胃炎には、急性胃炎と慢性胃炎とがあり、それぞれ原因や症状が異なります。
1. 急性胃炎
腹痛、胸焼け、吐き気などの症状が、突発的に起こります。症状が現れた時期や、原因がはっきりしているのが、急性胃炎の特徴です。具体的には、アルコール、消炎鎮痛剤、ストレスなどが、発症の原因になります。
一例を挙げれば、「酒を飲みすぎたために、胸焼けや吐き気がした」、「かぜ薬を飲んだら、胃が痛くなった」、「会社や学校などでストレスを受けると、胃が痛くなる」といったようなことが、典型的といえます。
また、消炎鎮痛剤では、内服薬だけでなく、坐薬なども急性胃炎の原因になります。これらは、薬が胃壁に直接触れることで胃炎が起こるのでなく、薬の成分自体に胃炎を起こす作用があるためです。
2. 慢性胃炎
日本人に見られる胃炎のほとんどは、この慢性胃炎です。症状がはっきりせず、胃のもたれ、不快感、食欲不振などが何となく起こるといった不定愁訴が、特徴的に認められます。それらの症状のほとんどは、いつから始まったのか、はっきりしません。また、全く症状がないこともあります。
日本人の慢性胃炎のほとんどがピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の感染が原因であることが、1980年代の初めから解明されています。ピロリ菌に感染し、その後、長い年月をかけて胃炎が進行して、慢性胃炎となるのです。
胃炎の検査には、次のようなものがあります。
1. 急性胃炎
急性胃炎では、症状がはっきりと現れるため、多くの場合、検査をしなくても、症状によって診断が下されます。ただし、胃潰瘍や胃癌ではないことを確認するために、内視鏡検査で胃の粘膜の様子を直接観察することもあります。
2. 慢性胃炎
慢性胃炎では、はっきりとした症状がないことが多いため、以下のような検査で胃に炎症が起きているかどうか調べます。
(1) 内視鏡検査:内視鏡で、胃の粘膜の様子を直接観察します。進行した慢性胃炎である萎縮性胃炎では、粘膜が萎縮して、薄くなり、血管が透けて見えたり、白っぽく見えます。
(2)組織診:内視鏡の中に器具を通し、胃の粘膜から組織の一部を採取してきて、顕微鏡で炎症があるかどうか調べます。また、慢性胃炎のほとんどの人はピロリ菌に感染していることがわかっていますから、慢性胃炎であるかどうかをより確実に知るためには、ピロリ菌に感染しているかどうかを調べることが必要になります。
ピロリ菌は、胃の粘膜に生息している細菌。1980年代の初めに発見され、慢性胃炎や胃潰瘍の発生に関係していることがわかっています。
通常、胃の中は、胃酸が分泌され、強い酸性に保たれているため、細菌が生息することはできません。しかし、ピロリ菌は、胃の粘膜が胃酸から胃壁を守るために分泌している、中性の粘液の中に生息し、直接胃酸に触れないように身を守っているのです。
ピロリ菌はウレアーゼという尿素分解酵素を分泌して、胃の中に入ってくる食べ物に含まれる尿素を分解し、アンモニアを作り出します。このアンモニアも胃の粘膜に影響を及ぼし、慢性胃炎の原因の一つになるのだと考えられています。
しかし、ピロリ菌に感染している人すべてに、症状が現れるわけではありません。感染しても、自覚症状がない場合、そのまま普通の生活を送ることができます。
ピロリ菌に感染している人の割合は、年を取るほど高くなる傾向があり、中高年の場合、70~80%にも上ります。このように、年齢によって感染率に違いがあるのは、育った時代の衛生環境に関係しているだろうと見なされています。
ピロリ菌に感染しているかどうか調べる検査には、次のような方法があります。
内視鏡を使う方法
内視鏡によって胃の粘膜の組織を採取し、そこにピロリ菌がいるかどうかを調べる検査です。次の三つの方法があります。
1.ウレアーゼ試験:採取した組織を、尿素とpH指示液(酸性度、アルカリ制度を調べる)の入ったテスト溶液の中に入れて、色の変化を見ます。もし、ピロリ菌がいれば、ピロリ菌の出すウレアーゼによって、アンモニアが発生し、テスト溶液がアルカリ性になり、その結果、色が変わります。
2.組織診:採取した胃の粘膜の組織を顕微鏡で観察し、ピロリ菌の有無を調べます。
3.培養検査:採取した組織をピロリ菌が繁殖しやすい環境で培養し、その後、顕微鏡でピロリ菌の有無を調べます。
内視鏡を使わない方法
内視鏡で組織を採る方法に比べて、患者さんの肉体的負担が軽い検査です。次の三つの方法があります。
1.血液検査:ピロリ菌に感染すると、それに対する抗体ができます。血液中にこの抗体があるかどうか調べる検査です。
2 .尿検査:血液検査と同様に、尿中にピロリ菌の抗体があるかどうかを調べます。
3.尿素呼気テスト:ピロリ菌のウレアーゼを分泌し、それによって、尿素をアンモニアと炭酸ガスに分解します。この炭酸ガスは、呼気にも出てきます。そこで、特殊な炭素を含んだ尿素(標識尿素)を飲み、15~20分後に呼気を採って、その成分を調べます。ピロリ菌に感染している場合、標識された炭素を含む炭酸ガスが呼気の中に出てきます。急性胃炎と慢性胃炎に対しては、それぞれ次のような治療が行われます。
1. 急性胃炎:原因がはっきりしているので、まず原因を取り除くことが大切です。薬が原因なら医師に相談して薬の使用を中止したり、ストレスが原因ならストレスの解消に務めるなどします。
しかし、それでも症状がある場合は、次のような薬剤による対症療法が行われます。
(1)胃酸分泌抑制薬:胃酸の分泌を抑える薬を服用します。これが対症療法の中心になります。
(2)胃粘膜保護薬:胃の粘膜を保護する薬で、補助的に用いられます。
(3)運動機能改善薬:胃の運動を活発にする薬で、胃のもたれが見られる場合に用いられます。
2. 慢性胃炎:従来は対症療法だけが行われてきましたが、ピロリ菌が原因となることがわかってからは、抗生物質による根本治療も行われるようになっています。
(1)対症療法:急性胃炎と同様に、胃酸分泌抑制薬、胃粘膜保護薬、運動機能改善薬を服用します。
(2)根本治療:2~3種類の抗生物質を、同時に1~2週間服用し続けることで、胃の中に生息しているピロリ菌を除菌します。2~3種類の抗生物質を用いるのは、1種類だけよりも効果が高いのと、その抗生物質に対する耐性菌(抗生物質が効かない菌)ができてしまうのを防ぐためです。
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