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2022/07/31

🇹🇷ウィリス動脈輪閉塞症

原因不明で、脳底部にもやもやとした異常血管網が現れる脳血管疾患

ウィリス動脈輪閉塞(へいそく)症とは、日本人に多発する原因不明の脳血管疾患。もやもや病、脳底部異常血管網症ともいいます。

厚生労働省指定の難病の一つで、1950年代の後半に初めてその存在が気付かれました。脳底部のウィリス動脈輪に狭窄(きょうさく)や閉塞(へいそく)がみられ、脳虚血症状を示し、体の各部のまひ、知覚異常、不随意運動、頭痛、けいれんなどを起こします。

脳血管撮影をすると、脳底部にもやもやとした異常血管網が認められます。大脳へ血液を送る頸(けい)動脈が頭の中で狭くなったり、詰まったりするために、脳の深い部分の細い動脈が不足する脳の血流を補うための側副血行路として発達して太くなり、異常な血管網の構造を示すことになります。

脳への血液の供給が足りない状態である脳虚血や、脳の血管が破綻(はたん)して出血する脳出血で発症しますが、発症時の年齢分布には2つピークがあり、5歳を中心とする10歳までの子供は脳虚血で発症することが多く、30〜40歳代の大人は脳出血で発症することが多くなっています。もちろん、子供での脳出血、大人での脳虚血もありますが、前者が小児(若年)型、後者が成人型と区別され、その症状とその発症機序が異なっています。

女性と男性の比率は1・8対1とされ、女性の発症者のほうが多くなっています。発症頻度は10万人に対して0・35〜0・5人とされ、日本では年間に約400〜500人の新たな発症者が発生し、常に約4000人の患者がいます。世界中で、ウィリス動脈輪閉塞症の報告はありますが、なぜか東アジアに多く、中でも圧倒的に日本に多く発生しています。アメリカからの報告でも日系人に多いといわれますが、白人、黒人にもみられます。

疾患の原因はいまだ不明で、先天性血管奇形という先天説や、感染症などの生後に何らかの原因があるとする後天説がありました。兄弟や親子間での発生が約10パーセント弱と多いことや、日本人に多く発生することなど遺伝的な要素もあり、現在では遺伝子で規定された要素に、何らかの後天的要素が加わって発症すると考えられています。細菌やウイルスが原因の感染症ではありませんので、周辺の人に移る可能性は全くありません。

小児型ウィリス動脈輪閉塞症では、元気だった子供に突然、脳卒中のような発作、つまり左右半身の脱力や運動障害、ろれつが回らないなどの言語障害、視野の一部が欠けるなどの視力障害、意識障害、感覚異常が一過性に出現し、症状が出てもすぐに元に戻るのが典型的な症状です。その他の症状としては、手足が勝手に前後・上下に動く不随意運動、けいれん、頭痛などがみられます。

脳卒中のような発作は、泣いたり、大声で歌ったり、笛やハーモニカを吹いたり、熱いラーメンやうどんをフーフー吹いて食べたり、全力で走ったりする時の過呼吸により誘発されます。過呼吸状態では、脳血管の拡張に必要な血中の二酸化炭素が低下し、もやもやとした血管網も含めた脳血管が収縮するために、それまで辛うじて維持されていた脳血流が急に低下し、脳の代謝に必要な酸素の不足により脳虚血発作が生じます。

脳虚血発作は一過性に出現し繰り返す場合が多くみられますが、重症な場合には、脳梗塞(こうそく)を来し、運動障害、言語障害、知能障害、視力障害などが固定症状として残ります。

成人型ウィリス動脈輪閉塞症では、脳内出血、脳室内出血、くも膜下出血などの頭蓋(ずがい)内出血による発症が一般的で、症状は出血の部位や程度により異なり、軽度の頭痛から重度の意識障害、運動障害、言語障害、精神症状までさまざまです。代償性に拡張した数多くの細いもやもやとした血管網に、血行力学的なストレスが加わり、薄くなった血管壁が破綻すると考えられています。

出血の場所と大きさにより、後遺症が全く残らない場合から、さまざまな後遺症が残る場合まであります。命にかかわるのは、頭蓋内出血を起こした場合が多く、再度、出血を起こすことも多くなっています。

ウィリス動脈輪閉塞症が疑われた場合は、脳神経外科、神経内科、小児神経(内)科などを受診することが必要です。強い頭痛、吐き気、嘔吐(おうと)、意識がなくなる、まひ、言葉が出ない、視野の一部が欠けるなどの症状が出た時は、すぐに受診するべきです。

ウィリス動脈輪閉塞症の検査と診断と治療

ウィリス動脈輪閉塞症の医師による診断は、臨床所見と画像診断で行われます。ラーメンを食べる時に時々、手の力が抜ける、大泣きしたら手足がしびれるといった典型的な症状の一過性脳虚血発作であれば、診断はさほど困難ではありません。

しかし、てんかんや不随意運動で発症した場合には、わかりにくい場合もあります。てんかんと診断されて、抗けいれん薬を投与され、その後、脳虚血の症状が出た場合など、ウィリス動脈輪閉塞症の診断まで時間がかかる場合もあります。ほかに、精神的なものとか自閉症と誤診されることもあります。

ウィリス動脈輪閉塞症の画像診断は、主にカテーテルによる脳血管撮影と、核磁気共鳴画像法(MRI)によって行われます。脳血管撮影は、直径1・3ミリほどの細い管であるカテーテルを足の付け根の動脈から入れて行います。このカテーテルを頸部の動脈まで持っていき、造影剤を注入して撮影します。そのため検査自体にわずかながら危険性が伴うため、その適応は慎重であるべきです。大人では、足の付け根への局所麻酔だけで可能な検査ですが、小学生やそれ以下の場合は全身麻酔で行います。

近年は、強い磁場を利用した核磁気共鳴画像法(MRI)による診断法が、主に行われています。この診断法は、入院の必要はありませんし、検査時間は30分ぐらいで寝ている間に可能です。小さな子供の場合は、眠り薬が必要です。X線を使った断層撮影であるX線CTも、緊急時の脳虚血と脳出血の鑑別に有用です。

急性期のウィリス動脈輪閉塞症の治療は、他の原因で起こる脳虚血や脳出血の治療と同じです。脳虚血の場合は、脳細胞保護薬、抗血栓薬、循環改善薬などの点滴が行われます。脳出血で小さな出血の場合は、保存的な治療が行われます。脳室内の出血の場合は、緊急で細い管を脳室に入れて、髄液や血腫(けっしゅ)を抜く手術が行われます。大きな脳内出血の場合は、開頭による血腫除去術を必要とする場合もあります。脳圧を下げ、脳のはれを改善する点滴治療も行われます。けいれん発作があれば、抗けいれん薬が投与されます。

慢性期のウィリス動脈輪閉塞症の脳虚血に対する内科的な治療としては、抗血小板薬、抗凝固薬、血管拡張薬などの投与が行われます。これらの薬剤を積極的に投与する医師と、そうでない医師に分かれます。けいれんのある場合には、抗けいれん薬が投与されます。

虚血発作の再発を抑える目的で、血管吻合(ふんごう)術が有効とされています。この血管吻合術には、耳の前の頭皮内を走行している浅側頭動脈と頭蓋内の中大脳動脈の枝を顕微鏡で見ながら吻合する直接吻合と、脳を包んでいる脳硬膜や側頭部の筋肉やその筋膜を脳の表面に置き、その間に自然に小さな血管の吻合が形成されるのを待つ間接吻合があります。直接吻合を行う場合、大なり小なり間接吻合と組み合わせるのが一般的です。

ウィリス動脈輪閉塞症は、左右に病変があるため、両側の手術が必要なことが多く、普通2回に分けて、症状の強い側の手術を先に行います。手術の効果はすぐに現れるものではなく、虚血発作が徐々に減少し、その後、消失します。その時間経過は、脳循環の状態、手術方法などによりさまざまです。

慢性期のウィリス動脈輪閉塞症の脳出血に対する治療として、血管吻合術が行われる場合があります。側副血行路になっている脳の深部の細い血管に負担がかかり、破綻するのが脳出血の原因と考えられているため、この負担を軽減するために行われますが、この吻合術が再出血を予防するとは必ずしも証明されていません。血圧の高い発症者には、降圧剤を投与します。

脳梗塞や脳出血により、運動障害、言語障害、知能障害、視力障害などが残った場合には、早期に運動療法、作業療法、言語療法などのリハビリテーションを開始することが重要です。特に小児の場合は、適切なリハビリで大きな障害がかなり軽減するケースもあります。

🇹🇲ウイルス性胃腸炎 

ウイルスを原因とする胃腸炎で、嘔吐と下痢が主な症状

ウイルス性胃腸炎とは、ウイルスを原因とする胃腸炎の総称。一年を通じて発生しますが、例年晩秋から冬季に多くなります。

原因となる主なウイルスは、ノロウイルスやロタウイルス、サポウイルス、アデノウイルス、アストロウイルスなどです。晩秋から冬季にかけての流行は、ノロウイルスやロタウイルスが主な原因とされています。

ウイルス性胃腸炎の主な症状は、腹痛、下痢、嘔吐(おうと)、発熱です。ロタウイルス、アデノウイルスによる胃腸炎は、乳幼児に多くみられます。

これらの胃腸炎は、症状のある期間が比較的短く、特別な治療法がないことから、ウイルス検査を行わず、流行状況や症状からウイルス性胃腸炎と診断されることもあります。

ノロウイルス、ロタウイルスによるウイルス性胃腸炎は、1~2日間の潜伏期間を経て、典型的には腹痛、下痢、吐き気、嘔吐、37℃台の発熱がみられます。ノロウイルスを原因とする場合、症状が続く期間は1~2日と短期間ですが、ロタウイルスを原因とする場合は5~6日持続することもあります。また、ロタウイルスによるウイルス性胃腸炎の場合、便が白色になることもあります。

ノロウイルスやロタウイルスなどが、人の手などを介して、口に入った時に感染する可能性があります。ノロウイルスによるウイルス性胃腸炎の場合は、人から人への感染と、汚染した食品を介して起こる食中毒に分けられ、次のような感染経路があります。

1)感染した人の便や吐物に触れた手指を介してノロウイルスが口に入った場合、2)便や吐物が乾燥して、細かなちりとして舞い上がり、そのちりと一緒にウイルスを体内に取り込んだ場合、3)感染した人が十分に手を洗わず調理した食品を食べた場合、4)ノロウイルスを内臓に取り込んだカキやシジミなどの二枚貝を、生または不十分な加熱処理で食べた場合。

ノロウイルスは2002年8月、国際ウイルス学会で命名されましたが、元はSRSV(小型球形ウイルス)と呼ばれていました。ちなみに、ノロとは発見された地名に由来しています。

非常に小さい球形の生物で、直径0・03マイクロメーター前後の蛋白(たんぱく)質でできた球の中に遺伝子(RNAリボ核酸)が包まれた構造をしています。近年、新しい検査法(PCR法)の普及によって、食品からのウイルスの検査が可能になり、100粒子以下の少量で感染するなど食中毒との関係が明らかになってきました。多くの遺伝子型が存在しますので、一度感染したからといって次に感染しないとは限らず、何度でも感染します。

ウイルス性胃腸炎の治療と予防のポイント

下痢止めの薬を控え、水分補給と消化のよい食事での対処が基本です。ただし、激しい腹痛や血便がみられた場合や、体力の弱い乳幼児や高齢者は下痢などによる脱水症状を生じることがありますので、早めに内科、消化器科、胃腸科、小児科を受診してください。また、症状が長引く場合は受診してください。

特に高齢者は、嘔吐物が気管に入る誤嚥(ごえん)により肺炎を起こすことがあるため、体調の変化に注意しましょう。嘔吐の症状が治まったら少しずつ水分を補給し、安静に努め、回復期には消化しやすい食事を取るよう心掛けましょう。

内科、消化器科、胃腸科、小児科の医師によるウイルス性胃腸炎の治療は、有効な薬がないため対症療法を行います。脱水症状がひどい時は、点滴で水分を補います。

予防のポイントとして最も大切なのは、手を洗うことです。特に排便後、また調理や食事の前には、せっけんと流水で十分に手を洗いましょう。便や吐物を処理する時は、使い捨て手袋、マスク、エプロンを着用し、処理後はせっけんと流水で十分に手を洗いましょう。また、カキなどの二枚貝を調理する時は、中心部まで十分に加熱しましょう。

🇬🇩ウイルス性いぼ

ヒト乳頭腫ウイルスが皮膚や粘膜に侵入して、いぼができる疾患の総称

ウイルス性いぼとは、ヒト乳頭腫(にゅうとうしゅ)ウイルス(ヒトパピローマウイルス)が皮膚や粘膜に侵入して、いぼができる疾患の総称。いぼの別名は疣贅(ゆうぜい)で、ウイルス性疣贅とも呼ばれます。

ウイルス性いぼは、尋常(じんじょう)性疣贅、青年性扁平(へんぺい)疣贅、尖圭(せんけい)コンジロームなどに分類され、それぞれの原因となる乳頭腫ウイルスの型があります。

ヒト乳頭腫ウイルスは現在までに150種類以上の種類が見付かり、その型によりいろいろな疾患の症状を現すことが知られています。子宮頸(けい)がんやある種の皮膚がんの原因にもなりますが、がんを起こすヒト乳頭腫ウイルスの型は特定のものであって、通常のウイルス性いぼががんに進展するわけではありません。

ウイルス性いぼの中で最も多い尋常性疣贅

尋常性疣贅は、ヒト乳頭腫ウイルスが皮膚に感染して、いぼができる疾患。普通、いぼといわれるものの多くは、この尋常性疣贅です。

外傷を受けやすい露出部、特に手足の甲や指、膝頭(ひざがしら)などによくできますが、爪(つめ)の周囲にもできます。頭部、顔面、頸部、足底にできることもあります。

ささくれなど傷のある皮膚に感染し、数カ月後には光沢のある肌色の直径1ミリ大の半球状に隆起した発疹(ほっしん)ができ、次第に大きくなって、表面が角化して粗く灰白色になります。直径2~10ミリ大になり、融合して2~3センチ大になることもあります。

 頭部、顔面、頸部に生じる場合は、先端がとがった細長い指状、糸状の突起になることがあります。

足の裏に生じる場合は、特に足底(そくてい)疣贅と呼ばれ、通常、米粒大から小豆大の大きさで、足の裏の皮膚面からやや盛り上がり、表面が粗くて白っぽい色をした硬い部分ができます。しばしば多発して集まり、敷石状になります。これをモザイク疣贅と呼ぶこともあります。

足底は体重が掛かって、いぼがめり込んでしまうため、歩く時に不快を感じたり、小石を踏んでいるように痛むことがあります。

足底疣贅は学童期の小児に多く発症し、素足になる学校のプールサイドや脱衣所の床などで接触感染するとみられます。しばしば魚(うお)の目(鶏眼)や、たこ(べんち)と間違われますが、魚の目、たこは靴などによる長期間の摩擦や圧迫が原因で、足底疣贅はウイルス感染症という違いがあります。

ちなみに、子供には魚の目、たこは、まずできません。魚の目、たこは、加重による皮膚の角化で、一種の老化現象として大人にできるものです。

尋常性疣贅を放置しておくと、ほかの部位に移ります。針でほじくったり、市販の薬で取ろうとしたりすると、いぼがほかの部位により広がることになります。素人判断は禁物で、まず皮膚科、皮膚泌尿器科の医師を受診し、適切な治療を受けるべきです。

若い人の主に顔面や手の甲に、扁平に隆起した小さないぼが多発する青年性扁平疣贅

青年性扁平疣贅は、若い人の主に顔面や手の甲に、扁平に隆起した小さないぼが多発する疾患。扁平いぼ、扁平疣贅とも呼ばれます。

青年期の男女にできますが、10歳以下の子供にもできます。中年以上ではほとんどみられません。

ウイルス性いぼの一種であり、主にヒト乳頭腫ウイルス3型と10型の皮膚感染が原因で起こります。同じウイルス性疣贅の一種で、手のひらや足の裏に表面がざらざらした硬いいぼが生じやすい尋常性疣贅とは、ヒト乳頭腫ウイルスの型が違います。

顔面、手の甲、あるいは前腕などに生じるいぼは、2、3ミリから1センチ大で、扁平に多少隆起した円形か楕円(だえん)形をしており、周囲の皮膚と同じ色調または褐色調です。表面は、あまりざらざらしていません。

普通、自覚症状はありませんが、顔面や手の甲を爪や手でかいたり、顔面にかみそりを当てたりすると、ウイルスがかき傷、そり傷に沿って感染するため、直線状にいぼが並んで生じ、増えていくこともあります。

ほかのウイルス性いぼと比べて、青年性扁平疣贅は自然に軽快する可能性が高いと考えられています。特に、突然赤くなって皮がむけ、かゆくなるのは治る前兆で、この炎症の症状が出てから1~2週間ほどで、ウイルスを排除するための免疫機能によって抗体が体の中に作られるとともに、自然消退する性質があります。

しかし、治る前兆の炎症の症状がいつ出るかは人によって異なり、炎症が起きるまでには長期間かかるのが一般的です。

性器に軟らかい、いぼのような腫瘍ができる尖圭コンジローム

尖圭コンジロームは、男女の性器に軟らかい、いぼのような腫瘍(しゅよう)ができる疾患。尖圭コンジローマとも呼ばれます。

性行為感染症の1つとされており、ヒト乳頭腫ウイルスがセックスの時などに感染することで起こります。好発するのは、いわゆる性活動の盛んな年代。

ヒト乳頭腫ウイルスに感染した人がすべてすぐに発症するわけではなく、ウイルスが体内に潜んでいるだけの人がかなりいるといわれています。そのため、移された相手がはっきりしない場合も多くみられます。潜伏期間は一定ではありませんが、一般的に感染後2~3カ月で症状が現れます。

男性では、主として冠状溝という、亀頭と陰茎の中央の間にある溝に、ニワトリのトサカのような腫瘍ができて増殖します。塊が大きくなるとカリフラワー状になることもあります。陰嚢(いんのう)、尿道口、肛門(こうもん)周囲、口腔(こうくう)にできることもあります。

女性では、大小の陰唇、膣(ちつ)、会陰(えいん)部などの皮膚と粘膜の境界にある湿った部分にでき、 尿道口、肛門周囲、口腔にできることもあります。

感染初期は異物感があるだけで自覚症状はほとんどありませんが、かゆみやひりひりする感じがあったり、ほてる、性交痛を感じる場合もあります。

いったん治療して腫瘍が消えても、ヒト乳頭腫ウイルスが皮下に潜んでいて再発を繰り返すことがよくあります。女性では、原因となるヒト乳頭腫ウイルスと子宮頸がんとの関連も推定されています。

男性の場合、正常な陰茎にも1〜2ミリの小さないぼのようなぶつぶつがみられることがありますが、これは治療の必要はありません。しかし、尖圭コンジロームは悪性のものや性行為で移るものまでさまざまなものがありますので、亀頭部にできている痛みのないはれ物に気付いたら、泌尿器科か皮膚科の専門医を受診します。

ウイルス性いぼの検査と診断と治療

尋常性疣贅の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による尋常性疣贅の診断では、いぼの表面を薄く切り取ると点状に出血することで、魚の目、たこと鑑別します。古いいぼでは角質が厚くなって、区別が難しくなります。確実に診断する方法は、いぼを切除して組織学的に診断するか、ウイルス抗原または核酸を検出します。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、いぼを凍結して取る凍結療法や、電気焼灼(しょうしゃく)が一般的に行われます。

凍結療法は、液体窒素を綿棒に含ませて、いぼの凍結、融解を繰り返す方法です。いぼの部分を超低温で瞬間的に凍結させ、部分的にやけどの状態を起こすことで、皮膚内部のいぼの芯(しん)を表面に押し上げ、徐々にいぼを縮小させます。

処置そのものにかなりの痛みを伴うほか、場合によっては水膨れが発生し、処置後も患部に激痛が伴うこともあります。 また、場合によっては水膨れ内部に出血が発生し、黒く変色することもありますが、この状態になると激痛こそあるものの、治りは早くなります。

通常、凍結療法は4~7日が効果のピークであるために、1~2週間に1回の通院で治療しなければならず、効果に個人差こそありますが、およそ数週から2カ月以上と長い日数が必要とされます。治癒率の低いことも欠点で、特に角質の厚い爪の周囲や足底ではなかなか治りません。

なお、家庭用のいぼ治療薬として知られるイボコロリは、角質を溶かすだけなのでかえって広げてしまうことがあります。凍結療法と組み合わせると、よい結果が得られます。

電気焼灼は、レーザーメスや電気メスでいぼを焼く方法です。液体窒素による凍結療法と違って一度で治るものの、麻酔が必須で、傷跡を残すことがあります。凍結療法などと異なり、保険適応外でもあります。

一部の医療機関では、凍結療法で治りにくいケースや痛みに耐えられないケースで、DNCB(2.4-ジニトロクロロベンゼン)という薬を塗布していぼを取る治療法を行っています。DNCBは本来、かぶれの状態を見る検査薬で、これを治療に応用し、いぼをかぶれた状態にして取ります。多少かゆみを伴ったり、じくじくした状態になったりすることがありますが、痛みはありません。塗布を2カ月続けると、約70パーセントが治癒するとされます。

ほかにも、抗生物質のブレオマイシンの局所注射、ウイルス消毒薬の使用、はと麦の種を成分とする漢方薬ヨクイニンの内服、免疫療法などいろいろの治療法があります。

青年性扁平疣贅の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による青年性疣贅の診断では、皮膚症状から視診で判断し、似たような尋常性疣贅やほかの疾患と鑑別します。場合によっては、いぼの一部を採取して組織検査をすることもあります。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、ほかのウイルス性いぼなどの一番基本となる治療法である液体窒素凍結療法の効果が少なく、ある時期になると一斉に自然消退することがあるため、経過をみることもあります。

治りにくい場合には、尋常性疣贅と同様に、いぼを凍結して取る液体窒素凍結療法や電気焼灼、ヨクイニンの内服などが一般的に行われます。

この青年性扁平疣贅では、皮膚を刺激すると、いぼが次々とできてしまいます。爪や手で引っかいたり、顔面ではかみそりを当てたりしないことが必要です。

尖圭コンジロームの検査と診断と治療

泌尿器科、ないし皮膚科の医師による尖圭コンジロームの診断では、梅毒でみられる扁平コンジロームと違って先のとがったいぼで、多発すると鶏冠状を示すため、多くは見た目で判定できます。判断が難しい場合は、皮膚組織の一部を切除して顕微鏡検査で判定します。時には、血液検査で梅毒ではないことを確認することもあります。

泌尿器科、ないし皮膚科の医師の治療では、小さくて少数なら5−FU軟こう、尿素軟こうなどの塗り薬も効果があるといわれていますが、一般的には液体窒素による凍結凝固や、レーザー、電気メスによる焼灼が有効です。大きかったり、多発、再発する場合は、周囲の皮膚を含めて手術で切除します。

これらの治療によって一時的に腫瘍は消えますが、ウイルスは周囲の皮膚に潜んでいるため20〜50パーセントで再発します。

診断が確定したら、きちんと治るまで性行為は控えるか、コンドームを使用するようにします。特に、女性が生理の時はふだんよりさまざまな菌に感染しやすいので、性行為は控えます。また、避妊目的でピルを服用しても、性行為感染症の予防にはなりませんので、男性にコンドームの使用を求めます。

🇧🇧ウイルス性肝炎

ウイルスの感染によって起こる肝炎。A型、B型、C型(かつての非A非B型)などで、原因ウイルスが異なります。

日本人における肝臓の病気の約7割は、ウイルス性のものと見なされています。通常、肝炎といえば、ウイルス性肝炎を指します。

🇵🇷ウイルス性結膜炎

ウイルスの感染によって目の結膜に炎症が起こる疾患

ウイルス性結膜炎とは、ウイルスの感染によって目の結膜に炎症が起こる疾患。

結膜は、上下のまぶたの裏側と、眼球の表面から黒目の周囲までを覆っている、薄い粘膜の部分を指します。まぶたの裏側を覆っている部分は眼瞼(がんけん)結膜、白目の表面を覆っている部分は眼球結膜と呼ばれています。一方、黒目の部分を覆っている粘膜は角膜と呼ばれています。

その結膜の働きは、直接、外界に接している目を異物の侵入から守ること。そこで、結膜には抗菌作用のある粘液や涙液が分泌され、常に作られている涙で目の表面を潤して防御しているのですが、多くのウイルスや細菌にさらされたり、睡眠不足、過労などで抵抗力が落ちている時には、炎症を起こすことがあります。

ウイルス性結膜炎の原因となるウイルスには、アデノウイルス、エンテロウイルス、コクサッキーウイルス、ヘルペスウイルスなどがあります。いずれも他人の分泌物などからウイルスが体に入って発症するものであり、他人に感染させる力も強く、家族内感染や学校内の集団感染などの原因になります。

夏風邪のウイルスの一種であるアデノウイルス8型を主に、19型、37型、54型も原因となるウイルス性結膜炎には、まず流行性角結膜炎があります。はやり目とも呼ばれ、白目が充血し、目やにが出て、目が痛くなることもありますが、かゆみはほとんどありません。耳の前やあごの下にあるリンパ節がはれることもあります。感染してから約1週間で発症し、それから1週間くらいがピークで、次第によくなります。

同じアデノウイルス3型、4型、7型が原因となるウイルス性結膜炎には、咽頭(いんとう)結膜炎もあります。プール熱とも呼ばれ、突然39度くらいの高熱が出て、のどがはれ、目が充血したり、目やにが出るなどの症状が出ます。悪化すると、肺炎になることもあります。感染してからの経過は、流行性角結膜炎とほぼ同じです。

エンテロウイルス70型やコクサッキーA24変異株が原因となるウイルス性結膜炎には、急性出血性結膜炎があります。症状は急性で、目が痛くなったり、目やにが多くなり、白目に出血がみられることもあります。ひどくなると、黒目の部分の角膜に小さな傷ができることがあります。感染した翌日くらいから発症し、1週間くらいでよくなってきます。

単純ヘルペスウイルスが原因となるウイルス性結膜炎には、ヘルペス性結膜炎があります。ウイルス性結膜炎の一種ではあっても、あまり他人に移ることはありません。症状としては、白目が充血したり、目やにが多く出たりするのに加え、目の周囲の皮膚面に赤く小さな水疱(すいほう)が出ることもよくあります。角膜ヘルペスを合併することもあります。

ウイルス性結膜炎の検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、細隙灯(さいげきとう)顕微鏡で結膜を観察して判断します。結膜の悪い部位をこすり取ったり、涙を採取したりして、その中にウイルスがいないかどうかを調べることもありますが、適応はまれです。

眼科の医師による治療では、流行性角結膜炎、咽頭結膜炎、急性出血性結膜炎の場合、結膜炎の段階での有効な薬剤がないため、対症療法的に抗炎症剤の点眼を行い、細菌による混合感染を防ぐために抗菌剤の点眼を行います。さらに、角膜炎の症状が認められる際は、ステロイド剤の点眼を行います。熱が高い時は、解熱剤を使います。

ヘルペス性結膜炎の場合、単純ヘルペスウイルスに対して効果がある抗ウイルス剤の眼軟こうを目に塗ります。また、症状によっては抗ウイルス剤の内服や点滴治療を併用することもあります。

ウイルス結膜炎の感染を予防するには、目をこすった手やハンカチ、タオルなどから感染することがありますので、目に何らかの異常がある場合には家族であってもタオルなどを共用せず、手洗いをまめに行うなどが効果的です。

感染するのは、流行性角結膜炎や咽頭結膜炎では発症後約1~2週間、急性出血性結膜炎では3~4日です。学校保健法では、流行性角結膜炎と急性出血性結膜炎は感染力がなくなったと医師が判断するまで、咽頭結膜炎は主な症状が消えた後2日を経過するまで登校を禁止することと規定されています。

🇭🇹ウイルス性髄膜炎

脳を取り巻く髄膜にウイルスが感染し、炎症が起こる疾患

ウイルス性髄膜炎とは、脳を取り巻き、内側から軟膜、くも膜、硬膜の三層からなる髄膜に、原因となるウイルスが血液を介して感染し、炎症が起こる疾患。

ウイルス性髄膜炎は無菌性髄膜炎の一部を占める疾患であり、無菌性髄膜炎はインフルエンザ菌や肺炎双球菌、髄膜炎菌などの細菌が病原体とならない髄膜炎を指し、その病原体にはウイルスやマイコプラズマ、真菌(しんきん)、寄生虫などがあり、膠原(こうげん)病、薬剤、造影剤などによっても発生します。小児に多くみられ、細菌由来の髄膜炎に比較すると病変は軽度で通常、予後は良好となります。

無菌性髄膜炎の一部を占める疾患であるウイルス性髄膜炎を起こす原因ウイルスは、エンテロウイルス属(コクサッキーウイルスA、コクサッキーウイルスB、エコーウイルス、エンテロウイルス)が最多で、次いでムンプスウイルスです。エンテロウイルス属、ムンプスウイルスによるウイルス性髄膜炎は、春から夏にかけて多くみられます。

また、原因ウイルスには、単純ヘルペス1型、単純ヘルペス2型、水痘・帯状疱疹(ほうしん)ウイルス、日本脳炎ウイルス、風疹ウイルス、麻疹ウイルスなどもあります。

原因ウイルスによって潜伏期、症状に違いはありますが、一般的に年長児と成人では、急激な発熱、頭痛、嘔吐(おうと)を主症状とします。首が強く突っ張る項部強直などの髄膜刺激症状も多く認められます。

乳児では、発熱、不機嫌、授乳不良など非定型的な症状で発症し、髄膜刺激症状を認めないことも多くあります。新生児では、発熱、授乳不良に加えて、重篤な全身症状を引き起こす敗血症のような症状を示すことがあります。

原因ウイルスがエンテロウイルス属の場合は胃腸病変や発疹(はっしん)がみられ、ムンプスウイルスの場合は耳下腺(せん)のはれがみられ、単純ヘルペス1型と単純ヘルペス2型の場合は発疹がみられ、何度も再燃することがあります。水痘・帯状疱疹ウイルス、風疹ウイルス、麻疹ウイルスの場合も、発疹がみられます。

さらに、炎症が髄膜から脳そのものまでに及ぶと髄膜脳炎、脳炎を合併し、意識障害や手足のけいれんを起こすこともあります。

成人で発熱、頭痛、嘔吐をもって急性に発病した場合は、ウイルス性髄膜炎の疑いがあるので、内科、神経内科を受診します。乳幼児で発熱、授乳不良、何となく元気がないなど普段と様子が違う場合は、早めに小児科を受診することが重要です。

ウイルス性髄膜炎の検査と診断と治療

内科、神経内科、小児科の医師による診断では通常、脊髄(せきずい)液を腰椎(ようつい)から穿刺(せんし)する髄液検査を行います。

髄液検査の所見では、単核球(リンパ球)を主とする細胞の増加が認められます。髄膜炎を疑わせる症状がなくても、髄液検査を行うと髄液中の細胞が増えていることもあります。

また、髄液からのウイルス分離で、原因ウイルスを証明します。あるいは、RT‐PCR法(逆転写酵素ーポリメラーゼ連鎖反応法)を用いて、ウイルス遺伝子(RNA)を検出します。最近の分子生物学的手法により、ウイルスがワクチン株(ワクチン由来)か野生株かの判定が可能になりました。

髄膜炎や、合併した髄膜脳炎、脳炎の程度をみるために、CT(コンピューター断層撮影)検査やMRI(核磁気共鳴画像)検査を行うこともあります。周囲でのウイルス性髄膜炎の流行状況、その年に多く分離されているウイルスの動向なども、診断の参考にします。

内科、神経内科、小児科の医師による治療では、入院が必要になり、ほとんどのウイルスに特異的な治療法がないため、発熱や痛みに対する対症療法を行います。単純ヘルペス1型、単純ヘルペス2型、水痘・帯状疱疹ウイルスによる髄膜炎に対しては、アシクロビルなどの抗ウイルス剤の点滴投与を行います。

ムンプスウイルスによる髄膜炎の場合は、髄液検査において穿刺をすると、頭痛や嘔吐がある程度改善します。脱水症状を示している場合は、輸液(点滴)を行います。

一般的にウイルス性髄膜炎は早期に発見して早期に治療すれば、予後は良好で数週間の安静で自然治癒し、後遺症を残すことはほとんどありません。髄膜脳炎を合併した場合でも、ほかの原因による髄膜脳炎に比べると予後は良好です。

🇩🇴ウイルス性肺炎

細菌よりも小さいウイルスが原因となって発症する肺炎

ウイルス性肺炎とは、細菌よりも小さいウイルスが原因となって発症する肺炎。代表的なウイルスには、アデノウイルス、インフルエンザウイルスなどがあります。

ウイルスによる肺の疾患は風邪症候群として広く知られ、多くは自然に治るものの、中には下気道へと進み肺炎を起こします。ウイルスそのものが肺炎を起こす場合、ウイルスと細菌が混合感染して肺炎を起こす場合、ウイルスが先行感染し、これに続いて細菌が二次的に肺炎を起こす場合の3つがあります。

また、感染するウイルスは、呼吸器を標的とする気道ウイルスと、呼吸器以外の臓器を標的とするウイルスに大別されます。後者のウイルスは、被感染者の免疫状態の低下により、全身感染症の合併症として肺炎などを発症します。

気道ウイルスには、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルスがあります。また、2003年に世界を震撼(しんかん)させた重症急性呼吸器症候群(SARS、サーズ)の原因となった新型コロナウイルスもあります。インフルエンザウイルスは、A型、B型と呼ばれる2種類が肺炎を起こします。パラインフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルスは、小児や高齢者に肺炎を起こします。

後者のウイルスには、麻疹(ましん)ウイルス、水痘・帯状疱疹(たいじょうほうしん)ウイルス、単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルスがあります。麻疹ウイルスは、特に栄養状態のよくない小児に肺炎を起こすことがあります。水痘・帯状疱疹ウイルスは、成人に肺炎を起こします。サイトメガロウイルスは、年齢にかかわらず免疫力が低下している人に重症の肺炎を起こします。

ウイルス性肺炎の主な症状は、頭痛、発熱、筋肉痛、倦怠(けんたい)感など。せき、たんは比較的少なく、細菌性肺炎のように激しくはありません。しかし、インフルエンザウイルス肺炎では、重症になると高熱が出て、呼吸困難などを引き起こし、経過は2〜3週間にも及びます。

ウイルス性肺炎の検査と診断と治療

呼吸器症状に気付いたら、呼吸器疾患専門医のいる病院を受診します。

医師による診断では、胸部X線撮影をすると肺全体が白く写るため、肺炎にかかっているかどうかをすぐに判断することができます。ただし、細菌性肺炎でみられるようなはっきりした陰影のあるパターンは認められません。気道からの分泌物の染色は、RSウイルスやインフルエンザウイルスなど、特定のウイルスの検出に使われます。特定のウイルスに対する抗体が増えているかどうかを調べることもあります。

多くのウイルス性肺炎は、原因であるウイルスを殺す薬で治療できます。ウイルスがいなくなった後も、しばらくの間せきが続きます。その上、ウイルスが気道の内部を傷付けるため、多くの人はウイルス性肺炎の後で二次的な細菌性肺炎を発症します。このような場合、抗生物質による治療が必要になります。

インフルエンザウイルス肺炎の場合、近年、治療に大きな進歩があり、塩酸アマンタジン(シンメトレル)とノイラミニダーゼ阻害薬という薬が使用可能になり、発症36時間以内の早期治療で高い有効性が示されています。ただし、塩酸アマンタジンはA型にしか効かず、また耐性ウイルスを生じやすいといった欠点があります。ノイラミニダーゼ阻害薬には、吸入ドライパウダー型のザナミビル(リレンザ)と内服のオセルタミビル(タミフル)があり、A・B型両方に効果があります。

予防面では、ワクチン接種が推奨されます。特に高齢者を中心としたハイリスク群には、2001年以降、国から公的補助が与えられています。

🇩🇴ウイルス性鼻炎

ウイルスに感染して鼻粘膜の炎症が急激な経過をとる鼻炎

ウイルス性鼻炎とは、鼻腔(びくう)の粘膜にさまざまな原因で炎症が生じる鼻炎の中で、ウイルスに感染して起き急激な経過をとる鼻炎。急性ウイルス性鼻炎、急性鼻炎とも呼ばれます。

ウイルス性鼻炎の多くは、いわゆる鼻風邪と呼ばれる軽い風邪と同じと考えられます。

大部分が、風邪(感冒)のウイルスによって引き起こされます。代表的なウイルスとして、ライノウイルス、RSウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、コロナウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルス、レオウイルスがあります。ウイルス感染に合併して、細菌感染を生じることもあります。

症状として、まず鼻の中が乾いたような感じがし、次いで、くしゃみ、鼻水、鼻詰まり、鼻水がのどに回る後鼻漏が起こります。鼻水は初め水性で、それが数日後には黄色く粘性に変わり、細菌感染を合併すると青緑色っぽい膿(のう)性の鼻漏になります。

のどの違和感、咽頭(いんとう)痛、せき、たん、しわがれ声、発熱、食欲不振、頭痛、全身倦怠(けんたい)感、筋肉痛などを伴うこともあります。のどに違和感があり、いがらっぽくなるのは、ウイルス感染症にある典型的な症状で、鼻の粘膜が赤くなり、浮腫(ふしゅ)状になっています。小児では、いびきが大きくなることもあります。

鼻水や鼻詰まりがなかなか治らない、あるいはいびきが続くなどの症状がある場合は、合併症を起こしている可能性があるので、一度、耳鼻咽喉(いんこう)科、耳鼻科を受診したほうがよいでしょう。

ウイルス性鼻炎の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科、耳鼻科の医師による診断では、症状に基づき、専用のスコープを使って直接鼻やのどの粘膜の状態を観察する鼻鏡検査の所見で、おおかた確定できます。

花粉症と紛らわしいことがありますが、花粉症の場合は目の症状を伴うことが多いため、この有無が鑑定のポイントになります。鼻汁の細胞診でウイルス性鼻炎の場合は、白血球の一種の好中球や、脱落した鼻粘膜上皮細胞がみられますが、花粉症の場合は白血球の一種の好酸球がみられます。

耳鼻咽喉科、耳鼻科の医師による治療では、内服薬や点鼻薬などで現在の症状を緩和する対症療法が主体になります。患部に直接、薬の注入、塗布を行います。

鼻詰まりを柔らげるために、フェニレフリンなどの充血除去薬のスプレー式点鼻薬か、プソイドエフェドリンの内服薬を用います。これらは薬局で入手できる市販薬で、鼻粘膜の血管を収縮させる効果があります。

スプレー剤の使用は、3~4日以内にとどめます。これはそれ以上長く使うと、薬の効果が薄れてきた時に、しばしば鼻の粘膜が薬を使う前よりもはれてしまうからです。このような現象は反跳性鼻閉と呼ばれます。

抗ヒスタミン薬には鼻水を抑える効果がありますが、眠気などの副作用があり、特に高齢者でみられます。

そのほか、鼻以外にも症状がある場合は、鎮痛剤、解熱剤の処方など、全身的な治療もします。抗生物質は、ウイルス性鼻炎には無効です。

小児は鼻をかめないため、後鼻漏となってせきの原因となりがちなので、鼻水をよく吸引することが大切です。

通常は数日間で治りますが、副鼻腔炎を併発すると膿性の鼻漏がなかなか治りません。また、特に小児は急性中耳炎を起こしやすくなります。

ウイルス性鼻炎にかかったら、安静が第一です。鼻やのどに適当な温度、湿度、きれいな空気も必要。特に、室内を乾燥させないように気を付けます。

初期はウイルスが飛び散って伝染するので、感染防止への配慮が必要。マスクは伝染にはたいした効果はありませんが、吸気の清浄化、加温、加湿という面では多少の効果があります。

市販薬でも、鼻症状用としての総合感冒薬や、鼻症状改善の為の即効性スプレー点鼻薬などが数多くありますので、ウイルス性鼻炎にかかりやすい人は持ち合わせているとよいでしょう。

しかし、点鼻薬は即効性が強いぶん、使いすぎると効果が出にくくなるようです。

🇩🇲ウイルソン病

脳、肝臓に銅が沈着してくる遺伝性疾患

ウイルソン病とは、体内に銅が沈着することにより、脳、肝臓、腎(じん)臓、目などが侵される疾患。その原因は、日常の食事で摂取された銅が肝臓から胆汁中へと、正常に排出されないことによります。

常染色体劣性遺伝に基づく先天性銅代謝異常症であり、病名はウイルソンという人が見付けたことに由来しますが、進行性レンズ核変性症、肝レンズ核変性症とも呼ばれています。

銅は微量元素の一つで、必須栄養素であり、過剰に摂取した場合、急性や慢性の銅中毒になります。その慢性銅中毒に、ウイルソン病はよく似ています。食物中の銅は、十二指腸や小腸上部で吸収されて、肝臓に運ばれます。肝臓において、銅はセルロプラスミンと結合して銅結合蛋白(たんぱり)質となり、血液中に流れてゆきます。また、脳や骨髄など全身の諸臓器に必要量が分布し、過剰な銅は肝臓から胆汁中、腸管中に排出され、平衡を保っているのです。

しかし、ウイルソン病においては、この肝臓での銅代謝が障害されています。肝臓中に取り込まれた銅がセルロプラスミンと結合できないために、胆汁中へ銅が排出されず、肝臓にたまっていきます。そして、肝臓からあふれて血液中へ流れ出た銅が、脳、腎臓、目の角膜などへ蓄積します。

近年、13番染色体上のATP7B遺伝子異常が、ウイルソン病の原因遺伝子として特定されました。ATP7Bは、肝臓に特異的に発現するATP依存性メタルトランスポーターで、この異常によってセルロプラスミンへの銅の取り込みが損なわれます。

ウイルソン病の発症率は、3~4万人に1人と見なされ、日本全国で1500人の患者がいるといわれています 。発症率は、欧米諸国より高くなっています。年齢的には、3~15歳の小児期を中心に発症し、30~40歳で発症することもあります。

肝臓の症状は、疲れやすかったり、白眼や皮膚が黄色くなったりして気付かれます。多くの場合は無症状で、血中GOT、GPTなど肝機能の異常を指摘され、発見されます。しかし、原因不明の急性肝炎とか慢性肝炎などと診断されることもあり、急激な肝不全状態となって、黄疸(おうだん)や意識障害などを生じ、急に死亡してしまうこともあります。肝障害は徐々に進行し、思春期過ぎには肝硬変になる場合が多くみられます。

脳の症状の多くは、思春期ごろから現れます。初期においては、言葉が不明瞭(めいりょう)になり、何かをしようとすると手指が震えたりして、字を書くことや細かい作業が下手になります。

さらに進行すると、表情が硬くなり、次第に歩くことができなくなり、ついには寝たきりになってしまいます。記憶力や計算力も鈍り、精神状態も不安定、無気力、うつ状態、統合失調症(精神分裂病)様の反応を示すようになります。

目の症状としては、角膜輪(カイザー・フライシャー輪)をみます。黒目の周りに銅が沈着し、青緑色や黒緑褐色に見えます。この角膜輪が肉眼的にはっきり見えるのは、思春期過ぎです。

これらの多彩な症状は、すべての罹病(りびょう)者に出るのではなく、無症状期の発症前型、 10歳以下の小児期に多い肝型、 10歳以降に多くて年齢とともに増加する神経型、 神経型と同様の傾向を示す肝神経型に分かれます。治療しなければ進行し、ついには、死亡したり、荒廃したりします。

遺伝性代謝疾患ながら治療は可能

ウイルソン病は、遺伝性代謝疾患のうちでは数少ない、治療可能あるいは発症予防可能な疾患です。遺伝性代謝疾患は、いわゆる難病とされ、治療が不可能なものが多いのです。幸い、常染色体劣性遺伝性の疾患であるウイルソン病は治療ができ、早期発見により発症を予防することもできるのです。

早期発見ためには、同じ病気を持つ血族の有無も重要になります。兄弟姉妹を検査すると、25パーセントの確率でウイルソン病であったりします。しかし、約30パーセントは突然変異でウイルソン病が発病するため、家族や血族発生のないこともあります。

家族内検索により発見された小児の場合、発症前型に分類され、治療することにより日常生活や学校生活、就職などすべての面に渡って、正常者と同じ生活を維持することができます。

ウイルソン病の診断は、問診や臨床症状から銅代謝異常の可能性を疑い、血清総銅量やセルロプラスミン濃度の低下、尿中排出量の増加、眼の角膜輪(カイザー・フライシャー輪)の証明などにより、銅代謝異常のあることを診断します。

さらに、肝生検による組織診断、肝生検組織の銅染色、肝生検組織中の銅含有量の測定、胆汁中の銅濃度量の測定などにより、診断が確定します。

治療法としては、銅を多く含む食事の制限を行う食事療法と、D-ペニシラミン(メタルカプターゼ)や塩酸トリエンチン、メタライトといった銅排出促進藥(キレート薬)を服用する薬物療法が基本となります。

食事療法としては、生涯に渡って銅含有量の多い食物の摂取を制限して、1日1・5ミリグラム以下の低銅食を指導します。銅含有量の多い食物として挙げられるは、貝類、レバー、チョコレート、キノコ類など。

薬物療法としては、体内にたまった銅の除去、銅毒性の減少を目指して、銅排出促進薬による治療が、発症予防を含めて第一選択になります。この薬剤には副作用がありますし、生涯に渡って服用しなければなりません。

また、肝障害や神経障害に対する対症療法も必要に応じて行われます。

🇩🇲ウイルムス腫瘍

染色体異常が原因で、乳幼児の腎臓に発生する悪性腫瘍

ウイルムス腫瘍(しゅよう)とは、乳幼児の腎臓(じんぞう)に発生する悪性腫瘍。胎生期の未分化な腎組織から発生するので、腎芽腫、腎芽細胞腫とも呼ばれます。

子供の腎臓に発生する腫瘍のうち、このウイルムス腫瘍が90パーセントを占めます。頻度は出生数1万2000~1万5000人に1人、年間では80~100人が発症していると推定されています。半数は2歳前に発症しており、90パーセントは5歳までに発症しています.発症率の男女差は、同等かやや女児に多い傾向があります。

2つある腎臓のうち、ほとんどは片側に腫瘍ができます。まれには、左右両側にできることもあります。原因は染色体異常で、染色体の11番目の短腕の部で、がんを抑制する遺伝子が欠失している時に発症します。無虹彩症や半身肥大症、腎臓の奇形、尿道下裂、水腎症、停留精巣など、生まれ付きの奇形と合併しやすい特徴もあり、大人の腎臓がんとは根本的に違います。

おなかに硬いしこりができ、膨らむのが、最も多い症状。疾患が進行すると、肝臓など近くの臓器へ広がったり、肺に転移することが多く、リンパ節、骨などに転移することもあります。治療法の進歩によって、早い時期に見付かればほとんどが治るようになったものの、予後不良組織群と呼ばれる全体の約10パーセントの腫瘍群は極めて治りにくいものです。

しこりがかなり大きくなるまで自覚症状はあまりみられず、ほとんどが入浴時などに偶然、おなかのはれやしこりに家族が気が付いた時に、発見されます。わき腹に表面が滑らかで硬いしこりとして触れる特徴があります。呼吸によって、しこりが動くことはありません。

一般に、しこりに痛みはありませんが、腹痛や吐き気が起こったり、血尿が出ることもあります。また、不機嫌、顔面蒼白(そうはく)、食欲低下、体重の減少、発熱、高血圧などがみられることもあります。

ウイルムス腫瘍の検査と診断と治療

乳幼児のおなかに硬いしこりや、異様な膨らみを認めたり、腹痛を訴えて血尿がみられたら、ウイルムス腫瘍の可能性もありますので、すぐに小児科、あるいは泌尿器科を受診します。進行は比較的ゆっくりなものの、肺やリンパ節に転移しやすく、他のがんと同様に早期発見が大切です。

医師による診断では、胸部と腹部のX線撮影のほか、超音波検査、CT検査、MRI検査を行い、腫瘍の大きさ、周囲への進展状態、リンパ節転移の有無などの情報を得ます。特にMRI検査は、腫瘍と血管との関係から腫瘍の外科的切除が可能かどうかを判断する上でも有用です。肺に転移していると、胸部X線写真で丸い不透明な影が認められます。

血尿は症状としては多くはありませんが、顕微鏡的血尿は約3分の1にみられるとされています。無虹彩症、半身肥大症、尿道下裂などの奇形の合併をしばしばみることもあります。

ウイルムス腫瘍は腫瘤(しゅりゅう)のできる固形性のがんの中では最も治療しやすく、新生児期に発見して手術で腎臓を摘出すれば、抗がん剤や放射線の治療を受けなくても、もう片方の腎臓が十分にその機能を果たし、完全に治癒することがあります。

一般には、腎臓とともに腫瘤を摘出後、抗がん剤による強力な化学療法を行い、時に放射線照射を併用することによって、腫瘍の病変が完全に消失した状態が長期に持続します。手術前に抗がん薬による化学治療を行って腫瘤を小さくしてから、摘出することもあります。両側性のウイルムス腫瘍では、両方の腎臓を摘出せずに腎臓の部分切除を行い、腎臓の温存を図ります。

転移がある場合でも、腫瘤がある腎臓を摘出して抗がん剤や放射線による治療を行うことで、かなり治ります。成人の腎臓がんと違って、肺への転移が致命的になることはありません。

🇩🇴ウーマンオンコロジー

乳がん、卵巣がんなど、女性が主に患う腫瘍

ウーマンオンコロジーとは、女性が主に患う腫瘍(しゅよう)のこと。

乳がん、卵巣がん、甲状腺(こうじょうせん)がん、子宮頸(けい)がん、子宮体がんなどです。

■■乳がん■■

■急増している、女性がかかるがんの第1位

乳がんとは、乳房に張り巡らされている乳腺(にゅうせん) にできる悪性腫瘍(しゅよう)。欧米の女性に多くみられ、従来の日本人女性には少なかったのですが、近年は右肩上がりに増加の一途をたどっています。すでに西暦2000年には、女性のかかるがんの第1位となり、30~60歳の女性の病気による死亡原因の第1位となっています。

2006年では、4万人を超える人が乳がんにかかったと推定され、女性全体の死亡数を見ると、乳がんは大腸、胃、肺に次いで4位ですが、1年間の死亡者数は1万1千人を超え、30~60歳に限ると1位を維持しています。

乳がんは転移しやすく、わきの下のリンパ節に起きたり、リンパ管や血管を通って肺や骨など他の臓器に、がん細胞が遠隔転移を起こしやすいのですが、早期発見すれば治る確率の高いがんでもあります。

代表的な症状は、乳房の硬いしこり。乳がんが5ミリから1センチほどの大きさになった場合、しこりがあることが自分で注意して触るとわかります。普通、表面が凸凹していて硬く、押しても痛みはありません。しこりが現れるのはむしろ、乳腺炎、乳腺症、乳腺嚢胞(のうほう)症など、がんではないケースの方が多いのですが、痛みのないしこりは乳がんの特徴の一つ。

さらに、乳がんが乳房の皮膚近くに達した場合、しこりを指で挟んでみると、皮膚にえくぼのような、くぼみやひきつれができたりします。乳首から、血液の混じった異常な分泌液が出てくることもあります。

病気が進むと、しこりの動きが悪くなり、乳頭やその周辺の皮膚が赤くなったり、ただれてきて汚い膿(うみ)が出てきたりします。

わきの下のリンパ節に転移すると、リンパ節が硬く腫(は)れてきて、触るとぐりぐりします。さらに進んで、肺、骨、肝臓などに転移した場合、強い痛みやせき、黄疸(おうだん)などの症状が現れます。

ただし、乳がんは他の臓器のがんとは異なり、かなり進行しても、疲れやすくなったり、食欲がなくなってやせてきたり、痛みが出るというような全身症状は、ほとんどありません。

乳がんが最も多くできやすい場所は、乳房の外側の上方で、全体の約50パーセントを占めます。次いで、内側の上方、乳頭の下、外側の下方、内側の下方の順となっていて、複数の場所に及んでいるものもあります。乳がんが乳房の外側上方にできやすいのは、がんの発生母体となる乳腺組織が集まっているためです。

乳がんの原因はいろいろあって、特定することはできませんが、日本人女性に増えた原因として、女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)の過剰な分泌が関係していると見なされます。

そのエストロゲンの分泌を促す要因として挙げられるのは、生活様式が欧米化したこと、とりわけ食生活が欧米化したことです。高蛋白(たんぱく)質、高脂肪、高エネルギーの欧米型の食事により、日本人の体格も向上して女性の初潮が早く始まり、閉経の時期も遅くなって、月経のある期間が延びました。その結果、乳がんの発生や進行に関係するエストロゲンの影響を受ける期間が長くなったことが、乳がんの増加に関連しているようです。

ほかに、欧米型の食事の影響である肥満、生活習慣、ストレス、喫煙や環境ホルモンによる活性酸素の増加なども、エストロゲンの分泌を促す要因として挙げられます。

乳がんにかかりやすい人としては、初潮が早い人、30歳以上で未婚の人、30歳以上で初めてお産をした人、55歳以上で閉経した人、標準体重の20パーセント以上の肥満のある人などが挙げられています。また、母親や姉妹が乳がんになった人や、以前に片方の乳房に乳がんができた人も、注意が必要です。

特殊なタイプの乳がんも、まれに発生しています。乳首に治りにくいただれや湿疹(しつしん)ができるパジェット病と、乳房の皮膚が夏みかんの皮のように厚くなり、赤くなってくる炎症性乳がんと呼ばれる、非常に治りにくい種類です。

なお、乳がんにかかる人はほとんど女性ですが、女性の約100分の1の割合で男性にもみられます。

■自己検診による乳房のチェックを

乳がんは、早期発見がとても大切な病気。乳房をチェックする自己検診の方法を覚えて、毎月1回、月経が終了して1週間後の乳腺の張りが引いているころに、実行するとよいでしょう。閉経後の人は、例えば自分の誕生日の日付に合わせるなど、月に一度のチェック日を決めておきます。

こうして、自分の乳房のふだんの状態を知っておくと、異常があった時にすぐにわかるのです。

自己触診は、目で乳房の状態を観察することと、手で触れて乳房や、わきの下のしこりの有無をみるのが基本です。鏡に向かって立ち、両手を下げた状態と上げた状態で、乳房の状態をチェックします。

具体的には、 乳首が左右どちらかに引っ張られたり、乳首の陥没や、ただれがないか。乳房に、えくぼのような、くぼみやひきつれがないか。乳輪を絞るようにし、乳頭を軽くつまんで、血液や分泌液が出ないか。

以上の点に注意します。さらに、乳房を手の指の腹で触り、しこりの有無をチェックします。指をそろえて、指の腹全体で乳房全体を円を描くように触ります。乳房の内側と外側をていねいにさすってみましょう。調べる乳房のほうの腕を下げたポーズと腕を上げたポーズで、左右両方の乳房をチェックします。

そして、わきの下にぐりぐりしたリンパ節の腫れがないかどうかもチェックします。

少しでも、しこりや異変に気が付いたら、ためらわずに外科を受診することが大切です。専門家によって、自己触診では見付からないようながんが発見されることもありますから、定期検診も忘れずに受けましょう。

■検査はマンモグラフィが中心

乳がんは、乳腺外科、あるいは外科で専門的に扱う場合がほとんどです。検査は、視診と触診、さらにマンモグラフィが中心ですが、超音波検査(エコー)もよく利用されています。

マンモグラフィは、乳房用のレントゲン検査で、早期乳がんの発見率を向上させた立役者といえます。乳房全体をプラスチックの板などで挟み、左右上下方向からレントゲン写真をとります。

乳房のしこりだけではなく、石灰化像といって、しこりとして感じられないような小さながんの変化も捕らえることができます。この段階で発見できれば、乳がんもごく早期であることがほとんどですから、乳房を残したままがんを治療することも可能になります。

現在の日本では、乳がん検診にアメリカほどマンモグラフィが普及していません。検診では、触診や視診だけではなく、マンモグラフィの検査が含まれているかどうかを確認したほうが安心です。

超音波検査は、超音波を発する端子を乳房に当てて、その跳ね返りを画像にするもの。痛みなどはなくて受けやすい検査で、自分ではわからないような小さな乳がんを発見することが可能です。

しこりや石灰化像などの、がんが疑われる兆候が発見された場合には、良性のものか、がんかを判断する検査が行われます。従来、穿刺(せんし)吸引細胞診、針生検(せいけん)や切開生検が中心に行われていましたが、近年はマンモトーム生検という検査法が登場しました。

穿刺吸引細胞診は、専用の針をしこりに刺して一部の細胞を吸引して取り、顕微鏡で細胞の形などを調べる検査。体への負担が少ないのが利点ですが、しこりとして触れないような小さながんなどは、診断できないことも少なくありません。

針生検は、少し太めのコア針で局所麻酔をして、組織を取り出して調べる検査。体への負担が少ないのが利点ですが、病変が小さい場合は何度も刺す必要があったり、診断が付かないこともあります。

切開生検は、メスで乳房に切開を入れ、がんと思われる部位の組織の一部を取ってきて、顕微鏡で調べる検査。穿刺吸引細胞診や針生検で、確定診断ができない場合に行われてきましたが、外科手術になりますので、体への負担が大きいのが欠点です 。

マンモトーム生検は、超音波やマンモグラフィで見ながら、疑わしい部分に直径3ミリの針であるマンモトームを刺して、自動的に組織の一部を吸引してきて、顕微鏡で調べる検査。広範囲の組織が取れて、切開生検より傷口が小さいため、テープで止めるだけで糸で縫う必要がないのが利点です。とりわけ、しこりとして触れない小さながんや、石灰化の段階のがんの診断に、威力を発揮します。

乳がんとわかった場合には、がんの広がりの程度、他の部位への転移の有無を調べるために、胸や骨のレントゲン検査、CT、超音波検査、アイソトープ検査などが行われます。その程度や有無によって、治療の方針が決められることになります。

■標準的な手術法は乳房温存療法

乳がんの治療法は、その進み具合によって、いろいろな方法が選ばれます。一般的には、まず手術により、乳がんの病変部をできるだけ取り除く治療を行います。

従来は、乳房と胸の筋肉とわきの下のリンパ節をひと塊として、完全に取ってしまうハルステッドという手術が、定型的な乳房切除術として長い間、行われていました。この手術によって、乳がんの治療成績は飛躍的に向上しました。しかし、手術後に腕がむくんで動かしにくくなるなどの障害と、肋骨(ろっこつ)が浮き出て見えたりする美容的な問題が、難点でした。

ところが、乳がんも早期発見が多くなったため、このように大きな手術をすることは少なくなりました。現在では、がんが胸の筋肉に深く食い込んでいる場合などごく一部を除いて、ハルステッド法はほとんど行われなくなっています。

代わりに、胸の筋肉は残して、乳房とわきの下のリンパ節を取る胸筋温存乳房切除術という手術が、行われるようになりました。

乳房のすぐ下には大胸筋、その下には小胸筋という筋肉がありますが、この胸筋温存乳房切除術にも、大胸筋だけを残す大胸筋温存乳房切除術と、両方の筋肉を残して乳房を切除する大小胸筋温存乳房切除術があります。

リンパ節転移が多い場合などは、リンパ節を確実に切除するために、小胸筋を切除することがありますが、最近は両方の筋肉を残して乳房を切除するケースが多くなっています。腕を動かす時に主に使われる大胸筋を残すだけでも、ハルステッド法に比べればかなり障害は少なくなります 。

さらに、近年では、早期に発見された乳がんに対しては、乳房を全部切り取らずに、しこりの部分だけを取り除いて、残した乳腺に放射線をかける乳房温存療法が、盛んに行われるようになりました。日本では2003年に、乳房温存療法が乳房切除術を数の上で上回るようになり、標準的な手術法となっています。

この乳房温存療法では、乳房を残して、がんの病巣をできるだけ手術によって切除し、残ったがんは放射線の照射で叩くというのが基本的な考え方ですので、放射線治療は必須です。一般的には、わきの下のリンパ節転移があるかどうかにかかわらず、しこりの大きさが3センチ以下で、乳房の中でがんが広範囲に広がっていないことなどが、適応の条件とされています。

また、しこりが3センチ以上でも、手術前に化学療法を行ってしこりが十分に小さくなれば、可能であるとされています。ただし、医療機関によって考え方には多少違いがあり、もっと大きな乳がんにも適応しているところもあります。

わきの下のリンパ節をたくさん取らない方法も、最近では検討されています。手術中に、センチネルリンパ節(見張りのリンパ節)という最初にがんが転移するリンパ節を見付けて、そこに転移がなければリンパ節はそれ以上は取らないという方法です。まだ確立はされた方法ではありませんが、腕の痛みやむくみなどの障害が出ないので、今後急速に普及していくと考えられます。

乳がんはしこりが小さくても、すでにわきの下のリンパ節に転移していたり、血液の中に入って遠くの臓器に広がっていることもあります。転移の疑いがある場合、術後の再発予防のために抗がん薬やホルモン薬による治療を加えると、再発の危険性が30~50パーセント減ることがわかってきました。抗がん薬やホルモン薬においても、副作用が少なく、よく効く薬が開発されてきて、再発後の治療にも効果を上げています。

■■卵巣がん■■

■女性の卵巣に発生する悪性の腫瘍

卵巣がんとは、卵巣に発生する腫瘍(しゅよう)のうち、悪性腫瘍の代表となる疾患。女性特有の疾患であり、命の危険もあります。

卵巣は、子宮の左右に一つずつある親指くらいの楕円(だえん)形の小さな臓器です。卵巣の中で卵子を成熟させ、放出するという働きがあり、周期的に卵胞ホルモンと黄体ホルモンという2種類のホルモンを分泌して女性の機能を調整しており、妊娠と出産のためにはなくてはならない臓器です。

この卵巣には、人体の臓器の中で最も多くの種類の腫瘍が発生します。腫瘍は大きく、良性群、中間群(境界悪性)、悪性群に分けられ、悪性の代表が卵巣がん。それらを正確に判断するためには、手術によって腫瘍を摘出し、顕微鏡で調べなければなりません。

年齢的には少女から高齢者まで幅広く、卵巣がんは発症しますが、40歳代から発症する人が増加し、50歳代から70歳代の女性に最も多く発症します。女性の70人に1人が発症していると見なされ、婦人科系のがんの中では2番目に発症率が高く、死亡率は1番目といわれています。食生活の欧米化に伴って年々少しずつ発症する人が増えており、特に50歳以降に発症すると死亡率は高くなっています。

死亡率が高い原因には、卵巣がんの早期発見が難しいという点が挙げられます。卵巣は、骨盤内にあって腹腔(ふくくう)内に隠れている臓器なので、自覚症状が出るのが遅くなります。医療機関での画像診断でも、ある程度の大きさにならないと診断することが難しい面があります。進行してがんがかなり大きくなったり、他の臓器への転移が起こって初めて、気付くというケースが多くみられます。

卵巣がんが小さい時は、症状は何もありません。がんが大きくなってくると、下腹部にしこりを感じたり、圧迫感により尿が近くなるといった症状が現れてきます。胃が圧迫されることによる食欲不振や、下腹部の消化不良のような不快感、腰痛や吐き気、疲労感、不正性器出血などといった症状も現れてきます。

さらに進行すると、卵巣が腫大して腹水がたまり、妊娠時のように腹が膨らんできます。そうなると、貧血や体重の減少などもみられるようになってきます。

人体の臓器の中でもとても小さな卵巣ですが、そこにできるがんにはさまざまなものがあります。卵巣の中にある表層上皮、胚(はい)細胞(卵細胞)、性ホルモンを分泌する性索間質などすべての細胞から、さまざまながんが発生します。

その発生する細胞から、上皮性卵巣がん、胚細胞性卵巣がん、性索間質性卵巣がんの3つに大きく分けられ、さらに組織学的に細かく分類されています。

卵巣がんのうち、90パーセント以上を占めるのが表皮上皮から発生する上皮性卵巣がんで、40歳代から60歳代の女性に多くみられます。上皮性卵巣がんの中でも組織学的な分類でみると、漿液性腺(しょうえきせいせん)がん、粘液性腺がん、類内膜腺がん、明細胞腺がんが多くみられます。粘液性腺がんの場合は、若年層でも発症することがあります。

また、卵子を生じる細胞から発症する胚細胞性卵巣がんの場合は、30歳未満の比較的年齢の低い女性に多くみられるものの、発症頻度は非常に少ないとされています。性ホルモンを分泌する性索間質卵巣がんのうち、顆粒(かりゅう)膜細胞腫という中間群に分類される腫瘍は、10歳代という若年層に発症します。

他の臓器へ最も転移しやすいのは、腹膜播種(はしゅ)と呼ばれるもので、卵巣から横隔膜にも転移し、そこから胸腔内に広がることがあります。このように卵巣がんが転移した場合、腹水のために腹が大きく張ったり、胸水による息切れがみられるなどの症状が現れます。逆に、胃がんや大腸がんなどの他の臓器のがんの転移によって、卵巣がんが発症したというケースもみられます。

卵巣がんの治療は、その卵巣がんの種類によって異なってきます。適切な治療を行うためにも、自分の卵巣がんの種類を把握することは大切なことです。

■卵巣がんの検査と診断と治療

何らかの自覚症状が現れてから医療機関で検査を受けると、その時点ですでに進行が進み転移が起きている場合が多くあります。卵巣がんを少しでも早い段階で発見するためにも、定期的に婦人科、産婦人科で検診を受けることが大切になります。

卵巣がんは子宮がん検診のように細胞をとって検査することはできないため、エコー検査による検診が行われています。エコー検査によって卵巣に腫瘍が認められた場合や、下腹部の圧迫感やしこりなどといった症状を感じている場合は、CTやMRIなどの画像検査により卵巣がんやそれに伴う転移、腫瘍の性質や進行度などといった詳しい状態を検査していきます。

卵巣にできる腫瘍には良性と悪性があるので、腫瘍マーカーによる検査が行われ良性、悪性の判断が行われます。

しかし、腫瘍マーカーは初期や低年齢の女性の場合は陰性のことが多いため、正確に判断するためには手術によって組織を摘出し、病理組織検査によって調べる必要があります。

従って、種々の検査で、卵巣の直径が5センチ以上となっている場合は、原則的に手術が行われ、摘出物の病理組織検査で、その後の治療方法が決まります。

手術中の肉眼的な所見で、腫瘍が良性か悪性かはおおよそわかりますが、どちらかはっきりしない場合は、手術中の迅速病理組織疹の結果で、子宮まで摘出するか否か決定されます。

がんが卵巣内にとどまっている場合は、がんのできている卵巣と卵管だけを切除するだけでよいこともあります。がんが卵巣外にも及んでいる場合は、両側の卵巣と卵管、子宮、胃の下部から垂れて腸の前面を覆う薄いである大網(だいもう)、リンパ節などを広範に摘出しなければなりません。大網は最も卵巣がんが転移しやすい部位とされ、早期がんの場合でも切除することがあります。

 がんが卵巣外に広く散らばっている場合には、手術の後、抗がん剤による強力な化学療法が必要となります。抗がん剤はがんの種類によってかなり有効で、残ったがんが縮小したり、消失することもあります。この場合は、もう一度手術を行い、残った腫瘍を完全に摘出したり、化学療法を中止する時期を決定します。

なお、卵巣がんは乳がん同様に家族性腫瘍とみられ、家族の中に子宮がんや乳がん、大腸がんの人がいる場合は、リスク因子が高くなっています。また、出産歴がない場合や第1子を高齢で出産した場合、初潮を早く迎えた場合、閉経が遅い場合なども、リスク因子として挙げられています。生活習慣からみるリスク因子には、喫煙、食事での動物性脂肪の多量摂取、肥満などがあります。

■■甲状腺がん■■

■内分泌腺の一つで、首の前部にある甲状腺に発生するがん

甲状腺(せん)がんとは、内分泌腺の一つで、首の前部にある甲状腺に発生するがん。

この甲状腺は、のど仏の下方にあって、気管の前面にチョウが羽を広げたような形でくっついて存在し、重さは約15グラム。男性では女性に比べてやや低い位置にあり、甲状腺の後両側には、反回神経という声を出すのに必要な神経が走っています。

甲状腺ホルモンという日常生活に必要不可欠なホルモンを分泌し、そのホルモンレベルは脳にある下垂体という臓器の指令により調節されています。なお、甲状腺の裏側には、副甲状腺というやはりホルモンを分泌する米粒大の臓器が左右上下計4個存在し、血清中のカルシウム値を一定に保つ役割を担っています。

甲状腺がんの発生頻度は、人口3万人に30人程度。年齢的には、若年者から高齢者まで広い年齢層に発生し、子供を含む若い年齢層でもさほど珍しくありません。性別では、男性の5倍と女性に圧倒的に多いのですが、男性の甲状腺がんのほうが治りにくい傾向があります。

原因は、まだよくわかっていません。原爆やチェルノブイリ原発事故などで首に放射線を多量に受けた場合や、甲状腺刺激ホルモンが増加した場合などが、原因になるのではないかといわれています。さらに、甲状腺がんの一つの型で、甲状腺の特殊なC細胞より生じる髄様がんのように、遺伝的に発生するものもあります。また、慢性甲状腺炎(橋本病)にがんが合併することも少なくありません。

甲状腺がんは顕微鏡検査での分類である組織型により、乳頭がん、濾胞(ろほう)がん、髄様がん、未分化がんに分類されます。このいずれであるかによって、病態や悪性度が大きく異なります。

このうち、乳頭がんが全甲状腺がんの約90パーセントを占め、次いで多いのは濾胞がんです。この両者は分化がんと総称され、がん組織が異常であるとはいえ、比較的正常組織に似ています。一般に進行が遅く、治りやすいがんであるのが大きな特徴。リンパ節や肺などに転移がみられる場合もあります。

髄様がんは全甲状腺がんの1〜2パーセント程度を占め、約4分の1が遺伝性。リンパ節転移を起こしやすく、副腎(ふくじん)や副甲状腺の疾患を伴うこともあります。分化がんに比べると悪性度は高いものの、未分化がんほど悪性度は高くありません。

一方、未分化がんは全甲状腺がんの2〜3パーセント程度を占め、あらゆるがんのうちで最も増殖スピードが速いと見なされているもので、全身的な症状を伴ってくるのが特徴です。元からあった分化がんが長年のうちに、変化(転化)して未分化がんになると考えられています。分化がんと比較して、60〜70歳以上の高齢者にやや多く、発生に男女差はほとんどありません。

甲状腺がんの症状は通常、首の前部にしこりを触れるだけです。長年放置して大きなしこりとなると、目で見ただけでわかるサイズになりますし、周囲臓器への圧迫症状を呈することもあります。進行すると、声帯の反回神経のまひを生じて、声がかすれたり、首や全身のリンパ節に転移を生じたり、気管や食道にがんが広がります。

ただし、以上のことは甲状腺分化がんの場合であって、未分化がんでは早い時期から急激な増大、痛み、息苦しさ、全身の倦怠(けんたい)感など多彩な症状を呈します。

■甲状腺がんの検査と診断と治療

首のしこりが甲状腺に関係するかどうかは一般の医師でもわかるので、まず掛り付け医を受診し、甲状腺腫瘍(しゅよう)と判明したら、甲状腺を専門にする外科医を受診します。

医師による診断では、手で触る触診以外に、超音波検査(エコー検査)、CT検査などを行います。また、しこりに細い針を刺してがん細胞の有無を顕微鏡で調べる吸引細胞診で、組織型を判断します。目的に応じて甲状腺シンチグラフィ、MRI検査なども行われます。

髄様がんでは、血中のカルシトニンやCEAといった検査値が高くなりますので、診断は容易です。遺伝性のこともあるので、遺伝子の検査や家系調査などが必要となってくることもあります。

治療においては、乳頭がん、濾胞がん、髄様がんはすべて手術の対象となります。病変の広がりにより、甲状腺の全部を切除する甲状腺全摘術、大部分を切除する甲状腺亜全摘術、左右いずれか半分を切除する片葉切除術などを行います。甲状腺の全部や大部分を切除した場合には、残った甲状腺が十分な甲状腺ホルモンを作れないために、チラージンSという甲状腺ホルモン剤を投与します。

首のリンパ節は原則として切除しますが、その範囲もがんの進み具合により判断されます。10ミリ以下の極めて微小な分化がんでは、リンパ節切除を省略する場合もあります。 遠隔臓器に転移を来した分化がん、ことに濾胞がんでは、甲状腺全摘の後にアイソトープ(放射性ヨードの内服剤)の投与が行われます。分化がんに対して、抗がん剤による有効な化学療法はありません。

一方、甲状腺未分化がんに対しては、手術よりも外照射による放射線療法と、抗がん剤による化学療法が中心的な治療となります。従来、有効な治療法が確立されていませんでしたが、近年は複数の抗がん剤の併用が有効なケースもみられます。

甲状腺の手術に特徴的な合併症としては、反回神経まひ、副甲状腺機能低下があります。甲状腺に接する反回神経を手術の時に切断する場合には、声がかすれる、水分を飲むとむせるようなこともあるものの、6カ月から1年経過をみて回復しない場合には、声帯内にシリコンを注入して声をよくします。副甲状腺4個のうちいくつかも手術の時に切除されることが多いのですが、3個以上の摘出では血液中のカルシウムが低下し、指先や口の周囲のしびれが起こることがあるため、カルシウム剤剤や活性化ビタミンD3の補充を行います。

甲状腺がんの予後は、未分化がんを除き良好です。特に、大部分を占める乳頭がんでは、術後10年生存率が90パーセントを超え、がんのうちでも最も治りやすい部類に属します。濾胞がんでも、これに準ずる高い治療成績が得られます。髄様がんでは、分化がんに比べるとやや不良ながら、一般のがんに比べると予後は良好です。未分化がんでは、治療成績は極めて悪いのが現状です。

■■子宮頸がん■■

■40、50歳代に多く、若年層にも増加傾向

子宮頸(けい)がんとは、子宮頸部の上皮から発生するがんのことをいいます。子宮頸部は、膣(ちつ)から子宮への入り口部分で、とっくりを逆さにしたような形をしている子宮の細い部分に当たり、その先端が腟の側に突き出ています。

先端の部分と内方の部分では、上皮の組織が異なっています。腟の側に突き出ている先端部分は、皮膚と同じく、数層の平ベったい細胞が重なった扁平(へんぺい)上皮で覆われています。これに対して、子宮体部の側の内方部分は、粘液を分泌する一層の細胞である腺(せん)上皮(円柱上皮)で覆われています。

一般にいう子宮頸がんは、約85パーセントが扁平上皮の細胞から発生する子宮頸部扁平上皮がんで、性成熟期に多く発症します。一方、腺上皮の細胞から発生する子宮頸部腺がんは、閉経後に多く発症します。子宮頸部扁平上皮がんは子宮膣部がん、子宮頸部腺がんは子宮頸管がんとも呼びます。

発生したがんは初め、扁平上皮、あるいは腺上皮の中にとどまっていますが、次第に子宮の筋肉に浸潤。さらに、腟や子宮の周りの組織に及んだり、骨盤内のリンパ節に転移したりします。ひどく進行すると、膀胱(ぼうこう)、直腸を侵したり、肺、肝臓、骨などに転移したりします。

子宮がん全体の中では、子宮頸がんは60〜70パーセントを占めています。30歳代で増え始め、40、50歳代で最も多くみられますが、20歳代の人や80歳以上の人にもみられます。とりわけ、性交開始が低年齢化するとともに若年者の発症が多くなっているために、平成16年4月の厚生労働省の通達で、子宮頸がん検診の開始年齢を20歳に引き下げました。

死亡数は、激減しています。前がん病変での早期発見、早期治療のケースが増加し、がんになる前に治療がされるようになったことと、がんになったとしても、がんの進み具合を表す臨床進行期で0(ゼロ)期〜Ia期に当たる早期がんのうちに、約65パーセントが発見され、ほぼ100パーセント治癒するようになったためです。

しかしながら、発生率は少なくなっていません。子宮頸部腺がんでは、検診で比較的発見されにくく、進行してから発見される場合もあります。放射線治療や化学療法が効きにくいなど、扁平上皮がんと比べると子宮頸部腺がんの予後は、悪い傾向にあります。

■ヒトパピローマウイルスの感染が誘因に

直接、発がんと結び付く原因はまだわかっていませんが、いくつかの疑わしい因子はわかっています。以前から、多産婦に多いことが統計学的に証明されているほか、高リスクの因子として、初めての性交年齢の若い人、性行為の相手が複数いる人、喫煙歴のある人などが挙げられています。

近年、注目されている高リスク因子は、性行為によって感染するヒトパピローマウイルス(ヒト乳頭腫ウイルス:HPV)。ほとんどの子宮頸がんで、このウイルスが組織中から検出されるため、がんの発生の引き金となると考えられています。

ヒトパピローマウイルスは、いぼを作るウイルスの一種で、男性性器の分泌物などに含まれています。70種類以上あるタイプの中のいくつかのものが、前がん病変の形成や頸がんの発生に関与。一般に、ウイルスを持った男性との性交渉によって、外陰部、腟、子宮頸部などの細胞に感染します。

外陰がんや腟がんは非常にまれにしか生じないのに対して、子宮頸がんは比較的多く発生します。とはいっても、実際に子宮頸がんになる人は、ヒトパピローマウイルスに感染した人の中の一部にすぎません。

前がん病変が形成されても、軽度の場合は経過観察しているうちに、約70パーセントが自然に消失することも知られています。発がんには、ウイルスに感染した人の体質、すなわち遺伝子の不安定性や免疫なども関係しているようです。

初期の子宮頸がんではほとんどが無症状ですが、子宮がん検診で行う子宮頸部細胞診により発見することができます。

進行した際の自覚症状としては、月経以外の出血である不正性器出血が最も多く、特に性交時に出血しやすくなります。膿(うみ)のような下り物が増えることもあります。下腹部痛、腰痛、下肢痛や血尿、排尿障害、血便、下痢などが現れることもあります。

■がんの進行度で異なる治療法

不正性器出血があったら、婦人科で検査を受けるのがよいでしょう。症状がなくても、年に1回程度は子宮がん検診を受けることが最善です。

子宮頸がんの検査では、子宮頸部を綿棒などでこすって、細胞診用の検体を採取します。細胞診で異型細胞が認められた場合には、コルポスコープと呼ぶ膣拡大鏡で5〜25倍に拡大して観察しながら、疑わしい部分の組織を組織診用に採取し、病理学的に検査して診断を確定します。

進行がんの場合は肉眼で見ただけでわかりますが、確定のために細胞診と組織診が行われます。さらに、内診、直腸診で腫瘍(しゅよう)の大きさや広がりを調べます。

子宮頸がんの診断が付いた場合は、胸部X線検査、経静脈性尿路造影、膀胱鏡、直腸鏡検査を行い、臨床進行期が決定されます。腹部超音波検査、CT、MRIによって病変の広がりを調べることも、治療法の選択に当たって重要視されます。

子宮頸がんの主な治療法は、手術療法または放射線療法。年齢、全身状態、病変の進行期を考慮して、治療法が選択されます。治療成績は手術、放射線ともほぼ同じですが、日本では手術が可能な進行期までは、手術療法が選ばれる傾向にあります。

早期がんである0期に対しては、子宮頸部だけを円錐(えんすい)形に切り取る円錐切除術を行うことで、術後に妊娠の可能性を残すことができます。また、レーザーによる治療を行うこともあります。レーザー治療では、子宮頸部をほぼ原形のまま残し、術中まったく出血することなく、痛みもないので無麻酔下で行える利点があり、治療成績も良好です。妊娠の希望がない場合は、単純子宮全摘術を行うこともあります。

進行期の中で浸潤が浅いIa 期の場合は、単純子宮全摘術が標準的ですが、妊娠を強く希望される人の場合は、円錐切除術のみが行われることがあります。

明らかな浸潤がんのIa2期や、子宮の周囲にがんが広がるII期の場合は、広汎(こうはん)子宮全摘術が一般的です。広汎子宮全摘術では、子宮だけでなく、子宮の周りの組織や腟を広い範囲で切除し、通常は卵巣も切除します。40歳未満の場合は、卵巣を温存することもあります。摘出物の病理診断でリンパ節転移や切除断端にがんがあった場合は、術後に放射線療法を追加します。

がんの浸潤が深く、広い範囲に及んで手術ができないIII〜IV期の進行がんの場合や、高齢者、全身状態の悪い人の場合は、手術の負担が大きいため放射線療法を行います。

放射線療法は通常、子宮を中心とした骨盤内の臓器におなかの外側から照射する外部照射と、子宮、腟の内側から細い器具を入れて照射する腔内照射を組み合わせて行われます。外部照射ではリニアックというX線を用い、腔内照射ではラジウムに替わってイリジュウムが使われるようになっています。

さらに近年、新しく有効な抗がん薬の開発が進み、主治療の手術や放射線療法を行う前に、原発病巣の縮小と遠隔転移の制御を目的にして、主治療前補助化学療法(NAC)も行われるようになりました。点滴で薬を投与するのが一般的な投与法ですが、子宮動脈へ動注する方法もあります。

 IIb期やIIIa期でも、先に化学療法を行ってがんを小さくしてから、手術することもあります。IIIb〜IVa期などの本来は手術ができない進行期のがんも、NACを行った後に、手術ができることもあります。NAC併用後に手術ができた場合、放射線療法単独の場合よりも治療効果が高いことが報告されており、最近ではNACを行うことが標準的になっています。

■■子宮体がん■■

■子宮体部の内膜に発生するがん

子宮体がんとは、子宮体部の粘膜にできる悪性腫瘍(しゅよう)。子宮頸部(けいぶ)に悪性腫瘍ができる子宮頸がんと合わせて、子宮がんと呼ばれていますが、子宮体がんと子宮頸がんの二つは、発生部位はもとより、好発年齢、発生原因、症状が異なるため 、区別して扱う疾患です。

子宮体部は、子宮の奥の赤ちゃんを育てる部分。外側は筋肉に覆われており、内側は子宮内膜という粘膜でできています。その内膜にがんができるのが、子宮体がんです。

主に閉経後の50歳以上の人に好発し、若い人では、不妊症の人や卵巣機能に障害がある人に起こります。

初期の症状としては、何らかの不正出血、下り物がみられます。閉経前では、月経が長引いたり、周期が乱れるという形で不正出血があります。閉経後では、少量の出血が長く続く場合には注意が必要です。

下り物は黄色、褐色から始まり、次第に血性、肉汁様になって、進行すると膿(のう)性になり、悪臭を放つようになります。高齢者では、子宮の入り口が狭くなって詰まってしまい、子宮の中に出血や分泌物が貯留することもあります。

さらに進行すると、子宮体部の内膜に発生したがんは、徐々に子宮体部壁に広がっていきます。広がりが深くなると、骨盤リンパ節や腹部動脈節に転移が起こり、卵巣、卵管、子宮頸部、腹膜へも進展します。さらに、肺、肝臓などの遠隔臓器へも転移します。

一般に、子宮体がんの進行は、子宮頸がんより遅いといわれています。以前は子宮頸がんが子宮がんの大半を占めていましたが、最近では食生活及び生活習慣の欧米化や、高齢化などにより、子宮体がんが増える傾向にあります。今後はさらに増加するものと予測されます。

発生や進行には、女性ホルモンのエストロゲン(卵胞ホルモン)が影響を与えています。エストロゲンは内膜を増殖させる作用があり、一方、排卵後に分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)は、増殖を抑制する作用があります。更年期には、月経があっても排卵が起こっていないことが多く、排卵後に分泌されるプロゲステロンが十分に出ないため、内膜が過剰に増殖して子宮内膜症になり、さらに、子宮体がんに進展する可能性があります。

子供がいないか少ない人や、不妊、卵巣機能不全、肥満、高脂血症、糖尿病などを抱えている人も、エストロゲンが子宮内膜に働いている時間が長くなるため、子宮体がんのリスクを高めるといわれています。

■早期の発見、早期の治療が大切

子宮がんでは、早期発見、早期治療が重要です。子宮体がんは子宮頸がんと同様、初期には自覚症状がない場合が多いので、早期発見のために、年に一度は定期検診を受けましょう。50歳前後に発症が多く、最近は閉経後の子宮体がんが増加していますから、閉経後も検診が必要です。

不正出血は大きな手掛かりで、がんになる前の状態の子宮内膜増殖症の段階でも、不正出血が出ることがあります。症状が出てから検診しても、進行がんとは限らないわけです。逆に、進行がんの段階になっても、不正出血のない人もいますので、やはり定期的な検診が大切なのです。

ふだんから自分の体の健康状態に気を付け、不正出血や下り物の異常、性交時の出血、下腹部痛などいつもと違う兆候があったら、ためらわず婦人科を受診することも大切です。

なお、子宮がんの検査を受けた場合でも、実際には子宮頸がんの検査だけを行っている場合もありますから、注意して確認してください。子宮体がんは子宮の奥にできるので、頸がんの検査では発見できません。

検査はまず、細胞診でチェックします。細いチューブを腟から子宮の中に入れて子宮内膜の細胞を吸引採取したり、挿入したブラシでかき取った細胞を、調べます。多少痛みがあります。

細胞診で疑わしい兆候があった場合、あるいは子宮体がんの疑いが強い場合は、最初から組織診が行われることもあります。キューレットと呼ばれる細い金属棒の先に小さな爪のある道具で、子宮体部の組織をかき取り、顕微鏡で検査する方法が中心になっています。少し痛みがあり、出血が数日続くこともあります。

子宮体がんの治療では、手術、放射線、抗がん剤に加え、ホルモン療法が有効な場合もあります。基本は、やはり手術です。

主な手術には、単純子宮全摘術と附属器の切除、広汎子宮全摘術があります。前者の手術は、腹部を切開して子宮と卵巣、卵管を切除する手術です。進行の程度により、周囲のリンパ節の切除も加えます。後者の手術は、子宮と卵巣、卵管、腟、さらに子宮周囲の組織を広く切除する手術で、周囲のリンパ節も一緒に切除します。

手術によって、リンパ節転移が発見されたり、がんが子宮の壁に深く食い込んでいることがわかった場合に、手術後に放射線療法を行うこともあります。抗がん剤を投与して腫瘍を小さくしてから、手術を行うこともあります。

手術が難しい場合は、抗がん剤や放射線による治療を行うことになります。抗がん剤の場合は副作用を抑える薬などが併用され、放射線治療の場合も重い放射線障害が起こらない範囲で治療が行われています。それでも、ある程度の副作用があることは、やむを得ないところです。

また、子宮体がんは女性ホルモンと関係が深いので、ホルモン療法が有効なことがあり、注目されています。基本的には、プロゲステロン(黄体ホルモン)の働きをする薬を飲みます。

■予防の基本は生活習慣と食生活の改善

子宮がんの予防の基本は、体や局部を清潔に保つことです。また、日常の生活習慣や食生活と子宮がんは、密接な関係にあるといわれています。

改善できる生活習慣では禁煙があり、お酒を飲みすぎない、バランスのとれた食事をし、決して食べすぎず、適切な運動と休養をとり、ストレスをためない工夫を心掛けることです。

特に、食べ物では、高塩分、高コレステ ロール食は避け、繊維質、緑黄色野菜、魚類や、がんを抑える作用があるといわれる大豆食品をたくさん摂取するようにします。

また、がんの発生要因とされている活性酸素を抑える物質を多く含む食品を取ることも、有効ながん予防策。活性酸素を消去する物質としては、体内で作り出される抗酸化酵素と、食事等から摂取する抗酸化力のあるビタミンA(β―カロチン)、C、E、B群やポリフェノール、カロチノイド、大豆イソフラボンなどがあります。

🇩🇴ウェゲナー肉芽腫症

鼻と肺の肉芽腫が認められる全身の血管炎

ウェゲナー肉芽腫(にくげしゅ)症とは、鼻と肺の肉芽腫、壊死(えし)性半月体糸球体腎(じん)炎が認められる全身の血管炎。膠原(こうげん)病の中でも、まれな病気です。

1939年にドイツの病理学者であるウェゲナー博士によって、世界で初めて報告されました。原因はいまだ不明ですが、免疫の異常の関与が考えられており、抗好中球細胞質抗体という自己抗体が、風邪などの上気道感染の後に炎症によって産生されたサイトカインとともに好中球を活性化し、各種の悪害因子を放出して、血管炎や肉芽腫を起こすと見なされています。

日本では、国の特定疾患(難病)に指定されていて、全国に600~800人ほどの発症者がいると考えられています。男女比は1:1で明らかな性差は認められていません。

鼻腔(びくう)や肺、腎臓に、炎症によって細胞が異常増殖して塊になった肉芽腫ができ、さらに全身に血管炎を生じるため、さまざまな症状を引き起こします。全身症状として、発熱、倦怠(けんたい)感、食欲不振、体重の減少があります。

全身症状に続いて、または同時に、鼻、目、耳、咽喉(いんこう)頭などの上気道、肺、腎臓の炎症による症状が起こります。上気道のうち鼻腔に肉芽腫ができると、鼻詰まりや血の混じった鼻汁が出ます。慢性鼻炎や副鼻腔炎が起こりやすくなります。その他の上気道に炎症が起こると、難聴、耳漏、耳痛、視力低下、眼充血、眼痛、眼球突出、咽喉頭痛、嗄声(させい)などがみられます。

肺に肉芽腫ができると、せきやたんが出て、血たんが出ることもあります。X線で検査すると、肺に肉芽腫による影や空洞が映ります。腎臓に肉芽腫を伴った炎症が生じると、蛋白(たんぱく)尿や血尿が出て、腎臓の機能が落ちてきます。その他の血管炎を思わせる症状として、紫斑(しはん)、多発性関節痛、多発神経炎などが起こります。

ウェゲナー肉芽腫症の検査と診断と治療

ウェゲナー肉芽腫症では、すべての症状が起こるわけではなく、一人一人の発症者によって出てくる症状、障害される臓器が違うことに、理解を要します。最初は、鼻や耳の疾患、あるいは胸の疾患を思わせる症状が出て、後で腎臓を含め全身の血管炎による多臓器の症状を呈する場合があり、注意が必要です。専門医の指示に従い、早期発見、早期治療を行うことが勧められます。

医師による診断では、血液検査で炎症反応を調べたり、血清中の抗好中球細胞質抗体が陽性かどうかを調べます。さらに、肉芽腫ができやすい鼻腔、肺、腎臓の生検を行って組織を調べて、診断を確定します。肺の肉芽腫を調べるには、MRIやCT検査も行われます。

治療には、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)と免疫抑制剤が用いられます。普通、副腎皮質ホルモンと免疫抑制剤を併用して1カ月から2カ月大量に投与し、以降は疾患の活動性と血液中の抗好中球細胞質抗体の値の推移を見ながら、徐々に減量していきます。症状が落ち着いた状態になったら、使用している免疫抑制療法を維持し、疾患が再発しないように6カ月~5年ほどの長期間に渡って、慎重に経過を観察することが必要です。

また、このウェゲナー肉芽腫症は上気道、肺に二次感染を起こしやすいので、必要によりサルファ剤と抗菌薬を配合したST合剤の内服、鼻腔、咽頭ネブライザーなどにより、細菌感染症に対する対策を十分に行うことも大切です。

🇹🇬ウエスト症候群

生後4カ月から1歳ころの小児に発症する予後不良のてんかん

ウエスト症候群とは、生後4カ月から1歳ころの小児、特に男児に多く発症する予後不良のてんかん。1841年にウエストという医師が彼自身の息子の病状と経過を報告したのが最初で、点頭てんかんとも呼ばれます。

てんかんは、脳の神経細胞の伝達システムに一時的な機能異常が発生して、反復性の発作が起こる疾患です。発作時には意識障害がみられるのが普通ですが、動作の異常、けいれんなどだけの場合もあります。こうした異常な症状が長期間に渡って何度も繰り返し現れるのが、てんかんの特徴です。

てんかんの一つのウエスト症候群は、新生児期から乳児早期に発症する大田原症候群、2歳~8歳に発症するレノックスガストー症候群とともに、年齢依存症てんかん性脳症に分類されます。それぞれのてんかんの好発年齢が乳幼児期にみられること、大田原症候群からウエスト症候群へ、さらにウエスト症候群からレノックスガストー症候群へと年齢とともに変容することが多いため、脳の発達過程とこれらのてんかんの発症が密接に関連しているものと考えられています。

ウエスト症候群は、発症前の発達が正常で、いろいろな検査でも原因が見いだせない特発性と、明らかな原因となる基礎疾患があって脳に障害が存在し、その随伴症状として発作がみられる症候性の2つに大別されます。特発性が10から20パーセント、症候性が80から90パーセントを占めます。

症候性の基礎疾患としては、胎内感染症、先天性脳奇形、先天性代謝異常症、新生児頭蓋内(ずがいない)出血、新生児低酸素性虚血性脳症、小頭症、髄膜脳炎、結節性硬化症、フェニルケトン尿症、頭部外傷などがあります。原因となる基礎疾患のうち、単性疾患としては結節性硬化症が最も多く、皮膚の白斑(はくはん)が診断の手掛かりとなります。

発作の型としては、瞬間的な全身性ミオクロニー発作が特徴です。すなわち、驚いたように両腕を上げると同時に頭部を前屈(点頭)する短い強直発作が数秒間の間隔で、数回から数十回と反復して起こります。このような反復発作をシリーズ形成といい、寝て起きた時あるいは眠くなった時など1日に数シリーズ繰り返してみられます。

発作が起こるとともに、今まで笑っていた乳児が笑わなくなったり、お座りしていた乳児がお座りしなくなるような精神運動発達の荒廃がみられてきます。

症状がある場合は、小児科、あるいは神経内科を受診します。早期診断と早期治療開始が重要で、とりわけウエスト症候群発症まで正常の発達がみられていた特発性では、治療によって良好な予後が期待されます。

医師による診断では、脳波検査が決め手となり、ヒプスアリスミア(脳波の不整波)と呼ばれる特徴的な所見がみられます。生後1カ年未満で、10分間程度の間に発作が10~30回まとまってみられるシリーズ形成、ヒプスアリスミア、精神運動発達遅滞がみられれば、ウエスト症候群と確定されます。原因となる症候性の基礎疾患の検討も重要で、血液検査、頭部CT、頭部MRI検査などを行います。

医師による治療では、バルプロ酸、ゾニサミド、ニトラゼパム、クロナゼパムなどの抗てんかん薬と、ビタミンB6の大量投与が試みられますが、有効でない場合も少なくありません。

その場合は、副腎(ふくじん)皮質刺激ホルモン(ACTH)療法が行われます。約70パーセントにコントロールが期待されますが、副作用として感染症、高血圧、電解質異常、一過性の脳委縮などがみられることがあるため注意が必要で、最近はなるべく少量を短期間に使用する傾向があります。症候性では、ACTH療法で一時的にコントロールできても再発することも多く、年齢が進むとレノックスガストー症候群へ変容することも多くみられます。

予後は不良で、90パーセント以上に何らかの精神運動発達障害みられます。また、50パーセント以上に他の発作型の合併がみられます。ウエスト症候群の発作そのものは、2~3歳以後になると自然消失しますが、多くはレノックスガストー症候群や焦点発作などの他の発作型へ移行します。脳波のヒプスアリスミアも発達の一時期にみられる異常で、年齢とともに、焦点性発作波や不規則棘徐波(きょくじょは)結合に移行します。

ウエスト症候群で予後良好なものとしては、発症以前の発達が正常で、治療が発症1カ月以内に開始されて発作が抑制され、脳波で局在のみられないものが挙げられます。発作の消失は、必ずしも知能の改善を意味しません。

2022/07/30

🇩🇪ウェルシュ菌食中毒

高温でも死滅しないウェルシュ菌に汚染された食肉などで発症

ウェルシュ菌食中毒とは、高温でも死滅しないウェルシュ菌に汚染された食肉、魚介類、野菜や、これらを使用した煮物によって引き起こされる食中毒。

ウェルシュ菌は酸素を嫌う嫌気性菌で、土壌、水中などの自然界、人および動物の腸管などに広く分布し、牛、豚、鶏(にわとり)といった食肉、魚介類など食品原材料を比較的高率に汚染しています。健康な人の便からも検出され、その保菌率は食生活や生活環境によって異なります。年齢による差も認められ、青壮年よりも高齢者のほうが高い傾向があります。

この細菌は熱に強い芽胞を作るため、高温にも耐えて死滅せず、生き残ります。従って、食品を大釜(おおがま)などで大量に加熱調理すると、他の細菌が死滅しても、ウェルシュ菌の耐熱性の芽胞は生き残ります。数時間以上、加熱調理した食品を放置して温度が下がり、嫌気性菌のウェルシュ菌にとって好ましい酸素のない状態に食品の中心部がなると、芽胞が発芽して急速に増殖を始めます。

これを食べると、ウェルシュ菌が小腸内で増殖して、芽胞を形成する時にエンテロトキシンという毒素が産生され、その作用で下痢などの中毒症状を起こします。

発生の原因となる施設は他の食中毒と同様に、飲食店、仕出し屋、旅館などで、提供される複合食品によるものが多くみられます。学校などの集団給食施設によるケースも比較的多く、給食におけるカレー、シチュー、スープ、麺(めん)つゆなど、食べる日の前日に大量に加熱調理され、大きな器のまま室温で放冷されていた食品に多くみられます。

発症者数の多い大規模食中毒を起こすこと、逆に、家庭での発生は他の食中毒に比べて少ないことが特徴的です。

潜伏時間は約6~18時間で、ほとんどが12時間以内に発症します。最初は腹部の膨満感で始まり、腹痛、下痢が主な症状で、発熱、吐き気、嘔吐(おうと)はほとんどみられません。下痢は水様性で2〜6回程度みられるものの、粘血便がみられることはほとんどありません。きわめてまれには、粘血性の下痢を数10回起こす重症例もあります。

一般に、食中毒の症状としては軽いほうで、多くは24時間以内に回復します。

ウェルシュ菌食中毒の検査と診断と治療

ウェルシュ菌食中毒は細菌性食中毒の中でも軽症であり、特別な治療を行わなくても一両日中に回復しますが、粘血性の下痢を繰り返す症状がみられた場合は、医療機関を受診します。

医師による診断では、普通、症状だけで診断がつきます。食後12時間以内の急性の中毒症状がみられたり、同じ食品を食べた他の人にも同様の症状がみられたり、中毒症状の原因が1つの汚染源に絞れるような場合に、ウェルシュ菌食中毒が強く疑われます。診断を確定するには、糞便(ふんべん)や原因食品、または食品原材料から、同一の性状、同一の血清型を示す多数のウェルシュ菌を検出することが必要です。

重症例に対しては、整腸剤を投与したり、輸液によってブドウ糖液、リンゲル液などの電解質液、あるいは水を補充して症状の改善を待ちます。

ウェルシュ菌食中毒を予防するためには、以下のことを心掛けます。前日調理は避け、加熱調理をした食品は速やかに摂食します。一度に大量の食品を加熱調理した時は、菌の発育しやすい15〜50度の温度を長く保たないように注意します。やむをえず保存する時は、10度以下か50度以上で行います。さらに、保存していた食品を食べる時は、75度で15分以上の再加熱による温め直しをします。

🇩🇪ウェルナー症候群

早老症の一つで、さまざまな生理的老化現象に似た症状を示す遺伝病

ウェルナー症候群とは、生理的老化現象が通常よりも早い時間軸の中で出現する早老症の一つ。1904年に、ドイツのオットー・ウェルナー医師により初めて報告されたまれな遺伝病です。

思春期までは比較的正常に成長しますが、20歳代から白髪、脱毛、両目の白内障などの加齢に関連した疾患がみられるようになり、手足の筋肉や皮膚もやせて硬くなり、実年齢より「老けて見える」ことが多くなります。

糖尿病や脂質異常症も多く、かつては多くの発病者が40歳代で悪性腫瘍(しゅよう)や心筋梗塞(こうそく)などにより亡くなっていました。今では治療法の進歩により寿命が延びて、50~60歳代の発病者もいます。

その一方で、足先や肘(ひじ)などの深い傷がいつまでも治らない難治性皮膚潰瘍(かいよう)を生じたり、感染を繰り返して足を切断してしまうなど、なお多くの発病者が大変な日常生活の苦労を強いられています。

いくつかの研究により、日本のウェルナー症候群の発病者数はおよそ2000〜3000人、病気になる確率はおよそ5~6万人に1人と推定されています。

地域的には、世界中で報告されている発病者のうち約6割が日本人であり、日本に多いと考えられています。また、以前は主に血縁が濃くなる、いとこ婚やはとこ婚などの近親婚の多い地域で報告されてきましたが、最近では近親婚によらない発病者も増加しています。日ごろの食べ物や運動などの生活習慣は、発病とは関係ないと考えられています。

WRN(DNAヘリカーゼ)と呼ばれる遺伝子の異常が、ウェルナー症候群の原因と考えられています。人間の体の設計図であるDNA(デオキシリボ核酸)が傷付いた時に修理する役割を担っているのがWRNですが、この遺伝子の異常によりなぜ老化が早く進むようになるのかはまだ解明されていません。

ウェルナー症候群は、常染色体劣性遺伝と呼ばれる遺伝形式を取ります。人間は両親からもらった遺伝子を一対(2つ)ずつ持っていますが、2つのWRN遺伝子の両方に異常がある時だけ発病します。発病者の両親はそれぞれ一つだけ原因遺伝子を持ち、自身は発病していないケースがほとんどです。発病者の兄弟姉妹では確率的に約4人に1人が発病しますが、発病者の子供や、さらにその子供が同じように発病する確率は計算上200~400人に1人以下であり、可能性は非常に少なくなります。

20歳代以降に白髪・脱毛などの毛髪の変化、白内障、甲高くかすれた声などの症状が起きてきます。また、脂肪の付き方にも変化がみられ、体幹周りに多くなってビヤ樽(だる)のような体形になります。腕や脚の筋肉はやせ、皮膚も硬く薄くなり、深い傷ができて治りにくくなります。身長は低いことが多く、限局性の石灰化がアキレス腱(けん)、膝(ひざ)、肘、足関節の靭帯(じんたい)などに起こることもしばしばあります。

顔面でも同様の変化が起こり、とがった鼻、飛び出したように見える眼球から、鳥様顔貌(がんぼう)とも呼ばれます。また、若くして動脈硬化性病変、糖尿病、脂質異常症になる発病者が多く、性ホルモンの働きが落ちてくる更年期なども早い年齢から起こりやすくなります。

ウェルナー症候群症候群の検査と診断と治療

内科、皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、早期の加齢現象に伴う症状を基準にして、ウェルナー症候群と判断します。とりわけ、20歳前後までにみられる白髪や脱毛、白内障、皮膚の委縮、かすれ声などは、重要な症状と考えられています。その他、糖尿病や脂質異常症、骨粗しょう症、心筋梗塞の既往なども、診断には重要な情報です。

ウェルナー症候群を引き起こすWRN遺伝子の異常のタイプは80種類以上知られており、いずれの医療施設でも可能というわけではありませんが、PCR法やダイレクトシークエンスと呼ばれる方法を用いた遺伝子検索が行われることもあります。

また、40歳までに白内障が現れた発病者に、X線(レントゲン)検査によりアキレス腱の石灰化が撮影されれば、ウェルナー症候群である可能性を疑います。

内科、皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、根本的な治療法は存在しないため、発症し得る各種合併症に対処します。特に重要な合併症は、糖尿病や脂質異常症、動脈硬化、悪性腫瘍、難治性皮膚潰瘍です。

糖尿病、脂質異常症、動脈硬化に対しては、一般的に行われるような内服薬治療を行います。しかし、難治性皮膚潰瘍を併発しやすい特徴もあるため、運動療法については慎重な姿勢を取る必要があります。

悪性腫瘍に対しては、ウェルナー症候群では複数のがんを合併することも少なくなく、また、一般的な人と比べて発症しやすい甲状腺(せん)がんや悪性黒色腫などが存在する特徴を踏まえて、定期通院による早期発見、早期治療を図ります。

難治性皮膚潰瘍に対しては、日常生活に大きな支障を来す治りにくい深い傷ができないように、日ごろからアキレス腱やかかと、足、肘など潰瘍になりやすい部位をなるべく保護し、観察することが大切です。薄く硬くなった皮膚は骨に圧迫されて傷ができ、やがて深い潰瘍を生じやすいため、当たって痛い部位や傷になりかけた部位は特殊な靴や装具を作って保護する方法もあります。

潰瘍ができた場合には、洗浄や消毒、保護、保湿などの対症療法が中心になりますが、自分の体の他の場所から皮膚を移植する手術が有効な場合もあります。感染を併発した場合には、抗菌剤(抗生物質)による内服薬治療や、手足の切除を含めた手術による治療を行ったりします。

ウェルナー症候群は日本人に頻度が高い疾患であり、正確な情報を基にした社会的な認知度を高めることが重要です。また、遺伝性疾患であることもあり、出産や病気に関してのカウンセリングを行うことも大切です。

🇩🇰ウェルニッケ脳症

栄養不良の人やアルコール多飲者に起こる脳症

ウェルニッケ脳症とは、ビタミンB1(チアミン)の欠乏のために、脳の働きに障害が起きる疾患。

体内の炭水化物の代謝に必要なビタミンB1の欠乏のみでも発症しますが、長期間のアルコール多飲者やアルコール依存症の人などに多く起こるため、アルコールも複合的に影響して発症するとも推測されています。大量のアルコールの摂取によってビタミンB1の腸管からの吸収が障害され、さらにアルコールを多飲する人は食事を摂取しない飲み方をする人が多いためです。

飢餓による栄養障害は現在では非常に少なくなりましたが、インスタント食品の偏食による栄養の偏りや、摂食障害、妊娠悪阻(つわり)などもビタミンB1の欠乏を招いて、ウェルニッケ脳症を発症する要因になります。

脳内の非常に特異的な場所である乳頭体(にゅうとうたい)、中脳水道周囲、視床などが、病変の好発部位となります。従って、症状も特徴的であり、急性期には眼球運動障害、運動失調、意識障害の3主要症状が現れます。

眼球運動障害は、外直筋(がいちょくきん)まひのために目の玉が一点を見詰めたまま動かなくなることが多く、瞳孔(どうこう)の異常などを起こす内眼筋まひはまれです。回復してくると、眼球が自動的に一方向に素早く動いてからゆっくりと元の位置に戻る水平眼振が起こり、物が2つに見える複視やめまい感が自覚されます。

運動失調としては、小脳の働きが悪くなるために、立ったり座ったりした時に体がふらついて倒れたり、歩行がおぼつかなかったり、手足を思うように動かせなくなるといった症状が急性に起こります。

意識障害としては、無欲、注意力散漫、すぐに眠ってしまう傾眠といった軽い意識障害から昏睡まで、さまざまな程度に起こります。思考や行動が乱れる錯乱、意識混濁に加えて幻覚や錯覚がみられるせん妄が、前面に出ることもあります。

慢性期になると、場所や時間がわからなくなる見当識(けんとうしき)障害、健忘、記銘力や記憶力の障害など、いわゆる物忘れの症状が主体となります。

長期間のアルコール多飲者が、通常の酔っ払った状態とは異なる意識状態の異変を感じたら、ウェルニッケ脳症を疑うことが重要で、早急に救急患者として医療機関を受診することが大切です。

ウェルニッケ脳症の検査と診断と治療

内科、神経内科の医師による診断では、症状と神経所見からウェルニッケ脳症を疑い、ビタミンB1不足になり得る栄養不良状態が存在したかどうかを問診し、MRI(磁気共鳴画像)検査で病変部位が認められれば、確定できます。血中のビタミンB1濃度の測定も行います。

内科、神経内科の医師による治療は、ビタミンB1濃度の測定の血液検査は結果が出るまで時間がかかるため、通常は結果が出る前に開始し、早急にビタミンB1を投与します。典型的な3主要症状が現れた時には、治療を行っても後遺症を残すことが多いため、できる限り早期に診断し、早期に治療を開始することが極めて重要です。

一般的には、数日間ビタミンB1を1日1000ミリグラムほど静脈注射し、その後は150ミリグラムほど内服で補充します。

ビタミンB1を静脈注射すると、眼球運動障害は迅速に改善します。しかし、運動失調や記憶障害などの改善は単純ではなく、回復の度合は症状の現れた期間が長引くほど悪化します。

長期間のアルコール多飲者やアルコール依存症の人に発症者が多いので、アルコール依存に対するリハビリテーションや、末梢(まっしょう)神経障害を併発して手足のしびれが起こり、特に夜間に強いビリビリとした痛みが多いことがあるので、そのリハビリテーションが必要となることもあります。

🇹🇻ウェルニッケ・コルサコフ症候群

ビタミンB1の欠乏のために、脳の働きに障害が起きる疾患

ウェルニッケ・コルサコフ症候群とは、ビタミンB1(チアミン)の欠乏のために、アルコール依存症の人や栄養不良の人に発症する中枢神経疾患。

急性期のものをウェルニッケ脳症、慢性期(後遺症)のものをコルサコフ症候群と呼びます。ウェルニッケ脳症は眼球運動障害や運動失調を伴い、慢性化すると健忘症を主症状とするコルサコフ症候群に移行します。

はっきりしたウェルニッケ脳症がなくても、コルサコフ症候群にかかる場合もありますが、コルサコフ症候群にかかっている人の約80パーセントに、ウェルニッケ脳症も起きています。また、ウェルニッケ・コルサコフ症候群は、ビタミンB1の欠乏がなくても、外傷、脳卒中、腫瘍(しゅよう)、脳の感染症などによって側頭葉が損傷した場合にも起こります。

ウェルニッケ脳症は体内の炭水化物の代謝に必要なビタミンB1の欠乏のみでも発症するものの、アルコール依存症の人や長期間のアルコール多飲者などに多く起こるため、アルコールも複合的に影響して発症すると考えられてれています。大量のアルコールの摂取によってビタミンB1の腸管からの吸収が障害され、さらにアルコールを多飲する人は食事を摂取しない飲み方をする人が多いためです。

飢餓による栄養障害は現在では非常に少なくなりましたが、インスタント食品の偏食による栄養の偏りや、摂食障害、妊娠悪阻(つわり)などもビタミンB1の欠乏を招いて、ウェルニッケ脳症を発症する要因になります。

脳内の非常に特異的な場所である乳頭体(にゅうとうたい)、中脳水道周囲灰白質、視床下部、視床内側部、小脳虫部などが、病変の好発部位となります。従って、症状も特徴的であり、急性期には眼球運動障害、運動失調、意識障害の3主要症状が現れます。

眼球運動障害は、外直筋(がいちょくきん)まひのために眼球が一点を見詰めたまま動かなくなることが多く、瞳孔(どうこう)の異常などを起こす内眼筋まひはまれです。回復してくると、眼球が自動的に一方向に素早く動いてからゆっくりと元の位置に戻る水平眼振が起こり、物が2つに見える複視やめまい感が自覚されます。

運動失調としては、小脳の働きが悪くなるために、立ったり座ったりした時に体がふらついて倒れたり、歩行がおぼつかなかったり、手足を思うように動かせなくなるといった症状が急性に起こります。

意識障害としては、無欲、注意力散漫、すぐに眠ってしまう傾眠といった軽い意識障害から昏睡まで、さまざまな程度に起こります。思考や行動が乱れる錯乱、意識混濁に加えて幻覚や錯覚がみられるせん妄が、前面に出ることもあります。

慢性期になると、健忘症を主症状とするコルサコフ症候群に移行します。出来事を覚える記銘力の障害や、覚えた出来事をずっと保持しておく記憶力の障害、場所や時間や人物がわからなくなる見当識(けんとうしき)障害、記憶の不確かな部分を作話で補おうとする「コルサコフ作り話」をしたりします。

短期間の記憶は保たれ、社交的な付き合いや論理的な会話はできます。理解力や計算などの能力は、比較的保たれます。

長期間のアルコール多飲者が、通常の酔っ払った状態とは異なる意識状態の異変を感じたら、ウェルニッケ・コルサコフ症候群を疑うことが重要で、早急に救急患者として医療機関を受診することが大切です。放置すると意識障害がさらに進行して、昏睡状態を引き起こし、ひいては死に至るケースもあり、仮に回復しても重度の健忘や運動失調といった後遺症を招くことが多くなります。

ウェルニッケ・コルサコフ症候群の検査と診断と治療

内科、神経内科の医師による診断では、症状と中枢神経所見からウェルニッケ・コルサコフ症候群を疑い、ビタミンB1(チアミン)不足になり得る栄養不良状態が存在したかどうかを問診し、MRI(磁気共鳴画像)検査で視床や中脳水道周囲などに病変部位が認められれば、確定できます。ただし、軽いものでは病変部位が認められないこともあります。血中のビタミンB1濃度の測定も行います。

また、ウェルニッケ・コルサコフ症候群では意識障害が特徴であるため、頭部外傷、薬物、脳症、髄膜炎、脳炎などに起因する意識障害と識別します。

内科、神経内科の医師による治療は、ビタミンB1濃度の測定の血液検査は結果が出るまで時間がかかるため、通常は結果が出る前に開始し、早急にビタミンB1を投与します。ウェルニッケ脳症の典型的な3主要症状が現れた時には、治療を行っても後遺症であるコルサコフ症候群を残すことが多いため、できる限り早期に診断し、早期に治療を開始することが極めて重要です。

一般的には、数日間ビタミンB1を1日1000ミリグラムほど静脈注射し、その後は150ミリグラムほど経口投与で補充します。

ビタミンB1を静脈注射すると、意識障害や眼球運動障害は迅速に改善します。しかし、運動失調や記憶障害などの改善は単純ではなく、回復の度合は症状の現れた期間が長引くほど悪化します。

長期間のアルコール多飲者やアルコール依存症の人に発症者が多いので、アルコール依存に対するリハビリテーションや、末梢(まっしょう)神経障害を併発して手足のしびれが起こり、特に夜間に強いビリビリとした痛みが多いことがあるので、そのリハビリテーションが必要となることもあります。

長期的な断酒や健康的な食生活によって、ウェルニッケ・コルサコフ症候群が次第に治っていくことがあります。しかし、側頭葉の損傷が原因の場合には、回復は遅く、完治はしません。

🇨🇱魚の目

刺激や圧迫により、足の皮膚が部分的に厚くなり、痛みを生じる状態

魚(うお)の目とは、外からの持続的な機械的摩擦や圧迫などによって、足の皮膚表面の角質層が部分的に厚くなり、痛みを生じる状態。鶏眼(けいがん)とも呼ばれます。

皮膚表面の角質層は、円錐(えんすい)状に下に向かって厚くなっています。その中央にある芯(しん)が皮膚の奥深くへと入り込み、先がとがっているため、上から押したり、立ったり歩いたりして体重が掛かると、神経を刺激して痛みを生じます。

魚の目と同様、足の皮膚表面の角質層が部分的に厚くなる状態には、たこもあります。こちらは厚くなった皮膚の状態が平らに盛り上がっているもので、手で触ると硬く感じるものの、痛みは生じません。たこが慢性化すると、表面が白くカサカサになり、女性ではストッキングが引っ掛かったりもします。

魚の目のできやすい場所は、足の指の背(上側)、指と指の間、足裏の母指球の下、第2指と第3指の付け根あたり。いずれも靴による摩擦や圧迫を受けやすい場所です。まれに、かかとにできることもあります。

原因のほとんどは、靴の履き方が悪いために足に掛かる体重分散が偏ることと、足に合わない靴を履いているために摩擦や圧迫を受けることにあります。例えば、小さめの靴を履いていると、足の指や付け根などが靴に当たり、圧迫され続けます。靴幅が狭くて、足指が両側から圧迫されると、指と指の摩擦が起こります。こうした圧迫や摩擦の結果 、皮膚は硬くなり、魚の目になります。

大きめの靴でも、足が靴の前側へと滑っていき、やはり足指や付け根のあたりが圧迫されて、同じことが起こります。 底が薄い靴でも、地面から受ける衝撃が大きく、足の裏が圧迫されます。

魚の目のできやすい足もあります。その代表が開張(かいちょう)足で、親指と小指の付け根を結ぶ横のラインの中央に、くぼみがなく、ベタッとした足を指します。この開張足の人は、横ラインの中央部が靴底の圧迫を受け、魚の目ができやすくなります。開張足かどうかは、靴の内底や中敷(インソール)を見てもわかります。第2指と第3指の付け根の当たる部分などが汚れていたり、擦り減っていれば、そこに力が掛かっていることになります。

開張足の原因としてよくみられるのは、運動不足と立ち仕事などによる疲労です。運動不足、特に歩くことをあまりしないと、指の骨をつなぐ靱帯(じんたい)が弱ってきます。その状態で立ち仕事などを続けていると、疲労のために靱帯が伸び切った状態になり、開張足を起こします。

ハンマー足指やその他の足指の変形も、魚の目の原因となります。ハンマー足指とは、靴のつま先部分がきついために指が伸ばせず、指の関節がハンマーのような形で曲がったままになった状態です。曲がって上へ飛び出した足指の背が靴に当たるため、そこが角質化しやすくなります。

巻きづめ、内反小趾(ないはんしょうし)も、原因となります。巻きづめとは、伸びたつめの両端が皮膚に食い込んだ状態で、先の細い靴でつま足が両側から圧迫され続けると起こります。巻きづめ気味の人は、指と指がこすれ合うので、指の間に魚の目ができやすくなります。内反小趾とは、親指が圧迫を受けて変形する外反母趾と逆に、小指が圧迫を受けて変形した状態で、小指の外側に、魚の目ができる人は放っておくと小指が変形し、手術の必要性が生じます。

女性では、冷え性と関係していることもあります。特に足の冷えやすい人は、血行不良から皮膚の角質化が起こりやすいとされています。中高年では、動脈硬化や糖尿病と関係していることもあります。動脈硬化の場合には足の血行不良から、糖尿病では末梢(まっしょう)神経の障害から、魚の目ができやすくなるからです。反対に、魚の目が治らないことから、動脈硬化などの疾患が発見されることもあります。

魚の目の検査と診断と治療

魚の目の治療と予防に必要なことは、外からの機械的な摩擦や圧迫を防ぐことです。そのためには、足に合った靴を選び、魚の目の上にスポンジを当てて、絆創膏(ばんそうこう)でしっかり固定するか、薬剤の入った市販の保護パッドを張っておきます。軽い症状なら、しばらくすると自然に治っていきます。

また、スピール膏を使用するのもよいでしょう。これは皮膚の角質を軟化させるもので、家庭で行える治療薬として広く使用されています。まず、スピール膏を患部の大きさと同じか、少し小さめに切って患部に当てて、その上から絆創膏で固定します。2〜3日してはがすと、患部が白くふやけているので、ナイフかはさみで、魚の目の芯の先を少し血が出る程度に削り取ります。これを何回か繰り返します。

保護パッドなどで治らない場合や、痛みがひどかったり、悪化したりした場合には、早めに皮膚科の専門医の治療を受けます。医師による治療では通常、外科用のレーザーメスや電気メスで厚くなった部分を削ります。その後、フェルトや毛皮でできたさまざまな種類のパッドを当てて、患部への圧迫を減らします。患部の血流障害がある時は、削って切除することはできません。この場合は、患部にかかる圧力を減らすために、矯正器具やインナーを挿入した特殊な靴が必要になります。

手術で除去しても、自分の足に合わない靴を履き続けていると再発します。予防の基本は、靴選びにあります。靴の理想は「きつからず、緩からず」で、靴店では必ず両足とも履いて、歩いてみます。腰掛けたり、かがんだりして、つま先やくるぶし、かかとなどに当たる個所がないかどうか確認します。モデル風に一直線上を早歩きしてみると、当たる個所がわかりやすくなります。足がむくんで大きくなる夕方の時間帯に、ピッタリの靴を買っておけば、後できつくて足が痛いということもなくなります。

なお、開張足は自分である程度は治すことができます。床にフェイスタオルを広げ、その端に裸足の足を乗せます。そして、足指でタオルをたぐり寄せる練習をします。よりハードなものでは、フローリングの床に裸足で立ち、指で床をつかむようにして前進します。どちらも開張足の改善、予防だけでなく、血行をよくして足の疲労回復にもつながります。

🇰🇵ウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群

発作があると危険な頻脈性の不整脈

ウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群とは、脈拍が速くなる頻脈性の不整脈を生じる疾患の一つ。不整脈とは、一定間隔で行われている心臓の拍動のリズムに、何らかの原因によって乱れが生じる疾患です。

1915年ころからその存在が知られ始め、1930年に多くの症例についての詳しい報告がなされ、世に知られるようになりました。この際の3人の研究者であるアメリカの循環器医ルイス・ウォルフ,イギリスの循環器医ジョン・パーキンソン、アメリカの内科医ポール・ダドリー・ホワイト各博士の頭文字から、WPW症候群(Wolff・Parkinson・White Syndrome)と名付けられました。心室早期興奮症候群、副伝導路症候群とも呼ばれます。

血管系統の中心器官である心臓には、4つの部屋があります。上側の右心房と左心房が、血液を受け入れる部屋です。下側の右心室と左心室が、血液を送り出す部屋です。4つの部屋がリズミカルに収縮することで、筋肉でできている心臓は絶え間なく全身に血液を送り出すことができるのです。このリズムを作っているのが心臓の上部にある洞結節(どうけっせつ)と呼ばれる部分で、1分間に60~80回の電気刺激を発生させて、心臓を規則正しく収縮させています。この電気刺激が正常に働かなくことによって、拍動のリズムが乱れる不整脈が生じます。

ウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群の多くの原因としては、ケント(Kent)束と呼ばれるバイパス(副伝導路)が存在することによって、電気信号の旋回(空回り、リエントリー)が起こることが挙げられます。通常は洞結節から発した電気信号は心房を経由して心室へと伝達されますが、この疾患では信号が通常のルートのほかケント束を経由する2つのバイパスを伝わるため、発作が起きると拍動のリズムを乱してしまいます。発作時の脈拍が240回以上にも達する場合もあり、救急隊員が驚くことがあります。

しかし、バイパスがあっても症状が出る人は一部で、多くは健康診断などで発見されるまで、自覚症状がないため気付かずにいます。多くは放置しても自然に治まりますが、長時間続く場合は投薬により抑えます。

従来は危険性のそれほどない一種の先天性疾患として高血圧、高脂血症、肥満、喫煙等の生活習慣をコントロールすることで改善されることがあるとだけされてきましたが、1980年代からの研究により、心房細動から心室細動に移行したケースがあることが判明し、危険な不整脈であると位置付けられたため、突然、脈拍が速くなる頻脈性の不整脈発作がみられた場合は即座に循環器科、内科循環器科、内科などの医師に診察してもらう必要があります。

ウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群の検査と診断と治療

循環器科、内科循環器科、内科などの医師による診断では、心電図検査で特異的な波形を示すウォルフ・パーキンソン・ホワイト症候群が見付かり、危険度の高いタイプかどうかもわかります。

循環器科、内科循環器科、内科などの医師による治療では、動悸(どうき)がない場合、処置は必要ありません。脈拍数が150回以上で、突然始まって突然止まる動悸、あるいは全く不規則に脈が打つ動悸がある危険度の高い場合は、不整脈を抑える薬を飲み続けて発作を抑えます。

カテーテル焼灼(しょうしゃく)法(カテーテルアブレーション)といって、鼠径(そけい)部などから管を挿入し、バイパス部分を焼いてしまう根治療法も行われています。

<危険グループでなければ、経過をみていけばいいのですが、禁煙と肥満解消を心掛け、食事などによる高血圧や高脂血症の予防と改善が大切です。過激な運動、過労や睡眠不足、不摂生、強いストレスなどは不整脈発作の引き金になるので注意します。

🇹🇳ウォルフ・ヒルシュホーン症候群

4番染色体の短腕の一部分が欠損していることが原因で引き起こされる重度の先天性障害

ウォルフ・ヒルシュホーン症候群とは、22対ある常染色体のうち、4番染色体の短腕の一部分が欠損していることが原因となって、引き起こされる重度の先天性障害。4p(よんぴー)モノソミー、4p欠失症候群、4pー(まいなす)症候群とも呼ばれます。

常染色体は性染色体以外の染色体のことであり、人間の体細胞には22対、44本の常染色体があります。それぞれの常染色体はX型をしていて、短腕(p)と長腕(q)という部分があり、4番染色体の短腕の一部分が欠損している状態が4pモノソミーに相当し、ウォルフ・ヒルシュホーン症候群を引き起こします。

4pモノソミーは、常染色体の一部分が欠けている常染色体部分モノソミーの一種で、常染色体部分モノソミーが起こった場合は、胎児が生きて生まれても知的障害を含む重い先天性障害を併発します。通常、2本で対をなしている常染色体が1本になる常染色体モノソミーが起こった場合は、胎児が生きて生まれることはできません。

4pモノソミーから引き起こされるウォルフ・ヒルシュホーン症候群の主な原因は、突然変異による4番染色体の変化が原因で、欠損が短腕の約半分に及ぶものから、欠損が微小なものまであります。なぜ突然変異が起こるのか、どの遺伝子がどの症状と関係しているのかまではわかっていません。

まれに、両親からの遺伝が原因で起こります。転座といって、ほかの染色体の一部分が4番染色体の短腕に間違ってくっついていることにより起こり、この場合は両親の片方が染色体異常の保因者であることがあります。

ウォルフ・ヒルシュホーン症候群という疾患名は、ドイツのヒルシュホルンらによる1961年の報告と、同じくドイツのウォルフらによる1965年の報告に由来しています。

従来、5万人に1人程度の新生児にウォルフ・ヒルシュホーン症候群が発症するとされてきましたが、医師に誤診されていたり、認識されていない発症者もいることから、頻度はもっと高いと推測されます。

ウォルフ・ヒルシュホーン症候群の新生児は、鼻筋の高く通った幅広い鼻や、弓状の眉毛(まゆげ)、両眼隔離、小さい顎(あご)などを特徴とする顔立ちをしています。また、子宮内から始まる成長障害、重度精神遅滞、筋緊張低下、難治性てんかん、ほ乳障害、摂食障害を認めます。そのほかにも、骨格異常、先天性心疾患、聴覚障害、視神経異常、唇裂口蓋(こうがい)裂、尿路奇形、脳の構造異常などの症状を示します。

体重の増加もゆっくりで精神と運動の発達遅滞がみられますが、個人差はあっても年齢とともに、食事、着衣、脱衣など日常の家庭内での単純な作業の分担もできるようになります。疾患自体による生命予後は比較的良好で、個々の予後は合併症の重症度によります。

ウォルフ・ヒルシュホーン症候群の検査と診断

小児科、遺伝科の医師による診断は、特徴的な顔立ち、成長障害、精神遅滞、てんかん発作により疑いを持ち、染色体検査により4番染色体の短腕欠損を検出することにより確定診断します。大人になってからウォルフ・ヒルシュホーン症候群と診断されたり、子供のうちに診断される数は増えています。

小児科、遺伝科の医師による治療は、対症療法が基本となります。てんかんのコントロールが最初の重要な治療で、抗けいれん薬(バルプロ酸など)を投与します。嚥下(えんげ)障害があれば、経管栄養や摂食訓練が必要となることもあります。

精神遅滞のためにコミュニケーションが困難ですが、仕草や表情である程度の意思疎通は可能で、運動発達、認知、言語、社会性の能力を伸ばすための訓練を行います。

骨格異常、先天性心疾患、聴力障害、眼科的異常などの合併症に対しては、標準的な対症療法を行います。

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