住血吸虫が体の中に寄生することによって、引き起こされる寄生虫病
住血吸虫症とは、吸盤を持った住血吸虫が人体に寄生することによって、引き起こされる寄生虫病。
アフリカ、中東、南アメリカ、アジアの亜熱帯地方で2億人以上がかかっており、それによる重篤な合併症での死亡が毎年2万人あると推定されていて、マラリアやフィラリアとともに世界の3大寄生虫病の1つとされています。 人に感染するのは主に3種類で、尿管と膀胱(ぼうこう)に感染するビルハルツ住血吸虫、腸に感染するマンソン住血吸虫と日本住血吸虫があります。
日本では戦後しばらく、甲府盆地、利根川流域、広島県片山地方、九州の筑後川流域などの特定地域に多数の日本住血吸虫症の発症者がいましたが、日本住血吸虫の幼虫を体内に宿し増殖させる中間宿主(しゅくしゅ)である巻き貝の一種、ミヤイリガイの駆除などで制圧され、1978年を最後に新たな発生はありません。しかし、最近は日本人が流行地に旅行や滞在をしたり、外国人の日本訪問が増えるにつれて、住血吸虫症の輸入感染症としての重要性が高まりつつあり、国内医療機関で適切な対応を行う必要性が増しています。
ビルハルツ住血吸虫、マンソン住血吸虫、日本住血吸虫がいる淡水で泳いだり、水浴びをしたりすることで人に感染します。住血吸虫の幼虫は、水中に生息する巻き貝の体内で増殖し、水中に放出されて自由に泳ぎ回ります。人の皮膚に触れると中に侵入し、血流を通って肺に到達し、そこで成虫になります。
成虫は血流に戻り、最終的なすみかである膀胱や腸の小静脈に行き、そこで何年も過ごします。成虫は膀胱や腸の壁に大量の卵を産みますが、その一部は血流に入って肝臓に到達します。これらの卵は炎症反応を誘発し、膀胱、腸、肝臓の静脈を詰まらせる結果、潰瘍(かいよう)や局部の出血、瘢痕(はんこん)が生じます。
卵は、自らが尿中や便に入り込むための酵素を作ります。感染者が水中に放尿や排便をすると、卵も水中に放出され、再び同様のライフサイクルが始まります。
マンソン住血吸虫と日本住血吸虫の卵は通常、腸と肝臓に宿り、ビルハルツ住血吸虫の卵は膀胱に宿ります。そこで炎症反応が起こり、瘢痕が生じ、腸管から肝臓へ血液を送る静脈である門脈の圧が上がります。門脈圧が上がると、脾臓(ひぞう)が腫大(しゅだい)し、食道の静脈から出血が起こります。肺、脊髄(せきずい)、脳を侵すこともあります。
住血吸虫の幼虫が最初に皮膚から侵入した時、かゆみを伴う皮膚炎が生じることがあります。体内に入ってから4〜8週間ほどたって、成虫になった住血吸虫が卵を産み始めるころになると、発熱、悪寒、節々の痛み、頭痛、せきがみられます。肝臓、脾臓、リンパ節が一時的に腫大し、また元に戻ります。
けいれん性の腹痛が起きて血便や血尿が出るため、貧血になることもあります。慢性の尿路感染症になると閉塞(へいそく)を生じ、後に膀胱がんに進行する原因にもなります。
住血吸虫症の検査と診断と治療
住血吸虫症は、検便や検尿で卵の有無を調べて診断します。血液検査で調べる方法もあります。尿管や肝臓の超音波検査で、感染症の重症度も判断できます。
ビルハルツ住血吸虫症、マンソン住血吸虫症、日本住血吸虫症のいずれの住血吸虫症の治療でも、駆虫剤のプラジカンテルを内服します。プラジカンテルを内服しても幼虫に対する効果は顕著でないことから、3か月後に虫卵検査を行い、プラジカンテルを再内服することもあります。脊髄、脳の中枢神経系に病変が現れた場合は、プラジカンテル単独では症状が悪化することも懸念され、ステロイド剤が併用されます。
最良の予防は、住血吸虫がいるとわかっている危険地域の湖や川で泳いだり、水浴びをしたり、歩いて渡ったりしないことです。海や、通常の塩素処理をされたプールでは感染することはありません。淡水に入るのが避けられない場合には、ゴム長靴、ゴム手袋などを着用することです。
なお、日本住血吸虫症の中間宿主である巻き貝の一種、ミヤイリガイが甲府盆地などではいまだ多数生息しており、これらは中国やフィリピン、インドネシアの日本住血吸虫にも感受性があるため、人間や動物の移動に伴って外国産の日本住血吸虫が侵入した場合、国内で寄生虫病が再興する可能性も否定することはできません。
この点、日本には中間宿主である特定の巻貝が存在しない、ビルハルツ住血吸虫症、マンソン住血吸虫症とは大きく異なります。
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