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2022/08/15

🇨🇭頭蓋骨縫合早期癒合症

頭蓋骨が先天的に小さく、変形を伴う症状

頭蓋骨(とうがいこつ)縫合早期癒合症とは、頭を形作る骨格である頭蓋骨が先天的に小さく、変形を伴う症状。小頭(しょうとう)症、狭頭症とも呼ばれます。

乳児の頭蓋骨は何枚かの骨に分かれており、そのつなぎを頭蓋骨縫合と呼びますが、乳児期には脳が急速に拡大するため、頭蓋骨もこの縫合部分が広がることで脳の成長に合わせて拡大します。成人になるにつれて縫合部分が癒合し、強固な頭蓋骨が作られます。

頭蓋骨縫合早期癒合症では、主に遺伝子の異常が原因となって、頭蓋骨縫合が通常よりも早い時期に癒合したり、一部の縫合が欠損したりする結果、脳の発達に呼応して頭蓋骨が健全に発達することができず、頭部に異常な変形が起こってきます。

頭蓋骨縫合の早期癒合部位、縫合の欠損部位によって、頭の前後径が異常に長い舟状頭、頭の前後径が異常に短くて横幅が広く、額が偏平になる短頭、額の中央が突出して三角形となる三角頭蓋など、頭蓋骨がさまざまに変形します。

そのほか、頭蓋骨縫合早期癒合症に顔面骨の発達の障害を伴って、顔、顎(あご)も変形するクルーゾン症候群、これに手足の指の癒合を伴うアペール症候群(尖頭〔せんとう〕合指症候群)などが起こることもあります。

頭部や顔面の変形、眼球突出などだけではなく、頭蓋骨が正常に発達できないために脳の圧迫や頭蓋内圧の上昇が起こり、脳や脳神経の発育と機能が障害され、耳の聞こえが悪くなったり、視力を損なうことがあります。

クルーゾン症候群が起こると、気道狭窄(きょうさく)、歯列のかみ合わせ異常、高口蓋や口蓋裂など、さまざまな症状もみられます。

頭蓋骨縫合早期癒合症は、遺伝子の異常で起こるほか、妊娠中の女性の風疹(ふうしん)ウイルスやサイトメガロウイルス、単細胞の原虫の一種であるトキソプラズマなどへの感染、低栄養、薬物、放射線照射により起きることもあります。

ウイルス感染の多くは、特に生命に必要な臓器が作られる妊娠初期の3カ月の間に、胎盤を通じて胎児、時にはその脳に直接感染し、頭蓋骨縫合早期癒合症を発症させます。2015年から中南米を中心に流行が拡大しているジカ熱の原因となるジカウイルスと頭蓋骨縫合早期癒合症の関連も指摘されていますが、科学的にはまだ証明されていません。

乳児の頭蓋骨は、子宮内での圧迫、産道を通る際の圧迫、また寝癖などの外力で容易に変形します。こうした外力による変形は自然に改善することが多いので心配ありませんが、遺伝子の異常やウイルス感染による頭蓋骨縫合早期癒合症との鑑別が大切です。

乳幼児の頭の形がおかしいと心配な場合は、形成外科や小児脳神経外科の専門医を受診します。

頭蓋骨縫合早期癒合症の検査と診断と治療

形成外科や小児脳神経外科の医師による診断では、頭蓋骨のX線(レントゲン)検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査を行い、頭蓋骨縫合の早期癒合部位、縫合の欠損部位を明らかにします。

形成外科や小児脳神経外科の医師による治療では、頭蓋骨縫合早期癒合症の症状には、軽度なものから重度なものまであり、形成外科や脳神経外科の領域のほか、呼吸、循環、感覚器、心理精神、内分泌、遺伝など多くの領域にわたる全身管理を行います。乳幼児の成長、発達を加味して適切な時期に、適切な方法で治療を行うことが望ましいと考えられ、関連各科が密接な連携をとって集学的治療を行います。

頭蓋骨縫合早期癒合症の治療は、放置すると頭の変形が残ってしまうばかりでなく、脳組織の正常な発達が抑制される可能性があるため、外科手術になります。

手術法としては従来から、変形している頭蓋骨を切り出して、骨の変形を矯正することで正常に近い形に組み直す頭蓋形成術が行われています。乳幼児の骨の固定には、できるだけ異物として残らない吸収糸や吸収性のプレートが用いられます。

近年では、この頭蓋形成術に延長器を用いた骨延長術も行われています。具体的には、頭蓋骨に刻みだけ入れて延長器を装着し、術後に徐々に刻みを入れた部分を延長させ、変形を治癒させるという方法。

骨延長術のメリットとして、出血が少なく手術時間の短縮が図れる、骨を外さないため血行が保たれるので委縮や変形が少ない、骨欠損が比較的早期に穴埋めされる、皮膚も同時に延長可能である、術後に望むところまで拡大可能であるなど挙げられます。一方、デメリットとして、頭蓋形成術より治療期間が長く1カ月程度は入院しなければならない、延長器を抜去する手術が必要となるなどが挙げられます。

さらに、内視鏡下で骨切りを行い、ヘルメットで頭の形を矯正するなどの手術方法も開発されています。

頭蓋骨の手術だけでなく、顔面骨を骨切りして気道を拡大し、眼球突出や不正咬合(こうごう)を適切な位置へ移動させる手術も行われます。

単純な頭蓋骨縫合早期癒合症であれば、適切な時期に適切な手術が行われれば、一度の手術で治療は完結することが期待できることがあります。クルーゾン症候群性、アペール症候群性の頭蓋骨縫合早期癒合症では、複数回の手術が必要になることもまれではありません。

頭蓋骨、顔面骨の形態は年齢により変化しますので、長期にわたる経過観察が必要です。

🇬🇪投球骨折

野球などでのボールを投げる動作によって、上腕骨骨幹部がらせん状に折れる骨折

投球骨折とは、野球などでのボールを投げる動作、または腕相撲などでの立てた腕を倒し合う動作によって、上腕骨骨幹部がらせん状に折れる骨折。

野球の投手の全力投球や、野球のバックホーム時の全力送球、野球の捕手の盗塁阻止時の全力送球、腕相撲やアームレスリングの立てた腕を倒し合う対戦などにより1回の強い外力が働いて生じる場合と、野球の投手によくみられるような使いすぎによって生じる場合とがあります。いずれの場合も、肩の関節と肘(ひじ)をつないでいる上腕骨の骨幹部に、肩側と肘側の動きの違いから加わるひねるような回旋力が作用して、骨折が発生すると考えられます。

また、この骨折が野球で発生する要因として、ある程度以上の筋力があること、投球フォームのバランスが悪いことなどが指摘されています。筋力の弱い小中学生や女性、バランスのとれた投球フォームを習得している野球部員やプロ野球選手にはあまり起こらず、筋力の強い青壮年の草野球選手によく発生します。

投球骨折が発生すると同時に、骨折した骨が上腕骨に接するように走行している橈骨(とうこつ)神経を傷付け、橈骨神経まひを合併することがあります。橈骨神経まひが発生すると、手首と手指の付け根の関節に力が入らず伸ばしにくくなり、手首と手指がダランと垂れる下垂手になります。親指、人差し指、中指の伸ばす側を含む手の甲から、前腕の親指側の感覚の障害も生じます。

使いすぎによる場合には、上腕の痛みなどの前触れがあることもありますが、突然発生することが少なくありません。野球ならボールを投げた瞬間、腕相撲やアームレスリングなら力を入れた瞬間に、「ボキッ」という骨の折れる音がして、肘が変形してはれ、動かそうとすると肘がひどく痛みます。

応急処置として三角巾(きん)や副子(ふくし)で肘と上腕を固定し、できるだけ早く整形外科を受診することが必要です。

投球骨折の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、上腕が内側に曲がった変形と、内出血によるはれが認められます。X線(レントゲン)検査を行うと、上腕骨骨幹部の中間部などにらせん状の骨折線を認めます。橈骨神経まひの合併が疑われる場合には、電気を用いた筋電図検査を行い、神経の伝導速度を測定します。

整形外科の医師による治療では、原則的に保存療法を行います。手で徒手整復して骨を元の位置に戻し、整復した状態が維持できる場合は、ギプスで固定し、骨がくっつくのを待ちます。らせん骨折で骨折の面が広いので、比較的良好な骨癒合が得られます。

整復した状態が維持できず、骨折部がずれたりする場合は、鋼線と呼ばれる金属で骨を固定する手術か、金属のネジで骨を固定する手術を行います。その後、ギプス固定を施し、骨折が治癒した後に固定具の鋼線、ネジを除去します。

また、3カ月ほど様子を見て合併した橈骨神経まひが回復しない場合は、神経剥離(はくり)、神経縫合、神経移植などの手術を行います。神経の手術で回復の望みの少ないものは、ほかの筋肉で動かすようにする腱(けん)移行手術を行います。

予防対策としては、上腕に大きな回旋力がかからないような投球フォームの習得や、投球前の十分なウォーミングアップを行うほか、痛みなどの前触れに気付いたら投球を中止することが大切です。

🇬🇪統合失調症(精神分裂病)

幻覚、妄想、思考障害を生じる精神疾患

統合失調症とは、幻聴を主とした幻覚、妄想、思考障害、奇異な行動、感情の鈍麻、意欲の欠乏、社会性の低下などを特徴とする精神疾患。以前は精神分裂病と呼ばれていた病で、今なお治療が難しく、発症者には障害者手帳が交付されています。

本来、精神分裂病の「精神」は心理学的な意味に由来して「思考」を現す単語であり、一般的に使われる「精神」が「理性」や「知性」を現すのとは、意味合いが異なっていました。しかし、「精神が分裂する病気とは、すなわち理性、知性が崩壊する病気である」と解釈されるケースがみられ、患者・家族団体などから病名に対する偏見が著しく強いという苦情がありました。そこで、日本の精神科医師の学会で2002年、統合失調症へと病名を変更した経緯があります。

統合失調症は世界中でみられ、精神の健康上の重大な問題となっています。10歳代後半から20歳代前半の若者に発症することが多く、生涯続く能力障害に至る可能性があります。世界各国で行われたさまざまな調査により、統合失調症の出現頻度は地域や文化による差があまりなく、およそ100人に1人はかかった経験を有していることが判明しています。発症率に、男女の差はありません。

統合失調症の正確な原因は不明ですが、遺伝、素質、体質、気質など個人の内部的要因と、環境的要因が組み合わさって起こると考えられています。根本的には内部的要因が問題であり、精神衛生的に不健全な環境で育ったり、親の育て方が悪かったりしたことが原因で起こる障害ではありません。

一般の発症リスクが1パーセントであるのに比べて、統合失調症の親や兄弟姉妹を持つ人のリスクは約10パーセント、一卵性双生児の1人が統合失調症だと、もう1人の発症リスクは約50パーセントになります。これらの数字は、遺伝的なリスクの存在を示しています。このほか、分娩(ぶんべん)中の低酸素状態、出生時の低体重、母体と胎児の血液型不適合など、出産前後や分娩中に発生した問題が、原因となることがあります。

原因については、さまざまな仮説も提唱されています。神経伝達物質の一つであるドーパミンの過剰によるという説や、さまざまな刺激を伝え合う脳を始めとした神経系にトラブルが起きることによるという説などです。

統合失調症の発症は突然、起こることもあれば、数日から数週間かけて発症することもあります。何年にも渡って徐々に、水面下で発症していくこともあります。

症状の程度と症状のタイプは、人によって異なります。多くの場合は、仕事、対人関係、身の回りのことをする能力が損なわれるほど、重度の症状が生じます。中には、精神機能が低下した結果、物事に注意を払う能力、抽象的に考える能力、問題を解決する能力が損なわれる場合もあります。精神機能の損傷の軽重が、全般的な能力障害を決定する主な要因となります。

3タイプの症状と、4タイプの亜型分類

統合失調症の症状は大きく分けて、陽性症状(非欠陥症状)、陰性症状(欠陥症状)、認知障害の3種類になります。3種類のすべてに該当する症状がある人もいれば、いずれか1、2種類の症状だけ示す人もいます。

陽性症状(非欠陥症状)は、妄想、幻覚、思考障害、奇異な行動など。妄想と幻覚に共通しているのは、被害的な気分や意識です。

妄想は誤った確信のことで、一般に、知覚や体験の誤った解釈に関係しています。客観的に見ると不合理であっても、本人にとっては確信的であるために、行動が妄想に左右されてしまいます。

例えば、被害妄想がある人は、「ばかにされている」、「だまされている」、「見張られている」などと思い込みます。追跡妄想がある人は「後を付けられている」、注察(ちゅうさつ)妄想がある人は「人が変な目で見ている」、関係妄想がある人は「本、新聞、歌詞などの1節が特に自分に向けられている」と思い込みます。思考奪取や思考吹入という妄想がある人は、「人に自分の心が読まれている」、「自分の考えが人に伝わっている」、「外部の力によって考えや衝動が自分の中に吹き込まれている」などと思い込みます。

幻覚は音、視覚、におい、味、身体的感触について生じることがありますが、最も多い幻覚は音の幻聴。自分の行動に関して意見を述べる声、互いに会話する声、あるいは批判的で口汚いことを話す声など、周囲の人には聞こえていない声を現実に聞くことがあります。

思考障害は、思考が支離滅裂になることをいいます。話に取り留めがなく、話題が次々に変わり、何をいいたいのかわからない意味不明な会話をします。話すことが多少混乱している程度の場合もあれば、完全に支離滅裂で理解できない場合もあります。

奇異な行動は、急激な興奮、子供のようなばかげた行為、だらしない外見、不衛生、不適切な行動などの形で現れます。奇異な行動の極端な形として、一定の姿勢を崩さず、周囲の人が体を動かそうとすると強い抵抗を示したり、逆に目的のない非誘発性の体の動きをみせたりします。

これらの陽性症状は、安心感や安全保障感を著しく損ない、一度症状が現れるとそこからの回復過程は緩やかで、十分な時間を必要とします。

陰性症状(欠陥症状)とは、それまであった性質や能力が失われる症状で、感情の鈍麻、会話の貧困、快感の消失、社会性の低下などがあります。

感情の鈍麻とは、感情が平板化すること。表情に動きがなく、人と目を合わせず、感情表現が欠如します。喜怒哀楽がはっきりせず、普通の人なら笑う、あるいは泣くような状況でも、何の反応も現しません。

会話の貧困とは、思考の低下により、会話を続けることに困難を感じ、言葉数が少なくなること。質問に対する返答は1語か2語と短くなり、人間味が感じられなくなります。

快感消失とは、楽しいと感じる能力が低下することで、以前は楽しんでやっていたことに興味を失い、無目的なことに時間を費やします。

社会性の低下とは、人とのかかわりに興味を失うこと。周囲との交渉を嫌って自分だけの殻に閉じこもり、自室でぼんやりしていることが多くなります。

これらの陰性症状は、全般的な意欲の欠乏、目的意識の欠如、目標の喪失としばしば関連しています。周囲には、なかなか統合失調症の症状として認知されづらく、怠けや努力不足とみられる場合があります。陰性症状を「症状」と理解して対応しなかった場合は、生活上のさまざまな失敗や挫折を招くことが多く、生活をしていく自信や「自分はやれている」といった自己効力感を損ないやすくなります。

認知障害とは、集中力、記憶力、計画能力、問題解決能力、整理能力などに問題があることをいいます。集中力が欠如しているために、本が読めなかったり、映画やテレビ番組のストーリーが追えなかったり、指示通りに物事ができなかったりします。また、注意が散漫になって、1つのことに集中できない人もいます。その結果、細部まで注意が必要な仕事、複雑な作業、意思決定ができなくなります。「一見、元気にみえるのに、なぜか仕事や家事が続かない」と、周囲にいわれるような状態です。

統合失調症を明確なグループに細かく分類する試みとして、亜型が提案されています。亜型は普通、破瓜(はか)型、緊張型、妄想型、分類不能型の4つのタイプに分けられます。個々の発症者の亜型が、時とともに変化することもあります。

破瓜型の統合失調症は、支離滅裂な会話と行動、平板あるいは不適切な感情を特徴としています。年齢的に最も早くから起こってくるタイプで、経過が慢性化して、次第に人格変化を引き起こし、最悪の場合には廃人同様の状態に落ち込んでいきます。

緊張型の統合失調症は、急激に興奮して叫んだり、暴れたり、じっと動かなかったり、やたらと動き回ったり、あるいは奇妙な姿勢を取ったりといった行動が特徴的です。発症時の激しさとは裏腹に、経過が早く、よく治るとされています。このタイプは現在、非常に減少しています。

妄想型の統合失調症は、妄想や幻聴に捕われるのが特徴で、支離滅裂な会話や不適切な感情はあまり顕著ではありません。破瓜型と並んで現在、一番数多くみられるタイプで、半年、1年と長引くことが多いのですが、人柄の変化は一般的にみられず、多少の症状はあっても、仕事は何とか続けていけるというケースが少なくありません。

分類不能型の統合失調症は、妄想と幻覚、思考障害と奇異な行動、陰性症状など、異なる亜型の症状が混在するのが特徴です。

治療の方法と病気の予後

発症者の家族が相談に来て、医師に訴えるものとしては、「最近、夜眠らない、夜昼逆転している」、「生活が不規則になった」、「閉じこもって家族と口を利くことが少ない」、「独り笑い、独り言がある」、「つじつまの合わないことを口にする」などが多いようです。

しかし、最近の傾向として、統合失調症の軽症化ということがいわれています。つまり、興奮などの激しい症状を示す人が減り、上記のような症状を訴えて自分から外来に来る人が増加しています。

統合失調症の診断では、その決め手となる検査はありません。既往歴や症状を総合的に評価して診断しますが、症状が最低6カ月続き、仕事、学業、社会機能に顕著な低下がみられることが、診断の必須条件です。家族、友人、教師、上司、同僚などからの情報は、発症時期を特定するのに重要です。

臨床検査を行って、精神病性の症状を引き起こす可能性のある薬物などの乱用の有無や、内科疾患、神経疾患、内分泌系の疾患などが基礎にないかどうかを調べます。そのような疾患の例として、脳腫瘍(しゅよう)、側頭葉てんかん、甲状腺(こうじょうせん)疾患、自己免疫疾患、ハンチントン舞踏病、肝臓病があります。

CT検査またはMRI検査で、受診者の脳の異常が検出されることがありますが、その異常は統合失調症の診断に役立つほど特異的なものではありません。

統合失調症の治療では、全般的な目標として、精神症状を軽減させ、症状の再発とそれに伴う機能低下を防ぎ、機能をできるだけ高いレベルに維持することを目指します。抗精神病薬、リハビリテーションと地域支援活動、そして心理療法が治療の柱となります。

薬物治療では、1950年代にフランスでクロルプロマジンという薬物が一部の患者に効果があることが発見され、これを契機に抗精神病薬による治療が広く行われるようになりました。1990年代後半からの非定型抗精神病薬の使用や、効果的な急性期治療、社会復帰のため福祉施設や法制度の整備などにより、発症者の入院期間は短縮されています。

抗精神病薬は、妄想、幻覚、支離滅裂な思考などの症状を軽減するのに効果があります。急性の症状が治まった後、抗精神病薬を継続的に使用すると、再発の可能性をかなりの割合で抑えることが可能。

ただし残念なことに、抗精神病薬には、鎮静作用、筋肉の硬直、震え、体重増加、動作不穏などの副作用があります。また、不随意運動障害、まれに悪性症候群という重い副作用が生じることもあります

副作用が少ない新しい抗精神病薬も、数多く開発されています。特に非定型抗精神病薬と呼ばれる薬は、従来の抗精神病薬に比べて、陽性症状、陰性症状、認知障害をかなり広い範囲に渡って軽減します。筋肉の硬直、震えといった生活に支障を起こしやすい副作用が少ないことも、利点となっています。

また、使用方法として原則、1種類の薬で処方し、同じような効き目の何種類もの薬を重ねて飲むような方法はとりません。薬には適用量があり、多量の処方は副作用ばかりが増えて効果が増えるわけではなく、意味がありません。日本ではかつて、多種類の薬物を大量に処方する習慣がありましたが、非定型抗精神病薬は処方の方法論にも影響を与えています。

統合失調症の治療では、発症者が治療の指示をきちんと守ることが極めて重要です。薬物療法をしないと、70~80パーセントが診断時から1年以内に、統合失調症の症状を再発します。継続的に薬を服用すると、再発率は20~30パーセント程度に下がり、症状は大幅に少なくなります。

ところが、統合失調症の人の半数が、処方薬を服用しません。自分が病気であるという認識がないため服用を拒む人もいれば、不快な副作用を嫌って服用しなくなってしまう人もいます。記憶障害、支離滅裂な思考、あるいは単に経済的理由から薬の服用をやめてしまうケースもあります。

本人、家族、そして医師との間に協力関係を築くことを目標とする心理療法で、医師や心理療法士と一貫した信頼関係ができると、自分の病気を受け入れやすくなり、治療に関する指示をきちんと守ることの必要性を認識するようになります。

統合失調症の治療では、適切な薬物療法に加え、リハビリテーションと地域支援活動によって、地域社会で生活できるようにすることも目標が柱。そのために必要な技能を教えることを目的として、職場訓練などの地域支援活動が行われています。仕事、買い物、身なりなど自分の身の回りを整えること、家事、協調性などを学ぶために、監督者付きの住宅やグループホームで生活する必要がある人もいます。

統合失調症の人の中には、重度で治療に反応しない症状があったり、地域社会で生活していくために必要な能力が欠如しているために、自立して生活できない人もいます。そういう場合は、安全でサポート体制の整った施設での完全看護が必要です。

長期的にみると、統合失調症の経過の見通しはさまざまです。一般に、3分の1に顕著で持続的な改善がみられ、3分の1には断続的な再発や残存する能力障害はあっても、ある程度の改善がみられ、残りの3分の1が重度で永久的な無能力の状態となります。

🇬🇪橈骨遠位端骨折

転んで手首近くを強く突いた際に起こる骨折

橈骨遠位端(とうこつえんいたん)骨折とは、転んで手首近くを強く突いた際に起こる骨折。頻度の高い外傷です。

前腕にある橈骨と尺骨(しゃくこつ)の2本の骨のうち、親指側にある骨が橈骨に相当し、この橈骨の手首近くでの骨折を総称して橈骨遠位端骨折といいます。

若年者ではスポーツや交通事故、転落事故などでの強い外力が加わる外傷が原因であることが多い一方、高齢者では屋内での転倒などでの軽微な外力が加わる外傷が原因となります。特に、骨粗鬆(こつそしょうしょう)症のある人では多発します。

手首の突き方、骨折線の入り方によって、さまざまな骨折のタイプがあります。 子供では、橈骨の手首側の成長軟骨板の部位で骨折が起きます。

橈骨遠位端骨折を起こすと、手首周囲の強い痛み、はれが生じ、手に力が入らない、手が動かしにくい、手首から先がグラグラするといった症状が出ることもあります。

まれですが、橈骨の手のひら側を走っている正中(せいちゅう)神経が、折れた骨やはれで圧迫されたり、損傷したりすると、親指から薬指の感覚が障害され、手のひらの感覚がおかしい、しびれるといった症状が出ることもあります。骨折した骨が傷口から見えたり、手指の色が変わって冷たくなることもあります。

骨折部のずれ(転位)がある場合には、変形も伴います。手首から先が手の甲の方向にずれるものは、古くからコーレス骨折、手のひらの方向にずれるものは、スミス骨折(逆コーレス骨折)といわれています。

コーレス骨折では、手首側の骨片が手関節を含んで手の甲の方向にずれ、食器のフォークを伏せて置いたように変形するタイプが多くみられます。

また、前腕にあるもう1本の骨である尺骨の先端やその手前の部分が、同時に骨折する場合もあります。

転倒して手首を突き、手首周囲の痛みを生じた際は、手指を動かすことができても骨折していることがあります。ただの打撲や捻挫(ねんざ)か骨折かが疑わしい時は、患部の固定と挙上、アイシング(冷却)を行いながら、速やかに整形外科などを受診することが勧められます。

橈骨遠位端骨折の検査と診断と治療

整形外科、形成外科、ないし手の外科の医師による診断では、まず視診ではれの程度や痛みの部位を調べ、X線(レントゲン)検査で骨折の有無を確認します。

また、骨の折れ方、骨折の程度、骨折部のずれ(転位)の程度により治療法が異なるので、折れた部分が単純で骨折線が1本だけか、いくつもの小さい骨片がある不安定な骨折か、手首側の骨片もいくつかに分かれて骨折線が手首の関節に及んでいるかなどを、X線検査で見極めます。

整形外科、形成外科、ないし手の外科の医師による治療では、骨折した骨が皮膚を突き破って見えている開放骨折の場合は、緊急手術を行います。

骨折部のずれが小さい場合は、手を指先の方向に引っ張って、ずれた骨片を元に戻す整復操作を行います。引っ張る力を緩めても骨片がずれず、安定した整復位が得られた時は、そのままギプスやギプスシーネで固定します。その後、通院で週に1~2回X線検査を行って骨折の状態を確認し、整復位を良好に保つことができれば、そのまま4~6週間のギプスやギプスシーネでの固定を継続し、その後、リハビリで手首の関節運動を開始していきます。

途中で骨折部がずれてきた時や、最初から整復位を保持できない時は、手術治療を行います。

手術には、X線で透視しながら、鋼線を刺し入れて骨折部を固定する経皮鋼線刺入法や、手前の骨片と手首側の骨片に金属のスクリュー(ネジ)や鋼線などを刺し入れてそれに牽引(けんいん)装置を取り付ける創外固定法、骨折部を直接切開して骨片を整復した上で金属プレートとスクリューで固定する方法などがあります。

子供の骨折は、骨片の整復が不完全でも、自家矯正力が旺盛(おうせい)で骨同士がくっ付く骨癒合も早いため、通常手術を必要としません。

🇹🇷橈骨遠位端伸展型骨折

転んで手首近くの手のひらを強く突いた際に起こり、手首から先が手の甲の方向にずれる骨折

橈骨遠位端(とうこつえんいたん)伸展型骨折とは、転んで手首近くの手のひらを強く突いた際に起こり、手首から先が手の甲の方向にずれる骨折。コーレス骨折とも呼ばれ、橈骨遠位端骨折の定型的骨折の一つです。

前腕にある橈骨と尺骨(しゃくこつ)の2本の骨のうち、親指側にある骨が橈骨に相当し、この橈骨の手首近くでの骨折を総称して橈骨遠位端骨折といいます。

橈骨遠位端骨折は頻度の高い外傷で、若年者ではスポーツや交通事故、転落事故などでの強い外力が加わる外傷が原因であることが多い一方、高齢者では屋内での転倒などでの軽微な外力が加わる外傷が原因となります。特に、骨粗鬆(こつそしょうしょう)症のある人では多発します。

手首の突き方、骨折線の入り方によって、さまざまな骨折のタイプがあります。子供では、橈骨の手首側の成長軟骨板の部位で骨折が起きます。

橈骨遠位端骨折を起こすと、手首周囲の強い痛み、はれが生じ、手に力が入らない、手が動かしにくい、手首から先がグラグラするといった症状が出ることもあります。骨折した骨が傷口から見えたり、手指の色が変わって冷たくなることもあります。

骨折部のずれ(転位)がある場合には、変形も伴います。手首から先が手の甲の方向にずれるものは、橈骨遠位端伸展型骨折(コーレス骨折)といわれています。一方、手首から先が手のひらの方向にずれるものは、橈骨遠位端屈曲型骨折(スミス骨折、逆コーレス骨折)といわれています。

橈骨遠位端伸展型骨折では、橈骨の手首側の骨片が手首の関節を含んで手の甲の方向にずれ、食器のフォークを伏せて置いたように変形するタイプが多くみられます。骨折後は手首周囲に痛みを感じ、次第に前腕から手にかけてはれが出ます。手に力が入らず脱力し、もう片方の手による支えが必要になります。

この橈骨遠位端伸展型骨折は、事故やつまずきなどで手のひらを強く突いて転んだ際に、手首の関節に体重がかかり、無理な背屈を強制されて生じます。多くは橈骨の手首側に走る斜骨折を起こしますが、高齢者ではY字型骨折や粉砕骨折を起こすことが多いとされています。

骨折部のずれ(転移)が大きいと、橈骨と一緒に前腕を構成している尺骨との関節を支えている靭帯(じんたい)が断裂し、高齢者では尺骨が脱臼(だっきゅう)を起こすこともあります。また、尺骨の先端やその手前の部分が、同時に骨折する場合もあります。

まれですが、橈骨の手のひら側を走っている正中(せいちゅう)神経が、折れた骨やはれで圧迫されたり、損傷したりすると、親指から薬指の感覚が障害され、手のひらの感覚がおかしい、しびれるといった症状が出ることもあります。

一方、橈骨遠位端屈曲型骨折は、自転車やバイクのハンドルを握ったまま倒れて、手の甲を突いた時などに生じ、橈骨遠位端伸展型骨折とは反対の変形を起こします。

転倒して手首を突き、手首周囲の痛みを生じた際は、手指を動かすことができても骨折していることがあります。ただの打撲や捻挫(ねんざ)か骨折かが疑わしい時は、患部の固定と挙上、アイシング(冷却)を行いながら、速やかに整形外科などを受診することが勧められます。

橈骨遠位端伸展型骨折の検査と診断と治療

整形外科、形成外科、ないし手の外科の医師による診断では、まず視診ではれの程度や痛みの部位を調べ、X線(レントゲン)検査で骨折の有無を確認します。

また、骨の折れ方、骨折の程度、骨折部のずれ(転位)の程度により治療法が異なるので、折れた部分が単純で骨折線が1本だけか、いくつもの小さい骨片がある不安定な骨折か、手首側の骨片もいくつかに分かれて骨折線が手首の関節に及んでいるかなどを、X線検査で見極めます。

整形外科、形成外科、ないし手の外科の医師による治療では、骨折した骨が皮膚を突き破って見えている開放骨折の場合は、緊急手術を行います。

骨折部のずれが小さい場合は、手を指先の方向に引っ張って、ずれた骨片を元に戻す整復操作を行います。引っ張る力を緩めても骨片がずれず、安定した整復位が得られた時は、そのままギプスやギプスシーネで固定します。その後、通院で週に1~2回X線検査を行って骨折の状態を確認し、整復位を良好に保つことができれれば、そのまま4~6週間のギプスやギプスシーネでの固定を継続し、その後、リハビリで手首の関節運動を開始していきます。

途中で骨折部がずれてきた時、粉砕骨折や骨片が手首の関節内に入って最初から整復位を保持できない時は、手術治療を行います。

手術には、X線で透視しながら、鋼線を刺し入れて骨折部を固定する経皮鋼線刺入法や、手前の骨片と手首側の骨片に金属のスクリュー(ネジ)や鋼線などを刺し入れてそれに牽引(けんいん)装置を取り付ける創外固定法、骨折部を直接切開して骨片を整復した上で金属プレートとスクリューで固定する方法などがあります。

子供の骨折は、骨片の整復が不完全でも、自家矯正力が旺盛(おうせい)で骨同士がくっ付く骨癒合も早いため、通常手術を必要としません。

整復が十分に行われていない場合や、固定が十分でなく骨折部のずれが再発してしまった場合は、骨が変形したまま骨折部位の癒合が起こります。これを変形治癒といい、変形したままの癒合状態では、手首の関節を返す動きが抑制されるなどの機能障害を起こします。

🇹🇷橈骨茎状突起痛

手首の親指側にある腱鞘と、そこを通過する2つ伸筋腱に生じる炎症

橈骨(とうこつ)茎状突起痛とは、手首の親指側にある腱鞘(けんしょう)と、そこを通過する長母指外転筋腱と短母指伸筋腱に生じる炎症。狭窄(きょうさく)性腱鞘炎、ドケルバン病とも呼ばれます。

親指を広げると手首の親指側の部分に腱が張って、皮下に浮かび上がる2本の線があり、下側の線が長母指外転筋腱、上側の線が短母指伸筋腱に相当します。長母指外転筋腱は主に親指を広げる働きをする伸筋腱の1本で、短母指伸筋腱は主に母指を伸ばす働きをする伸筋腱の1本です。

親指の使いすぎによる負荷のために、2本の伸筋腱が通るトンネルである腱鞘が炎症を起こして肥厚すると狭窄が生じ、2本の伸筋腱の表面が傷んだり、癒着したりして、橈骨茎状突起痛となります。この手首の親指側にある腱鞘には、2本の伸筋腱を分けて通過させる隔壁が存在するために、狭窄が生じやすいという特徴があります。

橈骨茎状突起痛を発症すると、腱鞘の部分で2本の伸筋腱の動きがスムーズでなくなり、親指の付け根や手首の親指側が痛み、はれます。親指を広げたり、動かしたりすると、強い痛みが走ります。 タオルを絞ったりすると、手首の親指側が痛むこともあります。

また、2本の伸筋腱の周囲の組織が骨のように硬くなったり、手首の親指側の関節にある橈骨茎状突起部の周囲がはれ、押すと痛むという症状もみられます。

仕事で手や指を酷使している人、ラケットを強く握って手首の曲げ伸ばしを繰り返し行うテニスや卓球などのスポーツをしている人のほか、女性の場合、妊娠や出産、更年期が切っ掛けとなって、橈骨茎状突起痛を発症するケースもあります。

中には、腱の変性により老人に発症する場合や、外傷で発症する場合、ガングリオン(結節腫)などの腫瘍(しゅよう)によって伸筋腱が圧迫されて発症する場合もあります。

橈骨茎状突起痛の検査と診断と治療

整形外科、ないし外科の医師による診断では、針を刺して関節液を採取する穿刺(せんし)検査を行います。

親指を使用した時の手首の親指側の痛み、また橈骨茎状突起部にはれや圧痛があれば、診断を確定できます。誘発試験として、医師が患者の母指を握って、手関節を小指側に曲げるフィンケルスタインテストを行い、痛みが増強するか否かで判定します。

区別する必要がある疾患として、母指CM関節症、月状骨(げつじょうこつ)軟化症、舟状骨(しゅうじょうこつ)骨折などがあり、単純X線撮影を行います。橈骨茎状突起痛は単純X線写真では異常が認められないことから、区別が可能です。

整形外科、ないし外科の医師による治療では、まず手をなるべく使わないよう指導します。また、湿布剤、軟こうなどの使用、非ステロイド性鎮痛消炎剤の投与を行います。時には、副木(ふくぼく)やバンドを当てて固定することもあります。

症状が強い時には、局所麻酔薬入りステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン)を発症している腱鞘に直接注射するのが有効です。3回以上の直接注射は、腱の損傷を起こすことがあるので避けます。

これらの保存療法を3カ月程度行って症状が改善しない場合、腱鞘を切開する手術を行います。手術は局所麻酔を用い、橈骨茎状突起部に2cmほどの皮膚切開を入れて、まず橈骨神経浅枝という神経をよけ、長母指外転筋腱鞘と短母指伸筋腱鞘を出して、隔壁を含めて全長にわたり切離し、腱の滑りをよくします。手術成績は良好です。

橈骨茎状突起痛を予防するには、手、特に親指の酷使を避けることが一番大切です。

🇹🇷橈骨神経まひ

腕に走る橈骨神経が圧迫されて、腕がしびれたり、動かなくなる障害

橈骨(とうこつ)神経まひとは、腕の骨を巻くように、鎖骨の下からから手首、手指まで走っている神経が、外から圧迫されることで起こる障害。腕がしびれたり、手首や手指が動かなくなったりします。

橈骨神経は腕に走る大きな神経の1つで、主に肘(ひじ)関節を伸ばしたり縮めたり、手首や手指を伸ばしたりするなどの動きを支配している神経です。感覚領域は手の背部で、親指、人差し指とそれらの間の水かき部を支配しています。

腕に走る大きな神経はほかに、正中(せいちゅう)神経、尺骨(しゃくこつ)神経がありますが、橈骨神経は障害を受けやすく、腕の神経まひのほとんどを占めます。

この橈骨神経は鎖骨の下からわきの下を通り、上腕の外側に出てきて上腕中央部で上腕骨のすぐ上を走り、肘のあたりで腕の内側を走り、手首の近くでまた表面に出てきます。このようにいろいろな方向に走っていますので、いろいろな部位で圧迫を受ける可能性があります。中でも、橈骨神経が障害されやすい部位は2カ所あります。

1カ所はわきの下での圧迫、もう1カ所は上腕の外側での圧迫です。特に上腕の外側、いわゆる二の腕の部位は、上腕骨に接するように橈骨神経が走行し、筋肉が薄い部位であるために、上腕骨に橈骨神経が圧迫されやすい状況にあり、最も障害を受けやすい部位です。 

橈骨神経まひの原因は、大きく分けて2つあります。一番多いのが、腕の橈骨神経を体外から強く圧迫したことで起こる末梢(まっしょう)性の神経まひです。

典型的には、前夜から腕枕をして寝ていた、ベンチの背もたれにわきの下を挟むような姿勢を続けていた、電車で座席の横のポールに腕を当てて寝ていた、飛行機で肘掛けに寄り掛かるように寝ていた、浴槽でわきの下を圧迫するようにうたた寝していたなど、わきの下や上腕の外側を強く圧迫するような姿勢を一定時間続けると、気付いた時には腕はしびれ、動かなくなっていたというように発症するケースが多く認められます。飲酒後、寝て起きたら、橈骨神経まひになっていたというケースも多く認められます。

何らかの思い当たる原因があって手が動かなくなったのであれば、まず末梢性のもので一時的な神経まひと考えられます。逆に、全く何の覚えもなく発症した時は、腫瘤(しゅりゅう)などほかの原因から起きている場合もありますので、要注意です。

橈骨神経まひのもう1つの原因は、骨折、脱臼(だっきゅう)などの外傷による外傷性の神経まひで、外からの圧迫で神経を傷付けたり、骨折した骨が神経を傷付けたりといったケースです。

橈骨神経が上腕の中央部で傷害されると、手首と手指の付け根の関節に力が入らず伸ばしにくくなり、手首と手指がダランと垂れる下垂手になります。親指、人差し指、中指の伸ばす側を含む手の甲から、前腕の親指側の感覚の障害も生じます。

橈骨神経が肘関節の屈側で傷害されると、手首を伸ばすことは可能ですが、手指の付け根の関節を伸ばすことができなくなり、指のみが下がった状態になる下垂指になります。手の甲から前腕の感覚の障害がありません。

橈骨神経が前腕から手首にかけての親指側で傷害を受けると、障害の部位によりいろいろな感覚の障害が起こりますが、下垂手にはなりません。

共通する症状は、グーが握れなくなる、パーに開けなくなる、しびれです。まひの程度が重いほど、パーに開けなくなる症状が顕著です。手首の筋力が著しく弱くなるため、ちょっとした物でも持ち上げられなくなります。また、感覚の鈍さが現れ、親ペンなどをうまく持てず、字もうまく書けません。親指と人差し指の水かき部分のしびれ、腕のだるさや痛み、腕や手のひらのむくみなどがよくみられる症状です。

まひの状態が長く続くと、筋肉の委縮が起こり、腕の筋肉がやせ細ってきます。

手がしびれ、動かなくなった場合のほとんどは、末梢性のもので一時的な神経まひと考えられますが、中には重症の場合があるので、念のために整形外科、ないし神経内科を受診することが勧められます。

橈骨神経まひの検査と診断と治療

整形外科、神経内科の医師による診断では、上腕の中央部の傷害で下垂手を示して感覚障害があり、チネルサインがあれば、傷害部位が確定できます。チネルサインとは、破損した末梢神経を確かめる検査で、障害部分をたたくと障害部位の支配領域に放散痛が生じます。

知覚神経が傷害されていれば、チネルサインと感覚障害の範囲で、傷害部位の診断が可能です。確定診断には、筋電図検査、X線(レントゲン)検査、MRI検査、超音波検査など必要に応じて行われます。

整形外科、神経内科の医師による治療では、回復の可能性のあるものや原因が明らかでないものに対しては、局所の安静、薬剤内服、必要に応じ装具、運動療法などの保存療法を行います。薬剤内服では、発症早期にメチルコバラミンや副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤などを服用することが有用です。予後はおおむね良好で、多くの場合1~3カ月で完治します。

3カ月ほど様子を見て全く回復しないもの、まひが進行するもの、骨折などの外傷で手術が必要なもの、腫瘤のあるものでは、手術が必要になります。神経損傷のあるものでは、神経剥離(はくり)、神経縫合、神経移植などの手術が行われます。神経の手術で回復の望みの少ないものは、ほかの筋肉で動かすようにする腱(けん)移行手術が行われます。

🇮🇹橈骨頭亜脱臼

乳幼児期、特に2〜6歳に起こりやすい肘の亜脱臼

橈骨頭亜脱臼(とうこつとうあだっきゅう)とは、乳幼児が起こしやすく、肘(ひじ)の関節が少しずれる不完全な脱臼状態。肘内障(ちゅうないしょう)とも呼ばれます。

7歳ぐらいまでの子供の肘の関節は、構成する橈骨という骨の関節端の形状が不完全な形をしており、橈骨を支えている橈骨輪状靱帯 (じんたい)から逸脱しやすくなっています。

そのため、誰(だれ)かに不意に手や腕を引っ張られたり、腕をひねられたりすると、簡単に肘が亜脱臼を起こしてしまいます。また、自ら転倒して手を突いた際に、亜脱臼することもあります。場合によっては、寝返りの動作で腕がねじれた際に、亜脱臼することもあります。

肘の外側には2つの小さな骨の出っ張りがあり、この2つの出っ張りは肘を伸ばした状態で直列しており、間に関節の透き間のへこみがあります。上腕側の出っ張りは、上腕骨の外顆(がいか)という骨の出っ張りです。前腕側の出っ張りが、前腕の骨のうちの1本である橈骨の骨頭になります。

また、肘の関節全体は、関節包という靱帯状の線維で覆われており、さらにその上に内側側副(ないそくそくふく)靱帯、外側側副(がいそくそくふく)靱帯、そして橈骨輪状靱帯などが補強しています。

一般的に完全脱臼は、関節包を突き破り関節包の外へ骨の関節端が逸脱しますが、橈骨頭亜脱臼では関節包を損傷することなく、その上を補強する橈骨輪状靱帯の支えから、橈骨の関節端が関節包内で少しずれた不完全な脱臼状態、すなわち亜脱臼(不全脱臼)となります。従って、脱臼の中では比較的損傷程度の少ない軽度のものといえます。

橈骨頭亜脱臼は乳児、幼児、小児にみられ、特に2〜6歳に多く起こり、男女の性差、左右差はありません。

一度、橈骨頭亜脱臼を起こすと癖になりやすいものの、小学生ぐらいになると橈骨の形状が成人の形に近くなり、橈骨頭が大きくなって関節の透き間のへこみができ上がるので、亜脱臼しにくくなります。

橈骨頭亜脱臼を起こした腕は、急に肘が抜けたようになって、肘が伸びた状態で下垂し、曲げられなくなります。手のひらは、後ろに向いています。肘を軽く上に曲げようとすると痛みが強くなり、子供は泣き出したり顔をしかめたりします。外見上、関節のはれや変形、熱感、発赤はみられません。

痛みは、肘の外側の橈骨頭を中心に起こり、時には手首や肩などに放散痛を起こすこともあります。このため、肩や手首が外れたなどと見なされることもあります。

肩の脱臼と間違えやすいですが、子供の肩を触っても痛がらなければ橈骨頭亜脱臼と見なして、すぐに整形外科、小児科を受診することが勧められます。

橈骨頭亜脱臼の検査と診断と治療

整形外科、小児科の医師による診断では、受傷時の状況と、肘をやや曲げた状態で下げたままにして、痛がって動かそうとしないことから、橈骨頭亜脱臼(肘内障)を疑います。子供は痛みのために恐怖心を持っているので、痛がらない部分から触れ始め、肘の外側の橈骨頭が痛い部分なのかどうかを調べます。

X線(レントゲン)検査を行っても写真上では変化を認めませんが、骨折や脱臼との鑑別のために行って、骨や関節に異常がないことを確認することもあります。

整形外科、小児科の医師による治療では、骨折や脱臼の可能性がなく橈骨頭亜脱臼が疑われた時は、徒手整復を行います。

徒手整復の操作は簡単で、子供の肘を真っすぐに伸ばし、片方の手で肘を押さえ、もう一方の手で手のひらを握ります。最初、手のひらは下に向けます。肘を固定したままで、ゆっくり肘を曲げながら、手のひらを上に返します。橈骨頭が橈骨輪状靱帯の支えに戻ると、弾発音(コキッ、コツン、カクンなどの小さな音)を伴って整復され、その瞬間から痛みが消え、肘を曲げて腕を動かせるようになります。

ただし、整復されてから4~5日の間は最も亜脱臼を繰り返しやすいので、手を引っ張るなどの外力を加えないように注意することが必要です。また、習慣性の場合は、4~5日間の包帯もしくはサポーター固定をするのも効果があります。

🇮🇹洞性頻脈

精神的な緊張状態の時や運動後に起こる一般的な頻脈性不整脈

洞性(どうせい)頻脈とは、特別な病気がなくても、精神的な緊張状態の時や運動後に、心臓の拍動が異常に速くなる頻脈性不整脈。洞性頻拍とも呼ばれます。

心臓には、刺激伝導系(興奮伝導系)という洞結節から始まる電気刺激の通り道があります。洞結節で発生した電気刺激が正しく心臓全体に伝わり、心臓が正常な拍動のリズムを示している状態を洞調律(洞リズム)と呼び、成人の場合の安静時の正常な拍動数は、1分間に60~80回です。それが1分間に100回以上になったものが、洞性頻脈に相当します。

心臓は交感神経や副交感神経などの自律神経によって支配されており、交感神経が優位になると洞性頻脈が起こります。精神的な緊張状態の時は、交感神経の活動が優位になっているため、交感神経の活動が高進して洞性頻脈が起こります。

通常は、何もしなくても時間の経過とともに洞性頻脈は収まりますが、常に精神的な緊張状態が続いたり、ストレスにさらされ続けると、洞性頻脈が起こります。これは、一種のストレス病です。

交感神経の活動の高進によるもの以外に、心不全や肺疾患、また甲状腺(こうじょうせん)機能高進症や更年期障害、貧血や出血、あるいは、常用している血圧降下剤などの薬が原因で、洞性頻脈が起こる場合もあります。

洞性頻脈は、急に拍動が速くなるのではなく、普通は徐々に拍動が速くなり気が付いた時には動悸(どうき)が強くなります。一般には緊張状態やストレスから解放された時、特に夕方から就寝時に起こりやすくなります。不安感が強いと、動悸がより強く感じるようになり、悪循環に陥ります。

交感神経の活動が高進し、洞結節からの電気刺激が頻発しても、刺激伝導系は洞調律を示します。そのため、洞性頻脈に特徴的な心電図波形の変化はありません。しかし、正常な状態に比べて1分間に100~140回程度に拍動数が増えています。頻脈になるにつれて、血圧の上昇、発汗などが起こりやすくなります。人によっては、下痢や腹痛などが起こることもあります。

洞性頻脈の検査と診断と治療

内科、循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科の医師による診断では、まず一般的な心臓病の検査を行い、心臓の疾患の有無を判断します。さらに、呼吸器疾患や貧血、甲状腺などの疾患の有無について調べ、それらが除外された場合に、動悸と心電図での心拍数の増加以外には変化がないこと、精神的な緊張状態にあることなどから、洞性頻脈と判断します。

内科、循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科の医師による治療では、動悸の自覚症状が強い時には、薬を使用します。一般的な薬としては、動悸を沈めるためにβ(ベータ)遮断薬やカルシウム拮抗(きっこう)薬の一種であるワソランなどを使用します。また、抗不安薬を使用することもあります。

定期的に薬の内服を指示することもあれば、動悸を自覚する時だけ内服するように指示することもあります。

洞性頻脈は無害な頻脈性不整脈ですが、動悸に対する不安感が極度に強いと胸痛、呼吸困難、めまいなどより大きな症状を感じて、心臓神経症と呼ばれるようになります。この場合には、心療内科や精神神経科の医師の診察が必要になります。

🇮🇹透析骨症

腎不全に伴って骨にいろいろな変化が起きる疾患

透析骨症とは、腎(じん)不全に伴って起こる骨障害の総称。腎性骨異栄養(こついえいよう)症、腎性骨症とも呼ばれます。

腎不全そのものが、この疾患の発症や進行に大きく影響し、長く人工透析を続ける場合の代表的な合併症となっています。発症は15パーセントの頻度といわれていますが、長期の人工透析になればなるほど透析骨症が起こる頻度は高まります。症状はさまざまで、無症状のものから、骨の痛み、骨折、骨の変形、異所性石灰化、関節の痛み、皮膚のかゆみ、筋力の低下、さらに皮膚の潰瘍(かいよう)などが挙げられます。

原因から、線維性骨炎、無形成骨、骨軟化症、混合型の大きく4つに分けられます。

線維性骨炎は、腎臓の機能の低下とともに生じる血液中のカルシウムやリンのバランス異常や、血液中のカルシウムの濃度を増加させる働きがある活性型ビタミンD3の不足が、副甲状腺(せん)ホルモン(上皮小体ホルモン)の分泌高進を招くことによって、骨吸収と骨形成が激しい状態で骨量が減少し、それに伴って生じます。せきや日常の動作で、容易に肋骨(ろっこつ)や背骨に骨折を引き起こします。

無形成骨は、極端に骨吸収と骨形成の両方が低下した状態です。高齢者や糖尿病の患者、カルシウムやビタミンD3製剤の過剰な摂取患者では、極端に副甲状腺ホルモンの分泌が抑えられている状態で生じやすいと考えられています。カルシウムやリンが有効に骨代謝に利用されないため、容易に皮下などの軟部組織や血管などに異所性石灰化を起こします。血管の壁に異所性石灰化が起きた時には、血管が固くなり動脈硬化が進みます。 

骨軟化症は、骨の形成に必要不可欠な石灰化障害の結果、骨組織の基質要素の1つである類骨量が増加した状態です。その骨の石灰化障害は、活性型ビタミンD3の欠乏、または骨のカルシウム沈着部位(石灰化前線)へのアルミニウムの蓄積により生じるアルミニウム骨症が招きます。アルミニウムは水道水、アルミニウム製剤(水酸化アルミニウムゲル、制酸薬など)などから体内に入り、腎臓から排出されないないために、体内に蓄積します。骨軟化症になると、骨折を起こしやすくなります。

透析骨症の検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断では、線維性骨炎に対しては、定期的にカルシウムやリン、副甲状腺ホルモン、骨代謝マーカーなどの血液検査や骨X線検査を行います。副甲状腺機能高進が疑われる時は、頸部(けいぶ)のCTやシンチグラムによる画像診断も行います。無形成骨に対しては、 線維性骨炎と同様、血液検査や骨X線検査により、異所性石灰化を含めた画像評価を行います。骨軟化症に対しても、カルシウム、アルミニウムなどの血液検査や骨X線検査を行います。

泌尿器科の医師による治療では、線維性骨炎に対しては副甲状腺ホルモンの分泌抑制が基本となり、人工透析前の場合、多くは活性型ビタミンD3の内服で治療が可能です。活性化ビタミンD3を服用することは、骨の軟化による痛みや骨折を防ぐのに有効です。長期の人工透析例の場合、加えて炭酸カルシウムやレナジェルといったリン吸着剤や、カルシウム感受性受容体拮抗(きっこう)剤が必要になることがあります。重度の副甲状腺機能高進が続く場合、人工透析後にビタミンD3製剤を静脈投与こともあります。

副甲状腺機能高進がある場合は、リンの体内への蓄積を防ぐ必要があり、低たんぱく食を摂取する食事療法が重要になります。同じ目的から、人工透析を行う場合に、透析液の組成や、透析膜を変えることもあります。このような内科的な治療でもよくならず、はれた副甲状腺が確認され、副甲状腺ホルモンの分泌が高いままである時には、手術で副甲状腺を摘除します。

無形成骨に対しては、過剰なカルシウムやビタミンD3製剤の服用を中止し、高リン血症にはリン吸着剤の塩酸セベラマーを使用します。

骨軟化症に対しては、ビタミンD3製剤の服用や、腎臓の機能低下時にアルミニウムを含んだ胃腸薬を避けることが有効です。体内に入ったアルミニウムは、キレート剤の一つのデフェロキサミンを筋肉注射、または点滴静脈注射によって投与して除去します。

🇲🇹糖尿病

血糖値が高い状態が持続する疾患

糖尿病とは、主に血液中のブドウ糖の量を調節するインシュリン(インスリン)が不足するために、血糖値が異常に高くなることで起きる疾患。

2006年に厚生労働省が実施した調査によると、糖尿病患者やその予備軍と推定される人数は1870万人。調査は20歳以上の成人の血液検査において、血液中のブドウ糖濃度である血糖値の傾向を測る「HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)」の数値で判定したもので、6.1パーセント以上の「糖尿病が強く疑われる人」は約820万人、5.6パーセント以上6.1パーセント未満の「可能性が否定できない人」約1050万人と合わせると、計1870万人。

02年の調査の1620万人に比べると250万人、1997年の調査の1370万人に比べると500万人増えました。特に40歳以上の人では、その10人に1人以上が糖尿病であると見なされ、糖尿病は国民病化しています。

糖尿病でない人では、食後、食物に由来するブドウ糖やアミノ酸が体に吸収されると、膵(すい)臓からホルモンのインシュリンが分泌されます。このインシュリンの働きにより、食物から吸収されて血液に入ったブドウ糖が筋肉組織などへ取り込まれ、血糖が一定値以上に上昇しないようになっています。このインシュリンによる血糖低下作用が弱くなると、糖尿病になります。

糖尿病の人では、インシュリン作用の低下のため、食事として摂取したブドウ糖が筋肉などの細胞に入っていきにくくなるため、細胞内でエネルギー不足を来すとともに、ブドウ糖はそのまま血液中にとどまって血糖値が高くなり、尿の中に糖があふれ出るようになります。

また、ブドウ糖などの糖質だけでなく、蛋白(たんぱく)質や脂質の利用まで障害されるために、高血糖や、血液中の脂肪が異常に増加する高脂血症となり、それらにより血管や神経が障害されて、いろいろな合併症が出現します。

糖尿病は、1型糖尿病(インシュリン依存型糖尿病)、2型糖尿病(インシュリン非依存型糖尿病)という2つのタイプに大別されます。

1型糖尿病は、膵臓のランゲルハンス島の中にあるβ(ベータ)細胞が破壊され、インシュリン分泌がほぼゼロになってしまうことで発症するタイプ。原因としは、ウイルス感染、自己免疫性、特発性(原因不明)などがあります。

インシュリンは血糖値を下げる唯一のホルモンであり、そのホルモンが体内で作られないわけですから、外からインシュリンを補充しなければ、血糖値はどんどん上昇してしまいます。従って、1型糖尿病の人は、生存のために毎日のインシュリン注射が絶対に必要になります。発症は小児や若い人に多くみられますが、中高年にも認められることがあります。

2型糖尿病は、インシュリン分泌が低下しやすく糖尿病になりやすい体質を持っている人に、過食、運動不足、肥満、ストレス、加齢のほか、発熱、過労、手術、薬の服用、ほかの疾患の影響、妊娠など、インシュリンの作用を妨害するような引き金が加わって発症するタイプ。

日本人の糖尿病の約9割がこのタイプに当てはまり、生活習慣病の一つとされています。この2型糖尿病では、親や兄弟にも糖尿病にかかっている人がいることが多く、遺伝的要素が強く関係していると見なされています。

過食など発症の引き金となる複数の因子の中では、とりわけ肥満が深く関係しています。調査によると、2型糖尿病患者の約3分の2は、現在肥満であるか、過去に肥満を経験しています。実際、肥満者ではインシュリンの血糖低下作用が弱まっていることも、明らかにされています。

脂肪を蓄積する細胞である脂肪細胞からは、インシュリンの作用を妨害する遊離脂肪酸やTNFと呼ばれる物質などが分泌されていますので、肥満して脂肪細胞が増えると、せっかく分泌されたインシュリンがうまく働くことができなくなり、血糖値が上昇するようになるのです。 中年以降の発症例の多くは、2型糖尿病です。

糖尿病の症状は気付きにくく、血糖値が多少高いくらいでは、全く自覚症状のない人がほとんど。徐々に悪化し、血糖値がかなり高くなってくると初めて、のどが渇く、トイレが近くなる、尿の匂いが気になる、できものができやすい、傷が治りにくい、足がつる、また細胞のエネルギー不足によって体がだるい、疲れやすい、食べてもやせるといった症状が現れてきます。血糖値が極めて高い状態では、昏睡(こんすい)に陥ることもあります。

自覚症状がないからと糖尿病を放置していると、高血糖が全身のさまざまな臓器に障害をもたらします。特に、眼の網膜、腎(じん)臓、神経は障害を受けやすく、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害は糖尿病の三大合併症(余病)と呼ばれています。

網膜症が起こっても最初は自覚症状はありませんが、血糖値の悪化に伴い、視力障害が現れ、失明に至ることがあります。

腎症も最初は少量の蛋白(たんぱく)尿が出るだけですが、徐々に体内に水分や毒素がたまるようになり、むくみ、尿毒症が現れ、最終的には人工透析によって血液をきれいにしたり、水分量等を調節したりしないと生きていけなくなります。

神経障害が起きると、手足のしびれ、痛み、感覚鈍麻(どんま)、発汗異常、勃起(ぼっき)障害、便秘、下痢などが起こります。

一般的に、糖尿病になってから5~6年で神経障害が、7~10年で網膜症が、15年程度で腎症が出現します。

同時に、高血糖によって動脈硬化が進むため、狭心症、心筋梗塞(こうそく)、脳梗塞が起こる率が高まります。足の血管の閉塞(へいそく)や壊疽(えそ)により、足を切断しなければならないケースも起こります。

糖尿病の本当の怖さは、この合併症なのです。しかし、 放置せずに、しっかり治療して、状態を良好にコントロールすれば、糖尿病でない人と同じ健康な生活が送れます。

糖尿病の検査と診断と治療

医師による糖尿病の診断は、主に血液検査で血糖値を調べることで、血糖値が正常である「正常型」なのか、糖尿病である「糖尿病型」なのか、その中間の「境界型(耐糖能異常)」であるのか、型の区分を判定します。はっきりしない場合には、75gの糖分を含む飲料を飲んで、型の区分を判定することもあります。これは、75gOGTT(75g経口ブドウ糖負荷試験)と呼ばれる検査です。

 型の区分には、以下の(1)~(5)の判定基準が用いられます。

(1)早朝空腹時血糖値126mg/dl以上

(2)75gOGTTの2時間値が200mg/dl以上

(3)随時血糖値200mg/dl以上(随時とは、食後の任意の時間のことをいいます。食前でもかまいません。)

(4)早朝空腹時血糖値110mg/dl未満

(5)75gOGTTの2時間値が140mg/dl未満

(1)~(3)のいずれかの血糖値が確認された場合には、「糖尿病型」と判定します。(4)および(5)の血糖値が確認された場合には、「正常型」と判定します。「糖尿病型」と「正常型」のいずれにも属さない場合には、「境界型」と判定します。

別の日に行った検査で「糖尿病型」が再確認された場合には、糖尿病と診断します。ただし、次の(1)~(4)のいずれかがある場合は、1回の検査で「糖尿病型」であれば、糖尿病と診断していいことになっています。

(1)糖尿病の典型的な症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)の存在

(2)HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)が6.5パーセント以上(HbA1cとは、過去1~2カ月間の平均血糖値を示す指標。赤血球に存在し、酸素を運搬する役割を持つヘモグロビンの中で、ブドウ糖が結合しているものの割合を意味します。正常値は4.3~5.8パーセントで血糖値が高いほど、HbA1cは高くなります。)

(3)確実な糖尿病性網膜症の存在

(4)過去に「糖尿病型」を示した資料がある場合

糖尿病治療の第一の目標は、血糖値を正常に保つようにコントロールして合併症を予防することで、食前血糖80-120 mg/dl、食後血糖100-160mg/dl、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)5.8パーセント以下程度と考えられます。

血糖値を正常に近付ければ近付けるほど、合併症が出る心配が少なくなります。また、特に2型糖尿病(インシュリン非依存型糖尿病)の人では、高血圧症や脂質異常、肥満を合併しやすいので、これらの治療も必要です。

糖尿病の治療には、食事療法、運動療法、薬物療法があります。食事療法、運動療法が治療の基本ですが、これらだけで血糖値が下がらない場合に薬物療法を併用します。

 食事療法

性別、年齢、肥満度、活動量、血糖値、合併症の有無などを考慮し、1日のエネルギー摂取量を決めます。決められたエネルギー摂取量内で炭水化物、蛋白質、脂質のバランスを取り、適量のビタミン、ミネラルも摂取して、いずれの栄養素も過不足ない状態にします。

とりわけ、肥満はインシュリンの作用を妨害するため糖尿病にとっては大敵ですので、栄養素をバランスよく取りながら標準体重を維持するために、食事療法が必要となります。また、弱まったインシュリンの働きに合わせた食事の量にすることも必要です。そうすれば、食物は体内でほぼ完全に利用され、余分なブドウ糖が血液中にあふれ出ることはありません。

 運動療法

運動療法も、ブドウ糖をよく利用する筋肉を増やし、インシュリンの作用を妨害する脂肪を減らし、また肥満を是正するなどの利点があり、糖尿病の治療には重要なものです。

中程度の全身運動、すなわち50歳代であれば脈拍が1分間に110程度になるような運動を、毎日30分以上行うと効果があります。1回15~30分間、1日2回で、計1日7000歩程度の歩行運動が、中程度の全身運動に相当します。

血糖コントロールが極端に悪い場合、網膜症の状態が悪い場合、腎不全のある場合、心臓や肺などの機能に障害のある場合などは、運動療法を制限したほうがいいため、個々の人に適した運動療法をすることが必要です。

 薬物療法

1型糖尿病(インシュリン依存型糖尿病)の人は、体内でインシュリンがほとんど分泌されないので、インシュリンを注射で投与する必要があります。

また、2型糖尿病(インシュリン非依存型糖尿病)の人では、食事療法および運動療法で血糖値が十分に正常化しない場合、飲み薬やインシュリンの注射が必要になります。

飲み薬には、経口血糖降下薬、SU薬(スルホニル尿素薬)、 速効性インスリン分泌促進薬、α-グルコシダーゼ阻害薬、インスリン抵抗改善薬があります。

インシュリンには、速効型インシュリン、超速効型インシュリン、中間型インシュリン、持効型インシュリン、さらに、速効型インシュリンや超速効型インシュリンと中間型インシュリンがいろいろな比率で混ざっている混合型インシュリンがあります。

一般的に、食後に分泌されるインシュリンを補充するためには、速効型インシュリンや超速効型インシュリンを毎食前に使用します。また、人の膵臓からは食事と関係なく一定のスピードでインシュリンが分泌されているのですが、このインシュリンを補充するためには、中間型インシュリンや持効型インシュリンを使用します。

発症者の生活上の注意

血糖値をできるだけ正常値に近付けることで、高血糖によって起こる恐ろしい、さまざまなな合併症を防ぐことができますので、早期に糖尿病を発見し、治療することが大切となります。

しかし、治療によって一時的に血糖値が下がったとしても、血糖値が上がりやすいという遺伝的な体質や、一度破壊されたβ細胞の機能は正常に戻るわけではありませんので、治療を中断するとすぐに血糖値は高くなってしまいます。

そのためにも、定期的に受診して、一生治療を続けながら生活をしていくことが大切です。糖尿病のコントロール状態を知るため、発症者本人が体重測定、尿糖測定、場合によっては血糖測定をする必要もあります。

定期的な受診でも、血糖、検尿、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)などの検査をします。このうち、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)では、採血前の1カ月間の平均的な血糖の状態がわかります。このほか、高脂血症やいろいろな合併症に関する検査も、定期的に受ける必要があります。

🇲🇹糖尿病性昏睡

糖尿病の急性合併症で、血糖値が著しく上昇して意識を失う状態

糖尿病性昏睡(こんすい)とは、糖尿病の急性合併症で、血糖値が著しく上昇して500mg/dl以上になり意識を失う状態。

昏睡に陥る切っ掛けは、糖尿病の治療を放置した状態にある人に感染が加わったり、ストレスや疲労、暴飲暴食によって血糖値が上昇したり、インシュリンの注射を中止したり、インシュリンの注射の量が適切でなかったりと、いろいろなケースがあります。

病態によって、主に糖尿病性ケトアシドーシス(ケトン性糖尿病性昏睡、ケトン性昏睡)と、高血糖性高浸透圧状態(非ケトン性高浸透圧性昏睡)に分類されます。

糖尿病性ケトアシドーシスは、インシュリンの絶対的不足に伴って細胞内の糖が欠乏し、慌てて脂肪酸からエネルギーを取り出そうとするために、副産物として生じる弱酸性のケトン体が全身性の代謝性ケトアシドーシスを引き起こし、血液が酸性に傾いて起こります。口の渇き、低体温、多尿、脱力感に続いて、腹痛、嘔吐(おうと)が2〜3日あり、次第に意識が消失していきます。統計的には、1型糖尿病の患者に多くみられます。

一方、高血糖性高浸透圧状態は、高血糖に脱水が加わって起こります。尿中の糖が多くなると、糖の濃度を薄める方向に血液中から水が流れ込みます。その結果として、細胞内脱水が起こります。 意識障害が主症状で、高齢者はそもそも脱水状態になりやすいので、この病態にもなりやすい傾向があります。統計的には、高齢の2型糖尿病の患者に多くみられます。

上記2つの高血糖による意識障害のほか、糖尿病患者は治療薬の副作用によって低血糖による意識障害や、乳酸アシドーシスを呈する場合もあります。

糖尿病性昏睡は早く治療を開始しないと死亡するため、糖尿病の悪化症状がある時は、すぐに医師に連絡をとる必要があります。

予防するためには、糖尿病に体する正しい知識を身に着け、常に糖尿病をよいコントロールの状態に置いておくことです 。

🇲🇹糖尿病性神経障害

糖尿病の3大合併症の一つ

糖尿病性神経障害とは、網膜症、腎症と並んで、高血糖の状態が長く続くことによって起こる糖尿病の3大合併症の一つです。

高血糖によって、体の隅々に広がっている「末梢神経」の働きが低下してきます。末梢神経には、痛みなどを感じる「知覚神経」、筋肉を動かす「運動神経」、内臓の働きを整えたり、体温を調節したりする「自律神経」の3つがあります。この3つの神経の働きが低下してくるために、全身に様々な症状が現れてきます。

3大合併症の中で神経障害だけは、手足のしびれなどの自覚症状が初期の頃から現れてきます。症状が軽いからといって放置していると悪化の一途をたどってしまいますが、重症でない限りしっかりとした血糖コントロールを続ければ、症状を改善することが可能な合併症です。

糖尿病性神経障害を含む、糖尿病における合併症は、以下のように分類することができます。

【糖尿病の合併症】

 分類 

 合併症

     特 徴

急性合併症

糖尿病性

昏睡(こ

んすい)

糖尿病性

ケトアシ

ドーシス

性昏睡

Ⅰ型糖尿病が発症した時やインスリン治療を中断した時にインスリンが不足することによって、血液が酸性(ケトアシドーシス)になり、のどが渇いて水分を多量に飲み、尿の量が多くなります。脱水症状がみられ、さらに進行すると、血圧が下がるとともに意識障害が出て、最終的には昏睡に至ります。

発症しやすいⅠ型糖尿病の患者さんは、要注意です。

高浸透圧

性非ケト

ン性昏睡

Ⅱ型糖尿病患者が感染症や脳血管障害、あるいは外科手術などをきっかけに、血糖の上昇と水分の補給不足を起こして、脱水状態となります。さらに進行すると、意識障害も起こります。

発症しやすい高齢のⅡ型糖尿病の患者さんは、要注意です。

低血糖

血糖値が低くなりすぎた状態で、糖尿病の治療薬の副作用として起こります。発汗、いらいら感などがみられ、さらにひどくなると腹痛や吐き気、けいれんや意識を失うこともあります。

慢性合併症

糖尿病性

神経障害 

身体の隅々まで伸びている末梢神経が障害されるため、手足のしびれや痛み、感覚の鈍化、下痢や便秘、顔面神経麻痺など全身に種々の症状が出てきます。

糖尿病性

網膜症

網膜の細い血管に障害が起こり、視力が低下していきます。最悪の場合は、失明することもあります。

糖尿病性

腎症

腎臓の機能が障害されるため、尿中に蛋白が混じってきます。さらに腎機能が悪化して腎不全になると、人工透析が必要になります。

動脈硬化

血糖が高い状態にして置くと、血管が固くなるとともに、詰まりやすい状態(動脈硬化)になるため、脳卒中や心筋梗塞を起こしやすくなります。糖尿病における最大の死亡原因は、この脳卒中や心筋梗塞です。  

糖尿病性神経障害の症状は

血糖の高い状態が続いていると、まず手や足先の神経から障害が起こります。症状としては、手足のしびれや痛み、足先の異常な冷え、足底部が皮をかぶった感じ、砂利の上を歩いているような感じといったものがあります。

これらの症状は比較的軽いため放置したり、市販薬で治療する患者さんもいますが、この段階で適切な治療を受けないと、症状はどんどん悪化して、全身の筋肉の委縮、顔面神経麻痺、便秘や排尿障害、立ちくらみ、インポテンツといった症状が起こってきます。

さらに進行すると、症状はますます重くなり、手足のしびれや痛みのために夜眠れない、火傷(やけど)や靴ずれに気が付かず放置していたために細菌感染を起こし、その部分の組織が一部死んでしまう状態の壊疽(えそ)にまで発展することもあります。ひどくなれば、足を切断することにもなります。

こういった状態にならないために、症状が軽いうちから治療を始めることが必要となります。

【糖尿病性神経障害の分類】

分類

      原 因  

      症 状 

多発性神経障害

(知覚・運動神経の障害) 神経細胞内にソルビトールという物質が蓄積されることで、神経障害が起こるとされています。 

しびれ、冷感、神経痛、感覚麻痺、こむらがえりなど

自律神経障害

上記と同じ

発汗異常、立ちくらみ、便秘、下痢、胆のう収縮能低下、尿意を感じない、インポテンツなど

単一性神経障害

細い血管が詰まって、神経に血液が通わなくなることで、神経障害が起こるとされています。

顔面神経、外眼筋・聴神経の麻痺や四肢の神経障害など 

検査と診断

糖尿病で神経障害を合併しないためには定期的に検査を受け、予防することが大切です。自覚症状が現れた時には、その症状が神経障害によるものなのか、別の病気によるものなのかを決めるために、詳しい検査を受けることになります。

また、医師の側は問診の時に自覚症状を詳しく聞き、下記の検査を適時実施して総合的に診断を行います。

【神経障害を調べるための検査】      

    検査項目

       特  徴 

末梢神経伝導速度

末梢神経による刺激の伝わる速度を測定する検査。

神経障害になると、刺激の伝わり方が遅くなります。腕にある正中神経の運動神経伝導速度が50m/秒以下、感覚神経伝導速度が45m/秒以下の場合は、自覚症状が出ていなくても神経障害が始まっていると判断できます。 

振動覚閾値(しんどうかくいきち)

物が振動していることを感じる神経の働きを調べる検査。

アキレス腱反射

神経による刺激の伝達能力を確かめる検査。

神経障害が起こると、アキレス腱反射がなくなります。神経障害を調べる検査中、最も簡単にできるものです。

呼吸心拍変動係数

自律神経の働きを調べる検査。

安静時と深呼吸をした時の心電図を比較して、脈拍に変動があるかを調べます。正常な人は深呼吸をした時に脈拍の変動が大きくなりますが、自律神経に障害が起きると、この変動が少なくなります。

治療の基本は血糖コントロール

糖尿病性神経障害の治療の基本は、血糖コントロールを良好に保つことです。食事療法・運動療法・薬物療法により血糖コントロールを厳格に行わなければ、神経障害に対する薬物治療を行なっても、満足のいく効果は期待できません。

症状が軽い初期の頃ならば、血糖コントロールを正常化するだけで、神経障害の諸症状を改善することができることもあります。また、神経障害の治療には、神経障害を起こしている原因物質とされるソルビトールの産生を抑えるアルドース還元酵素阻害薬があります。

これらの治療を始めると、一時的に痛みが悪化することもあります。治療後神経障害といわれるものですが、この詳しい原因はまだわかっていません。治療の途中で一時的に症状が悪化することがあるということを理解し、痛みがひどくなったからといって自己判断で治療を中止することなく、治療を続けるようにしましょう。

【糖尿病性神経障害の諸症状改善に使われる代表的な薬】

    分 類

       特  徴 

アルドース還元酵素阻害薬

神経障害を起こすとされている原因物質(ソルビトール)の産生を抑えることで、疼痛やしびれ感などを改善します。

整腸薬

自律神経障害によって起こる下痢や便秘の症状を緩和します。

鎮痛薬  

知覚神経障害によって起こる痛みを緩和します。しかし、鎮痛剤を服用しても痛みが緩和されない場合は、抗けいれん薬の投与が行われています。

ソルビトールとアルドース還元酵素

ソルビトールは、リンゴ、ナシなどの果物や海藻類など含まれている糖アルコールと呼ばれる物質で、虫歯になりにくい甘味料としても利用されています。一方、アルドース還元酵素は、体内に存在している酵素で、ふだんはあまり働かない酵素なのですが、血糖値が高くなると、突然働き出し、体内にある余分なブドウ糖に作用して、ソルビトールを作り出します。

ソルビトールは、元来体内にも存在しているので、少ない量では人の健康に害を与えることはありません。高血糖が続き、細胞内に貯まっているブドウ糖を減少させようとアルドース還元酵素が働き始めると、ソルビトールが多量に作り出されるため、細胞内にソルビトールが蓄積され、障害が起こるとされています。

アルドース還元酵素は、末梢神経、網膜、水晶体、脳、肝臓、すい臓、赤血球、副腎などで多く存在することが認められています。つまり、このような細胞(臓器)は糖尿病の合併症が出やすいところであり、アルドース還元酵素の存在するところと一致しています。

【アルドース還元酵素阻害薬の作用】

アルドース還元酵素阻害薬は、ブドウ糖からソルビトールを作り出すアルドース還元酵素の働きを妨げることによって、細胞内でのソルビトールの生成を抑制します。これによって、細胞内へのソルビトールの蓄積が抑えられ、糖尿病性神経障害における自覚症状や神経機能の異常を改善するとされています。

糖尿病性神経障害と診断されたら

1. 主治医の先生と相談して、症状にあった治療を早めに受けましょう。

2. 低血糖・高血糖になりやすいので、血糖値をこまめに測定し、良好な状態に保つように心掛けましょう。

3. 毎日、足をまめにチェックして、壊疽(えそ)を起こさないように注意しましょう。

4. 立ちくらみを防止するために、 寝ている姿勢から一気に起きあがらないようにしましょう。また、長風呂は避けるようにしましょう。

5. アルコールは神経障害を悪化させます。禁酒に心掛けましょう。

6. たばこは血流を悪化させるため、 心筋梗塞や脳梗塞を起こしやすくなります。禁煙に心掛けましょう。

🇦🇱糖尿病性腎症

糖尿病によって腎臓の機能が悪化する疾患

糖尿病性腎症(じんしょう)とは、糖尿病によって腎臓の糸球体(しきゅうたい)が細小血管障害のため硬化して、数を減じていく疾患。糖尿病性神経障害、及び糖尿病性網膜症とともに、糖尿病に特有な3大合併症の一つです。

3大合併症はいずれも細い血管障害が主体となっているので、糖尿病性細小血管症と総称されることもあります。ちなみに、糖尿病の他の合併症では、糖尿病性大血管症としての動脈硬化症が重要です。動脈硬化症が進行すると、脳血管障害、虚血性心疾患、壊疽(えそ)などの重症の疾患に結び付きます。

糖尿病性腎症が進行した場合は、腎機能が低下するため、現在では透析療法を受ける人の原因疾患の第1位を占めています。糖尿病になって10年以上経過してから、徐々に蛋白(たんぱく)尿が現れ、やがてネフローゼ症候群となって、むくみを来し、腎機能が悪化してくるのが典型的です。

根本的な原因は、糖尿病による高血糖で、腎臓の糸球体の毛細血管が傷むことにあります。この糸球体は、非常にたくさんの毛細血管が糸を巻いた毬(まり)のように寄り集まっている腎臓中の主要構成組織であり、また、血液中の不要な老廃物を尿に濾過(ろか)して排泄(はいせつ)するという腎臓の最大の機能の担い手です。糸球体の毛細血管は、糖尿病で血糖が高い状態が続くと、次第に硬化して、数を減じてきます。そのために、本来は体外に排泄されるはずの老廃物が、体内にとどまってしまいます。

かなり進行してからでないと、糖尿病性腎症の自覚症状は現れません。従って、むくみなどの自覚症状が出現した場合は、かなり進行していることになります。腎機能が悪化し腎不全になると、体内への尿毒症物質の蓄積による尿毒症が出現して、頭痛、吐き気、立ちくらみなどを生じます。

糖尿病性腎症の病期分類は、5期に分かれています。蛋白尿と腎機能が指標になっており、第2期以降を臨床的に糖尿病性腎症と呼んでいます。

第1期(腎症前期)

症状はありません。医学的な異常所見も見当たりません。糖尿病を発症した時点で、第1期と解釈することができます。

第2期(早期腎症)

第1期から5~15年で発症します。自覚症状はありません。

第3期(非代償性腎不全)

第3期A

尿検査用試験紙で、尿蛋白が陽性となります。自覚症状は通常ありません。

第3期B

続発性ネフローゼ症候群を呈します。低アルブミン血症によるむくみや、うっ血性心不全を生じます。

第4期(腎不全期)

むくみに加え、倦怠(けんたい)感、悪心、精神的不安定、掻痒(そうよう)感などの尿毒症症状が生じ始めます。インシュリンは腎臓で一部代謝、排泄されるため、この病期に至ると腎機能低下に伴い、体内にインシュリンが蓄積し、血糖コントロールに内服薬やインシュリンが不要になることもあります。

また、一部の血糖降下薬は活性代謝物がたまり、遷延(せんえん)性の低血糖を起こしやすくなるため注意が必要です。

第5期(透析療法期)

腎機能が廃絶するため、透析療法を行わないと尿毒症症状が容易に生じて、死に至ります。

糖尿病性腎症の検査と診断と治療

糖尿病を発症しても、なかなか治療に専念しない人も多く見受けられます。血糖値が高くても、糖尿病自体の自覚症状はないことが多いためです。しかし、高血糖や高血圧を放置しておくと、いつの間にか糖尿病性腎症を始めとする糖尿病合併症にかかっていることもあり、治療に苦慮する場合も少なくありません。

つまり、糖尿病合併症にならないような予防的な考え方で、糖尿病自体を治療する必要があります。もし糖尿病性腎症になったとしても、やはり血糖値を安定させ血圧も安定させることが、最も大切になります。そして、できる限りの早期発見、早期治療が、腎機能の悪化を防ぎます。

医師による糖尿病性腎症の診断は、尿中アルブミン排泄量の検査で行います。アルブミンは蛋白質の一つですが、一般的に使われている検査法である試験紙法で尿蛋白が陰性であっても、精密に測定すると尿中にアルブミンが出てきていることがあります。

具体的には、随時、尿でアルブミン(mg/dl)とクレアチニン(g/dl)の測定を行い、その比(アルブミン/クレアチニン)が30~300mg/g・Crの範囲にあることを微量アルブミン尿と呼んでいて、病期では第2期(早期腎症)に相当します。

また、腎機能はクレアチニンクリアランスで表され、正常では80~110ml/分で、腎機能が低下すると数値が低くなります。

検査には、腎臓生体針検査(病理検査)、腎臓超音波検査もあります。

基本的な治療法は、まず血糖値の正常化と血圧の正常化です。この血糖コントロールと血圧コントロールは、どの病期でも行われる治療法です。

血糖コントロール

食事療法と運動療法が基本となり、必要に応じて糖尿病薬を使用します。第4期(腎不全期)以降では、原則として経口薬は使用せず、インシュリン注射を使用します。また、運動療法は、第3期(非代償性腎不全)B以降は制限が必要です。

血糖コントロールの目標は、食前血糖値120mg/dl未満、食後2時間血糖値180mg/dl未満、HbA1c6・5%未満です。

血圧コントロール

糸球体の肥厚や硬化を防ぐために、糸球体内圧を下げるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗(きっこう)薬を用いることが推奨されていますが、全身の血圧も十分降圧する必要もあり、カルシウム拮抗薬などとの併用療法が必要になることも多いのが現状です。

血圧コントロールの目標は130/80mmHg未満ですが、可能ならば120/70mmHg未満を目標にします。

蛋白質摂取

食事中の蛋白質摂取量に関しては、第3期(非代償性腎不全)~第4期(腎不全期)にかけては制限したほうがよいと考えられています。具体的には、標準体重1kg当たり通常は1・0~1・2g/日のところを、0・8~1・0g/日あるいは0・6~0・8g/日まで段階的に制限していく方法が一般的です。

塩分摂取

塩分に関しては、高血圧が存在する場合は、第1期(腎症前期)から7~8g/日の制限が必要です。第3期(非代償性腎不全)以降は高血圧の有無にかかわらず、5~6g/日の制限が推奨されています。/P>

食塩の取りすぎは、むくみを誘発し、血圧にもよくありません。水の飲みすぎにも、注意しなければなりません。

🇦🇱糖尿病性ニューロパチー

糖尿病が原因となって、体中に分布する末梢神経に障害が起こった状態

糖尿病性ニューロパチーとは、糖尿病が原因となって、体の隅々に広がっている末梢(まっしょう)神経に障害が起こった状態。糖尿病性末梢神経障害とも呼ばれます。

末梢神経には、痛みなどを感じる知覚神経(感覚神経)、筋肉を動かす運動神経、内臓の働きを整えたり、体温を調節したりする自律神経の3つがあります。この3つの神経が障害され、働きが低下してくるために、全身にさまざまな症状が現れてきます。

糖尿病の経過年数が長いほど、また疾患のコントロールが悪いほど、血糖の高い状態が続くため、まず手や足先の神経から障害が起こります。症状としては、手足のしびれや痛み、足先の異常な冷え、足底部の感覚低下といったものがあります。

これらの症状は比較的軽いため放置したり、市販薬で治療する人もいますが、この段階で適切な治療を受けないと、症状はどんどん悪化して、全身の筋肉の委縮、顔面神経まひ、便秘や排尿障害、立ちくらみ、インポテンツといった症状が起こってきます。

さらに進行すると、症状はますます重くなり、手足のしびれや痛みのために夜眠れなくなったり、やけどや靴擦れに気が付かず放置していたために細菌感染を起こし、その部分の組織が一部死んでしまう状態の壊疽(えそ)にまで発展することもあります。ひどくなれば、下肢を切断することにもなります。

糖尿病で糖尿病性ニューロパチーを合併しないためには、定期的に検査を受け、予防することが大切です。疾患のコントロールが悪く、糖尿病性ニューロパチーの自覚症状が現れた時には、軽いうちから内科、ないし神経内科の専門医を受診し、治療を始めることが必要となります。

糖尿病性ニューロパチーの検査と診断と治療

内科、ないし神経内科の医師による診断では、問診で自覚症状を詳しく聞き、その症状が糖尿病性ニューロパチーによるものなのか、別の疾患によるものなのかを決めるために、詳しい検査を行います。

検査には、末梢神経による刺激の伝わる速度を測定する末梢神経伝導速度検査、物が振動していることを感じる神経の働きを調べる振動覚閾値(いきち)検査、神経による刺激の伝達能力を確かめるアキレス腱反射検査、自律神経の働きを調べる呼吸心拍変動係数検査などがあります。

内科、ないし神経内科の医師による治療の基本は、血糖コントロールを良好に保つことです。食事療法、運動療法、薬物療法により血糖コントロールを厳格に行わなければ、末梢神経障害に対する薬物治療を行っても、満足のいく効果は期待できません。

症状が軽い初期ならば、血糖コントロールを正常化するだけで、末梢神経障害の諸症状を改善することができることもあります。また、末梢神経障害の治療には、神経障害を起こしている原因物質とされるソルビトール(糖アルコール)の産生を抑えるアルドース還元酵素阻害薬(キネダック)があります。

これらの治療を始めると、一時的に痛みが悪化することもありますが、この詳しい原因はまだわかっていません。治療の途中で一時的に症状が悪化することがあるということを理解し、痛みがひどくなったからといって自己判断で治療を中止することなく、治療を続けるようにします。 

また、自律神経障害によって起こる下痢や便秘の症状を緩和するために整腸薬、知覚神経障害によって起こる痛みを緩和するために鎮痛薬が投与されます。鎮痛剤を服用しても痛みが緩和されない場合は、抗けいれん薬が投与がされます。末梢神経障害を進行させないよう、ビタミン剤や血液の流れを改善する末梢血管拡張剤が投与されることもあります。

糖尿病性ニューロパチーと診断されたら、

1. 医師と相談して、症状に合った治療を早めに受けましょう。 

2. 低血糖、高血糖になりやすいので、血糖値をこまめに測定し、良好な状態に保つように心掛けましょう。

3. 毎日、足をまめにチェックして、壊疽を起こさないように注意しましょう。

4. 立ちくらみを防止するために、 寝ている姿勢から一気に起き上がらないようにしましょう。また、長風呂は避けるようにしましょう。

5. アルコールは末梢神経障害を悪化させます。禁酒に心掛けましょう。

6. たばこは血流を悪化させるため、心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞を起こしやすくなります。禁煙に心掛けましょう。

🇦🇱糖尿病性網膜症

糖尿病のために網膜の血管が障害される疾患

糖尿病性網膜症とは、糖尿病によって目の網膜などに各種の変化を来し、視力低下を認める疾患。糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症(じんしょう)と並んで、糖尿病の3大合併症の一つに数えられます。

かつては日本人の中途失明の原因として最多でしたが、平成18年に緑内障に次ぐ第2位となりました。しかし、糖尿病性網膜症による失明人数は年間約3000人で、毎年増加していますし、緑内障の原因の一部には糖尿病性新生血管(血管新生)緑内障も含まれています。

糖尿病性網膜症は通常、糖尿病を発症して5年以後に出現する合併症ですが、2型糖尿病(インシュリン非依存型糖尿病)では発症がいつかはっきりしないこともあり、糖尿病と初めて診断された時点で、すでに30~40パーセントの人に網膜症の合併を認めるとする報告もあります。従って、2型糖尿病では、糖尿病の初診断時から網膜症のチェックが必要と考えられます。

糖尿病のコントロールが悪いと、糖尿病の罹患(りかん)期間が長くなるとともに網膜症も進行します。糖尿病の発症後20年では、1型糖尿病(インシュリン依存型糖尿病)の100パーセント、2型糖尿病の60パーセントの人に網膜症の合併を認めるとする報告もあります。

網膜とは、眼球の底に当たる眼底を覆っている膜です。視神経が集中し、また栄養を運ぶために多くの毛細血管が張り巡らされているため、高血糖状態が長く続くと血管障害を引き起こしやすくなります。

血管障害によって酸素欠乏状態になった網膜からは、血管を自分のほうへ伸ばすホルモンが放出されます。その結果、病的な血管である新生血管が新しくできます。この新生血管は非常にもろいため出血しやすく、それによって目の機能に障害が起きます。

通常、三つの病期に相当する単純網膜症、前増殖網膜症、増殖網膜症と徐々に進行することが多いのですが、突然進行し、悪化することもあります。

単純網膜症では、眼底の所々に出血が見られたり、血管が閉塞(へいそく)して、こぶができたりします。前増殖網膜症では、眼底の随所に出血が見られ、新生血管が出現します。増殖網膜症では、新生血管が網膜だけでなく硝子体(しょうしたい)にまで増殖し、硝子体出血や網膜剥離(はくり)が生じる場合があります。

初期の頃は、多くは無症状で経過します。徐々に、眼底出血や、網膜の中央に位置する黄斑(おうはん)に浮腫(ふしゅ)が生じて、視力低下や、物がゆがんで見える変視症を自覚するようになります。

硝子体出血や広範囲な眼底出血を伴うと、飛蚊(ひぶん)症や急激な視力低下を示します。二次的に増殖膜が形成され、それが網膜を引っ張って牽引(けんいん)性網膜剥離に陥ると、永続的な視力低下や失明に至ることがあります。新生血管緑内障に陥ると、眼痛、不可逆的失明、眼球委縮を示すことがあります。

また、白内障が標準より早く進行します。糖尿病性腎症の悪化に伴い、腎性網膜症を併発し、目の症状が悪化して著しい視力低下を認めることもあります。

糖尿病性網膜症の検査と診断と治療

糖尿病性網膜症の予防、及び進行防止を図るには、糖尿病をきちんと管理し、血糖値を正常範囲に保つようコントロールすることが、最も有効です。

糖尿病の人は、網膜症になっても早期に発見して治療を始められるように、定期的に目の検査を受けるべきです。視力障害の程度は、糖尿病を発症してからの期間や、血糖値のコントロールがどの程度きちんとできているかに左右されます。

医師が糖尿病性網膜症を診断するには、基本となる眼底検査とともに、蛍光眼底造影検査も必ず行います。単純網膜症、前増殖網膜症、増殖網膜症と進む病期を見極め、どの病期であれ現れる黄斑症を的確に把握するには、蛍光眼底造影検査が不可欠です。

眼底検査と蛍光眼底造影検査は、主に間接眼底鏡を用いて、肉眼的に眼底の状態を診察します。通常、眼底が外部からよく見えるようにするために、瞳(ひとみ)を開く点眼薬を用いて散瞳(さんどう)を行います。散瞳中はピント調節能力が低下するため、自動車の運転は困難となりますので、受診の際の交通手段には注意を要します。

治療法としては、レーザー光凝固術という方法があり、レーザー光線を網膜に照射して、主に網膜の酸素不足を解消し、新生血管の発生を予防したり、すでに出現してしまった新生血管を減らしたりすることを目的として行います。網膜症の進行具合によって、レーザーの照射数や照射範囲が異なります。

このレーザー光凝固術は、すべての網膜が共倒れにならないように正常な網膜の一部を犠牲にして、今以上の網膜症の悪化を防ぐための治療であって、決して元の状態に戻すための治療ではありません。まれに網膜全体のむくみが軽くなるといったような理由で、視力が上がることもありますが、多くの場合、治療後の視力は不変かむしろ低下します。

早い時期であれば、レーザー光凝固術はかなり有効で、将来の失明予防のために大切な治療です。通常は通院で行い、必要に応じて繰り返し行います。

レーザー治療で網膜症の進行を予防できなかった場合や、すでに網膜症が進行して網膜剥離が起こっている場合、傷付いた網膜血管からの大量の出血が続いている場合は、硝子体切除術という治療が必要になることもあります。

眼球に3つの穴を開けて細い手術器具を挿入し、目の中の出血や増殖組織を取り除いたり、剥離した網膜を元に戻したりするものです。顕微鏡下での細かい操作を要し、眼科領域では高度なレベルの手術となります。この手術により、硝子体出血では多くのケースで視力の回復がみられ、網膜剥離でも視力が回復することがあります。

なお、薬物治療もありますが、進行した網膜症にはあまり効果が期待できません。

糖尿病性網膜症がある人では、急激な血糖コントロール、妊娠、腎症の進行、人工血液透析の導入などの際に症状が進行することがあるので、注意して下さい。

🇷🇸頭部脊柱管狭窄症

頭部の脊柱管が狭くなり、中の脊髄や神経根が圧迫される疾患

頭部脊柱管狭窄(せきちゅうかんきょうさく)症とは、頸椎(けいつい)を上下に貫いている頭部(頸部)脊柱管が狭くなり、脳から続く脊髄などが圧迫を受け、腕のしびれなどの症状がみられる疾患。頸部脊柱管狭窄症とも呼ばれます。

頭部脊柱管狭窄症は、加齢に伴って起きるため高齢者に多いのが特徴です。頸椎の老化や酷使、炎症、外傷などのために頸椎のクッションの役割を果たしている椎間板が傷んだり、頸椎の骨自体が変形したり、脊柱管の周りにある靱帯(じんたい)が肥厚したりするために脊柱管が狭くなり、脊髄や脊髄から枝分かれしていく神経根が圧迫を受けます。また、生まれ付き脊柱管が狭い人の場合、加齢に伴う圧迫が容易に起こるため、30~40歳代で発症することもあります。

症状は、四肢のしびれや痛み、筋力低下などで、脊髄が圧迫されることによるまひが強い場合は、はしがうまく使えないなどの指先での細かい動作の障害、階段の上り下りが不安定などの歩行障害が顕著になります。 悪化すると、排尿障害、排便障害、知覚障害を起こす可能性があります。

症状に心当たりがある場合は、正確な状態を把握をするために整形外科の専門医を受診し、検査をしてもらうことが大切です。

医師による診断では、頸椎の動きや状態、歩き方などを見ます。また、X線、CT、MRIなどの画像による検査で、狭窄している部位の特定などを行います。

軽いしびれなど症状が軽い場合は、安静、薬剤の投与、神経ブロック注射、コルセットの装着、首の牽引(けんいん)療法などにより、症状の改善を図ります。

四肢のまひのため日常生活に障害がある場合、神経のまひ症状が重篤で排尿・排便困難を伴う場合は、手術を行って脊髄、神経根を圧迫している原因を取り除き、症状の軽快や進行予防を図ります。脊柱管狭窄を生じている頸椎はすでに変形しているわけで、これを元の健常な状態に戻すいかなる方法もありません。

手術後は脊髄、神経根のはれを抑えるため、短期間、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)を点滴します。一般的には、手術後約3週間で、頸椎装具を装着して歩行が可能になり、頸椎装具は約3カ月間装着します。状態がよければ、手術後できるだけ早くリハビリなどで機能訓練を行います。

後遺症として、脊柱管の狭窄による脊髄や神経根の圧迫がひどく、一部回復できなくなっているような場合は、しびれ、まひが残ります。そのほか、手術により持病の悪化、高齢者の場合は認知症(痴呆〔ちほう〕症)の出現や増悪、肺炎や膀胱(ぼうこう)炎などの併発、床擦れなどが生じる場合もあります。

🇷🇸洞停止

正常な脈が突発的、一過性に、完全に停止する状態

洞(どう)停止とは、心臓が鼓動するリズムを作っている洞結節(洞房結節)の機能障害により、脈がゆっくりになる徐脈を急に起こしたり、脈が突発的に停止したりする疾患。洞不全症候群のタイプの一つです。

洞の名称は、胎児期の心臓に当たる静脈洞からきたものです。

心臓が鼓動するリズムは、心臓の動きを伝導する電気信号によって決まります。このような電気信号の始まりで、心筋に規則的に収縮するように電気刺激を与え続ける洞結節は、交感神経や副交感神経などの自律神経作用の影響を受け、心臓の鼓動リズムを調節する重要な部位です。その洞結節の機能が正常に働かないことにより、洞結節の自力で興奮する能力が低下し、徐脈または心停止がみられます。

心臓の電気的な活動の様子をグラフの形に記録する心電図的には、正常な心臓における心電図の波形はP波という小さな波から始まり、とがって大きな波のQRS波、なだらかな波のT波、最後に小さい波のU波が見られ、これが繰り返されていきますが、洞停止の心電図の波形では、P波に続くQRS波、そしてT波へと続く関係は正常ですが、先行するP波が突然現れなくなります。

原因として考えられるのは、急激な運動によるもので、特にふだんから運動をしない人だと、洞停止の発症のリスクが高まります。特に高齢者の場合は、高血圧治療薬や虚血性心疾患治療薬、抗不整脈薬、精神疾患治療薬などの薬剤投与によって洞停止が引き起こされることもあります。

洞停止の典型的な症状は、心拍数が減少して脈がゆっくりになる徐脈、または約5秒間以上の洞停止に続く心停止に伴う脳虚血症状として現れ、意識障害、眼前暗黒感、めまい、失神、顔面蒼白(そうはく)、けいれん、呼吸停止などが起こります。夜間睡眠中に脳虚血症状が現れる場合は無症状で経過することもありますが、日中に現れる脳虚血症状により転倒した場合には時に、重大な頭部外傷をもたらす危険もあり、心停止から拍動が回復しない場合は突然死することもあります。

運動時の息切れや疲労感、心不全の悪化による呼吸困難、乏尿として現れる場合もあります。

 脳虚血症状などが長引く場合、繰り返すような場合には、循環器専門医の診察を受けてください。

洞停止の検査と診断と治療

循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による診断では、症状を起こした時の心電図を記録し、確認することで洞停止と確定します。洞停止の状態の波形として、P波の後に著しい長さの休止期があったり、P波が突然現れなくなったりします。洞停止のバックアップ機能として、房室接合部が自力で興奮する能力が優位となり、補充収縮が出現することもあります。

体表面の異なる12方向から記録する12誘導心電図、24時間ホルター心電図、携帯型簡易心電計などによる検査でわからない場合は、心臓電気生理学的検査(EPS)と呼ばれるカテーテル検査を行うこともあります。

循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科の医師による治療では、症状が軽い場合は、洞結節の自発的な興奮の回数を増やす薬剤を使用します。抗コリン薬(硫酸アトロピン)、β(ベータ)刺激薬(イソプロテレノール)などの経口薬や静注薬です。

薬を投与しても効果がみられなかった場合や、薬の投与を中断すると症状が悪化するような場合には、恒久型ペースメーカーを体内に植え込む必要が生じることもあります。

恒久型ペースメーカーは、徐脈が現れた時のみ電気刺激を出して心臓を刺激することにより心拍数を正常にし、高度な徐脈、心停止による失神などを予防します。手術で、ライターほどの大きさの恒久型ペースメーカーを鎖骨の下に植え込み、脈の状態は心臓の中に留置したリード線を通して察知します。

🇷🇸洞不全症候群

主に洞結節の働きの低下により脈が遅くなり、主要臓器の循環障害が起こる疾患

洞不全(どうふぜん)症候群とは、血管系統の中心器官である心臓が鼓動するリズムを作っている洞結節やその周辺の異常により、脈がゆっくりになる徐脈を起こし、脳、心臓、腎(じん)臓などの臓器の機能不全が現れる疾患。洞機能不全症候群、SSS(Sick Sinus Syndrome)とも呼ばれます。

心臓の右心房の上部にある洞結節の細胞自体やその周辺に存在する心房筋の障害によって、心拍数が減少して脈がゆっくりになる徐脈のほか、心停止を起こす場合があり、その結果として脳への血流が途絶えることで意識障害や失神などの症状が出ることもあります。心臓から送り出される血液量の低下によって、心臓、腎臓などの主要臓器の循環障害が起こることもあります。

心臓が鼓動するリズムは、心臓の動きを伝導する電気信号によって決まります。このような電気信号の始まりである洞結節は、交感神経や副交感神経などの自律神経作用の影響を受け、心拍数を調節する重要な場所です。

心臓の電気的な活動の様子をグラフの形に記録する心電図的には、持続性の洞徐脈、洞停止または洞房ブロック、徐脈頻脈症候群の3つのタイプに分類されます。

持続性の洞徐脈の場合、常に脈拍数が1分間に40~50回以下に減少し、心房の興奮を反映するP波という小さな波の規則正しい間隔で現れる数が少なくなります。

洞停止または洞房ブロックの場合、洞結節からの電気信号が一過性に停止または心房に伝わらないことによって起こります。P波に続くP波よりも尖(とが)って大きな波のQRS波、そしてなだらかな波のT波へと続く関係は正常ですが、先行するP波が突然現れなくなります。

徐脈頻脈症候群の場合、心房細動や心房粗動、発作性上室性頻拍などの頻脈性不整脈が出現し、心房が速く興奮して、その刺激が洞結節に進入することで、洞結節の自発的興奮を一時的に強く抑えてしまうため、頻脈が自然停止した直後に高度の洞停止が生じます。

洞不全症候群の原因ははっきりしないことが多いのですが、特定できる原因として最も多いのは、加齢による洞結節または周辺の心房筋の線維化による伝導障害です。そのほかに、心筋梗塞(こうそく)や冠状動脈硬化などの虚血性心疾患、高血圧症、先天性心疾患、心筋症、心筋炎などが原因になりますが、慢性腎機能障害による電解質異常や甲状腺(こうじょうせん)疾患によって起こることもあります。

また、洞結節の刺激の発生数を低下させる迷走神経の緊張高進、高カリウム血症のほか、高血圧治療薬や虚血性心疾患治療薬、抗不整脈薬、精神疾患治療薬などの薬剤投与によって引き起こされる場合もあります。

洞不全症候群の症状は、心停止または徐脈に伴う脳虚血症状として現れ、意識障害、眼前暗黒感、めまい、失神、顔面蒼白(そうはく)、けいれん、呼吸停止などが起こります。夜間睡眠中に脳虚血症状が現れる場合は無症状で経過することもありますが、日中に現れる脳虚血症状により転倒した場合には時に、重大な頭部外傷をもたらす危険もあり、心停止から拍動が回復しない場合は突然死することもあります。

運動時の息切れや疲労感、心不全の悪化による呼吸困難、乏尿として現れる場合もあります。

徐脈頻脈症候群では、頻脈の時に動悸(どうき)を感じることがあります。また、不整脈のため血栓が脳に流れ脳卒中を起こすこともあります。

脳虚血症状などが長引く場合、繰り返すような場合には、循環器専門医の診察を受けてください。

洞不全症候群の検査と診断と治療

循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科などの医師による診断では、症状を起こした時の心電図を記録し、確認することで洞不全症候群と確定します。

体表面の異なる12方向から記録する12誘導心電図、24時間ホルター心電図、携帯型簡易心電計などによる検査でわからない場合は、心臓電気生理学的検査(EPS)と呼ばれるカテーテル検査を行うこともあります。

循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科の医師による治療では、症状が軽い場合は、洞結節の自発的興奮の回数を増やす薬剤を使用します。抗コリン薬(硫酸アトロピン)、β(ベータ)刺激薬(イソプロテレノール)などの経口薬や静注薬です。

徐脈が薬にあまり反応しなかったり、薬を中断すると症状が悪化するような場合や、薬剤による治療がうまくいかないことが多い徐脈頻脈症候群と診断した場合は、恒久型ペースメーカーを植え込みます。恒久型ペースメーカーは、徐脈が現れた時のみ電気刺激を出して心臓を刺激することにより心拍数を正常にし、高度な徐脈、心停止による失神などを予防します。手術で、ライターほどの大きさの恒久型ペースメーカーを鎖骨の下に植え込み、脈の状態は心臓の中に留置したリード線を通して察知します。

一方、長年の肉体労働や長距離走などのトレーニングにより生理的に洞結節の機能が抑制されて、脈が遅くなっているような人には、ペースメーカー治療の必要はありません。また、薬剤の投与によって一時的に洞不全が生じた人で、薬剤の中止によってその機能が回復し得る人も、ペースメーカーの植え込みは不要です。

🇵🇰頭部白癬(しらくも)

水虫を起こす白癬菌が頭部に感染して起こる皮膚病

頭部白癬とは、かび(真菌)の一種である白癬(はくせん)菌が頭部の皮膚、毛髪に感染して起こる皮膚病。しらくも、頭部浅在性白癬ともいいます。

一群の白癬菌は、皮膚の表面にある角層につき、そこでケラチンという皮膚の蛋白(たんぱく)を栄養源として増殖し、感染を起こします。足の裏、足指の間にできる足白癬、すなわち水虫を始めとして、体のどこにでも白癬ができる可能性があります。

白癬が頭部にできた、頭部白癬の症状は、感染した部分の毛穴が境界のはっきりした類円形に赤くはれ、白い鱗屑(りんせつ、ふけ)が付着します。軽いかゆみがあり、頭皮がカサカサして髪の毛が抜けやすくなり、円形のまだらな脱毛を起こしたりします。症状が進行すると、発熱を伴ったり、リンパ腺(せん)がはれたりすることもあります

この型の頭部白癬は、昭和25年ころまでは、小学生を中心にたくさんみられましたが、現在は非常に少なくなっています。 今でも発症するのは10歳以下の小児がほとんどで、高齢者などにみられることもあります。

しかし、近年は飼い猫などの動物の白癬が、人の頭や顔、首などに感染するケースが多くなっています。猫などの白癬菌である犬小胞子菌(ミクロスポルム・カニス菌)が頭についた時は、治療が不適切だと、毛に沿ってどんどん皮膚の深部に菌が入っていき、非常に治りにくいケルスス(ケルズス)禿瘡(とくそう)という深在性白癬になりやすいので注意が必要です。

ケルスス禿瘡では、うみ、しこりを伴うようになって、ズキズキする痛みがあり、耳介後リンパ節がはれることもあります。放置すると、瘢痕(はんこん)を残し、難治性の脱毛を生じます。

加えて、頭部白癬、ケルスス禿瘡は、最近では柔道、レスリングなどの競技者の間でも増加中です。こちらはトンズランス感染症、新型水虫とも呼ばれ、白癬菌の一種であるトリコフィトン・トンズランス菌によるもので、感染力が非常に強いのが特徴です。

このトリコフィトン・トンズランス菌は、犬小胞子菌(ミクロスポルム・カニス菌)と同様に毛の中に侵入しやすい白癬菌で、元来は中南米に生息していたものが、競技者同士が体を密着させ、擦過傷ができやすい柔道、レスリングなどの国際試合を通じて、1960年代に中南米からアメリカに持ち込まれ、続いてヨーロッパ、2000年以降に日本へも持ち込まれたものです。

頭部白癬の検査と診断と治療

頭部白癬(しらくも)、ケルスス禿瘡の症状がみられる場合、皮膚科で検診すべきです。自然に治癒することは難しく、放置すると治癒にも時間が掛かります。また、犬小胞子菌(ミクロスポルム・カニス菌)やトリコフィトン・トンズランス菌は感染力が強いため、完全に治癒しないと、再発する可能性が高く、他の人や動物への感染源になってしまいます。

犬小胞子菌は、人間から猫などの動物にも感染します。もし柔道、レスリングなどの競技者や、競技者の家族である場合は、検診時に医師にその旨を伝えるのがよいでしょう。

医師による頭部白癬、ケルスス禿瘡の検査では、ふけや皮膚、毛を水酸化カリウムで溶かし、溶けずに残る白癬菌を顕微鏡で観察する方法が一般的で、皮膚真菌検査と呼ばれます。 時には、培養を行って、原因菌の同定を行うこともあります。

治療としては、経口抗真菌剤を1~3カ月に渡って内服します。悪化する恐れがあるため、外用剤は使用しません。例えばケルスス禿瘡の場合、頭部白癬の症状をかぶれと間違って副腎(ふくじん)皮質ステロイド外用剤を塗っているうちに、症状が進展して生じる場合も多いといえます。ステロイド外用剤を早急に中止することが必要です。

経口抗真菌剤の内服と併用して、せっけんや、抗真菌剤の入ったシャンプーなどで、よく洗髪します。通常、頭部白癬が治れば、脱毛した部分の頭髪は生えてきます。

なお、トリコフィトン・トンズランス菌によるものは、接触する機会の多い競技者間で感染する例が非常に多い疾患です。そこで、家族に柔道などの競技者がいる場合、予防のポイントは次のようなことになります。

感染を防止するため、練習や試合後にはできるだけ早く、シャワーで頭や体を洗い流す。柔道着、トレーニングウエア、使ったタオルは、こまめに洗濯する。脱衣所、感染者の部屋は、まめに掃除をする。タオルなどの共用を行わない。

🟧RSウイルス感染症が「流行入り」 静岡県が注意呼び掛け

 静岡県は26日、直近1週間(15~21日)のデータから「RSウイルス感染症が流行入りしている」と発表しました。定点医療機関となっている小児科1カ所当たりの患者数は1・64人で、県が流行入りの目安としている「1人」を大きく上回りました。前週の0・9人よりも8割増加し、急拡大が懸...