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2022/07/28

🇶🇦アーノルド・キアリ奇形

脳の奇形の一種で、後頭部にある小脳や延髄の一部が頭蓋骨から頸椎に落ち込む疾患

アーノルド・キアリ奇形とは、本来は頭蓋骨(とうがいこつ)の中に納まっているべき、小脳扁桃(へんとう)や延髄が頭蓋骨の下縁にある大後頭孔を超えて、頸椎(けいつい)を上下に貫いている脊柱管に脱出、下垂する疾患。脳の奇形の一種です。

疾患名は、1891年に新しい症例とその分類を発表したオーストリアの病理学者ハンス・キアリと、1894年にその普及に貢献したドイツの病理学者ジュリアス・アーノルドに由来しています。

脱出した小脳扁桃が間脳、中脳、橋、延髄などで構成されている脳幹を圧迫したり、頭蓋骨と頸椎の移行部で脳脊髄液の通過を障害したりして、症状を出すことがあります。しばしば、脊髄(せきずい)や延髄の中に空洞が生じ、内部に脳脊髄液が貯留する脊髄空洞症を合併します。

胎児期に後頭骨から頸椎上部の骨の形成異常によって起きる先天性と、出生時の外傷による頭蓋骨の変形によって起きる後天性があり、詳しい原因はわかっていません。

また、脱出、下垂した脳組織や合併する疾患によって、アーノルド・キアリ奇形は1型、2型、3型に分類されます。

アーノルド・キアリ奇形1型は、小脳扁桃だけが脊柱管内に下垂するものです。先天的に脊椎骨が形成不全となって、脊椎骨の背中側の一部が開放し、脊髄や髄膜の一部が骨の外に露出する脊髄髄膜瘤(りゅう)の合併はなく、神経系の奇形を合併することはまずありません。

通常は単独の疾患ですが、時に脳脊髄液による脳の圧迫が脳機能に影響を与える水頭症や、頭蓋骨縫合早期癒合症(小頭症)、脳腫瘍(しゅよう)、脊髄係留などの疾患によって、後天的にアーノルド・キアリ奇形1型を認めることもあります。通常は、遺伝性はありませんが、まれに家族間で発生することもあります。

アーノルド・キアリ奇形2型は、小脳虫部や脳幹まで脊柱管内に下垂するものです。アーノルド・キアリ奇形1型より重症で、ほとんどで水頭症を伴うとともに、原則として脊髄髄膜瘤を伴い、神経系の奇形を合併します。

アーノルド・キアリ奇形3型は、小脳、延髄が頸椎上部の脊髄髄膜瘤の中に下垂するものです。生命予後は、不良です。

アーノルド・キアリ奇形1型を発症すると、頭痛、後頸部痛、めまい、手足の感覚障害、脊椎側湾症、筋肉が緊張しすぎて歩きにくくなる痙縮(けいしゅく)を生じます。頭痛や後頸部痛は、くしゃみやせきで誘発されることが多いのが特徴的です。まれに睡眠時無呼吸症候群を起こすこともあります。

一般には、数年から十数年かけてゆっくり進行し、高校生ぐらいから40歳くらいの女性に症状が出ることが多いのですが、小児期から症状を出すこともあります。

小児のアーノルド・キアリ奇形1型では、年齢によっても症状が異なります。2歳以下では、食物を飲み込みにくくなる嚥下(えんげ)障害や、胃食道逆流などの症状が約80パーセントに認められるのに対して、3歳をすぎると、合併する脊髄空洞症による腕から手にかけてのしびれや筋力低下、頭痛、脊椎側湾症といった症状が多くなります。

脊髄空洞症も2歳以下では、約30パーセントにしか伴いませんが、3歳をすぎると、85パーセント程度と高率に伴うようになります。

アーノルド・キアリ奇形2型の多くは、乳幼児期に発症しますが、やはり年齢によって症状が異なります。

2歳以下では、嚥下障害、呼吸障害が主な症状で、重症な場合は気管切開や、腹部に開けた穴から管で胃に栄養分を送る胃ろうが必要になることもあります。2歳以上では、アーノルド・キアリ奇形1型と類似した症状になってきます。脊髄髄膜瘤が致死的経過をとることもあるため、特に乳児では症状が出た場合に準緊急的な対応が必要になります。

アーノルド・キアリ奇形の検査と診断と治療

脳神経外科、脳外科の医師による診断では、頭部のMRI(磁気共鳴画像撮影)検査を行い、小脳扁桃が大後頭孔より下垂していると、アーノルド・キアリ奇形1型と確定します。

脊髄のMRI(磁気共鳴画像撮影)検査により、脊髄空洞症の有無を調べます。また、CT(コンピュータ断層撮影)検査やX線(レントゲン)検査を行い、頭蓋骨の形成異常、側湾など脊椎骨の変形を調べます。

アーノルド・キアリ奇形2型に対しては、合併する水頭症、脊髄髄膜瘤を併せて評価します。

脳神経外科、脳外科の医師によるアーノルド・キアリ奇形1型の治療では、基本的には小脳扁桃が下垂して空間が狭くなり、延髄などが圧迫されている大後頭孔部の減圧術を行います。

後頭骨の一部を削除した後、人工硬膜を用いて硬膜を形成し、空間を広げます。この手術で、合併する脊髄空洞症も改善する場合がほとんどです。改善しない場合は、空洞内にカテーテルを入れて、たまった脳脊髄液をくも膜下腔(こう)へ流す手術を行う場合があります。

アーノルド・キアリ奇形1型の80〜90パーセントは、手術により症状が改善し、予後良好とされています。

アーノルド・キアリ奇形2型の治療では、脊髄髄膜瘤に対する修復術と、水頭症に対する脳脊髄液の一部分を頭蓋骨の外へ流す処置や、シャントチューブと呼ばれる細い管を用いて頭以外の腹腔へ脳脊髄液を流す仕組み作りを優先します。

これらの治療にもかかわらず明らな症状が認められるようになった場合には、アーノルド・キアリ奇形1型に対するのと同じ減圧術を行います。しかし、予後は不良です。

🇰🇿アーミーネック

首の骨である頸椎が真っすぐな状態に近くなり、肩凝りや手のしびれが起こる障害

アーミーネックとは、首の骨である頸椎(けいつい)が真っすぐな状態に近くなり、肩凝りや手のしびれなどが起きる障害。ミリタリーネック、ストレートネックとも呼ばれます。

通常、頸椎は前に向かって軟らかに湾曲している前湾構造をしており、これにより頭の重さを分散させ、体全体のバランスを取っています。しかし、パソコンや携帯電話、スマートフォンを使うなどで前かがみになって、うつむく姿勢を続けていると、頸椎が頭の重さを支えられなくなるために、生理的に正常な前湾構造が失われてゆがみ、真っすぐな状態に近くなるアーミーネックとなります。

生理的に正常な頸椎の前湾角度は30~40度であるのに対して、アーミーネックになった頸椎の前湾角度は30度以下を示します。つまり、首の骨である頸椎の形は、アーミー、すなわち陸軍の軍人が頭のてっぺんからかかとまで真っすぐな姿勢になる気を付けをして、あごを手前に引いたような状態になります。

アーミーネックになると、歩行などの緩やかな動作を行う際にも、分散しない頭の重さが常時、首回りの筋肉に加わることになります。この負担が長期間にわたって継続すると、首回りの筋肉や神経を徐々に圧迫し、血流も悪くなって、肩凝りや手のしびれが起きることがあります。

パソコンや携帯電話、スマートフォンの普及と比例して発症するケースが多くなっている点も、アーミーネックの大きな特徴であり、仕事中に限らず休憩中や移動中も画面を見詰める20~40歳代の働き盛りに多く、特に女性は男性の2倍ほど多いといわれています。女性は首が細いため、筋肉の疲労が蓄積しやすいのが原因と見なされます。

アーミーネックの症状としては、肩凝り、手のしびれ、頭痛、めまいのほか、首の痛み、首の傾き、首の動かしにくさ、上方の向きにくさ、寝違い、枕(まくら)の不一致、吐き気、自律神経失調症などがあります。

また、アーミーネックが引き金となって、頸椎の椎間板の一部が後方へずれて神経を圧迫する頸椎椎間板ヘルニアや、頸椎の椎間板と椎骨の変性によって脊髄や神経根が圧迫される頸椎症が起きることもあります。

ただし、一時的に症状が改善したように感じられるケースや、症状が度々治まるケースもあることから、症状が慢性化しない限りアーミーネックを見極めることが難しい面もあります。

アーミーネックの検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、X線(レントゲン)検査を行い、頸椎の形状を確認します。頸椎の前湾の角度が少なく、生理的に正常な前湾の角度の欠如が確認された場合は、アーミーネックと確定されます。

確定された場合は、さらにMRI(磁気共鳴画像撮影)検査を行って、症状の進行状況を確認します。また、アーミーネックが要因となって頸椎に負担がかかり、合併する可能性を持つ頸椎椎間板ヘルニアや頸椎症などの有無も確認します。

整形外科の医師による治療では、前かがみになって、うつむくという不適当な姿勢を長時間継続することが大きな要素を占める障害のため、姿勢を改め、スマートフォンの画面を見詰め続けたりする悪い習慣を避けることが根本となります。根本を解決しない限り、どのような治療を行っても再発の危険性がぬぐえないためで、実際、発症した人の半数以上が再発を経験しています。

具体的には、パソコンを使って長時間のデスクワークをする人の場合は、画面を視線の高さに合わせるようにし、負担のかかる前かがみの姿勢が続かないようにしていきます。また、一定時間おきにストレッチを行い、頸部周囲の筋肉の緊張を和らげるようにしていきます。重症ではない限り、姿勢に注意しストレッチを行うことで十分改善できます。

継続的な負担から頸部に炎症を起こし、痛みが強い場合は、非ステロイド性消炎鎮痛剤や筋弛緩(きんしかん)剤を用いて治療します。局所の安静のために、頸椎固定用のカラー(えり巻き式補装具)を首に装着することもあります。

アーミーネック対策の矯正枕もあり、睡眠時を利用して、首に当たる部位の枕の高さを調節することによって、首に正常な湾曲を強要させて矯正していきます。背筋を強制的に伸ばす働きを持つ姿勢矯正ベルトもあります。

そのほかの理学療法としては、外部から温めることによって血行を促進し筋肉の凝りや痛みを軽減するホットパックなどの温熱療法、首の牽引(けんいん)と休止を繰り返すことによって首の痛みや手のしびれを緩和する頸椎牽引療法、低周波治療、レーザー治療などがあります。

🇬🇾アイカルディ症候群

脳梁欠損、網脈絡膜裂孔、点頭てんかんを特徴とする神経発達疾患

アイカルディ症候群とは、背景に神経系の発達の不具合があると想定されている神経発達疾患。脳梁(のうりょう)欠損、網脈絡膜裂孔、点頭てんかんという3つの症状を特徴とし、日本では特定疾患(難病)の一つとして厚生労働省から指定されています。 

罹患(りかん)率については正確な人数は不明ですが、およそ9万~17万人に1人の割合で発症すると見なされてます。また、発症者のほとんどは女性です。

原因については、明らかになっていません。基本的には、突然変異と呼ばれるランダムに突然起こる遺伝子の異常が原因ではないかと想定されています。

アイカルディ症候群が発症する仕組みや、発症者のほとんどが女性である理由についても、明らかになっていません。しかし、突然変異が原因ということを想定した上で、いくつかの仮説が立てられています。

まず、アイカルディ症候群は、X染色体上の遺伝子の変異により発症するのではないかと推測されています。X染色体は、性別を決める役割を持つ性染色体の1つです。女性はX染色体を2本持っていますが、男性は1本しか持っていません。そのため、男性では、X染色体の異常が起こった場合にその影響を受けやすいといわれています。アイカルディ症候群を発症した男性は、1本だけ持っているX染色体に異常が起きることにより、生まれる前に命を落とすのではないかと考えられています。

ただし、非常にまれですが男性の報告例はあります。そのメカニズムとして、男性でX染色体が2本以上あることを特徴とするクラインフェルター症候群という疾患の発症者の場合では、アイカルディ症候群を発症しても生存できるのではないかと推測されています。

また、アイカルディ症候群は、性染色体以外の染色体である常染色体上の遺伝子の変異により発症するという仮説も立てられています。常染色体は、基本的には男女ともに22対(44本)ずつ持っている染色体のことで、常染色体上の遺伝子に変異が起こると、新生児が先天異常を持って生まれてくることがあります。アイカルディ症候群もこのような仕組みで起こるという可能性が考えられています。

アイカルディ症候群を親子で発症した例は報告がなく、遺伝する可能性について正確なことは明らかになっていません。アイカルディ症候群の子供が生まれた場合は、基本的に突然変異により発症したと想定されます。また、兄弟姉妹で発症したという報告は今までに1姉妹例しかなく、次の子供もアイカルディ症候群を発症する確率は非常に低いと考えられています。

アイカルディ症候群の主な症状は、脳梁欠損、網脈絡膜裂孔、点頭てんかんです。脳梁欠損は生まれ付き起こる脳の奇形の1つで、右脳と左脳をつなぐ繊維の束である脳梁が部分欠損したり、完全欠損したりした状態を指します。網脈絡膜裂孔は、網膜や脈絡膜という目の奥に広がる膜状の組織に、裂け目ができることを指します。

点頭てんかんは、てんかんの一種で、うなずくような動作に見える首、体幹、四肢の筋肉の瞬間的な収縮を伴うスパズム発作が特徴です。アイカルディ症候群では多くの場合、生後1年ころまでに最初の発作が起こるとされています。

そのほか、ほとんどのアイカルディ症候群の発症者に発達の遅れがみられます。発達の遅れには個人差があり、脳の奇形の程度やてんかんの重さが関係していると考えられています。

網脈絡膜裂孔以外にも、生まれ付き眼球が小さい状態である小眼球症や、持続的な眼球運動がみられる状態である眼振などの症状がみられることもあります。小頭症、背骨や肋骨(ろっこつ)の異常、まれに口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)などの症状もみられることもあります。

海外から報告では、生存率にはかなりばらつきがあり、平均死亡年齢は約8・3歳で、死亡年齢の中央値は約18・5歳となっています。

アイカルディ症候群は、多くの場合は小児科で診断されます。その上で詳しい検査が必要であれば、設備が整った病院に紹介される場合もあります。

アイカルディ症候群の検査と診断と治療

小児科の医師による診断では、脳梁欠損、網脈絡膜裂孔、点頭てんかんの症状が併発しているかどうかを調べることにより判断されます。

ただし、脳梁欠損と点頭てんかんはそれぞれ単独で発症する場合や、ほかの疾患でもみられる場合があります。そこで、個別の症状ではなく3つの症状が併発していることに注目しなければならないため、診断されるまでに時間がかかることがあります。

脳梁欠損を調べるためには、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査などの画像検査が検討されます。網脈絡膜裂孔を調べるためには、眼底検査などの眼科的な検査が検討されます。てんかんの有無を調べるためには、けいれん発作時の様子の確認や、頭に電極をつけて脳波を記録し脳の活動の状態を調べる脳波検査の実施も検討されます。

小児科の医師による治療では、アイカルディ症候群の根本的な治療法がないため、てんかん発作など実際に現れた症状を緩和する対症療法が主となります。

てんかんの治療では、抗てんかん薬の投与が検討されます。しかし、アイカルディ症候群でみられるてんかんは、治療しても治りにくい難治性といわれています。すべての発症者に効果が現れるとは限らず、発作を繰り返すケースが多くみられます。

また、てんかんの治療として手術療法が選択されることもありますが、アイカルディ症候群の治療としてはほとんど実施されていません。

アイカルディ症候群に共通してみられる症状そのものが命にかかわるわけではありませんが、長生きするのは難しい疾患であると考えられています。しかし、世界では、30歳代の発症者や、症状が軽度で40歳代まで生きている発症者がいるという報告があります。医療的ケアや管理が向上していることから、少しずつ生存率が改善してきているのではないかと考えられています。

🇳🇱愛情遮断症候群

子供が十分な愛情を感じられないまま育ち、成長や発達の遅れを生じる状態

愛情遮断症候群とは、母子関係や家族関係の問題によって、子供が十分な愛情を感じられないまま育った結果、成長や発達の遅れを生じる状態。情緒剥脱(はくだつ)症候群とも呼ばれます。

乳幼児から6歳児程度の子供に多くみられます。母親など養育者からの愛情を感じられない極度のストレスや不安から、子供は心から安らいでグッスリ眠ることができず、成長するために必要な成長ホルモンが睡眠時に脳下垂体から十分に分泌されなくなる結果、身体的な成長や精神的な発達に遅れが出ると考えられています。

子供は愛情ばかりでなく、十分な栄養も与えられていないこともあります。入院、死亡、離婚などによる母親不在の環境が原因となったり、母親など養育者が深い悩みを抱えていたり、うつ状態であったり、薬物依存や知的障害、精神的な病気を持っていたりして、適切な子育てができないことが原因となったりします。

母親など養育者自身が子供時代に十分な愛情を受けて育っていない場合に、世代を超えて子育てに影響する世代間伝達、愛情不足の連鎖もあります。

栄養障害によって現れる症状として、身長が低い、体重の増えが悪い、腕や脚が細い、やせている、肋骨(ろっこつ)が目立つ、お尻がへこんでいるなどがあります。不適切な養育の結果として観察される症状としては、おむつかぶれがひどい、皮膚が汚い、汚い服を着ているなどがあります。子供の心理的な変化や行動異常によって現れる症状としては、目を合わせない、表情が乏しい、感情表現が乏しい、動作が緩慢、抱きついたり寄り添ったりしない、親に抱かれるのを嫌がる、異様な食欲増進、尿や便をもらす、寝付きが悪い、かんしゃくを起こすなどがあります。

養育者が子供の愛情遮断症候群に気付いたら、母子手帳の成長曲線をつけてみたり、子供らしい豊かな表情をしているかどうか、気を配りましょう。心配なことがあれば、小児科医や保健師に相談しましょう。

愛情遮断症候群の検査と診断と治療

小児科の医師による診断では、身長、体重、頭囲の計測値から成長曲線をつくり、子供の成長を評価します。食事の内容から、栄養学的な分析をします。また、養育環境についての情報を集めます。

小児科の医師による治療では、食事の内容について養育者に栄養指導を行い、子供の年齢に見合った十分な食事を与えます。

また、子供と養育者にとって、ストレスの少ない環境になるように調整をします。母親など養育者に対する心理カウンセリングが必要な場合もあります。子供にとってストレスの少ない環境で、年齢に見合った十分な栄養を与えると、体重が増加し、成長の遅れは取り戻されます。

しかし、虐待やネグレクト(育児放棄)など養育者の子育てに重大な問題がある場合、ケースによっては養育者と子供を遠ざけることも必要です。入院で治療を受けさせたり、保護観察施設で養育したりすることで遅れていた成長が改善されることもあります。

母親が不在の場合、あるいは母親がいても子供に愛情を十分に与えることができない場合には、母親に代わって父親や親に代わる養育者が十分な愛情を注ぐことで防ぐことは可能です。

🇴🇲愛情遮断性低身長

愛情を感じられないストレスから、子供の睡眠時に成長ホルモンが十分に分泌されず、低身長を生じる状態

愛情遮断性低身長とは、母子関係や家族関係の問題によって、子供が十分な愛情を感じられないまま育った結果、成長ホルモンの分泌が低下して身長が伸びない状態。精神社会性低身長症、精神社会的小人症とも呼ばれます。

低身長は、さまざまな原因で身長が伸びない状態のことで、年齢別平均身長より20%、あるいは標準偏差(SD)より2SD以上低い場合を目安としており、同性・同年齢の100人に2~3人が低身長という定義に当てはまります。

愛情遮断性低身長は、乳幼児から6歳児程度の子供に多くみられます。母親など養育者からの愛情を感じられない極度のストレスや不安から、子供は心から安らいでグッスリ眠ることができず、成長するために必要な成長ホルモンが睡眠時に脳下垂体から十分に分泌されなくなる結果、身体的な成長に遅れが生じ、年齢別平均身長を著しく下回ると考えられています。

子供は愛情ばかりでなく、十分な栄養を与えられていないこともあり、栄養不足も年齢に見合った身長の伸びを止めてしまう原因の1つになります。身体的な成長の遅れだけでなく、情緒の発達、言語や知的能力の発達の遅れを生じたり、行動異常を示すこともあります。

入院、死亡、離婚などによる母親不在の環境が原因となったり、母親など養育者が深い悩みを抱えていたり、うつ状態であったり、薬物依存や知的障害、精神的な病気を持っていたりして、適切な子育てができないことが原因となったりします。

母親など養育者自身が子供時代に十分な愛情を受けて育っていない場合に、世代を超えて子育てに影響する世代間伝達、愛情不足の連鎖もあります。夫婦仲が悪く、家庭環境の雰囲気が悪いことが原因になることもあります。

栄養障害によって現れる症状として、身長が低い、体重の増えが悪い、腕や脚が細い、やせている、肋骨(ろっこつ)が目立つ、お尻がへこんでいるなどがあります。不適切な養育の結果として観察される症状としては、おむつかぶれがひどい、皮膚が汚い、汚い服を着ているなどがあります。子供の心理的な変化や行動異常によって現れる症状としては、目を合わせない、表情が乏しい、感情表現が乏しい、動作が緩慢、抱きついたり寄り添ったりしない、親に抱かれるのを嫌がる、異様な食欲増進、尿や便をもらす、寝付きが悪い、かんしゃくを起こすなどがあります。

愛情不足の養育や、より重大な問題がある虐待やネグレクト(育児放棄)が生後1年以内に始まり、3年以上続く時は、情緒や知能の障害が永久に回復しないといわれています。

養育者が子供の愛情遮断性低身長に気付いたら、母子手帳の成長曲線をつけてみたり、子供らしい豊かな表情をしているかどうか、気を配りましょう。心配なことがあれば、小児科医や保健師に相談しましょう。

愛情遮断性低身長の検査と診断と治療

小児科の医師による診断では、過去から現在までの身長、体重、頭囲の計測値から成長曲線をつくり、子供の成長を評価します。食事の内容から、栄養学的な分析をします。また、養育環境についての情報を集めます。

小児科の医師による治療では、食事の内容について養育者に栄養指導を行い、子供の年齢に見合った十分な食事を与えるようにします。

また、子供と養育者にとって、ストレスの少ない環境になるように調整をします。母親など養育者に対する心理カウンセリングが必要な場合もあります。養育者は子供に対してストレスを与えていないつもりでも、気付いていない家庭の習慣が子供のストレスになっている場合もあります。

子供にとってストレスの少ない環境で、年齢に見合った十分な栄養を与えると体重が増加し、成長ホルモンの反応も回復して身長の伸びが促進されなど、成長の遅れは取り戻されます。

しかし、虐待やネグレクト(育児放棄)など養育者の子育てに重大な問題がある場合、ケースによっては養育者と子供を遠ざけることも必要です。入院で治療を受けさせたり、乳児院など保護観察施設で養育したりすることで遅れていた成長が改善されることもあります。

母親が不在の場合、あるいは母親がいても子供に愛情を十分に与えることができない場合には、母親に代わって父親や親に代わる養育者が十分な愛情を注ぐことで防ぐことは可能です。

🇦🇹アイゼンメンジャー症候群

心室中隔欠損などの疾患により、チアノーゼが現れる状態

アイゼンメンジャー症候群とは、心室中隔欠損などの疾患により肺高血圧症が高進し、静脈血が動脈側に流れ込み、チアノーゼが現れる状態。アイゼンメンゲル症候群とも呼ばれます

疾患名は、1897年に初めて報告したオーストリアのアイゼンメンジャー医師にちなんでいます。

肺動脈の血圧は、心臓の収縮と拡張に伴って変化しますが、収縮期血圧と呼ばれる最も高い血圧と、拡張期血圧と呼ばれる最も低い血圧、そして2つの平均である平均血圧で表されます。肺動脈の圧力は、カテーテルという細い管を肺動脈まで入れて測定したり、心エコー装置で体外から推定したりします。

肺動脈の平均血圧が25mmHg以上ある場合を、肺高血圧があると定義します。軽度の肺高血圧の人は、アイゼンメンジャー症候群に相当しません。また、肺動脈の圧力が高い状態でも、大量の動脈血が静脈側に流れ込んでいる状態は、アイゼンメンジャー症候群に相当しません。

アイゼンメンジャー症候群は、心室中隔欠損、心房中隔欠損、動脈管開存、大血管転位など、通常は動脈血が静脈側に流れ込む疾患を持つ人において、肺高血圧が次第に高度となって、静脈血の一部が動脈側に流れ込むようになって発症します。

発症すると、心室中隔欠損や動脈管開存がある場合には、肺動脈の収縮期血圧と呼ばれる最も高い血圧と、大動脈の収縮期血圧とはほぼ同じになります。

左心房と右心房、左心室と右心室を隔てる壁に欠損孔がある場合や、動脈管が開存して肺動脈と大動脈がつながっている場合に、心臓が収縮する時に、血圧が高い左心室内の血液の一部が血圧が低い右心室内へと流れ込むことになります。この血液は肺と左右両心室を空回りすることになるため、両心室の負担が増え、さらに肺血管の血流量増加のために肺高血圧症となります。

この症状が進行すると、右心室の負担をさらに強め、右心室圧が高くなり、右心室内から逆に左心室内へと血液が流れるようになり、全身に静脈血が送り出され、チアノーゼ(低酸素血症)となって皮膚や粘膜が紫色になります。

易疲労感、胸痛、失神、喀血(かっけつ)といった症状も現れます。脳塞栓(そくせん)、心内膜炎の兆候がみられることもあります。

アイゼンメンジャー症候群の検査と診断と治療

健康診断で通常行われる聴診所見、胸部X線検査、心電図といった検査で心室中隔欠損や動脈管開存、アイゼンメンジャー症候群などが疑われた場合、循環器を専門にしている医療機関で心臓超音波検査を受ければ確定診断がつきます。

循環器科、循環器内科などの医師による診断では、超音波検査だけでも判断は可能ですが、合併している心臓病の有無や、肺高血圧の程度を調べるために、心臓カテーテル検査が必要となる場合もあります。

循環器科、循環器内科などの医師による治療では、アイゼンメンジャー症候群と確定した時点で、心室中隔欠損や動脈管開存など原因である心疾患への手術適応がなくなり、肺動脈拡張剤の処方や、右心不全に対する塩分
制限や利尿剤の処方、在宅酸素療法など対症療法を中心に行います。原因である心疾患の手術は肺高血圧がさらに高進するためタブーであり、完治には心肺同時移植手術が必要となります。

 アイゼンメンジャー症候群では、妊娠、出産はタブーとなります。

🇦🇺青あざ

先天的もしくは後天的に、皮膚の表面に生じる青色調の平らなあざ

青あざとは、先天的もしくは後天的に、皮膚の表面の一部分に生じる青色調の平らなあざ。あざは、医学的には母斑(ぼはん)と呼ばれます。

この青あざは、皮膚のやや深い部分の真皮にメラニン色素を産生するメラノサイト(メラニン細胞、色素細胞)が増えるために起こり、発生する部位や症状により蒙古(もうこ)斑、伊藤母斑、青色母斑、太田母斑に分けられます。

蒙古斑は、新生児の尻や腰、背中の下部に現れる青い染み

蒙古斑は、生後1週から1カ月ころまでに、新生児の尻(しり)や腰、背中の下部に現れる青い染み。

胎生期に皮膚の深い部分の真皮に生じたメラノサイト(メラニン細胞、色素細胞)の残存と考えられています。通常は表皮にあって、皮膚の色を濃くするメラニン色素を作り出すメラノサイトが、表皮に出ていけずに真皮にとどまって増殖しているために、青い染みに見えてしまうのです。

日本人の新生児の9割にみられ、よく知られているあざの一種ですが、濃淡には個人差があります。多くは中心が濃くて、境界線付近は薄くはっきりしていません。境界線もはっきりして、ほくろ(黒子)のように濃い蒙古斑もあります。小さいとほくろのようですが、蒙古斑は隆起がないのが特徴です。

この蒙古斑は生後2歳ころまでには青色調が強くなり、その後は徐々に薄くなって、5、6歳までには、遅くとも10歳前後までには自然に消失し、さほど問題にはなりません。

まれに、尻などの通常の部位以外の手足や顔、腹部、背中の上部、胸などにも、青みを帯びた黒色調の蒙古斑が見られることがあります。これは異所性蒙古斑に相当し、通常の蒙古斑よりも消えにくい特徴があります。

といっても、異所性蒙古斑の大半は学童期までに消失することが多く、蒙古斑同様に治療の必要はありません。中には、青い染みが学童期になっても残る場合があります。しかし、その大半は成人期までに消えることが多く、放置しておいてもかまいません。

なかなか消えない異所性蒙古斑が衣服に隠れない露出部などに現れている場合は、子供が気にしてしまうケースもあり、外見的コンプレックスになることがあります。いくつかの側面から考えて、治療の対象にするべきか、皮膚科、皮膚泌尿器科、あるいは形成外科の医師と対処を考えることが勧められます。

なかなか消えない青いあざの中には、まれに異所性蒙古斑ではなく、青色母斑であることもあります。この青色母斑の中でも細胞増殖型と呼ばれるものは、幼少時に異所性蒙古斑と区別がつかないこともあり、悪性化することもあって治療法も異なるため、通常の部位以外にみられる青いあざは時々専門医の診察を受けることも必要でしょう。

伊藤母斑は、生まれ付きか乳児期に、肩や腕に発生する褐青色のあざ

伊藤母斑は、生まれ付きか乳児期に発症し、褐青色の母斑が肩や腕に認められる皮膚疾患。肩峰(けんぽう)三角筋部褐青色母斑、三角筋肩峰部褐青色母斑とも呼ばれます。

この伊藤母斑は、胎児期から多くは生後1カ月以内の乳幼児期に症状が現れ、男子より3倍多く女子に認められます。

原因は、メラノサイト(メラニン細胞、色素細胞)が深い部分の真皮に存在し、増殖しているために、皮膚が褐青色に見えてしまいます。

母斑は、後鎖骨上神経および外上腕皮神経の支配領域にみられ、肩の辺りを中心に鎖骨上部、肩甲骨部、上腕外側に、淡褐色の皮膚の上に濃青色から青みを帯びた小さな斑点がたくさん集まった状態で現れます。皮膚の表面は滑らかで、盛り上がったりしません。片側だけの肩や腕に出現することが多いものの、まれに両側の肩や腕にも出現することがあります。

通常、母斑は大きさや状態が変化せず持続して存在し、自然に消えることはありませんが、悪性化を心配することもありません。

本人が特に気にしなければ、治療の必要はありません。気にするようなら、皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科を受診することが勧められます。

青色母斑は、通常のほくろよりも全体に青色が強いタイプのあざ

青色母斑は、青あざの一種で、通常のほくろよりも全体に青色が強く、青色から黒色調に見えるタイプのあざ。

 この青色母斑の通常のものは、10ミリ以下で少しだけ皮膚から盛り上がっている小結節で、触ると硬い感触がします。

原因は、メラノサイト(メラニン細胞、色素細胞)が深い部分の真皮に存在し、増殖しているために、青色から黒色調に見えてしまうのです。

発生する個所としては、顔面、背中、手首、手の甲、足首、足の甲などが挙げられます。多くは乳幼児期に生じますが、30歳ころから生じるケースもあります。突然多く発生することはありません。

まれに、青色母斑がかなり大きくなることもあります。これは細胞増殖型青色母斑と呼ばれ、青年期以降に悪性化して悪性青色母斑となる可能性があります。悪性化した場合には、皮膚がんの一種で、メラノサイトががん化してできるメラノーマ(悪性黒色腫〔しゅ〕)と同様の治療を行う必要があります。

10ミリ以下の青色母斑の場合には、気にならなければ治療の必要はありません。ただ、目立つ部分に現れるので、気になってしまうようなら、皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科の医師に相談することが勧められます。悪性のものと区別がつかないケースもあるため、経過を見守ることも大切です。

太田母斑は、まぶたから額、頬にかけてできる褐青色の色素斑

太田母斑は、片側のまぶたから額、頬(ほお)にかけてできる、境界の不明瞭な褐青色の色素斑。眼上顎部(がんじょうがくぶ)褐青色母斑とも呼ばれます。

この太田母斑は、詩人や作家としてのペンネーム木下杢太郎(もくたろう)でも知られる皮膚科の医学者・太田正雄東大教授が、1939年(昭和14年)に初めて報告した疾患で、日本人など東洋人に比較的多くみられます。

通常は顔の片側に色素斑ができますが、両側にできる場合もあります。また、生後間もなく色素斑ができる早発型と、小児期や思春期に色素斑ができて徐々に拡大する遅発型の2種類があります。

さらに、色素斑は顔面の皮膚だけでなく、眼球結膜や口の粘膜、鼓膜にできることがあります。

色素斑は、三叉(さんさ)神経の第1・第2枝の支配領域にみられ、青みを帯びた色素斑の中に褐色調の小さな斑点が散在した状態で現れます。皮膚の表面は滑らかで、盛り上がったりしません。

原因は、メラノサイト(メラニン細胞、色素細胞)が深い部分の真皮に存在し、増殖しているために、皮膚が褐青色に見えてしまいます。

色素斑が拡大したり、色調が濃くなったりすることもあり、自然に消えることはありませんが、悪性化を心配することもありません。

本人が特に気にしなければ、太田母斑の治療の必要はありません。見た目が気になるようなら、カバーマークによる化粧で色を隠すのも選択肢の一つですが、皮膚科、皮膚泌尿器科、ないし形成外科を受診し色素斑を除去することも勧められます。

青あざの検査と診断と治療

蒙古斑、異所性蒙古斑の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科の医師による蒙古斑、異所性蒙古斑の診断では、特徴的な色素斑なので、ほとんどは見ただけで診断はつきます。

皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科の医師による治療では、通常の蒙古斑の場合、ほとんどが自然に消えるのでそのまま経過をみます。異所性蒙古斑の場合は、悪性化の心配はほとんどないため、見た目の問題で気になるならQスイッチレーザーにより、あざを除去します。

Qスイッチレーザーには、ルビーレーザー、アレキサンドライトレーザー、ヤグレーザーなどがあり、レーザーの種類により多少の効果や経過の違いがみられます。特定のレーザー光線を患部に照射すると、皮膚の中にあるメラニン色素に対してのみ反応するため、周辺の正常な皮膚組織へのダメージを極力抑えながら、あざの元になっているメラニン色素だけを破壊することができます。

いずれのレーザー治療も痛みを伴うため、麻酔シール、注射などを使用して痛みの緩和を行います。治療対象となる異所性蒙古斑の色が濃く、範囲が広い場合、1~2回程度のレーザー照射では終わらない場合もあります。

異所性蒙古斑の治療の難しさは、治療をすべきかどうか、その見極めにあるともいわれています。乳幼児に現れた大半は、成長とともに消えてしまう、あるいは薄くなるケースが多いことから、早い時期に治療を選択してしまうことで、かえって傷跡を残してしまう恐れがあるためです。また、手の甲に境界線のはっきりしない異所性蒙古斑ができた場合、レーザーを照射することで逆に色を目立たせてしまう結果に至ることもあります。

一方で、異所性蒙古斑は、まだ皮膚の薄い幼児期に治療したほうが、レーザーが皮膚内に届きやすく、治療効果が高いといった意見もありますので、担当医とよく相談し、治療の有無を決めるようにします。

伊藤母斑の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科の医師による伊藤母斑の診断では、部位や母斑の様子から視診で判断します。皮膚をほんの少し切り取って病理組織検査を行うと、真皮上層に色素含有メラノサイトが認められます。

また、異所性蒙古斑、青色母斑などの皮膚疾患と鑑別します。

皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科の医師による治療では、悪性化の心配はないため、見た目の問題で気になるならQスイッチレーザー治療により、母斑を除去します。

およそ3カ月の間隔で、少なくとも5~6回のレーザー照射を行います。まれに軽い色素沈着を残したり色素脱出を来すこともありますが、治療はほぼ100パーセントうまくいきます。

治療時期は何歳からでも可能ですが、小児の場合は乳幼児期からの早期治療が有効です。成人の場合でも、完全に母斑を除去することが可能です。

青色母斑の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科の医師による青色母斑の診断では、特徴的な色素斑なので、ほとんどは見ただけで診断はつきます。細胞増殖型青色母斑の確定診断は、切除した小結節を顕微鏡を用いて病理組織検査することでつきます。

細胞増殖型青色母斑が疑われる場合は、リンパ節転移を起こすことがあるため、CT(コンピュータ断層撮影)検査やシンチグラム検査(RI検査、アイソトープ検査)といった全身の検査も行う必要があります。

皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科の医師による治療では、通常の青色母斑の場合は悪性化の心配はほとんどないため、見た目の問題で気になるならQスイッチレーザーにより、あざを除去します。

レーザー治療は何歳からでも可能ですが、小児の場合は乳幼児期からの早期治療が有効です。成人で濃くなり化粧法で隠せなくなった場合でも、完全に除去することが可能です。

細胞増埴型青色母斑が疑われる場合は、原則として、局所麻酔による手術で深く広範囲に切除します。リンパ節転移が見付かった場合には、リンパ節を切除します。

太田母斑の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科の医師による太田母斑の診断では、部位や色素斑の様子から視診で判断します。皮膚をほんの少し切り取って病理組織検査を行うと、真皮上層に色素含有メラノサイトが認められます。

また、異所性蒙古斑、青色母斑などの皮膚疾患と鑑別します。

皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科の医師による治療では、悪性化の心配はないため、見た目の問題で気になるならQスイッチレーザー治療により、色素斑を除去します。

治療対象となる太田母斑の色が濃く、範囲が広い場合は、1〜2回のレーザー照射だけは不十分で、およそ3カ月の間隔で、少なくとも5~6回の照射を行います。

治療時期は何歳からでも可能ですが、小児の場合は全身麻酔が必要なため3歳ごろから開始するのが普通で、早期から開始するほうが効果が高いといわれています。成人の場合でも、かなり色調が改善し、完全に色素斑を除去できることもあります。

眼球結膜の色素斑はレーザー照射ができないので、現在は治療法がありません。

🇸🇻赤あざ(血管腫)

皮膚の毛細血管の増殖、拡張でできる赤いあざ

赤あざとは、真皮および皮下組織の中にある毛細血管の増殖、拡張を主としてできる母斑。内部の血液によって皮膚表面は赤く見え、血管腫(しゅ)とも呼ばれます。

異常を示す血管のある部位と、血管の構造の違いにより、いろいろの型があります。代表的なものは、ポートワイン母斑(単純性血管腫)、正中線母斑(サーモンパッチ)・ウンナ母斑、苺(いちご)状血管腫(ストロベリーマーク)です。

ポートワイン母斑(単純性血管腫)は、赤ブドウ酒色をした皮膚と同じ高さの平らで、境界が鮮明な斑です。 普通は出生時からあって、その後、拡大することも、自然に消えることもありません。加齢とともに少し膨らみ、いぼ様の隆起が出現することもあります。

この母斑は、真皮の上の部分の毛細血管の拡張、充血の結果できるものです。多くは、美容的な問題があるだけであり、放置してもかまいません。

ただし、この型の大きな血管腫が顔の片側にある時は、スタージ・ウェーバー症候群といって、眼球や脳の中に血管腫が合併することがあります。また、片側の腕や下肢に大きな血管腫がある時は、クリッペル・ウェーバー症候群といって、その部分の筋肉や骨の肥大などの合併症がある場合があるので、注意が必要です。

正中線母斑(サーモンパッチ)・ウンナ母斑は、乳幼児の顔、後頭部の正中線に沿ってみられる、淡紅色ないし暗赤色の毛細血管の拡張した赤い斑点です。額、眉間(みけん)、上まぶたにあるものを正中線母斑、またはサーモンパッチといい、1歳から3歳までの間に自然に消退するものの、完全ではありません。

また、うなじから後頭部にみられるものをウンナ母斑といい、消退するのに時間がややかかり、また一生消えない場合もあります。

苺状血管腫(ストロベリーマーク)は、出生時より、または生後間もなく出現する赤色、ないし暗赤色の軟らかい小腫瘤(しゅりゅう)で、表面が苺の実のように粒々しています。

出生後、半年から2年までは急速に増大して、大きいものでは鶏卵大以上の大きなしこりになることもあるものの、5~6歳ころまでには完全に消失します。この赤あざは、真皮内に未熟な血管がたくさん増殖するためにできるものです。

自然に治るので慌てて治療する必要はありませんが、未熟な血管の集団があるため、外傷を受けるとなかなか出血が止まらないことがあるので、注意が必要です。出血した時には、清潔なタオルかガーゼで十分に圧迫して、出血が止まるまで押さえておく必要があります。

赤あざの検査と診断と治療

赤あざ(血管腫)を早期に的確に診断することは、必ずしも簡単ではありません。皮膚科専門医を受診して、診断を確定するとともに治療法についても相談します。

医師は通常、見た目と経過から診断します。スタージ・ウェーバー症候群やクリッペル・ウェーバー症候群が疑われる場合には、画像検査などが必要になります。

ポートワイン母斑(単純性血管腫)に対しては、パルス色素レーザー治療が第一選択です。うすいあざなので、手術をすると残った傷が目立つためです。レーザー治療の効果の程度は病変の深さによって違いますが、傷を残さずにほとんどの赤あざを消退させることができます。乳幼児期から開始する早期治療が、有効です。

カバーマークによる化粧で色を隠すのも、選択肢の一つです。

顔面の正中線母斑(サーモンパッチ)は、自然に消えていく場合が多いので、治療せずに経過をみます。完全に消えない場合には、露出部位のあざなので、パルス色素レーザー治療が勧められます。ウンナ母斑は、髪に隠れて目立たない部位に生じるので、ほとんど治療しません。

苺状血管腫(ストロベリーマーク)は自然に消えていくので、特に合併症の危険がない大部分のものは無治療で経過をみて差し支えありません。ただし、まぶたに生じ、目をふさいでしまうようになったものや気道をふさぐものなどは早急な治療が必要です。

即効的な治療として、副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤の大量投与が行われます。効果が不十分な場合には、インターフェロンαの連日皮下注射が行われる場合もあります。これらの治療は効果的ですが、いずれも重い副作用を生じる可能性があります。

単に色調だけを自然経過よりも早期に淡くしたい場合には、パルス色素レーザー治療を行います。この治療は副作用が少ないのですが、こぶを小さくする効果は期待できません。こぶを縮小するためには、内部にヤグレーザーを照射します。

🇪🇹赤ぶどう酒様血管腫

出生時から認められ、皮膚の毛細血管の拡張、充血でできる赤あざ

赤ぶどう酒様血管腫(しゅ)とは、赤ぶどう酒のような鮮紅色から暗赤色をした平らなあざ。 赤あざの一種で、ポートワイン母斑(ぼはん)、単純性血管腫、毛細血管腫とも呼ばれます。

普通は出生時から認められ、形は不規則、境界は鮮明で、あざの表面が赤インクで染まったように見えます。顔面に最も多くみられますが、体のいずれの部位にも発生します。皮膚を圧迫すると、赤みは一時的に消えます。乳児の成長に比例して面積が増しますが、それ以上に拡大することはありません。

自然に消えてなくなることはなく、加齢によって色調が濃くなります。また、加齢とともに少し膨らみ、いぼ様の隆起が出現することもあります。

この赤ぶどう酒様血管腫は、胎児期における血管の構成上の形成異常により、真皮の上の部分の毛細血管が拡張、充血するために生じます。毛細血管の細胞が増殖することはありません。多くは、美容的な問題があるだけであり、放置してもかまいません。

ただし、この型の大きな血管腫が目の周囲など顔の片側にある時は、スタージ・ウェーバー症候群といって、眼球や脳の中に血管腫が合併することがあり、緑内障、てんかんを生じることがあります。また、片側の腕や下肢に大きな血管腫がある時は、クリッペル・ウェーバー症候群といって、その部分の筋肉や骨の肥大などの合併症がある場合があり、成長とともに患肢の肥大、延長、静脈瘤(りゅう)、動静脈ろうなどが明らかになる場合がありますので、注意が必要です。

乳児に赤ぶどう酒様血管腫の症状が認められた場合には、皮膚科、ないし皮膚泌尿器科を受診して、診断を確定するとともに治療法についても相談します。

赤ぶどう酒様血管腫の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師は通常、見た目と経過から診断します。赤ぶどう酒様血管腫を早期に的確に診断することは、必ずしも簡単ではありません。スタージ・ウェーバー症候群やクリッペル・ウェーバー症候群が疑われる場合には、画像検査などが必要になります。

赤ぶどう酒様血管腫に対しては、パルス色素レーザー治療が第一選択です。うすいあざなので、手術をすると残った傷が目立つためです。パルス色素レーザー治療は、従来のレーザー治療に比べて傷跡が残ることが少なく、また効果も優れていますが、まだ完全に赤みを消せるとまではいえません。また、数回以上の照射が必要になることも多いようです。乳幼児期から開始する早期治療が、有効です。

カバーマークによる化粧で色を隠すのも、選択肢の一つです。

🇪🇪赤ら顔

顔の中央部が脂ぎって赤くなり、血管の拡張が目立つ疾患

 赤ら顔とは、鼻を中心に、ほお、額、口囲などの皮膚が脂ぎって赤くなり、次第に毛細血管の拡張が目立ってくる疾患。正式には酒さ、俗には赤鼻といわれることもあります。

皮膚表面のすぐ下に拡張した毛細血管が見えるようになるのは、皮膚が薄く、もろくなるためです。症状が悪化してくると、にきびのような小さく赤い吹き出物や、膿胞(のうほう)ができます。さらに悪化すると、鼻から毛細血管が広がって、脂肪の分泌が活発になって皮膚が分厚くなり、鼻全体が暗赤色にブヨブヨとはれてきます。鼻こぶが発生して、だんご鼻のように見えるため、鼻瘤(びりゅう)、酒さ鼻と呼ばれます。顔以外にも胴体、腕、脚に、症状が出ることもあります。

初期では、かゆみなどの自覚症状はほとんどありません。悪化すると、かゆみ、ほてりが生じます。

中年以上の人にみられることが多いもので、大人のにきびとも呼ばれます。実際、赤ら顔の症状が軽い場合には、にきびとの区別がつきません。短期間で赤くはれるところが似ていますが、にきびは過剰な皮脂分泌によって、毛穴に皮脂が詰まることで引き起こされ、赤ら顔は毛細血管の拡張によって引き起こされるという違いがあります。しかし、にきびと赤ら顔が同時に発生するケースもあります。

赤ら顔の原因は、よくわかっていません。酒好きな人に多くみられることから酒さともいわれているのですが、胃腸障害、ビタミンB複合体の欠乏、香辛料やコーヒーなどの取り過ぎ、日光などが誘因と考えられています。体質、自律神経異常、更年期障害なども関係しているともいわれています。最近では、寄生虫の感染が原因とする説も発表されています。

化粧品やシャンプー、リンスでかぶれを起こし、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)が入った市販のかぶれ止めの薬を常用して、酒さ様皮膚炎を引き起こすケースもあります。

赤ら顔の検査と診断と治療

赤ら顔(酒さ)は、にきびやその他の皮膚病のように見えることもあります。赤ら顔の疑いを感じたら、皮膚科や形成外科クリニックで診断してもらうようにします。医師が診れば、簡単に診断がつきます。

赤ら顔の症状が軽ければ、抗生物質を経口で服用すると和らぎます。テトラサイクリンは最も効果があり、副作用が最も少ない薬です。メトロニダゾール、クリンダマイシン、エリスロマイシンといった抗生物質を皮膚に塗っても、効き目があります。イソトレチノインは、経口で服用しても皮膚に塗っても効果があります。ケトコナゾール、テルビナフィンといった抗真菌クリームを使うこともありますが、非常にまれです。ビタミンB2を経口で服用することもあります。

赤ら顔の症状が重度の場合、内服剤や外用剤による治療は困難なため、レーザー治療や手術が必要になってきます。毛細血管拡張が強い時は、皮膚乱切法、電気乾固法などの手術が行われますが、それでも完全には治りません。鼻全体が暗赤色にブヨブヨとはれる鼻瘤、酒さ鼻の時は、切除術を行います。

注意したい点は、赤ら顔を湿疹(しっしん)と間違えて、赤みを除こうとして副腎皮質ホルモン(ステロイド剤)軟こうの外用をする人が多いことです。ホルモン軟こうは、血管収縮作用があるために、外用時は肌が一時的に白くきれいに見えますが、長い間使用していると、毛細血管拡張と、にきび様の皮疹が増悪し、酒さ様皮膚炎になってしまうケースが時にあります。まず、副腎皮質ホルモン(ステロイド剤)軟こうの外用をやめることです。

また、皮膚内の毛細血管を広げる働きのある食品は、避けなくてはなりません。具体的には、香辛料の効いた食品、アルコール飲料、コーヒーなどのカフェイン入り飲料などです。化粧をする人は、腕に試してみるパッチテストをしてから使うように心掛けます。

🇪🇬アカラシア

食道下端の通過障害と、胸部食道の拡張が起こる疾患

アカラシアとは、食道と胃の接合部である噴門の神経節障害の結果、胸部の食道全体が広がる疾患。食道アカラシア、特発性食道拡張症、噴門けいれん症とも呼ばれます。

食道は飲んだり食べたりした物を口から胃へ通す25センチほどの管ですが、それ自体が蠕動(ぜんどう)運動という、物を運ぶための働きを備えています。食べ物がのどを通ると、反射的に蠕動運動が起こって次第に下方に伝わり、その動きの波に乗って飲食物は運ばれます。蠕動の波が噴門に達すると、ここが緩んで飲食物を胃へ通し、通した物を再び食道へ逆流しないように、噴門は締まります。

しかし、何かの原因で食道の蠕動運動が起こらなくなると、噴門が緩まなくなる状態になって飲食物が滞る結果として、胸部の食道が異常に広がるアカラシアを生じます。

原因は、はっきりとはわかっていません。食道の蠕動運動は自律神経の働きによりますが、現在のところ、噴門の粘膜の下にある筋層内の神経節細胞の機能異常であることまでしか解明されていません。精神的なショックが誘因になることもあります。

症状としては、食べた物が胸の辺りでつかえる感じがして、すぐに満腹感が起こり、たくさん食べられません。ほかの食道狭窄(きょうさく)疾患と異なり、固形物より液体、とりわけ冷水の通過が悪い傾向にあります。

食道の広がりが高度になると嘔吐(おうと)が起こりますが、特に夜間、寝ている時にに多い傾向があります。そのほか、胸の圧迫感や痛み、背中の痛みが出て、病状が進行すると体重が減少してきます。

よくなったり悪くなったして長期間続き、精神的に緊張した時、体調不良の時には症状が悪くなります。10〜50歳代に発症して中年にピークがあり、やや女性に多くみられます。

食べ物のつかえ、胸痛、嘔吐などがあったら、内科、消化器科(胃腸科)を受診します。

アカラシアの検査と診断と治療

内科、消化器科(胃腸科)の医師による診断では、バリウムを飲んでのX線造影検査をしたり、食道内視鏡検査、食道内圧検査を行います。さらに、食べ物の長期残留によって起こる慢性食道炎、食道内容物が気道に入って起こる肺感染症、食道がんなどの合併もあるので、これらの検査も行われます。

内科、消化器科(胃腸科)の医師によるアカラシアの治療としては、精神安定剤、鎮痙(ちんけい)剤、狭心症に対する薬剤などがある程度有効なものの、大きな期待はできません。

軽症、中等症のものに対しては、噴門拡張術が有効です。食道下端の狭窄部にバルーンという袋つきのゴム管を挿入し、これに空気、水を満たして膨らませ拡張を図ります。また、内視鏡で病変を見ながら、バルーンを狭窄部に当てて膨らませるバルーン拡張術は、検査と治療が同時に行え、よい結果を得ています。

重症のものに対しては、手術が行われます。 内視鏡下に狭くなった下部食道の筋層を切開して広げ、胃液の逆流を防止する修復をします。

ただし、アカラシアでは、食道に食物が停滞する時間が長いので、食物中の発がん物質が食道壁に接触する時間が長くなり、食道がんを合併する確率が高くなります。定期的に内視鏡検査を受けるようにします。

🇪🇨アカントアメーバ角膜炎

アカントアメーバが原因で起こる角膜感染症

アカントアメーバ角膜炎とは、アメーバと呼ばれる微生物の一種であるアカントアメーバが角膜に感染して起こる疾患。

角膜は、黒目の表面を覆う透明な無血管組織で、4つの異なった層からなっています。外界の光が目の中に入る入り口となるとともに、目の屈折力の約7割を担うレンズとしての役割も果たしています。三叉(さんさ)神経が多岐に分布し、知覚が非常に鋭敏であるという特徴があり、厚さ1ミリながら目の中の組織を守るために膠原線維(こうげんせんい)というとても丈夫な線維組織で作られています。

この角膜は、常に外界と接して空気にさらされているために乾燥したり、ほこりが付いたりします。そこで、まばたきというまぶたの動きによって、常にその表面を涙で湿らして、ほこりを取り除き、細菌やかび、ウイルス、アメーバなどの侵入を防いでいます。しかし、目にゴミが入ったり、目を強くこすったり、涙の出る量が少なくて角膜が乾燥したりすると、角膜の表面に傷が付いて、傷口から細菌などが侵入し、感染を起こします。

土の中にも、空気の中にも、水の中にも広く存在し、家の中のほこりにも、水道水の中にも存在しているアカントアメーバが角膜に侵入し、感染を起こすことはまれですが、角膜の感染症の中では最も重症です。多くは、アカウントアメーバで汚染されたコンタクトレンズを使用することによって生じます。

アカントアメーバ角膜炎は、非常にゆっくりと進行していくため、感染の初期には、涙や目やにが多くなる程度です。1週間くらい経過すると、角膜の中央部分に丸い形の混濁と目の痛みが起こります。さらに症状が進むと、目の痛みは寝るのもつらいほどの非常に強いものに代わり、涙の量もさらに増えます。加えて、上下のまぶたの裏側と、眼球の表面から黒目の周囲までを覆っている結膜下の白目の部分の慢性的な充血、角膜の輪状潰瘍(かいよう)、輪状浸潤、円板状角膜炎などを起こします。

視力の低下は初期は軽度ですが、徐々に見にくくなり、進行すると重度の視力障害となり、失明の恐れもあります。

アカントアメーバ角膜炎の検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、細隙灯(さいげきとう)顕微鏡で角膜を観察して診断を行います。一般的に、病変部は混濁するとともに、病変周囲の角膜組織には浮腫(ふしゅ)が生じています。感染性の角膜炎の可能性がある場合は、組織を採取して病原体を調べる生検を実施します。

アカントアメーバの場合は特殊な病原体であり、また、アカントアメーバ角膜炎はまれな疾患であるだけに、大きな総合病院の眼科でも検査が困難なことが多い点が問題になっています。

眼科の医師による治療では、原則として、原因となる病原体を同定し、感受性を示す抗菌剤を必要かつ十分に投与します。ただし、病原体の同定や薬剤感受性試験結果が出るまでには一定の日時を要するため、病歴や細隙灯顕微鏡所見などから病原体を想定して、適切な治療を迅速かつ集中的に開始する必要があります。

アカントアメーバを病原体と想定した場合は、特効薬がないため、少しでも効果のある抗真菌剤や消毒薬を点眼するのに加えて、感染した角膜表面を何度も削る治療を併用します。極めて治りにくいのが特徴で、 根治には何カ月もかかることがまれではありません。

アカントアメーバをすべて取り除き、感染そのものの治療が完了した後も、角膜の融解が原因で、瘢痕(はんこん)性の角膜混濁が残る場合があり、視力の大幅な低下の恐れがあります。ひどい角膜混濁が残って失明の恐れがある場合には、角膜移植などの手術治療が必要となることがあります。

アカウントアメーバは非常に感染しにくい病原体ですが、いったん感染すると、失明の恐れがある角膜炎となり、眼科の医師による診断と治療は困難を極めますので、予防のためには正しいコンタクトレンズの使用が大切です。

コンタクトレンズに触れる際には、しっかりと手を洗い、外からアカントアメーバを持ち込まないことです。次に、毎日使い捨てにしなければならないコンタクトレンズを再度装用しないこと、再装用可能なコンタクトレンズの場合は、決められた時間を超えての長時間の装用をしないこと、こすり洗いやすすぎなど洗浄の決められた用法と回数を必ず守ること、コンタクトレンズのケースは3カ月程度で交換することです。

🇺🇾秋ばて

暑い盛りではなく、一日の気温の差が激しくなる初秋に陥る体調不良

秋ばてとは、暑い盛りではなく、徐々に過ごしやすくなり、一日の気温の差が激しくなる初秋に陥る体調不良。症状は、夏ばてと似ています。

一般的に夏ばては、体が暑さや湿気に対応しきれなくなって自律神経の働きが乱れ、だるい、疲れやすい、食欲減退、睡眠不足、胃腸障害など、さまざまな不調が現れることです。水分をこまめに摂取し、適度に体を冷やすといった対策が有効とされています。

一方、秋ばては、夏に冷房に当たりすぎて体を冷やし、体温を調節する自律神経の働きが乱れ、一日の気温差が激しくなる初秋に体調不良が顕在化することです。秋に入っても体を冷やす夏型の生活を送っていると陥りやすくなり、肌寒くなっているのに薄着をしている、冷たい物を飲んだり食べたりしすぎるなどが原因となります。

夏の間は平気でも、疲労が蓄積し初秋に体調不良を訴える人は、女性を中心に増えています。熱帯夜が続いて熟睡できず、長く疲れが抜けない夏ばてに悩まされた人が、その体調不良を秋まで引きずって深刻化することもあります。

秋ばての症状としては、だるい、疲れがとれない、体力低下、食欲不振、風邪を引く、肩凝りなど。

秋ばては女性に多いとされていますが、女性はふだんから体の冷えについて気を使っている人も多いのに対して、男性の関心は薄い傾向があります。冷えをつい見過ごしてしまい、男性が体調を崩すこともあります。

秋ばての対策と軽減策

秋ばてへの最も重要な対策は、体を冷やさず、温めることです。9月でもクーラーを使うことが多い昨今、夏場より設定温度を1~2度高めたり、夜間は控えるなど使用時間を減らす必要があります。

薄着にも、注意が必要。日中はまだ暑い日が続くため、薄着して出掛ける機会が多く、その後夕方に気温が急に下がり、寒い思いをすることもあります。面倒でも上着を持って出掛け、クーラーの効いた部屋ではきちんと羽織ることが必要です。望ましいのは、少し暑いと感じるぐらいの服装です。

冷えやすい下半身は要注意で、靴下を履いたり長ズボンを身に着けたりして冷やさないようにしましょう。明け方は特に冷えるので、パジャマにも気を使いましょう。

毎日の入浴も、夏の習慣のままシャワーで済ましたりせずに、体をしっかり温めるためには、38~40度ほどのぬるめのお湯を張った湯船につかったほうがよいでしょう。湯船につかると全身の血行がよくなり、副交感神経が優位になって寝付きもよくなり、ぐっすり眠ることで疲れもとれやすくなります。

 冷たい物をたくさん食べる夏型の食生活も、見直しましょう。冷えたビールやアイスコーヒーを飲みすぎたり、トマトやキュウリなど体温を下げる夏野菜ばかり食べたりするのは、控えたほうがいいでしょう。室内では温かいお茶を飲み、ショウガや温野菜を使ったスープなどもとるよう心掛けるのがお勧め。

従来の夏ばて対策と同様に、汗で失われるビタミンも意識して補給しましょう。特にビタミンB群は糖質をエネルギーに変え、疲労回復を助ける働きがあります。豚肉やカツオ、マグロ、ニンニクに豊富に含まれるので、積極的に摂取しましょう。

規則正しい生活を送って、新陳代謝をよくすることも、重要です。食事は3食きちんと食べ、特に朝食を毎日決まった時間にとれば、一日の生活のリズムを整えやすくなります。朝食では、エネルギーに変わりやすい蛋白(たんぱく)質を摂取することが大切で、例えばコーヒーの代わりに牛乳を飲んだり、ヨーグルトを加えたりすれば、手軽に摂取できます。

 腸の働きを助ける食物繊維も、意識して補給しましょう。料理する時間がない際には、食物繊維と蛋白質が豊富なシリアル食品をカボチャスープなどに入れて食べるのもお勧め。ナメコやオクラ、納豆など、胃腸の粘膜を守るムチンが多く含まれている食品を食べるのもお勧め。

 涼しい時間帯にウオーキングなど軽い運動をするのも、よいでしょう。体力をつけて代謝を促進し、冷え対策につながります。

夏の疲れがたまっていることを意識し、仕事や遊びの予定を詰め込みすぎないことにも、配慮しましょう。秋は人事異動や新学期の始まりなど、環境の変化もあって張り切ってしまいがちで、そのためにストレスを抱え、体調にも悪影響が出ることもあります。

🇺🇿亜急性硬化性全脳炎

麻疹ウイルスに感染後、5~10年の潜伏期間を経て発症する脳炎

亜急性硬化性全脳炎とは、はしかウイルスともいわれる麻疹(ましん)ウイルスに感染後、5~10年の潜伏期間を経て発症する脳炎。SSPE(Subacute Sclerosing Panencephalitis) とも呼ばれます。

数年の潜伏期間を経て発症後は、亜急性の経過、すなわち数カ月から数年の経過で神経症状が進行します。通常のウイルス感染が数日から数週の間に発症するのに対し、このように潜伏期間が著しく長く、ゆっくりと進行するウイルス感染を遅発性ウイルス感染と呼んでいますが、その代表的な疾患の一つです。

麻疹にかかった人の数万人に1人が発症し、現在、日本国内に150人くらいいると見なされています。以前の年間発症者数は10〜15人くらいでしたが、麻疹ワクチンの普及後は減少し、最近では5〜10人。好発年齢は小学校児童で、全体の80パーセントを占めています。

治療法は確立されておらず、現在でも予後が悪いため、厚生労働省の事業の一つである医療費助成制度の適応疾患となっており、医療費の助成を受けることができます。

亜急性硬化性全脳炎は、脳内で潜伏している間に変異した麻疹ウイルスが原因と考えられています。この変異した麻疹ウイルスは、亜急性硬化性全脳炎ウイルスと呼ばれ、麻疹ウイルスとは区別されています。亜急性硬化性全脳炎ウイルスを構成する蛋白(たんぱく)質に遺伝子変異がみられ、ウイルス粒子の形成や放出に欠陥があることがわかっています。

初発症状は、行動の変化、学力の低下、性格の変化、意欲の低下、歩行異常などであり、言葉をしゃべらない、目がよく見えないなどの症状が現れてきます。数カ月を経て、けいれん発作、手足の痙性(けいせい)まひ、不随意運動、てんかんなどが起こり、次第に手足が硬くなってきます。

次いで、体や手足を突っ張るような症状を現し、発熱などに伴って意識障害が強くなり、多くの発症者は失明を起こし、昏睡(こんすい)状態で死亡します。

通常、数カ月から数年の経過で症状が進行しますが、中には急性あるいは慢性に経過するタイプもあります。

麻疹にかかったことがあり、学業成績が急速に低下したり、性格に著しい変化がみられた時には、亜急性硬化性全脳炎が疑われます。知能低下や性格変化は、心因反応、登校拒否、脳腫瘍(のうしゅよう)、脳代謝性疾患などでも起こるので、小児科、神経内科などを受診することが勧められます。

亜急性硬化性全脳炎の検査と診断と治療

小児科、神経内科の医師による診断では、血清および髄液検査を行い、亜急性硬化性全脳炎に特徴的な麻疹抗体価の上昇を証明します。髄液中の免疫グロブリンG(IgG)の量が増えていることが証明されれば、診断的意義は高いとされます。脳波検査を行うと、けいれん発作を起こす時期では、周期性同期性高振幅徐波結合と呼ばれる特徴的な脳波所見を認めます。

CT(コンピューター断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像)検査では、特徴的な変化はありませんが、大脳皮質下や脳室周囲の白質に軽度の病変がみられたり、進行すると次第に脳全体が委縮して小さくなっていきます。

小児科、神経内科の医師による治療法では、特に有効な薬はないため、主に対症的な治療法に限られているのが実情です。ワクチン接種により麻疹にかからないようにすることが最も重要です。

>最近ではさまざまな治療法が検討されており、抗ウイルス剤やインターフェロンなどの脳内投与によって、5年以上生存する例もあります。また、C型肝炎の治療薬であるリバビリンという抗ウイルス剤の脳内投与も試みられています。

🇺🇿亜急性甲状腺炎

甲状腺の痛みや高熱を伴う疾患

亜急性甲状腺(せん)炎とは、甲状腺が比較的急に腫(は)れて、痛みを伴う疾患。原因としてウイルスの感染が疑われており、自己免疫疾患である慢性甲状腺炎(橋本病)とは全く別の病気です。この亜急性甲状腺炎から、慢性甲状腺炎に移行するわけではありません。

ウイルスによって起こるのではないかといわれていますが、まだ確証はありません。ほかの人に移ることはありません。30~40歳代の女性に圧倒的に多く発症し、夏に多くみられます。風邪のようなウイルス性疾患の症状から引き続いて起こることが、よくあります。

多くの人が初めに、のどの痛みを感じますが、実際は甲状腺に限局した頸(けい)部の痛みです。腫れは甲状腺全体に及ぶこともありますが、多くは右か左の甲状腺1カ所が硬くなり、その部分を押すと跳び上がるほど痛むことがあります。極度の疲労感を覚えることもあります。特に皮膚が赤くなったりすることはありません。

甲状腺の痛みと腫れがますます強くなり、38度を超える発熱がみられることもあります。痛みと腫れの部位は、しばらくすると頚部の右側から左側、あるいは左側から右側へ移ることもあり、あごや耳に痛みが広がり、頭を回したり、飲食物を飲み込む動作で痛みが強くなります。この亜急性甲状腺炎の初期には、歯、のど、耳の感染症とよく間違えられます。

多くのケースでは、甲状腺機能亢進(こうしん)症の症状を伴います。これは炎症により甲状腺組織が破壊され、甲状腺に蓄えられていた甲状腺ホルモンが急激に血液中に流れ出すことによります。

ほとんどのケースでは、甲状腺機能亢進症に続いて、一時的な甲状腺機能低下症を発症し、最終的には甲状腺機能は正常に回復します。

副腎皮質ホルモンが有効で、予後もよい

医師による検査では、血沈が著しく速くなります。血液中の甲状腺ホルモンを測定すると、一時的に増加し、その後は減少します。

原因がはっきりしないので根治治療法はありませんが、アスピリンや他の非ステロイド性抗炎症薬は、痛みと炎症を緩和します。比較的重症の時は、ステロイド薬の副腎(ふくじん)皮質ホルモンがたいへんよく効きます。多くのケースでは、この薬を服用して安静にしていると、翌日には痛みが取れ熱が下がります。しかし、すぐに服薬を中止すると、ぶり返します。経過をみながら減量し、少なくとも2カ月ほどかけて中止します。甲状腺機能亢進症の症状が重い場合は、ベータ遮断薬の服用が行われます。

炎症の強い時期には、なるべく安静にし、入浴も控えたほうがよいでしょう。食事に関しては、特に制限はありません。

この亜急性甲状腺炎にかかった人の多くは、完全に回復します。一般的に、数カ月のうちに自然に回復し、しかも、甲状腺機能も最終的にはほぼ全例が正常になりますが、時には再発したり、まれに甲状腺をひどく損なって、永続的な甲状腺機能低下症を引き起こすこともあります。

🇺🇬亜急性皮膚エリテマトーデス

顔、体、腕などに薄い赤みがかった円形の発疹ができる疾患

亜急性皮膚エリテマトーデスとは、顔、首、腕、体幹などに薄く赤みがかった円形の発疹(はっしん)ができる疾患。

現れる症状はさまざまであり、発熱を伴って突然発症することもあれば、数カ月から数年の期間にわたって関節痛や倦怠(けんたい)感などを繰り返しながら、潜行的に進行していく場合もあります。また、血管性頭痛やてんかん、精神症状が現れることもあり、あらゆる器官系統に関係した症状を示します。

特に再発性の発疹が顔、首、腕、体幹とさまざまな部位に出現します。日光に当たって赤くなる光線過敏性を示したり、色素脱失を示すことがあります。関節炎や疲労感は多くの発症者にみられますが、重篤な腎(じん)障害や中枢神経症状はあまりみられません。

男性より女性に多くみられ、特に40歳前後の中年女性に認められます。

亜急性皮膚エリテマトーデスの原因は、はっきりとは解明されていないのが現状です。皮膚症状の現れ方に人種差が大きいことから、遺伝的要因が関係しているとの報告があります。併せて発症の要因として、紫外線が関係しているとされ、紫外線にさらされることで免疫細胞(白血球)が不適切に活動して発疹が出現すると推測されています。

この亜急性皮膚エリテマトーデスは、膠原(こうげん)病の一つである全身性エリテマトーデスと症状が重なる疾患です。全身性エリテマトーデスの場合は膠原病科を受診しますが、亜急性皮膚エリテマトーデスの場合には皮膚科、皮膚泌尿器科を受診します。

亜急性皮膚エリテマトーデスの検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、特徴的な皮膚の発疹の症状から判断しますが、同じ発疹が見られる全身性エリテマトーデスやシェーグレン症候群などの膠原病がないか調べる必要があります。この発疹を認める約半数は、全身性エリテマトーデスの診断基準を満たします。

膠原病がないか調べるため、血液検査や皮膚生検といって皮膚の一部を採取して顕微鏡で調べる検査を行います。膠原病を除外するためにX線検査、CT検査、MRI検査、心電図などの検査を行うこともありますが、画像検査で亜急性皮膚エリテマトーデスそのものを診断することはできません。

皮膚科、皮膚泌尿器科>の医師による治療では、全身性エリテマトーデスやシェーグレン症候群がある場合は、これらに対する治療を優先します。ない場合には、ステロイド薬(副腎〔ふくじん〕皮質ステロイド薬)の軟こうを用いて、発疹の症状を和らげる対症療法を行います。

ステロイド薬の軟こうのみで改善しない場合は、ステロイド薬の飲み薬を用いたり、免疫抑制薬を用いて炎症をコントロールすることもあります。

ただし、適切な治療を行っていても症状を抑えるのに時間がかかったり、発疹が再発を繰り返す傾向を示すことがあります。

/p>亜急性皮膚エリテマトーデスの治療や予防に有効的なのは、紫外線による発症の可能性があるため、日光または紫外線への皮膚露出を最小限にすることです。屋外に出る際、強い日焼け止めを使用することや長袖(ながそで)の衣服を着用することなどが、必要となります。

🇮🇩アキレス腱炎

アキレス腱が細かな部分断裂によって炎症を起こした状態

アキレス腱(けん)炎とは、かかとの上に位置しているアキレス腱が炎症を起こした状態。非感染性の炎症で、主にスポーツなどによる使いすぎで起こります。

アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉である下腿三頭筋(かたいさんとうきん)とヒラメ筋の腱部分で、かかとの骨である踵骨(しょうこつ)に付着しており、足首を足底側に曲げる働きをしています。スポーツの性質上、酷使されることの多いアキレス腱は、常に小さな断裂と再生を繰り返しているといえます。

この小さな断裂こそが、アキレス腱炎の原因といえます。アキレス腱の小さな断裂は、運動による酷使の繰り返しと疲労の蓄積によって発生し、断裂が再生する過程でアキレス腱の組織が炎症を起こして、アキレス腱炎を引き起こしているのです。

アキレス腱炎の症状は、アキレス腱断裂に比べて軽いけがであるといえます。しかし、症状として発生する痛みは、アキレス腱断裂よりも頻繁に起こります。アキレス腱炎の主な症状でもある痛みは、歩行やジャンプなどの足がかかわる動作を行うごとに発生し、アキレス腱が付着している部分より2~6cm上方に起こります。

はれを伴うのも症状の一つで、進行すると、はれを原因とする血行不良やしこりを引き起こします。

急性期に適切な処置を行えば痛みは改善しますが、病状が回復していない状態で負担をかけると慢性傾向になり、足を動かすだけでも痛みが起こるようになります。運動能力の低下はみられないまでも、痛みが続くため運動も、日常生活も困難になりやすいのです。

スポーツの現場では、アキレス腱炎による痛みを我慢すべきものとして指導されていることが多々あります。しかし、痛みを我慢して運動を続けて負担をかけていると、炎症を起こした組織が変性して、繊維状の瘢痕(はんこん)組織に置換されてしまう場合があります。瘢痕組織に置換された組織は元通りに再生しなくなるため、アキレス腱炎は我慢すべきではない障害といえます。

整形外科医によるアキレス腱炎の治療に当たっては、原因となった運動を休み、患部を安静にしておくことが大切です。痛みを抑えるための消炎鎮痛剤の投与や、患部のアイシングを続け、痛みが引いたら温熱療法で血行を促進していきます。痛みが強い場合は、かかとを持ち上げる装具を使うこともあります。

基本的に手術は行われませんが、薬物治療などをしても症状がなかなか改善されない場合や、スポーツ活動に早く復帰しなくてはならない場合などは手術を行うことになります。

一般的には治療開始から1〜2週間ほどで、症状は好転します。完治後は、練習メニューの見直しなどの再発予防策を講じて行くことが大切となります。

アキレス腱炎を予防するには、運動前のストレッチと運動後のアイシングで炎症を防ぐことが効果的です。下腿三頭筋と同じく、アキレス腱から分離しているふくらはぎのヒラメ筋を伸ばすストレッチは、アキレス腱の負担を軽減する効果があり、アキレス腱のスポーツ障害を予防するためには欠かせないものといえます。運動後のアイシングも炎症を防ぐためには欠かせないものなので、忘れないようにします。

🇮🇳アキレス腱滑液包炎

アキレス腱の前部と後部にある滑液包が炎症を起こし、痛みが生じる疾患

アキレス腱(けん)滑液包炎とは、アキレス腱の前部にある滑液包と、アキレス腱の後部にある滑液包の一方、もしくは両方が炎症を起こし、痛みが生じる疾患。

アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉と踵(かかと)の骨である踵骨(しょうこつ)をつないでいる腱です。滑液包は、皮膚と骨や腱の部分の間にある袋状の軟部組織で、ゼリー状の少量の滑液が含まれています。滑液包の本来の役割は皮膚と骨や腱などが直接こすれ合うのを防止することですが、一定の動きにより圧迫や摩擦が長期間続くと炎症を起こしていきます。

炎症が起こると痛みが生じ、滑液の分泌量が多くなって滑液包の中に過剰な滑液がたまります。また、炎症が続くと、滑液包自体が肥厚することもあります。

アキレス腱の前部(深部)にある滑液包に炎症が起こるものは、アキレス腱と踵骨の後部との間にある踵骨後部滑液包に起こる踵骨後部滑液包炎(アキレス腱前滑液包炎)。

アキレス腱の後部(浅部)にある滑液包に炎症が起こるものは、踵の皮膚とアキレス腱との間にある踵骨下部滑液包に起こる踵骨下部滑液包炎(アキレス腱後滑液包炎、アキレス腱皮下滑液包炎)。

踵骨後部滑液包炎は、扁平足(へんぺいそく)やハイアーチ(凹足)の人が、起こしやすいといわれています。扁平足は、土踏まずのくぼんだ部分がなくなって、起立時や歩行時に足の裏のアーチがつぶれ、足の裏全体が地面にくっ付く足です。ハイアーチは、足の甲が極端に高く、起立時や歩行時に土踏まずの部分が地面に接しない足です。

また、踵骨後部滑液包炎は、踵骨後部滑液包が圧迫や摩擦を受けやすいパンプスやハイヒールなど踵の部分が固い靴を履いている人や、足関節の運動に伴うアキレス腱のオーバーユース(使いすぎ)を起こしやすい長距離走のランナー、バスケットボールの選手、バレーボールの選手などに起こることもあります。

踵骨後部滑液包炎を生じると、踵の後ろの部分がはれて硬く盛り上がり、押すと痛みが生じたり、靴を履いて歩くと痛むようになります。靴の着用や歩行が困難になることもあります。

踵骨下部滑液包炎も、踵骨後部滑液包炎とほぼ同じ発生メカニズムで、ほぼ同じ人が起こしやすいとされています。症状としては、踵の後ろの部分がはれて硬く盛り上がることが多いのが特徴で、パンプバンプ(パンプスによるこぶ)と呼ばれています。

アキレス腱滑液包炎の検査と診断と治療

整形外科、形成外科、ないし足の外科の医師による診断では、アキレス腱滑液包が位置する部分に圧痛があれば見当は付きますが、念のためX線(レントゲン)検査や超音波(エコー)検査を行います。超音波検査により、滑液包のはれなどを確認できることがあります。

整形外科、形成外科、ないし足の外科の医師による治療では、原因となったアキレス腱や踵骨に負担のかかるスポーツ活動があるなら中止し、通常、痛みを和らげる湿布が基本となります。

日常の歩行時に痛む場合は、踵を少し高くするヒールパッド(ヒールウエッジ)を靴に挿入して、靴の踵部分が患部に当たらないようにするか、圧迫や摩擦が少なく踵との適合性が高い靴と交換します。

痛みがひどい場合、再発を繰り返す場合は、患部にステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン)と麻酔剤を注射したり、アキレス腱滑液包内を洗浄したりします。

踵や足部の形状に異常があり、慢性化の傾向を示す場合は、滑液包と踵骨の隆起部分を切除する手術を行うこともあります。

通常、アキレス腱滑液包炎の予後は良好ですが、踵骨下部滑液包に形成されたパンプバンプは慢性化すると痛みを感じなくなり、そのまま固まって残存することがあります。

🇮🇷アキレス腱後滑液包炎

アキレス腱の後部にある踵骨下部滑液包が炎症を起こし、痛みが生じる疾患

アキレス腱(けん)後滑液包炎とは、アキレス腱の後部(浅部)にある踵骨(しょうこつ)下部滑液包が炎症を起こし、痛みが生じる疾患。アキレス腱皮下滑液包炎、踵骨下部滑液包炎とも呼ばれます。

アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉と踵(かかと)の骨である踵骨をつないでいる腱です。滑液包は、皮膚と骨や腱の部分の間にある袋状の軟部組織で、ゼリー状の少量の滑液が含まれています。滑液包の本来の役割は皮膚と骨や腱などが直接こすれ合うのを防止することですが、一定の動きにより圧迫や摩擦が長期間続くと炎症を起こしていきます。

炎症が起こると痛みが生じ、滑液の分泌量が多くなって滑液包の中に過剰な滑液がたまります。また、炎症が続くと、滑液包自体が肥厚することもあります。

アキレス腱後滑液包炎は主に若い女性に発症しますが、男性でもみられます。踵の後ろの踵骨下部滑液包が圧迫や摩擦を受けやすいパンプスやハイヒールなど、靴の踵の後ろを支える部分(ヒールカウンター)が硬い靴を履いている人や、足関節の運動に伴うアキレス腱のオーバーユース(使いすぎ)を起こしやすい長距離走のランナーに起こることもあります。

アキレス腱後滑液包炎の初期症状は、踵の後ろの発赤、痛み、熱感などです。後に、皮膚の一番上の層にびらんが生じ、すり減ることがあります。数カ月後、直径が1~3センチで波動性があり、圧痛を伴う隆起した赤色または肌色の小結節が発生し、炎症を起こします。

アキレス腱後滑液包炎が慢性化した場合、踵の後ろの部分がはれて硬く盛り上がることが多いのが特徴で、パンプバンプ(パンプスによるこぶ)と呼ばれています。パンプバンプを押すと痛みが生じたり、靴を履いて歩くと痛むようになります。靴の着用や歩行が困難になることもあります。

アキレス腱後滑液包炎の検査と診断と治療

整形外科、形成外科、ないし足の外科の医師による診断では、踵骨下部滑液包が位置する部分に圧痛を伴う赤色または肌色の小結節があれば見当は付きますが、念のためX線(レントゲン)検査や超音波(エコー)検査を行います。超音波検査により、滑液包のはれなどを確認できることがあります。

整形外科、形成外科、ないし足の外科の医師による治療では、原因となった踵の後ろの部分に負担のかかるスポーツ活動があるなら中止し、通常、痛みを和らげる湿布が基本となります。

日常の歩行時に痛む場合は、炎症を軽減し、踵の後ろの圧迫や動きを減らすために、靴の中の足の位置を調整します。踵を少し高くする発泡ゴム製またはフェルト製のヒールパッド(ヒールウエッジ)を、靴に入れることがあります。痛みのある踵骨下部滑液包にゲル状の保護パッドを当てたり、靴の後部を広げて踵骨下部滑液包の周囲にパッドを当てたりすると役立つこともあります。

圧痛を伴う炎症が軽減するまで、後ろのない靴を履くこともあります。踵の後ろやアキレス腱への刺激を柔らげるパッド付きの靴もあります。足の矯正器具が足の後ろの安定性を増すことがあり、歩行中に踵骨後方に刺激を加える動きを減らすのに役立ちます。圧痛を伴う炎症が沈静化したら、踵の後ろの部分が低く、踵との適合性が高い靴と交換します。

痛みがひどい場合、再発を繰り返す場合は、患部にステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン)と麻酔剤を注射したり、アキレス腱後滑液包内を洗浄したりします。注射は踵骨下部滑液包のみに施すように注意する必要があり、アキレス腱への注射は腱の脆弱(ぜいじゃく)化または裂傷につながり、その後の断裂の素因となる可能性があります。

踵や足部の形状に異常があり、慢性化の傾向を示す場合は、滑液包と踵骨の隆起部分を切除する手術を行うこともあります。

通常、アキレス腱後滑液包炎の予後は良好ですが、踵骨下部滑液包に形成されたパンプバンプは慢性化すると痛みを感じなくなり、そのまま固まって残存することがあります。

🇮🇶アキレス腱周囲炎

アキレス腱の周囲組織に炎症性変性や肥厚が起こり、踵の上が痛みを伴ってはれる疾患

アキレス腱(けん)周囲炎とは、アキレス腱の周囲組織であるパラテノン(疎性結合組織)に炎症性変性や肥厚が起こり、踵(かかと)の上が痛みを伴ってはれる疾患。

アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉である下腿三頭筋(かたいさんとうきん)とヒラメ筋の腱部分で、踵の骨である踵骨(しょうこつ)に付着しており、足首を足底側に曲げる働きをしています。

アキレス腱自体の細かい部分断裂、変性により炎症が起こるアキレス腱炎と同様、アキレス腱周囲炎は非感染性の炎症で、主にスポーツなどによる使いすぎ(オーバーユース)で起こります。

長時間の立ち仕事や、足に合っていない靴を履くことなどによって、生じることもあります。扁平足(へんぺいそく)などの足部変形が原因の一つになって、生じることもあります。

アキレス腱周囲炎はアキレス腱炎と同時に発症していることも多く、厳密に区別することは難しいこともあります。

アキレス腱周囲炎の急性期は、アキレス腱が踵に付着している部分に赤いはれ、熱感がみられます。アキレス腱を押さえると、痛みがあります。

進行すると、歩行開始時や運動開始時にアキレス腱が踵に付着している部分より2~6cm上方に痛みが生じ、歩行中や運動中はアキレス腱を包むパラテノンの温度が上がり、柔軟性が出るため、痛みが和らぎます。

慢性化すると、歩行中、階段の上り下りでも絶えず痛みが生じます。走ったり、運動をすると、強い痛みが生じます。アキレス腱が踵に付着している部分からふくらはぎにかけて、はれを原因とする血行不良やしこりが生じたり、足関節の動きが悪くなり、足関節を動かすとアキレス腱にきしむような摩擦音が聞こえることもあります。

アキレス腱周囲炎の検査と診断と治療

整形外科、ないし形成外科、足の外科の医師による診断では、X線(レントゲン)検査を行うと、アキレス腱が膨らんでいるのがわかることがあります。 MRI(磁気共鳴画像撮影)検査を行うと、アキレス腱が膨らんでいるのがよくわかり、変性の程度などの詳細もわかります。

整形外科、ないし形成外科、足の外科の医師による治療では、保存療法を行います。まず、スポーツや立ち仕事などのアキレス腱に刺激を与えている原因を避けて、患部を安静に保ち、消炎鎮痛剤の内服や湿布剤の塗布を行います。

痛みが強く現れている場合には、患部へのステロイド剤の注射や、ギプスなどによる装具固定を行います。

痛みが治まったら、温熱療法やアキレス腱のストレッチ、靴への足底板の装着で症状の慢性化を防ぎます。

🟧RSウイルス感染症が「流行入り」 静岡県が注意呼び掛け

 静岡県は26日、直近1週間(15~21日)のデータから「RSウイルス感染症が流行入りしている」と発表しました。定点医療機関となっている小児科1カ所当たりの患者数は1・64人で、県が流行入りの目安としている「1人」を大きく上回りました。前週の0・9人よりも8割増加し、急拡大が懸...