麻疹ウイルスによって引き起こされる小児期に多い急性の感染症
麻疹(ましん)とは、麻疹ウイルスによって引き起こされる小児期に多い急性の感染症。麻疹と書いて「はしか」とも読み、こちらのほうが一般に知られています。
麻疹ウイルスの感染経路は、空気感染、飛沫(ひまつ)感染、接触感染で、その感染力は極めて強く、免疫を持っていない人が感染するとほぼ100パーセント発症します。一度感染して発症すると、一生免疫が持続するといわれています。
流行するのは初春から初夏にかけてで、秋から冬にかけては流行はみられません。好発年齢は1歳代が最も多く、次いで6~11カ月、2歳の順です。生後5〜6カ月までは母親の免疫抗体が体内に残っているので、かかりません。近年は、成人麻疹の増加が問題となっており、10歳代、20歳代での発症が多くなっています。
10~12日の潜伏期の後、発熱で発症します。発熱期はせき、鼻水、結膜の充血、目やにの症状が強く、38℃以上の発熱が数日続きます。疾患の経過中、最も感染力が強い時期です。その後、いったん解熱傾向を示しますが、すぐに耳後部付近から発疹が現れるとともに、39℃以上の発熱が数日続きます。
発疹の出現前後1、2日間に、臼歯(きゅうし)の横付近の口腔(こうくう)粘膜にコプリック斑(はん)と呼ばれる白い粘膜疹が現れます。この粘膜疹は麻疹に特徴的であるため、早期診断に役立ちます。
発疹はその後、顔面、体幹、手足に広がって全身の発疹となります。発疹は鮮紅色で少し盛り上がったものが点在しますが、数が多くなると部分的に融合して地図状になる傾向があります。
発疹の出現後、熱は3、4日で下がり、発疹もやや遅れて暗赤色からさらに薄くなり始め、褐色の色素沈着を残して回復に向かいます。色素沈着以外の症状は7〜10日で回復し、色素沈着も徐々に薄れていきます。
麻疹の後、肺炎、中耳炎を合併することが多く、1000人に0・5~1人の割合で脳炎を合併することがあり、中にはこのために死亡することもあります。
また、麻疹ウイルスに感染後、5~10年の潜伏期間を経て特に学童期に発症することの多い中枢神経疾患として、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)があります。知能障害、運動障害、けいれん発作などの症状を示し、発症から平均6~9カ月で死亡する進行性の予後不良な疾患で、発症頻度は麻疹にかかった10万人に1人程度といわれています。
ワクチンの予防接種が、有効です。ワクチンを接種する前に麻疹の発症者と接触したことが判明した場合は、48時間以内に麻疹含有ワクチンを接種することも、効果的です。接触後5、6日以内であれば、γ(ガンマ)-グロブリン製剤の注射で発症を抑える、あるいは軽くすませる可能性があります。が、安易にとれる方法ではありません。ただし、家族内感染の場合は、これらの予防法では間に合わないことがほとんどです。
麻疹を発症してしまった場合は、早急に掛かり付けの小児科、成人の場合は内科あるいは皮膚科を受診し、入院の必要性を含めて対応を相談することが必要です。
麻疹の検査と診断と治療
小児科、内科、皮膚科の医師による診断は通常、二峰性発熱、せき、鼻水、目やになどの症状、発疹の性状や特にコプリック斑だけで、ほぼ確実につきます。コプリック斑や発疹が出る前の時期は、風邪と似た症状のため診断がつきにくいことがあります。ただし、地域で麻疹の流行が確認されている場合は、かなり早い時期から麻疹の疑いがもたれます。
診断を確定する必要がある場合は、急性期の血液や咽頭(いんとう)ぬぐい液、尿から麻疹ウイルスを分離したり、RT‐PCR法で麻疹ウイルスの遺伝子(RNA)を検出することで、証明します。この検査は全国の地方衛生研究所(地研)で実施されており、麻疹を疑った場合は、保健所を通して地研に臨床検体を搬送します。地研での実施が困難な場合は、国立感染症研究所で実施します。急性期と回復期に採血して、麻疹ウイルスに対するIgG抗体が陽性に転じたことで診断する場合もあります。
近年、成人での麻疹の発症が増えていますが、内科医が麻疹患者を見慣れていないという事情もあり、診断が遅れがちです。成人の麻疹の場合、腹痛、黄疸(おうだん)、肝機能障害といった腹部症状が通常の麻疹の症状とともによくみられます。
小児科、内科、皮膚科の医師による治療では、発症してしまった場合はウイルスに特異的な治療方法がないため、対症療法と細菌感染の予防を行います。対症的薬物療法としては、高熱や頭痛には解熱剤、鎮痛剤、不安や興奮には鎮静剤、せきには鎮咳(ちんがい)、去たん剤を使用します。肺炎、中耳炎を合併することも多く、入院率は約40パーセントといわれています。
なお、麻疹は2008年1月1日から、全数報告の感染症となり、診断したすべての医師が最寄りの保健所に1週間以内に届け出ることが義務付けられました。
熱が続いている間は安静にし、水分補給を心掛けます。部屋の加湿は、せきを軽減させる効果があります。部屋の温度は、涼しくしすぎないよう注意します。光をまぶしがる時は、部屋の中をやや暗めにします。小学生以上の場合、麻疹と診断されれば出席停止となります。解熱後3日以上たてば登校できるようになりますが、その際には医師による登校許可が必要となります。
ワクチンを接種して発症そのものを予防することが、最も重要です。接種時期は、1歳になったらできる限り早く接種することが望まれます。日本では、2006年からMR(麻疹・風疹混合)ワクチンが広く使用されるようになり、2006年6月からは、1歳児と小学校入学前1年間の幼児を対象とした2回接種制度が始まっています。これらの時期に受けるワクチンは、定期接種として通常、無料で接種が受けられます。
また、2007年の全国的な麻疹流行は10歳代、20歳代が中心で、大学や高校で休校が相次いで問題になったため、国の麻疹対策が大きく変わりました。2008年度から5年間の時限措置として、10歳代への免疫強化を目的に、中学1年生(13歳)と高校3年生(18歳)に対する2回目の予防接種(原則としてMRワクチン)が、予防接種法に基づく定期接種に導入され、2012年度で終了しました。