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2022/08/26

🇬🇩脂肪肝

肝臓に、中性脂肪を主体とした脂質が蓄積する疾患で、通常は4パーセント位なのが10パーセント以上に増加します。大きく、アルコール性脂肪肝と非アルコール性脂肪肝にわけられます。原因としては、動物性脂肪の過食が最多で、アルコールの多飲や薬剤の摂取、肥満、糖尿病、妊娠などが挙げられます。

脂肪肝特有の症状はあまりなく、腹部の膨満感、疲労感、吐き気などの不定愁訴があります。アルコール性脂肪肝を除けば、脂肪肝それ自体では、肝臓の働きが著しく障害されることはありません。

禁酒、バランスのとれた栄養摂取と体重のコントロール、糖尿病患者は血糖のコントロール、薬剤による場合はその中止など、原因を除去することによって比較的短期間で改善、治癒します。

なお、ガチョウや鴨の肝臓を強制肥育によって肥大化させた高級食材「フォアグラ」や、まれにニワトリの雌鶏に見られる「白肝」も、実は脂肪肝なのです。

2022/08/25

🇺🇸肥満

■内臓脂肪型の肥満に注意を

●病気にかかる割合が倍増

あなたは最近、おなかの回りが気になりませんか? 現代人の多くが悩んでいるのが太りすぎで、肥満に伴う生活習慣病も増加しています。

 この肥満とは、体内に占める脂肪の割合が多い状態のことです。食事から得た摂取エネルギーが消費エネルギーよりも多い時、脂肪細胞は余ったエネルギーを蓄えます。その状態が続くと、脂肪細胞の数が増え、一つ一つの脂肪細胞も大きくなるのです。肥満の人においては、エネルギーの摂取、利用、蓄積、放出というメカニズムが、正常に機能していないことになります。

 肥満には、皮下に脂肪がたまる「皮下脂肪型」と、肝臓や腸管などの周囲に脂肪がたまる「内臓脂肪型」があります。

 皮下脂肪型肥満は若い人や女性に多く見られ、付きにくくて落ちにくいのが皮下脂肪の特徴。

 一方、内臓脂肪型肥満は男性や閉経後の女性に多く見られ、付きやすくて、かつ落ちやすいのが内臓脂肪の特徴で、40~50代から徐々に増えていく傾向があります。

 後者の内臓脂肪型の肥満が特に健康に悪影響をおよぼすことが、近年わかってきました。このタイプの肥満の人は、健康な人に比べて1・5~2倍近く、病気にかかりやすいと見なされています。   

●内臓脂肪型肥満とは 

 内臓脂肪が増加すると、脂肪細胞から糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化などを引き起こす「生理活性物質」が、体内に多量に放出されます。高尿酸血症や脂肪肝にもつながります。

 その他の肥満のリスクを挙げれば、まず心臓などの臓器に負担がかかります。腰や脚の関節も痛めやすくなります。脂肪がたまって胸郭の動きが悪くなると、呼吸の力が弱まるため、睡眠時無呼吸症候群を引き起こすケースもあります。女性の場合は、生理不順を招きやすくなります。 

 太り方で肥満の型を見分ける場合、下半身に脂肪が付いた「洋ナシ型」は皮下脂肪型肥満、おなかの回りがポッコリ張り出してくる「リンゴ型」、いわゆる太鼓腹は内臓脂肪型肥満の可能性が高い、と考えられます。

 次に、肥満男性の場合、おなかを指でつまんで、つまめる脂肪が薄いほど皮下脂肪が少なく、危険な内臓脂肪がたまっています。特に、おへそ回りの腹囲が85センチ以上の男性は、注意が必要です。

 女性の場合、女性ホルモンの働きで内臓脂肪は付きにくいのですが、肥満になると皮下脂肪とともに内臓脂肪も増えます。そのため、腹囲が大きいほど内臓脂肪がたまっており、特に、おへそ回りが90センチ以上の女性は、注意が必要になります。 

●肥満度チェック

BMI(体格指数)

 体重と身長から肥満度を判定するのがBMI(=Body Mass Index)。成人にのみ当てはまり、個人差があるので目安として利用します。

 BMI=体重(キロ)÷身長(メートル)÷身長(メートル)

 日本肥満学会による判定基準では、

 18.5未満    ⇒⇒やせ 

 18.5以上25未満⇒⇒普通(22が最も有病率が低い)

 25 以上    ⇒⇒肥満

体脂肪率

 電気が流れにくいという脂肪の性質を利用し、体に微弱な電流を流して計測するのが体脂肪率。正確に測ることは難しく、あくまでも目安として利用します。内臓脂肪などの状態をきちんと調べるためには、CTスキャン検査が必要となります。

 成人男性 25パーセント以上⇒⇒肥満

 成人女性 30パーセント以上⇒⇒肥満

■心掛けたい「肥満」対策

●体重を5パーセント減らす

健康で長生きするためにも、肥満の解消は重要なことです。肥満により糖尿病になった人でも、体重を5パーセント減らすだけで、かなり症状が改善します。例えば、体重が80キロの人ならば、月に1キロ弱ずつ減らすようにして、3カ月から半年間で76キロにすればよいでしょう。

急な減量を試みると、必要な栄養素を摂取することができず、かえって体調を崩してしまうので、ゆっくりと減らすように心掛けましょう。

●バランスのとれた食事を

食事の内容は、年齢相応の適切な摂取カロリーを考え、栄養バランスのよいものに。砂糖や脂肪分のとりすぎに注意し、緑黄色野菜を積極的にとります。

反対に、まとめ食い、とりわけ一日の食事量の半分以上を夜間に食べるのは、内臓脂肪を蓄積するので禁物。

また、タバコを吸うと体脂肪の分布が変化し、内臓脂肪が付きやすくなるので、注意しましょう。

肥満が気になる人は、毎回の食事量を2~3割減らし、ゆっくり、よくかんで食べることを実践しましょう。間食の多い人の場合は、毎食の食事をきちんととり、間食は量と時間を決めて1回に。

揚げ物、脂の多い物は、控えます。また、味付けが濃いとご飯もお酒も進んで、食べすぎにつながりがちですので、だしをしっかりとり、塩分、糖分を控えた薄味にしましょう。

ワカメ、寒天、ヒジキ、昆布などの海藻、青菜、根菜といった野菜類など食物繊維の多い食材を毎食、とり入れましょう。さらに、動物性脂肪を減らして、魚、豆類をとり、穀類は大麦やヒエ、アワといった雑穀などを加えて、食物繊維やミネラルを増やしましょう。油脂では、植物性のオリーブオイルや魚の油脂がお勧めです。

●有酸素運動を行う

肥満が気になる人にとっては、食事の見直しだけでなく、有酸素運動も必要です。運動不足になると、基礎代謝が減少し、貯蔵エネルギーが増えやすくなるからです。

運動を併せて行えば、筋肉を落とさず、さらに脂肪を燃焼することができます。短距離走や重量挙げのような無酸素運動は筋力を増やし、ウオーキングなどの有酸素運動は脂肪を燃やします。特に、内臓脂肪は運動で減りやすく、これもまた欠かせないのです。

どなたにもお勧めできる運動としては、ウオーキング、ジョギング、ラジオ体操、水泳などの全身を使う有酸素運動が挙げられます。これらの運動は週に3回以上行う必要があり、軽い運動なら毎日から1日置きとし、休日などを利用して十分な時間をとるのがよいでしょう。

運動の強度については、いきなり強い運動をしないこと。軽い運動から始めて、徐々に慣らしていくのがよいでしょう。ウオーキングを主体にして、ダンベルなどを利用した筋力トレーニング、ストレッチも併用するのが、一番のお勧めです。

2022/08/24

🇩🇪ジルベール症候群

遺伝的体質により、ビリルビンが体内から排出されにくいために黄疸を生じる疾患の一つ

ジルベール症候群とは、遺伝的体質により、生まれながらにしてビリルビン(胆汁色素)が体内から排出されにくいために、思春期以降に黄疸(おうだん)を生じる疾患。

フランスのジルベール博士によって初めて報告された疾患で、体質性黄疸の一つです。

血液の赤血球の中には、ヘモグロビン(血色素)という物質が含まれています。ヘモグロビンは酸素を運ぶ役割を担っているのですが、寿命を120日とする赤血球が古くなって壊される際に、ヘモグロビンが分解される過程でビリルビンが作られます。

本来、脾臓(ひぞう)などで作られたビリルビンは血液に入ってアルブミンと結合し、肝臓に運ばれグルクロン酸抱合(ほうごう)を受けて解毒され、続いて、肝臓で生成される消化液である胆汁の中へ排出され、その胆汁の成分として胆道を通って小腸の一部である十二指腸の中に排出され、最終的には便と一緒に体外へ排出されます。便の黄色は、このビリルビンの色です。

ビリルビンが体内で異常に増え、体内に一定量以上残った場合は、組織に蓄積するために皮膚などが黄色くなり、これを黄疸といいます。

従って、赤血球や肝臓の細胞が急に壊された時や、胆道が結石や悪性腫瘍(しゅよう)などで閉塞(へいそく)した時などに、黄疸はよく現れます。しかし、このような疾患がないにもかかわらず、しばしば黄疸を認める場合はジルベール症候群などの体質性黄疸が疑われ、その原因はビリルビンの肝臓の細胞の中への取り込みや、十二指腸の中への排出がほかの人より行われにくいという遺伝的なものと見なされます。

ジルベール症候群は、脂溶性で細胞毒性の強い間接型ビリルビン(非抱合型ビリルビン)が優位となり、思春期以降に発症します。体質性黄疸の中で最も多くみられるのもので、100人に3人くらいにみられます。

常染色体優性遺伝の形式を示す頻度が高いものの、原因が単一でないため遺伝形式もさまざまです。

肝臓の細胞による間接型ビリルビンの取り込みから、水溶性で細胞毒性の弱い直接型ビリルビン(抱合型ビリルビン)に変換するまでのいずれかの部位の障害が原因で発症します。

黄疸の程度は軽度にとどまり、日常生活に何ら支障はありません。

ジルベール症候群の検査と診断と治療

内科、消化器科の医師による診断では、主に問診と画像検査を行います。問診では、体質性黄疸を患っている家族の有無、過去の黄疸歴・手術歴・輸血歴などの有無、黄疸に伴う意識障害や貧血などほかの症状とその発症時期、尿便の色、皮膚の掻痒(そうよう)感、全身状態など細かく調べます。

問診でわからなかった場合に、画像検査を行います。主に超音波(エコー)検査が行われ、これによって確定します。

鑑別すべき疾患には、慢性肝炎やその他の肝疾患がありますが、血液中の間接型ビリルビンが優位であること、肝機能と肝組織像ともに適正範囲に収まること、尿中ビリルビンがみられないことから、見分けることができます。

内科、消化器科の医師による治療では、ほとんどのジルベール症候群の場合、黄疸の程度は軽度なことが多く、日常生活に支障がないので治療はしません。ただ、体調が優れない時に黄疸が濃く出る場合があるので、ストレス、極度の疲労、アルコール類の多飲を避ける生活を心掛けてもらいます。

美容的な観点から黄疸を軽くしたい時には、フェノバルビタールという薬剤の内服が有用ですが、原則はあくまで無治療です。

注意すべき点は、間接型ビリルビンを直接型ビリルビンに変換する酵素により代謝(グリクロン酸抱合)されるインフリキシマブという薬剤などの内服により、副作用が強く出現することです。

2022/08/21

🇮🇷体質性黄疸

遺伝的体質により、生まれながらにしてビリルビンが体内から排出されにくいために黄疸を生じる疾患

体質性黄疸(おうだん)とは、遺伝的体質により、生まれながらにしてビリルビン(胆汁色素)が体内から排出されにくいために、黄疸を生じる疾患。

血液の赤血球の中には、ヘモグロビン(血色素)という物質が含まれています。ヘモグロビンは酸素を運ぶ役割を担っているのですが、寿命を120日とする赤血球が古くなって壊される際に、ヘモグロビンが分解される過程でビリルビンが作られます。

本来、脾臓(ひぞう)などで作られたビリルビンは血液に入って肝臓に運ばれ、肝臓で生成される消化液である胆汁の中へ排出され、その胆汁の成分として胆道を通って小腸の一部である十二指腸の中に排出され、最終的には便と一緒に体外へ排出されます。便の黄色は、このビリルビンの色です。

ビリルビンが体内で異常に増え、体内に一定量以上残った場合は、組織に蓄積するために皮膚などが黄色くなり、これを黄疸といいます。

従って、赤血球や肝臓の細胞が急に壊された時や、胆道が結石や悪性腫瘍(しゅよう)などで閉塞(へいそく)した時などに、黄疸はよく現れます。しかし、このような疾患がないにもかかわらず、しばしば黄疸を認める場合は体質性黄疸が疑われ、その原因はビリルビンの肝臓の細胞の中への取り込みや、十二指腸の中への排出がほかの人より行われにくいという遺伝的なものと見なされます。

この体質性黄疸は、クリグラー・ナジャール症候群、ジルベール症候群、デュビン・ジョンソン症候群、ローター症候群の4つに分類されます。クリグラー・ナジャー症候群は重い疾患で治療が必要ですが、ほかの3つの症候群は体調が崩れた時に黄疸が生じる程度で、ほとんど治療の必要はありません。

クリグラー・ナジャール症候群が新生児期から発症して黄疸を来すのに対して、ほかの3つの症候群では思春期以降の発症になります。

クリグラー・ナジャール症候群では、脂溶性で細胞毒性の強い間接型ビリルビンが優位となり、ジルベール症候群でも、間接型ビリルビンが優位となり、思春期以降に発症します。これとは反対に、デュビン・ジョンソン症候群とローター症候群では、水溶性で細胞毒性の弱い直接型ビリルビンが優位となり、いずれも発症は思春期以降です。

クリグラー・ナジャール症候群は、細胞毒性の強い間接型ビリルビンを細胞毒性の弱い直接型ビリルビンに変換する唯一の酵素の活性が低下しているため、間接型ビリルビン優位の高ビリルビン血症を示すことが特徴です。

このクリグラー・ナジャール症候群には、変換酵素の活性が完全に欠けているため、生後まもなくから長引く核黄疸、もしくはビリルビン脳症と呼ばれる状態を示す生命予後の不良な重症型と、酵素の活性は正常の10パーセント未満を示すものの、問題なく成長し、黄疸以外の症状は認められない軽症型があります。

いずれの型も家族性に発症し、遺伝形式は常染色体劣性とされていますが、軽症型の中には、常染色体優性遺伝の形式をとるものもあります。

活性がゼロの場合には、高度の新生児黄疸を来してビリルビンが脳細胞まで侵すことがあり、後遺症を残したり、幼児期のうちに死亡してしまうこともあります。

ジルベール症候群は、体質性黄疸の中で最も多くみられるのもので、100人に3人くらいにみられます。肝臓の細胞による間接型ビリルビンの取り込みから、直接型ビリルビンに変換するまでのいずれかの部位の障害が原因で発症します。

常染色体優性遺伝の形式を示す頻度が高いものの、原因が単一でないため遺伝形式もさまざまです。黄疸の程度は軽度にとどまり、日常生活に何ら支障はありません。

デュビン・ジョンソン症候群は、肝臓が色素の沈着により特徴的な黒色を示し、ローター症候群は、肝臓の色素沈着はありません。両症候群とも、黄疸以外にはほとんど症状はなく、日常生活に何ら支障はありません。

体質性黄疸の検査と診断と治療

小児科、内科、消化器科の医師による診断では、主に問診と画像検査を行います。問診では、体質性黄疸を患っている家族の有無、過去の黄疸歴・手術歴・輸血歴などの有無、黄疸に伴う意識障害や貧血などほかの症状とその発症時期、尿便の色、皮膚の掻痒(そうよう)感、全身状態など細かく調べます。

問診でわからなかった場合に、画像検査を行います。主に超音波(エコー)検査が行われ、これによって確定します。

クリグラー・ナジャール症候群の診断では、血清中の間接型ビリルビン値の上昇、および胆汁中の直接型ビリルビン値の低下により判断します。重症型と軽症型の区別には、フェノバルビタールという薬剤を投与し、間接型ビリルビンを直接型ビリルビンに変換する酵素の有無を調べる方法があり、酵素の活性が残っている場合には活性の上昇が認められます。

小児科、内科、消化器科の医師による治療では、ほとんどの体質性黄疸の場合、黄疸の程度は軽度なことが多く、日常生活に支障がないので治療はしません。ただ、体調が優れない時に黄疸が濃く出る場合があるので、ストレスのかからない生活を心掛けてもらいます。

美容的な観点から黄疸を軽くしたい時には、フェノバルビタールの内服が有用ですが、原則はあくまで無治療です。

クリグラー・ナジャール症候群の重症型では、間接型ビリルビン値を下げるために、光エネルギーでビリルビンをサイクロビリルビンに変化させて排出させる光線療法を行ったり、ビリルビン合成を抑えるための薬剤、便への排出を促すための薬剤を投与します。しかし、成長とともにこれらの治療効果が低下し、最終的には肝移植療法が必要になります。軽症型では、フェノバルビタールの投与が有効です。

2022/08/19

🇮🇳非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)

大量の飲酒習慣がないのに脂肪肝になり、慢性肝炎に至った状態

非アルコール性脂肪性肝炎(NASH:Non-Alcoholic Steato Hepatitis、ナッシュ)とは、大量の飲酒習慣がないにもかかわらず脂肪肝になり、慢性肝炎に至った病態。自覚症状がないまま、肝硬変や肝臓がんに進むこともあります。

肝細胞に中性脂肪が沈着して、肝障害を引き起こす病態を脂肪性肝疾患といいます。そして、肝臓の組織で、脂肪滴を伴う肝細胞が30パーセント以上認められる場合を脂肪肝といいます。現在、検診受診者の20〜30パーセントは脂肪肝であり、頻度は年々増加しています。

この脂肪肝は、以前は大量のアルコールを摂取する人に多かったのですが、肥満や糖尿病など生活習慣病の表現形として発症することが多くなり、アルコールを全く飲まない人や、少しだけ飲むという人にもアルコール性肝障害に類似した脂肪性肝障害がみられる病態をまとめて、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:Non-Alcoholic Fatty Liver Disease)と呼ぶようになりました。

成人の8パーセント程度は非アルコール性脂肪性肝疾患であるといわれ、国内に約1000万人いると推定されています。

非アルコール性脂肪性肝疾患は、肝細胞に脂肪が沈着するのみの単純性脂肪肝(Simple Fatty Liver)と、肝細胞に脂肪が沈着するとともに炎症を起こし、線維化が進行する非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に大別されます。

非アルコール性脂肪性肝炎は肝硬変に至り、肝臓がんを引き起こす可能性があり、成人の1パーセント程度にみられ、国内に約100〜200万人の発症者がいると推定されています。

非アルコール性脂肪性肝炎の発症に至る原因はまだはっきりとはわかっていませんが、2つのヒット理論が広く受け入れられています。肥満、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)などにより、肝臓に中性脂肪が蓄積し、脂肪肝になるのが第1のヒット。さらに、炎症を起こす免疫物質や腸内細菌の毒にさらされたり、体内の活性酸素が増える酸化ストレスになったりする第2のヒットの刺激を受けると、非アルコール性脂肪性肝炎に進みます。

非アルコール性脂肪性肝炎は、脂肪肝と同じく自覚できる症状はほとんどありません。しかし、一部の発症者では疲れ、だるさ、または右上腹部の不快感を感じることがあります。

40〜60歳の中年女性に最もしばしばみられ、その多くは肥満、2型糖尿病、または脂質異常症を示しますが、すべての年齢の男女に起こり得ます。

非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の検査と診断と治療

消化器内科、消化器科、内科の医師による診断では、脂肪肝の程度が進み脂肪性肝炎が疑われる場合、画像検査や血液検査だけでは脂肪肝か脂肪性肝炎か判断が付かないため、確定診断には、針を皮膚から肝臓へと突き刺し、肝臓の組織の一部を採取する肝生検を行います。

最も多くみられる検査所見の異常は、アミノトランスフェラーゼ(アミノ基転移酵素)値の上昇。肝酵素のAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)値とALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)値の軽度の上昇もみられます。AST/ALT比は通常、1・0以下です。

アルコール性肝障害との鑑別が最も重要で、問診によってアルコール摂取量を把握することと、アルコール性肝障害ではAST/ALT比が1・0以上となることで鑑別します。ウイルス性肝炎B型、ウイルス性肝炎C型、自己免疫性肝炎、薬物性肝障害などとの鑑別も必要です。

消化器内科、消化器科、内科の医師による治療では、脂肪肝と同じく、ライフスタイルの見直しを行い、低カロリーで栄養バランスのよい食事を心掛け、適度な運動を取り入れます。

肝臓に炎症や線維化がみられる場合は、そのまま放置すると悪化する恐れがあり、原因となる肥満、2型糖尿病、脂質異常症を食事療法、運動療法で改善することが重要です。

ライフスタイルを見直しても肝機能異常が治らない場合は、薬物療法が行われる場合もあります。抗酸化剤のビタミンE、ビタミンC、糖尿病治療薬のチアゾリジン系薬剤、ビグアナイド系薬剤、シダグリプチン、脂質異常症治療薬のフィブレート系薬剤、エゼチミブ、EPL、肝庇護(ひご)剤のウルソ、グリチルリチンなどが使用されるほか 、非アルコール性脂肪性肝炎では過剰な鉄が肝臓に負担を掛けますので、1日の食事中の鉄を6〜7ミリグラム以下に減らします。

また、脂肪性肝炎から肝硬変、肝臓がんへと進むことがあるため、肝機能を検査して常に確認しておくことが大切になります。

🇮🇳非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)

アルコールを全く飲まない人や、少しだけ飲む人に脂肪性肝障害がみられる病態

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:Non-Alcoholic Fatty Liver Disease)とは、アルコールを全く飲まない人や、少しだけ飲むという人にもアルコール性肝障害に類似した脂肪性肝障害がみられる病態。

肝細胞に中性脂肪が沈着して、肝障害を引き起こす病態を脂肪性肝疾患といいます。そして、肝臓の組織で、脂肪滴を伴う肝細胞が30パーセント以上認められる場合を脂肪肝といいます。現在、検診受診者の20〜30パーセントは脂肪肝であり、頻度は年々増加しています。

この脂肪肝としては、以前は大量のアルコールを摂取する人に多くみられるアルコール性脂肪肝や、脂肪肝に肝炎を伴ったアルコール性脂肪性肝炎(ASH:Alcoholic Steato Hepatitis)が知られていましたが、アルコールを全く飲まない人や、少しだけ飲むという人にも、肥満や糖尿病などの生活習慣病の表現形として、飽食と運動不足による過栄養を基盤とした内臓脂肪の蓄積によって、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)を発症することが多くなりました。

現在、成人の8パーセント程度は、非アルコール性脂肪性肝疾患であるといわれ、国内に約1000万人いると推定されています。

非アルコール性脂肪性肝疾患は、肝細胞に中性脂肪が沈着するのみの単純性脂肪肝(Simple Fatty Liver)と、肝細胞に脂肪が沈着するとともに炎症を起こし、線維化が進行する非アルコール性脂肪性肝炎(NASH:Non-Alcoholic Steato Hepatitis、ナッシュ)に大別されます。

後者の非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は、成人の1パーセント程度にみられ、国内に約100〜200万人の発症者がいると推定されています。非アルコール性脂肪性肝疾患の重症型と考えられており、自覚症状がないまま、肝硬変に至り、肝臓がんを引き起こす可能性もあります。

単純性脂肪肝から非アルコール性脂肪性肝炎の発症に至る原因はまだはっきりとはわかっていませんが、2つのヒット理論が広く受け入れられています。肥満、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)などにより、肝細胞に中性脂肪が蓄積し、脂肪肝になるのが第1のヒット。さらに、炎症を起こす免疫物質や腸内細菌の毒にさらされたり、体内の活性酸素が増える酸化ストレスになったりする第2のヒットの刺激を受けると、非アルコール性脂肪性肝炎に進みます。

非アルコール性脂肪性肝炎は、単純性脂肪肝と同じく自覚できる症状はほとんどありません。しかし、一部の発症者では疲れ、だるさ、または右上腹部の不快感を感じることがあります。

40〜60歳の中年女性に最もしばしばみられ、その多くは肥満、2型糖尿病、または脂質異常症を示しますが、すべての年齢の男女に起こり得ます。

非アルコール性脂肪性肝疾患そのものでは自覚症状が出ることはほとんどないので、健診でチェックされるか、ほかの疾患で血液検査をした時に肝機能異常があって、発見の契機になることがあります。中には血液検査では肝機能正常の非アルコール性脂肪性肝疾患もあり、この場合は健診の超音波検査で指摘されることもあります。

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の検査と診断と治療

消化器内科、消化器科、内科の医師による診断では、単純性脂肪肝の程度が進み非アルコール性脂肪性肝炎が疑われる場合、画像検査や血液検査だけでは脂肪肝か脂肪肝炎か判断が付かないため、確定診断には、針を皮膚から肝臓へと突き刺し、肝臓の組織の一部を採取する肝生検を行います。

非アルコール性脂肪性肝炎で最も多くみられる検査所見の異常は、アミノトランスフェラーゼ(アミノ基転移酵素)値の上昇。肝酵素のAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)値とALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)値の軽度の上昇もみられます。AST/ALT比は通常、1・0以下です。

アルコール性肝障害との鑑別が最も重要で、問診によってアルコール摂取量を把握することと、アルコール性肝障害ではAST/ALT比が1・0以上となることで鑑別します。ウイルス性肝炎B型、ウイルス性肝炎C型、自己免疫性肝炎、薬物性肝障害などとの鑑別も必要です。

消化器内科、消化器科、内科の医師による治療では、ライフスタイルの見直しを行い、低カロリーで栄養バランスのよい食事を心掛け、適度な運動を取り入れます。

肝臓に炎症や線維化がみられる場合は、そのまま放置すると悪化する恐れがあり、原因となる肥満、2型糖尿病、脂質異常症を食事療法、運動療法で改善することが重要です。

ライフスタイルを見直しても肝機能異常が治らない場合は、薬物療法が行われる場合もあります。抗酸化剤のビタミンE、ビタミンC、糖尿病治療薬のチアゾリジン系薬剤、ビグアナイド系薬剤、シダグリプチン、脂質異常症治療薬のフィブレート系薬剤、エゼチミブ、EPL、肝庇護(ひご)剤のウルソ、グリチルリチンなどが使用されるほか 、非アルコール性脂肪性肝炎では過剰な鉄が肝臓に負担を掛けますので、1日の食事中の鉄を6〜7ミリグラム以下に減らします。

また、非アルコール性脂肪性肝炎から肝硬変、肝臓がんへと進むことがあるため、肝機能を検査して常に確認しておくことが大切になります。

🇳🇵脾機能高進症

脾臓がはれることによって機能が高進し、血球が減少する状態

脾(ひ)機能高進症とは、何らかの原因によって脾臓がはれて大きくなる脾腫(しゅ)によって、脾臓の機能が高進した状態。

脾臓は、左横隔膜の下、左肋骨弓(ろっこつきゅう)のところにある100グラムほどの臓器。健康な人では腹壁の上から触れることはできませんが、500グラムまたはそれ以上に大きくはれると触れることができます。

脾臓は、古くなった血球、すなわち赤血球、白血球、血小板を破壊して処理したり、細菌や異物に対して抗体を作るなど、防御作用を持っています。脾臓が大きくはれると、脾臓の機能が高進して血球を破壊する力が強くなり、古くなった血球だけでなく正常な血球まで破壊するようになる結果として、血液中の赤血球、白血球、血小板すべてが減少します。このような状態が、脾機能高進症です。

感染症、例えば伝染性単核球症、腸チフスなどの敗血症、マラリアなどで、脾臓がはれ、脾機能高進症が誘発されます。また、溶血性貧血、白血病、リンパ腫(しゅ)、骨髄(こつずい)線維症といった血液の疾患でも、脾臓がはれ、脾機能高進症が誘発されます。

鳥やネズミでは脾臓で赤血球や白血球を作っていますが、成人では脾臓ではリンパ球を作るだけで、赤血球や白血球は骨髄で作られているものの、骨髄線維症や白血病の際には、脾臓でも造血を行うようになって、脾臓がはれ、脾機能高進症が誘発されることがあります。

そのほか、肝硬変や慢性肝炎でも、脾臓がはれ、脾機能高進症が誘発される場合も少なくありません。

脾臓がはれて大きくなったぶん、血液中から取り込む血球の量が増えて、大量の血球が血液から取り除かれると、さまざまな問題が生じます。赤血球が減少すれば貧血症が現れ、白血球が減少すれば感染症にかかりやすくなり、血小板の減少があれば出血が起こりやすくなります。

脾臓のはれ方が強くなれば、隣にある胃を圧迫するため、少量食べただけで、あるいは何も食べていなくても満腹感を感じるようになります。また、脾臓のある付近に膨満感が生じたり、左上腹部や背部に痛みが生じることがあります。脾臓の一部に血液が十分に供給されず、壊死が起こり始めると、痛みが左肩へと広がります。

肝臓に血液を供給する門脈圧が上昇して脾腫がある時は、狭窄(きょうさく)や閉塞(へいそく)によって肝臓に流れ切れない血液が食道静脈に流れ込むため、しばしば食道の下端に静脈瘤(りゅう)ができます。これが破れると、吐血や下血を起こし、危険な状態に陥ります。

脾機能高進症の検査と診断と治療

消化器内科の医師による診断では、脾腫に加えて、貧血または血球の減少がある際に脾機能高進症を疑います。大抵の場合、脾腫は触診でわかり、腹部X線検査でも診断がつきます。

脾臓の大きさを確認し、他の臓器を圧迫しているかどうかを調べるために、超音波検査やCT検査が必要になることもあります。MRI検査では、CT検査と同様の情報が得られるだけでなく、脾臓を通過する血流をたどることもできます。弱い放射性の粒子を使用して脾臓の大きさと機能を調べ、大量の血球を取り込んでいるか、または破壊しているかどうかをみる検査もあります。

血液検査では、赤血球、白血球、血小板の数に減少がみられます。顕微鏡で調べた血球の大きさや形が、脾機能高進症を誘発する脾腫の原因を突き止める手掛かりとなることもあります。骨髄検査では、白血病やリンパ腫といった血液細胞のがんを確認することができますし、血中たんぱく質の測定では、マラリア、結核など脾腫を起こす他の疾患の有無を判定することができます。肝機能検査は、肝臓も障害を受けているかどうかを調べるのに役立ちます。

消化器内科の医師による治療では、脾機能高進症を誘発する脾腫の原因となった基礎疾患が特定でき、治療可能なものであれば、その疾患を治療します。

原因となった疾患にもよりますが、脾腫が周囲の臓器に悪影響を及ぼしている時や、脾腫があって食道静脈瘤から出血するような時には、消化器外科などの医師による手術を行って脾臓を摘出することがあります。脾臓を摘出すると、細菌やウイルスに対して防御する働きが失われ、感染を起こしやすくなるなどのリスクが生じますが、命にかかわるような問題がある場合は手術を行う価値があります。

手術の代わりに、放射線療法を行って脾臓を小さくすることもできます。

脾臓が腫れて大きくなっている場合は、破裂する危険性があるために、激しい運動は避けるようにします。

🇺🇸脾腫

さまざまな疾患が原因となって、脾臓がはれて大きくなった状態

脾腫(ひしゅ)とは、脾臓がはれて大きくなった状態。それ自体は疾患ではありませんが、ほかの疾患の影響によって起こります。

脾臓は、左横隔膜の下、左肋骨弓(ろっこつきゅう)のところにある100グラムほどの臓器。健康な人では腹壁の上から触れることはできませんが、500グラムまたはそれ以上に大きくはれると触れることができます。

脾臓は、古くなった血球、すなわち赤血球、白血球、血小板を破壊して処理したり、細菌や異物に対して抗体を作るなど、防御作用を持っています。脾臓が大きくはれると、血球を破壊する力が強くなり、赤血球、白血球、血小板すべてが減少します。このような状態を、脾機能高進症といいます。

感染症、例えば伝染性単核球症、腸チフスなどの敗血症、マラリアなどで、脾臓がはれます。また、溶血性貧血、白血病、リンパ腫(しゅ)、骨髄(こつずい)線維症といった血液の疾患でも、脾臓がはれます。

鳥やネズミでは脾臓で赤血球や白血球を作っていますが、成人では脾臓ではリンパ球を作るだけで、赤血球や白血球は骨髄で作られているものの、骨髄線維症や白血病の際には、脾臓でも造血を行うようになって、脾臓がはれることがあります。

そのほか、肝硬変や慢性肝炎でも、脾臓がはれる場合も少なくありません。

脾臓がはれて大きくなった分、血液中から取り込む血球の量が増えて、大量の血球が血液から取り除かれると、さまざまな問題が生じます。赤血球が減少すれば貧血症が現れ、白血球が減少すれば感染症にかかりやすくなり、血小板の減少があれば出血が起こりやすくなります。

脾臓のはれ方が強くなれば、隣にある胃を圧迫するため、少量食べただけで、あるいは何も食べていなくても満腹感を感じるようになります。また、脾臓のある付近に膨満感が生じたり、左上腹部や背部に痛みが生じることがあります。脾臓の一部に血液が十分に供給されず、壊死が起こり始めると、痛みが左肩へと広がります。

肝臓に血液を供給する門脈圧が上昇して脾腫がある時は、食道に静脈瘤(りゅう)ができます。これが破れると、吐血や下血を起こし、危険な状態に陥ります。

脾腫の検査と診断と治療

消化器内科の医師による診断では、腹部に膨満感があったり、左上腹部や背部に痛みがある場合に、脾腫を疑います。大抵の場合、触診でわかり、腹部X線検査でも診断がつきます。

脾臓の大きさを確認し、他の臓器を圧迫しているかどうかを調べるために、超音波検査やCT検査が必要になることもあります。MRI検査では、CT検査と同様の情報が得られるだけでなく、脾臓を通過する血流をたどることもできます。弱い放射性の粒子を使用して脾臓の大きさと機能を調べ、大量の血球を取り込んでいるか、または破壊しているかどうかをみる検査もあります。

血液検査では、赤血球、白血球、血小板の数に減少がみられます。顕微鏡で調べた血球の大きさや形が、脾腫の原因を突き止める手掛かりとなることもあります。骨髄検査では、白血病やリンパ腫といった血液細胞のがんを確認することができますし、血中たんぱく質の測定では、マラリア、結核など脾腫を起こす他の病気の有無を判定することができます。肝機能検査は、肝臓も障害を受けているかどうかを調べるのに役立ちます。

消化器内科の医師による治療では、脾腫の原因となった疾患が特定でき、治療可能なものであれば、その疾患を治療します。

脾腫の原因となった疾患にもよりますが、脾腫が周囲の臓器に悪影響を及ぼしている時や、脾腫があって食道静脈瘤から出血するような時には、消化器外科などの医師による手術を行って脾臓を摘出することがあります。脾臓を摘出すると、細菌やウイルスに対して防御する働きが失われ、感染を起こしやすくなるなどのリスクが生じますが、命にかかわるような問題がある場合は手術を行う価値があります。

手術の代わりに、放射線療法を行って脾臓を小さくすることもできます。

脾臓が腫れて大きくなっている場合は、破裂する危険性があるために、激しい運動は避けるようにします。

🇹🇼脾臓破裂

腹部を強打して破裂することが多く、伝染性単核球症で自然に破裂することも

脾臓(ひぞう)破裂とは、左横隔膜の下、左肋骨弓(ろっこつきゅう)のところにある100グラムほどの臓器である脾臓が破裂すること。

交通事故やスポーツ事故、打撲などで腹部を強打して破裂することが多く、特に脾臓がはれている脾腫(しゅ)のある人は健康な人に比べて、破裂しやすくなっています。

また、主にEB(エプスタイン・バー)ウイルスの感染で起こる伝染性単核球症が原因で脾臓がはれて大きくなると、腹に圧力や衝撃がかかる運動や軽微な外傷で破裂したり、自然に破裂しやすくなります。

一般に、左上腹部の疼痛(とうつう)が、脾臓破裂に先行して起こります。脾臓が破裂すると、脾臓を覆う被膜や内部組織も裂けます。古くなった血球、すなわち赤血球、白血球、血小板を破壊して処理したりする脾臓は血管の豊富な臓器であるため、被膜が避けると血液が腹腔(ふくくう)内に流出して腹痛が起こり、血圧が下がって、めまいや意識障害などの症状が現れます。腹筋も反射的に収縮して、硬くなります。

大量に血液が流出している場合は、出血性ショックにより生命にかかわる危篤な状態になることもあるので、すぐに処置しなければいけません。 緊急に輸血して血液循環を維持するとともに、手術を実施して止血する必要があります。

血液が徐々に漏れ出している場合は、血流量が減少して血圧が低下し、脳や心臓に十分な酸素が供給されなくなって、初めて症状が現れることもあります。低血圧や酸素欠乏による症状には、めまい、意識障害、視力障害、錯乱、意識喪失などがあります。

脾臓の損傷が破裂にまで至らず、被膜下血腫を起こすこともあり、その血腫は損傷を受けた数時間後、あるいは数カ月後まで破裂しないこともあります。

脾臓破裂の検査と診断と治療

外科、消化器外科などの医師による診断では、症状が脾臓破裂以外の原因によるものかどうかを判定するため、腹部X線検査を行います。超音波検査やCT検査を行うこともあります。放射性物質を使った画像検査で、血流をたどって出血の有無を確認したり、腹腔内の体液を針で吸引して、腹腔内の出血を調べることもあります。

脾臓破裂の疑いが濃厚である場合は、緊急手術を行って、致死的な出血を未然に防ぎます。通常は手術で脾臓全部を除去しますが、破裂範囲が小さい場合は修復できることもあります。

脾臓を摘出すると、細菌やウイルスに対して防御する働きが失われ、感染を起こしやすくなるなどのリスクが生じますが、命にかかわるような問題がある場合は手術を行う価値があります。しかし、特に小児の場合、細菌感染に対する永久的な感受性が生じるのを防ぐため、可能なら脾臓摘出を避け、必要に応じた輸血で対処します。

脾臓摘出の実施前後には、感染を防ぐための特別な注意が必要です。例えば、可能であれば、手術前には肺炎球菌に対する予防接種を行います。

手術後は毎年、インフルエンザの予防注射を受けることが推奨されます。特定の健康状態にある人、例えば鎌状赤血球症やがんなど命にかかわる感染症を起こすリスクの高い疾患を持っている人では、感染を防ぐ抗生物質の使用が推奨されます。

伝染性単核球症の治療では、抗EBウイルス薬はないため、安静と対症療法が中心です。症状が長引く場合は、ステロイドホルモン剤を用いることもあります。重症の場合は、血漿(けっしょう)交換療法や抗がん剤が用いられます。

2022/08/16

🇪🇸慢性膵炎

膵臓が硬くなり膵液の分泌が障害される疾患

慢性膵炎(すいえん)とは、長期間に渡る炎症によって、膵臓の細胞が徐々に破壊されていく疾患。炎症が進行すると、繊維化や石灰化が起こって膵臓が硬くなり、膵液の分泌が障害されます。

膵臓は胃の後ろに位置する消化腺(せん)であり、直径15センチ、重さ100グラムほどとサイズこそ小さいですが、外分泌と内分泌という二つのホルモン分泌を行う機能があります。

外分泌機能は、消化液である膵液を分泌して十二指腸へ送り込み、食物の消化、吸収を助けるもの。膵液には、炭水化物を分解するアミラーゼ、蛋白(たんぱく)質を分解するトリプシン、脂肪を分解するリパーゼといった消化酵素が含まれています。

一方、インシュリン(インスリン)やグルカゴンなどのホルモンを分泌して、血糖値を調節するのが内分泌機能です。インシュリンは血糖値を下げ、グルカゴンは血糖値を高くします。

慢性膵炎では、膵臓の炎症が長期間繰り返されることによって、膵臓の細胞が次第に破壊されるに従って、外分泌機能と内分泌機能が少しずつ低下し、消化不良を起こしたり糖尿病を招くなど、全身状態に大きな影響を及ぼすようになります。

50~60歳代に起こりやすく、男女比は2対1と男性に多い点が、慢性膵炎の特徴です。1999年に医療機関を受診した慢性膵炎患者の数は42000人で、人口10万人当たり33.2人と推定され、2002年に医療機関を受診した慢性膵炎患者の数は45200人で、人口10万人当たり35.5人と推定されています。

原因のほとんどは、アルコールの過剰摂取と、胆石や胆のう炎といった胆道の疾患で起こっています。

とりわけ、大量飲酒の習慣がある人に発症するケースが大半で、原因の50パーセント以上を占めています。近年では、アルコールの消費量の増加に伴って、発症者のうち大量飲酒者が占める割合は、ますます高くなってきています。中年以降の男性で、10年以上に渡って大量飲酒を続けている人は、要注意。

ただし、アルコールの過剰摂取だけで慢性膵炎が引き起こされるというわけではなく、食生活などのほかの要因も絡み合って発症すると考えられています。また、原因不明の突発性のケースも約30パーセントを占め、近年、注目されている自己免疫異常による膵炎も中に含まれます。

いったん発症すると、長期に渡って少しずつ進行し続けるため、疾患の早期と後期では症状がかなり異なります。

早期に最も多くみられる症状は腹痛です。急性膵炎の腹痛は激痛となるのに対して、慢性膵炎では鈍痛が特徴です。大抵の場合、背部痛を伴います。これらの痛みは頑固で持続性ですが、間欠的に生じるものもあり、程度も軽度なものから重度のものまで人によりさまざまです。

痛みは、油分の多い食事の後や、飲酒後に比較的起こりやすい傾向がみられます。しかし、特に誘因がなく突然起こることもあり、まれには全く痛みのない慢性膵炎も存在します。

このほか、吐き気や嘔吐(おうと)、上腹部の重苦しさ、腹部の膨満感、食欲不振、全身倦怠(けんたい)感などや、黄疸(おうだん)が現れることもあります。

こうした症状は、外分泌機能の障害の程度が軽い時期に起こりやすいもので、病気が進行するにつれて腹痛はあまりみられなくなり、外分泌機能の低下に起因する消化吸収障害によって、便中に脂肪がそのまま出る脂肪性下痢や、体重減少が生じてきます。

また、膵臓のランゲルハンス島と呼ばれ、内分泌機能にかかわる細胞群にも病変が及ぶと、血糖値を調整するインシュリンやグルカゴンなどのホルモンが十分に分泌されなくなって、口渇、多飲、多尿といった膵性糖尿病の症状を招くようになります。

血糖値がうまくコントロールされなくなるため、意識の混濁や昏睡(こんすい)がみられることもあります。まれに、症状が急激に悪化して、重症の急性膵炎と同じようにショック状態に陥ったり、腎(じん)不全や心不全などを起すケースもみられます。

慢性膵炎の検査と診断と治療

慢性膵炎の診断のためには、血液中や尿中に流出したアミラーゼを始めとする消化酵素の量の測定、膵外分泌機能検査(セクレチン試験)、膵内分泌機能検査、画像検査などが行われます。

一般に、膵臓に炎症が起こると、血中アミラーゼの値は上昇します。しかし、慢性膵炎では、急性膵炎に比べると上昇の度合いが顕著ではなく、腹痛を起していても異常値を示さない場合があります。そのため、血中アミラーゼの検査値だけで、慢性膵炎と確定することはできません。

尿検査では、膵液に含まれている消化酵素を分解するPFDという試薬を飲んで、分解産物のPABA(パラアミノ安息香酸)が尿中に排出された量を測定します。これはPFD(BT-PABA)試験と呼ばれる検査で、膵臓の外分泌機能の状態がおおよそわかります。

確定診断のためには、腹部超音波検査、CT検査、ERCP(内視鏡的逆行性胆道膵管撮影)検査といった画像診断が不可欠です。

超音波検査やCT検査では、膵臓の形や、膵臓にできる結石である膵石の有無なども調べることができます。

ERCP検査は、膵管に造影剤を注入し、内視鏡で膵管の状態を調べるものです。口から挿入した内視鏡を、胃から十二指腸の入り口部分まで送り込み、そこから膵臓内へ進めます。膵管の狭窄(きょうさく)や拡張といった形状の変化、分岐した膵管の異常などを、はっきりと捕らえることができます。

最近は、MRCP(磁気共鳴胆道膵管造影)検査も行われるようになってきました。MRI(磁気共鳴映像法)検査による画像を利用するもので、造影剤や内視鏡を使わずに胆のうや膵管の状態を観察できるので、患者の肉体的負担が少なくてすみます。

このような画像検査によって、膵臓の状態に変化や異常がみられる場合、慢性膵炎と診断されます。

なお、慢性膵炎の中には、腫瘤(しゅりゅう)形成型慢性膵炎という特殊なタイプがあり、この病気が疑われる時は、膵がんとの鑑別が重要になります。体外から穿刺針を刺して膵臓の組織を少量採取し、顕微鏡で調べる膵生検などによって鑑別が行われます。

慢性膵炎は病変の広がり具合によって症状が異なるので、それぞれの病状に応じた治療が行われます。また、いったん破壊された膵臓組織の回復は望めないため、炎症を抑えたり、病気の進行を防いで、残された機能を温存することが、治療の主眼となります。

腹痛が持続する場合は、鎮痛剤や鎮痙(けい)剤などを使用します。また、消化酵素剤や膵酵素阻害剤の経口投与も、軽症の場合には有効です。腹痛が激しい時は、急性膵炎と同様、絶飲と絶食、点滴による栄養補給、膵酵素阻害剤の投与などが行われます。

腹痛が現れている時はもちろん、痛みが治まって病状が落ち着いている時期も、禁酒を守り、食事からの脂肪の摂取量を控えめにする必要があります。

同時に、症状の再発を防ぐために薬物療法も行われます。薬物療法では、フェニペントール製剤や抗コリン剤などが用いられます。

フェニペントール製剤は、外分泌の機能障害によって低下した消化、吸収の働きを補う効果がみられます。抗コリン剤は、胃酸や膵液の分泌を抑制することによって膵臓の安静を保つとともに、膵管内圧を低下させて、膵液の流れを改善する作用があります。このほか、胃酸分泌抑制剤、H2受容体拮抗(きっこう)剤などが用いられるケースもみられます。

薬物療法の効果を上げるためには、慢性膵炎を引き起こした原因を取り除くことが大切です。特に、アルコールの摂取は病気の経過を大きく左右するので、必ず禁酒を守らなければなりません。

病気が進行して合併症が生じた場合は、それらに対する治療も必要になります。最も多くみられる合併症は、糖尿病です。慢性膵炎では、外分泌機能の低下による消化吸収障害から体重減少や栄養不良を招くケースが多いため、通常の糖尿病の治療のように食事制限を行うことが困難です。そこで、通常の糖尿病で使用される経口糖尿病薬ではなく、一般にインシュリン注射による治療が主体となります。

慢性膵炎に起因する膵性糖尿病では、低血糖による昏睡などからの生命の危険を招く場合があるので、医師の指導の下、血糖値をきちんとコントロールすることが必要です。

慢性膵炎では、内科的治療が基本となりますが、腹痛などが薬物療法で軽減しない場合や、胆道、及び十二指腸の狭窄や閉塞(へいそく)、膵臓の内部や外部に袋ができる膵のう胞を伴うケース、膵がんとの鑑別が困難なケースなどでは、手術が適応されることがあります。

例えば、膵液の流れが滞り、膵管が拡張して痛みが軽減しないといった場合は、膵管を途中から十二指腸へつなぐ吻合(ふんごう)術が行われます。膵石があるケースでは、体外から衝撃波を当てて石を細かく砕く体外衝撃波結石破砕法(ESWL)や、内視鏡治療などによって治療します。

慢性膵炎は、発症原因によって経過が大きく異なってきます。アルコールによるケース以外の慢性膵炎の場合は、原因を取り除いたり、食生活を改善すれば仕事を続けることもできます。

アルコールが原因の場合は、飲酒が習慣になっている人が多いため、治療によって症状が治まっても、再び飲酒をして再発を繰り返すケースが少なくありません。

慢性膵炎は、直接死に至る病気ではありませんが、仕事や家庭での生活の質(QOL)を著しく低下させることもあるので、決して侮ることはできません。発症したら、日常生活の自己管理を徹底し、定期的に検査を受けて合併症の早期発見、早期治療に努めることが大切です。

膵臓の安静を図り、症状を改善するためには、食事療法も重要な治療の一つです。病状に応じて、適切な食品と摂取量を選択し、栄養状態を良好に保つことが必要で、禁酒が原則です。

蛋白質の多い食品は膵液の分泌を高めるため、症状が著しい時は摂取量を厳重に制限します。回復するに従って、白身魚や豆腐といった良質の蛋白質食品から摂取を開始し、膵臓の機能回復を図ります。糖質の摂取量も、少しずつ増やします。

軟らかく煮込んだ野菜料理や、ビタミンCの豊富な果物は、積極的に取るようにします。

高脂血症は膵炎の誘因となることがあるので、動物性脂肪は控えめに取り、1日の摂取エネルギーに注意して標準体重を維持するようにします。また、糖尿病などの合併症がある場合は、病状に応じて摂取エネルギーを調整することが大切です。

2022/08/15

🇬🇱肥満細胞症

皮膚や、体のさまざまな部位に肥満細胞が異常に蓄積する疾患

肥満細胞症とは、皮膚や、時として体のさまざまな部位に肥満細胞が異常に蓄積する疾患。珍しい慢性疾患です。

マスト細胞とも呼ばれる肥満細胞の数が増加して、数年かかって組織に蓄積すると発症します。肥満細胞は免疫システムを構成する細胞の仲間で、アレルギー反応や胃酸の分泌に関与する物質であるヒスタミンを産生します。この肥満細胞症では肥満細胞の数が増えるので、ヒスタミンの量も増加します。しかし、何が原因で肥満細胞の数が増えるのかは、わかっていません。

肥満細胞症には、主として皮膚に症状が現れる皮膚肥満細胞症と、ほかの部位に症状が現れる全身性肥満細胞症があります。

皮膚肥満細胞症にかかるのは、ほとんどが小児です。生後6カ月までの乳児では、腕や下肢の皮膚の一カ所に肥満細胞が増殖して固まり、肥満細胞腫(しゅ)ができることがあります。多くは単発性であり、症状は現れません。

より頻繁にみられるのは、肥満細胞が皮膚のあちこちに蓄積して、小さくて赤みがかった褐色の発疹(はっしん)や丘疹をつくる色素性じんま疹です。生後2年以内の小児に発症することが多いものの、成人になってから発症することもあります。

小児の色素性じんま疹は、ほとんどが自然治癒するといわれていますが、成人の色素性じんましんは慢性の経過をたどることが多いようです。また、小児の色素性じんま疹が進行して全身性肥満細胞症になることはめったにありませんが、成人では全身性肥満細胞症になることがよくあります。

一方、全身性肥満細胞症にかかるのは、ほとんどが成人です。全身性肥満細胞症では、肥満細胞が皮膚、胃、腸、肝臓、脾臓(ひぞう)、リンパ節、骨髄に蓄積します。

この場合も、組織がほとんど影響を受けずに機能し続ける可能性はありますが、白血球が産生される骨髄に過剰に肥満細胞が蓄積すると、血液細胞を十分に産生できなくなって、骨髄球性白血病などの重い血液疾患を発症します。そのほかの臓器でも、肥満細胞が多数集まると機能不全が起こり、結果として生命にかかわることがあります。

色素性じんま疹では、発疹や丘疹をこすったり引っかいたりするとかゆくなることがあります。かゆみは、温度の変化、衣類などによる摩擦、薬の使用などでひどくなることがあります。熱い飲み物、香辛料の入った食品、アルコール類の摂取、そして運動によってもかゆみが増す場合があります。

かゆい部分をこすったり、引っかいたりすると、じんま疹になったり皮膚が赤くなったりします。赤く火照ったり、反応が広範囲に広がりアナフィラキシー反応を起こすこともあります。

全身性肥満細胞症では、かゆみと発赤が起き、顔面紅潮もよく起こります。消化性潰瘍(かいよう)も起きることがありますが、これはヒスタミンが過剰に産生されて胃酸の分泌を促進するためです。潰瘍によって腹痛が起き、吐き気、嘔吐(おうと)、慢性の下痢が起きることもあります。

さらに、肝臓と脾臓が機能不全を起こして腹水がたまった場合は、腹部が膨隆します。骨髄で肥満細胞が増殖すると、骨の痛みが現れます。

症状は広範囲にわたり、重症化して、失神したり生命にかかわるほど血圧が急激に低下するアナフィラキシー様反応を引き起こす傾向があります。アナフィラキシー様反応とは、アナフィラキシー反応に似ていますが、アレルゲンによって引き起こされるものではありません。

肥満細胞症の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、特徴的な症状から肥満細胞症を疑い、皮膚または骨髄の生検により診断を確定します。通常は皮膚の組織を採取して、顕微鏡を使って肥満細胞の有無を調べます。骨髄の組織を採取して、顕微鏡を使って肥満細胞の有無を調べることもあります。

また、血液検査で肥満細胞に関連する化学物質の量を調べます。化学物質の量が増えていれば、全身性肥満細胞症と診断する根拠になります。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、色素性じんま疹の場合には、皮膚症状によってステロイド外用剤の塗布、あるいはステロイド剤の局所注射を行います。皮膚症状の悪化やかゆみを抑制するために、抗ヒスタミン剤の投与も有効です。

全身性肥満細胞症の場合には、抗ヒスタミン剤と、胃酸を抑えるヒスタミンH2受容体拮抗(きっこう)剤(H2ブロッカー)を投与します。クロモグリク酸を投与すると、消化器症状と骨の痛みを軽減できます。アスピリンは顔面紅潮には有効ですが、ほかの症状を逆に悪化させることがあります。

白血病を発症した場合には、抗がん剤を週に1回、皮下に注射すると、骨髄への影響を抑えられることがあります。短期間であればステロイド剤の投与も効果的です。しかし、3~4週間を超えて投与を続けると、さまざまな重い副作用が起きることがあります。

脾臓に多量の肥満細胞がたまっている場合には、脾臓を摘出することがあります。

🇺🇦バッド・キアリ症候群

肝臓から出る血液の流れが悪くなり、門脈圧高進症などの症状を示す疾患

バッド・キアリ症候群とは、肝臓から出る血液の流れが悪くなるために、腸から肝臓につながる血管である門脈の血圧が上昇し、門脈圧高進症などの症状を示す疾患。肝後性の門脈圧高進症とも呼ばれます。

血液は心臓を中心に循環していますが、肝臓に入った血液は大きな3本の肝静脈から肝臓の外に出て、肝部下大静脈に集められ、心臓に戻ります。従って、肝静脈や下大静脈が何らかの原因で閉塞(へいそく)ないし狭窄(きょうさく)すると、肝臓を巡る血流全体が障害され、門脈圧の上昇から二次的な病態である静脈瘤(りゅう)、脾腫(ひしゅ)、腹水を生じる門脈圧高進症や、肝臓のうっ血を起こします。

原因がはっきりしない場合を原発性バッド・キアリ症候群といい、肝腫瘍(しゅよう)、炎症、腹部外傷、血液疾患、血管炎、血液凝固異常、経口避妊薬の使用など、原因が明らかな場合を続発性バッド・キアリ症候群といいます。原発性バッド・キアリ症候群が約70パーセントを占めており、なぜ肝静脈や下大静脈の血管が詰まりやすいのか、はっきりしたことはわかっていません。

また、バッド・キアリ症候群は比較的まれなものと考えられてきましたが、超音波検査の普及に伴い、発生例が増えています。経過からみると急性型と慢性型とに分けられ、日本ではほとんどが慢性型で、下大静脈の閉塞か狭窄によるものです。

急性型では腹痛、吐血、肝腫大、腹水がみられ、時に重篤な経過をたどり急性肝不全で死亡することもあります。これに対し、慢性型は数週から数カ月という経過の中で軽度の腹痛や肝臓の腫大が生じるようになりますが、腹痛は現れないこともあります。

下大静脈の閉塞の症状として、腹部や胸部の静脈が怒張して皮膚に血管が盛り上がって見えたり、下肢の浮腫が生じます。門脈圧高進症の症状は必発で、食道静脈瘤、胃静脈瘤、腹水がみられるようになります。脾臓が大きくなると脾機能高進症という状態になり、貧血を来すようになります。また、静脈瘤の血圧が上昇すると、静脈の血管が耐えきれな くなって破裂、出血し、吐血、下血などの症状が出ます。

バッド・キアリ症候群の検査と診断と治療

内科、消化器科の医師による診断では、静脈からカテーテルを入れて、下大静脈や肝静脈造影を行い、これらの血管系の閉塞、狭窄が証明されればバッド・キアリ症候群と確定します。

最近では、腹部超音波検査、CT、MRIなどの検査も有用です。超音波検査を行うと、下大静脈の閉塞や血栓が見られます。また、超音波ドップラー法という検査を行うと、下大静脈や肝静脈に通常とは逆方向の血流がみられます。

内科、消化器科の医師による治療は、血管の閉塞、狭窄と門脈圧高進症に対して行います。続発性バッド・キアリ症候群の場合は、原因疾患の治療も必要です。

諸検査で血栓が確認されれば、血栓を予防したり、溶解させるために抗凝固療法を行います。また、その病態に応じて、狭窄部のバルーンカテーテルによる狭窄部拡張術や、閉塞、狭窄を直接排除するような手術を選択して行います。

門脈圧高進症の治療は、門脈圧の上昇から生じる二次的な病態である静脈瘤、脾腫、腹水などに対する対症療法が主体となります。中心になるのは食道静脈瘤、胃静脈瘤に対する治療で、予防的治療、待機的治療、緊急的治療があります。

予防的治療は、内視鏡検査により、出血しそうと判断した静脈瘤に対して行います。待機的治療は、静脈瘤の出血後、時期をおいて行うものです。緊急的治療は、出血している症例に止血を目的に行う治療です。緊急的治療では、出血している静脈を収縮させる薬を静脈注射で投与し、失われた血液を補うために輸血をします。大出血に際しては、内視鏡的に静脈瘤を治療します。

静脈瘤の治療は、1980年ころまでは外科医による手術治療が中心でしたが、最近では内視鏡を用いた内視鏡的硬化療法、静脈瘤結紮(けっさつ)療法が第一選択として行われています。

内視鏡的硬化療法には、直接、静脈瘤内に硬化剤を注入する方法と、静脈瘤の周囲に硬化剤を注入し、周囲から静脈瘤を固める方法があります。どちらも静脈瘤に血栓形成を十分に起こさせることにより、食道への側副血行路と呼ばれるバイパスを遮断するのが目的です。静脈瘤結紮療法は、特殊なゴムバンドで縛って静脈瘤を壊死(えし)に陥らせ、組織を荒廃させ、結果的に静脈瘤に血栓ができることが目的となります。

胃静脈瘤に対しては、血管造影を用いた塞栓(そくせん)療法も用いられます。また、門脈圧を下げるような薬剤を用いた治療、手術が必要な症例もあり、手術では側副血行路の遮断や血管の吻合(ふんごう)術が行われます。

出血が続いたり再発を繰り返す場合は、外科処置を行って、門脈系と体循環の静脈系の間にシャントと呼ばれるバイパスを形成し、肝臓を迂回(うかい)する血液ルートを作ることがあります。静脈系の血圧のほうがはるかに低いため、門脈の血圧は下がります。

脾腫を伴う場合は脾臓摘出術あるいは脾動脈塞栓術、腹水を伴う場合には利尿剤の投与などが行われます。

2022/08/14

🇵🇷先天性胆道閉鎖症

新生児の肝臓と腸をつなぐ胆道の内腔が詰まり、胆汁を腸に出すことができない疾患

先天性胆道閉鎖症とは、肝臓と腸をつなぐ胆道(胆管)という管の内腔(ないくう)が炎症のために詰まり、肝臓で作られた胆汁を腸に出すことができない疾患。

新生児期から発症する疾患で、先天的発生異常説、サイトメガロウイルスやレオウイルス3型などによるウイルス感染説、免疫異常説などいろいろの説があるものの、現在のところ、まだ明らかな原因は解明されていません。

母親の胎内で一度作られた胆道が、原因不明の炎症のために詰まるものが多いのではないかとされています。出生9000人から1万人に約1人の頻度で発症し、男の子の約2倍と女の子に多く発症しています。

肝臓で作られた黄色い胆汁は本来ならば、肝臓の外にある肝外胆道(胆管)である胆道、胆嚢(たんのう)、総胆管を通って十二指腸から腸管の中に流れ出ていき、食物中の脂肪の吸収を助けるのですが、先天性胆道閉鎖症では胆汁が腸管に流れなくなります。

胆汁の流れが停滞しても肝臓は胆汁を作り続けるので、行き場のなくなった胆汁成分は肝臓にたまることになります。そして、肝臓から血液の中にあふれ出て、血液中のビリルビン(胆汁色素)が過剰に増えて、皮膚や白目の部分が黄色く見える黄疸(おうだん)を起こします。

また、胆汁が腸管に流れないので便は黄色みが薄くなって灰白色便、ないし淡黄色便、薄緑色便となる一方、胆汁の分解産物が流れる尿は黄色みが濃くなって濃褐色になります。

さらに、肝臓にたまった胆汁は肝臓の組織を破壊し、進行すると肝臓は線維化して硬くなり、胆汁性肝硬変といわれる状態に至ります。

肝臓は本来ならば、再生能力の非常に高い臓器なのですが、いったん肝硬変になると線維化の産物である結合組織に再生を遮られるため、元の健康な肝臓に戻ることが困難になります。肝硬変へ進むと門脈圧高進症が起こり、これに伴って食道静脈瘤(りゅう)、胃静脈瘤、脾腫(ひしゅ)、腹水など、二次的な症状が現れます。腹水がたまると横隔膜を圧迫したり、肺内の血行障害が起こって呼吸障害が生じることもあります。

胆汁の排出障害が強いと食物中の脂肪吸収が障害され、脂溶性ビタミンの吸収も悪くなってビタミンK欠乏症を起こすほか、肝機能障害から血液凝固因子が作れなくなり、出血傾向が強くなって消化管出血や脳出血などを起こすこともあります。

新生児の黄疸と灰白色便が長引く場合は、すぐに小児科を受診することが勧められます。先天性胆道閉鎖症は、出生後8週間以内に手術することが大切で、8週間を過ぎると肝臓の線維化が進み、手術後の胆汁排出効果が悪くなります。

先天性胆道閉鎖症の検査と診断と治療

小児科、消化器外科の医師による診断では、血液検査、尿検査、便検査、十二指腸液検査、肝胆道シンチグラム、腹部超音波検査などを必要に応じて組み合わせて行います。

十二指腸液検査は、十二指腸にチューブを入れて十二指腸内の液を採取し、胆汁の有無を調べるものです、肝胆道シンチグラムは、胆汁中に排出される放射性活性物質を用いて、胆汁の流出状況を調べるものです。

小児科、消化器外科の医師による治療では、まずは肝臓で作られた胆汁が腸管に流れるようにするため、肝臓からの胆汁の出口付近と腸管を縫い合せる手術を行います。肝臓の線維化が進まないうちであれば、手術を行うことで約7割から8割で黄疸が消え、改善が認められます。

手術後は、胆汁の流出をよくする利胆剤、細菌感染を予防する抗生剤などを服用します。退院後も、利胆剤に加えてビタミン剤を服用します。

手術後も胆汁排出が認められない場合、黄疸が消失しない場合、手術後に黄疸が再発した場合、胆管炎や門脈圧高進症などを合併した場合には、最終的に肝移植を行います。

🇨🇴先天性銅代謝異常症

脳、肝臓、腎臓、目に銅が沈着してくる遺伝性疾患

先天性銅代謝異常症とは、体内に銅が沈着することにより、脳、肝臓、腎(じん)臓、目などが侵される疾患。ウイルソン病、進行性レンズ核変性症、肝レンズ核変性症とも呼ばれます。

常染色体劣性遺伝に基づく遺伝性代謝疾患であり、その発症の原因は、日常の食事で摂取された銅が肝臓から胆汁中へと、正常に排出されないことによります。

銅は微量元素の一つで、必須栄養素であり、過剰に摂取した場合、急性や慢性の銅中毒になります。その慢性銅中毒に、先天性銅代謝異常症はよく似ています。

食物中の銅は、十二指腸や小腸上部で吸収されて、肝臓に運ばれます。肝臓において、銅はセルロプラスミンと結合して銅結合蛋白(たんぱく)質となり、血液中に流れてゆきます。また、脳や骨髄など全身の諸臓器に必要量が分布し、過剰な銅は肝臓から胆汁中、腸管中に排出され、平衡を保っているのです。

しかし、先天性銅代謝異常症においては、この肝臓での銅代謝が障害されています。肝臓中に取り込まれた銅がセルロプラスミンと結合できないために、胆汁中へ銅が排出されず、肝臓にたまっていきます。そして、肝臓からあふれて血液中へ流れ出た銅が、脳、腎臓、目の角膜などへ蓄積します。

近年、13番染色体上のATP7B遺伝子異常が、先天性銅代謝異常症の原因遺伝子として特定されました。ATP7Bは、肝臓に特異的に発現するATP依存性メタルトランスポーターで、この異常によってセルロプラスミンへの銅の取り込みが損なわれます。

先天性銅代謝異常症の発症率は、3~4万人に1人と見なされ、日本全国で1500人の患者がいるといわれています。発症率は、欧米諸国より高くなっています。年齢的には、3~15歳の小児期を中心に発症し、30~40歳で発症することもあります。

肝臓の症状は、疲れやすかったり、白目や皮膚が黄色くなったりして気付かれます。多くの場合は無症状で、血中GOT、GPTなど肝機能の異常を指摘され、発見されます。しかし、原因不明の急性肝炎とか慢性肝炎などと診断されることもあり、急激な肝不全状態となって、黄疸(おうだん)や意識障害などを生じ、急に死亡してしまうこともあります。肝障害は徐々に進行し、思春期過ぎには肝硬変になる場合が多くみられます。

脳の症状の多くは、思春期ごろから現れます。初期においては、言葉が不明瞭(めいりょう)になり、何かをしようとすると手指が震えたりして、字を書くことや細かい作業が下手になります。

さらに進行すると、表情が硬くなり、次第に歩くことができなくなり、ついには寝たきりになってしまいます。記憶力や計算力も鈍り、精神状態も不安定、無気力、うつ状態、統合失調症(精神分裂病)様の反応を示すようになります。

目の症状としては、黒目の周りに銅が沈着し、青緑色や黒緑褐色に見える角膜輪(カイザー・フライシャー輪)が現れます。この角膜輪が肉眼的にはっきり見えるのは、思春期過ぎです。

これらの多彩な症状は、すべての罹病(りびょう)者に出るのではなく、無症状期の発症前型、10歳以下の小児期に多い肝型、10歳以降に多くて年齢とともに増加する神経型、 神経型と同様の傾向を示す肝神経型に分かれます。治療しなければ進行し、ついには、死亡したり、荒廃したりします。

先天性銅代謝異常症の検査と診断と治療

先天性銅代謝異常症は、遺伝性代謝疾患のうちでは数少ない、治療可能あるいは発症予防可能な疾患です。遺伝性代謝疾患は、いわゆる難病とされ、治療が不可能なものが多いのです。幸い、常染色体劣性遺伝性の疾患である先天性銅代謝異常症は治療ができ、早期発見により発症を予防することもできるのです。

早期発見ためには、同じ疾患を持つ血族の有無も重要になります。兄弟姉妹を検査すると、25パーセントの確率で先天性銅代謝異常症であったりします。しかし、約30パーセントは突然変異で先天性銅代謝異常症が発症するため、家族や血族発生のないこともあります。

家族内検索により発見された小児の場合、発症前型に分類され、治療することにより日常生活や学校生活、就職などすべての面に渡って、正常者と同じ生活を維持することができます。

小児科、あるいは内科の医師による先天性銅代謝異常症の診断は、問診や臨床症状から銅代謝異常の可能性を疑い、血清総銅量やセルロプラスミン濃度の低下、尿中排出量の増加、眼の角膜輪(カイザー・フライシャー輪)の証明などにより、銅代謝異常のあることを診断します。

さらに、肝生検による組織診断、肝生検組織の銅染色、肝生検組織中の銅含有量の測定、胆汁中の銅濃度量の測定などにより、診断が確定します。

小児科、内科の医師による治療法としては、銅を多く含む食事の制限を行う食事療法と、Dーペニシラミン(メタルカプターゼ)や塩酸トリエンチン、メタライトといった銅排出促進藥(キレート薬)を服用する薬物療法が基本となります。

食事療法としては、生涯に渡って銅含有量の多い食物の摂取を制限して、1日1・5ミリグラム以下の低銅食を指導します。銅含有量の多い食物として挙げられるのは、貝類、レバー、チョコレート、キノコ類など。

薬物療法としては、体内にたまった銅の除去、銅毒性の減少を目指して、銅排出促進薬による治療が、発症予防を含めて第一選択になります。この薬剤には副作用がありますし、生涯に渡って服用しなければなりません。

また、肝障害や神経障害に対する対症療法も必要に応じて行われます。

🇸🇦膵臓がん

胃の後ろに位置する膵臓に発生する、予後不良のがん

膵臓(すいぞう)がんとは、胃の後ろに位置する消化腺(せん)である膵臓に発生するがん。

膵臓は十二指腸とくっついていて、横に細長くなって脾臓(ひぞう)に接する臓器で、直径15センチ、重さ100グラムほどとサイズこそ小さいものの、外分泌と内分泌という2つのホルモン分泌を行う機能があります。

外分泌機能は、消化液である膵液を分泌して十二指腸へ送り込み、食物の消化、吸収を助けるもの。膵液には、炭水化物を分解するアミラーゼ、蛋白(たんぱく)質を分解するトリプシン、脂肪を分解するリパーゼといった消化酵素が含まれています。

一方、インシュリン(インスリン)やグルカゴンなどのホルモンを分泌して、血糖値を調節するのが内分泌機能です。インシュリンは血糖値を下げ、グルカゴンは血糖値を高くします。

この膵臓を便宜上、ちょうど3等分して、十二指腸側に接する右側を頭部、中央を体部、脾臓に接する左側を尾部と呼びます。膵臓がんの3分の2以上は、膵頭部に発生します。

また、膵臓がんの90パーセント以上は、十二指腸への膵液の通り道である膵管から発生します。まれには、ホルモンを作るランゲルハンス島(膵島)から発生します。

この膵臓がんは、消化器がんの中で最も予後不良のがんで、近年増加傾向にあります。日本のがんにおける死因としては、平成14年の段階で男性では第5位、女性では第6位。50歳以上の男性に多い傾向にあり、60歳代にピークがあります。

予後不良の原因としては、後腹膜にある臓器であるために早期発見が困難であり、また極めて悪性度が高く、例えば2センチ以下の小さながんであっても、すぐに周囲の血管、胆管、神経への浸潤や、近くのリンパ節への転移、肝臓などへの遠隔転移を伴うことが多いからです。

原因は明らかではありませんが、喫煙、慢性膵炎、糖尿病との関係が報告されています。

食欲不振、体重減少、上腹部痛、腰痛、背部痛などの症状以外に、膵頭部がんでは、目や皮膚が黄色くなる閉塞(へいそく)性黄疸(おうだん)、無胆汁性の灰白色便が特徴のある症状です。

肝臓で作られた胆汁は、胆管を通って十二指腸へ排出されますが、胆管は膵頭部の中を走行するため、膵頭部にがんができると胆管を圧迫したり閉塞したりして、胆汁の通過障害を起こし、閉塞性黄疸が現れます。そこに細菌が感染すると発熱があります。

また、膵管も胆管と同様に閉塞して二次性膵炎を起こし、耐糖能異常すなわち糖尿病の悪化がみられることがあります。さらに進行すると、胃や十二指腸、小腸に浸潤すると、そこから出血して血を吐く吐血、便に血が混じる下血が起こります。胃の出口や、十二指腸が狭くなると食物の通過障害が生じることもあり、食べた物を戻したりします。

一方、膵体部や膵尾部に発生したがんは症状があまり現れず、腹痛が現れるまでにはかなり進行していることが少なくありません。

膵臓がんの検査と診断と治療

早期発見が何よりも大切なので、40歳以上で胃腸や胆道の病変がなく、上腹部のもたれや痛みがある人、体重が減少して腰痛、背部痛のある人、中年以後に糖尿病が現れた人や、糖尿病のコントロールが難しくなった人は、できるだけ早期にスクリーニング(振るい分け)検査を受けます。

従来の血液検査、超音波検査による検診では、有効なスクリーニング検査がなかったため膵蔵がんの検診は不可能でしたが、最新鋭のMDCTと呼ばれるCTを用いて検査をすれば、切除できるくらいの膵蔵がんの診断が可能になっています。

医師による血液検査では、閉塞性黄疸に伴う肝機能異常や、アミラーゼ値の異常、血糖異常が認められることが多くあります。腫瘍マーカーとしては、CA19—9、DUPAN2、SPAN1、CEAなどが高値を示します。しかし、がんがある程度のサイズになるまでは産生量が少ないため、それほど高値にはならず、いずれも早期診断にはあまり役立ちません。

スクリーニング検査としては、腹部超音波(エコー)、CT、内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)、内視鏡的超音波(EUS)、磁気共鳴画像(MRI、MRCP)、ポジトロン放射断層撮影(PET)などがあります。特に、閉塞性黄疸がある場合は、黄疸を減らす治療のために経皮経肝胆管ドレナージ(PTBD)、内視鏡的逆行性胆管ドレナージ(ERBD)をすることにより、診断も可能です。

区別すべき疾患としては、粘液産生膵腫瘍や、肝炎、胆石症、胆管炎、胆管腫瘍、十二指腸乳頭部がん、腫瘤(しゅりゅう)形成性慢性膵炎など黄疸の出現する疾患が挙げられます。

膵臓がんは難治性がんの代表で早期診断が難しく、外科的切除術以外は有効な治療法が確立されていません。膵頭部のがんは、膵頭十二指腸切除術が行われ、膵臓の半分、胃の半分、十二指腸の3分の2、胆嚢(たんのう)、胆管を切除します。膵体部、膵尾部のがんは、膵臓の半分を切除する膵体尾部切除術と脾臓摘出術が行われます。

発見された時に切除可能なのは40パーセント前後で、切除できても再発することが多く5年生存率は数パーセント程度です。

黄疸の治療には、肝臓から胆管にチューブを通して胆汁を体の外に逃がす必要があります。あるいは、内視鏡的に狭くなった胆管にチューブを留置します。十二指腸が狭くなって食べ物が通らなくなった時には、バイパス手術を行うか、内視鏡を用いて金属のチューブを狭くなった部位に入れて拡張します。

がんの切除が不能な場合、放射線療法と抗がん剤による化学療法が行われます。放射線療法はがんを小さくして痛みをとる効果がありますが、完全に治ることはありません。肝臓や腹膜への転移がなければ、放射線と抗がん剤との併用療法が効果的なことがあります。

2001年よりジェムザールという新しい抗がん剤が使用できるようになり、1年以上生存する発症者も増えてきています。肝臓に転移があれば、肝臓に直接抗がん剤を注入することもあります。

放射線療法や抗がん剤による化学療法では、副作用に注意しなければなりません。骨髄機能が抑制され、白血球や赤血球、血小板が減少したり、肝機能が悪化したり、下痢、発熱、食欲不振、吐き気などがよくみられる副作用で、治療の前には必ず血液検査や問診で副作用を確認する必要があります。

2022/08/13

🇭🇺劇症肝炎

急性肝不全症状を呈する疾患

劇症肝炎とは、急性肝炎の経過中、8週間以内に、精神神経症状である肝性脳症を始めとして、黄疸(おうだん)、出血傾向などの急性肝不全症状が出現する疾患です。

急性肝炎の発病10日以内に肝性脳症が出現する急性型と、11日以後に出現する亜急性型とがあり、経過は急性型のほうが良好です。その肝性脳症は、肝臓の機能の低下に伴う老廃物の蓄積により出現します。

劇症肝炎は死亡率が高く、運よく回復しても肝硬変になることが多く、非常に恐ろしい疾患。肝細胞は増殖する能力に富んでいるために、ほとんどの急性肝炎では肝細胞が壊されても自然に元の状態に戻りますが、劇症肝炎では破壊が広く及ぶために肝細胞の増殖が遅れ、適切な治療が行われないと高頻度に死に至るのです。

日本では、推定で年間約1000人、急性肝炎の発病者の1~2パーセントが劇症化すると見なされています。新生児から高齢者までのあらゆる年齢層で、男女を問わず発症します。

主な原因は肝炎ウイルスの感染で、薬物アレルギーと自己免疫性肝炎によるものもみられます。近年、もともと肝臓病以外の病気のために薬物治療を受けていた人が劇症肝炎になるケースが、増える傾向にあります。

日本では、B型肝炎ウイルスの感染によることが最も多く、全体の約40パーセントを占めています。これには、B型肝炎ウイルスの保菌者が発症する場合と、他の保菌者から感染して発症する場合とがあります。

A型肝炎ウイルスの感染によることもありますが、その発生頻度はA型肝炎ウイルス感染が流行する年によって異なります。C型肝炎ウイルス感染も頻度はわずかながら、劇症肝炎になる場合があります。E型肝炎の劇症化率は1~2パーセントですが、妊婦が発症すると、死亡率は10~20パーセントにも達すると報告されています。

B型肝炎ウイルス感染に次いで多いのは、原因が確定できないもので、全体の約30パーセントを占めています。薬物アレルギーや自己免疫性肝炎が原因と確定されるものは、いずれも10パーセント以下を占めるにすぎません。

肝性昏睡が劇症肝炎の特徴的な症状

黄疸が出てから1週間以上たっても強い倦怠(けんたい)感、食欲不振、吐き気、頑固な頭痛、不眠などの症状がある場合には、劇症化の恐れがあります。発熱、筋肉痛、関節痛、腰痛などの全身症状や、肝性口臭と呼ばれる甘酸っぱい口臭のあるものは、注意が必要です。

黄疸が次第に強くなり、やがて精神異常が現れ、昏睡(こんすい)に陥りますが、この状態を肝性昏睡といいます。

肝性昏睡はかなり特徴的な症状で、劇症肝炎の重篤度の指標となります。初めは睡眠のリズムが逆転し、夜は眠れなくて、昼間に眠たがります。また、性格が変わったように投げやりになる、抑うつ状態になるなどの症状があります。

この時期には、肝性昏睡と判定できないことが多いのですが、次第に日付や場所を間違う、簡単な計算ができない、金銭をばらまく、大事なものを捨てるなどの異常な行動を示します。

間もなく、羽ばたき振戦(しんせん)と呼ばれる、鳥の羽ばたきに似た手の粗大な震えが現れ、外界の刺激に応じられなくなり、眠ったような嗜眠(しみん)状態となり、ついには意識が完全に消失します。

そのほか、細菌の感染や腎(じん)臓、肺、心臓、消化管などの異常、血液凝固の異常など、全身の臓器に高頻度に障害が次第に起こるため、発熱、呼吸困難、むくみ、下血、口腔(こうくう)内や注射針で刺した部位からの出血など、いろいろな症状が次々と現れることになります。

人工肝補助療法や肝移植による治療

劇症肝炎は致命率が極めて高いので、発現が疑われたら、できる限り早期に適切な処置をすることが必要となります。

治療においては、B型肝炎ウイルスの感染が原因の場合は、ラミブジンやインターフェロンと呼ばれる抗ウイルス療法が最も有効です。また、薬物アレルギーや自己免疫性肝炎が原因の場合は、副腎皮質ステロイドを大量に点滴するパルス療法が実施されます。これらの治療を肝性脳症が現れる前から行うことにより、劇症肝炎への進行を抑えることができることもあります。

劇症肝炎となった場合には、原因のいかんにかかわらず、肝臓の働きを補うための人工肝補助療法が行われて、血液凝固因子など体に必要な物質を補充し、アンモニアなど体内にたまった中毒性物質を取り除きます。

この人工肝補助療法には、血液から血球以外の成分である血漿(けっしょう)を取り除き、これを健康な人の血漿と交換する血漿交換と、腎臓が悪い人で行われている血液透析を応用した血液濾過(ろか)透析があります。通常は両方が併用されます。

また、全身の臓器障害に対しても、適時に治療が行われて、肝臓の機能が低下している期間を乗り切れると、肝臓が再生してくるので救命されることが可能です。通常は、すべてに後遺症を残すことなく治癒します。

各種の治療によっても肝臓の機能が回復しない場合は、肝移植が行われることになります。脳死者からの肝臓を移植する場合と、近親者の肝臓の一部分を移植する場合がありますが、日本では後者の生体部分肝移植が広く行われています。従来、生体部分肝移植は主に小児を対象に行われていましたが、近年は成人でも積極的に行われるようになりました。

肝移植により救命された後は、移植された肝臓が他人のものであるので、体から拒絶反応によって排除されないように、免疫抑制薬を一生涯服用する必要があります。

🇪🇸キス病

主にEBウイルスの経口感染で起こり、15~30歳くらいに多くみられる疾患

キス病とは、主にEB(エプスタイン・バー)ウイルスの経口感染で起こり、15~30歳くらいの青年期に多くみられる良性の疾患。伝染性単核球症、EBウイルス感染症とも呼ばれています。

ヘルペスウイルスの仲間であるEBウイルスはBリンパ球に感染しますが、感染Bリンパ球を排除するためにTリンパ球が増加します。サイトメガロウイルス、トキソプラズマ、またHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染した場合でも、同様の症状がみられることがあります。

EBウイルスに感染する時期によって、症状の現れ方が異なります。日本人の70パーセントは2〜3歳までに初感染しますが、乳幼児期では病原菌に感染しても症状が現れない不顕性感染が多く、症状が現れても軽度です。

思春期以降に感染すると、約50パーセントが発症します。ただし、感染してもほとんどが4~6週間で、症状は自然になくなるといわれています。20歳代では90パーセント以上が抗体を持っているといわれていますが、成人になってから初感染した場合、症状が重くなります。6カ月以上症状が続く場合は、重症化している可能性があります。

EBウイルスは一度感染すると、その後は潜伏感染状態となり、終生に渡って共存します。そのため、急性感染症以外にもいろいろな疾患を引き起こすことがわかってきました。再感染はしないものの、免疫力が低下した場合に発症することもあります。

キスや飲み物の回し飲みなどによる、既感染者の唾液を介した経口感染が、主要な感染経路です。まれに、輸血により伝播(でんぱ)されます。感染してから発症するまでの潜伏期間は、4~6週間といわれています。

主な症状は、発熱、頸部(けいぶ)リンパ節の腫脹(しゅちょう)、咽頭(いんとう)痛。 まず、頭痛、熱感、悪寒、発汗、食欲不振、倦怠(けんたい)感などの前駆症状が数日間続き、その後38℃以上の高熱が1~2週間続きます。発熱のないこともありますが、通常は発症から4~8日が最も高熱で、以後徐々に下がってきます。

頸部リンパ節の腫脹は、発症2週目ころから現れ、時に全身性のリンパ節腫脹もみられます。上咽頭のリンパ節腫大による鼻閉も、よく起こります。口蓋扁桃(こうがいへんとう)は発赤、腫脹し、口蓋に出血性の粘膜疹(しん)が出て咽頭痛が生じます。発疹は、抗生物質、特にペニシリン系を投与された後に現れることがしばしばあります。

肝臓や脾臓(ひぞう)が腫大することもあり、急激な腫脹のためにまれに脾臓の破裂を招くことがあります。

発熱が1週間続く場合は、内科あるいは耳鼻咽喉(いんこう)科の医師を受診し、精密検査を受けることが勧められます。症状が進行して、劇症肝炎や血球貪食(どんしょく)症候群などを併発すれば、生命の危険があります。リンパ節腫大が長引き、悪性リンパ腫と誤診されることがあるので、要注意です。 ほとんどの大人は既感染者なので、他人への伝播を気にする必要はありません。

キス病の検査と診断と治療

内科、耳鼻咽喉科の医師による診断では、血液検査を行い、白血球の増加、特に末梢(まっしょう)血中の単核球(リンパ球)の増加と、正常なリンパ球と異なった形の異型リンパ球の出現がみられることを確認します。ほとんどのケースで肝機能異常を認め、EBウイルス血清中抗体価が陽性となることなどで、総合判断します。

このキス病に特異的にみられるポール・バンネル反応を調べる血清試験があり、これが陽性ならば診断が決められます。しかし、日本人では検査が陽性にならないものが多く、頼りになりません。

ほかのウイルス感染や悪性リンパ腫、リンパ性白血病などとの区別が、必要になります。

内科、耳鼻咽喉科の医師による治療では、抗EBウイルス薬はないため、安静と対症療法が中心です。咽頭痛がひどい場合は、アセトアミノフェンなどの消炎鎮痛薬を用います。血小板減少や肝機能障害の程度が強く、症状が長引く場合は、ステロイドホルモン剤を用いることもあります。肝機能障害には、肝庇護(ひご)剤を用いることもあります。 発疹が現れることがあるため、抗生物質、特にペニシリン系抗生物質の投与は避けます。

安静にしていれば経過は比較的良好で、1〜2週間で解熱し、リンパ節のはれも数週から数カ月で自然に消えます。

重症の場合は、血漿(けっしょう)交換療法や抗がん剤が用いられます。アシクロビル(ゾビラックス)などの抗ウイルス薬の有効性は、証明されていません。

異型リンパ球は、少数ながら数カ月残存しているケースもあります。肝臓や脾臓のはれも1カ月ほどで回復しますが、まれに脾臓破裂を起こすことがあるので、治った後も2カ月ほどは腹に圧力や衝撃がかかる運動などは避けるようにします。

また、疾患が治ったと思っても、数週間たってから肝機能障害などが悪化することがあるので、リンパ節のはれがなくなっても数週間は経過に注意し、医師の指示を受けることが大切です。

2022/08/12

🇬🇧急性肝炎

原因はほとんどが肝炎ウイルス

急性肝炎とは、肝臓が炎症を起こす肝炎が発病して、6カ月以内のものを指します。普通の経過を取る定型的な急性肝炎と、非定型的な急性肝炎の2つに分けられます。

定型的な急性肝炎の原因は、ほとんどが肝炎ウイルス。原因ウイルスにより、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、D型肝炎、E型肝炎があります。日本ではD型肝炎、E型肝炎の発症はまれですが、E型肝炎については最近、増加傾向にあるため留意が必要です。

肝炎ウイルス以外を原因とする急性肝炎では、薬物によるものや健康食品による肝障害、肝炎ウイルス以外のEBウイルス、サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルスなどの感染が原因となります。これらの原因によるものを急性肝炎に含めず、それぞれの疾患の範囲に入れることもあります。

日本では、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎の発症が多くみられ、肝臓の病気のうち、比較的頻度の高いものになっています。感染して発病する3つの肝炎ウイルスが、肝臓に取り込まれやすい性質を持っているためです。

感染経路は、A型肝炎やE型肝炎のように、ウイルスに汚染された水や食べ物から経口感染するものと、B型肝炎やC型肝炎のように、既感染者の血液や分泌物を介して非経口的に感染するものがあります。

急性肝炎各型の占める比率は、A型肝炎の発症例が年度により大きく異なるために著しく変動します。日本国内の国立病院、療養所専用情報ネットワークを利用した肝疾患共同研究のデータによれば、急性肝炎各型の比率は、A型肝炎約30パーセント、B型肝炎約35パーセント、C型肝炎約13パーセント、それ以外の肝炎(非A非B非C型肝炎)約22パーセントとなっています。

全身の倦怠感、高熱、黄疸が症状

A型肝炎は、A型肝炎ウイルス(HAV)が原因のウイルス性肝炎の一種。慢性化することはありません。日本では、だいたい60歳以下の戦後生まれの世代で、A型肝炎に対する抗体を持っていない人が多く、これらの人々がA型肝炎の流行地へ旅行することで感染するパターンが主。

A型肝炎ウイルスに汚染された水や野菜、魚介類などを生で食べることにより感染します。食物を介さずに、糞便(ふんべん)に汚染された器具、手指などを経て人から人へ感染することもあります。

感染力が強く、集団発生することがあります。また、患者の発生報告には季節性があり、例年春先になると感染者数が増加しますが、その理由は明らかではありません。

感染してから2~6週間の潜伏期間を経て発病し、症状の特徴は発症が急激であり、全身倦怠(けんたい)感など風邪と似た症状と、食欲不振などの消化器症状で始まり、高熱、寒気、さらに頭痛、吐き気、嘔吐(おうと)、下痢、腹痛、皮膚の発疹(ほっしん)が続くこともあります。腹痛については、肝臓が急にはれるため、上腹部に鈍痛があり、その部分を押すと痛みを感じます。

やがて、尿の色は褐色調が強くなり、黄疸(おうだん)がみられる時期にはさらにその濃さが増します。黄疸の程度は、発病後1~2週間たつと強くなりますが、自覚症状はむしろ軽快してきます。食欲も出てきますが、肝臓の病変はまだ最盛期ですので、絶対安静が必要です。

普通は1カ月以内に症状はなくなります。軽いものは数日で消失し、経過もよいようです。

A型肝炎の流行地へ旅行する際には、あらかじめ医療機関でA型肝炎ワクチンの接種を行うことで、予防することができます。

B型肝炎は、B型肝炎ウイルス(HBV)が原因のウイルス性肝炎の一種。1~2パーセントが慢性化します。血液や体液を介して感染しますが、経路は性交渉、輸血、医療事故、負傷、母子感染などによるものです。

潜伏期間は、1~6カ月と幅があります。症状はA型ほど急激でなく、強くありませんが、A型と同様の倦怠感、消化器症状、黄疸が出現します。

C型肝炎は、C型肝炎ウイルス(HCV)が原因のウイルス性肝炎の一種。かつては非A非B型肝炎と呼ばれていましたが、1989年にアメリカのカイロン社が開発したHCV抗体の検出法により、診断が可能となりました。

主な感染経路は輸血を始めとする医療行為でしたが、献血時の抗体スクリーニングが徹底して、輸血後肝炎としてのC型肝炎は激減。しかし、患者の半数には輸血歴がなく、母子感染や性行為などの経路も想定されます。

一般に発症が緩やかで、症状が軽いのが特徴ですが、慢性肝炎に移行する可能性があります。慢性化すると、かなり高い確率で肝硬変や肝がんになりますので、持続的に感染している場合は、定期的な検査が必要です。薬物常用者、医療従事者などハイリスク群では、特に留意が求められます。

慢性肝炎に移行した場合には、ウイルスを体外へ排除して治癒を図るインターフェロン療法が期待されます。

D型肝炎ウイルスは、B型肝炎ウイルス感染者にのみ感染するという変わった感染因子で、B型肝炎ウイルスの助けを借りて、初めて感染が起こるという不完全なウイルスです。

しかし、いったんかかると重症な肝炎になる危険がありますので、要注意です。血液や体液を介して感染し、地中海沿岸で発生しています。日本では、この型の肝炎は極めてまれとされています。

E型肝炎は、E型肝炎ウイルス(HEV)に汚染された水や食べ物から経口感染し、吐き気、食欲不振などの症状が出るウイルス性肝炎の一種。通常、一過性で慢性化しませんが、まれに激症化して死亡することがあり、妊娠末期に感染すると重症化する頻度が高くなります。

約100年前にイギリスから輸入された豚と一緒に、日本国内に入ってきた可能性があるという研究結果がありますが、従来、開発途上国を旅行した人が水などから感染するケースが多い、とされてきました。

2002年以降は、国内での感染が疑われるケースが急増し、02~04年が20件前後、06年は44件という報告があります。その背景には、高度なE型肝炎ウイルス遺伝子の検出法が広まったことがある、と見なされています。鹿(しか)肉や豚レバー、猪(いのしし)肉による感染例、輸血で感染した例も報告されています。

野性の猪の5~10パーセントがE型肝炎ウイルスを保有している可能性があるとされますので、野性動物の肉の生食は避け、しっかり火を通すことと、生肉に触れた、まな板、はしは熱湯消毒することが、感染の防止に必要とされます。

十分な安静を取るのが治療法の基本

急性肝炎の診断は、血液をとって成分を調べる血液検査、超音波やCTを使って調べる画像診断、肝臓の細胞を採取して調べる肝生検により行われ、病気の進行度や治療効果、副作用発現の可能性などが評価されます。

急性肝炎の治療は、入院して十分な安静を取り、完全に治すことが基本となります。8週間以内に急性肝不全症状が出現する劇症肝炎に進行すると、短時日で死亡することもあるからです。食欲がなく栄養を十分に取れない時には、ブドウ糖を中心とした点滴により栄養を補い、体力の維持に努めます。

急性肝炎はほとんどの場合、数カ月で症状は治まります。しかし、B型肝炎やC型肝炎では炎症が治まらずに慢性化し、薬による治療が必要になる場合もあります。

この場合の薬物療法においては、インターフェロン療法でウイルスを体外へ排除し治癒を目指すか、対症療法として肝庇護(ひご)剤を使用して肝臓の炎症を抑える治療を行うかが選択されます。

🇬🇱急性膵炎

腹痛を伴って急激に起こる炎症

急性膵(すい)炎とは、酒の飲みすぎや胆石などの要因により、膵臓に急激な炎症が起こる疾患。持続的で、激しい上腹部の痛みを伴います。

比較的軽症で膵臓が腫(は)れるだけで容易に回復する浮腫(ふしゅ)性膵炎、膵臓や周囲が壊死を起こす壊死性膵炎など、さまざまな症状があります。重症の場合には、他の臓器にも障害を来す多臓器不全となったり、重篤な感染症を合併して、ショック状態に陥って死に至る場合もあります。軽症の場合は、2~3日で腹痛はやみ、1週間ほどで治ります。

厚生労働省では、原因不明の難病の一種で、難病対策推進の調査研究の対象となる特定疾患に、重症急性膵炎を指定しています。

発症頻度は男性が女性の2倍で、男性では30~60歳代に多くみられ、女性では50~70歳代に発症しやすい傾向がみられます。

膵臓は胃の後ろに位置する消化腺(せん)であり、外分泌と内分泌という二つのホルモン分泌を行う機能があります。外分泌機能は、消化液である膵液を分泌して十二指腸へ送り込み、食物の消化、吸収を助けるもの。膵液には、炭水化物を分解するアミラーゼ、蛋白(たんぱく)質を分解するトリプシン、脂肪を分解するリパーゼといった消化酵素が含まれています。

一方、インシュリン(インスリン)やグルカゴンなどのホルモンを分泌して、血糖値を調節するのが内分泌機能です。インシュリンは血糖値を下げ、グルカゴンは血糖値を高くします。

急性膵炎は、膵液中の消化酵素の働きが異常に高まって、自己の膵臓組織を消化してしまうために起こると考えられています。これを自己消化(自家消化)といいますが、ほかの病気にはみられない現象です。

通常、膵液は胆のうから分泌された胆汁と混ざり合って十二指腸に流れ込み、そこで初めて活性化されます。ところが、何らかの原因で膵液の流れが滞ると、膵臓の膵管内に膵液がたまるようになり、そこに十二指腸から逆流してきた胆汁が混ざって、膵臓内で活性化してしまうのです。

急性膵炎を引き起こす主な要因の一つは、胆石です。胆のうから流れ出た胆石が、胆管と膵管の合流地点であるファーター乳頭に詰まると、膵液がうまく流れなくなって、膵臓内にたまります。その結果、膵臓が自己消化を起して急性膵炎を発症します。

酒の飲みすぎも、急性膵炎を招く大きな要因です。アルコールによる急性膵炎の発症メカニズムは、完全には明らかになっていませんが、多量の飲酒の影響で膵臓にむくみが生じ、膵管が狭くなって膵液の流れが滞ると考えられています。一説によると、アルコールの作用によって、膵臓の細胞そのものがダメージを受けるとされます。

このほか、ウイルスの感染や、血液中の中性脂肪が高い高脂血症などが引き金となったり、原因不明で突発的に起こるケースもみられます。内視鏡的膵胆管造影(ERCP)や上腹部の手術後、あるいはステロイド剤など特殊な薬剤によって引き起こされるケース、膵臓の腫瘍(しゅよう)、特に膵がんによって起こるケース、消化酵素の遺伝子異常によって起こるケースなどもまれにあります。

急性膵炎の最も典型的な症状は、上腹部に生じる突然の激しい痛みで、多くのケースでは吐き気や嘔吐(おうと)を伴います。痛みの場所はみぞおちから左上腹部で、背中や腰、腹部全体に痛みが広がることもあります。

胆石などによる腹痛は嘔吐すると和らぐケースが多いのに対し、急性膵炎の痛みは逆に強まりやすいとされています。また、上を向いて寝ると腫大した膵臓が脊椎(せきつい)に圧迫されて痛みが強くなりますが、背中を丸めて横になったり、膝(ひざ)を抱えて前にかがむ姿勢をとると、痛みが軽減する点も特徴です。

何の前触れもなく痛みが起こることもありますが、食事後、特に油分の多い食事をした後や、アルコールを多く飲んだ後に起こることも少なくありません。そのほかの症状としては、食欲不振、全身倦怠(けんたい)感、腹部膨満感、発熱などがあります。

激しい腹痛で発症することがほとんどですが、中にはさほど痛みを覚えない場合もあります。こうしたケースは、痛みに対する感受性が低下している高齢者に多いもの。まれに、かなり重い炎症を起こしているにもかかわらず、全く腹痛が現れないこともあり、急性無痛性膵炎と呼ばれます。

急性膵臓の検査と診断と治療

急性膵炎では、早期発見、早期治療に努めることが大切。重症になると生命にかかわりますので、軽症のうちにできるだけ早く治療を行う必要があります。

医師による診断では、まず血液検査と尿検査が行われます。膵臓に炎症があると、膵液に含まれている消化酵素のアミラーゼやトリプシンなどが、血液や尿の中に流出してきます。従って、血液と尿を採取して調べ、アミラーゼなどの消化酵素の量が増えていれば、ほぼ診断が付きます。

診断を確定するためには、腹部超音波(エコー)検査やCT(コンピューター断層撮影)検査が必要です。特にCT検査は病変の広がり具合、腹部や胸部の変化などを正確に捕らえることができるため、急性膵炎の診断と重症度の判定には欠かせません。

急性膵炎は、病変の進み具合によって、軽症、中等症、重症の三つの段階に分けられます。

軽症では、医師による触診の際に左上腹部を押すと痛みが生じ、また押されておなかが硬くなる筋性防御もあります。病変は膵臓の周囲にとどまっていて、腹部超音波検査を行うと膵臓全体に腫れが認められます。血清アミラーゼと尿中アミラーゼの値も上昇します。

中等症になると、発熱や全身倦怠感が起こり、病変が腹膜組織や腹腔全体に広がります。血液検査の異常値も高くなります。また、血液中に流出した消化酵素のために、さまざまな臓器や組織の壊死が起こることがあり、わき腹や下腹部に皮下出血による出血斑(はん)が現れるケースもみられます。

重症になると、全身に病変が及び、消化管障害や腹膜炎、急性腎(じん)不全、呼吸不全、意識の低下といった重い症状が現れます。検査数値にみられる異常も、顕著になります。胸部X線検査を行うと胸水の貯留がみられ、腹部X線検査を行うと小腸内にガスがたまっているのがわかります。

なお、軽症の死亡率は10パーセント以下であるのに対し、重症では50~70パーセントに上ります。急性膵炎全体の死亡率は、20パーセント前後と推定されています。

急性膵炎の治療には、薬物療法、外科的療法、食事療法などが挙げられます。経過が比較的良好な軽症と、死に至る危険が高くなる重症とでは、治療方法が異なります。

軽症、中等症の場合は、まず絶飲、絶食をして消化酵素の分泌を抑え、膵臓に負担がかからないようにします。その際、炎症のために失われている水分を補い、一定の栄養状態を維持するために、点滴で水分と電解質を十分に補給します。

腹痛や背部痛などに対しては、痛みを取る抗コリン剤や中枢性鎮痛剤が用いられますが、痛みがあまりに激しい場合は、麻薬性鎮痛剤のモルヒネが使用されるケースもあります。

血液中に消化酵素が流出すると、呼吸不全や腎不全といった合併症を引き起こすことがあるので、外分泌を抑える膵臓素阻害剤が使用されます。感染症を防ぐために、抗生物質の投与も行われます。

こうした治療によって、軽症、中等症のほとんどは、1週間前後で軽快します。

しかし、重症の場合は、さまざまな臓器に障害が起こるので、集中治療室での全身管理が必要になります。特に、ショック状態に陥って脈拍が増加し、血圧が下降したケースでは、膵臓酵素の活性を抑える働きのある蛋白分解酵素阻害剤のアプロチニン製剤と並行して、抗炎症剤の副腎皮質ホルモン製剤が大量に投与されます。

このほか、重症の急性膵炎に対して行われる特殊な治療法として、腹膜かんりゅう法が挙げられます。腹膜かんりゅう法は、カテーテルという細い管からおなかの中に腹膜透析液を注入し、腹腔内の有害物質を排除する方法です。

このような治療によって、悪化していた全身状態がかなり回復してくることがあります。

急性膵炎では、こうした内科的治療が基本となりますが、胆石が原因で病状が改善されない場合は、内視鏡を用いた胆管結石の除去や、管を挿入して、たまった液を吸引する胆管ドレナージが必要になることがあります。胆石を取り除くために、開腹して胆管を切除したり、胆のうを摘出する手術が必要になることもあります。

また、中等症や重症で、内科的治療を試みても病状が改善しない場合のほか、膵のう胞や膵腫がんといった合併症が起こっている時も、膵臓の切除手術などの適応となる場合があります。

膵臓の安静を図り、症状を改善するためには、食事療法も重要な治療の一つです。病状に応じて、適切な食品と摂取量を選択して、栄養状態を良好に保ち、禁酒を原則とします。

脂肪は膵臓への刺激が最も大きく、膵液の分泌量や濃度が増すことがわかっています。病状が落ち着いても、脂肪を多く含んだ食品を食べると痛みが再発することがあるので、完全に治癒するまでは1日の脂肪摂取量を20~30グラム以下に抑えます。

蛋白質の多い食品は膵液の分泌を高めるため、症状が著しい時は摂取量を厳重に制限します。回復するに従って、白身魚や豆腐といった良質の蛋白質食品から摂取を開始し、膵臓の機能回復を図ります。

糖質は、脂肪や蛋白質と違って膵液分泌の刺激とはなりません。また、膵臓から分泌される消化酵素が減少しても、十分に消化、吸収されるので、おかゆやうどんなどで栄養を補給するとよいでしょう。ただし、症状が激しい時期は、1回に摂取する量を少なめにします。

コーヒーなどのカフェイン飲料、炭酸飲料、香辛料は、食欲を増進させる半面、膵液の分泌を促進させるので、量に注意して摂取します。また、味付けを濃くすると膵液の分泌が高まるので、薄味を心掛けましょう。

脂肪を控えると脂溶性ビタミンが不足しがちになるので、必要に応じてビタミンA、D、E、Kを含んだ総合ビタミン剤を服用します。

このような薬物療法、食事療法で早期に適切な治療が行われれば、膵臓にほとんどダメージを残さずに、軽症、中等症の急性膵炎のほとんどは完治します。しかし、大量飲酒を続けたり、胆石を放置するなど、急性膵炎を発症した原因をそのままにしておくと、再発することがあります。再び腹痛が起こった時は、早めに受診しましょう。

また、急性膵炎を繰り返していると膵臓の壊死を招き、やがては慢性膵炎に移行します。暴飲暴食を避け、禁酒をして、再発を防ぐように、自己管理を心掛けることが大切です。

🇸🇪急性腹膜炎

原因となる病気があって、炎症や穿孔を起こす

急性腹膜炎とは、腹腔(ふくくう)内を覆う薄い膜である腹膜に、急性の炎症が起こる疾患をいいます。

胃、小腸、大腸、肝臓、脾(ひ)臓などの臓器がある腹腔内を覆って、腹壁との間にある腹膜は、その表面は滑らかで、数ミリリットルの液で潤されていて、臓器の動きをよくしています。腹膜は吸収作用が旺盛(おうせい)で、水分、電解質を吸収する反面、毒素などの有害物質もよく吸収します。

急性腹膜炎の多くは、さまざまな消化管疾患の合併症として起こります。その原因には、細菌感染と物理的、化学的刺激が挙げられます。

細菌感染とは、腹腔内の臓器の炎症が腹膜へ波及することによって生じるものであり、一般には急性虫垂炎が最も頻度が高く、急性胆嚢(たんのう)炎、急性膵(すい)炎などによってもみられます。

物理的、化学的刺激とは、外傷を始め、消化管疾患や腸間膜の虚血による消化管穿孔(せんこう)が原因となって起こるもので、胃液、胆汁などの腹膜への漏出が急性の炎症を引き起こします。

外傷には打撲、交通外傷があり、消化管疾患では胃潰瘍(かいよう)、十二指腸潰瘍や、胃がんなどの悪性腫瘍(しゅよう)に続発します。急性胆嚢炎に胆嚢穿孔が加わった場合や重症の急性膵炎では、胆汁、膵液の細菌感染と化学的刺激が重なり、重症の状態になることが多くみられます。そのほか、急性虫垂炎の穿孔、腸閉塞(へいそく)、女性生殖器の病気などでも起こります。

汎発性腹膜炎と限局性腹膜炎

急性腹膜炎の症状として、腹痛は必ずみられます。原因となる病気の前兆として、腹部不快、軽い腹痛を示すことがまれにありますが、通常は急激な腹痛が突発的に起こります。痛みは持続し、初めは限られた部位だけですが、次第に腹部全体に及びます。

そのほかの症状として、悪心、吐き気、嘔吐(おうと)、発熱、頻脈がみられます。

また、消化管の穿孔(せんこう)により内容物が腹腔内に広がると、腹膜全体に炎症が広がって激烈な腹痛が現れ、ショック状態に陥ることがあります。これを急性汎発(はんぱつ)性腹膜炎といいます。一方、盲腸周囲、横隔膜下、膀胱(ぼうこう)ないし子宮と直腸の間のダグラス窩(か)など腹膜の一部に、膿瘍(のうよう)を形成するものを急性限局性腹膜炎といいます。

いずれの場合も、できるだけ早期に受診して適切な治療を受けないと、重症になります。特に、急性汎発性腹膜炎では、生命に関わる重症の状態に陥る可能性があり、緊急な医学的処置が必要です。

多くの場合、激しい腹痛は持続性で、食欲不振、吐き気、嘔吐があり、のどの渇きと熱感を感じ、間欠的な震えを生じます。体温は38~40℃近くに上昇し、若く健康であった人ほど高熱となり、高齢者や衰弱した人では発熱はわずかなことがあります。

顔は苦痛のためにゆがんで、苦悶(くもん)状となり、目は落ちくぼみ、皮膚は乾燥して、いわゆる腹膜炎顔貌(がんぼう)を呈します。呼吸も浅く速くなります。腹部は腹筋を緊張させて、安静を保とうとするため、平坦となり、板のように硬くなります。さらに病勢が進むと、循環血液量の減少、細菌毒素のためのショック状態に陥り、死亡の危険度は高まります。

急性汎発性腹膜炎を薬で治すことはまず不可能で、緊急手術を行うことになりますので、夜間であろうと、手術のできる病院へできる限り早く行くことが大切です。

病院での診断と検査と治療

医師の腹部所見により、まず、押すと痛む圧痛、筋性防御、ブルンベルグ徴候、腸雑音の有無を調べます。

圧痛は、部位が限られているため、鑑別診断に有用です。圧痛が腹部全体に及ぶ急性汎発性腹膜炎の時も、原因となる疾患の部位の圧痛が特に強くみられます。

筋性防御は、腹壁側の腹膜の炎症を示す所見として、診断に有用です。初期では、軽い触診で腹壁の筋肉の緊張として触知されますが、病状が進行すると、腹筋は硬く緊張して腹壁反射は消え、板のように硬くなる状態になります。

ブルンベルグ徴候は、腹部の病変を圧迫した手を急に離すことで周囲に痛みが響く所見です。腸雑音は、腸管の麻痺(まひ)のために低下します。

急性腹膜炎の検査では、血液検査と画像検査が有用です。血液検査では、白血球が増えて、炎症反応を示すCRPが陽性になります。画像検査では、腹部単純X線、腹部超音波、腹部CTが有用です。

特に、消化管の穿孔の場合には、腹部単純X線で横隔膜下の空気遊離像(フリーエアー像)が診断の決め手になります。そのほか、急性胆嚢炎、急性膵炎などの原因になる疾患の区別には、腹部超音波、腹部CTが有用です。

原因によって治療は違い、予後も異なります。消火管の穿孔による汎発性腹膜炎では、火元となった原発巣の処置、排膿などを目的として、早期に開腹手術や腹腔鏡下手術などが行われます。治療が早いほど、予後は良好です。

消化管の穿孔がなく、腹膜炎の部位が盲腸周囲、横隔膜下、ダグラス窩などに限られている限局性腹膜炎の場合には、補液、抗生剤の投与により保存的に治療することで治ることもありますが、基本的には早期の緊急手術を必要とすることがほとんど。適切な治療が行われれば、予後は良好です。

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 静岡県は26日、直近1週間(15~21日)のデータから「RSウイルス感染症が流行入りしている」と発表しました。定点医療機関となっている小児科1カ所当たりの患者数は1・64人で、県が流行入りの目安としている「1人」を大きく上回りました。前週の0・9人よりも8割増加し、急拡大が懸...