2022/08/12

🇸🇪急性腹膜炎

原因となる病気があって、炎症や穿孔を起こす

急性腹膜炎とは、腹腔(ふくくう)内を覆う薄い膜である腹膜に、急性の炎症が起こる疾患をいいます。

胃、小腸、大腸、肝臓、脾(ひ)臓などの臓器がある腹腔内を覆って、腹壁との間にある腹膜は、その表面は滑らかで、数ミリリットルの液で潤されていて、臓器の動きをよくしています。腹膜は吸収作用が旺盛(おうせい)で、水分、電解質を吸収する反面、毒素などの有害物質もよく吸収します。

急性腹膜炎の多くは、さまざまな消化管疾患の合併症として起こります。その原因には、細菌感染と物理的、化学的刺激が挙げられます。

細菌感染とは、腹腔内の臓器の炎症が腹膜へ波及することによって生じるものであり、一般には急性虫垂炎が最も頻度が高く、急性胆嚢(たんのう)炎、急性膵(すい)炎などによってもみられます。

物理的、化学的刺激とは、外傷を始め、消化管疾患や腸間膜の虚血による消化管穿孔(せんこう)が原因となって起こるもので、胃液、胆汁などの腹膜への漏出が急性の炎症を引き起こします。

外傷には打撲、交通外傷があり、消化管疾患では胃潰瘍(かいよう)、十二指腸潰瘍や、胃がんなどの悪性腫瘍(しゅよう)に続発します。急性胆嚢炎に胆嚢穿孔が加わった場合や重症の急性膵炎では、胆汁、膵液の細菌感染と化学的刺激が重なり、重症の状態になることが多くみられます。そのほか、急性虫垂炎の穿孔、腸閉塞(へいそく)、女性生殖器の病気などでも起こります。

汎発性腹膜炎と限局性腹膜炎

急性腹膜炎の症状として、腹痛は必ずみられます。原因となる病気の前兆として、腹部不快、軽い腹痛を示すことがまれにありますが、通常は急激な腹痛が突発的に起こります。痛みは持続し、初めは限られた部位だけですが、次第に腹部全体に及びます。

そのほかの症状として、悪心、吐き気、嘔吐(おうと)、発熱、頻脈がみられます。

また、消化管の穿孔(せんこう)により内容物が腹腔内に広がると、腹膜全体に炎症が広がって激烈な腹痛が現れ、ショック状態に陥ることがあります。これを急性汎発(はんぱつ)性腹膜炎といいます。一方、盲腸周囲、横隔膜下、膀胱(ぼうこう)ないし子宮と直腸の間のダグラス窩(か)など腹膜の一部に、膿瘍(のうよう)を形成するものを急性限局性腹膜炎といいます。

いずれの場合も、できるだけ早期に受診して適切な治療を受けないと、重症になります。特に、急性汎発性腹膜炎では、生命に関わる重症の状態に陥る可能性があり、緊急な医学的処置が必要です。

多くの場合、激しい腹痛は持続性で、食欲不振、吐き気、嘔吐があり、のどの渇きと熱感を感じ、間欠的な震えを生じます。体温は38~40℃近くに上昇し、若く健康であった人ほど高熱となり、高齢者や衰弱した人では発熱はわずかなことがあります。

顔は苦痛のためにゆがんで、苦悶(くもん)状となり、目は落ちくぼみ、皮膚は乾燥して、いわゆる腹膜炎顔貌(がんぼう)を呈します。呼吸も浅く速くなります。腹部は腹筋を緊張させて、安静を保とうとするため、平坦となり、板のように硬くなります。さらに病勢が進むと、循環血液量の減少、細菌毒素のためのショック状態に陥り、死亡の危険度は高まります。

急性汎発性腹膜炎を薬で治すことはまず不可能で、緊急手術を行うことになりますので、夜間であろうと、手術のできる病院へできる限り早く行くことが大切です。

病院での診断と検査と治療

医師の腹部所見により、まず、押すと痛む圧痛、筋性防御、ブルンベルグ徴候、腸雑音の有無を調べます。

圧痛は、部位が限られているため、鑑別診断に有用です。圧痛が腹部全体に及ぶ急性汎発性腹膜炎の時も、原因となる疾患の部位の圧痛が特に強くみられます。

筋性防御は、腹壁側の腹膜の炎症を示す所見として、診断に有用です。初期では、軽い触診で腹壁の筋肉の緊張として触知されますが、病状が進行すると、腹筋は硬く緊張して腹壁反射は消え、板のように硬くなる状態になります。

ブルンベルグ徴候は、腹部の病変を圧迫した手を急に離すことで周囲に痛みが響く所見です。腸雑音は、腸管の麻痺(まひ)のために低下します。

急性腹膜炎の検査では、血液検査と画像検査が有用です。血液検査では、白血球が増えて、炎症反応を示すCRPが陽性になります。画像検査では、腹部単純X線、腹部超音波、腹部CTが有用です。

特に、消化管の穿孔の場合には、腹部単純X線で横隔膜下の空気遊離像(フリーエアー像)が診断の決め手になります。そのほか、急性胆嚢炎、急性膵炎などの原因になる疾患の区別には、腹部超音波、腹部CTが有用です。

原因によって治療は違い、予後も異なります。消火管の穿孔による汎発性腹膜炎では、火元となった原発巣の処置、排膿などを目的として、早期に開腹手術や腹腔鏡下手術などが行われます。治療が早いほど、予後は良好です。

消化管の穿孔がなく、腹膜炎の部位が盲腸周囲、横隔膜下、ダグラス窩などに限られている限局性腹膜炎の場合には、補液、抗生剤の投与により保存的に治療することで治ることもありますが、基本的には早期の緊急手術を必要とすることがほとんど。適切な治療が行われれば、予後は良好です。

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