2022/08/26

🇱🇾自己免疫性溶血性貧血

赤血球に結合する自己抗体ができて、赤血球の寿命が著しく短縮し、貧血を来す疾患

自己免疫性溶血性貧血とは、自身の赤血球膜上の抗原に結合する自己抗体ができて、赤血球が異常に早く破壊されて起こる貧血。

自己抗体は自分の体の成分に対する抗体で、本来は細菌などから体を守るために抗体は作られ、自分の体に対しては作られませんが、自己免疫疾患と呼ばれる一連の疾患では、自己抗体が出現し赤血球をまるで異物であるかのように攻撃します。

赤血球に自己抗体が結合し、補体と共同して血管内で赤血球を破壊するものと、自己抗体や補体を介して主に脾臓(ひぞう)で破壊されるものがあります。

この自己抗体による赤血球の破壊は、突然起こることもあれば、ゆっくりと進行することもあります。人によっては、このような破壊がしばらくすると止まることがあります。また、赤血球の破壊が止まらず、慢性化する人もいます。

自己免疫性溶血性貧血には、いろいろな病型があり、原因もさまざまです。主な病型は2種類あり、37度の正常体温付近で抗体の結合が強いものを温式自己免疫性溶血性貧血、正常体温以下の特に4度で抗体の結合が強いものを冷式自己免疫性溶血性貧血と呼びます。

自己免疫性溶血性貧血の発症者は全国で1300~1700人を数え、1年間に数百人程度の新たな発症者が発生していると推定されています。このうち、温式自己免疫性溶血性貧血の発症者が9割を占め、冷式自己免疫性溶血性貧血の発症者は1割です。

子供から高齢者までの幅広い年齢で、発症します。温式自己免疫性溶血性貧血は、小児期に1つの小さなピークがあるほか、10~30歳の若年層、50歳以後に増加し70歳代がピークの老年層に多くみられます。若年層では女性が優位で、老年層では男女差は認められません。

原因は自分の赤血球膜上の抗原と反応する自己抗体ができることによるのですが、なぜ抗原抗体反応が起こるのかはまだ明らかではありません。膠原(こうげん)病などの自己免疫疾患の患者や、リンパ腫(しゅ)などの悪性腫瘍(しゅよう)の患者で、この自己免疫性溶血性貧血がみられることがあります。また、マイコプラズマ肺炎の患者にも、冷式自己免疫性溶血性貧血がみられることがあります。

疾患の発症に、遺伝性はありません。

特に赤血球の破壊が軽度で緩やかに進む場合は、症状がみられないことがあります。それ以外では、主な症状は貧血によるもので、だるさ、動悸(どうき)、息切れ、めまい、頭痛、顔面蒼白などが現れます。

赤血球の破壊が重度な場合や急速な場合は、血液の中にヘモグロビン(血色素)の分解産物であるビリルビンがたまるため、白目の部分や肌が黄色く見える軽い黄疸(おうだん)がみられることもあり、腹部に不快感や膨満感を覚えたりします。脾臓がはれたり、濃い色を示すヘモグロビン尿がみられることもあります。慢性に経過すると胆石症を合併することも知られています。

冷式自己免疫性溶血性貧血では、手や足が冷たくなったり、青みがかったりすることがあります。冷式自己免疫性溶血性貧血のうちのまれなタイプである発作性寒冷血色素尿症では、気温の低下、冷水の飲用や洗顔・手洗いなど、寒気にさらされる部分が小さくても赤血球が破壊されることがあり、背中や脚に激しい痛みが生じたり、頭痛、嘔吐(おうと)、下痢がみられることもあります。暗褐色を示すヘモグロビン尿がみられることもあります。

原因が別の疾患によるものであれば、リンパ節のはれや圧痛、発熱など、原因になっている基礎疾患の症状が主に現れることがあります。

自己免疫性溶血性貧血の検査と診断と治療

小児科、内科、血液内科などの医師による診断では、 血液検査を行って、貧血であることを確認し、自己免疫反応の原因を特定します。

血液検査で未熟な赤血球(網状赤血球)の数が増加していれば、赤血球の破壊が進んでいることが疑われます。あるいは、血液検査から、ビリルビンが増加し、ハプトグロビンという蛋白(たんぱく)質が減少していることがわかる場合もあります。

原因として自己免疫性溶血性貧血の診断が確定するのは、血液検査で特定の抗体の量が多いことが確認された場合で、このような抗体は、赤血球に付着している抗体、または血液の液体成分に含まれる抗体のいずれかです。赤血球を破壊する自己免疫反応の原因を突き止めるため、そのほかの検査を行うこともあります。

小児科、内科、血液内科などの医師による治療では、副腎(ふくじん)皮質ステロイドホルモン薬の服用が有効です。最初に高用量の服用から始め、数週間ないし数カ月かけて徐々に減量していきます。

赤血球を破壊している臓器である脾臓の手術による摘出や、免疫抑制薬の服用も補助的な手段として行われます。赤血球の破壊が激しく貧血が強い場合は、輸血が必要になる時もありますが、輸血は貧血の原因を治療するものではなく、一時的な対症療法にすぎません。

冷式自己免疫性溶血性貧血では、寒さを避け保温に努めることが重要な治療法となります。保温に配慮した服装や寝具を利用するように気を付け、室温に注意し、手足や顔の露出部分が寒気にさらされないように注意を払います。時に免疫抑制薬が有用なこともあります。

また、別の疾患に合併して起きている時は、原因になっている基礎疾患の治療によりよくなることがあります。

症状が軽い場合や赤血球の破壊速度が遅くなっている場合は、自然経過で治癒することがあります。多くの症例は、中~長期間の薬物治療が必要となります。治療によって疾患の活動性が抑えられれば、正常な日常生活が送れます。

なお、ほかの自己免疫疾患やリンパ腫などの疾患を合併していない温式自己免疫性溶血性貧血の場合は、診断から5年後の生存率は約80%、10年後は約70%です。しかし、高齢者では予後不良です。

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