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2022/08/27

🇹🇩睾丸腫瘍(精巣腫瘍)

睾丸にはれ物ができ、がんであることが多い疾患

睾丸腫瘍(こうがんしゅよう)とは、男性の生殖器官である睾丸に、はれ物ができる疾患。悪性腫瘍、いわゆるがんであることが多く、精巣腫瘍とも呼ばれます。

睾丸、すなわち精巣は、男性の陰嚢(いんのう)内に左右各1個あって卵形をしており、男性ホルモンおよび精子を産生しています。睾丸腫瘍の頻度としては10万人に1〜2人の非常に珍しい疾患ですが、好発年齢は0~10歳、20~40歳、60歳以上の3つのピークがあります。

睾丸腫瘍は、セミノーマ、胎児性がん、卵黄嚢(のう)腫瘍、奇形腫、絨毛(じゅうもう)がんと呼ばれるものに区分されます。これらのいずれも成人にはみられますが、セミノーマが最も多く、全体の約半数。乳幼児にみられるのは、卵黄嚢腫瘍と奇形腫。

がんでは進行が速く、リンパ管や血管を通じて容易に他の臓器に転移するので、放っておくと命にかかわることがあります。しかし近年では、治療法の進歩により9割以上の人が完治するようになりました。転移を起こしてしまった人でも適切な治療を行えば7〜8割の人が治りますが、進行した状態では治療が困難な場合もあります。

なぜがんができるのか、本当の原因はまだわかっていません。ただ、停留精巣や精巣発育不全などの疾患を持っている人、胎児期に母親がホルモン剤投与を受けた人は、睾丸のがんになりやすいと見なされています。

症状で最も多いのは、痛みのない睾丸のはれです。時には、痛みを伴うこともあります。一般に、痛みもなく、熱もないために放置しておくと、陰嚢の中の睾丸の一部が硬くゴツゴツしたり、全体的にはれて大きくなってきます。かなり進行すると、腹部が膨らんだり、せきが出て胸が苦しくなるなど睾丸腫瘍の転移による症状が現れます。

睾丸腫瘍の検査と診断と治療

睾丸のはれ物に気付いた場合には、恥ずかしがらずに泌尿器科の専門医を受診します。

医師による診断では、ほとんどの場合、触っただけで判断できます。判断に迷う場合は、懐中電灯を当てて中身が詰まっているかどうか調べたり、超音波で腫瘍の内部を検査します。診断が確定すれば、血液検査で腫瘍マーカーを調べ、がんが他の臓器に転移していないかどうかを全身のCTやアイソトープを使った検査で詳しく調べます。

治療では、まず腫瘍ごと睾丸(精巣)を取り除きます。陰嚢を切開せず、おなかの下のほうに傷ができる高位除精巣術と呼ばれる方法です。睾丸は左右一対ありますから、片方を摘出しても、もう一方が正常に機能していれば、男性ホルモンや精子を産生する能力が低下したり、勃起(ぼっき)能が衰えるような後遺症はありません。

睾丸を摘出した後、疾患がまだ全身に広がっていない時は、一般に再発予防の治療が行われます。医療機関によっては、摘出した後、定期的な精密検査のみの場合もあります。このような治療法で転移がない場合には、9割以上治ります。

すでにリンパ節や肺、肝臓、骨、さらに脳などに転移している場合は、シスプラチン、エトポシド、ブレオマイシンという3種の抗がん剤による治療が追加されます。1回5日間の点滴を3〜4週間おきに繰り返す方法で、3〜4回行うことが標準的。成人に最も多いセミノーマの場合は、放射線治療も有効です。このような治療で転移があるような進んだがんでも、7〜8割が完治します。

なお、転移が見付からないような初期のがんでも、将来2〜3割に転移が現れるため、予防的な抗がん剤投与や放射線治療を行う場合もあります。

🇿🇲甲状腺がん

内分泌腺の一つで、首の前部にある甲状腺に発生するがん

甲状腺(せん)がんとは、内分泌腺の一つで、首の前部にある甲状腺に発生するがん。

この甲状腺は、のど仏の下方にあって、気管の前面にチョウが羽を広げたような形でくっついて存在し、重さは約15グラム。男性では女性に比べてやや低い位置にあり、甲状腺の後両側には、反回神経という声を出すのに必要な神経が走っています。

甲状腺ホルモンという日常生活に必要不可欠なホルモンを分泌し、そのホルモンレベルは脳にある下垂体という臓器の指令により調節されています。なお、甲状腺の裏側には、副甲状腺というやはりホルモンを分泌する米粒大の臓器が左右上下計4個存在し、血清中のカルシウム値を一定に保つ役割を担っています。

甲状腺がんの発生頻度は、人口3万人に30人程度。年齢的には、若年者から高齢者まで広い年齢層に発生し、子供を含む若い年齢層でもさほど珍しくありません。性別では、男性の5倍と女性に圧倒的に多いのですが、男性の甲状腺がんのほうが治りにくい傾向があります。

原因は、まだよくわかっていません。原爆やチェルノブイリ原発事故などで首に放射線を多量に受けた場合や、甲状腺刺激ホルモンが増加した場合などが、原因になるのではないかといわれています。さらに、甲状腺がんの一つの型で、甲状腺の特殊なC細胞より生じる髄様がんのように、遺伝的に発生するものもあります。また、慢性甲状腺炎(橋本病)にがんが合併することも少なくありません。

甲状腺がんは顕微鏡検査での分類である組織型により、乳頭がん、濾胞(ろほう)がん、髄様がん、未分化がんに分類されます。このいずれであるかによって、病態や悪性度が大きく異なります。

このうち、乳頭がんが全甲状腺がんの約90パーセントを占め、次いで多いのは濾胞がんです。この両者は分化がんと総称され、がん組織が異常であるとはいえ、比較的正常組織に似ています。一般に進行が遅く、治りやすいがんであるのが大きな特徴。リンパ節や肺などに転移がみられる場合もあります。

髄様がんは全甲状腺がんの1〜2パーセント程度を占め、約4分の1が遺伝性。リンパ節転移を起こしやすく、副腎(ふくじん)や副甲状腺の疾患を伴うこともあります。分化がんに比べると悪性度は高いものの、未分化がんほど悪性度は高くありません。

一方、未分化がんは全甲状腺がんの2〜3パーセント程度を占め、あらゆるがんのうちで最も増殖スピードが速いと見なされているもので、全身的な症状を伴ってくるのが特徴です。元からあった分化がんが長年のうちに、変化(転化)して未分化がんになると考えられています。分化がんと比較して、60〜70歳以上の高齢者にやや多く、発生に男女差はほとんどありません。

甲状腺がんの症状は通常、首の前部にしこりを触れるだけです。長年放置して大きなしこりとなると、目で見ただけでわかるサイズになりますし、周囲臓器への圧迫症状を呈することもあります。進行すると、声帯の反回神経のまひを生じて、声がかすれたり、首や全身のリンパ節に転移を生じたり、気管や食道にがんが広がります。

ただし、以上のことは甲状腺分化がんの場合であって、未分化がんでは早い時期から急激な増大、痛み、息苦しさ、全身の倦怠(けんたい)感など多彩な症状を呈します。

甲状腺がんの検査と診断と治療

首のしこりが甲状腺に関係するかどうかは一般の医師でもわかるので、まず掛り付け医を受診し、甲状腺腫瘍(しゅよう)と判明したら、甲状腺を専門にする外科医を受診します。

医師による診断では、手で触る触診以外に、超音波検査(エコー検査)、CT検査などを行います。また、しこりに細い針を刺してがん細胞の有無を顕微鏡で調べる吸引細胞診で、組織型を判断します。目的に応じて甲状腺シンチグラフィ、MRI検査なども行われます。

髄様がんでは、血中のカルシトニンやCEAといった検査値が高くなりますので、診断は容易です。遺伝性のこともあるので、遺伝子の検査や家系調査などが必要となってくることもあります。

治療においては、乳頭がん、濾胞がん、髄様がんはすべて手術の対象となります。病変の広がりにより、甲状腺の全部を切除する甲状腺全摘術、大部分を切除する甲状腺亜全摘術、左右いずれか半分を切除する片葉切除術などを行います。甲状腺の全部や大部分を切除した場合には、残った甲状腺が十分な甲状腺ホルモンを作れないために、チラージンSという甲状腺ホルモン剤を投与します。

首のリンパ節は原則として切除しますが、その範囲もがんの進み具合により判断されます。10ミリ以下の極めて微小な分化がんでは、リンパ節切除を省略する場合もあります。 遠隔臓器に転移を来した分化がん、ことに濾胞がんでは、甲状腺全摘の後にアイソトープ(放射性ヨードの内服剤)の投与が行われます。分化がんに対して、抗がん剤による有効な化学療法はありません。

一方、甲状腺未分化がんに対しては、手術よりも外照射による放射線療法と、抗がん剤による化学療法が中心的な治療となります。従来、有効な治療法が確立されていませんでしたが、近年は複数の抗がん剤の併用が有効なケースもみられます。

甲状腺の手術に特徴的な合併症としては、反回神経まひ、副甲状腺機能低下があります。甲状腺に接する反回神経を手術の時に切断する場合には、声がかすれる、水分を飲むとむせるようなこともあるものの、6カ月から1年経過をみて回復しない場合には、声帯内にシリコンを注入して声をよくします。副甲状腺4個のうちいくつかも手術の時に切除されることが多いのですが、3個以上の摘出では血液中のカルシウムが低下し、指先や口の周囲のしびれが起こることがあるため、カルシウム剤剤や活性化ビタミンD3の補充を行います。

甲状腺がんの予後は、未分化がんを除き良好です。特に、大部分を占める乳頭がんでは、術後10年生存率が90パーセントを超え、がんのうちでも最も治りやすい部類に属します。濾胞がんでも、これに準ずる高い治療成績が得られます。髄様がんでは、分化がんに比べるとやや不良ながら、一般のがんに比べると予後は良好です。未分化がんでは、治療成績は極めて悪いのが現状です。

🇪🇹子宮がん

女性性器のがんで、子宮頸がんと子宮体がんの別

子宮がんとは、胎児を宿す子宮に発生するがん。女性性器のがんの中で、最も多いものです。

がんの発生する部位によって、子宮頸(けい)がんと子宮体がんの2つに分けられます。

【子宮頸がんは40、50歳代に多く、若年層にも増加傾向】

子宮頸がんとは、子宮頸部の上皮から発生するがんのことをいいます。子宮頸部は、膣(ちつ)から子宮への入り口部分で、とっくりを逆さにしたような形をしている子宮の細い部分に当たり、その先端が腟の側に突き出ています。

先端の部分と内方の部分では、上皮の組織が異なっています。腟の側に突き出ている先端部分は、皮膚と同じく、数層の平ベったい細胞が重なった扁平(へんぺい)上皮で覆われています。これに対して、子宮体部の側の内方部分は、粘液を分泌する一層の細胞である腺(せん)上皮(円柱上皮)で覆われています。

一般にいう子宮頸がんは、約85パーセントが扁平上皮の細胞から発生する子宮頸部扁平上皮がんで、性成熟期に多く発症します。一方、腺上皮の細胞から発生する子宮頸部腺がんは、閉経後に多く発症します。子宮頸部扁平上皮がんは子宮膣部がん、子宮頸部腺がんは子宮頸管がんとも呼びます。

発生したがんは初め、扁平上皮、あるいは腺上皮の中にとどまっていますが、次第に子宮の筋肉に浸潤。さらに、腟や子宮の周りの組織に及んだり、骨盤内のリンパ節に転移したりします。ひどく進行すると、膀胱(ぼうこう)、直腸を侵したり、肺、肝臓、骨などに転移したりします。

子宮がん全体の中では、子宮頸がんは60~70パーセントを占めています。30歳代で増え始め、40、50歳代で最も多くみられますが、20歳代の人や80歳以上の人にもみられます。とりわけ、性交開始が低年齢化するとともに若年者の発症が多くなっているために、平成16年4月の厚生労働省の通達で、子宮頸がん検診の開始年齢を20歳に引き下げました。

死亡数は、激減しています。前がん病変での早期発見、早期治療のケースが増加し、がんになる前に治療がされるようになったことと、がんになったとしても、がんの進み具合を表す臨床進行期で0(ゼロ)期~Ia期に当たる早期がんのうちに、約65パーセントが発見され、ほぼ100パーセント治癒するようになったためです。

しかしながら、発生率は少なくなっていません。子宮頸部腺がんでは、検診で比較的発見されにくく、進行してから発見される場合もあります。放射線治療や化学療法が効きにくいなど、扁平上皮がんと比べると子宮頸部腺がんの予後は、悪い傾向にあります。

【子宮頸がんはヒトパピローマウイルスの感染が誘因に】

直接、発がんと結び付く原因はまだわかっていませんが、いくつかの疑わしい因子はわかっています。以前から、多産婦に多いことが統計学的に証明されているほか、高リスクの因子として、初めての性交年齢の若い人、性行為の相手が複数いる人、喫煙歴のある人などが挙げられています。

近年、注目されている高リスク因子は、性行為によって感染するヒトパピローマウイルス(ヒト乳頭腫ウイルス:HPV)。ほとんどの子宮頸がんで、このウイルスが組織中から検出されるため、がんの発生の引き金となると考えられています。

ヒトパピローマウイルスは、いぼを作るウイルスの一種で、男性性器の分泌物などに含まれています。70種類以上あるタイプの中のいくつかのものが、前がん病変の形成や頸がんの発生に関与。一般に、ウイルスを持った男性との性交渉によって、外陰部、腟、子宮頸部などの細胞に感染します。

外陰がんや腟がんは非常にまれにしか生じないのに対して、子宮頸がんは比較的多く発生します。とはいっても、実際に子宮頸がんになる人は、ヒトパピローマウイルスに感染した人の中の一部にすぎません。

前がん病変が形成されても、軽度の場合は経過観察しているうちに、約70パーセントが自然に消失することも知られています。発がんには、ウイルスに感染した人の体質、すなわち遺伝子の不安定性や免疫なども関係しているようです。

初期の子宮頸がんではほとんどが無症状ですが、子宮がん検診で行う子宮頸部細胞診により発見することができます。

進行した際の自覚症状としては、月経以外の出血である不正性器出血が最も多く、特に性交時に出血しやすくなります。膿(うみ)のような下り物が増えることもあります。下腹部痛、腰痛、下肢痛や血尿、排尿障害、血便、下痢などが現れることもあります。

【子宮体がんは子宮体部の内膜に発生するがん】

子宮体がんとは、子宮体部の粘膜にできる悪性腫瘍(しゅよう)。子宮頸部(けいぶ)に悪性腫瘍ができる子宮頸がんと合わせて、子宮がんと呼ばれていますが、子宮体がんと子宮頸がんの二つは、発生部位はもとより、好発年齢、発生原因、症状が異なるため 、区別して扱う疾患です。

子宮体部は、子宮の奥の赤ちゃんを育てる部分。外側は筋肉に覆われており、内側は子宮内膜という粘膜でできています。その内膜にがんができるのが、子宮体がんです。

主に閉経後の50歳以上の人に好発し、若い人では、不妊症の人や卵巣機能に障害がある人に起こります。

初期の症状としては、何らかの不正出血、下り物がみられます。閉経前では、月経が長引いたり、周期が乱れるという形で不正出血があります。閉経後では、少量の出血が長く続く場合には注意が必要です。

下り物は黄色、褐色から始まり、次第に血性、肉汁様になって、進行すると膿(のう)性になり、悪臭を放つようになります。高齢者では、子宮の入り口が狭くなって詰まってしまい、子宮の中に出血や分泌物が貯留することもあります。

さらに進行すると、子宮体部の内膜に発生したがんは、徐々に子宮体部壁に広がっていきます。広がりが深くなると、骨盤リンパ節や腹部動脈節に転移が起こり、卵巣、卵管、子宮頸部、腹膜へも進展します。さらに、肺、肝臓などの遠隔臓器へも転移します。

一般に、子宮体がんの進行は、子宮頸がんより遅いといわれています。以前は子宮頸がんが子宮がんの大半を占めていましたが、最近では食生活及び生活習慣の欧米化や、高齢化などにより、子宮体がんが増える傾向にあります。今後はさらに増加するものと予測されます。

発生や進行には、女性ホルモンのエストロゲン(卵胞ホルモン)が影響を与えています。エストロゲンは内膜を増殖させる作用があり、一方、排卵後に分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)は、増殖を抑制する作用があります。更年期には、月経があっても排卵が起こっていないことが多く、排卵後に分泌されるプロゲステロンが十分に出ないため、内膜が過剰に増殖して子宮内膜症になり、さらに、子宮体がんに進展する可能性があります。

子供がいないか少ない人や、不妊、卵巣機能不全、肥満、高脂血症、糖尿病などを抱えている人も、エストロゲンが子宮内膜に働いている時間が長くなるため、子宮体がんのリスクを高めるといわれています。

子宮がんの検査と診断と治療

【進行度で異なる子宮頸がんの治療法】

不正性器出血があったら、婦人科で検査を受けるのがよいでしょう。症状がなくても、年に1回程度は子宮がん検診を受けることが最善です。

子宮頸がんの検査では、子宮頸部を綿棒などでこすって、細胞診用の検体を採取します。細胞診で異型細胞が認められた場合には、コルポスコープと呼ぶ膣拡大鏡で5~25倍に拡大して観察しながら、疑わしい部分の組織を組織診用に採取し、病理学的に検査して診断を確定します。

進行がんの場合は肉眼で見ただけでわかりますが、確定のために細胞診と組織診が行われます。さらに、内診、直腸診で腫瘍(しゅよう)の大きさや広がりを調べます。

子宮頸がんの診断が付いた場合は、胸部X線検査、経静脈性尿路造影、膀胱鏡、直腸鏡検査を行い、臨床進行期が決定されます。腹部超音波検査、CT、MRIによって病変の広がりを調べることも、治療法の選択に当たって重要視されます。

子宮頸がんの主な治療法は、手術療法または放射線療法。年齢、全身状態、病変の進行期を考慮して、治療法が選択されます。治療成績は手術、放射線ともほぼ同じですが、日本では手術が可能な進行期までは、手術療法が選ばれる傾向にあります。

早期がんである0期に対しては、子宮頸部だけを円錐(えんすい)形に切り取る円錐切除術を行うことで、術後に妊娠の可能性を残すことができます。また、レーザーによる治療を行うこともあります。レーザー治療では、子宮頸部をほぼ原形のまま残し、術中まったく出血することなく、痛みもないので無麻酔下で行える利点があり、治療成績も良好です。妊娠の希望がない場合は、単純子宮全摘術を行うこともあります。

進行期の中で浸潤が浅いIa 期の場合は、単純子宮全摘術が標準的ですが、妊娠を強く希望される人の場合は、円錐切除術のみが行われることがあります。

明らかな浸潤がんのIa2期や、子宮の周囲にがんが広がるII期の場合は、広汎(こうはん)子宮全摘術が一般的です。広汎子宮全摘術では、子宮だけでなく、子宮の周りの組織や腟を広い範囲で切除し、通常は卵巣も切除します。40歳未満の場合は、卵巣を温存することもあります。摘出物の病理診断でリンパ節転移や切除断端にがんがあった場合は、術後に放射線療法を追加します。

がんの浸潤が深く、広い範囲に及んで手術ができないIII~IV期の進行がんの場合や、高齢者、全身状態の悪い人の場合は、手術の負担が大きいため放射線療法を行います。

放射線療法は通常、子宮を中心とした骨盤内の臓器におなかの外側から照射する外部照射と、子宮、腟の内側から細い器具を入れて照射する腔内照射を組み合わせて行われます。外部照射ではリニアックというX線を用い、腔内照射ではラジウムに替わってイリジュウムが使われるようになっています。

さらに近年、新しく有効な抗がん薬の開発が進み、主治療の手術や放射線療法を行う前に、原発病巣の縮小と遠隔転移の制御を目的にして、主治療前補助化学療法(NAC)も行われるようになりました。点滴で薬を投与するのが一般的な投与法ですが、子宮動脈へ動注する方法もあります。

IIb期やIIIa期でも、先に化学療法を行ってがんを小さくしてから、手術することもあります。IIIb~IVa期などの本来は手術ができない進行期のがんも、NACを行った後に、手術ができることもあります。NAC併用後に手術ができた場合、放射線療法単独の場合よりも治療効果が高いことが報告されており、最近ではNACを行うことが標準的になっています。

【早期の発見、治療が大切な子宮体がん】

子宮がんでは、早期発見、早期治療が重要です。子宮体がんは子宮頸がんと同様、初期には自覚症状がない場合が多いので、早期発見のために、年に一度は定期検診を受けましょう。50歳前後に発症が多く、最近は閉経後の子宮体がんが増加していますから、閉経後も検診が必要です。

不正出血は大きな手掛かりで、がんになる前の状態の子宮内膜増殖症の段階でも、不正出血が出ることがあります。症状が出てから検診しても、進行がんとは限らないわけです。逆に、進行がんの段階になっても、不正出血のない人もいますので、やはり定期的な検診が大切なのです。

ふだんから自分の体の健康状態に気を付け、不正出血や下り物の異常、性交時の出血、下腹部痛などいつもと違う兆候があったら、ためらわず婦人科を受診することも大切です。

なお、子宮がんの検査を受けた場合でも、実際には子宮頸がんの検査だけを行っている場合もありますから、注意して確認してください。子宮体がんは子宮の奥にできるので、頸がんの検査では発見できません。

検査はまず、細胞診でチェックします。細いチューブを腟から子宮の中に入れて子宮内膜の細胞を吸引採取したり、挿入したブラシでかき取った細胞を、調べます。多少痛みがあります。

細胞診で疑わしい兆候があった場合、あるいは子宮体がんの疑いが強い場合は、最初から組織診が行われることもあります。キューレットと呼ばれる細い金属棒の先に小さな爪のある道具で、子宮体部の組織をかき取り、顕微鏡で検査する方法が中心になっています。少し痛みがあり、出血が数日続くこともあります。

子宮体がんの治療では、手術、放射線、抗がん剤に加え、ホルモン療法が有効な場合もあります。基本は、やはり手術です。

主な手術には、単純子宮全摘術と附属器の切除、広汎子宮全摘術があります。前者の手術は、腹部を切開して子宮と卵巣、卵管を切除する手術です。進行の程度により、周囲のリンパ節の切除も加えます。後者の手術は、子宮と卵巣、卵管、腟、さらに子宮周囲の組織を広く切除する手術で、周囲のリンパ節も一緒に切除します。

手術によって、リンパ節転移が発見されたり、がんが子宮の壁に深く食い込んでいることがわかった場合に、手術後に放射線療法を行うこともあります。抗がん剤を投与して腫瘍を小さくしてから、手術を行うこともあります。

手術が難しい場合は、抗がん剤や放射線による治療を行うことになります。抗がん剤の場合は副作用を抑える薬などが併用され、放射線治療の場合も重い放射線障害が起こらない範囲で治療が行われています。それでも、ある程度の副作用があることは、やむを得ないところです。

また、子宮体がんは女性ホルモンと関係が深いので、ホルモン療法が有効なことがあり、注目されています。基本的には、プロゲステロン(黄体ホルモン)の働きをする薬を飲みます。

【予防の基本は生活習慣と食生活の改善】

子宮がんの予防の基本は、体や局部を清潔に保つことです。また、日常の生活習慣や食生活と子宮がんは、密接な関係にあるといわれています。

改善できる生活習慣では禁煙があり、お酒を飲みすぎない、バランスのとれた食事をし、決して食べすぎず、適切な運動と休養をとり、ストレスをためない工夫を心掛けることです。

特に、食べ物では、高塩分、高コレステ ロール食は避け、繊維質、緑黄色野菜、魚類や、がんを抑える作用があるといわれる大豆食品をたくさん摂取するようにします。

また、がんの発生要因とされている活性酸素を抑える物質を多く含む食品を取ることも、有効ながん予防策。活性酸素を消去する物質としては、体内で作り出される抗酸化酵素と、食事等から摂取する抗酸化力のあるビタミンA(β―カロチン)、C、E、B群やポリフェノール、カロ チノイド、大豆イソフラボンなどがあります。

🇸🇸子宮頸がん

40、50歳代に多く、若年層にも増加傾向

子宮頸(けい)がんとは、子宮頸部の上皮から発生するがんのことをいいます。子宮頸部は、膣(ちつ)から子宮への入り口部分で、とっくりを逆さにしたような形をしている子宮の細い部分に当たり、その先端が腟の側に突き出ています。

先端の部分と内方の部分では、上皮の組織が異なっています。腟の側に突き出ている先端部分は、皮膚と同じく、数層の平ベったい細胞が重なった扁平(へんぺい)上皮で覆われています。これに対して、子宮体部の側の内方部分は、粘液を分泌する一層の細胞である腺(せん)上皮(円柱上皮)で覆われています。

一般にいう子宮頸がんは、約85パーセントが扁平上皮の細胞から発生する子宮頸部扁平上皮がんで、性成熟期に多く発症します。一方、腺上皮の細胞から発生する子宮頸部腺がんは、閉経後に多く発症します。子宮頸部扁平上皮がんは子宮膣部がん、子宮頸部腺がんは子宮頸管がんとも呼びます。

発生したがんは初め、扁平上皮、あるいは腺上皮の中にとどまっていますが、次第に子宮の筋肉に浸潤。さらに、腟や子宮の周りの組織に及んだり、骨盤内のリンパ節に転移したりします。ひどく進行すると、膀胱(ぼうこう)、直腸を侵したり、肺、肝臓、骨などに転移したりします。

子宮がん全体の中では、子宮頸がんは60~70パーセントを占めています。30歳代で増え始め、40、50歳代で最も多くみられますが、20歳代の人や80歳以上の人にもみられます。とりわけ、性交開始が低年齢化するとともに若年者の発症が多くなっているために、平成16年4月の厚生労働省の通達で、子宮頸がん検診の開始年齢を20歳に引き下げました。

死亡数は、激減しています。前がん病変での早期発見、早期治療のケースが増加し、がんになる前に治療がされるようになったことと、がんになったとしても、がんの進み具合を表す臨床進行期で0(ゼロ)期~Ia期に当たる早期がんのうちに、約65パーセントが発見され、ほぼ100パーセント治癒するようになったためです。

しかしながら、発生率は少なくなっていません。子宮頸部腺がんでは、検診で比較的発見されにくく、進行してから発見される場合もあります。放射線治療や化学療法が効きにくいなど、扁平上皮がんと比べると子宮頸部腺がんの予後は、悪い傾向にあります。

ヒトパピローマウイルスの感染が誘因に

直接、発がんと結び付く原因はまだわかっていませんが、いくつかの疑わしい因子はわかっています。以前から、多産婦に多いことが統計学的に証明されているほか、高リスクの因子として、初めての性交年齢の若い人、性行為の相手が複数いる人、喫煙歴のある人などが挙げられています。

近年、注目されている高リスク因子は、性行為によって感染するヒトパピローマウイルス(ヒト乳頭腫ウイルス:HPV)。ほとんどの子宮頸がんで、このウイルスが組織中から検出されるため、がんの発生の引き金となると考えられています。

ヒトパピローマウイルスは、いぼを作るウイルスの一種で、男性性器の分泌物などに含まれています。70種類以上あるタイプの中のいくつかのものが、前がん病変の形成や頸がんの発生に関与。一般に、ウイルスを持った男性との性交渉によって、外陰部、腟、子宮頸部などの細胞に感染します。

外陰がんや腟がんは非常にまれにしか生じないのに対して、子宮頸がんは比較的多く発生します。とはいっても、実際に子宮頸がんになる人は、ヒトパピローマウイルスに感染した人の中の一部にすぎません。

前がん病変が形成されても、軽度の場合は経過観察しているうちに、約70パーセントが自然に消失することも知られています。発がんには、ウイルスに感染した人の体質、すなわち遺伝子の不安定性や免疫なども関係しているようです。

初期の子宮頸がんではほとんどが無症状ですが、子宮がん検診で行う子宮頸部細胞診により発見することができます。

進行した際の自覚症状としては、月経以外の出血である不正性器出血が最も多く、特に性交時に出血しやすくなります。膿(うみ)のような下り物が増えることもあります。下腹部痛、腰痛、下肢痛や血尿、排尿障害、血便、下痢などが現れることもあります。

がんの進行度で異なる治療法

不正性器出血があったら、婦人科で検査を受けるのがよいでしょう。症状がなくても、年に1回程度は子宮がん検診を受けることが最善です。

子宮頸がんの検査では、子宮頸部を綿棒などでこすって、細胞診用の検体を採取します。細胞診で異型細胞が認められた場合には、コルポスコープと呼ぶ膣拡大鏡で5~25倍に拡大して観察しながら、疑わしい部分の組織を組織診用に採取し、病理学的に検査して診断を確定します。

進行がんの場合は肉眼で見ただけでわかりますが、確定のために細胞診と組織診が行われます。さらに、内診、直腸診で腫瘍(しゅよう)の大きさや広がりを調べます。

子宮頸がんの診断が付いた場合は、胸部X線検査、経静脈性尿路造影、膀胱鏡、直腸鏡検査を行い、臨床進行期が決定されます。腹部超音波検査、CT、MRIによって病変の広がりを調べることも、治療法の選択に当たって重要視されます。

子宮頸がんの主な治療法は、手術療法または放射線療法。年齢、全身状態、病変の進行期を考慮して、治療法が選択されます。治療成績は手術、放射線ともほぼ同じですが、日本では手術が可能な進行期までは、手術療法が選ばれる傾向にあります。

早期がんである0期に対しては、子宮頸部だけを円錐(えんすい)形に切り取る円錐切除術を行うことで、術後に妊娠の可能性を残すことができます。また、レーザーによる治療を行うこともあります。レーザー治療では、子宮頸部をほぼ原形のまま残し、術中まったく出血することなく、痛みもないので無麻酔下で行える利点があり、治療成績も良好です。妊娠の希望がない場合は、単純子宮全摘術を行うこともあります。

進行期の中で浸潤が浅いIa期の場合は、単純子宮全摘術が標準的ですが、妊娠を強く希望される人の場合は、円錐切除術のみが行われることがあります。

明らかな浸潤がんのIa2期や、子宮の周囲にがんが広がるII期の場合は、広汎(こうはん)子宮全摘術が一般的です。広汎子宮全摘術では、子宮だけでなく、子宮の周りの組織や腟を広い範囲で切除し、通常は卵巣も切除します。40歳未満の場合は、卵巣を温存することもあります。摘出物の病理診断でリンパ節転移や切除断端にがんがあった場合は、術後に放射線療法を追加します。

がんの浸潤が深く、広い範囲に及んで手術ができないIII~IV期の進行がんの場合や、高齢者、全身状態の悪い人の場合は、手術の負担が大きいため放射線療法を行います。

放射線療法は通常、子宮を中心とした骨盤内の臓器におなかの外側から照射する外部照射と、子宮、腟の内側から細い器具を入れて照射する腔内照射を組み合わせて行われます。外部照射ではリニアックというX線を用い、腔内照射ではラジウムに替わってイリジュウムが使われるようになっています。

さらに近年、新しく有効な抗がん薬の開発が進み、主治療の手術や放射線療法を行う前に、原発病巣の縮小と遠隔転移の制御を目的にして、主治療前補助化学療法(NAC)も行われるようになりました。点滴で薬を投与するのが一般的な投与法ですが、子宮動脈へ動注する方法もあります。

IIb期やIIIa期でも、先に化学療法を行ってがんを小さくしてから、手術することもあります。IIIb~IVa期などの本来は手術ができない進行期のがんも、NACを行った後に、手術ができることもあります。NAC併用後に手術ができた場合、放射線療法単独の場合よりも治療効果が高いことが報告されており、最近ではNACを行うことが標準的になっています。

2022/08/26

🇸🇩子宮体がん

子宮体部の内膜に発生するがん

子宮体がんとは、子宮体部の粘膜にできる悪性腫瘍(しゅよう)。子宮頸部(けいぶ)に悪性腫瘍ができる子宮頸がんと合わせて、子宮がんと呼ばれていますが、子宮体がんと子宮頸がんの二つは、発生部位はもとより、好発年齢、発生原因、症状が異なるため 、区別して扱う疾患です。

子宮体部は、子宮の奥の赤ちゃんを育てる部分。外側は筋肉に覆われており、内側は子宮内膜という粘膜でできています。その内膜にがんができるのが、子宮体がんです。

主に閉経後の50歳以上の人に好発し、若い人では、不妊症の人や卵巣機能に障害がある人に起こります。

初期の症状としては、何らかの不正出血、下り物がみられます。閉経前では、月経が長引いたり、周期が乱れるという形で不正出血があります。閉経後では、少量の出血が長く続く場合には注意が必要です。

下り物は黄色、褐色から始まり、次第に血性、肉汁様になって、進行すると膿(のう)性になり、悪臭を放つようになります。高齢者では、子宮の入り口が狭くなって詰まってしまい、子宮の中に出血や分泌物が貯留することもあります。

さらに進行すると、子宮体部の内膜に発生したがんは、徐々に子宮体部壁に広がっていきます。広がりが深くなると、骨盤リンパ節や腹部動脈節に転移が起こり、卵巣、卵管、子宮頸部、腹膜へも進展します。さらに、肺、肝臓などの遠隔臓器へも転移します。

一般に、子宮体がんの進行は、子宮頸がんより遅いといわれています。以前は子宮頸がんが子宮がんの大半を占めていましたが、最近では食生活及び生活習慣の欧米化や、高齢化などにより、子宮体がんが増える傾向にあります。今後はさらに増加するものと予測されます。

発生や進行には、女性ホルモンのエストロゲン(卵胞ホルモン)が影響を与えています。エストロゲンは内膜を増殖させる作用があり、一方、排卵後に分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)は、増殖を抑制する作用があります。更年期には、月経があっても排卵が起こっていないことが多く、排卵後に分泌されるプロゲステロンが十分に出ないため、内膜が過剰に増殖して子宮内膜症になり、さらに、子宮体がんに進展する可能性があります。

子供がいないか少ない人や、不妊、卵巣機能不全、肥満、高脂血症、糖尿病などを抱えている人も、エストロゲンが子宮内膜に働いている時間が長くなるため、子宮体がんのリスクを高めるといわれています。

早期の発見、治療が大切

子宮がんでは、早期発見、早期治療が重要です。子宮体がんは子宮頸がんと同様、初期には自覚症状がない場合が多いので、早期発見のために、年に一度は定期検診を受けましょう。50歳前後に発症が多く、最近は閉経後の子宮体がんが増加していますから、閉経後も検診が必要です。

不正出血は大きな手掛かりで、がんになる前の状態の子宮内膜増殖症の段階でも、不正出血が出ることがあります。症状が出てから検診しても、進行がんとは限らないわけです。逆に、進行がんの段階になっても、不正出血のない人もいますので、やはり定期的な検診が大切なのです。

ふだんから自分の体の健康状態に気を付け、不正出血や下り物の異常、性交時の出血、下腹部痛などいつもと違う兆候があったら、ためらわず婦人科を受診することも大切です。

なお、子宮がんの検査を受けた場合でも、実際には子宮頸がんの検査だけを行っている場合もありますから、注意して確認してください。子宮体がんは子宮の奥にできるので、頸がんの検査では発見できません。

検査はまず、細胞診でチェックします。細いチューブを腟から子宮の中に入れて子宮内膜の細胞を吸引採取したり、挿入したブラシでかき取った細胞を、調べます。多少痛みがあります。

細胞診で疑わしい兆候があった場合、あるいは子宮体がんの疑いが強い場合は、最初から組織診が行われることもあります。キューレットと呼ばれる細い金属棒の先に小さな爪のある道具で、子宮体部の組織をかき取り、顕微鏡で検査する方法が中心になっています。少し痛みがあり、出血が数日続くこともあります。

子宮体がんの治療では、手術、放射線、抗がん剤に加え、ホルモン療法が有効な場合もあります。基本は、やはり手術です。

主な手術には、単純子宮全摘術と附属器の切除、広汎子宮全摘術があります。前者の手術は、腹部を切開して子宮と卵巣、卵管を切除する手術です。進行の程度により、周囲のリンパ節の切除も加えます。後者の手術は、子宮と卵巣、卵管、腟、さらに子宮周囲の組織を広く切除する手術で、周囲のリンパ節も一緒に切除します。

手術によって、リンパ節転移が発見されたり、がんが子宮の壁に深く食い込んでいることがわかった場合に、手術後に放射線療法を行うこともあります。抗がん剤を投与して腫瘍を小さくしてから、手術を行うこともあります。

手術が難しい場合は、抗がん剤や放射線による治療を行うことになります。抗がん剤の場合は副作用を抑える薬などが併用され、放射線治療の場合も重い放射線障害が起こらない範囲で治療が行われています。それでも、ある程度の副作用があることは、やむを得ないところです。

また、子宮体がんは女性ホルモンと関係が深いので、ホルモン療法が有効なことがあり、注目されています。基本的には、プロゲステロン(黄体ホルモン)の働きをする薬を飲みます。

予防の基本は生活習慣と食生活の改善

子宮がんの予防の基本は、体や局部を清潔に保つことです。また、日常の生活習慣や食生活と子宮がんは、密接な関係にあるといわれています。

改善できる生活習慣では禁煙があり、お酒を飲みすぎない、バランスのとれた食事をし、決して食べすぎず、適切な運動と休養をとり、ストレスをためない工夫を心掛けることです。

特に、食べ物では、高塩分、高コレステ ロール食は避け、繊維質、緑黄色野菜、魚類や、がんを抑える作用があるといわれる大豆食品をたくさん摂取するようにします。

また、がんの発生要因とされている活性酸素を抑える物質を多く含む食品を取ることも、有効ながん予防策。活性酸素を消去する物質としては、体内で作り出される抗酸化酵素と、食事等から摂取する抗酸化力のあるビタミンA(β―カロチン)、C、E、B群やポリフェノール、カロ チノイド、大豆イソフラボンなどがあります。

🇵🇷歯肉がん(歯茎がん)

上下の歯茎に発生するがんで、口腔がんの一つ

歯肉(しにく)がんとは、歯茎に発生するがん。歯茎がんとも呼ばれます。

口の中にできるがんを口腔(こうくう)がんと呼びますが、歯肉がんはそのうちの一つでもあります。口腔がんとしては、舌にできるがんである舌(ぜつ)がんの次に多く発生します。口腔がん自体が身体全部のがんの中で約2~3パーセントの率とあまり多くはないので、歯肉がんも比較的まれながんであるといえます。

その多くは、上あごの歯茎よりも下あごの歯茎、前歯よりも奥歯の部分に発生します。ほとんどは、歯肉の粘膜の扁平(へんぺい)上皮細胞から発生します。 年齢別で40歳以上に多く、性別では女性より男性に多くみられます。

原因は、まだはっきりしたことはわかっていません。ただ、喫煙、アルコールの刺激、虫歯、歯石、入れ歯や歯に入れている金属による慢性的な歯茎への刺激、口の中を不潔にしているなど、さまざまな原因が複合することで発生すると考えられています。

歯肉がんの初期の段階では、歯茎の炎症と同じような症状が起こります。例えば、歯の痛み、歯茎のはれなどを自覚するようになります。歯を抜いた後に、急速に大きくなることもあります。

進行すると、凸凹したこぶ状のしこりとなって、表面に潰瘍(かいよう)ができ、 悪臭や神経痛のような痛みが出たり、出血することもあります。

さらに進行すると、歯肉のすぐ下にある上顎(じょうがく)骨や下顎骨へとがんが広がっていき、これを破壊します。そのために、歯が緩んだり、抜け落ちたりすることがあります。

そして、がんはほおの粘膜、舌の根元を包んでいる口腔底、口腔と鼻腔の間にあってアーチ形の上壁をなす口蓋(こうがい)などの周囲へと進んでいきます。顎下リンパ節、頚部首筋のリンパ節、肺に転移することもあります。

歯肉がんの検査と診断と治療

歯肉がんは口内炎と誤診されやすく、発症者もすぐ治るだろうと思って放置している場合が多く見受けられます。そのために腫瘍(しゅよう)が大きくなりすぎたり、周囲組織への強い浸潤を伴うケースがしばしばみられますので、疑わしい症状があればまず歯科口腔外科を受診します。

 医師による診断では、X線検査やCT検査、MRI検査を行い、最終的には組織片を調べて確定します。

治療は、ごく初期のケースでは放射線照射だけで治癒することもあります。上下のあごの骨までがんが達している多くのケースでは、ほとんど手術が必要となります。

手術は、歯肉とともに上顎骨や下顎骨を切除します。上顎骨を切除した場合には、特殊な入れ歯を作製し、使用します。下顎骨を切除した場合には、咀嚼(そしゃく)に不便を感じることが多いものの、嚥下(えんげ)や会話は可能。

近年では、肋骨(ろっこつ)、腸骨、腓骨(ひこつ)、 肩甲骨などを用いて下顎骨を再建するようになってきているため、手術後の障害は大幅に解消されつつあります。

また、歯肉がんの中には、抗がん剤による化学療法のかなり有効なタイプのものもあります。

🇧🇧脂肪肉腫

脂肪を含んだ細胞が悪性化した悪性腫瘍で、悪性軟部腫瘍の一種

脂肪肉腫(にくしゅ)とは、脂肪を含んだ細胞が悪性化した悪性腫瘍(しゅよう)。体の軟部組織から発生する軟部肉腫(悪性軟部腫瘍)の一種です。

軟部肉腫の日本での発生率は10万人に2人くらいで、まれな腫瘍です。種類は多くて30種類以上あり、脂肪肉腫は発生する頻度が比較的高くなっています。

脂肪肉腫は体全体に発生しますが、一番多いのは太ももと骨盤内部の後腹膜腔(こうふくまくくう)で、30歳代から60歳代の広範囲にわたった世代にみられます。

また、脂肪肉腫は4つに分類され、四肢の深部や後腹膜腔に出現し、悪性腫瘍と良性腫瘍の中間に分類されている高分化型脂肪肉腫を始めとして、脂肪肉腫の3分の1を占め、粘液を含んだ異常な細胞と脂肪の性質を持つ細胞が見られる粘液型脂肪肉腫、脂肪の性質を持つ細胞を含むものの、もっと悪性度の強い肉腫細胞が多く見える多形型脂肪肉腫、高分化脂肪肉腫の中に、より悪性度が高いほかの形態をとる肉腫が発生する脱分化型脂肪肉腫とがあります。

脂肪肉腫の症状としては、急に大きくなった痛みを感じない、しこりです。悪性度が高ければ痛みを伴いますが、それ以外の場合は無痛なのが一般的です。しこりの部分には、熱感があります。

発生した部位によって症状も異なり、太ももなど筋肉の厚い部位で、骨に近い深部に脂肪肉腫が発生すると、しこりを触れることが難しく、太もも全体が大きくはれたようになることもあります。膀胱(ぼうこう)付近に脂肪肉腫が発生すれば頻尿になり、腸付近に発生すれば便秘になります。手足に発生すればしびれやむくみなどが出て、しこりが大きくなると、はれてきて関節が曲がらなくなったり、座れなくなったりすることもあります。

脂肪肉腫が進行していくと、最初に発生した部位から、血液やリンパ液の流れに乗って悪性の細胞が移動し、ほかの臓器に転移することもあります。一般的に、肺転移が最も多くみられますが、粘液型脂肪肉腫の場合は肺ではなく肝臓への転移が多くみられます。

脂肪肉腫の発生原因は、まだ解明されておらず、遺伝性があるということだけはわかっている状態です。粘液型脂肪肉腫では、染色体の異常により、2つの遺伝子が一部分のみくっ付き新たな遺伝子を生み出すキメラ遺伝子が、腫瘍の原因遺伝子と考えられています。しかし、なぜキメラ遺伝子が腫瘍を生み出すのかについては、いまだ解明されていません。

そのほかの脂肪肉腫については、特異的な遺伝子配列の異常は認められず、染色体の形態が何らかの働きで異常を起こし、細胞の遺伝子情報が変化することが原因ではないかと考えられています。

脂肪肉腫は難治性の腫瘍の一つであり、最初の治療の成否により予後に大きな差が出てきますので、疑わしい症状に気付いたら多少の地理的な不便があっても、がん専門病院や大学病院の整形外科を受診することが勧められます。

脂肪肉腫の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、まず視診と触診を行います。皮膚に治りにくい潰瘍(かいよう)ができているもの、腫瘍が深部に発生し硬いもの、腫瘍の大きさが5センチを超えるものは、脂肪肉腫の可能性があります。

その場合は、針を刺して組織の一部を取り出して調べる針生検を行ったり、CT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査、超音波(エコー)検査、血管造影検査などを行います。

肺の転移を調べるためには肺の断層撮影やCT検査、リンパ節転移やそのほかの臓器への転移を調べるためにはアイソトープを使った腫瘍シンチグラフィー(RI)検査などを行います。同時に、1センチ角の組織を切開して病理組織学的に調べ、腫瘍の種類を判断します。

整形外科の医師による治療では、一般的には手術によって脂肪肉腫を摘出します。手術をする際には、再発予防のために正常な組織の一部分も一緒に切除するという広範切除術が原則となります。

最近では、発症者への体の負担を考慮して、縮小手術や、上肢や下肢を切断しない患肢温存術をする医療機関も増えてきています。

悪性度の高い脂肪肉腫では、手術による摘出に併せて、抗がん剤を用いる化学療法や、腫瘍を小さくする放射線療法、さらには電磁波を当てて温める温熱療法など、さまざまな治療を組み合わせて集学的治療を行います。

従来、化学療法は副作用が強く、つらい治療の一つでしたが、最近は副作用を軽減する新しい薬剤や、いろいろな支援療法が行われています。

いずれも治療が終了した後も、再発防止のために経過観察を継続する必要があります。

2022/08/25

🇵🇦絨毛がん

妊娠した女性の胎盤を作っている絨毛組織から発生するがん

絨毛(じゅうもう)がんとは、妊娠した女性の胎盤を作っている絨毛組織から発生するがん。

胎盤は、子宮と胎児との間でガスや栄養、老廃物を交換する器官で、母胎由来の組織と胎児由来の組織からできています。絨毛組織は胎児由来の組織であり、母胎に接する部分にあります。この絨毛組織から発生する疾患には、絨毛がんのほかに胞状奇胎、侵入胞状奇胎などがあり、絨毛性疾患と総称されます。

ほとんどの絨毛がんは、妊娠の後に発生する妊娠性絨毛がんです。大部分は子宮に病巣を作りますが、肺などの転移巣だけが認められて、子宮に病巣が見付からないこともあります。まれに、妊娠とは無関係に、卵巣や精巣にある生殖細胞から非妊娠性絨毛がんが発生することがあります。

絨毛がんのほとんどを占める妊娠性絨毛がんは、約半数が胞状奇胎後に、4分の1が正常妊娠後に、残りの4分の1が流産や子宮外妊娠後に発生します。逆に、胞状奇胎の中の約20パーセントが侵入胞状奇胎や絨毛がんになります。

そのために、胞状奇胎の治療後は定期検診が重要です。胞状奇胎の治療後に定期検診を受けている場合は、無症状の段階で絨毛がんが発見できます。

自覚症状としては、生理以外の不正性器出血や、下り物の増量がみられます。子宮、卵巣のはれや腹腔(ふくくう)内出血による下腹部痛が起こることもあります。つわりが生じることもあります。肺への転移により、胸痛、せき、血痰たん、呼吸困難が起こる場合もあります。

かつては、絨毛がんが肺、腟(ちつ)、肝臓、脳などに血行性転移を非常に起こしやすかったため、致死的とされてきました。近年では、抗がん剤による化学療法により大部分が治癒するようになりました。

絨毛がんの検査と診断と治療

絨毛性疾患は初めは正常妊娠と変わらないので、早期発見は必ずしも容易ではありません。生理以外の不正性器出血を認めた場合、出産や流産の後に子宮が大きくなってきた場合、妊娠したのに予想したような胎児の動きを感じない場合は、婦人科、産婦人科の専門医を受診します。

医師の側では、絨毛がんなどの絨毛性疾患が疑われた場合には、血液中および尿中のヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)というホルモンを測定します。絨毛性疾患では、このホルモンが高値となります。ただし、正常妊娠や流産、子宮外妊娠でもhCGは高値となります。

子宮およびその他の腹部臓器への病変の広がりは、婦人科的な診察や腹部超音波検査、MRI検査、CT検査によって調べます。超音波検査などにより、豊富な血流像が観察されます。骨盤内の血管造影を行うこともあります。

絨毛性疾患は肺への転移が高率にみられるので、胸部単純X線写真も撮影します。肺への転移や神経症状がある場合は、脳への転移の有無を頭部CT検査、MRI検査で調べます。

子宮、腟、肺などの病変を切除して、病理学的に診断を確定することもあります。しかし、hCGが異常に高い場合は病理学的診断を行わずに、臨床的に診断することも少なくありません。この場合は、経過や転移部位などを点数化した絨毛がん診断スコアを用いて、臨床的侵入奇胎と臨床的絨毛がんとの区別をします。

絨毛性疾患に対する治療としては、抗がん剤による化学療法が非常に有効です。侵入奇胎に対しては通常1種類の抗がん剤による治療を行いますが、絨毛がんの場合は3〜5種類の抗がん剤を組み合わせた多剤併用療法を行います。

化学療法のみで効果が不十分な時は、病巣を切除する手術や、高エネルギーX線を用いる放射線療法を組み合わせて行います。

🇲🇽上咽頭がん

鼻の奥で、頭蓋底の直下の部分に発生する咽頭がん

上咽頭(じょういんとう)がんとは、鼻の奥で、口を開けても見えない頭蓋(とうがい)底の直下の部分に発生するがん。中咽頭がん、下咽頭がんとともに咽頭がんの一つで、前二者に比べると発生頻度はやや少ない傾向があります。

上咽頭は上気道の一部で、頭蓋底、副鼻腔(びくう)に囲まれ、その下方は中咽頭に続き、その外側は耳管によって両側の中耳腔とつながっています。周辺には内頸(けい)動脈、脳神経が存在します。

初期症状は、がんのために耳管が閉塞(へいそく)されて起こる難聴、鼻詰まり、鼻出血などで、首のリンパ節がしばしば大きくはれてきます。

進行すると、脳神経まで侵され、ものが二重に見えたり、三叉(さんさ)神経などの脳神経障害が出てきて、頭痛がしたり、顔面の知覚が鈍くなったり、痛みが出たりします。また、肺、肝臓、骨などへの転位が多いのも、上咽頭がんの特徴です。

上咽頭がんの検査と診断と治療

医師による診断では、内視鏡検査やCT検査、MRI検査などの画像検査を行い、最終的には組織片を調べて確定します。

治療は放射線照射が主体ですが、従来の成績はあまり良好ではありませんでした。近年では、放射線治療の前後に、抗がん剤の注射療法を行い、肺、肝臓などへの転位を防止します。

この化学療法を実施することで、従来は40パーセント以下だった5年生存率は、60パーセントまで向上するようになっています。

🇲🇽消化管カルチノイド

非がん性、がん性の混じった腫瘍で、消化管のホルモン産生細胞に発生

消化管カルチノイドとは、消化管の原腸(げんちょう)由来の臓器から発生する、非がん性ないしがん性の腫瘍(しゅよう)。原腸とは、受精卵が成長する過程で出現する消化管その他の原器です。

消化管カルチノイドは、胃、十二指腸、小腸、虫垂、直腸などの消化管内壁のホルモン産生細胞に発生します。また、カルチノイドは消化管のほか、膵臓(すいぞう)、精巣、卵巣、肺、気管支、胸腺(きょうせん)のホルモン産生細胞でも発生します。

がん性のカルチノイドは、一般のがんに比べて進行はゆっくりで、長い経過をたどります。転移することもまれです。全く症状を示さない非がん性のカルチノイドも、発生します。

消化管に発生したカルチノイドは、小型核を持つ形状をしていて、卵円形から円形をした細胞で構成されており、セロトニン、ブラジキニン、ヒスタミン、プロスタグランジン、カテコールアミンなどのホルモン様の生理活性物質を産生します。一方、膵臓、肺、気管支、胸腺などに発生したカルチノイドは、副腎(ふくじん)皮質刺激ホルモン、抗利尿ホルモン、ガストリンなどを産生します。

カルチノイドが消化管や膵臓にできると、それが産生する物質は血液中に放出され、直接肝臓の門脈に入り、肝臓の酵素によって破壊されます。そのため、消化管にカルチノイドができても、一般的には肝臓に広がらなければ症状は現れません。

肝臓に広がった場合は、肝臓はこれらのホルモン様の生理活性物質が全身を循環し始める前に破壊できなくなります。腫瘍が放出する物質によって、カルチノイド症候群と呼ばれる種々の症状が現れます。また、肺、精巣、卵巣に腫瘍ができた場合も、産生するホルモン様の生理活性物質が肝臓を迂回(うかい)して血流に乗り、広く全身を循環するために種々の症状が現れます。

消化管カルチノイドのある人の多くは、他の腸管腫瘍に似た症状を示し、主に締め付けられるような腹部の痛みと、腸閉塞(へいそく)の結果として便通の変化が現れます。

カルチノイド症候群は腫瘍がある人の10パーセント以下に現れ、顔や首に出る不快な紅潮は最も典型的で、最初に現れることが多い症状です。血管拡張による紅潮は、感情、食事、飲酒、熱い飲み物によって起こります。紅潮に続いて、皮膚が青ざめることがあります。

セロトニンに起因して腸の収縮が過剰になると、腹部けいれんと下痢を生じます。腸は栄養を適切に吸収できないため栄養不足になり、脂肪性の悪臭を放つ脂肪便が出ます。心臓も傷害を受けて、下肢がはれます。肺への空気の供給も妨げられて、気管支ぜんそくに似た発作や息切れが現れます。セックスへの興味を失ったり、男性では勃起(ぼっき)機能不全になることもあります。

カルチノイド症候群による種々の症状が現れた場合は、消化器科、外科の医師を受診します。主症状が腹痛なので、内科を受診することがあるかもしれませんが、それでも問題はありません。

消化管カルチノイドの検査と診断と治療

消化器科などの医師による診断では、症状から消化管カルチノイドが疑われる場合は、尿を24時間採取して、尿中のセロトニンの副産物の1つである5ーヒドロキシインドール酢酸(5ーHIAA)の量を測定し、その結果から判断します。

この検査を行う前の少なくとも3日間は、バナナ、トマト、プラム、アボカド、パイナップル、ナス、クルミといったセロトニンを豊富に含む食べ物を避けます。ある特定の薬、せき止めシロップによく使われるグアイフェネシン、筋弛緩(しかん)薬のメトカルバモール、抗精神病薬のフェノチアジンなども検査結果の妨げになります。

腫瘍の位置を突き止めるには、放射性核種走査が有効な検査です。カルチノイドの多くはホルモンのソマトスタチン受容体がありますので、放射性ソマトスタチンを注射する放射性核種走査によって、腫瘍の位置や転移の有無が確認できます。この方法で約90パーセントの腫瘍の位置がわかります。

CT(コンピューター断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像)検査、動脈造影も、腫瘍の位置を突き止めたり、腫瘍が肝臓に転移していないかを確認するのに役立ちます。腫瘍の位置の診査手術が必要な場合もあります。

腫瘍が胃、小腸、虫垂、直腸など一定部分に限定していれば、外科的切除で治癒することがあります。腫瘍が肝臓に転移している場合、手術で治すのは困難ですが、症状が緩和されることがあります。腫瘍の増殖は遅いので、腫瘍が転移している人でさえ10〜15年生存することがしばしばあります。

進行した場合、一般のがんと同様に放射線療法や、抗がん剤による化学療法を含めた集学的治療を行います。ストレプトゾシンにフルオロウラシル、時にはドキソルビシンなどの抗がん剤の併用によって、症状を緩和できることがあります。オクトレオチドもホルモン産生や腸の収縮を抑制して症状を緩和し、タモキシフェン(ホルモン剤)、インターフェロンアルファ(生物学的応答調節剤)、エフロルニチンは腫瘍の増殖を抑制します。

カルチノイド症候群による紅潮を抑えるためには、フェノチアジン、シメチジン、フェントラミンが使用されます。

🇨🇦上顎洞がん

副鼻腔の1つである上顎洞に発生する悪性腫瘍

上顎洞(じょうがくどう)がんとは、鼻の両横に位置する副鼻腔(ふくびくう)の1つである上顎洞に発生する悪性腫瘍(しゅよう)。

上顎洞、前頭(ぜんとう)洞、篩骨(しこつ)洞、蝶形骨(ちょうけいこつ)洞と4つある副鼻腔に発生するがんでは、最も頻度が高く、日本での年間推定発症者は約1000人で、50歳以上の発症者が多く、男性のほうが女性より2倍多い傾向がみられます。

組織型としては、偏平上皮がんの頻度が最も高くなっています。

多くのほかのがんと同様に、明らかな原因は不明ですが、蓄膿(ちくのう)症とも呼ばれる慢性副鼻腔炎との関係が指摘されています。慢性副鼻腔炎を長期間患うと、上顎洞内にある多列線毛上皮が、重層偏平上皮に化生し、偏平上皮がんを発生することがあります。

初期の主な症状として、左右どちらか片側の鼻腔のみの鼻詰まり、鼻水がみられます。これは、鼻の左右両横にある上顎洞に、同時にがんが発生することはほとんどないためです。

がん細胞が周辺の組織を侵食していくと、鼻水には出血や膿(うみ)が混じり、悪臭のある粘度の高いものになります。上顎洞は上顎や目に近いため、がん細胞が巨大化すると、歯の痛みや歯肉のはれ、頬部(きょうぶ)のはれ、頬(ほお)のしびれ、眼球突出、視力障害などが現れることがあります。

しかし、がん細胞が上顎洞内だけにある場合は自覚症状がほとんど出ないので、発症に気付かず、放置してしまうこともあります。頸部(けいぶ)リンパ節への転移があれば、頸部腫瘤(しゅりゅう)が現れます。

症状があれば、設備の整った総合病院の耳鼻咽喉(いんこう)科を受診することが勧められます。

上顎洞がんの検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、がんが鼻腔にまで進行していると、内視鏡の一種の鼻腔ファイバースコープで確認できることがあります。検査の結果、疑わしい病変部位が発見された場合には、病変の一部を採取し、顕微鏡で調べる生検を行います。

鼻腔ファイバースコープで病変の一部が採取できない場合は、歯茎の一部を切開して、上顎洞から病変の一部を採取します。この生検では、できた病変ががんであるかどうか確定診断をすることができます。

がんの広がり具合や、周辺の組織や他臓器への転移の有無などを調べるためには、CT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査、超音波(エコー)検査を行います。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、放射線治療、化学療法(抗がん剤)、手術療法を組み合わせた三者併用療法を行います。かつては上顎を全部摘出する手術療法のみでしたが、最近では三者併用療法により、上顎の温存が可能になりつつあります。

放射線治療や化学療法の効果が得られないほどに上顎洞がんの進行が進み、症状の悪化がみられる場合には、眼球や上顎の一部もしくは全部を摘出する手術療法を行います。

早期がんでは、内視鏡を鼻腔から入れ、がんを切除する方法が適用できますが、進行がんでは、歯茎を切開して上顎洞がんを切除する必要があります。

🇲🇪膀胱がん

膀胱の表面を覆う上皮ががん化することで起こる疾患

膀胱(ぼうこう)がんとは、膀胱の内部表面を覆う移行上皮ががん化することで引き起こされる疾患。組織学的には、移行上皮がんが全体の90パーセントを占めています。

膀胱は骨盤内にある臓器で、腎臓(じんぞう)で作られた尿が腎盂(じんう)、尿管を経由して運ばれた後に、一時的に貯留する一種の袋の役割を持っています。膀胱がたまった尿で伸展されると、それを尿意として感じ、筋肉が収縮することによって排尿して、膀胱より尿を出し切るといった働きがあります。その膀胱の表面を覆う移行上皮は、伸縮性に富むことが特徴的です。

泌尿系のがんの中では、膀胱がんが最も死亡者数が多く、7割以上を占めます。罹患(りかん)数も最多で、泌尿系のがん全体の約半数を占めます。

年齢別にみた罹患率は、40歳以上に多く、男女とも60歳以降で急増します。男性のほうが女性より罹患率が高く、女性の約4倍です。罹患率の国際比較では、欧米白人で高く、日本人を含む東アジア系民族では低い傾向があります。日本では、年間10万人中約10人の罹患率。

膀胱がんのはっきりとした原因は、不明です。確立されたリスク要因としては、喫煙が挙げられています。喫煙する人では喫煙しない人と比較して、2〜3倍多くなります。古くはアニリン系色素やゴム工場従事者に多く発生し、職業がんとして有名でした。現在では、ベンチジンなど、がんと因果関係のはっきりしているものの使用は禁止されています。

長期間、膀胱結石があったり、膀胱周囲の血管系に寄生するビルハルツ住血吸虫症に感染していたりすると、その慢性的な刺激により発がんすることがあります。医薬品では、フェナセチン含有鎮痛剤やシクロホスファミドに発がん作用が認められています。

初発症状として最も多いのは血尿で、赤色や褐色の尿で気付いたり、尿検査などで発見されます。この血尿は膀胱炎とは異なり、痛みなどを伴わないのが特徴で、無症候性血尿と呼ばれます。血尿は数日経過すると止まることもありますが、また出たり止まったりを繰り返しながら、疾患は進行します。

病変の部位が膀胱の出口に近い尿道口や膀胱頸部(けいぶ)にあると、頻尿、排尿時の疼痛(とうつう)、尿の混濁、残尿感など膀胱炎と非常に類似した症状や、排尿障害などが現れます。さらに尿管が閉塞(へいそく)してしまうと、尿が流れないために腎臓がはれたり、尿管が拡張する水腎症の症状が現れたり、それによって腎臓機能が低下することがあります。進行すると痛み、排便の異常、直腸や子宮からの出血などが現れることもあります。

膀胱がんの検査と診断と治療

膀胱がんは血尿で始まることが多い疾患ながら、血尿があればすべて膀胱がんというわけではありません。しかし、肉眼的な血尿を自覚したり、尿検査などで指摘されたりした場合には、いろいろな疾患も考えられるため、泌尿器科や腎臓内科の専門医を受診します。

通常、膀胱がんは隆起しているので、膀胱鏡検査でその一部分を採取して顕微鏡検査をすることで、医師の診断は確定します。この膀胱鏡検査では、病変の性状や大きさ、数、発生部位なども観察することができます。膀胱がんは多発することがあり、膀胱鏡検査で見ただけではわかりにくい場合は、肉眼的に正常と思われる部位からも生検します。

尿中に混じっている異常細胞を調べる尿細胞診も行われますが、小さな乳頭状のがんでははっきりがん細胞と断定できないことがあります。

進行度を調べるためには、腹部のCT検査やMRI検査、腹部および経尿道超音波検査、排泄(はいせつ)性尿路造影などが行われます。転移がないかどうかを調べるためには、胸部X線検査、腹部CT検査、骨シンチグラフィなども行われます。膀胱と同様に移行上皮がある腎盂や尿管に異常がないかどうかも、排泄性尿路造影などで検査します。

膀胱がんの治療は、検査によって得られたがんの状態や転移の有無、発症者の年齢や体力などを考慮して決定されます。膀胱壁の比較的浅い部分までに限局している表在性腫瘍では、経尿道的膀胱腫瘍切除術が行われます。これは腰椎(ようつい)麻酔をした上で尿道から膀胱鏡を入れ、電気メスで腫瘍を切除する治療です。再発防止のために、抗がん薬の膀胱内注入が行われることもあります。

がんが膀胱壁の最も浅い層である粘膜内に限局している上皮内がんには、BCG(結核のワクチン)の膀胱内注入が行われることがあります。これは外来で行うことができ、週に一度の注入を数回行います。

膀胱壁のより深い部分に及んでいる浸潤性腫瘍では通常、膀胱全摘除術、および膀胱を切除した後に尿を出すための経路を作る尿路変更(変向)術が行われます。膀胱全摘除術は全身麻酔下で行われる手術で、膀胱と周囲のリンパ節のほかに、男性であれば前立腺(せん)、精嚢(せいのう)などを、女性であれば尿道、腟(ちつ)前壁などを同時に摘出します。

続いて行う尿路変更術には、尿管皮膚瘻(ろう)、回腸導管造設術、自然排尿型代用膀胱などがあります。尿管皮膚瘻は、左右の尿管を皮膚につなぎ、腎臓までカテーテルを入れて、そこから排尿するものです。手術としては簡単ですが、常に尿が出てくるので袋をつけておかなければなりませんし、感染の危険もあります。

回腸導管造設術は、小腸の一部を切り取って、そこに左右の尿管をつなぎ、その小腸の一端を皮膚につないで排尿するものです。感染などの合併症が少ない方法ですが、やはり常に袋をつけておく必要があります。

自然排尿型代用膀胱は、小腸を用いて作成した代用膀胱を元の膀胱と置き換えて、元と同じ尿道口より排尿する方法です。最も生理的な方法ですが、尿道を温存できる場合しか適応となりません。腹圧によって排尿することができますが、うまくできない場合には自己導尿が必要になることもあります。

転移があるような進行がんや、全身状態に問題があったり、手術を希望しない場合には、抗がん剤による化学療法が行われ、通常2種類以上の薬剤が組み合わせて投与されます。メトトレキサート(メソトレキセート)、ビンブラスチン(エクザール、ビンブラスチン)、ドキソルビシン(アドリアシン)、シスプラチン(ランダ、ブリプラチン)の4剤を組み合わせたM—VAC療法が、膀胱がんに対して最もよく行われる化学療法です。近年、タキソールやジェムシタビンといった新しい抗がん剤を用いる治療も注目されています。

また、手術の前に抗がん剤による治療を行うこともあり、これは術前補助療法と呼ばれます。一方、手術の後に抗がん剤による治療を行うこともあり、こちらは術後補助療法と呼ばれています。

放射線併用治療も行われています。放射線にはがん細胞を死滅させる効果があるので、がんを治すため、またはがんにより引き起こされる症状をコントロールするために使われます。放射線治療の適応となるものは、基本的に浸潤性腫瘍です。膀胱の摘出手術では尿路変更が必要となるデメリットがあるため、あえて放射線治療や、放射線治療に化学療法を合わせて治療し、膀胱を温存することもあります。

膀胱がんは膀胱が存在する限り、膀胱内に再発する可能性は常にあります。経尿道的膀胱腫瘍切除術の後は、定期的に外来に通院し、膀胱鏡や尿の細胞診でチェックする必要があります。膀胱を摘出した場合には、転移が出現していないかなど定期的なチェックももちろんのこと、回腸導管や、腸管で作られた新しい膀胱が機能しているか、腎障害が出てきていないかなどのチェックも必要になってきます。

🇸🇦ボーエン様丘疹症

ヒト乳頭腫ウイルスが感染して、性器にいぼができる疾患

ボーエン様丘疹(きゅうしん)症とは、主にヒト乳頭腫(にゅうとうしゅ)ウイルス(ヒトパピローマウイルス)16型が感染して、性器や肛門(こうもん)周囲などにいぼができる疾患。ボーエン様丘疹症は皮膚科での呼び名で、婦人科では外陰上皮内腫瘍(しゅよう)と呼ばれます。

性行為感染症の1つとされており、一般に20~30歳代の性活動が盛んな年代に多くみられ、ヒト乳頭腫ウイルスがセックスの時などに感染することで起こります。性的パートナーがウイルスを体内に保有しているキャリアならほぼ感染するほど、ヒト乳頭腫ウイルスの感染力は強く、皮膚や粘膜との直接的または間接的な接触により感染し、唾液(だえき)、血液、生殖器からの分泌液などの体液からは感染しません。

感染後3週間から6カ月程度で、性器に2ミリから1センチくらいの黒褐色のいぼ、すなわち丘疹が多発します。個々の丘疹が癒合して、大きな平面状になることもあります。

同じ性行為感染症の1つで、ヒト乳頭腫ウイルス6型と11型が感染して、性器に1ミリから3ミリくらいのカリフラワー状の丘疹を生じる尖圭コンジロームと、区別が付きにくい場合もあります。混合感染して、ボーエン様丘疹症と尖圭コンジロームを一緒に発症することもあります。

また、ボーエン様丘疹症の病変は、病理組織学的にはボーエン病の病変に類似しているとされています。ボーエン病は、境のはっきりした褐色の色素斑(はん)が体幹や四肢に好発する皮膚病で、かなり高い確率で将来がんに移行し得る皮膚がん前駆症の一つです。

しかし、比較的若い人に生じたボーエン様丘疹症が悪性化することは少なく、90パーセントは体内の免疫力で数カ月から3年以内で、ウイルスは自然消滅します。

10パーセントはウイルスが細胞の中に残り、その中の10パーセントから20パーセントは悪性で、さらにその中の10パーセントは子宮頸(けい)がんや口腔(こうくう)がん、舌がん、喉頭(こうとう)がん、肛門がんを発症するリスクがあります。

ボーエン様丘疹症の受診科は、泌尿器科、性病科、皮膚科、婦人科(女性)となります。

ボーエン様丘疹症の検査と診断と治療

泌尿器科、性病科、皮膚科、婦人科の医師による診断では、皮膚症状から視診で判断し、似たような尖圭コンジロームや、梅毒でみられる扁平(へんぺい)コンジロームなどのほかの疾患と鑑別します。判断が難しい場合は、いぼの一部を切除して顕微鏡で調べる組織検査で判定することもあります。時には、血液検査で梅毒ではないことを確認することもあります。

泌尿器科、性病科、皮膚科、婦人科の医師による治療では、一緒にできることもある尖圭コンジロームの場合と同じで、いぼが小さくて少数なら、局所免疫調節薬であるイミキモド軟こう、ポドフィリン液、5−FU軟こう、尿素軟こうなどの塗り薬も効果があるといわれています。

一般的には、液体窒素による凍結凝固や、レーザー、電気メスによる焼灼(しょうしゃく)が有効です。改善しない場合や悪性化が疑われる場合は、外科的切除も考慮します。

診断が確定したら、きちんと治るまで性行為は控えるか、コンドームを使用するようにします。また、子宮頸がんなどの発症の可能性があるという観点から、治癒が確認できるまで治療、あるいは経過観察を怠らないようにすべきです。ヒト乳頭腫ウイルス16型に長期間感染していると、子宮頸がんを発症する可能性があると考えられています。

なお、ボーエン様丘疹症を生じた男性の性的パートナーである女性は、子宮頸がんの発症に注意し、検診を定期的に行うことが勧められます。

🇵🇰ボーエン病

かなり高い確率でがんに移行し得る皮膚がん前駆症の一つ

ボーエン病とは、境のはっきりした褐色の色素斑(はん)が体幹や四肢に好発する皮膚病。1912年のジョン・T・ボーエン医師の論文から、命名された疾患です。

このボーエン病は、かなり高い確率で将来がんに移行し得る皮膚がん前駆症の一つであり、狭義には表皮内がんと同じです。表皮内がんというのは、がん細胞が皮膚の浅いところにだけあり、この状態では転移の心配はありません。

しかし、放置していて進行すると、皮膚の深いところである真皮内に、がんが浸潤し体をむしばむ可能性があります。それも広い意味でボーエン病ですが、区別してボーエンがんと呼ぶこともあります。さらに進行すると、リンパ節転移や内臓転移を起こし、ついには死に至ります。

ボーエン病は大人、特に60歳以上の高齢者に発症します。原因は、日光照射、ヒ素中毒、エイズを含む免疫抑制状態、ウイルス感染、皮膚傷害、慢性皮膚炎などです。

典型的な症状は、境界が鮮明で、不整形の褐色の色素斑が現れ、上にかさぶたがつき、皮がめくれたりします。有色民族の場合は褐色ですが、白人の場合は紅斑が現れます。かゆみはないものの、湿疹(しっしん)や乾癬(かんせん)のような皮膚病と間違いやすいものです。

日光の紫外線の影響による場合は、皮膚の露出部に色素斑が現れます。ヒ素やその他の影響による場合は、皮膚の露出部にも現れるとともに、服に覆われている体幹部や下肢、陰部が好発部位となります。

放置すると、症状が不変の場合もありますが、通常は徐々に拡大します。単発の場合もありますが、多発例も10~20パーセント程度あり、ヒ素による場合は、手のひらと足の裏の角化、体の色素沈着と点状白斑、つめの線状色素沈着などの皮膚症状がみられ、皮膚以外にも肝がん、肺がん、膀胱(ぼうこう)がんなどの内臓悪性腫瘍(しゅよう)を合併します。原因が飲料水のヒ素汚染の場合は、地域的に多数発生します。

ボーエン病の検査と診断と治療

かゆみのない褐色の色素斑ができているのに気付いたら、一度、皮膚科専門医を受診します。

専門医が視診すると診断がつくことが多いのですが、湿疹や乾癬など他の皮膚病との鑑別は必ずしも簡単ではありません。確実に診断するためには、病変の一部を切り取って組織検査をすることが必要です。

ボーエン病と診断されれば、合併率が高い内臓悪性腫瘍の検査も同時にする必要があります。多発性ボーエン病では、ヒ素中毒などを除外するための検査も必要です。

ボーエン病の治療としては、初期なら手術で病変を切り取れば、完治することがほとんどです。病変が小さければ切り取った後、傷を直接縫い合わせて閉じることもあります。病変が5センチとか10センチ以上では、切り取った後の皮膚欠損が大きく、複雑な形となり、直接縫合することができないこともあります。そういう場合は、植皮術や皮弁形成術で修復が可能です。

表皮内がんより進行したボーエンがんである場合は、病変の切除と植皮や皮弁で修復することに加え、リンパ節廓清(かくせい)術を組み合わせることがあります。また、状況により放射線療法、抗がん剤の投与、レーザー焼灼(しょうしゃく)、液体窒素による冷凍凝固療法などが行われることがあります。

病変を切り取った後の傷跡に、拘縮(こうしゅく)や外観の問題が生じることがあります。その場合、形成外科的な手法による改善が検討されます。病変の取り残しがないことや再発の有無をみるため、治療後も定期的な経過観察が必要です。

2022/08/24

🇨🇭小腸がん

小腸に発生するがんで、大変まれな疾患

小腸がんとは、胃と大腸の間にある消化器官である小腸に発生するがん。消化器管の長さ全体の75%パーセント、消化器管の表面積全体の90パーセントを占める臓器でありながら、小腸に発生するがんは大変まれです。

小腸にできる腫瘍(しゅよう)は、消化器管の腫瘍全体の1〜3パーセントを占め、良性に比べて悪性が多い特徴があります。組織学的には、小腸がんは腺(せん)がん、悪性カルチノイド、悪性リンパ腫、平滑筋肉腫の4つの型に大きく分類されます。腺がん、悪性カルチノイドは悪性上皮性腫瘍に、悪性リンパ腫、平滑筋肉腫は悪性非上皮性腫瘍に相当します。

小腸がんの発生部位は、十二指腸に最も多く、空腸、回腸には少ない傾向にあります。悪性リンパ腫に限っては、回腸に多くみられます。

原因は、はっきりとはわかっていません。原因となっている可能性が高いとされているのは、クローン病やセリアック病などの慢性炎症。一般に、小腸がんは女性に比べて男性に多くみられます

主な症状は、吐き気、嘔吐(おうと)、腹痛、腸閉塞(へいそく)、体重減少、貧血、出血、腹部膨満、腹鳴、腫瘤(しゅりゅう)触知、下痢など。特異的な症状がないために、診断が確定するまでに長期間経過してしまうこともあります。

小腸がんの検査と診断と治療

小腸がんは特異的な症状に乏しいため、進行した状態で発見されることが多くなっています。早期に発見するには、貧血や吐き気、腹痛などの症状がある場合は、胃、大腸、肝臓、胆囊(たんのう)、膵臓(すいぞう)などの検査を受け、異常を認めない時でも積極的に小腸の検査を受ける必要があります。

医師による診断では、X線による小腸全体の造影検査と小腸内視鏡検査が行われます。超音波検査、CT検査、血管造影検査なども行われ、腫瘍の大きさや性状、リンパ節転移、腹水などの有無、さらに肝臓や肺などへの転移の有無を調べます。

従来、消化器管のちょうど中央に位置する小腸全体を内視鏡で調べることが難しかったため、神経性疾患や腸過敏性症候群と誤診されるケースも多くみられました。近年では、カプセル内視鏡やダブルバルーン内視鏡の開発により、診断が容易になりつつあります。

しかし、小腸がんの早期診断、治療法の確立は、今日も重要課題です。

治療としては、外科的切除が基本です。進行度に応じて、がんから5〜10cmセンチ離して小腸部分を切除し、領域リンパ節も切除します。ポリープ状の早期がんの場合は、内視鏡的切除が可能です。外科的切除ができない場合には、緩和的切除術やバイパス手術などが考慮されます。

手術ができない場合には、抗がん剤による化学療法や、放射線療法が行われます。化学療法、放射線療法とも治療法は確立していませんので、現状では、結腸がんなど大腸がんに類似する療法が適用されます。

🇪🇸食道がん

高齢の男性に多くみられるがん

食道がんとは、のどと胃をつなぐ細長い管である食道に発生するがんです。消化管のがんでは胃がん、大腸がんほどではありませんが、比較的多くみられ、近年のがんの臓器別死亡率をみると、徐々に増加する傾向にあります。特に、50~70歳代の男性に多くみられます。

食道がんの中で最も一般的なのは、扁平(へんぺい)上皮細胞がんと、腺(せん)がんの2種類です。

直径およそ1・5センチ、長さ25センチの食道の内面は、粘膜の扁平上皮で覆われています。この薄くて平たい粘膜の細胞から発生するのが、扁平上皮細胞がん。食道の上部、および中央部に最も頻繁に発生しますが、食道に沿ってあらゆる場所に発生する可能性があります。日本では、食道がん全体の90パーセント以上を占めます。

一方、食道の内側の食道腺は、粘液などの体液を産生し、放出しています。この食道腺の細胞から発生するのが、腺がん。通常、胃に近い食道下部に発生します。日本では、食道がん全体のおよそ5パーセントを占めます。

食道がんの発生原因は、ほかのがんと同様、はっきりしたことはまだ解明されていません。しかし、女性の約7倍と圧倒的に男性に多く、喫煙者とアルコールの常用者、腺がんでは慢性の逆流性食道炎(バレット食道)のある人などに多いと見なされています。そのほか、香辛料などの刺激物、熱い食事や熱いお茶などを好む人にも、食道がんが多いといわれています。

早期がんでは症状のないことも

早期の食道がんと、進行した食道がんでは、その症状がかなり異なります。

早期では、症状のないことがしばしばあります。食べ物のつかえを感じる人は少なく、熱い飲み物、アルコール類、あるいは酢の物、ミカン類などの刺激物が食道を通過する際に、しみるのを感じることが多いようです。

進行したがんでは、食べ物を飲み込む際に途中でつかえる感じ、胸の辺りの異物感などがあり、固形物が飲み込みにくくなる嚥下(えんか)困難を生じ、飲み込む際に痛みが生じることもあります。

さらに進行してくると、腫瘍(しゅよう)によって食道が狭くなり、水分を取ることもできなくなります。食道に隣接する臓器に、がんが浸潤してくると、食道の症状以外の、いろいろな症状も出てきます。体重減少、吐血、嘔吐(おうと)、せき、声がれ、胸部痛、背部痛などです。

手術を主に放射線治療、化学治療も

進行した食道がんは隣接する他の臓器やリンパ節を侵し、末期には肝転移もみられるため、早期発見、早期治療が何より大切となります。比較的周囲に浸潤しやすい理由としては、食道が他の消化器臓器と異なり、外膜である漿(しょう)膜を有していないことが挙げられます。

医師が早期治療するには、粘膜がんの状態で発見することが必要ですが、この段階では、ほとんどの人に症状の自覚はみられません。粘膜がんの状態で治療されるような人は、上部消化管内視鏡検査を含めたスクリーニング検査で発見されています。人間ドックや検診で、胃の異常を指摘され、内視鏡検査を受けた際に、食道に発赤粘膜やわずかな凹凸病変などを指摘された人です。

ほかの消化管がんでも同じですが、今日では粘膜がんであれば内視鏡で治療できるようになっています。

進行がんになれば、外科的な手術療法が最も一般的な治療法となります。食道周囲のリンパ節を取り除き、顕微鏡検査でがんがあるかどうかを調べます。一部の食道が腫瘍により閉塞(へいそく)されている場合、食道を拡張させておくために金属チューブ(ステント)を留置することもあります。

食道切除術と呼ばれる手術で、食道の一部を摘出することもあります。飲食物を飲み込むことができるように、残っている食道の健常な部分を胃につなぎます。プラスチックチューブや腸の一部を利用して、食道をつなぐこともあります。

放射線療法では、高エネルギーX線やその他の種類の放射線を用いて、がん細胞を殺します。この放射線療法には、体外照射と体内照射という2つのタイプがあります。体外照射では、体外の機械を用いてがんに放射線を照射します。体内照射では、放射性物質を密封した針、シーズ、ワイヤ、カテーテルをがんの内部またはその近くに直接留置して、がんに放射線を照射します。放射線療法の方法は、がんの種類や病期によって異なります。

化学療法では、抗がん薬を用いてがん細胞を殺すか、細胞分裂を停止させることで、がん細胞の増殖を停止させます。口から服用したり、筋肉や静脈内に薬剤を注入する全身化学療法では、血流を通って全身のがん細胞に影響します。脊柱(せきちゅう)、臓器、腹部などの体腔(たいくう)に薬剤を直接注入する局所化学療法では、薬剤は主にこれらの領域中にあるがん細胞に影響します。化学療法の方法も、がんの種類や病期によって異なります。

レーザー療法では、強い光の細い光線であるレーザー光線を用いてがん細胞を殺します。 電気凝固療法では、電流を用いてがん細胞を殺します。

このほかに温熱療法、免疫療法も行われますが、これらの治療法は通常単独で行われることはなく、いくつかの治療法を適切に組み合わせて行われます。

🇮🇸腎盂がん

腎臓で作られた尿の通路である腎盂にできるがん

腎盂(じんう)がんとは、腎臓で作られた尿の最初の通路である腎盂にできるがん。

腎盂がんは尿の流れてくる通路の表面のところにできますので、何ら特別の自覚症状もないのに突然、無症候性の血尿が約5人に4人の割合で出ます。この血尿は、血が膀胱よりも上のほうから流れてくるわけですから、尿の全部が真っ赤になります。

その他の症状としては、がんからの出血により、たまたま尿の流れが阻害されると腎臓がはれるために、腹部に痛みが出ることもあります。しかし、腎盂がんそのもので痛むということはなく、血尿が唯一の症状といえるものです。

40歳以降の男性、特に60〜70歳代に多くみられます。男女比はほぼ3対1の割合です。

漏斗状の腎盂の周辺には、長さ25〜30センチ、内腔(ないくう)約5ミリの尿管などの臓器が隣接しているため、腎盂がんがみられた場合には、いろいろな部位にもがんが発生していることもあります。

腎盂がんの検査と診断と治療

痛くない血尿が出たら腎盂がんを疑い、すぐに泌尿器科を受診します。

医師による診断では、まず尿検査と腎臓、腎盂の画像診断を行います。尿の検査では、血液の出血の有無、がん細胞の有無を調べます。画像診断では、超音波検査、CT検査(コンピューター断層撮影)、静脈性腎盂造影や腎動脈造影で、腎臓の形の変化や動脈の分布状態を調べます。近年は、超音波検査やCT検査で発見率が向上してきました。

また、専用の内視鏡で直接がんを確認する方法もあり、内視鏡を利用してがんと思われる組織の一部を採取して、診断を確実なものにすることもあります。

治療法としては、腎盂や尿管、あるいは腎臓の摘出と、膀胱部分を切除する手術を行います。通常、がんが発生した腎盂のみを摘出するという方法は、行われません。周辺の臓器にもがんが発生している可能性も高いため、同時に摘出、切除手術を行います。腎盂のみを摘出した場合では、残った尿管や腎臓にがんが発生する可能性が出てきます。

しかし、がんがまだ小さい場合では、大掛かりな摘出、切除手術を行わず、内視鏡を使って病巣のみを切除する方法が行われることもあります。

補助療法として手術後に、放射線療法を行うこともあります。さらに、がんが転移していた場合には、化学療法として、マイトマイシン、メソトレキセート、シスプラチン、アドリアマイシンなどの抗がん剤を併用して治療を行います。

早期のうちに治療を行うことができ、がんをすべて切除することができれば、予後はよくなっています。手術後も定期的な検査は受け、他の臓器への転移がないかどうか調べておいたほうがよいでしょう。

腎盂がんの5年生存率は、40〜60パーセントです。

2022/08/23

🇳🇴腎芽腫

染色体異常が原因で、乳幼児の腎臓に発生する悪性腫瘍

腎芽腫(じんがしゅ)とは、乳幼児の腎臓に発生する悪性腫瘍(しゅよう)。胎生期の未分化な腎組織から発生し、腎芽細胞腫、ウイルムス腫瘍(しゅよう)とも呼ばれます。

子供の腎臓に発生する腫瘍のうち、この腎芽腫が90パーセントを占めます。頻度は出生数1万2000~1万5000人に1人、年間では80~100人が発症していると推定されています。半数は2歳前に発症しており、90パーセントは5歳までに発症しています.発症率の男女差は、同等かやや女児に多い傾向があります。

2つある腎臓のうち、ほとんどは片側に腫瘍ができます。まれには、左右両側にできることもあります。原因は染色体異常で、染色体の11番目の短腕の部で、がんを抑制する遺伝子が欠失している時に発症します。無虹彩症や半身肥大症、腎臓の奇形、尿道下裂、水腎症、停留精巣など、生まれ付きの奇形と合併しやすい特徴もあり、大人の腎臓がんとは根本的に違います。

おなかに硬いしこりができ、膨らむのが、最も多い症状。疾患が進行すると、肝臓など近くの臓器へ広がったり、肺に転移することが多く、リンパ節、骨などに転移することもあります。治療法の進歩によって、早い時期に見付かればほとんどが治るようになったものの、予後不良組織群と呼ばれる全体の約10パーセントの腫瘍群は極めて治りにくいものです。

しこりがかなり大きくなるまで自覚症状はあまりみられず、ほとんどが入浴時などに偶然、おなかのはれやしこりに家族が気が付いた時に、発見されます。わき腹に表面が滑らかで硬いしこりとして触れる特徴があります。呼吸によって、しこりが動くことはありません。

一般に、しこりに痛みはありませんが、腹痛や吐き気が起こったり、血尿が出ることもあります。また、不機嫌、顔面蒼白(そうはく)、食欲低下、体重の減少、発熱、高血圧などがみられることもあります。

腎芽腫の検査と診断と治療

乳幼児のおなかに硬いしこりや、異様な膨らみを認めたり、腹痛を訴えて血尿がみられたら、腎芽腫の可能性もありますので、すぐに小児科、あるいは泌尿器科を受診します。進行は比較的ゆっくりなものの、肺やリンパ節に転移しやすく、他のがんと同様に早期発見が大切です。

医師による診断では、胸部と腹部のX線撮影のほか、超音波検査、CT検査、MRI検査を行い、腫瘍の大きさ、周囲への進展状態、リンパ節転移の有無などの情報を得ます。特にMRI検査は、腫瘍と血管との関係から腫瘍の外科的切除が可能かどうかを判断する上でも有用です。肺に転移していると、胸部X線写真で丸い不透明な影が認められます。

血尿は症状としては多くはありませんが、顕微鏡的血尿は約3分の1にみられるとされています。無虹彩症、半身肥大症、尿道下裂などの奇形の合併をしばしばみることもあります。

腎芽腫は腫瘤(しゅりゅう)のできる固形性のがんの中では最も治療しやすく、新生児期に発見して手術で腎臓を摘出すれば、抗がん剤や放射線の治療を受けなくても、もう片方の腎臓が十分にその機能を果たし、完全に治癒することがあります。

一般には、腎臓とともに腫瘤を摘出後、抗がん剤による強力な化学療法を行い、時に放射線照射を併用することによって、腫瘍の病変が完全に消失した状態が長期に持続します。手術前に抗がん剤による化学治療を行って腫瘤を小さくしてから、摘出することもあります。両側性の腎芽腫では、両方の腎臓を摘出せずに腎臓の部分切除を行い、腎臓の温存を図ります。

転移がある場合でも、腫瘤がある腎臓を摘出して抗がん剤や放射線による治療を行うことで、かなり治ります。成人の腎臓がんと違って、肺への転移が致命的になることはありません。

🇱🇻神経芽細胞腫

子供の副腎または交感神経節に発生するがん

神経芽細胞腫(しゅ)とは、子供の副腎(ふくじん)または交感神経節に発生するがん。子供のがんでは、白血病に次いで発生率の高い疾患です。

発生頻度は1万〜1万3000人に1人の割合と推定され、ほとんどが3歳まで、半数以上は2歳以下で発症します。主に腎臓の上にある副腎という三角形の小さな臓器にできますが、縦隔という胸の中や、背骨の横にできることもあります。この神経芽細胞腫は、がん化する遺伝子が増え続ける時に発生するといわれています。

副腎に発生した時には、おなかに硬いしこりを触れることができるので、発見の切っ掛けになります。また、がんが発生した場所によっては、せき、呼吸困難、手足のまひ、頻尿などの症状も出ます。そのほか、初期症状として発熱、手足のはれや痛み、腹痛、不機嫌などがみられますが、この疾患に特有の症状というのは特にありません。

特有の初期症状がない上に、進行が早く肝臓に転移しやすく、さらに上肢や下肢の長管骨や、頭蓋(とうがい)骨にも転移しますので、発見された時にはかなりの進行度であることも少なくありません。

しかし、神経芽細胞腫はアドレナリン系の物質を産生し、尿中に過剰に排出するため、生後6カ月ごろの尿のスクリーニングで早期発見が可能です。1歳未満で発見された場合は、治りやすいことがわかっています。自然に治ることもあります。

生後6カ月あるいは1歳6カ月の乳幼児を対症にした集団スクリーニングによる検査も、全国的に実施されています。市町村から配布された検査用紙に乳幼児の尿を染み込ませ、乾燥させてから郵送すると検査してくれることになっています。

神経芽細胞腫の検査と診断と治療

集団スクリーニングによる検査などで陽性という結果が出たら、小児科の専門医を受診します。集団スクリーニングによる検査は、大勢の乳幼児の中から疑いのあるものを見付ける大まかな検査で、がんができていないのに陽性という結果が出ることも少なくありません。

医師の側では、尿の再検査や血液検査、胸部と腹部の超音波検査、CT検査、MRI検査を行います。転移の可能性を調べるためには、骨のスキャンや骨のX線撮影を行ったり、肝臓、肺、皮膚、骨髄、骨などから組織サンプルを採取して、顕微鏡下で調べる生検を行います。がんがかなり大きくなれば、触診で腹部のしこりを感知できます。

神経芽細胞腫は、早期に発見されれば自然に治ってしまうこともあるので、生検などの検査の結果、様子をみていても問題がないと判明したら、自然治癒を待つこともあります。

治療としては、がんをできるだけ手術で摘出し、必要に応じて抗がん剤による治療や放射線治療を行います。一般に、乳幼児のがんには抗がん剤がよく効くことが多く、きちんと治療を受ければ、半分以上が治ります。年齢が高い子供でがんが転移している場合は、治癒率が低くなります。

🇧🇾神経内分泌腫瘍

非がん性、がん性の混じった腫瘍で、消化管や肺などの神経内分泌細胞に発生

神経内分泌腫瘍(しゅよう)(Neuro-Endocrine Tumor:NET)とは、人体に広く分布する神経内分泌細胞から発生する、非がん性ないしがん性の腫瘍。消化管内分泌細胞腫瘍、消化管ホルモン産生腫瘍、カルチノイドと呼ばれることもあります。

近年、患者数が増加していることが報告されています。一般的には、進行が遅く、予後は良好であるといわれていたため、カルチノイド(がんもどき)とも呼ばれてきましたが、基本的には悪性化(転移)することが多いため、近年では神経内分泌腫瘍(NET)という疾患名が使われるようになりました。

神経内分泌腫瘍は通常、胃、十二指腸、小腸、虫垂、大腸などの消化管の神経内分泌細胞(ホルモン産生細胞)に発生し、膵臓(すいぞう)、精巣、卵巣、肺、気管支、胸腺(きょうせん)の神経内分泌細胞(ホルモン産生細胞)でも発生します。がん性の神経内分泌腫瘍は、一般のがんに比べて進行はゆっくりで、長い経過をたどります。全く症状を示さない非がん性の神経内分泌腫瘍も、発生します。

この神経内分泌腫瘍は、一般的には悪性度が低いと考えられています。実際、症状の進行もゆっくりで長期生存が期待できるものも多く、これらは比較的おとなしい神経内分泌腫瘍(NET G1/ NET G2)に分類されます。一方、比較的早く症状が進行し治療が困難なものがあり、これらは活発な神経内分泌腫瘍(NEC)に分類されます。比較的おとなしい神経内分泌腫瘍は非がん性、活発な神経内分泌腫瘍はがん性と見なされます。頻度的には、比較的おとなしい神経内分泌腫瘍のほうが多くみられます。

消化管に発生した神経内分泌腫瘍は、セロトニンを始め、ブラジキニン、ヒスタミン、プロスタグランジン、カテコールアミンなどのホルモン様の生理活性物質を産生します。膵臓、肺、気管支、胸腺などに発生した神経内分泌腫瘍は、副腎(ふくじん)皮質刺激ホルモン、抗利尿ホルモン、ガストリンなどを産生します。

神経内分泌腫瘍が消化管や膵臓にできると、それが産生する物質は血液中に放出され、直接肝臓の門脈に入り、肝臓の酵素によって破壊されます。そのため、消化管に神経内分泌腫瘍ができても、一般的には肝臓に広がらなければ症状は現れません。

肝臓に広がった場合は、肝臓はこれらのホルモン様物質が全身を循環し始める前に破壊できなくなります。腫瘍が放出する物質によって、人体に強い影響を与える種々のホルモン症状が現れます。また、肺、精巣、卵巣に腫瘍ができた場合も、産生するホルモン様物質が肝臓を迂回(うかい)して血流に乗り、広く全身を循環するために種々のホルモン症状が現れます。

神経内分泌腫瘍のある人の多くは、他の腸管腫瘍に似た症状を示し、主に締め付けられるような腹部の痛みと、閉塞(へいそく)の結果として便通の変化が現れます。

ホルモン症状は腫瘍がある人の10パーセント以下に現れ、顔や首に出る不快な紅潮は最も典型的で、最初に現れることが多い症状です。血管拡張による紅潮は、感情の高揚や、食事、酒類、熱い飲み物の摂取によって起こります。紅潮に続いて、皮膚が青ざめることがあります。

セロトニンに起因して腸の収縮が過剰になると、腹部けいれんと下痢を生じます。腸は栄養を適切に吸収できないため栄養不足になり、脂肪性の悪臭を放つ脂肪便が出ます。心臓も傷害を受けて、下肢がはれます。肺への空気の供給も妨げられて、気管支ぜんそくに似た発作や息切れが現れます。セックスへの興味を失ったり、男性では勃起(ぼっき)機能不全になることもあります

ただし、直腸にできた神経内分泌腫瘍では、このようなホルモン症状が起こることはめったにないとされています。直腸の腫瘍が大きくなって表面に潰瘍(かいよう)が生じると、血便を起こすようになります。疼痛(とうつう)、便秘を起こすこともあります。

無症状の直腸にできた神経内分泌腫瘍は、他の症状で直腸検査または大腸内視鏡検査を受けて、偶然発見されることがあります。

また、末梢(まっしょう)の肺に発生した神経内分泌腫瘍も、ほとんど症状が現れず、健康診断やほかの病気で撮影した胸部レントゲンやCT検査などで、偶然発見されるケースが多いのが現状です。

種々のホルモン症状が現れた場合は、消化器科、外科の医師を受診することが勧められます。主症状が腹痛なので、内科を受診することがあるかもしれませんが、それでも問題はありません。気管支ぜんそくに似た発作や息切れが現れ場合は、呼吸器科、内科の医師をを受診することが勧められます。

神経内分泌腫瘍(NET)の検査と診断と治療

消化器科、呼吸器科などの医師による診断では、症状から神経内分泌腫瘍(NET)が疑われる場合は、尿を24時間採取して、尿中のセロトニンの副産物の1つである5ーヒドロキシインドール酢酸(5ーHIAA)の量を測定し、その結果から判断します。

この検査を行う前の少なくとも3日間は、バナナ、トマト、プラム、アボカド、パイナップル、ナス、クルミといったセロトニンを豊富に含む食べ物を避けます。ある特定の薬、せき止めシロップによく使われるグアイフェネシン、筋弛緩(しかん)薬のメトカルバモール、抗精神病薬のフェノチアジンなども検査結果の妨げになります。

腫瘍の位置を突き止めるには、放射性核種走査が有効な検査です。神経内分泌腫瘍の多くはホルモンのソマトスタチン受容体がありますので、放射性ソマトスタチンを注射する放射性核種走査によって、腫瘍の位置や転移の有無が確認できます。この方法で約90パーセントの腫瘍の位置がわかります。

CT(コンピューター断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像)検査、動脈造影も、腫瘍の位置を突き止めたり、腫瘍が肝臓に転移していないかを確認するのに役立ちます。腫瘍の位置の診査手術が必要な場合もあります。

腫瘍が胃、十二指腸、小腸、虫垂、大腸、肺など一定部分に限定していれば、外科的切除で治癒することがあります。腫瘍が肝臓に転移している場合、手術で治すのは困難ですが、症状が緩和されることがあります。腫瘍の増殖は遅いので、腫瘍が転移している人でさえ10〜15年生存することがしばしばあります。

進行した場合、一般のがんと同様に放射線療法や、抗がん剤による化学療法を含めた集学的治療を行います。ストレプトゾシンにフルオロウラシル、時にはドキソルビシンなどの抗がん剤の併用によって、症状を緩和できることがあります。オクトレオチドもホルモン産生や腸の収縮を抑制して症状を緩和し、タモキシフェン(ホルモン剤)、インターフェロンアルファ(生物学的応答調節剤)、エフロルニチンは腫瘍の増殖を抑制します。

ホルモン症状による顔や頸の紅潮を抑えるためには、フェノチアジン、シメチジン、フェントラミンが使用されます。

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