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2022/09/02

🇦🇹委縮性胃炎

慢性的な胃の炎症により胃の粘膜が委縮する疾患

委縮性胃炎とは、慢性的な胃の炎症によって、胃液を分泌する胃腺(せん)の部分の粘膜が委縮していく疾患。

胃粘膜の委縮の度合は人によってさまざまで、胃の一部しか委縮してない人から、胃全体まで委縮している人もいます。

委縮性胃炎の経過はまず、胃の粘膜が赤く痛んだ状態になることから始まり、胃の粘膜の細胞が次第に少なくなって、胃液(胃酸)を分泌する力が次第に衰えていきます。さらに進行すると、粘膜の性質が変わって、腸の粘膜に近いような細胞に姿を変えます。これを腸上皮化生(じょうひかせい)といい、委縮性胃炎の最も進行した病態です。

この委縮性胃炎には、大きく分けてA型胃炎(自己免疫性胃炎)とB型胃炎(多巣性委縮性胃炎)という2つのタイプが存在しています。

A型胃炎(自己免疫性胃炎)は、胃の真ん中の部分を中心として、広い範囲で委縮が広がり、主に胃液を出す壁細胞という細胞が減っていきます。その進行した病態は腸上皮化生で、自分の細胞に対する抗体ができることによる疾患であり、一種の自己免疫疾患です。

悪性貧血という貧血を伴い、カルチノイドという腫瘍を誘発しやすいのも特徴です。このタイプは、海外に比較的多く、日本では非常にまれだと見なされています。

その一方で「自己免疫性胃炎」の原因は不明で、こちらもピロリ菌が関わっているのでは、という意見もありますが、どちらかと言えば少数派です。

B型胃炎(多巣性委縮性胃炎)は、ほとんどの場合、委縮が胃の出口の付近から始まり、進行とともに、次第に胃の上のほうへと上がっていきます。進行すると、胃の全体に広がり、腸上皮化生が見られるようになります。

委縮の進行した粘膜には遺伝子異常が起こり、これが胃がんの大きな原因となるのも特徴です。このタイプが、日本人の委縮性胃炎の大部分を占めます。

B型胃炎(多巣性委縮性胃炎)の原因の大部分は、ピロリ菌の感染であると見なされています。

人間の胃にピロリ菌が感染すると、まず表面が赤くはれるようなタイプの胃炎が起こります。その中には潰瘍(かいよう)化するものもあり、しばらくすると、胃の出口から胃の細胞の減少、すなわち委縮が始まります。

さらに進行すると、胃の粘膜の細胞に遺伝子異常が起こり、腸上皮化生が起こります。この腸上皮化生が進行すると、胃酸はほとんど出なくなり、胃の中の酸度は低下します。

ピロリ菌は胃粘膜の環境に適合しているので、委縮性胃炎が高度になると、ピロリ菌はかえって減少し、時には胃の中からいなくなります。つまり、委縮性胃炎の原因はピロリ菌なのですが、進行した委縮性胃炎では、往々にしてピロリ菌は見付からないことがあるのです。

ピロリ菌の感染から数十年を掛けて、委縮性胃炎が発生し、それからさらに十数年を経て腸上皮化生が生じるというのが、一般的な時間経過と考えられています。従って、高齢者に多く見られ、食欲不振、食後のもたれ、上腹部の張りを覚える人もいます。

委縮性胃炎の検査と診断と治療

消化器科、内科の医師による診断では、内視鏡で胃の粘膜の状態を見て、委縮しているかどうか判断します。通常の粘膜であれば胃の血管は見えませんが、委縮している場合は粘膜が薄くなり、胃の血管が黄色っぽく見えてきます。

消化器科、内科の医師による治療では、委縮してしまった粘膜を元に戻す画期的な方法はありません。ピロリ菌が原因のB型胃炎(多巣性委縮性胃炎)の場合は、除菌という方法があります。ピロリ菌に感染しているかどうかを調べ、陽性の場合は、除菌すれば胃の壁の状態が回復し、胃液分泌も元に戻ります。しかし、除菌したからといって、委縮が治るわけではありません。

胃がんを発症した人はほぼ100パーセントがピロリ菌に感染していたことがわかっており、ピロリ菌の除菌をすれば、胃がんのリスクの減少につながります。もちろん、ピロリ菌に感染している人がすべて胃がんになるわけではなく、1000人の陽性者のうち胃がんを発症する人は2~3人にすぎません。

除菌だけで、すべてが解決するわけでもありません。委縮性胃炎の状態では、胃液の分泌が少ないため、できるだけ胃に負担をかけない食生活を心掛けることが大切です。1日3食を規則正しく摂取するようにして、脂っこいものなど消化の悪いものや、香辛料など刺激の強いものは控えめにします。

委縮性胃炎を持っている人は胃がん発症のリスクが高くなりますから、最低でも年に一度の内視鏡検査は必ず受けることも大切です。委縮の程度が軽度であれば、少し間隔を空けても構いませんが、中等度から重症といわれている場合は、定期健診は欠かせません。

たとえ胃がんが発生したとしても、早期発見ならば内視鏡による胃粘膜切除手術で、簡単に切除することができます。早期の胃がんの5年生存率は90パーセント以上と高くなっています。

2022/08/31

🇧🇬委縮性鼻炎

鼻腔の粘膜が委縮し、鼻腔が広がって乾燥が進む鼻炎

委縮性鼻炎とは、慢性鼻炎の一種で、鼻腔(びくう)の粘膜が委縮し、鼻腔内が極度に広くなって乾燥が進む鼻炎。

正常な鼻腔は血管が密集した粘膜に覆われており、広い表面積と多くの血管があることで、外から入ってくる空気を素早く温め、加湿することができます。また、正常な鼻腔の粘膜には、線毛と呼ばれる極めて細かい毛のような突起を持っている多列円柱上皮という細胞があり、この多列円柱上皮は適度な量の粘液を分泌し、ほこりなどの異物粒子をのどの奥へと運んで取り除く働きをします。

委縮性鼻炎になると、多列円柱上皮細胞が失われ、皮膚のような重層扁平(へんぺい)上皮という細胞に置き換わって、鼻腔の粘膜は薄く硬くなります。

そうなると鼻腔の中は潤いがなくなって乾燥するために、かさぶたが多量に付着するようになります。かさぶたは汚く、雑菌が増えることで悪臭がするようになります。

鼻出血を繰り返すことも多く、鼻詰まりや頭痛が起こります。症状が進行すると、嗅覚(きゅうかく)も鈍くなり、臭いがわかりにくくなります。しばしば、のどが乾燥し、痛みや違和感が出ます。

鼻腔に引き続く副鼻腔の粘膜も、線毛を持ち粘液を分泌する細胞でできた粘膜で覆われており、委縮性鼻炎になると、副鼻腔の粘膜も次第に委縮してゆくため炎症や感染が起こりやすくなり、慢性副鼻腔炎の症状も加わってきます。

委縮性鼻炎が生じる原因はいまだ特定されていませんが、ビタミンAやDの慢性的な不足で抵抗力が低下することで、発症すると考えられています。また、女性の場合はホルモン異常により、さまざまなホルモンのバランスが崩れることで、発症することもあると考えられています。

さらに、慢性副鼻腔炎の根治手術で鼻腔内の骨や粘膜のかなりの部分を切除した人が、委縮性鼻炎を発症することもまれにあります。

昔に比べて近年は、委縮性鼻炎は随分少なくなっています。その理由としては、生活習慣の変化や栄養改善による鼻腔の粘膜の変化、抗生剤治療の発達による感染症の軽症化と短期化、アレルギー性鼻炎の増加など、さまざまな要因が考えられています。

委縮性鼻炎の長く症状が続いた場合は、早めに耳鼻咽喉(いんこう)科を受診することが勧められます。

委縮性鼻炎の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、特別な検査は行わずに、鼻鏡を用いて鼻の入り口から鼻腔内を調べ、鼻腔が広くなっていて、臭いの強いかさぶたが多量に付着していることで、委縮性鼻炎と確定します。

ウェゲナー肉芽腫(にくげしゅ)症、悪性リンパ腫(しゅ)、梅毒などと区別するために、血液検査や病理検査を行うこともあります。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、かさぶたができることを防ぎ、悪臭をなくし、感染を抑えるために、抗生剤含有の軟こうや、副腎(ふくじん)皮質ホルモンなどのステロイド剤含有の軟こうを鼻腔の中に塗布、あるいは噴霧します。鼻腔、副鼻腔を洗浄することもあります。

同時に、ビタミンA剤やビタミンD剤、あるいは女性ホルモンのエストロゲン剤も内服して、鼻腔内の粘膜が粘度を取り戻せるようにします。冬の空気が乾燥する季節には、保湿効果のあるワセリン基剤の点鼻剤を塗布して、鼻腔内が乾燥しないようにします。

広くなった鼻腔を狭くするため、粘膜や骨の移植手術を行うこともまれにあります。移植手術を行うと、鼻を通る空気の量が少なくなり、かさぶたの形成が減るという効果があります。

2022/08/29

🇫🇮委縮性膣炎

閉経後に自浄作用が低下して細菌が繁殖するため、膣壁が委縮して起こる膣炎

委縮性膣炎(ちつえん)とは、卵巣から分泌される女性ホルモンのエストロゲンが閉経後に低下し、それとともに自浄作用も低下して細菌が繁殖するために、膣壁が委縮して起こる膣炎。老人性膣炎とも呼ばれます。

通常は加齢に伴って発症するもので、生理が止まった閉経後の女性の多くが委縮性膣炎を生じている状態にあります。また、出産から最初の月経までの期間の産婦や、悪性腫瘍(しゅよう)で卵巣を摘出する手術をした女性にも発症することがあります。

女性生殖器系の器官である腟は、骨盤内にあって子宮と体外とをつなぐ管状の器官で、伸び縮みできる構造をしています。腟の前方には膀胱(ぼうこう)や尿道があり、後方には直腸があります。腟壁は粘膜に覆われ、その粘膜面には横に走るひだがあります。このひだは正中部で集合し、前壁と後壁で中央に縦に走るひだになっています。このひだは出産の経験のない人に、多く認められます。

この腟の中は、温かく湿っていて有機物が豊富にある状態で、細菌の繁殖に適しています。しかし、腟には自浄作用という働きがあります。腟壁上皮は卵巣から分泌されるエストロゲンの作用により、表皮細胞への分化が促され、細胞質の内にグリコーゲンが蓄積されます。剥離(はくり)した細胞内のグリコーゲンは、ブドウ糖に分解されて、腟内の乳酸桿菌(かんきん)によって乳酸菌に換えられます。これにより腟内は酸性となり、酸性環境に弱い細菌の増殖が抑制されます。

閉経後の女性の場合は、卵巣から分泌されるエストロゲンや卵胞ホルモンが低下するため、ブドウ糖が不足し腟内の乳酸菌が著しく減少する結果、細菌が繁殖します。

また、閉経後の女性の場合は、腟壁は女性ホルモンや少量の男性ホルモンの働きにより、閉経後十数年たっても若い時代の3分の2の厚さが保たれていますが、一部の女性ホルモンが不足してくると腟のひだが少なくなるとともに、腟壁のコラーゲンが少なくなり、壁そのものも委縮して薄くなり、乾燥も起こります。この薄くなった腟の壁は、腟内に細菌が繁殖すると、充血して炎症を生じます。

そのために、委縮性膣炎を発症すると、下り物が黄色っぽくなる、下り物に血が混じる、下り物に悪臭を伴うなどの症状が、現れることがあります。腟壁の痛みや灼熱(しゃくねつ)感などの不快感、腟入口の乾燥感、掻痒(そうよう)感、違和感などの症状が、現れることもあります。性行為に際して、痛みを伴ったり、出血、掻痒感などの症状が、現れることもあります。

エストロゲンの分泌が低下したり、膣壁が委縮して薄くなること自体は、閉経後の女性であれば当たり前のことですので、無症状であったり、症状が軽いこともあります。

必ずしも治療が必要なわけではありませんが、黄色い下り物は子宮体がんなどに伴う症状の可能性もありますので、注意が必要となります。

委縮性膣炎の検査と診断と治療

婦人科、産婦人科の医師による診断では、膣や外陰部の肉眼的な観察を主に行います。細菌性膣炎を合併していることが多く、腟内の細菌検査を必要とする場合もあります。同時に、がん細胞の有無も確認します。

明らかにエストロゲンが低下している年齢でなければ、ホルモン検査を行うこともあります。

近年は、診断と治療的効果判定の数値化を目的に腟健康指数を用いて診断する方法も行われるようになりました。

婦人科、産婦人科の医師による治療では、がん細胞がない場合は、女性ホルモンの膣錠、エストロゲンの経口剤や貼付剤、女性ホルモンの補充療法などで、症状の改善を図ります。

軽度の炎症であれば、膣洗浄によって細菌を流し、症状を改善させることもあります。細菌感染がひどい場合は、抗生物質が入った腟錠を併用することもあります。性交痛などに対して、潤滑ゼリーを勧めることもあります。

多くは1~2週間の治療で治りますが、1カ月程度にわたって薬剤を使用しないと治らない人もいます。

子宮体がんや乳がんなどの病歴がある人に対しては、別の治療法が選択されることもあります。

2022/08/28

🇸🇪息切れ

●苦しい時は適切な対応を

 息切れが気になっても、年齢や風邪のせいにしていませんか。適切な対応をしないと、生死にかかわるケースもあるので、注意したいところです。

●肺は壊れると元に戻らない

人体の臓器の中で唯一、直接外気に触れているのが、呼吸器である「肺」です。容量も臓器の中で最大で、左右一対ある肺には一日、約1万リットルの空気が出入りしています。

肺に空気が運ばれていく通路が「気管」で、気管は胸のほぼ中央で左右に分かれて「気管支」となります。気管支は「肺門」から肺に入り、肺の奥に進むにつれて枝分かれして細くなっていき、末端は「肺胞」と呼ばれる小さな袋の集まりとなっています。

 肺胞の数は大人で3億~7億個、総面積はおよそテニスコート1枚分。肺胞の壁は毛細血管と接しており、空気中の酸素と血液中の炭酸ガスの交換が絶え間なく行われています。

酸素と炭酸ガスの交換を一般に「呼吸」と呼びますが、呼吸は脳の呼吸中枢によってコントロールされていて、肺だけではなく鼻、のど、胸郭、横隔膜などが複雑に動き、血液の循環とも密接な関係にあります。

こうした一連の動きがうまくいかない時、私たちに息切れが起こります。そのため、息切れにはさまざまな原因が考えられるのです。

急性の息切れでは、緊急に対応しないと命にかかわることもありますので、すぐに病院へ行く必要があります。慢性の息切れのケースも、放置は厳禁です。

肺は一度、壊れたら元に戻らないことが、怖いのです。肺の機能が衰えると、苦しいために体を動かさなくなり、やがては全身の筋肉が弱まってしまい、寝たきりになる危険性があります。

●息切れの原因のチェック

◎慢性の息切れ

◎COPD(慢性閉塞性肺疾患)

中高年にみられる呼吸器の病気の代表格。たばこや大気汚染によって、肺胞が壊されたり、細い気管支の壁が厚くなって管が細くなったりした結果、肺の中の空気が出しにくくなるもので、肺気腫、慢性気管支炎が含まれます。

徐々に進行し、症状が息切れ、せき、たんであるため、慢性的な風邪と勘違いしているケースもあります。喫煙者の15~20パーセントに起こる、と見なされているところ。

◎気管支ぜんそく

全年齢層にみられる病気。気管支が慢性的な炎症で狭くなり、空気が通過しにくくなります。せき、たんが出るのはCOPDと同様ですが、夜中や夜明けに症状が出るケースが目立ちます。

原因はアレルギー、と見なされているところ。

◎その他

高度の貧血によって、全身の臓器に酸素がいきわたらないと、息切れになります。

肺が徐々に硬く縮み、空気を吸い込むことができずに息切れするのは、間質性肺炎や肺線維症です。

また、肺結核、肺がんや気管支拡張症、神経や筋肉の疾患、甲状腺疾患、緑内障の点眼薬(βブロッカー)の副作用などでも、息切れが起こります。

◎加齢によるもの

肺機能は男女とも25歳がピークで、加齢とともにゆるやかに低下していきます。健康であっても、誰にでも起こること。日常生活に支障がなければ、問題はありません。

 ただし、体力が落ちていて日頃から元気のない高齢者の場合、肺炎を起こしても息苦しさや、高熱などの症状が現れにくいことに、注意が必要です。「おかしい」と思ったら、手遅れにならないように、早めに医療機関へ。

◎危険な急性の息切れ

◎自然気胸

若い元気な人に多く、突然起こります。肺に穴が開き、肺から出た空気によって、肺が圧迫されて縮んでしまいます。急激な息切れ、胸痛を伴います。

◎うっ血性心不全

 心筋梗塞などによって、心臓のポンプ機能が低下し、体に十分な血液が送り出せない状態になると、肺に水分がたまり、呼吸が速くなります。「寝ると息苦しい」、「水っぽい、たんが出る」などの症状があります。

◎エコノミー症候群

前触れもなく、急に息苦しくなります。飛行機の座席などで、水分不足のまま何時間もじっとしていると、脚の静脈に血栓ができます。その血栓が肺動脈に運ばれ、急に血流を止めてしまうケースがあります。

●心掛けたい息切れ対策

◎専門医を受診する目安

息切れの感じ方は人によってさまざまで、痛みの感じ方と似ています。中には、実際には病気があるのにあまり感じない人もいます。

息切れに伴って、せき、たんがある場合には一度、専門医を受診しましょう。また、同年代の人と一緒に歩いている際に自分だけ歩調が遅れるのも、重要なシグナルとなります。

◎COPDには禁煙が最も有効 

年齢が上がるにつれて増加するCOPDの主要因は、たばこです。たばこの煙の粒子は非常に小さく、肺の奥深くまで入り込んで沈着し、炎症を起こすのです。

喫煙者でも、元には戻らないものの、たばこをやめた時点から肺の機能低下がゆるやかになるので、すぐに禁煙を実行しましょう。

◎ウォーキングと腹式呼吸を

COPDの人の場合、息が切れると動くのが面倒になり、運動不足になって運動機能が低下し呼吸困難がさらに悪化する、という悪循環になりがちです。そのため、全身の筋肉を鍛えることが大切になります。

最も勧めたい対策は、ウォーキングなどの軽い運動です。腹式呼吸も効果的で、横隔膜を十分に使って呼吸することで、肺の容量が大きくなります。腹筋を縮めるようにして、口をすぼめた状態でゆっくり息を吐く、口すぼめ呼吸も効果的で、気管や気管支での空気の通りがよくなります。

◎日常生活を楽にする工夫

COPDの人は、体に余計な負担をかけない工夫をすると、日常生活が楽になります。床に置いたものを取る際には、かがんで持ち上げるといった工夫です。

重症になると、息を吸う時に横隔膜だけでなく、首や腕などの筋肉の助けも必要になります。これらの筋肉を使わない、息を吐く時だけ体を動かすように、そしてリズムをつけて動くようにしましょう。階段を上がる際には、息を吐きながら歩を進め、息を吸う時は立ち止まりましょう。

2022/08/26

🇧🇸インフルエンザ

■インフルエンザは風邪の一つ

風邪とは、鼻やのどに急性の炎症が起こった状態のことです。風邪の主な原因はウイルスで、その種類は何百とあります。インフルエンザは、風邪の症状を起こすウイルスの一種なのです。

また、ウイルスのほかにも、細菌やマイコプラズマなどの微生物が、風邪の原因になることもあります。

これらの病原体は、つば(唾液)とともに空中に飛び散って感染(飛まつ感染)します。

■インフルエンザの特徴は

インフルエンザは、突然の高熱、頭痛、筋肉痛、関節痛、全身のだるさといった全身症状が強い型の風邪をいいます。悪寒とともに39~40℃に発熱し、3、4日続きます。結膜の充血、鼻炎、のどの痛み、咳、痰、扁桃(へんとう)の腫れなどの呼吸器症状は、全身症状の後に現れてきます。

こういった全身症状が強い風邪は、インフルエンザウイルスによって起こることが多いのですが、その他の風邪ウイルスが起こすこともあります。

また、インフルエンザウイルスが起こす風邪は、大抵インフルエンザ(型)ですが、鼻風邪(鼻水、鼻詰まりが中心で、のどの痛みや咳は少ない型の風邪)、咽頭炎、気管支炎、肺炎などを起こすこともあります。

インフルエンザウイルスが感染して症状が出るまでの潜伏期間は2日前後で、日本では空気の乾燥する12月から3月にかけて流行します。

インフルエンザの怖い点は、気管支炎や肺炎、中耳炎を起こす原因になることです。乳幼児が肺炎にかかると、命にかかわることもありますし、65歳以上を中心に、インフルエンザウイルスに感染した人の約1%が肺炎を合併しています。

インフルエンザに肺炎を合併した場合、熱が続き、咳、痰、時には血痰が出て、呼吸困難を起こすこともあります。インフルエンザにかかってから2、3日で呼吸困難になることがまれにあり、また、いったん治ったように見えながら、2~3日で肺炎になることもあります。

インフルエンザウイルスには、A型、B型、C型がありますが、C型は症状が軽く、流行も目立ちません。一方、A型とB型、特にA型は症状が強く、世界的に流行して命にかかわることも、珍しくありません。ソ連型、香港型というのはA型のインフルエンザウイルスで、交互に流行がみられます。

 インフルエンザのウイルスは風邪の他のウイルスとはまったく違うものですが、症状を見るだけで普通の風邪と区別するのは難しいことです。普通の風邪ウイルスが高熱などの全身症状が強い風邪を起こすケースもありますので、地域ではやっているといった情報がないと、医師でもインフルエンザと診断するのは難しいようです。

病院に行って風邪と診断され、薬をもらった後も症状が改善しないようなら、再度医師に診てもらうことをお勧めします。

■インフルエンザの予防接種とは

予防接種は1回で終わりではない

インフルエンザの感染の予防、また、万一感染しても軽くすむのに有効なのが予防接種だ、とされています。

しかしながら、インフルエンザの予防接種は、1回で一生効果があるものではありません。インフルエンザのウイルスには多様な種類があり、すべてに対抗できるワクチンは作れないからです。

現在インフルエンザのワクチンは、毎年、“その年にはやりそうなウイルスの型”を予測し、それに対抗するものが作られています。つまり、予防接種でインフルエンザを防ごうとするのなら、毎年接種する必要があるのです。

もちろん、予測した型と実際に流行するインフルエンザの型とが異なることもありますが、毎年予防接種を受けている人は免疫が蓄積するので、かかった場合でも軽くすむケースが多いようです。

鶏卵、ゼラチンにアレルギーのある子は注意!!

予防接種の副反応は、ごくまれに発熱や頭痛がある程度で、特に心配はありません。注意したいのは、ワクチンには 鶏卵やゼラチンが含まれている点で、アレルギーのある赤ちゃんや子供の場合は、接種前に医師に相談しましょう。

■インフルエンザに負けない生活術

インフルエンザや風邪にかかった場合でも、軽い症状ですませるためにできる対策は、予防接種だけではありません。ウイルスに負けないだけの抵抗力、すなわち体力をつけておくだけでも、かかった時の症状はずいぶん異なるのです。

赤ちゃんや子供さんの抵抗力をつけるため、家庭で配慮できることを紹介してみましょう。

(1)動きやすい服装でよく遊ぶ

「風邪をひかせるのが怖いから」と考えて厚着をさせるのは、着膨れして動きにくく、運動不足になることもあるため、逆効果。赤ちゃんの場合の大体の目安は、生後1カ月以内で大人の着ている枚数より1枚多いくらい、それ以後は大人と同じ枚数か、1枚少ない程度で大丈夫でしょう。枚数よりも、体が動かしやすい服装を心掛けてやりましょう。

(2)生活時間と栄養バランスに考慮を

こちらは大人にも当てはまることですが、仕事で疲労している時に風邪などをひいてしまうと、こじらせやすいもの。赤ちゃんや幼児も、起床、就寝と三食の時間をなるべく規則的にし、栄養バランスを考えた食事がとれるようにしましょう。

(3)手洗い・うがいの習慣をつける

外出から帰った後、食事の前には必ず手洗いと、うがいの習慣を。8カ月~1歳くらいになって、赤ちゃんがママのまねをするようになったら、水を口に含んで「ペッ」と吐き出す様子を、ママが見せてあげるのも一案です。また、家族やお客さんも、赤ちゃんに触る前には手洗い、うがいの習慣を!

(4)室内が乾燥しないような配慮を

乾燥した空気は、のどに負担をかけるもとです。暖房をつけるならまめに換気したり、加湿器を使ったりして、適度な湿度を心掛けましょう。

(5)冬場の外出は人込みを避けて

風邪やインフルエンザは、咳やくしゃみによって感染します。冬場は赤ちゃん連れで人込みの多い場所へ外出するのは、極力、避けるようにしましょう。

2022/07/30

🇨🇫胃アトニー

胃下垂に胃の筋肉のたるみが加わって、胃の機能が低下

胃アトニーとは、胃下垂に胃の筋肉の緊張低下が加わって、胃の機能が低下する疾患。アトニー(Atonie)とはドイツ語で体の組織が弛緩(しかん)していることを意味し、胃下垂とは胃の曲がり角が骨盤の中に入っている状態です。

胃アトニーでは、胃の蠕動(ぜんどう)運動が減退した状態になるので、食べた物の消化、吸収ができにくくなります。食欲はありますが、食後に胃がもたれます。ゲップが出たり、むかつきがあったりしても、嘔吐(おうと)するまではいきません。食後に体を動かすと、おなかがゴロゴロ、グルグルと鳴ったり、膨らんだおなかをたたくとポンポン、ピチャピチャと音がすることもあります。

不快を覚えるほどの症状がなければ、疾患ではないといえます。ただし、便秘気味になったり、胸がつかえて食べ物の通りがよくないと感じることもあります。胃の噴門部の働きも弱った状態になるために、胃液が食道へ逆流してしまう逆流性食道炎を併発しやすくなり、症状として胸焼けを起こすこともあります。

重度の場合は、頭痛やめまいが生じることもあります。食事に不安を感じるため、量が取れず、体重が減少する傾向もみられます。精神神経症状として、頭痛、肩凝り、憂うつなどもみられます。

原因は、特に定められていません。なりやすいのは、先天的に筋肉の弱い人、虚弱体質でやせた人。やせすぎで腹の筋肉が軟らかく、症状のひどい人は胃の形状が腹の上から見てもわかることがあります。とりわけ、食後に下腹部が膨張します。

なお、ピロリ菌の感染が原因で、胃アトニーになるとの報告はありません。

胃アトニーの検査と診断と治療

胃アトニーは疾患と認定しにくい症状ですが、重い自覚症状が続く場合に限り胃がんなどの疾患との識別が必要ですので、内科の専門医を受診します。

医師は、胃のX線検査で診断します。胃がんなどの症状の似たほかの疾患と鑑別するためには、胃内視鏡検査をしたり、胆囊(たんのう)、膵臓(すいぞう)の超音波検査を行います。

治療は、食事療法が中心です。うどん、そばなどの消化しやすい糖質を取り、豆腐や白身魚などの栄養価が高く、消化しやすい蛋白(たんぱく)質を食べるように心掛けます。食事を1日4〜5回に分けて、少量ずつ食べるのも一案で、胃の負担を軽くできます。水分は食事の初めに摂取し、途中ではあまり飲まないことも工夫の一つ。

事情が許せば、食後しばらくの間、横になるとよい場合もあります。アルコール類も少量にし、飲みすぎないようにします。

薬物療法はほとんど行われませんが、胃の運動を正常化させる場合には、胃の運動を活発にする薬や消化剤を服用します。便秘している場合には、緩下剤を服用することがあるものの、習慣になると緩下剤なしで便通がつかなくなるので、あまり処方されません。

規則正しい生活を送って、できるだけ神経を胃に集中させないようにし、適当に運動するほうがよいとされています。 腹筋が弱い人は、腹筋に重点を置いた筋肉トレーニングも有効です。引き締まった体になれば、胃が正常の位置に持ち上がり、胃アトニーも解消、予防できます。 いきなり激しい腹筋運動をすると胃を痛める可能性がありますので、徐々にならしていき、可能であれば毎日トレーニングします。

🇹🇩胃アニサキス症

 

海産魚介類の生食によって引き起こされる寄生虫病

胃アニサキス症とは、種々の海産魚介類の生食を介して、回虫類の一種であるアニサキスの幼虫が胃に寄生し、引き起こされる寄生虫病。アニサキスは1999年(平成11年)に、厚生労働省から食中毒原因物質に指定されています。

アニサキス類の成虫はクジラやイルカ、アザラシなどの海産ほ乳動物を終宿主(しゅうしゅくしゅ)として、これらの動物の胃壁に寄生しています。虫卵は糞便(ふんべん)とともに海水中に放出され、海水中で第2期幼虫にまで発育し、捕食するオキアミなどの海産甲殻類を第1中間宿主として第3期幼虫に発育。幼虫を宿すオキアミなどが多くの種類の魚やイカに摂食されると、新しい第2中間宿主の体内で長さ2〜3センチの第3期幼虫のままとどまって寄生を続け、サバ、アジ、イカなどの生食を介して人体に入り、胃壁や腸壁にもぐり込み、胃アニサキス症や腸アニサキス症を発症させます。

魚介類をすし、刺身で生食する習慣のある日本では、アニサキス症の発生は諸外国に比べて非常に多く、1年間に7000例に上るとみられます。よく発生する時期は12~3月の寒期で、7~9月の暖期は最も少ない傾向があります。これはアニサキス症の感染源となる魚の漁期に関係していて、北方海域ではタラ、オヒョウ、その他の海域ではサバ、イワシなどの漁獲期が寒期であることによります。アニサキス類の感染源となる魚介類は、150種以上に上っています。

アニサキス類の幼虫が消化器系の粘膜から侵入した時に発症しますが、その症状の強さで激症型と軽症型、その症状が現れる部位から胃アニサキス症、腸アニサキス症、腸管外アニサキスに分けられます。

胃アニサキス症は原因となる食品を摂取した後2時間から8時間で発症するものが多く、上腹部に締め付けられるような、差し込むような痛みが起きて持続し、吐き気、嘔吐(おうと)を伴う場合もあります。時に、アナフィラキシー症状を示し、下痢、じんましん、大量吐血をみることもあります。まれには、アナフィラキシーショック症状を示し、急激な呼吸困難や血圧低下など全身的な生死にかかわる症状に陥ることもあります。

腸アニサキス症は原因となる食品の摂取後、数時間から数日して、へそを中心に差し込むような痛みが出現し、吐き気、嘔吐を伴います。発熱はありませんが、虫垂炎、腸閉塞(へいそく)、腸穿孔(せんこう)などと誤診され、急性腹症として開腹手術を受けることがあります。

腸管外アニサキス症はまれにしか起こりませんが、アニサキス類の幼虫が消化管を貫通して、消化管以外の胸腔(きょうくう)、肺、腹腔、腸管膜、肝臓、リンパ節、皮下など体内のあらゆる部位に入り込んで、種々の症状を起こします。ほかの疾患の処置に当たって、偶然に虫体が発見されることもあります。

胃アニサキス症の症状が現れ、海産魚介類の生食をしたことが明らかであれば、消化器内科専門の医院か消化器内科の医師のいるような総合病院を受診します。重症になりアナフィラキシーショック症状を示すと、緊急を要するほかの疾患とすぐには区別できないため、内視鏡専門医と消化器外科医のいる総合病院を受診します。

胃アニサキス症の検査と診断と治療

内科、消化器科などの医師による診断では、海産魚介類の摂取後に起きた腹痛ということがポイントとなります。胃アニサキス症では、胃内視鏡検査でアニサキス類の幼虫を確認することで容易に判断できます。多くの場合、幼虫が粘膜に刺入した盛り上がりが確認できます。

腸アニサキス症では、内視鏡で幼虫を見付けるのは困難なため、X線(レントゲン)検査や超音波(エコー)検査で小腸を調べます。幼虫が胸腔や腹腔、さらにほかの臓器に入り込む腸管外アニサキス症では、抗体検査を行います。

内科、消化器科などの医師による治療としては、胃アニサキス症であれば、上部消化管内視鏡でアニサキス類の幼虫を確認して、つまみ出します。長さ2~3センチ、幅0・5~1ミリくらいで、白い糸のように見える幼虫をつまみ出した瞬間、うそのように痛みが消えます。もっとも、好適宿主ではない人体中ではアニサキス類は1週間程度で死んでしまうので、幼虫を摘出できなくても、抗コリン剤、抗ヒスタミン剤、ステロイド剤を投与する対症療法によって症状は軽快し、予後は良好です。

腸アニサキス症では、腸閉塞の症状を示さない状態の時、対症療法を行いながら幼虫が死亡、吸収されることによって症状が緩和するのを待ちます。腸管外アニサキス症では、メベンダゾールなどの駆虫剤を内服しますが、現在のところ、効果的な駆虫剤は開発されていません。

胃アニサキス症はたとえ幼虫1匹の感染であっても起きる可能性があり、個人レベルでの予防は海産魚介類の生食を避けることに尽きます。酢で締めたり、しょうゆを付けたりしても予防効果はありません。ただし、生食に当たって冷凍処理後に解凍して調理されたものであれば、問題はありません。70 度での十分な熱処理のみならず、零下20度で24時間以上の冷凍処理を施せば、アニサキス類の幼虫のほとんどが不活性化するからです。

🇨🇿イールズ病

網膜や眼球内に出血を起こす、若い人に多い眼病

イールズ病とは、網膜血管に血管炎が起こって血管が詰まったり、新生血管が生えてきて、網膜や眼球内に出血を起こす眼病。眼球内出血のことを硝子体(しょうしたい)出血といいますが、この眼病は若い人によく出る疾患で硝子体出血を何度も起こしますので、若年性再発性網膜硝子体出血とも呼ばれます。

若年者、ことに男子に多くみられ、突然の網膜硝子体の出血による視力低下で最初に気 が付くケースが多く認められます。

網膜硝子体の出血が起こると、光が網膜に届かなくなって、ひどい場合は急に何も見えなくなります。しかし、この硝子体出血は1~2週間でひき始めて、見え出すことが多いようです。出血を繰り返しているうちに、眼底に白い繊維のような組織の増殖が進み、この繊維が網膜を引っ張って、破ったりする網膜裂孔形成により、網膜剥離(はくり)や大出血を起こして、著しい視力の低下を来し、最悪の場合失明することがあります。また、出血がひどくなってしまうと、感染症も引き起こされることがあります。

大出血を起こす原因としては、網膜静脈壁の炎症を起こす網膜静脈周囲炎による静脈壁の破裂によるとする説が有力で、事実、イールズ病の病勢の盛んな時には網膜静脈に広範に白鞘(しろさや)をかぶったような変化がみられ、これは網膜静脈周囲炎によって起こると考えられます。また、まれに同様の変化が動脈壁にもみられることがあります。

網膜静脈周囲炎は通常、網膜周辺部に初発し、広範な領域に毛細血管網の閉塞(へいそく)した無血管領域が見られ、毛細血管網の閉塞は徐々に網膜中心部におよびます。こうした血管変化を起こす原因は、無血管領域の低酸素状態に陥った網膜からの影響と考えられます。

イールズ病の90%が両側性であるといわれるものの、必ずしも両眼同時に進行するものではなく、程度の差、発病と進行の時期的なずれはかなり著しい場合があります。

その病因に関しては、結核、その他細菌アレルギー説などが有力でしたが、イールズ病は病因にも不明な点が多く、結核アレルギー説、病巣感染説なども必ずしも信頼性が高いとはいえません。

しかし、日本において明治時代から昭和20年代にかけて、長らく死因のトップで国民病、亡国病とも呼ばれていた結核が、国を挙げて予防や治療に取り組んだため死亡者が激減したことと軌を一にするように、太平洋戦争の終戦前には相当多数起こっていたイールズ病も、戦後は著しく減少しました。

イールズ病の検査と診断と治療

眼科、あるいは小児眼科の医師によるイールズ病の検査は、視力検査、眼底検査や蛍光眼底検査、視野検査を行い、網膜の状態を調べます。これらの検査の結果、さらなる精密検査が必要であると判断された場合には、網膜電図検査や暗順応の検査が行うことがありますが、ほとんどの場合は眼底検査の段階で診断は可能です。そのほかの検査は、ほかの眼病を併発していないかなどを調べるために行います。

眼科、あるいは小児眼科の医師によるイールズ病の治療としては、糖尿病と同様の治療を行うことで血液成分を改善していくことで、傷害を受けた毛細血管を消滅させることがあります。

眼科的な治療としては、レーザー光線やキセノン光線を照射することで、網膜周辺部無血管領域の低酸素状態に陥った毛細血管を消滅させ、破壊する光凝固と呼ばれるものがあります。低酸素状態を緩和、ないしは消失できれば、病勢の進行に好影響を与え、場合によっては治癒に導けます。

また、病勢そのものが一段落した後に網膜硝子体中に生じた新生血管網のみが出血を繰り返す場合は、光凝固によりその閉塞を図る治療が成果を上げています。

網膜硝子体手術によって、治癒を図ることもあります。

🇹🇿胃炎

急性胃炎と慢性胃炎

 胃炎には、急性胃炎と慢性胃炎とがあり、それぞれ原因や症状が異なります。

1. 急性胃炎

 腹痛、胸焼け、吐き気などの症状が、突発的に起こります。症状が現れた時期や、原因がはっきりしているのが、急性胃炎の特徴です。具体的には、アルコール、消炎鎮痛剤、ストレスなどが、発症の原因になります。

 一例を挙げれば、「酒を飲みすぎたために、胸焼けや吐き気がした」、「かぜ薬を飲んだら、胃が痛くなった」、「会社や学校などでストレスを受けると、胃が痛くなる」といったようなことが、典型的といえます。

 また、消炎鎮痛剤では、内服薬だけでなく、坐薬なども急性胃炎の原因になります。これらは、薬が胃壁に直接触れることで胃炎が起こるのでなく、薬の成分自体に胃炎を起こす作用があるためです。

2. 慢性胃炎

 日本人に見られる胃炎のほとんどは、この慢性胃炎です。症状がはっきりせず、胃のもたれ、不快感、食欲不振などが何となく起こるといった不定愁訴が、特徴的に認められます。それらの症状のほとんどは、いつから始まったのか、はっきりしません。また、全く症状がないこともあります。

 日本人の慢性胃炎のほとんどがピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の感染が原因であることが、1980年代の初めから解明されています。ピロリ菌に感染し、その後、長い年月をかけて胃炎が進行して、慢性胃炎となるのです。

検  査

 胃炎の検査には、次のようなものがあります。

1. 急性胃炎

 急性胃炎では、症状がはっきりと現れるため、多くの場合、検査をしなくても、症状によって診断が下されます。ただし、胃潰瘍や胃癌ではないことを確認するために、内視鏡検査で胃の粘膜の様子を直接観察することもあります。

2. 慢性胃炎

 慢性胃炎では、はっきりとした症状がないことが多いため、以下のような検査で胃に炎症が起きているかどうか調べます。

(1) 内視鏡検査:内視鏡で、胃の粘膜の様子を直接観察します。進行した慢性胃炎である萎縮性胃炎では、粘膜が萎縮して、薄くなり、血管が透けて見えたり、白っぽく見えます。

(2)組織診:内視鏡の中に器具を通し、胃の粘膜から組織の一部を採取してきて、顕微鏡で炎症があるかどうか調べます。また、慢性胃炎のほとんどの人はピロリ菌に感染していることがわかっていますから、慢性胃炎であるかどうかをより確実に知るためには、ピロリ菌に感染しているかどうかを調べることが必要になります。

ピロリ菌とは

 ピロリ菌は、胃の粘膜に生息している細菌。1980年代の初めに発見され、慢性胃炎や胃潰瘍の発生に関係していることがわかっています。

 通常、胃の中は、胃酸が分泌され、強い酸性に保たれているため、細菌が生息することはできません。しかし、ピロリ菌は、胃の粘膜が胃酸から胃壁を守るために分泌している、中性の粘液の中に生息し、直接胃酸に触れないように身を守っているのです。

 ピロリ菌はウレアーゼという尿素分解酵素を分泌して、胃の中に入ってくる食べ物に含まれる尿素を分解し、アンモニアを作り出します。このアンモニアも胃の粘膜に影響を及ぼし、慢性胃炎の原因の一つになるのだと考えられています。

しかし、ピロリ菌に感染している人すべてに、症状が現れるわけではありません。感染しても、自覚症状がない場合、そのまま普通の生活を送ることができます。

 ピロリ菌に感染している人の割合は、年を取るほど高くなる傾向があり、中高年の場合、70~80%にも上ります。このように、年齢によって感染率に違いがあるのは、育った時代の衛生環境に関係しているだろうと見なされています。

検   査

 ピロリ菌に感染しているかどうか調べる検査には、次のような方法があります。

内視鏡を使う方法

内視鏡によって胃の粘膜の組織を採取し、そこにピロリ菌がいるかどうかを調べる検査です。次の三つの方法があります。

1.ウレアーゼ試験:採取した組織を、尿素とpH指示液(酸性度、アルカリ制度を調べる)の入ったテスト溶液の中に入れて、色の変化を見ます。もし、ピロリ菌がいれば、ピロリ菌の出すウレアーゼによって、アンモニアが発生し、テスト溶液がアルカリ性になり、その結果、色が変わります。

2.組織診:採取した胃の粘膜の組織を顕微鏡で観察し、ピロリ菌の有無を調べます。

3.培養検査:採取した組織をピロリ菌が繁殖しやすい環境で培養し、その後、顕微鏡でピロリ菌の有無を調べます。

内視鏡を使わない方法

 内視鏡で組織を採る方法に比べて、患者さんの肉体的負担が軽い検査です。次の三つの方法があります。

1.血液検査:ピロリ菌に感染すると、それに対する抗体ができます。血液中にこの抗体があるかどうか調べる検査です。

2 .尿検査:血液検査と同様に、尿中にピロリ菌の抗体があるかどうかを調べます。

3.尿素呼気テスト:ピロリ菌のウレアーゼを分泌し、それによって、尿素をアンモニアと炭酸ガスに分解します。この炭酸ガスは、呼気にも出てきます。そこで、特殊な炭素を含んだ尿素(標識尿素)を飲み、15~20分後に呼気を採って、その成分を調べます。ピロリ菌に感染している場合、標識された炭素を含む炭酸ガスが呼気の中に出てきます。

治   療

急性胃炎と慢性胃炎に対しては、それぞれ次のような治療が行われます。

1. 急性胃炎:原因がはっきりしているので、まず原因を取り除くことが大切です。薬が原因なら医師に相談して薬の使用を中止したり、ストレスが原因ならストレスの解消に務めるなどします。

しかし、それでも症状がある場合は、次のような薬剤による対症療法が行われます。

(1)胃酸分泌抑制薬:胃酸の分泌を抑える薬を服用します。これが対症療法の中心になります。

(2)胃粘膜保護薬:胃の粘膜を保護する薬で、補助的に用いられます。

(3)運動機能改善薬:胃の運動を活発にする薬で、胃のもたれが見られる場合に用いられます。

2. 慢性胃炎:従来は対症療法だけが行われてきましたが、ピロリ菌が原因となることがわかってからは、抗生物質による根本治療も行われるようになっています。

(1)対症療法:急性胃炎と同様に、胃酸分泌抑制薬、胃粘膜保護薬、運動機能改善薬を服用します。

(2)根本治療:2~3種類の抗生物質を、同時に1~2週間服用し続けることで、胃の中に生息しているピロリ菌を除菌します。2~3種類の抗生物質を用いるのは、1種類だけよりも効果が高いのと、その抗生物質に対する耐性菌(抗生物質が効かない菌)ができてしまうのを防ぐためです。

🇹🇯胃潰瘍

胃液によって胃の粘膜が傷付き、深い欠損を生じる疾患

胃潰瘍(かいよう)とは、強酸性の胃液によって胃の粘膜が傷付き、ただれて、深い欠損を生じる疾患。胃液で自らの粘膜が消化されてしまうという意味で、十二指腸潰瘍を含めて、消化性潰瘍とも呼ばれます。

欠損が浅い場合はびらんといいますが、潰瘍は欠損が粘膜固有層を貫いて、筋層まで深くえぐれたものです。十二指腸潰瘍が若者に多いのに対して、胃潰瘍は中年以降に多くみられます。

胃から分泌される胃液中の胃酸やペプシンと、この胃液から胃の粘膜を守る中性の粘液の分泌とのバランスが崩れ、胃液に対する胃粘膜の防御力が弱まることによって潰瘍が生じます。また、胃潰瘍の70~90パーセントで、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)が発見されています。

つまり、ピロリ菌の感染などで胃の粘膜が傷付いて、胃液への防御力が弱まったところに、ストレスや過度の喫煙、暴飲暴食、刺激の強い飲食物などが誘因となって胃液の分泌が刺激されると、胃の粘膜が消化されて胃潰瘍が発症するのです。

症状としては、腹痛が代表的。食後少し時間が経過すると、みぞおちの痛みが起こり、背中の痛みも起こることもあります。痛みは潰瘍の活動期に起こり、安定期には無症状です。潰瘍の増悪期には、食後や空腹時を問わず痛むことがあります。そのほか、胸焼け、胃のもたれ、食欲不振、体重減少など多彩な症状を示します。

場合によっては出血を起こし、頻脈、冷や汗、血圧低下、気分不快、吐血、下血などの症状が出現します。出血量が多いと、ショック症状が現れ、生命に危険が迫ります。高齢者では、胃潰瘍による出血が心筋梗塞(こうそく)や狭心症の引き金になることもあります。

重度の胃潰瘍の場合は、胃壁の欠損が胃の外側にまでつながる場合もあり、これを穿孔(せんこう)といいます。激痛と吐血を起こし、やはりショック症状を起こします。

ピロリ菌は、胃の粘膜に生息する細菌で、1980年代の初めに発見され、胃潰瘍や慢性胃炎の発生に関係していることがわかっています。通常、胃の中は、胃酸が分泌されて強い酸性に保たれているため、細菌が生息することはできません。しかし、ピロリ菌は、胃の粘膜が胃酸から胃壁を守るために分泌している中性の粘液の中に生息し、直接胃酸に触れないように身を守っています。

ピロリ菌はウレアーゼという尿素分解酵素を分泌して、胃の中に入ってくる食べ物に含まれる尿素を分解し、アンモニアを作り出します。このアンモニアも胃の粘膜に影響を及ぼし、胃潰瘍や慢性胃炎の原因の一つになると考えられています。ただし、ピロリ菌に感染している人すべてに、症状が現れるわけではありません。感染しても、自覚症状がない場合、そのまま普通の生活を送ることができます。

ピロリ菌に感染している人の割合は、年を取るほど高くなる傾向があり、20歳未満では9〜11パーセントなのに対して、40〜60歳では55~70パーセントとなっています。このように年齢によって感染率に違いがあるのは、育った時代の衛生環境に関係していると見なされています。

胃潰瘍の検査と診断と治療

胃潰瘍と同様の症状を生じる疾患として、機能性胃腸症の頻度が最も高く、十二指腸潰瘍、逆流性食道炎、急性膵(すい)炎、慢性膵炎、胆石、胆嚢(たんのう)炎など、鑑別すべき疾患は極めて多くなっています。

医師による診断では、内視鏡検査やX線検査が行われます。内視鏡検査では、潰瘍の状態を観察し、疾患がどのレベルまで進んでいるかを観察します。X線検査では、潰瘍の輪郭、潰瘍の回りの粘膜や胃壁の様子を観察します。

そのほか、胃腸のどこかからの出血の有無を調べる糞便(ふんべん)潜血反応検査、胃液の量や酸の強さを調べる胃液検査を行うことがあります。

胃潰瘍の治療では、胃酸の分泌を抑え、胃の粘膜を修復する薬剤を服用します。薬剤は、H2ブロッカー、プロトンポンプ阻害薬(プロトンポンプインヒビター)など。

ピロリ菌に感染し、再発を繰り返している場合には、2~3種類の抗生物質を同時に1~2週間服用し続けることで、胃の中に生息しているピロリ菌を除菌します。2~3種類の抗生物質を用いるのは、1種類だけよりも効果が高いのと、その抗生物質に対する耐性菌(抗生物質が効かない菌)ができてしまうのを防ぐためです。 プロトンポンプ阻害薬1種類と抗生物質2種類を組み合わせた3剤を、朝夕2回、1週間服用し続けることもあります。

出血性の胃潰瘍の場合は、内視鏡的止血法が多く行われるようになっています。そのため、従来の外科的治療は激減しています。穿孔の場合や、内視鏡的に止血、コントロールできない出血の場合は、外科的治療が行われます。

完治した後も再発を防ぐため、胃酸の分泌を抑制する薬や胃粘膜を修復する薬を継続して服用します。

日常生活では、過労やストレスを避けます。出血や胃痛など症状のひどい時は、禁酒、禁煙、またコーヒー、濃い紅茶や緑茶など胃酸の分泌を促進する飲み物を控えるようにします。

食事の量も控えめにして、少量ずつ、よく噛(か)んで、ゆっくりと食べます。空気も一緒に飲み込み、おなかが張ってしまう早食いは、好ましくありません。また、食事は1日3食、決まった時間に摂取します。長時間、食事をしないと、その間は胃酸が薄められず、胃に負担がかかるからです。

胃の粘膜を保護する食材としては、ビタミンUを含むキャベツ、ムチンを含むオクラやヤマイモ、加熱しても壊れにくいビタミンCを含むジャガイモなどが挙げられます。また、でんぷん質を分解する消化酵素を含んでいる大根や、豆腐、鶏のささ身、牛乳、豆乳など消化のよい食材もお勧めです。

逆に、繊維質が多い物、焼き肉などの脂っこい物、甘味や塩気が強い物、極端に冷たかったり熱かったりする物、強い香辛料は、避けたいところです。

🇹🇼胃下垂

胃全体が正常な位置より下のほうにあり、胃の曲がり角が骨盤の中に入っている状態

胃下垂とは、胃の下部が通常の位置よりも下がり、胃の曲がり角が骨盤の中に入っている状態。胃そのものの位置が変わるわけではなく、胃の上部は正常な位置にあり、下部が延びている状態です。

胃下垂の原因は、体質、暴飲暴食、腹筋の衰え、ストレスなどが挙げられます。胃下垂は遺伝はすることはありませんが、先天的に虚弱体質で、細長の胸を持ち、やせた人に多く、いつも胸部と上腹部を圧迫している人、太っていたがある原因で急にやせた人、過度に発育した女性なども、なりやすい傾向があります。

暴飲暴食を引き金に、胃下垂の状態が現れることもあります。腹筋の衰えで胃を正常の位置に持ち上げることができなくなり、垂れ下がるケースもあります。会社、学校での人間関係による強いストレスを引き金に、胃下垂の状態が現れる場合もあります。

胃下垂は医療機関へ行ってX線検査を受けなければ確実に診断はできませんが、 一般的に次のような症状が現れます。

胃の不快感、胃の張ったような痛み、食欲不振、少量の食事での満腹感、食後の胃のもたれや、むかつき、吐き気、げっぷ、あるいは腰痛、大便の不正常があります。横になっている時は、症状が軽くなります。

胃下垂になると上手に食べ物が消化できず、胃の中に物がたまった状態が長く続き、消化不良も生じます。胃が消化不良を起こすと、食べた物の栄養を十分に吸収できなくなり、イライラしたり、精神疲労に陥ったりする可能性もありますし、肌荒れなどの弊害が出てくる恐れもあります。

その上に、消化できない物を必死に消化しようとするため、胃酸(胃液)が多く分泌されて胃酸過多になります。この状態では、胃炎、胃潰瘍(かいよう)を起こす危険性の高くなります。

胃下垂の最もはっきりした特徴は、胃の下部が垂れ下がることになるので、へそのあたりが前に突き出て、上腹部は反対にくぼんでいます。下腹部が膨らむことで、体の重心がずれるため、猫背になりやすいとされています。 猫背になることで、さらに違った症状が出てくる可能性もあります。

胃下垂は疾患と認定しにくい症状ですが、重い自覚症状が続く場合に限り胃がんなどの疾患との識別が必要ですので、内科、消化器科の専門医を受診します。確実な診断方法は、医師にX線(レントゲン)写真を撮ってもらうことです。

胃下垂の検査と診断と治療

内科、消化器科の医師による診断では、立った位置でバリウム(造影剤)を300ミリリットル飲んで、胃のX線(レントゲン)検査を行い、胃の曲がり角が骨盤の中に入っているものを胃下垂と判断します。

胃がんなどの症状の似たほかの疾患と鑑別するためには、胃内視鏡検査をしたり、胆囊(たんのう)、膵臓(すいぞう)の超音波検査を行います。

内科、消化器科の医師による治療では、薬物療法はほとんど行われません。胃の運動を正常化させる場合には、整腸剤(腸管運動調整剤)や消化剤を処方します。便秘している場合には、緩下剤を処方することがあるものの、習慣になると緩下剤なしで便通がつかなくなるので、あまり処方されません。

一番の対処法は、症状の引き金になる暴飲暴食、ストレスを避け、適度な運動やバランスの取れた食生活、規則正しい生活で精神的にリラックスすることです。食生活では、急激な温度の変化は胃の蠕動(ぜんどう)運動のリズムを乱すため、極端に熱い物、冷たい物も避けます。

運動では、胃下垂の人は腹筋が発達していないことが多く、腹筋に重点を置いた筋肉トレーニングも有効です。腹筋を鍛えることで内臓を強く鍛えることができて、胃が正常の位置に持ち上がり、胃下垂の解消、予防が図れます。 いきなり激しい腹筋運動をすると胃を痛める可能性がありますので、徐々に慣らしていき、可能であれば毎日トレーニングします。

🇰🇷胃カルチノイド

カルチノイドという、がんに似た性質を持つ悪性腫瘍が胃に発生した疾患

胃カルチノイドとは、カルチノイドという、がんに似た性質を持つ悪性腫瘍(しゅよう)が胃に発生した疾患。

カルチノイドは、がんの意味であるカルチと、類を意味するノイドが組み合わさった英語で、日本語で「がんもどき」とも呼ばれます。

がんと同様、カルチノイドはいろいろな臓器に発生します。小腸、直腸、虫垂、十二指腸、胃などの消化管のホルモン産生細胞に発生し、膵臓(すいぞう)、精巣、卵巣、肺、気管支、胸腺(きょうせん)のホルモン産生細胞でも発生します。

このカルチノイドは、一般的には悪性度が低いと考えられています。実際、症状の進行もゆっくりで長期生存が期待できるものも多く、これらは定型カルチノイドと呼ばれています。一方、比較的早く症状が進行し治療が困難なものがあり、これらは非定型カルチノイドと呼ばれています。定型カルチノイドは非がん性、非定型カルチノイドはがん性と見なされます。頻度的には、定型カルチノイドのほうが多くみられます。

胃カルチノイドの場合、その多くは胃体部の上皮内に広く分布しているホルモン産生細胞であるECL細胞(腸クロム親和性細胞様細胞)から、腫瘍が発生しています。ECL細胞は、十二指腸につながる幽門前庭部にあるホルモン産生細胞であるG細胞から分泌されるガストリンの刺激を受けて、ヒスタミンを分泌し、壁(へき)細胞の胃酸分泌を促す働きをしています。血清中のガストリン値が上昇する高ガストリン血症が、ECL細胞の腫瘍化に関与していると考えられています。

血清中のガストリンはさまざまな胃の疾患や、胃酸を中和する制酸剤の使用により上昇しますが、胃カルチノイドの発生に関与していると考えられているのは、委縮性胃炎と、多発性内分泌腺腫症に合併するゾリンジャー・エリソン症候群。

委縮性胃炎は、自己免疫異常によるA型胃炎と、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)感染によるB型胃炎に大別されます。特にA型胃炎では、抗壁細胞抗体により壁細胞が破壊されて高度に胃酸分泌が低下するため、分泌されるホルモン量を一定にするシステムにより、明らかな高ガストリン血症を示します。ガストリンの刺激を受け、胃底腺粘膜内にECL細胞の過形成が生じ、さらにECL細胞が腺管外に集合体を形成した内分泌細胞微小胞巣を経て、カルチノイドが形成されると推測されています。

多発性内分泌腺腫症は、副甲状腺、膵臓、下垂体に腫瘍が発生する常染色体優性遺伝性疾患です。ゾリンジャー・エリソン症候群は、膵臓や胃・十二指腸壁に発生したガストリンを産生する細胞の腫瘍(ガストリノーマ)によって起こる疾患です。

現在、胃カルチノイドは、高ガストリン血症の基礎疾患により、A型胃炎に伴うもの、ゾリンジャー・エリソン症候群に伴うもの、 ガストリンとは無関係のものの3タイプ分類されています。

これらの頻度は、A型胃炎に伴うものが35パーセント程度、 ガストリンとは無関係のものが50パーセント程度で、ゾリンジャー・エリソン症候群に伴うものはその基礎疾患自体がまれなため、極めて少数であると見なされます。

血清中のガストリン値が高いA型胃炎に伴うものと、ゾリンジャー・エリソン症候群に伴うものの症状としては、腹痛、消化管出血、胃逆流、胃酸欠乏、貧血、体重減少などが認められます。

なお、胃に発生したカルチノイドは、セロトニンを始め、ヒスタミン、ブラジキニン、プロスタグランジン、カテコールアミンなどのホルモン様の生理活性物質を産生します。この生理活性物質は血液中に放出され、直接肝臓の門脈に入り、肝臓の酵素によって破壊されます。そのため、胃にカルチノイドができても、一般的には肝臓に広がらなければ症状は現れません。

肝臓に広がった場合は、肝臓はこれらのホルモン様物質が全身を循環し始める前に破壊できなくなります。腫瘍が放出する物質によって、カルチノイド症候群と呼ばれる種々の症状が現れることがあります。

カルチノイド症候群は腫瘍がある人の10パーセント以下に現れ、顔や首に出る不快な紅潮は最も典型的で、最初に現れることが多い症状です。血管拡張による紅潮は、感情、食事、飲酒、熱い飲み物によって起こります。紅潮に続いて、皮膚が青ざめることがあります。

セロトニンに起因して腸の収縮が過剰になると、腹部けいれんと下痢を生じます。腸は栄養を適切に吸収できないため栄養不足になり、脂肪性の悪臭を放つ脂肪便が出ます。心臓も傷害を受けて、下肢がはれます。肺への空気の供給も妨げられて、気管支ぜんそくに似た発作や息切れが現れます。セックスへの興味を失ったり、男性では勃起(ぼっき)機能不全になることもあります。

胃カルチノイドのリンパ節転移は、腫瘍の大きさの増大とともに率が高くなり、1センチ以下では10パーセント以下、1~2センチで20数パーセントとなります。また、粘膜下層に浸潤した腫瘍では、胃がんと同様に15パーセント前後のリンパ節転移を認めます。

最近は、健診などの胃透視や胃内視鏡で、胃カルチノイドの無症状の小病変が発見されるケースが多くなっています。

胃カルチノイドの検査と診断と治療

消化器科、内科の医師による診断では、症状から胃カルチノイドが疑われる場合は、尿を24時間採取して、尿中のセロトニンの副産物の1つである5ーヒドロキシインドール酢酸(5ーHIAA)の量を測定し、その結果から判断します。

この検査を行う前の少なくとも3日間は、バナナ、トマト、プラム、アボカド、パイナップル、ナス、クルミといったセロトニンを豊富に含む食べ物を避けます。ある特定の薬、せき止めシロップによく使われるグアイフェネシン、筋弛緩(しかん)薬のメトカルバモール、抗精神病薬のフェノチアジンなども検査結果の妨げになります。

腫瘍の位置を突き止めるには、放射性核種走査が有効な検査です。カルチノイドの多くはホルモンのソマトスタチン受容体がありますので、放射性ソマトスタチンを注射する放射性核種走査によって、腫瘍の位置や転移の有無が確認できます。この方法で約90パーセントの腫瘍の位置がわかります。

CT(コンピューター断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像)検査、動脈造影も、腫瘍の位置を突き止めたり、腫瘍が肝臓に転移していないかを確認するのに役立ちます。

消化器科、内科の医師による治療では、腫瘍が胃の部分に限定していれば、外科的切除が原則となります。A型胃炎に伴うもの、 ゾリンジャー・エリソン症候群に伴うものの場合、腫瘍径1センチ以下あるいは個数3~5個以下であれば内視鏡的治療、それ以上であれば幽門前庭部切除と局所切除を行います。最近では、予後良好なA型胃炎に伴うものに対しては、無治療で経過観察されることもあります。

散発性のガストリンとは無関係のものの場合、リンパ節全体を切除するリンパ節郭清(かくせい)を含めた胃切除を行います。

進行した場合、一般のがんと同様に放射線療法や、抗がん剤による化学療法を含めた集学的治療を行います。ストレプトゾシンにフルオロウラシル、時にはドキソルビシンなどの抗がん剤の併用によって、症状を緩和できることがあります。オクトレオチドも症状を緩和し、タモキシフェン、インターフェロンアルファ、エフロルニチンは腫瘍の増殖を抑制します。

A型胃炎に伴うものは、肝臓やリンパ節への転移率が低く、腫瘍関連死亡はほとんどなく予後良好です。これに比べて、ガストリンとは無関係のものは、予後不良とされます。

🇹🇭胃がん

早期に発見できれば、ほとんど治る疾患

日本人に多く見られる胃がんは、早期発見でほとんど治すことができるようになってきました。

検査法・治療法が飛躍的に向上したことにより、定期的に検診を受け適切な処置をすれば、過度に怖れる病気ではありません。

とはいうものの、食べ物や嗜好品、ストレスなど、毎日の生活と密接な関係があり、食生活の見直しを中心にした胃をいたわる心掛けが大切です。

■一番の原因は食生活■

胃の粘膜は粘液などで保護されていますが、刺激の強い食べ物を取りすぎると炎症を起こし、胃がんのきっかけを作ってしまうことがあります。

塩分の取りすぎは禁物で、塩分摂取の多い地域で胃がんが多いことがわかっています。

肉や魚の焦げ、喫煙、過度の飲酒などは、よくありません。特に、タバコの発がん物質は唾液に溶けて胃に入るので、胃がんの原因にもなるので注意が必要です。

夜食、早食い、食べすぎといった不規則な食習慣やストレスも、胃に負担をかけます。

■初期には特別な自覚症状はない■

胃が重たい感じ、食欲不振といった症状が長く続くようなら、医療機関で検査を受けてください。吐き気、嘔吐、下痢、便秘、タール状になった黒い便などの症状がある場合も、同様です。

素人の判断で、かえって胃がんを進行させてしまう場合もあります。早期発見のため、おかしいと思ったらすぐに検査を受けましょう。定期的な検査も大切です。

胃がんの検査と診断と治療

■主な検査■

x線検査

バリウム(造影剤)と発泡剤を飲んで、胃のひだの状態や変形の有無などを調べます。

検査後は、バリウムを早く出すために水分を多く取るようにします。水分を補給しないと腸内でバリウムが固まり、出にくくなってしまいます。便秘がちな人は、検査後に渡される下剤を飲んでおくとよいでしょう。

内視鏡検査 

胃に細いファイバースコープを挿入し、患部を直接観察する方法です。x線検査などで異常が見付かった場合に行います。

🇸🇧胃巨大皺襞症

胃の粘膜がはれて、肥厚し、巨大なひだを形成する疾患

胃巨大皺襞(しゅうへき)症とは、胃の粘膜がはれて、肥厚し、巨大なひだを形成する疾患。メネトリエ病、巨大肥厚性胃炎、胃粘膜肥厚症とも呼ばれます。

肥厚した粘膜から、血液の蛋白(たんぱく)質が漏れるために、低蛋白血症となることがあります。その結果、体にとって重要な栄養分である蛋白質濃度が低下して、初期では主に胃もたれ、上腹部痛、吐き気、嘔吐(おうと)、あるいは下痢などの消化器症状が現れます。無症状のこともあります。

進行すると、低蛋白血症のために貧血や、疲れやすい、食欲の低下、体重の減少、全身がむくむなどの症状が出てきます。さらに進行すると、胃液を分泌する胃腺(せん)が委縮し、塩酸とも呼ばれる胃酸、および酸性条件下で活性化する蛋白分解酵素のペプシンの分泌が減少し、食べ物を消化するために胃で分泌される胃液の量が少ない低酸症、あるいは胃液から胃酸が消失する無酸症が起こります。

胃がんのリスクが高くなる可能性があり、胃巨大皺襞症の発症者の約10パーセントが数年後に、胃がんを発症します。

まれに小児にも胃巨大皺襞症が起こることがありますが、一般的には中年以降の男性に多く発症します。

成人例では、免疫反応の異常が原因だと考えられているほか、グラム陰性菌のヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)感染とも関連があるといわれています。小児例では、ヒトヘルペスウイルスの仲間であるサイトメガロウイルス感染との関連があるとされています。

胃巨大皺襞症は、無症状のまま健診などで偶然に発見されることも多い疾患です。消化器症状や、疲れやすさなどがあったら、消化器科、消化器内科、内科を受診しましょう。

胃巨大皺襞症の検査と診断と治療

消化器科、消化器内科、内科の医師による診断では、胃内視鏡検査が最も重要で、胃粘膜の巨大な肥厚が観察されます。また、胃内視鏡検査の時に胃の粘膜の一部を採取し、顕微鏡で調べる生検を行うと、胃粘膜の最も表層にある被蓋(ひがい)上皮細胞(粘液産生細胞)の過形成とともに、固有胃腺の委縮が認められます。生検を行うと、原因となるヘリコバクター・ピロリがいるかどうかを確認することもできます。

さらに、血液検査で低蛋白血症があれば、その検査を進めます。また、胃液検査により低酸または無酸を確認します。

胃巨大皺襞症と区別すべき疾患としては、胃がんや胃リンパ腫(しゅ)が最も重要です。

消化器科、消化器内科、内科の医師による治療では、消化器症状がみられるようであれば、胃の中に放出された胃酸(塩酸)を中和する制酸剤や、胃酸の分泌を減少させる抗コリン剤(自律神経遮断薬)、ヒスタミンH2受容体拮抗(きっこう)薬(H2ブロッカー)、プロトンポンプ阻害薬などを使用します。食後に胃のもたれが起こるようであれば、消化剤を使用することも有効で、症状に合わせて、傷みを和らげる鎮痛剤も使用します。

低蛋白血症に対しては、高カロリー高蛋白食を数回に分けて摂取するようにします。食欲不振などにより摂取が不十分な場合は、高カロリー輸液などの栄養療法を行います。

ヘリコバクター・ピロリやサイトメガロウイルスが感染した場合は、それぞれの治療を行います。

ヘリコバクター・ピロリに対しては、2~3種類の抗生物質(抗菌剤)を同時に1~2週間服用し続けることで、胃の中に生息しているピロリ菌を除菌します。低蛋白血症ばかりでなく、胃粘膜の巨大な肥厚も改善し、完全に治ることもあります。

これらの内科的治療が無効な場合で、肥厚した胃粘膜からの蛋白漏出の程度が強い場合は、外科的治療として胃の部分切除術または胃全摘術が行われます。

🇸🇴胃酸過多症

胃の機能が高進して、胃酸の分泌が多くなっている状態

胃酸過多症とは、胃の機能が高進して、胃液の成分である塩酸の酸度が普通よりも高くなっている状態。過酸症とも呼ばれます。

胃液の分泌は自律神経の支配を受け、主として食事の前後に増加します。年間を通じて春と秋に多く、夏と冬は比較的分泌が低下しています。食事の内容によっても増加します。

症状としては、みぞおちから胸にかけて焼けるような不快感がある胸焼け、げっぷ、胃の酸っぱい液体が口まで逆流してくる呑酸(どんさん)がみられます。これらは、酸度の高い胃酸液が食後に大量に分泌されることが一般的なため、食後1~2時間で起こります。

また、食べ物が胃に入っていない空腹時に胃液が大量分泌し、とりわけ夜間に分泌量が増える傾向がある胃酸過多症では、空腹時の胃の痛み、胃もたれ、食欲減退などの症状が現れます。

原因となるのは胃酸分泌能の高進ですが、その仕組みについてはまだよくわかっていません。胃粘膜の胃酸を分泌する細胞が多いことや、胃酸分泌を促す中枢神経からの刺激に対する感受性の高進、胃液分泌の促進と抑制を調節する迷走神経、交感神経の異常、ガストリン、セクレチンなどのホルモンの異常などが考えられています。酒、たばこ、刺激性食品の摂取過多が、原因となることもあります。

胃酸過多症を伴いやすい疾患としては、急性胃炎、若年型慢性胃炎、胃潰瘍(かいよう)、十二指腸潰瘍、ゾリンジャー・エリンソン症候群、副甲状腺(せん)機能高進症などが挙げられます。

胃酸過多症の検査と診断と治療

胃酸過多の診断には、鼻から胃にチューブを挿入して、採取した胃液から胃液の酸度と胃酸分泌能を調べることが確実ですが、この検査はあまり用いられていません。

治療としては、主として胃液の分泌を抑え、胃酸の酸度を中和させるために、重曹、水酸化アルミニウムゲル・水酸化マグネシウム配合薬などの制酸剤や、胃粘膜からの胃酸分泌を強力に抑えるH2受容体拮抗(きっこう)薬、プロトンポンプ阻害薬などの胃酸分泌抑制剤が使用されます。

胃酸過多症において日常で注意することは、香辛料、コーヒー、炭酸飲料、漬物、アルコール、たばこなどの胃酸の分泌を促進するものと、精神的疲労によるストレスを避けることです。

🇱🇨胃酸欠如症

胃で分泌される胃液の中に、胃酸とも呼ばれる塩酸がほとんどない状態

胃酸欠如症とは、食べ物を消化するために胃で分泌される胃液の中に、胃酸とも呼ばれる塩酸がほとんどないか、全くない状態。無酸症とも呼ばれます。

胃液は、強酸性で、pHは通常1〜1・5程度。胃酸とも呼ばれる塩酸、および酸性条件下で活性化する蛋白(たんぱく)分解酵素のペプシンが含まれており、これによって蛋白質を分解して、小腸での吸収を助けています。同じく酵素のリパーゼは、主に脂肪を分解しています。

胃液はまた、感染症の原因になる細菌やウイルスを殺菌したり、一部の有害物質を分解したりすることで、生体防御システムとしての役割も担っています。例えば、コレラ菌は胃酸によってほとんどが死滅してしまうため、大量の菌を摂取しない限り感染は起こりませんが、胃酸の分泌がほとんどない胃酸欠如症の人、あるいは胃酸の分泌量が少ない胃酸減少症(低酸症、減酸症)の人などでは少量のコレラ菌でも発症します。

胃液中に本来含まれるはずの胃酸がほとんど含まれない無酸であっても、何も症状がない時には疾患というわけではなく、何らかの症状が無酸のために現れる場合に初めて胃酸欠如症とされます。

厳密な意味での胃酸欠如症は、詳細な胃液検査をしても胃酸とも呼ばれる塩酸が認められない状態をいいます。ガストリン、またはヒスタミンを注射して、チューブから胃液を採取する胃液検査で塩酸の分泌状態を見る方法が行われていますが、これによると完全な無酸は少ないことがわかりました。

それゆえ、胃液の塩酸濃度の低い胃酸減少症と胃酸欠如症を一括して、低無酸症と呼ぶこともあります。これは、低酸の程度の強いものは無酸とほとんど同じような症状を示すからです。

胃酸欠如症を示す疾患の代表的なものは、慢性胃炎の中の委縮性胃炎。これは多くの日本人にみられますが、高齢になるに従い胃粘膜に委縮性変化が生じ、胃酸を分泌する壁細胞という細胞の数が減ってくるために、まず胃酸減少症の状態となり、これが高度になると胃酸欠如症になると考えられています。

そのほかに、ビタミンB12の欠乏によって生じる悪性貧血や、進行した胃がんなどで、胃粘膜に委縮性変化が生じた場合に、胃酸欠如症がみられます。手術によって胃を切除した時にも、胃酸欠如症が当然起こります。

また、膵臓(すいぞう)に腫瘍(しゅよう)があって水様性下痢、低カリウム血症、胃酸分泌障害を示すWDHA症候群などでは、胃粘膜には特に形態学的な変化が生じないにもかかわらず、機能障害のため胃酸欠如症をみることがあります。この場合は機能障害の原因を除去すれば、胃酸欠如症は一過性に終わります。

胃酸欠如症の症状としては、胃液に塩酸がほとんどないか、全くないために胃における消化不良が起こり、食欲の低下、食後の胃もたれや膨満感、下痢などがみられます。しかし、それらの症状がみられることは案外少なく、膵液がよく分泌されていれば、たとえ胃において消化がよく行われなくても、腸で十分消化が行われるからです。

胃酸欠如症の症状は、常に一定しているものではなく、起きたり起きなかったりして、変化するのが一般的です。特に暴飲暴食などによって悪化し、過労や気候の変化も影響します。

胃酸欠如症を放置しておいても、特に重大な合併症は起こりません。しかし、食欲がなくて、栄養の低下が起こった時には注意が必要です。悪性貧血に合併した胃酸欠如症は、直ちに治療を受けることが大切です。

胃酸欠如症の検査と診断と治療

内科、胃腸科、消化器科の医師による診断では、ガストリン、またはヒスタミンを注射し、チューブから胃液を採取する胃液検査で、胃酸分泌能を測ります。また、血中ペプシノーゲン値、特にペプシノーゲンのⅠ/Ⅱ比は、胃粘膜の委縮度と相関しているので、これを測ることによって胃酸分泌能を推測できます。

慢性胃炎や胃がんの診断には、X線検査や内視鏡が必要となります。WDHA症候群の診断には、VIP(血管作用性腸ペプチド)を始めとする血中ホルモンの測定やホルモン産生腫瘍の検索が必要です。

内科、胃腸科、消化器科の医師による治療では、検査によって他の疾患が除外され、単に胃酸欠如症で胃酸とも呼ばれる塩酸がほとんどないか、全くないために、食べ物の消化作用に支障が起きている場合は、塩酸リモナーデなどの消化剤を服用します。

慢性胃炎による胃の粘膜の委縮も、胃腺(いせん)の委縮も、元に戻すことはできません。安静を心掛ける、ストレスを避ける、消化のよい食事を取る、コーヒーや香辛料などの刺激物の摂取を避けるなど、日常生活の中で注意をしていきます。

悪性貧血の治療は、基本的に鉄欠乏性貧血と同じで、不足しているビタミンB12か葉酸を補給すれば治ります。

🇸🇳胃酸減少症

胃で分泌される胃液中の胃酸が少ない状態

胃酸減少症とは、食べ物を消化するために胃で分泌される胃液中の塩酸、すなわち胃酸が少ない状態。低酸症、減酸症とも呼ばれます。

胃液の中に、胃酸がほとんどないか、全くない状態は、胃酸欠如症(無酸症)といいます。

胃液は、強酸性で、pHは通常1〜1・5程度。塩酸、すなわち胃酸、および酸性条件下で活性化する蛋白(たんぱく)分解酵素のペプシンが含まれており、これによって蛋白質を分解して、小腸での吸収を助けています。同じく酵素のリパーゼは、主に脂肪を分解しています。

胃液はまた、感染症の原因になる細菌やウイルスを殺菌したり、一部の有害物質を分解したりすることで、生体防御システムとしての役割も担っています。例えば、コレラ菌は胃酸によってほとんどが死滅してしまうため、大量の菌を摂取しない限り感染は起こりませんが、胃酸の分泌量が少ない胃酸減少症の人、胃酸の分泌がほとんどないか、全くない胃酸欠如症の人などでは少量のコレラ菌でも発症します。

胃酸減少症は、胃液総酸度が30以下、塩酸含量0・1パーセント以下、pH1・59以上が相当します。

この胃酸減少症を示す疾患の代表的なものは、慢性胃炎の中の委縮性胃炎。これは多くの日本人にみられますが、高齢になるに従い胃粘膜に委縮性変化が生じ、胃酸を分泌する壁細胞という細胞の数が減ってくるために、まず胃酸減少症の状態となり、これが高度になると胃酸欠如症になると考えられています。

そのほかに、ビタミンB12や葉酸の欠乏によって生じる悪性貧血や、進行した胃がんなどで、胃粘膜に委縮性変化が生じた場合に、胃酸減少症がみられます。手術によって胃を切除した時にも、胃酸減少症が当然起こります。

胃酸が少ないために、食べ物の消化作用に支障が起き、食後の胃のもたれ、膨満感、胸焼け、食欲不振、軽い下痢など、さまざまな症状が現れます。

胃のもたれ、胸焼けなどの胃酸減少症で現れる症状は、慢性胃炎、十二指腸潰瘍(かいよう)、食道がん、胃がんなどでもみられる症状であるため、異変に気付いたら内科、胃腸科、消化器科を受診して検査を受け、原因を確かめることが先決です。

胃酸減少症の検査と診断と治療

内科、胃腸科、消化器科の医師による診断では、ガストリン、またはヒスタミンを注射し、チューブから胃液を採取する胃液検査で、胃酸分泌能を測ります。また、血中ペプシノーゲン値、特にペプシノーゲンのⅠ/Ⅱ比は、胃粘膜の委縮度と相関しているので、これを測ることによって胃酸分泌能を推測できます。

慢性胃炎や胃がんの診断には、X線検査や内視鏡が必要となります。

内科、胃腸科、消化器科の医師による治療では、検査によって他の疾患が除外され、単に胃酸減少症で塩酸、すなわち胃酸の分泌量が少ないために、食べ物の消化作用に支障が起きている場合は、塩酸リモナーデなどの消化剤を服用します。

慢性胃炎による胃の粘膜の委縮も、胃腺(いせん)の委縮も、元に戻すことはできません。安静を心掛ける、ストレスを避ける、消化のよい食事を取る、コーヒーや香辛料などの刺激物の摂取を避けるなど、日常生活の中で注意をしていきます。

悪性貧血の治療は、基本的に鉄欠乏性貧血と同じで、不足しているビタミンB12か葉酸を補給すれば治ります。

🇬🇶胃軸捻転症

胃が生理的な範囲を超えてねじれた状態

胃軸捻転(いじくねんてん)症とは、胃が異常な回転や捻転によって、生理的な範囲を超えて病的にねじれた状態。比較的まれな疾患で、新生児や乳児に多く発症します。

胃軸捻転症は、その特徴により分類されます。胃が回転や捻転する軸によって、長軸性胃軸捻転、短軸性胃軸捻転、混合型胃軸捻転に分類されます。長軸性胃軸捻転は、胃が食道につながる噴門と胃が十二指腸につながる幽門を結ぶ線を軸にして回転、捻転します。短軸性胃軸捻転は、胃の内側に小さく湾曲した部分である小湾と胃の大きく外側に膨らんで湾曲した部分である大湾を結ぶ線を軸にして回転、捻転します。混合型胃軸捻転は長軸性胃軸捻転と短軸性胃軸捻転が混じり合って回転、捻転します。

また、発生した要因によって、特発性胃軸捻転と続発性胃軸捻転に分類され、発症の経過によって、急性胃軸捻転、慢性胃軸捻転、間欠性(反復性)胃軸捻転に分類されます。

胃は靭帯(じんたい)、腸間膜(ちょうかんまく)、腹膜などによって固定されていますが、新生児や乳児ではこれらの組織による胃の固定が比較的弱いために容易に捻転を生じます。胃の位置が変わりやすい先天的な遊走脾(ひ)や横隔膜の疾患で胃軸捻転症になることもあります.

成人の場合、約3分の2の発症者が何らかの疾患に伴って起こる続発性胃軸捻転であるとされています。原因となる疾患としては、横隔膜の筋層が委縮したり薄くなったりして横隔膜の緊張が低下した状態になる横隔膜弛緩(しかん)症や、胃の一部が横隔膜より上の胸部に脱出している状態になる食道裂孔ヘルニアが多く認められます。

次いで、原因となる疾患がはっきりしない特発性胃軸捻転や、胃自体の疾患によるものが多いとされ、大腸のガスや胃下垂が影響したという報告もあります。その他、強い腹圧がかかった場合や、高齢者が過食した場合に発症したという報告があります。

症状は、急性あるいは慢性の経過をたどりますが、捻転の種類や閉塞(へいそく)の程度によって異なります。

急性の場合には、突然の嘔吐(おうと)、激しい腹痛、上腹部の膨満感を来します。特に、吐き物のない嘔吐、上腹部痛、鼻から胃に挿入して胃の内容物を吸引しようとする医療用の胃管挿入困難の3徴が、医師が診断をつける際に有用であるとされています。

急速に生じた捻転の程度が180度を超えた場合には、完全閉塞となって循環障害を起こし、血液が流れないために胃壁の壊死(えし)、穿孔(せんこう)を合併して、ショック状態となることがあります。そのため、急性胃軸捻転では慢性胃軸捻転に比べて死亡率が高くなります。

新生児や乳児では、急性胃軸捻転はまれで慢性胃軸捻転が多く、食欲不振、吐き気、嘔吐、腹部の膨満などの症状がみられますが、無症状の場合もあります。また、食道裂孔ヘルニアに合併した場合には腹部の症状に乏しく、胸部痛、呼吸困難などの胸部の症状が主体になります。

新生児や乳児にみられる慢性胃軸捻転は、胃前庭部が発育し、立って歩くようになる1歳をすぎると自然によくなるのが一般的です。

痛みや嘔吐が激しい場合は、子供は小児科を、大人は内科もしくは外科をすぐに受診してください。

胃軸捻転症の検査と診断と治療

小児科、内科、外科の医師による診断では、問診、腹部単純X線(レントゲン)検査、腹部CT(コンピュータ断層撮影)検査、胃X線(レントゲン)造影検査などを行います。

問診では、痛みの状態や、嘔吐時の吐き物の量を確認します。腹部単純X線(レントゲン)検査では、捻転により空気の通過が障害されるため、著明に拡張した胃のガス像を認めます。

腹部CT(コンピュータ断層撮影)検査では、著明に拡張した胃のガス像を認めます。また、胃壁が壊死した場合には、門脈という血管の中にガス像が見られることがあります。

胃に造影剤(バリウムなど)を流すことで形などの評価ができる胃X線(レントゲン)造影検査では、捻転した胃の形をとらえられることがあります。また、捻転のために造影剤の通過障害を認めることもあります。

小児科、内科、外科の医師による治療では、急性の胃軸捻転症の場合は、手術治療が第一の選択肢となります。手術では胃の捻転を解除してから、胃を前方の腹壁に固定する治療方法などが行われます。近年では、腹腔(ふくくう)鏡による手術も行われるようになっています。この方法は、腹に数カ所の小さな穴を開け、そこから腹腔鏡というカメラや器具を挿入して行う手術です。より体への負担が少なく手術後の回復が早い方法であるとされています。

慢性の胃軸捻転症や、間欠的に捻転が起こる場合では、手術ではなく保存的治療をまず行って改善を図ります。具体的には、胃管を挿入してたまったガスを抜き減圧する、上部消化管内視鏡(胃カメラ)で捻転を元にに戻すなどを行います。

これら保存的治療で改善がみられない場合や、胃壁の壊死、穿孔が起きている場合などは、緊急手術を行うこととなります。胃壁が壊死している場合には、胃切除が必要な場合があります。高齢者の場合は、症状がはっきりしなかったり全身の状態が悪かったりするため、保存的治療が選択される場合もありますが、手術時期が遅れてしまうと致命的となる場合もあるため注意が必要です。

胃軸捻転症の死亡率は15~30%とされており、予後の悪い疾患の一つです。続発性の胃軸捻転症の場合には、原因となった病気の治療も併せて必要となります。

なお、新生児や乳児に起こる慢性の胃軸捻転症の場合であれば、一般的に1歳をすぎると自然に改善するとされており、幼児期になっても症状がよくならなかったり、捻転を繰り返したりする場合などは、手術が必要になることがあります。先天的な遊走脾や横隔膜の疾患に伴う胃軸捻転症では、それらに対する処置も必要になります。

慢性型の場合は、横隔膜や胃自体に異常がなければ、多くは体位の工夫、食事を少量ずつ回数を多く摂取する、浣腸(かんちょう)による排便・排ガスの促進などの保存療法によって軽快します。

🇸🇮異常乳頭分泌

妊娠や授乳期以外に起こる乳汁などの分泌

異常乳頭分泌とは、妊娠や授乳期以外に乳頭から分泌物がみられる状態。乳頭異常分泌症、乳汁漏、乳汁漏出症とも呼ばれます。

妊娠期間中や授乳期に女性の乳頭から乳汁(母乳)が出るのは普通ですが、異常乳頭分泌ではそれ以外の時期に乳頭から分泌物がみられるわけです。

乳頭の片方からだけ分泌物がみられることもあれば、乳頭の両方から分泌物がみられることもあります。何もしなくても気付くほどの分泌物がみられることもあれば、軽くまたは強く乳頭を圧迫しないと分泌物がみられないものもあります。

分泌物は乳汁のようなさらっとした白色のものもありますが、膿(うみ)が混じって黄色や緑色っぽく、粘り気があることもあります。また、分泌物に血が混じって茶褐色であることもあります。

その原因は、さまざまです。乳汁をつくる乳腺(せん)に何らかの異常がみられる場合と、乳腺以外の部分の異常が原因の場合とがあります。

ほとんどは乳腺に異常がある場合に生じ、乳腺症や乳管内乳頭腫(しゅ)などによって生じます。また、割合として多くはないものの、乳がんによって生じることもあります。

乳腺以外に原因があるものとしては、薬剤の副作用による場合があります。ある種の抗うつ剤や胃薬、降圧剤、経口避妊薬(低用量ピル)などが原因で、乳汁を産生するプロラクチンというホルモンの分泌を刺激することがあり、そのような薬剤を長期服用することで異常乳頭分泌の症状がみられることもあります。

さらには、下垂体の疾患や脳の疾患、甲状腺や卵巣の異常による異常乳頭分泌もあります。

乳汁のような白色もしくは透明の分泌物が出る場合は、大抵の場合、ストレスなどによりホルモンバランスが乱れたりすることが原因で、深刻な問題ではないことがほとんどです。

それ以外の分泌物が出た場合は、早めに婦人科 、内科、乳腺科などを受診することが勧められます。

異常乳頭分泌の検査と診断と治療

婦人科 、内科、乳腺科などの医師による診断では、まずは原因を調べるために、乳房の視診や触診のほか、分泌物の検査、マンモグラフィー(乳腺X線検査)、血液検査、超音波(エコー)検査、乳管造影などを行います。

薬剤が原因のこともありますから、服用中の薬についても問診し、血液中のプロラクチン濃度を測定することもあります。

婦人科、内科、乳腺科などの医師による治療では、原因に応じた処置を行います。

原因が薬剤の服用である場合は、減量もしくは休薬を考えます。乳汁の分泌がみられるだけで、ほかに特別な異常や兆候がなければ、経過観察も可能です。

原因が乳管内乳頭腫などの良性の疾患の場合は、大抵は外科手術の必要はありません。乳がんなどの場合は、外科手術で腫瘍(しゅよう)を切除し、抗がん剤による化学治療などを行います。

🇸🇰異常分娩

正常の経過をたどらず、通常以上の人工介助を必要としたり、母体や胎児に障害を生ずる出産

異常分娩(ぶんべん)とは、正常の経過をたどらず、通常以上の人工介助を必要としたり、母体や胎児に障害を生ずるような出産の総称。
 娩出力、娩出物、産道の3つを分娩の3要素といい、それらがいずれも正常で、釣り合いがとれている場合には、分娩は正常の経過をたどります。従って、3要素のうちのどれかに異常があればすべて異常分娩となるわけですが、それにも程度があって、多少の異常があっても釣り合いのとれた範囲内であり、結果的に母体や胎児の状態に何らの異常もなく安全に分娩が終了すれば異常分娩とは呼びません。
 異常分娩には、流産、早産、微弱陣痛、過強陣痛、児頭骨盤不均衡、多胎分娩、前期破水、胎位や胎勢の異常、癒着胎盤、分娩時異常出血などがあります。
 異常分娩の場合は、鉗子(かんし)分娩、吸引分娩、帝王切開などの産科手術や、新生児の仮死蘇生(そせい)、未熟児の保育を必要とすることが多くなります。
 一方、分娩が正常の経過をたどる正常分娩は、自然に陣痛が始まり、妊娠満37週以降から満42週未満の正期に、順調に経膣(けいちつ)分娩が進行して、正常な頭位(前方後頭位)で新生児が生まれてくることを指します。また、正常分娩の定義には、母体や胎児に障害や合併症などが残らないということも含まれます。
 なお、分娩中に通常の範囲内で会陰(えいん)切開を行ったり、子宮収縮薬(陣痛促進剤)を使用したりした場合でも、その後の経過に異常がみられなければ正常分娩に分類されます。
 分娩の経過中に会陰切開以外の手術的な処置を加える必要があったり、子宮収縮薬の使用後も、初産婦で30時間未満、経産婦で15時間未満の所要時間内に分娩が進まなかったりした場合などには、異常分娩と見なされます。
 分娩後、母体や胎児に何らかの障害や合併症が残った場合は異常分娩と見なしますが、順調な経膣分娩には該当しない帝王切開などの異常分娩の場合に、必ずしも何らかの障害が残るというわけではありません。このように、異常分娩は広い意味や状態を含んだ医学用語として用いられています。  異常分娩の原因は、分娩の3要素である娩出力、娩出物、産道の問題に大別できます。
 娩出力は、分娩時に胎児を押し出そうとする力のことです。娩出力は、陣痛、子宮の収縮、意識的な腹圧により成り立ちます。異常分娩の原因となる娩出力の問題としては、子宮の収縮が不十分な微弱陣痛、陣痛が強くなりすぎて胎児に過度の負担がかかる過強陣痛などが挙げられます。
 陣痛は多くの場合、最初は弱く、次の痛みまでの間隔が長く、それが徐々に強く、間隔が短くなってくるものです。長時間にわたり間隔が長かったり、痛みが弱かったりするままなのが微弱陣痛です。分娩進行の途中から微弱陣痛になってしまうこともあります。微弱陣痛が原因で分娩が長時間にわたる場合には、母体の全身疲労や子宮筋の疲労が生じることがあります。
 また、子宮の収縮が非常に強く起こる過強陣痛が起こり、なおかつ産道の抵抗力が強い場合には、母体の痛みや不安などが引き起こされることがあります。
 胎児への影響が大きい例としては、分娩が長引くことで状態が悪化し、胎児機能不全と呼ばれる危険な状態に陥るケースが挙げられます。胎児機能不全は、子宮の中の胎児が低酸素状態になることで起こります。異常分娩が胎児機能不全の原因になることもあれば、胎児機能不全が異常分娩の原因になることもあります。
 異常分娩の原因となる娩出物の問題としては、胎児が正常な範囲を超えて大きい巨大児である、形態異常がある、低体重である、水頭症や無脳症などの病気がみられるといった場合が挙げられます。
 通常、胎児は少しずつ姿勢を変えながら産道を通って出生しますが、上記のような問題がみられる場合には、姿勢をうまく変えることができず、分娩がスムーズに進まないことがあります。これを胎児の回旋異常といいます。
 このほか、子宮の中の胎児の頭が上になっている骨盤位(逆子)や斜位、横位であるなど、子宮の中の胎児の頭が下にある頭位(前方後頭位)ではない場合も異常分娩に分類されます。正常な頭位ではない場合、予定帝王切開が選択されることも多くなります。
 頭位で児頭が娩出された後に、肩が恥骨に引っ掛かる肩甲難産といった状態も異常分娩として分類されます。
 また、胎児の娩出後に胎盤が出てこない癒着胎盤も娩出物の問題です。このような胎盤を無理に出そうとすると、子宮壁が裏返って内面が子宮口から外に出てくる子宮内反という重篤な状態になるので注意が必要といわれています。
 胎児の通り道である産道は、子宮頸部(けいぶ)や膣などで構成されている軟産道と、骨盤など骨で構成されている骨産道により成り立ちます。異常分娩の原因となる産道の問題としては、軟産道が硬く、胎児がスムーズに通過できないほど抵抗力が強い場合や、骨盤が小さく胎児が骨盤内へと進んでいけない場合には、帝王切開が検討されることがあります。
 このほか、産道が傷付く産道裂傷や、新生児の出生後に子宮筋が収縮しないことによる弛緩(しかん)出血が起こることもあります。双子、巨大児、羊水過多など子宮壁が引き延ばされすぎた時は、弛緩出血が起こりやすくなります。微弱陣痛や分娩が長引くなどで子宮筋が疲労して収縮不全となる場合にも起こりやすくなり、陣痛開始から2、3時間で産まれてしまう急産でも、弛緩出血が起こりやすいことが知られています。
 出血量が増えると、輸血が必要となる場合が増えます。どうしても子宮からの出血が止まらない場合は、最終手段として開腹手術で子宮を摘出することで止血させることがあります。

異常分娩の検査と診断と治療

異常分娩となる可能性があるかどうかを見極めるための産科、産婦人科の医師による検査には、妊婦に対する身体診察やX線(レントゲン)検査、超音波検査などがあります。
 検査では、妊婦の体格や骨盤の大きさ、胎児の大きさと予想される体重、子宮内の胎位(胎児の向き)、双子や三つ子などの多胎分娩の可能性、羊水の量、胎児の健康状態と障害や合併症の有無、胎児心拍数陣痛図による胎児機能不全の有無、などの項目を確認します。
 検査の結果、産科、産婦人科の医師が正常分娩は難しいとあらかじめ予測し、安全な出産に向けて準備を進められる異常分娩のケースも多くあります。例えば、胎児の体が大きく、母体の骨盤が小さい児頭骨盤不均衡と診断できる場合などが、予測可能な異常分娩に該当します。
 また、妊娠中の検査では問題が認められない異常分娩も多くあります。このような場合は、母体や胎児の状態、分娩の進行状態に応じて、例えば緊急帝王切開など適切な治療と処置への移行を検討します。
 妊娠中の検査で安全な分娩が難しいと判断できる場合、予定帝王切開となることがあります。また、経膣分娩がスムーズに進行せず、母体や胎児に影響がおよぶ可能性がある場合には、緊急帝王切開に移行することもあります。
 帝王切開は、経膣分娩が不可能な時に、母体の腹部と子宮を切開して、胎児を取り出す手術です。手術の対象は多岐にわたりますが、主に胎児機能不全、児頭高位の分娩停止、骨盤位(逆子)、子宮内感染、帝王切開の既往歴がある場合などです。
 帝王切開には、深部帝王切開と古典的帝王切開とがあります。現在、大半の症例に行われるのは深部帝王切開であり、子宮下部の下節部分に小切開を加えた後、その部位を拡大して胎児を取り出します。子宮下節は、妊娠していない時には子宮頸部の一部を形成し、子宮体部と違って筋線維が輪状に走っているため、ここを横に裂いても筋線維を傷付けないので出血は少なく、傷跡の回復も良好です。さらに、次回の妊娠時の分娩でも、子宮下節は収縮する部分ではないために力があまり加わらず、破裂が少ないという利点があります。
 これに対して、古典的帝王切開は子宮体部を縦に切開する方法です。子宮体部は筋線維が網目状に走っているため、鋭く切開する必要があります。出血は多くなり、また子宮下節に比べて組織が厚いので、縫合にもより注意が必要です。さらに、筋線維を切断するため傷跡がうまく治らないこともあります。次回の妊娠時の分娩では、収縮する部分であることも加わって、破裂が起こりやすいという欠点があります。
 古典的帝王切開は現在、胎児が横位であったり、子宮下節の前壁に大きな筋腫(きんしゅ)があったり、未熟児の帝王切開で子宮下節の形成が不十分であったりして、切開が不可能な場合などだけに行われます。
 頭位の分娩で、子宮口が全開し破水もしていて、胎児の頭が子宮口付近へと降りてきているものの、微弱陣痛などによって分娩が滞っている場合や、胎児機能不全に陥り生命が危うい場合、陣痛が十分に強いのに分娩が止まってしまった場合、心臓病などの合併症のため母体が意識的に腹圧をかけることができない場合などに、頭部に吸引カップを装着して出産を手助けする吸引分娩、あるいは鉗子と呼ばれる大きなスプーンのような医療器具で両側頬部(きょうぶ)を把持し胎児を娩出させる鉗子分娩が選択されることがあります。
 いずれも経験を積んだ医師が行わなければなりませんが、鉗子分娩は吸引分娩に比べ胎児に与える損傷は少なくなっています。ただし母体に対する損傷は鉗子分娩で多いことが、臨床試験で明らかになっています。
 吸引分娩を行う時には、母体の子宮底部を圧迫する胎児圧出法を併せて行うこともあります。
 分娩に時間がかかり、母体の疲労によって陣痛が弱くなっている場合などには、子宮収縮薬(陣痛促進剤)を点滴投与して、陣痛を強めることがあります。子宮収縮薬を使用する時には、子宮の収縮が強くなりすぎないよう少量の投与から始めます。また、点滴中は胎児が健康な状態を保っているかどうか、陣痛の間隔や強さは順調かどうか、常にモニタリングが行われます。

 このほか、異常分娩に伴う激しい痛みや苦痛を軽減するため、脊髄(せきずい)を覆っている硬膜という膜の外側に硬膜外麻酔を注射針で注入したり、鎮痛薬を点滴投与することもあります。

🟪インフルエンザの患者数が注意報の基準を超える 新型コロナと同時に流行ピークの恐れも

 インフルエンザの感染状況について、厚生労働省は20日、全国約5000の定点医療機関から9〜15日の1週間に報告された感染者数が1医療機関当たり19・06人だったと発表しました。前週(9・03人)と比べ2・11倍に急増し、「注意報」の基準の10人を超まし た。  都道府県別では...