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2022/09/06

🇩🇪心臓病

■突然の胸の痛みは心臓病?■

心臓病は、日本人の死亡原因の第二位です。いつもの出勤途中の階段なのに、なぜか息が上がってしまったら、要注意です。

 私たち人間の心臓は、筋肉でできた袋のような臓器。一日に約10万回収縮し、全身に血液を循環させて、酸素や栄養を送り届けています。もちろん、心臓の拍動にも多くの酸素や栄養が必要ですが、心臓自身は心臓の中を通る血液からではなく、心臓の表面を取り巻く冠動脈から、血液を受け取っているのです。

この冠動脈が動脈硬化などによって狭くなったり、詰まったりすると、心臓が酸欠状態に陥ってしまいます。これが狭心症や心筋梗塞であり、突然死を招くことにもなる、いわゆる急性冠症候群です。 

人間は加齢に伴って、心臓病のリスクが高まります。急性冠症候群や不整脈など、近年、増加傾向にある心臓病をチェックしてみましょう。

●チェックすべき身体症状

 □いつも歩いている駅やバス停までの距離で、いつもと違って息が切れる。

 □階段の上り下りが、つらい。

 □胸骨(胸の中央、ネクタイの上半分あたり)の裏側が痛む。

 □肩凝りが、ひどい。

 □食後や飲食後に胸焼けや胃痛に似た痛み、異常な発汗がある。

 以上の、いつもと違う症状があったら、念のため内科医を受診しましょう。 

●心臓病が起こりやすい状況 

 □入浴時など、急に寒い所に出た時。

 □興奮したり、緊張した時。

 □病院、診療所で来院者が多い時期は12月と3月で、ストレスが関係すると見なされる。来院者が多い曜日は月曜と土曜で、多い時刻は午前 9時前後と午後9時前後。

●急性冠症候群

 ■労作性狭心症■

動脈硬化などで冠動脈が狭くなっている際に、一定の強さの運動や動作をすることで、心臓が酸欠状態になって、発症します。  

 ■安静狭心症■

  就寝中や早朝など、比較的安静にしている際に、発症します。心不全などを合併することも多く、労作性狭心症よりも重症です。 

 ●狭心症の症状●

  胸が苦しくなる。胸に圧迫感がある。

 胸の中央部、顎、肩、腕(特に左腕内側)などが痛む。 

 息切れや呼吸困難を伴うこともある。 

 発作は2~3分、長くても10分程度である。

 >>>>>>>初めての発作は見過ごしがちだが、一週間以内に心筋梗塞を起こす可能性もある。「治まったから」といって安心せずに、すぐ病院へ。          

 ■心筋梗塞■

  血栓や狭窄(きょうさく)などで、冠動脈が完全に詰まってしまい、心筋細胞が壊死(えし)してしまう。狭心症から移行するケースもあ れば、何の前触れもなく突然、起こる場合もある

  朝、活動して一息ついた際や、一日の活動を終えて、くつろいだ際などに起きやすい。朝方に、胸が苦しくて目が覚めた時も、要注意。

 ●心筋梗塞の症状●

 ◎「このまま死んでしまうのではないか」と思うほどの激痛がする。

 ◎胸全体、または中央が痛む。

 ◎激しい呼吸困難、冷や汗、吐き気がする。

 ◎発作は30分~数時間も続き、いったん治まっても、断続的に繰り返す。

 >>>>>>>一刻も早く病院へ。CCU(心臓疾患集中治療室)のある医療機関で、すぐ治療すれば助かる。 

●不整脈

 ■心室性期外収縮、心房性期外収縮■

  急に「ドキン」として、拍動が一回飛んだような打ち方をする。薬で治まり、それほどの心配はない。

 ■心房細動■

   心臓弁膜症などがあるとなりやすい。心不全や、心臓内に血栓ができて脳に飛び、脳塞栓を起こす危険がある。 

 ■心室細動、心室頻脈■

  命にかかわる危険な不整脈。拍動数が急上昇し、突然死を招くことも。特に心室細動という不整脈は危険で、心臓突然死の8割前後の原因 となっている。約3分以内に電気ショックを与えれば、4人に3人が救命できるとされているが、大半は間に合わず、年間の死者は約3万人 に上る。

 ●不整脈の症状●

  脈の速さや、リズムが乱れる。

 脈の乱れ方は、さまざまなパターンがある。

 めまいや息切れ、強い動悸がしたら、危険である。  

 >>>>>>>治療の必要はない安全なものがほとんどだが、中には危険な不整脈も。加齢による症状も多い一方、高血圧、腎不全、甲状腺の病気、貧血、無痛性の心筋梗塞などが見付かる場合もあるので、一度、病院で検査を。

■予防・対策へのアドバイス■

●発作が起きたら安静に

 発作が起きた時には、安静が原則です。直ちに動作を中止し、歩行中ならば立ち止まって休みます。

 横になると、下半身の血液が大量に心臓に戻ってきて、心臓に負担をかけます。立っている場合は、何かにつかまって前かがみの姿勢で休むようにします。寝ている場合は、上体を起こして座り、布団などにもたれるようにします。

 そして、なるべく早く病院へ行くことです。

●生活習慣病にならない注意を

 狭心症や不整脈などの心臓病は、男性は40代、女性は閉経後の50代から増加し始めますので、年一回は定期検診を受けましょう。心電図や心拍数の変動、連続心電図などで、潜在的な心臓病の有無を調べられます。

 高血圧、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病が心臓病のリスクを高めるため、生活習慣病にかからないように留意し、もしかかってしまった場合には、そちらの治療をすることが先決となります。 

また、腹囲の大きい人も、要注意です。肥満は生活習慣病の危険因子であり、動脈硬化の原因にもなるからです。まず、身長(センチ)マイナス100(キロ)までの減量を心掛けて下さい。

●禁煙を必ず実行

たばこの煙を吸うと、血管が収縮して血圧が上昇、心拍数も増えて、心臓が急激に酸素を要求します。

喫煙者が狭心症や心筋梗塞で死亡する危険度は、非喫煙者の1・7~3倍ともいわれています。心臓に不安を抱えている人は、必ず禁煙の実行を。

他人にたばこの煙を吸う受動喫煙も、心臓病のリスクを高めてしまいます。

●動脈硬化を予防する食生活を

青魚に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)という成分は、血栓を溶かす作用があり、動脈硬化を予防します。タマネギに含まれる硫化アリルも、血液をサラサラにする作用があります。

血管の弾力性を保つ蛋白質、抗酸化作用のある緑黄色野菜と大豆製品も、必要不可欠です。

2022/09/05

🇳🇱脳梗塞

●脳梗塞の原因による3タイプ

脳梗塞(こうそく)とは、脳の血管が詰まって血流を止めてしまうため、脳に供給される酸素や栄養が不足して、脳が十分な機能を果たせなくなる病気です。動脈硬化などがあると、脳の細動脈に血栓、凝固塊、脂肪塊、石灰片、腫瘍(しゅよう)塊などが詰まりやすくなり、ある日突然、発症します。

この脳梗塞には「脳血栓」と「脳塞栓」の2通りがありますが、その原因によって次の3タイプに分けられます。

1、アテローム血栓性脳梗塞

太い血管の動脈硬化が原因となります。糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病による動脈硬化によって、脳の太い動脈や頚動脈が詰まるタイプで、特に睡眠時に多く発症します。現在、脳梗塞患者の3割以上を、このタイプが占めると見なされています。

2、ラクナ梗塞

高血圧などによって、脳の細い血管が詰まるのが原因となります。梗塞部が小さいので症状が全く出ないか、出ても比較的軽いのが特徴で、特に睡眠時に多く発症します。脳梗塞患者の約4割を、このタイプが占めるとされています。

3、心原性脳塞栓

心臓にできた血栓が血流に乗って脳に流れて行き、血管が詰まるのが原因となります。心房細動、急性心筋梗塞、心臓弁膜症、心筋症、不整脈などにより、心臓内の血液が停滞してできた血栓や血の塊が脳血管を詰まらせて血流がストップし、脳組織が壊死した 状態に陥るので、重症の脳梗塞を起こします。

突然の発作として起こるタイプで、日中の活動時に多く発症します。脳梗塞患者の約2割を占めると見なされ、 60~70歳代の人に多くみられます。

脳梗塞の症状としては、半身不随、半身麻痺(まひ)、しびれ、感覚の低下、手足の運動障害、意識障害、言語障害、昏睡(こんすい)などが見られます。脳血栓では、症状が数日かけてゆっくり出現することが多いのに対して、脳塞栓では突然、意識障害などが出てきます。

統計学的にみると、「脳梗塞」と「脳出血」、「くも膜下出血」の総称である「脳血管障害」、いわゆる「脳卒中」による死亡者数は、2004年の統計で約12万9000人。2006年現在では、脳卒中の死亡者の70パーセントが脳梗塞、20パーセントが脳出血、10パーセントがくも膜下出血となっています。食生活の欧米化などによって、30数年前には脳梗塞より多かった脳出血が減少し、最近は脳梗塞が増加しております。

脳梗塞を含む脳卒中は、がん、心臓病に次いで、日本人の死亡原因の第3位です。しかし、3大疾病の中でも脳卒中は有病率が増加しており、突然、何かに当たったように発症する怖い病気なのです。脳卒中の「卒」には「突然」、「中」には「当たる」という意味があります。幸いにして一命をとりとめても、寝たきりになったり、手足の麻痺や言語障害などの後遺症が残ったりする、厄介な病気でもあります。

●前ぶれ症状と治療法について

脳梗塞は急に起きますが、発症前に30パーセントの人に一過性脳虚血発作(TIA)と呼ばれる前ぶれ症状が現れます。

TIAの症状としては、運動障害として、ふらふらしてまっすぐ歩けない、感覚障害として、片方の手足のしびれ、片足を引きずる、手足から急に力が抜ける、ものにつまずきやすい、知覚障害として、片方の目が一時的に見えなくなる、物が二重に見える、言語障害として、言葉がで出なかったり・理解できない、バランス感覚の障害として、急にめまいがするようになったなどです。

一時的にでも前ぶれ症状があったら、1分でも早く脳卒中専門医を受診してください。

医師の側でも、脳梗塞が脳血栓によるものか、脳塞栓によるものかを正確に診断するのは困難です。脳梗塞が疑われる場合、病変の起きた部位を確認するために、CT、MRI、脳血管撮影などの検査を行います。心原性脳梗塞の場合は、心房細動が原因となるのでホルター心電図(24時間心電図)をとって調べます。

脳梗塞の治療法としては、急性期には抗血栓療法、脳保護療法、抗脳浮腫療法があります。抗血栓療法には、血小板の働きを抑えて血栓ができるのを防止する抗血小板療法とフィブリンができるのを防止する抗凝固療法があります。

欧米では10年以上前から、組織プラスミノーゲンアクチベータ(tPA)という血栓溶解剤を用いた血栓溶解療法が実施され、日本でも2005年10月より健康保険に導入されました。脳保護療法には活性酸素の働きを防止するエダラボンという薬剤を発症後24時間以内に使用すると後遺症が軽減されます。

脳梗塞を起こした部位が1~2日するとむくみが起こるので、抗脳浮腫療法により脳浮腫の原因となる水分を取り除きます。脳梗塞になって3時間以内の場合は血栓や塞栓を溶かす薬を使って治療します。薬が効いた場合には詰まった脳動脈が再度開通し、血流が流れます。

脳循環の改善薬や血栓・塞栓を予防する薬を使います。発症時にカテーテルを使い血管の血流を再開通させることも可能です。頚動脈の血栓内膜剥離術とバイパス手術により脳血流を改善させる手術も行います。いずれの治療法も脳の血管が詰まって壊死しかけている脳細胞(ケナンブラ)を助けることを目的としております。

●危険因子を取り除く生活改善を

脳梗塞を起こした人が社会復帰するまでの間に、いろいろな訓練が必要になります。これがリハビリテーションです。リハビリテーションの目的は残された機能を最大限に引き上げて、家庭復帰や職場復帰をさせるために行います。

脳梗塞の再発を防ぐには、血液をサラサラにして血栓を作らないようにすることが重要です。そのために抗血小板薬としてアスピリン、塩酸チクロピジン、シロスタゾールなどを用います。またフィブリンができるのを防ぐためにワルファリンカルシウムを用います。ただし、納豆を食べると薬の効果が弱くなるので、注意しましょう。

このほか、肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病を管理しましょう。食べすぎないよう注意し、適度な運動、禁煙、禁酒が必要です。再発の兆候を見つけるために、1年に1回MRIやMRA、頚動脈エコーなどの検査をして画像診断で脳血管や頚動脈の状態を調べましょう。

突然起こる脳梗塞は、さまざまな危険因子を抱えている人に、ある日発症しかねません。脳梗塞の危険因子としては、60歳以上の人、脳卒中の罹病(りびょう)歴のある家族がいる人、動脈硬化、高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病を持っている人、喫煙、大量飲酒、ストレスなどです。

脳梗塞にならないためには、生活習慣を改善しましょう。塩分を控えめにして1日に10g以内に抑え、ナトリウムの排泄を促すりんご、枝豆、バナナ、カボチャなどの食品を積極的に摂取しましょう。血圧を下げる作用がある乳製品などの食品や、マグネシウムを含む焼きのり、昆布、ごまなどの食品も食べましょう。

逆に、動物性脂肪やコレステロールを多く含む食品は控えめにし、アジ、サバ、イワシなどに多く含まれるEPA、DHAなどの不飽和脂肪酸を積極的にとりましょう。

適度な運動で積極的に体を動かし、太りすぎないように注意しましょう。十分な睡眠と休養、禁煙、節酒を心掛けましょう。夏は脱水症や夏風邪から脳梗塞になる人が多いので、水分を十分補給しましょう。

2022/08/28

🇸🇪息切れ

●苦しい時は適切な対応を

 息切れが気になっても、年齢や風邪のせいにしていませんか。適切な対応をしないと、生死にかかわるケースもあるので、注意したいところです。

●肺は壊れると元に戻らない

人体の臓器の中で唯一、直接外気に触れているのが、呼吸器である「肺」です。容量も臓器の中で最大で、左右一対ある肺には一日、約1万リットルの空気が出入りしています。

肺に空気が運ばれていく通路が「気管」で、気管は胸のほぼ中央で左右に分かれて「気管支」となります。気管支は「肺門」から肺に入り、肺の奥に進むにつれて枝分かれして細くなっていき、末端は「肺胞」と呼ばれる小さな袋の集まりとなっています。

 肺胞の数は大人で3億~7億個、総面積はおよそテニスコート1枚分。肺胞の壁は毛細血管と接しており、空気中の酸素と血液中の炭酸ガスの交換が絶え間なく行われています。

酸素と炭酸ガスの交換を一般に「呼吸」と呼びますが、呼吸は脳の呼吸中枢によってコントロールされていて、肺だけではなく鼻、のど、胸郭、横隔膜などが複雑に動き、血液の循環とも密接な関係にあります。

こうした一連の動きがうまくいかない時、私たちに息切れが起こります。そのため、息切れにはさまざまな原因が考えられるのです。

急性の息切れでは、緊急に対応しないと命にかかわることもありますので、すぐに病院へ行く必要があります。慢性の息切れのケースも、放置は厳禁です。

肺は一度、壊れたら元に戻らないことが、怖いのです。肺の機能が衰えると、苦しいために体を動かさなくなり、やがては全身の筋肉が弱まってしまい、寝たきりになる危険性があります。

●息切れの原因のチェック

◎慢性の息切れ

◎COPD(慢性閉塞性肺疾患)

中高年にみられる呼吸器の病気の代表格。たばこや大気汚染によって、肺胞が壊されたり、細い気管支の壁が厚くなって管が細くなったりした結果、肺の中の空気が出しにくくなるもので、肺気腫、慢性気管支炎が含まれます。

徐々に進行し、症状が息切れ、せき、たんであるため、慢性的な風邪と勘違いしているケースもあります。喫煙者の15~20パーセントに起こる、と見なされているところ。

◎気管支ぜんそく

全年齢層にみられる病気。気管支が慢性的な炎症で狭くなり、空気が通過しにくくなります。せき、たんが出るのはCOPDと同様ですが、夜中や夜明けに症状が出るケースが目立ちます。

原因はアレルギー、と見なされているところ。

◎その他

高度の貧血によって、全身の臓器に酸素がいきわたらないと、息切れになります。

肺が徐々に硬く縮み、空気を吸い込むことができずに息切れするのは、間質性肺炎や肺線維症です。

また、肺結核、肺がんや気管支拡張症、神経や筋肉の疾患、甲状腺疾患、緑内障の点眼薬(βブロッカー)の副作用などでも、息切れが起こります。

◎加齢によるもの

肺機能は男女とも25歳がピークで、加齢とともにゆるやかに低下していきます。健康であっても、誰にでも起こること。日常生活に支障がなければ、問題はありません。

 ただし、体力が落ちていて日頃から元気のない高齢者の場合、肺炎を起こしても息苦しさや、高熱などの症状が現れにくいことに、注意が必要です。「おかしい」と思ったら、手遅れにならないように、早めに医療機関へ。

◎危険な急性の息切れ

◎自然気胸

若い元気な人に多く、突然起こります。肺に穴が開き、肺から出た空気によって、肺が圧迫されて縮んでしまいます。急激な息切れ、胸痛を伴います。

◎うっ血性心不全

 心筋梗塞などによって、心臓のポンプ機能が低下し、体に十分な血液が送り出せない状態になると、肺に水分がたまり、呼吸が速くなります。「寝ると息苦しい」、「水っぽい、たんが出る」などの症状があります。

◎エコノミー症候群

前触れもなく、急に息苦しくなります。飛行機の座席などで、水分不足のまま何時間もじっとしていると、脚の静脈に血栓ができます。その血栓が肺動脈に運ばれ、急に血流を止めてしまうケースがあります。

●心掛けたい息切れ対策

◎専門医を受診する目安

息切れの感じ方は人によってさまざまで、痛みの感じ方と似ています。中には、実際には病気があるのにあまり感じない人もいます。

息切れに伴って、せき、たんがある場合には一度、専門医を受診しましょう。また、同年代の人と一緒に歩いている際に自分だけ歩調が遅れるのも、重要なシグナルとなります。

◎COPDには禁煙が最も有効 

年齢が上がるにつれて増加するCOPDの主要因は、たばこです。たばこの煙の粒子は非常に小さく、肺の奥深くまで入り込んで沈着し、炎症を起こすのです。

喫煙者でも、元には戻らないものの、たばこをやめた時点から肺の機能低下がゆるやかになるので、すぐに禁煙を実行しましょう。

◎ウォーキングと腹式呼吸を

COPDの人の場合、息が切れると動くのが面倒になり、運動不足になって運動機能が低下し呼吸困難がさらに悪化する、という悪循環になりがちです。そのため、全身の筋肉を鍛えることが大切になります。

最も勧めたい対策は、ウォーキングなどの軽い運動です。腹式呼吸も効果的で、横隔膜を十分に使って呼吸することで、肺の容量が大きくなります。腹筋を縮めるようにして、口をすぼめた状態でゆっくり息を吐く、口すぼめ呼吸も効果的で、気管や気管支での空気の通りがよくなります。

◎日常生活を楽にする工夫

COPDの人は、体に余計な負担をかけない工夫をすると、日常生活が楽になります。床に置いたものを取る際には、かがんで持ち上げるといった工夫です。

重症になると、息を吸う時に横隔膜だけでなく、首や腕などの筋肉の助けも必要になります。これらの筋肉を使わない、息を吐く時だけ体を動かすように、そしてリズムをつけて動くようにしましょう。階段を上がる際には、息を吐きながら歩を進め、息を吸う時は立ち止まりましょう。

2022/08/27

🇹🇬高LDLコレステロール血症

動脈硬化に関係が深いLDLコレステロールが高いタイプの脂質異常症

高LDLコレステロール血症とは、動脈硬化に関係が深いLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が高いタイプの脂質異常症。

血液中に含まれる脂質成分であるLDL(低比重リポ蛋白〔たんぱく〕)が血液中に140mg/dl以上と多く存在する状態で、LDLは血管壁に取り込まれて蓄積し動脈硬化を起こすため、虚血性疾患のリスクを非常に高めるとされています。

脂質異常症は、血液の中を流れる脂質成分である総コレステロール、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、中性脂肪(トリグリセライド)が高く、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が低い状態が継続する疾患。2007年以前は、高脂血症と呼ばれていました。

脂質異常症は、動脈硬化症などの危険因子の一つです。動脈硬化は血管壁が分厚くなり、血管の柔軟性が失われた状態で、血管が損傷したり、血液の流れが滞ったりして、最後には脳卒中や心筋梗塞(こうそく)など、命にかかわる重大な病気を引き起こす可能性があります。

コレステロールには、肝臓で作られたコレステロールを体中の細胞に運ぶ働きをするLDLに包まれたLDLコレステロール(悪玉コレステロール)と、余分なコレステロールを回収して肝臓に戻す働きをするHDL(高比重リポ蛋白)に包まれたHDLコレステロール(善玉コレステロール)があります。

どちらも大切な役割を果たしていますが、脂質が多すぎる食事などにより、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が必要以上に増えると、血管壁に必要以上にコレステロール がたまり、動脈硬化が進みやすくなります。

悪者と思われがちなコレステロールは、実は体にとって重要なものです。コレステロールは細胞膜やホルモン、脂肪の消化を助ける胆汁酸などを作り出すのに欠かせません。また、中性脂肪もエネルギーの貯蔵庫であり、中性脂肪を蓄えた脂肪細胞には、衝撃から内臓を守るクッション役、寒さや暑さから身を守る断熱材などの役割があります。

しかし、不適切な食生活や運動不足などによって、体内のコレステロールや中性脂肪が過剰になると、血管の健康が損なわれます。必要なものであっても、多すぎれば問題を起こすので、適量を保つことが大切 。

近年、日本人のコレステロール値が高くなった原因として挙げられるのは、食生活の欧米化と運動不足です。日本人のコレステロール値はもともと低かったのですが、ここ半世紀ほどの間に食生活がかつての魚や野菜中心の和食から、脂質の多い肉中心の食事に変わりました。食事における三大栄養素のバランスをみると、脂質の占める割合が大きく増えています。

同じような食事、生活習慣でも、高LDLコレステロール血症になりやすい人となりにくい人がいます。女性ホルモンにはHDLコレステロール(善玉コレステロール)を上げる作用があり、若い女性は男性よりも高LDLコレステロール血症になりにくいのですが、閉経を過ぎるとLDLコレステロール値が高くなります。

ストレスも、値を高める原因の一つ。ストレスが加わると、体内では闘うための準備として、血中に糖や脂肪、カルシウムなどのミネラルが分泌され、血糖値やHDLコレステロール(悪玉コレステロール)、血圧などが上がります。

また、親や祖父母、兄弟姉妹など血のつながった家族に脂質異常症や動脈硬化症の人がいる場合も、高LDLコレステロール血症になるリスクが高くなります。

動脈硬化、さらには冠動脈疾患や脳卒中などに至らないようにするには、LDLコレステロールを適切にコントロールすることが重要です。LDLコレステロールが高い状態のままでいると、狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患による死亡の危険度は上がる一方です。

総コレステロールが160〜179mg/dlの人を基準にした場合、200〜219mg/dlの人では約1・4倍、220〜239mg/dlの人では約1・6倍、240〜 259mg/dlの人では約1・8倍、260mg/dl以上の人では3・8倍と4倍近くまで高くなります。

高LDLコレステロール血症は放置しておくと、血管の動脈硬化が徐々に進行していくものの、初期の段階では体の自覚症状は全くないために、血液検査で初めてわかることがほとんどです。無症状であっても正しい治療が必要なので、自己判断せずに医療機関に相談して下さい。内科、ないし内分泌・代謝科が、担当の診療科です。

高LDLコレステロール血症の検査と診断と治療

内科、内分泌・代謝科の医師による診断では、血液検査で血中のコレステロール、中性脂肪(トリグリセライド)、HDLコレステロール(善玉コレステロール)の値を測定します。朝食前の空腹時に採血します。LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の値は、これらから計算することもできますが、直接、測定する方法もあります。

脂質異常症の診断基準では、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が140mg/dl以上を高LDLコレステロール血症、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が120〜139mg/dl以上を境界域高LDLコレステロール血症とするほか、中性脂肪(トリグリセライド)が150mg/dl以上を高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症) 、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が40mg/dl以下を低HDLコレステロール血症とします。

内科、内分泌・代謝科の医師による治療では、食餌(しょくじ)療法、運動療法、薬物療法を行ない、LDLコレステロール値を下げます。

LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の管理目標値は、心筋梗塞や狭心症といった冠動脈疾患を持っている人の場合、最もリスクが高いと判断し、同じ疾患を繰り返さないように、100mg/dl未満と一番厳しく設定します。また、年齢、性別にかかわらず、糖尿病や慢性腎臓(じんぞう)病、非心原性脳梗塞、末梢(まっしょう)性動脈疾患などの疾患を持っている人の場合、冠動脈疾患を起こすリスクが高いため、120mg/dl未満に設定します。

○男性45歳・女性55歳以上○高血圧○喫煙○家族に冠動脈疾患がいる○低HDLコレステロール血症という主要危険因子を3個以上持っている人の場合、120mg/dl未満に設定します。主要危険因子を1から2個持っている人の場合、140mg/dl未満に設定します。主要危険因子を持っていない人の場合、160mg/dl未満に設定します。

いずれの場合も、HDLコレステロール(善玉コレステロール)値は40mg/dl以上、中性脂肪(トリグリセライド)値は150mg/dl未満を目指します。

食餌療法では、欧米風の高カロリー食品やコレステロール値の高い食品、脂分の多いファーストフードの過剰な摂取を制限します。そして、野菜や果物、魚といった低カロリー食や低脂肪食、低炭水化物食を中心とした食生活に切り替えます。

運動療法では、積極的に運動を行ないます。適切な体重の維持につながるばかりか、適度な運動を行なうことで基礎代謝の向上効果が期待できます。

また、喫煙、ストレス、過労、飲酒、睡眠不足など生活習慣全般の見直しも、高LDLコレステロール血症の改善法、予防法として効果的です。

食事療法、運動療法、生活習慣全般の見直しで十分な値までLDLコレステロール値が下がらない場合、もしくは危険因子が多く、冠動脈疾患を起こすリスクが高い場合には、薬物療法を併用します。

主に、一般にスタチンと呼ばれているHMG‐CoA還元酵素阻害薬を使います。この種類の薬は、コレステロールの合成を抑制するものです。そのほかにも、コレステロールの吸収阻害剤や、レジンと呼ばれる陰イオン交換樹脂やプロブコール、ニコチン酸誘導体を使います。

🇳🇪高カイロミクロン血症

血液中にカイロミクロンが異常に蓄積し、時に急性膵炎を発症する疾患

高カイロミクロン血症とは、中性脂肪に富む軽くて大きなリポ蛋白(たんぱく)であるカイロミクロンが血液中に異常に増加し、黄色腫(しゅ)や、時に急性膵(すい)炎を発症する疾患。脂質異常症(高脂血症)の一つです。

脂質異常症(高脂血症)は大きく5つに分類され、その中ではⅠ型脂質異常症(高脂血症)でカイロミクロンの増加を呈し、V型脂質異常症(高脂血症)でもカイロミクロンとVLDL(超低比重リポ蛋白)の増加を呈し、高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症)を示します。

カイロミクロンは中性脂肪を分解する酵素のリポ蛋白であり、トリグリセライド(中性脂肪)が1000mg/dl以上の高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症)では、カイロミクロンが増加して高カイロミクロン血症を伴うことが多くなります。

Ⅰ型脂質異常症(高脂血症)は、原発性高カイロミクロン血症、家族性高トリグリセライド血症とも呼ばれ、常染色体劣性遺伝を示すまれな疾患で、100万人に1人が発症するといわれています。

その原因は、中性脂肪を分解する酵素であるリポ蛋白リパーゼ(LPL)活性の低下であり、それにはリポ蛋白リパーゼ(LPL)の先天的欠損に加え、この分解反応に必要なアポリポ蛋白C-Ⅱ、アポリポ蛋白A-Ⅴ、GPIHBP1、LMF1の先天的欠損、さらにはリポ蛋白リパーゼ(LPL)の阻害物質(インヒビター)の存在が挙げられます。

V型脂質異常症(高脂血症)は、成人期に発症し、原因不明です。リポ蛋白リパーゼ(LPL)の先天的欠損、アポリポ蛋白C-Ⅱなどの先天的欠損を認めません。

発症の要因とされるのは、過食、チーズや卵などの酪農製品の取りすぎ、アルコール多飲、運動不足、肥満、糖尿病などのほかの疾患、利尿剤やβ遮断薬などの治療薬に含まれる物質、エストロゲンやステロイド補充によるものなどが挙げられます。

高カイロミクロン血症では、血液中に含まれるトリグリセライド(中性脂肪)が1000mg/dlを超えると、急性膵炎の発症リスクが高まり、発症例ではほとんどが2000mg/dlを超えているとされます。

Ⅰ型脂質異常症(高脂血症)では、小児期から脂肪摂取後の膵炎による上腹部痛を繰り返します。また、肝臓や脾(ひ)臓のはれが起きます。皮膚には、黄色腫という小さなピンクがかった黄色い皮疹(ひしん)ができます。

トリグリセライド(中性脂肪)が4000mg/dlを超えると、網膜血管が白色ピンク状に見える網膜脂血症を示します。

高カイロミクロン血症の検査と診断と治療

内科、内分泌・代謝科の医師による診断では、血液検査で血中の総コレステロール、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、HDLコレステロール(善玉コレステロール)の値を測定します。食後12時間以上の空腹時に採血します。

血液検査では、中性脂肪(トリグリセライド)の値が基準の値を大きく上回る場合や、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が基準の値を下回る場合に、治療の対象とすることを確定します。

内科、内分泌・代謝科の医師による治療では、Ⅰ型脂質異常症(高脂血症)の場合、薬物療法の効果は限定的であるため、食餌(しょくじ)療法を中心に、運動療法も行ないます。

食餌療法では、1 日の脂肪摂取を15~20g 以下、または総カロリーの15%以下、食後でも血液中に含まれるトリグリセライド(中性脂肪)が1500mg/dlを超えない程度にまで、食事での脂肪摂取を制限します。極端な制限が行われるため、ご飯やパンの量を1・2~1・5倍程度食べることにより、1日のエネルギー量を確保することになります。カイロミクロンの生成を抑える中鎖脂肪酸(MCT)製品を使うことも、治療および予防に有効です。

運動療法では、積極的にウォーキングや水中歩行などの適度な有酸素運動を行ないます。適切な体重の維持につながるばかりか、適度な運動を行なうことで基礎代謝の向上効果が期待できます。

また、喫煙、ストレス、過労、飲酒、睡眠不足など生活習慣全般の見直しも、治療のスピードを早め、症状の悪化を予防するのに効果的です。

V型脂質異常症(高脂血症)の場合、成人の発症の要因とされる過食、アルコール多飲、運動不足、肥満、糖尿病などの是正を行い、薬物療法としてフィブラート系薬物のベザフィブラートやフェノフィブラート、およびオメガ3系多価不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)製剤やドコサヘキサンエン酸(DHA)製剤を用います。

急性膵炎の発症、重症度により、生命予後は左右されます。

🇧🇮高血圧合併症

高血圧を放置しておくことが原因となって、進行する別の疾患

高血圧合併症とは、血圧が高い状態を放置しておくことが原因となって、進行するさまざまな別の疾患。致死率が高い疾患が多くみられます。

高血圧の合併症の起こり方は、人によってそれぞれで多種多様です。頭痛、頭重感、吐き気、動悸(どうき)、倦怠(けんたい)感、むくみなど、高血圧による不快症状が続いた後に起こる時もあれば、全く自覚症状もないまま突然激しい発作に見舞われて最悪の場合、命を落とすケースもあります。

そのような大事に至らないように血圧をコントロールし、合併症の予防も心掛けるとともに、早期発見と早期治療を心掛けたいもの。近年は、合併症の有無や進行程度を把握できる精度の高い検査が多くあり、予防対策をしっかり行えるようになっています。

高血圧に合併する疾患として、脳では脳卒中、すなわち脳出血と脳梗塞(こうそく)が挙げられ、脳出血には脳内出血、くも膜下出血があり、脳梗塞には脳血栓、脳塞栓(そくせん)があります。

脳には大動脈と、そこから枝分かれしている細動脈がありますが、特に細動脈の硬化が進んでこぶ状の動脈瘤(りゅう)ができ、それが破裂して起こるのが脳出血です。その一種のくも膜下出血は、血圧の急上昇と関係が深く、非常に致死率が高い疾患です。一方、脳梗塞は、動脈硬化が進んだ血管に血の塊である血栓が詰まって血流が途絶え、酸素と栄養分の供給ができなくなった細胞が壊死します。細動脈では大事に至らないこともありますが、大動脈では致死率が高くなり、一命を取り留めたとしても、体のまひや言語障害などの後遺症が残る場合が多くなります。

また、動脈硬化で血管が狭くなり、一時的に脳への血流が不足して起こる疾患に、一過性脳虚血発作があり、突然、手足のしびれやまひ、視力障害などの発作が起こり、短時間のうちに回復して、後遺症状を残さないものの、脳出血や脳梗塞の前兆となります。

さらに、高血圧性脳症があり、これ血圧が調整できる以上に上昇した場合に、血管の中の水が外に漏れて脳浮腫(ふしゅ)の症状を起こす疾患です。頭痛や吐き気、まひ、錯乱といった症状が起きますが、血圧を下げればすぐに改善されます。

高血圧に合併する疾患として、心臓では狭心症、心筋梗塞、心肥大、心不全、高血圧性心疾患があります。

心臓に酸素や栄養を送り込んでいる冠動脈の内腔(ないくう)が、動脈硬化によって狭くなり、一時的に血流が途絶えて起こる発作のことを狭心症といいます。胸部に痛みを感じ、安静にしていると治まりますが、一度発作が起きると、心筋梗塞につながる危険が高まります。その心筋梗塞は、冠動脈に血栓が詰まり血流が途絶えることで起こり、血液と栄養分を供給できなくなった心筋が壊死(えし)します。胸部に激痛を伴う発作を生じ、そのまま死亡してしまうこともあります。

また、高血圧が続くと、心臓は高い圧力で血液を送り出し続けるため、大動脈に血液を送り出している左心室が肥大化する心肥大が起こりやすく、この状態が長く続くと、オーバーワークのため心機能が低下する心不全に陥ります。

さらに、高血圧性心疾患があり、これは高血圧が原因で左心室の壁が肥大し、心機能に障害が起こる疾患です。高血圧性心疾患は最初は症状がほとんどみられませんが、心疾患が起こると、うっ血性心不全や虚血性心疾患の症状が現れ、息切れ、不整脈、動悸、せき、疲労、脱力感、失神、胸痛などの症状が起きます。

高血圧に合併する疾患として、腎臓(じんぞう)では、たんぱく尿、腎硬化症、腎不全、尿毒症があります。

腎臓は尿を生成、排出し、ろ過する重要な臓器で、このろ過機能を持つフィルターの役目をするのが、毛細血管が糸玉状に集まった糸球体です。高血圧の状態が長く続くと糸球体に負担がかかり、細動脈の動脈硬化(糸球体硬化)を起こします。すると、たんぱく尿が出て尿細管を傷め、糸球体の線維化が始まり、やがて腎臓全体の血流も妨げられます。それが続くことで腎臓が硬く小さく委縮してしまうのが、腎硬化症です。

それに伴ってナトリウムや水分を尿中に排出する能力が衰え、体液量が増加し、さらに血圧が高くなるという悪循環が生まれます。腎硬化症が進むと、やがて腎不全となり、生命を維持するために血液透析(人工透析)が必要となってきます。悪化して尿毒症を起こすと、命にかかわります。

高血圧に合併する疾患として、そのほかでは、大動脈瘤、閉塞性動脈硬化症などがあります。

大動脈の硬化が進行すると、血管壁が弾力性を失ってもろくなって、強い血流が加わるところにこぶ状の大動脈瘤ができます。この部分が破裂する大動脈瘤破裂が起こると、出血死につながります。

また、動脈に脂肪分が沈着して粥状(じゅくじょう)硬化(アテローム硬化)が起こると、血管の内膜が肥厚して内腔が狭くなったり、潰瘍(かいよう)ができたりします。結果として、血流に障害が起き、血液が固まって血栓を生じ、詰まりやすい状態になります。こういった血管の病変が末梢(まっしょう)動脈、すなわち手足の動脈に慢性的に起こっているのが、閉塞性動脈硬化症です。初期の症状は足の冷感やしびれで、進行すると、短い距離を歩いただけで、ふくらはぎや太ももの裏側が重くなってきたり、痛みを感じるようになります。さらに進行すると、安静時にも痛みが現れるようになります。

高血圧に因果関係がある疾患として、糖尿病があります。糖尿病は高血圧から起こる合併症ではないものの、高血圧の人は糖尿病になりやすく、同様に、糖尿病の人も高血圧になりやすいという因果関係があります。これには、インスリン抵抗性と高インスリン血症のメカニズムが関与していると考えられます。高血圧と糖尿病を合併すると、血管障害が進行しやすく、高血圧と糖尿病双方の合併症が次々と起こってきます。脳卒中、心筋梗塞のリスクも高まるので、高血圧の人は血圧コントロールと一緒に、血糖値の検査を行い、適正値内でコントロールすることが大切です。

高血圧合併症の検査と診断と治療

内科、循環器科、神経内科などの医師による高血圧合併症の治療は、高血圧を下げるための治療と合併症そのものの治療を同時に行っていくことになります。

治療法は薬物治療が中心で、薬を使う場合には、合併した症状によって、注意が必要になります。悪化したり重度のケースでは、手術を行うことになります。

脳血管に障害がある場合には、血圧を標準値に保ちながら、治療します。 また、食事による療法などにより動脈硬化を進行させないことが大切です。 心臓病と高血圧が合併した場合、特に狭心症や心筋梗塞と合併した場合は、非常に危険な状態です。この場合は、血圧をコントロールし、発作を防止することにを重点に置きます。 腎臓病と高血圧が合併している場合は、両方同時に治療することになります。

糖尿病と高血圧の合併の場合は、動脈硬化が促進されているため、心筋梗塞や脳卒中などが起こりやすい状態になっています。薬を使う時も、糖尿病の薬と血圧降下剤の両方の薬の相性や作用を考えなければならず、十分な注意を払うことが必要になってきます。

どのような高血圧合併症でも、生活の改善をすることは必要です。喫煙などは動脈硬化を促進させるので、断つ必要があります。 塩分を控えた低カロリーな食事や適度な運動で、血圧を低下させることも常に頭に入れて置く必要があります。

🇧🇮高血圧緊急症

血圧が急激に上昇するとともに臓器障害が生じ、直ちに血圧を下げる必要がある状態

高血圧緊急症とは、著しく血圧が上昇するとともに、脳、腎臓(じんぞう)、心臓、網膜などの心血管系臓器に高血圧による急性障害が生じ、進行している状態。高血圧性緊急症、高血圧性クリーゼとも呼ばれます。

高血圧緊急症を放置すれば、不可逆的な臓器障害のため致命的であることから、極めて危険な状態であり、直ちに血圧を下げる必要があります。

症状として、まずは血圧が急激に上昇します。通常、収縮期血圧(最大血圧)で180mmHg以上、または拡張期血圧(最小血圧)で120mmHg以上を超えます。このような高い数値が出た場合には、念のために、数分間待ってからもう一度血圧を測定し直すべきです。

血圧の急激な上昇の際に、激しい頭痛、強い不安感、息切れ、鼻出血、吐き気、嘔吐(おうと)といった症状が現れるのは、危険な兆候です。

これらの症状が現れた場合、または2回目に測定した収縮期血圧(最大血圧)が依然として180mmHg以上の場合、血圧が自然に下がるのを待つことなく、速やかに救急受診するべきです。それができない場合は、救急車を呼ぶか、誰(だれ)かに救急医療施設に連れていってもらうべきです。

放置しておくと、肺に水がたまったり、脳出血を起こしたり、脳がむくんできたり、心臓から出る太い血管である大動脈が破裂したりする危険性もあります。

なお、著しく血圧が上昇し、収縮期血圧(最大血圧)で180mmHg以上、または拡張期血圧(最小血圧)で120mmHg以上を超えるのが認められる場合でも、多くの場合は臓器障害を伴わない高血圧切迫症、または一過性血圧上昇と呼ばれる状態です。高血圧切迫症では、吐き気、嘔吐などの症状を示す程度です。

高血圧緊急症の検査と診断と治療

内科や循環器科の医師による診断では、拡張期血圧(最小血圧)が130mmHg以上、眼底うっ血乳頭による出血、腎機能の進行性の悪化、意識障害・頭痛・悪心・嘔吐・局所神経症状の4項目中、2項目以上が認められれば高血圧緊急症と判断します。

また、高血圧緊急症を引き起こす障害として、高血圧性脳症、脳血管障害、肺水腫(はいすいしゅ)を伴う急性心不全・急性冠症候群、妊娠中毒症・子癇(しかん)、高血圧を伴う解離性大動脈瘤(りゅう)、悪性高血圧、褐色細胞腫などの疾患や病態があるため、これらを評価します。

内科や循環器科の医師による治療では、高血圧緊急症の状態が持続すると障害がどんどん悪化してしまうため、速やかに降圧を行います。降圧に使用される薬剤は、短時間作用型の調整可能な静注薬です。

しかし、急激な降圧や血圧の下げすぎは、脳などの血流を低下させてしまうため、好ましくありません。拡張期血圧(最小血圧)を100~110mmHg程度にするのが、治療の目標となります。

高血圧緊急症は1時間以内に血圧を下げる必要のある状態ですが、その緊急度は原因となる疾患、合併症の状況により異なり、個々の患者の状態により判断します。

例えば、高血圧緊急症を引き起こす原因が褐色細胞腫だという診断がついた場合、手術によって副腎の髄質にできた腫瘍(しゅよう)を摘出することで完全に治り、その後、高血圧緊急症を起こすことはありません。

🇷🇼高血圧緊張症

急激に悪化し、腎不全、心不全などを起こして生命にかかわる重症の高血圧

高血圧緊張症とは、本態性高血圧などから急激に悪化し、合併症を併発して生命にかかわる重症の高血圧。悪性高血圧、悪性高血圧症ともいいます。

高血圧は慢性の経過をたどる疾患で、合併症を起こすにしても、10年、20年といいう月日がかかるのが一般的です。ところが、高血圧緊張症では2~3年のうちに、生命にかかわる腎(じん)不全、心不全、眼底出血、昏睡(こんすい)などの合併症を起こす場合があります。比較的若い30歳~50歳代の人に多くみられるのが特徴ですが、全体の高血圧の1パーセント未満にしかみられないまれな疾患とされます。

厚労省の研究班が作成した診断基準では、最低血圧が130mmHg以上あること、眼底検査で著しい出血や動脈硬化がみられ、眼底にある視神経の乳頭にうっ血がみられること、腎機能障害が急速に進み腎不全を示すこと、頭痛、嘔吐(おうと)、昏睡などの脳圧高進症状や心不全を伴うことが多い、などが高血圧緊張症の特徴です。

高血圧緊張症による腎機能障害では、急激な血圧の上昇によって血管が傷付き血栓ができてしまうことで、狭まった血管に血液の流れをよくしようと働き、さらに血圧を上昇させる悪循環が生じていきます。

高血圧緊張症が進まないうちに適切な降圧治療を行わないでいると、失明したり生命にかかわるほど悪化する場合があるので、早期発見、早期治療が必要となってきます

高血圧緊張症の検査と診断と治療

内科や循環器科の医師による診断では、眼底に蛋白(たんぱく)尿性網膜炎が見られる場合、つまり、眼底所見の第4度高血圧を高血圧緊張症と確定します。

内科や循環器科の医師による治療は、複数の強力な血管拡張剤を使用して血圧を下げます。その後は、腎硬化症の程度に準じて治療します。

昔は予後が悪く、1年か長くても2年で多くの人が死亡していましたが、現在では降圧剤療法によって第2度高血圧症程度に転化させられるようになり、予後は大変よくなりました。

🇷🇼高血圧症

高血圧のためにいろいろな症状が現れてくる状態

 高血圧症とは、血圧の値が高いためにいろいろな症状が現れてくる状態。高血圧とは、最高血圧(収縮期血圧)と最低血圧(拡張期血圧)の両方、あるいはいずれかの血圧が一定以上高い場合を指します。

 血管壁に及ぼす血液の圧力であるところの血圧は、寒暖、季節、精神活動、肉体活動などの変化によって容易に揺れ動きます。そのため、医師が高血圧と診断するには、「いつ血圧を測っても高い」ことを証明する必要があります。初めて来院した発症者が高血圧の範囲に入る血圧値を示したとしても、すぐには降圧薬を出しません。日を変えて何回か血圧を測定し、いつも最低血圧が90mmHg以上、あるいは最高血圧が140mmHg以上であることを、高血圧の診断目安としています。

 高血圧の血圧値の基準は、しばしばガイドラインで示され、世界共通に用いられています。この現在の基準によると、正常血圧は最高血圧が120mmHg未満、かつ最低血圧が80mmHg未満とされています。120〜139/80〜89mmHgは、高血圧前状態と定義されています。

 高血圧では一般に自覚症状はない場合が多く、健康診断や病気で病院に行った時、たまたま血圧を測って発見されるというのが普通です。症状が現れやすいのは、血圧が高くなり始めた初期です。主な症状は、脳神経症状である頭痛、頭重(ずじゅう)感、めまい、耳鳴り、肩凝り、手足のしびれと、循環器症状である動悸(どうき)、脈の乱れ、心臓部の圧迫感などです。

これらの症状は、ある程度の期間、高血圧が持続すると、むしろ軽減するか、消失することが多いといえます。ところが、血圧の治療を受けずに放っておくと、高血圧が引き金となっていろいろな重大な疾患が起こってきます。例えば、いつもの血圧値より大幅に、しかも急激に血圧が上昇し、激しい頭痛、めまい、耳鳴り、吐き気、嘔吐(おうと)などに見舞われることがあります。高血圧性脳症といわれるもので、最高血圧は200mmHgを超えていることも少なくありません。

 血圧の高い状態をそのまま放置すると、脳や心臓の合併症を起こし、この合併症によって死亡する頻度も高くなります。日本人の死亡原因の第1位はがんですが、第2位は心筋梗塞(こうそく)や狭心症などの心臓病、第3位は脳出血や脳梗塞などの脳血管障害です。この第2位と第3位の疾患はいずれも、その原因に高血圧が大きく関与しているのです。

 また、高血圧が長く続くと、腎(じん)臓の細い動脈に動脈硬化が起こって腎臓の機能が失われ、人工腎臓や腎臓移植を必要とすることもあります。動脈硬化は眼底の細動脈にも出現し、眼底出血を起こして突然目が見えなくなることも少なくありません。

 現在の日本では、約3000万人が高血圧症にかかっていると見なされています。成人男性の約45パーセント、成人女性の約35パーセントは高血圧症で、年齢とともに罹患(りかん)率は上昇しています。

 なお、高血圧には大きく分けて、本態性高血圧と二次性高血圧といわれる2つのタイプがあります。90パーセント程度が原因となる疾患がない本態性高血圧で、残りの約10パーセントが何らかの原因で高血圧になっている二次性高血圧です。

 本態性高血圧は、生活習慣の乱れや遺伝素因、加齢などが相互に関連し合って発症すると考えられています。通常、30歳代の後半、ないし40歳代に始まり、10年以上の長い経過をたどって心血管臓器の障害を来し、合併症を起こしてくるものです。

 二次性高血圧は、腎臓の疾患によって起こるものが最も多く、急性腎炎、慢性腎炎、糖尿病性腎症などによるものが挙げられます。さらに、腎血管性高血圧、腎実質性高血圧、原発性アルドステロン症、褐色細胞腫(しゅ)、クッシング症候群、大動脈炎症候群、大動脈縮窄(しゅくさく)症などによるものがあります。二次性高血圧では、原因により特徴的な症状を示すものもあります。

高血圧症の検査と診断と治療

 高血圧症を予防ためには、症状がないからといってそのままにしておかず、血圧を時々でもよいので測るということが大切です。最近は、簡便な自動血圧測定器が市販されていますから、家庭でも血圧測定が可能になっています。健康診断などで高血圧の指摘を受けたり、自己測定した血圧値がガイドラインの高血圧の範囲に入るなら、循環器専門医の診察を受け、高血圧の重症度判定、鑑別診断、治療方針決定などについて相談することです。

 なお、自己測定する場合は、測定精度の面から上腕にカフを巻いて測定できる血圧計が勧められます。自己の測定値は、診察室での測定より低めになる傾向があります。広く合意された家庭血圧の基準はありませんが、135/85mmHg以上は高いと考えるべきです。

 医師による高血圧症の検査と診断では、正確な血圧測定のためには、水銀血圧計を用いて聴診法で測定します。最低5分間、座位安静にして足を床に置き、腕を心臓の高さに保って測定します。高血圧と診断されれば、生活習慣のチェック、高脂血症や糖尿病などの他の心血管危険因子の合併確認、二次性高血圧の精密検査、高血圧の影響を強く受ける心臓、脳、腎臓、目などの臓器の障害の程度を評価するための検査が行われます。これらの評価は、治療方針を決める上で非常に重要です。

 医師による本態性高血圧の治療では、生活習慣改善と薬物療法の2本立てとなります。まず薬に頼らない生活習慣の改善が重要で、これだけで治療効果の上がらない場合に初めて降圧薬を使います。二次性高血圧の場合は、高血圧の原因となる疾患を治すことが主体になります。

 生活習慣改善では、(1)食塩摂取の制限や肥満の解消など食事療法、(2)ストレスの軽減や適度の運動など日常生活の改善、(3)禁煙や深酒の禁止など、嗜好(しこう)品の摂取の改善などを行います。

 以上の療法を1カ月以上行ってもなお血圧値が高い場合に、降圧薬が処方されます。高い血圧を下げるための降圧薬の進歩は目覚ましく、今日ではいろいろの種類のものが用いられ、血圧のコントロールは多くの場合、可能となっています。

 しかし、降圧薬を内服しているからといって、生活習慣改善を軽んじることはできません。高血圧症治療はあくまでも食事療法と日常生活の改善などが中心であり、その効果を高めるために行われるのが薬物療法です。一般に降圧薬は長期に服用し続ける必要があり、発症者と高血圧症との戦いは短期決戦ではなく、長い長い戦いです。その戦いに勝つか負けるかは、発症者自身の生活態度にかかっているといっても過言ではありません。

🇸🇹高血圧性クリーゼ

血圧が急激に上昇し、直ちに血圧を下げる必要がある状態

高血圧性クリーゼとは、著しく血圧が上昇するとともに、脳、腎臓(じんぞう)、心臓、網膜などの心血管系臓器に高血圧による急性障害が生じ、進行している状態。高血圧性緊急症、高血圧緊急症とも呼ばれます。

クリーゼとは、危険な状態に陥っていることを指すドイツ語で、英語のクライシスに相当します。高血圧性クリーゼを放置すれば、不可逆的な臓器障害のため致命的であることから、極めて危険な状態であり、直ちに血圧を下げる必要があります。

高血圧クリーゼの症状として、まずは血圧が急激に上昇します。通常、収縮期血圧(最大血圧)で180mmHg以上、または拡張期血圧(最小血圧)で120mmHg以上を超えます。もしこのような高い数値が出た場合には、念のために、数分間待ってからもう一度血圧を測定し直すべきです。

血圧の急激な上昇の際に、激しい頭痛、強い不安感、息切れ、鼻出血、吐き気、嘔吐(おうと)といった症状が現れるのは、危険な兆候です。

これらの症状が現れた場合、または2回目に測定した収縮期血圧(最大血圧)が依然として180mmHg以上の場合、血圧が自然に下がるのを待つのではなく、速やかに救急受診をするようにするべきです。それができない場合は、救急車を呼ぶか、誰(だれ)かに救急医療施設に連れていってもらうべきです。

放置しておくと、肺に水がたまったり、脳出血を起こしたり、脳がむくんできたり、心臓から出る太い血管である大動脈が破裂したりする危険性もあります。

なお、著しく血圧が上昇し、収縮期血圧(最大血圧)で180mmHg以上、または拡張期血圧(最小血圧)で120mmHg以上を超えるのが認められる場合でも、多くの場合は臓器障害を伴わない高血圧切迫症、または一過性血圧上昇と呼ばれる状態です。高血圧切迫症では、吐き気、嘔吐などの症状を示す程度です。

高血圧性クリーゼの検査と診断と治療

内科や循環器科の医師による診断では、拡張期血圧(最小血圧)が130mmHg以上、眼底うっ血乳頭による出血、腎機能の進行性の悪化、意識障害・頭痛・悪心・嘔吐・局所神経症状の4項目中、2項目以上が認められれば高血圧性クリーゼと判断します。

また、高血圧性クリーゼを引き起こす障害として、高血圧性脳症、脳血管障害、肺水腫(はいすいしゅ)を伴う急性心不全・急性冠症候群、妊娠中毒症・子癇(しかん)、高血圧を伴う解離性大動脈瘤(りゅう)、悪性高血圧、褐色細胞腫などの疾患や病態があるため、これらを評価します。

内科や循環器科の医師による治療では、高血圧性クリーゼの状態が持続すると障害がどんどん悪化してしまうため、速やかに降圧を行います。降圧に使用される薬剤は、短時間作用型の調整可能な静注薬です。

しかし、急激な降圧や血圧の下げすぎは、脳などの血流を低下させてしまうため、好ましくありません。拡張期血圧(最小血圧)を100~110mmHg程度にするのが治療の目標となります。

高血圧性クリーゼは1時間以内に血圧を下げる必要のある状態ですが、その緊急度は原因となる疾患、合併症の状況により異なり、個々の患者の状態により判断します。

例えば、高血圧性クリーゼを引き起こす原因が褐色細胞腫だという診断がついた場合、手術によって副腎の髄質にできた腫瘍(しゅよう)を摘出することで完全に治り、その後高血圧性クリーゼを起こすことはありません。

🇸🇹高血圧性脳症

著しい高血圧を伴って、頭痛、悪心、意識障害など脳の障害を示す症状

高血圧性脳症とは、著しい血圧上昇に伴って、頭痛、視力障害、けいれん、意識障害など脳に起因する症状が起こる症候群。

脳の血管には、血圧の上昇・下降に対して血管を収縮・拡張させて血管抵抗を増大・減少させ、脳の血流を一定に保とうとする働きがあります。これを脳血管の自動調節能といいます。しかし、その調節能の範囲を超えて血圧が著しく持続的に上昇すると、脳の血流は異常に増え、脳の毛細血管内から血管外へ血漿(けっしょう)成分が染み出して脳浮腫(ふしゅ)を起こし、頭蓋(ずがい)内圧が高進します。このような現象が高血圧性脳症で、もともと高血圧のある人や、腎(じん)機能障害のある人に起こりやすく、降圧剤の中断や腎機能障害の悪化などが誘因となります。

もともと高血圧のある人といっても、ほとんどは腎機能障害を持つ重症高血圧、あるいは悪性高血圧の人に起こるほか、急性腎炎や妊娠高血圧症候群(旧妊娠中毒症)の人にも起こることがあります。従って、その発生には年齢や性別などによる特徴はありません。

頭痛、悪心(おしん)、嘔吐(おうと)など、いわゆる頭蓋内圧高進症状が起こります。頭痛の多くは後頭部から後頸部(けいぶ)にかけての激しい痛みで、著しい高血圧と悪心、嘔吐を伴うためにくも膜下出血とよく似ています。血圧は、最高血圧(収縮期血圧)が200mmHgを大幅に超え、最低血圧(拡張期血圧)も130mmHgを超えることが多く、異常な高血圧を示します。

両側性の視力低下を訴えるケースも少なくありません。初めのうち不安感や興奮、失見当識などの精神症状がみられるケースもあり、中には昏睡(こんすい)状態に至るケースもあります。まれに、全身の強直性けいれんを起こすケースがあります。放置すると、脳出血や心不全、腎不全により死亡します。

高血圧性脳症に気付いたら、直ちに神経内科の専門医の診察を受け下さい。

高血圧性脳症の検査と診断と治療

神経内科の医師による診断では、著しい高血圧を伴って、頭痛、悪心、嘔吐、意識障害など脳の障害を示す症状から、高血圧性脳症を念頭に置きます。似たような症状を示すもので最も重要なのは、脳卒中、とりわけくも膜下出血で、その鑑別にはCTスキャンやMRIを用います。高血圧性脳症の画像では、大きな梗塞(こうそく)や出血の所見はなく、ほぼ正常ないし脳が全般的にはれている脳浮腫の所見が得られます。

血液検査も診断に有用です。高血圧性脳症では腎機能障害を基盤とすることが多く、クレアチニン値の上昇などの所見が得られます。また、高血圧性脳症と似た症状を示す肝性脳症、糖尿病性昏睡など代謝性の脳症との鑑別に、血中アンモニア値、血糖値などの検索が必要です。

神経内科の医師による治療では、速やかに血圧を下げます。降圧が速やかに得られ、用量を調節しやすく、また効果が確実な静脈内投与の降圧剤で治療します。血圧を測定し神経症状を監視しながら、降圧速度を調整します。

意識障害などを示す脳症状の強い場合では、脳の浮腫に対する静脈内投与の抗脳浮腫剤で治療します。強直性けいれんがある場合では、静脈内投与の抗けいれん剤で治療します。

速やかに降圧が得られれば、1~2日で症状は消失します。降圧治療が多少遅れた場合には、症状の改善に数日を要することもありますが、一般に予後は良好です。ただし、治療開始までにあまりにも時間を要した場合には、脳症の不可逆的な進行や脳卒中の合併で後遺症を残したり、肺水腫(すいしゅ)の併発で死亡に至る例もあり注意が必要です。

腎機能障害などの基盤となる疾患がある場合には、それらに対する治療の継続がその後も必要です。

高血圧性脳症の予防のためには、高血圧症を治療している人は、自己判断で降圧剤の中断をしないようにすることが必要です。特に、腎機能障害を伴っている慢性高血圧症の人の場合は、内服の継続による厳重な血圧の管理が必要です。

🇨🇻高血圧性網膜症

高血圧に伴う血管障害などにより、網膜の出血や浮腫などの障害が出る疾患

高血圧性網膜症とは、高血圧に伴う血管障害などにより、網膜の出血や浮腫(ふしゅ)などの障害が出る疾患。高血圧性眼底とも呼ばれます。

高血圧に伴って網膜の毛細血管が障害を受けると、網膜への血液の供給が悪くなり、血管の壁から血液や血液成分が染み出す出血や滲出(しんしゅつ)、血流が不足している部位の白斑(はくはん)、血管から漏れ出た血液成分が網膜内にたまる浮腫などを生じます。特に、網膜の中心部にあって、視力の最も鋭敏な部位である黄斑(おうはん)で出血や浮腫が起こると、早期から視力が低下します。

初期では、目の自覚的な症状はほとんど現れません。急激に血圧が上がって急性症状が現れる悪性高血圧では、網膜の出血や浮腫が急性に起こるために視力が低下することがありますが、高血圧症の大部分を占める原因不明の本態性高血圧では、症状が現れるのはむしろまれです。

しかしながら、軽度の高血圧であっても、長い間治療しないで放置していると、網膜の血管が障害を受けることがあります。例えば、網膜内に血流が途絶えた部位ができると、そこに酸素や栄養を届けようとして、新たな血管である新生血管が伸びてきますが、この血管はもろくて破れやすく、出血が硝子体(しょうしたい)内に広がる硝子体出血に至ったり、出血から網膜剥離(はくり)に至ることがあり、高度の視力障害が残ってしまう可能性が高くなります。

また、高血圧性網膜症が網膜動脈閉塞(へいそく)症や網膜静脈閉塞症、虚血性視神経症などの原因となることがあり、その時にも高度の視力障害が残ってしまう可能性が高くなります。

初期では目に異常を感じることは少ないのですが、眼底検査を行うと、高血圧の程度によって網膜にさまざまな変化がみられます。高血圧症の人は、よく内科の医師によって眼底検査を受けるよう指示されます。人間ドックや成人病検診(生活習慣病予防検診)でも、眼底検査や眼底写真の撮影が行われます。これらは、眼底の血管すなわち網膜血管が直接目で見ることのできる体内唯一の血管系であり、眼底検査の結果が高血圧症などの診断や治療にも広く利用されているためです。

高血圧性網膜症の検査と診断と治療

眼科の医師による高血圧性網膜症の診断は、眼底検査により行われます。高血圧で起こる眼底の異常所見としては、動脈が細く狭くなる、網膜の出血や白斑、網膜や視神経乳頭の浮腫などがあります。

高血圧性網膜症の治療の第一は、全身的な高血圧の治療です。眼科として重要なのは、網膜動脈閉塞症や網膜静脈閉塞症、虚血性視神経症など視力を大きく低下させる疾患の原因となることがあるので、早期に高血圧性網膜症を発見し、内科での血圧のコントロールを患者に勧めることです。

高血圧性網膜症が進行し、網膜に出血、白斑、浮腫が高度に現れた場合や新生血管が生じた場合には、新生血管発生の抑制、硝子体出血の予防などを目的に、レーザー光凝固術による治療を行います。さらに、硝子体出血や網膜剥離が起きてしまった場合には、硝子体手術により硝子体の透明化、網膜の剥離部分の復位を行い、視力の回復を目指します。

しかし、かなりの重症例でも、高血圧性網膜症に対しての眼科的な治療は必要ありません。内科での高血圧の治療が、目の治療になります。網膜血管に動脈硬化がなければ、血圧を下げることで血管の状態は元に戻りますし、出血や滲出も消失します。薬物療法では、アンジオテンシン2受容体拮抗(きっこう)薬やカルシウム拮抗薬など、血管の収縮を抑える薬が主に用いられます。動脈硬化がある場合には、交感神経抑制薬(心臓の収縮機能を抑える薬)で、血管の負担を軽減します。

高血圧性網膜症を進行させないためには、内科での高血圧の治療とともに生活習慣を改善し、定期的な眼底検査などを忘れずに受けることが重要となります。

🇱🇸高脂血症

●まったく自覚症状がない高脂血症 

 高脂血症とは、血液中の脂質(脂肪)、特にコレステロールと中性脂肪(トリグリセライド)が増えた状態のことをいいます。

 高脂血症は痛くもかゆくもなく全く自覚症状がありません。

 総理府の調査によりますと、高脂血症についての感じ方は、糖尿病や高血圧症などの生活習慣病に比べ、怖い病気という感じ方を持つ人が少なく、わからないという人も多いという結果がでています。

 しかし、高脂血症は自覚症がでた時には、すでに心臓や脳または下肢の動脈硬化が進み、突然、脳梗塞のような脳動脈疾患や狭心症、心筋梗塞などの冠動脈疾患を引き起こすため、高血圧と同様にサイレント・キラー(沈黙の殺人者)とも呼ばれている怖い病気です。 

■意外と軽視されている高脂血症

怖い病気とは思わない

少し怖い病気だと思う

非常に怖い病気だと思う

わからない

高脂血症についての感じ方

  7.7%

  38.9%

  37.6%

  15.8%

高血圧についての感じ方

  7.8%

  37.6%

  52.5%

  2.1%

糖尿病についての感じ方

  5.8%

  21.4%

   71.0%

   1.9%

            
「生活習慣病に関する世論調査結果」(平成12年2月総理府)より 

【高脂血症が招く合併症】 

 高脂血症とは、血液中の脂質(コレステロールや中性脂肪)が増えた状態で、血液の粘り気も増しています。この状態が長く続くと血管内壁に脂質が沈着し動脈の壁が厚く硬くなっていきます。(動脈硬化の進行)

 その結果、心臓では狭心症や心筋梗塞、脳では脳梗塞など命にかかわる恐ろしい合併症を招きやすくなります。

しっかりとコレステロールや中性脂肪の管理を行ない、これらの合併症の発症を予防しましょう。 

●高脂血症は、大きく2つに分類される

      原発性高脂血症

      続発性高脂血症

 現在、病気でもなく、また特に何か薬を服用しているわけでもないのに、コレステロールや中性脂肪が高く、原因が判明しません。

 多くは、遺伝的な体質に原因があると考えられます。

 1. 食事によるもの(高カロリー食、高脂肪食)

 2. 内分泌性によるもの(甲状腺機能障害ほか)

 3. 代謝異常によるもの(糖尿病、肥満症)

 4. 腎疾患によるもの(慢性腎不全他)

 5. 薬物によるもの(ステロイドホルモン、経口避妊薬、アルコールなど) 

 などを原因とするものです。 

●動脈硬化の危険因子とは?

 動脈硬化を引き起こし、進行させるのは、様々な危険因子が絡みあっています。特に高血圧、高脂血症、喫煙は動脈硬化の3大危険因子と呼ばれています。危険因子は、生活習慣の改善で調整ができるものと、調整ができないものとに区分されます。 

                     調整が可能な危険因子


  生活習慣の改善で調整可能な因子
   アルコールの大量摂取・肥満 ・喫煙・ ストレス・運動不足

  医療によって調整可能な因子

   高脂血症・高血圧・糖尿病・高尿酸血症・痛風


              調整が不可能な危険因子


  
加齢 性別(男性) 遺伝性 
【食生活の変化の影響は?】

 年々、日本人の間に高脂血症が増加している原因としてまずあげられるのが、食生活の欧米化です。下記の表からでも、昭和30年から平成7年の40年間で、エネルギー摂取量に占める脂質エネルギーの割合が大幅に伸びていることがよくわかります。なお、厚生省の第6次「日本人の栄養所要量」によれば、脂質エネルギー比率の望ましい比率は20~25%とされています。

■エネルギーの栄養素別摂取構成割合の変化

たんぱく質

脂 質 

糖 質

昭和30年(1955)

13.3%

8.7% 

78.0%

平成7年(1995)

16.0〃

26.4〃

57.6〃

増 減

+2.7ポイント

+17.7ポイント

-20.4ポイント

 
                               「国民栄養調査」(厚生省)より 

【内臓肥満型は要注意】 

 肥満には、内蔵型肥満と皮下脂肪型肥満というわけ方がありますが、動脈硬化との関連性が高いのが、内蔵型肥満です。

 内臓脂肪型か皮下脂肪型かどうかを正確に診断するためには、腹部CT写真を撮影します。腹部CT写真を撮影する前に、身長と体重、ウエストの値から簡単に推定する方法もあります。 

 なお、詳しい検査と診断方法は、肥満症をご覧下さい。 

【閉経後の女性にとっても問題】

 一般に男性は女性に比べ、動脈硬化になりやすいといえますが、女性も閉経後は注意が必要です。閉経しますと、血液中の脂質を正常に保つ働きをしていたエストロゲンと呼ばれる女性ホルモンの分泌量が激減するため、LDLコレステロールが増加し、動脈硬化へと進行していきます。近年、閉経を迎えた女性にとって大きな問題として骨粗しょう症が取り上げられていますが、骨密度とともに、コレステロールの値も定期的に測定することをお勧めします。 

●高脂血症の検査と診断の方法

 高脂血症かどうかは、12時間以上食事をとらずに採血し、血中の総コレステロール、悪玉コレステロール(LDL)、中性脂肪、善玉コレステロール(HDL)を測定し、それぞれの血清脂質の値によって診断を行います。

正常値

境界域

高コレステロール血症

総コレステロール

200mg/dl未満

200~219mg/dl

220mg/dl以上

悪玉コレステロール

(LDLコレステロール)

120mg/dl未満

120~139mg/dl

140mg/dl以上

正常値

高トリグリセライド血症

血清トリグリセライド

150mg/dl未満

150mg/dl以上

正常値

低HDL血症

善玉コレステロール

(HDLコレステロール)

40mg/dl以上

40mg/dl未満

このように、高脂血症はコレステロールと中性脂肪(トリグリセライド)、善玉コレステロールの測定した値によって、3つのタイプがあります。 

●高脂血症にならないための1次予防とは?

 高脂血症にならないためには、日頃からの生活習慣の積み重ねが大事です。

 長年の生活習慣はすぐには変えられないかもしれませんが、実行することによる効果はてきめんに現れます。しかも、これらの生活習慣は、糖尿病や高血圧の予防にも結びつきます。

   食事の面

   その他

・食事は1日3食きちんと摂る

・脂っこいものを控える

・就寝前に物を食べない

・間食は控える

・塩分を控えめにする

・食べすぎによる肥満にならない

・お酒を飲みすぎない

・喫煙はしない

・十分な睡眠をとる

・ストレスをためない

・定期的な健康診断を受ける

●高脂血症の治療はどのようにして行うのか? 

 高脂血症と診断された場合には、放置しないで積極的に治療を受けることが必要です。高脂血症の治療の目的は、動脈硬化による病気が起こることを予防することですが、まず、食事療法と運動療法から始めます。食事療法と運動療法を行っても治療目標値に届かない時には、薬物療法に入ります。 

【食事療法】 

 食事療法は高脂血症の種類によっても異なりますが、基本的なこととして下記の点があげられます。 

■食事療法のポイント

適切エネルギーを摂取し、肥満を解消する。標準体重を目指す。標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22

中性脂肪を増やす原因となる過剰な糖質の摂りすぎやアルコールの飲み過ぎを控える。間食で果物や菓子類をあまり食べない。週2回以上の休肝日を設ける。

コレステロールの多い食品を控える。卵黄・レバー・ベーコン・たらこ・すじこなどは1回の量をおさえる。

コレステロールの吸収を抑える働きのある植物繊維の多い食品を多く取る いも・豆類・野菜・きのこ・海藻類を積極的に取る。

体の酸化を防ぐ効果のあるビタミンA・C・Eを多く取る。緑黄食野菜(ビタミンA)、野菜類 (ビタミンC)、植物油・種実類 (ビタミンE)を取る。

コレステロールや中性脂肪を低下させる作用のある大豆製品や青魚を多く取る。大豆・納豆・豆腐・いわし・さんま・さばなどを取る。 

【運動療法】

 運動療法は、食事療法とともに高脂血症の治療には欠かせないものです。運動によって、血行が良くなると、中性脂肪や悪玉コレステロールの分解が活発となり、悪玉コレステロールが減って、善玉コレステロールが増えます。とくに、持続的に運動する習慣をつけると、太りにくい体質がつくられます。      

 しかし、抗酸化能力が衰え始めた中高年の人が、あまり激しい運動を始めると、体内に大量の活性酸素を生じさせ、全身の細胞、器官、組織がその活性酸素に攻撃されることになります。運動療法は、必ず医師に相談の上、始めてください。 

■運動療法のポイント

運動を始める前に医師に相談する。特に、高血圧、糖尿病など、心臓の悪い人などは自己判断で始めることは避ける。

脂肪を燃焼させるために、12~15分以上有酸素運動を行う。有酸素運動の代表はウォーキング、水泳、サイクリングなどがある。

1回30分、週3回以上を3ヶ月続けると効果が出る。自分の生活環境と趣味にあった運動を選ぶ。 

【薬物療法】

 食事療法と運動療法だけでは治療の目標値に届かなかった場合には、薬物療法を行います。治療薬は、LDLコレステロールを減らす薬剤と、中性脂肪を減らす薬剤に分類されます。

 

 LDLコレステロールを減らす薬剤

 中性脂肪を減らす薬剤

 *スタチン剤 

 *陰イオン交換樹脂 

 *プロブコール

 *フィブラート剤

 *イコサペント酸

 *エチルニコチン酸

🇪🇷子癇

妊娠高血圧症候群の重症例で、けいれん発作の後、昏睡状態に陥る疾患

子癇(しかん)とは、妊娠中に血圧が上がり、脳出血などの危険が高まる妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)の重症例で、てんかんと同じような全身のけいれん発作の後、昏睡(こんすい)状態に陥る疾患。

子癇の原因は不明ですが、脳血管の攣縮(れんしゅく)と脳浮腫(ふしゅ)が関係していると考えられています。攣縮はけいれん性の収縮のことを指し、浮腫は脳実質内に異常な水分貯留を生じ、脳容積が増大した状態を指します。

妊娠高血圧症候群は妊娠20週以降、分娩後12週まで血圧の上昇、または、高血圧にたんぱく尿を伴う場合のいずれかで、これらの症状が単なる妊娠の偶発合併症によるものではないものをいいます。約1割程度の妊婦が発症し、妊娠中期などに早めに発症したほうが悪化する傾向があります。

重症例の子癇を起こし、けいれんが何度も繰り返し起こると、妊婦、胎児ともに危険です。昏睡状態の時に、大声で妊婦の名前を呼んだり、体を揺すったりすると、再びけいれんが起こります。できるだけ静かにして、救急車を手配するようにします。

妊婦の死亡率が10~15パーセント、胎児の死亡率が25~40パーセントという統計もあり、また治癒しても、さまざまな後遺症を残すことがあります。しかし、最近では妊娠管理の向上により、母子ともに死亡率は著しく減少してきています。

けいれん発作が起こった時期によって、妊娠子癇、分娩(ぶんべん)子癇、産褥(さんじょく)子癇の3つに分けられます。子癇の発生頻度が2000~3000分娩に1例程度といわれているうち、妊娠子癇が50パーセント、分娩子癇が25パーセント、産褥子癇が25パーセント程度の発生頻度といわれています。最近では、特に妊娠子癇や分娩子癇の発生頻度は減少傾向にあります。

むくみ、たんぱく尿、高血圧などの妊娠高血圧症候群の症状があって、意識喪失とけいれんが突然、起こってきます。この子癇発作の前触れとして、目の前がチラチラしたり、視野が狭まるなどの眼症状、悪心(おしん)、嘔吐(おうと)、胃痛などの胃症状、頭痛、めまい、耳鳴りなどの脳神経症状などがみられることがあります。

典型的な子癇発作では、症状によって第1期から第4期に分けることができます。

第1期は、意識を失い、瞳孔(どうこう)は散大し、顔面の筋肉が細かくけいれんします。第2期は、全身が硬直し、体は弓なりに反り返り、呼吸も一時停止して顔面が紫色になります。第3期は、口から泡を吹いて全身けいれんが始まります。第4期は、けいれん発作は収まりますが、いびきをかいて深い昏睡に陥ります。この状態から次第に意識が回復する場合と、再び第2期の状態に戻り、発作を繰り返す場合があります。昏睡に陥ったまま、発作を繰り返した場合は、意識が回復することなく死に至ることもあります。

子癇の検査と診断と治療

産科、産婦人科の医師による治療では、外部からの光、音、振動などの刺激を避けるために、暗くした静かな場所に隔離します。それらの刺激によって、子癇発作が誘発されることがあるからです。

また、薬物療法として抗けいれん剤、降圧剤、利尿剤、強心剤などを使用します。けいれんの救急処置としては、体を横向きにし、バイトブロックをすぐに口の中に入れて舌をかむ危険を防ぎ、エアウェイの使用と気道分泌物の除去を行って気道を確保するようにします。そして、抗けいれん剤のジアゼパム(セルシン)を静注し、硫酸マグネシウムの点滴静注を行います。

救急処置がすんだらCT検査、MRI検査を行い、画像診断します。脳出血などを合併することがあるため必要な検査です。

妊娠子癇、分娩子癇で、症状の悪化や胎児仮死のある場合では、分娩を早くすませるために吸引分娩、鉗子(かんし)分娩などの急速遂娩(すいべん)術が行い、場合によっては帝王切開を行います。

2022/08/26

🇱🇾自己免疫性溶血性貧血

赤血球に結合する自己抗体ができて、赤血球の寿命が著しく短縮し、貧血を来す疾患

自己免疫性溶血性貧血とは、自身の赤血球膜上の抗原に結合する自己抗体ができて、赤血球が異常に早く破壊されて起こる貧血。

自己抗体は自分の体の成分に対する抗体で、本来は細菌などから体を守るために抗体は作られ、自分の体に対しては作られませんが、自己免疫疾患と呼ばれる一連の疾患では、自己抗体が出現し赤血球をまるで異物であるかのように攻撃します。

赤血球に自己抗体が結合し、補体と共同して血管内で赤血球を破壊するものと、自己抗体や補体を介して主に脾臓(ひぞう)で破壊されるものがあります。

この自己抗体による赤血球の破壊は、突然起こることもあれば、ゆっくりと進行することもあります。人によっては、このような破壊がしばらくすると止まることがあります。また、赤血球の破壊が止まらず、慢性化する人もいます。

自己免疫性溶血性貧血には、いろいろな病型があり、原因もさまざまです。主な病型は2種類あり、37度の正常体温付近で抗体の結合が強いものを温式自己免疫性溶血性貧血、正常体温以下の特に4度で抗体の結合が強いものを冷式自己免疫性溶血性貧血と呼びます。

自己免疫性溶血性貧血の発症者は全国で1300~1700人を数え、1年間に数百人程度の新たな発症者が発生していると推定されています。このうち、温式自己免疫性溶血性貧血の発症者が9割を占め、冷式自己免疫性溶血性貧血の発症者は1割です。

子供から高齢者までの幅広い年齢で、発症します。温式自己免疫性溶血性貧血は、小児期に1つの小さなピークがあるほか、10~30歳の若年層、50歳以後に増加し70歳代がピークの老年層に多くみられます。若年層では女性が優位で、老年層では男女差は認められません。

原因は自分の赤血球膜上の抗原と反応する自己抗体ができることによるのですが、なぜ抗原抗体反応が起こるのかはまだ明らかではありません。膠原(こうげん)病などの自己免疫疾患の患者や、リンパ腫(しゅ)などの悪性腫瘍(しゅよう)の患者で、この自己免疫性溶血性貧血がみられることがあります。また、マイコプラズマ肺炎の患者にも、冷式自己免疫性溶血性貧血がみられることがあります。

疾患の発症に、遺伝性はありません。

特に赤血球の破壊が軽度で緩やかに進む場合は、症状がみられないことがあります。それ以外では、主な症状は貧血によるもので、だるさ、動悸(どうき)、息切れ、めまい、頭痛、顔面蒼白などが現れます。

赤血球の破壊が重度な場合や急速な場合は、血液の中にヘモグロビン(血色素)の分解産物であるビリルビンがたまるため、白目の部分や肌が黄色く見える軽い黄疸(おうだん)がみられることもあり、腹部に不快感や膨満感を覚えたりします。脾臓がはれたり、濃い色を示すヘモグロビン尿がみられることもあります。慢性に経過すると胆石症を合併することも知られています。

冷式自己免疫性溶血性貧血では、手や足が冷たくなったり、青みがかったりすることがあります。冷式自己免疫性溶血性貧血のうちのまれなタイプである発作性寒冷血色素尿症では、気温の低下、冷水の飲用や洗顔・手洗いなど、寒気にさらされる部分が小さくても赤血球が破壊されることがあり、背中や脚に激しい痛みが生じたり、頭痛、嘔吐(おうと)、下痢がみられることもあります。暗褐色を示すヘモグロビン尿がみられることもあります。

原因が別の疾患によるものであれば、リンパ節のはれや圧痛、発熱など、原因になっている基礎疾患の症状が主に現れることがあります。

自己免疫性溶血性貧血の検査と診断と治療

小児科、内科、血液内科などの医師による診断では、 血液検査を行って、貧血であることを確認し、自己免疫反応の原因を特定します。

血液検査で未熟な赤血球(網状赤血球)の数が増加していれば、赤血球の破壊が進んでいることが疑われます。あるいは、血液検査から、ビリルビンが増加し、ハプトグロビンという蛋白(たんぱく)質が減少していることがわかる場合もあります。

原因として自己免疫性溶血性貧血の診断が確定するのは、血液検査で特定の抗体の量が多いことが確認された場合で、このような抗体は、赤血球に付着している抗体、または血液の液体成分に含まれる抗体のいずれかです。赤血球を破壊する自己免疫反応の原因を突き止めるため、そのほかの検査を行うこともあります。

小児科、内科、血液内科などの医師による治療では、副腎(ふくじん)皮質ステロイドホルモン薬の服用が有効です。最初に高用量の服用から始め、数週間ないし数カ月かけて徐々に減量していきます。

赤血球を破壊している臓器である脾臓の手術による摘出や、免疫抑制薬の服用も補助的な手段として行われます。赤血球の破壊が激しく貧血が強い場合は、輸血が必要になる時もありますが、輸血は貧血の原因を治療するものではなく、一時的な対症療法にすぎません。

冷式自己免疫性溶血性貧血では、寒さを避け保温に努めることが重要な治療法となります。保温に配慮した服装や寝具を利用するように気を付け、室温に注意し、手足や顔の露出部分が寒気にさらされないように注意を払います。時に免疫抑制薬が有用なこともあります。

また、別の疾患に合併して起きている時は、原因になっている基礎疾患の治療によりよくなることがあります。

症状が軽い場合や赤血球の破壊速度が遅くなっている場合は、自然経過で治癒することがあります。多くの症例は、中~長期間の薬物治療が必要となります。治療によって疾患の活動性が抑えられれば、正常な日常生活が送れます。

なお、ほかの自己免疫疾患やリンパ腫などの疾患を合併していない温式自己免疫性溶血性貧血の場合は、診断から5年後の生存率は約80%、10年後は約70%です。しかし、高齢者では予後不良です。

🇱🇾脂質異常症

血液の中を流れる脂質成分が異常な状態が継続する疾患

脂質異常症とは、血液の中を流れる脂質成分である総コレステロール、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)、中性脂肪(トリグリセライド)が高く、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が低い状態が継続する疾患。2007年以前は、高脂血症と呼ばれていました。

動脈硬化症などの危険因子の一つです。脂質異常症になると、血液の粘度が高まり、スムーズに流れにくくなります。

通常、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が140mg/dl以上、中性脂肪(トリグリセライド)が150mg/dl以上、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が40mg/dl以下を異常とします。

血液の中を流れる脂質成分であるコレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)が増加する状態を、高脂血症といいます。しかしながら、脂質の一つであるHDLコレステロール(善玉コレステロール)については高値であることが望ましく、逆に低値であると低HDLコレステロール血症と診断され、動脈硬化などの危険因子となります。

そのため、日本動脈硬化学会は2007年から、高脂血症から脂質異常症へ名称を変更しました。ただし、高脂血症という呼称を排除するものではありません。

血液の中には、コレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)のほか、リン脂質、遊離脂肪酸といった脂質成分が流れています。コレステロールは細胞膜やホルモンの材料となり、中性脂肪はエネルギーの貯蔵庫などとなり、体の機能を保持するために大切な働きを持っています。これらの脂質は肝臓で作られたり、食事から体に摂取され、血液中の脂質成分の量は保たれ調整されています。

脂質異常症では、このような調整機能が低下したり、食事からの摂取量が多量になっている状態、あるいは、HDLコレステロール(善玉コレステロール)については低い状態が継続します。

脂質異常症は放置しておくと、血管の動脈硬化が徐々に進行していくものの、初期の段階では体の自覚症状は全くありません。しかし、最終的には虚血性疾患である心筋梗塞(こうそく)、脳梗塞などの深刻な疾患を引き起こす要因となります。

脂質異常症の種類

脂質異常症は、根本要因によって家族性脂質異常症(原発性脂質異常症)、二次性脂質異常症(続発性脂質異常症)、生活習慣に起因する脂質異常症の3つに分類されます。

また、医師の診断により異常値を示す脂質の種類によって、高コレステロール血症、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症) にも分類されます。一人の発症者が複数のタイプを併せ持っていることもあります。

家族性脂質異常症(原発性脂質異常症)は、遺伝によって発症するもので、遺伝子が同定されているもの、されていないものがあります。

その一つである家族性高コレステロール血症は、遺伝が強く関係しており、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)を受容するLDL受容体が生まれ付き少ないために発症し、日本人の500人に1人程度がこのタイプであることがわかっています。生活習慣とは関係なく発症し、狭心症や心筋梗塞を起こす危険が非常に高く、治療は困難です。

そのほかにも、遺伝によってコレステロールと中性脂肪(トリグリセライド)が高くなる家族性III型脂質異常症、家族性複合型脂質異常症もあり、生活習慣とは関係なく発症しやすいと考えられています。遺伝性の低HDLコレステロール血症もありますが、極めてまれです。

二次性脂質異常症(続発性脂質異常症)は、ほかの疾患や薬が原因となって起こるタイプの脂質異常症。原因となっている疾患を治療したり、可能ならば薬を変えたりやめたりすることで、脂質異常症を改善することができます。

原因となる疾患には、甲状腺(せん)機能低下症や肝臓病、腎臓(じんぞう)病、糖尿病などがあり、原因となる薬には、ステロイドホルモン剤や利尿薬、避妊薬などがあります。

生活習慣に起因する脂質異常症は、食生活が主な原因となって起こるタイプの脂質異常症。脂っこいものや甘いものを多く取ると、血液の中のコレステロールや中性脂肪(トリグリセライド)が増加してしまいます。食生活のほかにも、運動不足、喫煙、飲酒、ストレスなどの要素があります。

高コレステロール血症は、血液中の総コレステロール値が220mg/dl以上と高いタイプの脂質異常症。食生活などが原因になって多くの人が発症していると見なされますが、最近ではLDLコレステロール(悪玉コレステロール)のほうが明らかに虚血性疾患リスクとの相関度が高いため、総コレステロール値の重要度は低くなっています。

高LDLコレステロール血症は、動脈硬化に関係が深いLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が高いタイプの脂質異常症。血液中に含まれる脂質成分であるLDL(低比重リポ蛋白〔たんぱく〕)が血液中に140mg/dl以上と多く存在する状態で、LDLは血管壁に取り込まれて蓄積し動脈硬化を起こすため、虚血性疾患のリスクを非常に高めるとされています。

低HDLコレステロール血症は、動脈硬化を防ぐ働きを持つHDLコレステロール(善玉コレステロール)が低いタイプの脂質異常症。血液中に含まれる脂質成分であるHDL(高比重リポ蛋白)が40mg/dl未満と少ない状態で、血管や組織に蓄積したコレステロールを引き抜いて運ぶHDLが少ないため、特に女性の虚血性疾患のリスクを高めるとされています。

高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症)は、動脈硬化と関係が深く、急性膵(すい)炎とも関係がある中性脂肪(トリグリセライド)が高いタイプの脂質異常症。血液中に含まれる脂質成分である中性脂肪(トリグリセライド)が150mg/dl以上と多く存在する状態で、内臓脂肪型肥満の人に多いのが特徴です。

脂質異常症は多くの場合、症状がないので、血液検査で初めてわかることがほとんどです。無症状であっても、動脈硬化を予防する正しい治療が必要なので、自己判断せずに医療機関に相談して下さい。内科、ないし内分泌・代謝科が、担当の診療科です。

脂質異常症の検査と診断と治療

内科、内分泌・代謝科の医師による診断では、血液検査で血中のコレステロール、中性脂肪(トリグリセライド)、HDLコレステロール(善玉コレステロール)の値を測定します。朝食前の空腹時に採血します。LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の値は、これらから計算することもできますが、直接、測定する方法もあります。

脂質異常症の診断基準では、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が140mg/dl以上を高LDLコレステロール血症、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が120〜139mg/dl以上を境界域高LDLコレステロール血症、中性脂肪(トリグリセライド)が150mg/dl以上を高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症)、HDLコレステロール(善玉コレステロール)が40mg/dl以下を低HDLコレステロール血症とします。

内科、内分泌・代謝科の医師による治療では、食餌(しょくじ)療法と薬物療法を行ないます。

食餌療法では、脂質異常症のタイプに従って、欧米風の高カロリー食品やコレステロール値の高い食品、脂分の多いファーストフードの過剰な摂取を制限します。そして、野菜や果物、魚といった低カロリー食や低脂肪食、低炭水化物食を中心とした食生活に切り替えます。

薬物療法では、高コレステロール血症には、一般にスタチンと呼ばれているHMG‐CoA還元酵素阻害薬を使います。この種類の薬は、コレステロールの合成を抑制するものです。そのほかにも、コレステロールの吸収阻害剤や、レジンと呼ばれる陰イオン交換樹脂やプロブコール、ニコチン酸誘導体を使います。

高トリグリセライド血症(高中性脂肪血症)には、フィブラート系薬物のベザフィブラートや、フェノフィブラートを使います。EPA(エイコサペント酸エチル)を使うと、血管に直接働いて抗動脈硬化作用を示すともいわれています。

また、過食や運動不足によって起こる肥満、ストレス、過労、喫煙、飲酒、睡眠不足など生活習慣全般の改善も、脂質異常症の予防法として効果的です。適切な体重の維持につながるばかりか、適度な運動を行なうことで基礎代謝の向上効果が期待できます。

🇱🇨失血性貧血

出血により血液が失われ、血色素や赤血球の産生が追い付かない場合に生じる貧血

失血性貧血とは、急性あるいは慢性の出血により血液が失われ、これに対して骨髄での血色素(ヘモグロビン)、あるいは赤血球(ヘマトクリット)の産生が追い付かない場合に生じる貧血のこと。出血性貧血とも呼ばれます。

貧血とは、血液の単位容積当たりの血色素量、あるいは赤血球数のいずれかが正常以下に低下した状態をいいます。貧血か否かの線をどのくらいの値で引くかは、医師によって意見が違いますが、血色素量なら血液100ミリリットル当たり12グラム以下、赤血球数なら1マイクロリットル当たり350以下の場合、貧血と呼んで間違いありません。

貧血に陥ると、血液の酸素を運搬する能力が低下するため、いろいろな臓器で酸素が足りず、心臓が余分に働かなければならないために心拍数が増加し、呼吸数も増加します。

原因によって貧血にはいくつかの種類がありますが、最も多いのが血色素の原料となる鉄が不足して起こる鉄欠乏性貧血で、それに次いで多いのが失血性貧血です。

急性の失血性貧血は、大けがや出産、手術などによって、あるいは疾患による消化器や呼吸器からの喀血(かっけつ)、吐血、下血によって、大量に出血した時に起こります。出血後しばらくの間は、血液の単位容積当たりの血色素量や赤血球数は減少しませんが、出血によって全身を駆け巡っている循環血液の総量が減少します。それが高度になると、血管内の血液が少ないために循環不全を生じ、体温の下降、急激な脈拍増加、不正な虚脱状態が起こります。そのうちに、単位容積当たりの血色素量や赤血球も減少します。

急速な出血の場合には、循環血液量の3分の1を失うと脳などの重要器官に酸素が供給されず、生命に危険があるとされています。例えば体重50キログラムの成人の場合、循環血液量は約4リットルであり、500ミリリットルから1リットルの出血でめまいや手足など末端部分が冷たくなります。さらに、1リットルから1・5リットルの出血で顔面が蒼白(そうはく)状態になって血圧が急激に低下し、1・5リットル以上の出血では意識がもうろうとします。

一方、慢性の失血性貧血は、出血が持続したり、繰り返し出血したりして起こります。例えば、胃潰瘍(かいよう)や十二指腸潰瘍、胃がん、大腸がん、潰瘍性大腸炎、痔(じ)などで、少量ながら継続的な出血があると起こります。女性では、子宮筋腫(きんしゅ)、子宮内膜症、月経多血症のほか、毎月の月経や出産時の出血でも起こります。

貧血が起こると、血液の酸素運搬能力の低下を代償するために、動悸(どうき)や息切れ、さらに全身倦怠(けんたい)感や食欲不振の症状が出ます。進行すると、爪(つめ)が反り返るスプーンネイルになったり、物を飲み込めなくなる嚥下(えんか)障害が出ることもあります。

急性失血性貧血の治療法としては、まず止血処置を行い、一方で輸血を行います。理想的なのは輸血ですが、すぐに輸血用の血液が間に合わない時には循環血液量の少ないのを補うために、血液製剤や血液代用剤が用いられます。

このような緊急処置で危機を脱した後に輸血を中止し、鉄剤を点滴したり服用すると貧血は回復しますが、回復後もなお当分は鉄剤を投与して貯蔵鉄の回復を図ります。貧血の症状に対する治療とともに、出血個所そのものに対する治療も行います。

慢性失血性貧血の場合は、胃潰瘍や月経多血症などの疾患部の治療を行いながら、同時に鉄剤を投与して治療してゆきます。

食事療法で貧血の改善を図るのも、有効な手段です。食事療法は基本的に鉄欠乏性貧血と同じく、肉や魚などの動物性食品に含まれているヘム鉄と、野菜や海藻などの植物性食品に含まれている非ヘム鉄をほかのビタミンやミネラル、蛋白(たんぱく)質とともに摂取して、よりよく鉄分を吸収するのがポイントです。しかし、胃潰瘍など消化器疾患による慢性失血性貧血の場合には、胃や腸に負担を掛けない食事にすることが大切です。

なお、血友病や白血病、血小板減少症などといった血が止まりにくい疾患を患っている人の場合、普通の人がかすり傷程度で終わってしまう外傷でも大出血を起こし、急性失血性貧血になる可能性もありますので、できるだけけがをしないように日ごろから気を付けることも大切です。

🇸🇷若年性高血圧

若い人にみられる高血圧の総称

若年性高血圧とは、若年者にみられる高血圧の総称。年齢は一般に45歳以下をいう場合が多いのですが、生活習慣病健診(法定健診)などでは場合により40歳未満、また35歳以下をとることもあり、まちまちです。

この若年性高血圧の4分の3は、原因となる疾患のない本態性高血圧で、近年、その数が増えています。この本態性高血圧の半数は、親から受け継いだ高血圧になりやすい遺伝的な体質で起こり、残りの半数は、ストレス、特に精神的なストレスが誘因となって起こるといわれています。

若年性高血圧の残りの4分の1は、何らかの特定される疾患があって、その症状の一つとして起こる続発性高血圧(二次性高血圧)で、腎臓(じんぞう)の疾患、ホルモンの分泌が異常になる疾患、脳・神経の疾患などが原因となっています。

中高年者の高血圧を含めた高血圧全体に占める続発性高血圧の頻度は10パーセント未満といわれていますから、若年性高血圧に占める続発性高血圧の頻度はかなり高くなっています。特に35歳以下では、腎臓の疾患が原因となっている腎性高血圧の頻度がはっきりと高くなっています。

この意味で、若年者の高血圧は原因となる疾患を見付けるために、必要な特殊検査を行わなければならないこともあります。

また、若年者の高血圧は比較的進行しやすく、悪性高血圧のような重症高血圧に進展し、高血圧合併症を起こす危険が高いという特徴があります。特に、両親、兄弟姉妹などに高血圧や脳卒中などの家族歴のある人は、高血圧の素因を遺伝的な体質として持っているので、若くして高血圧が起こる時は注意しなければなりません。

悪性高血圧の特徴は若年者に多い以外に、最低血圧が130以上になるほど血圧の上昇が大きく、尿に蛋白(たんぱく)や赤血球が含まれる、頭痛、眼底異常、腎臓障害、腎不全を起こすといったように非常に重症なものです。悪性高血圧による腎機能障害では、急激な血圧の上昇によって血管が傷付いて血栓ができることで、狭まった血管に血液の流れをよくしようと働き、さらに血圧を上昇させる悪循環が生じていくものです。

悪性高血圧が進まないうちに適切な降圧治療を行わないでいると、失明したり生命にかかわるほど悪化する場合があるので、早期発見、早期治療が必要となってきます。

若年者の軽症高血圧の中には、血圧値が変動しやすく、心拍出量が増している本態性高血圧の初期のものや、一過性の血圧上昇なども含まれるので、定期的に血圧を測定して、その経過を観察する必要があります。

一過性の血圧上昇は、10歳から20歳代半ばにかけて、性腺(せいせん)ホルモンの分泌が盛んになって、体内のホルモン系統のバランスが乱れるのが原因で血圧が高くなる症状です。20歳代後半からは、ホルモンバランスが安定してくるので、血圧が正常値に戻ることが多いといわれています。

成長に伴って血圧が正常な数値へ戻るので、あまり心配しなくてもいいといわれる一過性の血圧上昇ですが、血圧が高い状態が長く続くということは動脈硬化が進行しているわけで、普通より早く血管の老化が始まっているのを意識しておくほうが賢明です。

また、ホルモンバランスの乱れだけではなく、近年、若年性高血圧にかかる人が増えているのは、食生活や運動不足、過度のストレスなども誘因と考えられています。

ともかく、自覚症状のない若年性高血圧を早期に見付けるためには、血圧を測定するのが一番です。少なくとも20歳代なら年に1回、30歳代は年に2〜3回は血圧を測って、血圧が正常値の範囲内か確認することが大切です。特に、肥満している人や運動不足の人、アルコールを多く取る人、強いストレスを受けている人は、定期的に血圧をチェックするようにしたいものです。

若年性高血圧の検査と診断と治療

若年性高血圧を予防するためには、症状がないからといってそのままにしておかず、血圧を時々でもよいので測るということが大切です。最近は、簡便な自動血圧測定器が市販されていますから、家庭でも血圧測定が可能になっています。健康診断などで高血圧の指摘を受けたり、自己測定した血圧値がガイドラインの高血圧の範囲に入るなら、循環器専門医の診察を受け、高血圧の重症度判定、鑑別診断、治療方針決定などについて相談することです。

なお、自己測定する場合は、測定精度の面から上腕にカフを巻いて測定できる血圧計が勧められます。自己の測定値は、診察室での測定より低めになる傾向があります。広く合意された家庭血圧の基準はありませんが、135/85mmHg以上は高いと考えるべきです。

医師による若年性高血圧症の検査と診断では、正確な血圧測定のために、水銀血圧計を用いて聴診法で測定します。最低5分間、座位安静にして足を床に置き、腕を心臓の高さに保って測定します。高血圧と診断されれば、生活習慣のチェック、高脂血症や糖尿病などの他の心血管危険因子の合併確認、続発性高血圧(二次性高血圧)の精密検査、高血圧の影響を強く受ける心臓、脳、腎臓、目などの臓器の障害の程度を評価するための検査が行われます。これらの評価は、治療方針を決める上で非常に重要です。

続発性高血圧に関しては、既往歴、家族歴、現在の検査データや経過などから、これをどの程度疑わなければならないかがかなり判明します。しかも、続発性高血圧は手術などで高血圧も根治できることがある点からも、その診断は重要で、入院しての精密検査を含めて、いろいろな検査が必要なことがあります。特に腎性高血圧が疑われる時は、静脈性腎盂(じんう)撮影やCT検査が行われます。

医師による本態性高血圧の治療では、生活習慣改善と薬物療法の2本立てとなります。まず薬に頼らない生活習慣の改善が重要で、これだけで治療効果の上がらない場合に初めて降圧薬を使います。続発性高血圧の場合は、高血圧の原因となる疾患を治すことが主体になります。

生活習慣改善では、食塩摂取の制限や肥満の解消など食事療法、ストレスの軽減や適度の運動など日常生活の改善、禁煙や深酒の禁止など嗜好(しこう)品の摂取の改善などを行います。

以上の療法を1カ月以上行ってもなお血圧値が高い場合に、降圧剤が処方されます。高い血圧を下げるための降圧剤の進歩は目覚ましく、今日ではいろいろの種類のものが用いられ、血圧のコントロールは多くの場合、可能となっています。

しかし、降圧薬を内服しているからといって、生活習慣改善を軽んじることはできません。高血圧症治療はあくまでも食事療法と日常生活の改善などが中心であり、その効果を高めるために行われるのが薬物療法です。一般に降圧剤は長期に服用し続ける必要があり、発症者と高血圧症との戦いは短期決戦ではなく、長い長い戦いです。その戦いに勝つか負けるかは、発症者自身の生活態度にかかっているといっても過言ではありません。

医師による続発性高血圧の治療では、原因となる疾患の治療を進めながら、必要に応じて降圧剤の投与や高血圧の食事療法と運動療法を同時に進めていきます。そして、原因となる疾患が治療されれば、自然と続発性高血圧も改善されていきます。

ただし、高血圧が長く続くと腎臓を痛めてしまうので、原因となる疾患を治しても高血圧の状態が続いてしまう慢性高血圧になってしまうこともあります。

🇪🇨収縮期高血圧

60歳以上の高齢者に多くみられ、上の収縮期血圧が140mmHg以上と高い状態

収縮期高血圧とは、上と下に分かれている血圧のうち、上の収縮期血圧が140mmHg(ミリエイチジー、ミリ水銀柱)以上と高い状態。 孤立性収縮期高血圧とも呼ばれます。

血管壁に及ぼす血液の圧力であるところの血圧は上と下に分かれており、上は収縮期血圧(最大血圧、最高血圧)といい、下は拡張期血圧(最小血圧、最低血圧)といいます。正常血圧は、収縮期血圧が130mmHg未満、かつ拡張期血圧が85mmHg未満とされています。収縮期血圧が130〜139mmHg、かつ拡張期血圧が85〜89mmHgは、正常高値血圧とされています。

高血圧は、収縮期血圧が140mmHg以上、拡張期血圧が90mmHg以上とされており、収縮期血圧と拡張期血圧の両方、あるいはどちらかの血圧が一定以上高い状態を指します。

両方の血圧が基準値以上に高い状態は、収縮期拡張期高血圧といいます。下の拡張期血圧は90mmHg未満と正常なのに、上の収縮期血圧が140mmHg以上と高い状態が、収縮期高血圧に相当し、60歳以上の高齢者に多くみられます。一方、上の収縮期血圧は140mmHg未満と正常なのに、下の拡張期血圧が90mmHg以上と高い状態は、拡張期高血圧といい、60歳以下の若年層にみられます。

血圧は寒暖、季節、精神活動、肉体活動などの変化によって容易に揺れ動きますが、全般的には年齢とともに上昇し、高齢者においては約3分の2の人が高血圧だといわれています。

そもそも収縮期血圧は、心臓から血液を体全体に送り出す状態を現し、収縮した心臓から血液が絞り出されることになりますから、大動脈が弾力を持って広がり、血液が勢いよく流れますので、血管壁に最も血液の圧力が加わっている時です。

逆に、拡張期血圧は、心臓が体全体に血液を送り出していない状態、つまり心臓に負荷がかからずに膨らんで、拡張している状態で、血液を動脈に送る準備をしている段階です。血液は心臓に集まっていることから、血管壁に最も血液の圧力が加わっていない時です。

年齢による血圧の変化は収縮期血圧と拡張期血圧で異なり、収縮期血圧は加齢とともに上昇を続けます。拡張期血圧のほうは50〜60歳くらいで最高となり、それ以降は低下し、高かった血圧が正常値になることもあります。

そのため、高齢者においては、収縮期血圧と拡張期血圧の差が大きくなり、収縮期高血圧の人が増加傾向にあるのです。この収縮期高血圧は、大きな血管の動脈硬化が進んだことを現しています。

収縮期高血圧では一般に自覚症状はない場合が多く、健康診断や病気で病院にいった時、たまたま血圧を測って発見されるというのが普通です。症状が現れやすいのは、血圧が高くなり始めた初期です。主な症状は、脳神経症状である頭痛、頭重(ずじゅう)感、めまい、耳鳴り、肩凝り、手足のしびれと、循環器症状である動悸(どうき)、脈の乱れ、心臓部の圧迫感などです。

これらの症状は、ある程度の期間、高血圧が持続すると、むしろ軽減するか、消失することが多いといえます。ところが、血圧の治療を受けずに放っておくと、高血圧が引き金となっていろいろな重大な疾患が起こってきます。例えば、いつもの血圧値より大幅に、しかも急激に血圧が上昇し、激しい頭痛、めまい、耳鳴り、吐き気、嘔吐(おうと)などに見舞われることがあります。高血圧性脳症といわれるもので、最高血圧は200mmHgを超えていることも少なくありません。

血圧の高い状態をそのまま放置すると、脳や心臓の合併症を起こし、この合併症によって死亡する頻度も高くなります。日本人の死亡原因の第1位はがんですが、第2位は心筋梗塞(こうそく)や狭心症などの心臓病、第3位は脳出血や脳梗塞などの脳血管障害です。この第2位と第3位の疾患はいずれも、その原因に高血圧が大きく関与しているのです。

また、高血圧が長く続くと、腎(じん)臓の細い動脈に動脈硬化が起こって腎臓の機能が失われ、人工腎臓や腎臓移植を必要とすることもあります。動脈硬化は眼底の細動脈にも出現し、眼底出血を起こして突然目が見えなくなることも少なくありません。

そのため、収縮期高血圧を放置することは大変危険です。自覚症状はなくても、心臓や血管への悪影響を及ぼすことには変わりなく、血圧の上昇に気が付いた場合は、血圧測定を毎日の習慣にして、速やかに内科か循環器科を受診し、降圧治療を受けることが大切です。

収縮期高血圧の検査と診断と治療

内科、循環器科の医師による診断では、収縮期高血圧は主に動脈硬化が原因で起こるため、動脈硬化の進み具合を調べる血圧脈波検査を行います。

検査では、ベッドに横になった状態で、両手と両足首の4カ所にベルトを装着して、左右の上腕部と左右の足首の血圧を同時に測定します。所要時間は5分程度で、脈波伝播(でんぱ)速度、上腕と足首の血圧比の2つがすぐにわかります。

脈波伝播速度は、心臓から送り出された血液により生じた拍動が、血管を通じて手や足に届くまでの速度のことで、血管が硬いほど速くなります。上腕と足首の血圧比は、血管の詰まり具合を示す数値で、通常は足首の血圧は上腕よりもやや高いものですが、その数値が逆になっている場合は動脈が脂質などで詰まって、血流が悪くなっていることが疑われます。

拡張期高血圧と診断されれば、生活習慣のチェック、高脂血症や糖尿病などのほかの心血管危険因子の合併確認、二次性高血圧の精密検査、高血圧の影響を強く受ける心臓、脳、腎臓、目などの臓器の障害の程度を評価するための検査を行います。

内科や循環器科の医師による治療では、生活習慣改善と薬物療法の2本立てとなります。まず薬に頼らない生活習慣の改善が重要で、これだけで治療効果の上がらない場合に初めて、血圧を下げる降圧薬を使います。

生活習慣改善では、(1)食塩摂取の制限や適性体重の維持など食事療法、(2)ストレスの軽減や適度の運動など日常生活の改善、(3)禁煙や深酒の禁止など、嗜好(しこう)品の摂取の改善などを行います。

以上の療法を1カ月以上行ってもなお血圧値が高い場合に、降圧薬を処方します。高い血圧を下げるための降圧薬の進歩は目覚ましく、今日ではいろいろの種類のものが用いられ、血圧のコントロールは多くの場合、可能となっています。

しかし、降圧薬を内服しているからといって、生活習慣改善を軽んじることはできません。高血圧症治療はあくまでも食事療法と日常生活の改善などが中心であり、その効果を高めるために行われるのが薬物療法です。

🇵🇪重症虚血肢

足や手の動脈に慢性的に動脈硬化が起こっている虚血肢が重症化した状態

重症虚血肢とは、足や手への血流障害によって、安静時にも足に痛みがあり、足先に潰瘍(かいよう)や壊死(えし)が生じた状態。

足や手の動脈が動脈硬化になって細くなったり、詰まったりして、慢性的に血の巡りが悪くなっている虚血肢の症状が進行すると、重症虚血肢の症状が現れます。虚血肢は、閉塞(へいそく)性動脈硬化症、もしくは慢性動脈閉塞症と呼ばれている疾患が、末梢(まっしょう)動脈、すなわち足や手の動脈に起きている状態で、症状は主に足に現れます。

動脈に脂肪分が沈着して粥状(じゅくじょう)硬化(アテローム硬化)が起こると、血管の内膜が肥厚して内腔(ないくう)が狭くなったり、潰瘍ができたりします。結果として、血流に障害が起き、血液が固まって血栓を生じ、詰まりやすい状態になります。

虚血肢を起こした場合、足や手の動脈だけでなく、全身の血管にも動脈硬化を来している場合が少なくありません。3割の人で冠動脈疾患の合併、2割の人で脳血管障害の合併が認められます。

発症しやすいのは、糖尿病、高血圧、高脂血症、喫煙などの動脈硬化の危険因子を持っている人。食生活やライフスタイルの欧米化により、動脈硬化を基盤とする虚血肢が急速に増えています。

初期の症状は、足の冷感やしびれです。進行すると、短い距離を歩いただけで、ふくらはぎや太ももの裏側が重くなってきたり、痛みを感じるようになります。2〜3分休むとよくなり、再び歩くことができます。この間欠性跛行(はこう)や足のしびれなどの症状が神経痛の症状と似ているために、勘違いされて見逃されることも多く見受けられます。

さらに進行して重症虚血肢になると、じっとしている安静時にも足に痛みが現れるようになったり、靴擦れや深爪(ふかづめ)といったちょっとしたけがが治らず、足先に潰瘍ができてただれ、傷口が治りにくくなったりします。病変がある動脈で、急に血液が固まって急性閉塞が起きた場合には、24時間を経過した後で、筋肉に壊死が起こることもあります。

重症虚血肢は自然によくなることはなく、個人差はありますが次第に進行してゆきます。重症虚血肢をほうっておくと、最終的には末期重症虚血肢となって全く血が通わない虚血のために足が腐敗し、切断しなければならない可能性が高くなります。

重症虚血肢の検査と診断と治療

循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科などの医師による診断では、血管が閉塞した部位より先の動脈は、拍動が触れなくなります。四肢の血圧から足関節/上腕血圧比を測ることにより、さらに詳しく下肢の虚血を診断できます。血管の閉塞した部位を確認するために、CT(コンピュータ断層撮影)検査 、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査を行うこともあります。確定診断には、血管造影検査が必要になります。

循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓血管内科などの医師による治療では、初期の足の冷感やしびれに対しては、血管を広げる血管拡張薬や、血液を固まりにくくする抗血小板薬を中心に治療を行います。手足の痛みが強く、肘(ひじ)や膝(ひざ)から上の比較的狭い範囲で慢性の動脈閉塞が起きている場合には、カテーテル治療、レーザー血管形成術、バイパス手術、血管新生療法などを行います。

カテーテル治療は、狭心症や心筋梗塞(こうそく)の治療で行われるバルーン療法と同じ血管内治療。閉塞した部位にカテーテルを通し、そこで風船を膨らませて閉塞を治した後、再閉塞を防ぐためにコイルを留置します。レーザー血管形成術は、閉塞部近くまでカテーテルを挿入し、レーザー光を発して血栓や肥厚した内膜を霧状に散らす療法。

バイパス手術は、閉塞した動脈の代わりに人工血管や自家静脈、自家動脈を使ってバイパス(側副血行路)を作り、動脈の血行を再建する治療。腹部から太ももにある太い動脈の再建には、ダクロンやゴアテックスなどの素材でできた人工血管が用いられることが多く、膝下から足先にある細い動脈の再建には、自家静脈が適しています。自家静脈としては、足の表面近くにある大伏在静脈や小伏在静脈が用いられます。

血管新生療法は、肝細胞を増殖させる物質の遺伝子が血管を新しく作ることがわかったため、それを使って行う新しい治療。血管を新生する因子(HGF)を産生する遺伝子を含む医薬を筋肉に注射し、新しい血管を誕生させて血流をよみがえらせます。

治療方法は数多くあるものの、虚血肢が進行して重症虚血肢、末期重症虚血肢になり、壊死が進行した場合は、足の切断が必要になることがあります。日本では毎年、1万人程度が足の切断を余儀なくされていると推定されます。しかし、血液の流れを改善して壊死に陥った足指を切断すれば、脛(すね)や太ももで切断する大切断を避けられる可能性があります。

この虚血肢は、糖尿病や高血圧、高脂血症がある人に起こりやすいので、このような既往症のある人は、食生活を正して食べすぎを避け、減塩を守ること、ストレスを解消すること、禁煙をすることが必要です。

また、足の症状が出るまでは、休みながらも繰り返し歩くように心掛けます。歩くことにより、バイパス(側副血行路)が発達し血行が改善します。靴下、毛布などを使って、足の保温にも努めます。寒冷刺激は足の血管をさらに収縮させ、血液の循環を悪くさせるからで、入浴も血行の改善に役立ちます。

足はいつも清潔にしておき、爪を切る時は深爪をしないようにし、靴も足先のきつくないものを選ぶようにします。

🟧RSウイルス感染症が「流行入り」 静岡県が注意呼び掛け

 静岡県は26日、直近1週間(15~21日)のデータから「RSウイルス感染症が流行入りしている」と発表しました。定点医療機関となっている小児科1カ所当たりの患者数は1・64人で、県が流行入りの目安としている「1人」を大きく上回りました。前週の0・9人よりも8割増加し、急拡大が懸...