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2022/08/29

🇫🇮委縮性膣炎

閉経後に自浄作用が低下して細菌が繁殖するため、膣壁が委縮して起こる膣炎

委縮性膣炎(ちつえん)とは、卵巣から分泌される女性ホルモンのエストロゲンが閉経後に低下し、それとともに自浄作用も低下して細菌が繁殖するために、膣壁が委縮して起こる膣炎。老人性膣炎とも呼ばれます。

通常は加齢に伴って発症するもので、生理が止まった閉経後の女性の多くが委縮性膣炎を生じている状態にあります。また、出産から最初の月経までの期間の産婦や、悪性腫瘍(しゅよう)で卵巣を摘出する手術をした女性にも発症することがあります。

女性生殖器系の器官である腟は、骨盤内にあって子宮と体外とをつなぐ管状の器官で、伸び縮みできる構造をしています。腟の前方には膀胱(ぼうこう)や尿道があり、後方には直腸があります。腟壁は粘膜に覆われ、その粘膜面には横に走るひだがあります。このひだは正中部で集合し、前壁と後壁で中央に縦に走るひだになっています。このひだは出産の経験のない人に、多く認められます。

この腟の中は、温かく湿っていて有機物が豊富にある状態で、細菌の繁殖に適しています。しかし、腟には自浄作用という働きがあります。腟壁上皮は卵巣から分泌されるエストロゲンの作用により、表皮細胞への分化が促され、細胞質の内にグリコーゲンが蓄積されます。剥離(はくり)した細胞内のグリコーゲンは、ブドウ糖に分解されて、腟内の乳酸桿菌(かんきん)によって乳酸菌に換えられます。これにより腟内は酸性となり、酸性環境に弱い細菌の増殖が抑制されます。

閉経後の女性の場合は、卵巣から分泌されるエストロゲンや卵胞ホルモンが低下するため、ブドウ糖が不足し腟内の乳酸菌が著しく減少する結果、細菌が繁殖します。

また、閉経後の女性の場合は、腟壁は女性ホルモンや少量の男性ホルモンの働きにより、閉経後十数年たっても若い時代の3分の2の厚さが保たれていますが、一部の女性ホルモンが不足してくると腟のひだが少なくなるとともに、腟壁のコラーゲンが少なくなり、壁そのものも委縮して薄くなり、乾燥も起こります。この薄くなった腟の壁は、腟内に細菌が繁殖すると、充血して炎症を生じます。

そのために、委縮性膣炎を発症すると、下り物が黄色っぽくなる、下り物に血が混じる、下り物に悪臭を伴うなどの症状が、現れることがあります。腟壁の痛みや灼熱(しゃくねつ)感などの不快感、腟入口の乾燥感、掻痒(そうよう)感、違和感などの症状が、現れることもあります。性行為に際して、痛みを伴ったり、出血、掻痒感などの症状が、現れることもあります。

エストロゲンの分泌が低下したり、膣壁が委縮して薄くなること自体は、閉経後の女性であれば当たり前のことですので、無症状であったり、症状が軽いこともあります。

必ずしも治療が必要なわけではありませんが、黄色い下り物は子宮体がんなどに伴う症状の可能性もありますので、注意が必要となります。

委縮性膣炎の検査と診断と治療

婦人科、産婦人科の医師による診断では、膣や外陰部の肉眼的な観察を主に行います。細菌性膣炎を合併していることが多く、腟内の細菌検査を必要とする場合もあります。同時に、がん細胞の有無も確認します。

明らかにエストロゲンが低下している年齢でなければ、ホルモン検査を行うこともあります。

近年は、診断と治療的効果判定の数値化を目的に腟健康指数を用いて診断する方法も行われるようになりました。

婦人科、産婦人科の医師による治療では、がん細胞がない場合は、女性ホルモンの膣錠、エストロゲンの経口剤や貼付剤、女性ホルモンの補充療法などで、症状の改善を図ります。

軽度の炎症であれば、膣洗浄によって細菌を流し、症状を改善させることもあります。細菌感染がひどい場合は、抗生物質が入った腟錠を併用することもあります。性交痛などに対して、潤滑ゼリーを勧めることもあります。

多くは1~2週間の治療で治りますが、1カ月程度にわたって薬剤を使用しないと治らない人もいます。

子宮体がんや乳がんなどの病歴がある人に対しては、別の治療法が選択されることもあります。

2022/08/24

🇪🇸食道がん

高齢の男性に多くみられるがん

食道がんとは、のどと胃をつなぐ細長い管である食道に発生するがんです。消化管のがんでは胃がん、大腸がんほどではありませんが、比較的多くみられ、近年のがんの臓器別死亡率をみると、徐々に増加する傾向にあります。特に、50~70歳代の男性に多くみられます。

食道がんの中で最も一般的なのは、扁平(へんぺい)上皮細胞がんと、腺(せん)がんの2種類です。

直径およそ1・5センチ、長さ25センチの食道の内面は、粘膜の扁平上皮で覆われています。この薄くて平たい粘膜の細胞から発生するのが、扁平上皮細胞がん。食道の上部、および中央部に最も頻繁に発生しますが、食道に沿ってあらゆる場所に発生する可能性があります。日本では、食道がん全体の90パーセント以上を占めます。

一方、食道の内側の食道腺は、粘液などの体液を産生し、放出しています。この食道腺の細胞から発生するのが、腺がん。通常、胃に近い食道下部に発生します。日本では、食道がん全体のおよそ5パーセントを占めます。

食道がんの発生原因は、ほかのがんと同様、はっきりしたことはまだ解明されていません。しかし、女性の約7倍と圧倒的に男性に多く、喫煙者とアルコールの常用者、腺がんでは慢性の逆流性食道炎(バレット食道)のある人などに多いと見なされています。そのほか、香辛料などの刺激物、熱い食事や熱いお茶などを好む人にも、食道がんが多いといわれています。

早期がんでは症状のないことも

早期の食道がんと、進行した食道がんでは、その症状がかなり異なります。

早期では、症状のないことがしばしばあります。食べ物のつかえを感じる人は少なく、熱い飲み物、アルコール類、あるいは酢の物、ミカン類などの刺激物が食道を通過する際に、しみるのを感じることが多いようです。

進行したがんでは、食べ物を飲み込む際に途中でつかえる感じ、胸の辺りの異物感などがあり、固形物が飲み込みにくくなる嚥下(えんか)困難を生じ、飲み込む際に痛みが生じることもあります。

さらに進行してくると、腫瘍(しゅよう)によって食道が狭くなり、水分を取ることもできなくなります。食道に隣接する臓器に、がんが浸潤してくると、食道の症状以外の、いろいろな症状も出てきます。体重減少、吐血、嘔吐(おうと)、せき、声がれ、胸部痛、背部痛などです。

手術を主に放射線治療、化学治療も

進行した食道がんは隣接する他の臓器やリンパ節を侵し、末期には肝転移もみられるため、早期発見、早期治療が何より大切となります。比較的周囲に浸潤しやすい理由としては、食道が他の消化器臓器と異なり、外膜である漿(しょう)膜を有していないことが挙げられます。

医師が早期治療するには、粘膜がんの状態で発見することが必要ですが、この段階では、ほとんどの人に症状の自覚はみられません。粘膜がんの状態で治療されるような人は、上部消化管内視鏡検査を含めたスクリーニング検査で発見されています。人間ドックや検診で、胃の異常を指摘され、内視鏡検査を受けた際に、食道に発赤粘膜やわずかな凹凸病変などを指摘された人です。

ほかの消化管がんでも同じですが、今日では粘膜がんであれば内視鏡で治療できるようになっています。

進行がんになれば、外科的な手術療法が最も一般的な治療法となります。食道周囲のリンパ節を取り除き、顕微鏡検査でがんがあるかどうかを調べます。一部の食道が腫瘍により閉塞(へいそく)されている場合、食道を拡張させておくために金属チューブ(ステント)を留置することもあります。

食道切除術と呼ばれる手術で、食道の一部を摘出することもあります。飲食物を飲み込むことができるように、残っている食道の健常な部分を胃につなぎます。プラスチックチューブや腸の一部を利用して、食道をつなぐこともあります。

放射線療法では、高エネルギーX線やその他の種類の放射線を用いて、がん細胞を殺します。この放射線療法には、体外照射と体内照射という2つのタイプがあります。体外照射では、体外の機械を用いてがんに放射線を照射します。体内照射では、放射性物質を密封した針、シーズ、ワイヤ、カテーテルをがんの内部またはその近くに直接留置して、がんに放射線を照射します。放射線療法の方法は、がんの種類や病期によって異なります。

化学療法では、抗がん薬を用いてがん細胞を殺すか、細胞分裂を停止させることで、がん細胞の増殖を停止させます。口から服用したり、筋肉や静脈内に薬剤を注入する全身化学療法では、血流を通って全身のがん細胞に影響します。脊柱(せきちゅう)、臓器、腹部などの体腔(たいくう)に薬剤を直接注入する局所化学療法では、薬剤は主にこれらの領域中にあるがん細胞に影響します。化学療法の方法も、がんの種類や病期によって異なります。

レーザー療法では、強い光の細い光線であるレーザー光線を用いてがん細胞を殺します。 電気凝固療法では、電流を用いてがん細胞を殺します。

このほかに温熱療法、免疫療法も行われますが、これらの治療法は通常単独で行われることはなく、いくつかの治療法を適切に組み合わせて行われます。

2022/08/23

🇫🇮心筋梗塞

■冠動脈の途絶で心筋が壊死■

心筋梗塞(こうそく)とは、心臓の表面を取り巻く血管である冠(状)動脈に動脈硬化が起こり、血が固まった血栓などで、冠動脈のある部分の血管が完全に閉塞、ないし著しく狭まり、心筋が壊死(えし)してしまう疾患です。

壊死とは、体の組織の一部が破壊されて生命力を失うことで、心臓の筋肉である心筋を養っている冠動脈の血流が途絶えて、栄養不足、酸素不足に陥るために起こります

60歳以上の男性に多くみられ、発病の前兆として狭心症発作が起こるケースもあれば、何の前触れもなく突然、起こるケースもあります。起きやすいのは、朝、活動して一息ついた際や、一日の活動を終えて、くつろいだ際など。朝方に、胸が苦しくて目が覚めた時も、要注意です。

心筋梗塞の症状としては、前胸部の中央に突然、激しい痛みが起こり、悪心、吐き気、冷汗が現れ、ショック状態に陥ることもあります。痛みを感じる場所は前胸部の中央がほとんどですが、左胸部や前胸部全体、あるいは、みぞおちなどが痛むことがあり、左肩や左腕、首や下あご、右肩などに痛みが放散する場合もあります。

この発作は数十分から数時間続いて、いったん治まっても断続的に繰り返すこともあり、数時間から数日間で死亡するケースが、しばしばみられます。激しい胸痛があったら、一刻も早く病院へ行き、CCU(心臓疾患集中治療室)ですぐ治療を受ければ、助かる可能性が高まります。

ただし、高齢者ではこのような痛みのほとんどない無痛性心筋梗塞が多くなり、呼吸困難、ショック状態、意識障害などで見付かるケースが増えますので、十分な注意が必要です。

■CCUのある病院での集中治療■

心筋梗塞が起こった時はもちろん、心筋梗塞の疑いがある時も、我慢したり、自宅で家庭療法をしたりしてはいけません。ためらうことなく直ちに、心臓病専門の集中監視と治療体制を備えたCCUのある病院に入院することが、大切です。

早ければ早いほど、集中治療を受けることによる急性心筋梗塞の救命率は、ずっと上がります。最初の1週間が非常に危険な時期で、特に数時間から3日以内に致命的な事態が起こって死亡することが多いため、専門施設での集中管理による適切な処置や看護が初期に必要なのです。

心筋梗塞急性期の治療として、入院後すぐに冠動脈造影が行われ、その状態によって、経皮的冠動脈形成術、経皮的冠動脈拡張術というカテーテル的治療か、血栓溶解療法が行われます。病院によっては、冠動脈バイパスグラフト術という外科的治療も行われます。

一般に、発症してから1週間以内の急性期は、心身ともに安静にすることが必要で、特に最初の数日間は絶対安静が必要です。痛みや苦痛に対しては、モルヒネなどの鎮痛剤や鎮静剤が用いられます。同時に、致命的となる危険な不整脈や心不全、心原性ショックなどの合併症の予防、治療も行われます。

急性期を乗り越えれば、回復期から慢性期のかなり安定した状態になります。病状にもよりますが、経過が順調ならば2~4週で退院できます。

🗼生活不活発病(廃用症候群)

体を動かさない状態が続くことが原因で、全身の機能が低下する障害

生活不活発病とは、日常生活が不活発になって体を動かさない状態が続くことが原因で、全身の機能が低下する障害。医学用語では廃用症候群と呼び、廃用は使わないことを意味します。

高齢者や、持病のために安静が必要な人に起こりやすく、入院などが切っ掛けとなることが多くみられますが、災害時の避難生活などでも多発することから、東日本大震災発生後、厚生労働省などは注意を呼び掛けています。

症状としては、歩行、食事、入浴、洗面、トイレなど身の回りの動作が不自由になり、家事や仕事、趣味やスポーツ、人との付き合い、電話やメールで連絡をとるなどの日常活動も低下します。

健常な人でも体を動かさないでいると、意外に早く筋力が落ちたり、関節が固まるなど運動器官の機能低下がみられます。安静による筋力低下は、1週目で20パーセント、2週目で40パーセント、3週目で60パーセントにも及び、1週間の安静により生じた筋力低下を回復するには1カ月かかるともいわれています。特に高齢者では、その範囲が大きく、進行が早くなります。

体を動かさなくなったために起こる機能の低下は、筋肉や関節だけではなく、全身のいろいろの臓器に生じてきます。抑うつ状態、仮性痴呆(ちほう)、偽痴呆などの精神や知能の障害、起立性低血圧、静脈血栓症、床擦れ、沈下性肺炎、尿路結石、尿閉、尿失禁、便秘などが、主な障害として挙げられます。

「年のせい」と思いがちな、いろいろな動作の不自由や体力の衰えが、実はこの生活不活発病によるということも多いのです。また、「病気のため」と思っていることに、実はこの生活不活発病が加わっていることも多いのです。

生活不活発病はいったん起こると悪循環に陥りやすく、回復には相当の時間を要するため、治療よりも予防のほうが大切です。すなわち、動かして起こるリスクより安静にして起こるリスクのほうが高いことを認識し、心身の機能低下を予防しなければなりません。家族や周囲が早期に気付けば、積極的に体を動かさせることで機能の改善、回復も見込めます。

体を動かす用事や機会を増やしながら、自然に脳や体を活性化させたり、腰や脚など下半身の筋肉を保ったりすることが大切。外出する意欲を持てるよう仲間を作るのもよいでしょう。

より進行した高齢者に対しては、トイレまで歩きやすいよう手すりを設置したり、シルバーカーを利用したり、介助者が手を引くなどの方法もあります。ひざの痛みがあるとかがみにくいので、トイレを和式でなく洋式にすると使いやすくなります。それぞれの症状や環境に応じて、安全に配慮しながら工夫を心掛けることです。

2022/08/22

🇰🇾生理的老人性難聴

加齢に伴って進行する難聴で、両耳で大きな違いなく進行

生理的老人性難聴とは、加齢に伴って進行する難聴。生理的現象の一つとして起こってくる聴力の低下であり、老人性難聴とも呼ばれます。

人間の聴力は20歳くらいが最も鋭敏であり、その後は次第に低下し、20歳代から30歳代で聴力の老化が始まるといわれています。耳の聞こえが悪くなってきたと自覚するのは50歳くらいで、それまでは聴力の低下を気付くことなく過ごしています。これを無自覚性の難聴といいます。

通常、50歳を超えると聴力が急激に低下し、60歳以上になると日常会話の面で不便になり始めます。しかし、生理的老人性難聴の進行状況は個人差が大きいので、40歳代で聞き取りを補助する補聴器が必要になる人もいれば、80歳代を超えてもほとんど聴力が低下しない人もいます。

若いころから日常的に大きな音で音楽を聞き続けていたり、大きな騒音を日常的に感じていると、早く生理的老人性難聴になってしまいがちといわれています。

生理的老人性難聴による聴力の低下は、4000ヘルツを中心とした高音域から発生し、徐々に500〜2000ヘルツの会話音域、100ヘルツ以下の低音域へと広がっていきます。従って、早期には難聴の自覚がなく、耳鳴りだけを感じる場合があります。高音域ほど聞き取りにくいため、電話のベルや、ドアのチャイムが聞こえにくくなります。

会話音域の聞こえが悪くなり、日常会話に支障が出るようになって、初めて難聴に気付きます。ただ単に日常会話が聞き取りにくくなるだけでなく、会話は聞こえても何をいっているかがわからず、聞き間違いや聞き返しが多いなどという状態が、しばしばみられます。これは言葉を聞き取る能力である語音弁別能の低下のために生じ、生理的老人性難聴の特徴です。

一方の耳だけではなく、両側の耳で大きな違いがなく進行していくのが、一般的です。男性は女性よりも、難聴の程度が高くなる傾向があります。

加齢に伴い、内耳の蝸牛(かぎゅう)にあって音を感じ取る有毛細胞という感覚細胞が委縮したり、数が減少したり、内耳から脳へと音を伝える神経経路や中枢神経系に障害が現れたり、内耳の蝸牛の血管の障害が起こったり、内耳内での音の伝達が悪くなったりします。これらの原因が一つまたは複数組み合わされて、音が聞こえにくくなり、言葉を聞き取る能力も悪くなる生理的老人性難聴が発生すると考えられています。

体質も関係し、内耳の血流が悪くなるような動脈硬化、腎臓(じんぞう)病、糖尿病といった慢性の疾患は、生理的老人性難聴を進行させる可能性があります。

加齢に伴って聴力が低下したと自覚したら、早い段階で耳鼻咽喉(いんこう)科を受診することが勧められます。難聴になると周囲の情報が耳から入ってくることが少なくなる結果として、脳まで老化させてしまう危険性もあります。あまりにも聞き取りづらいようなら、生活環境なども考えて自身に合った補聴器の装着を考えなくてはなりません。

なお、難聴の程度に応じて身体障害者福祉法による補償、例えば補聴器の購入費補助が行われています。申請書類の記入は、耳鼻咽喉科で行われています。

生理的老人性難聴の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、鼓膜の診察と純音聴力検査、語音明瞭度検査を行い、生活環境を考慮して補聴器を必要とするかどうかを判断します。聴力検査では、高音域が聞こえにくくなることから始まる感音難聴を示し、進行すると中低音域の聴力も低下します。

難聴の度合は一般的に、500〜2000ヘルツの会話音域の聴力低下に応じて、平均聴力レベルが20デシベルまでを、ささやき声もよく聞こえる正常聴力として、40デシベルまでを、小声が聞きにくい軽度難聴、70デシベルまでを、普通の声が聞きにくい中度難聴、70デシベル以上を、大きな声でも聞きにくい高度難聴、90デシベル以上を、耳元での大きな声でも聞こえない重度難聴、100デシベル以上を、通常の音は聞こえない聾(ろう)に分けます。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、聴力をよくする決め手となる治療法はありません。コミュニケーション障害への対策として、補聴器の装用が勧められますが、本人に難聴の自覚があまりなく、使用されないことも多いようです。

補聴器は、ポケットに本体を入れる箱形、耳たぶにかける耳掛け型、耳の穴に入れてほとんど外からはわからない耳穴型などがあります。使用時にピーピーという音が発生するハウリングが起こることがなく、自分で簡単に操作できるものが勧められます。ハウリング予防のためには、個人の耳の形に合わせたイヤーモールドと呼ばれる耳栓を作るのが有効です。

残念ながら、補聴器を使用したとしても完全に元通りの聴力が戻ってくるとは限らず、依然として聞き取りづらい状態が続くこともあります。補聴器を有効に使用するためには、ある程度の聴覚訓練が必要です。

老化を防ぐために、日常の健康管理と精神安定に気を付けることはいうまでもありませんが、耳に悪影響を与える騒音や薬剤の使用は、できるだけ避けるようにします。

2022/08/21

🇶🇦大腸がん

食生活の欧米化で増加する一方

大腸がんとは、大腸の粘膜に悪性の腫瘍(しゅよう)ができた疾患です。発生部位によって、大腸の大部分を占める結腸にできた結腸がんと、肛門(こうもん)までの10センチ前後に相当する直腸にできた直腸がんとに分類できます。

従来、日本人には比較的少ないがんとされてきましたが、近年、増加する一方で、年間約6万人の罹患(りかん)者数は、胃がんに迫っています。この大腸がんの増加の原因として、食生活の欧米化による、食物繊維の摂取不足と動物性脂肪の摂取増加が挙げられます。

大腸がんの発生部位でみると、直腸と結腸で半々の割合ですが、結腸の中でもS状結腸がんが増加する傾向にあります。罹患の頻度は男性、女性ともに同じで、60代が一番多く、70代、50代と続きます。若年者の大腸がんでは、遺伝的な素因もあると見なされています。

結腸がんの症状は腹痛と血便

盲腸、結腸、直腸の3部からなる大腸のうち、結腸にできた悪性の腫瘍が、結腸がんです。結腸は、上行、横行、下行、S状の各結腸からなります。

長さ約1・5メートルに渡る大腸の壁は、内腔側から粘膜(固有層)、粘膜筋板、粘膜下層、固有筋層、漿膜(しょうまく)下層という5つの層に分かれています。このうち、がんが粘膜内から粘膜下層にとどまっているものを早期結腸がん、固有筋層以下にまで進んでいるものを進行結腸がんといいます。

最もがんができやすいのは、直腸に近いS状結腸で、下行結腸、横行結腸、上行結腸の順に少なくなっていきます。 小腸から送られてきた内容物である便のもとは、管腔(かんこう)の広い上行結腸に入った時には、まだ水のような状態です。管腔の狭い下部の下行結腸からS状結腸に至って、特に硬くなるために腸壁を傷付けてしまうことがあるのが、S状結腸や下行結腸にがんが多い理由です。同時に、硬くなった便の滞留時間が長くなることも、悪影響を与えると考えられています。

結腸がんの初期症状として最も多いのは、腹痛。右側の結腸、すなわち盲腸及び上行結腸、横行結腸右半分のがんでは、80パーセントに腹痛が認められ、嘔吐(おうと)を伴うことが少なくありません。また、がんの部位からの出血によって血便が出ることがありますが、これは鮮やかな赤色ではなく、便が全体に暗赤色に変わったり、黒っぽい血塊が便に混じったりします。

左側の結腸、すなわち横行結腸左半分、下行結腸、S状結腸では、がんのために腸が狭窄(きょうさく)を起こすことが多く、便秘と下痢が交互に繰り返して起こったり、腸の一部がふさがる腸閉塞(へいそく)症を起こしたりします。

早期症状としては、やはり腹痛が最も多く、差し込むような痛みが多く生じます。血便などの下血症状も、半数の人に認められます。

しかし、結腸がんでは、発病してから2~3年はほとんど自覚症状を感じないままに過ぎ、貧血が進行して倒れるようになってから、初めてがんと知ることもあります。

ポリープから発生する直腸がん

大腸のうち、直腸の粘膜にできた悪性の腫瘍が、直腸がんです。直腸は便の滞留時間が長いため、腸壁が傷付くことが多く、さらに排便時の硬い便がさまざまな刺激となり、がんの前身である腺腫(せんしゅ)性ポリープを発生させる原因になると考えられています。

直腸がんでは、この腺腫性のポリープから発生するものが大部分で、腺腫を介さず直接粘膜からがんが発生するものは少数です。

代表的な初期症状は、血便。がんの前身であるポリープが大きくなると、便秘しがちになり、便がポリープを傷付けて出血を起こします。さらに、ポリープにがんが発生して広がってくると、崩れて傷付き、出血するようになります。

肛門からの出血は、痔(じ)出血と間違えるほど真っ赤ですから、非常にはっきりした自覚症状といえます。血液だけではなく、粘液の排出もしばしばあり、がんが進むと、悪臭のある腐敗性のものが排便と同時に排出されます。

また、直腸の炎症を一緒に起こすため、下痢と度重なる便意がくることもあります。がんのために直腸が狭まると、便が細くなり、周囲に血液が付いてきます。出血を繰り返すと、貧血が強くなり、めまいを起こすようにもなります。

痛みは初期にはほとんどなく、がん病巣の潰瘍(かいよう)が大きくなったり、直腸の狭窄が強まったりすると、腹部膨満や腹痛、あるいは肛門や臀部(でんぶ)に放散する痛みが起こります。

しかし、これといった症状がほとんどないうちに突然、腸閉塞症として発病することもまれではありません。

医師による検査、診断、治療

大腸がんは、早期のうちに発見し患部を取り除けば、ほぼ100パーセント近く完治できる病気です。無症状の時期にがんを発見するには、便の免疫学的な潜血反応を調べます。簡単に行えて体に負担のない検査で、陽性と出た場合には、大腸X線検査や大腸内視鏡検査が行われます。しかし、陽性と出ても必ず大腸がんがあるわけではなく、逆に進行した大腸がんがあっても陰性になることもあります。

排便時の出血や便通異常がある場合には、血液検査で貧血の有無、腹部のX線検査でガスの分布の状態を調べます。腹部の触診では腫瘤(しゅりゅう)、すなわち、こぶを触れることがあり、直腸がんでは肛門から指を入れて触るだけで、ポリープ、がんなどの有無を診断できることもあります。ポリープがあれば、内視鏡でポリープ全体か部分を採取して、組織検査を行い、良性か悪性かを診断します。

確定診断をするためには、食事制限と下剤により大腸を空っぽにして、肛門から造影剤を入れてX線写真を撮る注腸検査と、下剤で大腸を洗浄し肛門から内視鏡を挿入して直接大腸の内腔を観察する大腸検査が必要です。大腸内視鏡検査は、挿入技術の進歩と器械技術の進歩により、苦痛も少なくかつ安全にできるようになっています。

内視鏡検査では、直接大腸の内側を観察し、異常があれば一部をつまみ取って顕微鏡で良性か悪性かを調べます。ポリープやごく早期のがんであれば、内視鏡で簡単に治療が可能で、診断と治療を同時に行うことも可能。

また、がんの進行度によっては、周囲の臓器への広がりや、肝臓やリンパ節への転移の有無を調べるために、腹部の超音波検査、CT検査、MRI検査を行うこともあります。近年では、早期がんの進行度を調べて治療方針を決めるために超音波内視鏡検査を行うこともあります。

大腸がんの治療の原則は、がんを切除することです。がんが粘膜下層までにとどまっている早期がんの中でも、粘膜下層の浅いところまでであれば転移の心配はなく、内視鏡での治療が可能です。また、肛門に近いところにできた早期の直腸がんでは、おなかを開けずに手術を行います。

リンパ節転移の可能性があり内視鏡治療ができないのものや、固有筋層以下にまで達している進行がんでは、外科手術が必要です。手術では開腹し、腫瘍を含めた大腸の一部を切除してリンパ節をきれいに取り除き、残った腸をつなぎ合わせます。

また、近年では小さな傷で手術ができる腹腔鏡を用いた治療が急速に普及してきており、早期がんばかりではなく隣接臓器に浸潤していない進行がんに対しても、行われるようになってきています。

進行した直腸がんでは、肛門から離れている場合には肛門の筋肉が温存できる低位前方切除術が行われ、最近ではさらに、術後の性機能や排尿機能を温存するように必要最低限の手術が行われています。

それ以外では、人工肛門(ストーマ)が必要なマイルス法で手術が行われます。人工肛門もさまざまな装具が開発されており、普通に社会生活が送れるようになっています。

がんが広がりすぎていて不能な場合には、抗がん薬を用いた化学療法、放射線療法、免疫療法などが行われます。

生活習慣の改善アドバイス

大腸がんの発生を防ぐには、生活習慣を改善することです。完全ではありませんが、ある程度の予防は可能です。

●食物繊維を豊富に含む、野菜、いも類、穀類、茸類、海草類などを積極的に取る

●主食はなるべくご飯にする

●動物性の高脂肪、高蛋白(たんぱく)の食物を過度に取りすぎない

●1日3回決まった時間に食事をする

●禁煙する

●お酒は適量を守る

●規則正しい排便習慣を身に着け、便意を我慢しない

●生活リズムを整え、毎日適度な運動をする

🇸🇦二次性サルコペニア

不活動、低栄養、疾患が原因で、筋肉量が減少し、筋力または身体能力が低下した状態

二次性サルコペニアとは、不活動、低栄養、疾患が原因で、筋肉量が減少し、筋力または身体能力が低下した状態。

筋肉量が減少し、筋力または身体能力が低下した状態がサルコペニア(筋肉減弱症)で、加齢に伴って生じ、加齢以外に明らかな原因がない場合を原発性(一次性)サルコペニア、加齢以外に原因があるものを二次性サルコペニアといいます。

二次性サルコペニアのうち、不活動に関連したサルコペニアは、寝たきり、不活発なスタイル、無重力状態などによって生じます。長期の安静で体を動かさないことにより二次的に起こる廃用症候群(生活不活発病)、筋肉を長い期間使わないことにより生ずる廃用性筋委縮によっても生じます。

低栄養に関連したサルコペニアは、吸収不良、消化管疾患、食欲不振を起こす薬剤の使用などに伴う、エネルギーと蛋白(たんぱく)質の摂取量不足によって生じます。心因性の反応によって食欲不振に陥る神経性食思不振症(神経性食欲不振症、拒食症)や、不適切な栄養管理による飢餓によっても生じます。

疾患に関連したサルコペニアは、手術、外傷、骨折、感染症、熱傷、がん、膠原(こうげん)病、慢性心不全、慢性腎(じん)不全、慢性呼吸不全、肝不全、神経筋疾患などよって生じます。

病院の入院患者では、複数の原因による二次性サルコペニアが多く認められ、3つの悪循環がサルコペニアを進行させると考えられています。

第1に、サルコペニアにより転倒や転落の機会が増加します。その結果骨折を来すと、体動が減少して制限され、サルコペニアが一段と進行します。第2に、体動が減少して制限されるため、摂食能力の低下、低栄養の進行、蛋白合成の障害を来し、サルコペニアはさらに進行します。第3に、アミノ酸プールの減少により、病気や外傷などで蛋白必要量が増加した場合の対応能が低下します。そのため病的状態からの回復が遅延し、サルコペニアはますます進行します。

二次性サルコペニアの検査と診断と治療

整形外科、リウマチ科、膠原病内科などの医師による診断では、筋力または身体能力の低下を調べるため、まず握力と歩行速度を測定します。基準値は、握力が男性26キログラム未満、女性18キログラム未満、歩行速度が秒速0・8メートル以下。どちらか一方でも該当すると、サルコペニアが疑われます。

握力の基準値は、両手で各3回測り、最高値をとります。歩行速度の秒速0・8メートルの目安は、青信号で横断歩道を渡りきれるかどうかです。

確定診断には、X線を用いる特殊な検査法であるDXA法(二重X線吸収法)で筋肉量を測定し、男性7・0(キログラム/平方メートル)、女性5・4(同)の基準値未満なら、サルコペニアとされます。

整形外科、リウマチ科、膠原病内科などの医師による治療では、二次性サルコペニアのうち、不活動に関連したサルコペニアの場合、不要な安静や禁食を避け、少しでも早く離床や経口摂取を行います。

低栄養に関連したサルコペニアの場合、適切な栄養管理を行います。筋肉量が少ないからといって栄養を考慮せず筋力トレーニングを行っても、筋肉量は減少する可能性が高くなります。

疾患に関連したサルコペニアの場合、まず原因となっている疾患の改善を図ります。同時に、適切な栄養管理とリハビリテーションを併用します。疾患の程度によっては、栄養管理を優先し、筋力トレーニングはあえて行いません。機能維持を目標とした関節可動域訓練や座位訓練のみを行い、原因となっている疾患がある程度が落ち着いてから、筋力トレーニングに進みます。

2022/08/18

🇺🇿ピック病

人格の変化が目立つ認知症の一種

ピック病とは、人格の変化や理解不能な行動を特徴とする疾患で、認知症の一種。働き盛りの40歳~60歳に多く発症し、大脳皮質のうち前頭葉から側頭葉にかけての部位が委縮します。

ピック病の発症ケースは、同じく大脳皮質のうち頭頂葉と側頭葉後部が委縮するアルツハイマー型認知症よりもはるかにまれです。

1898年にチェコのアーノルド・ピックにより報告された疾患で、100年以上経過してもまだ世界共通の明確な診断基準すらなく、正確な発生頻度も不明。疾患を正しく診断できる医師が少ないために、アルツハイマー型認知症と誤診されたり、うつ病や統合失調症と間違えられて、不適切な治療やケアを受けるケースも少なくありません。

認知症も発症する年代によって、40~60歳代で発症する初老期認知症と、60歳、ないし65歳以降に発症する老年期認知症に大まかに分けられますが、ピック病は初老期認知症の代表疾患。40歳代~50歳代にピークがあり、平均発症年齢は49歳。女性の発症率が多いアルツハイマー型認知症に対して、そういった性差はありません。

記憶力の低下を主症状とするアルツハイマー型認知症に対し、ピック病の初期では、記銘力・記憶力、見当識(けんとうしき)、計算力などの知的機能は保たれています。

初期で目立つのは人格障害で、認知症の中では人格の変化が一番激しくなります。アルツハイマー型認知症の人格障害はピック病に比べれば軽く、脳血管性認知症ではさらに軽いといわれます。

人格障害には、易怒、不機嫌、爽快なども認められ、人を無視した態度、人に非協力な態度、不まじめな態度、ひねくれた態度、人をばかにした態度などが目立つようになります。しかし、本人に病識はありません。

ピック病特有の症状といえる滞続言語も、認められます。滞続言語とは特有な反復言語で、会話や質問の内容とは無関係に、同じ内容の話を繰り返したり、おうむ返しを続けたりします。これらは持続的で、制止不能です。

時刻表のように毎日決まった時間に、散歩や食事、入浴など日常生活のさまざまな行為を行うようになることもあります。この際、やめさせたり、待たせたりすると怒ります。毎日、同じ物、特に甘い物しか食べない場合もあり、際限なく食べる場合もあります。

自制力の低下により、周囲には理解不能な行動、状況に合わない行動もみられます。例えば、場所や状況に不適切と思われる悪ふざけや、配慮を欠いた行動をしたり、周囲の人に対して無遠慮な行為や身勝手な行為を示します。

また、自発性が低下し、考え不精がみられる一方で、多動、外出、徘徊(はいかい)、落ち着きのなさ、多弁、衝動行為、粗暴行為が増加することもあります。窃盗や万引きなどの犯罪を犯す場合もありますが、反省したり説明したりできず、同じ違法行為を繰り返すこともあります。

症状が進行すると、意欲減退が生じ、仕事を放棄して引きこもったり、何もしないなどの状態が持続し、自発性行動の少なさは改善しません。身だしなみにも無関心になり、不潔になります。周囲の出来事にも無関心になります。

やがて、記憶障害や言葉が出ないなどの神経症状が現れます。最終的には、重度の認知症に陥ります。

検査と診断と治療

できるだけ早めに医療機関を受診し、詳細な診断を受けることが勧められます。また、医療機関を受診する際には、できればピック病の専門医を訪ねることが併せて勧められます。

医師による検査では、CT、MRIによって、前頭葉と側頭葉に目立った局所性の脳委縮が認められるかを調べます。SPECT、PETという脳血流や脳ブドウ糖代謝を見る検査によって、前頭葉と側頭葉の血流、あるいは代謝の低下が認められるかも調べます。

診断に際しては、アルツハイマー型認知症、統合失調症との鑑別が行われます。アルツハイマー型認知症では記銘・記憶力、見当識、計算力などの知的機能低下が初期症状ということを始め、症状、検査などの特徴によって、知的機能が保たれているピック病と鑑別されます。統合失調症では幻聴がみられるということを始め、症状、検査などの特徴によって、幻聴はほとんどみられないピック病と鑑別可能です。

ピック病は原因が不明であるため、その研究が立ち遅れていて、治療法は今のところ発見されていません。対症療法をアルツハイマー型認知症と同様に行うのが一般的で、落ち着きのなさ、多動、徘徊などに対して、抗精神病薬を使うことがあります。

介護も重要となりますが、40歳代~50歳代に多発するピック病の人はまだ若いので、老人に比べると力も強く、その上徘徊などもあるため、その対応は困難を伴うことも多くみられます。場合によっては、精神病院への入院を余儀なくされることもあります。

予後は不良とされ、全経過は短めで2~3年から、長くても8~10年で衰弱し死亡することが多く、アルツハイマー型認知症よりも短い傾向にあります。

🇦🇿パーキンソン病

■手足や体の震えと硬直■

パーキンソン病の主な症状は、両手足の震えと筋肉の硬直です。1817年、イギリスの病理学者であるジェームス・パーキンソンによって見いだされた進行性の病気で、以前は「振戦(しんせん)まひ」と呼ばれていました。

神経系統のうち、筋肉の運動や緊張を調整している錐体(すいたい)外路系が侵されるために、運動調節機能が障害され、日常の行動や動作に変調を来します。近年の研究によれば、この錐体外路系の大脳基底核にある黒質(こくしつ)と線条体における「ドーパミン神経」の変性と脱落によって起こる、と明らかにされました。パーキンソン病の罹患者の脳中では、黒質で作られる「ドーパミン」という物質が減少しているのです。

日本における有病率は人口10万人当たり50~100人で、65歳以上では500人に1人の割合で出現すると見なされています。

また、この病気とよく類似した症状を現すものに、脳炎、脳動脈硬化症、一酸化炭素中毒・ガス中毒後遺症、梅毒、脳腫瘍(しゅよう)などが原因となって起こるものもあります。脳炎などの二次的なものも含めて呼ぶ際は、パーキンソン症候群と呼ばれます。

■症状をチェック■

40~50歳ごろから、徐々に発病します。最も特徴的な症状は、手足や顔の筋肉が突っ張り、硬くなることと、手足が震え、動作が緩慢になることです。

まばたきが少なく、無表情となり、手足が硬くなる影響で、首を少し下げ、膝(ひざ)と肘(ひじ)を軽く曲げた特有の姿勢となってきます。手の震えは、親指と人差し指、およびほかの指を少し曲げたまま、丸薬を丸めるようにリズミカルに横ゆれするのが特徴。

運動をすると、筋肉が硬くなって関節が動きにくくなる影響で、立ち上げるなどの動作がとてもゆっくりで、すくみ足による歩行障害も見られます。歩き始めようとしても第一歩がなかなか出ず、細かい足踏みをしてから初めて足を進めます。歩き方は、足を床にこすりつけるようにして狭い歩幅で歩く、小刻み歩行が普通。体が前かがみになり、バランスをとれずに、つんのめることもしばしばです。

■対策へのアドバイス■

●医療機関での治療と経過

パーキンソン病の薬物治療では、L-ドーパという有効な薬が見いだされ、そのほかブロモクリプチン、アマンタジンやアトロピン系の合剤が作られ、治療効果を上げています。ただし、筋肉の硬直、振戦、動作緩慢などは改善されますが、すくみ足はなかなかよくなりませんし、薬は病気を根本的に治すものではなく、症状を緩和させることを目的としています。

ドーパミンの薬剤で効果が期待できない場合に脳外科手術も検討されますが、高齢者やあまりに障害の程度が高い場合には、手術の効果は期待できません。

多くのケースでは、パーキンソン病は10年~10数年という長い経過をとり、末期には寝たきりとなって、老衰や肺炎などの合併症で亡くなります。

●家庭で根気よく療養に努める

軽度の方については、散歩や体操を一定時間に繰り返して、リハビリテーションを行ってください。慢性進行性で治ることはありませんが、寿命にはさして影響はないと考えても、よいのではないでしょうか。

罹患者は精神的に過敏、抑うつ、不安を持ちやすくなるので、周囲の温かい心配りが必要です。本人も家族も根気よく、家庭での療養に努めるようにしましょう。

🇬🇪肺炎

肺炎の分類

肺炎とは、主に細菌やウイルスなどの病原体が肺に入り、酸素と炭酸ガスの交換を行う肺胞や肺間質など、肺の奥の領域に炎症が起きる疾患をいいます。

一口に肺炎といっても、そのタイプはさまざまです。罹患(りかん)場所によっては、ふだん健康な人がかかるものを市中肺炎、重症の病気で入院している人がかかるものを院内肺炎に分類します。炎症の範囲によっては、肺胞性肺炎、大葉性肺炎、気管支肺炎、 間質性肺炎に分類します。

呼吸の際に吸い込んだ感染源の種類によっては、細菌性肺炎、ウイルス性肺炎、心筋性肺炎などの感染性の肺炎と、薬剤性肺炎、アレルギー性肺炎などの非感染性の肺炎に分類します。

感染性の肺炎の場合、たとえば風邪やインフルエンザにかかって気管支の粘膜に炎症が起きたため、ふだんなら痰(たん)と共に出ていくような菌が残り、この菌によって起こされた炎症が肺胞まで達すると、細菌性肺炎を起こします。

特に高齢者の場合には、免疫力が落ちているため、ちょっとした風邪から肺炎を起すことが少なくありません。また、糖尿病、心臓病、脳血管障害、腎臓(じんぞう)病、肝臓病などの慢性疾患のある人も、免疫力が低下しているため要注意です。

片や、非感染性の肺炎は、たとえばエアコンのカビや加湿器の水に繁殖した真菌など、アレルギーを起こす原因物質(アレルゲン)が肺胞に入って反応し、アレルギー性肺炎を起こします。

また、細菌性肺炎と非細菌性肺炎に分類します。 細菌性肺炎は一般細菌の感染によって起こる肺炎で、実に多種類の細菌が関与します。普通はまず、ウイルス感染が起きて、気道粘膜が障害を受けたのに乗じた形で、細菌による二次感染が起きるという過程をとります。

非細菌性肺炎はさらに、インフルエンザウイルスなどによるウイルス性肺炎、微生物によるマイコプラズマ肺炎、同じく微生物によるクラミジア肺炎(オウム病)などに分類します。

肺炎の症状を細菌性肺炎を例にとって説明しますと、初めは喉(のど)の痛みや鼻水、鼻詰まり、咳(せき)、頭痛、悪寒といった風邪の症状から始まります。やがて高熱が続き、咳、痰、呼吸困難や胸の痛み、顔面紅潮、唇や爪(つめ)が青黒くなるチアノーゼなどの症状が現れます。

しかし、老人では重症の場合でも、あまり激しい症状が出ないことも少なくなく、気が付いた時にはかなり悪化していることもあります。

細菌性肺炎

細菌性肺炎の代表的なもので、市中肺炎を引き起こす主な原因となるのは、肺炎球菌によるものです。人間の右肺は上中下3つ、左肺は上下2つの大きな袋である肺葉に分かれていますが、この肺葉全体を侵す大葉性肺炎を起こすことで、肺炎球菌はかつては有名でした。抗生物質の発達した現在では、大葉性肺炎は珍しくなり、気管支肺炎にとどまるもののほうが多くなりました。

黄色ブドウ球菌も、肺炎を起こします。この菌のうち、ほとんどすべての抗生物質に耐性を示す耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が近年、院内肺炎の原因となり、大きな問題となっています。

インフルエンザ杆菌(かんきん)も、肺炎を起こします。この菌の場合には、慢性の呼吸器病を持っている人に、繰り返し急性の気道感染を起こすのが、問題となっています。

同じように、緑膿菌(りょくのうきん)という厄介で、院内肺炎の原因となる菌があり、気管支拡張症、びまん性汎細(はんさい)気管支炎などの病気を持つ人の気道に住み付いて、治療をしてもなかなか取り除くことができません。

レジオネラ菌も、肺炎を起こします。1976年にアメリカで集団発生したことにより発見された菌で、建物の屋上などに設置されている冷却塔であるクーリングタワー、エアコンディショナーなど、空調設備や給湯系を介した感染や、土壌、河川などの自然環境からの感染が知られるところ。日本での特徴としては、温泉、特に消毒が不十分な沸かし湯を用いた風呂(ふろ)での感染が多いことです。

非細菌性肺炎

ウイルス性肺炎の中では、インフルエンザウイルスによる肺炎が最も重要です。高齢者や慢性の呼吸器病を抱える人では重症化しやすく、また細菌感染によって細菌性肺炎に移行しやすいためです。

風邪を起こすRSウイルス、はしかを起こす麻疹(ましん)ウイルスなども、肺炎を起こすことがあります。インフルエンザウイルス以外に、これらのウイルスに直接効く抗ウイルス薬は現在のところありませんので、細菌の二次感染に注意しつつ、対症療法が行われます。

ウイルスと細菌の中間のような微生物であるマイコプラズマも、頑固な咳を特徴とする肺炎を起こします。学童期や若年の成人に多く、乳幼児や高齢者に少ないというのも、マイコプラズマ肺炎の特徴の一つです。このマイコプラズマには、普通の細菌に有効なペニシリン系、セフェム系の呼吸器感染症で最も頻繁に使われている抗生物質が効きません。代わりに、テトラサイクリン系、マクロライド系、ケトライド系と呼ばれ抗生物質が、第一選択薬とされます。

ウイルスに近い微生物であるクラミジアも、クラミジア肺炎(オウム病)を起こします。病原体のクラミジアは、オウム、セキセイインコ、ハトなどに寄生して分裂、増殖します。感染、発病した鳥の排泄(はいせつ)物などから、空気中に飛散した病原体を吸入することによって、人間は発症します。病鳥に接してから1~2週間後に、風邪と同じ症状と共に激しい咳が出ます。重症の場合には、呼吸困難、意識障害も出現します。治療には、テトラサイクリン系、マクロライド系の抗生物質が用いられます。

以上、いろいろのタイプを紹介してきた肺炎は、かつては非常に怖い病気の一つでしたが、現在は胸部X線検査の進歩で早期に診断できるようになり、ペニシリン系、セフェム系などの抗生物質の開発で、完治しやすくなりました。

しかしながら、抵抗力の弱い乳幼児や高齢者、体の衰弱した病気の人などの肺炎による死亡率は依然として高く、油断できない病気だといえます。

日常生活においては、風邪を引かないように注意する、 うがいや歯磨きでいつも口の中を清潔にする、 自分のアレルゲンを知り予防対策をとる、室内の換気をよくし空気を清潔に保つ、禁煙するなどの予防対策を施したいものです。

🇸🇨廃用症候群(生活不活発病)

体を動かさない状態が続くことが原因で、全身の機能が低下する障害

廃用症候群とは、長期の安静で体を動かさないことによって二次的に起こる、全身の機能低下の総称。廃用とは使わないという意味で、廃用症候群は生活不活発病とも呼ばれます。

高齢者や、持病のために安静が必要な人に起こりやすく、寝たきり状態や入院などが切っ掛けとなることが多くみられますが、災害時の避難生活でも多発することから、東日本大震災発生後、厚生労働省などは注意を呼び掛けています。

症状としては、歩行、食事、入浴、洗面、トイレなど身の回りの動作が不自由になり、家事や仕事、趣味やスポーツ、人との付き合い、電話やメールで連絡をとるなどの日常活動も低下します。

健常な人でも体を動かさないでいると、意外に早く筋力が落ちたり、関節が固まるなど運動器官の機能低下がみられます。安静による筋力低下は1週目で20パーセント、2週目で40パーセント、3週目で60パーセントにも及び、1週間の安静によって生じた筋力低下を回復するには1カ月かかるともいわれています。特に高齢者では、その範囲が大きく、進行が早くなります。

体を動かさなくなり、頭も使わなくなったために起こる機能の低下は、筋肉や関節だけではなく、全身のいろいろの臓器に生じてきます。抑うつ状態、仮性痴呆(ちほう)、偽痴呆などの精神や知能の障害、床擦れ、廃用性骨委縮(骨粗鬆〔こつそしょう〕症)、起立性低血圧、静脈血栓症、沈下性肺炎、尿路結石、尿閉、尿失禁、便秘などが、主な障害として挙げられます。

「年のせい」と思いがちな、いろいろな動作の不自由や体力の衰えが、実はこの廃用症候群によるということも多いのです。また、「病気のため」と思っていることに、実はこの廃用症候群が加わっていることも多いのです。

廃用症候群はいったん起こると悪循環に陥りやすく、機能の回復には相当の時間を要するため、治療よりも予防のほうが大切です。すなわち、動かして起こるリスクより安静にして起こるリスクのほうが高いことを認識し、動くことで心身の機能低下を予防しなければなりません。家族や周囲が早期に気付けば、積極的に体を動かさせることで機能の改善、回復も見込めます。

体を動かす用事や機会を増やしながら、自然に体や脳を活性化させたり、腰や脚など下半身の筋肉を保ったりすることが大切。外出する意欲を持てるよう仲間を作るのもよいでしょう。

より進行した高齢者に対しては、トイレまで歩きやすいよう手すりを設置したり、シルバーカーを利用したり、介助者が手を引くなどの方法もあります。ひざの痛みがあるとかがみにくいので、トイレを和式でなく洋式にすると使いやすくなります。

高齢者の介護では、特に寝たきりでいることによって起こる廃用症候群を防ぐことが大切であるといわれています。それぞれの症状や環境に応じて、安全に配慮しながら工夫を心掛けることです。

2022/08/16

🇹🇼閉経後膣委縮症

閉経後に女性ホルモンのレベルが低下し、膣粘膜の内層が委縮して薄くなる状態

閉経後膣委縮症とは、卵巣から分泌される女性ホルモンのエストロゲンが閉経後に低下し、膣壁が委縮して薄くなり、弾力性を失う状態。膣委縮症とも呼ばれます。

生理が止まった閉経後の女性は、エストロゲン(卵胞ホルモン)やプロゲステロン(黄体ホルモン)などの女性ホルモンの減少によって、さまざまな体の変化を経験します。その中でも、多くの女性が経験するのが、閉経後膣委縮症です。

女性生殖器系の器官である膣は、骨盤内にあって子宮と体外とをつなぐ管状の器官で、伸び縮みできる構造をしています。膣の前方には膀胱(ぼうこう)や尿道があり、後方には直腸があります。膣壁の内層は粘膜に覆われ、その粘膜面には横に走るひだがあります。このひだは正中部で集合し、前壁と後壁で中央に縦に走るひだになっています。このひだは出産の経験のない人に、多く認められます。

この膣の中は、温かく湿っていて有機物が豊富にある状態で、細菌の繁殖に適しています。しかし、膣には自浄作用という働きがあります。膣壁上皮は卵巣から分泌されるエストロゲンの作用により、表皮細胞への分化が促され、細胞質の内にグリコーゲンが蓄積されます。剥離(はくり)した細胞内のグリコーゲンは、ブドウ糖に分解されて、膣内の乳酸桿菌(かんきん)によって乳酸菌に換えられます。これにより膣内は酸性となり、酸性環境に弱い細菌の増殖が抑制されます。

閉経後の女性の場合、膣壁は女性ホルモンや少量の男性ホルモンの働きにより、閉経後十数年たっても若い時代の3分の2の厚さが保たれていますが、エストロゲンが不足してくると膣のひだが少なくなるとともに、膣壁そのものも委縮して薄くなり、膣分泌物の低下などが原因でコラーゲンが少なくなり、膣の乾燥感も起こります。

それとともに自浄作用も低下して、細菌やカビが繁殖するために、充血して炎症を生じる膣炎が半数に起こります。これは、委縮性膣炎、あるいは老人性膣炎と呼ばれます。

委縮性膣炎を発症すると、下り物が黄色っぽくなる、下り物に血が混じる、下り物に悪臭を伴うなどの症状が、現れることがあります。膣壁の痛みや灼熱(しゃくねつ)感などの不快感、膣入口や外陰部の乾燥感、掻痒(そうよう)感、違和感、痛みなどの症状が、現れることもあります。性行為に際して、痛みを伴ったり、出血、掻痒感などの症状が、現れることもあります。

エストロゲンの分泌が低下したり、膣壁が委縮して薄くなること自体は、閉経後の女性であれば当たり前のことですので、無症状であったり、症状が軽いこともあります。

閉経後膣委縮症、委縮性膣炎は必ずしも治療が必要なわけではありませんが、黄色い下り物は子宮体がんなどに伴う症状の可能性もありますので、注意が必要となります。

閉経後膣委縮症の検査と診断と治療

婦人科、産婦人科の医師による診断では、膣の内部や外陰部の肉眼的な観察を主に行います。さらに、細菌検査を行い、カビや細菌の有無を調べます。同時に、がん細胞の有無も確認します。

明らかにエストロゲンが低下している年齢でなければ、ホルモン検査を行うこともあります。

近年は、診断と治療的効果判定の数値化を目的に、膣健康指数を用いて診断する方法も行われるようになりました。

婦人科、産婦人科の医師による治療では、がん細胞がない場合は、女性ホルモンの膣錠、エストロゲンの経口剤や貼付(ちょうふ)剤、女性ホルモンの補充療法などで、症状の改善を図ります。

軽度の閉経後膣委縮症であれば、膣洗浄によって細菌を流し、症状を改善させることもあります。細菌感染がひどい場合は、抗生物質が入った膣錠を併用することもあります。性交痛などに対して、潤滑ゼリーを勧めることもあります。

閉経後膣委縮症、委縮性膣炎の多くは1~2週間の治療で治りますが、1カ月程度にわたって薬剤を使用しないと治らない人もいます。

外陰炎、外陰掻痒症を併発している時は、平行した治療で症状の改善を図ります。子宮体がんや乳がんなどの病歴がある人に対しては、別の治療法が選択されることもあります。

🇲🇴閉塞性動脈硬化症

血管の病変が手足の動脈に慢性的に起こっている疾患

閉塞(へいそく)性動脈硬化症とは、手足の血管の動脈硬化によって引き起こされる疾患。主に40〜50歳以降に発症します。

動脈に脂肪分が沈着して粥状(じゅくじょう)硬化(アテローム硬化)が起こると、血管の内膜が肥厚して内腔(ないくう)が狭くなったり、潰瘍(かいよう)ができたりします。結果として、血流に障害が起き、血液が固まって血栓を生じ、詰まりやすい状態になります。こういった血管の病変が末梢(まっしょう)動脈、すなわち手足の動脈に慢性的に起こっているのが、閉塞性動脈硬化症です。

閉塞性動脈硬化症のある人は、手足の動脈だけでなく、全身の血管にも動脈硬化を来している場合が少なくありません。3割の人で冠動脈疾患の合併、2割の人で脳血管障害の合併が認められます。

発症しやすいのは、糖尿病、高血圧、高脂血症、喫煙などの動脈硬化の危険因子を持っている人。食生活やライフスタイルの欧米化により、動脈硬化を基盤とする閉塞性動脈硬化症が急速に増えています。

初期の症状は、足の冷感やしびれです。進行すると、短い距離を歩いただけで、ふくらはぎや太ももの裏側が重くなってきたり、痛みを感じるようになります。2〜3分休むとよくなり、再び歩くことができます。この間欠性跛行(はこう)や足のしびれなどの症状が神経痛の症状と似ているために、勘違いされて見逃されることも多く見受けられます。

さらに進行すると、安静時にも痛みが現れるようになります。病変がある動脈で、急に血液が固まって急性閉塞が起きた場合には、24時間を経過した後で、筋肉に壊死(えし)が起こることもあります。

閉塞性動脈硬化症の検査と診断と治療

検査では、血管が閉塞した部位より先の動脈は、拍動が触れなくなります。四肢の血圧から足関節/上腕血圧比を測ることにより、さらに詳しく下肢の虚血を診断できます。確定診断には、血管造影検査が必要になります。

初期の冷感やしびれに対しては、血管を広げる血管拡張薬や、血液を固まりにくくする抗血小板薬を中心に治療が行われます。手足の痛みが強く、ひじや、ひざから上の比較的狭い範囲で慢性の動脈閉塞が起きている場合には、カテーテル治療、レーザー血管形成術、バイパス手術、血管新生療法などが行われます。

カテーテル治療は、狭心症や心筋梗塞(こうそく)の治療で行われるバルーン療法と同じ血管内治療。閉塞した部位にカテーテルを通し、そこで風船を膨らませて閉塞を治した後、再閉塞を防ぐためにコイルを留置します。レーザー血管形成術は、閉塞部近くまでカテーテルを挿入し、レーザー光を発して血栓や肥厚した内膜を霧状に散らす療法。

バイパス手術は、閉塞した動脈の代わりに静脈や人工血管を使ってバイパスを作り、動脈の血行を再建する治療。血管新生療法は、肝細胞を増殖させる物質の遺伝子が血管を新しく作ることがわかったため、それを使って行う新しい治療。血管を新生する因子(HGF)を産生する遺伝子を含む医薬を筋肉に注射し、新しい血管を誕生させて血流をよみがえらせます。

治療方法は数多くあるものの、閉塞性動脈硬化症が重症になり、壊死が進行した場合は、足の切断が必要になることがあります。日本では毎年、1万人程度が足の切断を余儀なくされていると推定されます。

この閉塞性動脈硬化症は、糖尿病や高血圧、高脂血症がある人に起こりやすいので、このような既往症のある人は、食生活を正して食べすぎを避け、減塩を守ること、ストレスを解消すること、禁煙をすることが必要です。

また、足の症状が出るまでは、休みながらも繰り返し歩くように心掛けます。歩くことにより、側副血行路が発達し血行が改善します。靴下、毛布などを使って、足の保温にも努めます。寒冷刺激は足の血管をさらに収縮させ、血液の循環を悪くさせるからで、入浴も血行の改善に役立ちます。足はいつも清潔にしておき、爪(つめ)を切る時は深爪をしないようにし、靴も足先のきつくないものを選ぶようにします。

2022/08/14

🇸🇷変形性股関節症

関節の老化変性などで、股関節が痛み、動きも悪化

変形性股(こ)関節症とは、関節軟骨の変性や摩耗に始まり、さまざまな関節変化が進行する疾患。

年を取っていくに従って、骨や関節にも老化が現れてきて、関節軟骨は次第に消耗して擦り切れ、軟骨の下の骨が現れ、関節の端のほうでは骨のとげが出てきて関節が変形してきます。このように変形性関節症は老化変性を基盤とする疾患ですが、関節に過度の負担がかかったり、関節機構に異常があったりすると、軟骨変性が加速されて、必ずしも老人でなくても同様な変化が生じてきます。

日本では、変形性股関節症の大多数が、先天性股関節脱臼(だっきゅう)後に生じる二次性のものです。もちろん、先天性股関節脱臼がほぼ完全に治癒すれば、変形性股関節症にはなりませんが、往々、程度の差こそあれ関節不適合を残して治ります。このような場合には、年月の経過とともに、次第に変形性股関節症へと進展していきます。

この先天性股関節脱臼や臼蓋(きゅうがい)形成不全に起因する変形性股関節症がほとんどで、その大部分が女性に起こります。このほか、ペルテス病、大腿(だいたい)骨頭壊死(えし)、大腿骨頭すべり症、外傷などに起因するものもあります。

臼蓋(きゅうがい)形成不全は、股関節の屋根の作りが浅いものです。股関節で大腿骨頭を受け入れる部分を股臼といい、骨頭にかぶさり体重を支える部分の股臼が、この臼蓋です。

変形性股関節症の症状としては、初めのころは歩きすぎたり、スポーツ後などに股関節部の痛みや疲れやすさを感じます。休息すればよくなりますが、繰り返すうちに痛みが強くなり、遠距離を歩かなくても、あるいは少し歩いただけでも痛みが起こり、足を引きずるようになってきます。股関節の動きも悪くなって、靴下の着脱や足のつめ切りなどが不自由になります。

痛みは股関節部に限らず、臀部(でんぶ)、大腿部、あるいは膝上部に起こることもあり、注意が必要です。

変形性股関節症の検査と診断と治療

X線検査を行うと、大腿骨頭は変形し、関節の透き間が狭くなり、骨頭や臼蓋の骨に丸く、薄くなって抜けている部分や、関節端のほうでは骨の出っ張りなどがみられ、変形性股関節症の診断がつけられます。

変形性股関節症にはつえの使用が有効で、1本のつえを使うと、股関節への荷重が約4分の1から5分の1くらいに減ります。比較的安静をとり、薬で痛みが抑えられる間はよいのですが、痛みが抑えられなかったり、次第に痛みが強くなっていく場合には、手術的手段が行われます。

手術方法にはいくつもの種類があり、個人に最も適していると思われる方法がとられます。

股関節周辺の筋肉を切り離し、関節に加わる力の軽減を図る簡単な筋離開術から、荷重面積の増加を目的とする骨切り術、股関節形成術や股関節を全部人工のものと置き換える人工関節置換術などがとられます。また、片側のみを発症した比較的若い人で、立ち仕事や重労働をしなければならない場合には、股関節をよい角度で固定する関節固定術もとられます。

疾患の本態から考えてみても、進行を食い止めることはできません。しかし、股関節にかかる負担を軽くすることで、進行のスピードを遅らせたり、痛みなどの症状の改善を得ることができます。つえを使うほか、筋力を強化すること、太っている人は管理栄養士による食事指導と運動処方によって体重を減らすことが、やはり股関節への負担を軽減することになります。

たとえ自覚症状には変化がなくても、数カ月から半年くらいに1度は、必ず医師の診察を受け、病態を把握しておくことも必要です。

🇸🇷変形性膝関節症

膝関節の軟骨が擦り減り、歩くと痛む疾患

変形性膝(しつ、ひざ)関節症とは、関節の軟骨が傷んで擦り減り、歩く際に痛みが生じる疾患。老化変性を基盤として起こりますが、関節に過度の負担がかかったり、関節機構に異常があったりすると、軟骨の摩耗が加速されて、必ずしも中高年齢者でなくても発症します。

関節軟骨は、関節の骨の表面を覆っている厚さ2~7mm程度の層で、正常では透明感のある白色に輝いていて、表面は非常に滑らかですべすべしています。水を含んだスポンジのように、関節の水分を吸ったり出したりすることで、体重の負担を分散するクッションとして、その衝撃を軽くしています。また、関節軟骨同士の接触面は、摩擦による抵抗が非常に少なくなっています。関節軟骨の内容は、プロテオグリカン、コラーゲン、水からなっています。

しかし、中高年になると筋力が低下し、その筋力でカバーできない負担が継続的に掛かる仕事や、瞬間的に大きな負担がかかるスポーツなどで、関節軟骨が衝撃を吸収しきれなくなると傷んでしまいます。関節軟骨はその構造上、表面がいったん傷んでくると、元に戻りにくく、だんだん擦り減って悪くなる傾向があります。

変形性膝関節症は中高年齢者に多く、50歳代で発症し、65歳以上で急増します。また、男性に比べ2~4倍、女性に多いのも特徴です。肥満している人、O脚変形(いわゆる、がにまた)のある人にもよくみられ、O脚では内側に過度な体重、圧迫が加わることになり、内側の軟骨の摩耗が進んでいきます。

症状としては、膝関節のはれや、こわばっている感じがし、正座ができなくなります。歩き始めに膝が痛みますが、少し歩いているうちに楽になり、また歩きすぎると痛みが出てきます。

片側の膝だけに発症することもありますが、両側性のこともしばしばあります。症状が進行すると、関節内に水、すなわち増量した関節液がたまってくるようになり、関節のすきまから前内側膝蓋(しつがい)部にかけて押すと痛むところが現れます。さらに進行すると、膝関節を完全に伸ばすことができなくなり、屈曲も制限され、関節が側方にぐらつくようになることもあります。

変形性膝関節症の検査と診断と治療

X線写真では、関節の端に骨の出っ張りがみられ、関節の透き間が狭くなったり、軟骨下骨の組織が硬化している像などがみられます。膝関節が内側に反るように変形し、下腿(かたい)軸の異常が起こります。そのため、荷重した状態で下肢の全長正面像を撮影することが重要になります。

診断は年齢、臨床所見、X線所見から行います。さらに、関節造影や関節鏡を行うことで、より正確なものになります。鑑別診断で重要なものは、関節リウマチと膝関節結核との区別です。

治療上で注意することは、まず関節になるべく負担をかけないようにすることで、肥満を避けたり、無理な運動をしないようにします。やむを得ず比較的長距離を歩かなければならないような場合には、膝のサポーターも有用です。

しかし、膝が悪いからといって、ほとんど歩かないようにしては、かえって膝に悪影響を及ぼします。関節は動かすことによって、生理的な状態が維持されるので、体重負荷がかからないようにした膝関節の屈伸運動で、太ももの前面の大腿(だいたい)四頭筋の強化を図ります。

まず、いすに腰掛けて、片方の足を上げて、膝をピンと伸ばします。太ももの前面の特に膝の内側に力こぶができるように、しっかり力を入れます。そのまま、数秒間足を上げたまま止めます。この一連の運動を左右交互に行なって1度に10回から20回、これを1日に2~3回を目安に行なうと効果的です。足首に抵抗となるおもりをつけて行えば、より効果的です。

筋力がかなり落ちている場合や、膝関節痛が強い場合は、かかとを床に着けたままで、太ももの前面に力こぶを作る運動をします。このような運動は頑張れば必ず効果が出て、膝関節の安定性と関節水腫(すいしゅ)の改善が期待できますので、少なくとも2、3カ月は続けてみましょう。

そのほか、自転車乗りや平泳ぎ以外の水泳、水中ウオーキングなども、膝に負担のかからない運動として適している上、減量にもつながります。

症状が強く、関節内に水がたまってくるような場合には、感染に対する厳重な注意の下で関節穿刺(せんし)が行われ水を吸引してから、炎症を抑えるためにヒアルロン酸、または副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)を注入することもあります。

ヒアルロン酸は、軟骨の一成分で、関節液中にも存在する関節の潤滑油でもあります。変形性膝関節症ではヒアルロン酸の量が減るため、注射で補うことで、痛みを和らげ、炎症を抑え、関節の動きをよくするなどの効果があるといわれています。副腎皮質ホルモンには、強い炎症止めの効果と鎮痛効果がありますが、あまり頻繁に使用すると、副作用が多くなるといわれています。

また、膝の変形、特に片足で立った時にO脚変形が著明で、主に体重が関節の内側だけにかかるような場合には、O脚を改善させる足底板の装着が有効です。足底板の装着で治療が期待できない場合には、手術も行われます。まだ変形を起こしていない関節面が残っている場合に、脛骨(けいこつ)の骨切りを行って、体重が関節全体に均等にかかるようにします。

変形性の変化が重度である場合は、人工関節全置換術の対象になります。これらの手術で痛みは明らかに改善しますが、術後の合併症である血栓症による肺梗塞(こうそく)、脳梗塞、心筋梗塞の発生に十分注意を払う必要があります。

🇸🇦水晶体嚢性緑内障

高齢者に多くみられる続発性緑内障の一つ

水晶体嚢性(のうせい)緑内障とは、偽落屑(ぎらくせつ)症候群の目であることが原因となって、眼圧が上昇するタイプの続発性緑内障。眼圧が上昇することによって視神経が侵され、視野が狭くなったり欠けたりします。

偽落屑症候群は70歳以上に約5パーセントみられ、その約半数に水晶体嚢性緑内障がみられます。偽落屑症候群は、片目ないし両目の水晶体の前嚢、虹彩(こうさい)、隅角(ぐうかく)などに、フケのような白い物質である偽落屑が粉状から膜状に沈着している状態で、この偽落屑が線維柱帯という、眼内液である房水(ぼうすい)の排出路に詰まることで、房水が流出しにくくなって眼圧が上昇します。偽落屑の本体は、不明です。

偽落屑症候群の眼球では、瞳孔(どうこう)の縁が白く見え、そうでない眼球よりも緑内障、白内障になりやすい性質があります。また、水晶体を回りから支えているチン小帯という多数の細い線維が弱くなることが多く、白内障手術の際にチン小帯断裂という合併症を起こしやすくなります。

水晶体嚢性緑内障の検査と診断と治療

偽落屑症候群だけでは何の自覚症状もなく視力も視野も正常ですので、他の疾患でたまたま眼科を受診した時や、人間ドックの眼科検診で発見されます。偽落屑症候群といわれても治療の必要はありませんが、眼科医の指示通りに定期検査を受け、水晶体嚢性緑内障の合併を早期に発見することが大切です。

眼科の医師による水晶体嚢性緑内障の検査では、30〜40mmHgの高めの眼圧上昇と、水晶体、虹彩、隅角などにフケ状の偽落屑が沈着しているのを認めます。

治療としては、眼圧を下降させるために薬物療法、レーザー治療、手術療法を適宜行います。薬剤としては、局所に投与する点眼剤(縮瞳剤)や全身に作用する炭素脱水酵素阻害剤やグリセリンを用い、房水圧の抑制によって眼圧を下げます。

主に点眼剤でコントロールできなくなった水晶体嚢性緑内障に対しては、レーザー治療のレーザー線維柱帯形成術が行われ、隅角の先にある線維柱帯にアルゴンレーザーを照射し、熱凝固により房水流出抵抗を減少させ、眼圧下降を図ります。

🇳🇮細菌性肺炎

さまざまな細菌が肺に入り、肺の奥の領域に炎症が起きる疾患

細菌性肺炎とは、一般細菌が肺に入り、酸素と炭酸ガスの交換を行う肺胞や肺間質など、肺の奥の領域に炎症が起きる疾患。実に多種類の細菌が関与します。

普通はまず、ウイルス感染が起きて、気道粘膜が障害を受けたのに乗じた形で、細菌による二次感染が起きるという過程をとります。

細菌性肺炎の代表的なもので、ふだん健康な人がかかる市中肺炎を引き起こす主な原因となるのは、肺炎球菌によるものです。人間の右肺は上中下3つ、左肺は上下2つの大きな袋である肺葉に分かれていますが、この肺葉全体を侵す大葉性肺炎を起こすことで、肺炎球菌はかつては有名でした。抗生物質の発達した現在では、大葉性肺炎は珍しくなり、気管支肺炎にとどまるもののほうが多くなりました。

黄色ブドウ球菌も、肺炎を起こします。この菌のうち、ほとんどすべての抗生物質に耐性を示す耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が近年、重症の疾患で入院している人がかかる院内肺炎の原因となり、大きな問題となっています。

インフルエンザ桿菌(かんきん)も、肺炎を起こします。この菌の場合には、気管支拡張症、慢性気管支炎などの呼吸器疾患を持っている人に、繰り返し急性の気道感染を起こすのが、問題となっています。

同じように、緑膿菌(りょくのうきん)という厄介で、院内肺炎の原因となる菌があり、気管支拡張症、びまん性汎細(はんさい)気管支炎などの疾患を持つ人の気道に住み付いて、治療をしてもなかなか取り除くことができません。

レジオネラ菌も、肺炎を起こします。1976年にアメリカで集団発生したことにより発見された菌で、建物の屋上などに設置されている冷却塔であるクーリングタワー、エアコンディショナーなど、空調設備や給湯系を介した感染や、土壌、河川などの自然環境からの感染が知られるところ。日本での特徴としては、温泉、特に消毒が不十分な沸かし湯を用いた風呂(ふろ)での感染が多いことです。

また、高齢者に多い嚥下(えんげ)性肺炎も、細菌性肺炎。唾液(だえき)や物を飲み込みにくいために誤飲して、さらに誤飲した物を吐き出す力が弱いために、細菌感染が起こることが原因です。

細菌性肺炎の症状は、発熱と激しい寒け、せき、たんなどが主な症状。発熱は39度以上と、高熱になることがしばしば。

せきが激しい時は、それに伴って胸が痛くなります。肺炎が胸壁を覆う胸膜にまで達して胸膜炎を合併した時は、激しい胸痛が起こることがあります。頻度はあまり多くないものの、たんに血が混じることがあり、気管支拡張症などの既往症がある時は、血たんがしばしば認められます。

しかし、体の反応の弱い高齢者では、あまり激しい症状が出ないことも少なくなく、気が付いた時にはかなり悪化していることもあります。風邪を引いた後、いつまでもだるそうにして元気がなく、食欲も回復しない時は、肺炎を疑う必要があります。

肺結核などの呼吸器疾患の既往症がある人や、肺の疾患で手術を受けた人が肺炎にかかると、劇症になりやすくなります。肺から取り込む酸素が不足し、速く浅い呼吸になり、時には呼吸困難に陥ることもあります。

細菌性肺炎の検査と診断と治療

肺炎が劇症になると、時には呼吸困難に陥ることもありますので、なるべく早期のうちに呼吸器内科、呼吸器科の専門医を受診します。

医師は、胸部X線撮影を行います。炎症が起こると肺の末梢(まっしょう)血管から水分が染み出して、肺胞にたまりますが、これがX線で撮影すると影になって見えます。

ほかに、血液検査を行って白血球の増加、CRP値(C反応たんぱく)の増加、赤血球沈降速度の高進など、炎症反応を調べます。有効な抗生物質を探るために、たんを培養して原因菌も調べます。

細菌性肺炎の治療の基本は、原因となっている細菌の排除を目的に、抗生物質を投与すること。通常、市中肺炎で原因となる細菌は肺炎球菌、黄色ブドウ球菌、インフルエンザ桿菌であるため、ペニシリン系やセフェム系の抗生物質、ニューキノロン系の抗菌剤が用いられます。

院内肺炎の場合は、セフェム系やマクロライド系、ペニシリン系の抗生物質がよく用いられます。

対症療法として、たんをサラサラにして出しやすくするために去たん剤、せき込みによる体力の消耗を防ぐために鎮咳(ちんがい)剤が用いられます。

いろいろのタイプがある肺炎は、かつては非常に怖い疾患の一つでしたが、現在は胸部X線検査の進歩で早期に診断できるようになり、ペニシリン系、セフェム系などの抗生物質の開発で、完治しやすくなりました。しかしながら、抵抗力の弱い乳幼児や高齢者、体の衰弱した疾患の人などの肺炎による死亡率は依然として高く、油断できない疾患だといえます。

日常生活においては、風邪を引かないように注意する、 うがいや歯磨きでいつも口の中を清潔にする、 室内の換気をよくし空気を清潔に保つ、禁煙するなどの予防対策を施したいものです。

2022/08/13

🇲🇪骨髄腫(しゅ)

血液中の特殊細胞が骨髄で増殖し、全身の骨を破壊

骨髄腫(しゅ)とは、形質細胞という血液の中のリンパ球に似た特殊な細胞が腫瘍(しゅよう)化して、骨髄の中で増殖し、全身の骨を破壊する悪性の疾患。

原因は、よくわかっていません。発症頻度は低く、まれな疾患に属します。年齢層は、70〜80歳代の人に多く発症します。

発症は多くの症例では、いつから始まったか明確ではなく、ゆっくりと進行します。何の症状もないまま、定期検診を受けたところ、血液と尿の蛋白(たんぱく)異常を指摘され、それがきっかけで疾患が見付かるケースも少なくありません。

骨髄腫の自覚症状は、胸、背中、腰などの痛み、体重減少など。骨はほとんど全身の骨が侵されますが、脊椎(せきつい)、肋骨(ろっこつ)、胸骨などから現れるケースが多いようです。普通、長い経過をたどって悪化していきます。骨折して受診し、疾患が発見されるケースもあります。

骨髄腫の検査と診断と治療

血液中の蛋白の数値が高く、分析すると免疫グロブリンといわれる蛋白質の一種が、異常に高い数値を示していることから診断されます。骨髄を調べると、この免疫グロブリンを分泌する形質細胞が多数認められます。骨のX線検査では、打ち抜き像といわれる輪郭の明確な所見があり、骨が薄く、もろくなっています。

治療としては、化学療法でコントロールすることを主体とします。よく用いられるのは、メルファランとインターフェロン。近年では、強力な化学療法と自家造血幹細胞移植を組み合わせて、異常な形質細胞を絶滅させる方法が研究されています。

🇧🇬軽度認知障害

認知症になる前の段階で、健康な状態と認知症の中間にある状態

軽度認知障害とは、認知症になる前の段階で、健康な状態と認知症の中間にある状態。つまり、認知症ではないものの、全く健康でもない状態です。

老化に伴う物忘れよりは記憶障害が進んでいますが、それ以外の認知機能障害は現れておらず、日常生活にも支障を来していません。

認知症になる前の段階といっても、軽度認知障害の人が将来、必ず認知症になるとは限りません。そのまま治療を受けなくても、半数は認知症にならないといわれています。逆にいえば、何もしなければ、半数の人は認知症になるわけであり、将来、認知症を発症する可能性のある予備軍といえます。

発症する可能性のある認知症は、脳の神経細胞がゆっくりと死んでいく変性性認知症で、最も多いアルツハイマー型認知症のほか、レビー小体型認知症、前頭・側頭型認知症が相当します。

65歳以上の高齢者で、アルツハイマー型認知症などさまざまな認知症の人は約462万人おり、これに対して軽度認知障害の人は約400万人いると推計されています。

軽度認知障害の診断は、現状では医療機関への受診が必要なため、「最近物忘れがひどくなった」という状態では受診しない人が多くを占めます。

しかし、最近の研究では、軽度認知障害の人が適切な治療を受ければ、認知症の発症を防いだり、発症を遅らせたりできることがわかってきています。早期診断で軽度認知障害が発見されれば、一生、認知症にならなくてもすむかもしれないので、早めに精神科、神経内科、内科、あるいは物忘れ外来の医師に相談することが勧められます。

軽度認知障害の検査と診断と治療

精神科、神経内科、内科、あるいは物忘れ外来の医師による診断では、まず記憶テストや問診などを行います。ここで軽度認知障害と診断されれば、脳血流シンチを使用して脳の血流を測定し、アルツハイマー型認知症などさまざまな認知症かどうかを判断します。

脳血流シンチは2002年ごろから使われ始めた精密診断機器で、注射によって体内に放射性同位元素を微量注入し、その後の脳の血流の様子をシンチカメラで撮影するものです。アルツハイマー型認知症では典型的な脳の血流低下がみられますので、ここで判断することができます。

精神科、神経内科、内科、あるいは物忘れ外来の医師による治療では、場合により、脳の代謝をよくする薬や、アルツハイマー型認知症の治療薬であるドネペジル(製品名:アリセプト)を使用します。

軽度認知障害の段階でドネペジルを使用すれば、アルツハイマー型認知症の進行の抑制期間を長引かせる可能性が高くなります。

軽度認知障害から認知症への進行を防いだり、遅らせるためには、趣味を楽しんだり、人と話したりして、脳を活性化することが有効です。また、食生活の改善や運動不足の解消など、ライフスタイルを見直すことも大切です。

🇦🇩偽痛風(軟骨石灰化症)

高齢者に多発性の関節痛を起こし、痛風とよく似た疾患

偽(ぎ)痛風とは、多発性の関節痛を起こし、痛風とよく似た疾患。軟骨石灰化症とも呼ばれます。

高齢者では、特に風邪などの切っ掛けもなく、急にあちこちの関節が痛み出すことを比較的よく経験します。血液検査でも関節リウマチや痛風の反応は異常がなく、医師が診断に苦しむことがあります。このような疾患の中に、偽痛風があります。

この偽痛風は、関節液中にピロリン酸カルシウム(CPPD)結晶という結晶が沈殿することによって起こります。よく似た痛風は、血中の尿酸が増加して高尿酸血症となり、関節液内に尿酸ナトリウム結晶が生じることによって起こります。

ピロリン酸カルシウムの結晶ができる原因としては、軟骨変性が重要です。軟骨内の結晶は関節破壊により関節腔(くう)内へ脱落し、関節腔内では白血球、単球などがこの結晶をきれいに掃除しようとします。その時に、細胞からはさまざまな化学物質が放出されて、炎症はいよいよ強くなります。痛風発作でも同様に、白血球などが尿酸の結晶を掃除しようとして炎症が起こります。

偽痛風の発症年齢は、痛風に比べて60~80歳の高齢者での発症が多いと見なされています。痛みの起こりやすい部位は膝(ひざ)の関節が最も多く、次いで手、足、股(また)、肘(ひじ)の関節など比較的大きな関節で、男女差はありません。痛風が男性に圧倒的に多くみられ、痛みの部位も足首や足の親指の付け根に起こりやすいのと対照的。

偽痛風の発作は数日、ないしそれ以上持続し、1カ所から数箇所の関節炎が特徴です。痛風発作のように突然出現して自然に軽快しますが、痛風より痛みは軽度。急性発作時には、関節腫脹(しゅちょう)、局所発熱、痛みがあり、関節の動きが悪くなります。腕や足の関節に慢性の痛みやこわばりが長引くこともあり、関節リウマチと混同されることもあります。

偽痛風の検査と診断と治療

医師による診断では、膝関節痛などに多発性関節炎の所見がみられ、X線検査で軟骨石灰化症の存在が認められ、関節腔内に針を刺し関節液を吸引してその結晶を調べることにより、偽痛風と判断されます。偽痛風では、血液中の尿酸値は基準範囲内ですが、痛風でも発作時の尿酸値は正常のことが多くあります。

偽痛風のほかにも、多発性関節炎は慢性関節リウマチ、リウマチ性筋痛症、膠原(こうげん)病、乾癬(かんせん)性関節炎、サルコイド関節炎、悪性腫瘍(しゅよう)に伴う関節炎、再発性多発軟骨炎、感染症に伴う関節炎、変形性関節症などいろいろな疾患で起こり、診断が困難なことも多くあります。長期間の経過観察により診断が明らかになる場合が多いのですが、それでも診断ができないケースもあります。

治療法はほとんどが対症療法で、完治につながるような決定的な治療法はありません。炎症をコントロールすることで痛みを抑えるために、ステロイド剤や非ステロイド系抗炎症剤などが用いられます。治療により急性発作を止めて、次の発作を予防することが可能ですが、関節へのダメージを防ぐことはできません。

発作のない時には、通常の変形性関節症のような病像をとりますが、多くの発症者では膝の変形と慢性的な運動痛、動作の開始時の痛みで特徴とされる変形性関節症に移行します。

🟧RSウイルス感染症が「流行入り」 静岡県が注意呼び掛け

 静岡県は26日、直近1週間(15~21日)のデータから「RSウイルス感染症が流行入りしている」と発表しました。定点医療機関となっている小児科1カ所当たりの患者数は1・64人で、県が流行入りの目安としている「1人」を大きく上回りました。前週の0・9人よりも8割増加し、急拡大が懸...