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2022/07/24

🇦🇷無陰茎症

遺伝子的には男性形質でありながら、生まれながらに陰茎を所有しない疾患

無陰茎症とは、遺伝的には男性でありながら、生まれ付き陰茎を所有しない疾患。陰茎欠損症とも呼ばれます。

1000万人から3000万人の男児出生に対して1人の発症頻度といわれており、尿路性器系先天奇形の中でも極めてまれな疾患に相当します。染色体は男性型を示す46XYであり、男性の外性器のうち陰茎は根部から欠損して隆起もみられませんが、ほとんどが陰嚢(いんのう)を所有しています。

性交と排尿という2つの機能を果たす陰茎の発生は、胎生4週目に排泄腔(はいせつくう)膜の頭側に出現する生殖結節に由来します。生殖結節は伸長し、胎生12週目くらいに生殖茎になり、最終的には陰茎の亀頭を形成します。この際、尿生殖ひだと尿道溝が生殖結節に導かれるようにして、陰茎海綿体と陰茎部尿道を形成します。この生殖結節の先天的な無形成、もしくは極端な低形成が、無陰茎症の原因と考えられます。

また、無陰茎症は、腎臓(じんぞう)、膀胱(ぼうこう)などの無形成、低形成などの尿路奇形を高頻度に合併することが知られています。尿道の開口部によって、尿道が外尿道括約筋より遠位の肛門(こうもん)部近辺に開口しているタイプ1、尿道が外尿道括約筋より近位に開口しているタイプ2、尿道無形成のタイプ3に、無陰茎症は分類されます。

尿路奇形の合併率は、タイプ1が63パーセント、タイプ2が64パーセント、タイプ3が100パーセントであり、それぞれの生存率は、87パーセント、64パーセント、0パーセントであるというデータがあります。タイプ3は、排泄腔の発生異常に伴った生殖結節の形成異常と考えられます。

ほかにも、無陰茎症は、精巣( 睾丸〔こうがん〕)、精巣上体(副睾丸)、精管、精嚢(せいのう)、前立腺(せん)、尿道球腺(カウパー腺)などの男性の内性器の形質異常を合併していることが多く、停留精巣の合併も高頻度に認められます。

停留精巣は、男児の精巣の下降が不十分で、精巣が陰嚢内に位置せずに、途中でとどまっている状態。

性腺に相当する精巣は本来、妊娠3カ月ごろから9カ月ごろまでの胎児期に、腹腔の腎臓に近いところから次第に下降し、鼠径管(そけいかん)という下腹部の決まった道を通ってから陰嚢まで下降し、出生時には陰嚢内に位置するようになります。陰嚢からの牽引(けんいん)、ホルモン(内分泌)などの働きにより精巣は下降しますが、何らかの原因によって下降が途中で止まったものが停留精巣です。

片側性と両側性があり、多くは股(また)の付け根の鼠径部に精巣を触れることができます。生後3カ月ごろまでは精巣の自然下降が期待できますが、1歳を過ぎると精巣の自然下降はほとんど期待できません。

陰嚢の中に精巣がある場合に比べ、それ以外のところに精巣がある場合は、2〜4度高い温度環境にさらされていることになります。陰嚢内にあると33度、鼠径管内にあると35度、腹腔内にあると37度というデータもあります。高い温度環境にある停留精巣を放置しておくと、精巣は徐々に委縮してしまいます。精子を作る細胞も少しずつ機能を失い、数も減少してゆきます。この変化は高い温度環境では常に進行してゆき、成人になってからの男性不妊の原因になると考えられています。

さらに、停留精巣から悪性腫瘍(しゅよう)ができやすい、停留精巣が外傷を受けやすく、精巣捻転(ねんてん)を起こしやすいなどともいわれます。

無陰茎症は、出生時に医師や看護師によって発見されることが多く、一般的には小児科、泌尿器科、小児外科などに転科、入院となります。

無陰茎症の検査と診断と治療

小児科、泌尿器科、小児外科の医師による診断は、形態上から比較的容易ですが、鑑別する疾患として陰茎発育不全(ミクロペニス)、埋没陰茎、尿道下裂、半陰陽などがあります。

より診断を確固たるものにするには、染色体分析検査、性ホルモンの測定、アンドロゲン(男性ホルモン)受容体の検査、超音波検査、X線造影検査、CTやMRI検査による内性器の存在確認を行います。また、尿路奇形を合併することも多いため、尿路系の精査も同時に行うこともあります。

小児科、泌尿器科、小児外科の医師による治療では、戸籍上の性として育てていく性を決めることが最も大事です。一般的には、染色体や精巣によって将来の性を決めるより、現在の外性器の状態、将来の生活、両親などの希望を考慮して、彼我の身体的な比較ができるようになる前の乳幼児の内に、男性か女性かを決めます。

選択した性に合わせて、男性として生きていく決定をした場合には陰茎形成術を、女性として生きていく決定をした場合には腟(ちつ)形成術を行い、性腺である精巣の摘出、陰嚢の切除も行います。また、選択した性に応じた性ホルモンの補充療法も必要に応じて行います。

無陰茎症は遺伝的には明らかに男性を示すわけであり、将来の妊孕(にんよう)性を考えれば男性を選択するのが理想ですが、男児として養育した場合、不完全な陰茎形成術による陰茎を持った状態で発育することによる社会的影響、心理面、精神面での障害が生じます。また、正常な性行為は不可能であり、実際に陰茎形成術を施行して成長した後に、重篤な精神障害を生じることもあります。

一方、女性を選択した場合、将来の妊娠、出産は不可能であるものの、両側の精巣摘出術の後に腸管を用いた膣形成術と性ホルモンの補充療法を行うことで、社会的、心理的負担は男児として養育した場合よりはるかに少なく、現時点においては女児として養育することを選択すべきという意見が多数を占めており、女性型への処置がされる場合が多く認められます。

🇨🇴ムーコル症

ムーコル目の真菌を吸い込むことで発症する感染症

ムーコル症とは、空気中に浮遊するムーコル目の真菌(かび)の胞子を気道から吸い込むことが原因となって、発症する感染症。フィコミコーシスとも呼ばれます。

ムーコル目の真菌には、ケカビ、アブシディア、クモノスカビなどがあり、土壌、堆肥(たいひ)、野菜などの自然界に広く生息しています。健康である限り、ムーコル目の真菌が人間に感染することはありません。免疫不全、代謝異常、慢性消耗性疾患などを持つ人の肺などに感染し、特に血糖管理の不十分な糖尿病は最も感染リスクが高い疾患となっています。

肺のほか、鼻と脳に感染し、まれに皮膚や消化管にも感染します。急性に進行する重度の感染症では、場合によっては死に至ります。

肺のムーコル症は、発熱、せき、時に血たんや喀血(かっけつ)、呼吸困難を生じることもあります。

鼻と脳のムーコル症では、痛み、発熱のほか、眼窩(がんか)へ感染した眼窩蜂巣(ほうそう)炎による眼球突出などがあります。鼻からうみが出て、口の天井に当たる口蓋(こうがい)、眼窩、副鼻腔(ふくびくう)周辺の顔の骨、2つの鼻孔(びこう)を仕切っている壁の破壊も起こります。脳に感染すると、けいれん発作、部分まひ、昏睡(こんすい)が起こります。

ムーコル症の検査と診断と治療

ムーコル症の症状に気付いたら、呼吸器疾患専門医のいる病院を受診します。早期に診断されない場合は急速に病状が進行しますので、注意が必要です。

ムーコル症の症状は他の感染症とよく似ているので、医師がすぐに診断を下すことは容易ではありません。胸部X線検査で浸潤影が認められる場合に本症が疑われ、確定診断のためには、たんや病巣から病原真菌を検出、培養する必要があり、典型的には気管支鏡検査法により肺から、および前検鼻法により副鼻腔から採取します。

しかし、培養には時間がかかるため、急性で生命を脅かす病態に対する迅速な確定診断用としては、適していません。発症者の状態が悪いことから、体への負担が大きい気管支鏡検査を行えないケースも多く、確定診断は困難なことがしばしばあります。

ムーコル症の治療には、一般に抗真菌剤のアムホテリシンBを静脈内投与するか、髄液の中に直接注射します。また、薬で真菌の活動を抑えた後、感染組織を外科手術で取り除くこともあります。基礎疾患に糖尿病がある場合には、血糖値を正常範囲まで下げる治療を行います。

真菌は真核生物であり、原核生物である細菌とは異なって、構造が複雑で菌糸や分生子を形成します。それがムーコル症の治療を難しくしていて、死亡率の高い、非常に重い疾患としています。

🇱🇾無汗症

全身の皮膚、あるいは体の一部の皮膚に発汗がみられない状態

無汗症とは、皮膚からの発汗がみられない状態。

先天性無汗症と後天性無汗症とに大別されます。また、汗の出ない部位が全身の皮膚にわたる全身性無汗症と、体の一部の皮膚に限られる限局性無汗症とがあります。

全身の皮膚には、エクリン汗腺(かんせん)が分布して汗を分泌しており、汗には体温を下げる作用があります。人は体温が上昇すると汗をかき、汗は蒸発する際に身体から熱を奪って体温を下げる役割をします。

そのエクリン汗腺からの汗は、交感神経の刺激により分泌されるので、中枢神経、 脊髄(せきずい)神経、末梢(まっしょう)神経、エクリン汗腺自体のどこかに異常があると、汗が出なくなります。

体温調節の大切な役割を果たす汗は、体温を下げ、熱中症などから身を守るだけでなく、熱疲労も改善してくれます。 暑いということを知覚中枢が感じ取り、それを体温中枢に伝え、そこから自律神経などが体の発汗部位であるエクリン腺に伝えることで汗をかきます。一連のサイクルでどこかの調節障害が原因となり、無汗症は起こります。

先天性無汗症は、先天性無汗性外胚葉形成不全症の部分症状として生じます。組織学的に汗腺を欠いて無汗のため、夏季や運動後などに発熱します。先天性全身性無汗症では、体毛や歯の異常を伴うことがあります。

先天性の場合、遺伝的要因で、脳神経細胞に何らかの形成異常が生じていて、出生時から、温覚、痛覚がない、または極度に低下しているため、発汗しないだけではなく、発熱や痛みにも反応しない「先天性無痛無汗症」とされています。運動機能が発達するにつれすぐに高体温状態になり、成長と共に運動機能などの様々な障害が生じ、将来的にも完治は難しいといわれる難病です。

後天性全身性無汗症では、発汗刺激時に皮膚に痛みを伴うことがあります。皮膚がピリピリ痛む(コリン性蕁麻疹)。 後天性の場合、神経疾患、内分泌、代謝疾患、薬剤による影響、自己免疫疾患などが挙げられます。多くの原因があるため、診断により原因を探して治療します。

広範囲の皮膚で汗が出ない全身性無汗症では、運動時や高温が長時間続く環境下で汗が出ないために体温調節ができなくなり、体温が上昇して倦怠(けんたい)感が現れます。熱中症の危険も増します。

広範囲に及ぶ全身性無汗症では、体温調節ができなくなり、夏場には体温が上昇やすく、冬場には低体温になりやすい、痛みや熱さ冷たさを感じにくくなるのが特徴です。

乳児期では、熱に伴う痙攣やてんかんが高頻度で見られ、急性脳症を発症する場合があります。また、歯が生える頃には舌や指先を傷つけてしまうことがあります。幼児期では、怪我や骨折、骨髄炎などを繰り返し、幼少時から成長するに連れて、運動機能障害などさまざまな症状が見られるようになります。

狭い範囲の限局性無汗症では、汗が出ないという以外は特に症状はなく、偶然に気付くことがあります。

無汗症には多くの原因があります。皮膚科、ないし皮膚泌尿器科を受診し、適切に対処することが大切です。

無汗症には多くの原因があるため、神経疾患の場合は神経内科、その他の疾患は内科など疾患によって専門的治療を行います。まずは、皮膚科専門医で診察を受け、どの科で治療をするのが適切なのかを判断します。

近年エアコンなどの影響で一年中、汗をかかない生活をしているために、汗腺の機能低下が原因で汗をかきにくい人が増えているといわれています。
無汗症、乏汗症ともに発汗障害には様々な要因があるため、汗が出ない、かきにくいという自覚症状が少しでもあれば、皮膚科を受診しましょう。原因によっては内科や各専門医の受診や治療が必要な場合もあります。早めの受診をおすすめします。

また、糖尿病や高血圧、腎臓病や甲状腺機能低下などにより、汗腺機能が弱まり汗が出にくくなることもあります。

元々汗の分泌経路の異常、または水代謝のサイクル異常などが考えられますが、まずは皮膚科か内科を受診し、元の病気を調べて治療します。

無汗症の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、中枢神経系、脊髄神経系、末梢神経系の疾患があると汗が出なくなるので、これらの異常の有無を調べる神経学的検査や画像検査を行います。

エクリン汗腺自体に異常があるかどうかを調べるためには、アセチルコリンを皮内に注射しエクリン汗腺を刺激して、発汗の有無を見ます。コリン刺激薬をイオンフォレーシスで導入して、発汗の有無を調べる検査方法もあります。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、神経疾患やそのほかの疾患に伴う無汗症に対しては、原因になっている疾患を治すことが第一です。

先天性無汗症に対しては、よい対処法がありません。熱中症にならないように、環境に注意しながら生活してもらいます。

無汗症を予防する方法や治療法は確立されていません。ただし、体温調節ができないため、熱中症などにならないように高温などの環境に気をつけながら生活をすること、場合によってはクールベストと呼ばれる着衣を必要とする場合もあります。子どもの場合、運動障害やケガなどの繰り返しでストレスをためやすい状態にあります。ストレス最小限に抑えるための周りの理解も大切です。

🇨🇴無気肺

肺全体または一部の空気が入っていない状態

無気肺とは、肺に空気が入っていない状態。これまで十分に拡張していた肺の組織の一部の空気、または全部の空気が何らかの原因で失われ、肺がつぶれている状態を指します。

この無気肺には種類がいくつもあり、原因もさまざまです。例えば、胸膜腔(くう)に液体がたまれば、液体の圧迫でその下の肺には無気肺が生じます。また、肺がんや、気管支への異物の流入で、気道が閉塞(へいそく)されれば、それより末梢(まっしょう)の肺組織中の空気は吸収され、無気肺が起こります。

そのほか、病巣、リンパ節の腫瘍(しゅよう)や、気胸、胸膜炎、膿胸(のうきょう)、横隔膜ヘルニアなどの病巣によって、気管が外部から圧迫されたり、粘膜の塊が気管支につかえると、そこから末梢部に無気肺ができます。結核、肺がんなどによって、気管支が狭窄(きょうさく)、閉塞して起こることもあります。さらに、外科手術後、痛みなどで深呼吸が行えず、粘液が気管支をふさいで、無気肺が生じることもあります。

無気肺は、ほかの疾患があったり、程度が小さかったりすると、しばしば見落とされます。しかし、ある程度の大きさになると、せき、喀(かく)たん、胸部圧迫感、胸部不快感、発熱、喘鳴(ぜんめい)、呼吸困難、頻呼吸などの症状を示します。重症の場合は、ショックで生命が危険になることもあります。

無気肺になった直後は単に肺に空気がないだけですが、充血を伴う場合には肺組織の破壊と瘢痕(はんこん)化によって、慢性無気肺が起こることもあります。慢性無気肺では、肺炎などを起こしやすくなります。

無気肺の検査と診断と治療

無症状のこともありますが、症状が出て呼吸困難や胸痛が現れた場合は、放置しておくと無気肺が慢性化して肺炎なども引き起こすため、早期に内科、呼吸器内科、呼吸器科の専門医を受診します。

胸部X線検査、胸部CT検査によって、無気肺となった部位の診断が可能です。気管支内視鏡検査によって、気道内の病変の様子を評価します。

治療では、原因となっている疾患がある場合は、その治療を行ない、気管支をふさいでいる異物やたんなどの分泌物があれば、それを取り除きます。たんなどの分泌物を取り除くためには、体位変換、手のひらと指でおわん型を作って軽くたたくタッピング、ネブライザー吸入、去たん剤の投与が行われます。気管支鏡を用いて摘出する場合もあります。

無気肺が慢性化している場合は、肺炎などを起こしやすいため、抗菌剤の投与が行われます。

2022/07/22

🇹🇭むくみ

カリウムが不足したり、リンパ液の流れが悪くなると、血管内から血管外へと水分が移動し、むくみが起こります。むくみをひどくする原因は、寝る前の飲酒、睡眠不足、塩分の取りすぎ、野菜不足、運動不足などです。

果物、柑橘(かんきつ)類、牛乳、豆類、きのこ、海藻などカリウムをたくさん含む食品を取り、ウォーキングなどの軽い運動をしたり、マッサージや入浴で血行をよくすると、むくみは軽減されるでしょう。

むくみがいつまでも続いたり、ひどくなる場合は、薬の副作用であったり、腎(じん)臓や心臓の疾患が原因であることも考えられるので、医師に相談してみましょう。

🇵🇭無月経

女性の月経がない状態で、続発性と原発性の別

無月経とは、女性の月経がない状態。今まであった月経がなくなる続発性無月経と、生まれ付き1度も月経をみない原発性無月経とがあります。

【続発性無月経】

続発性無月経とは、今まであった女性の月経が3カ月以上停止した状態。

成年の女性にある月経は、排卵があって発来します。排卵するのは卵巣ですが、卵巣から排卵させるために命令を出しているのは、大脳の下にある脳下垂体です。 脳下垂体へ指令を出しているのは、大脳の下部にある視床下部です。視床下部に始まる排卵の命令系統の中でどこかに異常があると、その下へ命令が伝わらなくなる結果、無排卵、無月経などの月経異常という症状で目に見えてきます。無月経と無排卵は無縁ではないので、続発性無月経の原因は排卵障害性の不妊症の原因ともいえます。

続発性無月経は、その程度により第1度無月経と、第2度無月経に分けることができます。月経が発来するためには、エストロゲン(卵胞刺激ホルモン)とプロゲステロン(黄体化ホルモン)の協調作用が重要になりますが、第1度無月経はエストロゲンの分泌は比較的保たれているものの、プロゲステロンの分泌に異常があって無月経となっているものをいいます。

一方、第2度無月経は、エストロゲンとプロゲステロンの両者の分泌に異常があって、無月経となっているものをいいます。第2度無月経が、程度としては重症といえます。

その原因によって、続発性無月経は視床下部性無月経、下垂体性無月経、卵巣性無月経、多嚢胞(のうほう)性卵巣症候群、子宮性無月経に分けることもできます。

視床下部性無月経は頻度の高いもので、視床下部機能が障害された結果、エストロゲンとプロゲステロンを主とするゴナドトロピン(性腺〔せん〕刺激ホルモン)の分泌異常を起こして、無月経になるものです。全身衰弱による生理機能低下や、ストレスなどによる心因性の無月経、摂食障害による神経性食欲不振症に伴う無月経、急激な体重低下による減食性無月経などがあります。向精神薬などの副作用による無月経、原因がはっきりしない場合の無月経も、多くは視床下部性無月経です。

下垂体性無月経は、脳下垂体から分泌されているゴナドトロピンに異常を起こして、無月経になるものです。脳下垂体腫瘍(しゅよう)による高プロラクチン血症が、狭義の下垂体性無月経に相当します。出産中や産後に輸血が必要となるくらいの大出血があると、脳下垂体の血流が悪くなって機能が低下し、結果的に無月経となることもあります。 出血による脳下垂体の機能低下は、シーハン症候群と呼ばれます。

卵巣性無月経は、卵巣に原因があって無月経、無排卵となるものです。頻度は低いものの、卵巣腫瘍などの外科的な治療や、抗がん剤による治療などの後に発生することもあります。

多嚢胞性卵巣症候群は、卵巣にたくさんの卵胞が発育するために無月経、無排卵となるものです。頻度も高く、不妊症の重要な原因にもなっています。子宮性無月経は、子宮内膜の炎症や外傷による子宮内膜機能の欠損、子宮内腔(ないくう)の癒着などによって、無月経になるものです。頻回の人工妊娠中絶手術などで、子宮内膜が委縮して発生することもあります。そのほか、異所性ホルモン産生腫瘍などによる無月経などもあります。

続発性無月経の症状としては、月経停止以外に症状のないことが多いものの、急激な体重減少、強い精神的ストレスなど、切っ掛けとなっている変化がみられることがあります。高プロラクチン血症では乳汁の漏出がみられ、脳下垂体腫瘍が原因で高プロラクチン血症となっている場合は、頭痛、視野狭窄(きょうさく)などの症状が現れることがあります。

なお、続発性無月経は、病的なもの以外にも妊娠、授乳、閉経などの生理的な変化による場合も含んでおり、注意が必要です。

【原発性無月経】

原発性無月経とは、女性が満18歳になっても、1度も月経をみない状態。

現在では、日本人の少女の平均初経年齢はおよそ12歳で、14歳までに98パーセントが初経を経験するといわれています。定義上は18歳となっていますが、だいたい15歳くらいになって初経がないと、多くの少女は母親と一緒に産婦人科を訪れると見なされています。

原発性無月経の原因の多くは、形態異常や染色体異常など生まれ付きの遺伝的なものです。このうち形態異常には、膣(ちつ)閉鎖または処女膜閉鎖があります。膣や膣の入り口が閉鎖しているために、実際には月経があるのに、外へ流れ出てこないために、無月経と思われているものです。この場合は、卵巣や脳下垂体機能は正常のことが多く、ホルモン分泌は正常で二次性徴も認められて乳房などは発達しており、周期的な下腹部痛が繰り返されるのが特徴です。

そのほか、卵巣や子宮が先天的になかったり、発育が不完全の場合には、月経が起こりません。

染色体異常としては、ターナー症候群、精巣性女性化症候群、副腎(ふくじん)性器症候群などがあり、甲状腺(せん)機能低下症など疾患が原因のこともあります。卵巣形成障害や染色体異常が原因の場合は、乳房の発育、恥毛や腋毛(えきもう)の発毛など、思春期に起こる二次性徴の出現がみられないことが特徴的です。

 明白な原因がない、いわゆるただ初経が遅れているだけということも多いのですが、この場合、ほかの二次性徴の出現も遅れていることが多いようです。

無月経の検査と診断と治療

【続発性無月経】

月経は女性の全身的健康のバロメターですので、続発性無月経が3カ月以上続けば、婦人科、ないし産婦人科の専門医を受診する必要があります。長期間放置すると、第1度無月経が第2度無月経に移行して重症化し、治療がより困難になる場合もありますので、早期受診を心掛けます。

無月経の期間がそれほど長くない場合は、基礎体温の計測を数日から数週間に渡って行い、受診時にグラフに記載したものを持参します。そのほか、体重の変化などにも注意した上で受診します。 

医師の診察では、まず妊娠などの生理的無月経でないことを確認します。いつから無月経になっているか、記録を確かめます。無月経の原因がどこにあるか見極めるためには、血液検査によるホルモン検査、ホルモン負荷試験などを行い、原因があるのが視床下部か、脳下垂体か、卵巣か、子宮かを診断します。

産婦人科的な内診や経膣(ちつ)超音波検査などで、子宮や卵巣の大きさや腫瘍の有無もチェックします。高プロラクチン血症があり脳下垂体腫瘍などが疑われる時は、MRIなどの画像診断も行われます。

治療は、原因によって異なるばかりでなく、それぞれの受診者の目標とする到達点によって異なります。すなわち、月経を起こすことを目標とするのか、さらに進んで妊娠の成立を目標とする治療を望むのかという点によって、異なるわけです。ただし、原因によっては妊娠の成立が極めて難しい場合もあります。

月経を起こす治療には女性ホルモン製剤、妊娠を成立させる治療には排卵誘発剤の使用が基本です。第1度無月経の場合、女性ホルモン製剤のゲスターゲン(プロゲストーゲン)の投与で消退出血を起こすか、排卵誘発剤のクロミフェンの投与で排卵誘発を行います。第2度無月経の場合、女性ホルモン製剤のエストロゲンとゲスターゲン(プロゲストーゲン)の投与を行います。

このほか、漢方薬、プロラクチン降下剤、手術、精神的な理由ならカウンセリング、無理なダイエットや肥満なら食事療法などを、原因や症状に応じて適宜組み合わせて治療します。

【原発性無月経】

ターナー症候群、副腎性器症候群なども現在では、早く診断できるようになったので、15歳くらいまでに月経がこない場合は、産婦人科の専門医、特に内分泌学の専門医を受診します。

医師の側では問診により、無月経や遺伝的疾患の家族歴、内科的疾患の有無、薬剤服用の有無を確認します。基礎体温を測り、排卵の有無も確認します。問診、視診、内診などで子宮や腟の存在の有無、二次性徴発現の有無を調べた後、染色体検査、超音波検査、MRI検査、腹腔(ふくくう)鏡検査などを行い確定診断をします。

原発性無月経の治療は、無月経の原因、卵巣機能状態の程度、年齢などを考慮した上で決められます。染色体異常の場合は、性ホルモン補充療法により第2次性徴の促進と維持を図ります。染色体に異常がない場合は、排卵誘発剤の投与などの治療が行われます。また、膣や処女膜などの閉鎖が原因の場合は、手術療法で閉鎖部の切開が行われます。

🇹🇼無月経・ 乳汁分泌症候群

妊娠や授乳期以外に無月経と乳汁分泌が起こる状態

無月経・ 乳汁分泌症候群とは、妊娠や授乳期以外の時期に、無月経と乳頭からの乳汁分泌がみられる状態。乳汁分泌性無月経とも呼ばれます。

主に20~30歳代の性成熟期の女性において、大脳の下部にある小さな分泌腺(せん)である下垂体(脳下垂体)から分泌されるプロラクチンというホルモンが増加して、血液中のプロラクチン値が上昇した状態である高プロラクチン血症が生じると、通常、無月経と乳汁分泌が起こります。

下垂体はプロラクチンや副腎(ふくじん)皮質刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、成長ホルモン、黄体化ホルモン、卵胞刺激ホルモンの6つのホルモンを分泌し、プロラクチンは乳腺の発育促進、乳汁産生・分泌促進、排卵や卵胞の成熟抑制にかかわるホルモンです。

下垂体から分泌されるプロラクチンが増加すると、黄体化ホルモンと卵胞刺激ホルモンの分泌が低下するので、プロゲステロン(黄体ホルモン)やエストロゲン(卵胞ホルモン)の分泌が低下し、無排卵、無月経などの月経異常の原因になります。

無月経・ 乳汁分泌症候群を招く高プロラクチン血症は、種々の原因によって起こります。妊娠した女性では、妊娠の進行とともにプロラクチン値が高くなります。

高プロラクチン血症の原因としては、下垂体におけるプロラクチン産生腫瘍(しゅよう、プロラクチノーマ)が最も多くみられます。

ほかには、大脳の下部にある視床下部・下垂体系の腫瘍や炎症のため、プロラクチンの産生を抑制する脳内物質であるドーパミンの下垂体への作用が阻害されると、下垂体からのプロラクチン分泌への抑制という調節がなくなり、血液中のプロラクチン値が増加します。

また、頭蓋咽頭(ずがいいんとう)腫、 胚芽(はいが)腫などの脳腫瘍や、結核を始めとする感染症によく似た病巣を全身のいろいろな臓器に作る疾患であるサルコイドーシスなどでも、高プロラクチン血症が高頻度に出現します。

プロラクチン分泌を促進する甲状腺刺激ホルモンの分泌が過剰になる原発性甲状腺機能低下症や、腎(じん)不全でも、高プロラクチン血症が出現することがあります。胸壁の外傷、手術や帯状疱疹(たいじょうほうしん)などの胸壁疾患でも、プロラクチンの分泌が促進されることがあります。

さらに、薬剤の副作用によることがあります。ある種の抗うつ剤や胃薬は、ドーパミンの作用を阻害することによりプロラクチンを増加させます。降圧薬の一種もプロラクチンを増加させます。低用量ピルなどの経口避妊薬も、視床下部のドーパミン活性を抑制するとともに下垂体に直接作用して、乳汁を産生するプロラクチンの産生や分泌を刺激させます。

高プロラクチン血症であっても、必ずしも症状を伴うものではありません。性成熟期の女性では、無月経と乳汁分泌が主要な兆候となります。下垂体のプロラクチン産生腫瘍が大きい場合には、腫瘍による視神経圧迫のため視野狭窄(きょうさく)、視力低下、頭痛を伴うことがあります。

無月経・ 乳汁分泌症候群の症状に気付いたら、婦人科 、内科、乳腺科を受診することが勧められます。

無月経・ 乳汁分泌症候群の検査と診断と治療

婦人科 、内科、乳腺科の医師による診断では、血中プロラクチン値を測定するとともに、出産経験や内服薬服用の確認を行います。

血中プロラクチンが高値の時は、下垂体のプロラクチン産生腫瘍の可能性が高いため、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査やCT(コンピュータ断層撮影法)検査を行い、下垂体病変を調べます。血中プロラクチン値が軽度から中等度の時には、内服薬服用の有無を重視し、下垂体のプロラクチン産生腫瘍以外の原因について検査を行います。

婦人科 、内科、乳腺科の医師による治療では、無月経・ 乳汁分泌症候群の原因がはっきりとしたら、その原因に応じた治療を行います。

内服している薬剤が原因と考えられる場合は、その薬剤を中止します。乳汁分泌がみられるだけで、ほかに特別な異常や兆候がなければ、経過観察も可能です。不快ならば、プロラクチンの産生を抑制する脳内物質であるドーパミンの分泌を促すドーパミンアゴニスト製剤(ドーパミン受容体刺激薬)により、プロラクチンの分泌を抑えると症状は消えます。

無月経を伴う場合には、排卵や月経を誘発する処置を行います。

下垂体のプロラクチン産生腫瘍が原因と考えられる場合は、現在、薬物療法が第一選択となります。ドーパミンアゴニスト製剤の服用により、血中プロラクチン値は低下し、腫瘍も縮小します。一方、腫瘍が直径1センチ以上と大きく、視野障害や頭痛などがあり、腫瘍サイズの縮小が急がれる場合は、手術が選択されることもあります。

原発性甲状腺機能低下症が原因と考えられる場合、甲状腺ホルモンの補充により血中プロラクチン値は正常化し、卵巣機能は回復します。

🇬🇭無酸症

胃で分泌される胃液の中に、胃酸とも呼ばれる塩酸がほとんどない状態

無酸症とは、食べ物を消化するために胃で分泌される胃液の中に、胃酸とも呼ばれる塩酸がほとんどないか、全くない状態。胃酸欠如症とも呼ばれます。

胃液は、強酸性で、pHは通常1〜1・5程度。胃酸とも呼ばれる塩酸、および酸性条件下で活性化する蛋白(たんぱく)分解酵素のペプシンが含まれており、これによって蛋白質を分解して、小腸での吸収を助けています。同じく酵素のリパーゼは、主に脂肪を分解しています。

胃液はまた、感染症の原因になる細菌やウイルスを殺菌したり、一部の有害物質を分解したりすることで、生体防御システムとしての役割も担っています。例えば、コレラ菌は胃酸によってほとんどが死滅してしまうため、大量の菌を摂取しない限り感染は起こりませんが、胃酸の分泌がほとんどない無酸症の人、あるいは胃酸の分泌量が少ない低酸症の人などでは少量のコレラ菌でも発症します。

胃液中に本来含まれるはずの胃酸がほとんど含まれない無酸であっても、何も症状がない時には疾患というわけではなく、何らかの症状が無酸のために現れる場合に初めて無酸症とされます。

厳密な意味での無酸症は、詳細な胃液検査をしても胃酸とも呼ばれる塩酸が認められない状態をいいます。ガストリン、またはヒスタミンを注射して、チューブから胃液を採取する胃液検査で塩酸の分泌状態を見る方法が行われていますが、これによると完全な無酸は少ないことがわかりました。

 それゆえ、胃液の塩酸濃度の低い低酸症も一括して、低無酸症と呼ぶこともあります。これは、低酸の程度の強いものは無酸とほとんど同じような症状を示すからです。

無酸症を示す疾患の代表的なものは、慢性胃炎の中の委縮性胃炎。これは多くの日本人にみられますが、高齢になるに従い胃粘膜に委縮性変化が生じ、胃酸を分泌する壁細胞という細胞の数が減ってくるために、まず低酸症の状態となり、これが高度になると無酸症になると考えられています。

そのほかに、ビタミンB12の欠乏によって生じる悪性貧血や、進行した胃がんなどで、胃粘膜に委縮性変化が生じた場合に、無酸症がみられます。手術によって胃を切除した時にも、無酸症が当然起こります。

また、膵臓(すいぞう)に腫瘍(しゅよう)があって水様性下痢、低カリウム血症、胃酸分泌障害を示すWDHA症候群などでは、胃粘膜には特に形態学的な変化が生じないにもかかわらず、機能障害のため無酸症をみることがあります。この場合は機能障害の原因を除去すれば、無酸症は一過性に終わります。

無酸症の症状としてjは、胃液に塩酸がほとんどないか、全くないために胃における消化不良が起こり、食欲の低下、食後の胃もたれや膨満感、下痢などがみられます。しかし、それらの症状がみられることは案外少なく、膵液がよく分泌されていれば、たとえ胃において消化がよく行われなくても、腸で十分消化が行われるからです。

無酸症の症状は、常に一定しているものではなく、起きたり起きなかったりして、変化するのが一般的です。特に暴飲暴食などによって悪化し、過労や気候の変化も影響します。

 無酸症を放置しておいても特に重大な合併症は起こりません。しかし、食欲がなくて、栄養の低下が起こった時には注意が必要です。悪性貧血に合併した無酸症は、直ちに治療を受けることが大切です。

無酸症の検査と診断と治療

内科、胃腸科、消化器科の医師による診断では、ガストリン、またはヒスタミンを注射し、チューブから胃液を採取する胃液検査で、胃酸分泌能を測ります。また、血中ペプシノーゲン値、特にペプシノーゲンのⅠ/Ⅱ比は、胃粘膜の委縮度と相関しているので、これを測ることによって胃酸分泌能を推測できます。

慢性胃炎や胃がんの診断には、X線検査や内視鏡が必要となります。WDHA症候群の診断には、VIP(血管作用性腸ペプチド)を始めとする血中ホルモンの測定やホルモン産生腫瘍の検索が必要です。

内科、胃腸科、消化器科の医師による治療では、検査によって他の疾患が除外され、単に無酸症で胃酸とも呼ばれる塩酸がほとんどないか、全くないために、食べ物の消化作用に支障が起きている場合は、塩酸リモナーデなどの消化剤を服用します。

慢性胃炎による胃の粘膜の委縮も、胃腺(いせん)の委縮も、元に戻すことはできません。安静を心掛ける、ストレスを避ける、消化のよい食事を取る、コーヒーや香辛料などの刺激物の摂取を避けるなど、日常生活の中で注意をしていきます。

悪性貧血の治療は、基本的に鉄欠乏性貧血と同じで、不足しているビタミンB12か葉酸を補給すれば治ります。

🇳🇿虫刺され(虫刺症)

虫に皮膚を刺されてできる傷

虫刺されとは、虫に皮膚を刺された時にできる傷であり、外傷の一つ。虫刺(ちゅうし)症とも呼ばれます。

傷は、ハチ、蚊、ノミ、ダニ、ブヨ、アリなどに刺されて、皮膚に注入される虫の唾液腺(だえきせん)物質に対するアレルギー反応です。主に腕や足の外側に多く、引っかき壊して水膨れを作ったり、皮膚がむけたり、出血したり、かさぶたとなります。幼児が主で、春夏に著しく、秋冬にはよくなるのが普通です。

同じ虫刺されといっても、人間を刺す虫の種類は多く、その毒性の強弱、あるいは刺された人の毒物に対する反応の差により、症状が異なります。

ハチ

一般的には、ハチに刺された場合は、その強い毒性のために、刺された部位が強い痛みとかゆみとともに、大きく赤く膨れ上がり、治るのに数日かかります。特に、ハチの毒液の成分に対し、アレルギーを持っている人は、反応が強いと、血圧低下、呼吸困難などのショック症状を起こすこともあります。反応が異常に強い時は、ショック死することもあります。

しかし、ショックを起こすのはハチだけではなく、蚊でも、その毒液の成分にアレルギーのある人は、ショックを起こすことがありますので、注意が必要です。

蚊による虫刺されは、一番ポピュラーな虫刺され。普通は刺されたところが、銅貨大くらいまでに赤くはれ、強いかゆみがありますが、数時間以内に治まります。ただ反応の強い人では、水膨れになったり、数カ月間に渡って硬いしこりが残って、かゆみの非常に強い固定じんましんといわれる皮膚病になることがあります。

国内ではあまりないものの、海外では蚊に刺されてマラリア病やフィラリア症に感染することがありますので、海外旅行をする時は注意が必要です。

ノミ

ノミもまた、刺す虫の代表的なもの。最近は衛生設備の整備により、人ノミはあまり都会ではみられなくなり、現在よくみられるのは、犬、猫につく犬ノミ、猫ノミの虫刺されです。

このノミは元来、人につくことはないのですが、たまたま地面や畳などに落ちていると、人の足について刺したりします。かゆみの強い、赤いボツボツと水膨れができます。

ダニ

ダニは非常に種類の多い昆虫ですが、虫刺されと一番関係が深いのは家ダニです。家ダニはネズミに寄生していて、ネズミがいなくなると人を刺します。最近は家屋が密閉されたために、昔ほどネズミはみられなくなり、家ダニの被害も減っているものの、食品を扱っている店などでは、ネズミも多く、そのネズミの移動によって被害に遭うことがあります。

野鳥に寄生しているトリサシダニ類は、鳥が巣を捨てると人を刺します。

畳やカーペットの下に巣くうコナダニ類では、ツメダニが人を刺すことがあります。

これらの非常に小さくて、肉眼ではなかなか見付けにくいダニ類は、皮膚の軟らかいところを好んで刺しますので、軟らかい部分に赤いボツボツがあれば、ダニの虫刺されも考えられます。

山や草原を歩いている時に、体長1~2センチのマダニに刺されることがあります。激しい痛みと赤いはれを起こします。しかも、虫体が皮膚の中に深く食い込んでいて、一度刺されるとなかなか引き離すことができません。手術的に周囲の皮膚と一緒に虫を切り取るか、1~2週間放置して、虫が満腹になり、自然に離れるのを待つしか手はないようです。

日本海側の河川領域のネズミに寄生するアカツツガムシ、全国の山林にいるネズミに寄生するフトゲツツガムシ、タテツツガムシの虫刺されにより、ツツガムシ病を起こすこともあります。発病すると、高熱とリンパ腺のはれと同時に、全身に淡紅色から淡紫紅色の大小の紅斑(こうはん)が生じます。刺された部位の中央に、かさぶたのついた大豆(だいず)より大きな潰瘍(かいよう)を持つしこりができるのが、ツツガムシ病の特徴です。

南京虫

南京虫(トコジラミ)は、家屋の透き間や、織物、紙の間などに潜んでいて、夜間に活動して人を刺します。刺されると、強いかゆみと痛みがあり、やや大きな赤いしこりがたくさんできます。

都会では、南京虫による虫刺されはあまりみることがなくなっているものの、織物や紙を扱う職業の人は刺されることが多いようです。また、家具について移動するため、新築の家でも油断することはできません。

虫刺されの検査と診断と治療

虫刺されの治療には、抗ヒスタミン剤含有軟こうを塗布します。炎症症状の強い時は、短期間のステロイド外用剤の塗布が有効です。特に、テープ状のものを発疹(はっしん)の大きさに切って張り付けるのが、効果的です。

しかし、慢性の硬い結節ではなかなか治りません。これにはステロイドの注射薬を少量ずつ、一つ一つの結節に直接注射する方法もあります。引っかくのが疾患を悪化させ、長引かせるもとですから、かゆみ止めの飲み薬も必要な場合があります。

ハチの場合は、刺された直後には、毒を中和する意味でアンモニア水の塗布が有効です。刺されて時間がたち、赤く膨れ上がっている時には、ステロイド外用剤の塗布、あるいは短期間のステロイド剤の内服を行います。

虫刺されの予防法は、虫に刺されないように注意すればすむことです。蚊に刺されそうな場所に出掛ける時には、市販されている虫よけの外用剤を使います。

家庭における予防法としては、生活環境からのノミ、ダニなどの駆虫が第一で、まず家の大掃除をして、畳、カーペットは直接日に干し、さらに駆虫剤を散布します。部屋は風通しをよくして、湿気を払います。飼っている犬、猫の虫退治、家の中や周囲にいるネズミの退治、鳥の巣の取り除きも行います。

かいてあまり傷にならないように、週2回はつめを切る、寝る時に手袋をするなどの工夫も必要です。

🇦🇺無症候性キャリア

病原性の細菌、ウイルスなどを体内に保有している人

無症候性キャリアとは、 病原性の細菌、ウイルスなどを体内に保有している人のこと。キャリアは英単語carrierのカタカナ表記で、運び手、運ぶ者、保有者を意味します。

無症候性キャリアは単にキャリア、無症候キャリア、無症候性保有者、健康保有者などとも呼ばれ、特に細菌を体内に保有している人は、無症候性保菌者、健康保菌者と呼ばれることもあります。

さまざまな病原体が感染することで感染症が引き起こされますが、感染が成立しても、その感染症特有の症状がはっきりと現れない場合があります。免疫など感染に対する防御機構の働きによって発病に至らない場合や、病原体に特有の性状によって症状の出ない時期がある場合が、これに当たります。

この状態の無症候性キャリアは、症状が現れないために外見上は健康で非感染者との見分けが付きませんが、病原体が体内で増殖して病気が進行したり、本人が気付かないままに他の人に感染させる可能性があります。

例えば、エイズ(後天性免疫不全症候群)では、HIVウイルスに感染直後に一過性の風邪に似た症状が現れ、その後は長い場合では10年間以上も無症候の期間が続き、最終的にエイズを発症します。無症候の間も、HIVは血液中でT細胞に感染しながら、徐々に増殖しており、無症候性キャリアは血液や性交渉を介してHIVを感染させる可能性を持っています。

また、ヒトT細胞白血病ウイルスや、慢性ウイルス性肝炎の原因となるB型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスなど、潜伏感染や慢性感染を起こす病原体による疾患で、多くの無症候性キャリアが存在します。B型肝炎、C型肝炎では、乳幼児期に無症候性キャリアになったとしても、体の免疫機構が未完成なためにほとんが発症せず、成人になって慢性肝炎の状態になることが多いのです。

エイズのように進行の遅い疾患以外でも、クラミジアや淋菌(りんきん)による性(行為)感染症では、女性に自覚症状が出にくいため、一種の無症候性キャリアとなり得ます。さらに、ノロウイルスによる食中毒などの流行においても、無症候性キャリアが関与している可能性が指摘されています。

🇵🇱無症候性心筋虚血

一過性に心筋の虚血がありながら、自覚症状がない病態

無症候性心筋虚血(SMI:silent myocardial ischemia)とは、検査上では狭心症と全く同じく冠動脈に狭窄(きょうさく)や閉塞(へいそく)を持ち、一過性に心筋の虚血を起こす所見がありながら、胸痛の自覚症状がない病態。無痛性心筋虚血とも呼びます。

無症候性心筋虚血の起こる原因は、狭心症と同じで高血圧、高脂血症、肥満、高尿酸血症、ストレス、性格など。この無症候性心筋虚血を持つ発症者は、基本的に痛みを感じる限界値の高いことがわかっています。また、糖尿病にかかっていたり、年齢が高くなるとともに、発症頻度が増加します。

すでに大きな心筋梗塞(こうそく)がある場合にも、痛みを感じないことがあります。心臓を移植した場合にも、神経がつながっていないために痛みを自覚できず、虚血性心疾患の発見が遅れることが欧米では問題になっていますが、日本でも決して対岸の火事ではありません。

無症候性心筋虚血は、1型、2型、3型の3つに分けられます。

1型は全く症状がない厄介なもので、日本では健康と思っている人の2〜3パーセントにあると見なされます。検診やほかの疾患で診察を受けた際に、偶然見付けられる程度です。

2型は、心筋梗塞に合併します。狭心症と一緒にみられることが多く、比較的診断されやすいもの。普通、心筋梗塞の20〜50パーセントにみられますが、急性期ほど頻発します。

3型は、狭心症と一緒に発症するものです。一般的に、安定狭心症とは20〜40パーセントに合併し、不安定狭心症とは50〜80パーセントと高率に合併します。しかも、発生する心筋虚血の4分の3が無症候性心筋虚血なのです。

従って、狭心症や心筋梗塞例を治療する際には、自覚症状の改善だけではなく、無症候性心筋虚血発作の有無を適宜、検査してもらう必要があります。自覚症状だけを目標に治療すると中途半端となり、心筋梗塞や心臓性急死に進む危険があります。胸痛を自覚しなくなったことは改善を意味しますが、心筋虚血発作が完全に消えたわけではなく治療は十分とはいえないことを、忘れないようにします。

無症候性心筋虚血の検査と診断と治療

無症候性心筋虚血では自覚症状がないため、診断には各種の検査が欠かせません。よく行われるものに、運動負荷試験とホルター心電計があります。心筋シンチグラフィも、症例を選んで行われます。全体像を把握した上で、必要に応じて冠動脈造影も行われます。

治療は、基本的に狭心症と同じです。高血圧、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病がリスクを高めるため、生活習慣病にかからないように留意し、もしかかってしまった場合には、そちらの治療をすることが先決となります。肥満している人は減量、喫煙している人は禁煙を図ります。

しかし、無症候性心筋虚血では自覚症状がないために、無理をしたり、受診や治療が遅れたりなど、医師と発症者の双方とも好ましくない状況を作りやすい危険性があります。この疾患を十分に理解するようにします。

無症候性心筋虚血などの虚血性心疾患にかからないためには、狭心症、心筋梗塞、冠動脈硬化を促進させる危険因子を遠ざけて、改善することが大切です。そのためには、40歳になったら毎年1回、心電図、血圧、血中総コレステロールなどの脂質を測定することです。特に、こうした疾患が発生した家系の人には起こりやすいので、心臓、血管系の検診を毎年受けるようにします。

🇷🇴無症候性脳梗塞

梗塞する部分が極めて小さいために、自覚症状が全くない脳梗塞

無症候性脳梗塞(こうそく)とは、梗塞する部分が極めて小さいために、自覚症状が全くない脳梗塞。隠れ脳梗塞、微小脳梗塞とも呼ばれます。

自覚症状は全くないけれど、CT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)などの画像診断の普及に伴って、脳の病変が見付かることが多くなっています。高齢者に多く、脳ドック受診者のうち、50歳代は約1割、60歳代は約2割、70歳代は約3割の人に、無症候性脳梗塞が見付かっています。

その約80パーセントは、ラクナ梗塞と呼ばれるタイプの脳梗塞です。ラクナ梗塞は通常、高血圧による動脈硬化が原因となって、脳の深部にある0・4ミリ以下の極めて細い血管である穿通枝(せんつうし)動脈が狭くなり、この部位に血の固まりである血栓が形成されて、最終的に血管が閉塞して生じるとされています。

極めて細い血管の閉塞により生じる脳梗塞なので、病変の大きさは直径15ミリ以下です。直径15ミリを超える梗塞は、ラクナ梗塞とはいいません。

血管の閉塞のほかに、不整脈や心臓の疾患で心臓内で血栓が形成され、この血栓が流れて飛んで、脳の深部の極めて細い血管を閉塞させることもあります。血管の閉塞により、脳の組織の一部が壊死して脱落し空洞を残します。

ラクナ梗塞の場合は、小さな梗塞であるため、脳梗塞の中では最も症状が軽症です。ほかの種類の脳梗塞であるアテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓と違い、大きな発作が起こることはありません。

その症状はラクナ症候群といい、運動まひ、しびれなどの感覚障害が主に起こります。そして、症状は段階的に現れて、少しずつ進行していきます。ラクナ梗塞が発症することが多いのは、安静時で、特に睡眠中です。朝起きた時にも、起こることが多くみられます。

また、ラクナ梗塞では梗塞する部分が極めて小さいので、症状が出ないことがあります。これが無症候性脳梗塞で、運動障害や感覚障害などの自覚症状を全く感じないまま、小さな脳梗塞が起こります。高齢者に多くみられ、高血圧、高脂血症、糖尿病などがあると発症する確率が高くなります。

ほとんどが直径15ミリ以下の小さな梗塞ですが、そのまま無症候性脳梗塞を放置しておくと、梗塞の数が増えたり、梗塞が脳のいろいろなところに発生して、多発性脳梗塞になります。多発性脳梗塞になると、手足や顔面のしびれ、軽いまひ、言語障害、歩行障害、食べ物を飲み込みにくくなる嚥下(えんげ)障害などの症状がみられます。また、認知症の原因となることもあります。

多発性脳梗塞の一番の危険要因は、高血圧です。高血圧は、血管の内側の壁に強い圧力を加えます。そのために、血管の内側の壁が傷付いて、どんどん硬くもろくなり、動脈硬化が発症します。動脈硬化が起こると、血管の血液が通る部分が狭くなり、血流が途絶えて脳梗塞になる危険が増すのです。

無症候性脳梗塞の検査と診断と治療

脳神経外科、脳外科、神経内科の医師による診断では、MRI(磁気共鳴画像)で脳血管の様子を調べるほか、超音波検査で首を通る頸(けい)動脈が動脈硬化を起こして狭くなっていないかどうかを調べます。頸動脈で血栓ができて脳に流れると、脳血管が詰まる恐れがあるためです。

脳神経外科、脳外科、神経内科の医師による治療では、血管が狭くなっていれば、血液を固まりにくくするアスピリン、塩酸チクロピジン、シロスタゾールなどの抗血小板剤を使用します。

脳血管がこれ以上詰まらないようにするには、血圧の管理が大切です。塩分を控え、過カロリー、脂質過多の食生活を見直して、魚や植物性蛋白(たんぱく)質中心の日本食を取り入れるなど食生活に気を配り、50歳代であれば、上は130未満、下は80未満を目標にします。毎日30分程度歩くこともお勧め。水分はしっかり補給し、節酒や禁煙も必要です。

適正な血圧は、年齢や心臓病や糖尿病の有無、コレステロール値などによって変わってきます。掛かり付け医を持ち、指導を受けるといいでしょう。

また、無症候性脳梗塞のある人は、ない人に比べて約4倍脳梗塞になりやすいことがわかっています。脳梗塞を発症すると、突然、片側の手足や顔半分のまひやしびれ、言語障害などの症状が出現します。

発症時には119で救急車を呼び、専門的治療のできる病院に発症から2時間以内に搬送してもらうことが重要です。t-PAという薬剤を静脈内に点滴して、血管に詰まった血栓を溶かす治療を受けると、後遺症が残らない人が1・5倍に増えますが、発症から2時間以内の病院到着が必須条件だからです。

ラクナ梗塞が進行した多発性脳梗塞で起こりやすい認知症には、根本的な治療はありません。デイケア、デイサービスへの通所や、家族の協力のもとでの散歩や、食事、テレビ、清掃、おやつ、会話など、生活習慣を規則正しく続けることで、脳を活性化させ、症状が改善したり、進行が遅れたりということがあります。

🇦🇹無症候性副腎腫瘍

症状が現れていず、ほかの疾患の検査で偶然、認められる副腎の腫瘍

無症候性副腎腫瘍(ふくじんしゅよう)とは、症状が現れていず、健康診断や副腎以外の疾患の検査中に偶然、副腎に認められる大きさ1センチ以上の、はれ物。副腎偶発腫瘍、副腎偶発腫(副腎インシデンタローマ)とも呼ばれます。

副腎は、左右の腎臓の上に位置する小さな内分泌臓器。副腎の内部を構成する髄質と、髄質を包む皮質からできており、皮質からはグルココルチコイド(糖質コルチコイド)とアルドステロン(鉱質コルチコイド)という生命の維持に必要な2種類のホルモンのほかに、男女を問わず、男性化作用のあるアンドロゲンというホルモンを分泌しています。髄質からはアドレナリン(エピネフリン)、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)を分泌しています。

副腎腫瘍は、ホルモンを過剰に分泌する機能性腫瘍と、ホルモン活性のない非機能性腫瘍に分類されます。ほとんどは非機能性腫瘍で、皮質腺腫(せんしゅ)、骨髄脂肪腫、嚢腫(のうしゅ)、転移性腫瘍などがあります。

機能性腫瘍がホルモンを過剰に分泌する場合には、さまざまな疾患の原因となります。代表的なのは、血圧を上げるホルモンであるアルドステロンが多く作られる原発性アルドステロン症という疾患です。高血圧患者の1割弱を占めるともいわれています。

また、グルココルチコイドが多く作られるクッシング症候群、アドレナリンやノルアドレナリンが多く作られる褐色細胞腫という疾患も多くみられ、高血圧や糖尿病などを引き起こします。

原発性アルドステロン症などのような副腎疾患に特徴的な症状を示さず、あるいは自覚症状を示さずに、胃腸、肝臓、腎臓などの腹部の疾患に対するCT(コンピュータ断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査、超音波(エコー)検査などの画像診断による精査過程で偶然、発見される無症候性副腎腫瘍は、副腎腫瘍の中で最も多いものです。

近年、画像検査機器の精度が高くなり、小さな腫瘍も明瞭に描出できるようになったため、無症候性副腎腫瘍の発見頻度は増えています。一般に、50歳以上の人では、3パーセント以上の人に認めるとされ、人体中で最もよく見付かる腫瘍の一つでもあります。

症状は、副腎腫瘍からのホルモン分泌の過剰の有無によってさまざまで、多くは無症状です。無症候性副腎腫瘍の約半数は、非機能性腫瘍かつ良性腫瘍の皮質腺腫とされており、体に異常がなければ、様子を見るだけで治療の必要はありません。

一方、無症候性副腎腫瘍の中には、プレ(サブ)クリニカルクッシング症候群(グルココルチコイド産生腺腫)と無症候性の褐色細胞腫がおのおの5~10パーセントの頻度で発見され、原発性アルドステロン症(アルドステロン産生腺腫)が5パーセント程度、原発性副腎がんが1〜2パーセント含まれるとされています。

そのほか、転移性副腎がん、骨髄脂肪腫、嚢腫、神経節神経腫、囊胞などが含まれます。

手術による無症候性副腎腫瘍の摘出が必要か否かは、ホルモン分泌の過剰の有無と、悪性腫瘍(原発性副腎がんや転移性副腎がん)の可能性の2点により判断されます。

無症候性副腎腫瘍の検査と診断と治療

内科、内分泌代謝内科、循環器内科、泌尿器科などの医師による診断では、悪性腫瘍の可能性は腫瘍の大きさが3センチ以上であることや、CT(コンピュータ断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査などの画像検査での悪性を疑わせる所見の有無で判断します。

ホルモン分泌の過剰の有無については、原発性アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫の3つの疾患について内分泌検査を行います。

内科、内分泌代謝内科、循環器内科、泌尿器科などの医師による治療では、検査の結果、ホルモンを過剰に分泌している所見がなく、腫瘍の大きさが3センチ未満であれば、その時点では手術を行わずに経過を観察します。そして、半年から1年ごとにホルモン検査と画像検査を行います。

 一方、腫瘍の大きさが3センチ以上、またはホルモンを過剰に分泌している所見がある場合は、手術による腫瘍摘出について総合的に判断します。

また、検査でプレ(サブ)クリニカルクッシング症候群と診断された場合も、目立った症状を引き起こすことがなくとも、数年かけて高血圧や糖尿病、脂質異常症(高脂血症)、骨粗鬆(こつそしょう)症などを引き起こす可能性がありますので、腹腔(ふくくう)鏡下の手術による腫瘍摘出が勧められます。

👣むずむず脚症候群

下肢を中心に不快な感覚、むずむずする運動が発生

むずむず脚症候群とは、夜間の睡眠時などに下肢を中心に不快な感覚が起こり、むずむずする不穏な運動を生じて、慢性的に寝付けない病状。下肢静止不能症候群とも、レストレス・レッグス症候群(Restless legs syndrome:RLS)とも呼ばれています。

調査によると、日本では人口の3~5パーセントにみられ、およそ130万人の発症者がいます。症状の軽い人も含めると、200万人近くになります。年代別と性別でいえば、40歳以上の中高年に多く、特に40~60歳の女性に多くみられます。不眠症の発症者の10人に1人の割合で、むずむず脚症候群の人がいるともいわれています。

正確な原因は不明ですが、神経伝達物質であるドーパミンの機能低下、中枢神経における鉄分の不足による代謝の異常、脊髄(せきずい)や末梢(まっしょう)神経の異常、遺伝的な要素などが考えられています。 鉄欠乏性貧血、パーキンソン病、尿毒症、妊娠、糖尿病、痛風、結核、肝炎、肺炎、関節リウマチ、胃切除後の下肢静脈血栓などの状態にある人や、慢性腎(じん)不全で人工透析をしている人、抗うつ薬や抗精神病薬を服用している人などに多くみられます。

症状としては、足の裏、ふくらはぎ、太ももに、虫がはっているような感覚や、むずむず感、ほてり感などの不快な感覚が起こるために、じっとしていられません。横になっている時や座っている時などに起こり、多くは夕方から夜にかけて強くなります。立って歩いたり、脚を動かすと症状が治まったりして楽になるものの、じっとしていると再び症状が現れます。

症状が最も現れやすいのが、夜、寝床に入っている時です。最初は時々起こる程度ですが、悪化すると毎日起こるようになり、不眠症や日中の眠気の原因となります。次第に、夜だけでなく昼間でも、テレビを見ている時、会議の最中、電車での移動中など、座ってじっとしていると症状が起こるようになり、日常生活のあらゆる場面で支障を来すようになります。また、不快感が下肢だけでなく、腰から背中、腕、手など全身にまで広がることもあります。

このむずむず脚症候群の診断は、国際RLS研究班が考案した診断基準に従って行います。以下の4つが、その必須項目です。

1、脚を動かしたいという強い欲求が、かゆみや痛みなどの不快な下肢の異常感覚に伴って生じる。2、 その症状は、安静にして静かに横になったり座ったりしている状態で始まる、あるいはひどくなる 。3、その症状は、歩いたり脚を伸ばすなどの運動を続けている間は改善する、または治る。4、 その症状は、日中より夕方から夜間にかけて強まる、または夕方から夜間のみに起こる。

なお、むずむず脚症候群は、皮膚の乾燥によってかゆみを感じる乾皮症との区別が必要です。高齢になると、皮膚が乾燥してかゆみが起こりやすくなります。特に、空気が乾燥しやすい冬は、かゆみに悩まされる人が多くなります。こういう乾皮症によるかゆみは、皮膚の表面に起こるものです。通常、保湿剤を塗ってスキンケアしたり、室内の乾燥を防ぐなど、日常生活の中で注意することで改善します。

一方、むずむず脚症候群でのむずむず感は、皮膚の表面ではなく、脚の内部に起こります。症状が重い場合には、脚の中に手を入れてかき回したいと表現されるほどです。

また、むずむず脚症候群では多くの場合、周期性四肢運動障害を伴います。睡眠中に、片側または両側の足首から先が何かをける時のようにピクッと動き、この不随意な動きを1時間に15回以上繰り返すために眠れなくなる疾患です。

通常、20~30秒周期で脚の動きを繰り返します。悪化すると回数が増え、多い人では1時間に100回以上起こる場合もあります。脚が動いても、多くの場合本人は気付きませんが、脚がピクッと動くと、脳は目覚めてしまうので眠りが妨げられます。熟睡感が得られず、昼間に眠気が起こるようになります。

むずむず脚症候群の検査と診断と治療

むずむず脚症候群や周期性四肢運動障害で起こる不眠は、睡眠薬を服用しても解消されません。むずむず脚症候群の場合は、睡眠障害を専門にしている医療機関を受診し、適切な治療を受ける必要があります。

一番の問題点は、医師による身体所見や検査で異常が認められず、むずむず脚症候群と診断できずに、無駄な投薬治療と時間を費やすことがある点です。ドクターショッピングをする発症者がいることも、まれではありません。もし、近くに睡眠障害の専門医療機関がない場合は、精神科もしくは神経内科に相談してみましょう。

医師による診断では、1週間における脚の不快な感覚の程度や動き回りたい欲求の程度、睡眠の障害や日中の疲労感、眠気を聞くことにより重症度がわかり、治療効果の判定に活用されます。睡眠ポリグラフ検査を行うと、周期性四肢運動障害の合併が50〜80パーセントで認められます。その他、MRI(機能性磁気共鳴画像装置)を利用した検査を行い、診断します。

むずむず脚症候群の治療は、原因となる疾患がある場合にはその治療と、症状を抑えて不眠を改善することが基本になります。軽症の場合、多くは日常生活の改善で解消されます。症状が強い場合は、薬による治療を行います。

薬で主に使われるのは、パーキンソン病の治療薬であるカルビドパ/レボドパ合剤(メネシット)。脳神経に指令を伝えるドーパミンの働きを改善する薬で、パーキンソン病の治療で使うよりも少ない量を服用します。

十分な効果が得られない場合は、抗てんかん薬であるクロナゼパム(リボトリール、ランドセン)やバルプロ酸をさらに用いることもあります。また、鉄分不足が原因となっていると考えられる場合には、鉄分を補充するための鉄剤を使います。これらの薬物療法で、9割以上の人に症状の改善がみられます。

睡眠導入剤や抗うつ薬を用いると、むずむず感が解消されないまま眠気だけがどんどん増し、かえって症状を悪化させる可能性があるため、一般には処方されません。

日常生活の改善としては、カフェインは脚の不快感を強くしたり、眠りを浅くすることがあるので、コーヒーや紅茶などの摂取を制限します。たばこに含まれるニコチン、アルコールも同様ですので、特に症状が現れやすくなる夕方以降は摂取を控えるようにします。

起床時と就寝前に、ストレッチやヨガなどの軽い運動やマッサージをすれば、症状が治まります。ただし、体を激しく動かすスポーツなどを行うと、その反動が夜寝てから現れて、かえって症状が悪化してしまいますので、注意が必要となります。症状の軽い人なら、ウォーキング程度で十分で、自転車やエアロバイクも太ももやふくらはぎの筋肉を使うので同様の効果が期待できます。

🇩🇰無精子症

男性の精液中に精子が認められない状態

無精子症とは、男性の精液の中に、卵子と結合して個体を生成する精子が認められない状態。

男性の精液の大部分は、陰茎の奥にある前立腺(ぜんりつせん)と、その前立腺の奥にある精嚢腺(せいのうせん)で作られ、前立腺成分が約20パーセント、 精嚢腺成分が約70パーセントを占めます。そのほかにも、精巣(睾丸〔こうがん〕)や精巣上体(副睾丸)、精管でも一部作られます。

運動能力を持つ男性の精子のほうは、精巣の中で精原細胞から分化して作られ、精子を運ぶ精管が精巣のすぐ近くで膨れている精巣上体において成熟し、精嚢腺と前立腺で分泌された精液と一緒になって、尿道に出ていくのが射精です。射精によって精液が尿道から出ていく際には、最初は主に前立腺からの成分、続いて精嚢腺からの成分が出ていきます。

男性の100人に1人は、無精子症といわれています。この無精子症は、閉塞(へいそく)性無精子症と非閉塞性無精子症の2つの型に分類されます。

閉塞性無精子症は、精巣の中で精子が作られているものの、精巣から体外へ出ていく精路のどこかが閉塞しているために、精子が精液と合流して体外へ出ていくことができず、射出精液中に精子が認められない状態を指しています。無精子症の15〜20パーセントを占めているといわれています。

>原因となる疾患は、両側精巣上体炎、小児期の両側鼠径(そけい)ヘルニア術後、精管切断(パイプカット)術後、原因不明の精路閉塞症、先天性両側精管欠損症などです。

一方、非閉塞性無精子症は、精子が精巣から体外へ出ていく精路があるにもかかわらず、精巣の造精機能の低下により、精巣で全く精子が作られていない状態、もしくは射出精液中に精子が認められない状態を指しています。無精子症の80~85パーセントを占めているといわれています。

原因となる疾患は、X染色体が1つ以上多いクラインフェルター症候群などの染色体異常症、脳下垂体と視床下部の障害による性腺刺激ホルモンの低下、おたふく風邪による精巣炎、高プロラクチン血症による精子形成の低下、薬の副作用による性腺刺激ホルモンの低下、精巣が陰嚢(いんのう)内に位置していない停留精巣、精巣の上の精索部の静脈が拡張しこぶができた精索静脈瘤(りゅう)などです。

無精子症の検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断では、精液検査の結果、射出精液中に精子が存在しない場合に無精子症と判断します。

精巣の大きさに問題がなく、ホルモン検査では脳下垂体から分泌される性腺刺激ホルモン(ゴナドトロピン)の値が正常値で、精管に閉塞部位が認められれば、ほぼ閉塞性無精子症と判断できます。ただし、性腺刺激ホルモンの値が正常値でも、まれにY染色体の特定部位の微小欠失により、精巣内での精子の成熟が途中で停止しているケースでは、非閉塞性無精子症と判断します。

また、精液検査の結果、精液中に精子が一つも存在しないという場合でも、数少ない精子が精巣内で作られていることがあり、それを調べるために精巣組織検査を行うことがあります。

泌尿器科の医師による閉塞性無精子症の治療では、精子が精巣から体外へ出ていく精路を再開させる精路再建手術を行います。閉塞部位が短く手術でつなぎ合わせることができれば、精液に精子が出るようになり、自然妊娠も期待できます。

先天性の精管欠損症などで閉塞部位が長い場合は、手術では治療できません。この場合は、閉塞性無精子症の人では精巣で精子が作られているため、精巣精子採取法によって、精巣の精細管や精巣上体、精管から精子を直接取り出し、排卵誘発によって採卵した卵子とともに体外受精という方法を用いて妊娠を期待します。

泌尿器科の医師による非閉塞性無精子症の治療では、精巣組織検査で数少ない精子が精巣内で作られていることが確認された場合に限り、顕微鏡下精巣精子採取法によって精巣の中を隅々まで観察し、精子がいる可能性の高い精細管を採取して精子を探し出し、排卵誘発によって採卵した卵子とともに顕微授精という方法を用いて妊娠を期待します。精子が一つでも探し出せれば、妊娠する確率はゼロではありません。

何らかの原因により性腺刺激ホルモンが低下し、造精機能が障害されている場合には、ホルモン補充療法を行い、精巣で精子が作られるようになることを期待します。

🇳🇴無痛性甲状腺炎

痛みの出ない一過性の甲状腺炎

 無痛性甲状腺(せん)炎とは、何らかの原因により甲状腺の細胞が壊れ、中に蓄えられていた甲状腺ホルモンが血液中に漏れ出して、一過性の甲状腺機能亢進(こうしん)症を示す疾患。

 亜急性甲状腺炎と違って、甲状腺に痛みがないので無痛性甲状腺炎と呼ばれています。別名、無痛性亜急性甲状腺炎、無症性リンパ球性甲状腺炎、分娩(ぶんべん)後甲状腺炎。

出産を切っ掛けに起こることがよく知られていますが、特に誘因がなく発症する場合もあります。原因はまだわかっていません。自己免疫性の疾患と考えられていて、慢性甲状腺炎(橋本病)をもともと持っている人がかかりやすいともいわれています。

病気の早期には、動悸(どうき)、暑がり、体重の減少などの甲状腺機能亢進症の症状が現れます。このような甲状腺ホルモンが多いための症状は、約1カ月でなくなります。この後、壊れた甲状腺の細胞が回復するまでは、一時的に甲状腺ホルモンが少なくなり、むくみ、体重増加、寒がりなどの症状が現れます。

甲状腺機能亢進症の5~10パーセント程度が、この無痛性甲状腺炎と見なされています。甲状腺機能亢進症の代表的な疾患であるバセドウ病との相違は、無痛性甲状腺炎の症状が比較的軽度であること、病気で悩む期間が短いこと、眼球突出などの眼症状がないことなどが挙げられます。

しかしながら、両者は紛らわしいために、しばしばバセドウ病と誤診されていました。バセドウ病では治療しないと甲状腺ホルモンは低下しないのに対して、無痛性甲状腺炎の甲状腺機能亢進症は一過性で、特に治療しなくても正常化します。治療法は全く異なり、両者の区別は重要です。不必要な治療は避けたいものです。

無痛性甲状腺炎の検査と診断と治療

この病気を診断するには、血液中の甲状腺ホルモンの量だけでは、バセドウ病と区別がつきません。血液中の甲状腺刺激ホルモン(TSH)の測定により、抗TSHレセプター抗体が陰性であって、甲状腺機能亢進症であれば、無痛性甲状腺炎の可能性が大きくなります。バセドウ病では、抗TSHレセプター抗体が陽性になるからです。

また、バセドウ病と区別する一番確実な手段は、放射性ヨード摂取率の測定です。バセドウ病では高値になり、無痛性甲状腺炎では甲状腺が壊れているために、ヨードがほとんど取り込まれず極めて低値になるので、両者の区別ができます。しかし、この放射性ヨード摂取率の測定は、どの医療機関でもできるものではありません。

自覚症状が強くない時は、無痛性甲状腺炎と考えて治療をせずに、経過をみることも重要です。

無痛性甲状腺炎であれば、最初は甲状腺組織の破壊のために、濾胞(ろほう)に蓄えられた甲状腺ホルモンが血液中に漏れ出て、甲状腺ホルモンが高くなります。しかし、バセドウ病と違ってホルモンが過剰に作られているわけではないので、1~2カ月すると甲状腺ホルモンは低下してきて、反対に甲状腺機能低下症になります。壊れた甲状腺組織が修復される間、甲状腺ホルモンが作れないためです。

甲状腺機能低下症は2~3カ月で治まり、通常は元の正常な甲状腺機能に戻ります。ただし、20~30パーセントくらいの確率で、そのまま永続的な甲状腺機能低下症になる人もおり、甲状腺ホルモン剤の服用が生涯必要になります。定期的なホルモン値の検査を行い、最後まできちんと経過をみることが必要です。

通常、治療は特に必要ありません。動悸や手の震えなどの症状が強い時は、対症療法としてβ(ベータ)遮断薬を使い、過労を避けるようにして甲状腺ホルモンが低下するのを待ちます。甲状腺から血液中に漏れ出てしまった甲状腺ホルモンを減らす治療法は、ありません。

甲状腺機能低下症の症状が強い場合や、続く場合には、甲状腺ホルモン剤の内服が必要となります。

なお、この無痛性甲状腺炎は自然に治る病気ですが、亜急性甲状腺炎と違って繰り返すことがあるので、年に1~2回程度の検査を受けたほうがよいでしょう。毎年同じ時期に再発したり、一生のうちで何回も繰り返し起こすこともありますので、注意が必要です。

🇸🇪無頭蓋症

胎児の頭蓋骨半球、大脳半球が正常に発達しない奇形症

無頭蓋症(むとうがいしょう)とは、脳の先天的な発育不全により、頭蓋骨半球、大脳半球、小脳の欠如を伴う奇形症。無脳症とも呼ばれます。

人間の脳は、脊髄(せきずい)の先端が膨らんで発達してきたものです。脊髄の上には、延髄、中脳、間脳があり、その上には両側に大脳半球が存在しています。延髄の後方には小脳があり、後頭部に位置しています。

脊髄や脳は、胎児の神経管と呼ばれる管状の細胞から形成されます。無頭蓋症の症状が現れた胎児では、妊娠4週間程度までの超初期の段階で、神経管前部の閉鎖不全などが起こって神経管の発達が阻害されることで、後々の脊髄や脳の成長が妨げられます。妊娠4カ月ころまでは脳のある程度の発育がみられるものの、妊娠5カ月ころから一度は形成されたはずの大脳、小脳のほか、生命の維持に重要な役割を果たす延髄などの脳幹が突然退化したり、発育が止まったります。

原因については、詳しく解明されていません。人種によって発現の頻度に差があるため遺伝的な要因が関係すると考えられているほか、妊娠初期における母体の栄養摂取の不足との因果関係も指摘され、飲酒や喫煙、薬剤、放射能被曝(ひばく)、ダイオキシなどが関与しているとも考えられています。

発現の頻度は、国によって異なり、アメリカでは出産1000人当たり1人程度、日本では出産10000人当たり10人程度となっています。

無頭蓋症の胎児が母胎内で死亡して流産となるケースは少なく、脳以外の臓器には異常がない場合がほとんどなので、出産の時までは生命を維持します。しかし、脳幹も欠損して死産となる確率が約75パーセントで、残る新生児も出生直後に死亡し、ある程度脳が残存している場合は生後数日間生存します。部分的に大脳皮質が形成されて機能し脳波が測定される場合は、生後1週間~2週間程度生存するものの、まれです。海外では、奇跡的に1年以上生存しているケースもありますが、日本では、そのようなケースはありません。

無頭蓋症の新生児では、大脳半球は通常欠如して全くないか、小さな塊に縮小しているため、頭で帽子をかぶる部分に相当する頭蓋骨や頭頂部が欠如し、頭蓋の基底面が露出するとともに、基底面に付着するように変性し、表面が薄い皮膜で覆われた脳の一部が露出しています。

顔貌(がんぼう)は特徴的で、前から見ると蛙(かえる)状です。そのほか、眼球の突出や欠如、口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)を合併していることもあります。口唇口蓋裂は三つ口と俗称され、唇に部分的な裂け目が現れたり、口腔(こうくう)と鼻腔が直接つながっていたりします。

嚥下(えんげ)、唾液、呼吸、循環、消化の中枢を担っている延髄の下半分が存在していれば、嚥下や啼泣(ていきゅう)がみられ、音刺激、痛覚に反応を示します。正常な幼児が特有の刺激に応えて示す原始反射は、存在しており、腱(けん)反射は高進しています。

無頭蓋症の胎児を身ごもった妊婦に関しては、妊娠中期までは母体に自覚症状があることはほとんどありませんが、妊娠後期に入ると羊水過多になる傾向があります。これは無頭蓋症により脳幹にまで障害があり、嚥下運動ができなくなるためといわれています。

羊水は胎児にとって絶対に必要なものですが、多すぎると母体への負担が多くなります。ひどい場合は、腹が異常に膨らみ、呼吸器が圧迫されて呼吸困難にるケースもあります。妊娠後期の羊水過多症は早産の原因にもなるため、母体への負担を考えて、多くの場合で人工的に出産を誘発する措置が行われます。

無頭蓋症の検査と診断と治療

産科、産婦人科の医師による診断は通常、分娩(ぶんべん)の前に超音波断層法を用いて行われます。胎児の超音波検査により、妊娠4カ月以降であれば、出生前診断が可能となります。また、羊水あるいは母体の血清から血清蛋白(たんぱく)α-フェトプロテインが検出されます。

胎児が無頭蓋症と確定した場合、多くはその時点で妊娠を継続するかどうかを選択することになります。その致死性の高さから、人工中絶を選択する妊婦が多く、出産まで進むケースはごくまれな状況となっています。

また、診断が確実に可能となる妊娠4カ月以前でも、胎児の頭が丸くない場合には無頭蓋症が疑われ、人工中絶は早い時期であるほうが母体への負担も少なく、妊娠3カ月までに選択されることも多いようです。

産科、産婦人科の医師による治療に関しては、残念ながら無頭蓋症を母体の中で治療する方法はなく、自然治癒したケースもありません。

予防に関しては、原因に多因性があることと、遺伝子研究がその段階に至っていないことから、確実なものは発見されていません。

日本では、ビタミンB群の一種である葉酸が遺伝子の合成や細胞分裂に不可欠で、その摂取が無頭蓋症や二分脊椎(せきつい)症などの神経管閉鎖障害という先天性異常になるリスクを低減するとして、厚生労働省が2000年に、妊娠を希望している女性に対して、1日当たり0・4ミリグラム以上摂取することを推奨しています。ホウレン草などの緑黄色野菜、果物、レバー、卵黄、胚芽(はいが)、牛乳などに多く含まれる葉酸は、水溶性ビタミンで熱に弱く、5割が調理でなくなってしまうので、サプリメントなどから摂取するのが効率的です。

ただ、葉酸の不足だけが原因ではないため、理想的に摂取していたとしても絶対に無頭蓋症にならないというわけではありません。妊娠前から妊娠初期に、ピル(経口避妊薬)やアスピリン(解熱鎮痛剤)、抗炎症薬、抗生物質、抗てんかん薬、睡眠薬、抗がん剤の服用があっても、葉酸が不足してしまうこともあります。

🇫🇮無乳房症、無乳頭症

乳房、あるいは乳頭が先天的に欠損する状態

無乳房症、無乳頭症とは、先天性の奇形により乳房、あるいは乳頭が欠損する状態を指す症状。

無乳房症は、片側または両側の乳房が先天的に全く欠損したもので、乳房の奇形としては極めてまれです。無乳頭症は、片側または両側の乳頭が先天的に全く欠損したもので、まれです。乳頭と乳輪の形成不全は、しばしば認められます。

無乳房症では、生まれ付き、乳房はもちろん乳腺(にゅうせん)すら欠損しています。乳房というのは、乳腺の周囲に脂肪がつくことによって大きくなっていくため、乳腺が欠損している以上、乳房が発達することはありません。

胎児期に乳腺の退化が全面的に起こり、乳腺が形成されない先天性の原因が、最も多いようです。多くはほかの体の部分の奇形を合併し、大胸筋・小胸筋の欠損、発育不全、性器の奇形などを伴います。

先天異常である半陰陽(はんいんよう)と関係が深く、合併することもあります。半陰陽は、外性器の形態からでは男性か女性かが判断できない状態、あるいは外性器の形態と染色体によって決められる性とが異なっている状態です。

また、先天的な疾患であるターナー症候群が、原因となることもあります。ターナー症候群は、染色体異常のうちの性染色体異常の代表的な疾患で、女性にだけ起こる先天的な疾患です。

この疾患の場合は、卵巣が未発達で、成長ホルモンや女性ホルモンの分泌量が少なくなるため、思春期で乳房が大きくならない、いつまでも生理が始まらない、身長が伸びないなどの特徴がみられます。

経口避妊薬などのホルモン薬と無乳房症の因果関係は、証明されていません。出生児に乳頭、乳輪いずれも欠損していれば、すぐに無乳房症が疑われます。

一方、無乳頭症は、無乳房症に伴うものと、乳腺形成はあるが乳頭を欠損するものとがあります。多くの場合は、乳輪も欠損します。

乳頭は思春期以後発達するので、無乳頭症と診断されるのは10歳代半ば以降となります。

無乳房症、無乳頭症の症状が明らかで、美容的な問題により乳房、乳頭を作って悩みを解消したいと望むのであれば、乳腺(にゅうせん)外科、形成外科、あるいは美容整形外科を受診し、形成手術によって整えることを考えてみてもよいのではないかと思われます。ただし、女性としての体が完成する20歳前後に形成手術を行うことが勧められます。

無乳房症、無乳頭症の検査と診断と治療

乳腺外科、形成外科、美容整形外科の医師による診断では、見た目にも明らかになることが多いので、視診、触診でおおよそ判断します。超音波(エコー)検査、マンモグラフィー(乳房X線撮影検査)を行い、全く乳腺が認められなければ、ほぼ確実に無乳房症と診断されます。

乳腺外科、形成外科、美容整形外科の医師による治療では、無乳房症であれば人工乳腺(豊胸バッグ)を使った乳房形成手術(豊胸手術)、無乳頭症であれば乳頭のみの乳頭形成手術を行います。奇形への形成手術の適用の場合、原則的に形態のみの再建となります。

乳房形成手術(豊胸手術)は、胸がしぼむことなく、人工乳腺(豊胸バッグ)を挿入した時点とほぼ同じ乳房の大きさを半永久的に維持できるのがメリットですが、大掛かりな手術が必要になるため、どうしても後遺症や合併症のリスクが高まります。

ターナー症候群による無乳房症の場合、簡単な検査をした上で判明した場合には、成長ホルモン剤、女性ホルモン剤の投与などによって、その症状を改善することができます。

🇨🇴胸焼け

胃からのどにかけて、胸がジリジリと焼けるように、熱く感じる症状をいいます。胃液や胆汁などの消化液が、食道に逆流することで起きます。

逆流の原因は、加齢や肥満、食べすぎによって、胃が広がり、胃と食道の境目にある弁が緩むことによります。また、逆流性食道炎、胃潰瘍(かいよう)や十二指腸潰瘍、糖尿病などの病気も原因になります。胃液の逆流が慢性化して、食道の粘膜に異常が生じると、食道がんの発症率が高くなります。

胸焼けを頻繁に感じるようならば、市販薬を服用します。総合胃腸薬よりも、胃酸分泌を抑える作用の強いH2ブロッカー配合薬が効果的ですが、胸焼けが毎日続いたり、程度がひどい場合には、医療機関の消化器科を受診しましょう。効果の高いPPI(プロトンポンプ阻害薬)という特効薬があります。

軽い胸焼けならば、生活習慣を改めるだけで、かなり改善できます。(1)暴飲暴食をしない、(2)リラックスして食事を取る、(3)増えた脂肪が胃への圧力を高めやすいので、肥満を解消する、(4)食事中や食後に背中をまるめた姿勢にならない。以上の4つの点に注意しましょう。

実際に胸焼けが起きたら、水や牛乳をこまめに飲むのが、お勧めです。単純に食道の胃酸を洗い流すわけですが、意外に効果があります。

2022/07/21

🇨🇱無脳症

胎児の頭蓋骨半球、大脳半球が正常に発達しない奇形症

無脳症とは、脳の先天的な発育不全により、頭蓋骨(とうがいこつ)半球、大脳半球、小脳の欠如を伴う奇形症。無頭蓋症とも呼ばれます。

人間の脳は、脊髄(せきずい)の先端が膨らんで発達してきたものです。脊髄の上には、延髄、中脳、間脳があり、その上には両側に大脳半球が存在しています。延髄の後方には小脳があり、後頭部に位置しています。

脊髄や脳は、胎児の神経管から形成されます。無脳症の症状が現れた胎児である無脳児は、妊娠4週間程度までの超初期の段階で、神経管前部の閉鎖不全などが起こって神経管の発達が阻害されることで、後々の脊髄や脳の成長が妨げられます。妊娠4カ月ころまでは脳のある程度の発育がみられるものの、妊娠5カ月ころから一度は形成されたはずの大脳、小脳のほか、生命の維持に重要な役割を果たす延髄などの脳幹が突然退化したり、発育が止まったります。

原因については、詳しく解明されていません。人種によって発現の頻度に差があるため遺伝的な要因が関係すると考えられているほか、妊娠初期における母体の栄養摂取の不足との因果関係も指摘され、飲酒や喫煙、薬剤、放射能被曝(ひばく)、ダイオキシなどが関与しているとも考えられています。

発現の頻度は、国によって異なり、アメリカでは出産1000人当たり1人程度、日本では出産10000人当たり10人程度となっています。

無脳児が母胎内で死亡して流産となるケースは少なく、出産の時までは生命を維持します。しかし、脳幹も欠損して死産となる確率が約75パーセントで、残る新生児も出生直後に死亡し、ある程度脳が残存している場合は生後数日間生存します。部分的に大脳皮質が形成されて機能し脳波が測定される場合は、生後1週間~2週間程度生存するものの、まれです。海外では、奇跡的に1年以上生存しているケースもありますが、日本では、そのようなケースはありません。

無脳児では、大脳半球は通常欠如して全くないか、小さな塊に縮小しているため、頭で帽子をかぶる部分に相当する頭蓋骨や頭頂部が欠如し、頭蓋の基底面が露出するとともに、基底面に付着するように変性し、表面が薄い皮膜で覆われた脳の一部が露出しています。

顔貌(がんぼう)は特徴的で、前から見ると蛙(かえる)状です。そのほか、眼球の突出や欠如、口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)を合併していることもあります。

延髄の下半分が存在していれば、嚥下(えんげ)や啼泣(ていきゅう)がみられ、音刺激、痛覚に反応を示します。正常な幼児が特有の刺激に応えて示す原始反射は、存在しており、腱(けん)反射は高進しています。

無脳児を身ごもった妊婦に関しては、妊娠中期までは母体に自覚症状があることはほとんどありませんが、後期に入ると羊水過多になる傾向があります。ひどい場合は、腹が異常に膨らみ、呼吸器が圧迫されて呼吸困難になるケースもあります。

無脳症の検査と診断と治療

産科、産婦人科の医師による診断は通常、分娩(ぶんべん)の前に超音波断層法を用いて行われます。胎児の超音波検査により、妊娠4カ月以降であれば、出生前診断が可能となります。また、羊水または母体の血清から血清蛋白(たんぱく)α-フェトプロテインが検出されます。

胎児が無脳症と確定した場合、多くはその時点で妊娠を継続するかどうかを選択することになります。その致死性の高さから、人工中絶を選択する妊婦が多く、出産まで進むケースはごくまれな状況となっています。

産科、産婦人科の医師による治療に関しては、残念ながら無脳児を母体の中で治療する方法はなく、自然治癒したケースもありません。

予防に関しては、原因に多因性があることと、遺伝子研究がその段階に至っていないことから、確実なものは発見されていません。

日本では、ビタミンB群の一種である葉酸が遺伝子の合成や細胞分裂に不可欠で、その摂取が無脳症や二分脊椎(せきつい)症などの神経管閉鎖障害という先天性異常になるリスクを低減するとして、厚生労働省が2000年に、妊娠を希望している女性に対して、1日当たり0・4ミリグラム以上の摂取を推奨しています。ホウレン草などの緑黄色野菜、果物、レバー、卵黄、胚芽(はいが)、牛乳などに多く含まれる葉酸は、水溶性ビタミンで熱に弱く5割が調理でなくなってしまうので、サプリメントなどから摂取するのが効率的です。

🟪インフルエンザの患者数が注意報の基準を超える 新型コロナと同時に流行ピークの恐れも

 インフルエンザの感染状況について、厚生労働省は20日、全国約5000の定点医療機関から9〜15日の1週間に報告された感染者数が1医療機関当たり19・06人だったと発表しました。前週(9・03人)と比べ2・11倍に急増し、「注意報」の基準の10人を超まし た。  都道府県別では...