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2022/08/31

🇺🇿太田母斑

褐青色の色素斑が、まぶたから額、頬にかけてできる皮膚の疾患

太田母斑(おおたぼはん)とは、片側のまぶたから額、頬(ほお)にかけてできる、境界の不明瞭な褐青色の色素斑。眼上顎部(がんじょうがくぶ)褐青色母斑とも呼ばれます。

母斑は、皮膚の一部分に色調や形状の異常が現れる状態で、あざとも呼ばれ、皮膚から盛り上がることはありません。

太田母斑は、詩人や作家としてのペンネーム木下杢太郎(もくたろう)でも知られる皮膚科の医学者・太田正雄東大教授が、1939年(昭和14年)に初めて報告した疾患で、日本人など東洋人に比較的多くみられます。

通常は顔の片側に色素斑ができますが、両側にできる場合もあります。また、生後間もなく色素斑ができる早発型と、小児期や思春期に色素斑ができて徐々に拡大する遅発型の2種類があります。

さらに、色素斑は顔面の皮膚だけでなく、眼球結膜や口の粘膜、鼓膜にできることがあります。

色素斑は、三叉(さんさ)神経の第1・第2枝の支配領域にみられ、青みを帯びた色素斑の中に褐色調の小さな斑点が散在した状態で現れます。皮膚の表面は滑らかで、盛り上がったりしません。

原因は、メラノサイト(メラニン細胞、メラニン形成細胞、色素細胞)にあります。通常は表皮にあって、メラニンという皮膚の色を濃くする色素を作り出すメラノサイトが、深い部分の真皮の上層に存在し増殖しているために、皮膚が褐青色に見えてしまいます。

色素斑が拡大したり、色調が濃くなったりすることもあり、自然に消えることはありませんが、悪性化を心配することもありません。

なお、同様の色素斑が肩から上腕に見られることがあり、これは伊藤母斑と呼ばれます。

本人が特に気にしなければ、太田母斑の治療の必要はありません。見た目が気になるようなら、カバーマークによる化粧で色を隠すのも選択肢の一つですが、皮膚科、皮膚泌尿器科、ないし形成外科を受診し色素斑を除去することも勧められます。

太田母斑の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科、ないし形成外科の医師による診断では、部位や色素斑の様子から視診で判断します。皮膚をほんの少し切り取って病理組織検査を行うと、真皮上層に色素含有メラノサイトが認められます。

また、異所性蒙古(もうこ)斑、青色母斑などの皮膚疾患と鑑別します。

皮膚科、皮膚泌尿器科、ないし形成外科の医師による治療では、悪性化の心配はないため、見た目の問題で気になるならQスイッチレーザー治療により、色素斑を除去します。

Qスイッチレーザーには、ルビーレーザー、アレキサンドライトレーザー、ヤグレーザーなどがあり、レーザーの種類により多少の効果や経過の違いがみられます。特定のレーザー光線を照射すると、皮膚の中にあるメラニン色素に対してのみ反応するため、周辺の正常な皮膚組織へのダメージを極力抑えながら、色素斑の元になっているメラニン色素だけを破壊することができます。

いずれのレーザー治療も痛みを伴うため、麻酔シール、注射などを使用して痛みの緩和を行います。治療対象となる太田母斑の色が濃く、範囲が広い場合は、1〜2回のレーザー照射だけは不十分で、およそ3カ月の間隔で、少なくとも5~6回の照射を行います。

治療時期は何歳からでも可能ですが、小児の場合は全身麻酔が必要なため3歳ごろから開始するのが普通で、早期から開始するほうが効果が高いといわれています。成人の場合でも、かなり色調が改善し、完全に色素斑を除去できることもあります。

眼球の色素斑はレーザー照射ができないので、現在は治療法がありません。

2022/08/27

🇲🇿口唇口蓋裂

上唇の一部に裂け目が現れたり、上顎に破裂が現れたりする先天性異常

口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)とは、上唇(うわくちびる)の皮膚の一部に裂け目が現れる状態の口唇裂と、口と鼻を隔てている上顎(うわあご)に破裂が現れる状態の口蓋裂との総称。唇裂口蓋裂とも呼ばれ、先天性異常の一つです。

妊娠初期に複雑な発生の過程をへて、顔面が形成されます。胎生期第4~7週ころに、前頭突起(内側鼻隆起)と左右の上顎(じょうがく)突起が癒合して上唇ができます。この癒合が障害されると、口唇裂になります。口唇裂といえば通常、上唇の一部に裂け目が現れる上唇裂をいい、下唇の一部に裂け目が現れる下唇裂は非常にまれです。口唇裂は、唇裂、兎唇(としん)とも呼ばれ、三つ口とも俗称されます。

この口唇裂は、裂け目が鼻まで達する完全口唇裂、裂け目が鼻まで達しない不完全口唇裂、左右の唇のどちらか一方に裂け目がある片側口唇裂、左右両側に裂け目がある両側口唇裂、さらに、唇の縁の小さなへこみや、唇から鼻の穴までの傷跡のように見える軽微な口唇裂である痕跡(こんせき)口唇裂に分けられます。

口唇裂は、さまざまな要因が複雑に絡み合って現れると考えられており、特に特定の原因があるわけではありません。口腔(こうくう)の発生にかかわる遺伝子の変異が関係したり、妊娠中の喫煙、胎内での風疹(ふうしん)感染、胎児脳内圧の異常高進、薬物などの環境要因が関係していると考えられています。染色体異常に伴う場合は、内臓疾患や生後の発育、発達の遅れがみられる場合があります。

顔面の口や鼻が形成された後、胎生期第7~12週ころの間に、口の中では口蓋がつくられます。口腔と鼻腔の間に口蓋突起が左右から伸び、前方から後方へと癒合が進んで上顎(口蓋)が形成されます。この過程が障害されると、口蓋突起が最期まで癒合せずに口腔と鼻腔が破裂したままになり、口蓋裂ができます。

口蓋裂は、口蓋の奥の部分の軟口蓋に破裂があるもの、口蓋の前方3分2の部分の硬口蓋に破裂があるもの、軟口蓋と硬口蓋の両方に破裂があるものに分けられます。

口唇裂と口蓋裂は別々にみられることもありますが、両者が合併した口唇口蓋裂が多くみられます。さらに、歯を支えている顎骨である歯槽骨の破裂が現れる顎裂を合併することもあります。口唇裂、口蓋裂、顎裂を含めると、発生頻度は全出産の0・2パーセントといわれています。

生後すぐ、あるいは胎児期の超音波検査で、口唇裂が認められます。

口唇口蓋裂があると、歯の形態異常、欠損、歯列不正などが認められます。口蓋裂があると、授乳障害があり、ミルクが鼻から逆流しやすくなったり、発音が鼻に抜けたりする症状がみられ、中耳炎、誤嚥(ごえん)性肺炎を合併することが多くみられます。

出生後、口唇口蓋裂、口唇裂、口蓋裂、痕跡口唇裂が認められた場合は、口唇口蓋裂を専門に治療し、発育、発達の定期的なフォローも含め、総合的に診療している口腔外科、形成外科を紹介してもらい、受診することが望まれます。痕跡口唇裂は外見上は軽微な変化であっても、その下にある口輪筋への影響があり、深刻度を判断してもらう必要があります。

口唇口蓋裂の検査と診断と治療

口腔外科、形成外科の医師による治療は、矯正歯科、小児歯科、耳鼻咽喉(いんこう)科、言語聴覚士、小児科など各科の医師とのチーム医療で行われることが一般的です。

口腔外科、形成外科の医師による治療は、手術が主体で、手術前にはホッツ床というプレートを上顎にはめて、授乳しやすくします。

手術時期は、口唇裂と口蓋裂で異なり、発音機能と上顎の発育の両面を考えながら決めます。一般的には、口唇裂はミラード法などで生後3カ月ころに実施し、裂けた口唇の閉鎖と再建、変形した鼻の位置の適正化、口輪筋の連続性の再建を図ります。口蓋裂は1歳以降に、ファーロー法などの手術を実施し、口蓋部分における口腔と鼻腔の閉鎖、軟口蓋における口蓋帆挙筋などの左右に分かれた筋群の再建を図ります。

多くの場合、年齢が大きくなってから、形成や矯正の手術が必要になります。言語聴覚士による発音の訓練も必要です。

🇺🇬口唇裂

上唇の一部に裂け目が現れる先天性異常

口唇裂とは、上唇(うわくちびる)の皮膚の一部に裂け目が現れる先天性異常。唇裂、兎唇(としん)とも呼ばれ、三つ口とも俗称されます。

妊娠初期に複雑な発生の過程をへて、胎児の顔面が形成されます。胎生期第4~7週ころに、前頭突起(内側鼻隆起)と左右の上顎(じょうがく)突起が癒合して上唇ができます。この癒合が障害されると、口唇裂になります。口唇裂といえば通常、上唇の皮膚の一部に裂け目が現れる上唇裂をいい、下唇の皮膚の一部に裂け目が現れる下唇裂は非常にまれです。

この口唇裂は、裂け目が鼻まで達する完全口唇裂、裂け目が鼻まで達しない不完全口唇裂、左右の唇のどちらか一方に裂け目がある片側口唇裂、左右両側に裂け目がある両側口唇裂、さらに、唇の縁の小さなへこみや、唇から鼻の穴までの傷跡のように見える軽微な口唇裂である痕跡(こんせき)口唇裂に分けられます。

口唇裂は、さまざまな要因が複雑に絡み合って現れると考えられており、特に特定の原因があるわけではありません。口腔(こうくう)の発生にかかわる遺伝子の変異が関係したり、妊娠中の喫煙、胎内での風疹(ふうしん)感染、胎児脳内圧の異常高進、薬物などの環境要因が関係していると考えられています。染色体異常に伴う場合は、内臓疾患や生後の発育、発達の遅れがみられる場合があります。

口唇裂は単独でみられることもありますが、口と鼻を隔てている上顎(うわあご)に先天性に破裂が現れる口蓋裂(こうがいれつ)と合併した口唇口蓋裂が多くみられます。さらに、歯を支えている顎骨である歯槽骨の破裂が現れる顎裂を合併することもあります。

口唇裂の発生頻度は、全出産の0・08パーセントといわれています。口唇裂、口蓋裂、口唇口蓋裂、顎裂を含めた発生頻度は、全出産の0・2パーセントといわれています。

胎児の顔面の口や鼻が形成された後、胎生期第7~12週ころの間に、口の中では口蓋がつくられます。口腔と鼻腔の間に口蓋突起が左右から伸び、前方から後方へと癒合が進んで上顎(口蓋)が形成されます。この過程が障害されると、口蓋突起が最期まで癒合せずに口腔と鼻腔が破裂したままになり、口蓋裂ができます。

口蓋裂は、口蓋の奥の部分の軟口蓋に破裂があるもの、口蓋の前方3分2の部分の硬口蓋に破裂があるもの、軟口蓋と硬口蓋の両方に破裂があるものに分けられます。

生後すぐ、あるいは胎児期の超音波検査で、口唇裂が認められます。

口唇口蓋裂があると、歯の形態異常、欠損、歯列不正などが認められます。口蓋裂があると、授乳障害があり、母乳やミルクが鼻から逆流しやすくなったり、発音が鼻に抜けたりする症状がみられ、中耳炎、誤嚥(ごえん)性肺炎を合併することが多くみられます。

出生後、口唇裂のほか、口蓋裂、口唇口蓋裂、痕跡口唇裂が認められた場合は、口唇口蓋裂を専門に治療し、発育、発達の定期的なフォローも含め、総合的に診療している口腔外科、形成外科を紹介してもらい、受診することが望まれます。痕跡口唇裂の場合、外見上は軽微な変化であっても、その下にある口輪筋への影響があり、深刻度を判断してもらう必要があります。

口唇裂の検査と診断と治療

口腔外科、形成外科の医師による治療は、矯正歯科、小児歯科、耳鼻咽喉(いんこう)科、言語聴覚士、小児科など各科の医師とのチーム医療で行われることが一般的です。

口腔外科、形成外科の医師による治療は、手術が主体で、手術前にはホッツ床という柔らかい樹脂でできた入れ歯のようプレートを上顎にはめて、授乳しやすくします。

手術時期は、口唇裂と口蓋裂で異なり、発音機能と上顎の発育の両面を考えながら決めます。一般的には、口唇裂はミラード法などで生後3カ月以後、体重5キログラムを目安に実施し、裂けた口唇の閉鎖と再建、変形した鼻の位置の適正化、口輪筋の連続性の再建を図ります。

口蓋裂は1歳以降に、ファーロー法などの手術を実施し、口蓋部分における口腔と鼻腔の閉鎖、軟口蓋における口蓋帆挙筋などの左右に分かれた筋群の再建を図ります。

高度な完全口唇裂では、初回の手術だけで完全な形態の再建が完成するとは限らず、就学前あるいは青年期に、口唇や鼻の修正手術を必要とすることがあります。言語聴覚士による発音の訓練も必要です。

🇸🇴色素性母斑(黒あざ、黒子)

皮膚のすべての部位にできる黒色の色素斑

色素性母斑(ぼはん)とは、皮膚のすべての部位にできる褐色から青黒色、あるいは黒色の色素斑。母斑細胞性母斑とも呼ばれます。

母斑というのは、皮膚の部分的な奇形のことです。その皮膚の奇形というのは、皮膚の成分の一部が遺伝的素因により、異常に発育、増殖した状態をいいます。この場合、生まれた時からあるものもあるし、生後数年、あるいは数十年後に初めて出てくることもあります。

母斑の代表的なものが、この色素性母斑です。色素性母斑の大きさは大小いろいろで、皮膚と同じ高さのものから、半球状に隆起したものまであります。

色素性母斑の一番小さい型が、いわゆるほくろ(黒子)です。つまり、点状の小さく黒い色素斑や、小豆大の半球状に隆起した黒い小さな結節。顔や全身にあり、小さい時から次第に数は増加し、古くなると色が自然に消えることもありますが、大きさは次第に増大します。

比較的大きな色素性母斑は、いわゆる黒あざです。生れ付きあることが多く、その多くは皮膚と同じ高さで、表面に黒い毛が生えていることもあります。

時には、広い範囲に生じて、先天性巨大色素性母斑と呼ばれます。まれには、全身に大小の黒褐色色素斑が多発し、その上に剛毛が密生し、その外見から獣皮様母斑と呼ばれる場合もあります。この型の母斑は、脳を始め全身の神経組織の色素異常を伴うこともあり、神経皮膚黒色症と呼ばれ、悪性黒色腫(しゅ)ができやすい型です。

色素性母斑の本態は、メラノサイトとなるべき細胞が表皮や真皮の境界部で、異常に増加したものです。この増殖した細胞を母斑細胞と呼びます。一般的には、母斑細胞の活性は出生後はなくなっていますが、時には残っていることがあります。この活性が非常に高進してくると、ほくろのがんといわれる悪性黒色腫に移る危険性があります。特に、足の裏の黒あざで拡大、潰瘍(かいよう)化が出現した場合は、医師による精密検査が必要になります。

色素性母斑の検査と診断と治療

色素性母斑は、それ自体は全く良性であり、心配することはありません。一般的には、治療の対象にならず、放置しておいてもかまわないものです。

しかし、特に成人以降に足の裏や手のひらに急にできて、色や大きさの変化が激しい場合、色の濃淡が強い場合、母斑の境界がはっきりしない場合などは、たとえ小さくても悪性黒色腫の可能性もあるので、早めに受診します。生まれ付きの大きい黒あざも、生後早めに医師と相談します。

医師による診断は、特徴的な色素斑なので、ほとんどは見ただけで診断はつきます。ただし、色素性母斑自体は良性ですが、皮膚の悪性腫瘍の中でも悪性度が高い悪性黒色腫と見分けがつきにくいものも時々あります。悪性黒色腫の確定診断は、切除したほくろを病理組織検査することでつきます。

放置しておいてもかまわない色素性母斑であっても、顔などに大きなものがあり、本人が非常に気にしたり、他人に悪印象を与える時などは、皮膚科、形成外科での手術で除去することになります。非常に小さなほくろであっても、本人が悪性化や、その他の面で気にする時にも、手術を行うこともあります。

手術では、病変部の皮膚をメスで全部切り取った後、皮膚の欠損部を縫い合わせるか、植皮術を行います。最近では、顔の小さいほくろの場合に、メスの代わりに炭酸ガスレーザーで切除した後、縫い合わせないで自然に治るのを待つ、くり抜き療法も行われています。

いずれにして、多少の傷跡は残ります。特に、植皮術で植皮した皮膚は、周囲の皮膚とは細かい性状が異なり、完全にはなじみません。従って、手術の跡と、ほくろやあざとどちらが目立つかを考えてから、手術をする必要があります。手術をしなくても、カバー・マークを利用して、色を隠せばよいからです。

なお、炭酸ガスレーザーを用いる、くり抜き療法は顔面ではあまり傷跡が目立たないことが多いようですが、他の部位ではくり抜いたところの傷跡が目立つ場合もあります。また、レーザー治療では多くの場合、病変部を焼き飛ばすため、病理組織検査を行えません。悪性黒色腫と見分けがつきにくい場合もあるので、レーザー治療を選択する場合には、担当する医師の十分な診断力が必要とされます。

2022/08/24

🇦🇩職業性難聴

騒音の出る職場で長期にわたって過ごすことが原因になって起こる難聴

職業性難聴とは、騒音の下で長時間就業することにより起こる難聴。騒音性難聴とも呼ばれます。

職業性難聴を引き起こす騒音の大きさは80デシベル以上と定義されており、就業期間が長くなるとともに、難聴の症状も進行することになります。

騒音の激しい工事現場、機械の作動音の大きい工場、機械音や音楽に満ちたパチンコ店やカラオケ店で働く人、電話交換手などは、長年繰り返して騒音を聞き続けることで職業性難聴になることがあります。オーケストラや吹奏楽などでトロンボーンの直前にいる奏者が、職業性難聴になるといったことも起きています。

職業性難聴になるかどうかは個人差が大きく、同じような状況下にいても難聴になる人とならない人がいます。

なお、職業性というわけではないのですが、いつもヘッドホンやイヤホンを装着し、大きな音で音楽を聞いている人は、自ら騒音に満ちた生活環境を作り出しているようなものです。結果的に、職業性難聴と同じ形の聴力の低下を来すこともあります。

異なる周波数の音が混じった騒音の下で就業した人を比較すると、疾患の初期には4000ヘルツ付近の高音部を中心とする類似した聴力低下を示します。従って、騒がしく、大きな音により内耳の蝸牛(かぎゅう)内の限られた部位に感覚器障害が発生することが、疾患の発生原因と考えられています。感覚器を障害するのは、同じ大きな音でも、低音よりも3000ヘルツを超えるような高音のほうが強いといわれています。

しかし、初期には4000ヘルツより低い日常会話音域は問題なく聞き取れるため、異常に気付かない人も多くなっています。

そのまま騒音を聞き続けると、高音部から低音部も聞こえにくくなり、会話音域の500〜2000ヘルツまで聴力低下が及んだ時に、初めて難聴を自覚することになります。

異常に気付いた時には取り返しがつかなくなっているという例が、後を絶ちません。また、発症者の中には、耳鳴り、めまいなどの症状を訴える例も多くなっています。

職業性難聴は左右両側の耳に起こることが多く、両側の耳が同程度の難聴になります。

騒音のある職場では特殊健康診断が行われており、難聴が発生した場合には、その障害の程度に応じて労働者災害補償保険法による補償が行われています。申請書類の記入のために耳鼻咽喉(いんこう)科への受診が必要です。

職業性難聴の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、難聴の程度を調べるために純音聴力検査を行います。疾患の初期には、4000ヘルツ付近の高音部を中心に特徴的なC5dipと呼ばれる聴力低下像がみられ、比較的容易に診断できます。

しかし、進行すると老人性難聴や薬剤性難聴と似た聴力像を示すようになります。従って、騒音下での作業の職歴の有無が、職業性難聴の診断には極めて有用です。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、慢性の難聴のため、現時点では有効な治療手段はありません。対症療法として、循環改善薬やビタミン薬などが用いられる場合もあります。

難聴を自覚した時には、すでに疾患はかなり進行しており、元に戻すことは困難です。従って、騒音の下で長時間就労する場合には、耳栓、イヤーマフなどの防音具の装着による予防が必要です。騒音過多の職場の環境を変えることができれば、何よりの予防になります。

🇫🇷職場高血圧

職場高血圧とは、医療機関の診察室で医師が測る外来血圧では正常の範囲内なのに、忙しい職場にいる時に、高血圧値まで血圧が上がっている状態のことです。

職場の緊張感や焦燥感、人間関係の悩みなどが要因となって、血圧を上げています。最近は就業時間が長く、1日8時間以上の勤務は当たり前ですから、血圧の高い状態が1日の3分の1以上を占めるわけで、血管もボロボロになりやすくなります。

職場でのタバコも、血圧を上げる一因となります。喫煙者はタバコを吸っている間はリラックスしているつもりですが、体の中はニコチンのせいで血管が収縮し、血圧が上がります。

20~40代の男性に職場高血圧は多く、中間管理職や、肥満ぎみの人は、特に危険性が高まります。

こういう日中にストレスの多い人がなりやすい日中上昇タイプでは、血圧上昇の管理、生活習慣の管理が重要となります。

🇮🇪書痙

書痙とは、字を書こうとすると指先に力が入りすぎたり、手が細かく震えたり、手が不随意的に屈曲したりして、字がうまく書けなくなる機能的運動障害です。人前でサインする時などには、誰でも緊張して書きづらいことがありますが、書痙ではそれが著しく障害されます。

字を書く時にのみみられる症状で、はしを持つ、縫い物をする、ボタンを掛けるなどの他の細かい動作は、すべて普通に行うことが可能です。神経学的にも、異常が認められることはありません。

仕事上の失敗や自信の喪失がきっかけとなるケースが多く、上手に書こうとすればするほど、障害は悪化します。偶然に生じた好ましくない反応が、条件反射的に習慣付けられてしまったものといえます。

神経質で緊張しやすく、完全癖の人が、なりやすい傾向を有しています。事務職、教師、文筆家、記者、速記者、代書人など書くことを専門にしている人に多く発症し、職業病の一つとも考えられていますが、心理的ストレスなどの要因が影響しており、心身症と見なされます。手に力が過剰に入るために、手、肘(ひじ)、肩の凝りや痛みを伴うケースもあります。

書痙の治療法には、薬物療法と精神療法があります。適切な薬物療法の助けを借りながら、時間かけて精神療法を行うことが大切です。

薬物療法としては、抗不安薬、抗けいれん薬、β遮断薬、ボツリヌストキシンなど各種あり、作用の程度が違いますが、特効薬といったものはありません。精神療法としては、森田療法、認知行動療法、バイオフィードバック療法、筋弛緩(きんしかん)法、催眠療法、自律訓練法などがあります。

2022/08/19

🇮🇷乳管内乳頭腫

乳管内にできる、いぼのような良性のしこり

乳管内乳頭腫(にゅうかんないにゅうとうしゅ)とは、女性の乳房全体に張り巡らされ、乳腺(せん)で作られた母乳を乳頭へ運ぶ管である乳管内に、いぼのような乳頭状の構造を持った良性のしこりができる疾患。

乳管内乳頭腫は、乳頭(乳首)近くの比較的太い乳管内に発生することが多いものの、末梢(まっしょう)乳管から発生することもあります。乳管内の血管結合組織を軸とした上皮細胞と筋上皮細胞が増殖してできます。

乳管内乳頭腫ができる明らかな原因は、不明です。しかし、ほとんどの例でホルモン受容体が陽性なので、卵巣ホルモンが何らかの影響を与えているものと思われます。また、乳頭腫は高率に乳腺症に合併するので、年齢的な要因も関係している可能性があります。通常、35歳から55歳の間に発症することが多く、出産経験のない女性に多いとされています。

乳管内乳頭腫そのものががん化するとは考えられていませんが、将来的に乳がんになるリスクが高まるといわれているので、その点は注意が必要になります。

多くの例で、乳頭から分泌物が出るのが自覚症状となります。分泌物の性状は、血性のことが5割、粘り気の少ない漿液(しょうえき)性のことが5割で、水のように透明なこともあります。分泌物の色も、赤色、赤褐色、茶褐色、白色、透明などさまざまです。分泌物の量にも個人差があり、下着に付着する程度から、大量に乳汁のように分泌するものまでさまざまです。

しこりの大きさは、数ミリから1センチ程度で、乳房を触ってもしこりを感じることは少なく、痛みもありません。分泌物が乳腺内にたまると、腫瘤(しゅりゅう)として触れるものもあります。

乳管内乳頭腫は、乳がんとの関連が深い疾患ですから、乳頭の異常分泌に気付いたら、乳腺科、乳腺外科、外科などを受診します。特に閉経期あるいは閉経後では、症状のよく似た乳がんとの区別が重要です。また、最近では乳がん検診の際に、超音波(エコー)検査で腫瘤として発見されることも多くなってきました。

乳管内乳頭腫の検査と診断と治療

乳腺科、乳腺外科、外科の医師による診断では、マンモグラフィー(乳腺X線検査)や乳頭分泌物の細胞診を行います。

確実に診断するには、乳管造影を行います。分泌物が出ている乳管開口部から造影剤を注入し、X線(レントゲン)撮影を行うもので、乳管内乳頭腫があると境界明瞭な造影欠損像や走行異常、乳管の閉塞(へいそく)、拡張、狭窄(きょうさく)、断裂像などが映りますので、小さいものでも発見することができます。

また、乳首から針金くらいのカメラを入れる乳管内視鏡検査を行うこともあります。

乳腺科、乳腺外科、外科の医師による治療では、検査の結果、乳がんの可能性が否定された場合は、経過を観察します。

非浸潤性乳管がんなどとの区別がつきにくい場合や、乳頭腫が大きい場合、出血が多い場合は、乳管内視鏡下の手術で腫瘍(しゅよう)のある乳管を切除するのが一般的です。

再発も多く、将来乳がんを発症するリスクも高いため、治療後も定期的な乳がん検診が欠かせません。予防的な乳房切断は、必要ありません。

2022/08/16

🇧🇳ヒトアジュバンド病

美容整形で用いられるシリコンなどの注入で発症

ヒトアジュバンド病とは、美容整形や形成術で用いられるシリコン、パラフィンなどの異物の注入が原因となって起こる疾患。異常な免疫反応が起こることによって、強皮症やシェーグレン症候群、全身性エリテマトーデス、関節リウマチなどの膠原(こうげん)病に似た症状が起こります。

ほとんどの例はシリコンやパラフィンを直接注入する豊胸術、隆鼻術を受けており、術後数年から10年以上経過してから発症しています。シリコンを袋の中に密封した上で挿入する方式での発症は、まれです。そのため、体内に埋め込まれた異物が直接組織と接触することにより、過剰な免疫反応を引き起こした結果と考えられています。1970年以降にみられましたが、近年は形成術が進歩したため、発症が少なくなっています。

初発症状は、関節や筋肉の痛みや発熱など非特異的な症状が多く、レイノー現象、皮膚硬化、紅斑(こうはん)、目や口の渇き、骨の変形や癒着など典型的な膠原病の症状を呈することもあります。

ヒトアジュバンド病の検査と診断と治療

ヒトアジュバンド病の血液検査では、炎症反応が上昇し、免疫異常を示す抗核抗体、リウマトイド因子(リウマチ反応)、抗DNA抗体などがみられます。これらは、この疾患に特徴的な所見ではありません。診断に際しては、豊胸術など美容外科手術の既往が大切で、その際の術式や用いられた材質に関する情報も有用です。

ヒトアジュバンド病の治療は、初期であれば、体内に注入された異物を取り除くことによって、症状が軽くなったり治ることもあります。多くの例では効果が不十分なため、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)による治療が必要になります。骨の変形など組織の変化まで進んでいる場合は、非ステロイド性抗炎症剤、副腎皮質ホルモンを使用し、膠原病に準じた治療が行われます。

🥊ボクサー骨折

拳を握った状態での殴打により、自らの中手骨の頸部が折れる外傷

ボクサー骨折とは、ボクシングや空手などのスポーツで、拳(こぶし)を握った状態で相手や物を殴打することによって、自らの手のひらの骨である中手骨(ちゅうしゅこつ)の頸部(けいぶ)が折れる外傷。中手骨頸部骨折とも呼ばれます。

パンチ力の強いボクシング選手が、対戦相手の頭を強く殴打し、拳を握った状態でできる平らな面で、親指以外の4本指の第2、第3関節の間の部分、いわゆるナックルパートで正確に当たっていない場合に、よく発生します。

実際には、ボクシングでの発生は意外に少なく、一般の人がけんか相手やゲームセンターのパンチングマシーンを殴打して発生するケースがほとんどを占めます。また、乗り物のハンドルを握ったまま正面から交通事故に遭うなどしたケースでも、衝撃による外力が手指の付け根にある中手指節関節(MP関節)から中手骨の長軸に向かうことで発生します。

ボクシング選手では人差し指や中指の中手骨に、一般の人では薬指や小指の中手骨に発生することが多く、外傷の衝撃後に激痛、特定部位の圧痛、手の甲や時に指先までのはれ、変形、手や手指の機能不全、運動障害などが急激に現れます。

とりわけ、中手骨頸部の骨頭が手のひら側に曲がる屈曲変形を来すため、拳がつぶれた状態になります。後遺症として、指の動きが悪くなる、握ると指が重なる、指の力が弱くなるなどが現れることもあります。

ボクサー骨折が発生した際は、応急処置として患部を氷などで冷やしてはれを抑え、患部を固定し、早めに整形外科、ないし手の外科を受診することが勧められます。

患部の固定には添え木とテーピングが必要ですが、応急措置で適当な添え木がない場合は、親指以外なら隣の指を添え木として利用できます。例えば、中指の中手骨を骨折した場合は中指と薬指を2本まとめてテープで巻けば十分です。

ボクサー骨折の検査と診断と治療

整形外科、ないし手の外科の医師による診断では、手指の付け根の中手指節関節(MP関節)にあって、握ると盛り上がる拳がへこんでいて、痛みやはれを認めることで、ボクサー骨折と判断します。

X線(レントゲン)検査を行うと、中手骨に骨折線を確認でき、特に側面から見た画像で骨折の屈曲変形が明らかになります。

整形外科、ないし手の外科の医師による治療では、屈曲変形を手で整復した上で、スプリント材で手全体にスプリント固定を施し、三角巾などを使って吊(つ)り包帯での挙上を行います。

屈曲変形の整復状態を保存療法で保持するのが困難な場合は、ピンなどを用いて中手骨頸部を固定する手術的処置を行います。腱の損傷を合併した場合も、手術的処置を行います。

予防法としては、正確にナックルパートで当たるように打つこと、厚めのグローブを使用することなどです。

2022/08/12

🇺🇿外傷性視神経症

視神経管への打撃によって、視機能がさまざまに障害される疾患

外傷性視神経症とは、視神経管への打撃による視神経の損傷や、視神経管の骨折による視神経症。外傷の原因としては、前額部の強打、オートバイや自転車、自動車などによる交通事故、墜落事故などが挙げられます。

外傷性視神経症を起こすと、視神経線維そのものに対する一次障害と、組織への循環障害や浮腫(ふしゅ)、血腫による二次障害とが複合し、多彩な視機能障害が生じます。視神経は視覚情報を伝える100万本以上の神経線維を含んでいて、網膜に映った物の形や色、光などの情報を脳神経細胞に伝達するという役割を担っていますので、視神経線維が障害を受けると、物を見る働きも部分的にまたは完全に損なわれてしまうわけです。

大多数は、眉毛(まゆげ)部外側への打撃が視神経管部に到達した際の、浮腫や循環障害が原因となります。 視神経管は視束管ともいい、視神経が眼底から頭蓋(とうがい)内に入っていく際に通るトンネルのような細い骨の穴です。まれに、視神経管内の血腫による圧迫や、視神経管の骨折による視神経線維の直接損傷が原因になります。視神経管のほか、眼窩(がんか)内や、視神経が眼底より出る乳頭部位での傷害例もあります。

外傷性視神経症の視機能障害は、数分から数時間で急速に進むこともあれば、2~7日かけて徐々に進行することもあります。多くは中心視力が低下しますが、視野狭窄(きょうさく)のみで視力は低下しないこともあります。視野異常も中心が見えにくくなる中心暗点から、耳側もしくは鼻側半分が見えにくくなる半盲性障害までさまざまです。視機能障害が片目に生じるか両目に生じるかは、原因によって異なります。鼻出血を伴うこともあります。

ただし、受傷直後でまぶたがはれて目がふさがっていたり、意識障害のために、症状を自覚できない場合もあります。重症の場合では、明暗を識別する光覚を失うこともあるため、緊急に眼科専門医による検査、診断および治療が必要になります。

外傷性視神経症の検査と診断と治療

眉毛部に強い打撃を受けた際は、まず見え方の左右差を比較することが大切です。視力、視野に異常を感じたら、早急に眼科専門医の診察を受けます。まぶたがはれて目が開かない、または意識がない際でも、眼科医による瞳孔(どうこう)検査は最低限受けておきます。

外傷性視神経症の検査としては、ベッドサイドや救急外来でも可能な瞳孔反応検査が有用です。両目の瞳孔に交互に光を当てて対光反応の左右差をみるもので、左右差が明らかな場合は視神経障害の可能性が高くなります。この検査は、意識障害がある場合でも行うことができます。

瞳孔反応検査で陽性の場合は、視力、視野、眼底などの眼科的検査が行われます。画像診断として、視神経管(視束管)撮影、眼窩部CT検査が行われ、骨折や血腫の有無が確認されます。

画像診断で明らかな骨折が認められた場合は、脳外科医による視神経管開放手術が行われます。手術後は、薬物療法も併用されます。なお、薬物治療に反応していったん回復した視機能が再び悪化する場合は、血腫の存在が疑われるため、視神経管減圧手術が行われることがあります。

画像診断で明らかな骨折が認められなかった場合は、全身状態に問題がなければ、視神経管内の視神経線維の浮腫を軽減させる目的で、高張浸透圧薬の点滴と、副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤の点滴が行われます。同時に、視神経保護作用のあるビタミンB12製剤や循環改善薬の内服が行われます。

ただし、受傷直後から明暗を識別する光覚の消失が持続するような重症の場合は、いずれの治療法においても視力予後は不良です。

2022/08/10

🇾🇪ガングリオン(結節腫)

手の甲などの関節にできる良性腫瘍で、若い女性に多く発生

ガングリオンとは、手の甲などの関節にゼリー状の液体がたまり、円い結節状に膨れる疾患。適当な訳がないためにガングリオンというラテン語がそのまま使われていますが、結節腫(しゅ)と呼ばれることもあります。

男性より女性のほうが発症率が高く、若い女性によく発生します。症状としては、手の甲、手のひら、手首、足首、足底、ひざなどの皮下の関節包、腱鞘(けんしょう)に付着して、こぶ状の腫瘍(しゅよう)ができます。痛みはないことが多く、腫瘍の中にはゼリー状の内容物が入っています。腫瘍の大きさは、米粒大から小豆大までさまざま。

腫瘍の内容物は脂肪や線維質などで、皮膚を通して腫瘍に触れると、ゼリー状の内容物が入っているとは思えないほどカチカチに硬いことが多くなっています。

原因は不明ですが、良性の腫瘍であり悪性になることはありません。悪性ではないので放置してもかまわないものの、手首などにできると人目について目立つことがあります。肥大した腫瘍が神経や腱を圧迫して、痛みが出ることもあります。

ガングリオンの検査と診断と治療

ガングリオン(結節腫)によるこぶ状の腫瘍が自然に小さくなることは、かなりまれなことです。腫瘍が目立ったり、痛みが出た場合は、整形外科の専門医を受診します。

医師による治療には、注射で腫瘍中のゼリー状の内容物を抜く方法と、手術で腫瘍そのものを摘出する方法とがあります。

手術が嫌いな人には、太めの針の注射器でゼリー状の内容物を穿刺(せんし)吸引すれば、しぼみます。ただし、この方法だけではいずれまた、はれてきます。 注射器による穿刺吸引を繰り返すと、感覚障害や運動障害を残すこともあります。

再発を繰り返す場合には、手術による腫瘍の摘出が必要です。しかし、手術においても、腫瘍が関節や腱に付着し、その根元が深かったり、小さな腫瘍がたくさん付属していることがあるため、切除して摘出するのはそう簡単ではありません。熟練した医師によって丁寧に行われないと、再発しやすいものです。

肥大した腫瘍が神経や腱を圧迫して痛みがある時も、手術で摘出することが望まれます。

2022/08/05

🇵🇬兎唇

上唇の一部に裂け目が現れ、兎の唇のような形を示す先天性異常

兎唇(としん)とは、上唇(うわくちびる)の皮膚と筋肉の一部に縦の裂け目が現れ、兎(うさぎ)の唇のような形を示す先天性異常。口唇裂、唇裂、三つ口、いぐち、欠唇(けっしん)とも呼ばれます。

妊娠初期に複雑な発生の過程をへて、胎児の顔面が形成されます。胎生期第4~7週ころに、前頭突起(内側鼻隆起)と左右の上顎(じょうがく)突起が癒合して上唇ができます。この癒合が障害されると、兎唇になります。兎唇といえば通常、上唇の皮膚と筋肉の一部に裂け目が現れる上唇裂をいい、下唇に裂け目が現れる下唇裂は非常にまれです。

この兎唇は、裂け目が鼻まで達する完全口唇裂、裂け目が鼻まで達しない不完全口唇裂、左右の唇のどちらか一方に裂け目がある片側口唇裂、左右両側に裂け目がある両側口唇裂、さらに、唇の縁の小さなへこみや、唇から鼻の穴までの傷跡のように見える軽微な兎唇である痕跡(こんせき)口唇裂に分けられます。

兎唇は、さまざまな要因が複雑に絡み合って現れると考えられており、特定の原因があるわけではありません。口腔(こうくう)の発生にかかわる遺伝子の変異が関係したり、妊娠中の喫煙、胎内での風疹(ふうしん)感染、胎児脳内圧の異常高進、薬物、放射線障害などの環境要因が関係していると考えられています。染色体異常に伴う場合は、内臓疾患や生後の発育、発達の遅れがみられる場合があります。

兎唇は単独でみられることもありますが、口と鼻を隔てている上顎(うわあご)に先天性に破裂が現れる口蓋裂(こうがいれつ)と合併した口唇口蓋裂が多くみられます。さらに、歯を支えている顎骨である歯槽骨の破裂が現れる顎裂(歯槽裂)を合併することもあります。

兎唇の発生頻度は、全出産の0・08パーセントといわれています。兎唇、口蓋裂、口唇口蓋裂、顎裂を含めた発生頻度は、全出産の0・2パーセントといわれています。

胎児の顔面の口や鼻が形成された後、胎生期第7~12週ころの間に、口の中では口蓋がつくられます。口腔と鼻腔の間に口蓋突起が左右から伸び、前方から後方へと癒合が進んで上顎(口蓋)が形成されます。この過程が障害されると、口蓋突起が最期まで癒合せずに口腔と鼻腔が破裂したままになり、口蓋裂ができます。

口蓋裂は、口蓋の奥の部分の軟口蓋に破裂があるもの、口蓋の前方3分2の部分の硬口蓋に破裂があるもの、軟口蓋と硬口蓋の両方に破裂があるものに分けられます。

生後すぐ、あるいは胎児期の超音波検査で、兎唇が認められます。

口唇口蓋裂があると、歯の形態異常、欠損、歯列不正などが認められます。授乳障害もあり、母乳やミルクが鼻から逆流しやすくなったり、発音が鼻に抜けたりする症状がみられ、中耳炎、誤嚥(ごえん)性肺炎を合併することが多くみられます。

出生後、兎唇のほか、口蓋裂、口唇口蓋裂、痕跡口唇裂が認められた場合は、口唇口蓋裂を専門に治療し、発育、発達の定期的なフォローも含め、総合的に診療している口腔外科、形成外科を紹介してもらい、受診することが望まれます。痕跡口唇裂の場合、外見上は軽微な変化であっても、その下にある口輪筋への影響があり、深刻度を判断してもらう必要があります。

兎唇の検査と診断と治療

口腔外科、形成外科の医師による治療は、矯正歯科、小児歯科、耳鼻咽喉(いんこう)科、言語聴覚士、小児科など各科の医師とのチーム医療で行われることが一般的です。

口腔外科、形成外科の医師による治療は、兎唇手術(口唇裂形成手術)が主体で、手術前にはホッツ床という柔らかい樹脂でできた入れ歯のようプレートを上顎にはめて、授乳しやすくします。

手術時期は、兎唇と口蓋裂で異なり、発音機能と上顎の発育の両面を考えながら決めます。一般的には、兎唇はミラード法などで生後3カ月以後、体重5キログラムを目安に実施し、裂けた口唇の閉鎖と再建、変形した鼻の位置の適正化、口輪筋の連続性の再建を図ります。

口蓋裂は1歳以降に、ファーロー法などの手術を実施し、口蓋部分における口腔と鼻腔の閉鎖、軟口蓋における口蓋帆挙筋などの左右に分かれた筋群の再建を図ります。

 高度な兎唇完全型(完全口唇裂)では、初回の手術だけで完全な形態の再建が完成するとは限らず、就学前あるいは青年期に、口唇や鼻の二次的な修正手術を必要とすることがあります。言語聴覚士による発音の訓練も必要です。

🇩🇲重複乳頭

乳輪の中に2つ以上の乳頭が存在している状態

重複乳頭とは、女性の乳首、すなわち乳頭の周囲を取り囲む輪状の部位である乳輪の中に、複数の乳頭が存在している状態を指す症状。乳輪内多乳頭とも呼ばれます。

通常、片側の乳房の乳輪中にある乳頭は1つですが、まれに2つ、ないし2つ以上の乳頭が生まれ付き存在していたり、あるいは1つある乳頭が生まれ付き2つに分裂していたりすることがあります。乳頭が2つに分裂しているものは分裂乳頭といいます。

重複乳頭ではおおかた、乳輪の内部に乳頭が2つ並んでおり、2つがほぼ同じくらいの大きさの場合や、大きさがかなり異なる場合、2つともあるいは1つが通常の乳頭より大きすぎる場合、両側の乳房の乳輪中に乳頭が2つ並んでいる場合、片側の乳房の乳輪中だけに乳頭が2つ並んでいる場合など、症状はさまざまです。

分裂乳頭でも同様に、乳輪の内部に乳頭が2つ並んでおり、2つがほぼ同じくらいの大きさの場合や、大きさがかなり異なる場合、2つともあるいは1つが通常の乳頭より大きすぎる場合、両側の乳房の乳輪中に乳頭が2つ並んでいる場合、片側の乳房の乳輪中だけに乳頭が2つ並んでいる場合など、症状はさまざまです。

重複乳頭、分裂乳頭とも、生まれ付きのものがほとんどで、胎児期の発生段階での個体差によるものと考えられていますが、発症の理由はよくわかっていません。

また、一部は神経線維腫(しゅ)症Ⅰ型(レックリングハウゼン病)という特定の疾患に合併して起こることが知られていますが、極めてまれです。

重複乳頭、分裂乳頭であっても、本人にとって支障がなければ治療をする必要はありませんが、見た目が気になるという問題と、授乳という機能的な問題が存在します。子供ができて実際に授乳を試みると、その形状や大きさのせいで乳児が乳頭をうまくくわえられないために、母乳育児を断念するということも少なくありません。授乳がしにくい場合や形態的異常が、医師による手術の対応となります。

乳頭の症状が明らかで目立つために、変形した乳頭を普通くらいの形状、大きさにして、授乳の際の支障を解消したいと望むのであれば、乳腺(にゅうせん)外科、形成外科、整形外科、あるいは美容整形外科を受診し、手術によって整えることを考えてみてもよいのではないかと思われます。

重複乳頭の検査と診断と治療

乳腺外科、形成外科、整形外科、美容整形外科の医師による診断では、重複乳頭と分裂乳頭は見た目にも明らかになることが多いので、視診、触診で判断します。

乳腺外科、形成外科、整形外科、美容整形外科の医師による治療では、重複乳頭の場合、片側の乳房の乳輪中におおかた2つある乳頭のうちの1つが十分な大きさなら、1つを残して一方を単純に切除する手術を行います。どちらか1つでは大きさが不十分なら、2つある乳頭をを1つに縫合して一体化し、通常の一つの乳頭の形状にする手術を行います。局所麻酔で行うことができ、リスクの少ない手術です。

分裂乳頭の場合も、乳頭の一部を切除して、分裂した乳頭を1つに縫合して一体化し、通常の乳頭の形状にする手術を行います。左右両側の場合でも、左右どちらかの場合でも問題なく手術でき、左右の乳頭のバランスを見ながらデザインして、乳頭を形成します。

乳腺で作られた乳汁(母乳)を乳頭へ運ぶ管である乳管をできるだけ温存し、なおかつ見栄えよく通常の乳頭に近い形状に整えることが理想的ですが、場合によっては乳管を温存できない、または一部分しか温存できないこともあります。また、完全に真ん丸な形の乳頭にすることが難しく、ややいびつさが残ることもあります。

乳管がある程度温存できていて、そこそこ丸みのある乳頭に整えることができれば、授乳が可能です。それらの条件を満たせない場合には、授乳が困難になる可能性があります。

2022/08/04

🏴󠁧󠁢󠁳󠁣󠁴󠁿塵肺症

塵埃を長く吸入し続けて、肺に炎症が起こる疾患の総称

塵肺(じんぱい)症とは、長期に渡って吸入し続けた塵埃(じんあい)が肺に沈着し、炎症を起こす疾患の総称。多くは職業病として扱われます。

肺に吸入された塵埃は、肺胞マクロファージという細胞によって飲み込まれます。異物を飲み込んだマクロファージは、肺に炎症を起こしたり、組織を傷害する物質を放出します。このような状況が長い間続くと、肺の組織に硬い線維状の物質が蓄積され、間質性肺炎(肺線維症)という疾患をもたらします。肺は縮み、酸素の交換が十分にできなくなります。

吸入したものの種類により、結晶質シリカの場合は珪肺(けいはい)症、石炭では採炭夫塵肺症、石綿では石綿肺(アスベスト症)などと、区別して呼ばれます。鉱物などの掘削・積み下ろし、石材加工、金属研磨、陶磁器・鋳物製造、金属製錬、溶接、炭素製品製造、い草製造、トンネル建設などに従事する人々に多くみられます。

軽度の塵肺症は特有な症状はなく、無症状、無自覚です。疾患が進むと、体を動かした時の呼吸困難、たん、せき、動悸(どうき)が現れます。有害物質を吸入する職場環境が改善されない限り、疾患はゆっくり進行します。また、気管支炎、肺炎、結核、胸膜炎、肺気腫(きしゅ)、気胸、肺がんを合併しやすくなります。肺気腫や肺がんは喫煙との複合的な要素によって発生する可能性も、指摘されています。

重症になると、呼吸困難によって血液中の酸素が欠乏し、皮膚が青色になるチアノーゼがみられたり、心臓にも影響を及ぼします。

塵肺症の検査と診断と治療

塵埃を扱う職業の人などは、定期的に健康診断を受けることが、塵肺法という法律で決められています。

医師による診断では、胸部X線検査で全肺に広がる粒状影や不整陰影、塊状陰影などのさまざまな陰影が観察されます。呼吸機能検査で、肺活量や、初めの1秒間に吐き出される空気量である1秒量などが低下します。

塵肺症の根本的な治療法は、現在までのところなく、対症療法が中心です。たんがあれば去たん剤を使用することによって喀出(かくしゅつ)しやすくし、呼吸困難があれば気管支を広げる気管支拡張剤で呼吸をしやすくしたりします。

低酸素状態に陥っている場合には、在宅での酸素吸入治療を導入し、積極的に体を動かすようにします。また、結核を合併した場合には、抗結核剤を使用します。

呼吸機能が低下しないように感染防御に努めることが必要ですが、何よりも予防が大切になります。防塵マスクの着用や職場の塵埃発散の低減対策などが、予防につながります。

2022/08/03

🇸🇮三つ口

上唇の一部に裂け目が現れ、唇が三つに分かれているような形を示す先天性異常

三つ口とは、上唇(うわくちびる)の皮膚と筋肉の一部に縦の裂け目が現れ、鼻の下で唇が三つに分かれているような形を示す先天性異常。口唇裂、唇裂、兎唇(としん)、いぐち、欠唇(けっしん)とも呼ばれます。

妊娠初期に複雑な発生の過程をへて、胎児の顔面が形成されます。胎生期第4~7週ころに、前頭突起(内側鼻隆起)と左右の上顎(じょうがく)突起が癒合して上唇ができます。この癒合が障害されると、三つ口になります。三つ口といえば通常、上唇の皮膚と筋肉の一部に裂け目が現れる上唇裂をいい、下唇に裂け目が現れる下唇裂は非常にまれです。

この三つ口は、裂け目が鼻まで達する完全口唇裂、裂け目が鼻まで達しない不完全口唇裂、左右の唇のどちらか一方に裂け目がある片側口唇裂、左右両側に裂け目がある両側口唇裂、さらに、唇の縁の小さなへこみや、唇から鼻の穴までの傷跡のように見える軽微な三つ口である痕跡(こんせき)口唇裂に分けられます。

三つ口は、さまざまな要因が複雑に絡み合って現れると考えられており、特定の原因があるわけではありません。口腔(こうくう)の発生にかかわる遺伝子の変異が関係したり、妊娠中の喫煙、胎内での風疹(ふうしん)感染、胎児脳内圧の異常高進、薬物、放射線障害などの環境要因が関係していると考えられています。染色体異常に伴う場合は、内臓疾患や生後の発育、発達の遅れがみられる場合があります。

三つ口は単独でみられることもありますが、口と鼻を隔てている上顎(うわあご)に先天性に破裂が現れる口蓋裂(こうがいれつ)と合併した口唇口蓋裂が多くみられます。さらに、歯を支えている顎骨である歯槽骨の破裂が現れる顎裂(歯槽裂)を合併することもあります。

三つ口の発生頻度は、全出産の0・08パーセントといわれています。三つ口、口蓋裂、口唇口蓋裂、顎裂を含めた発生頻度は、全出産の0・2パーセントといわれています。

胎児の顔面の口や鼻が形成された後、胎生期第7~12週ころの間に、口の中では口蓋がつくられます。口腔と鼻腔の間に口蓋突起が左右から伸び、前方から後方へと癒合が進んで上顎(口蓋)が形成されます。この過程が障害されると、口蓋突起が最期まで癒合せずに口腔と鼻腔が破裂したままになり、口蓋裂ができます。

口蓋裂は、口蓋の奥の部分の軟口蓋に破裂があるもの、口蓋の前方3分2の部分の硬口蓋に破裂があるもの、軟口蓋と硬口蓋の両方に破裂があるものに分けられます。

生後すぐ、あるいは胎児期の超音波検査で、三つ口が認められます。

口唇口蓋裂があると、歯の形態異常、欠損、歯列不正などが認められます。授乳障害もあり、母乳やミルクが鼻から逆流しやすくなったり、発音が鼻に抜けたりする症状がみられ、中耳炎、誤嚥(ごえん)性肺炎を合併することが多くみられます。

出生後、三つ口のほか、口蓋裂、口唇口蓋裂、痕跡口唇裂が認められた場合は、口唇口蓋裂を専門に治療し、発育、発達の定期的なフォローも含め、総合的に診療している口腔外科、形成外科を紹介してもらい、受診することが望まれます。痕跡口唇裂の場合、外見上は軽微な変化であっても、その下にある口輪筋への影響があり、深刻度を判断してもらう必要があります。

三つ口の検査と診断と治療

口腔外科、形成外科の医師による治療は、矯正歯科、小児歯科、耳鼻咽喉(いんこう)科、言語聴覚士、小児科など各科の医師とのチーム医療で行われることが一般的です。

口腔外科、形成外科の医師による治療は、形成手術が主体で、手術前にはホッツ床という柔らかい樹脂でできた入れ歯のようプレートを上顎にはめて、授乳しやすくします。

手術時期は、三つ口と口蓋裂で異なり、発音機能と上顎の発育の両面を考えながら決めます。一般的には、三つ口はミラード法などで生後3カ月以後、体重5キログラムを目安に実施し、裂けた口唇の閉鎖と再建、変形した鼻の位置の適正化、口輪筋の連続性の再建を図ります。

口蓋裂は1歳以降に、ファーロー法などの手術を実施し、口蓋部分における口腔と鼻腔の閉鎖、軟口蓋における口蓋帆挙筋などの左右に分かれた筋群の再建を図ります。

高度な三つ口で、裂け目が鼻まで達する完全口唇裂では、初回の手術だけで完全な形態の再建が完成するとは限らず、就学前あるいは青年期に、口唇や鼻の二次的な修正手術を必要とすることがあります。言語聴覚士による発音の訓練も必要です。

2022/08/02

🇫🇷弾発指

手の指に起きる腱鞘炎の一種で、手の指を曲げ伸ばしする際にばね現象が発生

弾発指(だんばつし)とは、手の指に起きる腱鞘(けんしょう)炎の一種。ばね指、肥厚性腱鞘炎とも呼ばれます。

手の指には、指の関節を曲げたり伸ばしたりする腱というものが備わっています。手を握ったりする強い力を発揮する筋肉は前腕にあり、その力を筋肉と骨を結び付けている腱が伝えます。腱のうち指を曲げる腱を屈筋腱といい、親指には1本あり、人差し指から小指には深指(しんし)屈筋腱と浅指(せんし)屈筋腱の2本がそれぞれあります。

計9本の屈筋腱の外囲には、筒状に包む腱鞘という組織があります。腱鞘には、指を曲げる時に腱が浮き上がらないようにする硬い靭帯(じんたい)性腱鞘と、靱帯性腱鞘を裏打ちしている滑膜性腱鞘があり、滑液という油のようなものを分泌して、屈筋腱と靱帯性腱鞘が擦れて摩擦が生じにくいようになっています。そのほかの腱の周囲は、パラテノンという軟らかい軟部組織が覆う構造になっています。

しかし、指の付け根の手のひら側で、機械的刺激によって力が掛かりやすい部位で、屈筋腱と靱帯性腱鞘の間で炎症が起こると腱鞘炎になります。腱の動きがスムーズでなくなり、指の付け根に痛み、はれ、熱感が生じます。朝方に症状が強く、日中は手を使っていると症状が軽減することも少なくありません。

この腱鞘炎が進行して、指を動かす時の痛みとともに腱の動きが悪くなって、腱が厚く硬くなったり、腱鞘が厚くなると、ばね現象を現すようになり、弾発指となります。ばね現象とは、腱鞘炎のために動きの悪くなった指が伸びたままになったり、曲がったままになって、それを無理に伸ばそうとしたり、曲げようとしたりすると抵抗があり、ばね仕掛けのようにピクンと曲がったり、伸びたりする現象です。

指の付け根に腫瘤(しゅりゅう)を触れ、圧痛があります。重症例では、安静時にも痛みがあったり、発赤などの症状があったり、指が動かない状態になることもあります。

弾発指は手の酷使による機械的刺激で発生しますが、主に妊娠時、産後や更年期の女性に多く発生することから、ホルモンバランスの影響も考えられています。ゴルフ、テニス、野球などのスポーツをする人や、指をよく使う仕事の人にも多いのも特徴で、最近ではパソコンや携帯電話で指を酷使する人にも発生します。糖尿病、リウマチ、透析患者にもよく発生します。

小児にも弾発指は発生しますが、親指以外の発生は多くありません。親指に発生する弾発指は弾発母指、あるいはばね母指とも呼ばれ、先天性で、靭帯性腱鞘の入り口で屈筋腱がこぶのように大きくなって引き起こされると考えられています。親指の関節が曲がったままで、無理に伸ばすとばね現象がみらます。指の付け根に軟骨のような硬い腫瘤を触れますが、痛み、圧痛はありません。

弾発指の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断は、指の付け根に腫瘤や圧痛があり、ばね現象があれば容易につきます。小児の場合は、握り母指症や先天性母指屈指症との区別が必要です。

整形外科の医師による治療は、成人の弾発指の場合、まず指の過度の使用を避けるよう指導します。また、湿布剤、軟こうなどの使用、非ステロイド性鎮痛消炎剤の投与を行います。時には、副木(ふくぼく)を当てて固定することもあります。

症状が強い時には、局所麻酔薬入りステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン)を発症している腱鞘に直接注射するのが有効です。3回以上の直接注射は、腱の損傷を起こすことがあるので避けます。

以上の保存療法で効果のない時、慢性化して治りにくい時には、腱鞘を切開する手術が行われる場合があります。手術は局所麻酔を用い、腫瘤が触れる指の付け根に約1cmほどの皮膚切開を入れて、靭帯性腱鞘を縦に切ってトンネルを開放し、腱の滑りをよくします。手術後はすぐに、指の曲げ伸ばしを行うことになります。

小児の弾発母指の場合、全身麻酔を用いた手術で腱鞘切開をすることがありますが、成人になると自然に治るのが普通なので、気長に親指を伸ばしたり、曲げたりする訓練をするのも一つの方法です。

成人の弾発指を予防するには、手の酷使を避けることが一番大切です。

🇲🇱クルーゾン症候群

遺伝が原因として考えられる先天性の異常疾患

クルーゾン症候群とは、遺伝が原因として考えられている先天性の異常疾患。生まれ付き、頭や顔、あご、手足の異常を起こします。

クルーゾン症候群の主な症状としては、頭蓋(とうがい)骨縫合早期癒合症が挙げられます。

乳児の頭蓋骨は何枚かの骨に分かれており、そのつなぎを頭蓋骨縫合と呼びますが、乳児期には脳が急速に拡大しますので、頭蓋骨もこの縫合部分が広がることで脳の成長に合わせて拡大します。成人になるにつれて縫合部分が癒合し、強固な頭蓋骨が作られるわけです。

頭蓋骨縫合早期癒合症は狭頭症とも呼ばれ、染色体や遺伝子の異常が原因となって、頭蓋骨縫合が通常よりも早い時期に癒合してしまう疾患。その結果、頭蓋骨や顔面骨に形成不全がみられて、頭、顔、あごに変形が生じます。頭蓋骨の変形は、早期癒合が起こった縫合線と関係があり、長頭、三角頭、短頭、斜頭などと呼ばれる変形が生じます。

眼球突出、両目の離間、気道狭窄(きょうさく)、歯列のかみ合わせ異常、高口蓋や口蓋裂など、さまざまな症状もみられます。また、頭蓋骨の変形によって脳が圧迫されるなどの障害が発生し、水頭症の合併、頭蓋内圧の上昇を認めることも少なくありません。

乳児の頭蓋骨は、子宮内での圧迫、産道を通る際の圧迫、また寝癖などの外力で容易に変形します。こうした外力による変形は自然に改善することが多いので心配ありませんが、クルーゾン症候群における頭蓋骨縫合早期癒合症との鑑別が大切です。

クルーゾン症候群の検査と診断と治療

乳幼児の頭の形がおかしいと心配な場合は、形成外科や小児脳神経外科の専門医を受診します。

クルーゾン症候群の症状には、軽度なものから重度なものまであり、形成外科や脳神経外科の領域のほか、呼吸、循環、感覚器、心理精神、内分泌、遺伝など多くの領域に渡る全身管理を要します。乳幼児の成長、発達を加味して適切な時期に、適切な方法で治療を行うことが望ましいと考えられ、関連各科が密接な連携をとって 集学的治療が行われます。

頭蓋骨縫合早期癒合症の治療は、放置すると頭の変形が残ってしまうばかりでなく、脳組織の正常な発達が抑制される可能性があるため、外科手術になります。

手術法としては従来から、変形している頭蓋骨を切り出して、骨の変形を矯正することで正常に近い形に組み直す頭蓋形成術が行われています。乳幼児の骨の固定には、できるだけ異物として残らない吸収糸や吸収性のプレートが用いられます。

近年では、この頭蓋形成術に延長器を用いた骨延長術も行われています。具体的には、頭蓋骨に刻みだけ入れて延長器を装着し、術後に徐々に刻みを入れた部分を延長させ、変形を治癒させるという方法。

骨延長術のメリットとして、出血が少なく手術時間の短縮が図れる、骨を外さないため血行が保たれるので委縮や変形が少ない、骨欠損が比較的早期に穴埋めされる、皮膚も同時に延長可能である、術後に望むところまで拡大可能であるなど挙げられます。一方、デメリットとして、頭蓋形成術より治療期間が長く1カ月程度は入院しなければならない、延長器を抜去する手術が必要となるなどが挙げられます。

さらに、内視鏡下で骨切りを行い、ヘルメットで頭の形を矯正するなどの手術方法も開発されています。

頭蓋骨の手術だけでなく、顔面骨を骨切りして気道を拡大し、眼球突出や不正咬合(こうごう)を適切な位置へ移動させる手術も行われます。

単純な頭蓋骨縫合早期癒合であれば、適切な時期に適切な手術が行われれば、一度の手術で治療は完結することが期待できることがあります。クルーゾン症候群性の頭蓋骨縫合早期癒合症では、複数回の手術が必要になることもまれではありません。頭蓋骨、顔面骨の形態は年齢により変化しますので、長期に渡る経過観察が必要です。

2022/07/30

🇬🇮イタイイタイ病

重金属カドミウムの摂取で起きる慢性中毒病

イタイイタイ病とは、重金属カドミウムの摂取で起きる慢性中毒病。略してイ病とも呼ばれます。

1910年代から1970年代前半にかけて、富山県神通(じんづう)川流域の婦中町(現・富山市)などを中心に多発しました。神通川上流の岐阜県神岡町(現・飛騨市)の三井金属鉱業株式会社神岡鉱業所(神岡鉱山)から排出されたカドミウムが川に流れ、川水を灌漑(かんがい)用水に使用していた富山県の農地土壌が汚染されました。そこで産出された米などの農作物や飲料水を長年、摂取した主に中高年の出産経験のある女性多数が、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)を伴う骨軟化症を発症。

当初は風土病といわれたものの、現地の開業医である萩野昇医師などの努力もあり、1955年(昭和30年)にカドミウムによる慢性中毒と判明しました。末期になると、体中の骨がちょっとしたショックでボキボキ折れるのが症状の特徴で、「痛い、痛い」という叫びがそのまま疾患名になりました。

その後の研究の結果、当時の厚生省も1968年(昭和43年)5月に慢性中毒と認め、「イタイイタイ病はカドミウムの慢性中毒により、まず腎臓(じんぞう)障害を生じ、次いで骨軟化症を来し、これに妊娠、授乳、内分泌の変調、老化および栄養としてのカルシウム等の不足などが誘因となって生じたもので、慢性中毒の原因物質としてのカドミウムは自然界に微量に存在するものを除き、神通川上流の三井金属神岡鉱業所の活動で排出されたもの以外、認められない」と見解を明らかにし、国内初の公害病と認定しました。

その後1971(昭和46年)年2月からは「公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法」が施行され、医療等の救済が行われてきました。1974(昭和49年)年9月からは「公害健康被害補償法」による医療救済等の措置が実施されています。

患者と遺族33人が訴えた損害賠償の訴訟では、一審、控訴審ともに原告が勝ち、三井金属鉱業側は死者に1200万円、患者に960万円を支払いました。

このイタイイタイ病の認定患者は2012年(平成24年)3月現在、196人。このうち生存者は、4人だけです。罹患(りかん)者は1000人以上と推定されていますが、1955年(昭和30年)以後は重症者はほとんどみられなくなり、近年、富山県神通川流域などでのイタイイタイ病の新たな発症は認められていません。

なお、イタイイタイ病患者は、石川県梯川(かけはしがわ)流域、兵庫県市川流域、長崎県対馬でも発見されていますが、国は認定していません。

イタイイタイ病の症状は腰痛、背痛から始まり、次第に股(こ)関節の痛みのため臀部(でんぶ)を振ってアヒルのような歩き方をするようになり、やがて歩行不能となります。また、ぶつかったり転んでも容易に四肢骨や肋骨(ろっこつ)に骨折を起こし、度重なるとタコの足のように四肢が屈曲してしまいます。体位を変えたり、談笑やせきなどによっても全身に痛みがくるようになると、昼夜を問わず「痛い、痛い」と訴え続け、ついには栄養失調やその他の合併症で死亡します。

骨の変化のほかに、腎臓の尿細管の機能も侵されるカドミウム腎症になり、尿中に蛋白(たんぱく)、糖、カルシウムが増加します。骨折しやすい理由の一つにカルシウムの体外排出が考えられ、多産婦に多発したのも、妊娠中にカルシウムが胎児に多く奪われることが誘因とみられています。

医師によるイタイイタイ病の治療では、骨軟化症についてはビタミンD2の大量投与や、活性型ビタミンD3の投与によりある程度症状は和らぐとされますが、金銭的余裕のある患者は少なかったと見なされます。また、この治療では尿細管の機能異常は改善されないため、骨軟化症がしばしば再発します。

2022/07/28

🇸🇻赤あざ(血管腫)

皮膚の毛細血管の増殖、拡張でできる赤いあざ

赤あざとは、真皮および皮下組織の中にある毛細血管の増殖、拡張を主としてできる母斑。内部の血液によって皮膚表面は赤く見え、血管腫(しゅ)とも呼ばれます。

異常を示す血管のある部位と、血管の構造の違いにより、いろいろの型があります。代表的なものは、ポートワイン母斑(単純性血管腫)、正中線母斑(サーモンパッチ)・ウンナ母斑、苺(いちご)状血管腫(ストロベリーマーク)です。

ポートワイン母斑(単純性血管腫)は、赤ブドウ酒色をした皮膚と同じ高さの平らで、境界が鮮明な斑です。 普通は出生時からあって、その後、拡大することも、自然に消えることもありません。加齢とともに少し膨らみ、いぼ様の隆起が出現することもあります。

この母斑は、真皮の上の部分の毛細血管の拡張、充血の結果できるものです。多くは、美容的な問題があるだけであり、放置してもかまいません。

ただし、この型の大きな血管腫が顔の片側にある時は、スタージ・ウェーバー症候群といって、眼球や脳の中に血管腫が合併することがあります。また、片側の腕や下肢に大きな血管腫がある時は、クリッペル・ウェーバー症候群といって、その部分の筋肉や骨の肥大などの合併症がある場合があるので、注意が必要です。

正中線母斑(サーモンパッチ)・ウンナ母斑は、乳幼児の顔、後頭部の正中線に沿ってみられる、淡紅色ないし暗赤色の毛細血管の拡張した赤い斑点です。額、眉間(みけん)、上まぶたにあるものを正中線母斑、またはサーモンパッチといい、1歳から3歳までの間に自然に消退するものの、完全ではありません。

また、うなじから後頭部にみられるものをウンナ母斑といい、消退するのに時間がややかかり、また一生消えない場合もあります。

苺状血管腫(ストロベリーマーク)は、出生時より、または生後間もなく出現する赤色、ないし暗赤色の軟らかい小腫瘤(しゅりゅう)で、表面が苺の実のように粒々しています。

出生後、半年から2年までは急速に増大して、大きいものでは鶏卵大以上の大きなしこりになることもあるものの、5~6歳ころまでには完全に消失します。この赤あざは、真皮内に未熟な血管がたくさん増殖するためにできるものです。

自然に治るので慌てて治療する必要はありませんが、未熟な血管の集団があるため、外傷を受けるとなかなか出血が止まらないことがあるので、注意が必要です。出血した時には、清潔なタオルかガーゼで十分に圧迫して、出血が止まるまで押さえておく必要があります。

赤あざの検査と診断と治療

赤あざ(血管腫)を早期に的確に診断することは、必ずしも簡単ではありません。皮膚科専門医を受診して、診断を確定するとともに治療法についても相談します。

医師は通常、見た目と経過から診断します。スタージ・ウェーバー症候群やクリッペル・ウェーバー症候群が疑われる場合には、画像検査などが必要になります。

ポートワイン母斑(単純性血管腫)に対しては、パルス色素レーザー治療が第一選択です。うすいあざなので、手術をすると残った傷が目立つためです。レーザー治療の効果の程度は病変の深さによって違いますが、傷を残さずにほとんどの赤あざを消退させることができます。乳幼児期から開始する早期治療が、有効です。

カバーマークによる化粧で色を隠すのも、選択肢の一つです。

顔面の正中線母斑(サーモンパッチ)は、自然に消えていく場合が多いので、治療せずに経過をみます。完全に消えない場合には、露出部位のあざなので、パルス色素レーザー治療が勧められます。ウンナ母斑は、髪に隠れて目立たない部位に生じるので、ほとんど治療しません。

苺状血管腫(ストロベリーマーク)は自然に消えていくので、特に合併症の危険がない大部分のものは無治療で経過をみて差し支えありません。ただし、まぶたに生じ、目をふさいでしまうようになったものや気道をふさぐものなどは早急な治療が必要です。

即効的な治療として、副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤の大量投与が行われます。効果が不十分な場合には、インターフェロンαの連日皮下注射が行われる場合もあります。これらの治療は効果的ですが、いずれも重い副作用を生じる可能性があります。

単に色調だけを自然経過よりも早期に淡くしたい場合には、パルス色素レーザー治療を行います。この治療は副作用が少ないのですが、こぶを小さくする効果は期待できません。こぶを縮小するためには、内部にヤグレーザーを照射します。

🟪インフルエンザの患者数が注意報の基準を超える 新型コロナと同時に流行ピークの恐れも

 インフルエンザの感染状況について、厚生労働省は20日、全国約5000の定点医療機関から9〜15日の1週間に報告された感染者数が1医療機関当たり19・06人だったと発表しました。前週(9・03人)と比べ2・11倍に急増し、「注意報」の基準の10人を超まし た。  都道府県別では...