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2022/09/19

🇹🇷視力障害

■目が見えにくいのはなぜ■
 物がはっきり見えなくなる原因は、加齢のせいばかりとは限りません。目の怖い病気が潜んでいる場合も、あり得るのです。
 人間の目には120万から130万本もの視神経があり、膨大な量の情報を処理していますが、この視神経は年を加えるとともに年間、約5000本が失われていきます。同時に、目の組織自体も活性酸素などによる老化現象によって年々、感度が悪くなっていきます。年とともに、レンズの働きを担う水晶体の弾力性も失われていきますので、物がはっきり見えにくくなっていくのは、ある程度、仕方のないことです。
 しかしながら、見えにくさの背後に、失明の危険がある病気が隠れている可能性も、あります。「私も年だから」と放っておくと、病気が進行して取り返しのつかないことになりかねません。
 最近の傾向としては、パソコンやゲームの画面に視線を集中して、まばたきが減るために角膜が乾燥するドライアイが、確実に増えています。目の病気に直接つながることはありませんが、注意が必要でしょう。
●自覚症状がある障害
《老眼》
●近くだけが見えにくい
 40代くらいから、水晶体の弾力性が失われ、ピントを合わせることができなくなります。そのために、30~35センチの読書距離に焦点を合わせることが、むずかしくなります。
《白内障》
●霧の中にいるようにぼやける ●まぶしく感じる
 水晶体を形成する蛋白質が白く濁る病気。水晶体の周りから濁っていくケースが多く、初期には視野の中心は正常に見えるために、気が付かないこともあります。60代で60パーセント、80代ではほとんどの人が、発症しています。
《飛蚊(ひぶん)症》
●黒い点や糸くずなどがちらつく
 硝子体(しょうしたい)という眼球を満たすゼリー状の組織の中に濁りが出て、眼球の動きとともに、濁りの影が網膜に落ちて、ちらつきが起こります。加齢による硝子体の変性が原因であれば、それほど心配はありません。
  注意が必要なのは、稲妻のような光が見えた後、飛蚊症が生じた場合です。網膜に穴が開いた可能性があり、早急な治療を要します。
●意識的に自分でチェックすべき障害
《網膜剥離(はくり)》
●見えにくい部分がある ●像がゆがむ
 網膜に穴が開き、液体が網膜の下に入って網膜が浮き上がり、はがれてしまうもの。どんどんはがれてしまうため、早期発見が大切となります。
 発症には二つのピークがあり、30代と50~60代。
《黄斑(おうはん)変性症》
●視野の中心が見えない ●ゆがんで見える ●視力が非常に落ちる
 年齢を加えるのにつれて、網膜の中心部にある黄斑部の働きが悪くなって、発症するもので、欧米では失明原因のトップです。日本でも増加傾向にあり、高齢化や食生活の欧米化が原因と見られています。
●自覚症状がなく危険な障害
《緑内障》
 眼球内部を満たす液体は、常に入れ替わっています。その出口がふさがれて眼圧が高くなるなどが原因となって、視神経が傷付き、視野が狭くなるもので、徐々に進行します。自分では気付かないことが多いので、眼科での眼圧、眼底、視野の検査が必要です。
  潜在的な患者は、40代以降で17人に1人と推定されています。
《糖尿病網膜症》
 日本人の失明原因で最も多いのが、実は糖尿病の合併症です。糖尿病は血管に大きな負担がかかるせいで、網膜に張り巡らされた細い血管がもろくなり、破れて出血すると視力障害を引き起こします。
 糖尿病の人は白内障、緑内障にもなりやすく、注意が必要です。
■対策へのアドバイス■
●毎日、片目ずつチェック
 通常のように両目で見ると、片目の視野が欠けていても、もう一方の目で補ってしまいます。手で片目を隠し、視野が欠けていないか、物がゆがんで見えないか、二重に見えないか、見え方が左右で違わないかなど、チェックを行いましょう。  毎朝、窓の外や鏡などを見て調べる習慣をつけましょう。
●定期検査を受ける
 緑内障では、眼圧が正常の範囲内に収まっているケースが6割を占めているため、内科の定期検診では見逃される場合もあります。眼圧に加えて、眼底と視野の検査をすればわかりますので、心配な人は眼科で検診を受けましょう。
 また、網膜には痛みの神経がないために、穴が開いたり、出血したりしても、痛みを感じません。とりわけ糖尿病や高血圧、動脈硬化がある人は、眼底の異常を起こしやすいので、年に2回の眼底検査を受けましょう。
●紫外線を避ける
 紫外線は化学作用が強く、目の老化を早めます。眼鏡をかけている人は、UV カットのものにし、白内障で光がまぶしく感じられる人は、波長の短い光をカットする黄色やオレンジ、赤系統のサングラスをかけるのがお勧めです。
●パソコンを使いすぎない
 人間は通常、1分間に15~20回のまばたきをして、目の乾燥を防いでいます。ところが、パソコンやゲームの画面を見ている際には、極端に減り、5回以下になってしまいます。目は乾燥すれば自然に涙が出て潤いますが、高齢になると涙の分泌が減るために、角膜が乾いてトラブルも起こりやすくなります。
 「目が疲れたな」と自覚したら、目薬を差すなどして注意しましょう。目薬の中でも、防腐剤の入っていない人工涙液の使用がお勧めです。
●緑黄色野菜をたっぷりと
 目の老化を予防する栄養素を含む食材としては、抗酸化作用のあるビタミンを含む緑色野菜と黄色野菜、いわゆる緑黄色野菜がお勧めです。
 また、ビタミンとともに最近、注目されているのがルテインで、ホウレンソウやブロッコリーなどに豊富に含まれています。ルテインは目の水晶体や黄斑部に分布していますが、人間の体内では作ることができないため、食物から摂取しなければなりません。
 ルテインが不足すると、白内障や黄斑変性症のリスクが高まると見なされています。

2022/08/27

🇳🇬交感性眼炎

片方の目のぶどう膜が損傷する外傷や手術を受けた後、1カ月以上経過してから、反対側の健康な目にも炎症が起こる疾患

交感性眼炎とは、片方の目の虹彩(こうさい)、毛様体、脈絡膜からなるぶどう膜が損傷するような外傷や手術を受けた後、1カ月以上経過してから、反対側の健康な目にも炎症が起こる疾患。

ぶどう膜は、眼球の外膜と内膜に挟まれた中間の層です。この層の膜は外から見えませんが、果物のぶどうの色をしていて、形もぶどうによく似ており、虹彩、毛様体、脈絡膜の3つの部分で構成されています。

虹彩は、瞳孔(どうこう)の周囲にある色の付いた環状の部分で、いわゆる茶目に相当する部分です。カメラレンズの絞りのように開いたり閉じたりして、眼内に入る光の量を調整します。

虹彩に続く毛様体は、いくつかの筋肉が集まった部分で、目のピント合わせをします。毛様体が収縮すると、水晶体が厚くなって近くの物に焦点を合わせることができ、毛様体が緩むと、水晶体が薄くなって遠くにある物に焦点を合わせることができます。同時に、毛様体で作られる房水は、目の内圧を一定に保つのに重要な働きをしています。

脈絡膜は、毛様体の縁から眼球後部の視神経のところまで広がっている部分。最も血管に富んで色素の多い組織で、網膜を裏打ちして目に栄養を与え、暗室効果を作って目を保護する役割を果たしています。

このぶどう膜の一部、あるいは全体が炎症を起こすのが交感性眼炎ですが、外傷や手術を切っ掛けとして、色素細胞が免疫系にさらされることにより色素に富んだぶどう膜に対する自己免疫反応として引き起こされ、多くの場合、外傷や手術を受けてから1カ月から2カ月を経て症状が現れます。

色素細胞に対する自己免疫反応という意味では、原田病と呼ばれる日本人を含め、アジア系の人種で頻度の高いぶどう膜炎と同じ病態であり、経過も似ていますが、外傷や手術が切っ掛けになる点で区別されます。

交感性眼炎の症状としては、原田病と似ており、発熱、のどの痛みなどの風邪のような症状、耳鳴り、難聴、めまい、頭痛などが、目の症状に先立って現れることもあります。時に、頭皮にピリピリするなどの違和感が出てきます。

目の症状は、まぶしい、目の奥のほうが痛い、物が見えにくいなど、通常、両目に現れます。一般的に脈絡膜炎を認め、しばしばその上に滲出(しんしゅつ)性網膜剥離(はくり)を伴います。

目のけがをした後は、眼科医の指示に従って、受傷していない目の定期的なチェックも必要で、異常を感じた場合は速やかに眼科医の診察を受けて下さい。早期治療を行わないと、視力が回復力しない場合もあります。

交感性眼炎の検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、原田病と呼ばれるぶどう膜炎と基本的に同じ検査を行います。

眼底検査を行うと、網膜剥離を伴う特徴的な炎症像がみられます。この滲出性網膜剥離は炎症に伴って起こるもので、通常の網膜に裂孔ができて起こる網膜剥離と違って、手術の必要はありません。炎症を鎮めることによって治ります。

造影剤を注射して蛍光眼底造影検査を行うと、網膜剥離に相当するところで造影剤が漏出するなどの特有の所見が得られます。髄液検査や聴力検査なども必要です。

ほかに血液検査を行うと、白血球の増大、赤沈の高進、CRP(C反応性蛋白〔たんぱく〕)陽性化などの炎症性の反応がみられます。また、白血球の血液型に当たる組織適合抗原(HLA)の中で、DR4またはDR53を持った人によく発症することも原田病と似ています。

眼科の医師による治療は、原田病の治療に準じて、目に永久的な障害が出るのを防ぐため早期に開始します。治療の中心は、炎症を鎮めるためのステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン)の大量点滴投与です。

ホルモンの一種であるステロイド剤を大量に投与すると、血栓の形成、高血圧、血糖上昇などの重い副作用が出る危険性もあるので、入院が必要です。超大量のステロイド剤を短期間に集中して投与する、いわゆるパルス療法が行われることもあります。免疫抑制薬を使うこともあります。

穿孔(せんこう)性の目の外傷を受けた人で、HLAーDR4またはHLAーDR53など遺伝的素因を持つ場合には、十分な経過観察が必要です。

重篤な交感性眼炎を起こした片方の目の視機能の回復が全く期待できない場合には、もう片方の目に交感性眼炎が起こる危険性を最小限にするために、眼球摘出や眼球治療の外科手術を行うこともあります。

🇨🇻高血圧性網膜症

高血圧に伴う血管障害などにより、網膜の出血や浮腫などの障害が出る疾患

高血圧性網膜症とは、高血圧に伴う血管障害などにより、網膜の出血や浮腫(ふしゅ)などの障害が出る疾患。高血圧性眼底とも呼ばれます。

高血圧に伴って網膜の毛細血管が障害を受けると、網膜への血液の供給が悪くなり、血管の壁から血液や血液成分が染み出す出血や滲出(しんしゅつ)、血流が不足している部位の白斑(はくはん)、血管から漏れ出た血液成分が網膜内にたまる浮腫などを生じます。特に、網膜の中心部にあって、視力の最も鋭敏な部位である黄斑(おうはん)で出血や浮腫が起こると、早期から視力が低下します。

初期では、目の自覚的な症状はほとんど現れません。急激に血圧が上がって急性症状が現れる悪性高血圧では、網膜の出血や浮腫が急性に起こるために視力が低下することがありますが、高血圧症の大部分を占める原因不明の本態性高血圧では、症状が現れるのはむしろまれです。

しかしながら、軽度の高血圧であっても、長い間治療しないで放置していると、網膜の血管が障害を受けることがあります。例えば、網膜内に血流が途絶えた部位ができると、そこに酸素や栄養を届けようとして、新たな血管である新生血管が伸びてきますが、この血管はもろくて破れやすく、出血が硝子体(しょうしたい)内に広がる硝子体出血に至ったり、出血から網膜剥離(はくり)に至ることがあり、高度の視力障害が残ってしまう可能性が高くなります。

また、高血圧性網膜症が網膜動脈閉塞(へいそく)症や網膜静脈閉塞症、虚血性視神経症などの原因となることがあり、その時にも高度の視力障害が残ってしまう可能性が高くなります。

初期では目に異常を感じることは少ないのですが、眼底検査を行うと、高血圧の程度によって網膜にさまざまな変化がみられます。高血圧症の人は、よく内科の医師によって眼底検査を受けるよう指示されます。人間ドックや成人病検診(生活習慣病予防検診)でも、眼底検査や眼底写真の撮影が行われます。これらは、眼底の血管すなわち網膜血管が直接目で見ることのできる体内唯一の血管系であり、眼底検査の結果が高血圧症などの診断や治療にも広く利用されているためです。

高血圧性網膜症の検査と診断と治療

眼科の医師による高血圧性網膜症の診断は、眼底検査により行われます。高血圧で起こる眼底の異常所見としては、動脈が細く狭くなる、網膜の出血や白斑、網膜や視神経乳頭の浮腫などがあります。

高血圧性網膜症の治療の第一は、全身的な高血圧の治療です。眼科として重要なのは、網膜動脈閉塞症や網膜静脈閉塞症、虚血性視神経症など視力を大きく低下させる疾患の原因となることがあるので、早期に高血圧性網膜症を発見し、内科での血圧のコントロールを患者に勧めることです。

高血圧性網膜症が進行し、網膜に出血、白斑、浮腫が高度に現れた場合や新生血管が生じた場合には、新生血管発生の抑制、硝子体出血の予防などを目的に、レーザー光凝固術による治療を行います。さらに、硝子体出血や網膜剥離が起きてしまった場合には、硝子体手術により硝子体の透明化、網膜の剥離部分の復位を行い、視力の回復を目指します。

しかし、かなりの重症例でも、高血圧性網膜症に対しての眼科的な治療は必要ありません。内科での高血圧の治療が、目の治療になります。網膜血管に動脈硬化がなければ、血圧を下げることで血管の状態は元に戻りますし、出血や滲出も消失します。薬物療法では、アンジオテンシン2受容体拮抗(きっこう)薬やカルシウム拮抗薬など、血管の収縮を抑える薬が主に用いられます。動脈硬化がある場合には、交感神経抑制薬(心臓の収縮機能を抑える薬)で、血管の負担を軽減します。

高血圧性網膜症を進行させないためには、内科での高血圧の治療とともに生活習慣を改善し、定期的な眼底検査などを忘れずに受けることが重要となります。

🇳🇦虹彩炎(虹彩毛様体炎)

瞳孔を囲む茶褐色の膜である虹彩に、炎症が起こる眼疾

虹彩(こうさい)炎とは、瞳孔(どうこう)を取り囲む茶褐色の膜である虹彩に、炎症が起こる疾患。正面からドーナツ状にみえる虹彩は、目に入る光の量を調節しています。

虹彩炎の多くは、隣接する毛様体といわれる組織の炎症を合併するため、虹彩毛様体炎とも呼ばれます。

サルコイドーシス、ベーチェット病、ぶどう膜炎の一つの型である原田病、リウマチなどの全身疾患の一症状として出現する場合のほかに、外傷、局所的な感染症も原因となります。原因不明の場合も数多くあります。

症状としては、目に強い痛みがあり、光が当たるとまぶしく、茶褐色の虹彩の周囲の白い部分に充血がみられます。視力が低下したり、目がかすんだり、涙が出たり、瞳孔が小さくなるなどの症状が起こることもあります。

失明することはまれですが、白内障や緑内障を合併して重大な視力障害が起こることもあります。逆に、白内障や緑内障による視力低下や視野欠損で、眼痛や充血などの自覚症状がない虹彩炎が見付かることもあります。

虹彩炎の検査と診断と治療

虹彩炎(虹彩毛様体炎)の症状があれば、すぐに眼科医を受診します。経過が長引くと、白内障や緑内障が起きたり、脈絡膜、硝子体(しょうしたい)、まれに視神経、網膜にまで変化が及ぶので、注意します。

医師は細隙灯(さいげきとう)顕微鏡検査を行い、前房内に炎症細胞が認められることにより診断します。重症な虹彩炎では、前房内にフィブリンが認められたり、水晶体と虹彩の癒着を認めることがあります。フィブリンとは、血液の凝固にかかわる蛋白(たんぱく)質で、長時間血管に存在すると血流障害を起こします。

眼圧や眼底の異常の有無の確認も、検査で行います。

虹彩炎(虹彩毛様体炎)の治療としては、まず第一に、瞳孔を大きく開かせる散瞳という処置を行います。散瞳には、硫酸アトロピンやトロピカミドなどの点服薬を用います。この処置を怠ると、瞳孔が水晶体に癒着した状態になり、これに白内障や緑内障を合併すれば、視力障害の最大の原因にもなります。

もう一つの治療は、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)や非ステロイド系の消炎剤の点眼や内服で、一時的に炎症を鎮めることが可能。これを早期より積極的に行えば、自然治癒と相まって、白内障、続発性緑内障などの後遺症を残さずにすみます。

そのほか、炎症の強さや原因によって、全身の治療が必要な場合がありますし、サルコイドーシス、リウマチなどの原因疾患の治療も大事です。

🇧🇼光視症

視線を移動した際に、目の中に光を感じる症状

光視(こうし)症とは、視線を移動した際に、視野の中心に光が走ったように見えたり、視野の一部にキラキラした物が見えたりする症状。多くのケースでは、目の前に蚊など小さい物が飛んでいるように見える飛蚊(ひぶん)症と同時に発生します。

光視症は飛蚊症と同様に、眼球の内部を満たす硝子体(しょうしたい)の収縮により、硝子体に癒着している網膜が刺激を受けて起こります。その背景には、硝子体の年齢による変化として後部硝子体剥離(はくり)が発生し、眼底で網膜と癒着している現象がみられます。後部硝子体剥離は、60歳代前半に好発します。

網膜と硝子体の間に強い癒着があると、その部位はすぐには、はがれず、目を動かすたびに硝子体が揺れて網膜が引っ張られます。この時、網膜が刺激を受けて実際にはない光を感じるのです。網膜と硝子体の癒着がとれれば、光は見えなくなります。癒着が長く残ると、光視症が数週間から数年間持続することもあります。

そのほかにも、過労や睡眠不足、脳の血管の疾患などが原因で、光視症が起こることもあります。片頭痛を伴う場合は、脳の血管が一時的にけいれんして起こる閃輝(せんき)暗点というものです。若い人に多く、光を感じる症状は数分から数十分で消えるものの、その後に片頭痛、悪心、吐き気が起こってきます。

光視症の主な原因となる後部硝子体剥離は自体は疾患ではなく、硝子体の加齢による変化として起こるのですが、これが引き金となって網膜裂孔や網膜剥離を起こすことがあるので、注意が必要です。

中で最も注意を要するのは、癒着部の網膜が引っ張られた結果、網膜に穴が開いてしまう網膜裂孔で、後部硝子体剥離の6~19パーセントに起こり、しばしば光視症や飛蚊症を自覚します。この網膜裂孔を放置しますと、裂孔から液体状になった硝子体が網膜の後に入り込んで、網膜がはがれる網膜剥離という怖い疾患につながります。

また、頻度は少ないのですが、後部硝子体剥離に際して、網膜血管が引っ張られることで破れ、血が硝子体の中に流れ出て硝子体出血になることがあります。

光視症の検査と診断と治療

光視症は必ずしも網膜剥離や、網膜裂孔の前兆としての症状ではありませんが、光視症と思われるような症状が数週間以上続くようでしたら、早めに眼科の専門医を受診して、詳細な眼底検査を受け、放置しておいてよいものかどうかを診てもらうことが大切です。

特に60歳前後に突然、光視症を自覚した場合には、なるベく早く眼科医を訪ね、後部硝子体剥離の有無、後部硝子体剥離によって生じる可能性のある疾患、特に網膜裂孔の有無をチェックしてもらうことが大切となります。

光視症は後部硝子体剥離が主な原因となって症状が出ますが、この段階では特別な治療方法はなく、基本的に治療の必要もありません。

後部硝子体剥離の際に網膜裂孔ができた場合に、放置しておくと発症する網膜剥離に対しては、入院、手術しか治療方法がありません。しかし、網膜裂孔だけの時期に発見できますと、外来で行えるレーザー光凝固療法によって網膜剥離を予防することができます。従って、光視症を自覚したら、なるベく早く眼科を受診することが大切で、早いほどよいわけです。

網膜裂孔以外のものでも、早期治療が大切です。例えば、硝子体出血の場合にも、出血の原因を調ベてもらうことによって、原因疾患に応じた適切な治療が受けられます。

何も治療を必要とするような疾患のなかった場合には、光視症をあまり気にせず、眼科で時々チェックしてもらい、今まで通りの生活を続ければよいわけです。後部硝子体剥離による光視症は、硝子体を手術で切除することにより理論上消失しますが、病的ではない症状に対して手術を選択されることはありません。

光視症に対して、ビタミンを含む緑黄色野菜、ルテインを含むホウレンソウやブロッコリーを多く摂取する食生活や、ブルーベリーなどのサプリメントの摂取で対応していく方法もあります。

🇰🇪シェ-グレン症候群

目と口が乾燥する自己免疫疾患

シェーグレン症候群とは、自己免疫の異常によって発症する自己免疫疾患。主症状とされる目の乾燥(ドライアイ)、口の乾燥(ドライマウス)のほかにも、全身にさまざまな障害を引き起こすことがあります。

自己免疫による疾患であり、自分の体の細胞に対して免疫反応を起こすことによって発症しますが、遺伝的要因、ウイルスなどの環境要因、さらに女性ホルモンの要因も複雑に関連し合っていると考えられています。免疫システムが涙を作る涙腺(るいせん)と唾液(だえき)を作る唾液腺を破壊してしまうために、目や口の乾燥が起こります。乾燥が進むと、目や口に傷が付いたり、涙や唾液の殺菌作用が働かず、感染症にかかりやすくなります。

シェ-グレン症候群という病名は、スウェーデンの眼科医ヘンリック・シェーグレンが1933年に発表した論文にちなんで、付けられています。

発症するパターンは2種類あり、医学的にもその2種類に大別されています。1つ目は原発性シェーグレン症候群で、関節リウマチなどの膠原(こうげん)病の合併のない種類です。 2つ目は続発性(二次性)シェーグレン症候群で、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、強皮症、皮膚筋炎、混合性結合組織病などの膠原病に合併する種類です。

原発性シェーグレン症候群の発症者の内訳をみると、約45パーセントの人は目と口の乾燥の症状のみを発症しています。ほとんど健康に暮らしている人もいますが、ひどい乾燥症状に悩まされている人もいます。約50パーセントの人は全身性の何らかの臓器障害を伴っていて、残り約5パーセントの人は悪性リンパ腫(しゅ)や原発性マクログロブリン血症を発症しています。

厚生省研究班の調査では、日本国内において1年間に、17000人が医療機関で治療を受けたという結果がまとまりました。 しかし、病気自体の認知度の向上や診断基準の普及などによって、発見、診断される率が高くなったことにより、シェーグレン症候群の患者数は近年、増加しています。 専門医の間では、診断を受けていない潜在的な発症者を含めると、約10~30万人と推定されています。

発症者は40~60歳の女性に多いのが特徴で、男女比は男性1人:女性14人。50歳代にピークがあり、子供や80歳以上のの老人が発症することも少数ながらあります。

続発性(二次性)シェーグレン症候群については、関節リウマチの発症者の約20パーセントにシェーグレン症候群が併発し、その他の膠原病の発症者にも併発しています。

シェ-グレン症候群の自覚症状は、以下のように現れます。

目の乾燥(ドライアイ)

涙が出ない、目がゴロゴロする、目がかゆい、目が痛い、目が疲れる、物がよく見えない、まぶしい、目やにがたまる、悲しい時でも涙が出ないなど。

口の乾燥(ドライマウス)

口が渇く、唾液が出ない、食事の際によく水を飲む、口が渇いて日常会話が続けられない、食べ物の味がよくわからない 、口内が痛む、夜間に飲水のために起きる、虫歯が多くなったなど。

鼻腔(びくう)の乾燥

鼻が渇く、鼻の中にかさぶたができる、鼻出血があるなど。

その他

唾液腺(だえきせん)の腫(は)れと痛み、息切れ、熱が出る、関節痛、毛が抜ける、肌荒れ、夜間の頻尿、紫斑(しはん)、皮疹(ひしん)、手指や足先が蒼白(そうはく)になり次いで紫色になってピリピリ痛んだりするレイノー現象、アレルギー、日光過敏、膣(ちつ)乾燥(性交不快感)など。全身症状として、疲労感 、記憶力低下、頭痛は特に多い症状で、めまい、集中力の低下、気分が移りやすい、うつ傾向などもよくあります。

病気の診断と、目や口の乾燥症状の治療

医師による診断では、1)口唇小唾液腺の生検組織でリンパ球浸潤がある、2)唾液分泌量の低下が証明される、3)涙の分泌低下が証明される、4)抗SSS‐A抗体か抗SS‐B抗体が陽性である、という4項目の中で2項目以上が陽性であれば、シェーグレン症候群と見なされます。

治療では、目や口などの乾燥症状を軽快させることと、疾患の活動性を抑えて進展を防ぐことが目的とされます。現状では、根本からシェーグレン症候群を治す治療法はありません。

目の乾燥(ドライアイ)に対する治療法は、涙の分泌の促進、涙の補充、涙の蒸発の防止、涙の排出の低下を目的に行われます。

涙の分泌を促進する方法として、ステロイド薬による抗炎症作用や炎症細胞の浸潤抑制による効果が一部で期待されます。

涙の補充には、人工涙液や種々の点眼薬を1日3回以上使用します。傷害された角膜上皮の再生促進や角膜炎の治療の目的として、ヒアルロン酸、コンドロイチン、ビタミンA、フィブロネクチンなどを含んだ点眼薬も使用されます。別の治療法として、自己血清を採取してこれを薄めて使用する方法が推奨されています。血清の中には、上皮成長因子、ビタミンなどさまざまな物質が入っているからです。

涙の蒸発を防ぐために、眼鏡の枠にビニール製のカバーをつけたモイスチャー・エイド(ドライアイ眼鏡)があります。

涙の排出を低下させるためには、鼻側の上下にある涙の排出口である涙点を閉じる方法があります。それには涙点プラグで詰める方法や、手術によって涙点を閉鎖する方法があります。

口の乾燥に対する治療法は、唾液の分泌促進、唾液の補充、虫歯の予防や口内の真菌感染予防、口腔(こうくう)内環境の改善を目的に行われます。

唾液の分泌を促進するものとして、アネトールトリチオン(フェルビテン)、ブロムヘキシン(ビソルボン)のほか、漢方薬なども用いられます。副腎(ふくじん)ステロイド剤も有効であり、症状に合わせて使用されます。

唾液の補充には、サリベートや2パーセントのメチルセルロースが人工唾液として使われます。サリベートは噴霧式で舌の上だけでなく、舌下、頬(ほお)粘膜に噴霧したほうが口内で長持ちします。また、冷蔵庫保存で不快な味が消えます。

虫歯の予防や口内の真菌感染、口角炎を予防するものとしては、イソジンガーグル、ハチアズレ、オラドール、ニトロフラゾン、抗真菌剤などが用いられます。歯の管理と治療としては、ブラッシング、歯垢(しこう)の除去と管理、虫歯、歯周病対策などがあります。オーラルバランスという口腔保湿剤もあります。

なお、全身性の臓器病変のある人の場合は、内科などでステロイド薬や免疫抑制薬などを含めて適した治療を受けるべきです。全身性の病変の中には、白血球減少、高γグロブリン血症、皮膚の発疹、間質性肺炎、末梢神経症、肝病変、腎病変、リンパ腫などがあります。

🇸🇴色盲、色弱(色覚異常)

色を感じる働きである色覚に、生まれ付きの障害

色盲、色弱とは、色を感じる働きである色覚が生まれ付き障害されている状態。色覚異常、色覚障害とも呼ばれます。

人間がいろいろな色を感じることができるのは、主に網膜の最も敏感なである黄斑(おうはん)に分布する錐体(すいたい)細胞の働きによるものです。この錐体細胞には、赤、緑、青のそれぞれの光に感じる3種類の細胞があり、物をみると、それらへの刺激が起こり、網膜や脳で処理された上で色として感じられるのが、色覚という働きです。

色覚異常は、日本人男性の4〜5パーセントにみられ、女性ではその10分の1くらいにみられます。男性に多いのは、色覚異常が伴性劣性遺伝をするためです。

この色覚異常は、起こり方によって、全色盲(全色弱)、部分色盲、部分色弱に分けられます。

全色盲(全色弱)は、色の見分けが全くできないもので、弱視や、眼球が左右に揺れたり、ぐるぐる回転する眼球振盪(しんとう)、明るい光をまぶしく感じる羞明(しゅうめい)を伴い、視力も0・1以下であるものを全色盲といいます。また、視力は正常でも、すべての色に対する色覚が欠けているものを全色弱といいます。

色覚がないために、すべての物を黒色、灰色、白色の変化として見ていることになります。

部分色盲は、赤と緑の区別ができないものを赤緑色盲といい、これはさらに、赤色盲と緑色盲に分けられます。

赤色盲とは、赤の光に対する感覚がなく、青緑の光に対する感覚にも異常があるため、赤と緑の区別ができない色盲です。第一色盲ともいいます。

緑色盲とは、緑の部分が灰色か黒色に見え、赤の光に対する感覚にも異常があって、赤と緑の区別ができない色盲です。第二色盲ともいいます。

このほか、青と黄と灰色が同じに見える青黄色盲もあり、第三色盲ともいいますが、非常にまれです。

部分色弱は、赤と緑に対する感度が低下しているが、色盲より障害の程度が軽いもので、赤緑色弱といいます。これもさらに、赤色弱と緑色弱に分けられます。

このほか、青黄色弱もあります。

赤色盲と赤色弱を合わせて第一異常、緑色盲と緑色弱を合わせて第二異常、青黄色盲と青黄色弱を合わせて第三異常と呼ぶこともあります。

色盲、色弱の検査と診断と治療

色覚異常は遺伝子の変異であるため、治療法はありません。

2002年までは学校健診で色覚検査が行われていたため、異常が見付かった人が色覚異常の確定診断のために眼科を訪れていました。しかし、確定診断に必要なアノマロスコープを装備する眼科は多くないため、実際は不十分な診断が行われて問題がありました。

2003年以降は、学校健診での色覚検査は廃止され、希望者のみが検査を受けるようになりました。検査で異常が出たら、専門の医療機関で遺伝子相談や職業適性についてのアドバイスを受けることが可能になっています。

2022/08/26

🇹🇳視神経委縮

視神経の中の神経線維が減少、消失する眼疾

視神経委縮とは、視神経を侵すいろいろな疾患が進行して、最終結果として現れる病変。視神経を構成している線維の軸索や髄鞘(ずいしょう)が減少、消失して、視神経は回復できない状態にまで変性しています。

視神経は視覚情報を伝える100万本以上の神経線維を含んでいて、網膜に映った物の形や色、光などの情報を脳神経細胞に伝達するという役割を担っていますので、視神経が損傷すると物を見る働きも、部分的にまたは完全に損なわれてしまいます。

片目、または両目の視力の減退や視野の欠損などが、主な症状として現れます。視界のぼやけ、色覚の障害 、光を目に差し入れた時の瞳孔(どうこう)の縮瞳の減弱、 同じ光を左右の目に差し入れた時の障害側でのまぶしさの減少なども現れます。視神経乳頭と呼ばれる眼球後方の円盤状の部分は青白くなり、最後には失明することが多くみられます。

この視神経委縮には、単純性委縮、炎性視神経委縮、軸性視神経委縮、網膜性視神経委縮、緑内障性神経委縮、遺伝性視神経委縮があります。

単純性委縮は、球後視神経炎や視神経管骨折、脊髄癆(せきずいろう)などでみられるものです。視神経管骨折は梅毒、頭蓋(ずがい)底骨折、脳腫瘍(しゅよう)、内頸動脈瘤(ないけいどうみゃくりゅう)、外傷によって起こるもので、早期に手術を行えば、失明せずにすむことがあります。

炎性視神経委縮は、うっ血乳頭や乳頭炎、視神経炎の経過後に起こるものです。

軸性視神経委縮は、ビタミンの欠乏、たばこの過剰摂取、アルコール中毒、あるいは悪性貧血などによる軸性視神経炎の経過後に起こるものです。

網膜性視神経委縮は、中心性網膜脈絡症の進行期に、視神経乳頭が黄白色調を現すものです。

緑内障性神経委縮は、緑内障で眼球の中の圧力が高い時に視神経が圧迫されて起こるもので、視神経乳頭の陥没を伴います。

遺伝性視神経委縮は、視神経が正常な発達をしなかった場合にみられるものです。思春期の男子に発症し、両眼性の急激で高度の視力障害が起こるレーベル病のほかに、常染色体性優性遺伝や劣性遺伝の視神経委縮があります。

最も多い視神経委縮としては、その発生原因が不明のものも少なくはありません。

視神経委縮の検査と診断と治療

視神経委縮では、早期にその原因となる疾患を明らかにして、それを取り除くことで進行を止めるという早期診断、早期治療が最も有効ですので、視野の欠損や視力の低下を自覚した際には、眼科の専門医を受診します。

眼科医による検査では、眼底鏡を使って瞳孔(どうこう)を通し、眼球後方の円盤状の部分である視神経乳頭を観察します。視神経の委縮があるならば、この小さな視神経乳頭は視神経線維の減少を反映して、蒼白(そうはく)あるいは白いと表現されるように変化していますので、視神経委縮と診断されます。

この眼底検査のほか、視力検査、瞳孔の反応検査、視野検査、MRI検査、血液検査、髄液検査などが必要に応じ行われます。

視神経委縮の治療としては、その原因となった疾患の治療が基本で、脳外科や耳鼻科などと連携した治療が必要です。しかし残念ながら、視神経委縮に対しては、初期以外は有効な治療法は存在しません。視神経の中の神経線維が失われてしまうと、その線維は復活することはありません。

早期にその原因を明らかにして、それを取り除くことで進行を止めるという早期診断が、最も治療には有効なのです。 その原因の治療を早く行えば、視野の欠損や視力の低下の進行を抑えられるだけでなく、治療のできる疾患が隠れていることに気が付く場合が少なくありません。

例えば、ゆっくり進行する良性の脳腫瘍が数年後に見付かることも、まれではありません。視神経委縮という診断ですでに視力を失っている発症者も、数年に一度は再度詳細な検査を受けることが勧められます。

なお、視神経に有害な物質が原因で発症した視神経委縮の場合は、たばこやアルコール、その他の有害な物質を避ける必要があります。アルコール摂取が要因だと考えられる場合は、バランスのよい食事を取るとともに、ビタミン類のサプリメントを摂取します。

栄養の不足が原因の視神経委縮の場合は、サプリメントにより不足した栄養が補われます。ただし、ビタミンB12の不足が原因の場合は、サプリメントの摂取だけでは不十分で、ビタミンB12が注射で補われます。視神経が委縮していない限り、ある程度の視力回復が期待できます。

🇲🇦視神経炎

視神経に生じた炎症による視機能障害

視神経炎とは、眼球後方の視神経に生じた炎症による視機能障害。視力低下、眼痛のほか、視野障害として、中心部が見えなくなったり、周辺部が見えなくなったりします。

視神経は眼底から大脳へと伸びて、目から入った視覚情報を大脳の後頭葉にある視覚中枢へと伝える役割を果たしています。視神経に炎症が生じると、網膜に映った像は正常でも、そこから大脳へ伝達される間に異常があるので、結果的に視力障害を来します。

視神経炎の頻度は、10万人に1人と見なされています。女性に多くみられ、発症年齢は20~30歳代に多いのですが、小児や60歳代での発症もあります。

視神経炎になった場合、視力が急激に低下し、眼球運動に伴う目の奥のずきずきする痛みが半数以上に出ます。この目の奥の痛みは、視力障害に先立って自覚されることもよくあります。

視力障害の程度は軽度から重度までさまざまで、中には1~2日で視力が低下し、明るさを失って白っぽく感じられ、中心部が見えなくなる中心暗点を呈することがあります。片目だけに症状が現れた場合は、もう一方の目でほとんどの物が見えるので、視力低下に気付かないこともあります。

視神経炎の多くは、視力が低下してから1~4週間で回復し始め、ゆっくりと正常または正常近くまで戻ります。原因によっては、視力がいったん回復しても再発を繰り返し、徐々に視力が悪化することもあります。

視神経の眼球壁内に起こる乳頭炎と、これより後方に起こる球後視神経炎の2種類に分けられます。乳頭炎は、眼底の視神経の先端部分に当たる乳頭や、これに近い部分の視神経に腫(は)れを示します。 球後視神経炎は、眼球の後方に炎症があって腫れが見えず、乳頭が正常に見えます。

視神経炎の原因としては、多発性硬化症など特定の自己免疫疾患、視神経脱髄(だつずい)性変化、視神経脊髄炎、ビタミンB1欠乏症、ウイルス感染、ワクチン接種、梅毒、結核、眼球内の炎症、鼻や歯や扁桃腺(へんとうせん)からの病巣感染などがあります。ほかに、事故による頭の強打、薬物の影響などでも、視神経に炎症や委縮が起きることがあり、視神経乳頭炎タイプに多くみられます。

全身の神経の再発性の炎症である多発性硬化症は、球後視神経炎タイプの原因となる代表疾患です。急激に視神経炎を発症することが多く、その後、視神経炎症状は軽快と悪化を繰り返します。

20~40歳代の成人に多くみられ、自己免疫異常やウイルス感染の関与が考えられていますが、いまだに詳細は不明です。多発性硬化症では、目の障害だけでなく、手足のまひなどの運動失調、感覚障害、認知症などが出現することがあります。

視神経脱髄性変化は、視神経炎の原因として若年者から中年に多いものです。視神経の炎症によって、視神経の周りを取り囲む髄鞘(ずいしょう)が脱落し、視神経機能に障害が起こります。

髄鞘の構成蛋白(たんぱく)に対する自己免疫の関与が考えられていて、何らかのウイルス感染の関与も考えられています。視神経脱髄性変化による視神経炎の特徴として、入浴や運動など体温が上昇した際に見えにくくなることも知られています。

小児では、ウイルス感染に対するアレルギー反応や髄膜炎の波及で視神経炎になりやすく、高齢者では、視神経栄養血管の循環障害によって視神経炎になるケースが多く見受けられます。

視神経炎の検査と診断と治療

医師による診断では、瞳孔(どうこう)の反応検査と、検眼鏡による眼底検査、及び視野検査を行って診断を確定した後、MRI検査が行われます。

片眼性の視神経炎の場合は、瞳孔の対光反応に左右差があることが特徴的で、瞳孔の反応検査は診断上重要です。急性期視神経炎には、眼底検査で視神経乳頭の腫れが認められることが多いのですが、炎症が眼球より後方の視神経に限られている場合には、眼底は全く正常の所見を示しますが、慢性期視神経炎では視神経委縮を示します。

また、周辺視野検査により、周辺部の視野欠損が発見されることがあります。

視神経の病変を直接見ることができる眼窩(がんか)部や頭部のMRI検査では、視神経炎の原因になっていることがしばしばある多発性硬化症や、まれに視神経を圧迫している腫瘍(しゅよう)が見付かることがあります。多発硬化症の場合には、側脳室周囲の白質に、白色に見える脱髄性病変が散在しています。

ほとんどの視神経炎は、特に治療しなくても数カ月のうちに改善されます。病状によっては、副じん皮質ステロイド剤の点滴治療と、その後の内服により治癒が早まり、再発が防止できることがあります。副腎皮質ステロイド剤以外では、神経保護のビタミンB12製剤の内服を行います。

多発性硬化症による視神経炎、高度の視力障害を起こす難治性再発性の視神経炎の場合には、副じん皮質ステロイド剤の反応も悪く、長期間の投与により副作用も懸念されることがありますので、インターフェロンβ(ベータ)―1b治療が悪化の抑制、再発防止に有効です。

視神経を圧迫している腫瘍がある場合は、通常、腫瘍による圧力が取り除かれると視力が回復します。

治療により視力がいったん回復しても、原因によっては再発を繰り返し、徐々に視力が悪化することもありますし、片目だけに現れた症状が両目に現れることもありますので、定期的な経過観察は必要です。予後の比較的よい視神経炎では、10年後にも視力が1.0以上を維持します。

🇲🇦視神経症

神経の損傷で視機能障害が起こった状態

視神経症とは、直接的な圧迫や循環障害が起こって視神経が損傷し、慢性かつ進行性の視機能障害が起こった状態。視神経は網膜に映った物の形や色、光などの情報を脳神経細胞に伝達するという役割を担っていますので、視神経が損傷すると物を見る働きも損なわれてしまいます。

この視神経が障害される疾患には視神経炎もありますが、厳密には、視神経の炎症によるものを視神経炎、炎症性でないものを視神経症と区別します。医師による実際の診断では、すぐに区別の付かないことも多いため、視神経症も含めて視神経炎といわれることもあります。

視神経症の視力障害は、数分から数時間で急速に進むこともあれば、2~7日かけて徐々に進行することもあります。多くは中心視力が低下しますが、視野狭窄(きょうさく)のみで視力は低下しないこともあります。視野異常も中心が見えにくくなる中心暗点から、耳側もしくは鼻側半分が見えにくくなる半盲性障害までさまざまです。視機能障害が片目に生じるか両目に生じるかは、原因によって異なります。

視神経症は、虚血性視神経症、外傷性視神経症、レーベル病を含む遺伝性視神経症、圧迫性視神経症、栄養欠乏性視神経症、中毒性視神経症、鼻性視神経症、甲状腺(こうじょうせん)視神経症、腫瘍(しゅよう)性視神経症などに分類されます。

虚血性視神経症

視神経へ栄養を送る血管の循環障害により、視神経への血液供給が妨げられると、視神経細胞が死んだり機能しなくなって、視機能の低下が生じます。この状態を虚血性視神経症といいます。この視神経症には、非動脈炎性と動脈炎性の2つのタイプがあります。

非動脈炎性虚血性視神経症は、50歳以上の人に起こることが多い疾患。視神経乳頭の梗塞(こうそく)によって、眼底に乳頭の蒼白浮腫(そうはくふしゅ)が生じ、視力低下と視野障害が出ます。

この疾患にかかりやすくなる要因としては、高血圧、糖尿病、動脈硬化があります。まれに、ひどい片頭痛を持つ若い人にもみられます。

動脈炎性虚血性視神経症のほうは、70歳以上の人に起こることが多い疾患。動脈が炎症を起こし、視神経への血液供給が妨げられて視神経症が起こるもので、特に多いのは側頭動脈の炎症です。側頭動脈炎が原因の視神経症は、浅側頭動脈に沿った痛みがあり、視力障害の程度がより重くなる傾向があります。

外傷性視神経症

外傷性視神経症は、視神経管への打撃や同部位の骨折による視神経症です。眉毛(まゆげ)部外側の打撲、鼻出血を伴う視力障害で、外傷性視神経症が疑われます。視神経管の骨折はそれほど多くなく、浮腫性変化や出血による視機能障害が大多数です。

遺伝性視神経症

種々のものがあり、いずれも難治性です。比較的多いものとしては、レ一ベル病(レーベル遺伝性視神経症)と優性遺伝性若年性視神経委縮症があります。

レーベル病は、10歳代から30歳代の男性に多く、片目または両目の比較的急激な視カ低下で始まる視神経症で、母系遺伝を示し同一家系内で発症することがあります。その後、数カ月の間に徐々に視神経乳頭の耳側より委縮が始まり、1年以内に視神経全体が委縮します。治療しない多くのレーベル病の発症者は、最終視力が0.1以下になります。

優性遺伝性若年性視神経委縮症は、10歳未満で発症します。初期には視カ低下のほかに色覚異常を示します。

圧迫性視神経症

眼窩(がんか)内の腫瘍や、甲状腺機能の異常に伴う外眼筋の腫大、副鼻腔(びくう)の病変(蓄膿)手術後の嚢胞(のうほう)という袋、悪性腫瘍などによる視神経の圧迫が原因です。

栄養欠乏性視神経症

不規則な食生活に過度の飲酒や喫煙、あるいは悪性貧血が原因となって、ビタミンB12を始めビタミンB1、ビタミンC、葉酸の不足により、両目の中心暗点を呈する視神経症が発症します。これは栄養性弱視とも呼ばれます。視野の中心部に小さい視野欠損が生じて次第に大きくなり、時には視力が完全に失われることがあります。

中毒性視神経症

鉛やメチルアルコール(メタノール)、エチレングリコール(不凍液)、タバコ、ヒ素、トルエンなどの有機溶剤、有機リン農薬、カーバメイト農薬など、視神経に有害な物質による障害もあります。まれに、抗結核薬のエタンブトールや、クロラムフェニコール、イソニアジド、ジゴキシンなどの薬剤が原因で発症することもあります。この種の視力障害は、中毒性弱視と呼ばれることもあります。 

鼻性視神経症

視神経と副鼻腔は極めて隣接した位置関係にあるため、副鼻腔で起こった炎症が視神経にまで及んだり、副鼻腔にできた腫瘍などが視神経を圧迫することなどによって視神経障害が起こります。時に、耳鼻咽喉(いんこう)科での緊急処置を要することもあります。

甲状腺視神経症

重症の甲状腺眼症で外眼筋が肥大することによって、眼窩先端部で視神経が圧迫される視神経症です。

腫瘍性視神経症

眼窩内または頭蓋(とうがい)内における腫瘍が原因となって、視神経障害を起こしたもの。特に、視神経自体に発生する腫瘍は、失明の原因になります。

視神経症の検査と診断と治療

多くの視神経症は片眼性、無痛性で、急激発症の形をとらないため、たまたま片目を閉じてみたら見えにくいことに気付く場合がほとんどです。視力低下がゆっくりではあるものの慢性進行性であれば、早く眼科で精密検査を受ける必要があります。

医師による診察では、主に検眼鏡で目の後部を観察することで診断されます。この眼底検査のほか、視力検査、瞳孔(どうこう)の反応検査、視野検査、MRII検査、血液検査、髄液(ずいえき)検査などが必要に応じ行われます。

片眼性の視神経症の場合は、瞳孔の対光反応に左右差があることが特徴的で、瞳孔の反応検査は診断上重要です。動脈瘤(りゅう)など血管性病変が疑われる場合は、MRA検査や脳血管造影が必要になります。

同時に、毒物にさらされた可能性がないか、視神経症のリスク要因となるその他の病気にかかっていないかどうかについて、慎重に問診が行われます。

側頭動脈炎が疑われる場合は、診断を確定するために、側頭動脈の生検、すなわち組織のサンプルを採取して、顕微鏡で観察する検査が行われることもあります。

視神経症の治療では、基本的には原因となる疾患の治療が原則となり、脳外科や耳鼻科などと連携した治療が必要です。

非動脈炎性虚血性視神経症の治療では、高血圧、糖尿病、コレステロール値など、視神経への血液供給に影響を与える要因をコントロールしていきます。側頭動脈炎が原因の動脈炎性虚血性視神経症の場合は、正常な反対側の目に視力障害が起こるのを防ぐため、副じん皮質ステロイド剤、血管拡張剤、ビタミン剤などの内服や点滴が行われます。

視神経に有害な物質や薬剤が原因で発症した視神経症の場合は、タバコやアルコール、その他の有害な物質や薬剤を避ける必要があります。アルコール摂取が要因だと考えられる場合は、バランスのよい食事を取るとともに、ビタミン類のサプリメントを摂取します。鉛が原因である場合は、鉛を体外に排出するため、サクシマーやジメルカプロールなどのキレート剤が使用されます。キレート剤には、金属に結合して体外への排出を促す作用があります。

栄養の不足が原因の視神経症の場合は、サプリメントにより不足した栄養が補われます。ただし、ビタミンB12の不足が原因の場合は、サプリメントの摂取だけでは不十分で、ビタミンB12が注射で補われます。視神経が委縮していない限り、ある程度の視力回復が期待できます。

🇬🇫弱視

視力が生来弱く、眼鏡で矯正できない状態

弱視とは、単に視力が悪いだけでなく、眼鏡やコンタクトレンズを用いても十分に視力を矯正できない状態。乳幼児の視力の発達過程における、何らかの器質的病変、機能的障害によって生じます。

裸眼視力が0・1以下であっても、眼鏡などで矯正すると視力が1・0以上出る場合は、細かい物を見る力は完成していると考えられ、弱視とはいいません。眼鏡などで完全矯正しているにもかかわらず、視力が出ない状態が弱視です。

弱視にはさまざまな原因がありますが、主なものとして形態覚遮断弱視、斜視弱視、屈折性弱視が挙げられます。

形態覚遮断弱視は、先天性白内障や、まぶたの腫瘍(しゅよう)、眼瞼(がんけん)下垂などの疾患がある場合、あるいは3〜7日ほど眼帯をつけたりした場合に、視覚入力が妨げられ、物を見る訓練ができないことによって起きる弱視。新生児にこのような要因が働くと、数日間でも弱視化することがあり、注意が必要です。

斜視弱視は、斜視があって目が正面を向いていない場合に、網膜で最も感度の高い黄斑(おうはん)部に像を結ばなくなり、視機能の発達が妨げられることによって起きる弱視。斜視があると、両眼視ができないため物が二重に見えます。物が二重に見えると、脳が混乱するため、正常な目のほうが優位に働き、斜視になっている片方の目が弱視になる場合があります。先天性の弱視が原因となって、斜視になる場合もあります。

屈折性弱視は、強度の遠視、乱視、近視などが原因となる弱視。遠視といえば「遠くがよく見える」というイメージがありますが、視力は近くを見ることにより発達するため、近くにピントの合わない強度の遠視では、視機能の発達が妨げられて弱視が起きます。強度の乱視も同様。近視の場合は、病的な近視でない限りは近くにピントが合うため弱視にならないことが多いものの、片目のみ強度の近視である場合には弱視が起きます。

弱視の検査と診断と治療

乳幼児の弱視は、保護者が注意していてもわからないことがままあります。テレビを前の方で見る、目を細める、いつも頭を傾けて物を見るなど、いかにも物を見にくそうにしている場合には、注意が必要です。特に、片方の目だけが弱視の場合、よいほうの目で普通に見ているため気が付かないことが多くなりますので、片目を隠してカレンダーや時計を見せてみます。

弱視の目は、疲れやすいものです。乳幼児の間はあまり不便を感じないとしても、学校にいくようになると、長く教科書を読むことがつらくなったり、勉強に集中することができないかもしれません。大人になって不便を感じるようになったとしても、目の成長が止まってしまった後では手の施しようもありません。両目ともある程度の矯正視力がなければ就けない職業もまだありますし、健全なほうの目に何かあった時には悪いほうの目だけで生活することになるのです。最悪の事態も考慮に入れて、できる限りのことをしておきます。

弱視は早期に治療を開始すれば効果が大きいため、少しでも異常に気が付いた時には眼科を受診します。また、 3歳児健診の視力検査を必ず受けるようにし、異常が疑われた場合は早い時期に精密検査を受けます

治療では、低年齢であればあるほどよい結果が期待でき、3歳くらいまでに見付かると治る可能性が高くなります。人間の視機能の感受性は出生後上昇し、3カ月くらいでピークを迎えて1歳半ころまで感受性が高い時期が持続しますが、それ以後は徐々に下降し6〜8歳くらいでほぼ消失します。治療は6歳までに終えておくのが理想的で、10歳くらいから弱視の治療を始めても、視機能の感受性がほとんどないため効果が得にくいといえます。

弱視を治す治療法としては、遠視、乱視、近視などの屈折異常があれば、眼鏡かコンタクトレンズなどを使って屈折矯正して、網膜にピントをきちんと合わせ、鮮明な像を脳に送り、視機能の発達を促すことが基本となります。

片方の目のみが特に視力が悪い場合には、健全なほうの目を1日数時間、アイパッチと呼ばれる大きな絆創膏(ばんそうこう)のようなもので遮閉(しゃへい)したり、同じく健全なほうの目にアトロピンなどの目薬を点眼して故意に見えにくくした上で、悪いほうの目に完全矯正した眼鏡をかけて無理に使わせ、視力の発達を促す方法も多く行われます。この方法は病院だけではなく、家庭でもずっと行わないと意味がありませんので、家族の協力が必要となります。

屈折異常が原因の場合は、原因に適切な対処をすることにより、視力の改善が望めます。斜視弱視の治療は、まず弱視の治療を行い、視力が出た段階で、斜視の治療を行います。また、病院により、4歳児以上では視能訓練士による機械を利用した訓練を行います。

🇦🇷若年網膜分離症

網膜中央の黄斑が変性し、時には網膜周辺部の分離を伴う先天性の眼疾

若年網膜分離症とは、眼球内部の網膜中央にある黄斑(おうはん)に進行性の変性がみられ、時には網膜周辺部の外層と内層への分離を伴う先天性の眼疾。先天網膜分離症、X染色体若年網膜分離症とも呼ばれます。

黄斑は、光を感じる神経の膜である網膜の中央に位置し、物を見るために最も敏感な部分であるとともに、色を識別する細胞のほとんどが集まっている部分。網膜の中でひときわ黄色く観察されるため、昔から黄斑と呼ばれてきました。この黄斑に変性がみられると、視力に低下を来します。また、黄斑の中心部には中心窩(か)という部分があり、ここに変性がみられると、視力の低下がさらに深刻になります。

一方、網膜は10層の組織から構成されていて、外側から順に網膜色素上皮層、視細胞層、外境界膜、外顆粒(かりゅう)層、外網状層、内顆粒層、内網状層、神経節細胞層、神経線維(繊維)層、内境界膜となっています。その網膜の層の細胞接着が弱く、内部が神経節細胞層と神経線維層レベル、あるいは外網状層と内顆粒層レベルで2層に分離するのが、網膜分離に相当します。

若年網膜分離症は典型的なX染色体連鎖性劣性遺伝の疾患で、もっぱら男性が発症します。推定有病率は、5000人から2万5000人に1人。原因遺伝子はX染色体の短腕末端に局在するRS1(XLRS1)遺伝子で、網膜の発生、分化時の細胞接着などに関与すると見なされています

出生時に基本な病変がほぼ完成している先天奇形で、1~5歳ころに視力低下によって疾患が見付かります。ほとんどの場合に、両眼に発症します。

黄斑の進行性の変性によって、見ようとする物の中心部分がぼやけたりして視力が徐々に低下してゆき、20歳ころには0・1程度になっているのが一般的で、矯正視力は平均的には0・2~0・4。青壮年以後には、黄斑に緩やかな委縮性変化が加わってきます。

時に網膜の周辺部が外層と内層に分離した場合には、網膜内部の変化に加えて 、硝子体(しょうしたい)との界面にさまざまな変化をみます。網膜の血管が切れてしまう場合には、硝子体出血が起こることもあります。また、網膜がその下にある脈絡膜からはがれる網膜剥離(はくり)を合併することもあります。

硝子体出血、網膜剥離、増殖性硝子体網膜症を合併しなければ、視機能が大幅に低下することはありません。進行は緩やかですが、網膜の周辺部が分離した場合には、網膜の内部で神経細胞の連結が断裂したり、神経接続が悪くなっているので、全体的に視機能は落ちて、視野異常、斜視、眼振、夜盲を伴うこともあります。網膜の中心近くまで分離が進むと、まれに失明も認められます。

若年網膜分離症の検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、両眼対称性であること、進行性であること、家族にかかった人がいることなどが重要な手掛かりになります。診断の確定には眼底検査と網膜電図検査も大切で、眼底検査を行うと両眼の黄斑部から周辺部にかけて異常所見を見付けることができます。ほかの疾患と鑑別が困難な場合には、確定診断の目的で遺伝子診断を実施します。

眼科の医師による治療では、通常、経過観察します。網膜の周辺部が2層に分離した場合には、網膜の内部で神経細胞の連結が断裂していますので、機能の回復は望めません。しかし、機能の回復が望めない反面、網膜剥離などを起こさない限り進行は遅いので、積極的に手術をすることはまずありません。手術によって悪化させる場合があるからです。

網膜剥離を合併している場合には、手術により網膜とその下にある脈絡膜を連結します。手術によって、多くの網膜剥離は元の位置に戻す網膜復位が可能ですが、一度の手術で網膜が復位しないために、複数回の手術を必要とすることもあります。

手術後の視力に関しては、網膜剥離が発生から間もない状態であり、はがれている範囲も小さい場合は、手術も比較的簡単で、見え方も元通りに回復する可能性が高いといえます。物を見る中心部分の黄斑がはがれていない場合には、手術前と同程度にまで回復する場合もあります。黄斑がはがれてしまっていた場合には、元通りの視力に戻ることは難しくなります。

硝子体出血を合併している場合、出血が軽いものなら自然に吸収されることもありますが、出血がひどい場合や硝子体に濁りが起こると、視力障害が起こる場合があります。この場合の治療は、止血剤や血管強化剤などの投与が行われたり、レーザー光での凝固術が行われます。レーザー光凝固術は、出血部の網膜を焼き固めて、網膜の血流をスムーズにし、出血の吸収と再出血を防止させるために有効です。

それでも出血の吸収傾向がみられない時には、硝子体切除術を行ない、出血で濁った硝子体を取り除いて、視力回復を試みます。硝子体切除術は、まず角膜の周辺から特殊な器具を挿入し、目の奥にたまっている血液や濁った組織、またゼリーのような硝子体も切除、吸引します。硝子体は眼球の丸みを保つために必要な組織ですから、切除すると同時に、代わりの液体やガスを注入します。

🇺🇾斜視

注視点に向かう両目の視線がずれている状態

斜視とは、両目が見ようとする目標に向かわず、一方の目は目標に向いているのに、片方の目はよそを向いている状態。俗に、やぶにらみとも呼ばれます。

よそを向く方向によって、内斜視、外斜視、上斜視、下斜視、回旋斜視などに区別されます。内斜視では、 右目または左目だけが内側(中心)を向いています。外斜視では、 右目または左目だけが外側を向いています。上斜視では、 右目または左目だけが上を向いています。下斜視では、 右目または左目だけが下を向いています。回旋斜視では、視野が時計回りか反時計回りかに回るようなずれ方をします。人間の目には、回転する円盤のような物を見た時にも視野をぶれなくする仕組みがあり、それに対応した斜視が回旋斜視です。どちらの目がよそを向くかは、人によってさまざまです。

また、斜視の状態によって、恒常性斜視、間欠性斜視、隔日性斜視に区別されます。恒常性斜視では、 常に斜視の状態にあります。間欠性斜視では、時々視線がずれます。隔日性斜視では、 斜視の日とそうでない日が交互に現れます。

さらに、斜視には両目で見ている時、明らかに視線がずれている斜視と、ある種の検査によって初めてずれがわかる斜位(潜在性斜視)とがあります。

斜視の自覚症状としては、その独特の目の動きのほか、物が二重に見える復視、眼精疲労、距離感がつかみにくいっといった空間知覚の異常、目の違和感、頭痛など、さまざまなものがあります。

一般に、斜視は子供に多くみられます。特に、生後6カ月以内に発症した乳児内斜視は、目の寄り方が大きく、目が外へ向かずに上を向いている上斜位を伴っていたり、斜視になったほうの目が使われないので弱視になりやすいという特徴があります。その他、調節性内斜視といい、遠視が強いために物を見ようと努力することによって、内斜視になっているものがあります。

早期に治療を開始したほうがよく、早期発見のために母親などの十分な注意が必要となります。子供が物を見る時、顔を傾けて見る、あごを上げて見る、あごを下げて見る、片目をつぶって見るといったような、何らかの見づらそうな行動をとった時は要注意です。

斜位(潜在性斜視)は、左右の眼筋の均衡がとれていないために、眼球を正しい位置に保つのに努力がいる状態です。この斜位が軽度の場合は無症状のことが多いのですが、強度の人や軽度であっても神経質な人は、読書時の疲労や頭痛、時には、めまい、吐き気などを生じることがあります。

斜視のようにみえても、眼科的には斜視ではないものを偽斜視といいます。特に、子供のころには、内斜視にみえても実際には内斜視ではないものが多いようです。小さな子供で目頭に余分な皮膚がある状態があると、目の鼻寄りの白目の部分が皮膚で覆われるために、目が寄っているようにみえ、本当の斜視か偽斜視かわかりにくいことがあります。この場合、光の反射像が両目同じ位置にあれば偽斜視です。

斜視の検査と診断と治療

子供の目に異変を感じたら、できるだけ早く専門医の診断を受けることが勧められます。

斜視の治療では、まず眼鏡による屈折矯正が行われます。屈折矯正だけで治ることもありますが、症状によっては手術が必要になってくることもあります。手術の時期については、疾患の状態によって異なるものの、乳幼児斜視では2歳頃までの早期手術が勧められています。

手術では、目の筋肉のバランスを整えることで斜視を治療します。例えば、外に目が向いている場合は、外についている筋肉を弱める、または内についている筋肉を強めれば、目の位置が正常に戻ります。子供の場合は全身麻酔が必要ですが、大人なら局所麻酔で入院なしに手術を行うことができます。手術では、1つの筋肉で30分程度を要します。術後は目が赤くなりますが、10~14日ほどで赤みは次第に消えていきます。

なお、成長期にある子供の場合には、内斜視の手術後数年で外斜視になることもありますし、外斜視の手術後数年で内斜視になってしまうこともありますので、再手術が必要になる可能性があることも考慮すべきです。

ボツリヌス毒素注射療法といって、ボツリヌス菌が出すボツリヌス毒素を注射して、筋肉の収縮を抑制させ、バランスをとって斜視を治療する方法もあります。例えば、内斜視の内直筋に注射すると、外側に目が動きます。治療効果が永続的でないため、繰り返し行う必要があります。

遠視が原因で斜視が起こっている調節性内斜視の場合は、まず遠視の眼鏡で矯正します。眼鏡で治らない部分については、手術を行います。

斜視のずれがわずかな斜位(潜在性斜視)が軽度の場合は、自覚症状がなければ治療の必要はありません。プリズム眼鏡と呼ばれる光線を曲げる眼鏡をかけることで、物が二重に見えるのを治療できることもあります。

2022/08/25

🇵🇦シュタルガルト病

20歳以前に発症し、視力障害を起こしたり、失明したりする遺伝性の疾患

シュタルガルト病とは、眼球内部の網膜が変性を起こして、視力障害を起こしたり、失明したりする遺伝性の疾患。スタルガルト病、スターガルト病、黄色斑(おうしょくはん)眼底、斑状網膜症候群などとも呼ばれます。

ドイツの眼科医、カール・シュタルガルトが1901年に初めて報告した疾患ですが、現時点でも治療法は見付かっていません。

若年性の黄斑変性では最も多いか最も一般的な疾患であり、通常、常染色体劣性の遺伝形式で受け継がれ、20歳以前に発症します。学童期から10歳代に矯正視力の低下を切っ掛けに発見されることが多く、眼鏡でもコンタクトレンズでも補正できない視野の中央の暗点は、最も早い症状です。症状が進むにつれて、黄斑が変性、委縮して、さらに視力が低下します。

その黄斑とは、光を感じる神経の膜である網膜の中央に位置し、物を見るために最も敏感な部分であるとともに、色を識別する細胞のほとんどが集まっている部分。網膜の中でひときわ黄色く観察されるため、昔から黄斑と呼ばれてきました。この黄斑に異常が発生すると、視力が低下し、また、黄斑の中心部にある中心窩(か)という部分に異常が発生すると、視力の低下が深刻になります。

シュタルガルト病では、黄斑部の網膜色素上皮または網膜深層に、円形または類円形のリポフスチンといわれる黄白色の不規則な斑点が蓄積される結果として、黄斑が変性し、さらに委縮性の病変となります。

両方の目の視野の中央に進行性の欠損が起きて暗点ができますが、周辺視野にはほとんど影響が出ません。夜間や暗い場所での視力が著しく衰え、色を感知する機能が衰えることもあります。

進行性の疾患ながら、その進行速度は個人によって異なります。視力が著しく低下して失明に至るケースがある一方で、30歳代になっても良好な視力を維持しているケースもあります。

シュタルガルト病の検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、両眼対称性であること、進行性であること、家族にかかった人がいること、薬物や感染症など外因がないことなどが、重要な手掛かりになります。フルオレセイン蛍光眼底検査、網膜電図などの電気生理学的検査も、診断を確実にするには必須です。黄斑部の網膜色素上皮に異常を起こすABCR遺伝子が突き止められているので、この遺伝子の検索も決め手になります。

シュタルガルト病には有効な治療法は見いだされていませんので、視力の大幅な低下を避けることはできません。発症者の網膜に漏出点があればレーザー光凝固の処置が行われますが、それは欠けた視野を戻すのではなく、さらなる悪化を避けるだけです。

症状に応じて、遮光眼鏡、弱視眼鏡、拡大読書器、望遠鏡などの補助具を使用することが有用で、周辺視野と残った中心視を活用できます。その他のリハビリテーションも重要です。

いつの日か、先端的医療の進歩が根本的な治療法を可能にすることが期待されていますが、弱視学級や盲学校での勉学、職業訓練など、将来を見通して現実的に対応することが有益でしょう。

🇧🇿腫瘍性視神経症

眼窩または頭蓋内の腫瘍が原因で起こる視神経障害

腫瘍(しゅよう)性視神経症とは、眼窩(がんか)内または頭蓋(とうがい)内に発生する腫瘍が原因となって、視神経障害を起こしたもの。

眼窩は眼球が収まっている頭蓋骨のくぼみで、この部分にできる腫瘍は眼窩腫瘍です。この眼窩腫瘍には、良性と悪性があり、涙腺(るいせん)腫瘍、眼窩偽腫瘍、悪性リンパ腫などの種類があります。

最も多いのは悪性リンパ腫で、眼窩周辺にあるリンパ組織の中で発生します。眼窩偽腫瘍では、眼窩の後方にリンパ球を主体とした細胞ができます。これは腫瘍ではないのですが、眼窩腫瘍と症状が似ているために間違えることが多く、偽腫瘍と呼ばれます。中年以降の人の片目にだけ起こることが多く、原因は不明。

また、小児には皮様嚢腫(のうしゅ)、リンパ管腫、横紋筋肉腫が発生することがあります。

症状としては、眼窩の中で腫瘍が大きくなると、眼球が押されて突出する眼球突出、また左右どちらかに位置がずれる眼球偏位が起こります。映像が二重に見えたり、激しい痛み、視力低下も起こります。

視神経自体にも、ごくまれに腫瘍が発生することがあります。その一つに視神経鞘髄膜腫(しょうずいまくしゅ)があり、この腫瘍は成長すると頭骸骨の中にまで発展してゆくことがあるものの、転移することはありません。もう一つに視神経膠腫(こうしゅ)があり、神経繊維腫症と合併することもあります。視神経自体に発生する腫瘍は、失明の原因になります。

眼球から後方に伸びる視神経は、後端から約30ミリのところで視神経管を経て頭蓋内に入り、間もなく視交叉(こうさ)という左右の視神経が集合する部位で50パーセントは交叉し、50パーセントは交叉せずに、視索を経て脳に入ります。この途中で、頭蓋内に発生する何らかの腫瘍によって圧迫されると、徐々に視神経線維に直接的な圧迫や循環障害が生じ、視神経障害を起こします。

視神経を圧迫する原因となる頭蓋内の疾患としては、甲状腺(せん)機能の異常に伴って外眼筋が腫大する甲状腺眼症、蓄膿(ちくのう)手術後の嚢胞(のうほう)や悪性腫瘍などの副鼻腔(ふくびくう)の病変、髄膜腫や頭蓋咽頭(いんとう)腫などの頭蓋内腫瘍、頭蓋内内頸動脈瘤(ないけいどうみゃくりゅう)や内頸動脈硬化症などが挙げられます。

頭蓋内に発生する腫瘍が原因となる腫瘍性視神経症の症状は、片目に現れ、数カ月に渡ってゆっくりと進行していくことが特徴です。痛みはありません。ただし、副鼻腔の腫瘍の場合は、痛みを伴うことが多くなります。

視力の障害は中心視力が低下することが多いのですが、視力が低下しないこともあります。視野の障害も中心が見えにくくなる中心暗点から、耳側か鼻側半分が見えにくくなる半盲(はんもう)性障害までさまざまです。

腫瘍性視神経症の検査と診断と治療

腫瘍性視神経症が発生した際、まずは眼科の専門医を受診します。

医師による診察では、主に検眼鏡で目の後部を観察することで診断されます。この眼底検査のほか、視力検査、瞳孔(どうこう)の反応検査、視野検査、MRI検査、血液検査、髄液検査などが必要に応じ行われます。

片眼性の腫瘍性視神経症の場合は、瞳孔の対光反応に左右差があることが特徴的で、瞳孔の反応検査は診断上重要です。頭蓋内内頸動脈瘤など血管性病変が疑われる場合は、MRA(MRアンジオグラフィ)検査や脳血管造影が必要になります。

同時に、視神経障害のリスク要因となるその他の疾患にかかっていないかどうかについて、慎重に問診が行われます。蓄膿の手術歴があるか、甲状腺疾患を指摘されたことがあるかなど、十分な病歴聴取も診断の一助とされます。

眼窩腫瘍の治療では、放射線療法、副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤などによる化学療法が行われます。悪性リンパ腫の場合は、全身的化学療法が行われます。悪性の腫瘍の場合は、腫瘍の摘出手術、眼球の摘出手術が行われます。

頭蓋内に発生する腫瘍が原因となる腫瘍性視神経症の治療では、原因となる疾患の手術などによる治療が基本となり、脳外科や耳鼻科などとの連携がとられます。手術後は、視神経の保護目的でビタミンB12製剤(メチコバール)を内服することがあります。

🇭🇳春季カタル

子供に多くみられるアレルギー性の結膜炎

春季カタルとは、子供に多くみられる重症のアレルギー性結膜炎。カタルというのは古い名称ですが、粘膜にみられる炎症を意味します。

一昔前までは春から夏にかけて発症、悪化し、秋から冬にかけて症状が軽くなったことから、春季という名がつけられています。近ごろでは環境の変化により、必ずしも季節を選ばなくなってきています。

アレルギー性結膜炎は、何らかの刺激物質に対する、異常に高進した生体防御反応によって結膜に炎症の起こる疾患の総称で、アレルギー反応を生じさせる刺激物質には花粉、ダニ、ハウスダスト、動物の毛、コンタクトレンズなどたくさんあります。アレルギー性結膜炎の一種である春季カタルの場合は、何が症状を誘発するのかまだはっきりわかっていません。

症状は両眼性で、かなり強いかゆみがあり、白目は赤く充血します。濃く粘液のような目やにも出ます。上まぶたがはれることもあり、引っくり返してまぶたの裏側を覆っている眼瞼(がんけん)結膜をみると、ごつごつとした多数の突起が石垣のように並んでいることがあります。突起は石垣状乳頭増殖と呼ばれます。

他のアレルギー性結膜炎と異なり、黒目の部分を覆っている角膜に影響を及ぼすことが多く、まず角膜近くの白目の表面を覆っている眼球結膜が発赤し、ぐるりと分厚くはれることもあります。角膜にも、びらんや潰瘍(かいよう)ができることがあり、かゆみに加え目がとても痛くなり、明るい光を非常にまぶしく感じるようになります。

潰瘍が治りかけると、その部分に白いかさぶた状の角膜プラークができ、それがちょうど黒目の部分の瞳(ひとみ)の前にあると、光の通り道を妨げて視力が落ちます。

春季カタルは小学生の男子に多く見られ、特に10歳以下で湿疹(しっしん)や喘息(ぜんそく)、季節性アレルギーのある男子に多いのが特徴です。症状が悪くなったり、軽くなったりしながら、毎年繰り返すことが多いものの、普通は青年期までに自然に治ります。

春季カタルの検査と診断と治療

春季カタルは、強いかゆみを伴う結膜の充血、目やになどから診断されます。結膜をこすり取ったサンプルからは、アレルギーに特有の白血球(好酸球)が証明されます。

治療では、主にステロイド剤の点眼薬や眼軟こう、および非ステロイド性の消炎剤の点眼薬などを用います。ステロイド剤の結膜下注射や、内服による全身投与を行うこともあります。ただし、ステロイド剤は強い抗炎症作用を持つ一方、長期間使用すれば眼圧上昇などの副作用が出る場合があるので、症状が軽減したら非ステロイド性の消炎剤や抗アレルギー剤に切り替えます。

最近では、ステロイド剤と異なる作用機序で、眼圧上昇の心配がない免疫抑制剤の点眼薬も、使用されています。眼瞼結膜にできた石垣状乳頭増殖は、手術によって切除することもあります。

いずれも対症療法で、完治させることは困難です。点眼などをしている間は症状が治まっていますが、点眼を止めると悪化するという悪循環を繰り返すことが多いようです。しかし、通常は年齢とともに軽快し、成人まで続くことはあまりありません。

2022/08/24

🇵🇱硝子体混濁

眼球の内容の大部分を占める硝子体に、濁りがある状態

硝子体(しょうしたい)混濁とは、眼球内の硝子体の中に濁りがある状態。 治療を必要としない生理的な混濁と、治療をしなければならない病的な混濁とがあります。

硝子体は、水晶体の後面に接していて、眼球の内容の大部分を占めるゼリー状の、本来は血管のない透明な組織です。眼球の丸みのある形を保ち、外力に抵抗する働きがあります。

正常でも、硝子体にある程度の混濁を持っている人も多く、これを生理的硝子体混濁といい、特に変化がなければ、放置しておいてもよいものです。

一方、病的な混濁は、疾患などさまざまな原因によって起こります。最も頻度の高いのは、網膜や、ぶどう膜を構成する膜の一つである脈絡膜に炎症が起こり、 血管からにじみ出た炎症性細胞や蛋白(たんぱく)質が硝子体に侵入することです。そのほか、ぶどう膜炎、毛様体炎、硝子体中への出血、硝子体の線維の変性や断裂、強度の近視、老眼でも起こります。

これらにより硝子体が混濁すると、目の前に小さい物が飛んでいるように見える飛蚊(ひぶん)症が起こります。混濁が網膜の黄斑(おうはん)部と呼ばれる部分にかかってくると、目のかすみ、視力の低下など視力障害が起こります。また、急激に起こる硝子体中への出血の際には、血液が硝子体の中に充満し、急激に視力を失うことがあります。

硝子体混濁の検査と診断と治療

硝子体混濁が強くなってからでは、眼底検査をしても網膜の状態がよくわからず、原因の特定が難しくなることがあります。速やかに眼科を受診することが必要です。

医師の側が治療方針を決める上でも、硝子体混濁の原因を特定することは重要です。しかし、硝子体混濁が高度の時は、通常の眼底検査をしても混濁に阻まれて目の中の状況が明らかでないことが多く、原因の特定は困難です。

そこで、超音波断層検査や光刺激による網膜の電気的な反応を検査して、網膜の状態を調べたり、血液検査や胸部X線検査、ツベルクリン検査などを行って全身疾患の有無を調べて原因を探ります。場合によっては、内科や呼吸器科など眼科以外の科に受診してもらうこともあります。

最近では、硝子体の混濁を手術によって直接取り、混濁中の細胞などを調べることで原因を特定することも行われます。

生理的硝子体混濁は特に変化がなければ、放置しておいてもよいものですが、病的な硝子体混濁では、まず硝子体への出血の原因となる糖尿病や高血圧などの全身疾患の治療を行います。ぶどう膜炎、毛様体炎、脈絡膜炎などによる硝子体の混濁を抑えるためには、通常、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)や消炎剤などの点眼、結膜下注射、内服、点滴などを行います。

軽減しなかったり、網膜剥離(はくり)などを併発した場合、あるいは硝子体への大量の出血や硝子体の変性による混濁の場合には、硝子体手術が必要になります。まず硝子体切除術が行われ、角膜の周辺から特殊な器具を挿入し、目の奥にたまっている濁った組織や血液、またゼリーのような硝子体も切除、吸引します。

硝子体は眼球の丸みを保つために必要な組織ですから、切除すると同時に、代わりの液体やガスを注入する必要があります。この方法は、硝子体置換術と呼ばれます。

硝子体手術を行った後は、出血や術後感染症、角膜混濁、網膜剥離などの合併症に十分注意する必要があります。医師の指示を守り、しばらくは安静に過ごすことです。

🇱🇮常染色体優性遺伝性視神経委縮

常染色体優性遺伝性を示し、10歳未満で発症する視神経症

常染色体優性遺伝性視神経委縮とは、常染色体優性遺伝性の形で遺伝し、10歳未満で発症する視神経症。優性遺伝性若年性視神経委縮症、若年性家族性視神経委縮とも呼ばれます。

種々のものがあり、いずれもまれで、難治な疾患である遺伝性視神経症の一種で、その中では最も多いと考えられており、有病率は1万人から5万人に1人の割合とされています。

日本で確認された家系数は少なく、男女差はないとされます。遺伝性ですが、必ずしも同一家系内に類似した症状の発症者がみられるとは限りません。

発症の初期には、早発の視神経の変性により両眼の視力障害が生じます。中心視カの低下のほかに中心視野が侵されるために、第3色覚異常様の色覚異常を示し、青と黄と灰色が同じに見える青黄色盲の症状を生じます。網膜の変化は少なく、視カ低下は緩やかに進行し、多くのケースでは0・2〜0・3以上の視カを保持します。

しかし、やがて視力の回復を十分に示さぬまま、視神経が委縮を強めていきます。網膜の神経線維が集まっている視神経乳頭は、耳側から次第に退色して蒼白(そうはく)となり、血管が見られないのが特徴です。

通常、晩年に至るまで視力低下は軽度ですが、高齢になると視力低下がさらに進行するケースもあります。

ほとんどの発症者は神経症状を合併しないものの、時には、自分の意思とは関係なく眼球が動く眼振(がんしん)、及び難聴を合併する場合もあります。

常染色体優性遺伝性視神経委縮の検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、蛍光眼底造影検査、視力検査、視野検査、画像検査、電気生理学的検査、心電図検査が行われます。確定診断のために、遺伝子検査が利用可能です。

眼科の医師による治療では、明らかな有効性が確認された治療法はないので、ビタミン剤、循環拡張剤などの処方が行われます。

色覚異常に関しても、遺伝子の変異であるため、明らかな有効性が確認された治療法はありません。

2002年までは学校健診で色覚検査が行われていたため、異常が見付かった人が色覚異常の確定診断のために眼科を訪れていました。しかし、確定診断に必要なアノマロスコープを装備する眼科は多くないため、実際は不十分な診断が行われて問題がありました。

2003年以降は、学校健診での色覚検査は廃止され、希望者のみが検査を受けるようになりました。検査で異常が出たら、専門の医療機関で遺伝子相談や職業適性についてのアドバイスを受けることが可能になっています。

🇬🇷睫毛乱生症

まつげの生え方が乱れて、その一部が角膜を刺激

睫毛乱生(しょうもうらんせい)症とは、まつげの生える方向が不規則な状態です。普通、まつげは全部規則正しく外側の方向に向かって生えています。

まつげが毛根から不規則に生えていますので、目の内側に向かったまつげが角膜(黒目)に触れることにより傷付け、涙がいつも出ている、何かが目に入っているような異物感がある、チクチクするような痛みがある、目やにが出る、まぶしさを感じる、目が充血するなどの症状がみられます。

角膜に当たるまつげの数は、1本のみの場合から多数の場合までいろいろです。長く続くと、角膜が濁ってしまい、視力が低下することもあります。

眼瞼縁(がんけんえん)炎(ただれ目)、結膜炎、トラコーマ、やけどなど、まつげの毛根部の炎症によって引き起こされる場合と、生まれ付きのものとがあります。

睫毛乱生症の検査と診断と治療

涙や目やにが多いなど同様の症状でも、眼瞼縁炎、結膜炎などの場合もあるので、早めに専門医を受診して、原因をはっきりさせることが大切です。

眼科外来での診察では、まぶたの形状、まつげが角膜に接触していること、角膜の傷の程度などを診断します。常時まつげが角膜に接触している場合のほかに、眼球運動やまばたきの強さ次第で、まつげが角膜に接触する場合があります。

睫毛乱生症の治療としては、まつげを抜くと一時的に症状は改善しますが、2週間ぐらいで再び生えてくるので、定期的に抜いていく必要があります。抜く本数が少なくても、繰り返せば炎症を引き起こしたり、さらに太いまつげが生えてくる場合もあります。

きっちり治すには手術が必要で、少数の乱生の場合はまつげの毛根を電気の針で焼く睫毛電気分解や冷凍凝固、多数の乱生の場合はまぶたを外側に向かせる手術などが行われます。簡単には治らない場合もあります。

2022/08/23

🇸🇪真菌性眼内炎

真菌が目の中に入り、眼球の内部が炎症を起こす感染症

真菌性眼内炎とは、何らかの原因で真菌が目の中に入り、眼球の内部が炎症を起こす感染症。

真菌は、カビ、酵母(イースト)、キノコなどからなる微生物の総称であり、菌類に含まれる一部門で、細菌と変形菌を除くものに相当します。葉緑素を持たない真核生物で、単細胞あるいは連なって糸状体をなし、胞子で増えます。

この真菌が目の中に入って起こる真菌性眼内炎には、真菌が手術の切開部や眼球のけがから侵入する外因性のものと、体のほかの部分に感染していた真菌が血流に乗って目に波及する内因性のものがあります。

目の手術による外因性の真菌性眼内炎のほとんどは、手術後2日から3日ほどで発症します。原因となる真菌によっては、手術後半年から1年以上経過してから発症する場合もあります。

内因性の真菌性眼内炎のほとんどは、糖尿病を患っている、抗がん剤投与を受けている、肝臓や心臓に感染症を起こしている、体が弱り免疫力が落ちている、血管内カテーテル(栄養のチューブ)が挿入されているなどで起こります。

真菌性眼内炎の原因となる真菌は、皮膚や腸管に普通に存在しているカンジダが多く、次いでアスペルギルス、クリプトコックス、フサリウムなどが続きます。

内因性の真菌性眼内炎では、目の症状が出る前に、発熱することが多く認められます。発熱のほかに全身症状が出ることもあります。続いて1週間前後で、目の前に蚊など小さい物が飛んでいるように見える飛蚊(ひぶん)症や、視界に霧がかかっているように見える霧視などの症状が出ます。

眼内の炎症が悪化すると、ひどい目の痛み、目のかすみ、明るい光の非常なまぶしさ、充血、目やに、視力低下を自覚するようになり、さらに進行すると、視力の部分的な欠損があり、視力の完全な欠損によって失明を起こすこともあります。

一般的に、内因性の真菌性眼内炎は程度の差こそあれ、両目に生じることが多いのが特徴です。

真菌性眼内炎は外因性、内因性とも、飛蚊症が出た時期に眼科を受診し、適切な治療を受ければ、ほとんどのケースで治癒します。しかし、数日から数週間の単位で進行し、重症になった場合は、最大限の治療を施しても目を救えないこともあります。

真菌性眼内炎の検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、目のけががある場合や、眼科の外科手術を受けた経験がある場合は、そこから目に原因となる真菌が入った可能性が強いとして、外因性の真菌性眼内炎と判断します。

内因性の真菌性眼内炎が疑われる場合には、問診で全身的な要因の有無や、血管内カテーテルの使用有無、発熱の有無を確認します。

確定するためには、目の表面を拡大して見る細隙灯(さいげきとう)顕微鏡を用いて眼球を丹念に調べます。続いて、分泌液の培養検査を行います。場合によっては、抗体検査やDNA検査も行います。

分泌液の培養検査では、眼球内の前方にある液体である房水や、眼球後部の内部にあるゼリー状の組織である硝子体(しょうしたい)から採取し、感染の原因となっている真菌を早急に特定するとともに、どの薬剤が最も有効かを調べます。

また、同じような症状が出る細菌性眼内炎や、悪性リンパ腫(しゅ)などと慎重に区別していきます。

眼科の医師による治療では通常、視力を守るために、抗真菌剤による治療を直ちに開始します。極端な場合、数時間の遅れが、回復不可能な視力の低下につながることがあります。

原因となる真菌はカンジダがほとんどですので、第1選択の抗真菌剤としてトリアゾール系薬剤のジフルカンを用います。

後に、真菌性眼内炎の原因であると判明した真菌に応じて、抗真菌剤の選択を調整することがあります。ジフルカンが無効な場合は、ほかのファンギゾン、アンコチル、フロリード、イトリゾールなどの抗真菌剤を選択します。

抗真菌剤は、眼内注射、あるいは静脈内注射、または経口で投与します。抗真菌剤を眼内に注射した後、数日間にわたって痛みを和らげるコルチコステロイド剤を経口で投与することもあります。

感染を食い止める確率を上げるため、眼球内部の感染組織を取り除く手術を行うこともあります。

🟧RSウイルス感染症が「流行入り」 静岡県が注意呼び掛け

 静岡県は26日、直近1週間(15~21日)のデータから「RSウイルス感染症が流行入りしている」と発表しました。定点医療機関となっている小児科1カ所当たりの患者数は1・64人で、県が流行入りの目安としている「1人」を大きく上回りました。前週の0・9人よりも8割増加し、急拡大が懸...