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2022/07/09

👄ロイコプラキー(白板症)

舌や口腔粘膜の上皮が白濁、角化する疾患

ロイコプラキーとは、舌や口腔(こうくう)粘膜の表面が白く濁り、触れると硬い疾患。白板(はくばん)症とも、口腔白板症とも呼びます。

この粘膜上皮が白濁、角化する状態は、いろいろな原因で起こります。継続的に作用する物理的、化学的な刺激で起こるもの、粘膜苔癬(たいせん)など慢性の炎症があって起こるもの、カンジダがついて起こるもののほかに、がん前駆症としてのロイコプラキーもあります。原因不明なものも少なくありません。従って、ロイコプラキーのすべてが悪性というわけではありません。

継続的に作用する物理的、化学的な刺激としては、たばこ、アルコール飲料、刺激性食品、過度なブラッシングによる擦過、虫歯、不適合な補綴(ほてつ)物と充填(じゅうてん)物である金冠や金属の詰め物、入れ歯などが挙げられます。

このロイコプラキーは、女性の2倍と男性に多くみられ、年齢では50歳〜70歳代に多くみられます。好発部位は舌で、次いで歯肉、ほお、口蓋(こうがい)、口腔底などが続きます。

症状としては、舌や口腔粘膜の一部がさまざまな程度の白色になり、徐々に表面にしわができます。白色の程度も高度になり、いぼ状に隆起してくるものもあります。また、隆起はしないで、赤い部分が混在してくるものもあります。白斑(はくはん)のみでは痛むことはありませんが、紅斑が混在するものでは痛みを伴うようになります。

長期に経過すると、ロイコプラキーからがんが発生することもあります。ある確率で、がんに発展するような皮膚の異常をがん前駆症といいますが、がん前駆症としてのロイコプラキーは、舌の側面に最も起こりやすく、不規則な形をしています。その一部が崩れて、腫瘍(しゅよう)やびらんができたり、割れ目を生じたり、隆起してくる場合には、注意が必要です。口腔扁平(へんぺい)上皮がんに進展する確率が高く、すでにがんを発生している場合があります。

ロイコプラキーの検査と診断と治療

口の中に、白色あるいは白色と赤色の混在する病変を見付けた場合、あるいは長い間続いていた口の中の異常が急に変化して、びらん、潰瘍(かいよう)を生じたり、大きさが増したりした場合には、すぐに皮膚科、口腔外科の専門医の診断を受けます。

ロイコプラキーの診断のためには、実際の病変の一部を切り取って、顕微鏡で組織検査をする生検を行います。広範囲に病変が存在する場合は、複数の部位より切り取ります。ロイコプラキーの病理組織像は多彩で、種々な程度の角化の高進、有棘(ゆうきょく)層の肥厚、上皮下への炎症性細胞浸潤、上皮の種々の程度の異形成などが認められます。特に、がん化との関連性においては、上皮異形成の程度は重要になります。

治療としては、まず刺激源になっているものがあれば、除去します。次に、ビタミンAを投与し、反応するか否かを観察します。ビタミンAによる薬物治療に反応せず、生検で上皮異形成と診断される病変があれば、病変の粘膜を手術で切除します。広範囲の病変では、切除すると機能障害が出ます。

なお、ロイコプラキーのすべてが悪性というわけではなく、良性の変化にとどまることも多く、必ず治療しなければならないというものではありません。また、ロイコプラキーから口腔扁平上皮がんに進展しても、経過観察を定期的に行えば、極めて早期に対処することも可能です。

🦻聾(ろう)

他人の言葉がほとんど聞き取れない高度の難聴

聾(ろう)とは、両耳が障害された難聴で、その程度が言語域で80〜90デシベル以上、すなわち他人の言葉がほとんど聞き取れない高度のもの。言葉を覚える以前に聾になれば、話をできない唖(あ)になります。

聾の原因はいろいろです。遺伝性のものは、劣性遺伝であり、血族結婚の場合に起こる確率が高くなります。遺伝的でないものは、母体が妊娠初期に風疹(ふうしん)にかかったり、ステロイド剤などの薬物の投与を受けて起こることもあります。

出産時の脳性小児まひ、核黄疸(おうだん)、出産時仮死、未熟児などにおける脳障害に、聾を伴うこともあります。

乳幼児期では、感音難聴の原因となる、おたふく風邪、内耳炎、髄膜炎、薬物中毒などがそのまま、聾の原因になります。

聾の検査と診断と治療

聾の回復は不能です。一時、中国の鍼(はり)による治療が有効とされたことがありましたが、現在では否定されています。

内耳が駄目になっても、聴覚の神経が駄目になっていない後天性の聾には、内耳に細い電極を入れて、音が直接神経を刺激できるようにすることが可能です。人工内耳といわれますが、成功して音が聞こえても、言葉として理解できるようになるには訓練が必要です。

医学的に治療することは難しいので、早く機能訓練を開始することが重要です。

現在、日本の特別支援学校(旧・聾学校)では、幼稚部として3歳児から教育を始めていますが、3歳未満児の教育相談も行っています。国立大学付属病院の耳鼻科や、厚生労働省の難聴幼児通園施設などに相談するのも、一つの方法です。

👁老眼(老視)

加齢により、近いところが見えにくくなる目の障害

老眼とは、40歳前後から始まる老化現象によって、近いところが見えにくくなる目の障害。老視が正式名称です。

近くの字が見えにくいなど、はっきり見える範囲が狭くなってくるのは、目の遠近調節の働きが衰えてくるためです。加齢とともに、目のピント(焦点)合わせをするレンズの役割を果たす水晶体の弾力性が衰え、調節に際しての屈折力が少なくなるのが、老眼の主な原因です。

人間が目で物を見る時、毛様体という筋肉で、透明で凸状の形をしている水晶体の厚さを調整して、ピントを合わせます。例えば、近くを見る時は水晶体を厚くしてピントを合わせ、遠くを見る時は逆に水晶体を薄くしてピントを合わせるのです。しかし、毛様体自体の筋力が衰えたり、毛様体自体の機能が衰えなくても水晶体の弾力性が衰えると、いくら毛様体筋が水晶体の厚さを調整しようと思ってもできなくなります。

また、一般的に老眼は近くが見えにくくなる症状ですが、実際には水晶体の弾力性が衰えているためピントが合う範囲自体が狭くなっているため、近くだけでなく、調節が必要となる範囲全体が見えにくくなっています。

老眼の症状が出始めるのは個人差はありますが、40歳代初めから出る場合が多く、早い場合では30歳代で自覚するようになり、遅い場合でも50歳を過ぎたころには明白に老眼であることを自覚します。その進行は、ほぼ60歳くらいで停止します。

もともと近視の人は、近いところがよく見えるために、老眼になるのは遅くなります。逆に、遠視の人は、近いところは見えにくいので、早く老眼になります。

老眼の症状としては、今まで見えていた新聞、本、パソコンなどの近くの文字がぼやけたりして見えにくくなったが、少し離すとよく見えるというのが特徴です。通常、日常生活で字を読む時の距離である30センチ前後が見えにくくなった場合に、老眼の可能性が高くなります。

その他、遠くはよく見えて疲れないのに近くを見ていると疲れる、薄暗い場所での視力が低下したような気がする、朝はよく見えるのに夕方くらいになると物が見えにくくなる、目がかすむことが多くなっている、などの症状が現れることもあります。

老眼の検査と診断と治療

「おかしいな」と少しでも思ったら、眼科で診察を受ける必要があります。老眼(老視)が始まっているにもかかわらず、「気のせいだ」、「たまたまだ」、「そんなはずがない」とそのまま放置しておくと、目が疲れやすくなるだけでなく、目の疲れが体全体の疲れにつながって頭痛、肩凝り、吐き気、めまいなどが生じたり、老眼がより進行する可能性があります。

眼科で診察を受けて眼科医に相談の上、適切な検査をへて自分に合う老眼鏡、または老眼用のコンタクトレンズを作ります。

老眼鏡などを使用すると老眼がより進行すると思っている人もいるようですが、適切な検査を受けて作った老眼鏡、老眼用コンタクトレンズであれば症状が進行することはありません。100円均一ショップなどで市販されている老眼鏡は、必ずしも自分に合った度数ではありませんので、あまり勧められません。

老眼鏡や老眼用コンタクトレンズを作る時は、新聞、本、パソコンなど、どのような場面で使いたいのか、新聞、本なら30センチ、パソコンなら40センチなど、具体的にどれほどの距離の文字を見たいのかを確認しておきます。

近視の人が老眼になった場合、遠くも見えにくく、近くも見えにくくなるため、近視用の眼鏡と、老眼用の眼鏡の2つを用意しなければなりません。しかし、2つの眼鏡を使い分けることは面倒なため、実際には多くの人が遠近両用眼鏡を使用するようになります。

通常の遠近両用眼鏡では、全体が遠くがよく見える近視用で、下の一部分が近くがよく見える老眼用になっています。少し前までは、近視用と老眼用のレンズの境目がはっきりとしていたため、遠近両用眼鏡とすぐにわかりました。最近の遠近両用眼鏡は、下へゆくに従って徐々に老眼用の度数になっていく多重累進焦点タイプが一般的になってきましたので、見た目は通常の眼鏡とそれほど区別は付かなくなってきています。

ただ、遠近両用眼鏡の使い始めの頃は、目が疲れやすくなったり、視野が狭くなるなど、慣れるまでには多少時間がかかることがデメリットかもしれません。

老眼鏡をかけることに抵抗がある人は、老眼用の遠近両用コンタクトレンズを作ることが選択肢の1つになります。

老眼鏡は眼鏡のフレームで固定されますので視野が約120°という範囲に限られますが、老眼用コンタクトレンズでは180°と裸眼の視野と同等に広がります。雨の日や湿気の多い場所でレンズが曇ってしまう老眼鏡と違って、老眼用コンタクトレンズなら目の中は常に涙で潤っているので、曇るということもありません。しかも、目に密着している老眼用コンタクトレンズでは、物が大きく見えたり小さく見えたりすることはほとんどなく、裸眼に近い自然な見え方になります。

老眼鏡や老眼用コンタクトレンズは、老眼が始まったからといって、常に使用しなければならないわけでもありません。最初は見えにくい時、必要な時だけ使用するだけで十分で、老眼鏡にプラスして、毛様体筋(眼球)などを鍛えたり、食生活を改善することによって老眼から回復することができたり、老眼を予防することも可能です。

なお、老眼は加齢とともに確実に進行しますので、最初に作成した老眼鏡や老眼用コンタクトレンズを数年間、使い続けることも決してよくありません。定期的に眼科で検査を受けて、常に自分に適した老眼鏡や老眼用コンタクトレンズを使用することが理想的で、検査は白内障や緑内障などの目の疾患の早期発見にもつながります。

老眼用コンタクトレンズの寿命は、使用者の体質や目の状態、取扱い方法によって異なりますが、一般的には、酸素透過性ハードコンタクトレンズでは1.5年~3年、ソフトコンタクトレンズでは1年~2年となっています。

老眼に対処する方法として、外科的な手術を受けることも選択肢の1つになります。今日では、老視矯正レーシックといって、エキシマレーザーという特殊なレーザーを使用して角膜中心部を遠方に、角膜周辺部を近方に合わせるように矯正するレーシック手術があります。水晶体はそのままにして、目の表面の角膜を収縮させてカーブをつけることによって、角膜がレンズのような役割を担ってくれるようにする治療方法です。

外科的な手術として、遠近両用眼内レンズを目に入れる手術もあります。この手術の場合は、硬くなり、柔軟性のなくなってしまった水晶体を人工的に作った遠近両用眼内レンズと取り替えるというものです。この手術によって、老眼だけではなく、高齢者に多く見られる白内障の症状も回復させることができるとされています。

🩺労作性狭心症

冠動脈が狭くなっている際の運動などが誘因となって起こる狭心症

労作(ろうさ)性狭心症とは、主に階段を上るなどの運動時に、激しい痛みが心臓部に生じる疾患。

人間の心臓は、筋肉でできた袋のような臓器で、1日に約10万回収縮し、全身に血液を循環させて、酸素や栄養を送り届けています。もちろん、心臓の拍動にも多くの酸素や栄養が必要ですが、心臓自身は心臓の中を通る血液からではなく、表面を取り巻く冠動脈から、血液を受け取っているのです。

この冠動脈に、動脈硬化などによってプラークという固まりができて、血液の通り道が狭くなったり、詰まったりすると、心筋が酸欠状態に陥ってしまい、狭心症や心筋梗塞(こうそく)を招くのです。心筋梗塞のほうは、冠動脈が完全に閉塞、ないし著しく狭まり、心筋が壊死してしまった状態です。

狭心症にはいろいろなタイプがありますが、よく知られているタイプは、労作性狭心症と安静時狭心症の二つです。

労作性狭心症は、動脈硬化などで冠動脈が狭くなっている際に、過度のストレス、精神的興奮、階段や坂道の昇降運動といった一定の強さの運動や動作が誘因となって心臓の負担が増すことで、心臓の筋肉である心筋に十分な血液が送られなくなり、心筋が一時的な酸素欠乏になって起こります。

安静狭心症は、就寝中や早朝など、比較的安静にしている際に起こるものです。心不全などを合併することも多く、労作性狭心症よりも重症です。

40歳以上の男性に狭心症は多く、女性では閉経期以後や卵巣摘出術を受けた人に多くみられます。誘因として考えられるのは、高血圧、高脂血症、肥満、高尿酸血症、ストレス、性格など。

症状としては、狭心痛という発作を繰り返す特徴があります。典型的な狭心痛は突然、胸の中央部に締め付けられるような痛みが起こり、痛みは左肩、左手に広がります。まれに、下あご、のどに痛みが出ることもあります。

発作の時間は数分から数十分で治まりますが、発作中は顔面蒼白(そうはく)、胸部圧迫感、息苦しさ、冷汗、動悸(どうき)、頻脈、血圧上昇、頭痛、嘔吐(おうと)のみられるものもあります。

初めての発作は見過ごしがちですが、症状を放置した場合、一週間以内に心筋梗塞、心室細動などを引き起こす可能性もあります。治まったことで安心せずに、病院へ行くべきです。特に高齢者や、発作が頻発に起こる人は、注意が必要となります。

労作性狭心症の検査と診断と治療

循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓外科などの医師による診断では、症状が典型的な場合、狭心症を疑うのは比較的容易で、問診で詳しく伝えてもらいます。

さらに、運動負荷心電図(トレッドミル検査)、ホルター心電図、心臓超音波検査(心エコー)、心臓核医学検査(心筋シンチグラム)、冠動脈CT検査、冠動脈造影検査(心臓カテーテル検査)などを行い、診断を進めます。

運動負荷心電図では、無症状時の心電図からは狭心症であるかどうかわからないため、フェベルトコンベアー上を歩いてもらうトレッドミルなどにより負荷をかけ、心電図に現れる変化から狭心症らしいかどうか、またどの程度運動が可能かを評価します。

ホルター心電図では、携帯式の小型の心電計を付けたまま帰宅してもらい、長時間の記録から、体を動かしている時や、寝ている時に心電図がどう変化するかをみます。

心臓超音波検査では、心臓の大きさ、心筋の動き、弁の機能などを評価します。

心臓核医学検査では、微量の放射性物質で標識した薬剤を静脈に注射し、心筋の血流の様子などを評価します。運動負荷や薬物負荷試験と組み合わせることによって、心筋虚血があるかどうかを判断するだけでなく、その広がりの範囲や心筋障害の程度などもわかります。

冠動脈CT検査では、造影剤を静脈に点滴し、心電図と同期させながらCT(コンピュータ断層撮影)をとることで、冠動脈の狭窄の有無を調べます。画像診断装置の進歩により、体に負担を与えずに冠動脈全体の性状を評価できるようになりました。

これらの検査の結果、狭心症が強く疑われる場合には、通常、心臓カテーテル検査を行います。

心臓カテーテル検査では、カテーテルという細長いチューブを手首や肘(ひじ)、足の付け根の血管を通して心臓まで挿入し、造影剤を注射して冠動脈のX線撮影を行います。冠動脈の狭窄の程度、部位、病変数などを詳細に評価でき、狭心症の確定診断、重症度の評価、治療方針の最終決定ができます。

循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓外科などの医師による治療では、すべてのタイプに共通して、血栓ができるのを防ぐために、アスピリンなどの抗血小板剤の投与による治療が行われます。

発作を止めるために、ニトログリセリン、硝酸イソソルビドなどの硝酸薬、発作を予防するために、硝酸薬、β(ベータ)遮断薬、カルシウム拮抗(きっこう)薬が投与されるほか、経皮的冠動脈形成術、冠動脈大動脈バイパス移植術などの外科的治療も行われます。

いずれの治療法を選択した場合でも、動脈硬化の危険因子を修正するための生活習慣の改善は、並行して実践しなければなりません。

♾老人性円背

加齢が原因となって、脊椎のうちの胸椎部の後方への湾曲が極端に大きくなる状態

老人性円背(えんぱい)とは、加齢が原因となって、背骨、すなわち脊椎(せきつい)のうちの胸椎部の後方への湾曲が極端に大きくなっている状態。老化性円背、老人性後湾症、老人性亀背(きはい)、老人性猫背(ねこぜ)とも呼ばれます。

人間の脊椎は、7個の頸椎(けいつい)、12個の胸椎、5個の腰椎、仙骨、尾骨で成り立っています。正常な脊椎は体の前から見ると真っすぐですが、横から見ると、緩やかなS字の形をしています。すなわち頸椎部は前湾(前に向かって湾曲している)、胸椎部は後湾(後ろに向かって湾曲している)、腰椎部は前湾を示しています。

このように脊椎は本来、後湾している部分があるのですが、老人性円背では、胸椎部の後湾している角度が極端に大きくなったり、腰椎部の前湾が失われて後湾になったりしています。

加齢が原因で老人性円背は起こり、女性に多くみられます。脊椎の椎体と椎体の間にある円板状の軟骨組織で、骨に対するクッションの役割を果たしている椎間板の多くが変性したり、骨粗鬆(こつそしょう)症で骨のカルシウム分が少なくなり骨が弱くもろくなるために多くの椎体、とりわけ胸椎部と腰椎部の椎体が押しつぶされるように圧迫骨折したり、背中の筋肉が衰えることなどによって、背中が丸く曲がります。

1回の圧迫骨折などで背中が丸く曲がるのではなく、数回の圧迫骨折を繰り返して次第に丸く曲がるケースがほとんどです。

重い物を持つ、立ち上がる、しりもちをつくといった切っ掛けで圧迫骨折が起こったケースでは、本人も気付くことが多く、痛みやしびれを感じたりしますが、骨が弱くもろくなっている人では、衝撃が加わらなくてもいつの間にか圧迫骨折を起こしているケースもあり、痛みやしびれもあまり感じません。

老人性円背になると、胸椎部の後湾が本来の生理的な後湾の範囲を超えるため、頭の荷重が適切に胸椎部に負担されず、頭の重心は胸椎部の軸よりも前方に位置し、前かがみの姿勢になります。この状態で頭を安定させるために、後頭部から背中全体を覆う僧帽筋や、背中の中心部あたりを縦に細長く走っている脊柱起立筋に過剰な負荷がかかることとなり、持続的な背中の痛みや肩凝りとして自覚されます。

重度になると、腰が慢性的に強く傷んだり、神経の障害を生じて手足のしびれ、震えに悩まされることもあります。

また、体に不自然な前かがみの姿勢で、起立を保ったり歩いたりすることで、負担がかかった筋肉が痛んだり、疲れやすくなります。前かがみの姿勢で、視野が狭くなって転倒につながることもあります。

また、前かがみの姿勢になっているために、肺や胃が圧迫されて、肺活量の低下や胃腸の障害が起こりやすくなります。血流の悪化も起こりやすくなります。

老人性円背の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、脊椎の変形から老人性円背を疑い、次にX線(レントゲン)検査を行って、画像で椎体の変形が見付かれば、比較的簡単に判断できます。

原因を知るために、さらに詳しい検査が必要な際は、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査が有用です。また、加齢が原因で骨粗鬆症が疑われる際は、踵(かかと)の骨に超音波を当てて骨量を測定する超音波法、X線検査、血液検査、尿検査などを合わせて、総合的に検査します。

整形外科の医師による治療では、腰椎の湾曲が胸椎や頸椎の湾曲を強めていることも多いため、全身の骨格の矯正を行います。ただし、加齢とともに矯正も難しくなってきます。

それ以外では、軽く背筋を伸ばす体操や軽めのマッサージなどを行います。ただし、急激に後ろに反らすなどの動作や強いマッサージなどは禁物。

なお、老人性円背によって発症している腰痛や背部痛などの改善はできますが、円背そのものが改善されることはまれです。

骨粗鬆症が基礎にあって老人性円背が重度となった場合は、安静を守り、鎮痛剤を内服します。骨の吸収を防ぎ骨量を増やす薬剤や、骨の形成を促進し骨量を増やす薬剤、あるいは骨の代謝を助ける薬剤も内服し、栄養価の高い食品を摂取するようにします。

転倒したり、しりもちをついたりすると、脊椎の椎体がつぶされて痛みやしびれを招くので注意を要します。

🌄老人性角化腫(日光角化症)

長期間、紫外線を受けて起こる前がん性の皮膚変化

老人性角化腫(しゅ)とは、長い年月に渡って日光紫外線を受けたことが原因で起こる前がん性の皮膚変化。日光角化症とも呼ばれます。

日光紫外線を受けやすい顔面、耳、前腕、手の甲の皮膚に好発します。直射日光を受けて急性に起こるいわゆる日焼けとは異なり、長い年月に渡って慢性的に日光紫外線、特に中波長紫外線を受けることにより表皮細胞のDNAに傷ができるのが、その原因と考えられています。

日光に含まれる紫外線は肉眼では見えませんが、皮膚に最も大きな影響を与えます。体がビタミンDを作り出すのを助ける働きがあるので、少量ならば紫外線は有益なものの、大量に浴びると遺伝物質であるDNAが損傷を受け、皮膚細胞が作り出す化学物質の量と種類が変わってしまうのです。

発症者の年齢は、中高年層がほとんど。性差は、やや男性に多い傾向があります。日焼けの際に皮膚に紅斑(こうはん)を生じやすい人のほうが、褐色変化する人よりもなりやすいと見なされています。白色人種に比べて黒色人種、黄色人種では発症率が低く、日本人での発症率については沖縄県が高いという報告もあります。

症状としては、黄褐色のかさぶたを伴う大きさ1〜3cmの紅褐色の皮疹(ひしん)が現れることが多く、角化した部分はかさかさしたうろこ状となり、ぼろぼろむけます。色が濃くなったり、灰色がかったりすることもあり、触れると硬く感じられます。周囲の皮膚は薄くなり、多少の赤みがあります。

皮疹が1カ所だけにできることも、複数の部位にできることもあります。軽度のかゆみを訴えるケースもありますが、皮疹以外に自覚症状を来すことはまれ。皮疹は自然に消えることもあれば、同じ部位や別の部位に再発することもあります。

老人性のいぼと間違いやすいので注意が必要なものの、前がん性の皮膚変化といっても実際に、扁平(へんぺい)上皮がん、または有棘(ゆうきょく)細胞がんにまで発展するケースは、数パーセントにとどまります。

老人性角化腫の検査と診断と治療

老人性角化腫(日光角化症)では、いぼ(脂漏性角化症あるいは尋常性疣贅〔ゆうぜい〕)などと紛らわしいことがありますので、疑わしい場合は病変の一部を切り取って組織検査をする皮膚生検を行います。組織所見に基づいて、老人性角化腫を委縮性、ボーエン病様、棘融解性、肥厚性、色素性に分類することもあります。

治療は通常、病変を液体窒素で凍結させて取り除きます。高齢者や角化部分の多発例では、液体窒素による凍結療法のほか、CO2レーザー照射なども行います。

また、角化部分の多発例では、フルオロウラシル入りのローションやクリームを塗ることもあります。フルオロウラシルは皮膚の発赤、うろこ状のかさつき、角化症の部分とその周囲の日光で損傷した皮膚をヒリヒリさせるなどの作用を起こすため、この治療を行うと皮膚の状態は一時的に悪化したようにみえます。

治療後も、外科的切除の取り残しがないことや再発の有無をみるため、定期的な経過観察が必要です。

日常生活での注意点としては、一見正常にみえる皮膚も日光紫外線のダメージをすでに受けているので、新たな病巣を生じないためにも、サンスクリーンを使用するとともに帽子などで直射日光を避けるようにします。日光の紫外線が最も強いのは、1日の中では午前10時から午後3時までの日中、季節では夏、地域では海抜の高い場所です。

🇩🇰老人性乾皮症

全身の皮膚が乾燥してカサカサし、細かくはがれ落ちてくる疾患

老人性乾皮(かんぴ)症とは、加齢などが原因となって、全身の皮膚が乾燥してカサカサし、表面が細かくはがれ落ちてくる疾患。

冬の寒い時期にできることが多く、中高年者に多くみられます。女性のほうが男性よりやや早い40〜50歳代から起こってきますが、強く出るのは60歳以降の男性です。

初期の症状としては、手足、特に下肢の皮膚がカサカサして脂気がなくなり、表面にウロコ状の鱗屑(りんせつ)が付着し、はがれ落ちてきます。かゆみもわずかにあるため、何となくかかずにはいられなくなり、そのために症状が悪化するという状態になり、二次的に湿疹(しっしん)の症状がみられることも多くなります。

進行すると、 亀(かめ)の甲羅のように皮膚がひび割れて、赤みが生じ、かゆみはかなり強くなります。さらに進行すると、乾燥性湿疹になり、夜中に目覚めるほどのかゆみが出ます。

種々の環境因子が、老人性乾皮症を悪化させます。第一の因子が、日本の冬の低温、低湿という気象条件。そもそも、高齢者の皮膚は皮脂腺(せん)と汗腺の働きの低下のために、皮膚の表面の脂肪分が少なくなり、水分を保つことも困難になって乾燥を防止できず、カサカサしています。これが冬にはさらにひどくなるわけで、皮膚が非常に敏感になり、非常に弱い刺激でもかゆみの原因となってしまうのです。

老人性乾皮症は、大気が乾燥する秋から冬に始まり、真冬になると症状はひどく、多くは春先まで続きます。しかし、高温、高湿で汗をかきやすい夏は、症状が軽くなり、自然に治ったりもします。

第二の悪化因子が、入浴です。高齢者は一般的に入浴が好きで、1日2回入ったり、長湯をする人が多いようです。入浴そのものはかまわないのですが、脂肪分の少ない皮膚は入浴により、さらに皮膚の表面の脂肪分が流れ落ちてしまうのです。

第三の悪化因子は、エアコンや電気毛布、電気シーツ、ホットカーペット。これらの電熱のために皮膚の水分が蒸発し、皮膚の乾燥化が進み、加温のために皮膚の表面の血行が促進されて、かゆみが増加します。

第四の因子が、下着です。高齢者は保温のためにラクダの下着を使用している人が多いようですが、直接、下着の繊維が皮膚に触ると、その刺激でかゆみを感じることがあります。

その他の悪化因子として、精神的な不安、イライラもかゆみに影響します。

老人性乾皮症の自己治療と医師による治療

自分でできる老人性乾皮症への対処法として、かゆみの原因が皮膚のカサカサにあるため、皮膚の表面に脂肪と水分を補って、人工の保護膜を作る必要がありますので、市販の保湿剤を使います。

保湿剤として、昔はワセリンとか硼酸(ほうさん)亜鉛華軟こうなどというベタベタした軟こうを塗ったのですが、最近は尿素軟こうを使うことが多くなっています。尿素は水分と結合する力が非常に強いので、尿素を含有した軟こうを皮膚の表面に塗っておけば、空気中の水分を吸収して皮膚の表面に薄い膜を作り、皮膚のカサカサを緩和してくれます。湯上がり、まだ肌に水気が残っているうちに塗ることが、効果的です。一日に、何回塗ってもかまいません。

それでも治まらずに、かゆみや赤みがある時は、皮膚科の専門医を受診します。医師の治療では、外用剤として保湿剤を用い、かゆみの強い時に抗ヒスタミン剤の内服を併用したり、湿疹の炎症症状の強い時に副腎(ふくじん)皮質ホルモン含有軟こうを用います。ホルモン含有軟こうの長期使用は避けるべきで、強い炎症症状が治まったら、ホルモンを含まない外用剤に変えます。

次のような工夫で、皮膚の乾燥はかなり予防することができますので、スキンケアを習慣にします。

毎日入浴する場合は、よほど脂ぎった人でもない限り、せっけんでゴシゴシ洗わないほうが、皮膚にとっては安全です。せっけんは洗浄力の強いものを避け、保湿剤入りのものを使うのが、お勧めです。保湿剤入りの入浴剤もあります。ナイロンタオル、ボディソープを使用すると、皮脂が取れ過ぎて悪化することがあるので、お勧めできません。

エアコンや電気毛布、電気シーツ、ホットカーペットなどの電気器具は、室内を乾燥させる元凶です。まず使い過ぎをセーブすることですが、加湿器、ぬれタオル、湯タンポ、観葉植物、水槽などで加湿の工夫をします。ただし、加湿器はカビが発生しやすいので手入れはまめに。

ラクダの下着を使用している人は、繊維の刺激でかゆみを感じることがありますので、肌に優しい木綿の下着を下につけることが大切です。ぴったりと長めの下着で、特にひざから下を覆えば乾燥を防ぐことができます。

できるだけ皮膚をかかないように気を付け、つめは短く切ります。精神的な不安、イライラもかゆみに影響しますので、安らかな気持ちで生活を送ることも必要です。規則正しい生活を心掛け、十分な睡眠を確保し、バランスの良い食事を取ります。刺激の強い食品、辛い食品はかゆみが増すので、避けるようにします。

🇦🇹老人性膣炎

閉経後、自浄作用が低下して細菌が繁殖するために、膣壁が委縮して起こる膣炎

老人性膣炎(ちつえん)とは、卵巣から分泌される女性ホルモンのエストロゲンが閉経後に低下し、それとともに自浄作用も低下して細菌が繁殖するために、膣壁が委縮して起こる膣炎。委縮性膣炎とも呼ばれます。

通常は加齢に伴って発症するもので、生理が止まった閉経後の女性の多くが、老人性膣炎を生じている状態にあります。また、出産から最初の月経までの期間の産婦や、悪性腫瘍(しゅよう)で卵巣を摘出する手術をした女性にも、発症することがあります。

女性生殖器系の器官である腟は、骨盤内にあって子宮と体外とをつなぐ管状の器官で、伸び縮みできる構造をしています。腟の前方には膀胱(ぼうこう)や尿道があり、後方には直腸があります。腟壁は粘膜に覆われ、その粘膜面には横に走るひだがあります。このひだは正中部で集合し、前壁と後壁で中央に縦に走るひだになっています。このひだは出産の経験のない人に、多く認められます。

この腟の中は、温かく湿っていて有機物が豊富にある状態で、細菌の繁殖に適しています。しかし、腟には自浄作用という働きがあります。

腟壁上皮は卵巣から分泌されるエストロゲンの作用により、表皮細胞への分化が促され、細胞質の内にグリコーゲンが蓄積されます。剥離(はくり)した細胞内のグリコーゲンは、ブドウ糖に分解されて、腟内の乳酸桿菌(かんきん)によって乳酸菌に換えられます。これにより腟内は酸性となり、酸性環境に弱い細菌の増殖が抑制されます。

閉経後の女性の場合は、卵巣から分泌されるエストロゲンや卵胞ホルモンが低下するため、ブドウ糖が不足し腟内の乳酸菌が著しく減少する結果、細菌が繁殖します。

また、閉経後の女性の場合は、腟壁は女性ホルモンや少量の男性ホルモンの働きにより、閉経後十数年たっても若い時代の3分の2の厚さが保たれていますが、一部の女性ホルモンが不足してくると腟のひだが少なくなるとともに、腟壁のコラーゲンが少なくなり、壁そのものも委縮して薄くなり、乾燥も起こります。この薄くなった腟の壁は、腟内に細菌が繁殖すると、充血して炎症を生じます。

そのために、老人性膣炎を発症すると、下り物が黄色っぽくなる、下り物に血が混じる、下り物に悪臭を伴うなどの症状が、現れることがあります。腟壁の痛みや灼熱(しゃくねつ)感などの不快感、腟入口の乾燥感、掻痒(そうよう)感、違和感などの症状が、現れることもあります。性行為に際して、痛みを伴ったり、出血、掻痒感などの症状が、現れることもあります。

エストロゲンの分泌が低下したり、膣壁が委縮して薄くなること自体は、閉経後の女性であれば当たり前のことですので、無症状であったり、症状が軽いこともあります。

必ずしも治療が必要なわけではありませんが、黄色い下り物は子宮体がんなどに伴う症状の可能性もありますので、注意が必要となります。

老人性膣炎の検査と診断と治療

婦人科、産婦人科の医師による診断では、膣や外陰部の肉眼的な観察を主に行います。細菌性膣炎を合併していることが多く、腟内の細菌検査を必要とする場合もあります。同時に、がん細胞の有無も確認します。

明らかにエストロゲンが低下している年齢でなければ、ホルモン検査を行うこともあります。

近年は、診断と治療的効果判定の数値化を目的に腟健康指数を用いて診断する方法も行われるようになりました。

婦人科、産婦人科の医師による治療では、がん細胞がない場合は、女性ホルモンの膣錠、エストロゲンの経口剤や貼付剤、女性ホルモンの補充療法などで、症状の改善を図ります。

軽度の炎症であれば、膣洗浄によって細菌を流し、症状を改善させることもあります。細菌感染がひどい場合は、抗生物質が入った腟錠を併用することもあります。性交痛などに対して、潤滑ゼリーを勧めることもあります。

多くは1~2週間の治療で治りますが、1カ月程度にわたって薬剤を使用しないと治らない人もいます。

子宮体がんや乳がんなどの病歴がある人に対しては、別の治療法が選択されることもあります。

🇩🇰老人性難聴

加齢に伴って進行する難聴で、両耳で大きな違いなく進行

老人性難聴とは、加齢に伴って進行する難聴。生理的現象の一つとして起こってくる聴力の低下であり、生理的老人性難聴とも呼ばれます。

人間の聴力は20歳くらいが最も鋭敏であり、その後は次第に低下し、20歳代から30歳代で聴力の老化が始まるといわれています。耳の聞こえが悪くなってきたと自覚するのは50歳くらいで、それまでは聴力の低下を気付くことなく過ごしています。これを無自覚性の難聴といいます。

通常、50歳を超えると聴力が急激に低下し、60歳以上になると日常会話の面で不便になり始めます。しかし、老人性難聴の進行状況は個人差が大きいので、40歳代で聞き取りを補助する補聴器が必要になる人もいれば、80歳代を超えてもほとんど聴力が低下しない人もいます。

若いころから日常的に大きな音で音楽を聞き続けていたり、大きな騒音を日常的に感じていると、早く老人性難聴になってしまいがちといわれています。

老人性難聴による聴力の低下は、4000ヘルツを中心とした高音域から発生し、徐々に500〜2000ヘルツの会話音域、100ヘルツ以下の低音域へと広がっていきます。従って、早期には難聴の自覚がなく、耳鳴りだけを感じる場合があります。高音域ほど聞き取りにくいため、電話のベルや、ドアのチャイムが聞こえにくくなります。

会話音域の聞こえが悪くなり、日常会話に支障が出るようになって、初めて難聴に気付きます。ただ単に日常会話が聞き取りにくくなるだけでなく、会話は聞こえても何をいっているかがわからず、聞き間違いや聞き返しが多いなどという状態が、しばしばみられます。これは言葉を聞き取る能力である語音弁別能の低下のために生じ、老人性難聴の特徴です。

一方の耳だけではなく、両側の耳で大きな違いがなく進行していくのが、一般的です。男性は女性よりも、難聴の程度が高くなる傾向があります。

加齢に伴い、内耳の蝸牛(かぎゅう)にあって音を感じ取る有毛細胞という感覚細胞が委縮したり、数が減少したり、内耳から脳へと音を伝える神経経路や中枢神経系に障害が現れたり、内耳の蝸牛の血管の障害が起こったり、内耳内での音の伝達が悪くなったりします。これらの原因が一つまたは複数組み合わされて、音が聞こえにくくなり、言葉を聞き取る能力も悪くなる老人性難聴が発生すると考えられています。

体質も関係し、内耳の血流が悪くなるような動脈硬化、腎臓(じんぞう)病、糖尿病といった慢性の疾患は、老人性難聴を進行させる可能性があります。

加齢に伴って聴力が低下したと自覚したら、早い段階で耳鼻咽喉(いんこう)科を受診することが勧められます。難聴になると周囲の情報が耳から入ってくることが少なくなる結果として、脳まで老化させてしまう危険性もあります。あまりにも聞き取りづらいようなら、生活環境なども考えて自身に合った補聴器の装着を考えなくてはなりません。

なお、難聴の程度に応じて身体障害者福祉法による補償、例えば補聴器の購入費補助が行われています。申請書類の記入は、耳鼻咽喉科で行われています。

老人性難聴の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、鼓膜の診察と純音聴力検査、語音明瞭度検査を行い、生活環境を考慮して補聴器を必要とするかどうかを判断します。聴力検査では、高音域が聞こえにくくなることから始まる感音難聴を示し、進行すると中低音域の聴力も低下します。

難聴の度合は一般的に、500〜2000ヘルツの会話音域の聴力低下に応じて、平均聴力レベルが20デシベルまでを、ささやき声もよく聞こえる正常聴力として、40デシベルまでを、小声が聞きにくい軽度難聴、70デシベルまでを、普通の声が聞きにくい中度難聴、70デシベル以上を、大きな声でも聞きにくい高度難聴、90デシベル以上を、耳元での大きな声でも聞こえない重度難聴、100デシベル以上を、通常の音は聞こえない聾(ろう)に分けます。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、聴力をよくする決め手となる治療法はありません。コミュニケーション障害への対策として、補聴器の装用が勧められますが、本人に難聴の自覚があまりなく、使用されないことも多いようです。

補聴器は、ポケットに本体を入れる箱形、耳たぶにかける耳掛け型、耳の穴に入れてほとんど外からはわからない耳穴型などがあります。使用時にピーピーという音が発生するハウリングが起こることがなく、自分で簡単に操作できるものが勧められます。ハウリング予防のためには、個人の耳の形に合わせたイヤーモールドと呼ばれる耳栓を作るのが有効です。

残念ながら、補聴器を使用したとしても完全に元通りの聴力が戻ってくるとは限らず、依然として聞き取りづらい状態が続くこともあります。補聴器を有効に使用するためには、ある程度の聴覚訓練が必要です。

老化を防ぐために、日常の健康管理と精神安定に気を付けることはいうまでもありませんが、耳に悪影響を与える騒音や薬剤の使用は、できるだけ避けるようにします。

🇿🇼老人性鼻炎

加齢による鼻粘膜の機能低下により、鼻水が頻繁に出る状態

老人性鼻炎とは、加齢による鼻粘膜の機能低下により、無色透明で粘り気のない鼻水が頻繁に出る状態。老人性鼻漏とも呼ばれます。

特に、70歳以上の高齢者がなりやすいといわれています。風邪のような悪寒、せき、発熱などの症状があるわけではなく、アレルギー性鼻炎のようなくしゃみの症状があるわけでもないのに、寒い季節を中心に頻繁に鼻水が出る。寝起きから朝方にかけて、鼻水が出る量が多い。食事の時にも鼻水が出やすく、ラーメン、うどん、カレーライスなど熱い物や辛い物を食べている時にはその傾向が強い。これらが、老人性鼻炎の代表的な症状です。

鼻は、外界から体に必要な空気を吸い込むための大切な器官。外界の空気は、乾燥していたり、そのまま肺に入ると有害なほこり・ごみのような成分も含んでいます。それゆえに、鼻の中の粘膜は常に粘液を分泌し、乾燥した空気を湿潤にして、ほこり・ごみなどの異物を粘液に絡み取ってきれいにしています。鼻の中の粘膜から分泌された粘液が過剰になっている状態が、鼻水です。

この鼻水が頻繁に出る老人性鼻炎を生じるのは、加齢によって鼻の中の粘膜機能が低下するのが原因ではないかといわれています。

年齢を重ねるにつれて、鼻の粘膜が本来持っている水分吸着力が低下します。それに伴い、呼吸とともに吸い込んだ空気に含まれる水分のうち、吸着しきれなかったぶんが鼻の中にたまっていき、無色透明で粘り気のない鼻水が過剰に分泌されて、体外に排出されるのです。

この種の鼻水は、油断するとすぐに鼻から垂れてしまいます。症状がひどいと、鼻水がストレスになり、「人前で鼻水が出てしまっては恥ずかしい」、「一日中鼻をかんでいるような状態では人に会いたくない」といった気持ちを抱いて、外出を控えてしまうこともあります。

自宅で行う対症療法として市販薬を使う場合は、「水様の鼻水を止める」などの効能をうたっている内服薬が効くこともあるようです。ただし、老人性鼻炎は加齢に伴って生じるいわば老化現象の一つであるため、副作用があって長期連用できない薬は使わないほうがよいでしょう。

薬に頼るよりも、鼻から吸い込む空気をエアコンやスチーム型の加湿器などで温めたり、体を温めることが効果的です。朝起きたら家の中で軽く体を動かすなど、血行をよくして体を温めると、症状が柔らぐこともあります。

外出の際には、鼻の粘膜を刺激する冷たく乾燥した空気や異物の侵入を防ぐマスクを着用することが、鼻水が出るのを防ぐ有効な手段といえます。

熱い物や辛い物を食べている時に、鼻の粘膜が刺激されて鼻水が出るのを防ぐ対策はなく、それらを食べるのを避けることが予防になります。また、鼻を強くかまないように気を付けます。

老人性鼻炎は薬が効きにくい傾向にありますが、全く無効というわけでもなく、また、重症の場合には、手術で鼻水を出にくくさせる方法もありますので、耳鼻咽喉(いんこう)科を受診することが勧められます。

老人性鼻炎の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、症状に基づき、がん、アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔(ふくびくう)炎を除外することで、老人性鼻炎と確定します。

専用のスコープを使って直接、鼻腔の粘膜の状態を観察する鼻鏡検査で、がんやポリープを除外します。血液検査で、アレルギー性鼻炎を除外し、X線(レントゲン)検査で、慢性副鼻腔炎を除外します。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、鼻水の分泌を抑える抗ヒスタミン薬や漢方薬などの内服薬、副腎(ふくじん)皮質ホルモンや抗ヒスタミン剤が含まれる点鼻薬を主に使います。しかし、長期間の経過観察が必要です。症状を抑える薬を使用すると、その時は改善しても、再発することが多く、完全に治ることが難しいからです。

薬物療法に効果を示さない場合は、鼻水の分泌をコントロールする自律神経の副交感神経を遮断する後鼻神経切断術という手術を行うこともあります。入院、全身麻酔の必要な手術のため、特に高齢者の場合は慎重に適応を考える必要があります。

♐漏斗胸

胸板が陥没し、あたかも漏斗のような外観を示す胸郭の変形

漏斗胸(ろうときょう)とは、胸板が陥没し、あたかも漏斗のような外観を示す胸郭の変形。先天的に変形を認めるもので、小児期に発症します。

脊椎(せきつい)から左右に12本の肋骨(ろっこつ)が出ていますが、この肋骨は前の方で肋軟骨となり、前胸部の中心にある胸骨につながっています。この胸骨が陥没しているのが漏斗胸ですが、先天的に肋軟骨が後方に過剰発育するのが原因と考えられています。それゆえ、幼児期にはそれほど目立たなかったものが、成長とともに陥没がひどくなることがあります。

数百人に1人の頻度で発生し、男女比は4対1で男子に多いとされています。女性は胸の膨らみで隠せるため、実際にはそれほど差はないと見なされています。

遺伝が関係している場合もあり、マルファン症候群、くる病、骨形成不全症などさまざまな疾患の一症状として出現することがありますが、その一方で全く遺伝的関係のない場合もあります。

また、まれではありますが、鳩胸(はとむね)と呼ばれ、胸板が前方に突出し、あたかも鳩の前胸部を思わせるような胸郭の変形と、漏斗胸による胸郭の変形を併発する場合もあります。例えば、右側の胸板が鳩胸で、左側の胸板が漏斗胸のような状態を示します。

外観上の胸の変形が主だったものであり、一般的には無症状です。しかし、高度な漏斗胸においては、心臓や肺が圧迫されて肺活量が減ったり、風邪、気管支炎、喘息(ぜんそく)などの呼吸器障害を起こしやすかったり、運動時に心臓の圧迫による循環障害を起こす場合があります。

また、扁桃腺(へんとうせん)のはれと漏斗胸が合併することがあり、扁桃腺による呼吸器症状が漏斗胸の陥没を増す可能性があります。この場合、扁桃腺を治療すると陥没が改善するケースもあります。

高度な漏斗胸においては、治療の重要性が改めて評価されつつあります。身体的症状よりも、むしろ美容上の著しい変形を気にすることによる精神的苦悩のほうが問題になり、プールに入るようになると悩む小児もいますので、小児科、小児外科、整形外科、形成外科、美容外科の医師を受診することが勧められます。

漏斗胸の検査と診断と治療

小児科、小児外科、整形外科、形成外科、美容外科の医師による診断は、その特異な胸郭の変形から容易ですが、胸骨の状態、心臓、肺への影響を調べるためにX線検査、CT検査、MRI検査、心電図検査などを行うことがあります。

小児科、小児外科などの医師による治療は、新生児、乳児期の漏斗胸の場合、胸の変形は時に自然治癒することがあるとされているため、ほとんどは経過観察します。

3、4歳以降になると自然治癒は期待できず、変形を矯正するためには手術を行うことになります。軽度の漏斗胸では、扁桃腺の治療や、水泳などの運動、筋肉トレーニングで胸筋を鍛え上げるとカバーできる可能性がありますが、補助的な役割であり、胸の陥没そのものが治ることはありません。

手術をするかしないかは、身体的障害の程度、機能的障害の程度、変形の程度、精神的障害の程度などを総合的に判断して、主治医、発症者本人、家族と相談の上、決定することになります。手術の時期は、骨が軟らかい小学校低学年前後が最適とされています。

漏斗胸の手術法としては、変形した部分の胸骨を引っくり返す胸骨翻転(ほんてん)術や、肋軟骨を切除して胸骨を上に持ち上げる胸骨挙上(きょじょう)法があります。胸骨挙上法には、骨と軟骨に骨切りを加えて持ち上げる方法と、金属プレートによって骨切りをすることなく胸骨を持ち上げる方法の2種類があります。いずれの方法も利点と欠点がありますが、最近では後者が一般的に行われるようになってきました。

後者は開発したアメリカの医師にちなんでナス法と呼ばれ、胸の両わきを小さく切開し、そこから金属製の弓形のバーを陥没している胸骨の裏側に入れ、裏側から前方へと胸骨を押し出して矯正し、子供で約2年、成人で約3年程度胸骨をよい位置で固定し、再手術でバーを抜き取る方法です。手術時間も短縮でき、胸に残る傷跡が小さいので、漏斗胸の手術の標準的なものになってきています。

ナス法による手術は、公的医療保険が使え、入院は10日前後で、再手術のための入院は3、4日ほど。手術後は3カ月ほどの運動制限が必要で、金属製のバーが入っている間は空手などのコンタクトスポーツはできません。

🦶ローアーチ

足の裏の土踏まずのくぼんだ部分がなくなり、扁平化した足の変形

ローアーチとは、足の裏の土踏まずのくぼんだ部分がなくなって、足の縦、横の軸とも扁平(へんぺい)化した足の変形。扁平足、フラットフットとも呼ばれます。

起立時や歩行時には足の裏のアーチがつぶれていて、足の裏全体が地面にくっつきます。

乳幼児では足底の脂肪が多いため、土踏まずがないのは当たり前のことで、8歳ごろで形成される足の裏のアーチができていないものをいいます。遺伝によるローアーチもありますが、生活の中で改善していけるものでもあります。スポーツ選手などでも土踏まずがなく、ローアーチに見える人もいますが、足の裏にも筋肉がついているのでそう見えるだけです。

本当のローアーチは、立ち仕事を長時間する人に最もよくみられます。体重をかけていない時には土踏まずがある軟らかいローアーチと、体重をかけていない時にも土踏まずがない硬いローアーチがあり、多くの場合は前者です。前者では体重をかけて立ったり、歩いたりすると土踏まずがなくなります。

ローアーチの障害としては、起立時や歩行時の足の痛みが主なものです。 ほかに、歩きにくい上に変な歩き癖がついてしまい、すぐに疲れやすいという難点があります。足の裏のアーチがないために、歩く際の足の一連の動きの中で地面をけり上げるという行為が足への負担となって、疲れやすくなるのです。

歩き癖によって、膝(ひざ)が痛くなったり、腰痛や外反母趾(がいはんぼし)を招く場合もあります。足の裏のアーチがないために、足の裏全体の血管が圧迫されることになり、血流も悪くなります。結果的には、むくみや冷えなどの症状も出てきます。神経も立っている間中、圧迫されるために、痛みが出ることもあります。

痛みがあって、歩行が困難な場合もあります。土踏まずの上にある舟状骨が出ている場合で、靴が土踏まずの部分に当たり、痛みが生じます。ひどい症状になると、骨が離れて出っ張った状態になって、激しい痛みが生じます。

ローアーチの検査と診断と治療

整形外科、ないし形成外科、足の外科の医師による診断では、外観上の変形から容易です。骨の状態を把握して重症度を判定するためには、X線(レントゲン)検査が必要で、通常、立って体重をかけた状態で撮影します。

整形外科、ないし形成外科、足の外科の医師による治療は、もっぱら保存的に行われ、土踏まずの形をつけるように足底に装具を入れた治療靴を用いたり、足の筋肉の強化練習などが行われます。舟状骨が出ている場合には手術が必要になりますが、こうしたケースはごくまれです。

乳幼児のローアーチを改善するには、靴下や靴を履かせずに、裸足(はだし)で砂場を歩かせて足の裏を刺激するという方法があります。子供、大人に限らずに、望ましいのは部屋の中では裸足でいることです。

大人のローアーチを改善するのにも、足の裏を刺激することが最善の方法であり、痛みがあるからといって歩くのをためらっていてはいけません。靴の中敷きに、アーチサポートという、土踏まずが当たる部分の盛り上がっているものを使うと、歩行が楽になります。近年では、矯正するためのテーピングが内蔵された靴下も販売されています。

歩く時は、足の指をしっかり使って歩くようにして、足の裏の筋肉を鍛え、血行促進を図ります。日ごろの生活の中で、意識してつま先立ちをするのもお勧めです。

☦ロキタンスキー症候群

子宮の発育が不完全で、膣が全くない先天性の障害

ロキタンスキー症候群とは、先天的に女性の腟(ちつ)全部が欠損し、機能性子宮を持たない疾患。ロキタンスキー・キュストナー・ハウザー症候群、メイヤー(マイヤー)・ロキタンスキー・キュスター・ハウザー症候群とも呼ばれます。

ロキタンスキー症候群は、先天的に女性の腟の一部、または全部が欠損した腟欠損症の一種で、その中で最も頻度の高いものです。

腟欠損症の女性では、先天的な原因により腟や子宮の異常がさまざまな程度に起こります。染色体は正常女性型で、卵巣はほとんど正常にあり、女性ホルモンも正常に出ています。外陰部も正常で、女性としての二次性徴も正常です。

母親の子宮の中にいる胎児の時には、卵巣、腟・子宮・卵管、外陰部は別々に発生してきて、本来はこれらがうまくつながります。このうち、腟・子宮・卵管はミュラー管という組織が分化して形作られますが、たまたま分化が行われずに発生不全が起きると、子宮はわずかに痕跡(こんせき)を残す程度にしか発育せず、腟も長さが2~3センチと短いか、全くない状態になります。これが腟欠損症です。

はっきりした原因はまだわかっていませんが、血管に異常が起こってミュラー管へ血液が流れなくなり、正常な発生ができなくなると推測されています。

腟欠損症は、医学的には上部腟欠損、下部腟欠損、全腟欠損に分類されます。頻度は4000~5000人に1人とされ、そのうち95パーセントは月経を起こし得る機能性子宮を持ちません。

機能性子宮を持たず、全腟が欠損しているロキタンスキー症候群は、月経機能を失っている状態で、月経血の貯留による症状はみられず、無月経がほぼ唯一の症状となります。

卵巣からの排卵はありますが、体内で死滅して吸収され、体外に排出されるということはありません。また、先天的に腟全部が欠損していますので、普通の性行為はできません。まれに、骨の異常があることもあります。

自然妊娠はできませんが、ロキタンスキー症候群では膣や子宮に問題があっても、卵巣機能に異常はなく正常に機能している場合がほとんどですので、当然卵子は正常に作られています。つまり、卵子を採取して体外受精を行い、代理出産すれば、遺伝的につながった自分の子供を持つことは可能です。

倫理的な問題や、代理出産に伴うリスクなど課題を残しながらも、不妊に悩む人にとって代理出産は最後の切り札ともいえます。

ロキタンスキー症候群に気付いたら、婦人科医、ないし産婦人科医を受診してください。

ロキタンスキー症候群の検査と診断と治療

婦人科、産婦人科の医師による診断は、内診のほか、超音波検査、MRI検査、基礎体温の測定、血液中ホルモン検査、腎臓(じんぞう)と尿管の検査、骨のレントゲンなどを行います。

婦人科、産婦人科の医師による治療では、性行為ができるように人工的に膣を造る造腟手術を行います。子宮に異常を伴うため自然妊娠は不可能で、造腟手術により性行為を可能にして患者の精神的不具感をいやすことが治療の主眼となります。手術は、思春期以降の性的関係を持つ時期を目安に行われます。

造腟手術には数多くの術式があり、今なおさまざまな工夫が試みられています。主な術式は、フランク法、マッキンドー法、ダビドフ法、ルーゲ法の4つです。

フランク法は、腟前庭(ぜんてい)をヘガール持針器などで圧伸して腟腔(ちつくう)を形成したのち、その腟腔を拡張する方法。マッキンドー法は、出血を余儀なくされる処置で腟腔を形成したのち、皮膚移植により腟壁を形成する方法。ダビドフ法は、出血を余儀なくされる処置で腟腔を形成したのち、骨盤腹膜を利用して腟壁を形成する方法。ルーゲ法は、出血を余儀なくされる処置で腟腔を形成したのち、開腹してS状結腸を切り離し、腟管として利用する方法。

以上4つの方法が従来行われてきましたが、近年では腹腔鏡下手術が行われることも増えてきました。患者の体にかかる負担を軽減し、骨盤腹膜やS状結腸を使った手術が可能となっています。

このような手術の後には、膣管の状態を維持する必要があります。定期的な性交渉やプロテーゼ(腟ダイレーター)により、状態を保たなければいけません。プロテーゼ(腟ダイレーター)とは、筒状の拡張器具のことを指し、皮膚を伸展させて腟腔を形成する目的で使用されます。

♉肋膜炎

肋膜に炎症が起こり、胸水の量が増えて胸腔にたまった状態

肋膜(ろくまく)炎とは、胸膜炎の俗語で、肺臓などを包んでいる二重の膜である肋膜(胸膜)に炎症が起こり、胸水の量が増えて胸腔(きょうこう)にたまった状態です。

肋膜が包む胸壁が肋骨(ろっこつ)で形成されているために、肋骨表面の骨膜まで炎症が及んだものを、かつては肋膜炎と呼んでいましたが、現在では、より広い意味の胸膜炎と同義です。

胸水がみられない乾性肋膜炎が起こる場合もありますが、胸水がみられる湿性肋膜炎の発症がほとんどを占めます。

二重の肋膜は、左右の肺の表面を包む臓側(ぞうそく)肋膜と、胸壁、横隔膜、縦隔(じゅうかく)を包む壁側(へきそく)肋膜からなっています。内層の臓側肋膜と、外層の壁側肋膜に囲まれた部分が、胸腔(胸膜腔)であり、ふだんはほとんど透き間がありません。

健康な人でも、壁側肋膜から胸腔に向かって胸水が漏出しています。その量は1日に5~10リットルといわれ、主に臓側肋膜から再吸収されるため胸腔に胸水が貯留することはありませんが、わずかに数ミリリットル程度が存在するといわれます。

肋膜炎によって胸腔に胸水が貯留すると、ほとんどの人は胸痛、背部痛を感じ、量が多くなると呼吸困難を起こします。また、原因によって差がありますが、発熱することが多く、咳(せき)、痰(たん)、血痰(けったん)、体重減少なども起こります。

このような症状のある時、深呼吸や咳で増悪する胸痛を自覚する時には、速やかに呼吸器科、内科を受診してください。特に気を付けなければならないのは急性肋膜炎で、これは肺炎、肺がん、結核などが進行して、肋膜を侵すことによって発症します。喫煙者が症状を感じれば、肺がんなど悪性腫瘍(しゅよう)によるものの可能性が高まります。

肋膜炎の原因は多岐に渡りますが、感染症、悪性腫瘍が主なものであり、膠原(こうげん)病、肺梗塞(こうそく)、石綿肺(せきめんはい)、低蛋白(たんぱく)血症、うっ血性心不全、消化器疾患でも胸水がたまります。

感染症の中では結核や細菌感染によるものが多く、悪性腫瘍の中では肺がんによるものが多く、それぞれ、結核性肋膜炎、細菌性肋膜炎、がん性肋膜炎と呼ばれています。

結核性肋膜炎は、結核菌の感染によって起こるもので、一般には肺内に結核病巣があり、それが肋膜に波及して発症します。

細菌性肋膜炎は、肺に起こった細菌感染に伴って胸水が貯留する状態です。肋膜への細菌感染を伴う場合と伴わない場合があり、肋膜への細菌感染を伴う場合を膿胸(のうきよう)といい、貯留した胸水が化膿(かのう)菌を含み、膿性となった状態です。

がん性肋膜炎は、悪性腫瘍が直接、肋膜に浸潤したり、肋膜への転移が起こると胸水が貯留します。原因としては肺がんがもっとも多く、乳がん、胃がん、卵巣がんなど、いろいろな部位のがんでも起こります。まれには、肋膜から発生する悪性中皮腫(ちゅうひしゅ)が、原因となることもあります。

肋膜炎の治療においては、医師の聴打診のみでも診断が得られることがあります。胸水のたまった部位が打診で濁音を示し、呼吸音が弱くなり、臓側肋膜と壁側肋膜が擦れ合う特徴的な肋膜摩擦音が聞かれる場合です。

胸部X線検査で、胸水がたまっているのが明らかにされます。胸水が少量の場合には、胸部CT検査で初めて診断が得られる場合もあります。

 肋膜炎の原因を調べるために、胸水検査が行われます。肋骨と肋骨の間から細い針を刺し、胸水を採取します。採取した胸水が血性であれば、結核や悪性腫瘍を疑います。次いで、胸水の比重や蛋白濃度を調べたり、白血球分類、培養などによる細菌学的検査を行います。

胸水の検査だけで診断が得られない場合には、胸腔鏡を用いて胸腔内を肉眼的に観察し、病変と思われる部位を生検して、確定診断をする場合もあります。

こうして突き止めた原因に応じた治療が行われますが、細菌や結核による肋膜炎の予後は一般的には良好なのに対して、悪性腫瘍によるものでは極めて不良です。

♈ロタウイルス腸炎

ロタウイルス腸炎とは、オーストラリアのビショップが1975年に発見したロタウイルスの感染により、乳幼児に起こる腸炎です。冬季に気温が5℃以下になると、流行することがあります。別名は、乳児嘔吐(おうと)下痢症、仮性小児コレラ、白色便性下痢症など。

発展途上国では乳児死亡の主な原因の一つに挙げられていますが、生後6カ月から2歳までの乳幼児が好発年齢であり、発病すると重症化しやすくなります。3カ月未満では母親からの免疫で守られ、3歳以上の年齢層では発病しても一般には軽症です。

症状としては、1日に数回から十数回の下痢が5~7日続き、酸っぱい臭いの、白い便が出ることが特徴です。発病初期には吐き気、嘔吐を伴うのが普通ですが、通常、半日から1日で落ち着きます。軽い発熱と、せきを認めることもあります。

ロタウイルスは感染力が強く、下痢便中に大量に排出されるウイルスなので、便に触った手から、口に感染することがほとんどです。乳幼児の世話をする人は、便とオムツの取り扱いに注意が必要です。せっけんを使って十分に手洗いをし、漂白剤や70パーセントアルコールの消毒液で、オムツ交換の場所や周辺をふきましょう。

ロタウイルス腸炎には、特効薬はありません。医師による治療では、嘔吐の時期には絶食、絶飲、吐き気が治まると、下痢による脱水症状を改善するための対症療法が用いられます。水分投与から始まり、徐々に増量し、さらに野菜スープなどへと進め、脱水と電解質の補給が行われます。

脱水症状の兆候としては、ぐったりしている、機嫌が悪い、顔色が悪く目がくぼんでいる、皮膚の張りがない、唇が乾燥しているなどが挙げられます。これらの脱水症状の兆候が見られたら、できるだけ速やかに医療機関を受診することが、体力のない乳幼児にとって大切なことです。

☕肋間神経痛

肋間神経に何らかの原因で痛みが現れる疾患

肋間(ろっかん)神経痛とは、肋骨(ろっこつ)に沿って走る肋間神経に、何らかの原因で痛みが現れるものです。発作性に起こるケースと、慢性持続性に起こるケースとがあります。

痛みはふつう片側に起こり、針で刺されたような鋭い痛みが繰り返し起こりますが、持続するのは短時間。深呼吸やせきなどで、痛みが誘発されます。

発病は中年以降に多く、原因が不明のものと明らかなものがあります。後者では、帯状疱疹(ほうしん)の治療後に、激痛発作を繰り返すことがあります。コックサッキーウイルスの感染や、風邪などが原因でも起こります。

時には、肋骨カリエスや肋骨へのがんの転移によることもあり、また、狭心症、胸膜炎など胸部の内臓疾患の放射痛として起こることもあり、その識別が大切。

治療においては、ふつうの鎮痛剤でも比較的よく効きますが、痛みが激しい場合には、その神経、あるいは神経根をアルコール注射で麻酔したり、切除することもあります。催眠剤や向精神薬として用いられるトフラニールなどの服用も、有効です。

✈ロングフライト血栓症

飛行機内などの座席で長時間、同じ姿勢を取り続けて発症する血栓症

ロングフライト血栓症とは、飛行機内などで長時間、同じ座席で同じ姿勢を取り続けることにより、静脈内に血栓を生ずる疾患。ロングフライト症候群、旅行者血栓症、エコノミークラス症候群、静脈血栓塞栓(そくせん)症、深部静脈血栓症とも呼ばれます。

飛行機のエコノミークラス以外の座席、飛行機以外の列車、バス、自動車などの交通機関や施設の座席でも、発症することがあります。

飛行中の機内では乾燥した環境のため、長時間のフライトでは体の水分が失われ、血液が濃縮して固まりやすい状態にあります。さらに、狭い座席に同じ姿勢でずっと座り続けていることで、下肢や腰が圧迫され静脈血の心臓への巡りが徐々に悪くなり、体の深い組織内にある下腿(かたい)静脈や、大腿(だいたい)静脈、あるいは骨盤内の深部静脈内に、血の固まりである血栓ができやすくなります。

そして、およそ6時間を超える長時間のフライトを経験した時には、血栓ができる傾向があります。

血栓が左右両側の下肢の深部静脈内に同時にできることは極めてまれで、左右どちらかの膨らはぎなどの内部に不快感、鈍い痛み、はれなどを起こします。一般的には4対1の割合で、左側の下肢に発生します。

軽症の血栓が、さらに血液の流れに沿って心臓側に徐々に延び、成長していって、大腿部あるいは骨盤内の深部静脈までふさいでしまい、片方の下肢に強い痛みやむくみが出たり、チアノーゼを起こして青紫色に変色したりします。

中等症の血栓が、座席から立ち上がった際などに血管壁からはがれ、血流に乗って大静脈を上行していったん心臓に入り、次いで、酸素を取り入れる器官でもあり、血液のフィルターでもある肺動脈に詰まると、肺塞栓症となります。

肺動脈が詰まると、その先の肺胞には血液が流れずガス交換ができなくなる結果、換気血流に不均衡が生じ、動脈血中の酸素分圧が急激に低下し、呼吸困難を起こします。また、肺の血管抵抗が上昇して、全身の血液循環に支障を来し、脈の増加、失神などを起こします。

軽度であれば胸焼けや発熱程度で治まりますが、最悪の場合は死亡に至ることもあります。

血栓が心臓を経て肺動脈に詰まる重症例は、10時間以上の長時間のフライトで発症する傾向にあります。男性よりも女性にやや多く、40歳代後半から50歳代に発症しやすいと見なされています。

とりわけ、下肢に静脈瘤(りゅう)のある人、下肢の手術をした人、血液の凝固能に異常のある人、経口避妊薬を服用している人、妊娠中や出産後の人などは、発症しやすいので注意が必要とされます。

このロングフライト血栓症は、急性期に適切な治療がなされないと、慢性期に静脈血栓後症候群に悩まされることとなります。静脈高血圧のために、皮膚の浅い部分にある皮(ひ)静脈(表在性静脈)に静脈瘤ができたり、下肢の倦怠(けんたい)感、むくみが生じたり、栄養不足のために色素が沈着したり、皮膚炎や湿疹(しっしん)を起こしやすくなったり、治りにくい潰瘍(かいよう)ができたりすることもあります。

ロングフライト血栓症の検査と診断と治療

循環器科、呼吸器科などの医師による診断では、皮膚の浅い部分にある皮(ひ)静脈(表在性静脈)に起こる血栓性静脈炎などの紛らわしい疾患と区別するため、静脈造影、超音波ドプラー法、造影CT、MRA(核磁気共鳴検査)、血流シンチなどを行います。また、原因となる血液凝固異常の有無や、血栓を生じたことを確認するために、血液検査も行われます。

循環器科、呼吸器科などの医師による治療では、急性期においては、血栓の遊離による肺塞栓を予防するため、下肢のむくみや痛みが軽減するまで安静を保ち、下肢を高く上げておくことが必要です。

痛みに対しては非ステロイド抗炎症薬を使い、血栓の治療と予防には抗凝固剤や血栓溶解剤を使います。下肢のチアノーゼがひどい場合や、症状が重く急を要する場合には、カテーテル治療や血栓摘除術によって直接血栓を除去します。将来、肺塞栓などの重症な疾患に発展したり、静脈血栓後症候群が生じる危険もあり、治療には十分な注意が必要とされます。

なお、ロングフライト血栓症の予防には、血液が固まりにくいようにミネラルウオーターやお茶などで水分を補給したり、長時間に渡って同じ姿勢を取らないようにし、2~3時間ごとに通路を歩いたり、下肢の屈伸運動などをしたり、着席中にも足を少しでも動かしたり、ふくらはぎを軽くもむなどして、下肢の血液循環をよくすることが有効です。

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