり、日ごろから健康で免疫力の高い体の状態を保つことが腟カンジダ症の予防となります。

🇲🇦膣乾燥症

温かく、湿っている膣の中が乾燥し、潤いを欠く状態

膣(ちつ)乾燥症とは、女性生殖器系の器官である膣の中が乾燥し、潤いを欠く状態。

膣は、骨盤内にあって子宮と体外とをつなぐ管状の器官で、伸び縮みできる構造をしています。膣の前方には膀胱(ぼうこう)や尿道があり、後方には直腸があります。膣壁は粘膜に覆われ、その粘膜面には横に走るひだがあります。このひだは正中部で集合し、前壁と後壁で中央に縦に走るひだになっています。このひだは出産の経験のない人に、多く認められます。

この膣の中は、温かく湿っていて有機物が豊富にある状態で、細菌の繁殖に適しています。しかし、膣には自浄作用という働きがあります。膣壁上皮は卵巣から分泌される女性ホルモンであるエストロゲンの作用により、表皮細胞への分化が促され、細胞質の内にグリコーゲンが蓄積されます。剥離(はくり)した細胞内のグリコーゲンは、ブドウ糖に分解されて、膣内の乳酸桿菌(かんきん)によって乳酸菌に換えられます。これにより膣内は酸性となり、酸性環境に弱い細菌の増殖が抑制されます。

しかし、40歳代の後半くらいから閉経を迎える女性、および閉経後の女性では、膣の正常な柔軟性、酸性度、潤滑性を維持するために必要不可欠なエストロゲンの分泌量が減り、これが膣壁の粘膜を薄くして柔軟性を失わせるとともに、潤滑性を失わせ、膣乾燥症の原因になります。膣の中が乾燥することにより、痛みやかゆみを覚え、膣壁がこすれたりすることによる炎症なども起こることがあります。

性交渉の際にも、膣の中が乾燥し、潤いがない上に、膣壁の柔軟性がないことで痛みを伴ったり、状態によっては性交渉そのものが苦痛になることもあります。

エストロゲンは、閉経期および閉経後のほか、妊娠中、授乳中に減少し、卵巣の摘出、喫煙によっても減少します。無理なダイエットによって月経周期が崩れたり、生理がこないという若い女性でも、エストロゲンは減少します。ごくまれに、食べ物などのアレルギー反応に関連して、エストロゲンの減少を経験することがあります。

膣が乾燥する理由としては、エストロゲンの減少以外にもいくつかあります。風邪薬、アレルギー治療薬、一部の抗うつ剤は、膣を含め体全体の乾燥の原因になります。乳がんの治療に使用されるような化学療法薬も、膣を含め体全体の乾燥の原因になる可能性があります。市販のビデ(膣洗浄剤)を使用すると、膣の中の自然な化学的バランスが崩れて、これが炎症や乾燥の原因になることがあります。

自分自身の体を異物と認識して攻撃する自己免疫性疾患の一種で、全身の分泌腺(せん)組織を侵して唾液(だえき)や涙などが出にくくなるシェーグレン症候群という難病の一症状としても、膣にあるバルトリン腺と呼ばれる分泌腺が侵され、膣乾燥症がみられることもあります。40~60歳の女性に多いのが特徴で、女性ホルモンの要因も関連して発症すると考えられています。

膣乾燥症の検査と診断と治療

婦人科、産婦人科の医師による診断では、まず膣乾燥症の原因を探し出すために、問診を行います。自覚症状に関する質問をしたり、治療中の病気や市販薬、処方薬にかかわらず使用している薬について質問をしたりします。

確実な診断を得るためには、内診のほか、超音波検査、MRI検査、基礎体温の測定、血液中ホルモン検査、腎臓(じんぞう)と尿管の検査、膣分泌物の顕微鏡検査や培養検査などを行うこともあります。原因を特定できない場合や、ほかの症状がある場合は、追加の検査を行うこともあります。

婦人科、産婦人科の医師による治療では、閉経期および閉経後の女性ホルモンのエストロゲン不足によるものであれば、天然のエストロゲンを薬として補充します。

しかし、ホルモン療法はすべての人に適した治療というわけではなく、副作用が出ることもあります。副作用には、体重増加、体液貯留、吐き気、頭痛、乳房を押した時の痛み、皮膚にできる色の濃い斑点(はんてん)、脳梗塞(こうそく)、血栓、認知症、乳がんや卵巣がんのリスクの増加があります。

ホルモン療法以外の選択肢はいくつかあり、膣の乾燥に対応するために特別に作られた保湿剤を使うと、1回の使用で最大3日間症状を和らげることができます。性交痛の対策としては、性交渉の際に膣用のゼリーやローションといった潤滑剤を使用すると、痛みを和らげることができます。潤滑剤が膣壁の粘膜に潤いを与え、1回の使用で数時間効果が持続します。

市販のビデ(膣洗浄剤)、せっけん、リンスなど膣を洗うために作られた製品を使用して膣の乾燥を生じている場合は、その使用を避けることで悪化させないようにします。

ほかにも、エストロゲンと似た作用をするイソフラボンを含む大豆と大豆製品を食事で摂取すると、膣の乾燥が和らぐことがあります。八味地黄丸(はちみじおうがん)、当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)などの漢方薬を服用することで、膣の乾燥が和らぐこともあります。

シェーグレン症候群による膣乾燥症であれば、内科などでステロイド薬や免疫抑制薬などの服用を含めて、適した治療を受けてもらいます。そちらの治療を行うことで、改善する可能性が考えられます。

🇲🇦膣狭窄症

女性性管の膣が狭窄を来した状態

膣狭窄(ちつきょうさく)症とは、先天性あるいは炎症や外傷などによって、女性性管の膣が狭窄を来した状態。

膣狭窄症には、胎児期におけるミュラー管という組織の発生障害によって生じる先天性のものと、小児期のジフテリアや、はしか(麻疹〔ましん〕)などによる膣炎の後遺症として生じた癒着による後天性のものとがあります。

狭窄の程度によって全く症状を欠く場合もありますが、高度の場合は月経血の排出障害、分泌物の貯留を起こしたり、膣炎が起きたり、異常な下り物があることもあります。月経血の排出障害により、下腹部痛を感じたり、子宮機能に異常が現れることもあります。

膣が狭いために、性交渉に問題を抱えます。

思春期に初経がこないため婦人科を受診し、発見される例がほとんどです。

膣狭窄症の検査と診断と治療

婦人科、産婦人科、あるいは小児科の医師による診断は、内診を中心に、超音波検査やCT検査で腟や子宮に液体がたまっていないかどうかを検査します。血液中ホルモン検査、腎臓(じんぞう)と尿管の検査などを行うこともあります。

婦人科などの医師に膣狭窄症の治療は、程度に応じて頸管(けいかん)拡張器による膣腔(ちつくう)の拡大、狭窄部の小切開、さらに全体的膣形成までさまざまな手術が行われます。

頸管拡張器は、医師の指導の元に患者自身が使用する医療器具であり、腟部分の皮膚に圧力を加えて伸展させ、徐々に腟腔を形成するため、当初は幅1・5センチ、長さ2、3センチ程度のごく小型のものを用い、サイズを増していきます。使用前に入浴して、伸展部の皮膚を軟らかくすると効果的。

使用の開始年齢は、自分の状態を理解して使用できる年代が好ましく、思春期以降の性的関係を持つ時期が適切です。

🇲🇦腟けいれん

腟口や腟周囲の筋肉が不随意にけいれん、収縮を起こし、性交ができなくなったりする状態

腟(ちつ)けいれんとは、女性の腟口や腟周囲の筋肉が不随意にけいれん、収縮を起こし、性交時に痛みを感じたり性交ができなくなったりする状態。単に腟けいとも呼ばれます。

この腟けいれんは、性交経験のない人に起こる原発性腟けいれんと、性交経験のある人に起こる続発性腟けいれんとに分かれます。

原発性腟けいれんでは、初交の際に男性が陰茎を膣に挿入しようとすると、外陰部の疼痛(とうつう)を覚えるため、不随意反射的に膣口の括約筋である球海綿体筋や外肛門(こうもん)括約筋を強く締めてしまい、挿入が困難か、あるいは挿入に強い痛みを伴います。挿入後に起こった場合は、陰茎を抜去するのが困難になります。

原発性腟けいれんの多くは、幼少期の性的障害や、性への消極的思考の教育、宗教的な罪悪感、望まない結婚などが関係するといわれています。無意識の心理的葛藤が身体的症状として現れる、いわゆる心身症としてとらえることもできます。

続発性腟けいれんの場合は、結婚後何年もしてから症状が現れることもあります。また、陰茎挿入時に疼痛を覚えることもしばしばです。

続発性腟けいれんは、性交を望まない気持ちが無意識にあると生じることがあります。例えば、過去に性交で経験した痛みが、症状のの原因となっている場合があります。このほか、妊娠すること、パートナーに支配されること、自制が利かなくなることなどに対する恐れなどが、性交を望まない気持ちにつながります。

骨盤内の感染、けが、出産、手術などによる腟口の傷跡などの身体的な問題が、腟けいれんを引き起こしていることもあります。腟洗浄、殺精子剤、コンドームのラテックスなどによる刺激も、腟けいれんの原因となることがあります。

腟けいれんの痛みのため、性交に耐えられない女性もいますが、こうした女性でもペニスの挿入を伴わない性行為であれば楽しめることがあります。逆に、月経の際の生理用タンポンの挿入にさえ耐えられないような場合もあり、こうした人では医師による検査の際に麻酔が必要となります。

医師による診断が難しいことと、治療には時間がかかることがあるので、腟けいれんに気付いたら、まずは産婦人科に相談に行くのがよいでしょう。その後、必要に応じて専門家の治療を受けることになります。

腟けいれんの検査と診断と治療

婦人科、産婦人科の医師による診断は、発症者による症状の説明、病歴によって腟けいれんを疑いますが、確定診断は腟の検査を行うことになります。ただし性器という場所ゆえに、なかなか検査を行いにくいというのが現状です。

身体的疾患が腟けいれんの原因となっている場合は、その治療を行います。原因が精神的なものである場合は、性交や性器に対する不安の除去を図る精神医学的療法を行います。同時に、パートナーとの関係の見直しや、家庭環境の改善も必要になってきます。

物理的な治療として、器具の挿入による腟の段階的拡張を行うほか、局所への麻酔薬入りゼリーの塗布、処女膜切開、向精神薬の内服などの方法があります。

腟の段階的拡張は、潤滑剤を塗ったプラスチック製の棒(拡張器)を自分で腟に挿入し、腟を徐々に広げていくという方法です。初めは細い拡張器を使用し、楽に挿入できるようになったら徐々に太いものに変えていきます。十分な太さの拡張器を入れていても不快感を感じないようになったら、改めてパートナーとの性交を試みます。

この拡張器を挿入した状態で、骨盤部の筋肉を強化するケーゲル体操を行うと効果的な場合があります。ケーゲル体操は、排尿を途中で止める時のように、腟、尿道、直腸の周りの筋肉に力を入れて約10秒間引き締め、次に力を抜いて約10秒間緩めます。この動作を10〜20回繰り返すのを1セットとして、1日に3セット以上行います。この体操により、不随意に収縮していた筋肉をコントロールする感覚を身に着けることができ、尿失禁や便失禁の予防や軽減にもつながります。

🇦🇶チック症

不随意に急速な運動や発声が起きる疾患

チック症とは、チックという一種の癖のようなものが固定、慢性化した疾患。心身症ないし神経症レベルのチック症や、チック症の重症型といわれる慢性多発性のトゥレット症候群は、学童期、思春期の子供に比較的多くみられます。

チックというのは、ある限局した一定の筋肉群に、突発的、無目的に、しかも不随意に急速な運動や発声が起きるもの、とされています。従って、チック症の症状には、運動性チック、音声(発声)チックがあります。

運動性チックの症状としては、まばたき(瞬目)、首振り、顔しかめ、口すぼめ、肩上げなど上位の身体部位によく現れますが、飛び跳ね、足踏み、足けりなど全身に及ぶものもあります。音声(発声)チックの症状としては、咳(せき)払い、鼻鳴らし、舌鳴らしのほか、叫びや単語を連発するものがあります。

3〜4歳の幼児期から11歳ごろに発症することが多く、ピークは6〜8歳です。男児に多い傾向にあり、男女比は3対1。その意味付けに関して定説はありませんが、一応この時期の男女の成長、発達の特異性によるものと考えられています。

原因は、慢性的なものであれば、遺伝的なものを含め脳にあると考えられていますが、環境や心の問題も症状に影響します。一過性のものの中には、心因性のものもあると考えられていますが、その場合自然に軽快することが多いといわれています。脳については、線状体の障害説などがあります。

チック症は、 一過性チック症、 慢性チック症、トゥレット症候群(トゥレット障害)に分類されます。

一過性チック症は、1種類または多彩な運動性チックおよび音声チックが、頻回に起こりますが。1年以内に症状が消失するものです。心と体の成長、発達の過程で、子供の10~20パーセントに何らかのチック症が見られるとされていますが、多くは一過性と考えられています。

慢性チック症は、1種類または多彩な運動性あるいは音声チックのどちらかが、頻回に起こり1年以上持続するものです。

トゥレット症候群(トゥレット障害)は、多彩な運動性チックおよび1つまたはそれ以上の音声チックが、同時ではなくても頻回に起こり1年以上持続するものです。10歳過ぎになると、卑猥(ひわい)な単語などをいってしまう汚言症、他人のいった言葉などを繰り返す反響言語、音声や単語を繰り返す反復言語などの複雑な音声チックが出現することがあります。このトゥレット症候群、時に慢性チック症にも併発することがあるものとして、強迫性障害、注意欠陥/多動性障害(AD/HD)、学習障害、不登校、衝動性、攻撃性の高進、自傷・他害行為が挙げられます。

以上の3つの障害は、連続するものかどうかは明らかでありませんが、大きく見れば1つの集合と考えられています。そして問題なのは、どのようなタイプの一過性チック症が、慢性チック症あるいはトゥレット症候群に進展するかがわかっていないことです。

チック症の検査と診断と治療

チック症の診断は、一般には症状や治療経過の特徴などからなされています。精神科などでの治療は、「チック症という疾患を治すのではなく、チック症の子供を治療する」ことになります。治療の目標は、ストレスなどへの適応性を高め、人格の発達援助を目指すことです。

軽症の場合は、遊戯療法などの行動療法的なアプローチが有効とされています。その際は、親へのカウンセリングが重要になります。親の対応としては、症状を誘発する緊張や不安を軽減、除去することや、それへの耐性(精神的抵抗力)を高めるように援助することが肝要です。症状の出現をやめるように、いたずらに叱責(しっせき)して注意を促すことは、避けるべきです。チックは、緊張や不安、興奮、疲労などによって影響されます。ちょっとした変動で、一喜一憂しないことです。

学校ではチックが目立たないのに、家庭では多い場合もあります。これは家庭に問題があるのではなく、むしろリラックスできるからであることが多いと思われます。 本人が症状に捕われすぎないように配慮し、ゆったりと過ごせるようにします。全身運動による発散に関心を向けさせ、一方では、何か興味を抱いて熱中できる、趣味的なものを持たせることが有効です。

チック症の症状が長期、慢性化し、多発、激症化する場合には、子供専門の精神科などの医療機関への受診が必要になります。トゥレット症候群や慢性チック症の治療には、主としてハロペリドールなどの向精神薬による薬物療法が有効です。その他の治療法の併用も行われます。

🇦🇶腟欠損症

先天的に女性の腟の一部または全部が欠損した状態

腟(ちつ)欠損症とは、先天的に女性の腟の一部、または全部が欠損した状態。

この腟欠損症の女性では、先天的な原因により腟や子宮の異常がさまざまな程度に起こります。染色体は正常女性型で、卵巣はほとんど正常にあり、女性ホルモンも正常に出ています。外陰部も正常で、女性としての二次性徴も正常です。

母親の子宮の中にいる胎児の時には、卵巣、腟・子宮・卵管、外陰部は別々に発生してきて、本来はこれらがうまくつながります。このうち、腟・子宮・卵管はミュラー管という組織が分化して形作られますが、たまたま分化が行われずに発生不全が起きると、子宮はわずかに痕跡(こんせき)を残す程度にしか発育せず、腟も長さが2~3センチと短いか、全くない状態になります。これが腟欠損症です。

はっきりした原因はまだわかっていませんが、血管に異常が起こってミュラー管へ血液が流れなくなり、正常な発生ができなくなると推測されています。

腟欠損症は、医学的には上部腟欠損、下部腟欠損、全腟欠損に分類されます。頻度は4000~5000人に1人とされ、そのうち95パーセントは月経を起こし得る機能性子宮を持ちません。

全腟欠損で機能性子宮を持たない場合をロキタンスキー・キュストナー・ハウザー症候群と呼び、腟欠損の中で最も頻度が高いものです。月経機能を失っている状態で、月経血の貯留による症状はなく、無月経がほぼ唯一の症状となります。卵巣からの排卵はありますが、体内で死滅して吸収され、体外に排出されるということはありません。

一部の腟欠損で機能性子宮を持つ場合には、思春期以後、月経に伴って子宮や卵管への月経血の貯留を起こすため、月経血をみないまま周期的な腹痛が出現する月経モリミナという症状が現れます。

また、機能性子宮の有無にかかわらず、普通の性行為はできません。まれに、骨の異常があることもあります。

腟欠損症に気付いたら、婦人科医、ないし産婦人科医を受診してください。

腟欠損症の検査と診断と治療

婦人科、産婦人科の医師による診断は、内診のほか、超音波検査、MRI検査、基礎体温の測定、血液中ホルモン検査、腎臓(じんぞう)と尿管の検査、骨のレントゲンなどを行います。

婦人科、産婦人科の医師による治療では、性行為ができるように人工的に膣を造る造腟手術を行います。子宮に異常を伴う場合には妊娠が不可能な場合もあり、造腟手術により性行為を可能にして患者の精神的不具感をいやすことが治療の主眼となります。手術は、思春期以降の性的関係を持つ時期を目安に行われます。

造腟手術には数多くの術式があり、今なおさまざまな工夫が試みられています。主な術式は、フランク法、マッキンドー法、ダビドフ法、ルーゲ法の4つです。

フランク法は、腟前庭(ぜんてい)をヘガール持針器などで圧伸して腟腔(ちつくう)を形成したのち、その腟腔を拡張する方法。マッキンドー法は、出血を余儀なくされる処置で腟腔を形成したのち、皮膚移植により腟壁を形成する方法。ダビドフ法は、出血を余儀なくされる処置で腟腔を形成したのち、骨盤腹膜を利用して腟壁を形成する方法。ルーゲ法は、出血を余儀なくされる処置で腟腔を形成したのち、開腹してS状結腸を切り離し、腟管として利用する方法。

以上4つの方法が従来行われてきましたが、近年では腹腔鏡下手術が行われることも増えてきました。患者の体にかかる負担を軽減し、骨盤腹膜やS状結腸を使った手術が可能となっています。

このような手術の後には、膣管の状態を維持する必要があります。定期的な性交渉やプロテーゼ(腟ダイレーター)により、状態を保たなければいけません。プロテーゼ(腟ダイレーター)とは、筒状の拡張器具のことを指し、皮膚を伸展させて腟腔を形成する目的で使用されます。

🇦🇶腟中隔

先天的に、女性性管の腟に縦方向の隔壁が残った状態

腟中隔とは、先天的に女性性管の腟の中央に、縦方向の隔壁が残った状態。腟縦中隔とも呼ばれます。

母親の子宮の中にいる胎児の時には、卵巣、子宮・腟・卵管、外陰部は別々に発生してきて、本来はこれらがうまくつながります。このうち、子宮と腟の上部は、ミュラー管と呼ばれる左右2対の原器が中央で癒合して形成されます。その癒合に障害を来すと、ミュラー管の末端部の細胞とそれに接する部分の尿生殖洞の細胞が増殖して形成する腟板の発生と、その空洞化に異常を来し、腟の中央に縦方向の隔壁が残ると考えられています。

腟の全長に及ぶ中隔では、腟を2つ持つ重複腟となります。腟中隔の大部分は無症状で、日常生活に障害を来すことは少なく、性交渉によっても腟中隔の存在には気付かれないことが多く見受けられます。

ただし、重複腟で片方の腟が閉鎖していると、腟内や子宮、卵管に月経血、分泌物などがたまり、下腹部痛を起こしたり、しこりを生じたり、腰痛を起こしたりします。

また、同じミュラー管の癒合障害によって、中隔子宮や双角子宮などの子宮奇形を伴うこともまれではありません。発生段階で関連があるために、腎臓(じんぞう)や尿管の異常を伴うこともあります。

別の疾患が原因で婦人科を受診した際や妊娠出産を契機に、初めて腟中隔を発見されることが多くなります。

子宮奇形は、子宮の形が本来と異なるものをすべて含みます。正常な子宮は長ナスのような形をしていますが、子宮が途中で2つに分かれてハート型になっていたり、1つのはずが2つあったりすることがあります。どのような形態をしているかで、弓状子宮、中隔子宮、単角子宮、双角子宮、重複子宮、副角子宮などに分類されます。

子宮に形態的な異常があることが、習慣流産や不妊、早産、難産の原因になることがあります。しかし、特別な問題を引き起こさないことのほうが多く、子宮の形に異常があるからすぐに何らかの処置が必要ということではありません。

子宮の形は正常で、中に隔壁がある中隔子宮が、流産を繰り返す不育症と最も関連しているといわれています。逆に、子宮腔(くう)が2つ存在している双角子宮は、不育症とはあまり関係ないといわれています。

腟中隔の検査と診断と治療

婦人科、産婦人科の医師による腟中隔の診断は、内診のほか、超音波検査、MRI検査、基礎体温の測定、血液中ホルモン検査、腎臓(じんぞう)と尿管の検査、骨のレントゲンなどを行います。

婦人科、産婦人科の医師による腟中隔の治療は、性交渉や分娩(ぶんべん)の障害となっていれば、腟の中隔の切除を行います。重複腟で片方の腟が閉鎖している場合は、閉鎖部位を切開して、月経血や分泌物などの通り道を作ります。

婦人科、産婦人科の医師による子宮奇形の診断は、子宮卵管造影検査、超音波検査、MRI検査、子宮鏡、腹腔鏡などを用いて総合的に行います。一番簡単な検査は超音波検査ですが、弓状子宮や中隔子宮の場合は、超音波検査だけでは十分に診断できないことがあります。MRI検査や子宮卵管造影検査を組み合わせることによって、より詳しく子宮の形を見ることができます。

婦人科、産婦人科の医師による子宮奇形の治療は、症状がなければ行う必要はありません。習慣流産や不妊の原因になっている時は、手術で正常な形に整えます。手術の方法は、開腹して子宮の形を本来の形に整える形成術や、腹腔鏡補助下に形成術を行う方法のほか、最近では子宮鏡手術で中隔子宮の治療を行う方法も選択できるようになってきました。

子宮奇形があるからといって必ずしも手術が必要なわけではなく、あくまでも妊娠率を上げたり、流産率を下げたりする可能性が高いと考えられる場合に、手術を行います。形成術を行った場合、子宮の壁は通常の子宮よりも若干弱くなっている可能性があるので、分娩は通常の経腟分娩ではなく帝王切開になります。

🇲🇭膣トリコモナス感染症

トリコモナス原虫の繁殖によって、腟や尿道に起こる性感染症

膣(ちつ)トリコモナス感染症とは、トリコモナス原虫という単細胞生物の繁殖によって、腟や尿道に起こる性感染症。トリコモナス膣炎、トリコモナス症とも呼ばれます。

もともとの感染経路には不明な面もありますが、男女間の性行為で感染することは確かなので、性感染症の中に含まれています。しかし、性交経験のない女性でもみられることがあり、便器、入浴、タオルなどを介しての感染もまれにあるようです。

トリコモナス原虫は一般に、男女両方の生殖器や尿管に感染しますが、症状が出るのは主に女性です。男性では、症状がほとんどない尿道感染症がよくみられ、まれに精巣上体や前立腺(ぜんりつせん)が感染します。

女性は通常、黄緑色の泡立った分泌物が腟から出ることで発症します。分泌物の量は少ないこともあります。外陰部が過敏になって、かゆみ、痛み、性交痛も起こります。重症の場合、外陰部や周辺の皮膚が炎症を起こし、陰唇が腫(は)れます。排尿痛や頻尿など、膀胱(ぼうこう)感染症で起こるのと同じような症状だけが起こることもあれば、他の症状と併せて起こることもあります。

トリコモナス原虫に感染した男性は、症状はなくてもセックスパートナーに感染を起こします。また、尿道から分泌物が出て、排尿痛、頻尿などの症状を伴う非淋菌(りんきん)性尿道炎にかかっている男性もたくさんいます。

膣トリコモナス感染症の検査と診断と治療

婦人科、産婦人科、男性なら泌尿器科、皮膚科、性病科の医師による診断は、女性では膣分泌物の顕微鏡検査や培養法で、白血球より一回り大きめで鞭毛(べんもう)がむち打つように運動しているトリコモナス原虫を確認します。男性では尿または尿道分泌物、前立腺液、精液中のトリコモナス原虫の有無を確認しますが、発見するのは女性より困難です。

医師による治療では、女性はメトロニダゾール(フラジール)の内服、またはメトロニダゾールの膣剤、またはその併用です。男性ではメトロニダゾールの内服を7日から10日間。男性、女性とも薬が良く効きますが、セックスパートナーも同時に治療しなければ、再感染する恐れがあります。

メトロニダゾールは、アルコールと一緒に服用すると、悪酔いや吐き気、肌の紅潮を引き起こします。内服治療中は、アルコールは飲めません。

🇲🇭腟閉鎖症

女性性管の膣が閉鎖、あるいは狭窄を来した状態

膣(ちつ)閉鎖症とは、先天性あるいは炎症や外傷などによって、女性性管の膣が閉鎖あるいは狭窄(きょうさく)を来した状態。

先天性のものは、胎児期における腟の発生段階の形成異常で、一部が損なわれた状態です。軽度の処女膜閉鎖症から、腟閉鎖症(腟横隔)、膣狭窄症まで、程度はさまざまです。

処女膜閉鎖症は、腟口部を取り囲むヒダ状のもので通常、中央部は開いている処女膜が、完全にふさがっている状態。そのために閉鎖した腟内や子宮、卵管に月経血、分泌物などがたまり、下腹部痛を起こしたり、しこりを生じたり、腰痛を起こしたりします。また、膀胱(ぼうこう)刺激症状や排便痛を起こすこともあります。

腟閉鎖症(腟横隔)は、ほとんどが膣の上部3分の1と膣の下部3分の2との境界部に好発し、腎臓(じんぞう)の奇形を合併することもあります。処女膜閉鎖症と同様に、月経が起こっても、流出路が閉鎖しているために月経血が排出されずに腟内や子宮、卵管にたまり、月1回、定期的にかなり強い下腹部痛を起こします。

月経血の貯留が高度となると、下腹部にしこりを感じ、排尿障害、排便障害、持続的な腹痛が起こることもあります。大量の貯留が長期間放置されると、子宮や膣が過伸展、変形して、後に不妊症の原因となることもあります。

膣狭窄症は、胎児期におけるミュラー管という組織の発生障害によって生じる先天性のものと、小児期のジフテリアや、はしか(麻疹〔ましん〕)などによる膣炎の後遺症として生じた癒着による後天性のものとがあります。狭窄の程度によって全く症状を欠く場合もありますが、高度の場合は月経血の排出障害、分泌物の貯留を起こしたり、膣炎が起きたり、異常な下り物があることもあります。膣が狭いために、性交渉に問題を抱えます。

いずれも思春期に初経がこないため婦人科を受診し、発見される例がほとんどです。

腟閉鎖症の検査と診断と治療

婦人科、産婦人科、あるいは小児科の医師による診断は、内診を中心に、超音波検査やCT検査で腟や子宮に液体がたまっていないかどうかを検査します。血液中ホルモン検査、腎臓と尿管の検査などを行うこともあります。

医師による処女膜閉鎖症、腟閉鎖症(腟横隔)の治療は簡単で、閉鎖部位を切開して、月経血や分泌物などの通り道を作れば解決し、後遺症もなく治ります。軽度の処女膜閉鎖症では、簡単な十字切開手術ですみます。膣閉鎖症では、膜様閉鎖では切開のみで問題ありませんが、閉鎖部が厚い場合には輪状切開を行います。この輪状切開を行った場合には、手術後の瘢痕(はんこん)性委縮に注意する必要があります。

処女膜閉鎖症、膣閉鎖症の場合には、閉鎖している部分を切開して完治するので性交渉も可能になります。卵巣および子宮は正常なので、その後の月経も含めて問題はなくなり、正常な妊娠、出産も可能になります。ただし、長期間放置して診断が遅れた場合には、卵管卵巣の壊死(えし)や破裂による腹膜炎を来すことがあります。

膣狭窄症の治療は、程度に応じて頸管(けいかん)拡張器による膣腔(ちつくう)の拡大、狭窄部の小切開、さらに全体的膣形成までさまざまな手術が行われます。

🇲🇭腟壁裂傷

性交時や分娩時に、腟壁の裂傷を生じて出血する状態

腟壁(ちつへき)裂傷とは、無理な力が加わった時に女性の腟壁が裂けて出血する状態。性交による腟壁裂傷と、分娩(ぶんべん)時に発生する腟壁裂傷とがあります。

女性生殖器系の器官である腟は、骨盤内にあって子宮と体外とをつなぐ管状の器官で、伸び縮みできる構造をしています。腟の前方には膀胱(ぼうこう)や尿道があり、後方には直腸があります。腟壁は粘膜に覆われ、その粘膜面には横に走るひだがあります。このひだは正中部で集合し、前壁と後壁で中央に縦に走るひだになっています。このひだは出産の経験のない人に、多く認められます。

性交による腟壁裂傷は、まだ経験の浅い女性に多く、特に粗暴な行為や器具を使用した場合に多くみられます。腟入口部から最深部の腟円蓋(えんがい)まで幅広い腟壁の裂傷の形をとりますが、その多くは腟壁内の縦に走る裂傷として認められており、特に腟の前壁と後壁のひだの薄い粘膜に裂傷が起こりやすい傾向があります。

症状は、性交時の痛みと出血。出血は、鮮血で多量の場合が多くみられます。膣の入口部にある処女膜が裂傷を起こして出血する場合もありますが、こちらはすぐに止血する場合がほとんどなのに対して、膣壁が男性の陰茎などによって機械的に刺激を受けて裂傷を招いた場合には、生々しい血が流れ出し、出血の量も多くなる傾向があります。

止血しにくい際は縫合が必要ですので、すぐに婦人科、産婦人科で治療を受ける必要があります。恥ずかしさのため、受診をためらっていると危険な場合もあります。

性交経験の長い経産婦でも、不自然な体位や粗暴な行為により、腟壁に裂傷を起こすことがあります。また、更年期や閉経以降の女性は、女性のホルモンの1つであるエストロゲン(卵胞ホルモン)の消退とともに、腟壁の委縮が起こって伸縮性が乏しくなるため、性交渉によって腟壁に裂傷を生じることがあります。

一方、分娩時に発生する腟壁裂傷は、胎児が産道である膣を通って出てくる際に、会陰(えいん)裂傷とともに生じることがあります。腟は厚くて伸展性に優れていますが、胎児の頭の大きさと産婦の腟や外陰部の伸び具合のアンバランスで一般的に起こります。

ほかに、急速な分娩進行、胎児の姿勢の異常、大きな児頭などでも起こります。特に、高年初産の産婦では産道の伸展が悪くなっていることが多いため、腟壁裂傷、会陰裂傷を生じやすくなります。

腟壁裂傷は膣の下3分の1に生じやすく、かすり傷程度から、時には肛門(こうもん)から直腸の裂傷を伴う重症な場合もあります。分娩直後から、腟壁裂傷を生じた部位からの持続的な出血があり、時には急速出血、多量出血となり、極端に血圧が下がるなどのショックとなる場合もあります。

産婦人科の医師の管理の下で分娩する場合には、直ちに縫合、止血などの適切な処置が講じられます。

腟壁裂傷の検査と診断と治療

婦人科、産婦人科の医師による診断では、腟鏡を用いた視診によって腟壁の裂傷の部位、裂傷の程度を確認します。分娩時に発生する腟壁裂傷に対しては、直腸診によって直腸の裂傷の有無も確認します。

医師による治療では、裂傷の程度にもよりますが、出血が断続的に起こり止まらない場合は縫合、止血処置を行います。局所麻酔でも可能ですが、裂傷が広範な場合は全身麻酔にて、吸収糸という抜糸しなくても自然に吸収される糸で、裂傷の部位を縫い合わせます。処置後は、抗菌薬の投与を数日間行います。

縫合処置ができない場合は、ガーゼで裂傷の部位を圧迫したり、裂傷の部位にドレーン(誘導管)という合成樹脂性のゴムを留置し、貯留する血液や浸出液を体外へ排出することもあります。

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 静岡県は26日、直近1週間(15~21日)のデータから「RSウイルス感染症が流行入りしている」と発表しました。定点医療機関となっている小児科1カ所当たりの患者数は1・64人で、県が流行入りの目安としている「1人」を大きく上回りました。前週の0・9人よりも8割増加し、急拡大が懸...