ラベル 病気(は) の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 病気(は) の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2022/08/30

🇷🇴鼻詰まり

■慢性的な鼻詰まりの原因は?

●空気の通る道が狭くなる状態

 私たち人間の鼻の中は、鼻腔(びくう)と呼ばれる空洞が広がり、鼻腔の表面はひだ状の粘膜で覆われています。鼻には、この鼻腔上部の粘膜上皮に約五百万個ある嗅細胞でにおいを嗅ぐ嗅覚機能のほかにも、呼吸作用を効率よく行うための役割があります。

 まず、鼻から吸い込まれた冷たい空気がそのまま肺に送られとよくないので、鼻甲介の血管の収縮によって、空気を吸い込んだ瞬間に三十度くらいまでに温度を上げる暖房の機能、加温機能があります。

 その次は加湿機能で、鼻の中の粘膜は水分が九十五パーセント前後あり、入ってきた乾燥した空気に湿り気を与え、喉などの粘膜を保護するわけです。

また、鼻腔内の数百万本も生えている繊毛によって、外から侵入するホコリなどを体外へ排出する浄化機能という役目も、鼻は果たしています。

 しかしながら、風邪のウイルスや異物などが鼻粘膜の内部にまで入り込み、さらに細菌感染も加わって炎症を起こすと、粘膜が腫れるために過剰な粘液が分泌されて、空気の通る道が狭くなります。この状態が、鼻詰まりなのです。

 長く続く鼻詰まりで圧倒的に多いのはアレルギー性鼻炎で、それに続くのが慢性副鼻腔炎、鼻中隔わん曲症。それらが重なっているケースも、多く見られます。

 鼻詰まりの症状がひどいと、日常生活にも支障が出るので、適切な対処をする必要があります。注意したいのは、嗅覚障害や頭痛、睡眠不足などを招いたり、乾燥した空気を吸うために呼吸器系に悪影響を与えたりすることです。集中力が欠ける原因や、口臭の原因にもなります。 

●多くみられる鼻詰まりの原因

 それぞれの病気や症状により、薬物療法や手術などが医師によって行われます。

アレルギー性鼻炎

 鼻から吸い込んだ異物に対して免疫システムが過剰に反応するため、すなわちアレルギー反応を起こすために、鼻腔の粘膜が腫れて、くしゃみ、鼻水、鼻詰まりを招きます。透明で水のような鼻水が出るのが特徴ですが、少し黄色い場合も。

 代表的なのは、スギ、ヒノキなどの花粉によって起こる花粉症。そのほかにハウスダスト、ダニ、カビなどが原因となりますので、原因物質を避けることが大切です。 

慢性副鼻腔炎(蓄膿症)

 副鼻腔とは、鼻腔に続いて周囲の骨内に陥入している四対の小さい空洞です。鼻詰まりが長引くと、副鼻腔の中でも炎症が起こり、うみがたまります。この状態が3カ月以上続くのが慢性副鼻腔炎で、急性副鼻腔炎と違って治りにくいとされています。黄色く粘り気のある鼻汁が特徴で、うみが口臭を引き起こすこともあります。

 耳鼻咽喉科では、定期的に鼻腔や副鼻腔内を洗浄し、噴霧薬や内服薬などによる治療が行われます。内服薬では、粘膜によい影響があるとされるマクロライド系の抗生物質が最近、一般的に使われ、少量ずつ、効果を確かめながら2、3カ月服用します。ひどい症状のケースでは、手術も。 

鼻中隔わん曲症

 鼻中隔とは、鼻腔を左右に分ける隔壁であり、板状の薄い骨からなっています。前方は軟骨で、周囲は三つの骨で構成されていますが、それぞれの骨の成長速度の違いから、隔壁がわん曲します。日本人の約85パーセントは、左か右、どちらかに曲がっているとされています。

 その曲がり方がはなはだしい場合は、鼻詰まりの原因となります。鼻中隔わん曲症は、10歳から15歳の成長段階に発症する鼻の構造異常。鼻中隔が飛び出ている側だけでなく、反対側も粘膜が厚くなって、左右とも鼻詰まりになりますが、比較的安全な手術で治ります。 

●その他の鼻詰まりの原因

鼻たけ

 鼻たけとは、鼻の粘膜にできる寒天状のポリーフ。慢性副鼻腔炎が進行してできるケースが多く、空気の通り道が狭くなるために、鼻詰まりを招きます。軽い副鼻腔炎で、大きな鼻たけができるケースもあります。

 長い期間をかけて作られるので、口呼吸が習慣化している人では、鼻詰まりの自覚症状がない場合もあります。 

アデノイド肥大

 アデノイドとは、鼻の奥にある扁桃(へんとう)組織です。幼児期に大きくなり、10代以降は自然に小さくなります。

 そのため、小学生までの子供にはアデノイド肥大は珍しくなく、鼻詰まりがはなはだしかったり、炎症を起こしたりしなければ問題はありませんが、大きいケースは手術も行われます。 

腫瘍

 鼻の中に、鼻たけに似たブヨブヨした腫瘍がいくつもできると、鼻詰まりの原因になります。腫瘍はほとんどが良性ですが、まれには鼻腔がん、副鼻腔がんなどの悪性の腫瘍もあります。

 片側の鼻が常に詰まっていたり、少量の鼻血が度々、出たりするケースでは、耳鼻咽喉科の診察を受けましょう。 

■心掛けたい「鼻詰まり」対策

●鼻うがいの実行を

 鼻の炎症を抑えるには、鼻うがいも効果的です。蒸留水か生理食塩水で鼻の中を洗い流す際には、市販されている鼻うがい専用の器具を使うのがよいでしょう。

 なお、蒸留水は薬局で購入できますが、生理食塩水は医師の処方箋が必要となります。 

●鼻は強くかまない

 鼻は優しくかみましょう。鼻の奥には耳に通じる穴があり、強く鼻をかむと、その圧力で鼻にたまったうみが耳へと流れ、中耳炎を起こす病原菌となってしまう可能性があるからです。 

●点鼻薬は一日一回まで

 血管収縮性(粘膜収縮性)の点鼻薬は粘膜を縮ませますので、すぐに鼻詰まりに効きます。しかし、効果は一時的で依存性もあるものなので、使用は鼻詰まりで眠れない時などに限って、一日一回までに。

 長期にわたって乱用すると、作用しにくくなったり、かえって使用前よりも粘膜が腫れる点鼻薬性の鼻炎を起こすので、注意が必要です。 

●風邪をひかない 

 風邪をひかない、ひいたらこじらせない。二点が、鼻詰まりへの最も有効な対策です。鼻への刺激を減らすには、マスクが有効。空気が乾燥すると、鼻の粘膜は炎症を起こしやすいため、特に冬期には有効です。

 また、花粉症の人も早めにマスクの利用を。スギ花粉の平均的な飛散開始時期は、九州や四国の南部が2月上旬、関東南部が2月中旬、関東北部が2月下旬、東北地方は3月で、気温の上昇に伴って増加します。

●食材で風邪を予防する

 風邪のウイルスに打ち勝つためには、ビタミンA(お勧め食材は春菊、ホウレンソウ、ニラなどの青菜類)、ビタミンC(お勧め食材はジャガイモ、サツマイモ、カボス、スダチ、ユズ)、ビタミンE(お勧め食材はゴマ、豆乳、カボチャ)と良質なたんぱく質が必要です。

ビタミンAは、鼻やのどの粘膜を強化します。ビタミンCは、体内の抗酸化力を高めます。ビタミンA、Cの働きを助けるのが、ビタミンEです。

体を温めることも大切で、鍋料理がお勧め。体を温める効果があるショウガ、ネギ、ニンニク、唐辛子などの香辛野菜を、料理に添えることも忘れずに。

2022/08/18

🇦🇿パーキンソン病

■手足や体の震えと硬直■

パーキンソン病の主な症状は、両手足の震えと筋肉の硬直です。1817年、イギリスの病理学者であるジェームス・パーキンソンによって見いだされた進行性の病気で、以前は「振戦(しんせん)まひ」と呼ばれていました。

神経系統のうち、筋肉の運動や緊張を調整している錐体(すいたい)外路系が侵されるために、運動調節機能が障害され、日常の行動や動作に変調を来します。近年の研究によれば、この錐体外路系の大脳基底核にある黒質(こくしつ)と線条体における「ドーパミン神経」の変性と脱落によって起こる、と明らかにされました。パーキンソン病の罹患者の脳中では、黒質で作られる「ドーパミン」という物質が減少しているのです。

日本における有病率は人口10万人当たり50~100人で、65歳以上では500人に1人の割合で出現すると見なされています。

また、この病気とよく類似した症状を現すものに、脳炎、脳動脈硬化症、一酸化炭素中毒・ガス中毒後遺症、梅毒、脳腫瘍(しゅよう)などが原因となって起こるものもあります。脳炎などの二次的なものも含めて呼ぶ際は、パーキンソン症候群と呼ばれます。

■症状をチェック■

40~50歳ごろから、徐々に発病します。最も特徴的な症状は、手足や顔の筋肉が突っ張り、硬くなることと、手足が震え、動作が緩慢になることです。

まばたきが少なく、無表情となり、手足が硬くなる影響で、首を少し下げ、膝(ひざ)と肘(ひじ)を軽く曲げた特有の姿勢となってきます。手の震えは、親指と人差し指、およびほかの指を少し曲げたまま、丸薬を丸めるようにリズミカルに横ゆれするのが特徴。

運動をすると、筋肉が硬くなって関節が動きにくくなる影響で、立ち上げるなどの動作がとてもゆっくりで、すくみ足による歩行障害も見られます。歩き始めようとしても第一歩がなかなか出ず、細かい足踏みをしてから初めて足を進めます。歩き方は、足を床にこすりつけるようにして狭い歩幅で歩く、小刻み歩行が普通。体が前かがみになり、バランスをとれずに、つんのめることもしばしばです。

■対策へのアドバイス■

●医療機関での治療と経過

パーキンソン病の薬物治療では、L-ドーパという有効な薬が見いだされ、そのほかブロモクリプチン、アマンタジンやアトロピン系の合剤が作られ、治療効果を上げています。ただし、筋肉の硬直、振戦、動作緩慢などは改善されますが、すくみ足はなかなかよくなりませんし、薬は病気を根本的に治すものではなく、症状を緩和させることを目的としています。

ドーパミンの薬剤で効果が期待できない場合に脳外科手術も検討されますが、高齢者やあまりに障害の程度が高い場合には、手術の効果は期待できません。

多くのケースでは、パーキンソン病は10年~10数年という長い経過をとり、末期には寝たきりとなって、老衰や肺炎などの合併症で亡くなります。

●家庭で根気よく療養に努める

軽度の方については、散歩や体操を一定時間に繰り返して、リハビリテーションを行ってください。慢性進行性で治ることはありませんが、寿命にはさして影響はないと考えても、よいのではないでしょうか。

罹患者は精神的に過敏、抑うつ、不安を持ちやすくなるので、周囲の温かい心配りが必要です。本人も家族も根気よく、家庭での療養に努めるようにしましょう。

🇦🇲バージャー病

手足の指の動脈が詰まって、指が腐ってくる疾患

バージャー病とは、手足の爪(つめ)の周りや指の間に、治りにくい傷ができて、ひどくなると足の指が腐ってくる疾患。1900年に最初に報告者したアメリカ人の名前からバージャー病と呼ばれていますが、特発性脱疽(だっそ)とも、閉塞(へいそく)性血栓血管炎とも呼ばれます。

脱疽または壊疽(えそ)とは体の組織の一部が生活力を失う状態のことで、このような病変が手足の指に起こるのは動脈が詰まるためです。特に膝(ひざ)から下の足と腕の動脈が、原因不明の炎症によって血管の壁が厚くなり、血流障害ができるために、そこで血液が固まり、詰まってきます。

原因は不明ですが、発症には喫煙が深く関係しており、たばこをやめると疾患が進行しない特徴があります。一説では、原因は口腔内の細菌、特に歯周病菌にあると指摘されています。発症者数は、日本国内で推定約1万人。男女比は10対1と男性が多く、20〜40歳代を中心に発症しています。

症状としては、膝の下の血管が詰まった場合、足先が腐ってきます。ほとんどの場合、両方の足先に病変が出現します。腕の動脈が詰まれば、手の指に壊疽が出現します。

壊疽は血管に閉塞性の病変が起きた後、数年間この閉塞に近い状態が続いた場合に起こるので、バージャー病の始まりの血管炎では、指先のしびれ感、冷感として自覚されます。進行すると、長い距離を歩くと痛みが起こるようになり、休息しながら歩くようになる間欠性跛行(はこう)を生じます。さらに進行すると、手足の静脈にも炎症を起こし、静脈に沿って赤く腫(は)れ、安静にしていても激しく痛み、壊疽の状態となります。

動脈硬化によって下肢の動脈が詰まる閉塞性動脈硬化症も、バージャー病と同じような症状を来しますが、閉塞性動脈硬化症は高齢者に多く、40歳以下の青年や壮年にはほとんど発症していません。

バージャー病の検査と診断と治療

検査をすると、血管が閉塞した部位より先の動脈は、拍動が触れなくなります。四肢の血圧から足関節/上腕血圧比を測ることにより、下肢虚血の重症度の判定に役立ちます。確定診断には、血管造影検査が必要になります。血液検査では、特徴的な所見はありません。

壊疽、脱疽というと、すぐに手足の切断を思い浮かべる人が多いようですが、傷が治りにくくても、疾患が指先などに限られている間は治療が可能です。

薬物療法としては、血液の循環を改善して血栓を予防するために、血管拡張薬や抗血小板薬が用いられます。重症例に対しては、多くの場合、詰まっている動脈を元通りに開通させることは不可能ですが、閉塞している部位の状態によって可能であれば、バイパス手術などの血行再建を行います。

バイパス手術が適さない場合は、交感神経を切除することによって、末梢(まっしょう)血管を拡張させ、血流をよくすることを目的に交感神経節ブロックが行われています。足の場合には腰の交感神経、手の場合には胸の交感神経を手術で切除します。壊疽が進行して各種の治療が無効な場合には、手足の切断が必要になります。

治療後の生活上の注意としては、手足の保温と清潔を心掛けます。傷を付けると、壊疽の再発の引き金となりますので、靴下を履く、靴擦れを起こさないように大きめの靴を履くなど、注意が必要です。散歩などの適度な運動は、お勧めです。また、このバージャー病はたばこを吸う人の発症率が高いので、禁煙を守ることも必要です。

発症した人のうち、多くは動脈の病巣は詰まったままの状態で、血行再建のバイパス手術などができるのはごく少数です。しかしながら、日ごろの注意をよく守れば、疾患の進行を食い止め、再発を減らすことができます。直接、生命に関係するような大切な臓器である心臓、脳、内臓などの動脈が侵されることはありません。予後も同年代の健常人と変わりありませんが、指の切断を必要とすることもあり、生活の質(QOL)が脅かされることは否めません。

🇦🇲パーソナリティー障害

人格の著しい偏りで社会生活に支障

パーソナリティー障害(人格障害)とは、精神医学の領域において、生来持っている人格傾向が思春期、青年期に顕著に出てきて、その人格の著しい偏りのために、社会生活を営むことに支障を伴う状態を指します。

物事の認識の仕方や行動が逸脱していて、対人関係の機能が障害され、自分自身や他人、または両方を苦める傾向が目立ちます。パーソナリティー障害は精神疾患の一つに含まれますが、その他の精神疾患と比べて慢性的であり、全体としての症状が長期に渡って変化しないことに特徴があります。

従来は人格異常、精神病質と呼ばれていた病気の概念で、新たに人格障害と一般的に呼ばれてきましたが、この人格障害は否定的なニュアンスが強いことから、近年はパーソナリティー障害と呼ばれることが多くなっています。日本精神神経学会では2008年5月に、人格障害をパーソナリティー障害に用語改定をすることを発表しました。性格障害と呼ばれることもあります。

パーソナリティー障害(人格障害)にはさまざまなパターンがあり、時代や国によって分類方法も変わってきます。現在、アメリカの精神医学会によって作られた診断基準では、パーソナリティー障害は3つのグループに分けられています。

A群は、妄想性パーソナリティー障害、統合失調症質パーソナリティー障害、統合失調症型パーソナリティー障害。統合失調症(精神分裂病)に近いパーソナリティー障害です。

これらのパーソナリティー障害の特徴は、思考、感情、行動などの統一性を失う統合失調症のようなはっきりとした精神症状はありませんが、それとよく似た傾向を持っています。自閉的で、しばしば妄想を持ちやすく、奇妙で風変わりな傾向を示します。

B群は、反社会性パーソナリティー障害、境界性パーソナリティー障害、演技性(ヒステリー性)パーソナリティー障害、自己愛性パーソナリティー障害。感情が不安定、かつ激しいのが特徴的なパーソナリティー障害です。ストレスに対して弱く、他人を巻き込むことが多い傾向を示します。

C群は、回避性(不安性)パーソナリティー障害、依存性パーソナリティー障害、強迫性パーソナリティー障害。不安やおびえ、引きこもりなどを特徴とするパーソナリティー障害です。周りの評価が気になり、それがストレスとなる傾向を示します。

その他、 抑うつ性パーソナリティー障害 、受動攻撃性パーソナリティー障害も、診断基準の付録に挙げられています。

これらパーソナリティー障害の人には、融通が利かず、問題に対して適切に対処できない傾向があるため、しばしば家族、友人、職場の同僚との関係の悪化を招きます。問題への不適応や、物事の認識の仕方や行動の逸脱は多くの場合、思春期、青年期から成人期初期にかけて始まり、時を経ても変わることはありません。

ただし、一部のパーソナリティー障害の人では、30~40歳代までに状態が改善していく傾向があるとされ、晩熟現象と呼ばれています。加齢による生理的なものの影響だけではなく、仕事等の社会生活を通じて多くの人々に触れ、世の中には多様な生き方、考え方があるということを知り、それを受容することに基づく現象と考えられています。

パーソナリティー障害者の診断と治療

パーソナリティー障害(人格障害)の人は、自らの思考や行動のパターンに問題があることに気付いていません。このため、自分から医師に治療や助力を求めることは、あまりありません。当人の行動がほかの人に迷惑をかけているなどの理由で、友人や家族、社会的機関によって、医療機関に連れてこられることは、より多くあります。自主的に受診するのは、不安、抑うつ、薬物乱用など、つらい症状がある場合が主です。

医師の側では、既往歴、特に繰り返し現れる不適応的な思考や行動のパターンに基づいて、パーソナリティー障害を診断します。統合失調症や気分障害など他の精神疾患でも、パーソナリティー障害の症状を示すことがあるため、区別に注意しなくてはなりません。また、受診者の年齢が幼いほど、パーソナリティー障害の診断に慎重になる必要があります。人格発達が不完全な未成年者では、いずれかのパーソナリティー障害の傾向を示すことが珍しくないためです。

パーソナリティー障害がある人では、行動の結果が思わしくない場合にもそのパターンを頑固に変えようとしないため、他人の目にも明らかになりがちです。問題への心理的な対処のメカニズムの不適切も、よく目に付きます。この対処メカニズムは誰(だれ)もが無意識に用いるものですが、パーソナリティー障害がある人の場合はその使い方が未熟で不適応的であるために、日常生活にまで支障を来します。

パーソナリティー障害の治療には、長い時間がかかります。パーソナリティー障害は一時的な心の病ではなく、問題が人格といえるほどに当人の心の奥底まで浸透し、長期に渡って変化せずに安定していますので、社会適応の妨げとなる特性が短期間で改善されることはあまり望めません。

パーソナリティー障害の人は何よりも他人を信頼しないので、医師との治療関係に持っていくまでが大変ですし、治療関係自体を良好なまま維持していくのにも工夫が必要とされます。

何らかの精神症状が出ている場合、妄想などの内容が過激で生活にかなりの支障が出ている場合には、薬物を投与しながら治療していくほうが好ましいとされます。薬物療法や環境ストレスの低減により、不安や抑うつなどの症状はすぐに軽快します。ただし、薬には症状を緩和させるだけの限られた効果しかなく、パーソナリティー障害から起こる不安や悲しみなどの感情は、薬で十分に軽減されることはまずありません。

薬物療法や環境ストレスの低減により、不安や抑うつなどの症状を軽減した後、心理・対話療法が行われ、その人独自の思い込みを少しずつ解いていくことが試みられます。

パーソナリティー障害のタイプにより治療法は異なりますが、思い込みを解くことはすべての治療法に共通する原則の1つ。当人は自らの行動に問題があるとは思っていないため、状況に適応していない思考や行動が引き起こす有害な結果に、直面させる必要があります。それにはまず、当人の思考や行動パターンから生じる望ましくない結果を、心理療法士が繰り返し指摘する必要があります。時には、怒って声を張り上げるのを禁じて、普通の声で話させるなど、行動に制限を加えることも必要とされます。

家族の行動は、本人の問題行動や思考に良くも悪くも影響するため、家族の関与は治療に役立ち、多くの場合不可欠でもあります。グループ療法や家族療法、専用施設での共同生活、治療を兼ねた社交サークルや自助グループなどが、社会的に望ましくない行動を変えていく上で役立ちます。

心理・対話療法は通常、不適応行動や対人関係のパターンに何らかの変化がみられるまで、1年以上は続けなければなりません。医師とパーソナリティー障害の人との間に、親密で協力的な信頼関係ができると、当人はそこから自らの悩みの根源を理解し、不信、ごう慢、人に付け込むといった対人問題の原因となる態度や行動を、より明確に認識するのに役立ちます。一般的に、不適応行動の変化は1年以内に生じますが、対人関係の変化にはなお時間がかかります。

パーソナリティー障害の中でも、特に適応の妨げとなる態度や期待、信念などがある自己愛性パーソナリティー障害、強迫性パーソナリティー障害などの場合には、精神分析的精神療法を受けることが勧められ、通常は少なくとも3年間続けられます。

境界性パーソナリティー障害、反社会性パーソナリティー障害、回避性パーソナリティー障害の場合には、当人の行動の変化が最も重要と見なされ、落ち着きがない、社会的に孤立している、自己主張が欠如している、怒りやすいなどの行動を変えるのに、認知行動療法が役立ちます。ただし、反社会性パーソナリティー障害または妄想性パーソナリティー障害の場合は、どの治療法でも成功することはまれです。

🇦🇲ハートナップ病

発疹、発作に加え、脳の異常を引き起こす遺伝性の疾患

ハートナップ病とは、トリプトファンなど特定のアミノ酸が腸から十分に吸収されず、さらに腎臓がうまく再吸収できないことが原因で、皮膚の発疹(はっしん)や発作、脳の異常を引き起こす疾患。

まれな遺伝性の疾患で、発症する人は両親からそれぞれ1つずつ、異常を引き起こす原因となる遺伝子を受け継いでいます。

腸からのアミノ酸の吸収機能や、腎臓にある尿細管からの再吸収機能に問題が生じると、トリプトファン、メチオニン、ヒスチジンなどのアミノ酸が過剰に尿に排出されてしまうため、体内では蛋白(たんぱく)質の構成成分であるアミノ酸が不足します。血液中のトリプトファンが少なくなりすぎると、体はビタミンB群のナイアシンアミド(ニコチン酸アミド)を十分に生産できず、特に多くのビタミンが必要となるストレスを受けた時に顕著になります。

皮膚の発疹や発作などの症状は、乳児期から小児期の早期にかけて始まります。遅いと、青年期になってから起こることもあります。症状は散発的で、ナイアシンアミドの欠乏によって引き起こされ、日光や発熱、薬物、心身のストレスなどが誘因となります。 皮膚の発疹は、日光が当たった肌に現れます。発作は栄養が足りない状態が続くと起こり、けいれん、虚脱状態、失神がみられますが、年を重ねるにつれて発作の回数は少なくなっていきます。

また、精神発達の遅れ、低身長、頭痛、小脳失調による不安定な歩行がよくみられ、不安、急な気分の変化、幻覚や妄想といった一時的な精神失調の症状を示すこともあります。

ハートナップ病の検査と診断と治療

小児科の医師は尿検査を行って、トリプトファン、メチオニン、ヒスチジンなどのアミノ酸とその分解産物が異常な量の多さで排出されていることなどで、ハートナップ病と診断します。

医師による治療は、発作を予防することを主とします。発作予防には、蛋白質を十分に含む食事で良好な栄養状態を維持し、食事とは別にナイアシンアミドや、よく似たビタミンB群のナイアシンを経口で補給することが有効です。

疾患の予後は良好で、加齢に伴って症状も緩和方向に向かいます。

🇬🇪ハイアーチ

足の甲が極端に高く、起立時や歩行時に土踏まずの部分が地面に接しない状態の足

ハイアーチとは、足の甲が極端に高く、起立時や歩行時に土踏まずの部分が地面に接しない状態の足。凹足と呼ばれたり、足の甲が高く盛り上がっていることから甲高と呼ばれることもあります。

足の裏にはアーチと呼ばれる緩やかな盛り上りがあり、踵(かかと)から親指の付け根を通る土踏まず、すなわち内側の縦アーチ(内側縦足弓)、踵から小指の付け根を通る外側の縦アーチ(外側縦足弓)、親指の付け根から小指の付け根を通る横アーチ(横足弓、メタタザールアーチ)の3つから構成されています。3つのアーチは、足が地面に着地する際にスプリングの役目を果たし、体に加わる衝撃を和らげる働きをしています。

ハイアーチでは、アーチの湾曲が強く、しなやかさに欠けるために、スプリング機能の働きが悪く、足の裏が本来持つ能力である衝撃吸収や、力の分散がうまく発揮できず、さまざまな症状が現れます。

まず、体の重みを踵や親指と小指の付け根の点で支えることになるため、足の指の付け根や踵に、皮膚表面の角質層が部分的に厚くなるたこや、魚の目ができます。

足の甲の部分に5本存在する中足骨(ちゅうそくこつ)の骨頭の太くなっている部分にかかる圧力が高くなるため、中足骨骨頭部痛を起こすこともあります。足の甲の部分にある第1中足骨の骨頭下部にある種子骨の周囲に炎症が起き、足の親指の裏側に痛みが生じることもあります。

親指が圧迫を受けて変形する外反母趾(がいはんぼし)と逆に、小指が圧迫を受けて変形する内反小趾(ないはんしょうし)を起こすこともあります。足の指、特に第2指と第3指が曲がってハンマートゥの状態になり、浮き指になる傾向もあります。

足の裏が本来持つ能力である衝撃吸収がうまく発揮できない場合は、足の裏のアーチを支えている足底筋膜に炎症が起こる足底筋膜炎や、脛(すね)に沿った筋肉に損傷が生じて痛むシンスプリント(脛骨〔けいこつ〕疲労性骨膜炎)を起こすこともあります。

さらに、足の裏の縦アーチが高いために、いつも足底筋が縮んだままで、足の裏全体で均一なバランスをとれないので、ふくらはぎや足の裏が極めて疲れやすく、たくさん歩いたり運動をすると、ふくらはぎや足の裏がつるような痛みを感じることもあります。そして、常にバランスをうまくとれない状態になることで、足裏だけではなく、膝(ひざ)や腰、背筋にも負担がかかり痛みが出てくることもあります。

ハイアーチの原因の多くは遺伝によるもので、筋力の不均等さが主に挙げられます。末梢(まっしょう)神経に原因があり、かつ遺伝性の疾患であるシャルコー・マリー・トゥース病では、特徴的な甲高の足がみられます。

後天的にハイアーチを発症するケースもあり、遺伝性で進行性に筋力が低下してくる筋ジフトロフィーや神経のまひなどが原因で発症するものと、ハイヒールなどの踵が高い靴を長期間にわたって履き続けることにより、筋肉のバランスが崩れるなどの習慣が原因で発症するものとがあります。

ハイヒールを履き続けてハイアーチを発症するケースでは、つま先立ちの状態が長期間にわたって続くために、脛前面の筋肉である前脛骨筋と足の裏の筋肉である足底筋群のバランスが崩れ、徐々に足のゆがみが起こり、ハイアーチへと進行していきます。

一度、ハイアーチになると、スニーカーなどの踵の低い靴よりも踵の高い靴を履いていたほうが楽なので、好んで踵の高い靴を履くようになります。こうなるとさらに足のゆがみが進行し、重度のハイアーチになることもあります。

ハイアーチの検査と診断と治療

整形外科、形成外科、ないし足の外科の医師による診断では、足の土踏まずが地面に付かずに不自然にアーチを描いている特徴的な骨の変形であるため、見た目ですぐに状態がわかります。

骨の変形の状態を詳しく知るために、X線(レントゲン)検査を行って足の状態を撮影し、骨の変形が影響している別の部分の状態も調べます。

整形外科、形成外科、ないし足の外科の医師による治療では、骨の変形の程度が軽い場合は、日常生活の中での心掛けや意識した足指の運動を行うことにより、症状の改善を図ります。

骨の変形の程度の重い場合は、足の裏のアーチを緩めるために足底筋膜や中足骨を切るといった手術を行うこともあります。

日常生活の中での心掛けには、必ずといっていいほどできているたこ、魚の目を取り除くことと、正しい歩き方をすることがあります。正しい歩き方は、踵が地面に接触したら足の裏全体をつけるような感じで体重移動させ、足の親指で地面をけるように意識するものです。

足指の運動には、弱くなった下腿(かたい)の腓骨(ひこつ)筋群を鍛え、緊張している足底筋群の緩和を目的として、両方の足のひらをバンドで巻き付け、つま先の開閉をゆっくり行うといった方法があります。また、つま先立ちを繰り返すなど、足の裏の縦アーチが伸びるようなストレッチ運動をするのも効果的です。

必要に応じ、靴での圧迫部分の保護と痛みの軽減を目的として、一人一人に合った足形を取り、中敷き(インソール)を作るのも効果的です。縦アーチを保護する大きめの中敷きで、足の指の付け根や踵だけに掛かる荷重を分散して、足底部でも受け止めるようにします。これで足底筋群への負担を少なくして、痛みや疲労感を軽減できますし、中敷きと組み合わせて、たこ、魚の目ができにくい足にすることもできます。

🇬🇪肺炎

肺炎の分類

肺炎とは、主に細菌やウイルスなどの病原体が肺に入り、酸素と炭酸ガスの交換を行う肺胞や肺間質など、肺の奥の領域に炎症が起きる疾患をいいます。

一口に肺炎といっても、そのタイプはさまざまです。罹患(りかん)場所によっては、ふだん健康な人がかかるものを市中肺炎、重症の病気で入院している人がかかるものを院内肺炎に分類します。炎症の範囲によっては、肺胞性肺炎、大葉性肺炎、気管支肺炎、 間質性肺炎に分類します。

呼吸の際に吸い込んだ感染源の種類によっては、細菌性肺炎、ウイルス性肺炎、心筋性肺炎などの感染性の肺炎と、薬剤性肺炎、アレルギー性肺炎などの非感染性の肺炎に分類します。

感染性の肺炎の場合、たとえば風邪やインフルエンザにかかって気管支の粘膜に炎症が起きたため、ふだんなら痰(たん)と共に出ていくような菌が残り、この菌によって起こされた炎症が肺胞まで達すると、細菌性肺炎を起こします。

特に高齢者の場合には、免疫力が落ちているため、ちょっとした風邪から肺炎を起すことが少なくありません。また、糖尿病、心臓病、脳血管障害、腎臓(じんぞう)病、肝臓病などの慢性疾患のある人も、免疫力が低下しているため要注意です。

片や、非感染性の肺炎は、たとえばエアコンのカビや加湿器の水に繁殖した真菌など、アレルギーを起こす原因物質(アレルゲン)が肺胞に入って反応し、アレルギー性肺炎を起こします。

また、細菌性肺炎と非細菌性肺炎に分類します。 細菌性肺炎は一般細菌の感染によって起こる肺炎で、実に多種類の細菌が関与します。普通はまず、ウイルス感染が起きて、気道粘膜が障害を受けたのに乗じた形で、細菌による二次感染が起きるという過程をとります。

非細菌性肺炎はさらに、インフルエンザウイルスなどによるウイルス性肺炎、微生物によるマイコプラズマ肺炎、同じく微生物によるクラミジア肺炎(オウム病)などに分類します。

肺炎の症状を細菌性肺炎を例にとって説明しますと、初めは喉(のど)の痛みや鼻水、鼻詰まり、咳(せき)、頭痛、悪寒といった風邪の症状から始まります。やがて高熱が続き、咳、痰、呼吸困難や胸の痛み、顔面紅潮、唇や爪(つめ)が青黒くなるチアノーゼなどの症状が現れます。

しかし、老人では重症の場合でも、あまり激しい症状が出ないことも少なくなく、気が付いた時にはかなり悪化していることもあります。

細菌性肺炎

細菌性肺炎の代表的なもので、市中肺炎を引き起こす主な原因となるのは、肺炎球菌によるものです。人間の右肺は上中下3つ、左肺は上下2つの大きな袋である肺葉に分かれていますが、この肺葉全体を侵す大葉性肺炎を起こすことで、肺炎球菌はかつては有名でした。抗生物質の発達した現在では、大葉性肺炎は珍しくなり、気管支肺炎にとどまるもののほうが多くなりました。

黄色ブドウ球菌も、肺炎を起こします。この菌のうち、ほとんどすべての抗生物質に耐性を示す耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が近年、院内肺炎の原因となり、大きな問題となっています。

インフルエンザ杆菌(かんきん)も、肺炎を起こします。この菌の場合には、慢性の呼吸器病を持っている人に、繰り返し急性の気道感染を起こすのが、問題となっています。

同じように、緑膿菌(りょくのうきん)という厄介で、院内肺炎の原因となる菌があり、気管支拡張症、びまん性汎細(はんさい)気管支炎などの病気を持つ人の気道に住み付いて、治療をしてもなかなか取り除くことができません。

レジオネラ菌も、肺炎を起こします。1976年にアメリカで集団発生したことにより発見された菌で、建物の屋上などに設置されている冷却塔であるクーリングタワー、エアコンディショナーなど、空調設備や給湯系を介した感染や、土壌、河川などの自然環境からの感染が知られるところ。日本での特徴としては、温泉、特に消毒が不十分な沸かし湯を用いた風呂(ふろ)での感染が多いことです。

非細菌性肺炎

ウイルス性肺炎の中では、インフルエンザウイルスによる肺炎が最も重要です。高齢者や慢性の呼吸器病を抱える人では重症化しやすく、また細菌感染によって細菌性肺炎に移行しやすいためです。

風邪を起こすRSウイルス、はしかを起こす麻疹(ましん)ウイルスなども、肺炎を起こすことがあります。インフルエンザウイルス以外に、これらのウイルスに直接効く抗ウイルス薬は現在のところありませんので、細菌の二次感染に注意しつつ、対症療法が行われます。

ウイルスと細菌の中間のような微生物であるマイコプラズマも、頑固な咳を特徴とする肺炎を起こします。学童期や若年の成人に多く、乳幼児や高齢者に少ないというのも、マイコプラズマ肺炎の特徴の一つです。このマイコプラズマには、普通の細菌に有効なペニシリン系、セフェム系の呼吸器感染症で最も頻繁に使われている抗生物質が効きません。代わりに、テトラサイクリン系、マクロライド系、ケトライド系と呼ばれ抗生物質が、第一選択薬とされます。

ウイルスに近い微生物であるクラミジアも、クラミジア肺炎(オウム病)を起こします。病原体のクラミジアは、オウム、セキセイインコ、ハトなどに寄生して分裂、増殖します。感染、発病した鳥の排泄(はいせつ)物などから、空気中に飛散した病原体を吸入することによって、人間は発症します。病鳥に接してから1~2週間後に、風邪と同じ症状と共に激しい咳が出ます。重症の場合には、呼吸困難、意識障害も出現します。治療には、テトラサイクリン系、マクロライド系の抗生物質が用いられます。

以上、いろいろのタイプを紹介してきた肺炎は、かつては非常に怖い病気の一つでしたが、現在は胸部X線検査の進歩で早期に診断できるようになり、ペニシリン系、セフェム系などの抗生物質の開発で、完治しやすくなりました。

しかしながら、抵抗力の弱い乳幼児や高齢者、体の衰弱した病気の人などの肺炎による死亡率は依然として高く、油断できない病気だといえます。

日常生活においては、風邪を引かないように注意する、 うがいや歯磨きでいつも口の中を清潔にする、 自分のアレルゲンを知り予防対策をとる、室内の換気をよくし空気を清潔に保つ、禁煙するなどの予防対策を施したいものです。

🇬🇪肺過誤腫

肺にできる良性腫瘍の一つ

肺過誤腫(はいかごしゅ)とは、肺にできる良性腫瘍(しゅよう)の一つ。

肺にできる良性腫瘍にはさまざまな種類がありますが、過誤腫は最も頻度が高く、約半数を占めます。そのほかの良性腫瘍には、硬化性血管腫、軟骨腫、脂肪腫、平滑筋腫などがあります。

肺過誤腫は、肺の末梢(まっしょう)部、胸膜直下にできることが多く、円形、ないし類円形で、境界鮮明の孤発性の結節を形成します。正常時から存在する軟骨組織、気道上皮、気管支腺(せん)、線維組織、脂肪組織が腫瘍様に過剰に発育または過剰に増殖したもので、その発育は限局性で良性です。ただし、構造的には組織奇形と形容できます。腫瘍の内部は不均等なことが多く、石灰沈着がみられることがあります。

肺過誤腫は急速に広がることが少ないため、一般的に無症状で、大きくなる速度も遅く、悪性化することはほとんどなく、ほかの臓器に転移することはありません。

しかし、ゆっくりではあっても発生部位で次第に大きくなることがあります。肺過誤腫ができた部位によっては、せき、たんの原因になったり、空気の通る道である気管支を圧迫して、肺炎などを起こすことがあります。

症状が出現することはまれなため、多くの場合、住民検診や職場検診、ほかの疾患の検査中に胸部X線(レントゲン)検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査で偶然発見されています。

肺過誤腫の検査と診断と治療

呼吸器科、呼吸器外科の医師による診断では、胸部X線(レントゲン)検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査で認められ、末梢部に発生した腫瘍は境界明瞭な円形、ないし類円形の陰影を示します。

その検査画像上の特徴だけでは、肺がん、結核腫などの重大な疾患と見分けがつかない場合もよくあります。気管支にできた腫瘍は、気管支鏡と呼ばれる内視鏡で腫瘍細胞の一部を採取して、顕微鏡で調べる生検を行い、悪性か良性かを判断します。

肺の奥のほうにできた腫瘍は、気管支鏡検査のほかに、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査なども行って、腫瘍の形や中身を評価します。近年、PET(陽電子放射断層撮影)検査が普及し、1センチ以上の大きさの腫瘍であれば、ある程度、悪性と良性の見分けが可能になってきています。

しかし、生検などによる診断は困難なことも多く、手術による腫瘍の摘出によって診断と治療jを同時に行い、確定診断は手術後に判明することも珍しくありません。

呼吸器科、呼吸器外科の医師による治療では、放射線治療や薬物療法は効果がないとされているため、原則的に手術を行います。

ただし、手術をするのは、増大したり、周囲を圧迫するために呼吸機能が低下したり、特定の部位に肺炎が繰り返し生じる場合などです。また、悪性腫瘍(がん)と区別できない場合には、手術により診断と治療を同時に行うことがあります。

手術後は、手術時の傷が神経を刺激して胸痛が続くことがありますが、再発することはほとんどありません。

明らかに良性腫瘍であるとわかっている場合で、合併症や高齢などの理由で手術ができない場合には、内視鏡の届く部位にできた気管支の腫瘍を内視鏡で取り除くこともあります。

良性腫瘍であることが明白で、増大傾向がなく、しかも無症状の場合には、経過を観察し、定期的に検査をするだけで十分です。

🇸🇰肺カルチノイド

カルチノイドという、がんに似た性質を持つ悪性腫瘍が肺に発生した疾患

肺カルチノイドとは、カルチノイドという、がんに似た性質を持つ悪性腫瘍(しゅよう)が肺に発生した疾患。

カルチノイドは、がんの意味であるカルチと、類を意味するノイドが組み合わさった英語で、日本語で「がんもどき」とも呼ばれます。

がんと同様、カルチノイドはいろいろな臓器に発生します。小腸、直腸、虫垂、十二指腸、胃などの消化管のホルモン産生細胞に発生し、膵臓(すいぞう)、精巣、卵巣、肺、気管支、胸腺(きょうせん)のホルモン産生細胞でも発生します。

このカルチノイドは、一般的には悪性度が低いと考えられています。実際、症状の進行もゆっくりで長期生存が期待できるものも多く、これらは定型カルチノイドと呼ばれています。一方、比較的早く症状が進行し治療が困難なものがあり、これらは非定型カルチノイドと呼ばれています。定型カルチノイドは非がん性、非定型カルチノイドはがん性と見なされます。頻度的には、定型カルチノイドのほうが多くみられます。

肺カルチノイドの場合は、肺の中枢の主気管支に発生するものと、末梢(まっしょう)の肺に発生するものがあります。その頻度は、6割は主気管支に発生し、4割弱は末梢に発生します。しかし、肺カルチノイドは比較的まれな疾患で、肺の悪性腫瘍の約1パーセントを占めるにすぎません。

肺カルチノイドの発症年齢は、40歳代から60歳代とされています。

主気管支に発生した肺カルチノイドの初期症状は、肺がんと同様です。咳(せき)や血痰(けったん)などが見られますし、カルチノイドの増大に伴い、気道の狭窄(きょうさく)によるヒューヒュー、ゼーゼーという喘鳴(ぜんめい)などが認められます。

一方、末梢の肺に発生した肺カルチノイドは、ほとんど症状が現れず、健康診断やほかの病気で撮影した胸部レントゲンやCT検査などで、偶然発見されるケースが多いのが現状です。

なお、肺カルチノイドは肺がんと比べて、転移が少ない腫瘍とされていますが、非定型のタイプはリンパ節、肝臓などに転移します。

咳や喘鳴はほかの呼吸器疾患でも見られるものですが、血痰は腫瘍からの出血に伴う比較的特異的なものです。もし、血痰が見られる場合には、ほかの疾患の可能性もありますので一度、呼吸器科や内科を受診されることが勧められます。

ただし、主気管支に発生した肺カルチノイドは喘鳴を起こすため、気管支喘息と間違う診断で治療が遅れてしまう可能性があるので注意が必要です。

肺カルチノイドの検査と診断と治療

呼吸器科、内科の医師による治療では、肺がんと同様、手術、化学療法、放射線治療、抗がん剤治療を組み合わせて行います。

悪性腫瘍ですので手術がメインとなるものの、低悪性度ということも考慮し、転移が見られない症例では、肺の一部を解剖学的領域単位で切除する区域切除など縮小手術が行われるようになってきています。

転移や浸潤が激しく手術が困難な場合には、化学療法や放射線療法がメインとなるものの、特に非定型カルチノイドについては、1年ほどの間に急速に症状が変化することもあり、治療の成績はまだまだ満足いくものではありません。肺カルチノイドの症例数が多くないこともあり、治療法にはさらなる研究の余地が残されている状態です。

🇸🇰肺がん

国内外で最も死亡者数が多い、がん

肺がんとは、肺の粘膜を覆っている上皮性組織から発生する悪性腫瘍(しゅよう)です。悪性腫瘍、つまりがんとは、無限に増殖、増大して体のあちこちに転移し、正常な細胞やその働きを破壊して、人間を死に至らしめる腫瘍のことです。

日本では、肺がんが年々増えています。死亡者数をみますと、1960年の5171人から1998年の50460人へと、約40年の間に10倍に増加し、男女合わせた死亡者数が胃がんを抜いて第1位となりました。男性では逆上る1993年に、胃がんを抜いて第1位となっています。

2005年の統計では、肺がんによる男女合わせた死亡者数は62063人で、全がん死の19パーセントを占めます。男性では全がん死の中で最も多い45189人、女性では大腸がん(結腸がん及び直腸がん)、胃がんに次いで3番目を占める16874人。

同じ2005年のWHO(世界保健機関)の試算によると、世界中では年間130万人ほどが肺がんで死亡し、全がん死の17パーセントを占めて最多。

肺がんの発生原因は不明ですが、近年の急激な増加の背景として考えられているのは、環境の汚染と喫煙です。大量喫煙者に肺がんが多いことは間違いのない事実で、間接的な喫煙も原因になるといわれています。

肺門がんと肺野がん

症状は発生部位により分けられる肺門(型)がんと、肺野(型)がんで異なりますが、主に咳(せき)、血痰(けったん)、胸痛などがみられます。

肺門がんは、肺の入り口付近の太い気管支にできたがんで、病理学的には扁平(へんぺい)上皮がんです。この場合、早期から頑固な咳が出るのが特徴で、痰を伴うこともあります。

咳止めで一時的に軽くなることはあっても、完全に止まることはなく、中止すると再びひどくなります。痰は粘液性か粘液膿(のう)性で粘りがあり、血液が混じったり、熱を伴う肺炎のような症状を示すこともあります。

肺野がんは、肺の末梢(まっしょう)の細い気管支に発生したがんで、病理学的には腺(せん)がんです。早期には全く症状のないことが多く、肺門リンパ節にがん細胞が転移してから、激しい咳や血痰が出るようになり、声がかすれることもあります。

発見が早ければ、手術で切除

医師による診断では、胸部X腺検査で肺がんと判断された場合、ファイバースコープによる気管支内視鏡検査と、痰の細胞診の二つによる確定診断が行われます。その後、肺がんの病巣の広がりを把握するために、CT検査、骨シンチグラフィ、超音波検査、血管造影、MRI検査などが行われます。

治療では、手術療法(肺切除療法)、放射線療法、化学療法、免疫療法の4つが行われます。第一選択は今でも手術療法で、がんの大きさ、リンパ節への転移の有無、隣接する臓器への浸潤の程度、その人の肺機能の程度によって、手術法が異なります。

最も一般的に行われるのは、肺葉切除。右肺には上葉、中葉、下葉の3葉、左肺には上葉、下葉の2葉ありますが、そのうちの病巣のある肺葉を1葉、ないし2葉切除します。がんが広範囲に渡っている時や、太い血管に浸潤がみられる時などに行われるのは、片側の肺葉をすべて摘出する肺全摘出術。この肺全摘出術は、肺機能が良好でないとできません。特殊な手術法として、がんの存在する気管支の一部を切除する方法もあり、肺機能が落ちている場合に行われます。

近年では、胸腔(きょうくう)鏡が開発され、体の負担、苦痛が軽い縮小手術を行う方向に進んでいます。従来のように大きく胸を切り開くのではなく、2~3センチくらいの穴を胸壁に2~3カ所開け、そこから器具を挿入して行う手術法で、全国的に行われています。

ほかにも、気管支鏡を使用して、二つのタイプのレーザー療法が行われています。一つは、太い気管支に発生したがんで気管支が詰まっているような場合に、レーザー照射で焼く方法。もう一つは、光線力学的治療(PDT)とも呼ばれて、レーザー照射による光化学反応によって、がん細胞を破壊する方法。早期の肺門がんでは、レーザーによる治療のみで完治できることもあります。

肺がんが進行し、がんの浸潤が広範囲に渡っている場合や、ほかの臓器に転移している場合には、局所的には放射線療法、全身的には抗がん薬による化学療法、免疫療法が行われます。

新しい抗がん薬の開発、さらに副作用を軽減させる薬の開発により、抗がん薬による治療効果は向上しています。また、イレッサなど分子標的治療薬も開発され、従来の化学療法では効果がなかった人にも、福音となりつつあります。

🇸🇰肺カンジダ症

カンジダ菌の感染によって肺炎を起こす疾患

肺カンジダ症とは、真菌(かび)の一種のカンジダ菌の感染によって肺炎を起こす疾患。真菌類が感染して起こる肺真菌症の一つに数えられます。

カンジダ菌は本来、人間の口腔(こうくう)、消化管、陰部などに常在し、普通は害を及ぼしません。これが全身や気道、肺の抵抗力の低下、抗がん剤や副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の長期服用などを切っ掛けに増殖し、感染症を引き起こします。特に、カンジダ・アルビカンスが圧倒的に多い原因菌となり、カンジダ・トロピカーリス、カンジダ・パラプシローシスなどが原因菌となることもあります。

せきやたん、血たん、発熱、胸の痛みなどがみられますが、これらの症状が現れないこともあります。

重症の時は、大量の喀血(かっけつ)や呼吸困難になることもあります。

肺カンジダ症の検査と診断と治療

胸部X線検査やCT検査が行われます。また、たんなどから原因となるカンジダ菌の種類を調べます。血液検査で、カンジダ菌に対する抗体があるかを調べることもあります。

治療としては、原因となっている薬剤がある場合は中止し、同時にフルコナゾール(ジフルカン)、イトラコナゾールフルシトシン、アムホテリシンB(ファンギゾン)などの抗真菌剤を用います。また、薬でカンジダ菌の活動を抑えた後、外科的に切除することもあります。

普通の肺炎よりも治りにくく、治療にも時間がかかります。治療中は安静にして、栄養を十分に摂取することが大切です。免疫機能が衰えている場合は、改善されなければ肺カンジダ症は再発してしまうことになります。

🇨🇿肺気腫

肺胞が破壊されて、呼吸困難を生じる疾患

肺気腫(はいきしゅ)とは、肺の組織が破壊されて機能低下を起こし、呼吸困難を生じる疾患。慢性気管支炎と合わせて慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)と呼ばれ、気道閉塞がみられる疾患群の一つとして、今後の増加が予想されます。

肺気腫についてはまだまだわからないことが多いのですが、肺の中の気管支の末端にあって、酸素と炭酸ガスの交換作用を行っている肺胞という組織が何らかの障害を受け、壊れやすい状態になるのが、疾患の基本的な原因だと考えられています。

約3億個ともいわれる肺胞を壊す主な原因は、たばこの煙や大気中に含まれる汚染物質。肺胞は1日に約1万リットルの空気の出し入れをしており、さまざまな刺激によって生じる炎症から肺胞が壊されないように、炎症細胞が出す酵素(エラスターゼなど)に対する防御物質(アンチエラスターゼなど)を持っています。しかし、長年の汚染物質の刺激によって、絶えずエラスターゼが出され続けることにより、防御物質では防ぐことができず少しずつ肺胞が壊されます。

本来、肺胞は一つ一つが弾力性に富み、息を吸う時に膨らみ、吐く時に縮みます。壊れて弾力性が著しく低下したり、全く失われた肺胞が増加していくと、その分だけ肺機能が低下し、取り込める空気の量が低下します。とりわけ肺の収縮が行われにくくなるため、空気を吸い込めても、吐き出すことがうまくいかなくなります。 徐々に進行し、肺胞が破壊を繰り返すと、ブラという袋を形成してしまいます。そして、肺の血管が細くなったり、肺全体が膨張し、呼吸筋である横隔膜を押し下げたり、心臓を圧迫したりします。

呼吸細気管支を中心に肺胞壁が壊れる場合と、肺胞壁全体が壊れる場合があり、喫煙による肺気腫のほとんどは前者です。

一般に、40歳代以降で長く喫煙を続けてきた人にみられ、発症者の8割以上が喫煙者であることが報告されています。男性に圧倒的に多くみられますが、女性より男性のほうが多く喫煙をするからだろうと考えられています。同じくらいの本数のたばこを同じ期間吸い続けた場合には、男性よりも女性のほうが発症しやすいというデータもあります。

ごくまれに、α1ートリプシンという酵素が先天的に欠損している場合に、環境因子が加わって、肺気腫を発症することもわかっています。その他に、家族集積性があることなどから、遺伝的要素も推定されています。

自覚症状としては、体動時の息切れ、息苦しさが主です。息切れは、季節変動や日内変動がそれほど著しくなく、体を動かした時に強くなり、休むと改善します。息苦しさは、膨らんだ肺が横隔膜や心臓を圧迫すると感じやすくなり、胸部が前にせり出して樽(たる)状になります。疾患の進行とともに、息切れは徐々に悪くなり、自分のペースで平地を歩いていても、安静にしていても呼吸困難を生じるようになります。風邪を引いたり、こじらせて気管支炎や肺炎を併発すると、息を吐き出す力がうんと弱まるため、息切れは一段と強くなります。

また、肺の病気に多く見られる症状である、せき、たんも多くなります。せきは、肺気腫に感染症を伴ったり、肺動脈圧が高くなり右心室の肥大拡張が生じる肺性心になった時など、症状が著しく悪くなる急性増悪の時に多く認められます。たんは、慢性の気道炎症により過剰になった気道分泌物によるもので、やはり、急性増悪の時に多く認められます。

肺気腫の検査と診断と治療

肺気腫の確定診断は、肺の組織を採取して顕微鏡で観察し、初めて決定されます。肺線維化の所見を認めず、呼吸細気管支を中心とした肺胞壁または肺胞壁全体の破壊と拡張が病理形態的に確認されることが必要です。 しかし、肺の組織を採取することは発症者の苦痛を伴いますので、通常は胸部レントゲン写真とCT写真、呼吸機能、血液検査などから総合的に判断します。

肺気腫の治療では、壊れた肺胞組織を再生させる方法がないため、現状維持と症状の改善を目的とした治療が行われます。発症時に、たばこを直ちに中止しても、疾患の進行をなくすことはできません。しかし、そのまま吸い続けると、肺気腫の急激な進行も予想され、まず禁煙することが最重要です。 周りの人の吸っているたばこの煙である副流煙も、自分で吸うのと同じように悪いことがわかっていますので、喫煙者の多くいる環境は避けたほうがよいでしょう。

肺気腫の根治治療となるのは、外科手術による肺の移植です。といっても、臓器手術は提供者との移植適合性を考えて行わなければならないため、あまり現実的な方法であるとはいえません。現在、肺気腫の新しい治療法として注目されているのが、肺減量療法と呼ばれる外科手術です。この治療法は、肺胞が壊れた患部を切除して肺の大きさを縮め、肺機能を正常化するというもの。肺減量療法には、両肺の手術を一度に行うことができる胸骨正中切開法と、切開する個所が小さく発症者の負担を抑えられる胸腔(きょうくう)鏡法があります。

肺気腫の内科治療は、根治治療が望めるものではなく、症状の進行を遅れさせることを目的としたものです。薬剤の投与を行い、肺機能を維持することを目的とします。

肺気腫の初期で、階段の昇降や坂道での息切れや、息苦しさを自覚したての時には、肺での空気の出し入れがしやすくるように、気管支拡張剤の内服や、気道のクリーニングのために、たんを出しやすくなる去痰(きょたん)剤を内服します。

一般的な気管支拡張剤には、吸入用気管支拡張剤とテオフィリン製剤があります。吸入用気管支拡張剤は、鼻から吸入することによって空気の通り道である気管支を広げる働きがあり、気管支喘息(ぜんそく)の発症者で使われる薬と同様のものです。

テオフィリン製剤は、経口薬で効果が長く持続する特徴があります。気管支拡張効果は吸入用気管支拡張剤と比べると強いものではありませんが、呼吸に使う筋肉の力を強めたり、肺の中の血管の抵抗を下げて心臓に対する負担を軽くする作用もあるため、発症者によってはとても有効です。食欲不振や吐き気などの消化器症状、頻脈、手の震え、不眠などの副作用も出やすい薬なので、注意深く使う必要があります。

また、気管支を拡張する目的で、β刺激剤や抗コリン剤という機序の異なる薬を併用することもあります。肺気腫の場合は普通、気管支喘息の場合とは違って抗コリン剤のほうが多く使われますが、両者を併用したり、β刺激剤のほうを使うこともあります。ただし、β刺激剤を使いすぎると、手の震えや脈拍が速くなるなどの副作用があります。

日常の生活については、特に神経質になることはありませんが、規則正しい生活をして、体力を落とさないことが大切です。風邪をこじらせると肺炎になりやすいので、早めの治療が必要です。肥満の人は呼吸筋の働きをよくするために、ダイエットしたほうが経過が良いようです。やせ過ぎの人は、良質の蛋白(たんぱく)質を多めに摂取するように心掛けるべきです。息切れのため、運動が面倒になりがちですが、適度の運動は必要です。専門機関で、自律訓練によるリラクゼーションや呼吸リハビリテーションを受け、呼吸法について指導を受けるのも、良い方法と考えられます。

肺気腫の急性増悪期で、気道や肺の感染症、肺性心などを合併すると、呼吸苦が増悪します。呼吸困難感が、強くなった場合には、抗生物質の点滴や、利尿剤など、原因に見合った治療が行われます。一時的に、酸素の吸入が必要になる場合もあります。

肺気腫の進行期で、着替えをしたり少し歩いただけで息切れし、安静にしていても呼吸苦が続いたり、炭酸ガスが貯留して頭痛や冷や汗、思考力の低下などが生じる場合には、在宅酸素療法が必要なこともあります。鼻チューブを介して酸素吸入をしながら、自宅で日常生活を送るものですが、現在では酸素吸入装置も便利で軽くなり、酸素吸入をしながら外出をすることも珍しくなくなりました。在宅酸素療法には保険が適用され、 全国で10万人以上の人が利用しています。

肺の疾患の治療として行われる転地療法は、肺気腫にも有効です。空気がきれいな場所で、肺気腫の原因となるものから遠ざかることで、症状の改善を図れます。ただし、気管支炎を併発している場合、気管支炎の治療を並行して行う必要があります。

🇨🇿肺吸虫症

肺吸虫の寄生によって引き起こされる寄生虫病

肺吸虫症とは、肺吸虫の幼虫が人体に入って肺やその周辺に寄生するために、引き起こされる寄生虫病。

この肺吸虫症の主な流行地域は極東で、日本、朝鮮半島、台湾、中国の山岳地帯、およびフィリピンで発生しています。また、アフリカ西部、中南米の一部にも流行地域があります。

肺吸虫は30種ほどが確認されていますが、日本ではウエステルマン肺吸虫と宮崎肺吸虫の2種がよく知られていて、主にウエステルマン肺吸虫は淡水産のモクズガニ、宮崎肺吸虫は淡水産のサワガニを生や加熱調理不完全の状態で食べて、その幼虫が感染します。また、肺吸虫の幼虫が寄生した野生のイノシシ肉を生で食べて感染することもあります。

肺吸虫の幼虫は、人の腸壁を突き破って腹膜へ侵入し、横隔膜を経て胸膜腔(くう)へ移行、さらに肺組織へ侵入して雌雄同体の成虫となります。幼虫は、脳、肝臓、リンパ節、皮膚、脊髄(せきずい)で、成虫に発育することもあります。成虫は、体長1センチ前後のレモン型をしていて、20〜25年間生存することができます。

肺に寄生した場合の主な症状は、せきと血たん。胸の痛み、発熱、全身の倦怠(けんたい)感、胸に水がたまる自然気胸、胸膜炎、膿胸(のうきょう)などを起こすこともあります。

脳に寄生した場合には、てんかん発作や半身まひ、視覚障害など脳腫瘍(しゅよう)に似た症状を起こし、重症になります。アレルギー性皮膚反応を起こすこともあります。

肺吸虫症の検査と診断と治療

血たんが出たら、肺吸虫症の可能性と同時に結核の可能性もあるため、医療機関を受診します。

肺吸虫症は、胸部X線検査で肺の影として映り、結核や肺がんと間違われることがありますが、たんや便の中から虫卵を検出することで診断します。時には、胸水や腹水の中から虫卵を検出することもあります。また、肺吸虫症では白血球の一種の好酸球が増加することが多く、胸部X線検査で異常があり、好酸球が増えていたら肺吸虫症を疑います。肺に病変があるのに虫卵が見付からない場合や、肺以外の場所に寄生している場合には、血清検査で診断します。

治療では、プラジカンテル、ビチオノールなどの駆虫剤の内服が行われます。胸水がたまっている場合には、胸水を抜いてから治療します。アレルギー性皮膚病変、まれに脳内に形成されたシストという、休眠状態に近い多数の肺吸虫が被っている厚い膜を切除するために、手術が行われることもあります。

予防としては、モクズガニやサワガニ、イノシシ肉などを生や加熱調理不完全の状態で食べないようにします。同時に、それらを調理した包丁やまな板はよく洗うようにします。

🇨🇿敗血症

血液中に細菌が入り込み、全身症状を引き起こす

敗血症とは、肺炎や腹膜炎など生体のある部分に感染を起こしている場所から、血液中に細菌が流れ込み、重篤な全身症状を引き起こす症候群。現在のように抗菌薬が発展する前までは、致命的な病態でした。

もともとの背景として、悪性疾患、血液疾患、糖尿病、肝疾患、腎(じん)疾患、膠原(こうげん)病などがある場合、あるいは未熟児、高齢者、手術後といった状態の場合が多いとされています。抗がん薬投与や放射線治療を受けて白血球数が低下している人や、副腎皮質ホルモン薬や免疫抑制薬を投与されて感染に対する防御能が低下している人も、敗血症を起こしやすいので注意が必要です。

血液中に細菌が流れ込む原因としては、肺炎や肺膿瘍(のうよう)などの呼吸器感染症や腹膜炎のほか、腎盂(じんう)腎炎に代表される尿路感染症、胆嚢(たんのう)炎、胆管炎、褥瘡(じょくそう)感染などがあります。また、血管内カテーテルを留置している場所の汚染から体内に細菌が侵入する、カテーテル関連敗血症も、近年増加しています。

全身の炎症を反映した発熱、倦怠(けんたい)感、認識力の低下が主要な症状ですが、重症の場合には低体温になることもあります。心拍数や呼吸数の増加もみられ、白血球の数も増えます。治療せずにほうっておくと、低血圧、意識障害を来し、敗血症性ショック、血管内凝固症候群(DIC)などになる場合もあります。

また、重要臓器が傷害されると呼吸不全、腎不全、肝不全といった、いわゆる多臓器障害症候群(MODS)を併発することもあります。原因菌が大腸菌などのグラム陰性菌であると、菌の産生した内毒素(エンドトキシン)によってエンドトキシンショックが引き起こされ、血液の代謝性アシドーシスと呼吸性アルカローシスの混合性酸塩基平衡異常を来します。

欧米では全身性炎症反応症候群(SIRS)という概念が提唱され、敗血症は感染が引き金となったSIRSと定義されています。なお、傷口などから細菌が血液中に侵入しただけの状態は菌血症と呼ばれ、敗血症と区別されます。菌血症は症状が現れないことが多く、生命にかかわることもありませんが、菌血症の状態から細菌が急に増え出し、循環器系を通って体中に毒素をまき散らすと敗血症が起こります。

敗血症の検査と診断と治療

検査では、血液中に白血球数や、蛋白(たんぱく)質の一種であるC−リアクディブ・プロテイン(CRP)などの一般的な炎症反応の増加が認められます。白血球数は逆に低下することもあります。そのほか、傷害を受けた臓器によって、肝機能障害や腎機能障害も認められます。血液の凝固能が低下している場合もあり、この時は血管内凝固症候群(DIC)を併発していると考えられます。発熱時の連続した血液培養による原因菌の検索も、重要です。

細菌感染に対しては、強力な抗菌薬による化学療法とともに、さまざまな支持療法が不可欠です。化学療法は旧来より、Βラクタム系抗菌薬とアミノグリコシド系抗菌薬の併剤療法が主流。支持療法では、昇圧剤、補液、酸素投与などのほか、呼吸不全、腎不全、肝不全に対しては、人工呼吸管理、持続的血液濾過(ろか)透析や血漿(けっしょう)交換などが必要になる場合もあります。

血管内凝固症候群(DIC)を併発した場合には、蛋白分解酵素阻害薬や、抗凝固薬の一つであるヘパリンを使用します。短期間ですが、副腎皮質ホルモン薬が併用されることもあります。近年では、グラム陰性菌による敗血症において重要な役割を担う内毒素(エンドトキシン)を吸着する方法など、新しい治療法が試みられています。

敗血症は近年の抗菌薬による化学療法の進歩によって治療成績が改善しましたが、治療が遅れたり合併症の具合によっては、致命的となる重篤な疾患であることに変わりありません。早期の診断と適切な抗菌薬の使用、各種合併症に対する支持療法が重要です。

🇷🇴肺高血圧症

心臓から肺に向かう肺動脈の血圧が高くなる疾患

肺高血圧症とは、心臓から肺に向かう肺動脈の血圧が高くなる疾患。比較的まれな疾患ですが、年齢に関係なく起こり得る複雑な疾患です。

酸素の少ない血液が右側の心臓の右心房へ戻ってきて、右心室を通って肺へ送られ、肺で酸素をもらって血液は左側の心臓の左心房へ進み、左心室を通って全身へ送られます。これが人間の血液循環の仕組みです。左側の心臓から全身へ血液を送る動脈の血圧が上昇するのがいわゆる一般的な高血圧であり、右側の心臓から肺へ血液を送る肺動脈の高血圧が肺高血圧症です。

 平均肺動脈圧が安静時25mmHg(ミリエイチジー)、運動時30mmHg以上となるものを肺高血圧症と呼びます。

肺動脈の血圧が高くなるのは、右側の心臓から肺へ血液を送る肺動脈の血管の内腔(ないくう)が狭くなったり、あるいは肺動脈の末梢(まっしょう)の小動脈の内腔が何カ所か狭くなって、血液が通りにくくなるためです。

何らかの原因で肺動脈の血管の内腔が狭くなると、肺を通過する血液の循環が不十分になります。この時、心臓が血液を十分に送ろうとするため、肺動脈の圧力が高くなります。肺動脈に血液を送る右心室は、より大きな力が必要なために心臓の筋肉を太くして対応しようとします。しかし、もともと右心室は高い圧力に耐えられるようにできていないため、この状態が続くと右心室の壁は厚くなって拡張し、右心室の機能が低下して肺性心(はいせいしん)という状態になります。さらに病状が進行すると、右心不全という通常の生活を送るのに必要な血液を送り出せない状態に陥ります。

肺高血圧症の初期は、無症状です。しかし、肺動脈の血圧が上昇し疾患が進行してくると、体を動かした時に息切れを感じるようになります。また、胸痛、全身倦怠(けんたい)感、呼吸困難、立ちくらみ、めまい、失神などを認めることもあります。肺性心となり右心不全を合併すると、顔や足のむくみや食欲低下などの症状も出現します。

肺高血圧症を起こす原因は、たくさんあります。国際分類(2003年ヴェニス分類)では、肺高血圧症は原因によって、肺動脈性肺高血圧症、通常の心臓病による肺高血圧症、肺の疾患や低酸素血症による肺高血圧症、慢性血栓や塞栓(そくせん)による肺高血圧症、その他の肺高血圧症の5種類に分けられます。

肺動脈性肺高血圧症は、さらに細かく特発性肺動脈性肺高血圧症、膠原(こうげん)病性肺動脈性肺高血圧症、先天性心疾患などの他の疾患に続発して起こる肺動脈性肺高血圧症、薬剤性肺動脈性肺高血圧症などに分けられます。いずれの場合も、その原因は解明されておらず、1998年から国より、いわゆる難病、特定疾患治療研究事業対象疾患に指定されています。

肺動脈性肺高血圧症の中では、特発性肺動脈性肺高血圧症は最も頻度が高く、以前は原発性肺高血圧症と呼ばれていた疾患とほぼ同義であり、原因不明の慢性かつ進行性の難病です。従来の治療では5年間の生存率が30パーセントといわれていました。長い間の研究で、さまざまな治療薬が試みられていましたが、最近、肺血管を拡張させる薬が開発され、治療効果も上がってきています。

膠原病性肺動脈性肺高血圧症は、全身性エリテマトーデス、強皮症、混合性結合組織病などの自己免疫が原因で発症するものであり、比較的病状の進行が速いのが特徴で、特発性肺動脈性肺高血圧症より生存期間が短い傾向があります。

慢性血栓や塞栓による肺高血圧症では、急性肺血栓塞栓症と慢性血栓塞栓性肺高血圧症が頻度が高い疾患です。急性肺血栓塞栓症は、足や骨盤などの静脈でできた血の塊が肺の血管を詰まらせる血栓症で、エコノミークラス症候群とも呼ばれます。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症は、血栓が数年かけて血管と一体化して肺動脈が慢性的に閉塞を起こし、肺高血圧症を合併したもので、国より、いわゆる難病、特定疾患治療研究事業対象疾患に指定されています。

肺高血圧症の早期発見は、非常に重要です。早期発見と早期治療によって、生存率が上昇するからです。

肺高血圧症の検査と診断と治療

循環器内科の医師による診断では、右心カテーテル検査や、肺動脈造影検査、心臓超音波(エコー)検査、経食道エコー検査、心臓MRI、呼吸機能検査、肺シンチグラム、CT検査、血液検査などが行われます。

さまざまな検査のうち、右心カテーテル検査は、肺高血圧症の診断および治療がどの程度有効かを見極める上で最も大切な検査です。肺動脈の圧力が実際にいくつなのか、また肺動脈の血管がどの程度流れにくくなっているのかを正確に判定することができる唯一の検査方法です。

首もしくは脚の付け根からカテーテルという細い管を挿入し、静脈を通して肺動脈まで血流に乗って通過させ、肺動脈の圧力を直接測定します。肺高血圧症の原因によっては、肺動脈造影検査を行ったり、カテーテルを通して心臓や血管のさまざまな部位から採血を行うことを追加の検査として行います。

循環器内科の医師による治療では、肺動脈性肺高血圧症の場合は従来、血管内で血栓が生じるのを予防する抗凝固薬、循環血漿(けっしょう)量を減少させて心臓の負担を減らす利尿薬、血管を縮める作用のあるカルシウムを抑制することで血管を広げるカルシウム拮抗(きっこう)薬、通常の空気より高い濃度の酸素を吸うことで心臓の機能が低下して全身への酸素供給能力が低下しているのを補う酸素吸入によって治療されていましたが、予後改善効果は大きくありませんでした。

近年では、肺の血管を拡げて血流の流れを改善させる肺血管拡張療法が効果を上げています。肺血管を拡げるプロスタサイクリン製剤のフローランのポンプを用いた持続静注や、プロスタサイクリン製剤の誘導体であるベラプロスト製剤の内服、肺血管を収縮させるエンドセリンが血管平滑筋に結合することを防ぐエンドセリン受容体拮抗薬のトラクリアやヴォリブリスの内服、血管平滑筋の収縮を緩めるサイクリックGMPという物質を増加させるホスホジエステラーゼ5(PDE5)の作用を阻害するPDE5阻害薬のレバチオやアドシルカの内服などにより、次第に予後が改善されてきています。

一方、原因の明らかな2次性肺高血圧症の場合、原疾患の治療により肺高血圧の改善が期待できます。

急性肺血栓塞栓症の場合、血栓の遊離による肺塞栓を予防するため、下肢のむくみや痛みが軽減するまで安静を保ち、下肢を高く上げておくことが必要です。痛みに対しては非ステロイド抗炎症薬を使い、血栓の治療と予防には抗凝固薬や血栓溶解薬を使います。下肢のチアノーゼがひどい場合や、症状が重く急を要する場合には、カテーテル治療や血栓摘除術によって直接血栓を除去します。

慢性血栓塞栓性肺高血圧症の場合、原則として血栓再発予防と二次血栓形成予防のための抗凝固療法が行われます。手術的に摘除可能なら、肺血栓内膜摘除術が行われます。2000年代後半から、一部の医療機関では、詰まった血管を広げるバルーン(風船)によるカテーテル治療が行われ始めています。

現在使用可能な治療法を継続しても右心不全が進行する場合、肺移植を行うこともあります。

🇷🇴肺好酸球浸潤症候群

白血球の一種である好酸球が肺に浸潤する肺疾患の総称

肺好酸球浸潤症候群とは、白血球の一種である好酸球が肺の中に浸潤する肺疾患の総称。好酸球肺浸潤症候群とも呼ばれます。

好酸球は免疫にかかわる白血球の一種で、ある種の寄生虫に対して体を守る免疫機能を担い、アレルギー反応の制御を行う一方で、このアレルギー反応による炎症の一因にもなる細胞です。肺好酸球浸潤症候群では、末梢(まっしょう)血液中に好酸球が増える場合がしばしばみられますが、必ずしも合併するとは限りません。

カビなどの真菌、寄生虫、特定の薬物、化学物質などが、肺の中に好酸球が集積する原因になることがあります。その原因がわかっているものには、真菌に対するアレルギー疾患であるアレルギー性気管支肺真菌症(アレルギー性気管支肺アスペルギルス症)、線虫・回虫などの寄生虫感染、抗生剤(抗生物質)・抗菌剤・降圧薬・抗結核薬などの薬物による肺炎、栄養食品であるLートリプトファンによる好酸球増加筋痛症候群があります。

また、初めてたばこを吸い始めた時に、急性好酸球性肺炎を発症することがあり、数日後に呼吸困難を引き起こします。

原因不明のものとしては、レフレル症候群(単純性好酸球性肺炎)、急性好酸球性肺炎、慢性好酸球性肺炎、アレルギー性肉芽腫(にくげしゅ)性血管炎(チャーグ・ストラウス症候群)、好酸球増加症候群があります。

現れる症状は、肺疾患の重症度により異なります。重症では、せきや呼吸困難、息切れなどの症状がみられ、血液中の酸素が減少し、皮膚や粘膜の色が青紫色になるチアノーゼを示すことがあります。また、発熱や食欲不振、体重の減少なども認められることがあります。軽症では、全く症状がなく、X線写真で肺炎像として発見されることもあります。

アレルギー性気管支肺真菌症(アレルギー性気管支肺アスペルギルス症)は、アスペルギルス属という種類の真菌の胞子を吸い込むことによって、気管支や肺に、炎症などのアレルギー症状が引き起こされる疾患。発作性のせきや、喘鳴(ぜんめい)を伴う呼吸困難で始まり、褐色の喀痰(かくたん)が出ます。痰の中には、しばしば好酸球やアスペルギルスの菌糸が含まれています。時に喀血(かっけつ)をみることがあるほか、発熱、食欲不振、頭痛、全身倦怠(けんたい)感、胸痛などがしばしばみられます。気管支が広がって元に戻らなくなる気管支拡張症が引き起こされることもあります。

レフレル症候群(単純性好酸球性肺炎)や、フィラリアと呼ばれる線虫類の一種が体内に侵入して発症する熱帯性好酸球増多症(ミクロフィラリア症)では、症状が現れた場合に微熱や軽い呼吸器症状がみられることがあります。また、せき、喘鳴、息切れなどが現れることもありますが、通常はすぐに回復します。

急性好酸球性肺炎では、血液中の酸素濃度が著しく低下し、治療をしなければ、数時間から数日で急性呼吸不全に進行する可能性があります。

慢性好酸球性肺炎は、数週間から数カ月間かけてゆっくりと進行する疾患で、重症化することもあります。治療をしなければ、命にかかわるような息切れを起こすことがあります。

アレルギー性肉芽腫性血管炎(チャーグ・ストラウス症候群)は、喘息で発症する特徴がありますが、その後、好酸球性肺炎を起こすこともあり、皮膚、消化管、末梢神経、心臓、腎臓(じんぞう)など重要な臓器も障害される全身性の血管炎です。喘息の治療が成功しているにもかかわらず、手や足がしびれたり、皮膚炎、腹痛や胸痛が現れてきた場合には、この疾患の可能性があります。

好酸球増加症候群では、末梢血の中の好酸球が6カ月以上、1500μl(マイクロリットル)以上に増えて、多くの臓器障害が起こり、特に心臓の障害が重い合併症となってきます。

肺好酸球浸潤症候群は、集団健診の胸部X線検査で異常を指摘されるか、せき、呼吸困難、発熱、全身倦怠感を自覚して、初めて受診して発見されるケースがほとんどです。

いずれにしても早期発見、早期治療が重要なので、これらの疾患が疑われたら内科、呼吸器科、アレルギー科を受診します。

肺好酸球浸潤症候群の検査と診断と治療

内科、呼吸器科、アレルギー科の医師による診断では、胸部X線検査で肺炎像が確認されます。肺炎像に加えて、血液検査で好酸球の増加があれば肺好酸球浸潤症候群が考えられ、喀痰に好酸球が増えていれば診断にほぼ間違いはありません。

原因が予測できる疾患では、その原因物質を特定することで診断が可能になってきます。アレルギー性気管支肺真菌症(アレルギー性気管支肺アスペルギルス症)は、喀痰の中から真菌を確認し、血液検査でその真菌に対する免疫グロブリン(IgGおよびIgE)を確認します。また、気管支拡張症を合併することも1つの特徴なので、CT検査で確認することが重要です。

さらに、常用している薬物はないか、寄生虫感染地域への旅行あるいは在住がなかったかどうかは、重要な診断の参考になります。

また、アレルギー性肉芽腫性血管炎(チャーグ・ストラウス症候群)では、血液検査でIgEの上昇と、白血球の一種である好中球に対する抗体(抗好中球細胞質抗体、P‐ANCA)の上昇が重要な診断の根拠になります。

内科、呼吸器科、アレルギー科の医師による治療では、軽症例では無治療で改善することもありますが、一般的には副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)を内服することにより早期に改善します。

しかし、アレルギー性肉芽腫性血管炎、慢性好酸球性肺炎、好酸球増加症候群では、ステロイド剤に十分な反応が得られないこともあります。その場合は、抗がん剤を併用することもあります。

線虫や他の寄生虫が原因であれば、それに対して適切な薬を用いて治療します。通常、この肺好酸球浸潤症候群を引き起こす可能性がある薬は、服用を中止します。

🇷🇴肺真菌症

肺の中に真菌が増殖し、せき、たんがみられる疾患

肺真菌症とは、肺の中に真菌(かび)類が感染して起こる疾患。肺炎に似た症状が強く現れます。

真菌には、健康な人の体内に常にいるものや、外部から体内に入ってくるものなど、さまざまな種類があります。健康である限り、それらが肺の中に感染することはありませんが、白血病や臓器移植後などによる体や気道の抵抗力の低下、副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤の長期間の服用などを切っ掛けに、肺の中で増殖し、感染症を引き起こします。

原因となる真菌の種類によって、肺真菌症にはいろいろなタイプがあります。日本に多いのは、アスペルギルス症、クリプトコックス症、ムコール症、カンジダ症など。ほかに放射菌症、ノアルジア症、分芽(ぶんが)菌症、ヒストプラスマ症、コクシジオイテス症などがありますが、日本での感染例はまれです。

アスペルギルス症、クリプトコッカス症、ムーコル症では、気道を通して吸引された胞子が肺に定着、増殖することにより感染します。これらを外因性の肺真菌症といいます。

対してカンジダは、口腔(こうくう)、消化管、陰部などに常在する真菌であり、口腔内に増殖したカンジダの誤嚥(ごえん)に起因したり、敗血症の一分症として肺のカンジダ症が発症する場合があります。これらを内因性の肺真菌症といいます。

アスペルギルス症は、アスペルギルス・フミガツスという体外の真菌が原因となり、肺真菌症の中でも最も重要な疾患の一つ。この真菌は有毒な胞子を持っていて、ぜんそく患者は過敏に反応して、アレルギー性の肺炎を引き起こすことがあります。また、肺膿瘍(のうよう)、肺結核、気管支拡張症などの後にできた肺の空洞に入り込み、真菌の塊を作ることもあり、これが崩れると褐色の塊となって、たんととも出てきます。

 クリプトコックス症は、ハトの糞(ふん)などにいるクリプトコックスという真菌を吸い込むことが原因となって、発症します。時に健康な人にもみられる肺真菌症で、必ずしも抵抗力、免疫力の低下と関係しているとは限りません。

ムコール症は、ケカビ目の真菌を吸いこむことが原因となって、発症します。肺のほか、鼻と脳を侵し、まれに皮膚や消化管も侵します。重度の感染症で、場合によっては死に至り、コントロール不良な糖尿病患者など、免疫機能が低下している人に起こります。

肺真菌症の症状としては、せき、たん、血たん、発熱、胸の痛みなどがみられますが、肺真菌症にはいろいろなタイプがあるため、これらの症状が現れないこともあります。アスペルギルス症やムーコル症では、血たんや喀血(かっけつ)、呼吸困難を生じることもあります。

肺真菌症の検査と診断と治療

肺真菌症の症状に気付いたら、呼吸器疾患専門医のいる病院を受診します。肺真菌症は一般に、早期に診断されない場合は急速に病状が進行しますので、注意が必要です。

医師による診断に際しては、胸部X線検査やCT検査が行われ、たんなどから原因となる真菌を調べます。血液検査で、真菌に対する抗体があるかを調べることもあります。

治療に際しては、一般に抗真菌剤が用いられます。クリプトコッカス症やカンジダ症には、フルコナゾール、イトラコナゾールフルシトシンを始めとするアゾール系抗真菌剤が第一選択となります。

ムーコル症に対しては、一般にアムホテリシンBを静脈内投与するか、髄液の中に直接注射します。また、薬で真菌の活動を抑えた後、感染組織を外科手術で取り除くこともあります。糖尿病の場合には、血糖値を正常範囲まで下げる治療を行います。

肺真菌症は普通の肺炎よりも治りにくく、治療にも時間がかかります。治療中は安静にして、栄養を十分に取ることが大切になります。

🇧🇬肺水腫

血液の成分が肺胞内に染み出し、異常にたまった状態

肺水腫(すいしゅ)とは、血液の成分、主に血漿(けっしょう)が血管内から肺胞内に染み出し、異常にたまる疾患。肺胞内で血液の成分がたまると、肺のガス交換が障害されて低酸素血症となり、呼吸困難が現れます。

肺水腫には大きく分けて、心臓が原因で生じる心原性肺水腫と、心臓以外の原因で生じる非心原性肺水腫の2種類があります。

心筋梗塞(こうそく)など心臓の疾患が進行して心臓の機能が低下すると、左心室が十分な血液を全身へ送り出せなくなる左心不全になり、肺に血液がたまる肺うっ血になります。肺うっ血が高まると、毛細血管を通って血液の成分が肺胞に出ていき、心原性肺水腫ができます。肺水腫のほとんどが、心原性肺水腫です。また、このタイプは肺から心臓へ血液を運ぶ肺静脈の閉塞(へいそく)でも起こります。

一方、非心原性肺水腫の中でも、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)とか急性肺損傷(ALI)といわれるものは肺そのものに原因があり、重症肺炎、敗血症、重症外傷などに引き続いて生じます。肺の小さな血管に炎症が起こり、血管から血液が漏れて肺にたまるため生じるものです。

主な症状は、発作的な呼吸困難、呼吸をする時にゼーゼー、ヒューヒューという音がする喘鳴(ぜんめい)、窒息感、頻呼吸、そして血液の混じった泡状のたんなどです。

肺水腫の検査と診断と治療

慢性の心臓病がある人は、定期的に受診して医師の指導に従います。突然、呼吸困難の発作が起こった人に対しては、上半身を起こし、何かに寄りかからせて座位にします。横にすると余計に呼吸困難がひどくなるので、無理に寝かせないようにします。できるだけ落ち着かせ、すぐに医師に連絡し指示を受けます。

医師による診断では、胸部の聴診でブツブツというラ音が聞こえます。血液ガス分析では低酸素血症を認め、心原性肺水腫では、胸部X線像で心臓が大きく映り、蝶(ちょう)が羽を広げたような蝶形陰影を認めます。

治療は、心原性肺水腫と非心原性肺水腫で異なります。心原性肺水腫では、毛細血管圧を下げるために、心臓の働きを高める強心剤や、余分な水分を尿として排出させる利尿剤、血管拡張剤、肺の炎症を抑えるための種々の薬剤などが用いられます。

たんを出させるためには、アルコールの除泡性を利用して、アルコールを加えた水を吸入させるアルコール蒸気吸入法などの処置が行われます。呼吸困難時には、酸素吸入を行います。重症の場合には、人工呼吸器を用いて、気道内を陽圧に保つ治療が行われることもあります。

🇧🇬肺性心

肺の疾患の影響で、心臓に病変が起こるもの

肺性心とは、肺に疾患があるために、心不全などを起こしたもの。肺性心疾患とも呼びます。

肺と心臓は非常に密接な関係にあり、片方に異常が起きたり、疾患があると、その影響を受けて、もう片方にも病変が起こりがちです。肺に疾患があると、肺全体の血行がスムーズにいかなくなり、右心室からの血液の拍出が妨げられ、やがて右心不全を起こすというわけです。

肺性心には、急性と慢性とがあります。急性のものは肺塞栓(そくせん)によって起こりますが、一般に肺性心という場合は慢性のものを指しています。急性、慢性とも予後はよくありません。

慢性肺性心の症状としては、肺結核や気管支ぜんそく、肺気腫(きしゅ)、珪肺(けいはい)などの慢性的な肺の疾患があるために、せき、たん、呼吸困難といった呼吸器症状が、まず最初に現れます。そして、呼吸困難の結果、動悸(どうき)やチアノーゼという症状が引き起こされ、脈拍の異常も出てきます。

急性肺性心の場合は、突然、呼吸困難、頻脈、チアノーゼ、血圧降下などが起こり、ひどい時は、けいれんが起きたり、ショック状態に陥ります。一刻も早く入院して、急性の右心不全に対する処置をしないと危険です。

肺性心の検査と診断と治療

肺性心の慢性症状がある時には、心雑音、心電図の異常も出てきますが、このような症状が出ても、右心不全の有無の判断は非常に難しく、心エコー検査やナトリウム利尿ペプチドの測定が必要です。

肺性心の急性症状が出現している際には、絶対安静にして強心薬の注射をしたり、酸素吸入をして改善を図ります。疾患そのものの治療としては、もとの肺疾患を治すことが先決ながら、肺性心を起こすほどの肺の病変を治療することは非常に困難です。

🇧🇬肺線維症(間質性肺炎)

肺胞の回りの壁の部分に炎症が起こって、線維化する疾患

肺線維症とは、肺胞と肺胞の間にある壁で、肺胞上皮細胞、肺毛細血管、結合組織などからなる間質に炎症が起こり、炎症組織が線維化する疾患。

線維化する前の間質に炎症が起こった状態は、間質性肺炎と呼ばれます。肺線維症と間質性肺炎は同じ疾患なのですが、進行度によって呼び方が異なるわけです。

人間は、肺で呼吸をしています。肺全体は非常に目の細かいスポンジのような構造をしており、空気を吸えば膨らみ、空気を吐けば縮むという動きをスムーズに行っています。吸い込まれた空気は、気管支の末端の直径数ミクロン(1ミクロンは1000分の1ミリ)の肺胞まで入ります。この肺胞の回りの壁の部分が間質であり、非常に 薄くて、中には毛細血管が網の目のように張り巡らされていて、ここから酸素が吸収されます。酸素を吸収した血液は心臓へと戻り、そこから全身に供給されてゆきます。

この肺胞の壁である間質に炎症が起きる疾患は、総称して間質性肺疾患と呼ばれ、正常な組織がコラーゲン線維などに置き換わる線維化を起こしやすい疾患は特に、間質性肺炎とまとめて呼ばれています。通常、肺炎といった場合には、細菌やウイルスの感染によって肺胞内もしくは気管支に起こる炎症を指し、間質性肺炎の場合とは異なった症状、経過を示します。

間質性肺炎の炎症が進むと、肺胞壁が厚くなり、肺胞の形も不規則になって、肺全体が少し硬くなります。その結果、肺の膨らみが悪くなり肺活量が落ちると同時に、酸素の吸収効率も悪くなってゆき、息苦しくなったり、せきが出ます。さらに進行すると肺線維症となって、肺は線維性成分の固まりとなり、この部分での肺としての機能が失われます。

もちろん、その状態まで進むのは肺の一部であり、残りの部分で十分に呼吸を続けることが可能です。間質性肺炎の種類によっては、線維化の状態まで進まないタイプのものもあります。

間質性肺炎には、原因が不明なものと、原因が明らかなものとがあります。

原因が不明なものは、特発性間質性肺炎と呼ばれ、国が難病として研究、調査の対象に指定した118の特定疾患の中の1つになっています。発病率は一般的に10万人に5人程度といわれ、詳しいメカニズムはわかっていません。

特発性間質性肺炎は、現在のところ7つの異なった病理組織像(顕微鏡検査での型)に分類されますが、急性、亜急性、あるいは慢性経過に分けることができます。中で最も頻度が高いのは特発性肺線維症と呼ばれるもので、50歳以上に発症することが多く、肺機能は次第に低下して、呼吸困難が強くなり、酸素療法が必要になる場合があります。

原因が明らかなものは、有害物質の吸入による過敏性肺炎、放射線による放射線肺炎、中毒や薬剤による肺炎、ウイルスや原虫感染による肺炎によって、間質性肺炎が引き起こされます。また、肺サルコイドーシス、膠原(こうげん)病の一症状として、間質性肺炎が出現することもあります。

症状としては、たんを伴わないせきが出ます。ただし、気道感染が起こっている時は、たんも出ます。また、階段を上った時などに息切れします。進行すると、安静にしていても呼吸が苦しく、動悸(どうき)も激しくなります。さらに進んで心臓に影響を及ぼすと肺性心となり、チアノーゼやむくみがみられるようになります。

徐々に疾患が進行して慢性化することもあります。

肺線維症の検査と診断と治療

呼吸器障害の症状が現れた場合には、一般に内科、もしくは呼吸器内科を受診します。間質性肺炎と進行した肺線維症には、原因が不明なもの、原因が明らかなものと多くの疾患が含まれていますので、受診した医師に専門医を受診する必要があるかどうかを相談します。

医師による間質性肺炎、および肺線維症自体の診断は、胸部X線検査やCT検査(コンピューター断層撮影)により左右の肺に広く影が出現し、進行すると線維化を反映して蜂巣(ほうそう)状を呈するすることで、比較的すぐにわかります。しかし、原因を調べるために気管支内視鏡による組織の採取や肺機能検査、血液検査など、さまざまな検査が行われます。

急性の間質性肺炎では、大量のステロイド剤を投与するパルス療法が行われることがあります。しかし、慢性の間質性肺炎では、一般的には薬物治療では効果が得られないことが多いといえます。

治療には、入院加療が必要なこともありますが、慢性化して疾患が危険な状態に進行する恐れがなければ、通院治療も可能です。呼吸困難がある場合も、疾患が慢性期になっていれば、在宅酸素療法によって自宅療養が可能なこともあります。進行して二酸化炭素排出も不十分となった場合には、酸素投与のみでは炭酸ガスナルコーシスを引き起こしかねないため、人工呼吸器を導入せざるを得なくなります。

特定疾患に指定されている特発性間質性肺炎を治癒させる方法は、今のところありません。進行をできるだけ遅くするようにしたり、症状をできるだけ少なくする治療が中心になります。呼吸状態が悪くなく、安定していれば、原則的には無治療で様子をみることが多いのが現状です。

進行する場合は、ステロイド剤と免疫抑制剤の使用を考慮されることがあります。2008年に、肺機能の悪化を抑制するピルフェニドン(商品名ピレスパ)という新しい薬(抗線維化薬)が発売され、その効果が期待されています。

タイプにもよりますが、進行性で治療に抵抗を示すものでは数週間で死に至るものの、慢性的に進行した場合は10年以上生存することも多くみられます。肺移植が行われることもあります。

🟧RSウイルス感染症が「流行入り」 静岡県が注意呼び掛け

 静岡県は26日、直近1週間(15~21日)のデータから「RSウイルス感染症が流行入りしている」と発表しました。定点医療機関となっている小児科1カ所当たりの患者数は1・64人で、県が流行入りの目安としている「1人」を大きく上回りました。前週の0・9人よりも8割増加し、急拡大が懸...