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2022/09/11

🇳🇿脳卒中

 動脈硬化などで血液の流れが悪くなり、脳内の血管や中枢神経が障害を受けると、突然手足が動かなくなったり意識がなくなる発作が起こります。これが脳卒中です。

 治療技術の進歩により、年々死亡率は低下していますが、逆に脳卒中にかかる人の数は増加しています。高齢化が進んだり、食生活が欧米化することによって、動脈硬化の原因となる高血圧、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病が増えてきたことに原因があると思われます。

 脳卒中は、以下の2つに大きくわけられます。

  脳出血(脳内出血、クモ膜下出血)   脳梗塞(脳血栓、脳塞栓)

 脳内出血は、長期間の高血圧状態により、脳内の動脈に強い圧力がかけられた結果、血管がもろくなり破れて出血するものです。

 症状は出血した部位により異なりますが、出血によって脳内の圧力が高まるため頭痛や吐き気が見られ、時間の経過とともに半身が麻痺したり、意識がもうろうとすることもあります。 

 出血が少なければ症状は軽く薬物療法で対応することも可能ですが、根本的には高血圧体質を改善する必要があります。

 日中に起こることが多く、仕事中や運動中、入浴時などに起こります。

 クモ膜下出血は、脳の表面にある血管が破裂して、脳を覆っている柔らかい膜(クモ膜)の下に出血が広がった状態です。

 原因は脳の表面を走る動脈にできたこぶが破裂するものが最も多く、中高年の人に多くみられます。

 症状としては、前触れなしに突然激しい頭痛が起こり、「バットで殴られたような痛み」とも表現されます。嘔吐、痙攣が見られることもあります。

 また、時間とともに後頭部から首の後ろが痛んで硬くなり、首が曲がらなくなり硬直してきます。出血が起こるのが脳の表面であるため、発作時に手足の麻痺が起こることは少ないものの、出血がひどくなると、時には言語障害や半身麻痺を引き起こします。

 発作後2週間以内の再発率が高く、その場合は死亡の確率が非常に高くなるため、繰り返し頭痛が続くなどの兆候がある場合は、いつでも医療機関と連絡がとれるような体制をつくっておくことが必要です。

 脳血栓は、脳の血管に動脈硬化などが起こり、細くなった部分に血栓が詰まった状態です。血圧が低下すると血流がさらに弱まるため、血圧の低い睡眠中や起床時に起こりやすい病気です。

 突然、手足に力が入らなくなったりする症状が出たら要注意で、そこから少しずつ麻痺が進んでいくケースが一般的です。

 症状は、動脈硬化とともに徐々に進行していきますが、発症の兆候としては頭痛、めまい、言語障害、半身麻痺などが見られます。

 脳塞栓は、血栓が血液の流れに乗って脳の血管の中に入り、血流を止めてしまう状態です。

 発作は突然起こり、手足のしびれ・麻痺、ろれつが回らなくなるなどのほか、言葉が出ない、人の顔の判断がつかない、道がわからない、など痴呆に似た症状が出ることもあります。 

 私たち人間の脳には身体全体の約30%の血液が必要ですが、血流が不足して酸素が行きわたらなくなると、脳細胞は大きなダメージを受けます。

 今までに脳卒中を起こしたことがある人や、高血圧、心臓病、糖尿病、高脂血症などの病気にかかったことがある人、オーバーウエイトの人は、特に注意が必要です。

 脳卒中は、命はとりとめても言語や運動機能に大きな障害を残すことが多いため、早期発見と予防が何よりも大事です。 

* 手足のまひ

* ろれつが回らない

* 激しい頭痛・めまい・吐き気がある

* 視野がせばまる

 など脳卒中の前ぶれがあった時は、ただちに医療機関にかかるようにします。

 血管は加齢とともに弾力性が落ちていきますから、年齢が上がると発症しやすくなります。また、心臓に障害がある場合に起こりやすくなるので、不整脈、弁膜症、心筋梗塞などの心配がある方は、特に注意が必要です。

 食生活などに気を配り、ストレスをためないようにしましょう。定期的に脳ドックによる検査を受けることも、お勧めします。

 このほか、夏は脱水症状にならないよう適度な水分補給を心掛けましょう。夏は発汗のために血液が濃くなり、血栓ができやすくなるからです。

 また、冬は気温が下がり、血管が収縮して血圧が高くなる傾向にあるので、入浴や外出時など急激な温度差には十分注意して、心臓や血管に過度の負担をかけないようにしましょう。

2022/09/05

🇳🇱脳梗塞

●脳梗塞の原因による3タイプ

脳梗塞(こうそく)とは、脳の血管が詰まって血流を止めてしまうため、脳に供給される酸素や栄養が不足して、脳が十分な機能を果たせなくなる病気です。動脈硬化などがあると、脳の細動脈に血栓、凝固塊、脂肪塊、石灰片、腫瘍(しゅよう)塊などが詰まりやすくなり、ある日突然、発症します。

この脳梗塞には「脳血栓」と「脳塞栓」の2通りがありますが、その原因によって次の3タイプに分けられます。

1、アテローム血栓性脳梗塞

太い血管の動脈硬化が原因となります。糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病による動脈硬化によって、脳の太い動脈や頚動脈が詰まるタイプで、特に睡眠時に多く発症します。現在、脳梗塞患者の3割以上を、このタイプが占めると見なされています。

2、ラクナ梗塞

高血圧などによって、脳の細い血管が詰まるのが原因となります。梗塞部が小さいので症状が全く出ないか、出ても比較的軽いのが特徴で、特に睡眠時に多く発症します。脳梗塞患者の約4割を、このタイプが占めるとされています。

3、心原性脳塞栓

心臓にできた血栓が血流に乗って脳に流れて行き、血管が詰まるのが原因となります。心房細動、急性心筋梗塞、心臓弁膜症、心筋症、不整脈などにより、心臓内の血液が停滞してできた血栓や血の塊が脳血管を詰まらせて血流がストップし、脳組織が壊死した 状態に陥るので、重症の脳梗塞を起こします。

突然の発作として起こるタイプで、日中の活動時に多く発症します。脳梗塞患者の約2割を占めると見なされ、 60~70歳代の人に多くみられます。

脳梗塞の症状としては、半身不随、半身麻痺(まひ)、しびれ、感覚の低下、手足の運動障害、意識障害、言語障害、昏睡(こんすい)などが見られます。脳血栓では、症状が数日かけてゆっくり出現することが多いのに対して、脳塞栓では突然、意識障害などが出てきます。

統計学的にみると、「脳梗塞」と「脳出血」、「くも膜下出血」の総称である「脳血管障害」、いわゆる「脳卒中」による死亡者数は、2004年の統計で約12万9000人。2006年現在では、脳卒中の死亡者の70パーセントが脳梗塞、20パーセントが脳出血、10パーセントがくも膜下出血となっています。食生活の欧米化などによって、30数年前には脳梗塞より多かった脳出血が減少し、最近は脳梗塞が増加しております。

脳梗塞を含む脳卒中は、がん、心臓病に次いで、日本人の死亡原因の第3位です。しかし、3大疾病の中でも脳卒中は有病率が増加しており、突然、何かに当たったように発症する怖い病気なのです。脳卒中の「卒」には「突然」、「中」には「当たる」という意味があります。幸いにして一命をとりとめても、寝たきりになったり、手足の麻痺や言語障害などの後遺症が残ったりする、厄介な病気でもあります。

●前ぶれ症状と治療法について

脳梗塞は急に起きますが、発症前に30パーセントの人に一過性脳虚血発作(TIA)と呼ばれる前ぶれ症状が現れます。

TIAの症状としては、運動障害として、ふらふらしてまっすぐ歩けない、感覚障害として、片方の手足のしびれ、片足を引きずる、手足から急に力が抜ける、ものにつまずきやすい、知覚障害として、片方の目が一時的に見えなくなる、物が二重に見える、言語障害として、言葉がで出なかったり・理解できない、バランス感覚の障害として、急にめまいがするようになったなどです。

一時的にでも前ぶれ症状があったら、1分でも早く脳卒中専門医を受診してください。

医師の側でも、脳梗塞が脳血栓によるものか、脳塞栓によるものかを正確に診断するのは困難です。脳梗塞が疑われる場合、病変の起きた部位を確認するために、CT、MRI、脳血管撮影などの検査を行います。心原性脳梗塞の場合は、心房細動が原因となるのでホルター心電図(24時間心電図)をとって調べます。

脳梗塞の治療法としては、急性期には抗血栓療法、脳保護療法、抗脳浮腫療法があります。抗血栓療法には、血小板の働きを抑えて血栓ができるのを防止する抗血小板療法とフィブリンができるのを防止する抗凝固療法があります。

欧米では10年以上前から、組織プラスミノーゲンアクチベータ(tPA)という血栓溶解剤を用いた血栓溶解療法が実施され、日本でも2005年10月より健康保険に導入されました。脳保護療法には活性酸素の働きを防止するエダラボンという薬剤を発症後24時間以内に使用すると後遺症が軽減されます。

脳梗塞を起こした部位が1~2日するとむくみが起こるので、抗脳浮腫療法により脳浮腫の原因となる水分を取り除きます。脳梗塞になって3時間以内の場合は血栓や塞栓を溶かす薬を使って治療します。薬が効いた場合には詰まった脳動脈が再度開通し、血流が流れます。

脳循環の改善薬や血栓・塞栓を予防する薬を使います。発症時にカテーテルを使い血管の血流を再開通させることも可能です。頚動脈の血栓内膜剥離術とバイパス手術により脳血流を改善させる手術も行います。いずれの治療法も脳の血管が詰まって壊死しかけている脳細胞(ケナンブラ)を助けることを目的としております。

●危険因子を取り除く生活改善を

脳梗塞を起こした人が社会復帰するまでの間に、いろいろな訓練が必要になります。これがリハビリテーションです。リハビリテーションの目的は残された機能を最大限に引き上げて、家庭復帰や職場復帰をさせるために行います。

脳梗塞の再発を防ぐには、血液をサラサラにして血栓を作らないようにすることが重要です。そのために抗血小板薬としてアスピリン、塩酸チクロピジン、シロスタゾールなどを用います。またフィブリンができるのを防ぐためにワルファリンカルシウムを用います。ただし、納豆を食べると薬の効果が弱くなるので、注意しましょう。

このほか、肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病を管理しましょう。食べすぎないよう注意し、適度な運動、禁煙、禁酒が必要です。再発の兆候を見つけるために、1年に1回MRIやMRA、頚動脈エコーなどの検査をして画像診断で脳血管や頚動脈の状態を調べましょう。

突然起こる脳梗塞は、さまざまな危険因子を抱えている人に、ある日発症しかねません。脳梗塞の危険因子としては、60歳以上の人、脳卒中の罹病(りびょう)歴のある家族がいる人、動脈硬化、高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病を持っている人、喫煙、大量飲酒、ストレスなどです。

脳梗塞にならないためには、生活習慣を改善しましょう。塩分を控えめにして1日に10g以内に抑え、ナトリウムの排泄を促すりんご、枝豆、バナナ、カボチャなどの食品を積極的に摂取しましょう。血圧を下げる作用がある乳製品などの食品や、マグネシウムを含む焼きのり、昆布、ごまなどの食品も食べましょう。

逆に、動物性脂肪やコレステロールを多く含む食品は控えめにし、アジ、サバ、イワシなどに多く含まれるEPA、DHAなどの不飽和脂肪酸を積極的にとりましょう。

適度な運動で積極的に体を動かし、太りすぎないように注意しましょう。十分な睡眠と休養、禁煙、節酒を心掛けましょう。夏は脱水症や夏風邪から脳梗塞になる人が多いので、水分を十分補給しましょう。

2022/08/10

🇸🇳脳炎

脳炎とは、ウイルスなどが原因となって、脳に炎症を来す疾患です。時には髄膜炎を伴い、髄膜脳炎の型をとることもあります。

原因となるウイルスには、日本脳炎ウイルス、コクサッキーウイルス、ロシアダニ脳炎ウイルス、単純ヘルペスウイルス、狂犬病ウイルスなどさまざまなものがあり、同定不能のケースも少なくありません。ウイルスのほか、ツツガムシや原虫、寄生虫なども原因となります。

脳炎の中でよく知られているものとしては、蚊によって伝染する日本脳炎が挙げられます。重症になる脳炎としては、単純ヘルペス脳炎が挙げられます。予防接種により、特に日本脳炎、はしか脳炎は減っていますが、最近はインフルエンザ脳炎、ヘルペス脳炎や原因不明の脳炎がよくみられます。

症状は、原因となるウイルスや細菌などによって、感染してから発症までの期間に差があります。1週間から1カ月、時には数カ月の潜伏期間の後、症状が現れることも。

症状の軽い場合は、頭痛、発熱、吐き気、嘔吐(おうと)などがみられ、症状が進むと、意識障害やけいれん、ウトウト眠ってばかりいる嗜眠(しみん)、訳のわからない言動、精神障害、知能低下、言語障害、項部硬直、運動まひなど、さまざま神経症状を現してきます。

経過や予後は、原因によっていろいろですが、単純ヘルペスウイルスによる脳炎の場合、予後がよくありません。口唇ヘルペスと性器ヘルペス(陰部ヘルペス)は、どちらも脳炎を起こしうるウイルスです。ふだんは、神経の根元に潜んでいますが、時に神経を介して脳に達し、脳炎を起こすことがあります。ヘルペス感染が疑われたら、抗ウイルス剤の投与と、副腎(ふくじん)皮質ホルモンの投与が必要です。

性器ヘルペス(陰部ヘルペス)では、出産に際して、産道や皮膚粘膜から新生児に感染し、ヘルペス脳炎を起こすことがあります。防止するためには、帝王切開で出産することも必要となりますので、婦人科の医師に前もって相談しておきましょう。

そのほかの原因による脳炎も、確実な治療法はなく、対症療法が中心になります。従って、予防が大切。体力が弱っている時には、風邪を始めいろいろの感染症にもかかりやすいわけですから、ふだんから疲れすぎないように、健康管理に気を付けることが予防の第一歩です。過労と睡眠不足を避けましょう。

🇸🇳膿胸

胸膜の感染症により、胸膜内に膿性の液体がたまった状態

膿胸(のうきょう)とは、胸膜が炎症を起こして、胸膜内にたまった液体が化膿菌を含み、膿性となった状態。

肺炎や肺膿瘍(のうよう)が胸膜に広がり、細菌が胸膜内に侵入して発症することが多く、胸腔(きょうくう)内手術後に続いて起こることもあります。寒け、高熱、胸痛、せき、背部痛などを伴い、胸膜内のうみが肺内に漏れると、膿性たんが吐き出されます。胸痛は、深呼吸やせきで増悪するのが特徴。うみが多量にたまってくると、息切れ、呼吸困難、胸部圧迫感なども起こります。重症の場合は、血圧低下や敗血症を伴い、ショック状態となります。

症状の期間によって、3カ月未満の急性膿胸と、3カ月以上の慢性膿胸に分けられます。

膿胸の原因のうち、最も多いのは肺炎で、肺炎の発症者の1〜2パーセントに認められます。肺炎の原因菌は肺炎球菌が多く、特に黄色ブドウ球菌性肺炎では引き起こしやすくなります。ほかにはクレブシエラ、グラム陰性桿菌(かんきん)が、膿胸の原因菌となります。

原因が肺結核の場合は結核性膿胸であり、年余に渡ってうみがたまり、慢性膿胸と呼ばれる病態を示すことがあります。慢性膿胸では、無症状のこともあります。

膿胸は高齢で寝たきりの人に発症しやすく、口腔内の細菌が肺内に流れ込みやすいのがその理由です。まれに、膿胸から悪性Bリンパ腫(しゅ)が発症します。

膿胸の検査と診断と治療

深呼吸やせきで増悪する胸痛を自覚し、発熱もあれば、早めに内科を受診します。高齢で寝たきりの人が胸痛や発熱を訴えた場合は、家族が病院に連れていったほうがよいでしょう。

医師による診断では、胸部X線検査で胸水がたまっている像が認められ、胸膜内に針を刺して採取した胸水が膿性であれば、膿胸と確定します。胸水は必ず細菌検査をし、結核菌も培養して調べます。細菌性膿胸でも、原因菌を検出できない場合もあります。血液検査では、白血球増加、CRP高値、赤沈促進などの炎症所見の高進が認められます。

また、胸部CT検査は膿状の液体がどのくらい、どこにたまっているのか判断するのに有用です。結核性膿胸の場合は慢性の経過をとり、多くは結核性胸膜炎の既住があって、胸水も膿性でなく褐色を示すことがあります。また、結核菌を証明できないことも多くあります。

膿胸の治療では、原因となる細菌に感受性のある抗生物質の全身投与と、チューブによって排液する胸腔ドレナージが行われます。

抗生物質は、広域ペニシリンや第2世代セフェム系の薬剤が点滴で投与されます。しばしば、アミノグリコシド系薬剤も併用されます。胸腔ドレナージでは、膿状の胸水の詰まりをなくすため、なるべく太いチューブ留置し、持続的に排液します。チューブから直接抗生物質を注入したり、生理食塩水で胸腔内を洗浄したりもします。

これらの治療により、多くは2〜3週間で治癒します。

難治性の慢性膿胸では、内科的治療のみでは治癒させることが困難であり、多く場合は外科的治療が必要になります。うみを排除し、膿胸ができて厚くなったた胸膜をはがす胸膜剥皮(はくひ)術や、膿胸の病巣を縮小、閉鎖して肺の膨張を図る胸郭形成術が行われます。

🇸🇱脳血管性認知症

脳の血管障害で起こる認知症

脳血管性認知症とは、脳の血管に血栓という血の固まりが詰まった脳梗塞(こうそく)や、脳の血管が破れて出血した脳出血など、脳の血管に異常が起きた結果、認知症になるものを指します。簡単にいうと、脳血管疾患の後遺症。

かつての日本では、認知症の中で最も多い疾患でした。1970年代、脳血管性認知症がおよそ60パーセントを占め、アルツハイマー型認知症の2倍程度でした。その後、脳血管性認知症の有病率が下がる一方で、アルツハイマー型認知症が増加し、現在ではアルツハイマー型認知症が50~60パーセント、脳血管性認知症が約30パーセントと逆転しています。

脳血管性認知症の主な症状は、日常生活に支障を来すような記憶障害と、その他の認知機能障害である言葉、動作、物事を計画的に行う能力などの障害で、他の認知症を来す疾患と大きな違いはありません。記憶などの認知機能の障害は、アルツハイマー型認知症より軽度のことが多いようです。アルツハイマー型認知症が女性に多いのに対して、男性に多くみられます。

脳血管性認知症の症状には、いくつかの特徴があります。まず第一に、突然の脳血管障害をきっかけに、急激に認知症が発症する場合と、小さな脳梗塞を繰り返して起こしているうちに、徐々に認知障害が現れる場合とがあることです。

後者の脳梗塞の多発によるものが、70~80パーセントと発症原因の大部分を占めます。脳血管性認知症は「多発梗塞性認知症」と呼ばれることもありますが、この命名は脳梗塞、特に小さい脳梗塞が多くできると認知症が出現することに、由来しています。

そして、脳血管障害を再発することで、階段状に悪化していくことが多くみられます。

脳梗塞で脳の太い血管や細い血管が血栓で詰まると、神経の細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなって、一部の神経細胞が死んだり、神経のネットワークが壊れてしまうために、脳の働きが悪くなって認知症が生じます。

より正確にいうと、脳梗塞は血管の詰まり方で、脳血栓と脳塞栓(そくせん)の二つに分けられます。まず、脳血栓は脳の血管が動脈硬化によって詰まって、血流が途絶えてしまうもので、動脈硬化の進む中高年以降に多くなります。一方、脳塞栓は体のほかの場所から流れてきた血栓によって、脳の血管が突然詰まってしまうもので、脳血管の動脈硬化の有無にかかわらず、かなり広い年齢層で起こり得ます。

脳梗塞以外にも、脳の血管が破れて起こる脳出血の後遺症として、認知症になることもあります。また、脳の海馬(かいば)や視床(ししょう)といった記憶に関係した特定の部位の血管が損なわれて、認知症が起こることもあります。損なわれた脳の部位、その程度や範囲によって、症状が異なります。

第二の特徴は、脳血管障害を発症した経験があったり、高血圧、糖尿病、心疾患、動脈硬化症、高脂血症など脳血管障害を起こしやすい危険因子を持っている人に、よく起こることです。危険因子のほとんどは、生活習慣病といわれるものに相当します。

症状としては、末期を除けば、すべての認知機能が一様に、顕著に低下するわけではありません。記憶力の低下ははっきりしていても、計算力はある程度残っているとか、時間や場所はわかるとか、対応は全く正常であるという場合が少なくありません。

初期から歩行障害、手足のまひ、ろれつが回りにくいなどの言語障害、パーキンソン症状、転びやすい、頻尿・尿失禁などの排尿障害、嚥下(えんげ)障害、その場にそぐわない泣きや笑いを示す感情失禁などがみられることも、しばしばあります。

アルツハイマー型認知症と比べて、人格は比較的よく保たれていることが多く、病気を自覚する病識も比較的保たれており、初期の段階では周囲の人には気付かれないことが多いものです。しかしながら、脳血管障害を起こす度に片まひや言語障害を来したりして、段階的に認知機能の程度が進んでいきます。

精神症状には、不眠、抑うつ、自発性の低下、意欲の減退、興奮、夜になると意識レベルが低下して別人のような言動をする夜間せん妄がみられます。

問題行動として、徘徊(はいかい)、行方不明、盗害妄想、幻視、人物誤認による異常行動、易怒、暴力行為、弄便(ろうべん)などの不潔行為、異食などが起こることがあります。

検査と診断と治療

脳血管性認知症の検査と診断法は、アルツハイマー型認知症とほぼ同じです。両者の区別は必ずしも簡単ではありませんが、よく利用されるのが脳の画像による診断方法です。

脳のCT検査やMRI検査によって、脳内の血管障害の有無、大きさ、損なわれた部位および脳の委縮の程度を知ることができます。

また、脳の血管を調べるMRA検査や脳血管造影検査、脳の血流を調べる脳血流シンチグラフィーによって、脳血管の狭窄(きょうさく)や閉塞(へいそく)の有無を知ることができます。脳梗塞にはなっていなくても、脳血管の狭窄や閉塞によって脳への血流が低下し、認知症を起こしている場合もあります。

さらに、エコー検査によって、脳の動脈硬化の程度を知ることができます。この検査は、首の左右にあって脳に血液を運ぶ2本の頸(けい)動脈の動脈硬化の程度を、超音波のはね返り具合で測定するもので、苦痛を受けずに短時間でできます。

残念ながら、脳血管性認知症の記憶障害や、その他の認知機能障害を改善させる確実な方法は、現在のところありません。近年、認知機能改善薬としてドネペジル(商品名:アリセプト)が開発され、効果が期待されていますが、認知機能障害の進行を遅らせることはできても、完全には治りません。

脳血管性認知症では、脳血管障害を再発することで悪化していくケースが多いため、再発予防が特に重要となります。再発予防のための薬剤が使われるとともに、脳血管障害の危険因子である高血圧、糖尿病、心疾患などを適切にコントロールするために、血圧、血糖、コレステロールや血液の凝固しやすさを測定し、正常な値にする薬剤が使われます。

自発性の低下、意欲の減退、発語減少、興奮といった症状に対して、脳循環代謝改善剤、脳代謝賦活(ふかつ)剤が有効な場合もあります。抑うつに対して抗うつ剤、不安や焦燥に対して抗不安薬、精神症状や問題行動に対して向(こう)精神薬が使用されることもあります。

リハビリテーションやレクリエーションといった非薬物療法が、脳血管性認知症の症状や生活の質の改善に有効な場合もあります。

🇸🇱脳腫瘍

●原発性腫瘍と転移性腫瘍に大別

脳腫瘍(しゅよう)とは、脳や脳を覆う髄膜、血管など、頭蓋(ずがい、とうがい)内のさまざまな組織にできる腫瘍の総称です。

初めから脳そのものにできる原発性腫瘍と、他の臓器のがんなどが転移してきた転移性腫瘍があります。原発性腫瘍には、神経膠腫(こうしゅ)、下垂体腺腫(せんしゅ)、聴神経腫瘍、髄膜腫などの種類があります。

脳腫瘍を発症すると、最初は「頭が重苦しい」、「何となく痛い」といった鈍い頭痛が起きます。頭蓋内で痛みを感じる組織が圧迫されることによって起こるのですが、頭蓋内では圧力が広範囲に伝わるため、腫瘍のある個所と痛みを感じる個所とが異なることが、多々あります。また、神経の走る個所の関係から、前頭部や額の痛みとして感じることもあります。

この頭痛は、早朝に起こることが多く、腫瘍が大きくなるのに伴って、直線的に次第に強まっていき、弱まることはほとんどありません。せきやくしゃみをした時に起こりやすいという特徴もあります。

また、吐き気がないにもかかわらず突然、吐くこともあります。ただし、頭痛や嘔吐(おうと)などを伴わないケースも少なからずあり、手足のまひやけいれん、物が二重に見えたり、しゃべりにくくなったりするなどの変調を伴うことがあります。

もし、少しでもいつもと様子が違うようであれば、神経内科や脳神経内科、脳外科、脳神経外科を受診するようにしましょう。医療機関では、CT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴診断)などによる断層画像や髄液の検査などで、基本的に診断します。

脳腫瘍のほとんどは良性ですが、良性であっても脳を圧迫するため、命にかかわることがあります。神経膠腫の一部と転移性腫瘍は悪性で、増殖が速い種類。

良性でも悪性でも普通、腫瘍を取り除く手術が行われます。ガンマナイフという特殊な放射線治療が行われる場合もあります。悪性腫瘍で除去できないものに対しては、放射線治療や化学療法が行われます。

🇬🇳膿腎(のうじん)症

腎盂および腎実質の中に膿がたまる疾患

膿腎(のうじん)症とは、水腎症に細菌の感染が加わって腎盂(じんう)や腎杯が強い炎症を起こし、腎盂および腎実質の中に膿(うみ)がたまる疾患。

膿腎症が高度になると、敗血症を起こし死に至ることもあります。しかし、重度の尿路感染症は減少の傾向にあり、膿腎症はまれな疾患となっています。

症状として、40度以上の高熱が続き、腎臓部の痛み、背部痛があるほか、倦怠(けんたい)感、食欲不振、貧血などの全身症状が伴い、膿による尿の濁りが現れます。最も多い原因は、水腎症や腎結石、尿管結石が原因となり、腎盂や腎杯が感染することです。以前は、肺結核などの結核菌が血液の中に入り、腎臓の中に運ばれることが原因で、膿腎症が起こることが多くみられましたが、最近では抗結核剤の出現でほとんどみられません。急性の腎盂炎から起こることも、ほとんどありません。

膿腎症の検査と診断と治療

膿腎症が軽症の場合は、強力な抗生物質を長期間服用する治療が行われます。しかし、一般的には効果が少ないため、重症の場合は、他方の腎臓の状態を検査して、腎臓の摘出手術を行う場合もあります。

🇬🇳脳水腫

脳脊髄液が頭蓋内にたまり、脳室が拡大する疾患

脳水腫(のうすいしゅ)とは、脳脊髄(せきずい)液(髄液)が頭蓋(とうがい)内にたまり、脳の内側で4つに分かれて存在する脳室が正常より大きくなる疾患。水頭症とも呼ばれます。

脳脊髄液は、脳全体を覆うように循環して脳保護液として働き、脳を浮かせて頭部が急激に動くことによる衝撃を柔らげたり、部分的な脳の活動によって産生される物質を取り除く働きも併せ持つと考えられています。脳室で血液の成分から1日約500ミリリットル産生されて、1日で3回ほど全体が入れ替わる程度のスピードで循環し、最終的には、くも膜という脳の保護膜と脳との間に広がっている静脈洞という部位から吸収され、血液へ戻ってゆきます。

この脳脊髄液の産生、循環、吸収などいずれかの異常によって、脳脊髄液が頭蓋内に余分にたまると、脳を圧迫し、脳機能に影響を与えます。

生まれ付きの異常で起こっている場合を先天性、生まれてから生じた異常で起こってきた場合を後天性と区別しています。

先天性の脳水腫(水頭症)は、出生1000人に2人程度発生しています。原因としては、先天的な脳の形態異常(奇形)や、母胎内での感染が挙げられます。

脳の形態異常には、中脳水道狭窄(きょうさく)症、脊髄髄膜瘤(りゅう)に合併したキアリⅡ型奇形、脳脊髄液の静脈洞への流入が障害される交通性水頭症、ダンディー・ウォーカー症候群、脳瘤などがあります。

いくつかの骨が結合してできている頭蓋骨は、生まれてしばらくの間、骨同士の結合が弱く、軟らかく組み合わさっています。生まれ付き脳水腫を持っている乳児や、頭蓋骨の結合が軟らかい時期に脳水腫になった乳児は、脳脊髄液が頭蓋内に余分にたまって大きくなった脳室の圧力によって、頭蓋骨を押し広げる状態が続く結果、頭が大きくなることが起こります。

頭の拡大が目立つ乳児までの時期以降では、余分な脳脊髄液による内圧の上昇は、脳を直接圧迫する力となり、頭痛、吐き気、嘔吐(おうと)を引き起こします。食欲不振、体重減少、全身倦怠(けんたい)感など頭の症状とは考えにくいことも起こり、長い間、気付かれない場合もあります。また、神経への影響から、視力の低下、目の動き方の不自由などを起こします。

乳幼児の頭が異常に大きければ、脳の疾患を疑って小児科、ないし脳外科、脳神経外科を受診することが勧められます。

一方、後天性の脳水腫(水頭症)は成人でみられることが多く、脳腫瘍(しゅよう)、がん、細菌・ウイルス・寄生虫などの感染で起こる髄膜炎、頭部外傷、脳動脈瘤の破裂や高血圧が原因で起こる脳内出血、脳室内出血、脳室内腫瘍などの原因となる疾患に合併して、頭蓋内の内圧が上昇し、年齢を問わず起こります。

余分な脳脊髄液による頭蓋内の内圧の上昇は、脳を直接圧迫する力となり、激しい頭痛、吐き気、嘔吐、意識障害を引き起こします。急激に症状が悪化する場合もあるため、早急な処置が必要となります。

また、後天性の脳水腫には、50歳代以降の人に多くみられ、頭蓋内の圧力が上がった症状を示さない正常圧水頭症があります。脳室が大きくなっていて、認知障害、歩行障害、尿失禁といった特徴的な症状がありながらも、頭蓋内の圧力は高くなりません。くも膜下出血後や髄膜炎の治った後に認められることが多く、原因不明の特発性のものもあります。

脳水腫(水頭症)の検査と診断と治療

産婦人科、あるいは小児科、脳外科、脳神経外科の医師による先天性の脳水腫(水頭症)の診断では、妊婦の超音波(エコー)検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査で、胎児脳水腫の診断がつくことがあります。確実に診断できるのは、妊娠22週をすぎてからです。

出生後は、頭囲の拡大や、大泉門(だいせんもん)という前頭部にある頭蓋骨の透き間の緊張、ほかの合併する奇形から確定します。頭部X線(レントゲン)検査や超音波検査、MRI検査を行うと、頭蓋骨の骨と骨をつなぐ縫合線の離開、脳室の拡大などが認められます。

小児科、脳外科、脳神経外科の医師による治療では、先天性の脳水腫そのものに対する治療としては、一時的な緊急避難的な治療と、永続的な治療が行われます。

一時的な治療では、ドレナージと呼ばれる方法が一般的で、余分な脳脊髄液の一部分を頭蓋骨の外へ流す処置の総称です。頭の圧力が急上昇した状態による病状の不安定さを解除するために、救急処置として行われます。

永続的な治療では、シャントと呼ばれる手術法が一般的で、年齢、原因を問わず行われています。本来の脳脊髄液の流れの一部分から、シリコンでできたシャントチューブと呼ばれる細い管を用いて、頭以外の腹腔(ふくこう)や心房などへ脳脊髄液を半永久的に流す仕組みを作ります。もしくは、できるだけ脳を傷付けないために、腰椎(ようつい)から腹腔(ふくこう)へシャントチューブを通して、余分な髄液を半永久的に流す仕組みを作ります。

内視鏡手術も行われています。神経内視鏡を用いて、脳の内部に本来ある脳脊髄液の流れ方の経路とは別に、新しい経路を作ります。治療できる年齢や原因に制約があり、シャントにとって変わる治療法にはいまだ至っていません。

単純な先天性の脳水腫では、早期に適切な治療を行えば3分の2程度の例で、正常な脳の成長が期待できます。予後に関しては、ほかの合併する奇形にもより、さまざまです。

一方、内科、脳外科、脳神経外科の医師による後天性の脳水腫(水頭症)診断では、頭部のCT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査などの画像検査を行います。これらの検査で多くの場合、脳室の拡大の有無、原因となっている疾患の有無がわかります。

内科、脳外科、脳神経外科の医師による治療では、脳腫瘍、脳内出血、髄膜炎など原因となっている疾患があり、脳室内の脳脊髄液の流れを障害していれば、外科的治療で除去します。

脳水腫そのものに対する治療としては、一時的な緊急避難的な治療であるドレナージと、永続的な治療であるシャント手術が行われます。シャント手術をすると、正常圧水頭症で示している認知障害、歩行障害、尿失禁が改善することもあります。内視鏡手術が行われることもあります。

🇬🇳膿精液症

精液の中に多数の白血球が混ざっている状態で、精液が黄色く変色

膿(のう)精液症とは、精液1mlの中に、血液の細胞成分である白血球が10万個以上混ざっている状態。膿精子症、精子膿症とも呼ばれます。

男性の精液は、約9割を占める液体成分の精漿(せいしょう)と、細胞成分である精子によって構成されています。通常、赤血球や白血球などの血液の細胞成分は、精液の中に混入しないように作られています。

何らかの原因によって精液の中に白血球が混ざると、黄色い膿(うみ)が発生し、精液が黄色く変色します。また、精子の運動率が著しく低下し、日常生活におけるパートナーの妊娠率が低下します。

精子無力症を合併しているケースでは、男性不妊症につながることもあります。さらに、白血球から分泌される炎症物質によって、精子頭部に含有されているDNAがダメージを受け、妊娠しても流産の原因になることもあります。

精子膿症になる原因は、クラミジアという微生物や、大腸菌、結核菌などの細菌への感染による精嚢腺(せいのうせん)、前立腺(ぜんりつせん)、尿道、精路などの炎症が一般的で、体内に進入した異物を取り込んで、消化分解し、体を防衛している白血球が増加するために、精液の中に混ざることになります。

性交渉でクラミジアに感染した場合は、膿精液症を起こすとともに、初期の段階で排尿痛、残尿感、違和感を感じることがあり、さらに進行すると、精巣(睾丸〔こうがん〕)がはれたり、熱が出たりします。

細菌への感染による炎症は自然治癒することもありますが、精路全体が炎症を起こしている場合などは完治までに非常に長い時間がかかります。

精液が黄色く変色したまま放置していると、精子の運動能力が悪化していき、精子無力症を合併することもありますので、泌尿器科を受診することが勧められます。クラミジアに感染した場合は、パートナーも感染している可能性もあるため、一緒に受診することが勧められます。

膿精液症の検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断では、精液検査を行い、射出精液内に混入している白血球の程度を調べます。

泌尿器科の医師による治療では、抗生物質を1~2週間処方して、膿精液症の原因となる感染症による炎症を抑え、精液検査で精液の所見が改善したかどうかを確認します。尿道、精路などに洗浄液を通して洗浄することもあります。

ほかに不妊原因がない場合は、精液に混ざっている白血球の数値が正常値に戻れば、パートナーの自然妊娠も可能となります。

精液を検査して白血球の混入が著しい場合、精液を洗浄して人工授精や体外受精をする方法も行われますが、精子の運動能力が著しく悪化していて、胚盤胞(はいばんほう)と呼ばれる着床前の状態への到達率も低いので、受精率は非常に低くなります。

🇱🇷脳性巨人症

遺伝子の機能異常により、大頭、過成長、特徴的な顔付き、発達の遅れなどを示す症候群

脳性巨人症とは、さまざまな身体的異常を引き起こす先天異常症候群。ソトス症候群とも呼ばれます。

1964年に、ソトスらが最初の症例を報告しました。日本では、新生児の14000人に1人程度の罹患(りかん)率と見なされていますが、軽度の症状の場合は見過ごされている可能性があり、実際には5000人に1人に近い罹患率と考えられています。

常染色体優性遺伝性疾患であり、5番染色体にあるNSD1遺伝子の異常によって起こります。

症状には幅があり、幼少期から小児期にかけての大頭症、過成長、骨年齢の促進、特徴的な顔付き、精神発達遅滞などを示します。

出生時から身長が大きく、体重もあり、手足も大きく、骨の成熟も促進しています。顔付きも特徴的で、額の大きな大頭で、下顎(したあご)の突出、口の中の上部がへこんでいる状態の高口蓋(こうこうがい)、眼瞼(がんけん)裂斜下、両眼隔離が見られ、全身の筋肉の緊張が低下して全身の筋肉の力が弱くなっています。身長や頭囲の過成長は、乳幼児期から学童期まで続きます。

また、けいれん、心疾患、腎(じん)疾患、尿路異常、外反偏平足、脊椎(せきつい)側湾、てんかん発作などを合併することもあります。

脳性巨人症の検査と診断と治療

小児科、ないし遺伝子診療科の医師による診断では、大頭症、過成長、骨年齢の促進、特徴的な外見を認め、原因遺伝子のNSD1遺伝子などに点変異を認めるか、NSD1を含む5番染色体長腕に欠失を認める場合に、脳性巨人症と確定します。

遺伝子の変異や染色体の欠失を認めない場合は、大頭症、過成長、特徴的な外見、精神発達遅滞のすべてを満たす場合に、脳性巨人症と確定します。

小児科、ないし遺伝子診療科の医師による治療では、現在のところ根治療法はないため、対症療法として、てんかん、腎疾患に対しては必要に応じて薬物療法、心疾患に対しては必要に応じて手術や薬物療法、精神発達遅滞に対しては療育的支援を行います。

主に、心疾患、腎疾患、難治性てんかんが生命予後に影響を与えます。

🇱🇷脳脊髄液減少症

脳脊髄液が減少し、頭痛やさまざまな全身症状が現れる疾患

脳脊髄液(のうせきずいえき)減少症とは、脳脊髄腔(くう)を循環する脳脊髄液が持続的、ないし断続的に漏出することによって減少し、頭痛やさまざまな全身症状を示す疾患。低脳脊髄液圧症、低髄液圧症とも呼ばれます。

脳脊髄液は、脳と脊髄全体を覆うように脳脊髄腔を循環して保護液として働き、脳と脊髄を浮かせて頭や体が急激に動くことによる衝撃を柔らげたり、部分的な脳や脊髄の活動によって産生される物質を取り除く働きも併せ持つと考えられています。

脳の内側で4つに分かれて存在する脳室で、血液の成分から1日約500ミリリットル産生されて、1日で3回ほど全体が入れ替わる程度のスピードで循環しています。最終的には、くも膜という脳の保護膜と脳との間に広がっている静脈洞という部位から吸収され、血液へ戻ってゆきます。

何らかの原因で脳脊髄腔を覆っている硬膜に亀裂(きれつ)などが生じ、この脳脊髄液が脳脊髄腔から漏出することが原因で、脳脊髄液減少症が生じます。

原因となるのは、頭や体に強い衝撃を受ける交通事故や、柔道、スノーボード、サッカー、バスケット、器械体操などによるスポーツ外傷、転倒のほか、出産、脱水などです。原因が不明なこともあります。

その症状は、起き上がると痛みが増強し、横になると痛みが軽減する起立性頭痛を主とし、付随する頸部(けいぶ)痛、めまい、耳鳴り、視機能障害、倦怠(けんたい)感などがみられます。

また、個人により、記憶力の低下、集中力の低下、食欲の低下、むくみ、しびれ、歩行障害、顔面痛、味覚障害、動悸(どうき)、胸痛、脱力感、頻尿、無月経、性欲低下、体温調節障害、不眠など、さまざまな症状が起きることもあります。

なお、この脳脊髄液減少症は、日本の医師によって提唱された新たな疾患概念であり、いまだに定まった知見や治療法が確立されていないため、国において専門家による医学的な解明が進められているところです。

このため、診療や治療を行っている医療機関は少なく、脳神経外科、神経内科、整形外科、麻酔科などの一部が診療のみ、あるいは診療と治療を行っています。

脳脊髄液減少症の検査と診断と治療

脳神経外科、神経内科、整形外科、麻酔科の医師による診断では、起立性頭痛などの症状、経過、発症の状況などを問診します。

頭部のMRI(磁気共鳴画像撮影)検査を行うと、脳脊髄液の減少を評価できるほか、脳脊髄液の減少のために脳がやや下垂している画像が認められることがありますが、常に認められるわけではありません。

放射性同位元素(RI)脳槽(のうそう)・脳脊髄腔シンチグラフィーを行い、腰部から硬膜内に細い針を刺し、造影剤の放射性同位元素を外髄液腔(くも膜下腔)に注入すると、注入3時間以内に膀胱(ぼうこう)内に放射性同位元素が描出される画像や、放射性同位元素が髄液腔外に漏出している画像がみられれば、確定します。

脳神経外科、神経内科、整形外科、麻酔科の医師による治療では、十分な水分を摂取して、ベッドでの安静を保ちます。点滴による水分補給が必要な時もあります。

約2週間の水分摂取と安静で改善しない時には、ブラッドパッチ治療(硬膜外自家血注入療法)を行います。局所麻酔を行った後、X線(レントゲン)透視下で脳脊髄液の漏れている硬膜外腔(硬膜の袋の表面)の近くに針を刺します。そして、自己(患者本人)の腕から摂取した血液(ブラッド)に造影剤を混ぜ、刺しておいた針から注入します。すると、脳脊髄液の漏れている硬膜外腔の周囲に血液が広がって凝固し、硬膜の亀裂をふさぎます。

治療効果には個人差があり、初回で効果がない時は、2~3回行うことも少なくありません。ブラッドパッチ治療後、硬膜の亀裂は2週間から1カ月程度で修復します。

しかし、脳脊髄液の漏出が止まっても、脳脊髄液の生成が追い付くまで2~3カ月かかるのが一般的です。また、治療後6カ月間は再発のリスクが高いといわれています。

付随する諸症状についても、症状ごとに回復の程度が異なります。そのため、真に回復を実感するまでに1~3年かかるのが普通だともいわれています。

🇨🇮脳脊髄膜炎

ウイルスや細菌などの感染によって、脳を取り巻く髄膜に炎症が発生

人間の脳は、内側から軟膜、くも膜、硬膜の三層の髄膜で覆われています。脳脊髄(せきずい)膜炎とは、ウイルスや細菌などの感染によって、脳を取り巻いている髄膜に炎症が起こる疾患です。別名は、髄膜炎、脳膜炎。

よくみられるのは、風邪や中耳炎、副鼻腔(びくう)炎などにかかったことを切っ掛けに発症するケースです。風邪を引いた際に発熱と頭痛が一緒に起こることがありますが、熱に激しい頭痛を伴う時は、脳脊髄膜炎の可能性もあります。

髄膜の炎症が広がると、首が強く突っ張る項部強直(こうぶきょうちょく)で、首が曲がらなくなり、さらに炎症が脳そのものまでに及ぶと脳炎を合併し、意識障害や手足のけいれんを起こすこともありますので、すぐに神経内科や内科、小児科の専門医に診てもらうようにしましょう。

脳脊髄膜炎の原因は、ウイルスによるものと、細菌によるものに大別されます。脳脊髄膜炎を起こすウイルスは、夏風邪、はしか、風疹(ふうしん)、おたふく風邪、ヘルペス、日本脳炎などのウイルスで、神経に感染しやすい性質があります。しかし、それらが感染しても脳脊髄膜炎にかかるのは、ごく一部です。脳炎を合併するのは、ウイルスが大部分の原因です。

脳脊髄膜炎を起こす細菌は、インフルエンザ菌や肺炎双球菌、髄膜炎菌、結核菌、大腸菌、真菌(かびの一種)などで、鼻やのど、肺にくっつき、そこから血管内へ進入して髄膜に到達し、脳脊髄膜炎を起こします。

脳脊髄膜炎の検査と診断と治療

専門医の診断で脳脊髄膜炎が疑われた時は、入院して脊髄液の検査を行います。脊髄液を腰椎(ようつい)から採取して、白血球や糖を調べ、脳脊髄膜炎ならば、その病原は何かの判断をした上で、ウイルスや細菌を見付けます。脳脊髄膜炎や脳炎の程度を見るために、CT(コンピューター断層撮影法)やMRI(核磁気共鳴画像法)の検査も行います。

原因がウイルスの場合は抗ウイルス薬を使うことが多く、原因が細菌の場合は抗生物質を用います。脳脊髄膜炎を引き起こしたもとになる疾患があれば、その治療も並行して行います。

脳脊髄膜炎は、早期に発見して早期に治療すれば予後の改善が期待できますが、時期を失したり、脳炎を合併したりすると、治ったとしても記憶障害などが残ってしまいます。大人では激しい頭痛が続き、熱がなかなか下がらない場合、乳幼児ではかん高い泣き声を上げたり、大泉門(だいせんもん)という前頭部にある頭がい骨の透き間が膨らんで硬く張った場合は、すぐに専門医を受診することが大切です。

🇨🇮脳底部異常血管網症

原因不明で、脳底部にもやもやとした異常血管網が現れる脳血管疾患

脳底部異常血管網症とは、日本人に多発する原因不明の脳血管疾患。ウィリス動脈輪閉塞(へいそく)症、もやもや病ともいいます。

厚生労働省指定の難病の一つで、1950年代の後半に初めてその存在が気付かれました。脳底部のウィリス動脈輪に狭窄(きょうさく)や閉塞(へいそく)がみられ、脳虚血症状を示し、体の各部のまひ、知覚異常、不随意運動、頭痛、けいれんなどを起こします。

脳血管撮影をすると、脳底部にもやもやとした異常血管網が認められます。大脳へ血液を送る頸(けい)動脈が頭の中で狭くなったり、詰まったりするために、脳の深い部分の細い動脈が不足する脳の血流を補うための側副血行路として発達して太くなり、異常な血管網の構造を示すことになります。

脳への血液の供給が足りない状態である脳虚血や、脳の血管が破綻(はたん)して出血する脳出血で発症しますが、発症時の年齢分布には2つピークがあります。5歳を中心とする10歳までの子供は脳虚血で発症することが多く、30〜40歳代の大人は脳出血で発症することが多くなっています。もちろん、子供での脳出血、大人での脳虚血もありますが、前者が小児(若年)型、後者が成人型と区別され、その症状とその発症機序が異なっています。

女性と男性の比率は1・8対1とされ、女性の発症者のほうが多くなっています。発症頻度は10万人に対して0・35〜0・5人とされ、日本では年間に約400〜500人の新たな発症者が発生し、常に約4000人の患者がいます。世界中で、脳底部異常血管網症の報告はありますが、なぜか東アジアに多く、中でも圧倒的に日本に多く発生しています。アメリカからの報告でも日系人に多いといわれますが、白人、黒人にもみられます。

疾患の原因はいまだ不明で、先天性血管奇形という先天説や、感染症などの生後に何らかの原因があるとする後天説がありました。兄弟や親子間での発生が約10パーセント弱と多いことや、日本人に多く発生することなど遺伝的な要素もあり、現在では遺伝子で規定された要素に、何らかの後天的要素が加わって発症すると考えられています。細菌やウイルスが原因の感染症ではありませんので、周辺の人に移る可能性は全くありません。

小児型の脳底部異常血管網症では、元気だった子供に突然、脳卒中のような発作、つまり左右半身の脱力や運動障害、ろれつが回らないなどの言語障害、視野の一部が欠けるなどの視力障害、意識障害、感覚異常が一過性に出現し、症状が出てもすぐに元に戻るのが典型的な症状です。その他の症状としては、手足が勝手に前後・上下に動く不随意運動、けいれん、頭痛などがみられます。

脳卒中のような発作は、泣いたり、大声で歌ったり、笛やハーモニカを吹いたり、熱いラーメンやうどんをフーフー吹いて食べたり、全力で走ったりする時の過呼吸により誘発されます。過呼吸状態では、脳血管の拡張に必要な血中の二酸化炭素が低下し、もやもやとした血管網も含めた脳血管が収縮するために、それまで辛うじて維持されていた脳血流が急に低下し、脳の代謝に必要な酸素の不足により脳虚血発作が生じます。

脳虚血発作は一過性に出現し繰り返す場合が多くみられますが、重症な場合には、脳梗塞(こうそく)を来し、運動障害、言語障害、知能障害、視力障害などが固定症状として残ります。

成人型の脳底部異常血管網症では、脳内出血、脳室内出血、くも膜下出血などの頭蓋(ずがい)内出血による発症が一般的で、症状は出血の部位や程度により異なり、軽度の頭痛から重度の意識障害、運動障害、言語障害、精神症状までさまざまです。代償性に拡張した数多くの細いもやもやとした血管網に、血行力学的なストレスが加わり、薄くなった血管壁が破綻すると考えられています。

出血の場所と大きさにより、後遺症が全く残らない場合から、さまざまな後遺症が残る場合まであります。命にかかわるのは、頭蓋内出血を起こした場合が多く、再度、出血を起こすことも多くなっています。

脳底部異常血管網症が疑われた場合は、脳神経外科、神経内科、小児神経(内)科などを受診することが必要です。強い頭痛、吐き気、嘔吐(おうと)、意識がなくなる、まひ、言葉が出ない、視野の一部が欠けるなどの症状が出た時は、すぐに受診するべきです。

脳底部異常血管網症の検査と診断と治療

脳底部異常血管網症の医師による診断は、臨床所見と画像診断で行われます。ラーメンを食べる時に時々、手の力が抜ける、大泣きしたら手足がしびれるといった典型的な症状の一過性脳虚血発作であれば、診断はさほど困難ではありません。

しかし、てんかんや不随意運動で発症した場合には、わかりにくい場合もあります。てんかんと診断されて、抗けいれん薬を投与され、その後、脳虚血の症状が出た場合など、脳底部異常血管網症の診断まで時間がかかる場合もあります。ほかに、精神的なものとか自閉症と誤診されることもあります。

脳底部異常血管網症の画像診断は、主にカテーテルによる脳血管撮影と、核磁気共鳴画像法(MRI)によって行われます。脳血管撮影は、直径1・3ミリほどの細い管であるカテーテルを足の付け根の動脈から入れて行います。このカテーテルを頸部の動脈まで持っていき、造影剤を注入して撮影します。そのため検査自体にわずかながら危険性が伴うため、その適応は慎重であるべきです。大人では、足の付け根への局所麻酔だけで可能な検査ですが、小学生やそれ以下の場合は全身麻酔で行います。

近年は、強い磁場を利用した核磁気共鳴画像法(MRI)による診断法が、主に行われています。この診断法は、入院の必要はありませんし、検査時間は30分ぐらいで寝ている間に可能です。小さな子供の場合は、眠り薬が必要です。X線を使った断層撮影であるX線CTも、緊急時の脳虚血と脳出血の鑑別に有用です。

急性期の脳底部異常血管網症の治療は、他の原因で起こる脳虚血や脳出血の治療と同じです。脳虚血の場合は、脳細胞保護薬、抗血栓薬、循環改善薬などの点滴が行われます。脳出血で小さな出血の場合は、保存的な治療が行われます。脳室内の出血の場合は、緊急で細い管を脳室に入れて、髄液や血腫(けっしゅ)を抜く手術が行われます。大きな脳内出血の場合は、開頭による血腫除去術を必要とする場合もあります。脳圧を下げ、脳のはれを改善する点滴治療も行われます。けいれん発作があれば、抗けいれん薬が投与されます。

慢性期の脳底部異常血管網症の脳虚血に対する内科的な治療としては、抗血小板薬、抗凝固薬、血管拡張薬などの投与が行われます。これらの薬剤を積極的に投与する医師と、そうでない医師に分かれます。けいれんのある場合には、抗けいれん薬が投与されます。

虚血発作の再発を抑える目的で、血管吻合(ふんごう)術が有効とされています。この血管吻合術には、耳の前の頭皮内を走行している浅側頭動脈と頭蓋内の中大脳動脈の枝を顕微鏡で見ながら吻合する直接吻合と、脳を包んでいる脳硬膜や側頭部の筋肉やその筋膜を脳の表面に置き、その間に自然に小さな血管の吻合が形成されるのを待つ間接吻合があります。直接吻合を行う場合、大なり小なり間接吻合と組み合わせるのが一般的です。

脳底部異常血管網症は、左右に病変があるため、両側の手術が必要なことが多く、普通2回に分けて、症状の強い側の手術を先に行います。手術の効果はすぐに現れるものではなく、虚血発作が徐々に減少し、その後、消失します。その時間経過は、脳循環の状態、手術方法などによりさまざまです。

慢性期の脳底部異常血管網症の脳出血に対する治療として、血管吻合術が行われる場合があります。側副血行路になっている脳の深部の細い血管に負担がかかり、破綻するのが脳出血の原因と考えられているため、この負担を軽減するために行われますが、この吻合術が再出血を予防するとは必ずしも証明されていません。血圧の高い発症者には、降圧剤を投与します。

脳梗塞や脳出血により、運動障害、言語障害、知能障害、視力障害などが残った場合には、早期に運動療法、作業療法、言語療法などのリハビリテーションを開始することが重要です。特に小児の場合は、適切なリハビリで大きな障害がかなり軽減するケースもあります。

🇧🇫脳動静脈奇形

一種の血管の奇形で、くも膜下出血や脳内出血、てんかんを起こす疾患

脳動静脈奇形とは、脳血管が形成される妊娠初期の胎児期の異常により、毛細血管が作られずに動脈と静脈が直接つながった先天性の疾患。一種の血管の奇形で、遺伝する疾患ではありません。

脳を栄養する血液は、動脈、毛細血管、静脈の順番で流れます。毛細血管は細かく枝分かれしており、脳へ栄養分や酸素を送り、老廃物や二酸化炭素を回収しています。ところが、脳動静脈奇形では毛細血管がないので、本来は血管が細かく広がって分散される動脈血液が、高い圧力のまま直接静脈に流れ込み、非常に速い血流がナイダスと呼ばれる異常な血管の塊を少しずつ大きくすることがあります。

ナイダスは体のどこにでもできますが、脳の内部、脳の表面、硬膜など脳にできたものが脳動静脈奇形です。脳動静脈奇形の血管は、正常な血管に比べて壁が弱く破れやすいため、脳出血、くも膜下出血を起こして死亡、または重い後遺症を生じることもあります。

また、毛細血管を通過しない血液は、脳との間で栄養分や酸素、老廃物や二酸化炭素の交換ができないため、脳が正常に働けなくなります。このため脳動静脈奇形の発生場所や大きさによっては、てんかん発作や認知症状で見付かることがあります。

約40~80パーセントは、脳動静脈奇形が破裂して、くも膜下出血あるいは脳出血の症状を起こします。脳動静脈奇形の出血は、動脈からではなく、静脈性出血である場合が多く、脳動脈瘤(りゅう)の破裂に比べると程度は軽いと考えられますが、出血量が多い場合は、より重症で死亡する例もあります。小さい脳動静脈奇形のほうが出血しやすいと見なされています。

脳動静脈奇形が破裂する頻度は毎年人口10万人当たり1人と、脳動脈瘤破裂の約10分の1ですが、好発年齢は20~40歳と20年近く若く、男性が2倍近く多いなどの特徴があります。

約20~40パーセントは、けいれん発作で発症します。体の一部にけいれんが見られ、次第に範囲が広がっていくジャクソン型けいれんが多いのですが、突然意識を失い、全身のけいれんが起こり、数十秒程度続く大発作も少なくありません。けいれんは、出血とは逆に、大きい脳動静脈奇形でよく見られます。

脳動静脈奇形のために毛細血管を通らない血液があっても、若いころは動脈硬化が強くないので、周りの正常血管が脳に血液を送り、脳の働きは正常であるのに対し、加齢に伴って動脈硬化が進行すると、脳が血流不足になりやすいため、精神症状、認知機能低下、手足のまひ、頭痛などを起こすことがあります。

発症者の脳動静脈奇形がいつ破裂するかの予測は、現在の医学水準では不可能です。しかし、10年、20年という単位で考えると、脳動静脈奇形が出血して重い後遺症をもたらす可能性は高いと考えられるので、早期に神経内科、ないし脳神経外科の専門医の診察を受けることが勧められます。

脳動静脈奇形の検査と診断と治療

神経内科、脳神経外科の医師による診断では、造影剤を使った頭部CT、あるいは頭部MRIで確定できます。手術をするには、脳血管撮影で流入動脈、流出静脈を詳しく調べる必要があります。てんかん発作がある人には、脳波検査を行います。

医師による治療の原則は、外科手術による動静脈奇形の全摘出です。実際には年齢、性別、脳動静脈奇形の部位、大きさ、合併症などによって手術をするかどうか決められます。手術を行う場合は、全身麻酔で頭の皮膚を切って頭蓋(ずがい)骨を開き、手術顕微鏡を使って脳動静脈奇形に到達し、異常血管と正常血管の境界部分を金属製のクリップなどで止血して、脳動静脈奇形を摘出します。

手術が困難であるような発症者には、血管内治療による塞栓(そくせん)術や、ガンマナイフによる放射線治療も行われています。血管内治療による塞栓術では、局所麻酔で細いカテーテルを異常血管の入り口まで誘導し、異常血管を一本一本詰め、少しずつ疾患を小さくします。この方法だけで治療できる脳動静脈奇形は非常に限られるために、外科手術と放射線治療を補う第3の治療として行われています。

ガンマナイフによる放射線治療は、非常に狭い範囲に、高い線量の放射線を集中的に当てることで、正常な脳組織に及ぼす悪影響を最小限に抑え、病変を小さくする治療法です。必要とされる入院期間は二泊三日が標準で短く、発症者の負担も外科手術よりも少なくなります。ただし、病変のサイズが直径3センチ以下のものでなければ行えません。ガンマナイフ照射後、病変が消失するまでに平均して2~3年かかると考えられており、外科手術に比べて時間がかかるのが難点です。

てんかん発作を起こした人に対しては、抗てんかん剤を投与します。

🇧🇫脳動脈瘤破裂

脳にできた血管のこぶが破裂して、激しい頭痛が起こる疾患

脳動脈瘤(りゅう)破裂とは、脳を覆う軟膜にできた動脈瘤が高血圧などのために破裂して、出血する疾患。くも膜下出血とも呼ばれます。

脳は外側から順に硬膜、くも膜、軟膜という3層の膜で覆われており、くも膜とその下の軟膜との間を、くも膜下腔(くう)といい、ここには脳脊髄(せきずい)液が満たされています。血管のこぶである動脈瘤が破裂すると、血液がくも膜下腔に一気nterに流出するため、頭蓋(ずがい)内圧(頭蓋骨の内部の圧力)が上がって、激しい頭痛が起こります。

バットか金づちで殴られたような、今までに経験したことのないひどい痛みに襲われ、その頭全体に感じる痛みがしばらく続きます。頭蓋内圧が急激に上がって脳全体が圧迫されると、意識障害が起こったり、吐いたりします。重症の場合、意識障害から、昏睡(こんすい)状態に進んだまま死亡することもあります。

病院に急行しなくては命にかかわる頭痛の代表が、この脳動脈瘤破裂による頭痛です。発症後、数時間以内に手術など適切な処置を行い、再出血を防ぐことが、非常に大切です。出血は、いったん止まりますが、再び破裂することが多く、再出血を起こすと死亡率が非常に高くなるからです。

今まで経験したことのない突然の頭痛が起きたら、すぐにCT設備のある脳神経外科を受診することです。40〜50歳代で、家族や親類に脳動脈瘤破裂を起こした人がいる人は、特に注意が必要です。

少量の出血を繰り返すタイプの脳動脈瘤破裂では、あまり激しくない痛みが反復するために、片頭痛と紛らわしい場合があります。軽い頭痛であっても、念のために受診することです。脳ドックなどの検査で、脳動脈瘤が破裂する前に見付かることもあります。

脳動脈瘤破裂の検査と診断と治療

脳神経外科の医師による診断では、脳動脈瘤破裂(くも膜下出血)の状況は頭部CT(コンピューター断層撮影法)検査によって判明します。出血量が少ない時は、頭部CTでははっきりしないこともあり、症状からみて、脳動脈瘤破裂が疑われる場合は、脳脊髄液を採取して検査します。

出血が確認された時は、破裂した動脈瘤を血管撮影によって探し出し、頭蓋骨を切開し、こぶの根元を金属のクリップで挟むクリッピング法という手術が行われます。近年では、血管内手術といって血管の中へ細いカテーテルを挿入し、プラチナの細いコイルを入れて動脈瘤の内側に詰める塞栓(そくせん)術を行うこともあります。

どちらの方法をとるかは、発症者の年齢、動脈瘤の部位、大きさ、形、合併症などによって決まります。病状があまりにも重症の場合は、手術ができないこともあります。

出血によって脳脊髄液の流れが妨げられた急性水頭症の場合は、脳脊髄液を外に排出する手術を行うこともあります。また、発作後4日ほど経つと、脳の血管が細くなり、脳梗塞(こうそく)を起こすこともあるので、それを予防する血漿(けっしょう)製剤と血管拡張剤が用いられます。

🇹🇬脳膿瘍

脳に化膿菌が入って炎症を起こし、うみがたまった状態

脳膿瘍(のうよう)とは、脳に化膿菌が入って炎症を起こし、組織が壊されて、うみの塊ができる疾患。

膿瘍の形成過程は、まず、うみがたまっていない巣(そう)状の急性炎症が、脳のある部分に生じます。次に、明らかな化膿性の炎症が起こり、うみがみられるようになります。さらに、膿瘍周囲に被膜が形成され、限局性に膿瘍が完成します。膿瘍周囲の浮腫(ふしゅ)は、頭蓋(ずがい)内圧を高進させることがあります。

脳膿瘍の原因としては、ブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎双球菌、インフルエンザ菌、大腸菌などが血液の流れに乗って、あるいは、周囲の炎症、例えば中耳炎、蓄膿症などから直接侵入して起こってきます。そのほか、頭部の外傷、脳の手術に際して化膿菌が直接侵入することもあります。

症状としては、化膿に伴う発熱のほかに、化膿巣の生じた脳の部分の機能障害が現れます。けいれんや手足のまひなどの刺激症状、意識の障害、半盲、失語症、運動まひなど、脳の機能の脱落症状が起こってきます。

化膿巣が大きくなると、脳腫瘍と同じように脳圧の高進が著しくなり、頭痛、吐き気、嘔吐(おうと)、視神経のうっ血、項部(こうぶ)強直などが現れてきます。

脳膿瘍の検査と診断と治療

抗生剤治療と外科的アプローチの進歩によって治癒し得るケースが増えていますが、診断の遅れによって予後が不良になることもあります。頭痛や発熱が持続する時には、すぐに脳神経外科や神経内科などの専門医の診察を受けます。

医師の側は、炎症症状と脳や脊髄(せきずい)の症状から、ある程度推定はできますが、脳脊髄膜に炎症が及ばないと確かめられないこともあります。ことに慢性の場合には、初期に気付かずに、多少性格が変わったといった程度で見過ごされてしまうことがあります。

検査法としては、脳脊髄液検査や脳の血管撮影などがありますが、頭部CT検査が診断に有力です。膿瘍の大きさや部位を正確に判定できますし、造影剤によって被膜はリング状に増強されるのが特徴です。また、中耳や副鼻腔(びくう)などの病変の有無をも、同時に観察することができます。

化学療法として、いろいろな抗生剤が用いられます。脳膿瘍はこれらの化学療法に比較的よく反応するので、診断が付き、原因となった菌さえ確かめることができれば、十分な治療ができ、完全に治癒することが多いものです。発病初期には原因となった菌が不明なことが多いので、広い範囲の細菌に有効な抗生剤が投与されますが、菌が確定した際には最もよく効く抗生剤に変更されます。

通常の感染症よりも抗生剤の投与量は多く、投与期間も長くなります。脳浮腫に対して脳圧降下剤、けいれんに対して抗けいれん剤なども用いられます。

外科的治療は、穿刺(せんし)吸引および排膿、ドレナージが一般的です。最近では、CTまたはMRIガイド下に、比較的安全に穿刺および排膿できるようになりました。

予防法としては、中耳炎や蓄膿症、気管支炎、骨髄炎などにかかったら、完全に治しておくことが大切です。ことに幼小児では、この点の注意が重要です。また、先天性の心臓病を持っている子供は、感染症にかかると脳膿瘍にかかりやすいため、注意が必要です。

🇹🇬脳貧血

長時間立っていることなどが原因で、気分が悪くなって倒れたりする症状

脳貧血とは、小中学校の朝礼などで子供が長時間立ち続けていることなどが原因で、気分が悪くなって倒れたりする症状。脳貧血とはあくまで俗称で、一般には起立性低血圧症、あるいは起立性調節障害といわれています。

脳貧血は、本当の貧血とは違います。貧血は血液中の赤血球(ヘマトクリット)の数が減少したり、赤血球の中に含まれているヘモグロビン(血色素)の量が減少した状態をいいますが、脳貧血の場合は血液を調べても正常で、問題はありません。だから、あくまでも一時的なもので、貧血のように治療を行わなければ治らないというものではありません。

気分が悪くなって倒れてしまうのは、立ち続けていると重力によって血液が足のほうへ下がってしまい、脳までうまく血液が循環せずに脳が酸素不足を起こすためです。

私達が立っている時に、血液が一番たまるのは足の静脈です。もともと静脈には血液を送り出す力はほとんどなく、血管周辺の筋肉の収縮を利用するなどして静脈血を上に循環させています。しかし、成長過程にある小中学生では、そのような筋肉がしっかりできていなかったり、血管の弾力性に乏しかったります。

そのような子供が長時間立ち続けていると、足にたまった静脈血を脳まで押し上げてやることができなくなるのです。筋肉がしっかりと形成された大人では、子供の時のような脳貧血は起こりにくくなります。

脳貧血の症状は、めまい、顔色や皮膚が青白くなる、冷や汗をかく、手足が急に冷たくなる、寒気がする、脈が遅く、弱くなるなどです。このような症状が出たら、すぐに横になるようにしましょう。仰向けに寝て、深呼吸をするようにします。

脳貧血は、長時間立ち続けているほか、急に立ち上がった時などに起こります。突然意識を失って倒れてしまいますので、頭を打つ可能性もあり、大変危険です。

脳貧血で意識を失って倒れてしまったら、足を高くして横にさせます。安静にして、吐きそうな様子を見せたら顔を横に向けて、気道を確保しておきましょう。倒れてしまっても、5~6分で治まりますが、回復するまで時間がかかるようであれば、病院で診察を受けたほうがいいでしょう。

一方、高齢者の脳貧血の場合、脳血管部分の動脈硬化が原因で引き起こしていることがありますので、かなりの注意が必要です。

大人では、献血する際に注意が必要です。善意の気持ちで献血にゆき、そのまま脳貧血を起こして倒れてしまう人が意外と多いもの。たくさんの血液を一度に抜くので、急に起き上がったりすると脳貧血を起こすのです。献血の後、クラクラするようであれば、遠慮せずに周囲の係員に告げて対処してもらわなければいけません。体調が優れない時の献血を避けるばかりではなく、寝不足や運動の後の献血も避けたほうがいいでしょう。自分の意思とは裏腹に、突然意識を失ってしまうのが脳貧血ですので、自分だけはならないという過信は持たないようにしましょう。

脳貧血を予防するには、下半身の筋力をつけて、静脈の血液が心臓へと戻る力を強くすることが大切です。軽い全身運動やウオーキングなどで、筋力をつけましょう。朝食を抜いて学校へ行ったり、会社へ行ったりするのはやめ、水分補給にも気を使いましょう。自覚症状がないまま症状が出てくるものなので、日ごろからの予防が大切です。

2022/08/06

🇬🇫脳ヘルニア

頭蓋内の浮腫や出血により、脳が押し出された状態

脳ヘルニアとは、外傷など何らかの原因によって頭蓋(とうがい)骨の中に浮腫(ふしゅ)や出血などが起き、その部分に圧迫された脳が押し出された状態。ヘルニアとは、体内の臓器などの組織が本来あるべき部位から押し出されることをいいます。

脳は基本的に硬い頭蓋骨にガードされていますから、簡単には押し出されません。この頭蓋骨にガードされているというのが脳ヘルニアの場合とても厄介な問題で、押し込まれても逃げ場がないので、そのまま脳自体に圧力がかかり続けます。これを頭蓋内圧高進といいます。

脳ヘルニアは頭蓋内圧高進の最終段階ともいえるもので、脳の位置がずれるスペースがないのに、圧力が限界まで高まってしまい、いよいよ他の組織を押し込んでずれた状態です。いうまでもなく脳は生命活動をつかさどる部分なので、こうした圧迫はそのまま生命の危険につながります。

脳の圧力が高まる原因としては、頭の強打による外的損傷と疾患による内的損傷が挙げられます。自動車事故、転倒、暴行、スポーツ活動中の事故などで頭を強打した外的損傷の場合、頭蓋骨の中で脳にもダメージがくることがあり、脳がはれたり、脳回りの血管が出血したりすると、次第に脳の圧力は高まり、そのまま放置すると脳ヘルニアを起こします。

疾患によって脳がはれたり、脳内出血などを起こしたりした内的損傷の場合も、外的損傷と同様、脳の圧力が高まっていくことになります。脳内出血そのものがすでに危険であり、ここから頭蓋内圧高進を経て、脳ヘルニアにまで達すると事態は一刻を争うことになります。

脳はすべての感覚を握っているだけに、出血の位置や大きさ、方向などといった要因によって、実にさまざまな症状をみせます。まず脳がずれる前の脳圧が高まっている状態だけでも、激しい痛み、意識障害、判断力の喪失、めまい、吐き気、嘔吐(おうと)、けいれん、まひ、瞳孔(どうこう)が光を追えなくなるなどの症状が現れます。

さらに悪化して、脳がずれる脳ヘルニアになると、大部分は脊髄(せきずい)部分の大孔といわれる部分にずれることになります。大孔だけは脊髄とつながっているので穴があり、押し出された脳は深部にある生命維持中枢である脳幹を圧迫し、自発呼吸困難や脈拍異常などを起こします。さらに悪化すれば、呼吸困難から呼吸停止にまで至り、次いで脈が乱れ、血圧が下がって死に至ります。

脳ヘルニアの検査と診断と治療

頭をぶつけた場合、小さくても出血が起こり、何時間もかけてゆっくり脳ヘルニアにまで進行していく可能性もありますから、多少ぶつけたくらいと安心せず、脳神経外科の専門医を受診して検査を受けます。また、自覚症状である脳の締め付けられるような痛み、吐き気、めまいなどを感じた場合も、やはり受診します。

医師の側は、意識や瞳孔の臨床症状から診断します。原因の診断のために頭部CTは必須で、脳ヘルニアを示すCTの所見として、正常では左右対称の脳の構造が圧迫のためゆがんで見えたり、頭蓋内圧高進のため脳脊髄液が満たされている脳の透き間である脳室や脳槽が圧迫されたり、あるいは消えてなくなったりしています。

脳ヘルニアは、ほかのヘルニアである鼠径ヘルニア(脱腸)、椎間板(ついかんばん)ヘルニアなどと違って、ほかの症状、疾患の最終段階として起きてくるものなので、瞳孔異常の初期症状がみられたら、緊急に適切な治療と手術が必要となります。ほかのヘルニアと違って保存療法はまずありません。

手術では、開頭して圧迫の原因となる浮腫、出血などを除くことになります。 脳ヘルニアが進行し、脳幹の機能が失われて呼吸停止に至っている場合などは、手術の危険が高く、開頭手術を行えないこともあります。

浮腫、出血がないか少ない場合は、手術の効果が低いため、薬物療法が選択されることが多くなります。頭蓋内圧高進に対して、グリセオールやマンニトールなどの脳圧降下剤の点滴注射が行われます。特殊な治療法として、バルビツレート療法や低体温療法があるものの、副作用も大きいため適応は慎重に判断されます。頭蓋骨を外す外減圧術が行われることもあります。

予後は原因によりますが、一般的には症状の進行程度と、症状出現からの時間経過に比例して悪くなります。

2022/08/03

🇷🇸膿疱性乾癬

乾癬の一種で、皮膚の表面に膿を持ち、発熱などの症状も現れる皮膚疾患

膿疱性乾癬(のうほうせいかんせん)とは、乾癬と呼ばれる皮膚疾患の中で、膿疱(膿〔うみ〕)が数多く皮膚の表面に現れる疾患。

膿疱性乾癬には、症状が手足などの体の一部に限定して現れるものや、症状が全身に現れるものがあります。後者は、汎発(はんぱつ)性膿疱性乾癬と呼ばれ、多くは重症化します。

汎発性膿疱性乾癬は、厚生労働省が認める特定疾患に認定されています。まれな疾患で、日本での発症者は推定で約1500人。

膿疱性乾癬は、感染症などが関係して発症すると考えられていますが、原因の詳細はわかっていません。発症者の中には扁桃(へんとう)炎を合併する人がおり、その扁桃を切除すると症状が改善されるので、細菌感染と関係があると考えられていますが、まだはっきりとしてはいません。

また、長い間ステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン剤)を使用してきた乾癬の発症者が、急に使用をやめることにより膿疱性乾癬の症状が出て悪化する場合があるため、ステロイド剤の中止が誘因と考えられる場合もあります。

妊娠を切っ掛けに膿疱を持った地図状の赤い発疹(はっしん)が全身に生じる疱疹状膿痂疹(ほうしんじょうのうかしん)は、膿疱性乾癬の一つのタイプと考えられています。

初期症状として、皮膚がひりひりしたり、焼けるような痛みが発生し、全身の各所に、にきびのような赤い発疹ができます。2~3日のうちに急速に大きくなり、それとともに赤い発疹の回りを囲むように白色または黄色の膿疱が出て、中心は茶褐色の色が付いた状態となっていきます。

発疹とともに高熱を伴い、全身のむくみ、関節痛が起こります。全身がだるく、口の中が荒れ、それらが合わさって食欲が低下するため、低栄養となることもあります。

皮膚に膿疱が多発すると、外部からの病原体から身を守る機能が低下し、全身の水分バランスが崩れ、さまざまな器官に影響を及ぼします。

長期間にわたって皮膚に膿疱が発生すると、高齢の発症者は心臓や腎臓(じんぞう)などに負担がかかり、命にかかわる場合もあります。

症状が現れた際は、速やかに皮膚科、ないし皮膚泌尿器科の専門医がいる医療機関を受診することが勧められます。初めて発症した際は、入院して治療することが望ましいと考えられます。

膿疱性乾癬の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、特徴的な発疹と経過から判断します。診断の確定のために、発疹の一部を切って顕微鏡で調べる組織検査を行います。血液検査により、炎症の程度や内臓に影響があるかどうかを判断します。また、細菌感染による膿疱との区別をするために、細菌検査も行います。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、発症者の年齢やほかの疾患の有無、症状の進行度、使用する薬剤などを総合的に判断して治療法を選択します。

全身管理としては、高熱に対しては解熱剤を投与し、水分バランスを調整するために点滴を行い、皮膚の機能を補うために軟こうを使用します。膿疱が多量に出る場合は、肌を保護するためにガーゼを当て包帯をします。

一種の免疫反応の異常により生じるとされる乾癬そのものに対しては、外用薬、内服薬、光線療法、注射薬などで改善を図ります。

外用薬には、炎症を抑制するステロイド剤が多く用いられています。そのほか、皮膚の細胞が増殖するのを阻害する活性型ビタミンD3外用薬も、ステロイド剤ほどの速効性はありませんが、副作用が軽微なので併せて使用します。

内服薬としては、ビタミンA類似物質であるエトレチナート(チガソン)や、免疫抑制薬であるシクロスポリン(ネオーラル)が用いられ、一定の効果が得られています。

光線療法は、紫外線の増感剤であるメトキサレン(オクソラレン)を皮疹部に塗り、長波長紫外線UVAを当てる治療で、PUVA(プーバ)療法といいます。乾癬が全身にある場合、入院して内服のメトキサレンを使用してPUVA療法を行う場合もあります。紫外線を当てることで、異常な免疫反応が抑制され、効果が得られると考えられています。

近年、PUVA療法に代わる光線療法として、特定の紫外線波長を利用したナローバンドUVB療法も利用されるようになってきています。

注射薬は、生物が作り出す蛋白(たんぱく)質をもとに作られた生物学的製剤という新しいタイプの薬を、皮下注射や点滴で投与し、体の免疫機能などにかかわる物質で、過剰に増えると乾癬の症状を引き起こすサイトカインの働きを弱め、乾癬の皮膚症状の改善を図ります。

現在日本では、腫瘍壊死(しゅようえし)因子αというサイトカインを抑えるインフリキシマブ(レミケード)という生物学的製剤を用いることができます。しかし、生物学的製剤もすべての発症者に必ず効果があるとはいえず、副作用が現れることもあり、長期的に投与した場合の影響については不明です。

外用薬、内服薬、光線療法、注射薬のいずれの治療法も一長一短があるため、治療により得られる効果と副作用のリスクの兼ね合いを考え、うまく組み合わせて症状をコントロールすることが大切です。

🇦🇹嚢胞性腫瘍(卵巣嚢腫)

卵巣に液体成分の入った袋のようなものができ、はれた状態

嚢胞性腫瘍(のうほうせいしゅよう)とは、卵子や女性ホルモンを作っている卵巣に液体成分の入った袋のようなものができ、卵巣の一部にはれが生じた状態。卵巣嚢腫とも呼ばれます。

この嚢胞性腫瘍の多くは、子宮の左右両側に一つずつある卵巣の片側に発生しますが、両側に発生することもあります。通常は直径2〜3cm程度の大きさの卵巣は、妊娠、受精に必要な卵胞を抱えている臓器で、女性ホルモンを作っているため、多種類の腫瘍ができやすい臓器です。

嚢胞性腫瘍にはいろいろなタイプがあり、大きさもピンポン玉大の小さなものからグレープフルーツ大以上のものまでさまざまです。ほとんどの嚢胞性腫瘍は小さなもので、症状もありません。かなり大きくなってきて初めて、腹部の膨隆、あるいは腹部に腫瘤(しゅりゅう)を触れるようになってきます。また、時には下腹部に圧迫感、強い痛みを感じることもあります。

しかしながら、ほとんどの嚢胞性腫瘍は良性で、がんに代表される悪性腫瘍ではありません。ごくまれに、悪性の卵巣がんであることがあり、嚢腫が茎を持って大きくなる場合には、時として何らかの原因で捻転(ねんてん)を起こすことがあります。このような場合には、激しい痛み、吐き気、嘔吐(おうと)などの強い症状を現したり、種類によっては腹水、胸水を伴うこともあり、そのための全身症状を現します。

そのために、嚢胞性腫瘍が見付かった場合には、まず悪いものではないかどうか、治療が必要なものであるかどうかなどをチェックする必要があります。

嚢胞性腫瘍の主なタイプとして、機能性嚢腫、単純性嚢腫、皮様嚢腫、子宮内膜症性嚢腫があります。

機能性嚢腫は、一時的に排卵日ごろにはれて、自然に消えてなくなるもの。女性なら誰でも、排卵日ごろには卵子を入れる袋である卵胞が大きくなり、卵胞が破裂して卵子が飛び出すことによって、排卵が起こります。まれに、卵胞が大きくなっても卵子が飛び出さず、排卵が起こらないことがあります。大きくなった卵胞がしばらく残っている状態が、この機能性嚢腫です。普通、次の月経のころには小さくなります。消失が遅れる場合でも、1〜3カ月以内には消えてなくなります。

単純性嚢腫は、若い女性に非常によくみられる良性のもの。丸い袋のように見える腫瘍で、内部には隔壁や腫瘍の固まりが全くなく、液体成分だけです。直径5~6cmくらいまでの小さなもので症状がなければ、経過観察をするだけでもかまいません。ただし、この単純性嚢腫のようにみえても非常にまれに悪性部分が隠れている場合があるので、定期的な検査は必要です。

皮様嚢腫は、20〜30歳代によくみられ、内部に皮脂、毛髪、歯、軟骨などを含んだ良性のもの。小さいものなら無症状ですが、大きくなると下腹部痛や不快感などが生じます。普通は次第に大きくなるので、経過観察をしたとしても最終的に手術が必要になることが多い腫瘍です。左右の卵巣にできたり、再発することがよくあり、一部ががん化することもあるので、手術しない場合でも定期的な検診は必要です。

子宮内膜症性嚢腫は、子宮内膜症が原因で卵巣にできるもの。子宮内膜症というのは、子宮の内膜が子宮の内側以外の部分にできる疾患。卵巣に子宮内膜症ができると、月経のたびに卵巣の中でも出血が起こります。そのために、卵巣の中にドロドロの茶褐色の血液がたまるので、別名チョコレート嚢腫(嚢胞)とも呼ばれています。月経は毎月起こるので、チョコレート嚢腫も少しずつ大きくなります。大きくなった嚢腫によって下腹部痛、特に性交時の下腹部痛や月経時の下腹部痛が起こります。

嚢胞性腫瘍の検査と診断と治療

嚢胞性腫瘍(卵巣嚢腫)がほかの婦人科腫瘍と異なるところは、特徴的な初発症状が乏しいことです。早期発見が完全な治療を受けるためには必要なのですが、なかなか症状が出にくく、大量の腹水がたまってから、慌てて婦人科を受診するケースが少なくありません。

従って、何らかの下腹部痛、不正出血、下り物の増加、腹部膨満感など、ふだんとは異なる症状を感じた場合には、この嚢胞性腫瘍を念頭に入れ、早期に婦人科を受診して適切な検査を受けることが必要です。

嚢胞性腫瘍は、産婦人科の通常検査である内診や超音波検査などによって見付かります。詳しく超音波検査をすることによって、腫瘍の位置、腫瘍の大きさ、腫瘍内部が水だけなのか固まり部分があるのか、腫瘍の中が壁で区切られているのか、腫瘍の中に血液や毛髪、軟骨などが入っていそうかどうかなど、かなりのことがわかります。

少しでも悪性腫瘍の疑いがある場合には、血液をとってCA125などいくつかの腫瘍マーカーの値を測定します。ただし、卵巣がんの種類によっては、腫瘍マーカーが高くならないことがあります。逆に、卵巣がんでなくても、CA125などが高くなることもあります。

内診や超音波検査、血液検査だけでは良性か悪性かの判定が難しい場合、さらにCTやMRI検査を行います。実際には、超音波検査で判定が困難な場合は詳しい検査をしても区別が付かないことが多いので、ある程度の大きさがあって全く良性腫瘍とはいい切れない場合には、手術療法を行います。

嚢胞性腫瘍が良性と判断される場合は、一般的に、腹腔(ふくくう)鏡を使って腫瘍部分だけを取り去ることができます。全身麻酔をして、へその下あるいは上に非常に小さな皮膚切開をし、腹の中を観察するための内視鏡カメラを挿入します。1cm以下の切開をさらに数カ所追加して、そこから遠隔操作ができる手術機械を挿入して手術を行います。腹腔鏡を使って手術をした場合には、術後の腹部の傷はほとんど目立ちません。

腹腔鏡手術が困難なタイプの嚢胞性腫瘍、あるいは悪性が疑われる場合は、通常の開腹による手術を行います。

一般的に、嚢胞性腫瘍の手術は、婦人科の手術の中でもかなり簡単な部類に入ります。ただし、子宮内膜症性嚢腫に限っては、その後の妊娠に対する影響がありますので、慎重に対応する必要があります。

ごくまれに、がんのような悪性の経過をたどるものがありますが、がんが卵巣内にとどまっている場合は、がんのできている卵巣と卵管だけを切除するだけでよいこともあります。がんが卵巣外にも及んでいる場合は、両側の卵巣と卵管、子宮、胃の下部から垂れて腸の前面を覆う薄いである大網(だいもう)、リンパ節などを広範に摘出しなければなりません。

大網は最も卵巣がんが転移しやすい部位とされ、早期がんの場合でも切除することがあります。卵巣をすべて摘出してしまうと、女性ホルモンの分泌がなくなるので、ホルモンのバランスが崩れて、自律神経のバランスも崩れ、更年期障害のような症状が現れます。

がんが卵巣外に広く散らばっている場合には、手術の後、抗がん剤による強力な化学療法が必要となります。抗がん剤はがんの種類によってかなり有効で、残ったがんが縮小したり、消失することもあります。この場合は、もう一度手術を行い、残った腫瘍を完全に摘出したり、化学療法を中止する時期を決定します。

🟧RSウイルス感染症が「流行入り」 静岡県が注意呼び掛け

 静岡県は26日、直近1週間(15~21日)のデータから「RSウイルス感染症が流行入りしている」と発表しました。定点医療機関となっている小児科1カ所当たりの患者数は1・64人で、県が流行入りの目安としている「1人」を大きく上回りました。前週の0・9人よりも8割増加し、急拡大が懸...