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2022/08/27

🇨🇮高アルドステロン症

副腎皮質ホルモンのアルドステロンの過剰分泌によって起こり、筋肉の弱化、高血圧がみられる疾患

高アルドステロン症とは、副腎(ふくじん)皮質ホルモンの一つのアルドステロン(鉱質コルチコイド)の過剰分泌により、カリウムの喪失が起こり、筋肉の弱化、高血圧がみられる疾患。アルドステロン症とも呼ばれます。

この高アルドステロン症は、本来のアルドステロンの分泌組織である副腎(ふくじん)皮質の異常によって起こる原発性アルドステロン症と、ほかの臓器の疾患に続いて起こる続発性アルドステロン症に大別されます。

原発性アルドステロン症は、初めて報告したアメリカのコン医師にちなんで、コン症候群とも呼ばれます。

副腎皮質の片側の腫瘍(しゅよう)、または両側の副腎皮質の肥大増殖が原因となって、原発性アルドステロン症は起こります。腫瘍の場合は、ここからアルドステロンが多量に分泌され、肥大増殖の場合は、副腎全体からアルドステロンが出てきます。

アルドステロンは腎臓に作用し、体の中にナトリウムと水分を蓄えるために高血圧になります。また、尿の中にカリウムを排出する作用を持つため、アルドステロンが過剰になると血液中のカリウムが減って、低カリウム血症となり、筋力の低下による四肢の脱力や、疲れやすいなどの症状が引き起こされます。

そのほか、低カリウム血症により尿量が多くなり、口の渇きがみられたり、発作的に数時間の間、手足が動かなくなる周期性四肢まひが起こったり、テタニー発作という痛みを伴う筋肉の硬直現象が起こることもあります。

高血圧に低カリウム血症を合併していたら、この原発性アルドステロン症が疑われます。治療しないでほうっておくと、高血圧が長く続くために体のいろいろな臓器に障害が起こってきますので、内科、ないし内分泌代謝内科の専門医を受診することが勧められます。

一方、続発性アルドステロン症は、ほかの臓器の疾患により、レニンーアンジオテンシンーアルドステロン系というホルモン系が刺激を受け、結果として過剰なアルドステロンが分泌されることが原因となって起こります。

エストロゲン製剤(卵胞ホルモン製剤)に起因する高血圧や、腎血管性高血圧、妊娠高血圧、悪性高血圧、褐色細胞腫、傍糸球体細胞腫(しゅ)など高血圧の疾患から発生するもののほか、うっ血性心不全、偽性低アルドステロン症、腹水を随伴させた肝硬変、下剤および利尿薬などの不適切利用、ネフローゼ症候群、バーター症候群、ギッテルマン症候群といった高血圧以外の疾患から発生するものがあります。

レニンーアンジオテンシンーアルドステロン系を除いたものでは、血液中のカリウム濃度が異常に上昇した高カリウム血症によって引き起こされる傾向にあります。

主に現れる症状は、浮腫(ふしゅ、むくみ)、下肢脱力、筋力低下であり、これらは低カリウム血症を基礎にして生じ、どの続発性アルドステロン症にも同じく現れます。また、続発性アルドステロン症を招いている元となる疾患の症状も示されます。例えば、腎血管性高血圧、悪性高血圧、褐色細胞腫では高血圧を伴いますが、バーター症候群、心不全や肝硬変などの浮腫性疾患では高血圧を伴いません。

高アルドステロン症の検査と診断と治療

内科、内分泌代謝内科の医師による原発性アルドステロン症の診断では、アルドステロンの過剰分泌を確かめるため、血液中、尿中のホルモンを測定します。アルドステロンは腎臓から分泌されるレニンというホルモンによって調節されていますが、原発性アルドステロン症のように、副腎から勝手にアルドステロンが出てくると、レニンはその働きを控えます。そこで、診断のためには血漿(けっしょう)レニン活性が抑制されていることを確認します。

腫瘍か肥大増殖か、また、左右どちらの副腎に腫瘍があるのかなどを判断するため、腹部のCT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査、あるいは副腎シンチグラフィーを行います。腫瘍はしばしば小さく、また多発性のこともあり、これらの検査で診断できない場合があります。その場合は副腎の近くの血管にカテーテルを挿入して、そこから採血する副腎静脈血サンプリングという検査を行うこともあります。

内科、内分泌代謝内科の医師による原発性アルドステロン症の治療では、腫瘍による場合、その腫瘍を手術で摘出します。何らかの理由で摘出手術ができない場合や、肥大増殖の場合は内服薬で治療を行います。アルドステロンの産生を制限する目的でトリロスタン(デソパン)、作用を阻害する目的でスピロノラクトン(アルダクトン)などを用います。

原発性アルドステロン症が治れば、血圧は徐々に低下します。しかし、疾患の期間が長く高血圧が長く続いた場合は、血圧が下がりにくいこともあります。

内科、内分泌代謝内科の医師による続発性アルドステロン症の診断では、元となる疾患が明らかとなり、低カリウム血症がみられ、アルドステロンおよびレニンの両者が高値を示せば、確定します。避妊薬、下剤、利尿薬などの服用している薬剤についての情報も重要となります。

内科、内分泌代謝内科の医師による続発性アルドステロン症の治療では、基本的に元となる疾患の是正が中心となります。

浮腫や低カリウム血症などが継続してみられ、元となる疾患の治療も難しいとされるケースにおいては、スピロノラクトンを利用します。以上の治療方法で改善がみられない場合においては、カリウム製剤を利用します。そのほか、非ステロイド性抗炎症薬の一つであるインドメタシンがバーター症候群に有用とされる場合もあります。

なお、副作用などの理由からスピロノラクトンを適用できない場合、トリアムテレン(トリテレン)を使用します。ただし、抗アルドステロン様の作用は有しません。

🇧🇫口囲皮膚炎(酒さ様皮膚炎)

副腎皮質ホルモン外用剤の副作用で、口の周囲に小さくて赤い吹き出物が現れる皮膚病

口囲(こうい)皮膚炎とは 鼻を中心として両ほおが赤くなる酒さ(赤鼻、赤ら顔)に似た症状が現れる酒さ様皮膚炎のうち、口の周囲にのみ症状が現れる状態。

比較的長期間に渡って、顔に副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド)外用剤を使用したことによる副作用が主な原因で、20歳ぐらいから中年にかけての女性の顔面に多くみられます。

口囲皮膚炎では、口の周囲に小さくて赤い吹き出物が現れます。酒さ様皮膚炎では、毛細血管が拡張して赤ら顔になるほか、にきびのような小さく赤い吹き出物や、膿胞(のうほう)ができます。火照りやぴりぴり感を伴い、中にはかゆみを感じる人もいます。

副腎皮質ホルモン(ステロイド)外用剤の使用をやめると、一時的にさらに症状が悪化するために、中止することができないと、ますます悪化していきます。

この口囲皮膚炎と酒さ様皮膚炎は、顔以外の皮膚ではあまりみられません。強力な副腎皮質ホルモン剤、特に構造式でフッ素を含有する副腎皮質ホルモン軟こうを外用した時に起こるとされますが、それ以外の副腎皮質ホルモン軟こうでも起こることがあります。化粧品を始め、シャンプーやリンスでかぶれた際に、市販の副腎皮質ホルモン剤が入ったかぶれ止めの薬を顔に長期間、連用するなどは、注意したほうがよいでしょう。

アトピー性皮膚炎の発症者で、顔の湿疹(しっしん)に連用して起こる場合もあります。副腎皮質ホルモン軟こうには、血管収縮作用があるために、外用時は赤みが除かれ肌が一時的に白くきれいに見えますが、長い間使用していると、口囲皮膚炎と酒さ様皮膚炎になりかねません。女性が化粧品の下地クリームとして長期間、連用して起こる場合もあります。

口囲皮膚炎の検査と診断と治療

症状を自覚した時は、皮膚科を受診します。アトピー性皮膚炎や脂漏性皮膚炎を治療するために、副腎皮質ホルモン(ステロイド)軟こうを用いて発症した場合は、掛かっている医師に相談します。

治療の基本は、副腎皮質ホルモン軟こうの外用を中止すればよいのですが、実際には難しさがあります。外用を中止すると、数日後から、口囲皮膚炎では口の周囲の赤い吹き出物、酒さ様皮膚炎では顔面の赤み、はれがますます強くなり、火照り感が強く、我慢できなくなるほどに悪化します。この状態がひどい時は、3週間から2カ月くらい続くこともあり、その後は次第に症状が消えていきます。

問題はこの悪化する時期をどう治療するかで、外出もできないと訴える発症者もいます。精神的苦痛や不安を伴うので、入院するのも選択肢に入ります。徐々に効果の弱い副腎皮質ホルモン軟こうに変えていくとか、全身的に副腎皮質ホルモンの内服を行って炎症を抑え、徐々にその量を減らす方法もありますが、この方法では軽快するまでに、かなり長期間を要することがあります。

軽いケースでは、テトラサイクリンなどの抗生物質とビタミンB2の内服で、症状が改善されます。アトピー性皮膚炎がある場合は、副腎皮質ホルモン軟こうの代わりに、タクロリムスという免疫抑制剤の軟こうを用いたりします。

口囲皮膚炎と酒さ様皮膚炎を予防するためには、顔にはなるべく副腎皮質ホルモン含有軟こうを使用しないことです。かぶれやアトピー性皮膚炎で炎症症状が強く、どうしても顔にこの軟こうを使わなければならない時は、できるだけ短期間に抑え、症状が軽快すれば、早めに副腎皮質ホルモンを含まない軟こうに変えます。そのためには、外用剤でも必ず皮膚科専門医の指示に従って、使用する必要があります。

日常生活では、皮膚内の毛細血管を広げる働きのある食品は、避けなくてはなりません。具体的には、香辛料の効いた食品、アルコール飲料、コーヒーなどのカフェイン入り飲料などです。化粧をする人は、腕に試してみるパッチテストをしてから使うように心掛けます。

🇹🇬高LDLコレステロール血症

動脈硬化に関係が深いLDLコレステロールが高いタイプの脂質異常症

高LDLコレステロール血症とは、動脈硬化に関係が深いLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が高いタイプの脂質異常症。

血液中に含まれる脂質成分であるLDL(低比重リポ蛋白〔たんぱく〕)が血液中に140mg/dl以上と多く存在する状態で、LDLは血管壁に取り込まれて蓄積し動脈硬化を起こすため、虚血性疾患のリスクを非常に高めるとされています。

脂質異常症は、血液の中を流れる脂質成分である総コレステロール、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、中性脂肪(トリグリセライド)が高く、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が低い状態が継続する疾患。2007年以前は、高脂血症と呼ばれていました。

脂質異常症は、動脈硬化症などの危険因子の一つです。動脈硬化は血管壁が分厚くなり、血管の柔軟性が失われた状態で、血管が損傷したり、血液の流れが滞ったりして、最後には脳卒中や心筋梗塞(こうそく)など、命にかかわる重大な病気を引き起こす可能性があります。

コレステロールには、肝臓で作られたコレステロールを体中の細胞に運ぶ働きをするLDLに包まれたLDLコレステロール(悪玉コレステロール)と、余分なコレステロールを回収して肝臓に戻す働きをするHDL(高比重リポ蛋白)に包まれたHDLコレステロール(善玉コレステロール)があります。

どちらも大切な役割を果たしていますが、脂質が多すぎる食事などにより、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が必要以上に増えると、血管壁に必要以上にコレステロール がたまり、動脈硬化が進みやすくなります。

悪者と思われがちなコレステロールは、実は体にとって重要なものです。コレステロールは細胞膜やホルモン、脂肪の消化を助ける胆汁酸などを作り出すのに欠かせません。また、中性脂肪もエネルギーの貯蔵庫であり、中性脂肪を蓄えた脂肪細胞には、衝撃から内臓を守るクッション役、寒さや暑さから身を守る断熱材などの役割があります。

しかし、不適切な食生活や運動不足などによって、体内のコレステロールや中性脂肪が過剰になると、血管の健康が損なわれます。必要なものであっても、多すぎれば問題を起こすので、適量を保つことが大切 。

近年、日本人のコレステロール値が高くなった原因として挙げられるのは、食生活の欧米化と運動不足です。日本人のコレステロール値はもともと低かったのですが、ここ半世紀ほどの間に食生活がかつての魚や野菜中心の和食から、脂質の多い肉中心の食事に変わりました。食事における三大栄養素のバランスをみると、脂質の占める割合が大きく増えています。

同じような食事、生活習慣でも、高LDLコレステロール血症になりやすい人となりにくい人がいます。女性ホルモンにはHDLコレステロール(善玉コレステロール)を上げる作用があり、若い女性は男性よりも高LDLコレステロール血症になりにくいのですが、閉経を過ぎるとLDLコレステロール値が高くなります。

ストレスも、値を高める原因の一つ。ストレスが加わると、体内では闘うための準備として、血中に糖や脂肪、カルシウムなどのミネラルが分泌され、血糖値やHDLコレステロール(悪玉コレステロール)、血圧などが上がります。

また、親や祖父母、兄弟姉妹など血のつながった家族に脂質異常症や動脈硬化症の人がいる場合も、高LDLコレステロール血症になるリスクが高くなります。

動脈硬化、さらには冠動脈疾患や脳卒中などに至らないようにするには、LDLコレステロールを適切にコントロールすることが重要です。LDLコレステロールが高い状態のままでいると、狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患による死亡の危険度は上がる一方です。

総コレステロールが160〜179mg/dlの人を基準にした場合、200〜219mg/dlの人では約1・4倍、220〜239mg/dlの人では約1・6倍、240〜 259mg/dlの人では約1・8倍、260mg/dl以上の人では3・8倍と4倍近くまで高くなります。

高LDLコレステロール血症は放置しておくと、血管の動脈硬化が徐々に進行していくものの、初期の段階では体の自覚症状は全くないために、血液検査で初めてわかることがほとんどです。無症状であっても正しい治療が必要なので、自己判断せずに医療機関に相談して下さい。内科、ないし内分泌・代謝科が、担当の診療科です。

高LDLコレステロール血症の検査と診断と治療

内科、内分泌・代謝科の医師による診断では、血液検査で血中のコレステロール、中性脂肪(トリグリセライド)、HDLコレステロール(善玉コレステロール)の値を測定します。朝食前の空腹時に採血します。LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の値は、これらから計算することもできますが、直接、測定する方法もあります。

脂質異常症の診断基準では、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が140mg/dl以上を高LDLコレステロール血症、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が120〜139mg/dl以上を境界域高LDLコレステロール血症とするほか、中性脂肪(トリグリセライド)が150mg/dl以上を高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症) 、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が40mg/dl以下を低HDLコレステロール血症とします。

内科、内分泌・代謝科の医師による治療では、食餌(しょくじ)療法、運動療法、薬物療法を行ない、LDLコレステロール値を下げます。

LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の管理目標値は、心筋梗塞や狭心症といった冠動脈疾患を持っている人の場合、最もリスクが高いと判断し、同じ疾患を繰り返さないように、100mg/dl未満と一番厳しく設定します。また、年齢、性別にかかわらず、糖尿病や慢性腎臓(じんぞう)病、非心原性脳梗塞、末梢(まっしょう)性動脈疾患などの疾患を持っている人の場合、冠動脈疾患を起こすリスクが高いため、120mg/dl未満に設定します。

○男性45歳・女性55歳以上○高血圧○喫煙○家族に冠動脈疾患がいる○低HDLコレステロール血症という主要危険因子を3個以上持っている人の場合、120mg/dl未満に設定します。主要危険因子を1から2個持っている人の場合、140mg/dl未満に設定します。主要危険因子を持っていない人の場合、160mg/dl未満に設定します。

いずれの場合も、HDLコレステロール(善玉コレステロール)値は40mg/dl以上、中性脂肪(トリグリセライド)値は150mg/dl未満を目指します。

食餌療法では、欧米風の高カロリー食品やコレステロール値の高い食品、脂分の多いファーストフードの過剰な摂取を制限します。そして、野菜や果物、魚といった低カロリー食や低脂肪食、低炭水化物食を中心とした食生活に切り替えます。

運動療法では、積極的に運動を行ないます。適切な体重の維持につながるばかりか、適度な運動を行なうことで基礎代謝の向上効果が期待できます。

また、喫煙、ストレス、過労、飲酒、睡眠不足など生活習慣全般の見直しも、高LDLコレステロール血症の改善法、予防法として効果的です。

食事療法、運動療法、生活習慣全般の見直しで十分な値までLDLコレステロール値が下がらない場合、もしくは危険因子が多く、冠動脈疾患を起こすリスクが高い場合には、薬物療法を併用します。

主に、一般にスタチンと呼ばれているHMG‐CoA還元酵素阻害薬を使います。この種類の薬は、コレステロールの合成を抑制するものです。そのほかにも、コレステロールの吸収阻害剤や、レジンと呼ばれる陰イオン交換樹脂やプロブコール、ニコチン酸誘導体を使います。

🇬🇭後外側裂孔ヘルニア

横隔膜に生まれ付き開いている穴を通して、腹腔の臓器が胸腔へ脱出

後外側裂孔(こうがいそくれっこう)ヘルニアとは、横隔膜に生まれ付き開いている穴を通して、腹腔(ふくくう)内の臓器が胸腔内に入り込んだ状態。先天性の横隔膜ヘルニアの一つで、ボックダレック孔ヘルニア、胸腹裂孔ヘルニア、後外側ヘルニアなどとも呼ばれます。

先天性の横隔膜ヘルニアの中でも、穴の位置や大きさによってはほとんど症状や障害を起こさないものがありますが、後外側裂孔ヘルニアは横隔膜の後ろ外側に穴があるタイプで、多くは生まれた直後から呼吸困難など生命にかかわる重大な症状を来します。新生児2000〜3000人に1人の割合で、認められています。

横隔膜は、肺の下に位置していて胸腔と腹腔を区切る膜で、上のほうは胸膜、下のほうは腹膜で覆われています。この筋肉層の丈夫なドーム状の膜である横隔膜が上下することによって、呼吸ができます。

胎児が母胎にいる時、次第に横隔膜が形成されてきて、妊娠2カ月半ころにはしっかりと横隔膜が胸腔と腹腔を区切るのですが、何らかの原因で横隔膜の後外側孔(ボックダレック孔:解剖学者の名前)がきっちりと閉じ切らないことがあります。このころは、腹腔の外に一度出ていた腸などの臓器が腹腔の中に戻って来る時期で、穴があると臓器が胸腔に入り込むことになり、横隔膜が閉じようとしても脱出した臓器がじゃまをして閉じられなくなってしまいます。

小腸、大腸、胃、脾(ひ)臓,肝臓などたくさんの臓器が胸腔に入り込むと、穴の開いていない側の肺も圧迫され、肺の発達が両側とも障害され、生まれてからひどい呼吸困難を来すこととなります。横隔膜にできる穴はどちらの側にも発生しますが、左側が75パーセントと多く、時には片側の横隔膜がほとんどできていないこともあります。

症状の程度は、発症の時期により異なります。胎児の場合はへその緒から酸素をもらっているので平気なのですが、出生後は自分で呼吸しなければならないため、多くの場合は重症の呼吸不全、高度のチアノーゼを伴った多呼吸が認められます。胸部は膨らんで盛り上がり、逆に、うまく空気が回らない腹部はへこんでいるのも特徴です。呼吸障害が強く、出生直後から人工呼吸管理が必要になります。

特殊な例としては、出生直後には呼吸器症状は示さず、年長になってから、風邪をひいて強いせきをした時や腹部を打撲した時に発症する場合があります。これを遅発性といい、速やかに手当てを受ければほぼ助かります。

後外側裂孔ヘルニア検査と診断と治療

先天性で後外側裂孔ヘルニアを持って生まれてくる場合、大抵は胎児が母胎の中にいるうちに、産科や産婦人科の医師が胎児超音波検査で気付きます。この場合は周産期センターに妊婦を搬送し、新生児科医、小児外科医の立ち会いのもとに帝王切開で出産し、直ちに治療を開始します。

成長すればするほど脱出した臓器が胎児の肺を押しつぶし、危険な状態になっていくからで、出生直後から人工呼吸管理を行った上で、体の血液循環を安定させ、できるだけ早期に、手術に耐えられるようになった時点で速やかに、生育時に閉じ切れなかった横隔膜を閉じる手術が行われます。

すべての医療機関で可能な方法ではないものの、人工肺(ECMO)という特殊装置を用いて新生児の血液循環を改善させてから、手術が行われることもあります。横隔膜の欠損が大きい場合は、人工膜を使用して横隔膜の形成手術が行われます。

しかし、最高の環境で早期に手術が行われても、生存率は芳しくないのが実情です。出生後24時間以内の発症例は予後が悪く、救命率は約50パーセント程度と見なされています。出生後1日以上を経過してから呼吸障害などで後外側裂孔ヘルニアが見付かった場合や、生後たまたま他の疾患の検査時に見付かった場合は、肺の発育が良好なため、治療成績は格段に良好です。

年長になってから発症する遅発性の後外側裂孔ヘルニアでは、小児科や小児外科医、消化器外科の医師による治療で100パーセント救命されます。

🇳🇪高カイロミクロン血症

血液中にカイロミクロンが異常に蓄積し、時に急性膵炎を発症する疾患

高カイロミクロン血症とは、中性脂肪に富む軽くて大きなリポ蛋白(たんぱく)であるカイロミクロンが血液中に異常に増加し、黄色腫(しゅ)や、時に急性膵(すい)炎を発症する疾患。脂質異常症(高脂血症)の一つです。

脂質異常症(高脂血症)は大きく5つに分類され、その中ではⅠ型脂質異常症(高脂血症)でカイロミクロンの増加を呈し、V型脂質異常症(高脂血症)でもカイロミクロンとVLDL(超低比重リポ蛋白)の増加を呈し、高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症)を示します。

カイロミクロンは中性脂肪を分解する酵素のリポ蛋白であり、トリグリセライド(中性脂肪)が1000mg/dl以上の高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症)では、カイロミクロンが増加して高カイロミクロン血症を伴うことが多くなります。

Ⅰ型脂質異常症(高脂血症)は、原発性高カイロミクロン血症、家族性高トリグリセライド血症とも呼ばれ、常染色体劣性遺伝を示すまれな疾患で、100万人に1人が発症するといわれています。

その原因は、中性脂肪を分解する酵素であるリポ蛋白リパーゼ(LPL)活性の低下であり、それにはリポ蛋白リパーゼ(LPL)の先天的欠損に加え、この分解反応に必要なアポリポ蛋白C-Ⅱ、アポリポ蛋白A-Ⅴ、GPIHBP1、LMF1の先天的欠損、さらにはリポ蛋白リパーゼ(LPL)の阻害物質(インヒビター)の存在が挙げられます。

V型脂質異常症(高脂血症)は、成人期に発症し、原因不明です。リポ蛋白リパーゼ(LPL)の先天的欠損、アポリポ蛋白C-Ⅱなどの先天的欠損を認めません。

発症の要因とされるのは、過食、チーズや卵などの酪農製品の取りすぎ、アルコール多飲、運動不足、肥満、糖尿病などのほかの疾患、利尿剤やβ遮断薬などの治療薬に含まれる物質、エストロゲンやステロイド補充によるものなどが挙げられます。

高カイロミクロン血症では、血液中に含まれるトリグリセライド(中性脂肪)が1000mg/dlを超えると、急性膵炎の発症リスクが高まり、発症例ではほとんどが2000mg/dlを超えているとされます。

Ⅰ型脂質異常症(高脂血症)では、小児期から脂肪摂取後の膵炎による上腹部痛を繰り返します。また、肝臓や脾(ひ)臓のはれが起きます。皮膚には、黄色腫という小さなピンクがかった黄色い皮疹(ひしん)ができます。

トリグリセライド(中性脂肪)が4000mg/dlを超えると、網膜血管が白色ピンク状に見える網膜脂血症を示します。

高カイロミクロン血症の検査と診断と治療

内科、内分泌・代謝科の医師による診断では、血液検査で血中の総コレステロール、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、HDLコレステロール(善玉コレステロール)の値を測定します。食後12時間以上の空腹時に採血します。

血液検査では、中性脂肪(トリグリセライド)の値が基準の値を大きく上回る場合や、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が基準の値を下回る場合に、治療の対象とすることを確定します。

内科、内分泌・代謝科の医師による治療では、Ⅰ型脂質異常症(高脂血症)の場合、薬物療法の効果は限定的であるため、食餌(しょくじ)療法を中心に、運動療法も行ないます。

食餌療法では、1 日の脂肪摂取を15~20g 以下、または総カロリーの15%以下、食後でも血液中に含まれるトリグリセライド(中性脂肪)が1500mg/dlを超えない程度にまで、食事での脂肪摂取を制限します。極端な制限が行われるため、ご飯やパンの量を1・2~1・5倍程度食べることにより、1日のエネルギー量を確保することになります。カイロミクロンの生成を抑える中鎖脂肪酸(MCT)製品を使うことも、治療および予防に有効です。

運動療法では、積極的にウォーキングや水中歩行などの適度な有酸素運動を行ないます。適切な体重の維持につながるばかりか、適度な運動を行なうことで基礎代謝の向上効果が期待できます。

また、喫煙、ストレス、過労、飲酒、睡眠不足など生活習慣全般の見直しも、治療のスピードを早め、症状の悪化を予防するのに効果的です。

V型脂質異常症(高脂血症)の場合、成人の発症の要因とされる過食、アルコール多飲、運動不足、肥満、糖尿病などの是正を行い、薬物療法としてフィブラート系薬物のベザフィブラートやフェノフィブラート、およびオメガ3系多価不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)製剤やドコサヘキサンエン酸(DHA)製剤を用います。

急性膵炎の発症、重症度により、生命予後は左右されます。

🇧🇯口角炎

さまざまな原因により、唇の両端である口角部が切れたような状態になる炎症性疾患

口角炎とは、唇の両端である口角部が切れたような状態になる炎症性疾患。口角びらん、口角亀裂(きれつ)とも呼ばれ、俗にカラスの灸(きゅう)とも呼ばれます。

口角部の皮膚から粘膜にかけて赤くなり、次いで亀裂が生じて出血してただれ、潰瘍(かいよう)となります。そのうち、かさぶたで覆われます。普通は、左右の口角部に同時に生じることが多いようです。

大きく口を開けると痛みがあり、かさぶたがはがれて出血したりしますが、一般には2週間程度で治ります。

しかし、長期化して数カ月も治らないケースや、再発を繰り返すケースもあります。

直接的には、持続的な唾液による湿潤、連鎖球菌やブドウ球菌などの細菌の感染、真菌の一種であるカンジダ菌などの感染が原因となって、口角炎が起こります。

高熱の出る疾患、ビタミンB2やビタミンB6やニコチン酸などのビタミン欠乏、貧血や糖尿病などの重症の慢性疾患による衰弱など、全身的な疾患が誘因になることもあります。

また、胃腸などの消化器官の不調、体調の乱れ、ストレス、口腔内の不衛生が誘因になることもあります。

原因が複数あるため自分で見極めるのが危険なケースもあること、全身的な疾患が誘因となって長期化、再発化しているケースもあることから、症状がひどい場合は皮膚科、内科、歯科口腔(こうくう)外科などを受診することが勧められます。

口角炎の検査と診断と治療

皮膚科、内科、歯科口腔外科の医師による診断では、どの疾患がもとにあって発症したのかを調べます。病変部の皮膚を数ミリ切り取って調べる病理組織検査である皮膚生検は、もとの疾患が何かを知る上で有用です。

皮膚科、内科、歯科口腔外科の医師による治療では、もとの疾患があればそれを治すことが先決です。そうでないと、いったん治っても再発を繰り返します。

全身的にはビタミン剤や鉄剤の服用が有効であることが多いのですが、糖尿病によって抵抗力が低下している場合には、抗菌剤(抗生物質)や抗真菌剤の入った軟こうを口角に塗ったりもします。

細菌やカンジダ菌の感染が原因になっている場合も、抗菌剤や抗真菌剤の入った軟こうを口角に塗ります。

また、1週間くらいは大きく口を開けないように注意して生活することも必要です。心身の安静とバランスのとれた食事を心掛け、口唇と口腔内の清潔保持に努めることも必要です。

🇧🇯高カリウム血症

血液中のカリウム濃度が異常に上昇した状態で、重大な障害を生じる危険性も

高カリウム血症とは、血液中のカリウム濃度が異常に上昇した状態。普通は、腎臓(じんぞう)が十分なカリウムを排出しないことが原因で起こります。

カリウムは細胞、神経、筋肉が正常に機能するのに必要で、体内のカリウムの98パーセントが細胞の内部にあり、残りのわずか2パーセントが血液中など細胞の外部に存在しています。しかし、血液中のカリウムは細胞の働きを調節する上でとても重要で、濃度の値が乱れると全身に重大な障害が生じます。

血液中のカリウム濃度は正常値の範囲が通常、3・5~5・0mEq/lと狭く、その範囲内に維持しなければなりません。体は、取り込んだカリウムの量と失った量を一致させることで、そのバランスを保ちます。食物や電解質を含んだ飲料から取り込み、主に尿と一緒に排出されることで失い、消化管や汗からも失います。健康な腎臓は、食事からの摂取量の変化に合わせて、カリウムの排出量を調整できますが、限界を超えると徐々に血液内に蓄積され、高カリウム血症を生じます。

軽度の高カリウム血症の原因として最もよくみられるのは、腎臓への血流を減らす薬や、腎臓が正常な量のカリウムを排出するのを阻害する薬の使用です。このような薬には、トリアムテレン、スピロノラクトン、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬があります。

アジソン病も、高カリウム血症の原因になります。アジソン病になると、腎臓を刺激してカリウムを排出させるホルモンのアルドステロンを副腎が十分に分泌しなくなります。この状態の時に、けが、発熱などで強いストレスがかかった場合、急性副腎不全を来して、重度の高カリウム血症を引き起こすことがあります。

多量のカリウムが細胞から急に放出された時にも、高カリウム血症は生じます。細胞からカリウムが突然放出されるのは、衝突事故による外傷に伴う広範囲の筋組織の破壊、重度のやけど、コカインの多量吸入などが原因です。カリウムが細胞から血液中に急激に移動すると、腎臓に過度の負担を与え、その結果、生命にかかわる高カリウム血症になります。

軽度の高カリウム血症は、ほとんど症状を起こしません。普通は、定期的な血液検査を受けた際に発見されるか、心電図の変化に医師が気付いて初めてわかる程度です。

血液中のカリウム濃度が5・5mEq/l以上になると、悪心(おしん)、嘔吐(おうと)などの胃腸症状、しびれ感、知覚過敏、脱力感などの筋肉・神経症状、不整脈などの症状が現れます。血液中のカリウム濃度が7~8mEq/lを超えると、危険な不整脈が現れ、心臓が止まる危険性が生じます。

高カリウム血症に気付いたら、早めに内科の専門医を受診し、精密検査と治療を行う必要があります。

高カリウム血症の検査と診断と治療

内科の医師による診断では、血液中のカリウム濃度を測定します。合併している疾患からカリウム濃度上昇の原因は予想できることが多いのですが、動脈血ガス分析、心電図検査、腎機能検査、尿検査、副腎皮質ホルモンの測定などが併せて行われ、詳しい原因も診断されます。

軽度の高カリウム血症であれば、食事によるカリウムの摂取量を減らすか、腎臓がカリウムを排出するのを阻害する薬の服用を中止するだけで、治療としては十分です。腎臓が正常に機能していれば、利尿薬を投与してカリウムの排出量を増やします。また、アルドステロン作用を持つホルモン剤を投与することもあります。

重度の高カリウム血症には、迅速な治療が必要不可欠です。消化管からカリウムを吸収し、便と一緒に体外に排出する作用のあるレジン(樹脂)を、経口または浣腸(かんちょう)で投与します。同時に下痢を誘発させて、カリウムを吸収したレジンが速やかに体外へ排出されるようにします。

さらに迅速な治療が必要な場合は、カルシウム、ブドウ糖、またはインスリンを点滴で投与します。カルシウムはカリウム濃度そのものは下げませんが、高濃度のカリウムの影響から心臓を数分間、保護する働きがあります。ブドウ糖とインスリンは、カリウムを血液中から細胞へ移動させ、血液中のカリウム濃度を下げます。

こうした方法で効果がない時や腎不全を起こしている場合は、透析を行って余分なカリウムを取り除く必要があります。

🇳🇬交感性眼炎

片方の目のぶどう膜が損傷する外傷や手術を受けた後、1カ月以上経過してから、反対側の健康な目にも炎症が起こる疾患

交感性眼炎とは、片方の目の虹彩(こうさい)、毛様体、脈絡膜からなるぶどう膜が損傷するような外傷や手術を受けた後、1カ月以上経過してから、反対側の健康な目にも炎症が起こる疾患。

ぶどう膜は、眼球の外膜と内膜に挟まれた中間の層です。この層の膜は外から見えませんが、果物のぶどうの色をしていて、形もぶどうによく似ており、虹彩、毛様体、脈絡膜の3つの部分で構成されています。

虹彩は、瞳孔(どうこう)の周囲にある色の付いた環状の部分で、いわゆる茶目に相当する部分です。カメラレンズの絞りのように開いたり閉じたりして、眼内に入る光の量を調整します。

虹彩に続く毛様体は、いくつかの筋肉が集まった部分で、目のピント合わせをします。毛様体が収縮すると、水晶体が厚くなって近くの物に焦点を合わせることができ、毛様体が緩むと、水晶体が薄くなって遠くにある物に焦点を合わせることができます。同時に、毛様体で作られる房水は、目の内圧を一定に保つのに重要な働きをしています。

脈絡膜は、毛様体の縁から眼球後部の視神経のところまで広がっている部分。最も血管に富んで色素の多い組織で、網膜を裏打ちして目に栄養を与え、暗室効果を作って目を保護する役割を果たしています。

このぶどう膜の一部、あるいは全体が炎症を起こすのが交感性眼炎ですが、外傷や手術を切っ掛けとして、色素細胞が免疫系にさらされることにより色素に富んだぶどう膜に対する自己免疫反応として引き起こされ、多くの場合、外傷や手術を受けてから1カ月から2カ月を経て症状が現れます。

色素細胞に対する自己免疫反応という意味では、原田病と呼ばれる日本人を含め、アジア系の人種で頻度の高いぶどう膜炎と同じ病態であり、経過も似ていますが、外傷や手術が切っ掛けになる点で区別されます。

交感性眼炎の症状としては、原田病と似ており、発熱、のどの痛みなどの風邪のような症状、耳鳴り、難聴、めまい、頭痛などが、目の症状に先立って現れることもあります。時に、頭皮にピリピリするなどの違和感が出てきます。

目の症状は、まぶしい、目の奥のほうが痛い、物が見えにくいなど、通常、両目に現れます。一般的に脈絡膜炎を認め、しばしばその上に滲出(しんしゅつ)性網膜剥離(はくり)を伴います。

目のけがをした後は、眼科医の指示に従って、受傷していない目の定期的なチェックも必要で、異常を感じた場合は速やかに眼科医の診察を受けて下さい。早期治療を行わないと、視力が回復力しない場合もあります。

交感性眼炎の検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、原田病と呼ばれるぶどう膜炎と基本的に同じ検査を行います。

眼底検査を行うと、網膜剥離を伴う特徴的な炎症像がみられます。この滲出性網膜剥離は炎症に伴って起こるもので、通常の網膜に裂孔ができて起こる網膜剥離と違って、手術の必要はありません。炎症を鎮めることによって治ります。

造影剤を注射して蛍光眼底造影検査を行うと、網膜剥離に相当するところで造影剤が漏出するなどの特有の所見が得られます。髄液検査や聴力検査なども必要です。

ほかに血液検査を行うと、白血球の増大、赤沈の高進、CRP(C反応性蛋白〔たんぱく〕)陽性化などの炎症性の反応がみられます。また、白血球の血液型に当たる組織適合抗原(HLA)の中で、DR4またはDR53を持った人によく発症することも原田病と似ています。

眼科の医師による治療は、原田病の治療に準じて、目に永久的な障害が出るのを防ぐため早期に開始します。治療の中心は、炎症を鎮めるためのステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン)の大量点滴投与です。

ホルモンの一種であるステロイド剤を大量に投与すると、血栓の形成、高血圧、血糖上昇などの重い副作用が出る危険性もあるので、入院が必要です。超大量のステロイド剤を短期間に集中して投与する、いわゆるパルス療法が行われることもあります。免疫抑制薬を使うこともあります。

穿孔(せんこう)性の目の外傷を受けた人で、HLAーDR4またはHLAーDR53など遺伝的素因を持つ場合には、十分な経過観察が必要です。

重篤な交感性眼炎を起こした片方の目の視機能の回復が全く期待できない場合には、もう片方の目に交感性眼炎が起こる危険性を最小限にするために、眼球摘出や眼球治療の外科手術を行うこともあります。

🇳🇬睾丸炎(精巣炎)

細菌やウイルスの感染などで、睾丸に炎症が起こる疾患

睾丸(こうがん)炎とは、細菌やウイルスなどに感染することによって、男性の生殖器官である睾丸に炎症が起こる疾患。精巣炎とも呼ばれます。

睾丸、すなわち精巣は、男性の陰嚢(いんのう)内に左右各1個あって卵形をしており、男性ホルモンおよび精子を産生しています。

睾丸炎の原因のほとんどは、後部尿道からの細菌の感染によるものです。原因細菌は、大腸菌、ブドウ球菌、連鎖球菌など。細菌の感染によって睾丸だけに炎症が起こることはまれで、その多くは細菌性の副睾丸炎(精巣上体炎)が波及して睾丸にも炎症が起きます。

また、流行性耳下腺(せん)炎(おたふく風邪)を起こすムンプスウイルスの血行感染によって起こることがあり、思春期以降に流行性耳下腺炎にかかった人の10〜30パーセントが睾丸炎も発症します。両方の睾丸に炎症を起こすと、後遺症として無精子症など男性不妊の原因になることがあります。

そのほか、外傷で睾丸が強く打たれた時に、睾丸炎が起こることもあります。

症状は、急激な寒けと震えがきて、高熱が出ます。陰嚢は赤くなってはれ上がり、熱感を持ち、睾丸も大きく硬くなり、強く痛みます。圧痛も激しく腹部まで及びます。ムンプスウイルスによるものは、流行性耳下腺炎を発症した4〜7日後に、急激な睾丸の痛みとはれが起き、発熱や倦怠(けんたい)感などが現れます。通常、排尿に関する症状はありません。

睾丸炎の検査と診断と治療

睾丸炎(精巣炎)を発症したら、できるだけ睾丸へのダメージを少なくするため家で安静にし、陰嚢をつり上げて固定し、さらに冷湿布をすると痛みは軽くなります。 男性不妊になるのを予防するために、やはり一度は泌尿器科の専門医を受診しておいたほうが安心です。

医師の側は、睾丸の症状から簡単に診断できます。ムンプスウイルスによるものは、流行性耳下腺炎の先行と、咽頭や精液からのウイルス分離や、血液中のウイルスに対する抗体の値が初回より2回目の測定で上昇することで、確定診断できます。尿中に、うみや細菌は認められません。

治療としては、全身の安静、陰嚢の固定や冷湿布とともに、大腸菌、ブドウ球菌などの細菌が原因の時は抗生物質を強力に投与します。

ムンプスウイルスが原因の時は、抗生物質は有効ではないため、熱を抑えるための消炎鎮痛剤を投与します。1週間程度で炎症は治まりますが、長期化したり両側に炎症を起こすと、睾丸の中の精子のもとになる細胞が死んでしまい、睾丸が委縮し、不妊症の原因になってしまいます。20〜30パーセントに起きると見なされます。

🇨🇲睾丸過剰症

男性の睾丸が3個以上存在する先天性奇形

睾丸(こうがん)過剰症とは、男性の下腹部に睾丸、すなわち精巣が3個以上存在する状態の先天性異常。多睾丸症、精巣過剰症、多精巣症とも呼ばれます。

泌尿器系と生殖器系には、その胎生期の複雑な発生過程のために多くの先天性異常が生じやすく、男性の生殖器官である睾丸、すなわち精巣についても数、形態、位置、機能などの異常が知られています。睾丸過剰症も、比較的まれにみられる先天性異常です。

睾丸は本来、陰嚢(いんのう)内に左右各1個あって卵形をしており、男性ホルモンおよび精子を産生していますが、睾丸過剰症では真ん中にある陰嚢縫線で区切られた左右の陰嚢内に、過剰な睾丸を含めて2個の睾丸が重複して存在します。左の陰嚢内に2個存在することが多く、右の陰嚢内に2個存在することもありますが、左右両側の陰嚢内に2個存在することはまれです。

過剰な睾丸はほとんどが陰囊内に存在しますが、睾丸の下降が不十分で陰嚢内に位置せずに途中でとどまっている停留睾丸(停留精巣)などに合併して、脚の付け根の鼠径(そけい)部に存在することもあります。

過剰な睾丸が発生する理由として、胎生6週で構成される生殖隆起(生殖堤)の分割過程での異常、生殖隆起の重複、胎生5週で構成される胎芽期の腎臓(じんぞう)に相当する中腎の部分的な退化の3つが考えられています。

睾丸過剰症は、睾丸(精巣)、精液の通り路である精管(輸精管)、睾丸の上面および後面に付着している副睾丸(精巣上体)の関係から6型に分類されています。

第1型は、睾丸、精管、副睾丸を重複するもの。第2型は、重複する一方が睾丸、副睾丸のみで精管を有しないもの。第3型は、重複する一方が睾丸、精管のみで副睾丸を有しないもの。第4型は、重複する一方が睾丸のみで副睾丸、精管を有しないもの。第5型は、重複する睾丸に副睾丸が付着し、これに続く1本の精管を共有するもの。第6型は、重複する睾丸、副睾丸が1本の精管で連結されているもの。このうち、第5型が最も多いとされています。

睾丸過剰症には、停留睾丸(停留精巣)のほか、鼠径ヘルニア、陰囊水腫(すいしゅ)、精索水腫、精巣捻転(ねんてん)、睾丸(精巣)腫瘍(しゅよう)、奇形腫、胎児性がんなどを合併することがあります。

睾丸過剰症を発見された年齢は、2歳から49歳と幅広いものの、平均年齢は20歳で若年者に多くなっています。幼少時は、停留睾丸、鼠径ヘルニアなどほかの疾患の治療時に発見されることが多く、幼少時以降では無痛性陰囊内腫瘤(しゅりゅう)を主訴として受診した際に、診断されることが多くなっています。

睾丸過剰症の検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断では、まず陰嚢の触診による腫瘤の触知を図ります。超音波(エコー)検査を行うと、睾丸と等信号の像が得られ、陰囊水腫、精索水腫との鑑別が可能となります。悪性腫瘍の可能性もあるため、 CT(コンピュータ断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査などを行い、骨盤内病変の有無を調べることもあります。

最終的には、過剰な睾丸に針を刺して組織を採取し、その組織を顕微鏡で見て検査を行う生検も含め、手術で摘除した組織の病理組織診によって、確定します。

鑑別すべき疾患としては、悪性腫瘍のほか、睾丸腫瘍、副睾丸腫瘍、精液瘤などがあります。

泌尿器科の医師による治療では、ほとんどの場合は診断も兼ねて、過剰な睾丸を手術で摘除します。過剰な睾丸が小さい場合はもちろん、特に、陰囊外の鼠径部に存在する過剰な睾丸は、がん化の危険性を考慮し手術で摘除するべきと考えられています。

また、陰囊内にあり妊孕(にんよう)性を期待できるものに関しても、生検で悪性・異型性を認めるもの、解剖学的には精路を認めても造精能を欠くもの、超音波検査で悪性所見を認めるもの、あるいは本人に過剰な睾丸の摘除の希望がある時、定期的な経過観察が望めない時は、手術で摘除するのが一般的です。

生検で過剰な睾丸が睾丸実質であり、悪性腫瘍でないことを確認した後に温存した場合は、慎重を期した定期的な診察と超音波検査が必要になります。

🇹🇩睾丸結核

結核菌が男性の生殖器である睾丸に感染して起こる疾患で、肺外結核の一種

睾丸(こうがん)結核とは、結核菌が男性の生殖器である睾丸に感染することによって起こる疾患。精巣結核とも、結核性精巣炎とも呼ばれ、また肺外結核の一種であり、男性性器結核の一種でもあります。

睾丸、すなわち精巣は、男性の陰嚢(いんのう)内に左右各1個あって卵形をしており、男性ホルモンおよび精子を産生しています。

睾丸結核の原因菌となる結核菌は、正式な名称をマイコバクテリウム・ツベルクローシスで、グラム陰性無芽胞性桿菌(かんきん)に所属する抗酸性の細菌。この結核菌は、酸、アルカリ、アルコールに強い上に乾燥にも強く、また空気感染を引き起こします。

基本的には、その多くは肺に孤立性の臓器結核を発症する肺結核の病原菌になりますが、低い頻度ながら、肺外結核と呼ばれる肺以外への結核菌感染症を引き起こします。

>肺外結核は、主に結核菌が血管を通って全身にばらまかれ、そこに病巣を作る粟粒(ぞくりゅう)結核によって起こります。腎(じん)臓とリンパ節に起こるものが最も多く、骨、脳、腹腔(ふくこう)、心膜、関節、尿路、そして男女の生殖器にも起こります。

男性性器結核は、結核菌が前立腺(ぜんりつせん)、副睾丸(精巣上体)、睾丸(精巣)、精嚢(せいのう)腺、精索に病巣を作ることによって起こり、その一種の睾丸結核は、結核菌が睾丸に病巣を作ることによって起こります。

結核菌が血管を通って前立腺、副睾丸、睾丸などに連続的に感染することが多く、一方では腎臓、尿路の結核に続発して尿路、精路に沿って逆行性に感染し、炎症を起こして、精巣などに硬い凹凸のあるはれを生じます。

感染部位のはれが起こっても、ほとんどは自覚症状はないものの、時に睾丸の痛み、違和感、不快感、下腹部痛を生じることもあります。

また、睾丸結核は精子を産生する精巣機能の障害から、男性不妊症の発生に関連する場合があります。特に長期的、慢性的に炎症が継続すると、男性不妊症の発生頻度が上昇しやすくなります。

感染が進行すると、睾丸と、睾丸の上面および後面に付着している副睾丸との境界がわからないほどの一塊となったはれがみられたりして、最終的には睾丸と副睾丸を破壊することもあります。初めは片方の睾丸にはれが起きるケースがほとんどですが、放置すると両方に起きる恐れもあります。

結核が減少している近年では、結核の二次的発症である睾丸結核の頻度は低下しています。

睾丸結核の検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断では、血液検査や尿検査、前立腺液検査、ツベルクリン反応検査などを行い、体内に結核菌があるかどうかを調べます。なお、精液からの結核菌の証明は困難です。

睾丸が結核にかかっている場合には、痛みや発熱などの症状がなくても、硬い凹凸のあるはれがみられたり、副睾丸と一塊となったはれがみられたりするので、触診による検査を初めに行うこともあります。

睾丸結核に尿路結核が併発していることが多いため、静脈性尿路造影ないし逆行性尿路造影、CT(コンピュータ断層撮影)検査、膀胱(ぼうこう)鏡などの画像検査を行うこともあります。

また、睾丸や前立線などにがんなどの腫瘍(しゅよう)ができている場合にも、同じようなはれが現れたり下腹部痛を感じる場合があるため、睾丸がんなどの検査を同時に行うこともあります。

泌尿器科の医師による治療では、抗結核剤の投与による化学療法を中心とする内科的療法を行います。

肺結核に準じて、普通、最初の2カ月間はリファンピシン、ヒドラジド、ピラジナミド、エタンブトールまたはストレプトマイシンの4種類の抗結核剤を投与し、その後はリファンピシンとヒドラジドの2種類の抗結核剤の投与にし、合計6カ月で治療を完了します。

ピラジナミドを初め2カ月間使うと殺菌力が強く有効ですが、80歳以上の高齢者や肝機能障害のある人には使えません。この場合には、治療は6カ月では短すぎ、最も短くて9カ月の治療が必要です。

抗結核剤の投与によっても完治しない場合には、外科的療法を検討します。腎結核により片方の腎臓の機能が完全に失われている場合には、内科的療法の前に腎臓を摘出する外科的療法を先行することを積極的に検討します。

自覚症状があまり現れないため、結核菌が発見されて治療が始まっても、薬の服用を忘れてしまったり自己判断でやめてしまう人もいます。しかし、結核菌は中途半端な薬の使用で薬に対する耐性ができてしまうこともあるので、服用の必要がなくなるまできちんと検査を受ける必要があります。

早期発見、早期治療を行えば睾丸結核は治りますから、これが原因となっていた男性不妊症であれば、性パートナーの女性が妊娠する可能性も高くなります。

🇹🇩睾丸腫瘍(精巣腫瘍)

睾丸にはれ物ができ、がんであることが多い疾患

睾丸腫瘍(こうがんしゅよう)とは、男性の生殖器官である睾丸に、はれ物ができる疾患。悪性腫瘍、いわゆるがんであることが多く、精巣腫瘍とも呼ばれます。

睾丸、すなわち精巣は、男性の陰嚢(いんのう)内に左右各1個あって卵形をしており、男性ホルモンおよび精子を産生しています。睾丸腫瘍の頻度としては10万人に1〜2人の非常に珍しい疾患ですが、好発年齢は0~10歳、20~40歳、60歳以上の3つのピークがあります。

睾丸腫瘍は、セミノーマ、胎児性がん、卵黄嚢(のう)腫瘍、奇形腫、絨毛(じゅうもう)がんと呼ばれるものに区分されます。これらのいずれも成人にはみられますが、セミノーマが最も多く、全体の約半数。乳幼児にみられるのは、卵黄嚢腫瘍と奇形腫。

がんでは進行が速く、リンパ管や血管を通じて容易に他の臓器に転移するので、放っておくと命にかかわることがあります。しかし近年では、治療法の進歩により9割以上の人が完治するようになりました。転移を起こしてしまった人でも適切な治療を行えば7〜8割の人が治りますが、進行した状態では治療が困難な場合もあります。

なぜがんができるのか、本当の原因はまだわかっていません。ただ、停留精巣や精巣発育不全などの疾患を持っている人、胎児期に母親がホルモン剤投与を受けた人は、睾丸のがんになりやすいと見なされています。

症状で最も多いのは、痛みのない睾丸のはれです。時には、痛みを伴うこともあります。一般に、痛みもなく、熱もないために放置しておくと、陰嚢の中の睾丸の一部が硬くゴツゴツしたり、全体的にはれて大きくなってきます。かなり進行すると、腹部が膨らんだり、せきが出て胸が苦しくなるなど睾丸腫瘍の転移による症状が現れます。

睾丸腫瘍の検査と診断と治療

睾丸のはれ物に気付いた場合には、恥ずかしがらずに泌尿器科の専門医を受診します。

医師による診断では、ほとんどの場合、触っただけで判断できます。判断に迷う場合は、懐中電灯を当てて中身が詰まっているかどうか調べたり、超音波で腫瘍の内部を検査します。診断が確定すれば、血液検査で腫瘍マーカーを調べ、がんが他の臓器に転移していないかどうかを全身のCTやアイソトープを使った検査で詳しく調べます。

治療では、まず腫瘍ごと睾丸(精巣)を取り除きます。陰嚢を切開せず、おなかの下のほうに傷ができる高位除精巣術と呼ばれる方法です。睾丸は左右一対ありますから、片方を摘出しても、もう一方が正常に機能していれば、男性ホルモンや精子を産生する能力が低下したり、勃起(ぼっき)能が衰えるような後遺症はありません。

睾丸を摘出した後、疾患がまだ全身に広がっていない時は、一般に再発予防の治療が行われます。医療機関によっては、摘出した後、定期的な精密検査のみの場合もあります。このような治療法で転移がない場合には、9割以上治ります。

すでにリンパ節や肺、肝臓、骨、さらに脳などに転移している場合は、シスプラチン、エトポシド、ブレオマイシンという3種の抗がん剤による治療が追加されます。1回5日間の点滴を3〜4週間おきに繰り返す方法で、3〜4回行うことが標準的。成人に最も多いセミノーマの場合は、放射線治療も有効です。このような治療で転移があるような進んだがんでも、7〜8割が完治します。

なお、転移が見付からないような初期のがんでも、将来2〜3割に転移が現れるため、予防的な抗がん剤投与や放射線治療を行う場合もあります。

🇨🇫口腔異常感症

はれなどの異常が口腔内に存在しないのに、痛み、しびれ、乾燥感などの異常を感じる疾患

口腔(こうくう)異常感症とは、はれや炎症などの異常が口腔内に存在しないのに、痛み、しびれ、乾燥感、知覚過敏、違和感、異物感などの異常を感じる疾患。中でも多いのは、舌の表面には外見上の異常がないのに、舌に痛み、しびれなどを感じる症状で、これを特にに舌痛(ぜっつう)症といいます。

発症者の多くは女性で、年齢的には更年期を迎える40歳代、50歳代に多いのが特徴です。主に舌の先端や側面に、ヒリヒリした痛みや、焼けるような痛み、しびれ、違和感が現れ、長期間続きます。食事がおいしくない、本来の味がしないなどの味覚異常などを併発していることも、しばしばあります。

舌の痛みやしびれは我慢できないほどではないものの、1日中気になって 舌に意識が集中したり、精神的に緊張したりした時に、症状が出やすいようです。口の中が痛いので、イライラしたり、他のことをやる気がそがれたりすることもあります。

食事や会話には支障がないことが多いものの、食べ終わった後や長電話の後に、また午前中よりも夕方から夜にかけて舌の痛みやしびれが悪化する傾向があります。痛む部位が移動することもあり、唇や口蓋(こうがい)にヒリヒリした痛みが現れることもあります。ガムやアメなどを口に入れておくと、少し痛みが紛れることがあります。

不眠、肩凝り、頭痛など自律神経症状を伴うことが多い傾向もあります。

この口腔異常感症は歯科治療の後に発症することがしばしばあり、入れ歯や歯列矯正具が口に合わず物理的な刺激によって痛みが出たり、歯の治療に用いる金属のアレルギーが原因になっていることもあります。

また、別の原因として、生体内の微量金属である鉄、亜鉛、銅やビタミンB12が欠乏しても、舌の表面が荒れやすくなり、舌の痛みなどを生じやすくなります。 味覚異常を伴っている場合には、血液中の亜鉛欠乏が一因となっている場合もあります。

更年期の女性に多いことから、ホルモンのアンバランスや自律神経の変調なども関係があるとも考えられています。

2002年以降の研究では、ドライマウス(口腔〔こうくう〕乾燥症)も原因になっていると考えられています。ドライマウスでは、唾液(だえき)の分泌量の低下により口の中が乾燥します。口の中の乾燥は症状の進行程度により舌にも悪影響を及ぼし、舌の乾燥、舌の表面のひび割れ、味覚障害などさまざまな症状となって現れます。カンジダ菌という真菌の増殖による舌痛、口角炎も認められます。シェーグレン症候群からもたらされるドライマウスもあります。

薬物の服用によっても、ドライマウスが生じます。従来から、口腔異常感症の原因の大半は心身症あるいは心気症とされてきた関係で、舌の痛みに対する不安を取り除く心理面の治療として、精神安定剤(抗不安剤)、抗うつ剤、向精神剤などが処方されるケースが一般的でした。これらの薬物は、精神面での不安を和らげる効果があるものの、かえって症状が進行するケースもあります。

精神安定剤、抗うつ剤などには、唾液腺(せん)を支配している神経に作用し、唾液分泌量を低下させる作用があることが知られており、ドライマウスの症状が現れることもあります。

口腔異常感症の原因の大半は現在、心身症あるいは心気症と考えられています。日常生活でストレスを抱えている時に発症することがありますし、ストレスを抱えている時に行った歯科治療を契機に発症することがあります。これは心身症と考えられます。

舌の痛いことにとらわれて、舌をいつも観察しては片時も舌の痛みから解放されず、舌がんノイローゼにまでなるような場合は、舌が気になることが疾患で、舌そのものが悪いわけではありません。これは心気症と考えられます。この口腔異常感症が原因で、舌がんになることはありません。

舌の痛みなどを自覚した場合、できるだけ早期に口腔内科、あるいは歯科心療科、心療歯科のような専門機関を受診して、検査を受けることが勧められます。現在のところ、診療する医療機関が割合少ないため、適切な診断と治療がされていないケースが非常に多くなっています。

口腔異常感症の検査と診断と治療

口腔内科などの医師による診断では、まず、視診で口腔内の検査をして、はれや炎症などの原因となる疾患がないかを確認します。また、問診では食事で症状が増強しないか、消失するかを確認します。

安静時と刺激時の唾液量を測定し、唾液腺機能を調べます。血液検査で鉄、亜鉛、銅などの微量金属やビタミンB12の値も調べます。口腔内菌検査は、食事などの影響を受けない早朝の唾液を検体としますが、真菌の一種であるカンジダ菌の増殖の有無には、とりわけ注意します。

心因的要因は問診の際に感じ取れますが、いろいろのアンケートを行って、より客観的に診断します。診断に苦慮する際は軽い精神安定剤(抗不安剤)を少量使用し、症状の変化をみることもあります。

口腔内科などの医師による治療では、検査で異常があった場合は、その治療を行います。入れ歯などの刺激が一因なら、改善する必要があります。微量金属やビタミンの不足の場合は、亜鉛製剤などで不足した物質を補充することで容易に症状は改善します。

舌の痛みやしびれ、乾燥感などの原因となるようなはれや炎症などは見付からず、神経のまひも認められず、血液検査でも特に異常値が認められない場合は心身症と見なし、薬物療法と心理療法などを行います。

最も有効な治療法は抗うつ剤を中心とした薬物療法で、不眠や不安を伴う場合は睡眠導入剤や精神安定剤を併用します。漢方薬が有効なこともあります。抗うつ剤には、その作用機序から三環系、選択的セロトニン取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン取り込み阻害薬(SNRI)などがあります。

抗うつ剤を服用すると、早ければ4日から5日目、遅くても1週間から10日くらいで、舌の痛みが緩和していきます。理想的に治療が進展していけば、3週間から4週間後には痛みは7割方改善していきます。胃腸の調子が少し悪くなる場合もあるものの、軽い整腸剤を併用すればすぐに治まります。

効果が十分得られたら、そのまま数カ月は抗うつ剤の服用を続けて再発を防ぎますが、半年から1年くらいは続けたほうがよい場合が多いようです。年単位で継続しても、きちんと通院していれば特に副作用などの問題は心配ありません。しかしながら、抗うつ剤の鎮痛効果には個人差があります。

心気症の場合は、口腔内に舌がんなどの疾患のないことを根気よく説明し、必要以上に口の中を鏡で見たり、指で触ったりしないようにと説明します。症状が治まらない際は、軽い精神安定剤を用います。

ドライマウス(口腔乾燥症)の場合は、唾液の分泌を促す薬や、ジェルやスプレー状の保湿剤で口の中を潤します。夜間の乾燥を防ぐ保湿用マウスピース(モイスチャープレートなど)、夜間義歯などを症状に応じて用います。薬の副作用が原因なら、主治医と相談して薬の変更や減量を検討します。原因がはっきりすることでストレスが軽くなり、ドライマウス自体が改善する場合もあります。

シェーグレン症候群からもたらされるドライマウスでは、残念ながら根本的な治療法はありません。口や目などの乾燥症状を軽快させることと、疾患の活動性を抑えて進展を防ぐことを目的に、内服薬と症状に応じた人工唾液、口腔乾燥症状改善薬、保湿剤、含嗽(がんそう)剤(うがい薬)などによる対症療法に頼らざるを得ないのが現状です。

日常生活上の注意としては、体内の鉄のほか、亜鉛の低下でも起こりやすくやすくなるので、偏食を避けることが重要です。口腔異常感症は、唾液量の低下もその要因の1つですが、唾液量の低下に引き続いて起こりやすいカンジダの増殖も重要で、歯磨き、うがいなどで口腔内を清潔に保つことを心掛ける必要があります。

🇨🇫口腔カンジダ症(鵞口瘡)

カンジダ菌の感染で、口の粘膜が白い苔状物で覆われる疾患

口腔(こうくう)カンジダ症とは、口腔内に常在するカンジダ菌という真菌によって、主として斑点(はんてん)状の白い苔(こけ)のようなものが生じる疾患。急性偽膜性カンジダ症とも呼ばれ、以前は鵞口瘡(がこうそう)とも呼ばれていました。

乳幼児や老人に多い疾患ですが、生後間もない健康な乳児にみられるものは、放置しておいても自然に消えます。成人がかかることもあります。

原因は真菌(かび)の一種のカンジダ菌の感染で、カンジダ・アルビカンスが圧倒的に多い原因菌となり、カンジダ・トロピカーリス、カンジダ・パラプシローシスなどが原因菌となることもあります。誘因としては全身の衰弱、抗生物質の長期連用、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)、免疫抑制剤、抗がん剤などの使用、がんの放射線治療、ビタミン欠乏、全身疾患による免疫機能の低下が挙げられます。

カンジダ菌は酵母菌(イースト)の一種で、元来、人間の口腔粘膜や腸管の中に住んでいます。これが誘因があってたまたま増殖すると、口腔カンジダ症や皮膚カンジダ症になるのですが、このカンジダ菌は水虫などを起こす白癬菌とは異なって、体の内部に侵入する力があります。そのため、免疫機能の低下がある時には、全身に増殖して、重篤な疾患になることがあります。

口腔カンジダ症の最初は、口腔粘膜、舌、歯肉が赤くはれ、表面が白い斑点状の苔状物の膜で覆われます。この苔状物の膜は軟らかくて、こするとすぐはがれ、はがれたところは赤くただれます。普通、痛みは軽度ですが、舌のズキズキする痛み、違和感、味覚異常を伴うこともあります。熱などの全身症状は、ほとんどありません。

適切な処置をすれば、比較的早くよくなりますが、まれには進行して咽頭(いんとう)から食道、肺に広がって、カンジダ性肺炎を生じることもあります。

口腔カンジダ症の検査と診断と治療

口腔カンジダ症が味覚異常の原因になっていることもありますので、口の中を清潔に保ち、消毒力のあるうがい薬を使ってみます。それで舌などの口腔内の違和感が治らない場合、また全身状態が悪い場合には、食道や肺に広がることがあるので、口腔外科や内科などで治療を受けます。

医師は病状から診断しますが、カンジダ菌が証明されれば確定します。証明のためには、KOH検査(皮膚真菌検査)と培養検査が行われます。KOH検査では、綿棒で皮膚の表面をこすり、それを水酸化カリウム溶液で溶かして、顕微鏡で観察します。5分もあれば結果が出ますが、カンジダ菌の種類の特定までは困難です。培養検査では、クロモアガー・カンジダ培地などで培養します。検査に時間がかかりますが、菌の種類を特定できます。

治療においては、抗真菌剤の外用が主体で、殺菌性消毒剤による口すすぎも有効です。外用剤では、イミダゾール系のものが抗菌域が広く、カンジダ菌に対しても有効性が高く、第一選択薬といえます。ネチコナゾール(アトラント)、ケトコナゾール(ニゾラール)、ラノコナゾール(アスタット)などの新しい薬は、抗菌力が強化されています。基剤としては、軟こう剤、クリーム剤、液剤、ゲル剤があります。口腔カンジダ症ではただれの症状を示すことが多いので、刺激が少ないクリーム剤か軟こう剤が無難です。

なお、抗真菌剤の外用剤は近年、たくさんの新しい薬剤が開発されかなり有効ですが、中には白癬菌にだけ効き、カンジダ菌には効きにくい薬剤もありますので、注意が必要です。

症状が強い場合には、抗真菌剤の内服を行います。内服剤では、トリアゾール系のイトラコナゾール(イトリゾール)が、抗菌域が幅広く、第一選択薬です。副作用は比較的少ないのですが、血液検査は必要で、併用に注意する薬剤があります。特殊な内服剤として、口腔・食道カンジダ症用で、ほとんど吸収されないミコナゾール(フロリード)ゲルがあります。1日1〜2本を4回に分けて内服しますが、口腔カンジダ症では病変部に塗るだけでも有効です。

🇬🇶口腔乾燥症

唾液の分泌量が低下し、口腔内が乾く疾患

口腔(こうくう)乾燥症とは、唾液(だえき)の分泌量が少なくなって唾液の質に異常を来し、口の中やのどが渇く疾患。ドライマウスとも呼ばれます。

ストレスやうつ病による影響が主な原因ですが、さまざまな原因が考えられます。アレルギーを抑える抗ヒスタミン剤、抗うつ剤、血圧を下げる降圧剤、鎮痛剤、抗パーキンソン剤など多くの薬の副作用でも起こります。

自分の免疫細胞が唾液腺(せん)や涙腺を攻撃してしまうシェーグレン症候群でも、口や目が渇きます。糖尿病や更年期障害、腎(じん)障害、唾液腺障害、口腔周囲の筋力の低下、食習慣、放射線が関係することもあります。

保湿や抗菌作用がある唾液が足りないと、食べ物の味がよくわからない味覚障害、水分の少ない食品が飲み込めないなどの嚥下(えんげ)障害、口の中がネバネバするなどの不快感、口腔の粘膜の乾燥、夜間の乾燥感といった症状が現れます。さらに、義歯の不適合、装着時の痛み、カンジダ菌という真菌の増殖による舌痛(ぜっつう)や口角炎も認められます。

虫歯の多発や悪化、歯周病、舌苔(ぜったい)の肥厚、舌表面のひび割れ、口内炎や口臭、食事がとれない摂食障害、会話時に話しづらいなどの発音障害を引き起こすこともあります。

口腔乾燥症の検査と診断と治療

歯科口腔外科、歯科、内科の医師による診断では、安静にして自然に出てくる唾液を15分間採取し1・5ミリリットル以下だと、口腔乾燥症の可能性が高いと判断します。

原因により対処は異なりますので、原因を明らかにします。血液検査や画像検査で、シェーグレン症候群などの判別もできます。

歯科口腔外科、歯科、内科の医師による治療は、唾液の分泌を促す薬や、ジェルやスプレー状の保湿剤で口の中を潤します。夜間の乾燥を防ぐ保湿用マウスピース(モイスチャープレートなど)、夜間義歯などを症状に応じて処方します。

薬の副作用が原因なら、主治医と相談して薬の変更や減量を検討します。原因がはっきりすることでストレスが軽くなり、口腔乾燥症自体が改善する場合もあります。

あごをよく動かして食べ物をかむことも大切。ほおや唇の内側など、口の中に広がっている唾液腺を刺激するマッサージも有効です。舌を転がして押し付けたり、指を入れて軽くこすったりします。口腔筋機能療法も、筋力を強化させ唾液分泌を促進させる効果が期待できます。

シェーグレン症候群からもたらされる口腔乾燥症では、残念ながら根本的な治療法はありません。口や目などの乾燥症状を軽快させることと、疾患の活動性を抑えて進展を防ぐことを目的に、内服薬と症状に応じた人工唾液、口腔乾燥症状改善薬、保湿剤、含嗽(がんそう)剤(うがい薬)などによる対症療法に頼らざるを得ないのが現状です。

>なお、シェーグレン症候群で全身性の臓器病変のある人の場合は、内科などでステロイド剤や免疫抑制剤などを含めて適した治療を受けるべきです。

🇬🇶航空性中耳炎

飛行機の離着陸時の上昇、下降に伴う気圧変化が原因で起こる中耳炎

航空性中耳炎とは、飛行機や飛行船、気球などの航空機の離着陸時の上昇、下降に伴う気圧変化が原因で起こる急性中耳炎の一種。多くは、上昇よりも下降に伴って起こります。

耳の鼓膜と内耳との間にある中耳には、少量の空気が入っており、耳管と呼ばれる管で、鼻の奥にある上咽頭(じょういんとう)部とつながっています。この耳管は通常閉じていますが、唾(つば)を飲み込んだ時や、あくびをした時などに一瞬だけ開いて空気を通すことにより、外部の気圧と中耳の気圧を一定に保っています。

乗客として飛行機を利用した際は、離陸時に上昇すると気圧は低下して中耳の中に入っている空気が膨張し、逆に着陸時に下降すると気圧は上昇して中耳の中に入っている空気が収縮します。このように気圧が急激に変化した時には、本来は鼻側の耳管が開いて外部の気圧と中耳の気圧を一定に保ちますが、耳管が開きにくくなっていたり閉じていると、外部の気圧と中耳の気圧の差が生じて航空性中耳炎が起こります。

飛行機以外でも、高層ビルのエレベーター、高山でのドライブなどで急激な気圧の変化にさらされた時に、航空性中耳炎が起こることもあります。

軽症の場合、耳が詰まるような感じや軽い痛み、難聴、頭痛が出ますが、数分から数時間で治ります。重症の場合、内耳のリンパ液が漏れて、針で刺されるような激しい痛みや、ゴーという低い耳鳴り、めまいが現れます。

風邪を引いていたり、アレルギー性鼻炎や副鼻腔(びくう)炎があって鼻の粘膜がはれていたり、上咽頭部に腫瘍があると、重症になります。この場合には、適切な治療や処置を行わなければ、数時間から数日間症状が続きます。

さらに重症になると、鼓膜の内側の中耳に血液が混じった液体がたまり、痛みも激しいものになります。

軽症の場合は、水やジュースを飲む、アメなどをなめる、またはあくびをすることで症状が改善されます。これで改善されない場合は、耳抜き(トインビー法)を試み、鼻をつまんで唾を飲み込みます。これを数回繰り返します。

やや重症の場合には、耳抜き(バルサルバ法)を試み、最初に鼻をかみ、次に鼻をつまんで空気を吸い込み、口を閉じて吸い込んだ息を耳へ送り込みます。これを耳が抜ける感じがするまで、数回繰り返します。

効果のない場合、血管収縮剤を含んだ点鼻薬を噴霧し、10分ほどしてから繰り返します。日本の航空会社では、点鼻薬が機内に常備されていることもあります。

どの方法も効果がなく、飛行機から降りても耳の痛みが緩和されない場合は、速やかに耳鼻咽喉(いんこう)科、耳鼻科を受診します。

航空性中耳炎の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科、耳鼻科の医師による診断では、何らかの気圧の変化の確認と、顕微鏡で鼓膜の発赤、血管拡張、内側への陥没、中耳の貯留液を認めれば、容易に航空性中耳炎と判断できます。

また、耳管の上咽頭開口部に、むくみや発赤などの炎症を認めることがあります。ティンパノメトリーという鼓膜の動きの程度を調べる検査を行うと、可動性障害を認めます。

耳鼻咽喉科、耳鼻科の医師による治療では、通常の中耳炎に対する治療と同様の処置を行います。細菌感染を伴うと炎症が悪化するため、抗生剤、抗ヒスタミン剤、消炎酵素剤などの内服や、耳管から空気を入れる通気療法が主体です。

痛みなどの急性症状は数日以内に改善することが多いものの、耳閉感、難聴は改善するまでに週単位で時間がかかることもあります。

薬による保存的治療で症状が改善しない時や、中耳に貯留液や膿汁(のうじゅう)を認める時には、鼓膜切開を行うこともあります。鼓膜を切開しても聴力に影響はなく、切開した穴も普通は自然にふさがります。繰り返し貯留液や膿汁を認める時には、鼓膜に排出するチューブを留置することもあります。

風邪や鼻炎がある場合は、その治療も行います。鼻呼吸障害が原因となっている場合は、それに対する手術も行います。

予防としては、乗客として飛行機に搭乗する当日に、風邪やアレルギー性鼻炎の症状があったら、市販の点鼻薬を搭乗前と着陸時の下降前に使用し、飛行機が上昇、下降した時に耳抜きを繰り返します。

また、眠っていると唾の飲み込みなどの運動が極端に少なくなるので、気圧が急激に変化する下降時には、目を覚ましていることが予防になります。飲酒も耳管周囲の粘膜をはれさせるため、避けることが予防になります。

🇬🇦口腔粘膜粘液嚢胞

主に下唇の粘膜側に生じる半透明のドーム状隆起

口腔粘膜粘液嚢胞(こうくうねんまくねんえきのうほう)とは、主に下唇の粘膜側に、水膨れのような半透明のドーム状隆起が生じる疾患。
 唾液(だえき)の流出障害によって起こり、唾液腺(せん)本体がはれるためにドーム状隆起が生じます。唾液は主に、大唾液腺と呼ばれる耳下腺、舌下腺、顎下(がっか)腺から分泌されますが、口唇や舌、頬(ほお)粘膜には小唾液腺と呼ばれる組織が多数存在しており、各々の唾液腺には唾液を出す細い管が存在します。大唾液腺での発症より、小唾液腺で高い頻度で発症する疾患ですが、唾液腺が存在する部位であれば口腔内のどの部位にでも発症する可能性があります。
 口腔粘膜粘液嚢胞の原因や誘因として、唾液を口腔内に流すホースの役目をする部位である唾液腺導管の閉塞(へいそく)、慢性外傷、慢性炎症、異物の存在が挙げられます。これらにより唾液が正常に流出できず、唾液腺導管の中に唾液がたまって粘膜の下に水風船のようなものができることで、水膨れのような半透明のドーム状隆起が生じます。
 内容液が透けて見え、触ると軟らかく、大きさは直径2ミリから10ミリ以上になることもありますが、はれても無痛性であることがほとんどです。隆起の表面は白くふやけていることも多いのですが、逆に周囲よりも赤く見えることもあります。
 特に下唇の裏側の粘膜に生じる頻度が高く、歯でかんだり傷付けたりと慢性的に外傷を受けやすい部位であるためと見なされます。自然に破れて内容液が流出し消失することもありますが、時間が経つと再発することもあります。
 皮膚科などを受診し、診断を確定した上で、治療するかどうかを相談してください。

口腔粘膜粘液嚢胞の検査と診断と治療

 皮膚科、皮膚泌尿器科、内科、口腔外科、歯科口腔外科などの医師による診断では、通常、見た目で診断できます。針を刺す穿刺(せんし)をすれば、黄色調で透明なゼリー状の粘液が排出されます。
 皮膚科、皮膚泌尿器科、内科、口腔外科、歯科口腔外科などの医師による治療では、診断が確定すれば、放置しておいて差し支えありません。
 口腔内にできる粘液嚢胞は、それ自体が悪性の腫瘍(しゅよう)など病的なものではなく、放置しても二次的な疾患を生じることはありません。ドーム状隆起が自然に消えていくこともあるため、普段の生活で邪魔でなければ、無治療で経過観察しても構いません。
ただ、放置しておくと粘液嚢胞が大きくなって生活に支障が出たり、歯が当たってまた膨れてくるというように再発を繰り返す場合もあり、根本的に治したい場合は、はれた唾液腺本体である粘液嚢胞を手術で摘出します。

摘出が終わった後は傷口を糸で縫いますので、10日ほどに後に受診してもらって糸を取ります。最初はしこりが残ったり、手術した周囲にしびれが残ったりすることがありますが、ほとんどのケースでは時間とともに、しびれの範囲が小さくなります。

🇬🇦口腔白板症

舌や口腔粘膜の上皮が白濁、角化する疾患

口腔白板(こうくうはくばん)症とは、舌や口腔粘膜の表面が白く濁り、触れると硬い疾患。白板症とも、ロイコプラキーとも呼びます。

この粘膜上皮が白濁、角化する状態は、いろいろな原因で起こります。継続的に作用する物理的、化学的な刺激で起こるもの、粘膜苔癬(たいせん)など慢性の炎症があって起こるもの、カンジダがついて起こるもののほかに、がん前駆症としての口腔白板症もあります。原因不明なものも少なくありません。従って、口腔白板症のすべてが悪性というわけではありません。

継続的に作用する物理的、化学的な刺激としては、たばこ、アルコール飲料、刺激性食品、過度なブラッシングによる擦過、虫歯、不適合な補綴(ほてつ)物と充填(じゅうてん)物である金冠や金属の詰め物、入れ歯などが挙げられます。

この口腔白板症は、女性の2倍と男性に多くみられ、年齢では50歳〜70歳代に多くみられます。好発部位は舌で、次いで歯肉、ほお、口蓋(こうがい)、口腔底などが続きます。

症状としては、舌や口腔粘膜の一部がさまざまな程度の白色になり、徐々に表面にしわができます。白色の程度も高度になり、いぼ状に隆起してくるものもあります。また、隆起はしないで、赤い部分が混在してくるものもあります。白斑(はくはん)のみでは痛むことはありませんが、紅斑が混在するものでは痛みを伴うようになります。

長期に経過すると、口腔白板症からがんが発生することもあります。ある確率で、がんに発展するような皮膚の異常をがん前駆症といいますが、がん前駆症としての口腔白板症は、舌の側面に最も起こりやすく、不規則な形をしています。その一部が崩れて、腫瘍(しゅよう)やびらんができたり、割れ目を生じたり、隆起してくる場合には、注意が必要です。口腔扁平(へんぺい)上皮がんに進展する確率が高く、すでにがんを発生している場合があります。

口腔白板症の検査と診断と治療

口の中に、白色あるいは白色と赤色の混在する病変を見付けた場合、あるいは長い間続いていた口の中の異常が急に変化して、びらん、潰瘍(かいよう)を生じたり、大きさが増したりした場合には、すぐに皮膚科、口腔外科の専門医の診断を受けます。

口腔白板症の診断のためには、実際の病変の一部を切り取って、顕微鏡で組織検査をする生検を行います。広範囲に病変が存在する場合は、複数の部位より切り取ります。口腔白板症の病理組織像は多彩で、種々な程度の角化の高進、有棘(ゆうきょく)層の肥厚、上皮下への炎症性細胞浸潤、上皮の種々の程度の異形成などが認められます。特に、がん化との関連性においては、上皮異形成の程度は重要になります。

治療としては、まず刺激源になっているものがあれば、除去します。次に、ビタミンAを投与し、反応するか否かを観察します。ビタミンAによる薬物治療に反応せず、生検で上皮異形成と診断される病変があれば、病変の粘膜を手術で切除します。広範囲の病変では、切除すると機能障害が出ます。

なお、口腔白板症のすべてが悪性というわけではなく、良性の変化にとどまることも多く、必ず治療しなければならないというものではありません。また、口腔白板症から口腔扁平上皮がんに進展しても、経過観察を定期的に行えば、極めて早期に対処することも可能です。

🇨🇩高グリシン血症

血液中に高濃度にグリシンが蓄積し、けいれん、呼吸障害などの神経症状を引き起こす疾患

高グリシン血症とは、脳や肝臓に存在するグリシン開裂酵素系の遺伝的な欠損のために、血液中や脳にグリシンが大量に蓄積することにより発症する疾患。グリシン脳症とも呼ばれ、先天性代謝異常症の一種です。

グリシンは中枢神経系で神経伝達物質として働くため、グリシン蓄積が重篤な神経障害をもたらします。新生児期に無呼吸となり突然死に至る重症型と、筋緊張の低下と精神発達の遅滞のみを示し、成人で偶然診断されることもある軽症型(遅発型)が存在します。いずれも常染色体の劣性形質として遺伝します。

日本における発症率は、新生児60~70万人当たり1人と見なされます。欧米では新生児25万人当たり1人の割合で発症しますが、国によって大きな差があり、フィンランド北部で発症頻度が高く、発症率は新生児1万人当たりに1人となっています。カナダのブリティッシュ・コロンビア州で、新生児6万人当たり1人という報告もあります。

グリシン開裂酵素系は複合酵素で、GLDC、AMT、GCSH、DLDの4つの遺伝子にコードされる酵素により構成されています。遺伝子に変異が生じると、遺伝子情報に基づいて合成された蛋白(たんぱく)質を基にして構成されている酵素にも変異が生じ、グリシンの分解反応を進めることが不可能になる結果、分解されなかったグリシンが血液中に蓄積し、高グリシン血症を発症します。

高グリシン血症の約6割ではGLDC遺伝子に変異を認め、残りの約2割ではAMT遺伝子に変異を認めます。GCSH 遺伝子の変異は極めてまれです。DLD遺伝子変異はリー脳症を引き起こしますが、高グリシン血症とはなりません。

重症型は、生後数日以内に活力低下、筋緊張の低下、無呼吸、しゃっくり、昏睡(こんすい)などが始まり、後に30分以上けいれんが持続するけいれん重積が起こり、しばしば死に至ります。

人工換気などの治療で新生児期を乗り切ると、自発呼吸が出てきます。その後、成長は認められますが、精神機能や運動機能の発達の遅れが目立つようになります。

重症型には、左右の大脳半球をつなぐ脳梁(のうりょう)の欠損、大脳皮質にあるシワの隆起した部分である脳回(のうかい)の異常、水頭症などの脳形成異常が高率に合併します。

軽症型は、新生児期をほぼ無症状に過ごし、乳幼児期から発達の遅れや筋緊張の低下が現れます。診断の手掛かりとなる特異的な症状を欠くため、多くは未診断のままと考えられます。軽症型では、多動、衝動的行動などの注意欠損多動症候群に類似した行動異常を伴います。

高グリシン血症の検査と診断と治療

小児科、小児神経科の医師による診断では、CTやMRIなどの頭部画像検査、血液検査、尿検査、脳脊髄(せきずい)液検査、脳波検査などを適宜行います。最近では、13Cグリシン呼気試験によって残存酵素の活性の程度を検査することもあります。

小児科、小児神経科の医師による治療では、有効な治療法が確立していないため、体内に蓄積したグリシンの排出目的で安息香酸(あんそくこうさん)ナトリウムの大量投与を行います。

グルタミン酸受容体の一種のNMDA型グルタミン酸受容体の拮抗(きっこう)剤(ブロッカー)であるデキストロメトルファン、ケタミンなどの投与による治療が、重症型の高グリシン血症の早期新生児期の障害を軽減してくれますが、長期予後はよくありません。

🇨🇩行軍腫(趾間神経痛)

足先への過度の荷重が原因で、足指や足指の付け根にしびれ、痛みが生じる疾患

行軍腫(こうぐんしゅ)とは、体のバランスを保つ中足骨(ちゅうそくこつ)の間の神経がはれて、足指や足指の付け根にしびれ、痛みを生じる疾患。趾間(しかん)神経痛、モートン病、モルトン病、モートン神経腫(しゅ)とも呼ばれます。

古くから靴の文明が発達していた欧米人に多くみられた足指の神経痛の一種ですが、1876年にトーマス・モートンが足指の第3趾と第4趾の間の付け根にある神経の炎症であると、初めて報告しました。

日本では第2次世界大戦中に、隊を組んで長距離を行進する行軍で、多くの陸軍の歩兵がこの行軍腫に悩まされたといわれています。戦後は、おしゃれな靴が好まれるようになり、多くの女性が悩まされることとなりました。

足先への過度の荷重が発症の原因とされていて、ハイヒールや窮屈な靴の常用、中腰の姿勢での作業などで、足の指の付け根の関節でつま先立ちをする格好が長時間続く人に、起こりやすくなります。幅の狭い靴、底が薄くて硬い靴を履くことの多い人、硬い床の上でダンスをする人、硬い路面の上でランニングなどの反復性の運動をする人に、起こることもあります。

また、行軍腫は足底の横アーチの崩れとも関係していて、足が徐々に偏平になってくる中年以降の女性に多く発症します。

足の中足骨は深横中足靭帯(じんたい)によってつなぎ止められていて、その間を指神経(固有底側指神経)と呼ばれる感覚の神経が通っています。そして、足指の第3趾と第4趾の間の付け根には、指神経が交錯する神経腫と呼ばれる神経の固まりがあります。

この神経腫が深横中足靱帯と地面の間で圧迫されて、足指や足指の付け根にしびれ、痛みを生じるほか、第2趾と第3趾の間の付け根にある滑液包と呼ばれるクッションが繰り返される刺激によって炎症を起こして、指神経を圧迫し、足指や足指の付け根にしびれ、痛みを生じることもあります。

症状として、前足部に体重がかかったり、ハイヒールや窮屈な靴を履くと、足指や足指の付け根にしびれ、痛みや、異物感を感じます。歩くだけで激しい痛みを感じる場合があり、足指にかけての知覚障害が発生する場合もあります。時には、痛みが下腿(かたい)まで及ぶこともあります。一般的には、障害部位は第3趾と第4趾にまたがって起き、第2趾と第3趾、第4趾と第5趾にまたがることもあります。

通常は片側の足だけに生じるものの、時には両足に同時に障害が起こることもあります。圧迫部の近位に仮性神経腫といわれる有痛性の神経腫が形成される場合は、足底から第3趾または第4趾の付け根を圧迫すると痛みがあったり、前足部を手で両側から締め付けるようにすると痛みが誘発されます。

行軍腫(趾間神経痛)の検査と診断と治療

整形外科、神経内科の医師による診断では、 障害神経の足指間に感覚障害、中足骨頭間の足底に有痛性の仮性神経腫があり、仮性神経腫をたたくとその支配領域に痛みが放散するチネルサインがあれば、診断は確定できます。また、足指を背屈するか、つま先立ちをしてもらうと痛みが強くなります。

X線(レントゲン)検査、筋電図検査、MRI検査、超音波検査なども、必要に応じて行われます。

整形外科、神経内科の医師による治療では、まずハイヒールの使用や中腰での作業を禁止して局所の安静を図り、消炎鎮痛剤などの薬剤内服、足の横アーチを整える足底板の靴底への挿入、筋肉の伸びを制限することで痛みの緩和を図るキネシオテーピング 、靴の変更、温熱療法、運動療法、痛みを和らげるブロック注射などを用いた保存的療法を行います。

発症から治療までの期間が短ければ短いほど、保存療法で治る割合が高くなっています。鍼灸(しんきゅう)治療が有効な場合もあります。

3カ月ほど様子をみて保存療法で症状が回復しない場合や、日常生活に支障を来す場合は、手術が必要になることもあります。手術には、神経剥離(はくり)、神経腫摘出、深横中足靱帯の切離などがあります。しかし、神経腫を切除しても痛みが楽にならないこともあるので、仮性神経腫状態にしないことが肝心です。

そのためには、足指と足底筋を鍛えて足のアーチを維持する必要があり、足じゃんけん、ビー玉拾いエクササイズ、歩行運動などが勧められます。足じゃんけんは、指全体を曲げてグー、親指だけ立ててチョキ、全部広げてパーをするもので、風呂の中などでするのも一案です。

また、足に負担をかけないためにも適切な体重を維持するとともに、自分の足に合った靴を選ぶことも大切です。お勧めの靴は、つま先に1~1・5cmくらいの余裕があり、靴紐(ひも)かマジックベルトが付いていて、靴底は硬めで、ある程度の重さのあるタイプ。

🟧RSウイルス感染症が「流行入り」 静岡県が注意呼び掛け

 静岡県は26日、直近1週間(15~21日)のデータから「RSウイルス感染症が流行入りしている」と発表しました。定点医療機関となっている小児科1カ所当たりの患者数は1・64人で、県が流行入りの目安としている「1人」を大きく上回りました。前週の0・9人よりも8割増加し、急拡大が懸...