ラベル 感染症(性病、寄生虫病を含む) の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 感染症(性病、寄生虫病を含む) の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2022/08/27

🇪🇷ジカ熱

蚊が媒介するジカウイルスによる感染症で、中南米を中心に流行

ジカ熱とは、ジカウイルスというウイルスに感染して、引き起こされる感染症。ジカウイルス感染症とも呼ばれます。

ジカウイルスは、デングウイルス、日本脳炎ウイルスと同じフラビウイルス科に属します。1947年に、アフリカのウガンダの「ジカの森」にいたアカゲザルから初めて見付かり、1952年に、ウガンダとタンザニアで初めて人の感染が確認されました。

世界保健機関(WHO)によると、ジカウイルスはアフリカから、東南アジア、太平洋諸国、南米のブラジルへと広がっていったとみられます。2007年には、ミクロネシア連邦ヤップ島で流行、2013年から2014年に、フランス領ポリネシアで流行し約1万人の感染者を出したほか、2014年には、チリのイースター島でも感染者が確認されました。

そして、2015年5月に、ブラジル北東部の州で地域的な流行が確認されて以降、中南米を中心に流行が急拡大し、2016年3月9日現在、50を超す国・地域から感染が報告されています。

アメリカやヨーロッパ、そして日本でも、流行地を訪れた人たちが帰国後にジカ熱を発症するケースが、報告されています。感染者は今後、400万人に上ると予測されています。

また、8月にリオデジャネイロオリンピック、9月にパラリンピックが開催されるブラジルでは、頭が小さくなり知的障害を伴うこともある小頭症を伴って生まれた新生児が、疑い例も含めて4000人以上に急増しており、妊娠中の女性のジカ熱感染との関連が強く疑われています。

同時に、ジカウイルスに感染すると、体の中の免疫システムが自分の神経を攻撃してしまうことで、手足に力が入らなくなる難病、ギラン・バレー症候群になる可能性があるとされています。発症の確率はジカ熱の感染者10万人当たり24人程度とまれながら、患者の20パーセントほどで胸の筋肉がまひして呼吸が困難になるほか、合併症を伴って5パーセントほどの人が亡くなるという報告もあります。

こうした状況を受けて、世界各国の保健当局は、妊娠中の女性がブラジルなどの流行地に旅行するのを控えるよう呼び掛けています。性交渉を通じた感染報告も増えており、妊娠中は流行地域に旅行した男性パートナーとの性交渉を控えるか、コンドームを使うよう求めてもいます。

日本では3月中旬、ブラジルに滞在歴があり、発熱や発疹の症状を訴えていた愛知県に在住する外国籍の30歳代女性が、ジカ熱に感染していると確認されました。

中南米を中心に流行が広がった2005年以降、日本国内で患者が確認されたのは2例目で、厚生労働省は感染経路の特定を進めるとともに、現段階では国内で感染が拡大するリスクは極めて低いとして冷静に対応するよう呼び掛けました。

ジカ熱への感染が確認された女性は、全身の発疹(はっしん)、38・2度の発熱、関節痛などの症状を訴えて愛知県内の医療機関を受診。女性は2月に2週間程度ブラジルに滞在した後、帰国していたということで、3月中旬になって国立感染症研究所で女性の血液などを調べたところ、感染が確認されたということです。

日本国内で患者が確認された1例目は、家族と一緒にブラジルに旅行した後、帰国した川崎市に住む10歳代の男性で、2月下旬に感染が確認されました。

日本国内では2013年から2014年に、当時ジカ熱が流行していたフランス領ポリネシアから帰国した27歳の男性が発症するなど、これまでフランス領ポリネシアやタイに渡航歴のある3人の男女の感染が確認されていますが、ブラジルなどの中南米で流行が始まった2015年以降、確認されたのは、これが初めてでした。

厚労省は、感染経路について調べるとともに、帰国後にどこに滞在したかについても聞き取りを行って、蚊が発生する可能性がある場所の調査や駆除を行いました。国内で2人の患者が見付かったものの、2月、3月の時点ではウイルスを媒介する蚊が活動していないため、感染が広がるリスクは非常に低いと見なされました。

ジカウイルスを媒介するのは、主に熱帯や亜熱帯に生息するネッタイシマカや、日本にも生息するヒトスジシマカ。感染者の血液を吸ったネッタイシマカやヒトスジシマカが別の人を刺すことで主に広がるとされ、感染すると3日から12日間ほどの潜伏期間の後、38度5分以下の発熱や発疹、結膜炎、筋肉痛、関節痛、倦怠(けんたい)感、頭痛などの症状を引き起こします。

ジカ熱の治療と対策と予防

医療機関を受診した際は、ワクチンや特効薬はないため、飲水の励行や、輸液による水分補給、鎮痛解熱剤の投与といった対症療法を中心に施すことになります。同じように蚊がウイルスを媒介するデング熱と比べると、比較的症状は軽く、多くの場合、2日から1週間程度で症状は治まります。また、感染しても、実際に症状が出る人は4、5人に1人程度と見なされます。

ジカ熱の感染が世界的に広がっていることを受けて、厚生労働省は2月下旬、ジカ熱をデング熱や日本脳炎と同様に4類感染症に位置付け、全国の医療機関に対して、患者を診察した場合、保健所を通じて国に届け出るよう義務付けました。

同時に、空港の検疫所で中南米から帰国した人などを対象に、サーモグラフィと呼ばれる特殊な機器を使って体温を調べ、水際での対策を強化したほか、検査キットを全国の都道府県の衛生研究所に配布しました。

今後も日本国内でジカ熱の患者が出る可能性はあり、5月になると本州でも蚊の活動が活発になります。ジカウイルスは感染しても4、5人に1人しか症状が出ないので、知らないうちにウイルスが広がっている可能性もゼロではありません。

また、ブラジルやコロンビア、メキシコなど、感染が確認されている国や地域へ渡航したり滞在したりする人は、十分注意する必要があります。特に、妊娠中の女性は、渡航や滞在を可能な限り控えることが求められます。やむを得ず渡航する場合は、防虫スプレーを使用したり、皮膚を露出しないように長袖(ながそで)や長ズボンを着用したりし、外出を控えるなど、蚊に刺されないための対策を講じる必要があります。

2022/08/26

🇧🇸インフルエンザ

■インフルエンザは風邪の一つ

風邪とは、鼻やのどに急性の炎症が起こった状態のことです。風邪の主な原因はウイルスで、その種類は何百とあります。インフルエンザは、風邪の症状を起こすウイルスの一種なのです。

また、ウイルスのほかにも、細菌やマイコプラズマなどの微生物が、風邪の原因になることもあります。

これらの病原体は、つば(唾液)とともに空中に飛び散って感染(飛まつ感染)します。

■インフルエンザの特徴は

インフルエンザは、突然の高熱、頭痛、筋肉痛、関節痛、全身のだるさといった全身症状が強い型の風邪をいいます。悪寒とともに39~40℃に発熱し、3、4日続きます。結膜の充血、鼻炎、のどの痛み、咳、痰、扁桃(へんとう)の腫れなどの呼吸器症状は、全身症状の後に現れてきます。

こういった全身症状が強い風邪は、インフルエンザウイルスによって起こることが多いのですが、その他の風邪ウイルスが起こすこともあります。

また、インフルエンザウイルスが起こす風邪は、大抵インフルエンザ(型)ですが、鼻風邪(鼻水、鼻詰まりが中心で、のどの痛みや咳は少ない型の風邪)、咽頭炎、気管支炎、肺炎などを起こすこともあります。

インフルエンザウイルスが感染して症状が出るまでの潜伏期間は2日前後で、日本では空気の乾燥する12月から3月にかけて流行します。

インフルエンザの怖い点は、気管支炎や肺炎、中耳炎を起こす原因になることです。乳幼児が肺炎にかかると、命にかかわることもありますし、65歳以上を中心に、インフルエンザウイルスに感染した人の約1%が肺炎を合併しています。

インフルエンザに肺炎を合併した場合、熱が続き、咳、痰、時には血痰が出て、呼吸困難を起こすこともあります。インフルエンザにかかってから2、3日で呼吸困難になることがまれにあり、また、いったん治ったように見えながら、2~3日で肺炎になることもあります。

インフルエンザウイルスには、A型、B型、C型がありますが、C型は症状が軽く、流行も目立ちません。一方、A型とB型、特にA型は症状が強く、世界的に流行して命にかかわることも、珍しくありません。ソ連型、香港型というのはA型のインフルエンザウイルスで、交互に流行がみられます。

 インフルエンザのウイルスは風邪の他のウイルスとはまったく違うものですが、症状を見るだけで普通の風邪と区別するのは難しいことです。普通の風邪ウイルスが高熱などの全身症状が強い風邪を起こすケースもありますので、地域ではやっているといった情報がないと、医師でもインフルエンザと診断するのは難しいようです。

病院に行って風邪と診断され、薬をもらった後も症状が改善しないようなら、再度医師に診てもらうことをお勧めします。

■インフルエンザの予防接種とは

予防接種は1回で終わりではない

インフルエンザの感染の予防、また、万一感染しても軽くすむのに有効なのが予防接種だ、とされています。

しかしながら、インフルエンザの予防接種は、1回で一生効果があるものではありません。インフルエンザのウイルスには多様な種類があり、すべてに対抗できるワクチンは作れないからです。

現在インフルエンザのワクチンは、毎年、“その年にはやりそうなウイルスの型”を予測し、それに対抗するものが作られています。つまり、予防接種でインフルエンザを防ごうとするのなら、毎年接種する必要があるのです。

もちろん、予測した型と実際に流行するインフルエンザの型とが異なることもありますが、毎年予防接種を受けている人は免疫が蓄積するので、かかった場合でも軽くすむケースが多いようです。

鶏卵、ゼラチンにアレルギーのある子は注意!!

予防接種の副反応は、ごくまれに発熱や頭痛がある程度で、特に心配はありません。注意したいのは、ワクチンには 鶏卵やゼラチンが含まれている点で、アレルギーのある赤ちゃんや子供の場合は、接種前に医師に相談しましょう。

■インフルエンザに負けない生活術

インフルエンザや風邪にかかった場合でも、軽い症状ですませるためにできる対策は、予防接種だけではありません。ウイルスに負けないだけの抵抗力、すなわち体力をつけておくだけでも、かかった時の症状はずいぶん異なるのです。

赤ちゃんや子供さんの抵抗力をつけるため、家庭で配慮できることを紹介してみましょう。

(1)動きやすい服装でよく遊ぶ

「風邪をひかせるのが怖いから」と考えて厚着をさせるのは、着膨れして動きにくく、運動不足になることもあるため、逆効果。赤ちゃんの場合の大体の目安は、生後1カ月以内で大人の着ている枚数より1枚多いくらい、それ以後は大人と同じ枚数か、1枚少ない程度で大丈夫でしょう。枚数よりも、体が動かしやすい服装を心掛けてやりましょう。

(2)生活時間と栄養バランスに考慮を

こちらは大人にも当てはまることですが、仕事で疲労している時に風邪などをひいてしまうと、こじらせやすいもの。赤ちゃんや幼児も、起床、就寝と三食の時間をなるべく規則的にし、栄養バランスを考えた食事がとれるようにしましょう。

(3)手洗い・うがいの習慣をつける

外出から帰った後、食事の前には必ず手洗いと、うがいの習慣を。8カ月~1歳くらいになって、赤ちゃんがママのまねをするようになったら、水を口に含んで「ペッ」と吐き出す様子を、ママが見せてあげるのも一案です。また、家族やお客さんも、赤ちゃんに触る前には手洗い、うがいの習慣を!

(4)室内が乾燥しないような配慮を

乾燥した空気は、のどに負担をかけるもとです。暖房をつけるならまめに換気したり、加湿器を使ったりして、適度な湿度を心掛けましょう。

(5)冬場の外出は人込みを避けて

風邪やインフルエンザは、咳やくしゃみによって感染します。冬場は赤ちゃん連れで人込みの多い場所へ外出するのは、極力、避けるようにしましょう。

🇩🇴ジフテリア

ジフテリア菌の感染により生じる急性の上気道粘膜疾患

ジフテリアとは、 ジフテリア菌の感染によって生じる急性の上気道粘膜疾患。主に喉頭(こうとう)、扁桃(へんとう)、咽頭(いんとう)の呼吸路が侵されるほか、心臓、腎臓(じんぞう)、神経系が侵されることもしばしばあります。

このジフテリアは現在、ワクチンの予防接種が広く普及しているため、多くの地域ではまれな疾患になりました。日本ではトキソイドワクチンの予防接種により発症者は激減し、年間数例が散発的に報告されるだけとなっています。しかし、1990年以来、予防接種率が低かったことが原因で、流行が旧ソビエト連邦のロシア共和国、ウクライナ共和国、中央アジア共和国などで多発し、欧州各地を巻き込んだ国際的な問題となりました。

ジフテリアは国際的に予防対策が必要かつ可能な疾患として扱われ、世界保健機関(WHO)では拡大予防接種事業(EPI:Expanded program on Immunization )の対象疾患の1つとしてワクチン接種を奨励しています。

ジフテリア毒素を出すジフテリア菌(Corynebacterium diphteriae )が病原体で、人が感染源となり、発症者や保菌者のせきなどにより、飛沫(ひまつ)を介して感染します。

また、コリネバクテリウム・ウルセランス菌(Corynebacterium ulcerans)というウシやヒツジの常在菌で、ジフテリア菌 (Corynebacterium diphtheriae) の近縁菌が、ジフテリア毒素を作り、ジフテリア類似の症状を引き起こす病原体となることがあります。近年、イギリスなどの欧米諸国で注目され、日本においても問題となりつつあります。

2~5日程度の潜伏期間を経て、気道系のジフテリアでは気分不快、咽頭痛、嚥下(えんか)痛、食欲不振、発熱などで始まります。喉頭部に炎症がおよぶと声がかすれるようになります。2~3日後には扁桃、咽頭周辺に偽膜という灰白色の厚い膜が形成されます。この偽膜を無理にはがそうとすると、出血します。

症状が重い場合、首のリンパ節や組織がはれることがあります。偽膜がさらに進展すると、気道の障害のため命にかかわる状況になります。ジフテリアの毒素による合併症として、心筋炎や末梢(まっしょう)神経炎が生じることもあります。

心筋炎では生命の危険が高く、突然死の危険性があります。末梢神経炎は合併症の頻度として高いものの、予後は比較的良好です。ジフテリアが皮膚や鼻を侵す場合は局所の感染にとどまり、毒素による影響はまれです。

気道系のジフテリアの死亡率は、5~10パーセントとされています。

ジフテリアの検査と診断と治療

ジフテリアは感染症法で2類感染症に指定されており、発症者は原則として2類感染症指定医療機関に入院となりますが、無症状者は入院の対象とはなりません。

医師による診断は、症状や所見からジフテリアを疑い、偽膜、咽頭などの病変部位から材料を採取し、ジフテリア菌の検出、ジフテリア毒素遺伝子の検出を行うことで確定します。ジフテリアもしくは病原体保有者であると診断した医師は、直ちに最寄りの保健所に届け出ます。

治療開始の遅れは予後に著しい影響を与えるので、症状や所見からジフテリアが疑われる場合は、確定診断を待たずに治療が進められます。直ちに、抗毒素(抗毒素血清)を筋肉内または経静脈的に投与します。次に、ペニシリンやエリスロマイシンなどの抗生物質で治療します。動物(ウマ)由来の抗毒素が使われるので、アナフィラキシーに対して十分な配慮をする必要があります。

予防としては、世界各国とも拡大予防接種事業(EPI)ワクチンの一つとして、DPTワクチンの普及を進めています。DPTワクチンは、ジフテリア(D:Diphtheria)、百日ぜき(P:Pertussis)、破傷風(T:Tetanus)の3つの病原体に対するワクチンを同時に接種する混合ワクチンの代表で、三種混合ワクチンとも呼ばれます。

日本では、1948年にジフテリア単独トキソイドワクチン、1958年にジフテリア・破傷風混合ワクチン、1968年以降にDPTワクチンとなり、さらに1981年から現行のDPTワクチン(百日ぜきワクチンが無細胞ワクチン)となっています。予防接種の普及により、現在年間1名程度の発症が報告されているにすぎませんが、今後ワクチン接種者が減少した場合や、海外からの持ち込みにより国内で流行する可能性も否定することはできません。

🇧🇴住血吸虫症

住血吸虫が体の中に寄生することによって、引き起こされる寄生虫病

住血吸虫症とは、吸盤を持った住血吸虫が人体に寄生することによって、引き起こされる寄生虫病。

アフリカ、中東、南アメリカ、アジアの亜熱帯地方で2億人以上がかかっており、それによる重篤な合併症での死亡が毎年2万人あると推定されていて、マラリアやフィラリアとともに世界の3大寄生虫病の1つとされています。 人に感染するのは主に3種類で、尿管と膀胱(ぼうこう)に感染するビルハルツ住血吸虫、腸に感染するマンソン住血吸虫と日本住血吸虫があります。

日本では戦後しばらく、甲府盆地、利根川流域、広島県片山地方、九州の筑後川流域などの特定地域に多数の日本住血吸虫症の発症者がいましたが、日本住血吸虫の幼虫を体内に宿し増殖させる中間宿主(しゅくしゅ)である巻き貝の一種、ミヤイリガイの駆除などで制圧され、1978年を最後に新たな発生はありません。しかし、最近は日本人が流行地に旅行や滞在をしたり、外国人の日本訪問が増えるにつれて、住血吸虫症の輸入感染症としての重要性が高まりつつあり、国内医療機関で適切な対応を行う必要性が増しています。

ビルハルツ住血吸虫、マンソン住血吸虫、日本住血吸虫がいる淡水で泳いだり、水浴びをしたりすることで人に感染します。住血吸虫の幼虫は、水中に生息する巻き貝の体内で増殖し、水中に放出されて自由に泳ぎ回ります。人の皮膚に触れると中に侵入し、血流を通って肺に到達し、そこで成虫になります。

成虫は血流に戻り、最終的なすみかである膀胱や腸の小静脈に行き、そこで何年も過ごします。成虫は膀胱や腸の壁に大量の卵を産みますが、その一部は血流に入って肝臓に到達します。これらの卵は炎症反応を誘発し、膀胱、腸、肝臓の静脈を詰まらせる結果、潰瘍(かいよう)や局部の出血、瘢痕(はんこん)が生じます。

卵は、自らが尿中や便に入り込むための酵素を作ります。感染者が水中に放尿や排便をすると、卵も水中に放出され、再び同様のライフサイクルが始まります。

マンソン住血吸虫と日本住血吸虫の卵は通常、腸と肝臓に宿り、ビルハルツ住血吸虫の卵は膀胱に宿ります。そこで炎症反応が起こり、瘢痕が生じ、腸管から肝臓へ血液を送る静脈である門脈の圧が上がります。門脈圧が上がると、脾臓(ひぞう)が腫大(しゅだい)し、食道の静脈から出血が起こります。肺、脊髄(せきずい)、脳を侵すこともあります。

住血吸虫の幼虫が最初に皮膚から侵入した時、かゆみを伴う皮膚炎が生じることがあります。体内に入ってから4〜8週間ほどたって、成虫になった住血吸虫が卵を産み始めるころになると、発熱、悪寒、節々の痛み、頭痛、せきがみられます。肝臓、脾臓、リンパ節が一時的に腫大し、また元に戻ります。

けいれん性の腹痛が起きて血便や血尿が出るため、貧血になることもあります。慢性の尿路感染症になると閉塞(へいそく)を生じ、後に膀胱がんに進行する原因にもなります。

住血吸虫症の検査と診断と治療

住血吸虫症は、検便や検尿で卵の有無を調べて診断します。血液検査で調べる方法もあります。尿管や肝臓の超音波検査で、感染症の重症度も判断できます。

ビルハルツ住血吸虫症、マンソン住血吸虫症、日本住血吸虫症のいずれの住血吸虫症の治療でも、駆虫剤のプラジカンテルを内服します。プラジカンテルを内服しても幼虫に対する効果は顕著でないことから、3か月後に虫卵検査を行い、プラジカンテルを再内服することもあります。脊髄、脳の中枢神経系に病変が現れた場合は、プラジカンテル単独では症状が悪化することも懸念され、ステロイド剤が併用されます。

最良の予防は、住血吸虫がいるとわかっている危険地域の湖や川で泳いだり、水浴びをしたり、歩いて渡ったりしないことです。海や、通常の塩素処理をされたプールでは感染することはありません。淡水に入るのが避けられない場合には、ゴム長靴、ゴム手袋などを着用することです。

なお、日本住血吸虫症の中間宿主である巻き貝の一種、ミヤイリガイが甲府盆地などではいまだ多数生息しており、これらは中国やフィリピン、インドネシアの日本住血吸虫にも感受性があるため、人間や動物の移動に伴って外国産の日本住血吸虫が侵入した場合、国内で寄生虫病が再興する可能性も否定することはできません。

この点、日本には中間宿主である特定の巻貝が存在しない、ビルハルツ住血吸虫症、マンソン住血吸虫症とは大きく異なります。

🇨🇴重症熱性血小板減少症候群

野外のマダニが媒介する新しいウイルス性感染症

重症熱性血小板減少症候群とは、ブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類されるSFTSウイルスを保有する野外のマダニが媒介して、引き起こされる新しいウイルス性感染症。SFTS (Severe fever with thrombocytopenia syndrome)とも呼ばれます。

2013年1月に日本で初めて山口県で確認され、5月現在も西日本を中心に広がっています。

重症熱性血小板減少症候群を媒介するマダニは、フタトゲチマダニやオウシマダニなどのマダニで、固い外皮に覆われた体長3~4ミリと比較的大型の種類。食品などに発生するコナダニや、衣類や寝具に発生するヒョウヒダニなど、家庭内に生息するイエダニとでは種類が異なります。広くアジアやオセアニアに分布し、日本国内でも青森県以南の主に森林や草地などの屋外に生息しており、市街地周辺でも見られます。

このマダニにかまれることで、重症熱性血小板減少症候群は主に感染し、6日から2週間とされる潜伏期間を経て、発症します。

発症すると、発熱や、食欲低下、吐き気、嘔吐(おうと)、下痢、腹痛といった消化器症状が現れます。時に、頭痛、筋肉痛や、意識障害、けいれん、昏睡(こんすい)といった神経症状、リンパ節腫脹(しゅちょう)、せきといった呼吸器症状、紫斑(しはん)、下血といった出血症状を起こします。

重症の場合は、血液中の血小板が減少して出血が止まらなくなったり、腎臓(じんぞう)の機能が低下したりして死亡することもあります。

致死率は約10〜30パーセントで、感染者の血液、体液を介して、人から人に接触感染することもあるとみられています。

厚生労働省が情報収集を始めた2013年1月以降、5月初旬までの国内での感染者は13人で、うち死亡が確認されたのは8人。8人の内訳は山口県の女性2人、鹿児島県の女性1人と、広島県、愛媛県、長崎県、佐賀県、宮崎県の各男性1人です。

感染者は2005年から2013年に発症しており、発症時期はマダニの活動が活発になる4月中旬から11月下旬の春から晩秋にかけて。

重症熱性血小板減少症候群は、2009年3月から7月中旬にかけて、中国中央部の湖北省および河南省の山岳地域で、原因不明の疾患が集団発生したことで存在が明らかとなり、2011年に原因ウイルスであるSFTSウイルスが確認され、現在は7省で発生が確認されています。アメリカでも2009年、ミズーリ州において2人の発症者が確認されています。

日本の発症者の血液などから検出されたSFTSウイルスは、中国のSFTSウイルスとは遺伝子配列の一部が異なっていることから、以前から国内に広がっていた可能性があるとされます。

マダニにかまれることでかかる感染症には、重症熱性血小板減少症候群のほかにも、日本紅斑(こうはん)熱があり、ダニの一種であるツツガムシにかまれることでかかるツツガムシ病もあるので、山野などに出掛けた後、発熱や消化器症状などの症状が出た場合は、速やかに医療機関を受診することが必要です。

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の検査と診断と治療

内科、感染症内科、皮膚科の医師による診断では、血小板減少(10 万/mm3未満)、白血球減少、血清電解質異常(低Na血症、低Ca血症)、血清酵素異常(AST、ALT、LDH、CK上昇)、尿検査異常(タンパク尿、血尿)などの検査所見がみられます。

確定診断には、血液などのサンプルからのSFTSウイルスの分離・同定、RTーPCR(逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応法)によるSFTSウイルス遺伝子の検出、急性期および回復期におけるSFTSウイルスに対する血清中IgM(免疫グロブリンM)抗体価、中和抗体価の有意な上昇の確認といったウイルス学的検査が必要であり、現在、国立感染症研究所ウイルス第一部で実施可能です。

なお、発症者がマダニにかまれたことに気が付いていなかったり、刺し口が見付からなかったりする場合も多くあります。

内科、感染症内科、皮膚科の医師による治療では、有効な抗ウイルス薬などの特異的な治療法はないため、対症療法が主体になります。中国では、多数のウイルスに効果を示す抗ウイルス薬のリバビリンが使用されていますが、効果は確認されていません。ブニヤウイルス科のウイルスは酸や熱に弱く、消毒用アルコールなどの一般的な消毒剤や台所用洗剤、紫外線照射などで急速に失活します。

重症熱性血小板減少症候群の予防ワクチンはないため、マダニに刺されないことが、唯一の感染予防法です。

ポイントは、レジャーや農作業などで、草むらややぶなどマダニが多く生息する場所に入る時は、肌をできるだけ出さないように、長袖(ながそで)、長ズボン、手袋、足を完全に覆う靴などを着用すること。また、肌が出る部分には、人用の防虫スプレーを噴霧し、地面に直接寝転んだり、腰を下ろしたりしないように、敷物を敷くこと。帰宅後は衣類を家の外で脱ぎ、すぐに入浴し体をよく洗って、新しい服に着替えることです。

万が一マダニにかまれた時は、マダニをつぶしたり、無理に引き抜こうとせず、できるだけ病院で処置してもらうことが大切です。マダニの多くは、人や動物に取り付くと、皮膚にしっかりと口器を突き刺し、数日から長いもので10日間、吸血します。無理に引き抜こうとするとマダニの一部が皮膚内に残ってしまうことがあるので、吸血中のマダニに気が付いた時は、病院で処置してもらって下さい。

2022/08/25

🇵🇦十二指腸虫症(鉤虫症)

十二指腸虫が人体に寄生することで引き起こされる寄生虫病

十二指腸虫症とは、線虫類に属する十二指腸虫、すなわち鉤虫(こうちゅう)の幼虫が口や皮膚から人体に入り、成虫となって引き起こす寄生虫病。鉤虫症とも呼ばれます。

人間に寄生する鉤虫には、ズビニ鉤虫、アメリカ鉤虫などがあり、口に当たる部分に歯のような器官を持ち、これで小腸粘膜に食いついて血液、および体液を養分として摂取します。大きさは、体長1センチ前後のものがよくみられます。

今の日本では輸入感染症と考えてよく、国内で感染する例はほとんどありません。世界的にみれば、熱帯から亜熱帯の湿潤な地方には鉤虫が広く分布しているので、これらの地域の農村部に仕事や旅行で滞在する時には注意が必要です。

人体の小腸粘膜などにいる成虫から産卵された卵は、糞便(ふんべん)とともに外界に排出され、野菜類などの表面に幼虫として付着しています。ズビニ鉤虫では、野菜を食べることで口から体内に入り、アメリカ鉤虫では、土壌中にいる幼虫が皮膚から人体に移り、1〜2カ月で成熟して小腸上部に寄生します。小腸の一部である十二指腸への寄生は、あまり多くありません。十二指腸虫という名称は、たまたま十二指腸で発見されたことに由来しています。

初期の症状は2〜3日の潜伏期間をへて、腹痛、下痢、嘔吐(おうと)、咽頭(いんとう)の異物感、ぜんそく様発作などが現れます。後期の症状は1〜2カ月の潜伏期間をへて、小腸粘膜から鉤虫に血液などを摂取されるために、鉄欠乏性の貧血、めまいなどが現れます。重症になると、動悸(どうき)、全身倦怠(けんたい)感、頭痛、手足のむくみなどが現れ、まれに毛髪、土、炭など異常な物を食べる異味症が現れることもあります。

鉤虫の寄生数が少ない場合は、目立った症状が現れないこともあります。

十二指腸虫症の検査と診断と治療

南米やアフリカ、インド、中国、東南アジアなどの流行地の農村にある程度の期間滞在したことがあり、帰国して1〜2カ月の間に動悸、息切れ、めまいなどの貧血症状があるなら、この十二指腸虫症、すなわち鉤虫症も疑って医療機関を受診し、そのことを医師に伝えます。

医師による診断では、抗体検査も有効ですが、糞便の検査で虫卵を見付けることで確定します。

診断がついたら、駆虫剤のコンバントリン(成分はパモ酸ピランテル)を内服すれば治ります。鉄欠乏の程度がひどい時は、鉄剤も内服します。少数寄生では症状もなく、反復感染しなければ自然に治ります。

寄生虫病は日本では珍しくなったので、医師が的確に診断できないことも十分考えられますので、たかが寄生虫と考えず、感染しないための予防にも注意する必要があります。海外の流行地に滞在する際は、野菜、特に葉野菜によって感染するケースが多いため、きれいに洗ってあるもの以外は口にしないことです。南米や中米、アメリカ、メキシコなどにいるアメリカ鉤虫は皮膚からも感染しますので、裸足は禁物。

🇧🇿純インフルエンザウイルス肺炎

インフルエンザウイルスそのものが原因となって発症する肺炎

純インフルエンザウイルス肺炎とは、インフルエンザウイルスそのものが原因となって発症する肺炎。インフルエンザウイルス肺炎ともいいます。

インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型があり、人間に感染しやすいのはA型、B型。A型はウイルスの表面にある小さな粒子によって、さらにAソ連型、2009年〜2010年に流行した豚由来のH1N1型、A香港型(H3N2型)に分かれます。今はみられませんが、アジア風邪の原因であるAアジア型(H2N2型)が1957年に流行したこともありました。

インフルエンザウイルス肺炎の症状としては、インフルエンザウイルス感染に伴う発熱、頭痛、鼻水、全身倦怠(けんたい)感、のどの痛み、筋肉痛、せき、たんなどのインフルエンザ特有の症状に続いて、約3日のうちに出現する肺炎の症状がことに強く、進行性の呼吸困難が起こります。経過は2〜3週間にも及びます。

重症になると、発熱などのインフルエンザ症状の出現後1~2日のうちに呼吸困難が起こり、急速に低酸素血症が進行して死亡することも少なくありません。これは下気道でインフルエンザウイルスが増殖し、脱落した肺胞上皮細胞や浸潤した白血球を含む粘液栓が気道狭窄(きゅうさく)、気道閉塞(へいさく)を来し、急速に症状を悪化させるためです。

このインフルエンザウイルス肺炎は、インフルエンザの流行時に発症する肺炎の約20パーセントとみられています。心臓や呼吸器に慢性の疾患を持っている人、妊婦、若年者は、発症しやすい傾向があります。

インフルエンザウイルスそのものが肺炎を引き起こすことはあまり多くなく、一般的には、インフルエンザに引き続いて、細菌が肺炎を起こす二次性細菌性肺炎がほとんどを占めます。二次感染による細菌性肺炎は重症化しやすく、インフルエンザによる死亡例のほとんどといわれています。

インフルエンザウイルスによってのどや気道に炎症が起こると、気道の表面の細胞が壊れて、感染に対する防御機能が弱まり、細菌が感染しやすくなります。原因菌として多いのは、肺炎球菌やインフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌。なお、インフルエンザ菌は、インフルエンザウイルスとは別のものです。最初に、インフルエンザにかかった人からインフルエンザ菌が見付かったため、この名前が付けられました。しかしその後、インフルエンザの原因はウイルスであることがわかりました。

呼吸器症状に気付いたら、内科、呼吸器科の医師を受診します。

純インフルエンザウイルス肺炎の検査と診断と治療

内科、呼吸器科の医師による診断では、胸部X線撮影をすると肺全体が白く写るため、肺炎にかかっているかどうかをすぐに判断することができます。ただし、細菌性肺炎でみられるようなはっきりした陰影のあるパターンは認められません。気道からの分泌物の染色は、インフルエンザウイルスの検出に使われます。インフルエンザウイルスに対する抗体が増えているかどうかを調べることもあります。

多くのインフルエンザウイルス肺炎は、原因であるインフルエンザウイルスを殺す薬で治療できます。近年、治療に大きな進歩があり、塩酸アマンタジン(シンメトレル)とノイラミニダーゼ阻害薬という薬が使用可能になり、発症48時間以内の早期治療で高い有効性が示されています。

ただし、塩酸アマンタジンはA型にしか効かず、また耐性ウイルスを生じやすいといった欠点があります。ノイラミニダーゼ阻害薬には、吸入ドライパウダー型のザナミビル(リレンザ)と内服のオセルタミビル(タミフル)があり、A型、B型両方に効果があります。

ウイルスがいなくなった後も、しばらくの間、せきが続きます。その上、ウイルスが気道の内部を傷付けるため、多くの人は引き続いて二次的な細菌性肺炎を発症します。このような場合、抗生物質による治療が必要になります。

重症例では、喀痰(かくたん)の排出を誘導する理学療法、補助換気療法が行われることもあります。

予防面では、ワクチン接種が推奨されます。特に高齢者を中心としたハイリスク群には、2001年以降、国から公的補助が与えられています。

🇭🇷蜂巣炎(眼窩蜂窩織炎)

目のくぼみへ細菌が入り、眼球に起こる急性の炎症

蜂巣(ほうそう)炎とは、目のくぼみに入っている眼球に起こる急性の炎症。眼窩蜂窩織(がんかほうかしき)炎、眼窩蜂巣炎とも呼ばれます。

眼球は、筋肉や脂肪組織に包まれて、骨で取り囲まれた目のくぼみである眼窩内に入っています。この眼窩内に病原菌が侵入すると、眼球の周囲や後部が脂肪組織を中心として強い炎症を起こし、化膿(かのう)した状態になります。急性の細菌感染症であり、起炎菌としては黄色ブドウ球菌が多いと見なされています。

最も多い原因は、副鼻腔(びくう)からの蓄膿(ちくのう)症などの炎症の波及です。次いで多いのは、耳や歯の化膿性炎症の波及です。そのほか、ものもらいや涙嚢(るいのう)炎など目の周辺の炎症、外傷によって刺さった眼窩内異物が原因となる場合もあります。

急に目が赤くなり、まぶたもはれて赤くなり、強い痛みを伴います。まぶたを触るとより痛く、時には眼球が後ろから押されるように飛び出し、眼球の動きも障害されます。重い場合には、炎症が眼球の周囲や後部から眼球内に波及し、視力障害が生じたり、 物が二重に見える複視が生じたりすることもあります。

全身的には発熱、全身倦怠(けんたい)感、頭痛、吐き気などの症状がみられます。まれに、髄膜炎、海綿静脈洞血栓症を引き起こすので、油断できません。

蜂巣炎の検査と診断と治療

外傷によって細菌が付着した異物が刺さった時はもちろんですが、目やまぶたが赤くなって激痛を伴っている時は、入院も覚悟して早急に眼科を受診します。手遅れになると、生命の危険が生じるケースもあります。

専門の医師は、目を見ただけである程度の診断は可能ですが、まず急性結膜炎と区別します。視力を測定し、次には、眼球内に炎症が波及していないかを観察する細隙灯(さいげきとう)顕微鏡検査を暗室で行います。緊急にCT、MRIなどの画像撮影も行い、眼窩内の病状を把握すると同時に、副鼻腔などの状態をチェックして炎症の原因となった細菌がわかれば、薬剤に対する感受性検査を行います。

蜂巣炎の治療では、点滴などで全身的に大量の広域抗菌剤の投与を行います。黄色ブドウ球菌などの起炎菌が特定された場合は、感受性のある抗菌剤を用います。切開して膿(うみ)を出すこともあります。周囲の副鼻腔、耳、歯などの炎症が原因の時は、それぞれの専門医に治療を依頼し、原因となる疾患の除去を図ります。

🇷🇴包虫症(エキノコックス症)

条虫の一種である包虫によって引き起こされる寄生虫病

包虫症とは、条虫の一種である包虫によって、引き起こされる寄生虫病。エキノコックス症、エキノコッカス症とも呼ばれます。

この包虫症には、単包虫(単包条虫)による単包虫症(単包性エキノコックス症)と、多包虫(多包条虫)による多包虫症(多包性エキノコックス症)の2つがあります。単包虫症はシベリア、南米、地中海地域、中東、中央アジア、アフリカ、アメリカ、およびカナダに発生し、日本では輸入感染症とされています。一方、多包虫症は20世紀以降に北海道に定着したと考えられ、現在、北海道全域で流行しています。

北海道ではキタキツネが最も重要な感染源で、約60パーセントのキタキツネが感染していると報告されています。北海道で飼育されているイヌでも、1パーセント以上が感染していると報告されています。最近、本州でも多包虫症が報告されていますが、その感染ルートは不明です。

包虫の成虫は体長1センチ以下と小さく、キタキツネやイヌの小腸に寄生しています。虫卵はそれらの動物の糞便(ふんべん)と一緒に排出され、虫卵が混じった水や食物を人が摂取したり、成虫が寄生しているイヌとの接触によって虫卵を経口摂取すると、感染が成立します。虫卵から放出された幼虫は腸壁に侵入し、血流あるいはリンパ流に運ばれて主に肝臓に寄生し、そこで成虫になって増殖します。

包虫の増殖は遅く、感染してから小児では5年以上、成人では10年以上の長期に渡って無症状ですが、包虫が増殖してスポンジ状の大きな病巣を形成するようになります。肝臓に寄生している場合、肝臓がはれて上腹部に痛みを感じるようになり、黄疸(おうだん)の症状が出て、皮膚の激しいかゆみ、腹水をもたらすことがあります。

また、包虫は脳や肺などの臓器や骨に転移することがあり、脳転移では神経症状が現れます。症状が現れてから治療せずにいると、5年後で70パーセント、10年後で90パーセント以上のの発症者が死亡します。

包虫症の検査と診断と治療

包虫症を放置した場合の生存率は低いため、発症前の診断と治療開始が重要です。医師による診断は、血清検査と画像検査を併用して行われます。

治療においては、外科的な手術で病巣を切り取るのが有効です。しかし、自覚症状が出現した時点では、もはや切り取れないことが多く、病巣の位置と発症者の状態から切り取るのが困難な場合もあります。手術が困難な場合には、アルベンダゾールなどを駆虫剤として投与します。

感染初期には無症状なので、予防が最も大切です。北海道の各市町村の保健所では、住民の包虫(エキノコックス)血清検査を無料で実施していますので、キタキツネや感染犬と接触のある人は血清検査を受けます。

北海道への旅行者は、キタキツネと接触しないことが大切です。キタキツネのすんでいる地域では、土や草木などに触れたら手を十分に洗ったり、沢水や井戸水を生で飲まないなど、虫卵が口に入らないように気を付けます。包虫は熱には弱く、60度10分間の加熱で死滅するため、現地で採った山菜などはよく洗うか火を通して食べるなどの予防法もあります。

🇧🇬猩紅熱

のどの痛み、熱、発疹の現れる伝染病

猩紅(しょうこう)熱とは、小児に多い発疹(はっしん)性伝染病。A群β溶血性連鎖球菌という細菌の感染によって発症する疾患の一つです。

昔は死亡することもある疾患として恐れられ、明治時代に法定伝染病に指定されました。現在では抗生物質を正しく使用し、合併症を予防すれば完治が可能となったことから、1999年に施行された感染症新法により、法定伝染病ではなくなりました。

A群β溶血性連鎖球菌は溶連菌と通称され、のどに炎症を起こす咽頭(いんとう)炎を引き起こす細菌ですが、猩紅熱では咽頭炎だけでなく、全身に発疹も現れます。2歳~12歳までの子供に多く、幼稚園や小学校では秋から春にかけて集団発生することもあります。

溶連菌は、すでに感染している人の近くにいたり、感染者の咳(せき)から出た空気中の細菌を吸い込んだりすることで感染します。潜伏期間は1日~7日とされ、38〜39℃の突然の発熱で始まり、のどが痛みを伴って真っ赤にはれます。そのほかの症状としては、吐き気、頭痛、腹痛、筋肉痛、関節痛、中耳炎、首のリンパ節のはれなどがあります。この段階では、風邪との区別がつきません。

発熱から半日~2日後になってから、直径1ミリぐらいの赤くてやや盛り上がった発疹が、かゆみを伴って現れます。発疹は首、胸、わきの下などに現れ、少しずつ増えて全身が赤く見えるようになります。口の回りには発疹は出ないのが、一つの特徴です。3日~4日後には、舌がイチゴのように赤くプツプツするようになります。これをイチゴ舌と呼びます。

症状が消えた後、2週間ほどで指先の皮がむけることがあります。3週間ほどで軽快し、跡は残りません。

注意の必要な合併症には、急性腎炎(じんえん)、リウマチ熱などがあります。治療を行わなかった場合、これらの合併症は感染者の2~3パーセントに現れます。顔のむくみ、赤い尿、動悸(どうき)、息切れ、関節痛などの症状が現れた場合も、注意が必要です。

猩紅熱の検査と診断と治療

高熱や発疹のある場合はもちろん、のどのはれが2日以上治まらない時は、早めに小児科などの医療機関を受診しましょう。なお、高熱や発疹などの特徴的な症状が現れるのは4歳以上の場合が多く、乳児の場合は軽症で、単なるのど風邪症状のみであることがあります。

多くの場合は、臨床症状で診断が可能です。最近は、のどの抗原の迅速検査が、外来診断の主流となっています。確実に診断するには、のどや鼻の粘膜から綿棒で採取した検体の培養検査、血液による抗体の検査が必要となります。

猩紅熱の治療では、溶連菌に有効なペニシリン系の抗生物質を内服で用いるのが一般的です。数日で薬の効果が表れて、熱が下がり、発疹も目立たなくなります。皮膚は乾いて、皮がむけます。

しかし、症状が改善されても、溶連菌はのどに残っていることがあるので、再発や他人に感染させる可能性があります。急性腎炎やリウマチ熱などの合併症を予防するためにも、2週間程度は確実に抗生物質の服用を続けることが大切となります。皮膚のかゆみに対しては、抗ヒスタミン薬の内服、または軟膏(なんこう)を使用します。

症状が改善した後も、2週間~3週間後に尿の中に血液が混じっていないかを検査し、完全に治ったかどうかは、抗生物質の服用をやめてから、のどの粘膜の培養検査をして確かめる必要があります。繰り返し猩紅熱に感染する可能性もありますので、侮れません。家族内で感染する例も30〜50パーセントあることにも、注意が必要です。

>薬を飲んでいる間は、安静を保ち、うがいと手洗いをしっかりと行い、なるべく刺激の少ない食事を取るように心掛けます。のどの痛みが強ければ、無理に食べなくてもかまいません。

2022/08/24

🇨🇭条虫症

サナダムシともいわれる条虫が消化管に寄生する疾患

条虫症とは、サナダムシともいわれ、細長いひも状をしている条虫によって、引き起こされる寄生虫病。

条虫には多くの種類があり、魚のサケ、マスに寄生する広節裂頭条虫(日本海裂頭条虫)、豚に寄生する有鉤(ゆうこう)条虫、牛に寄生する無鉤条虫などが知られていて、数メートルを超える大きなものばかりです。

条虫の幼虫が中間宿主(しゅくしゅ)としている魚、豚、牛などを生のまま、あるいは加熱不十分な状態で食べることなどにより、人体の消化管などに寄生するようになります。

多くの場合、無症状です。腹痛、下痢などの消化器症状、飢餓感、多食、体重減少、貧血などを起こすこともありますが、一般には肛門(こうもん)から長いひも状の虫体が出てきたり、便とともにちぎれた虫体が出てきたりして、初めて感染に気付きます。また、虫体が排出される際に、肛門に違和感を覚えることがあります。

有鉤条虫の幼虫である有鉤嚢虫(のうちゅう)の寄生が脳、脊髄(せきずい)、筋肉、皮下組織、目に出現することもあり、それぞれの部位に見合った多彩な症状がみられます。中枢神経系に寄生が出現した場合は、てんかん、頭蓋(とうがい)内圧高進、水頭症、神経症状、精神状態の変化、無菌性髄膜炎などがみられます。

条虫症の検査と診断と治療

条虫の虫体が認められた場合は、排出された虫体、あるいは虫体の一部(体節)を持参して内科を受診します。

医師による診断では、排出された虫体を直接観察して、条虫の種類を確認します。また、検便などをして、便の中に出てくる虫卵を顕微鏡で観察します。有鉤嚢虫の中枢神経系への寄生が疑われる場合は、CT検査またMRI検査を行って評価します。

腸管内感染の治療では、駆虫剤のプラジカンテル、メペンダゾールなどを服用する方法と、注腸造影剤のガストログラフィンを注入する方法があります。ともに副作用はほとんどありませんが、注腸造影の場合にはX線被曝(ひばく)に留意します。貧血の治療などの対症療法も行われます。

中枢神経系感染の治療では、コルチコステロイドと抗けいれん薬を投与して、炎症と症状を緩和します。場合によっては、アルベンダゾールまたはプラジカンテルを投与します。水頭症が現れたり、脊髄や目に症状が現れた場合には、手術が必要なこともあります。

予防法としては、牛肉、豚肉は生で食べずに、十分に加熱してから食べることが必要です。サケ、マスについても十分に加熱をするか、マイナス18℃で48時間以上冷凍した後に食べるようにします。

🇻🇦小児まひ

小児まひは、ポリオ (Polio)、脊髄(せきずい)性小児まひ、急性灰白髄(かいはくずい)炎(poliomyelitis)とも呼ばれ、ポリオウイルスによって発症する感染症のことです。

ポリオウイルスが感染して、脊髄神経の灰白質という部分を侵すため、初めの数日間、発熱、頭痛、背骨の痛み、嘔吐(おうと)、下痢などの症状が現れた後、急に足や腕がまひして動かなくなります。

5歳以下の小児の罹患(りかん)率が高かったことから、一般には小児まひと呼ばれることが多いのですが、大人がかからないわけではありません。病原ウイルスは感染者ののどにいますが、主な伝染源になるのが感染者の大便とともに排出されたウイルスで、さまざまな経路で経口感染します。季節的には、夏から秋にかけて多く発生します。

日本では1960年に新潟、北海道、九州で大流行し、61年から生ワクチンの服用が全国的に実施されています。1980年には、自然感染による小児まひが根絶され、現在ではポリオワクチンからの2次感染でしか発症していませんが、海外ではまだ流行している地域があります。世界保健機関(WHO)では、撲滅を目指しています。

なお、日本国内での2次感染での発症は計12件で、2008年2月に北海道の男の乳児が発症、2000年に宮崎県で発生して以来のこととなりました。生ワクチンの服用では、弱毒化したポリオウイルスを体内に取り込んで免疫を作りますが、450万回に1回の割合で発症するとされます。

🇸🇲小児まひ後症候群

小児まひにかかって回復してから、10年以上たった後に生じる手足の機能障害

小児まひ後症候群とは、小児まひ(ポリオ、急性灰白髄〔かいはくずい〕炎)にかかって回復してから、10年から数十年たった後に、手足の筋力の低下、関節の痛みや変形などを生じる機能障害。ポストポリオ症候群、ポリオ後症候群、ポストポリオ、ポリオ後遅発性筋委縮症、PPS(Post-Polio Syndrome)とも呼ばれます。

小児まひは、ピコルナウイルス科エンテロウイルス属のポリオウイルスが感染して、脊髄(せきずい)神経の灰白質という部分を侵すため、初めの数日間、発熱、頭痛、背骨の痛み、嘔吐(おうと)、下痢などの症状が現れた後、急に足や腕がまひして動かなくなります。

日本では5歳以下の小児の罹患(りかん)率が高かったことから、一般には小児まひと呼ばれることが多いのですが、大人がかからないわけではありません。病原ウイルスは感染者ののどにいますが、主な伝染源になるのが感染者の大便とともに排出されたウイルスで、さまざまな経路で経口感染します。季節的には、夏から秋にかけて多く発生します。

日本では1960年に新潟、北海道、九州で5000人を超える大流行があり、1961年からポリオ生ワクチンの服用が全国的に実施されています。1980年には、自然感染による小児まひが根絶され、現在ではポリオ生ワクチンからの2次感染でしか発症していませんが、海外ではまだ流行している地域があります。世界保健機関(WHO)では、撲滅を目指しています。

2006年の厚生労働省の障害者調査によると、小児まひによる18歳未満の障害者は推定3000人、18歳以上は4万3000人。明らかにしていない人を合わせると、障害者の総数は10万人近いという推測もあります。

このうち、ほとんどが幼小児の患者が毎年、多数発生していた時期に全国各地で罹患し、小児まひ後遺症を持った人たちが50~60歳前後に達したころに、小児まひ後症候群を生じて手足の筋力低下、しびれ、痛みなどの症状が生じて、日常生活ができなくなったりしています。

最近15年くらいの間に日本や欧米の専門家によって精力的に調査研究された結果、小児まひ後症候群は小児まひの再発ではなく、小児まひの二次障害であることが確定しました。しかし、医師を始め、看護師、理学療法士、作業療法士、介護士などのパラメディカルスタッフに、小児まひ後症候群はまだ十分理解されておらず、不適切な治療やリハビリを受けているケースもあります。

小児まひ後症候群の頻度はポリオ経験者の20〜40パーセントといわれており、女性より男性にやや多い傾向があります。症状としては、筋肉が弱くなった、力が入らなくなったといった筋力低下と、筋肉がやせた、筋肉が細くなったといった筋委縮が多いほか、筋肉痛、関節痛、筋肉内の筋線維がピクピクと細かく動く過敏現象である筋線維けい縮、ピリピリ感など多彩です。障害のある手や足を氷のように冷たく感じる冷感、感覚鈍麻、腰痛、全身倦怠(けんたい)感を自覚する人もいます。

小児まひ後症候群の諸症状は、後遺症のある手や足に現れることが多いものの、他の側の手足に発現することもあります。

小児まひ後症候群はしばらくの間は進行しますが、数カ月~1年くらいで進行は停止します。筋力低下と筋委縮はかなりの程度に回復する人が多く、発症前の日常生活に戻ることができます。同時に、筋肉や関節の痛みやしびれ、疲れやすさも次第に消失します。しかしながら、一進一退を繰り返しながら少しずつ悪くなり、日常生活ができなくなるという人もいます。

幼小児期に経口感染したポリオウイルスは、急性期に増殖して、好んで脊髄の運動神経細胞に入り込みます。ウイルスが侵入した運動神経細胞は壊れて、消滅するので、それらの神経細胞から命令を受けていた手足の筋肉は動かなくなります。これが小児まひによる手足のまひであり、このまひが後遺症として残ります。

急性期が過ぎて体力が回復すると、生き残った脊髄の運動神経細胞から出る末梢(まっしょう)神経は、たくさんの枝を伸ばし始めます。これらの枝が、ポリオウイルスの侵入によって消滅した神経細胞から命令を受けられなくなって運動できないままでいる手足の筋肉につながって、これらのポリオウイルスに障害されていない筋肉を活動させるようになります。小児まひ発症の直後には全く動かなかった手足の筋肉が、少しずつ動くようになるのは、このためです。

小児まひ経験者は一般に努力家で、後遺症を持った手足に対して一生懸命に機能回復訓練をした人が多く、運動まひの残っている手足においても神経と筋肉がかなりよくつながって、機能をうまく果たしており、その後何十年にも渡って通常の社会生活を送っています。

このように、小児まひ後遺症のある手足の筋肉に命令を伝えている脊髄の運動神経細胞は、健康な人と比べると余分の神経の枝を出して長年頑張っていますが、50~60歳ごろになって分枝した神経の部分が疲れを生じて、委縮したり消滅し始めます。また、ちょうど初老期に達するため、老化現象の一つとして神経細胞が減ったり、神経のみなら筋肉自体も弱くなったり、神経と筋肉の接合部も疲れを生じることもあるのです。

小児まひ後症候群の際にしばしば現れる筋肉や関節の痛みやしびれは、追加して出現した筋力低下のために、その近辺の末梢神経や筋肉や関節に余分の負担がかかるために生じると考えられます。

筋力の低下によって起こる他の部位への影響なども深刻で、呼吸や飲み込みに関係する神経が障害されると、夜間の苦しさや飲み込みにくさを覚えることもあります。筋肉量が落ち基礎代謝が減るので、体重コントロールも難しくなります。

症状が生じた際は、神経内科や整形外科、内科、理学療法科(リハビリ科、リハビリテーション科)で神経、筋肉の障害を専門に診療している医師に相談しましょう。最近は全国各地にポリオの会ができており、お互いに連絡を取り合っていますので、もしもよい医師が見付からない場合には、最寄りのポリオの会に相談するのも一案。

なお、小児まひ後症候群を発症した人は、障害厚生年金の支給対象となっています。

小児まひ後症候群の検査と診断と治療

医師による診断では、小児まひ後症候群(ポストポリオ)検査入院を行うのが一般的で、2〜4週間の入院が必要とされます。血液検査、検尿、MRI、筋電図、心電図、X線、運動負荷試験などの検査のほか、必要に応じて装具を作り、運動療法や作業療法を実施し、運動の指導、日常生活の指導を含めたリハビリを行います。

小児まひ後症候群と似た症状を示す貧血や甲状腺(こうじょうせん)機能の低下、変形性脊椎(せきつい)症、骨粗鬆(こつそしょう)症などとの鑑別も行います。

医師による治療では、小児まひ後症候群に対する根本的な治療薬がない現在、そのリハビリと予防が最大の治療方法となります。

まず、無理な運動は避けて、安静にしたり、マッサージや入浴などでその部位の血液循環をよくすることが勧められます。小児まひ後症候群の急性期が過ぎて、筋線維けい縮、筋力低下、筋肉や関節の痛みなどの症状が消失または軽減してきたら、少しずつリハビリを始めることになります。

ラジオ体操や散歩などがお勧めで、運動の目安は1日の運動による疲労が翌日に残らない程度とします。数日から1週間ぐらい同程度の運動を続け、調子がよければ少し運動量を増して数日間様子をみます。具合がよければ、さらに運動量を増していきます。

予防としては、50~60歳前後の小児まひ経験者は、後遺症のある手や足に過剰な負担をかけないように気を付けることが必要です。この年代で集中的な筋肉トレーニングを行ったり、スキーや登山で足の筋肉を酷使した直後に小児まひ後症候群を発現したケースが、多く報告されています。体重増加(肥満)にも気を付けることが必要で、過体重が筋肉や関節に余分の負担をかけます。

初老期になると、脊髄や筋肉だけででなく、脳や全身臓器の機能も低下してくるので、全身をよく動かし、適度に歩き、趣味をたくさん持ち、偏食なくよく食べ、毎日を楽しく過ごすことが、小児まひ後症候群の予防になります。

2022/08/23

🗼性感染症

性感染症(STD=Sexually Transmitted Disease)とは、性行為あるいはその類似行為によって感染する疾患の総称です。性行為感染症とも呼びます。

性感染症に含まれる疾患としては、梅毒、淋(りん)病、軟性下疳(げかん)、第四性病というかつての「性病予防法」の対象とされていた4つのほか、クラミジア感染症、エイズ(後天性免疫不全症候群)、性器ヘルペス、尖圭(せんけい)コンジローム、トリコモナス症、カンジダ症、陰部伝染性軟属腫(しゅ)などが挙げられます。

以前の日本では、性感染症は一般的に性病と呼ばれ、代表的な病気である梅毒や淋病に対して、「性風俗などで遊んだ一部の人達がかかる病気」というイメージが持たれていました。梅毒などは発症すれば気付きやすく、早めに治療ができたため、感染はそれほど拡大せずにすんでいました。

近年の日本では、梅毒や淋病などが少なくなった代わりに、自覚症状のほとんど現れない、新しい性感染症が増えています。クラミジア感染症や性器ヘルペス、尖圭コンジローム、エイズなどは、感染しても顕著な症状が出ないため、気付かないうちに人から人へ、感染の輪を広げるという状況を生み出しています。

とりわけ、今、女性に感染が増えているのがクラミジア感染症。女性の側に自覚症状が現れにくい疾患のため、気付かないうちに重症化しているケースもあります。10代後半~20代後半の若い世代に多く、10代後半の感染者では、女性が男性の2倍以上という統計も、発表されています。

今や、性感染症は一部の人がかかる特別なものではなく、普通に生活していて一度でも性行為をした経験があれば、誰がかかっても不思議ではない病気だといえます。

クラミジア感染症を始めとした性感染症が増加している要因としては、複数のパートナーと性行為をし、パートナーが短期間で変わるといった現代のセックス事情が関係しています。性感染症の予防法や対処法について無知であるという要因も、加わっています。

性感染症の中には、薬で簡単に治らず、慢性化したり、根治しないものもあります。放置すると、不妊症や流産、子宮外妊娠などを引き起こす原因になるものもあります。少しでも心配な人はまず、女性は婦人科、男性は泌尿器科で検査を受けるようにしましょう。

🇯🇵性器クラミジア感染症

クラミジア・トラコマーティスという微生物が性器に感染して起こる性感染症

性器クラミジア感染症とは、クラミジア・トラコマーティスという微生物が性器に感染したことが原因となって、発症する性(行為)感染症。今日の性感染症のうち、日本においても、世界においても最も多い疾患で、人々の間で流行しています。

クラミジア・トラコマーティスが性行為により性器に感染した場合が、性器クラミジア感染症に相当し、口を使った性行為により喉(のど)に感染した場合は、咽頭(いんとう)クラミジア感染症と呼ばれます。

性器クラミジア感染症を発症しても、自覚症状はほとんどありません。感染や発症に気が付かないまま進行しますので、検査による早期発見、早期治療が必要になります。

女性の場合は、ほとんど症状はありませんが、下り物が増える、下り物が黄色くなる、出血がみられる、下腹部に痛みがある、排尿時に痛むといった軽度の症状が現れることもあります。

感染したことに気付かず、治療せずにいると、子宮頚管(けいかん)炎を引き起こし、子宮付属器炎、骨盤腹膜炎になり、将来、卵管の通過障害を起こして不妊症、子宮外妊娠になる恐れがあります。

また、妊婦が感染していると、出産時、新生児が産道を通る際に感染します。感染した新生児は、生後2~3週間ころに結膜炎、生後3~4カ月ころに肺炎を発症する危険性があります。

男性の場合も、全く自覚症状がないか、非常に軽い症状にとどまるケースが大半で、性交の1~3週間後に、尿道に軽い炎症を起こし、排尿時に痛む、透明もしくは白いさらさらした分泌液が出るといった症状が現れることもあります。

症状が現れても治療せずにいると、尿道炎、前立腺(ぜんりつせん)炎、精巣上体炎といった疾患になる恐れがあります。

肛門(こうもん)に感染すると、痛みが起こり、黄色い膿(うみ)と粘液の分泌物が出ます。

性器クラミジア感染症の発症が疑われる際は、まず性感染症かどうかの検査が必要ですので、女性なら婦人科、男性なら泌尿器科の専門医を受診することが勧められます。

また、最近では自宅から郵送で検査できるキットが販売され、コンビニエンスストアの端末やインターネットなどから申し込めるので、これを利用してもいいでしょう。ただし、自分で粘液、粘膜、尿、血液などの検体をきちんと採取できていないと、正確に検査結果が表示されないこともあるので注意が必要です。郵送検査で陽性と判明した場合には、婦人科、泌尿器科を受診することが必要になります。

性器クラミジア感染症の検査と診断と治療

婦人科、泌尿器科の医師による診断では、女性では子宮頸管(けんかん)から採取した分泌物による検査、男性では尿道から採取した分泌物による検査を行い、併せて血液検査を行うこともあります。

分泌物による検査では、クラミジア・トラコマーティスが今いるかどうかがわかります。血液検査では、クラミジア・トラコマーティスに感染したかどうか、クラミジアが活動的でほかの人に感染する可能性が高いかどうかがわかります。

婦人科、泌尿器科の医師による治療では、テトラサイクリン系、マクロライド系、ニューキノロン系の抗生物質(抗生剤、抗菌剤)が有効です。通常は、7~14日間服用します。

症状は数日でなくなることが多いものの、クラミジア・トラコマーティスが完全に死滅していないこともあるので、医師が完治の診断が出すまで指示通り服用する必要があります。

また、性的パートナーの同時治療も大切です。どちら一方が治療をしても、性行為で感染が往復するピンポン感染を来し、いつまでも治らないことがあるからです。

🇰🇵性器ヘルペス症

単純ヘルペスウイルスによって発症する性感染症

性器ヘルペス症とは、単純ヘルペスウイルスによって発症する疾患。主に性行為によって、性器へ感染して起こります。

女性では性器の外側の部分である外陰の病変が目立つため、外陰ヘルペスとも呼ばれますが、病変が膣(ちつ)や子宮頸部(けいぶ)に及ぶこともあります。単純ヘルペスウイルスには1型と2型があり、1型は口や目などの上半身に感染することが多く、2型は性器などの下半身に感染することが多いのが一般的です。

症状の出方は2通りあり、痛みと発熱を伴う急性型(初発型)と、感染後に再発を繰り返す再発型とがあります。単純ヘルペスウイルスの初めての感染によって起こる急性型は、性行為などの感染の機会があってから、多くは1週間以内に発症します。主症状である痛みが出る前に、外陰部のかゆみや違和感を感じることもよくあります。

症状は強く、外陰部のかなり広い部分に水疱(すいほう)や潰瘍(かいよう)ができて赤くただれ、非常に強い痛みがあります。発熱したり、全身がだるいなどの症状を伴うこともあります。病変は女性では外陰部や子宮頚部に現れ、男性では包皮、冠状溝、亀頭に現れます。

女性では強い痛みのために歩行や排尿が難しくなって、入院が必要になることもあります。太ももの付け根のリンパ節が痛みを伴ってはれることも、大部分の人で認められ、髄膜炎を合併することもあります。無治療では、治癒までに2~4 週間近くを要します。

単純ヘルペスウイルスはいったん感染すると、完全には排除されずに神経節に潜んでいます。これが心身の疲労や月経、性交などを切っ掛けにして再び活性化すると、性器ヘルペスの再発型を発症し、単純ヘルペスウイルスが神経を通って粘膜や皮膚に現れて病変を起こします。

再発型の症状は比較的軽く、小さい潰瘍やいくつか集まった小さな水疱ができます。発熱などの全身症状や、リンパ節のはれなどは伴わないことがほとんど。多くは1週間以内に治ります。 再発の回数は月2~3回から年1~2 回とさまざまで、年齢を重ねるにつれて、再発の回数は減少してくるのが一般的。

性器ヘルペスの問題点は、繰り返し再発して根治が困難であるため、発症者にとって精神的苦痛が大きいことと、感染しても発症せず無症状でウイルスを排出している場合も多く、本人も疾患に気付かないまま次の相手に移すために予防が困難であることにあります。

性の自由化が進む中で、先進国、開発途上国を問わず、性器ヘルペスは世界的に増加の一途をたどっていて、日本における性感染症(STD)の中では、クラミジア感染症に次いで発症が多くなっています。

また、妊娠末期に性器ヘルペス症になると、乳児が産道感染して重症になり、死亡することが多いので、帝王切開をしなければなりません。自分の手についた単純ヘルペスウイルスが目に入ると、角膜ヘルペスなどを起こす危険性もあります。

性器ヘルペス症の検査と診断と治療

急性型の場合には症状が急激に現れるため、男女ともに性器などに痛みのある水疱あるいは潰瘍を認めたら、泌尿器科、婦人科への受診が勧められます。再発型で症状が軽い場合でも、性感染症であるため、治るまでは性行為は控えなければなりません。

医師による検査では、女性では外陰部の浅い潰瘍または水疱が診断のポイントになります。特に急性型では、大陰唇の内側と小陰唇に左右対称に病変ができることが多いのも特徴です。

病変部から採取した細胞に多核の巨細胞を認めたり、単純ヘルペスウイルス抗原を検出する補助診断法が有力ですが、感度が低いことが難点です。単純ヘルペスウイルスに対する抗体は、初感染では急性期には陰性で、2〜3週間後に陽性になります。再発型の場合はほとんど変化しません。区別すべき疾患には、外陰部に潰瘍ができる梅毒、急性外陰潰瘍、外陰がんなどがあります。

症状が軽いものには、単純ヘルペスウイルスに効く薬の入った軟こうを塗るだけで治ります。少し状態が進んだものには、アシクロビルやバラシクロビルなどの抗ウイルス剤の注射や飲み薬が処方され、水疱や潰瘍には軟こうが処方されます。高熱や激痛などの重症のものには、点滴で静脈注射をすることになります。

急性型は通常、1〜2週間のうちに症状が治まりますが、体からウイルスがなくなるわけではないため、完治は難しく、体力が落ちている際などに再発しやすくなります。再発した場合は病変も小さいので、軟こうによる治療で多くの場合は十分です。飲み薬による治療も行われますが、再発後少なくとも2日以内に治療を開始しないと有効でないといわれています。

🇮🇲成人T細胞白血病(ATL)

ウイルスに感染して発症する白血病

成人T細胞白血病(Adult T-cell Leukemia:ATL)とは、レトロウイルス、腫瘍(しゅよう)ウイルスであるヒトTリンパ球向性ウイルス1型(Human T Lymphotropic Virus type 1:HTLVー1)の感染により発症する腫瘍性疾患。

悪性リンパ腫の一種ですが、大部分が白血病化するために、成人T細胞白血病と呼ばれたり、成人T細胞白血病リンパ腫(Adult T-cell Leukemia Lymphoma:ATLL)と呼ばれたりします。1976年に、京都大学の高月医師、内山医師らによって初めて報告、命名された疾患です。

この成人T細胞白血病(ATL)の発症は、ヒトTリンパ球向性ウイルス1型(HTLVー1)を体の中に持っているキャリアの分布と一致することが知られています。キャリアは、日本では120万人、世界では1000~2000万人いると推定されています。

日本では、従来から九州、沖縄など西南日本に多くみられますが、近年は関東、中部、近畿で増え、全国的にキャリアと発症者が存在しています。世界的には、カリブ海沿岸諸国、南アメリカ、アフリカ、南インド、イラン内陸部などにキャリアと発症者の集積が確認されています。それらの地域からの移民を介して、ヨーロッパ諸国、アメリカ合衆国などでも、キャリアと発症者の存在が報告されています。

ヒトTリンパ球向性ウイルス1型の感染経路としては、母乳を介する母子間垂直感染と、輸血、性交渉による水平感染が知られていて、出産時や母胎内での感染もあります。輸血では、感染リンパ球を含んだ輸血により感染し、血漿(けっしょう)成分輸血、血液製剤では感染しません。なお、日本では現在、献血に際して抗体スクリーニングが行われており、輸血後の発症はなくなりました。性交渉による感染に対しても、成人T細胞白血病を発症することは極めてまれであるため、今のところ特別な対策は立てられていません。

ほとんどが母乳感染により、乳幼児の感染者が40~60年の潜伏期を経て、成人T細胞白血病を発症します。日本で発症するのはヒトTリンパ球向性ウイルス1型のキャリア1万人について年間6〜7人あまり、発症の割合は3〜5パーセントほど。40歳以上の人がほとんどで、60~70歳に最も多く発症します。

リンパ球はリンパ系組織、血液、骨髄の中にあり、細菌やウイルスなどの感染と戦っていますが、機能の違いからT細胞、B細胞、ナチュラルキラ-細胞(NK細胞)に分けられます。成人T細胞白血病では、T細胞が悪性化して、リンパ節や血液の中で異常に増加し、骨髄や肝臓、脾臓、消化管、肺など全身の臓器に広がっていきます。末梢(まっしょう)血液中に出現する場合、特徴的な花びらのような形状をした核を有し、花細胞と呼ばれています。

症状としては、首、わきの下、足の付け根など全身のリンパ節がはれたり、肝臓や脾臓の腫大、皮膚紅斑(こうはん)や皮下腫瘤(しゅりゅう)などの皮膚病変、下痢や腹痛などの消化器症状がしばしばみられます。病勢の悪化によって、血液中のカルシウム値が上昇して高カルシウム血症になると、全身倦怠(けんたい)感、便秘、意識障害などを起こします。

>悪性化したリンパ球が骨髄に広がった場合には、正常な赤血球や血小板が作られなくなります。このために動悸(どうき)、息切れなどの貧血の症状や、鼻血、歯肉出血などの出血症状がみられることがありますが、他の白血病と違ってあまり多くありません。悪性化したリンパ球が中枢神経と呼ばれる脊髄(せきずい)や脳に広がると、頭痛や吐き気が認められることもあります。

また、免疫担当細胞として重要なT細胞ががん化して、強い免疫不全を示すため、感染症にかかりやすくなり、真菌、原虫、寄生虫、ウイルスなどによる日和見感染症を高頻度に合併します。

成人T細胞白血病の検査と診断と治療

成人T細胞白血病は、ウイルス感染症、カビによる感染症、カリニ原虫による肺炎、糞線虫(ふんせんちゅう)症といった寄生虫感染症など、健康な人にはほとんどみられない日和見感染症が起こりやすいことで知られています。疲れやすい、熱が続く、リンパ節がはれる、皮疹(ひしん)が塗り薬でよくならないなどの症状が続く場合は、血液内科の専門医のいる病院を受診して検査を受けるようにします。

血液の悪性腫瘍が疑われた場合、まず血液細胞の数や内容を調べる血液検査が行われます。成人T細胞白血病では、花びらのような形をした核を持つ異常なリンパ球の出現が特徴的です。また、血液検査では、ヒトTリンパ球向性ウイルス1型に感染して抗体があるかどうかも調べます。リンパ節がはれている場合には、リンパ節生検が行われ、局所麻酔による小切開でリンパ節を取り出し、顕微鏡で悪性細胞の有無を調べます。最終的に成人T細胞白血病の診断を確定するためには、血液やリンパ節の悪性細胞の中に入り込んだウイルス遺伝子の検査が行われる場合もあります。

成人T細胞白血病と診断された後、疾患の広がりを調べるために全身の検査が行われます。目に見えない腹部や骨盤部のリンパ節がはれてないか、肝臓や脾臓に広がっていないかを調べるために、腹部CTや腹部超音波検査が行われます。胃や十二指腸に広がっていないかどうかを調べるためには、胃内視鏡検査やX線検査が必要です。肺に広がっていないかどうかを調べるためには、胸部X線検査や胸部CTが行われます。

骨髄に広がっていないかどうか調べるためには、骨髄穿刺(さくし)も行われます。骨髄穿刺は、局所麻酔後、胸骨または腰の骨に細い針を刺して骨髄液を吸引し、顕微鏡で観察します。その他、中枢神経である脳や脊髄への広がりを調べるために、局所麻酔後に腰の部分の背骨の間から針を刺して少量の脳脊髄液を採取する場合もあります。

成人T細胞白血病は多彩な症状、臨床経過をとることで知られていますが、一般には急性型、リンパ腫型、慢性型、くすぶり型、急性転化型の5つの病型に分類されています。

急性型は、血液中に花びらの形をした核を持つ異常リンパ球が出現し、急速に増えていくものです。リンパ節のはれや、皮疹、肝臓や脾臓の腫大を伴うことも多くみられ、消化管や肺に異常なリンパ球が広がる場合もあります。感染症や血液中のカルシウム値の上昇がみられることもあり、抗がん剤による早急な治療を必要とします。

リンパ腫型は、悪性化したリンパ球が主にリンパ節で増殖し、血液中に異常細胞が認められない型です。急性型と同様に急速に症状が出現するために、早急に抗がん剤による治療を開始する必要があります。

慢性型は、血液中の白血球数が増加し、多数の異常リンパ球が出現しますが、その増殖は速くなく、症状をほとんど伴いません。無治療で経過を観察することが、一般的に行われています。

くすぶり型は、白血球数は正常でありながら、血液中に異常リンパ球が存在する型で、皮疹を伴うことがあります。多くの場合、無治療で長期間変わらず経過することが多いため、数カ月に1回程度の外来受診で経過観察が行われます。

急性転化型は、慢性型やくすぶり型から、急性型やリンパ腫型へ病状が進む場合をいいます。この場合には、急性型やリンパ腫型と同様に、早急に治療を開始する必要があります。

成人T細胞白血病の治療として一般に行われているのは、抗がん剤を用いた化学療法です。抗がん剤は静脈注射や飲み薬などいろいろな種類があり、血管の流れによって全身に運ばれて悪性化したリンパ球を殺すため、全身療法といわれています。また、髄腔内注射といって、腰の正中部より細い針で抗がん剤を髄液内に入れます。

成人T細胞白血病に対する抗がん剤は、通常、非ホジキンリンパ腫に有効な抗がん剤が用いられます。これらの抗がん剤の併用療法によって、30~70パーセントの場合で悪性細胞がかなり減少して、検査値異常が改善した状態が得られますが、最終的な治癒が期待できるのは残念ながらごく一部にとどまっています。

成人T細胞白血病の細胞には、抗がん剤が最初から効きにくかったり、途中から効きにくくなったりする性質があり、化学療法にしばしば抵抗性を示すからです。また、見掛け上症状がよくなったとしても、再発率は非常に高いことが知られています。

このように治療が難しい疾患ですが、よりよい治療法を開発するために臨床試験が行われています。研究段階の治療法の中で、現在最も期待されているのは同種造血幹細胞移植。化学療法により疾患がある程度コントロールされている、感染症を合併していない、全身状態がよい、50歳以下である、白血球の型が合っているドナーがいるなどの条件を満たす場合は、検討する価値のある治療法です。

また、ミニ移植といって、造血幹細胞移植の前の処置を軽くすることにより、50歳以上の高齢者にも適用可能な同種造血幹細胞移植法も検討されています。

🇧🇲精巣炎(睾丸炎)

細菌やウイルスの感染などで、精巣に炎症が起こる疾患

精巣炎とは、細菌やウイルスなどに感染することによって、男性の生殖器官である精巣に炎症が起こる疾患。睾丸(こうがん)炎とも呼ばれます。

精巣、すなわち睾丸は、男性の陰嚢(いんのう)内に左右各1個あって卵形をしており、男性ホルモンおよび精子を産生しています。

精巣炎の原因のほとんどは、後部尿道からの細菌の感染によるものです。原因細菌は、大腸菌、ブドウ球菌、連鎖球菌など。細菌の感染によって精巣だけに炎症が起こることはまれで、その多くは細菌性の精巣上体炎(副睾丸炎)が波及して精巣にも炎症が起きます。

また、流行性耳下腺(せん)炎(おたふく風邪)を起こすムンプスウイルスの血行感染によって起こることがあり、思春期以降に流行性耳下腺炎にかかった人の10〜30パーセントが精巣炎も発症します。両方の精巣に炎症を起こすと、後遺症として無精子症など男性不妊の原因になることがあります。

そのほか、外傷で精巣が強く打たれた時に、精巣炎が起こることもあります。

症状は、急激な寒けと震えがきて、高熱が出ます。陰嚢は赤くなってはれ上がり、熱感を持ち、精巣も大きく硬くなり、強く痛みます。圧痛も激しく腹部まで及びます。ムンプスウイルスによるものは、流行性耳下腺炎を発症した4〜7日後に、急激な精巣の痛みとはれが起き、発熱や倦怠(けんたい)感などが現れます。通常、排尿に関する症状はありません。

精巣炎の検査と診断と治療

精巣炎(睾丸炎)を発症したら、できるだけ精巣へのダメージを少なくするため家で安静にし、陰嚢をつり上げて固定し、さらに冷湿布をすると痛みは軽くなります。 男性不妊になるのを予防するために、やはり一度は泌尿器科の専門医を受診しておいたほうが安心です。

医師の側は、精巣の症状から簡単に診断できます。ムンプスウイルスによるものは、流行性耳下腺炎の先行と、咽頭や精液からのウイルス分離や、血液中のウイルスに対する抗体の値が初回より2回目の測定で上昇することで、確定診断できます。尿中に、うみや細菌は認められません。

治療としては、全身の安静、陰嚢の固定や冷湿布とともに、大腸菌、ブドウ球菌などの細菌が原因の時は抗生物質を強力に投与します。

ムンプスウイルスが原因の時は、抗生物質は有効ではないため、熱を抑えるための消炎鎮痛剤を投与します。1週間程度で炎症は治まりますが、長期化したり両側に炎症を起こすと、精巣の中の精子のもとになる細胞が死んでしまい、精巣が委縮し、不妊症の原因になってしまいます。20〜30パーセントに起きると見なされます。

🇲🇸精巣上体炎(副睾丸炎)

精巣に付着している精巣上体に、炎症が起こる疾患

精巣上体炎とは、男性の陰嚢(いんのう)内に左右各1個あって卵形をしている精巣の上面、および後面に付着している精巣上体に、炎症が起こる疾患。副睾丸(こうがん)炎とも呼ばれます。

精巣上体、すなわち副睾丸は、精巣から出た精子を運ぶ精管が精巣、すなわち睾丸のすぐ近くで膨れている部分に相当します。精管はこの精巣上体から、精嚢腺(せいのうせん)と前立腺につながり、そこで分泌された精液と一緒になって尿道に出ていくのが、射精です。

発症経過によって、急性精巣上体炎(急性副睾丸炎)と慢性精巣上体炎(慢性副睾丸炎)に分けられます。

【急性精巣上体炎(急性副睾丸炎)】

急性精巣上体炎の多くは、精巣の上面に付着している精巣上体に起こります。尿の中の細菌などが精巣上体に入り込んで、感染を起こすことが原因です。

通常、尿には炎症を起こすほどの細菌はいませんが、前立腺肥大症、尿道狭窄(きょうさく)、膀胱(ぼうこう)結石などの疾患があると、尿は汚れて細菌が増殖しますから、急性精巣上体炎を起こしやすくなります。これらは高齢者に多く、大腸菌などの一般的な細菌が原因菌となります。

一方、青年層にみられる場合は、性行為感染症(STD)の1つである尿道炎から引き起こされます。尿道炎の原因であるクラミジアや淋菌(りんきん)が精巣上体に至ることによって、炎症を起こします。

症状は、陰嚢内の精巣上体の一部の軽い痛みで始まります。自覚症状としては、精巣そのものの痛みのように感じるかもしれません。徐々に陰嚢全体に痛みが広がり、陰嚢が硬くはれ上がり、皮膚が赤みを帯びてきます。

歩行時に激しく痛んだり、はれているところを圧迫すると強い痛みを感じ、38度以上の発熱を伴うことがしばしばあります。さらに悪化すると、陰嚢の中にうみがたまり、破れて出てくることもあります。精管に沿って炎症が広がっていると、大ももの付け根の鼠径(そけい)部や下腹部の痛みを感じることもあります。

普通は、膿尿(のうにょう)、細菌尿を伴って症状が全般的に強いのですが、クラミジアの感染では症状が軽度で膿尿もみられないことがあります。精巣に炎症がおよぶことはまれで、精巣にはれ、圧痛は認められません。

【慢性精巣上体炎(慢性副睾丸炎)】

慢性精巣上体炎は、急性精巣上体炎の局所症状が完全に消えないで慢性症に移る場合が多いのですが、初めから慢性あるいは潜行性に起こることもあります。また、外傷が誘因となって起こることもあります。さらに、結核菌による炎症など特殊な菌による感染で炎症が長引く場合とがあります。

尿道炎や前立腺炎を起こした時に、大腸菌、ブドウ球菌などの一般細菌や、クラミジア、淋菌などの性行為感染症菌が尿道や前立腺から精巣上体に逆流し、炎症を起こすのが急性精巣上体炎であり、この治療が不十分であると、細菌が精巣上体の中にこもってしまい、慢性的精巣上体炎を生じると考えられます。

結核性の場合は、肺結核から尿に結核菌の感染が移行して引き起こされます。尿路性器結核の部分現象として発症するので、睾丸を除く前性器が侵されていることが多く、尿路結核を合併することがしばしばあります。20~30歳代に多い疾患です。

慢性精巣上体炎では、全身症状は乏しく、陰嚢内の違和感や不快感、鈍い痛みが長期に渡って続きます。陰嚢に触ると、精巣上体に硬いしこりを感じます。発熱、急激なはれ、激しい痛みなどは伴いません。結核性の場合も、精巣上体が数珠状に硬くはれ、鈍い痛みが続きます。

精巣上体炎の検査と診断と治療

【急性精巣上体炎(急性副睾丸炎)】

適切な抗生剤を早期に使用することによって比較的治りやすい疾患ですが、悪化すると治療が困難になり慢性化してしまったり、精巣を摘出しなければならないことがあります。早めに泌尿器科の専門医を受診することが大切で、治療中は激しい運動や飲酒は控えます。

医師の側では、尿検査で尿中の白血球や細菌を検出します。クラミジア感染が疑われる場合も、尿で検査できます。細菌については、その種類とどのような抗生剤が効くかを同時に調べますが、細菌が検出されないこともまれではありません。また、全身への影響をみるため、血液検査で炎症反応などをチェックします。精巣(精索)捻転(ねんてん)症や精巣腫瘍(しゅよう)との区別が難しい場合もあります。

治療は、局所の安静と冷湿布、抗生剤の経口投与が主体となります。抗生剤は、尿路感染症に有効なユナシンなどのペニシリン系、セフゾンなどのセフェム系、クラビットなどのニューキノロン系が用いられます。また、サポーターなどで陰嚢を持ち上げることで、症状が和らぎます。発熱などの全身症状がみられる場合は、消炎鎮痛剤の投与とともに、入院した上で安静を保ち、抗生剤の点滴による治療が必要になります。

発熱を伴う急性期の炎症は、1〜2週間で治まります。精巣上体のはれや鈍い痛みは、数カ月続く場合が多く、時には精巣上体に硬いしこりが残ってしまうことがあります。初期の治療が不十分だと炎症が悪化してうみがたまり、陰嚢を切開してうみを出さなければならなかったり、精巣を含めて精巣上体を摘出しなければならないこともあります。

後遺症として、慢性精巣上体炎に移行したり、精巣上体部の精子通過障害をもたらすことがあります。精巣にも炎症が波及し、両側性であれば男性不妊につながることもあります。

【慢性精巣上体炎(慢性副睾丸炎)】

激しい症状がないので放置してしまう場合もみられますが、徐々に悪化してしまったり、他の疾患が見付かったりすることもありますので、泌尿器科の専門医を受診します。

医師の側はまず、尿中の白血球や細菌の検査をします。しかし、慢性精巣上体炎では細菌を検出することが難しい場合も多く、原因菌の特定ができないことがあります。細菌が検出されない場合は、結核性を疑って特殊な検査で尿中の結核菌の有無を調べますが、結核菌は検出されずに、手術で精巣上体を摘出した結果、結核感染が証明されることもあります。

また、慢性前立腺炎などの慢性尿路感染や、前立腺肥大症などの他の疾患を合併している場合もあるので、腎臓(じんぞう)、膀胱、前立腺など他の尿路に異常がないかどうか検査します。

治療においては、抗生剤の投与では効果が得られない場合が多いため、消炎鎮痛剤などの痛みと炎症を抑える薬を長期間投与します。不快な痛みが続く場合は、精巣上体を摘出することもあります。

結核性の場合は、他の尿路にも結核菌の感染を起こしている可能性があり、結核菌が臓器の奥深くに潜んでいることも多いので、半年以上の長期間、抗結核剤を投与します。イソニアジド(イスコチン)とリファンピシン(リファジン)に、ストレプトマイシンまたはエサンブトールを組み合わせた治療が標準的です。それでも改善しなければ、精巣上体だけを摘出する手術、あるいは精巣上体を含めて精管、精嚢、前立腺まで摘出する根治手術を行うこともあります。

後遺症として、精巣上体部の精子通過障害をもたらすことがあります。精巣にも炎症が波及し、両側性であれば男性不妊につながることもあります。

2022/08/22

🇧🇲性病

性病とは、性(行為)感染症 (STD)の中で、特に古典的な4つの疾患を指します。梅毒、淋病(りんびょう)、軟性下疳(げかん)、鼠径(そけい)リンパ肉芽腫(にくげしゅ)の4疾患で、1948年に制定された性病予防法に規定されていたものです。古くは、花柳病ともいわれました。

「性病予防法」では、売春などによって疾患を他人に移せば3年以下の懲役、2万円以下の罰金が科せられていましたが、この法律は1999年、「伝染病予防法」、「後天性免疫不全症候群の予防に関する法律」と共に廃止され、「感染症予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症新法)に統合されました。

性(行為)感染症 (STD)の中で、4つの狭義の性病が占める割合は、低下してきています。逆に、クラミジア、マイコプラズマ、トリコモナス、エイズウイルスなどによる感染症が、最近では増加しています。

4つの性病の感染経路は、性的接触もしくは血液感染などが主。日常生活では、接触が少ない経路なので、性病はそれほど感染力が高いわけではありません。感染部位は、性器内部や周辺、咽喉(いんこう)の粘膜などです。

梅毒の病原体はトレポネーマという微生物で、皮膚や粘膜の傷を通して体内に侵入し、感染が成立します。先天梅毒と後天梅毒に分けられます。

先天梅毒は、梅毒に感染した母親から胎盤を経由して、胎児に感染します。胎児が妊娠早期に感染すると、死産または早産になります。出産できた場合は生後数週、あるいは学童期、思春期になって内臓、歯、皮膚、中枢神経などにさまざまな病変を来たします。先天梅毒予防のために、産婦人科では妊娠早期に母体の梅毒の検査をしており、今日の日本ではほとんどみられない疾患です。

後天梅毒は、性行為または性行為類似の行為によって感染します。最初は感染部位の皮膚に発疹(はっしん)の症状が現れ、後に全身に波及します。感染後3カ月までの第1期、3カ月から3年までの第2期、3年以上経た第3期、10年以上経過した第4期に分類されます第4期では、もう皮膚の発疹は見られず、内臓の病変が中心になります。

医師による治療では、ペニシリン系抗生物質を2~3週間内服します。梅毒血清反応は治療してもなかなか低下せず、陰性化には数カ月~数年かかります。梅毒血清反応の低下を指標にしていると、抗生物質の長期投与になってしまいます。

淋病の病原体は淋菌で、男性では尿道炎、女性では子宮頚管(けいかん)炎を引き起こします。女性はほとんどの場合、無症状のことが多いのですが、一般に男性よりも治りにくい傾向にあります。治療には、各種の抗生物質が用いられ、7~10日間内服すれば完治します。

軟性下疳の病原体は軟性下疳菌で、痛みが強いのを特徴としますが、今日の日本ではほとんどみられない疾患となりました。2~7日の潜伏期間の後、性器の皮膚に米粒大のはれたおできができ、中に膿(うみ)がたまって破れると、痛みのある潰瘍(かいよう)になります。単発または多発で、容易に出血します。少し遅れて、太ももの付け根の鼠径リンパ節がはれ上がります。治療では、 抗生物質が有効です。

第四性病ともいわれる鼠径リンパ肉芽腫の病原体はクラミジアの一種で、鼠径リンパ節のはれを特徴としますが、今日の日本ではほとんどみられない疾患となりました。感染して3日~2週間ほどの潜伏期の後、感染部位に小さなおできができ、しばらくして鼠径リンパ節がはれます。発熱し、膿を持ったおできが膣(ちつ)や外陰部におよび、象皮のようになります。治療では、 抗生物質が有効です。

🟧RSウイルス感染症が「流行入り」 静岡県が注意呼び掛け

 静岡県は26日、直近1週間(15~21日)のデータから「RSウイルス感染症が流行入りしている」と発表しました。定点医療機関となっている小児科1カ所当たりの患者数は1・64人で、県が流行入りの目安としている「1人」を大きく上回りました。前週の0・9人よりも8割増加し、急拡大が懸...