2022/07/31

■全国で19万7792人が新型コロナに感染 死者82人、重症者427人

 31日午後6時の時点で、東京都で3万1541人、大阪府で1万6473人、神奈川県で1万5088人、埼玉県で1万3690人、愛知県で1万1085人、福岡県で1万1043人、千葉県で9507人、兵庫県で9442人など全47都道府県と空港検疫で、新たに19万7792人の新型コロナウイルスへの感染が発表されました。5日ぶりに20万人を下回ったものの、日曜日としては過去最多となりました。埼玉県や滋賀県などで最多を更新した。

 また、東京都で8人、大阪府で6人、愛知県で6人、熊本県で6人、兵庫県で5人、栃木県で5人、千葉県で4人、神奈川県で4人、香川県で4人、鹿児島県で4人、北海道で3人、福島県で3人、三重県で2人、埼玉県で2人、岐阜県で2人、岩手県で2人、福岡県で2人、長崎県で2人、佐賀県で1人、宮城県で1人、宮崎県で1人、富山県で1人、山口県で1人、山形県で1人、島根県で1人、徳島県で1人、愛媛県で1人、滋賀県で1人、群馬県で1人、高知県で1人の、合わせて82人の死亡の発表がありました。

 国内で感染が確認された人は、空港検疫などを含め1279万5548人、クルーズ船の乗客・乗員が712人で、合わせて1279万6260人となっています。

 感染して亡くなった人は、国内で感染が確認された人が3万2613人、クルーズ船の乗船者が13人で、合わせて3万2626人です。

 厚生労働省によりますと、新型コロナウイルスへの感染が確認された人で、人工呼吸器や集中治療室などで治療を受けるなどしている重症者は、前日より24人増えて31日時点で427人となっています。

 一方、症状が改善して退院した人などは、31日時点で、国内で感染が確認された人が1070万4663人、クルーズ船の乗客・乗員が659人の合わせて1070万5322人となっています。

 大阪府は31日、新型コロナウイルスの新たな感染者を1万6473人確認したと発表しました。感染者数は前週同曜日(1万7438人)と比べ965人減りました。府内の感染者の累計は137万1139人となりました

 新たに70~90歳代の男女6人の死亡が判明し、府内の累計死者数は5348人になりました。

 31日時点の重症者は前日から2人減の49人で、重症病床(596床)の同日の実質使用率(重い持病などを抱える軽症・中等症患者らを含む)は19・8%になりました。軽症・中等症病床には2669人が入院しており、軽症・中等症病床(4190床)の使用率は63・7%となりました。

 新規感染者のうち、感染者と同居して症状があり、PCR検査を受けずに医師の診断で陽性と判断された濃厚接触者は642人でした。自宅療養者は13万7290人。公費によるPCR検査などを3万1928件実施しました。

 2022年7月31日(日)

■東京都で3万1541人が新型コロナ感染 日曜で過去最多

 東京都は31日、都内で新たに10歳未満から100歳以上の3万1541人が新型コロナウイルスに感染していることを確認したと発表しました。

 1週間前の日曜日より3429人増えました。前の週の同じ曜日を上回るのは12日連続で、日曜日としては過去最多です。31日までの7日間平均は3万2177・6人で、前の週の131・1%でした。

 新規感染者を年代別にみると、20代が5863人と最も多く、40歳代が5411人、30歳代が5301人と続きました。若年層や現役世代の感染が目立ちます。65歳以上の高齢者は3189人でした。

 ワクチンの接種状況別では、2回接種済みが1万9813人、未接種は5675人でした。

 病床使用率は53・7%。また、都が緊急事態宣言の要請を判断する指標を30〜40%としている重症者用病床使用率は25・0%。「人工呼吸器か体外式膜型人工肺(ECMO<エクモ>)を使用」とする都基準の重症者数は、30日より1人減って23人となっています。

 一方、都は、感染が確認された10歳未満の女児1人と、70歳代から90歳代の男女7人の合わせて8人が死亡したことを発表しました。

 東京都の累計の感染者数は216万6733人となり、累計の死者数は4669人になりました。

 2022年7月31日(日)

■北朝鮮、2日連続で新規発熱者ゼロ 新型コロナの抑え込み強調

 北朝鮮の朝鮮中央通信は31日、30日午後6時までの24時間に新型コロナウイルスの感染者とみられる新たな発熱者は確認されなかったと報じました。

 新たな発熱者がゼロだったと報じるのは前日に続いて2日連続。同通信は前日、新型コロナの発生を公表した5月12日以降初めて新たな発熱者がいなかったと伝えていました。

 同通信は、4月末からの発熱者の累計が477万2813人で、このうち約477万2563人が完治し、176人が治療を受けていると伝えました。

 新たな死者や死者の累計、致死率などは前日に続いて、明らかにしませんでした。最後に公開した7月5日の統計では死者の累計は74人、致死率は0・002%となっています。

 ただ、北朝鮮には十分なPCR検査態勢が整っていないため実際の感染状況は不明で、死亡率も他国に比べて極めて低く、統計の信ぴょう性を疑う指摘もあります。

 同通信は「完全な安定状態が維持されている。完全終息のための段階的目標が前倒しで達成された」と評価。「悪性伝染病(新型コロナ)と普通の風邪を見分けるための技術的対策が講じられている」として、新型コロナ検査の正確性を高めるための研究も進められていると強調しました。

 2022年7月31日(日)

■モデルナ「BA・5」対応の改良型ワクチン、アメリカ政府に6600万回分提供へ

 アメリカのバイオ医薬品企業モデルナは29日、新型コロナウイルスのオミクロン型変異ウイルスの新系統「BA・5」に対応した改良型ワクチン6600万回分をアメリカ政府へ供給することで合意したと発表しました。改良型ワクチンは現在、開発中で、秋以降の使用が想定されています。

 アメリカ食品医薬品局(FDA)は6月、ワクチンメーカーに対して「BA・5」を標的としたワクチンを開発するよう勧告していました。発表によると、アメリカ政府はモデルナに最大で17億4000万ドル(約2300億円)を支払います。また、最大2億3400万回分を追加購入するオプション契約も結びました。

 アメリカ政府はこれまでにアメリカのファイザーとドイツのビオンテックとも、新たに1億500万回の改良型ワクチンを含むコロナワクチンを32億ドルで購入する契約で合意しており、追加接種(ブースター接種)向けに計1億7100万回のワクチンを確保したことになります。

 アメリカ疾病対策センター(CDC)によると、現時点で「BA・4」と「BA・5」の感染が国内感染者全体の90%超を占めています。


 2022年7月31日(日)

🇳🇪嚥下性肺炎

誤嚥によって、口の中の細菌が気管や肺に流れ込んで生じる肺炎

嚥下(えんげ)性肺炎とは、口の中に常在する細菌が唾液などの分泌物とともに気管内に入る誤嚥に引き続いて、発症する肺炎。誤嚥性肺炎とも呼ばれます。

飲み物や食べ物を飲み込む動作を嚥下といい、食道を通って胃に運ばれます。食道と気管は隣り合わせで、気管の入り口である喉頭(こうとう)が大きく開いており、このままでは飲み物や食べ物が気管に入ってしまいます。それを防ぐために、フタの役目を持つ喉頭蓋(がい)という軟骨からなる部分が、嚥下の動作とともに気管の入り口をふさぎます。

健常者でも、本来は胃の中に運ばれなければならない飲み物などが誤って気管内に入る誤嚥を起こしますが、むせたり、せき込んだりして気管から吐き出そうとします。たとえ誤嚥により口の中の細菌が唾液などの分泌物とともに気管や気管支、肺に入り込んだとしても、体力や抵抗力、免疫力により細菌を駆除できるので、生活していく上でさほど影響はありません。

高齢や脳の病気などの影響で嚥下機能の低下がある人は、飲み物や食べ物をうまく飲み込めず、喉頭蓋の動きが低下し、さらに誤嚥した際のむせたり、せき込んだりといった動作も鈍くなり、気管への誤嚥を招きやすくなります。誤嚥によって口の中の細菌が気管や気管支、肺に入り込んだ場合、体力や抵抗力、免疫の低下などにより細菌を駆除することができす、嚥下性肺炎にかかる危険度が増します。

超高齢化社会を迎えて、肺炎の重要性が増しています。抗生物質(抗菌剤)の発達にもかかわらず、肺炎は全死亡原因の第4位、高齢者に限ってみると第1位です。高齢者の肺炎のほとんどは、この嚥下性肺炎に相当し、再発を繰り返す特徴があります。

再発を繰り返すと、耐性菌が発生して抗生物質による治療に抵抗性を持つため、優れた抗生物質が開発された現在でも、体力や抵抗力、免疫力が全般的に落ちている高齢者が多く死亡する原因になっています。

嚥下性肺炎の原因となる誤嚥は、胃液などの消化液が食べ物とともに食道を逆流して肺に流れ込むような明らかで大量の誤嚥よりも、不顕性誤嚥といって、口の中の分泌物や胃液が少量ずつ肺内へ吸引される誤嚥のほうが原因として重要です。この不顕性誤嚥に合わせて、口の中の細菌が気管や気管支に吸引され、嚥下性肺炎が引き起こされます。

不顕性誤嚥は、特別な現象ではありません。元気な高齢者であっても、夜間は嚥下機能が低下するため、容易に誤嚥してしまいます。加齢とともに、のど仏の位置は下がり、嚥下の時に喉頭蓋が気管の入り口をふさぐのに時間がかかるようになるからです。特に、鎮静薬、向精神薬などの薬を服用している場合は、嚥下反射が抑えられ、不顕性誤嚥を起こしやすくなります。

肺炎は一般に、発熱、せき、痰(たん)、呼吸困難、胸痛などを主な症状としますが、これらの訴えが高齢者の場合ははっきりしません。また、肺炎は一般的に38℃以上の高熱を起こしますが、高齢者の場合は体温の上昇をみないか、あっても微熱程度のものが少なくありません。それに対して、呼吸数は増え、皮膚や舌の乾燥、すなわち脱水状態になることが多いといわれています。

嚥下性肺炎の検査と診断と治療

内科、呼吸器内科、呼吸器科の医師による診断は、胸のX線(レントゲン)検査で行われます。嚥下性肺炎では低酸素血症に陥っていることが多くあるため、パルスオキシメーターという医療機器によりSpO2(動脈血酸素飽和度)をモニターすることが、診断の参考となります。

原因となった細菌の特定のため、喀痰(かくたん)の培養検査を行います。気管支鏡で気管内採痰ができれば診断がより確実になりますが、発症者の状態があまりよくないことが多いので、細菌の特定は難しいこともしばしばあります。嚥下性肺炎を引き起こす主な原因となるのは、肺炎球菌です。

内科、呼吸器内科、呼吸器科の医師による治療では、原因となった細菌を殺菌するペニシリン系、セフェム系などの抗生物質を投与します。胃液を肺の中に吸い込んで肺炎になった場合、ステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン剤)を短期に用いて肺炎を鎮める場合もあります。

さらに、低酸素血症に陥って呼吸不全(酸素欠乏)になった場合は、酸素吸入を行います。重症の呼吸不全では、人工呼吸器などによる治療も併せて行います。

嚥下性肺炎の多くは抗生物質の投与で治るものの、肺炎の原因である不顕性誤嚥が減らなければ、いったん改善した肺炎が悪化します。そこで、誤嚥を減らす予防策が重要となります。

何より大事なのは口の中を清潔に保ち、口の中でたくさんの細菌を増殖させないようにすることです。歯磨きを毎日して口の中の細菌を減らしたり、たとえ歯がなくともブラッシングをしたり、就寝前にポピヨンヨードでうがいすることも有効な方法です。

寝たきりの高齢者の場合は、仰向けに寝かして放置していると誤嚥が悪化するので、頭部や上半身をベッドで高くしたり、口腔(こうくう)ケアなどを行うと有効です。栄養状態の低下、筋力の低下、意識レベルの低下が誤嚥を増やすため、日ごろよりこれらに対処しておきます。

また、医師による治療で、嚥下機能を改善するアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、抗血小板薬(シロスタゾール)を投与することもあります。アンジオテンシン変換酵素阻害薬は高血圧の薬ですが、嚥下反射物質の濃度を上昇させて肺炎を予防します。抗血小板薬も脳梗塞(こうそく)の予防薬ですが、嚥下反射を高めて肺炎を予防します。

唐辛子(とうがらし)に含まれるカプサイシンにも、同様の作用が認められています。カプサイシンの入った辛い物を食べて、嚥下反射あるいはせき反射を高めておくことは、誤嚥予防、肺炎予防に役立ちます。

🇳🇮遠視

調節しないと、遠いところも近いところもはっきり見えない状態

遠視とは、目の屈折異常の一つで、自動的に調整しないと、遠いところも近いところもはっきり見えない状態。遠視眼、遠眼とも呼ばれます。

目には、近くを見る時に網膜上に正しく焦点を合わせるため、目の中の筋肉である毛様体筋を働かせて、水晶体の屈折を強くする調節力が備わっています。調節力は、小児の時に最大に備わっており、それ以後は加齢とともに徐々に減少します。

この調節力を働かせていない状態で、遠方から眼内に入った平行光線が網膜より後ろで焦点を結ぶのが、遠視です。遠いところにある物も、近いところにある物も、調節力を自動的に働かせないと、はっきり見ることができません。遠視とは、遠くがよく見える状態ではないのです。遠くがよく見える目は、屈折異常のない目である正視です。

正視の場合、5メートル以上の遠方を見ている時には、調節力はほとんど働いておらず、近くを見る時にだけ使っています。遠視の場合、遠方を見ている時にも、本来は近くを見る時にしか使わない調整力を自動的に働かせ、遠視を補正しようとします。いわば、常に眼内の毛様体筋を働かせて、水晶体を厚くした状態を維持しなければなりません。調節し切れない場合には、物がぼやけて見えてしまいます。特に、近くを見る時は、より強い調節が必要になります。

角膜や水晶体の屈折力が弱いために起こる遠視と、眼球の長さが通常より前後に短いために起こる遠視とがあります。前者を屈折性遠視、後者を軸性遠視と呼びます

小児期は眼球が小さく長さも短いため、遠視であることが普通で特別なことではありません。5歳までの小児では、90パーセントに遠視が認められます。成長するにつれて遠視が弱くなり、正視になったり、通り越して近視になることが多くなります。

 小児が遠視であっても調節力が強いため、症状が現れない場合が多いのですが、豊富な調節力をもってしても補正できないほどの強度遠視になると、目が寄ってきて内斜視になったり、視力の発達が止まって弱視になったりします。目が疲れやすく、集中して物を見ることが難しくなるために、行動にむらが出て、周囲から「落ち着きがない」、「集中力がない」、「飽きっぽい」などといわれることもあります。

軽度の遠視でも年を取るにつれ、絶えず目の調節を必要とするために、眼精疲労や体の疲労の原因になります。集中できないために、学習や仕事の能率が上がらない原因にもなります。また、光をまぶしく感じたり、肩凝りや頭痛を覚えことも多くなります。

60歳以上になると、正視だった目が遠視になったり、遠視だった目の度数が強くなる傾向があります。これは老人性遠視と呼ばれます。 60歳以前に「遠視になった」といわれるものは、ほとんどの場合、若いころは自覚されなかった軽度の遠視が調節力の低下により、自覚されるようになったものです。

遠視の検査と診断と治療

人間の視覚の発育は、6歳ころまでにほぼ終わります。小児の強度遠視が疑われた場合には、早めに発見して適切な処置をとるために、小学校入学前にでも念のため、眼科医による検診を受けます。

小児以外の遠視の場合では、目の疲れを中心とした症状に、体の疲労が加わります。近くを見る作業を長く続けると、目や体に疲れがたまりやすいようであれば、眼科医に相談してみます。

眼科では遠視を見付けるために、調節を一時的に休ませる目薬を用いて検査します。子供では調節力が強いため、幼稚園や学校の視力検診で発見されないのが普通です。

遠視の治療としては、凸レンズの眼鏡、コンタクトレンズなどで屈折率を高め、矯正します。凸レンズは、レンズに平行に入ってきた光を集め、屈折力を強めるように働くので、 網膜の後ろで像を結ぶ遠視の矯正に用いられます。凸レンズの度数は、調節力を働かせない状態で遠方にピントが合って、はっきり見える状態に設定されます。

子供の場合は、生理的な状態にあるものにまで矯正をする必要はありません。しかし、遠視の度が強かったり、斜視や弱視がある時、また眼精疲労を訴える時には、矯正を行います。

🇦🇶炎症性角化症(乾癬)

慢性の経過をとり、なかなか治りにくい皮膚疾患

炎症性角化(かくか)症とは、皮膚が赤みを帯びる炎症と、皮膚の表皮や角質層が厚くなる角化症が同時に起こる皮膚疾患。乾癬(かんせん)、扁平苔癬(へんぺいたいせん)、毛孔性紅色粃糠疹(もうこうせいこうしょくひこうしん)などが含まれる。

炎症性角化症の代表である乾癬は、皮膚が赤くなって盛り上がり、表面に厚い銀白色の鱗屑(りんせつ)がついて、その一部がポロポロとはがれ落ちる皮膚疾患。慢性の経過をとり、なかなか治りにくい疾患ですが、周りの人に移ることはありません。

日本では3〜16万人の発症者がいると推定され、近年は増加傾向にあります。男女比は2対1で男性に多く、主に30〜40歳代に発症します。女性では、10歳代と50歳代の発症が多いといわれています。

乾癬の起こる原因は、いまだはっきりとしていません。一説によると、一種の免疫反応の異常により生じるとされます。すなわち、健常な皮膚では、表皮細胞と白血球(リンパ球など)がサイトカインなどの伝達物質を使って、うまく連絡を取り合ってお互いを制御していますが、このバランスが崩れると表皮細胞が一方的に増殖して、早く脱落していくことが起こります。

健常な皮膚では普通、表皮細胞はその一番外側に角質層という死んだ細胞の層を作り、垢(あか)になって落ちていくことを、一定の周期の45日で繰り返しています。乾癬では、この周期が4~5日と極度に短縮しているため、カサカサした薄皮である鱗屑がどんどんできては、ポロポロとはがれていきます。

この免疫反応の異常は、遺伝的になりやすい体質がある人に、扁桃腺(へんとうせん)炎などの感染症、薬物や外傷などの外的因子、糖尿病や高血圧、肝臓病、ストレスなどの内的因子が複雑に絡み合って発症したり、悪化したりすると考えられています。第二次世界大戦後に増加した疾患であり、もともと欧米人に多いことから、食事の西洋化が関係しているのではと類推されています。

一つひとつの発疹は、にきびのような赤いぶつぶつで始まり、次第に周囲に拡大するとともに厚い鱗屑を持つようになり、ある時を境によくなって、鱗屑がなくなるということを繰り返します。その時の鱗屑の大きさは、一定していません。このように、よくなったり悪くなったりを年余に渡って繰り返します。

乾癬では、ケブネル現象といって、繰り返しこすったり、傷付いたりした個所に、数日してから新しい発疹が出てくることがあります。これは、体の中でよくこすれる部位である肘(ひじ)や膝(ひざ)、尻(しり)、頭の毛の生え際などから発疹が出てきたり、あるいは発疹がひどい傾向にあります。

また、アウスピッツ血露現象といって、鱗屑を無理にはがすと、点状に出血がみられることがあります。これは、乾癬の特徴的な表皮の増殖の仕方と関係しています。すなわち、表皮が厚くなった部分と薄くなった部分が隣り合っているため、薄い表皮の下にある血管が傷付いて生じると考えられます。

鱗屑が厚い時にかゆみがありますが、基本的には自覚症状もなく、内臓にまで疾患が及ぶことはありません。爪(つめ)が白く厚ぼったくなり、爪水虫と間違われる場合もあります。

こういった乾癬の典型的症状のみがみられる例を、尋常性乾癬といいます。乾癬の中の特殊な病型として、発疹が全身に広がり真っ赤になる乾癬性紅皮症、赤みの上に小さな膿(うみ)が多発する膿疱(のうほう)性乾癬、リウマチのような関節症状を伴う関節症性乾癬があり、これらは何かの切っ掛けで急に悪化する重症型の乾癬といえます。別の特殊型に、滴状乾癬があります。これは、子供から若い人に多く、風邪のような症状に引き続いて、全身に小型の発疹が一度に多発します。

炎症性角化症(乾癬)の検査と診断と治療

乾癬の症状に気付いたら、近くの皮膚科専門医のいる医療機関を受診し、治療法を相談します。多くのケースでは外来通院治療が行われ、重症型の場合には入院治療が必要なこともあります。

皮膚科の医師による診断は、特徴的な発疹とその分布、経過より判断します。通常は内臓の異常はありませんが、時に糖尿病、高血圧、肝臓病を合併していることがあるので、検査で確認することが必要です。また、薬の副作用で乾癬のような発疹が出てくることもあります。治療の効果がみられない場合や経過の長い場合は、発疹の一部を切って顕微鏡で調べる組織検査を行うと、診断が確定します。

まだ根本的な治療法はなく、症状に合わせたいろいろな治療が行われます。いずれの治療法も治療を中止すると、再発することがあります。また、必ずしも強力な治療法を行うことが最善とは限りません。そこで、乾癬のタイプなど医学的要因、年齢など発症者の要因などをもとに、治療による効果と危険性を考え、医師と発症者とで検討をして治療方針を決めます。

症状に合わせた治療の方法には、外用薬、内服薬、光線療法などさまざまあります。症状が軽い場合には主に外用薬で、症状が重くなると内服薬や光線療法で治療します。

外用薬には、副腎皮質(ふくじんひしつ)ステロイド薬が多く用いられています。そのほか、活性型ビタミンD3外用薬も副腎皮質ステロイド薬ほどの速効性はありませんが、副作用が軽微なので併せて使用します。古くから用いられてきた外用薬にタールやアンスラリンなどがありますが、現在は一部の病院でしか使用されていません。

内服薬としては、ビタミンA類似物質であるエトレチナート(チガソン)や、免疫抑制薬であるシクロスポリン(ネオーラル)が用いられ、一定の効果が得られています。

エトレチナート(チガソン)は、表皮細胞がどんどん増殖していくことを抑制する薬で、特に膿疱性乾癬の場合には最も効果があります。問題は副作用で、妊娠中に内服すると奇形児が産まれる可能性が高まります。薬をやめてからも、女性は2年、男性は半年間避妊の必要もあります。長期間に渡って内服した場合には、骨への影響が出ることがあり、口唇がカサカサと荒れることもあります。

シクロスポリン(ネオーラル)は、最も即効性があります。副作用として腎障害、高血圧があり、薬の血中濃度と併せて定期的チェックを行い、薬の量を調整します。胎児への安全性は確立されていないので、妊娠中は内服を行いません。

光線療法は、紫外線の増感剤であるメトキサレン(オクソラレン)を発疹部に塗り、長波長紫外線UVAを当てる治療で、PUVA(プーバ)療法といいます。乾癬が全身にある場合、入院して内服のメトキサレンを使用してPUVA療法を行う場合もあります。紫外線を当てることで、異常な免疫反応が抑制され、効果が得られると考えられています。

ただし、皮膚への障害が少ないUVAとはいっても、長期間に渡る場合は将来の発がんの危険性を高める可能性もありますので、照射する総量を一定量以下にしておく配慮が必要とされます。妊娠中は、胎児への影響がわかっていないので行いません。近年、PUVA療法に代わる光線療法として、特定の紫外線波長を利用したナローバンドUVB療法も利用されるようになってきています。

いずれの治療法も一長一短があるため、治療により得られる効果と副作用のリスクの兼ね合いを考え、うまく組み合わせて症状をコントロールすることが大切です。乾癬の多くは慢性に経過しますが、自然に軽快、治癒することもあります。滴状乾癬は、副腎皮質ステロイド薬の外用と抗生物質の内服で軽快し、他の病型と異なり多くは一過性です。

生活上の注意としては、こすると新しい発疹が出てくるケブネル現象がありますので、皮膚をこすり過ぎないように注意します。入浴は構いませんが、こすり過ぎず、また鱗屑を無理にはぎ取らないようにします。ただし、鱗屑には発疹の慢性化に関係する物質も含まれていますので、ぬるま湯につかって軟らかく後で無理なく鱗屑を取ることはよいことです。

日光浴も効果があるので、適度に行います。急激に日焼けをするとやはりケブネル現象で悪化することもあるので、あくまでも適度に。風邪を引いたりした後など、感染によりサイトカインのバランスが崩れ、乾癬の症状が悪化することがあります。風邪を引かないように、まめにうがいを励行します。精神的な動揺やストレスが疾患を悪くしますので、短気を起こさず、気長に治療していきます。

🇳🇦炎症性腸疾患

主として消化管に原因不明の炎症を起こす慢性疾患の総称

炎症性腸疾患とは、主として消化管に原因不明の炎症を起こす慢性疾患の総称。通常の食中毒などと異なり数日でよくなりことはなく、長期に渡ってよくなったり悪くなったりしながら症状が続きます。

適切な治療を受ければ通常の生活を送れますが、完全に治ることはなく、生活が大きく犠牲になるのが炎症性腸疾患の特徴です。具体的には、クローン病と潰瘍(かいよう)性大腸炎の2疾患からなります。

クローン病は腹痛と下痢が続く原因不明の慢性疾患

クローン病は、小腸の最後の部分に当たる回腸末端を中心に、小腸のほかの場所、大腸から口腔(こうくう)に至る消化管に炎症を起こし、びらんや潰瘍を生じる慢性の疾患。大腸だけが侵される潰瘍性大腸炎と似ている点も多く、2つをまとめて炎症性腸疾患と呼びます。

遺伝的要因とそれに基づく腸管での異常な免疫反応のためとされていますが、はっきりとした原因は解明されていません。食生活の欧米化によって、日本でも20歳代を中心に発症者数が増えており、食物中の物質や微生物が抗原となって異常反応を引き起こすことが、原因の1つと考えられています。

1932年に、アメリカの内科医ブリル・バーナード・クローンらによって限局性回腸炎として報告され、後に病名は改められましたが、回腸末端から盲腸にかけての回盲部に好発する点は確かです。病変が小腸のみにある小腸型、大腸のみにある大腸型、両方にある小腸大腸型に分類されます。日本では、いわゆる難病として厚生労働省特定疾患に指定されており、申請すると医療費の補助が受けられます。

主な症状は、腹痛、下痢。進行すると、体重減少、発熱、貧血、全身倦怠(けんたい)感がみられます。また、腸管が部分的に非常に狭くなることが多く、そのため腹痛はなかなか軽快しません。

血便はあまりはっきりしないこともあり、下痢や下血が軽度の場合、なかなか診断が付かないことがあります。口腔粘膜にアフタ(有痛性小円形潰瘍)や小潰瘍がみられたり、痔(じ)、特に痔瘻(じろう)や肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)といわれる難治性の肛門疾患を合併したりすることがあります。

また、消化管以外の症状として、関節炎、結節性紅斑や壊疽(えそ)性膿皮症などの皮膚症状、ぶどう膜炎などの眼症状を合併することがあります。

潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜に多数の潰瘍ができ、再発しやすい難病

潰瘍性大腸炎とは、大腸の粘膜に多数の浅い潰瘍ができ、出血する疾患。クローン病と同じく、厚生労働省から特定疾患の一つに指定されています。

最近、日本でもだんだん増えてきた大腸の慢性の炎症で、20歳代、30歳代で発症する人が多く、子供や50歳以上の人でも起こり、男女差はありません。日本では、人口10万人当たり2〜3人くらいで、毎年おおよそ5000人増加していますが、欧米では日本の2〜3倍多いとされています。

原因については、まだよくわかっていません。 細菌やウイルスの感染、ある種の酵素の不足、ストレス、体質が関係しているといわれ、近年では自己免疫異常説がかなり有力です。

私たちの体には、細菌などの有害なものを排除する免疫の仕組みがあります。この免疫の仕組みは腸の中でも働いていて、食べ物が腸を通過する際には、栄養分のように体に必要なものだけを腸の粘膜から吸収し、不要なものや有害なものは吸収せずに、そのまま腸から通過させて便として排出します。 ところが、免疫機構の異常が大腸に生じると、不要なものまで腸の粘膜から吸収されるようになる結果、大腸の粘膜に炎症が起こって潰瘍ができると考えられています。

また、潰瘍性大腸炎が増加している背景には、大腸がんと同じように、食生活の欧米化、特に脂肪の多い食事の取りすぎがあると推測されます。

最初、病変が直腸にできる直腸炎型として起こり、直腸からS状結腸に渡って病変が広がって直腸S状結腸炎型となります。さらに、下行結腸へと広がる左側大腸炎型となり、横行結腸から上行結腸へと進んでいき、全大腸炎型になります。直腸炎型は最も軽く、全大腸炎型が最も重症です。

潰瘍性大腸炎の主な症状は、腹痛と血便。最初は腹痛と下痢で始まり、次第に下痢便に血液が混じって血性下痢になります。直腸の一部のみに病変が限られている時は、排便の際に少量の出血がみられる程度のため、内痔核からの出血とはっきり区別が付けにくいこともあります。

直腸やS状結腸に強い病変が起こると、渋り腹という状態になり、排便した後もすっきりせず、何回でもトイレに行きます。

腹痛は、左下腹部に起こることが多く、特に排便の前に強くて、排便後は軽くなって消失します。そのほか、腹部のはれぼったい感じ、食欲不振、吐き気、嘔吐(おうと)などが起こってくることもあります。体温の変化は、最初は特にないものの、炎症が進んでくると、発熱するようになります。

さらに重症になってくると、1日のうち、何回も血性下痢が起こり、食欲不振と体重減少が生じます。

この潰瘍性大腸炎は、大腸の炎症のほかにも、いろいろな合併症を引き起こしやすい疾患で、腸の局所的な合併症と、全身的な合併症とがあります。

局所的な合併症として、痔核、痔瘻、肛門周囲膿瘍などの直腸と肛門の疾患や、炎症の結果として、大腸の内腔が狭くなる大腸狭窄(きょうさく)、潰瘍が深くえぐれる大腸穿孔(せんこう)を起こしたりします。

大出血や、大腸が急にまひして拡張する中毒性大腸拡張症などを合併することもあります。そのほか、血液中の蛋白(たんぱく)質が胃腸から漏れ出る蛋白漏出性胃腸症などを起こして、栄養障害の引き金になることもあります。

全身的な合併症としては、出血に伴う貧血、結膜炎や虹彩(こうさい)炎などの目の疾患、口内炎や重い皮膚炎、関節炎などがあります。重症の潰瘍性大腸炎では、肝炎や肝硬変、膵炎(すいえん)といった内臓の疾患を合併することもあります。

症状の経過によって、潰瘍性大腸炎は再発寛解(かんかい)型、慢性持続型、急性電撃型、初回発作型に分けられます。

再発寛解型は、一時的によくなったり、再発したりを繰り返すタイプ。慢性持続型は、病状がずっと慢性的に続くタイプ。急性電撃型は、最も重症で突然に病状が悪化するタイプ。初回発作型は、1回しか起こらず、直腸だけに限局して軽く、進行しないタイプ。

一般に、病変に侵された大腸の範囲が広いほど予後が悪く、合併症も多くなります。

炎症性腸疾患の検査と診断と治療

クローン病の検査と診断と治療

クローン病をいったん発症すれば、急性期は家庭で自分でコントロールできる疾患ではありません。まれな難病ですので、胃腸科専門医の適切な治療を受けることが大切です。

クローン病の病変は、非連続性といわれ、正常粘膜の中に潰瘍やびらんが飛び飛びにみられます。また、縦走潰瘍といわれる消化管の縦方向に沿ってできる細長い潰瘍が特徴的で、組織を顕微鏡で見ると非乾酪性類上皮細胞肉芽腫(にくげしゅ)といわれる特殊な構造がみられます。大腸内視鏡検査、小腸造影検査、上部消化管内視鏡検査などを行い、このような病変が認められれば診断がつきます。血液検査では炎症反応上昇や貧血、低栄養状態がみられます。

根本的治療法はありませんが、薬物療法として、5—アミノサリチル酸製剤(サラゾピリン、ペンタサ)、ステロイド薬を使用します。食べ物が原因の1つとして考えられているため、栄養療法も重要で、最も重症の時には絶食と中心静脈栄養が必要です。少しよくなってきたら、成分栄養剤(エレンタール)という脂肪や蛋白質を含まない流動食を開始します。成分栄養剤は、栄養状態改善のためにも有効です。

炎症が改善し普通食に近い物が食べられるようになっても、脂肪の取りすぎや食物繊維の多い食品は避けます。

腸に狭窄を生じたり、腸管と腸管、腸管と皮膚などがつながって内容物が漏れ出てしまう瘻孔を生じたり、腸閉塞、穿孔、膿瘍などを合併したりした場合、内科的治療の効果が期待できないため手術が必要となることがあります。

最近、抗体療法である抗TNFα(アルファ)抗体製剤(レミケード)が日本でも使用可能となり、高い活動性が続く場合や瘻孔を合併している場合に明らかな効果が認められています。対症療法として、止痢薬、鎮痙(ちんけい)薬などを使用します。免疫抑制薬(アザチオプリンなど)を使用することもあります。

長期に渡って慢性に経過する疾患であり、治療を中断しないことが大切です。治療の一部として日常の食事制限が必要なことが多く、自己管理と周囲の人たちの理解が必要です。症状が安定している時には通常の社会生活が可能です。

潰瘍性大腸炎の検査と診断と治療

血便や下痢を起こす疾患は、潰瘍性大腸炎のほかにも、急性腸炎やがんなどいろいろあります。自分の判断で安易に下痢止めや止血剤を使うと、かえって症状をひどくする危険があります。消化器科の専門医を受診して、内視鏡検査などをした上で適切な治療を受けるようにします。潰瘍性大腸炎の合併症も早期に発見できれば、長引かせずに治療することが可能になります。

医師による診断のための検査では、大腸のX線検査が重要です。腸管を下剤で完全に空にした状態で、肛門から造影剤と空気を入れてX線撮影するもので、大腸の粘膜の凹凸、びらん、潰瘍などが描写され、病変の範囲や、程度を知ることができます。次いで、大腸内視鏡検査によって、より詳細な所見を捕らえ、診断を確実にします。

潰瘍性大腸炎は原因がはっきりしないため、決定的な治療や予防はまだできないのが現状です。対症療法としては、まず精神的、肉体的な安静を保ち、消化吸収がよく、栄養価の高い食事をとります。豆腐や白身の魚、鶏のささ身などは最適です。

炎症がひどい時には、脂質の多い食品や、繊維質の多い食品は避ける必要があります。脂質の多い食品は胃腸の負担を増大させますし、繊維質が多い食品は便の量が増えて、大腸の粘膜の傷が刺激されやすくなるからです。また、出血を伴う場合は、わさび、からし、こしょうなどの刺激物や、アルコール類のように血管を拡張させるものも控えるようにします。

薬物療法としては、軽症ではサラゾスルファピリジンというサルファ剤を内服薬、または座薬として用います。サルファ剤は、特効的に効果を発揮することがあります。中等症では副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤の内服薬、座薬が用いられます。重症では抗生物質、輸液、輸血が必要なこともあります。中等症、重症では、入院治療を要します。

急性電撃型の場合、内科的な治療だけでは無理なため、手術が必要です。全大腸炎型で生命に危険があると判断された場合も、手術が行われます。全身に及ぶ合併症の場合には、消化器科の専門医に加えて、眼科、皮膚科、整形外科などの多くの専門医が協力して、治療に当たることになります。

この潰瘍性大腸炎は、一時的に快方へ向かっても、しばしば悪化します。精神的なストレスや不安感が引き金になることが多く、しばしば試験勉強などで悪化したり、暴飲暴食で悪化することも少なくありません。

従って、十分に睡眠をとることと、食事を規則正しくして、過労を避け、精神の安定に努めます。いずれにしても長い経過をとる疾患なので、療養にもそれだけの時間がかかります。

🇳🇷炎症性乳がん

まれに発生する特殊なタイプの乳がんで、非常に治りにくい種類

炎症性乳がんとは、乳房の皮膚が赤くはれて、オレンジの皮のような外観を示すタイプの乳がん。

まれに発生している特殊なタイプの乳がんで、非常に治りにくい種類です。乳がん全体の約1パーセントを占めます。

一般的な乳がんと同様、40~50歳代に最も多く発症しますが、全年齢において発症する可能性があります。

主に乳頭周辺に症状が出現し、はっきりしたしこりはなく、乳房の3分の1以上の皮膚が赤くはれて、あたかも炎症を起こしたかのように見えるのが特徴です。

さらに、乳房の皮膚がザラザラして、でこぼこになり、毛穴が目立つようになります。まるでオレンジや夏みかんの皮のような外観を示すため、オレンジ皮様皮膚、橙皮(とうひ)状皮膚などと呼ばれることもあります。

また、比較的短期間のうちに乳房が大きくなることも特徴の一つです。乳房が熱を持つように感じ、かゆみが出ることもあります。これらの症状はほとんどの場合、片側の乳房だけにみられます。

しかし、実際は皮膚炎などではなく、がん細胞が乳房のリンパ液の流れをブロックすることにより、皮膚に症状が出たものです。

皮膚の下には、網の目のように張り巡らされたリンパ管があります。このリンパ管の中に、乳管で発生したがん細胞が入って増殖し、詰まりを起こすために、リンパ液の流れが停滞し、乳房の炎症やはれを引き起こします。

さらに進行すると、乳房に潰瘍(かいよう)ができることもあります。ここから分泌液が染み出したり、出血することがあります。潰瘍に細菌などが感染すると、臭いを発するようになります。

まれな乳がんではあるものの、乳がんの中では比較的進行が早く、転移も起こしやすいことから、悪性度の高いがんといえます。

診断がついた時には、すでにほかの部位に転移しているケースも多く、その皮膚の症状や急激な進行から、急性乳腺(にゅうせん)炎と誤診されることも珍しくありません。乳房に赤みやはれが認められたら、皮膚科のみならず、乳腺外科を受診してみることが勧められます。

炎症性乳がんの検査と診断と治療

皮膚科、乳腺外科の医師による診断では、しこりがないケースが多いため、一般的な乳がんで有効なマンモグラフィー(乳房X線検査)、超音波(エコー)検査などでわからないことがほとんどです。

乳房の皮膚を一部採取し、顕微鏡で調べる生体検査が、最も確実とされています。生体検査を行い、皮膚やその下にあるリンパ管に、がん細胞が存在しているのが確認されれば、炎症性乳がんと確定します。

皮膚科、乳腺外科の医師による治療では、抗がん剤による化学療法を中心に、症状に応じて乳腺の動脈に直接抗がん剤を注射する方法や、放射線療法、ホルモン療法などが選択されます。

乳房を切除する手術をした場合でも、手術後の化学療法を継続することで、5年生存率は約50パーセントまでに上昇しています。

以前は、乳房を切除する手術のみの治療が主に行われていましたが、その結果は思わしくないもので、患者のほぼ全員に再発がみられ、5年生存率はわずか17パーセントであったとのデータがあります。

🇳🇷遠心性後天性白斑

黒子を中心にして、周囲の皮膚に白いまだらが円形に生じる疾患

遠心性後天性白斑(はくはん)とは、色素性母斑の一番小さい型である黒子(ほくろ)を中心にして、周囲の皮膚に白斑が円形に生じる疾患。サットン後天性遠心性白斑、サットン白斑、サットン母斑とも呼ばれます。

小児や青年の胴体や顔、頸部(けいぶ)などにみられ、中心から外に向けてだんだん大きくなる傾向があります。その半数くらいに、全身どこにでも突然、皮膚の一部の色が抜けて、その部分が白斑、すなわち白いまだらとなる尋常性白斑の合併がみられます。

遠心性後天性白斑は徐々に広がりますが、それに伴って中心にある黒子は縮小するようになり、最終的には消えます。中心の黒子が消失すると、周囲の白斑も消失していく傾向があります。

遠心性後天性白斑は、中心にある色素性母斑である黒子や、皮膚の色素であるメラニンを作るメラノサイト(メラニン細胞、メラニン形成細胞、色素細胞)に対する自己免疫反応が原因といわれています。この正常でない免疫反応が、中心にある黒子に対して生じ、次いで、黒子の周囲の正常な皮膚のメラノサイトに対しても生じると、メラノサイトを変性させたり、消失させるために皮膚の色が抜けて、白いまだらが円形に生じることになります。

なお、中心に黒子がないのに、腫瘍(しゅよう)や母斑の周囲に同じような白斑ができることをサットン現象といいます。最も危険なのは悪性黒色腫(メラノーマ)で、しばしばみられます。血管腫、皮膚線維腫、表皮母斑、青色母斑、老人性疣贅(ゆうぜい)(いぼ)などでも、このサットン現象が起こることがあります。

遠心性後天性白斑の検査と診断と治療

皮膚科、ないし皮膚泌尿器科の医師による診断では、視診で判断します。皮膚をほんの少し切り取って病理組織検査を行うと、黒子の周囲の皮膚のメラノサイトの消失、あるいは変性が見られ、その周りにはマクロファージおよびリンパ球の浸潤が見られます。

皮膚科、ないし皮膚泌尿器科の医師による治療では、中心の黒子が消失すると周囲の白斑も軽快していくため、治療として中央の色素性母斑である黒子だけを切除する場合もあります。初期の段階で切除すると、白斑は自然に消えて治癒します。

また、特に支障がない場合、経過観察になることもあります。基本的には、尋常性白斑と同様の治療方法がとられます。

尋常性白斑と同様の治療としては、外用剤として副腎(ふくじん)皮質ステロイド軟こうやビタミンD3軟こうなどを使用する治療と、紫外線照射療法(PUVA療法)が一般的です。外用剤の皮膚への塗布は、内服薬に比べて全身に及ぼす副作用が少なく、免疫の働きを調節する作用があります。

紫外線照射療法(PUVA療法)は、オクソラレンという薬を10〜30分前に塗布、ないし2時間前に内服し、その後、長波長紫外線を照射する方法です。紫外線の働きで残っている色素細胞が活発になり、色素を作るようになるのを期待します。紫外線に当たった後は、せっけんで薬をよく洗い落とします。近年では、中波長紫外線(UVB)のうち、治療に有効な波長のみを全身に照射するナローバンドUVB療法も行われています。

治療の効果があると、白斑の中に点状の色素斑ができて徐々に拡大し、島状の色素斑になります。続いて、白斑の周囲にも色素が増強すると、徐々に周囲の肌色になじんできます。

🇳🇬円錐角膜

角膜の形が変形して、視力が低下する疾患

円錐(えんすい)角膜とは、角膜のほぼ中央が前方へ突き出して円錐形となり、その中央が非常に薄くなる疾患。角膜の変形によって視力が低下し、疾患が発見されます。

眼球の黒目の表面を覆う薄い膜である角膜は、透明であることによって、光を眼球の内部に導きます。また、角膜の形は、きれいな球面であることによって、水晶体と並んで眼球のレンズとしての役割を果たしています。よって、角膜が混濁すると視力が低下し、角膜の形が変形するとレンズとしての機能が損なわれ、同じく視力が低下します。

円錐角膜の多くは、思春期ごろに発症します。徐々に進行し、一般的には30歳ごろに進行が停止すると見なされています。個人差によって、30歳を超えても進行することがあります。いずれにしろ、風邪のようにすぐ治ってしまう疾患ではなく、近視のように一度生じるとずっとある疾患です。

ほとんどが両目に起こり、左右の目で進行の程度に差があることが一般的です。片方の目は軽くてすむこともあります。最初は近視や乱視が急に進むという症状で始まり、自覚的な症状としては視力障害や、片目で物を見た時に二重に見える片目複視、異物感が主です。視力は、眼鏡で十分に矯正できます。

ある時期から急に進行すると、角膜の中央が前方へ突き出してきます。物がゆがんで見えるようになったり、遠近の距離を問わず視力が低下し、夜間の視力はしばしば極めて低下します。眼鏡では無理で、ハードコンタクトレンズでないと視力の矯正ができなくなってきます。その後、さらに角膜が突出してくると、コンタクトレンズも装用できなくなり、強い視力低下を起こします。 失明することはまずありません。

時には、進行中に急性水腫(すいしゅ)を生じることもあります。角膜の一番奥に亀裂(きれつ)が生じ、そこから角膜内に大量の眼内液が流入するため、角膜が著しくはれます。この急性水腫の際には、肉眼でも角膜の中央が白く濁っているのがわかるようになり、視力はさらに低下します。

円錐角膜はいまだ不明な点の多い疾患で、原因は不明。発見されても全く進行しない場合があるなど、経過もさまざま。遺伝することもあるため遺伝的素因、アトピー性皮膚炎を合併していることも多いためアレルギー性素因が原因の一つと見なされ、目をこするという外力が悪化の要因となっていると見なされています。

円錐角膜の検査と診断と治療

円錐角膜は不明な点が多く、経過もさまざまですが、急に進行すると重篤な症状に至ることもあるため、軽症のうちに眼科の専門医を受診します。

医師による診断では、進行したものは細隙(さいげき)灯顕微鏡検査でわかります。軽症のものは、フォトケラトスコープやビデオケラトスコープという特殊な装置によって、角膜の表面の形を解析する検査が必要です。パキメーターという角膜の厚みを測る検査も、診断に役立ちます。 

軽症の時は、眼鏡なし、あるいは眼鏡かソフトコンタクトレンズで適正な視力が得られます。進行した時は、多くの場合ではハードコンタクトレンズを装用することで、視力を維持することができます。また、軽度の時は、一般に市販されているコンタクトレンズが装用可能ですが、進行した時は、特別に注文して作成するコンタクトレンズでないと装用できなくなります。

近年では、円錐角膜用の特殊なコンタクトレンズも開発されています。ハードコンタクトレンズを装用することによって、円錐角膜の突出の進行が抑制される効果もあります。

コンタクトレンズが良好に装用できれば、運転その他の日常生活を通常通り送れるようになります。年に数回は、コンタクトレンズのチェックと円錐角膜の進行の有無を調べる目的で、定期検査を受ける必要があります。

急性水腫が生じた時は、コンタクトレンズは装用せず経過をみます。非常に強いはれと濁りがあるにもかかわらず、だいたい1〜2カ月で角膜内の眼内液が引き、透明性も回復して軽快します。軽快後、多くの例では再びコンタクトレンズが装用できるようになります。 以前は、急性水腫に対して緊急で角膜移植手術を行っていましたが、その後の研究で、緊急の手術は必要がないことが立証されています。

もしコンタクトレンズが装用できない、あるいは装用しても視力を矯正できない状態まで円錐角膜が進行した場合は、角膜移植手術が行われます。前方へ突き出して薄くなった中央部の角膜を取り除き、死亡後にアイバンクへ提供された人の角膜を、移植するものです。

角膜移植手術の成功率は非常に高いものの、術後に乱視や近視が残ることがあります。この場合には、コンタクトレンズで矯正します。

なお、近年では、軽度の円錐角膜の人が、近視などを手術で治す屈折矯正手術を受けるケースが多くなり、問題となっています。現在の屈折矯正手術は、角膜を削ることによって行われています。この手術を、もともと角膜が突出して薄くなってきている円錐角膜の人が受けると、ますます進行してしまいます。初期の円錐角膜と強い乱視の区別は難しいので、円錐角膜が疑われる場合は屈折矯正手術は見合わせるべきです。

🇳🇬円背

脊椎の胸椎部の後方への湾曲が極端に大きくなっている疾患の総称

円背(えんぱい)とは、背骨、すなわち脊椎(せきつい)のうちの胸椎部の後方への湾曲が極端に大きくなっている疾患の総称。脊椎後湾症、脊柱後湾症、亀背(きはい)、猫背(ねこぜ)とも呼ばれます。

人間の脊椎は、7個の頸椎(けいつい)、12個の胸椎、5個の腰椎、仙骨、尾骨で成り立っています。正常な脊椎は体の前から見ると真っすぐですが、横から見ると、緩やかなS字の形をしています。すなわち頸椎部は前湾(前に向かって湾曲している)、胸椎部は後湾(後ろに向かって湾曲している)、腰椎部は前湾を示しています。

このように脊椎は本来、後湾している部分があるのですが、円背では、胸椎部の後湾している角度が極端に大きくなったり、腰椎部の前湾が失われて後湾になったりしています。

円背はいわゆる背中が丸くなっている疾患の総称で、背中を丸めた猫背が習慣化するなど姿勢の異常などによる非構築性円背(機能的円背)は日常的に注意すれば治せるもので、問題はありません。しかし、病的な後湾である構築性円背は病的な後湾であり、治療が必要になります。

構築性円背には、青年期後湾症(ショイエルマン病)、先天性脊柱後湾症、老人性後湾症(老人性円背)、脊椎カリエス(結核性脊椎炎) による後湾、脊椎損傷後の後湾などがあります。

青年期後湾症は、成長に伴って複数の円柱状の椎体がくさび状に変形し、脊椎、特に胸椎部が丸く変形するものです。成長期は骨の発育が速いため、特に異常が発生しやすくなりますが、成長が終了すると進行も止まります。

先天性脊柱後湾症は、椎骨の前方にある円柱状の椎体の生まれ付きの変形によるもので、椎体の癒合や、くさび状の椎体がみられます。成長に伴って進行するものがあります。

老人性後湾症は、加齢が原因で多くの椎体間の椎間板が変性したり、骨粗鬆(こつそしょう)症で多くの椎体が押しつぶされることによって起こります。

脊椎カリエスによる後湾は、小児期の脊椎カリエスの後遺症としてよくみられます。

脊椎損傷後の後湾は、事故などで胸椎部と腰椎部の移行部の脊椎が高度に骨折し、さらに後方の靱帯(じんたい)の損傷を伴った場合に起こるものです。進行する場合は、手術を行う必要があります。

そのほか、椎骨の後方にあるアーチ型をした椎弓の切除後や放射線治療の後に、後湾が起こることがあります。また、強直性脊椎炎では、胸椎部に後湾が起こったまま椎体が癒着し、強直に陥るのが特徴です。脊髄髄膜瘤(りゅう)、軟骨無形成症でも、後湾が起こることがあります。

原因によって異なりますが、円背は、軽度では何の症状も現れない場合が多く、持続的な背中の痛みがみられることがある程度です。重度になると、腰が強く傷んだり、神経の障害を生じる場合があります。また、脊椎がねじれを伴って側方に湾曲する脊椎側湾症と合併すると、複雑な湾曲が現れます。

円背の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、円背は痛みなどの症状に乏しいため、脊椎の変形から疑います。次に、X線(レントゲン)検査を行い、画像で椎体の変形が見付かれば、比較的簡単に判断できます。

原因を知るために、さらに詳しい検査が必要な際は、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査が有用です。また、加齢が原因と疑われる際は、骨粗鬆症の検査を行います。

整形外科の医師による治療は、原因や進行度、年齢によって方法が異なります。軽度の場合は、運動療法で姿勢を正すために必要な力をつけて、経過観察します。重度の場合は、サポーターやコルセットで姿勢を固定したり、負荷を軽減する装具療法を行い、進行の防止を図ります。

先天性の後湾症や、筋力低下や感覚障害などの神経の障害が現れた場合、後湾の状態がひどい場合は、手術を行って後湾している脊椎を矯正して固定します。

ほかの疾患が円背の原因である場合には、その疾患の治療を行います。

円背と診断されたら、医師の指示に従って、運動療法や装具療法を正しく根気よく行うことが大切となります。とりわけ青年期後湾症、先天性脊柱後湾症は進行するので、途中で治療をやめたりすると、計画的な治療が受けられなくなります。また、進行するかどうかをみるために、定期的に検査を受ける必要があることもあります。

🇹🇴円板状エリテマトーデス

皮膚限局型エリテマトーデスの一つで、慢性型のサブタイプに属する皮膚疾患

円板状エリテマトーデスとは、日光露出部である頭部、顔面、四肢などに、円板状の紅斑(こうはん)が好発する原因不明の皮膚疾患。慢性円板状エリテマトーデス、円板状紅斑性狼瘡(ろうそう)とも呼ばれます。

膠原(こうげん)病の代表的な疾患で全身性の症状を伴う全身性エリテマトーデスと異なり、皮膚症状のみ出現する皮膚限局型エリテマトーデスの1つであり、慢性型のサブタイプに相当します。皮膚限局型エリテマトーデスには、急性型、亜急性型、中間型のサブタイプもあります。

円板状エリテマトーデスの症状は、類円形ないし不整形で、魚の鱗(うろこ)のようにはがれる鱗屑(りんせつ)を伴う円板状の紅斑が多発することを特徴とします。

円板状の紅斑は境目がはっきりしていて、頬(ほお)、鼻、下唇、頭部など、日光が当たる部位にできます。皮膚面より少し盛り上がり、中心部は硬くなったり委縮していたりして、引きつったようになっています。口唇に症状が出る時はびらん、頭皮に症状が出る時は脱毛を伴うことがあります。また、かいたり刺激を与えたりすると、その部位に新たな円板状の紅斑が広がる傾向にあります。

この皮膚病変は、治癒過程で色素沈着ないし色素脱失、委縮を生じ、瘢痕(はんこん)を残します。ほかの症状として、発熱や倦怠(けんたい)感がみられることもあります。

全身性エリテマトーデスと異なり、全身の臓器障害はみられませんが、一部が全身性エリテマトーデスへ移行することがあります。全身性エリテマトーデスへ移行すると、円板状の紅斑が全身に広がり、内臓の炎症、腎臓(じんぞう)の機能障害が起こります。

円板状エリテマトーデスは、35~45歳の女性が発症しやすいとされています。

現在のところ、円板状エリテマトーデスを発症する原因はわかっていません、しかし、紫外線や寒冷刺激、美容整形、妊娠・出産、タバコ、ウイルス感染、薬物などが関係していると考えられています。

全身性エリテマトーデスは、免疫システムが自己の細胞を攻撃する自己免疫が原因だとされていますが、円板状エリテマトーデスは自己免疫とは無関係と考えられています。皮膚が抗原刺激や物理的刺激を受けることで、白血球のうち、リンパ球と呼ばれる細胞の一種であるT細胞が増殖し、細胞間で情報を伝えるタンパク質であるサイトカインの生成が促進され、症状が現れると推測されています。遺伝との関係は、親族内や双子で発症する例が少ないことから、可能性は低いと考えられています。

円板状の紅斑ができて治りにくい場合、円板状エリテマトーデスの可能性があります。日光を避けて、皮膚科、ないし皮膚泌尿器科を受診しましょう。治った後でも、まれに皮膚がんである有棘(ゆうきょく)細胞がんの発生母地となることがあるため、症状が軽くてもしっかり治療をすることが大切となります。

円板状エリテマトーデスの検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、視診をした上で、皮膚生検といって皮膚の一部を採取して顕微鏡で調べる検査を行い、円板状エリテマトーデスと確定します。

血液検査を行うこともありますが、発症者の多くはほかの臓器に変化を伴わず正常です。しかし、一部の患者では、血液沈降速度(血沈)の高進、抗核抗体陽性、白血球減少がみられ、全身性エリテマトーデスに移行することがあります。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、瘢痕が残った皮膚病変を治すことはできませんが、新しい円板状の紅斑が広がらずに限られた範囲にできている場合は、ステロイド薬(副腎〔ふくじん〕皮質ステロイド薬)の軟こうを直接塗ることが一般的です。目立つほど顔にできている場合や、頭皮の脱毛がひどい場合は、内服のステロイド薬を使用します。

また、内服薬ではヒドロキシクロロキンなどのマラリア治療薬が皮膚症状に有効であり、欧米では第1選択薬の1つです。以前の日本では副作用のために使用が禁止され保険適応がありませんでしたが、2015年に承認されました。ヒドロキシクロロキンの長期間の効果としては半数弱の人に有効であり、残りの半分強は、内服のステロイド薬などが必要になります。

免疫抑制剤の1つであるレクチゾールやミゾリビンの内服も有効なことがわかっていますが、貧血などの副作用が現れやすいため、慎重に使用する必要があります。

全身性エリテマトーデスを合併する場合には、内臓の炎症に対して内服のステロイド薬が有効で、効果を発揮しています。炎症が強くて症状が重い場合には、大量に投与し、症状が安定すれば徐々に量を減らしていきます。腎臓の障害に対して、免疫抑制剤を用いたり、血漿(けっしょう)交換療法を行うこともあります。

円板状エリテマトーデスの悪化を防ぐためには、紫外線を避ける必要があります。肌の露出を控えるために、日焼け止めや帽子、サングラス、長袖(ながそで)などの対策が大切です。肌に過剰な刺激を与えることも悪影響なので、かゆみがある時でもかいたり刺激を与えないように気を付ける必要があります。薬を塗る時なども、手を洗い清潔な状態で塗るようにします。

寒冷による刺激も極力受けないほうがいいため、しっかりと防寒することが重要で、夏場は清潔な服を着る、通気性のよい天然素材の洋服を着るなどの対策も大切です。加えて、ストレスを避け、適度な運動と休養をとり、バランスのとれた食事をします。

🇹🇷ウィリス動脈輪閉塞症

原因不明で、脳底部にもやもやとした異常血管網が現れる脳血管疾患

ウィリス動脈輪閉塞(へいそく)症とは、日本人に多発する原因不明の脳血管疾患。もやもや病、脳底部異常血管網症ともいいます。

厚生労働省指定の難病の一つで、1950年代の後半に初めてその存在が気付かれました。脳底部のウィリス動脈輪に狭窄(きょうさく)や閉塞(へいそく)がみられ、脳虚血症状を示し、体の各部のまひ、知覚異常、不随意運動、頭痛、けいれんなどを起こします。

脳血管撮影をすると、脳底部にもやもやとした異常血管網が認められます。大脳へ血液を送る頸(けい)動脈が頭の中で狭くなったり、詰まったりするために、脳の深い部分の細い動脈が不足する脳の血流を補うための側副血行路として発達して太くなり、異常な血管網の構造を示すことになります。

脳への血液の供給が足りない状態である脳虚血や、脳の血管が破綻(はたん)して出血する脳出血で発症しますが、発症時の年齢分布には2つピークがあり、5歳を中心とする10歳までの子供は脳虚血で発症することが多く、30〜40歳代の大人は脳出血で発症することが多くなっています。もちろん、子供での脳出血、大人での脳虚血もありますが、前者が小児(若年)型、後者が成人型と区別され、その症状とその発症機序が異なっています。

女性と男性の比率は1・8対1とされ、女性の発症者のほうが多くなっています。発症頻度は10万人に対して0・35〜0・5人とされ、日本では年間に約400〜500人の新たな発症者が発生し、常に約4000人の患者がいます。世界中で、ウィリス動脈輪閉塞症の報告はありますが、なぜか東アジアに多く、中でも圧倒的に日本に多く発生しています。アメリカからの報告でも日系人に多いといわれますが、白人、黒人にもみられます。

疾患の原因はいまだ不明で、先天性血管奇形という先天説や、感染症などの生後に何らかの原因があるとする後天説がありました。兄弟や親子間での発生が約10パーセント弱と多いことや、日本人に多く発生することなど遺伝的な要素もあり、現在では遺伝子で規定された要素に、何らかの後天的要素が加わって発症すると考えられています。細菌やウイルスが原因の感染症ではありませんので、周辺の人に移る可能性は全くありません。

小児型ウィリス動脈輪閉塞症では、元気だった子供に突然、脳卒中のような発作、つまり左右半身の脱力や運動障害、ろれつが回らないなどの言語障害、視野の一部が欠けるなどの視力障害、意識障害、感覚異常が一過性に出現し、症状が出てもすぐに元に戻るのが典型的な症状です。その他の症状としては、手足が勝手に前後・上下に動く不随意運動、けいれん、頭痛などがみられます。

脳卒中のような発作は、泣いたり、大声で歌ったり、笛やハーモニカを吹いたり、熱いラーメンやうどんをフーフー吹いて食べたり、全力で走ったりする時の過呼吸により誘発されます。過呼吸状態では、脳血管の拡張に必要な血中の二酸化炭素が低下し、もやもやとした血管網も含めた脳血管が収縮するために、それまで辛うじて維持されていた脳血流が急に低下し、脳の代謝に必要な酸素の不足により脳虚血発作が生じます。

脳虚血発作は一過性に出現し繰り返す場合が多くみられますが、重症な場合には、脳梗塞(こうそく)を来し、運動障害、言語障害、知能障害、視力障害などが固定症状として残ります。

成人型ウィリス動脈輪閉塞症では、脳内出血、脳室内出血、くも膜下出血などの頭蓋(ずがい)内出血による発症が一般的で、症状は出血の部位や程度により異なり、軽度の頭痛から重度の意識障害、運動障害、言語障害、精神症状までさまざまです。代償性に拡張した数多くの細いもやもやとした血管網に、血行力学的なストレスが加わり、薄くなった血管壁が破綻すると考えられています。

出血の場所と大きさにより、後遺症が全く残らない場合から、さまざまな後遺症が残る場合まであります。命にかかわるのは、頭蓋内出血を起こした場合が多く、再度、出血を起こすことも多くなっています。

ウィリス動脈輪閉塞症が疑われた場合は、脳神経外科、神経内科、小児神経(内)科などを受診することが必要です。強い頭痛、吐き気、嘔吐(おうと)、意識がなくなる、まひ、言葉が出ない、視野の一部が欠けるなどの症状が出た時は、すぐに受診するべきです。

ウィリス動脈輪閉塞症の検査と診断と治療

ウィリス動脈輪閉塞症の医師による診断は、臨床所見と画像診断で行われます。ラーメンを食べる時に時々、手の力が抜ける、大泣きしたら手足がしびれるといった典型的な症状の一過性脳虚血発作であれば、診断はさほど困難ではありません。

しかし、てんかんや不随意運動で発症した場合には、わかりにくい場合もあります。てんかんと診断されて、抗けいれん薬を投与され、その後、脳虚血の症状が出た場合など、ウィリス動脈輪閉塞症の診断まで時間がかかる場合もあります。ほかに、精神的なものとか自閉症と誤診されることもあります。

ウィリス動脈輪閉塞症の画像診断は、主にカテーテルによる脳血管撮影と、核磁気共鳴画像法(MRI)によって行われます。脳血管撮影は、直径1・3ミリほどの細い管であるカテーテルを足の付け根の動脈から入れて行います。このカテーテルを頸部の動脈まで持っていき、造影剤を注入して撮影します。そのため検査自体にわずかながら危険性が伴うため、その適応は慎重であるべきです。大人では、足の付け根への局所麻酔だけで可能な検査ですが、小学生やそれ以下の場合は全身麻酔で行います。

近年は、強い磁場を利用した核磁気共鳴画像法(MRI)による診断法が、主に行われています。この診断法は、入院の必要はありませんし、検査時間は30分ぐらいで寝ている間に可能です。小さな子供の場合は、眠り薬が必要です。X線を使った断層撮影であるX線CTも、緊急時の脳虚血と脳出血の鑑別に有用です。

急性期のウィリス動脈輪閉塞症の治療は、他の原因で起こる脳虚血や脳出血の治療と同じです。脳虚血の場合は、脳細胞保護薬、抗血栓薬、循環改善薬などの点滴が行われます。脳出血で小さな出血の場合は、保存的な治療が行われます。脳室内の出血の場合は、緊急で細い管を脳室に入れて、髄液や血腫(けっしゅ)を抜く手術が行われます。大きな脳内出血の場合は、開頭による血腫除去術を必要とする場合もあります。脳圧を下げ、脳のはれを改善する点滴治療も行われます。けいれん発作があれば、抗けいれん薬が投与されます。

慢性期のウィリス動脈輪閉塞症の脳虚血に対する内科的な治療としては、抗血小板薬、抗凝固薬、血管拡張薬などの投与が行われます。これらの薬剤を積極的に投与する医師と、そうでない医師に分かれます。けいれんのある場合には、抗けいれん薬が投与されます。

虚血発作の再発を抑える目的で、血管吻合(ふんごう)術が有効とされています。この血管吻合術には、耳の前の頭皮内を走行している浅側頭動脈と頭蓋内の中大脳動脈の枝を顕微鏡で見ながら吻合する直接吻合と、脳を包んでいる脳硬膜や側頭部の筋肉やその筋膜を脳の表面に置き、その間に自然に小さな血管の吻合が形成されるのを待つ間接吻合があります。直接吻合を行う場合、大なり小なり間接吻合と組み合わせるのが一般的です。

ウィリス動脈輪閉塞症は、左右に病変があるため、両側の手術が必要なことが多く、普通2回に分けて、症状の強い側の手術を先に行います。手術の効果はすぐに現れるものではなく、虚血発作が徐々に減少し、その後、消失します。その時間経過は、脳循環の状態、手術方法などによりさまざまです。

慢性期のウィリス動脈輪閉塞症の脳出血に対する治療として、血管吻合術が行われる場合があります。側副血行路になっている脳の深部の細い血管に負担がかかり、破綻するのが脳出血の原因と考えられているため、この負担を軽減するために行われますが、この吻合術が再出血を予防するとは必ずしも証明されていません。血圧の高い発症者には、降圧剤を投与します。

脳梗塞や脳出血により、運動障害、言語障害、知能障害、視力障害などが残った場合には、早期に運動療法、作業療法、言語療法などのリハビリテーションを開始することが重要です。特に小児の場合は、適切なリハビリで大きな障害がかなり軽減するケースもあります。

🇹🇲ウイルス性胃腸炎 

ウイルスを原因とする胃腸炎で、嘔吐と下痢が主な症状

ウイルス性胃腸炎とは、ウイルスを原因とする胃腸炎の総称。一年を通じて発生しますが、例年晩秋から冬季に多くなります。

原因となる主なウイルスは、ノロウイルスやロタウイルス、サポウイルス、アデノウイルス、アストロウイルスなどです。晩秋から冬季にかけての流行は、ノロウイルスやロタウイルスが主な原因とされています。

ウイルス性胃腸炎の主な症状は、腹痛、下痢、嘔吐(おうと)、発熱です。ロタウイルス、アデノウイルスによる胃腸炎は、乳幼児に多くみられます。

これらの胃腸炎は、症状のある期間が比較的短く、特別な治療法がないことから、ウイルス検査を行わず、流行状況や症状からウイルス性胃腸炎と診断されることもあります。

ノロウイルス、ロタウイルスによるウイルス性胃腸炎は、1~2日間の潜伏期間を経て、典型的には腹痛、下痢、吐き気、嘔吐、37℃台の発熱がみられます。ノロウイルスを原因とする場合、症状が続く期間は1~2日と短期間ですが、ロタウイルスを原因とする場合は5~6日持続することもあります。また、ロタウイルスによるウイルス性胃腸炎の場合、便が白色になることもあります。

ノロウイルスやロタウイルスなどが、人の手などを介して、口に入った時に感染する可能性があります。ノロウイルスによるウイルス性胃腸炎の場合は、人から人への感染と、汚染した食品を介して起こる食中毒に分けられ、次のような感染経路があります。

1)感染した人の便や吐物に触れた手指を介してノロウイルスが口に入った場合、2)便や吐物が乾燥して、細かなちりとして舞い上がり、そのちりと一緒にウイルスを体内に取り込んだ場合、3)感染した人が十分に手を洗わず調理した食品を食べた場合、4)ノロウイルスを内臓に取り込んだカキやシジミなどの二枚貝を、生または不十分な加熱処理で食べた場合。

ノロウイルスは2002年8月、国際ウイルス学会で命名されましたが、元はSRSV(小型球形ウイルス)と呼ばれていました。ちなみに、ノロとは発見された地名に由来しています。

非常に小さい球形の生物で、直径0・03マイクロメーター前後の蛋白(たんぱく)質でできた球の中に遺伝子(RNAリボ核酸)が包まれた構造をしています。近年、新しい検査法(PCR法)の普及によって、食品からのウイルスの検査が可能になり、100粒子以下の少量で感染するなど食中毒との関係が明らかになってきました。多くの遺伝子型が存在しますので、一度感染したからといって次に感染しないとは限らず、何度でも感染します。

ウイルス性胃腸炎の治療と予防のポイント

下痢止めの薬を控え、水分補給と消化のよい食事での対処が基本です。ただし、激しい腹痛や血便がみられた場合や、体力の弱い乳幼児や高齢者は下痢などによる脱水症状を生じることがありますので、早めに内科、消化器科、胃腸科、小児科を受診してください。また、症状が長引く場合は受診してください。

特に高齢者は、嘔吐物が気管に入る誤嚥(ごえん)により肺炎を起こすことがあるため、体調の変化に注意しましょう。嘔吐の症状が治まったら少しずつ水分を補給し、安静に努め、回復期には消化しやすい食事を取るよう心掛けましょう。

内科、消化器科、胃腸科、小児科の医師によるウイルス性胃腸炎の治療は、有効な薬がないため対症療法を行います。脱水症状がひどい時は、点滴で水分を補います。

予防のポイントとして最も大切なのは、手を洗うことです。特に排便後、また調理や食事の前には、せっけんと流水で十分に手を洗いましょう。便や吐物を処理する時は、使い捨て手袋、マスク、エプロンを着用し、処理後はせっけんと流水で十分に手を洗いましょう。また、カキなどの二枚貝を調理する時は、中心部まで十分に加熱しましょう。

🇬🇩ウイルス性いぼ

ヒト乳頭腫ウイルスが皮膚や粘膜に侵入して、いぼができる疾患の総称

ウイルス性いぼとは、ヒト乳頭腫(にゅうとうしゅ)ウイルス(ヒトパピローマウイルス)が皮膚や粘膜に侵入して、いぼができる疾患の総称。いぼの別名は疣贅(ゆうぜい)で、ウイルス性疣贅とも呼ばれます。

ウイルス性いぼは、尋常(じんじょう)性疣贅、青年性扁平(へんぺい)疣贅、尖圭(せんけい)コンジロームなどに分類され、それぞれの原因となる乳頭腫ウイルスの型があります。

ヒト乳頭腫ウイルスは現在までに150種類以上の種類が見付かり、その型によりいろいろな疾患の症状を現すことが知られています。子宮頸(けい)がんやある種の皮膚がんの原因にもなりますが、がんを起こすヒト乳頭腫ウイルスの型は特定のものであって、通常のウイルス性いぼががんに進展するわけではありません。

ウイルス性いぼの中で最も多い尋常性疣贅

尋常性疣贅は、ヒト乳頭腫ウイルスが皮膚に感染して、いぼができる疾患。普通、いぼといわれるものの多くは、この尋常性疣贅です。

外傷を受けやすい露出部、特に手足の甲や指、膝頭(ひざがしら)などによくできますが、爪(つめ)の周囲にもできます。頭部、顔面、頸部、足底にできることもあります。

ささくれなど傷のある皮膚に感染し、数カ月後には光沢のある肌色の直径1ミリ大の半球状に隆起した発疹(ほっしん)ができ、次第に大きくなって、表面が角化して粗く灰白色になります。直径2~10ミリ大になり、融合して2~3センチ大になることもあります。

 頭部、顔面、頸部に生じる場合は、先端がとがった細長い指状、糸状の突起になることがあります。

足の裏に生じる場合は、特に足底(そくてい)疣贅と呼ばれ、通常、米粒大から小豆大の大きさで、足の裏の皮膚面からやや盛り上がり、表面が粗くて白っぽい色をした硬い部分ができます。しばしば多発して集まり、敷石状になります。これをモザイク疣贅と呼ぶこともあります。

足底は体重が掛かって、いぼがめり込んでしまうため、歩く時に不快を感じたり、小石を踏んでいるように痛むことがあります。

足底疣贅は学童期の小児に多く発症し、素足になる学校のプールサイドや脱衣所の床などで接触感染するとみられます。しばしば魚(うお)の目(鶏眼)や、たこ(べんち)と間違われますが、魚の目、たこは靴などによる長期間の摩擦や圧迫が原因で、足底疣贅はウイルス感染症という違いがあります。

ちなみに、子供には魚の目、たこは、まずできません。魚の目、たこは、加重による皮膚の角化で、一種の老化現象として大人にできるものです。

尋常性疣贅を放置しておくと、ほかの部位に移ります。針でほじくったり、市販の薬で取ろうとしたりすると、いぼがほかの部位により広がることになります。素人判断は禁物で、まず皮膚科、皮膚泌尿器科の医師を受診し、適切な治療を受けるべきです。

若い人の主に顔面や手の甲に、扁平に隆起した小さないぼが多発する青年性扁平疣贅

青年性扁平疣贅は、若い人の主に顔面や手の甲に、扁平に隆起した小さないぼが多発する疾患。扁平いぼ、扁平疣贅とも呼ばれます。

青年期の男女にできますが、10歳以下の子供にもできます。中年以上ではほとんどみられません。

ウイルス性いぼの一種であり、主にヒト乳頭腫ウイルス3型と10型の皮膚感染が原因で起こります。同じウイルス性疣贅の一種で、手のひらや足の裏に表面がざらざらした硬いいぼが生じやすい尋常性疣贅とは、ヒト乳頭腫ウイルスの型が違います。

顔面、手の甲、あるいは前腕などに生じるいぼは、2、3ミリから1センチ大で、扁平に多少隆起した円形か楕円(だえん)形をしており、周囲の皮膚と同じ色調または褐色調です。表面は、あまりざらざらしていません。

普通、自覚症状はありませんが、顔面や手の甲を爪や手でかいたり、顔面にかみそりを当てたりすると、ウイルスがかき傷、そり傷に沿って感染するため、直線状にいぼが並んで生じ、増えていくこともあります。

ほかのウイルス性いぼと比べて、青年性扁平疣贅は自然に軽快する可能性が高いと考えられています。特に、突然赤くなって皮がむけ、かゆくなるのは治る前兆で、この炎症の症状が出てから1~2週間ほどで、ウイルスを排除するための免疫機能によって抗体が体の中に作られるとともに、自然消退する性質があります。

しかし、治る前兆の炎症の症状がいつ出るかは人によって異なり、炎症が起きるまでには長期間かかるのが一般的です。

性器に軟らかい、いぼのような腫瘍ができる尖圭コンジローム

尖圭コンジロームは、男女の性器に軟らかい、いぼのような腫瘍(しゅよう)ができる疾患。尖圭コンジローマとも呼ばれます。

性行為感染症の1つとされており、ヒト乳頭腫ウイルスがセックスの時などに感染することで起こります。好発するのは、いわゆる性活動の盛んな年代。

ヒト乳頭腫ウイルスに感染した人がすべてすぐに発症するわけではなく、ウイルスが体内に潜んでいるだけの人がかなりいるといわれています。そのため、移された相手がはっきりしない場合も多くみられます。潜伏期間は一定ではありませんが、一般的に感染後2~3カ月で症状が現れます。

男性では、主として冠状溝という、亀頭と陰茎の中央の間にある溝に、ニワトリのトサカのような腫瘍ができて増殖します。塊が大きくなるとカリフラワー状になることもあります。陰嚢(いんのう)、尿道口、肛門(こうもん)周囲、口腔(こうくう)にできることもあります。

女性では、大小の陰唇、膣(ちつ)、会陰(えいん)部などの皮膚と粘膜の境界にある湿った部分にでき、 尿道口、肛門周囲、口腔にできることもあります。

感染初期は異物感があるだけで自覚症状はほとんどありませんが、かゆみやひりひりする感じがあったり、ほてる、性交痛を感じる場合もあります。

いったん治療して腫瘍が消えても、ヒト乳頭腫ウイルスが皮下に潜んでいて再発を繰り返すことがよくあります。女性では、原因となるヒト乳頭腫ウイルスと子宮頸がんとの関連も推定されています。

男性の場合、正常な陰茎にも1〜2ミリの小さないぼのようなぶつぶつがみられることがありますが、これは治療の必要はありません。しかし、尖圭コンジロームは悪性のものや性行為で移るものまでさまざまなものがありますので、亀頭部にできている痛みのないはれ物に気付いたら、泌尿器科か皮膚科の専門医を受診します。

ウイルス性いぼの検査と診断と治療

尋常性疣贅の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による尋常性疣贅の診断では、いぼの表面を薄く切り取ると点状に出血することで、魚の目、たこと鑑別します。古いいぼでは角質が厚くなって、区別が難しくなります。確実に診断する方法は、いぼを切除して組織学的に診断するか、ウイルス抗原または核酸を検出します。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、いぼを凍結して取る凍結療法や、電気焼灼(しょうしゃく)が一般的に行われます。

凍結療法は、液体窒素を綿棒に含ませて、いぼの凍結、融解を繰り返す方法です。いぼの部分を超低温で瞬間的に凍結させ、部分的にやけどの状態を起こすことで、皮膚内部のいぼの芯(しん)を表面に押し上げ、徐々にいぼを縮小させます。

処置そのものにかなりの痛みを伴うほか、場合によっては水膨れが発生し、処置後も患部に激痛が伴うこともあります。 また、場合によっては水膨れ内部に出血が発生し、黒く変色することもありますが、この状態になると激痛こそあるものの、治りは早くなります。

通常、凍結療法は4~7日が効果のピークであるために、1~2週間に1回の通院で治療しなければならず、効果に個人差こそありますが、およそ数週から2カ月以上と長い日数が必要とされます。治癒率の低いことも欠点で、特に角質の厚い爪の周囲や足底ではなかなか治りません。

なお、家庭用のいぼ治療薬として知られるイボコロリは、角質を溶かすだけなのでかえって広げてしまうことがあります。凍結療法と組み合わせると、よい結果が得られます。

電気焼灼は、レーザーメスや電気メスでいぼを焼く方法です。液体窒素による凍結療法と違って一度で治るものの、麻酔が必須で、傷跡を残すことがあります。凍結療法などと異なり、保険適応外でもあります。

一部の医療機関では、凍結療法で治りにくいケースや痛みに耐えられないケースで、DNCB(2.4-ジニトロクロロベンゼン)という薬を塗布していぼを取る治療法を行っています。DNCBは本来、かぶれの状態を見る検査薬で、これを治療に応用し、いぼをかぶれた状態にして取ります。多少かゆみを伴ったり、じくじくした状態になったりすることがありますが、痛みはありません。塗布を2カ月続けると、約70パーセントが治癒するとされます。

ほかにも、抗生物質のブレオマイシンの局所注射、ウイルス消毒薬の使用、はと麦の種を成分とする漢方薬ヨクイニンの内服、免疫療法などいろいろの治療法があります。

青年性扁平疣贅の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による青年性疣贅の診断では、皮膚症状から視診で判断し、似たような尋常性疣贅やほかの疾患と鑑別します。場合によっては、いぼの一部を採取して組織検査をすることもあります。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、ほかのウイルス性いぼなどの一番基本となる治療法である液体窒素凍結療法の効果が少なく、ある時期になると一斉に自然消退することがあるため、経過をみることもあります。

治りにくい場合には、尋常性疣贅と同様に、いぼを凍結して取る液体窒素凍結療法や電気焼灼、ヨクイニンの内服などが一般的に行われます。

この青年性扁平疣贅では、皮膚を刺激すると、いぼが次々とできてしまいます。爪や手で引っかいたり、顔面ではかみそりを当てたりしないことが必要です。

尖圭コンジロームの検査と診断と治療

泌尿器科、ないし皮膚科の医師による尖圭コンジロームの診断では、梅毒でみられる扁平コンジロームと違って先のとがったいぼで、多発すると鶏冠状を示すため、多くは見た目で判定できます。判断が難しい場合は、皮膚組織の一部を切除して顕微鏡検査で判定します。時には、血液検査で梅毒ではないことを確認することもあります。

泌尿器科、ないし皮膚科の医師の治療では、小さくて少数なら5−FU軟こう、尿素軟こうなどの塗り薬も効果があるといわれていますが、一般的には液体窒素による凍結凝固や、レーザー、電気メスによる焼灼が有効です。大きかったり、多発、再発する場合は、周囲の皮膚を含めて手術で切除します。

これらの治療によって一時的に腫瘍は消えますが、ウイルスは周囲の皮膚に潜んでいるため20〜50パーセントで再発します。

診断が確定したら、きちんと治るまで性行為は控えるか、コンドームを使用するようにします。特に、女性が生理の時はふだんよりさまざまな菌に感染しやすいので、性行為は控えます。また、避妊目的でピルを服用しても、性行為感染症の予防にはなりませんので、男性にコンドームの使用を求めます。

🇧🇧ウイルス性肝炎

ウイルスの感染によって起こる肝炎。A型、B型、C型(かつての非A非B型)などで、原因ウイルスが異なります。

日本人における肝臓の病気の約7割は、ウイルス性のものと見なされています。通常、肝炎といえば、ウイルス性肝炎を指します。

🇵🇷ウイルス性結膜炎

ウイルスの感染によって目の結膜に炎症が起こる疾患

ウイルス性結膜炎とは、ウイルスの感染によって目の結膜に炎症が起こる疾患。

結膜は、上下のまぶたの裏側と、眼球の表面から黒目の周囲までを覆っている、薄い粘膜の部分を指します。まぶたの裏側を覆っている部分は眼瞼(がんけん)結膜、白目の表面を覆っている部分は眼球結膜と呼ばれています。一方、黒目の部分を覆っている粘膜は角膜と呼ばれています。

その結膜の働きは、直接、外界に接している目を異物の侵入から守ること。そこで、結膜には抗菌作用のある粘液や涙液が分泌され、常に作られている涙で目の表面を潤して防御しているのですが、多くのウイルスや細菌にさらされたり、睡眠不足、過労などで抵抗力が落ちている時には、炎症を起こすことがあります。

ウイルス性結膜炎の原因となるウイルスには、アデノウイルス、エンテロウイルス、コクサッキーウイルス、ヘルペスウイルスなどがあります。いずれも他人の分泌物などからウイルスが体に入って発症するものであり、他人に感染させる力も強く、家族内感染や学校内の集団感染などの原因になります。

夏風邪のウイルスの一種であるアデノウイルス8型を主に、19型、37型、54型も原因となるウイルス性結膜炎には、まず流行性角結膜炎があります。はやり目とも呼ばれ、白目が充血し、目やにが出て、目が痛くなることもありますが、かゆみはほとんどありません。耳の前やあごの下にあるリンパ節がはれることもあります。感染してから約1週間で発症し、それから1週間くらいがピークで、次第によくなります。

同じアデノウイルス3型、4型、7型が原因となるウイルス性結膜炎には、咽頭(いんとう)結膜炎もあります。プール熱とも呼ばれ、突然39度くらいの高熱が出て、のどがはれ、目が充血したり、目やにが出るなどの症状が出ます。悪化すると、肺炎になることもあります。感染してからの経過は、流行性角結膜炎とほぼ同じです。

エンテロウイルス70型やコクサッキーA24変異株が原因となるウイルス性結膜炎には、急性出血性結膜炎があります。症状は急性で、目が痛くなったり、目やにが多くなり、白目に出血がみられることもあります。ひどくなると、黒目の部分の角膜に小さな傷ができることがあります。感染した翌日くらいから発症し、1週間くらいでよくなってきます。

単純ヘルペスウイルスが原因となるウイルス性結膜炎には、ヘルペス性結膜炎があります。ウイルス性結膜炎の一種ではあっても、あまり他人に移ることはありません。症状としては、白目が充血したり、目やにが多く出たりするのに加え、目の周囲の皮膚面に赤く小さな水疱(すいほう)が出ることもよくあります。角膜ヘルペスを合併することもあります。

ウイルス性結膜炎の検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、細隙灯(さいげきとう)顕微鏡で結膜を観察して判断します。結膜の悪い部位をこすり取ったり、涙を採取したりして、その中にウイルスがいないかどうかを調べることもありますが、適応はまれです。

眼科の医師による治療では、流行性角結膜炎、咽頭結膜炎、急性出血性結膜炎の場合、結膜炎の段階での有効な薬剤がないため、対症療法的に抗炎症剤の点眼を行い、細菌による混合感染を防ぐために抗菌剤の点眼を行います。さらに、角膜炎の症状が認められる際は、ステロイド剤の点眼を行います。熱が高い時は、解熱剤を使います。

ヘルペス性結膜炎の場合、単純ヘルペスウイルスに対して効果がある抗ウイルス剤の眼軟こうを目に塗ります。また、症状によっては抗ウイルス剤の内服や点滴治療を併用することもあります。

ウイルス結膜炎の感染を予防するには、目をこすった手やハンカチ、タオルなどから感染することがありますので、目に何らかの異常がある場合には家族であってもタオルなどを共用せず、手洗いをまめに行うなどが効果的です。

感染するのは、流行性角結膜炎や咽頭結膜炎では発症後約1~2週間、急性出血性結膜炎では3~4日です。学校保健法では、流行性角結膜炎と急性出血性結膜炎は感染力がなくなったと医師が判断するまで、咽頭結膜炎は主な症状が消えた後2日を経過するまで登校を禁止することと規定されています。

🇭🇹ウイルス性髄膜炎

脳を取り巻く髄膜にウイルスが感染し、炎症が起こる疾患

ウイルス性髄膜炎とは、脳を取り巻き、内側から軟膜、くも膜、硬膜の三層からなる髄膜に、原因となるウイルスが血液を介して感染し、炎症が起こる疾患。

ウイルス性髄膜炎は無菌性髄膜炎の一部を占める疾患であり、無菌性髄膜炎はインフルエンザ菌や肺炎双球菌、髄膜炎菌などの細菌が病原体とならない髄膜炎を指し、その病原体にはウイルスやマイコプラズマ、真菌(しんきん)、寄生虫などがあり、膠原(こうげん)病、薬剤、造影剤などによっても発生します。小児に多くみられ、細菌由来の髄膜炎に比較すると病変は軽度で通常、予後は良好となります。

無菌性髄膜炎の一部を占める疾患であるウイルス性髄膜炎を起こす原因ウイルスは、エンテロウイルス属(コクサッキーウイルスA、コクサッキーウイルスB、エコーウイルス、エンテロウイルス)が最多で、次いでムンプスウイルスです。エンテロウイルス属、ムンプスウイルスによるウイルス性髄膜炎は、春から夏にかけて多くみられます。

また、原因ウイルスには、単純ヘルペス1型、単純ヘルペス2型、水痘・帯状疱疹(ほうしん)ウイルス、日本脳炎ウイルス、風疹ウイルス、麻疹ウイルスなどもあります。

原因ウイルスによって潜伏期、症状に違いはありますが、一般的に年長児と成人では、急激な発熱、頭痛、嘔吐(おうと)を主症状とします。首が強く突っ張る項部強直などの髄膜刺激症状も多く認められます。

乳児では、発熱、不機嫌、授乳不良など非定型的な症状で発症し、髄膜刺激症状を認めないことも多くあります。新生児では、発熱、授乳不良に加えて、重篤な全身症状を引き起こす敗血症のような症状を示すことがあります。

原因ウイルスがエンテロウイルス属の場合は胃腸病変や発疹(はっしん)がみられ、ムンプスウイルスの場合は耳下腺(せん)のはれがみられ、単純ヘルペス1型と単純ヘルペス2型の場合は発疹がみられ、何度も再燃することがあります。水痘・帯状疱疹ウイルス、風疹ウイルス、麻疹ウイルスの場合も、発疹がみられます。

さらに、炎症が髄膜から脳そのものまでに及ぶと髄膜脳炎、脳炎を合併し、意識障害や手足のけいれんを起こすこともあります。

成人で発熱、頭痛、嘔吐をもって急性に発病した場合は、ウイルス性髄膜炎の疑いがあるので、内科、神経内科を受診します。乳幼児で発熱、授乳不良、何となく元気がないなど普段と様子が違う場合は、早めに小児科を受診することが重要です。

ウイルス性髄膜炎の検査と診断と治療

内科、神経内科、小児科の医師による診断では通常、脊髄(せきずい)液を腰椎(ようつい)から穿刺(せんし)する髄液検査を行います。

髄液検査の所見では、単核球(リンパ球)を主とする細胞の増加が認められます。髄膜炎を疑わせる症状がなくても、髄液検査を行うと髄液中の細胞が増えていることもあります。

また、髄液からのウイルス分離で、原因ウイルスを証明します。あるいは、RT‐PCR法(逆転写酵素ーポリメラーゼ連鎖反応法)を用いて、ウイルス遺伝子(RNA)を検出します。最近の分子生物学的手法により、ウイルスがワクチン株(ワクチン由来)か野生株かの判定が可能になりました。

髄膜炎や、合併した髄膜脳炎、脳炎の程度をみるために、CT(コンピューター断層撮影)検査やMRI(核磁気共鳴画像)検査を行うこともあります。周囲でのウイルス性髄膜炎の流行状況、その年に多く分離されているウイルスの動向なども、診断の参考にします。

内科、神経内科、小児科の医師による治療では、入院が必要になり、ほとんどのウイルスに特異的な治療法がないため、発熱や痛みに対する対症療法を行います。単純ヘルペス1型、単純ヘルペス2型、水痘・帯状疱疹ウイルスによる髄膜炎に対しては、アシクロビルなどの抗ウイルス剤の点滴投与を行います。

ムンプスウイルスによる髄膜炎の場合は、髄液検査において穿刺をすると、頭痛や嘔吐がある程度改善します。脱水症状を示している場合は、輸液(点滴)を行います。

一般的にウイルス性髄膜炎は早期に発見して早期に治療すれば、予後は良好で数週間の安静で自然治癒し、後遺症を残すことはほとんどありません。髄膜脳炎を合併した場合でも、ほかの原因による髄膜脳炎に比べると予後は良好です。

🇩🇴ウイルス性肺炎

細菌よりも小さいウイルスが原因となって発症する肺炎

ウイルス性肺炎とは、細菌よりも小さいウイルスが原因となって発症する肺炎。代表的なウイルスには、アデノウイルス、インフルエンザウイルスなどがあります。

ウイルスによる肺の疾患は風邪症候群として広く知られ、多くは自然に治るものの、中には下気道へと進み肺炎を起こします。ウイルスそのものが肺炎を起こす場合、ウイルスと細菌が混合感染して肺炎を起こす場合、ウイルスが先行感染し、これに続いて細菌が二次的に肺炎を起こす場合の3つがあります。

また、感染するウイルスは、呼吸器を標的とする気道ウイルスと、呼吸器以外の臓器を標的とするウイルスに大別されます。後者のウイルスは、被感染者の免疫状態の低下により、全身感染症の合併症として肺炎などを発症します。

気道ウイルスには、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルスがあります。また、2003年に世界を震撼(しんかん)させた重症急性呼吸器症候群(SARS、サーズ)の原因となった新型コロナウイルスもあります。インフルエンザウイルスは、A型、B型と呼ばれる2種類が肺炎を起こします。パラインフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルスは、小児や高齢者に肺炎を起こします。

後者のウイルスには、麻疹(ましん)ウイルス、水痘・帯状疱疹(たいじょうほうしん)ウイルス、単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルスがあります。麻疹ウイルスは、特に栄養状態のよくない小児に肺炎を起こすことがあります。水痘・帯状疱疹ウイルスは、成人に肺炎を起こします。サイトメガロウイルスは、年齢にかかわらず免疫力が低下している人に重症の肺炎を起こします。

ウイルス性肺炎の主な症状は、頭痛、発熱、筋肉痛、倦怠(けんたい)感など。せき、たんは比較的少なく、細菌性肺炎のように激しくはありません。しかし、インフルエンザウイルス肺炎では、重症になると高熱が出て、呼吸困難などを引き起こし、経過は2〜3週間にも及びます。

ウイルス性肺炎の検査と診断と治療

呼吸器症状に気付いたら、呼吸器疾患専門医のいる病院を受診します。

医師による診断では、胸部X線撮影をすると肺全体が白く写るため、肺炎にかかっているかどうかをすぐに判断することができます。ただし、細菌性肺炎でみられるようなはっきりした陰影のあるパターンは認められません。気道からの分泌物の染色は、RSウイルスやインフルエンザウイルスなど、特定のウイルスの検出に使われます。特定のウイルスに対する抗体が増えているかどうかを調べることもあります。

多くのウイルス性肺炎は、原因であるウイルスを殺す薬で治療できます。ウイルスがいなくなった後も、しばらくの間せきが続きます。その上、ウイルスが気道の内部を傷付けるため、多くの人はウイルス性肺炎の後で二次的な細菌性肺炎を発症します。このような場合、抗生物質による治療が必要になります。

インフルエンザウイルス肺炎の場合、近年、治療に大きな進歩があり、塩酸アマンタジン(シンメトレル)とノイラミニダーゼ阻害薬という薬が使用可能になり、発症36時間以内の早期治療で高い有効性が示されています。ただし、塩酸アマンタジンはA型にしか効かず、また耐性ウイルスを生じやすいといった欠点があります。ノイラミニダーゼ阻害薬には、吸入ドライパウダー型のザナミビル(リレンザ)と内服のオセルタミビル(タミフル)があり、A・B型両方に効果があります。

予防面では、ワクチン接種が推奨されます。特に高齢者を中心としたハイリスク群には、2001年以降、国から公的補助が与えられています。

■BA・5感染者の症状は発熱や喉の痛み多い 北海道科学大が分析

 新型コロナウイルスのオミクロン型の派生型「BA・5」が流行する状況下では、従来のウイルス「BA・2」の流行時と比べ、感染者に発熱、喉の痛み、頭痛などの症状が多くなっているとの分析結果を北海道科学大学の岸田直樹客員教授が29日、まとめました。ワクチンの接種回数でも症状の出方に差があり、3回打った人は2回だけの場合に比べて出にくい傾向がみられるとしています。

 BA・5が検出されることが多くなった7月11日から25日に札幌市で感染が報告された1万4000人の症状を調べ、BA・2が流行した4月から5月の感染者2万人と比較。喉の痛みがある割合は、BA・5流行期は60%で、BA・2流行期の54%を上回りました。頭痛はそれぞれ40%と33%、38度以上の発熱は40%と26%でした。

 BA・5流行期のワクチンを巡る分析では、感染時に発熱があったのは、3回接種を受けた人が27%で、2回接種者の40%より低くなりました。頭痛、筋肉痛、倦怠(けんたい)感も3回接種者のほうが割合が低くなりました。


 2022年7月31日(日)

■30日は国内で新たに22万2305人が新型コロナ感染 過去2番目、福島など6県で最多更新

 30日は午後6時の時点で、東京都で3万3466人、大阪府で2万2832人、神奈川県で1万5031人、愛知県で1万4692人、福岡県で1万3954人、埼玉県で1万2768人、千葉県で1万644人、兵庫県で1万452人など全47都道府県と空港検疫で、新たに22万2305人の新型コロナウイルスへの感染が発表されました。

 23万3094人が確認された28日に次いで、過去2番目に多くなりました。1日当たりの感染者が20万人を超えるのは4日連続。福島、栃木、福井、岡山、広島、沖縄の6県で過去最多を更新しました。

 また、大阪府で12人、東京都で12人、愛知県で9人、福岡県で8人、神奈川県で7人、兵庫県で6人、岐阜県で5人、熊本県で5人、千葉県で4人、宮崎県で3人、三重県で2人、北海道で2人、埼玉県で2人、大分県で2人、岩手県で2人、秋田県で2人、群馬県で2人、茨城県で2人、長崎県で2人、鹿児島県で2人、佐賀県で1人、富山県で1人、島根県で1人、広島県で1人、徳島県で1人、滋賀県で1人、福井県で1人、青森県で1人、静岡県で1人、香川県で1人の、合わせて101人の死亡の発表がありました。全国で発表された死者が100人を超えるのは5日連続。

 国内で感染が確認された人は、空港検疫などを含め1259万7839人、クルーズ船の乗客・乗員が712人で、合わせて1259万8551人となっています。

 感染して亡くなった人は、国内で感染が確認された人が3万2531人、クルーズ船の乗船者が13人で、合わせて3万2544人です。

 厚生労働省によりますと、新型コロナウイルスへの感染が確認された人で、人工呼吸器や集中治療室などで治療を受けるなどしている重症者は、前日より27人増えて30日時点で403人となっています。

 大阪府は30日、新型コロナウイルスの新たな感染者を2万2833人確認したと発表しました。これまでで3番目に多く、前週同曜日(2万2498人)と比べ335人増えました。府内の感染者の累計は135万4667人となりました。

 新たに60~90歳代の男女12人の死亡が判明し、府内の累計死者数は5342人になりました。

 30日時点の重症者は前日から2人増の51人で、重症病床(596床)の同日の実質使用率(重い持病などを抱える軽症・中等症患者らを含む)は20・5%になりました。軽症・中等症病床には2560人が入院しており、軽症・中等症病床(4190床)の使用率は61・1%となりました。

 新規感染者のうち、感染者と同居して症状があり、PCR検査を受けずに医師の診断で陽性と判断された濃厚接触者は838人でした。自宅療養者は13万6101人。公費によるPCR検査などを3万8953件実施しました。


 2022年7月31日(日) 

🇩🇴ウイルス性鼻炎

ウイルスに感染して鼻粘膜の炎症が急激な経過をとる鼻炎

ウイルス性鼻炎とは、鼻腔(びくう)の粘膜にさまざまな原因で炎症が生じる鼻炎の中で、ウイルスに感染して起き急激な経過をとる鼻炎。急性ウイルス性鼻炎、急性鼻炎とも呼ばれます。

ウイルス性鼻炎の多くは、いわゆる鼻風邪と呼ばれる軽い風邪と同じと考えられます。

大部分が、風邪(感冒)のウイルスによって引き起こされます。代表的なウイルスとして、ライノウイルス、RSウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、コロナウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルス、レオウイルスがあります。ウイルス感染に合併して、細菌感染を生じることもあります。

症状として、まず鼻の中が乾いたような感じがし、次いで、くしゃみ、鼻水、鼻詰まり、鼻水がのどに回る後鼻漏が起こります。鼻水は初め水性で、それが数日後には黄色く粘性に変わり、細菌感染を合併すると青緑色っぽい膿(のう)性の鼻漏になります。

のどの違和感、咽頭(いんとう)痛、せき、たん、しわがれ声、発熱、食欲不振、頭痛、全身倦怠(けんたい)感、筋肉痛などを伴うこともあります。のどに違和感があり、いがらっぽくなるのは、ウイルス感染症にある典型的な症状で、鼻の粘膜が赤くなり、浮腫(ふしゅ)状になっています。小児では、いびきが大きくなることもあります。

鼻水や鼻詰まりがなかなか治らない、あるいはいびきが続くなどの症状がある場合は、合併症を起こしている可能性があるので、一度、耳鼻咽喉(いんこう)科、耳鼻科を受診したほうがよいでしょう。

ウイルス性鼻炎の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科、耳鼻科の医師による診断では、症状に基づき、専用のスコープを使って直接鼻やのどの粘膜の状態を観察する鼻鏡検査の所見で、おおかた確定できます。

花粉症と紛らわしいことがありますが、花粉症の場合は目の症状を伴うことが多いため、この有無が鑑定のポイントになります。鼻汁の細胞診でウイルス性鼻炎の場合は、白血球の一種の好中球や、脱落した鼻粘膜上皮細胞がみられますが、花粉症の場合は白血球の一種の好酸球がみられます。

耳鼻咽喉科、耳鼻科の医師による治療では、内服薬や点鼻薬などで現在の症状を緩和する対症療法が主体になります。患部に直接、薬の注入、塗布を行います。

鼻詰まりを柔らげるために、フェニレフリンなどの充血除去薬のスプレー式点鼻薬か、プソイドエフェドリンの内服薬を用います。これらは薬局で入手できる市販薬で、鼻粘膜の血管を収縮させる効果があります。

スプレー剤の使用は、3~4日以内にとどめます。これはそれ以上長く使うと、薬の効果が薄れてきた時に、しばしば鼻の粘膜が薬を使う前よりもはれてしまうからです。このような現象は反跳性鼻閉と呼ばれます。

抗ヒスタミン薬には鼻水を抑える効果がありますが、眠気などの副作用があり、特に高齢者でみられます。

そのほか、鼻以外にも症状がある場合は、鎮痛剤、解熱剤の処方など、全身的な治療もします。抗生物質は、ウイルス性鼻炎には無効です。

小児は鼻をかめないため、後鼻漏となってせきの原因となりがちなので、鼻水をよく吸引することが大切です。

通常は数日間で治りますが、副鼻腔炎を併発すると膿性の鼻漏がなかなか治りません。また、特に小児は急性中耳炎を起こしやすくなります。

ウイルス性鼻炎にかかったら、安静が第一です。鼻やのどに適当な温度、湿度、きれいな空気も必要。特に、室内を乾燥させないように気を付けます。

初期はウイルスが飛び散って伝染するので、感染防止への配慮が必要。マスクは伝染にはたいした効果はありませんが、吸気の清浄化、加温、加湿という面では多少の効果があります。

市販薬でも、鼻症状用としての総合感冒薬や、鼻症状改善の為の即効性スプレー点鼻薬などが数多くありますので、ウイルス性鼻炎にかかりやすい人は持ち合わせているとよいでしょう。

しかし、点鼻薬は即効性が強いぶん、使いすぎると効果が出にくくなるようです。

🇩🇲ウイルソン病

脳、肝臓に銅が沈着してくる遺伝性疾患

ウイルソン病とは、体内に銅が沈着することにより、脳、肝臓、腎(じん)臓、目などが侵される疾患。その原因は、日常の食事で摂取された銅が肝臓から胆汁中へと、正常に排出されないことによります。

常染色体劣性遺伝に基づく先天性銅代謝異常症であり、病名はウイルソンという人が見付けたことに由来しますが、進行性レンズ核変性症、肝レンズ核変性症とも呼ばれています。

銅は微量元素の一つで、必須栄養素であり、過剰に摂取した場合、急性や慢性の銅中毒になります。その慢性銅中毒に、ウイルソン病はよく似ています。食物中の銅は、十二指腸や小腸上部で吸収されて、肝臓に運ばれます。肝臓において、銅はセルロプラスミンと結合して銅結合蛋白(たんぱり)質となり、血液中に流れてゆきます。また、脳や骨髄など全身の諸臓器に必要量が分布し、過剰な銅は肝臓から胆汁中、腸管中に排出され、平衡を保っているのです。

しかし、ウイルソン病においては、この肝臓での銅代謝が障害されています。肝臓中に取り込まれた銅がセルロプラスミンと結合できないために、胆汁中へ銅が排出されず、肝臓にたまっていきます。そして、肝臓からあふれて血液中へ流れ出た銅が、脳、腎臓、目の角膜などへ蓄積します。

近年、13番染色体上のATP7B遺伝子異常が、ウイルソン病の原因遺伝子として特定されました。ATP7Bは、肝臓に特異的に発現するATP依存性メタルトランスポーターで、この異常によってセルロプラスミンへの銅の取り込みが損なわれます。

ウイルソン病の発症率は、3~4万人に1人と見なされ、日本全国で1500人の患者がいるといわれています 。発症率は、欧米諸国より高くなっています。年齢的には、3~15歳の小児期を中心に発症し、30~40歳で発症することもあります。

肝臓の症状は、疲れやすかったり、白眼や皮膚が黄色くなったりして気付かれます。多くの場合は無症状で、血中GOT、GPTなど肝機能の異常を指摘され、発見されます。しかし、原因不明の急性肝炎とか慢性肝炎などと診断されることもあり、急激な肝不全状態となって、黄疸(おうだん)や意識障害などを生じ、急に死亡してしまうこともあります。肝障害は徐々に進行し、思春期過ぎには肝硬変になる場合が多くみられます。

脳の症状の多くは、思春期ごろから現れます。初期においては、言葉が不明瞭(めいりょう)になり、何かをしようとすると手指が震えたりして、字を書くことや細かい作業が下手になります。

さらに進行すると、表情が硬くなり、次第に歩くことができなくなり、ついには寝たきりになってしまいます。記憶力や計算力も鈍り、精神状態も不安定、無気力、うつ状態、統合失調症(精神分裂病)様の反応を示すようになります。

目の症状としては、角膜輪(カイザー・フライシャー輪)をみます。黒目の周りに銅が沈着し、青緑色や黒緑褐色に見えます。この角膜輪が肉眼的にはっきり見えるのは、思春期過ぎです。

これらの多彩な症状は、すべての罹病(りびょう)者に出るのではなく、無症状期の発症前型、 10歳以下の小児期に多い肝型、 10歳以降に多くて年齢とともに増加する神経型、 神経型と同様の傾向を示す肝神経型に分かれます。治療しなければ進行し、ついには、死亡したり、荒廃したりします。

遺伝性代謝疾患ながら治療は可能

ウイルソン病は、遺伝性代謝疾患のうちでは数少ない、治療可能あるいは発症予防可能な疾患です。遺伝性代謝疾患は、いわゆる難病とされ、治療が不可能なものが多いのです。幸い、常染色体劣性遺伝性の疾患であるウイルソン病は治療ができ、早期発見により発症を予防することもできるのです。

早期発見ためには、同じ病気を持つ血族の有無も重要になります。兄弟姉妹を検査すると、25パーセントの確率でウイルソン病であったりします。しかし、約30パーセントは突然変異でウイルソン病が発病するため、家族や血族発生のないこともあります。

家族内検索により発見された小児の場合、発症前型に分類され、治療することにより日常生活や学校生活、就職などすべての面に渡って、正常者と同じ生活を維持することができます。

ウイルソン病の診断は、問診や臨床症状から銅代謝異常の可能性を疑い、血清総銅量やセルロプラスミン濃度の低下、尿中排出量の増加、眼の角膜輪(カイザー・フライシャー輪)の証明などにより、銅代謝異常のあることを診断します。

さらに、肝生検による組織診断、肝生検組織の銅染色、肝生検組織中の銅含有量の測定、胆汁中の銅濃度量の測定などにより、診断が確定します。

治療法としては、銅を多く含む食事の制限を行う食事療法と、D-ペニシラミン(メタルカプターゼ)や塩酸トリエンチン、メタライトといった銅排出促進藥(キレート薬)を服用する薬物療法が基本となります。

食事療法としては、生涯に渡って銅含有量の多い食物の摂取を制限して、1日1・5ミリグラム以下の低銅食を指導します。銅含有量の多い食物として挙げられるは、貝類、レバー、チョコレート、キノコ類など。

薬物療法としては、体内にたまった銅の除去、銅毒性の減少を目指して、銅排出促進薬による治療が、発症予防を含めて第一選択になります。この薬剤には副作用がありますし、生涯に渡って服用しなければなりません。

また、肝障害や神経障害に対する対症療法も必要に応じて行われます。

🇩🇲ウイルムス腫瘍

染色体異常が原因で、乳幼児の腎臓に発生する悪性腫瘍

ウイルムス腫瘍(しゅよう)とは、乳幼児の腎臓(じんぞう)に発生する悪性腫瘍。胎生期の未分化な腎組織から発生するので、腎芽腫、腎芽細胞腫とも呼ばれます。

子供の腎臓に発生する腫瘍のうち、このウイルムス腫瘍が90パーセントを占めます。頻度は出生数1万2000~1万5000人に1人、年間では80~100人が発症していると推定されています。半数は2歳前に発症しており、90パーセントは5歳までに発症しています.発症率の男女差は、同等かやや女児に多い傾向があります。

2つある腎臓のうち、ほとんどは片側に腫瘍ができます。まれには、左右両側にできることもあります。原因は染色体異常で、染色体の11番目の短腕の部で、がんを抑制する遺伝子が欠失している時に発症します。無虹彩症や半身肥大症、腎臓の奇形、尿道下裂、水腎症、停留精巣など、生まれ付きの奇形と合併しやすい特徴もあり、大人の腎臓がんとは根本的に違います。

おなかに硬いしこりができ、膨らむのが、最も多い症状。疾患が進行すると、肝臓など近くの臓器へ広がったり、肺に転移することが多く、リンパ節、骨などに転移することもあります。治療法の進歩によって、早い時期に見付かればほとんどが治るようになったものの、予後不良組織群と呼ばれる全体の約10パーセントの腫瘍群は極めて治りにくいものです。

しこりがかなり大きくなるまで自覚症状はあまりみられず、ほとんどが入浴時などに偶然、おなかのはれやしこりに家族が気が付いた時に、発見されます。わき腹に表面が滑らかで硬いしこりとして触れる特徴があります。呼吸によって、しこりが動くことはありません。

一般に、しこりに痛みはありませんが、腹痛や吐き気が起こったり、血尿が出ることもあります。また、不機嫌、顔面蒼白(そうはく)、食欲低下、体重の減少、発熱、高血圧などがみられることもあります。

ウイルムス腫瘍の検査と診断と治療

乳幼児のおなかに硬いしこりや、異様な膨らみを認めたり、腹痛を訴えて血尿がみられたら、ウイルムス腫瘍の可能性もありますので、すぐに小児科、あるいは泌尿器科を受診します。進行は比較的ゆっくりなものの、肺やリンパ節に転移しやすく、他のがんと同様に早期発見が大切です。

医師による診断では、胸部と腹部のX線撮影のほか、超音波検査、CT検査、MRI検査を行い、腫瘍の大きさ、周囲への進展状態、リンパ節転移の有無などの情報を得ます。特にMRI検査は、腫瘍と血管との関係から腫瘍の外科的切除が可能かどうかを判断する上でも有用です。肺に転移していると、胸部X線写真で丸い不透明な影が認められます。

血尿は症状としては多くはありませんが、顕微鏡的血尿は約3分の1にみられるとされています。無虹彩症、半身肥大症、尿道下裂などの奇形の合併をしばしばみることもあります。

ウイルムス腫瘍は腫瘤(しゅりゅう)のできる固形性のがんの中では最も治療しやすく、新生児期に発見して手術で腎臓を摘出すれば、抗がん剤や放射線の治療を受けなくても、もう片方の腎臓が十分にその機能を果たし、完全に治癒することがあります。

一般には、腎臓とともに腫瘤を摘出後、抗がん剤による強力な化学療法を行い、時に放射線照射を併用することによって、腫瘍の病変が完全に消失した状態が長期に持続します。手術前に抗がん薬による化学治療を行って腫瘤を小さくしてから、摘出することもあります。両側性のウイルムス腫瘍では、両方の腎臓を摘出せずに腎臓の部分切除を行い、腎臓の温存を図ります。

転移がある場合でも、腫瘤がある腎臓を摘出して抗がん剤や放射線による治療を行うことで、かなり治ります。成人の腎臓がんと違って、肺への転移が致命的になることはありません。

🇩🇴ウーマンオンコロジー

乳がん、卵巣がんなど、女性が主に患う腫瘍

ウーマンオンコロジーとは、女性が主に患う腫瘍(しゅよう)のこと。

乳がん、卵巣がん、甲状腺(こうじょうせん)がん、子宮頸(けい)がん、子宮体がんなどです。

■■乳がん■■

■急増している、女性がかかるがんの第1位

乳がんとは、乳房に張り巡らされている乳腺(にゅうせん) にできる悪性腫瘍(しゅよう)。欧米の女性に多くみられ、従来の日本人女性には少なかったのですが、近年は右肩上がりに増加の一途をたどっています。すでに西暦2000年には、女性のかかるがんの第1位となり、30~60歳の女性の病気による死亡原因の第1位となっています。

2006年では、4万人を超える人が乳がんにかかったと推定され、女性全体の死亡数を見ると、乳がんは大腸、胃、肺に次いで4位ですが、1年間の死亡者数は1万1千人を超え、30~60歳に限ると1位を維持しています。

乳がんは転移しやすく、わきの下のリンパ節に起きたり、リンパ管や血管を通って肺や骨など他の臓器に、がん細胞が遠隔転移を起こしやすいのですが、早期発見すれば治る確率の高いがんでもあります。

代表的な症状は、乳房の硬いしこり。乳がんが5ミリから1センチほどの大きさになった場合、しこりがあることが自分で注意して触るとわかります。普通、表面が凸凹していて硬く、押しても痛みはありません。しこりが現れるのはむしろ、乳腺炎、乳腺症、乳腺嚢胞(のうほう)症など、がんではないケースの方が多いのですが、痛みのないしこりは乳がんの特徴の一つ。

さらに、乳がんが乳房の皮膚近くに達した場合、しこりを指で挟んでみると、皮膚にえくぼのような、くぼみやひきつれができたりします。乳首から、血液の混じった異常な分泌液が出てくることもあります。

病気が進むと、しこりの動きが悪くなり、乳頭やその周辺の皮膚が赤くなったり、ただれてきて汚い膿(うみ)が出てきたりします。

わきの下のリンパ節に転移すると、リンパ節が硬く腫(は)れてきて、触るとぐりぐりします。さらに進んで、肺、骨、肝臓などに転移した場合、強い痛みやせき、黄疸(おうだん)などの症状が現れます。

ただし、乳がんは他の臓器のがんとは異なり、かなり進行しても、疲れやすくなったり、食欲がなくなってやせてきたり、痛みが出るというような全身症状は、ほとんどありません。

乳がんが最も多くできやすい場所は、乳房の外側の上方で、全体の約50パーセントを占めます。次いで、内側の上方、乳頭の下、外側の下方、内側の下方の順となっていて、複数の場所に及んでいるものもあります。乳がんが乳房の外側上方にできやすいのは、がんの発生母体となる乳腺組織が集まっているためです。

乳がんの原因はいろいろあって、特定することはできませんが、日本人女性に増えた原因として、女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)の過剰な分泌が関係していると見なされます。

そのエストロゲンの分泌を促す要因として挙げられるのは、生活様式が欧米化したこと、とりわけ食生活が欧米化したことです。高蛋白(たんぱく)質、高脂肪、高エネルギーの欧米型の食事により、日本人の体格も向上して女性の初潮が早く始まり、閉経の時期も遅くなって、月経のある期間が延びました。その結果、乳がんの発生や進行に関係するエストロゲンの影響を受ける期間が長くなったことが、乳がんの増加に関連しているようです。

ほかに、欧米型の食事の影響である肥満、生活習慣、ストレス、喫煙や環境ホルモンによる活性酸素の増加なども、エストロゲンの分泌を促す要因として挙げられます。

乳がんにかかりやすい人としては、初潮が早い人、30歳以上で未婚の人、30歳以上で初めてお産をした人、55歳以上で閉経した人、標準体重の20パーセント以上の肥満のある人などが挙げられています。また、母親や姉妹が乳がんになった人や、以前に片方の乳房に乳がんができた人も、注意が必要です。

特殊なタイプの乳がんも、まれに発生しています。乳首に治りにくいただれや湿疹(しつしん)ができるパジェット病と、乳房の皮膚が夏みかんの皮のように厚くなり、赤くなってくる炎症性乳がんと呼ばれる、非常に治りにくい種類です。

なお、乳がんにかかる人はほとんど女性ですが、女性の約100分の1の割合で男性にもみられます。

■自己検診による乳房のチェックを

乳がんは、早期発見がとても大切な病気。乳房をチェックする自己検診の方法を覚えて、毎月1回、月経が終了して1週間後の乳腺の張りが引いているころに、実行するとよいでしょう。閉経後の人は、例えば自分の誕生日の日付に合わせるなど、月に一度のチェック日を決めておきます。

こうして、自分の乳房のふだんの状態を知っておくと、異常があった時にすぐにわかるのです。

自己触診は、目で乳房の状態を観察することと、手で触れて乳房や、わきの下のしこりの有無をみるのが基本です。鏡に向かって立ち、両手を下げた状態と上げた状態で、乳房の状態をチェックします。

具体的には、 乳首が左右どちらかに引っ張られたり、乳首の陥没や、ただれがないか。乳房に、えくぼのような、くぼみやひきつれがないか。乳輪を絞るようにし、乳頭を軽くつまんで、血液や分泌液が出ないか。

以上の点に注意します。さらに、乳房を手の指の腹で触り、しこりの有無をチェックします。指をそろえて、指の腹全体で乳房全体を円を描くように触ります。乳房の内側と外側をていねいにさすってみましょう。調べる乳房のほうの腕を下げたポーズと腕を上げたポーズで、左右両方の乳房をチェックします。

そして、わきの下にぐりぐりしたリンパ節の腫れがないかどうかもチェックします。

少しでも、しこりや異変に気が付いたら、ためらわずに外科を受診することが大切です。専門家によって、自己触診では見付からないようながんが発見されることもありますから、定期検診も忘れずに受けましょう。

■検査はマンモグラフィが中心

乳がんは、乳腺外科、あるいは外科で専門的に扱う場合がほとんどです。検査は、視診と触診、さらにマンモグラフィが中心ですが、超音波検査(エコー)もよく利用されています。

マンモグラフィは、乳房用のレントゲン検査で、早期乳がんの発見率を向上させた立役者といえます。乳房全体をプラスチックの板などで挟み、左右上下方向からレントゲン写真をとります。

乳房のしこりだけではなく、石灰化像といって、しこりとして感じられないような小さながんの変化も捕らえることができます。この段階で発見できれば、乳がんもごく早期であることがほとんどですから、乳房を残したままがんを治療することも可能になります。

現在の日本では、乳がん検診にアメリカほどマンモグラフィが普及していません。検診では、触診や視診だけではなく、マンモグラフィの検査が含まれているかどうかを確認したほうが安心です。

超音波検査は、超音波を発する端子を乳房に当てて、その跳ね返りを画像にするもの。痛みなどはなくて受けやすい検査で、自分ではわからないような小さな乳がんを発見することが可能です。

しこりや石灰化像などの、がんが疑われる兆候が発見された場合には、良性のものか、がんかを判断する検査が行われます。従来、穿刺(せんし)吸引細胞診、針生検(せいけん)や切開生検が中心に行われていましたが、近年はマンモトーム生検という検査法が登場しました。

穿刺吸引細胞診は、専用の針をしこりに刺して一部の細胞を吸引して取り、顕微鏡で細胞の形などを調べる検査。体への負担が少ないのが利点ですが、しこりとして触れないような小さながんなどは、診断できないことも少なくありません。

針生検は、少し太めのコア針で局所麻酔をして、組織を取り出して調べる検査。体への負担が少ないのが利点ですが、病変が小さい場合は何度も刺す必要があったり、診断が付かないこともあります。

切開生検は、メスで乳房に切開を入れ、がんと思われる部位の組織の一部を取ってきて、顕微鏡で調べる検査。穿刺吸引細胞診や針生検で、確定診断ができない場合に行われてきましたが、外科手術になりますので、体への負担が大きいのが欠点です 。

マンモトーム生検は、超音波やマンモグラフィで見ながら、疑わしい部分に直径3ミリの針であるマンモトームを刺して、自動的に組織の一部を吸引してきて、顕微鏡で調べる検査。広範囲の組織が取れて、切開生検より傷口が小さいため、テープで止めるだけで糸で縫う必要がないのが利点です。とりわけ、しこりとして触れない小さながんや、石灰化の段階のがんの診断に、威力を発揮します。

乳がんとわかった場合には、がんの広がりの程度、他の部位への転移の有無を調べるために、胸や骨のレントゲン検査、CT、超音波検査、アイソトープ検査などが行われます。その程度や有無によって、治療の方針が決められることになります。

■標準的な手術法は乳房温存療法

乳がんの治療法は、その進み具合によって、いろいろな方法が選ばれます。一般的には、まず手術により、乳がんの病変部をできるだけ取り除く治療を行います。

従来は、乳房と胸の筋肉とわきの下のリンパ節をひと塊として、完全に取ってしまうハルステッドという手術が、定型的な乳房切除術として長い間、行われていました。この手術によって、乳がんの治療成績は飛躍的に向上しました。しかし、手術後に腕がむくんで動かしにくくなるなどの障害と、肋骨(ろっこつ)が浮き出て見えたりする美容的な問題が、難点でした。

ところが、乳がんも早期発見が多くなったため、このように大きな手術をすることは少なくなりました。現在では、がんが胸の筋肉に深く食い込んでいる場合などごく一部を除いて、ハルステッド法はほとんど行われなくなっています。

代わりに、胸の筋肉は残して、乳房とわきの下のリンパ節を取る胸筋温存乳房切除術という手術が、行われるようになりました。

乳房のすぐ下には大胸筋、その下には小胸筋という筋肉がありますが、この胸筋温存乳房切除術にも、大胸筋だけを残す大胸筋温存乳房切除術と、両方の筋肉を残して乳房を切除する大小胸筋温存乳房切除術があります。

リンパ節転移が多い場合などは、リンパ節を確実に切除するために、小胸筋を切除することがありますが、最近は両方の筋肉を残して乳房を切除するケースが多くなっています。腕を動かす時に主に使われる大胸筋を残すだけでも、ハルステッド法に比べればかなり障害は少なくなります 。

さらに、近年では、早期に発見された乳がんに対しては、乳房を全部切り取らずに、しこりの部分だけを取り除いて、残した乳腺に放射線をかける乳房温存療法が、盛んに行われるようになりました。日本では2003年に、乳房温存療法が乳房切除術を数の上で上回るようになり、標準的な手術法となっています。

この乳房温存療法では、乳房を残して、がんの病巣をできるだけ手術によって切除し、残ったがんは放射線の照射で叩くというのが基本的な考え方ですので、放射線治療は必須です。一般的には、わきの下のリンパ節転移があるかどうかにかかわらず、しこりの大きさが3センチ以下で、乳房の中でがんが広範囲に広がっていないことなどが、適応の条件とされています。

また、しこりが3センチ以上でも、手術前に化学療法を行ってしこりが十分に小さくなれば、可能であるとされています。ただし、医療機関によって考え方には多少違いがあり、もっと大きな乳がんにも適応しているところもあります。

わきの下のリンパ節をたくさん取らない方法も、最近では検討されています。手術中に、センチネルリンパ節(見張りのリンパ節)という最初にがんが転移するリンパ節を見付けて、そこに転移がなければリンパ節はそれ以上は取らないという方法です。まだ確立はされた方法ではありませんが、腕の痛みやむくみなどの障害が出ないので、今後急速に普及していくと考えられます。

乳がんはしこりが小さくても、すでにわきの下のリンパ節に転移していたり、血液の中に入って遠くの臓器に広がっていることもあります。転移の疑いがある場合、術後の再発予防のために抗がん薬やホルモン薬による治療を加えると、再発の危険性が30~50パーセント減ることがわかってきました。抗がん薬やホルモン薬においても、副作用が少なく、よく効く薬が開発されてきて、再発後の治療にも効果を上げています。

■■卵巣がん■■

■女性の卵巣に発生する悪性の腫瘍

卵巣がんとは、卵巣に発生する腫瘍(しゅよう)のうち、悪性腫瘍の代表となる疾患。女性特有の疾患であり、命の危険もあります。

卵巣は、子宮の左右に一つずつある親指くらいの楕円(だえん)形の小さな臓器です。卵巣の中で卵子を成熟させ、放出するという働きがあり、周期的に卵胞ホルモンと黄体ホルモンという2種類のホルモンを分泌して女性の機能を調整しており、妊娠と出産のためにはなくてはならない臓器です。

この卵巣には、人体の臓器の中で最も多くの種類の腫瘍が発生します。腫瘍は大きく、良性群、中間群(境界悪性)、悪性群に分けられ、悪性の代表が卵巣がん。それらを正確に判断するためには、手術によって腫瘍を摘出し、顕微鏡で調べなければなりません。

年齢的には少女から高齢者まで幅広く、卵巣がんは発症しますが、40歳代から発症する人が増加し、50歳代から70歳代の女性に最も多く発症します。女性の70人に1人が発症していると見なされ、婦人科系のがんの中では2番目に発症率が高く、死亡率は1番目といわれています。食生活の欧米化に伴って年々少しずつ発症する人が増えており、特に50歳以降に発症すると死亡率は高くなっています。

死亡率が高い原因には、卵巣がんの早期発見が難しいという点が挙げられます。卵巣は、骨盤内にあって腹腔(ふくくう)内に隠れている臓器なので、自覚症状が出るのが遅くなります。医療機関での画像診断でも、ある程度の大きさにならないと診断することが難しい面があります。進行してがんがかなり大きくなったり、他の臓器への転移が起こって初めて、気付くというケースが多くみられます。

卵巣がんが小さい時は、症状は何もありません。がんが大きくなってくると、下腹部にしこりを感じたり、圧迫感により尿が近くなるといった症状が現れてきます。胃が圧迫されることによる食欲不振や、下腹部の消化不良のような不快感、腰痛や吐き気、疲労感、不正性器出血などといった症状も現れてきます。

さらに進行すると、卵巣が腫大して腹水がたまり、妊娠時のように腹が膨らんできます。そうなると、貧血や体重の減少などもみられるようになってきます。

人体の臓器の中でもとても小さな卵巣ですが、そこにできるがんにはさまざまなものがあります。卵巣の中にある表層上皮、胚(はい)細胞(卵細胞)、性ホルモンを分泌する性索間質などすべての細胞から、さまざまながんが発生します。

その発生する細胞から、上皮性卵巣がん、胚細胞性卵巣がん、性索間質性卵巣がんの3つに大きく分けられ、さらに組織学的に細かく分類されています。

卵巣がんのうち、90パーセント以上を占めるのが表皮上皮から発生する上皮性卵巣がんで、40歳代から60歳代の女性に多くみられます。上皮性卵巣がんの中でも組織学的な分類でみると、漿液性腺(しょうえきせいせん)がん、粘液性腺がん、類内膜腺がん、明細胞腺がんが多くみられます。粘液性腺がんの場合は、若年層でも発症することがあります。

また、卵子を生じる細胞から発症する胚細胞性卵巣がんの場合は、30歳未満の比較的年齢の低い女性に多くみられるものの、発症頻度は非常に少ないとされています。性ホルモンを分泌する性索間質卵巣がんのうち、顆粒(かりゅう)膜細胞腫という中間群に分類される腫瘍は、10歳代という若年層に発症します。

他の臓器へ最も転移しやすいのは、腹膜播種(はしゅ)と呼ばれるもので、卵巣から横隔膜にも転移し、そこから胸腔内に広がることがあります。このように卵巣がんが転移した場合、腹水のために腹が大きく張ったり、胸水による息切れがみられるなどの症状が現れます。逆に、胃がんや大腸がんなどの他の臓器のがんの転移によって、卵巣がんが発症したというケースもみられます。

卵巣がんの治療は、その卵巣がんの種類によって異なってきます。適切な治療を行うためにも、自分の卵巣がんの種類を把握することは大切なことです。

■卵巣がんの検査と診断と治療

何らかの自覚症状が現れてから医療機関で検査を受けると、その時点ですでに進行が進み転移が起きている場合が多くあります。卵巣がんを少しでも早い段階で発見するためにも、定期的に婦人科、産婦人科で検診を受けることが大切になります。

卵巣がんは子宮がん検診のように細胞をとって検査することはできないため、エコー検査による検診が行われています。エコー検査によって卵巣に腫瘍が認められた場合や、下腹部の圧迫感やしこりなどといった症状を感じている場合は、CTやMRIなどの画像検査により卵巣がんやそれに伴う転移、腫瘍の性質や進行度などといった詳しい状態を検査していきます。

卵巣にできる腫瘍には良性と悪性があるので、腫瘍マーカーによる検査が行われ良性、悪性の判断が行われます。

しかし、腫瘍マーカーは初期や低年齢の女性の場合は陰性のことが多いため、正確に判断するためには手術によって組織を摘出し、病理組織検査によって調べる必要があります。

従って、種々の検査で、卵巣の直径が5センチ以上となっている場合は、原則的に手術が行われ、摘出物の病理組織検査で、その後の治療方法が決まります。

手術中の肉眼的な所見で、腫瘍が良性か悪性かはおおよそわかりますが、どちらかはっきりしない場合は、手術中の迅速病理組織疹の結果で、子宮まで摘出するか否か決定されます。

がんが卵巣内にとどまっている場合は、がんのできている卵巣と卵管だけを切除するだけでよいこともあります。がんが卵巣外にも及んでいる場合は、両側の卵巣と卵管、子宮、胃の下部から垂れて腸の前面を覆う薄いである大網(だいもう)、リンパ節などを広範に摘出しなければなりません。大網は最も卵巣がんが転移しやすい部位とされ、早期がんの場合でも切除することがあります。

 がんが卵巣外に広く散らばっている場合には、手術の後、抗がん剤による強力な化学療法が必要となります。抗がん剤はがんの種類によってかなり有効で、残ったがんが縮小したり、消失することもあります。この場合は、もう一度手術を行い、残った腫瘍を完全に摘出したり、化学療法を中止する時期を決定します。

なお、卵巣がんは乳がん同様に家族性腫瘍とみられ、家族の中に子宮がんや乳がん、大腸がんの人がいる場合は、リスク因子が高くなっています。また、出産歴がない場合や第1子を高齢で出産した場合、初潮を早く迎えた場合、閉経が遅い場合なども、リスク因子として挙げられています。生活習慣からみるリスク因子には、喫煙、食事での動物性脂肪の多量摂取、肥満などがあります。

■■甲状腺がん■■

■内分泌腺の一つで、首の前部にある甲状腺に発生するがん

甲状腺(せん)がんとは、内分泌腺の一つで、首の前部にある甲状腺に発生するがん。

この甲状腺は、のど仏の下方にあって、気管の前面にチョウが羽を広げたような形でくっついて存在し、重さは約15グラム。男性では女性に比べてやや低い位置にあり、甲状腺の後両側には、反回神経という声を出すのに必要な神経が走っています。

甲状腺ホルモンという日常生活に必要不可欠なホルモンを分泌し、そのホルモンレベルは脳にある下垂体という臓器の指令により調節されています。なお、甲状腺の裏側には、副甲状腺というやはりホルモンを分泌する米粒大の臓器が左右上下計4個存在し、血清中のカルシウム値を一定に保つ役割を担っています。

甲状腺がんの発生頻度は、人口3万人に30人程度。年齢的には、若年者から高齢者まで広い年齢層に発生し、子供を含む若い年齢層でもさほど珍しくありません。性別では、男性の5倍と女性に圧倒的に多いのですが、男性の甲状腺がんのほうが治りにくい傾向があります。

原因は、まだよくわかっていません。原爆やチェルノブイリ原発事故などで首に放射線を多量に受けた場合や、甲状腺刺激ホルモンが増加した場合などが、原因になるのではないかといわれています。さらに、甲状腺がんの一つの型で、甲状腺の特殊なC細胞より生じる髄様がんのように、遺伝的に発生するものもあります。また、慢性甲状腺炎(橋本病)にがんが合併することも少なくありません。

甲状腺がんは顕微鏡検査での分類である組織型により、乳頭がん、濾胞(ろほう)がん、髄様がん、未分化がんに分類されます。このいずれであるかによって、病態や悪性度が大きく異なります。

このうち、乳頭がんが全甲状腺がんの約90パーセントを占め、次いで多いのは濾胞がんです。この両者は分化がんと総称され、がん組織が異常であるとはいえ、比較的正常組織に似ています。一般に進行が遅く、治りやすいがんであるのが大きな特徴。リンパ節や肺などに転移がみられる場合もあります。

髄様がんは全甲状腺がんの1〜2パーセント程度を占め、約4分の1が遺伝性。リンパ節転移を起こしやすく、副腎(ふくじん)や副甲状腺の疾患を伴うこともあります。分化がんに比べると悪性度は高いものの、未分化がんほど悪性度は高くありません。

一方、未分化がんは全甲状腺がんの2〜3パーセント程度を占め、あらゆるがんのうちで最も増殖スピードが速いと見なされているもので、全身的な症状を伴ってくるのが特徴です。元からあった分化がんが長年のうちに、変化(転化)して未分化がんになると考えられています。分化がんと比較して、60〜70歳以上の高齢者にやや多く、発生に男女差はほとんどありません。

甲状腺がんの症状は通常、首の前部にしこりを触れるだけです。長年放置して大きなしこりとなると、目で見ただけでわかるサイズになりますし、周囲臓器への圧迫症状を呈することもあります。進行すると、声帯の反回神経のまひを生じて、声がかすれたり、首や全身のリンパ節に転移を生じたり、気管や食道にがんが広がります。

ただし、以上のことは甲状腺分化がんの場合であって、未分化がんでは早い時期から急激な増大、痛み、息苦しさ、全身の倦怠(けんたい)感など多彩な症状を呈します。

■甲状腺がんの検査と診断と治療

首のしこりが甲状腺に関係するかどうかは一般の医師でもわかるので、まず掛り付け医を受診し、甲状腺腫瘍(しゅよう)と判明したら、甲状腺を専門にする外科医を受診します。

医師による診断では、手で触る触診以外に、超音波検査(エコー検査)、CT検査などを行います。また、しこりに細い針を刺してがん細胞の有無を顕微鏡で調べる吸引細胞診で、組織型を判断します。目的に応じて甲状腺シンチグラフィ、MRI検査なども行われます。

髄様がんでは、血中のカルシトニンやCEAといった検査値が高くなりますので、診断は容易です。遺伝性のこともあるので、遺伝子の検査や家系調査などが必要となってくることもあります。

治療においては、乳頭がん、濾胞がん、髄様がんはすべて手術の対象となります。病変の広がりにより、甲状腺の全部を切除する甲状腺全摘術、大部分を切除する甲状腺亜全摘術、左右いずれか半分を切除する片葉切除術などを行います。甲状腺の全部や大部分を切除した場合には、残った甲状腺が十分な甲状腺ホルモンを作れないために、チラージンSという甲状腺ホルモン剤を投与します。

首のリンパ節は原則として切除しますが、その範囲もがんの進み具合により判断されます。10ミリ以下の極めて微小な分化がんでは、リンパ節切除を省略する場合もあります。 遠隔臓器に転移を来した分化がん、ことに濾胞がんでは、甲状腺全摘の後にアイソトープ(放射性ヨードの内服剤)の投与が行われます。分化がんに対して、抗がん剤による有効な化学療法はありません。

一方、甲状腺未分化がんに対しては、手術よりも外照射による放射線療法と、抗がん剤による化学療法が中心的な治療となります。従来、有効な治療法が確立されていませんでしたが、近年は複数の抗がん剤の併用が有効なケースもみられます。

甲状腺の手術に特徴的な合併症としては、反回神経まひ、副甲状腺機能低下があります。甲状腺に接する反回神経を手術の時に切断する場合には、声がかすれる、水分を飲むとむせるようなこともあるものの、6カ月から1年経過をみて回復しない場合には、声帯内にシリコンを注入して声をよくします。副甲状腺4個のうちいくつかも手術の時に切除されることが多いのですが、3個以上の摘出では血液中のカルシウムが低下し、指先や口の周囲のしびれが起こることがあるため、カルシウム剤剤や活性化ビタミンD3の補充を行います。

甲状腺がんの予後は、未分化がんを除き良好です。特に、大部分を占める乳頭がんでは、術後10年生存率が90パーセントを超え、がんのうちでも最も治りやすい部類に属します。濾胞がんでも、これに準ずる高い治療成績が得られます。髄様がんでは、分化がんに比べるとやや不良ながら、一般のがんに比べると予後は良好です。未分化がんでは、治療成績は極めて悪いのが現状です。

■■子宮頸がん■■

■40、50歳代に多く、若年層にも増加傾向

子宮頸(けい)がんとは、子宮頸部の上皮から発生するがんのことをいいます。子宮頸部は、膣(ちつ)から子宮への入り口部分で、とっくりを逆さにしたような形をしている子宮の細い部分に当たり、その先端が腟の側に突き出ています。

先端の部分と内方の部分では、上皮の組織が異なっています。腟の側に突き出ている先端部分は、皮膚と同じく、数層の平ベったい細胞が重なった扁平(へんぺい)上皮で覆われています。これに対して、子宮体部の側の内方部分は、粘液を分泌する一層の細胞である腺(せん)上皮(円柱上皮)で覆われています。

一般にいう子宮頸がんは、約85パーセントが扁平上皮の細胞から発生する子宮頸部扁平上皮がんで、性成熟期に多く発症します。一方、腺上皮の細胞から発生する子宮頸部腺がんは、閉経後に多く発症します。子宮頸部扁平上皮がんは子宮膣部がん、子宮頸部腺がんは子宮頸管がんとも呼びます。

発生したがんは初め、扁平上皮、あるいは腺上皮の中にとどまっていますが、次第に子宮の筋肉に浸潤。さらに、腟や子宮の周りの組織に及んだり、骨盤内のリンパ節に転移したりします。ひどく進行すると、膀胱(ぼうこう)、直腸を侵したり、肺、肝臓、骨などに転移したりします。

子宮がん全体の中では、子宮頸がんは60〜70パーセントを占めています。30歳代で増え始め、40、50歳代で最も多くみられますが、20歳代の人や80歳以上の人にもみられます。とりわけ、性交開始が低年齢化するとともに若年者の発症が多くなっているために、平成16年4月の厚生労働省の通達で、子宮頸がん検診の開始年齢を20歳に引き下げました。

死亡数は、激減しています。前がん病変での早期発見、早期治療のケースが増加し、がんになる前に治療がされるようになったことと、がんになったとしても、がんの進み具合を表す臨床進行期で0(ゼロ)期〜Ia期に当たる早期がんのうちに、約65パーセントが発見され、ほぼ100パーセント治癒するようになったためです。

しかしながら、発生率は少なくなっていません。子宮頸部腺がんでは、検診で比較的発見されにくく、進行してから発見される場合もあります。放射線治療や化学療法が効きにくいなど、扁平上皮がんと比べると子宮頸部腺がんの予後は、悪い傾向にあります。

■ヒトパピローマウイルスの感染が誘因に

直接、発がんと結び付く原因はまだわかっていませんが、いくつかの疑わしい因子はわかっています。以前から、多産婦に多いことが統計学的に証明されているほか、高リスクの因子として、初めての性交年齢の若い人、性行為の相手が複数いる人、喫煙歴のある人などが挙げられています。

近年、注目されている高リスク因子は、性行為によって感染するヒトパピローマウイルス(ヒト乳頭腫ウイルス:HPV)。ほとんどの子宮頸がんで、このウイルスが組織中から検出されるため、がんの発生の引き金となると考えられています。

ヒトパピローマウイルスは、いぼを作るウイルスの一種で、男性性器の分泌物などに含まれています。70種類以上あるタイプの中のいくつかのものが、前がん病変の形成や頸がんの発生に関与。一般に、ウイルスを持った男性との性交渉によって、外陰部、腟、子宮頸部などの細胞に感染します。

外陰がんや腟がんは非常にまれにしか生じないのに対して、子宮頸がんは比較的多く発生します。とはいっても、実際に子宮頸がんになる人は、ヒトパピローマウイルスに感染した人の中の一部にすぎません。

前がん病変が形成されても、軽度の場合は経過観察しているうちに、約70パーセントが自然に消失することも知られています。発がんには、ウイルスに感染した人の体質、すなわち遺伝子の不安定性や免疫なども関係しているようです。

初期の子宮頸がんではほとんどが無症状ですが、子宮がん検診で行う子宮頸部細胞診により発見することができます。

進行した際の自覚症状としては、月経以外の出血である不正性器出血が最も多く、特に性交時に出血しやすくなります。膿(うみ)のような下り物が増えることもあります。下腹部痛、腰痛、下肢痛や血尿、排尿障害、血便、下痢などが現れることもあります。

■がんの進行度で異なる治療法

不正性器出血があったら、婦人科で検査を受けるのがよいでしょう。症状がなくても、年に1回程度は子宮がん検診を受けることが最善です。

子宮頸がんの検査では、子宮頸部を綿棒などでこすって、細胞診用の検体を採取します。細胞診で異型細胞が認められた場合には、コルポスコープと呼ぶ膣拡大鏡で5〜25倍に拡大して観察しながら、疑わしい部分の組織を組織診用に採取し、病理学的に検査して診断を確定します。

進行がんの場合は肉眼で見ただけでわかりますが、確定のために細胞診と組織診が行われます。さらに、内診、直腸診で腫瘍(しゅよう)の大きさや広がりを調べます。

子宮頸がんの診断が付いた場合は、胸部X線検査、経静脈性尿路造影、膀胱鏡、直腸鏡検査を行い、臨床進行期が決定されます。腹部超音波検査、CT、MRIによって病変の広がりを調べることも、治療法の選択に当たって重要視されます。

子宮頸がんの主な治療法は、手術療法または放射線療法。年齢、全身状態、病変の進行期を考慮して、治療法が選択されます。治療成績は手術、放射線ともほぼ同じですが、日本では手術が可能な進行期までは、手術療法が選ばれる傾向にあります。

早期がんである0期に対しては、子宮頸部だけを円錐(えんすい)形に切り取る円錐切除術を行うことで、術後に妊娠の可能性を残すことができます。また、レーザーによる治療を行うこともあります。レーザー治療では、子宮頸部をほぼ原形のまま残し、術中まったく出血することなく、痛みもないので無麻酔下で行える利点があり、治療成績も良好です。妊娠の希望がない場合は、単純子宮全摘術を行うこともあります。

進行期の中で浸潤が浅いIa 期の場合は、単純子宮全摘術が標準的ですが、妊娠を強く希望される人の場合は、円錐切除術のみが行われることがあります。

明らかな浸潤がんのIa2期や、子宮の周囲にがんが広がるII期の場合は、広汎(こうはん)子宮全摘術が一般的です。広汎子宮全摘術では、子宮だけでなく、子宮の周りの組織や腟を広い範囲で切除し、通常は卵巣も切除します。40歳未満の場合は、卵巣を温存することもあります。摘出物の病理診断でリンパ節転移や切除断端にがんがあった場合は、術後に放射線療法を追加します。

がんの浸潤が深く、広い範囲に及んで手術ができないIII〜IV期の進行がんの場合や、高齢者、全身状態の悪い人の場合は、手術の負担が大きいため放射線療法を行います。

放射線療法は通常、子宮を中心とした骨盤内の臓器におなかの外側から照射する外部照射と、子宮、腟の内側から細い器具を入れて照射する腔内照射を組み合わせて行われます。外部照射ではリニアックというX線を用い、腔内照射ではラジウムに替わってイリジュウムが使われるようになっています。

さらに近年、新しく有効な抗がん薬の開発が進み、主治療の手術や放射線療法を行う前に、原発病巣の縮小と遠隔転移の制御を目的にして、主治療前補助化学療法(NAC)も行われるようになりました。点滴で薬を投与するのが一般的な投与法ですが、子宮動脈へ動注する方法もあります。

 IIb期やIIIa期でも、先に化学療法を行ってがんを小さくしてから、手術することもあります。IIIb〜IVa期などの本来は手術ができない進行期のがんも、NACを行った後に、手術ができることもあります。NAC併用後に手術ができた場合、放射線療法単独の場合よりも治療効果が高いことが報告されており、最近ではNACを行うことが標準的になっています。

■■子宮体がん■■

■子宮体部の内膜に発生するがん

子宮体がんとは、子宮体部の粘膜にできる悪性腫瘍(しゅよう)。子宮頸部(けいぶ)に悪性腫瘍ができる子宮頸がんと合わせて、子宮がんと呼ばれていますが、子宮体がんと子宮頸がんの二つは、発生部位はもとより、好発年齢、発生原因、症状が異なるため 、区別して扱う疾患です。

子宮体部は、子宮の奥の赤ちゃんを育てる部分。外側は筋肉に覆われており、内側は子宮内膜という粘膜でできています。その内膜にがんができるのが、子宮体がんです。

主に閉経後の50歳以上の人に好発し、若い人では、不妊症の人や卵巣機能に障害がある人に起こります。

初期の症状としては、何らかの不正出血、下り物がみられます。閉経前では、月経が長引いたり、周期が乱れるという形で不正出血があります。閉経後では、少量の出血が長く続く場合には注意が必要です。

下り物は黄色、褐色から始まり、次第に血性、肉汁様になって、進行すると膿(のう)性になり、悪臭を放つようになります。高齢者では、子宮の入り口が狭くなって詰まってしまい、子宮の中に出血や分泌物が貯留することもあります。

さらに進行すると、子宮体部の内膜に発生したがんは、徐々に子宮体部壁に広がっていきます。広がりが深くなると、骨盤リンパ節や腹部動脈節に転移が起こり、卵巣、卵管、子宮頸部、腹膜へも進展します。さらに、肺、肝臓などの遠隔臓器へも転移します。

一般に、子宮体がんの進行は、子宮頸がんより遅いといわれています。以前は子宮頸がんが子宮がんの大半を占めていましたが、最近では食生活及び生活習慣の欧米化や、高齢化などにより、子宮体がんが増える傾向にあります。今後はさらに増加するものと予測されます。

発生や進行には、女性ホルモンのエストロゲン(卵胞ホルモン)が影響を与えています。エストロゲンは内膜を増殖させる作用があり、一方、排卵後に分泌されるプロゲステロン(黄体ホルモン)は、増殖を抑制する作用があります。更年期には、月経があっても排卵が起こっていないことが多く、排卵後に分泌されるプロゲステロンが十分に出ないため、内膜が過剰に増殖して子宮内膜症になり、さらに、子宮体がんに進展する可能性があります。

子供がいないか少ない人や、不妊、卵巣機能不全、肥満、高脂血症、糖尿病などを抱えている人も、エストロゲンが子宮内膜に働いている時間が長くなるため、子宮体がんのリスクを高めるといわれています。

■早期の発見、早期の治療が大切

子宮がんでは、早期発見、早期治療が重要です。子宮体がんは子宮頸がんと同様、初期には自覚症状がない場合が多いので、早期発見のために、年に一度は定期検診を受けましょう。50歳前後に発症が多く、最近は閉経後の子宮体がんが増加していますから、閉経後も検診が必要です。

不正出血は大きな手掛かりで、がんになる前の状態の子宮内膜増殖症の段階でも、不正出血が出ることがあります。症状が出てから検診しても、進行がんとは限らないわけです。逆に、進行がんの段階になっても、不正出血のない人もいますので、やはり定期的な検診が大切なのです。

ふだんから自分の体の健康状態に気を付け、不正出血や下り物の異常、性交時の出血、下腹部痛などいつもと違う兆候があったら、ためらわず婦人科を受診することも大切です。

なお、子宮がんの検査を受けた場合でも、実際には子宮頸がんの検査だけを行っている場合もありますから、注意して確認してください。子宮体がんは子宮の奥にできるので、頸がんの検査では発見できません。

検査はまず、細胞診でチェックします。細いチューブを腟から子宮の中に入れて子宮内膜の細胞を吸引採取したり、挿入したブラシでかき取った細胞を、調べます。多少痛みがあります。

細胞診で疑わしい兆候があった場合、あるいは子宮体がんの疑いが強い場合は、最初から組織診が行われることもあります。キューレットと呼ばれる細い金属棒の先に小さな爪のある道具で、子宮体部の組織をかき取り、顕微鏡で検査する方法が中心になっています。少し痛みがあり、出血が数日続くこともあります。

子宮体がんの治療では、手術、放射線、抗がん剤に加え、ホルモン療法が有効な場合もあります。基本は、やはり手術です。

主な手術には、単純子宮全摘術と附属器の切除、広汎子宮全摘術があります。前者の手術は、腹部を切開して子宮と卵巣、卵管を切除する手術です。進行の程度により、周囲のリンパ節の切除も加えます。後者の手術は、子宮と卵巣、卵管、腟、さらに子宮周囲の組織を広く切除する手術で、周囲のリンパ節も一緒に切除します。

手術によって、リンパ節転移が発見されたり、がんが子宮の壁に深く食い込んでいることがわかった場合に、手術後に放射線療法を行うこともあります。抗がん剤を投与して腫瘍を小さくしてから、手術を行うこともあります。

手術が難しい場合は、抗がん剤や放射線による治療を行うことになります。抗がん剤の場合は副作用を抑える薬などが併用され、放射線治療の場合も重い放射線障害が起こらない範囲で治療が行われています。それでも、ある程度の副作用があることは、やむを得ないところです。

また、子宮体がんは女性ホルモンと関係が深いので、ホルモン療法が有効なことがあり、注目されています。基本的には、プロゲステロン(黄体ホルモン)の働きをする薬を飲みます。

■予防の基本は生活習慣と食生活の改善

子宮がんの予防の基本は、体や局部を清潔に保つことです。また、日常の生活習慣や食生活と子宮がんは、密接な関係にあるといわれています。

改善できる生活習慣では禁煙があり、お酒を飲みすぎない、バランスのとれた食事をし、決して食べすぎず、適切な運動と休養をとり、ストレスをためない工夫を心掛けることです。

特に、食べ物では、高塩分、高コレステ ロール食は避け、繊維質、緑黄色野菜、魚類や、がんを抑える作用があるといわれる大豆食品をたくさん摂取するようにします。

また、がんの発生要因とされている活性酸素を抑える物質を多く含む食品を取ることも、有効ながん予防策。活性酸素を消去する物質としては、体内で作り出される抗酸化酵素と、食事等から摂取する抗酸化力のあるビタミンA(β―カロチン)、C、E、B群やポリフェノール、カロチノイド、大豆イソフラボンなどがあります。

🇩🇴ウェゲナー肉芽腫症

鼻と肺の肉芽腫が認められる全身の血管炎

ウェゲナー肉芽腫(にくげしゅ)症とは、鼻と肺の肉芽腫、壊死(えし)性半月体糸球体腎(じん)炎が認められる全身の血管炎。膠原(こうげん)病の中でも、まれな病気です。

1939年にドイツの病理学者であるウェゲナー博士によって、世界で初めて報告されました。原因はいまだ不明ですが、免疫の異常の関与が考えられており、抗好中球細胞質抗体という自己抗体が、風邪などの上気道感染の後に炎症によって産生されたサイトカインとともに好中球を活性化し、各種の悪害因子を放出して、血管炎や肉芽腫を起こすと見なされています。

日本では、国の特定疾患(難病)に指定されていて、全国に600~800人ほどの発症者がいると考えられています。男女比は1:1で明らかな性差は認められていません。

鼻腔(びくう)や肺、腎臓に、炎症によって細胞が異常増殖して塊になった肉芽腫ができ、さらに全身に血管炎を生じるため、さまざまな症状を引き起こします。全身症状として、発熱、倦怠(けんたい)感、食欲不振、体重の減少があります。

全身症状に続いて、または同時に、鼻、目、耳、咽喉(いんこう)頭などの上気道、肺、腎臓の炎症による症状が起こります。上気道のうち鼻腔に肉芽腫ができると、鼻詰まりや血の混じった鼻汁が出ます。慢性鼻炎や副鼻腔炎が起こりやすくなります。その他の上気道に炎症が起こると、難聴、耳漏、耳痛、視力低下、眼充血、眼痛、眼球突出、咽喉頭痛、嗄声(させい)などがみられます。

肺に肉芽腫ができると、せきやたんが出て、血たんが出ることもあります。X線で検査すると、肺に肉芽腫による影や空洞が映ります。腎臓に肉芽腫を伴った炎症が生じると、蛋白(たんぱく)尿や血尿が出て、腎臓の機能が落ちてきます。その他の血管炎を思わせる症状として、紫斑(しはん)、多発性関節痛、多発神経炎などが起こります。

ウェゲナー肉芽腫症の検査と診断と治療

ウェゲナー肉芽腫症では、すべての症状が起こるわけではなく、一人一人の発症者によって出てくる症状、障害される臓器が違うことに、理解を要します。最初は、鼻や耳の疾患、あるいは胸の疾患を思わせる症状が出て、後で腎臓を含め全身の血管炎による多臓器の症状を呈する場合があり、注意が必要です。専門医の指示に従い、早期発見、早期治療を行うことが勧められます。

医師による診断では、血液検査で炎症反応を調べたり、血清中の抗好中球細胞質抗体が陽性かどうかを調べます。さらに、肉芽腫ができやすい鼻腔、肺、腎臓の生検を行って組織を調べて、診断を確定します。肺の肉芽腫を調べるには、MRIやCT検査も行われます。

治療には、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)と免疫抑制剤が用いられます。普通、副腎皮質ホルモンと免疫抑制剤を併用して1カ月から2カ月大量に投与し、以降は疾患の活動性と血液中の抗好中球細胞質抗体の値の推移を見ながら、徐々に減量していきます。症状が落ち着いた状態になったら、使用している免疫抑制療法を維持し、疾患が再発しないように6カ月~5年ほどの長期間に渡って、慎重に経過を観察することが必要です。

また、このウェゲナー肉芽腫症は上気道、肺に二次感染を起こしやすいので、必要によりサルファ剤と抗菌薬を配合したST合剤の内服、鼻腔、咽頭ネブライザーなどにより、細菌感染症に対する対策を十分に行うことも大切です。

🇹🇬ウエスト症候群

生後4カ月から1歳ころの小児に発症する予後不良のてんかん

ウエスト症候群とは、生後4カ月から1歳ころの小児、特に男児に多く発症する予後不良のてんかん。1841年にウエストという医師が彼自身の息子の病状と経過を報告したのが最初で、点頭てんかんとも呼ばれます。

てんかんは、脳の神経細胞の伝達システムに一時的な機能異常が発生して、反復性の発作が起こる疾患です。発作時には意識障害がみられるのが普通ですが、動作の異常、けいれんなどだけの場合もあります。こうした異常な症状が長期間に渡って何度も繰り返し現れるのが、てんかんの特徴です。

てんかんの一つのウエスト症候群は、新生児期から乳児早期に発症する大田原症候群、2歳~8歳に発症するレノックスガストー症候群とともに、年齢依存症てんかん性脳症に分類されます。それぞれのてんかんの好発年齢が乳幼児期にみられること、大田原症候群からウエスト症候群へ、さらにウエスト症候群からレノックスガストー症候群へと年齢とともに変容することが多いため、脳の発達過程とこれらのてんかんの発症が密接に関連しているものと考えられています。

ウエスト症候群は、発症前の発達が正常で、いろいろな検査でも原因が見いだせない特発性と、明らかな原因となる基礎疾患があって脳に障害が存在し、その随伴症状として発作がみられる症候性の2つに大別されます。特発性が10から20パーセント、症候性が80から90パーセントを占めます。

症候性の基礎疾患としては、胎内感染症、先天性脳奇形、先天性代謝異常症、新生児頭蓋内(ずがいない)出血、新生児低酸素性虚血性脳症、小頭症、髄膜脳炎、結節性硬化症、フェニルケトン尿症、頭部外傷などがあります。原因となる基礎疾患のうち、単性疾患としては結節性硬化症が最も多く、皮膚の白斑(はくはん)が診断の手掛かりとなります。

発作の型としては、瞬間的な全身性ミオクロニー発作が特徴です。すなわち、驚いたように両腕を上げると同時に頭部を前屈(点頭)する短い強直発作が数秒間の間隔で、数回から数十回と反復して起こります。このような反復発作をシリーズ形成といい、寝て起きた時あるいは眠くなった時など1日に数シリーズ繰り返してみられます。

発作が起こるとともに、今まで笑っていた乳児が笑わなくなったり、お座りしていた乳児がお座りしなくなるような精神運動発達の荒廃がみられてきます。

症状がある場合は、小児科、あるいは神経内科を受診します。早期診断と早期治療開始が重要で、とりわけウエスト症候群発症まで正常の発達がみられていた特発性では、治療によって良好な予後が期待されます。

医師による診断では、脳波検査が決め手となり、ヒプスアリスミア(脳波の不整波)と呼ばれる特徴的な所見がみられます。生後1カ年未満で、10分間程度の間に発作が10~30回まとまってみられるシリーズ形成、ヒプスアリスミア、精神運動発達遅滞がみられれば、ウエスト症候群と確定されます。原因となる症候性の基礎疾患の検討も重要で、血液検査、頭部CT、頭部MRI検査などを行います。

医師による治療では、バルプロ酸、ゾニサミド、ニトラゼパム、クロナゼパムなどの抗てんかん薬と、ビタミンB6の大量投与が試みられますが、有効でない場合も少なくありません。

その場合は、副腎(ふくじん)皮質刺激ホルモン(ACTH)療法が行われます。約70パーセントにコントロールが期待されますが、副作用として感染症、高血圧、電解質異常、一過性の脳委縮などがみられることがあるため注意が必要で、最近はなるべく少量を短期間に使用する傾向があります。症候性では、ACTH療法で一時的にコントロールできても再発することも多く、年齢が進むとレノックスガストー症候群へ変容することも多くみられます。

予後は不良で、90パーセント以上に何らかの精神運動発達障害みられます。また、50パーセント以上に他の発作型の合併がみられます。ウエスト症候群の発作そのものは、2~3歳以後になると自然消失しますが、多くはレノックスガストー症候群や焦点発作などの他の発作型へ移行します。脳波のヒプスアリスミアも発達の一時期にみられる異常で、年齢とともに、焦点性発作波や不規則棘徐波(きょくじょは)結合に移行します。

ウエスト症候群で予後良好なものとしては、発症以前の発達が正常で、治療が発症1カ月以内に開始されて発作が抑制され、脳波で局在のみられないものが挙げられます。発作の消失は、必ずしも知能の改善を意味しません。

2022/07/30

■東京都で3万3466人が新型コロナ感染 80歳代以上の12人が死亡

 東京都は30日、都内で新たに10歳未満から100歳以上の3万3466人が新型コロナウイルスに感染していることを確認したと発表しました。

 1週間前の土曜日に比べると768人増えました。前の週の同じ曜日を上回るのは11日連続で、土曜日の感染者数としては過去最多です。前週の同じ曜日(23日)と比べると768人多く、過去4番目の多さでした。30日までの7日間平均は3万1687・7人で、前の週の137・4%でした。

 新規感染者を年代別にみると、20歳代が6600人と最も多く、30歳代が5793人、40歳代が5754人と続きました。65歳以上の高齢者は3198人。

 ワクチンの接種状況別では、2回接種済みが2万874人、未接種は6137人でした。

 また、人工呼吸器か体外式膜型人工肺(ECMO<エクモ>)を使っている重症の患者は、29日より2人減って24人でした。

 一方、都は、感染が確認された80歳代から100歳以上の男女合わせて12人が死亡したことを発表しました。

 東京都の累計の感染者数は213万5250人となり、累計の死者数は4661人になりました。


 2022年7月30日(土)

■アメリカのサル痘感染者、5000人突破 ニューヨーク州など緊急事態宣言

 アメリカで天然痘と似た症状の感染症「サル痘」の感染が急拡大しています。累計の感染者数は29日時点で5000人を突破し、スペインを上回り世界最多となりました。直近1カ月で15倍に増えました。東部ニューヨーク州などは感染者の急増を受けて緊急事態宣言を出し、ワクチンの接種など感染防止対策を急いでいます。

 アメリカ疾病対策センター(CDC)によると、29日時点の感染者数は5189人になりました。全米50州で最も多いのはニューヨーク州で1345人、次いで西部カリフォルニア州が799人でした。

 サル痘は5月以降、欧米を中心に感染が広がっています。CDCは世界の感染者数は29日時点で2万2000人超と集計しており、このうちアメリカが2割あまりを占める計算です。感染者の大半は軽症で、男性間の性交渉を通じて感染する人が多いものの、アメリカでは子供の感染者も確認されています。

 ニューヨーク州とカリフォルニア州サンフランシスコ市は28日、緊急事態宣言を出しました。緊急事態宣言によって感染防止対策により多く柔軟に予算が使えるようになるといいます。

 サンフランシスコ市では感染者が305人となりました。19日には連邦政府から約4000回分のワクチンを受け取ったものの、少なくとも3万5000回分が必要と見積もっています。緊急事態宣言には、連邦政府からより多くワクチンを受け取る狙いもあります。

 中西部イリノイ州シカゴ市やニューヨーク市などでは優先順位を設け、不足するワクチンの配分を工夫しています。例えば、シカゴ市では男性と性交渉を持つ男性や14日以内に金銭を目的に性交渉した人などに優先して接種を進めています。

 アメリカ保健福祉省は28日、78万回分のワクチンを現在の感染状況や今後の予測に応じて各州に追加配布すると発表。CDCのロシェル・ワレンスキー所長は、「流行を止めるために最も必要としている人々により多くのワクチンを提供する」と説明しています。


 2022年7月30日(土)

■北朝鮮、発熱者ゼロと発表 感染警戒は継続

 北朝鮮の朝鮮中央通信は30日、国内で29日午後6時までの24時間に新たに確認された発熱者は「ゼロ」だったと伝えました。北朝鮮当局は、5月12日に新型コロナウイルス感染が国内で確認されたと発表し、13日から1日ごとの感染が疑われる新規の発熱者数を発表してきましたが、今回初めてゼロだったとしました。

 当局は、感染確認と同時に始めた「最大非常防疫体系」を維持しています。オミクロン型の派生型の感染が周辺国で拡大しており、国内に流入する可能性があるとみて警戒態勢を続けています。

 韓国の非政府組織(NGO)によると、北朝鮮は体温が「37・0度」を超えると発熱と扱い隔離・治療対象にしています。人口2588万人の北朝鮮でこの基準を上回る人が1人もいないとの説明には不審な点もあります。


 2022年7月30日(土)

■ブラジルで1人、スペインで2人のサル痘死者 アフリカ以外で初

 ブラジル保健省は29日、南東部ミナスジェライス州ベロオリゾンテでウイルス感染症「サル痘」にかかった男性が死亡したと明らかにしました。スペイン保健省も29日、国内で初めて死者が出たと発表し、30日には死者が2人になったと明らかにしました。今年のサル痘の感染拡大で、アフリカ以外で死亡例が確認されるのは初めてとみられます。

 ブラジルで死亡したのは41歳の男性。ブラジル保健省によると、男性はもともと悪性リンパ腫を患い、免疫不全を抱えていたといいます。ミナスジェライス州内の病院に入院しており、28日に亡くなりました。

 ミナスジェライス州保健省は、男性がサル痘以外の「深刻な症状のために病院で治療中だった」旨を発表。州保健長官は「住民にパニックが広がらないよう、重篤な併存症があったことを強調しておきたい」と述べ、男性ががんの治療中だったこと、サル痘の死亡率は「非常に低い」ことを付け加えました。

 ブラジル保健省によると、同国では南東部のサンパウロ州とリオデジャネイロ州を中心に、1066人のサル痘感染者が記録されています。

 一方、スペイン保健省は死者の情報を明らかにしていません。スペインは今回、最も被害が大きい国の1つで、保健緊急警報調整局によると、これまでに4298人のサル痘感染者が確認されています。

 世界保健機関(WHO)は27日、今年に入って78カ国で1万8000人以上の感染が報告されたと明らかにしました。アフリカでは5人の死亡が確認されていました。


 2022年7月30日(土) 

■サル痘に対する天然痘ワクチンの使用を了承 厚労省部会

 厚生労働省の専門部会は29日、天然痘ワクチンをサル痘の予防に使うことを了承しました。感染者と接触した人などに打ち、発症や重症化を防ぐ効果が期待されています。国内での感染者は28日までに2人確認されていて、感染拡大を防ぐための接種体制整備が急務となっています。

 厚労省は手続きを進め、近く正式に承認します。ワクチンはKMバイオロジクス(熊本市)が生産し、国がバイオテロ対策として一定量を備蓄しています。厚労省は確保量を明かしていないものの、サル痘対応の初動で必要な量は調達済みと説明しています。

 世界的な感染拡大を受け国内でも6月から、臨床研究の枠組みを使って天然痘ワクチンの接種が可能になりました。専門部会には、サル痘向けの用途を正式に薬事承認することが諮られ、臨床研究などのデータをもとに審議されました。承認により副作用の救済制度の対象になります。

 厚労省は接種の運用や対象範囲の検討を急ぎます。感染者と接触した人や接触する可能性のある医療従事者らには臨床研究の枠組みで打ちます。感染者との接触リスクが高い希望者への対象拡大は、8月以降に議論を進めます。ワクチンは一般に流通しておらず、当面は接種可能な施設は限られる見通し。

 天然痘ワクチンの予防接種は日本では1976年まで実施されていました。接種経験がある40歳代後半より上の人は、サル痘への免疫が残っている可能性もあります。

 サル痘はウイルスに感染して発症します。皮膚の病変や体液、血液を介した感染が中心で、現在は男性同士の性的接触による感染が多数を占めます。

 発熱や発疹、リンパ節のはれなどがみられ、ほとんどの人は数週間で自然に治ります。天然痘治療薬の投与も治療効果が期待されています。


 2022年7月30日(土)

■日本人の平均寿命、男女とも10年ぶりに前年下回る コロナ死者の増加が影響

 厚生労働省が29日に発表した簡易生命表によると、2021年の日本人の平均寿命は男性が81・47歳、女性が87・57歳でした。新型コロナウイルス流行の影響で、2020年と比べて男性は0・09歳、女性は0・14歳短くなりました。前年を下回るのは東日本大震災の影響があった2011年以来、10年ぶり。

 重症化しやすいデルタ型変異ウイルスの流行で、2021年の新型コロナによる死者は1万6771人に達しました。2020年の死者3466人から4・8倍に増えたことで、全体の平均寿命を押し下げました。

 死因別の分析では、新型コロナによる影響だけで男性は0・14歳、女性は0・09歳、平均寿命を短くする効果がありました。肺炎やがんは死亡率が下がり、平均寿命を伸ばす方向に働いたものの、新型コロナによるマイナスの影響のほうが大きくなりました。2020年の新型コロナの影響は男性で0・03歳、女性で0・02歳の短縮にとどまっていました。

 厚労省がまとめた2021年時点の男女別の平均寿命の世界ランキングによると、男性はスイス(81・6歳)が首位で、日本はノルウェー(81・59歳)に抜かれて2020年から順位を1つ落とし、3位でした。女性は日本が1位を維持し、韓国(86・5歳)、シンガポール(85・9歳)が続きました。

 新型コロナによる死者数増加は、米欧でも平均寿命に影響を与えたとの報告があります。アメリカ疾病対策センター(CDC)によると、アメリカの2020年の平均寿命は前年より1・8歳縮みました。

 平均寿命は1年間の死亡状況が今後変化しないとの前提で、その年に生まれた0歳児があと何年生きられるかの期間を指します。

 厚生労働省は、「前年を下回りはしたが、医療が進歩する中、塩分のとりすぎを控えるなど健康意識も浸透してきている。寿命の延びという大きなトレンドは今後も変わらないのではないか」としています。


 2022年7月30日(土)

🇩🇪ウェルシュ菌食中毒

高温でも死滅しないウェルシュ菌に汚染された食肉などで発症

ウェルシュ菌食中毒とは、高温でも死滅しないウェルシュ菌に汚染された食肉、魚介類、野菜や、これらを使用した煮物によって引き起こされる食中毒。

ウェルシュ菌は酸素を嫌う嫌気性菌で、土壌、水中などの自然界、人および動物の腸管などに広く分布し、牛、豚、鶏(にわとり)といった食肉、魚介類など食品原材料を比較的高率に汚染しています。健康な人の便からも検出され、その保菌率は食生活や生活環境によって異なります。年齢による差も認められ、青壮年よりも高齢者のほうが高い傾向があります。

この細菌は熱に強い芽胞を作るため、高温にも耐えて死滅せず、生き残ります。従って、食品を大釜(おおがま)などで大量に加熱調理すると、他の細菌が死滅しても、ウェルシュ菌の耐熱性の芽胞は生き残ります。数時間以上、加熱調理した食品を放置して温度が下がり、嫌気性菌のウェルシュ菌にとって好ましい酸素のない状態に食品の中心部がなると、芽胞が発芽して急速に増殖を始めます。

これを食べると、ウェルシュ菌が小腸内で増殖して、芽胞を形成する時にエンテロトキシンという毒素が産生され、その作用で下痢などの中毒症状を起こします。

発生の原因となる施設は他の食中毒と同様に、飲食店、仕出し屋、旅館などで、提供される複合食品によるものが多くみられます。学校などの集団給食施設によるケースも比較的多く、給食におけるカレー、シチュー、スープ、麺(めん)つゆなど、食べる日の前日に大量に加熱調理され、大きな器のまま室温で放冷されていた食品に多くみられます。

発症者数の多い大規模食中毒を起こすこと、逆に、家庭での発生は他の食中毒に比べて少ないことが特徴的です。

潜伏時間は約6~18時間で、ほとんどが12時間以内に発症します。最初は腹部の膨満感で始まり、腹痛、下痢が主な症状で、発熱、吐き気、嘔吐(おうと)はほとんどみられません。下痢は水様性で2〜6回程度みられるものの、粘血便がみられることはほとんどありません。きわめてまれには、粘血性の下痢を数10回起こす重症例もあります。

一般に、食中毒の症状としては軽いほうで、多くは24時間以内に回復します。

ウェルシュ菌食中毒の検査と診断と治療

ウェルシュ菌食中毒は細菌性食中毒の中でも軽症であり、特別な治療を行わなくても一両日中に回復しますが、粘血性の下痢を繰り返す症状がみられた場合は、医療機関を受診します。

医師による診断では、普通、症状だけで診断がつきます。食後12時間以内の急性の中毒症状がみられたり、同じ食品を食べた他の人にも同様の症状がみられたり、中毒症状の原因が1つの汚染源に絞れるような場合に、ウェルシュ菌食中毒が強く疑われます。診断を確定するには、糞便(ふんべん)や原因食品、または食品原材料から、同一の性状、同一の血清型を示す多数のウェルシュ菌を検出することが必要です。

重症例に対しては、整腸剤を投与したり、輸液によってブドウ糖液、リンゲル液などの電解質液、あるいは水を補充して症状の改善を待ちます。

ウェルシュ菌食中毒を予防するためには、以下のことを心掛けます。前日調理は避け、加熱調理をした食品は速やかに摂食します。一度に大量の食品を加熱調理した時は、菌の発育しやすい15〜50度の温度を長く保たないように注意します。やむをえず保存する時は、10度以下か50度以上で行います。さらに、保存していた食品を食べる時は、75度で15分以上の再加熱による温め直しをします。

🟧RSウイルス感染症が「流行入り」 静岡県が注意呼び掛け

 静岡県は26日、直近1週間(15~21日)のデータから「RSウイルス感染症が流行入りしている」と発表しました。定点医療機関となっている小児科1カ所当たりの患者数は1・64人で、県が流行入りの目安としている「1人」を大きく上回りました。前週の0・9人よりも8割増加し、急拡大が懸...