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2022/08/26

🇸🇩やせ

●急にやせてきたら注意を

 やせて喜んでいたら、どんどんやせ続ける人には、重大な病気が隠れている可能性もあります。

 近年は「肥満」が悪役になっているためか、「やせ」のほうはあまり問題にされない傾向があります。とりわけ夏の場合、「夏やせだろう」、「夏ばてによる食欲不振が原因じゃないのかな」などと見過ごされがちですが、体重減少は病気のシグナルの可能性もあります。

 普通、自分の身長から割り出される標準体重より20パーセント少ない状態が、「やせ」と考えられます。

 女性の場合の標準体重の求め方は、標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×21(最も有病率の低い、理想のBMI<Body Mass Index>値)となります。男性の場合は、標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22で算出されます。

 「やせ」では、体の脂肪組織が目立って減少し、筋肉組織も減少している状態にあります。「病的」とは必ずしも断定できませんが、一般的には、病気にかかりやすい状態と見なされています。また、病気の初期症状や、やや病気が進行してからの症状として、体重の減少を伴うケースも多々あります。

 体重が徐々に減ってゆく場合はそれほど心配はいりませんが、一カ月の間に5キロも体重が減るなど急激に体が細ってきたら、注意が必要です。安易に自己判断せず、病院や診療所に出向いて、きちんと検査を受けることが大切となります。 

●やせる原因となる主な病気

■食欲がなくてやせるケース■

消化器系の疾患

 消化管である胃腸に病気があると、食欲不振に陥ると同時に、食べたものの消化・吸収も正常に行われなくなるため、やせてきます。消化器系の病気で多いのは、胃潰瘍(かいよう)と十二指腸潰瘍です。

 また、消化液や酵素を分泌する腺臓器である肝臓、膵臓(すいぞう)に、慢性肝炎、肝硬変、慢性膵炎などの疾患があるケースでも、食欲が減退して、やせてきます。

がん

 体のどの臓器、組織にできたがんでも、初期症状として体重が落ち、やせてきます。がん細胞が体の栄養を奪ってしまうために起こり、特に消化器系に発生したがんでは顕著です。末期になると、体がやせ細ってきます。

■食欲があるのにやせるケース■

糖尿病

 糖尿病の初期には太り出すことがありますが、放置して進行すると食欲があるのに体がやせてきて、のどの渇き、多尿などの症状が現れます。

 糖尿病は膵臓から出るインスリンの働きが悪くなり、血糖値が高くなる病気で、進行すると目、腎臓(じんぞう)、神経などに合併症を来す全身病。親や兄弟に糖尿病の人がいると、発症率が高くなります。

バセドー病(甲状腺機能亢進症)

 甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気がバセドー病で、代謝が活発になって消費カロリーが増えるため食欲が増すが、それ以上に代謝が激しいので、急激にやせてきます。

 動悸(どうき)がする、汗をかきやすい、手が震えるなどの症状も伴います。男女比で見ると、約1対4で女性に多く、多くは20~50代で発症します。

■その他のケース■

拒食症(神経性食欲不振症)

 拒食症は若い女性に多く、肥満に対する強い不安などが原因で食欲不振になり、食べても自ら吐いてしまうこともあります。その結果、極度のやせ、無月経などを引き起こします。

 本人には、やせの自覚がないことが多い、とされています。

過度のダイエット

 減量を目的とした自己流の食事制限によって、栄養不足、摂取エネルギー不足に陥って、極端にやせるケースもあります。貧血や肝機能障害などの合併症を引き起こす危険性もあります。 

●心掛けたい「やせ」対策 

■症状に応じて専門医へ

 思い当たることがないのに、一カ月で2~3キロ以上体重が減ったら、念のため内科を受診しましょう。

 ほかに伴う症状があれば、下記の表を参考にして症状、状態に応じた専門医へ出向きましょう。

    症状、状態

   疑われる病気

  受診する科

口が渇く、多尿

糖尿病

内科(代謝内分泌科)

脈が速い、汗が出る

バセドー病(甲状腺機能亢進症)

内科(代謝内分泌科)

長期の下痢

消化管吸収障害、消化管腫瘍(しゅよう)、膵炎

内科(消化器内科)

微熱、せき、たん

肺結核

内科(呼吸器内科)

貧血、高血圧、吐き気

慢性腎不全

内科(腎臓内科)

すぐ満腹になる

通過障害、食道がん、胃がん

内科(消化器内科)

食べられない、食べても吐く

拒食症(神経性食欲不振症)

心療内科、精神科

下剤、利尿剤、甲状腺製剤による副作用

内科

■バランスのよい食事を

 医者の検査を受けても特に異常が見当たらなければ、バランスのよい食事を心掛けるようにすることです。

 全体の摂取カロリーに占める糖質、脂肪、蛋白質の割合は、およそ3対1対1になるのがよいとされています。特に牛乳、卵、大豆など良質の蛋白質を取りましょう。加えて、食事は一日3回、規則正しく取ることが大事です。

■ストレスの発散を

 ストレスが原因となって、やせるケースもあります。適度にストレスを発散しましょう。

■夏ばてでやせたら

 最近の夏ばての傾向として、体温調節機能の不調からくるケースが増えています。この不調は、冷房の利いた室内や車内と屋外の暑さとの温度差によって、引き起こされるものです。

 冷房で体が冷えると、血液循環が悪くなり、肩凝り、腰痛なども悪化します。体を内側から温めるショウガ、ネギ、サフラン、シナモンなどが入った温かい料理を取りたいもの。紅茶、カボチャ、エビ、牛肉も、体を温める食材とされています。

 一方、屋外などで多量に汗をかく人は、十分な水分、塩分に加え、豚肉、大豆製品、胚芽(はいが)米、ライ麦パン、ゴマ、ピーナツなど、ビタミンB1が多く含まれる食品を積極的に取りたいものです。

 ビタミンB1の吸収を助けるアリシンが多く含まれたニンニク、ニラ、タマネギなどを一緒に取ると、より効果的です。

 また、汗とともにビタミンCも失われるので、アセロラ、レモン、赤ピーマン、トマト、キウイなど、ビタミンCの豊富な果物や野菜がお勧めとなります。

2022/07/19

♍夜間高血圧

夜間高血圧とは、夜の間から早朝にかけて、寝ている間も血圧が高い状態が続く病態ことです。血圧が上がりっぱなしで、下がらないことから、「ノン・ディッパー(血圧が沈まない人)」という呼び方もされます。

原因の一つに、動脈硬化が疑われます。健康な状態であれば、夜の就寝時は交感神経から副交感神経へ切り替わり、血管が自然に拡張します。血圧は昼よりも、10~20パーセント下がります。しかし、動脈硬化が進行していると、自律神経が切り替わった程度では血管が広がらず、血圧が高いままの状態になるのです。

1日の約3分の1を占める夜間、ゆっくり体を休ませるべき時間帯において、本来なら下降すべき血圧が十分下降しないか、上昇し、血管も心臓も酷使されるわけですから、動脈硬化や心肥大が進行しやすくなります。

その危険度は、正常な血圧の人の4倍以上だということがわかっています。また、昼間の行動力や思考力が低下するという研究結果もありました。

つまり、夜間高血圧は、死のリスクを高め、生活の質を著しく下げるのです。ほかの生活習慣病との合併も多く、腎臓病や糖尿病の人がなりやすいといわれています。

この「夜間持続型」タイプには、長時間持続タイプの降圧薬が医師から処方されます。

♌夜間低血糖

睡眠中に現れる低血糖

夜間低血糖とは、血液に含まれる糖(ブドウ糖)が少なくなりすぎる低血糖が睡眠中に現れる状態。

血液に含まれる糖は、生きるために欠かせないエネルギー源。糖尿病でない人の血液に含まれる糖の量、すなわち血糖値は約70mg/dLから140mg/dLの間に維持されています。しかし、糖尿病ではこの糖の量を一定に維持することができません。食事から取り入れた糖を体や脳のエネルギーとして消費するという需要と供給のバランスが崩れ、血液中の糖が増えすぎると高血糖、逆に薬が効きすぎるなどして血液中の糖が少なくなりすぎると低血糖になります。

一般に、血糖値が70mg/dL以下になると、人の体は血糖値を上げようとします。また、血糖値が50mg/dL未満になると、脳などの中枢神経が糖不足、すなわちエネルギー不足の状態になります。その時に現れる特有の症状を低血糖症状といいます。

人によっては、血糖値が70mg/dL以下にならない場合でも、糖尿病の治療などで血糖値を下げるインスリンの過剰な状態になった時に血糖値が急激に大きく下がることで、低血糖症状が現れることがあります。逆に、血糖値が70mg/dL以下になった場合でも、低血糖症状が現れない人もいます。

睡眠中に血糖値が低下する夜間低血糖が起こると、血糖値を回復させるため、アドレナリンやコルチゾールなどの興奮にかかわるホルモンが分泌され、交感神経が優位になります。そのため、寝汗や歯ぎしり、悪夢にうなされる、熟睡感がない、寝ても疲れが取れない、朝起きた時に頭痛や肩凝りがある、といった症状が現れます。つまり、夜間低血糖と同時に、眠りの質を低下させる睡眠障害も起きてしまうということです。

夜間低血糖は夜中の2時から3時ころに起きやすく、いったん、アドレナリンやコルチゾールなどのホルモンが分泌されると、肝臓からブドウ糖が放出されるため、明け方以降に血糖値の上昇が起こり、半日程度は血糖値が下がりにくくなります。そのため、糖尿病の薬が十分効かなくなり、一日の血糖コントロールに悪影響を及ぼすことも少なくありません。

夜間低血糖が起きると、多くの場合は不快な症状により目が覚め、自発的に夜間低血糖に気が付きます。ただし、眠りが深い場合や、急激に血糖値が下がって意識を消失した場合には、本人が気付かないこともあります。

現れる症状には個人差がありますが、血糖値が低下すれば低下するほど症状は重くなり、血糖値が50mg/dL程度になると、中枢神経症状が現れ、意識障害を示すことがあります。そして、血糖値が30mg/dLよりも低くなると、重症低血糖に陥って意識レベルが低下し、意識消失、けいれん、昏睡(こんすい)など危険な状態になってしまうことがあります。これは大変深刻な状態で、死に至ることもあります。

夜間低血糖になる原因は、いくつか考えられます。食事の量や炭水化物の不足、糖尿病の薬を服用した後の食事時間の遅れ、寝る前の運動の量や時間の多すぎ、空腹での運動、インスリン注射や経口血糖降下剤の量の多すぎ、飲酒、入浴など。

夜間低血糖になった時は、できるだけ早い段階で速やかに対応をしなければなりません。目が覚めて意識があり、経口摂取が可能な時は、砂糖15グラムから20グラムを飲みます。糖分を含む缶ジュース、缶コーヒーでも構いません。10分から15分で回復しない時は、再度同量を摂取します。

α-グルコシダーゼ阻害剤であるアカルボース(商品名:グルコバイ等)、ボグリボース(商品名:ベイスン等)、ミグリトール(商品名:セイブル)など、消化管の二糖類をブドウ糖に分解する消化酵素の働きを抑えることで血糖の急激な上昇を抑える経口血糖降下剤を飲んでいて夜間低血糖を起こした時には、砂糖を飲んでもすぐに吸収されないため、回復に時間がかかることがあります。

そのため、夜間低血糖時にはブドウ糖、またはブドウ糖を多く含む清涼飲料水を飲むようにします。

深刻な低血糖で意識障害を来した時には、自身でブドウ糖を飲み込むのが難しいことがあり、家族や周囲の協力が必要になります。その場合は、無理にブドウ糖を飲ませると、誤嚥(ごえん)や窒息の原因になります。周囲の人は、ブドウ糖や砂糖を水で溶かして、口唇と歯肉の間に塗り付けます。

医療機関の指導を受けた上で、周囲の人が血糖値を上げるためのグルカゴンという注射を行うこともあります。肝臓のグリコーゲンを分解し、ブドウ糖を放出する作用があるグルカゴン注射で回復した後は、軽く経口摂取しておくことが必要です。なお、アルコールの飲みすぎで低血糖になった時は、肝臓内のグリコーゲンが枯渇しており、グルカゴン注射は効きません。

救急処置でも回復しない時は、すぐに救急車を呼び、医療機関へ搬送しましょう。

意識がはっきりしない状態にまでなった低血糖は、一時的に血糖値が改善してもその後にまた血糖値が下がり、同じ症状が現れる可能性が高くなります。低血糖が続く場合も、必ず内科、内分泌代謝内科などを受診し、診察を受けましょう。

糖尿病でない健康な人でも、夜間低血糖が起こることがあります。食事量が十分に取れていなかった時、食事時間が遅れて空腹が続いた時、空腹のまま激しい運動や長時間の運動を行った時、食事を取らない状態でアルコールを過剰に摂取した時などに血糖値のバランスが崩れると、夜間低血糖を起こしやすくなります。

また、夜間低血糖は、1日を通して血糖値が乱高下している人に多く見受けられます。特に夕食後に血糖値が急激に上がると、それに対応すべくインスリンが過剰に分泌される結果、血糖値が下がりすぎて夜間低血糖を引き起こすことがあります。

ただし、健康な人の場合、夜間低血糖になっても、自然に回復してしまい気が付かないことがあります。

夜間低血糖の対策と予防

夜間低血糖に関しては、予防に優る治療はありません。食事を規則正しく摂取する、食前の過激な運動は避ける、運動前に補食するなどの注意が必要です。

また、自身が糖尿病治療のために使用している薬が、低血糖を起こしやすいか否かを把握することも、必要です。一般に低血糖を起こしやすい糖尿病の治療薬は、経口血糖降下剤のスルホニル尿素薬(SU薬)とインスリンです。経口血糖降下剤のビグアナイド薬(BG薬)、α-グルコシダーゼ阻害剤(アカルボース、ボグリボース、ミグリトールなど)、速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)といった薬でも起こることがあります。インスリン注射は、正しい手技を身に着けておくことが重要です。

軽い低血糖症状が現れた時は、できるだけ早い段階で速やかに対処して、重症低血糖を防ぎます。血糖自己測定器で夜間にも血糖を測り、血糖が下がっていれば症状がなくても早めに対処することが必要です。

♋夜間頻尿

頻尿のうち、就寝後に排尿回数の増加がある状態を、夜間頻尿といいます。

頻尿とは、尿をした後、一定の時間の経過を待たずに、すぐまた尿意を感じ、排尿回数が増加した状態のことです。この頻尿では、膀胱(ぼうこう)が敏感になり、尿が少したまると不快感を覚えて尿をしたくなる場合と、病気などの原因で膀胱そのものの容量が普通より小さくなり、すぐに尿をしたくなる場合とがあります。

夜間頻尿では、睡眠が妨げられるのでQOL(生活の質)の低下を招き、高齢者の場合では夜起きた時に転倒して、骨折の原因にもなります。

六十歳以上の男性に起こる老人病として代表的な前立腺肥大症では、この夜間頻尿が最初の症状として現れます。尿がそれほどたまっていないのに、何回も目覚めます。排尿しても、50~150ミリリットルほど残るために、相対的に膀胱容量が小さくなったのと同じになって、頻尿が起こってくるのです。

同様の夜間頻尿は、前立腺がん、慢性腎(じん)不全、膀胱頸部(けいぶ)硬化症でもみられます。

🏟野球肩

野球を始めとする投球動作によって引き起こされる、さまざまな肩関節障害の総称

野球肩とは、野球を始めとする投球動作による肩の使いすぎによって引き起こされる、さまざまな肩関節障害の総称。

この野球肩は、利き腕の上腕を肩より上に上げてボールなどを投げたり、打ったりするオーバーヘッドスローイング動作を行うスポーツ全般で生じる傾向にあり、野球のピッチャー、キャッチャーのほか、バレーボールのアタッカー、アメリカンフットボールのクォーターバック、あるいはサーブやスマッシュを行うテニス、ハンドボール、陸上競技のやり投げ、水泳のクロールとバタフライ、ウエートリフティングなどでも生じます。

野球肩には、インピンジメント症候群(ぶつかり症候群)、回旋筋腱板(けんばん)損傷(肩腱板損傷、肩インピンジメント症候群)、ルーズショルダー(動揺性肩関節症、動揺肩)、リトルリーグ肩(リトルリーガーズショルダー)、肩甲上神経損傷などが含まれます。

インピンジメント症候群はスポーツ障害や老化で、肩関節の腱板などに断裂とはれが起こった状態などの総称

インピンジメント症候群とは、肩関節で上腕を保持している腱板という筋肉と腱の複合体や、滑液包、二頭筋腱に、断裂とはれが起こった状態などの総称。ぶつかり症候群、挟まり症候群とも呼ばれます。

インピンジメントとは、英語で「ぶつかること」、「衝突」という意味です。インピンジメント症候群は、肉体労働やスポーツによって長年上腕を酷使してきた人達に、多くみられるとされています。

肩関節は肩甲骨と上腕骨で構成される関節で、人間の体の中で最も可動域が広く、ある程度の緩みがあるため脱臼(だっきゅう)が多いのが特徴です。肩関節の中には、上腕骨頭が肩関節の中でブラブラしないように肩甲骨に押し付ける役割の4つの小さな筋肉、すなわち前方から肩甲下筋、棘上(きょくじょう)筋、棘下(きょくか)筋、小円筋があります。これらの筋肉が上腕骨頭に付く部分の腱は、それぞれ境目がわからないように板状に付着しているために腱板と呼ばれます。

腱板と、腱板に隣接する滑液包という少量の滑液を含む袋状の組織は、肩関節のさまざまな運動により圧迫、牽引(けんいん)、摩擦などの刺激を受けており、加齢とともに変性し、腱板と滑液包に炎症を生じやすくなります。また、腱板は40歳ごろから強度が低下し、断裂の危険性が高まります。重い物を持ったり、転倒による肩の打撲など軽微な外力が加わって断裂する場合もありますし、若年者ではスポーツ障害としてみられることもあります。

特に、肩先の骨である肩峰および上腕骨頭に挟まれた棘上筋の腱は、肩関節の挙上時には肩峰と烏口(うこう)肩峰靭帯(じんたい)によって圧迫を受けています。これらの要因により退行変性を起こしやすく、腱板の中では最も断裂を起こしやすいところです。

スポーツ障害としてのインピンジメント症候群は、野球の投球、ウエートリフティング、ラケットでボールをサーブするテニス、自由形、バタフライ、背泳ぎといった水泳など、腕を頭よりも高く上げる動作を繰り返し行うスポーツが原因で起こります。

腕を頭より高く上げる動作を繰り返すと、上腕骨の上端が肩の関節や腱の一部と擦れ合うため、腱の線維に微小な断裂を生じます。痛みがあってもその動作を続ければ、腱が断裂してしまったり、腱の付着部位の骨がはがれてしまうことがあります。

腕を頭より高く上げる動作や背中から回す動作を繰り返すと、上腕骨の上端が肩関節の反対側の骨である肩甲骨と擦れ合い、炎症を起こします。スポーツ選手では、激しい動きの際に肩を安定化させるインナーマッスルの機能が低下していると、インピンジメント症候群が発生します。加齢により肩甲骨の動きが悪くなることも一因。

インピンジメント症候群の症状としては、肩が痛む、肩が上がらない、ある角度で痛みがあるなど、自然軽快しにくい特徴があります。肩の痛みは当初、腕を頭よりも高く上げたり、そこから前へ強く振り出す動作の際にだけ生じます。後になると、握手のため腕を前へ動かしただけでも痛むようになります。

通常は、物を前方へ押す動作をすると痛みますが、物を体の方に引き寄せる動作では痛みはありません。炎症を起こした肩は、特に夜間などに痛むことがあり、眠りが妨げられます。また、腕を肩よりも高く上げた状態で肩峰を抑えると、痛みます。

手が後ろに回らなくなる、いわゆる四十肩、五十肩と診断され、長い間治らない人の中に、インピンジメント症候群が見逃されていることがあります。

回旋筋腱板損傷はスポーツ障害や老化で、肩関節の筋肉と腱の複合体に損傷が起こった状態

回旋筋腱板損傷とは、肩関節で上腕を保持している回旋筋腱板という筋肉と腱の複合体に、スポーツ障害や老化が原因で損傷が起こった状態。回旋筋腱板の略が腱板で、肩腱板損傷とも呼ばれます。

回旋筋腱板損傷には、挫傷(ざしょう)、炎症、一部分が切れる不全断裂(部分断裂)、全部が切れる完全断裂などがあります。

野球肩、水泳肩、テニス肩の原因に回旋筋腱板損傷が多くを占め、肩インピンジメント症候群などとも呼ばれています。肩峰下滑液包炎も回旋筋腱板に隣接する部位の炎症で、原因については同様と考えられます。

肩関節は一般的に、肩甲上腕関節(第一肩関節)のことを指します。この肩関節は肩甲骨と上腕骨との間の関節で、受け皿である肩甲骨の浅い関節窩(か)の上に、大きなボールである上腕骨頭が乗っているような構造をしており、人間の体の中で最も関節可動域が広く、ある程度の緩みがあるため、スポーツなどによって強い外力が加わると簡単に脱臼するのが特徴です。

肩関節の中には、上腕骨頭が肩関節の中でブラブラしないように肩甲骨に押し付ける役割の4つの小さな筋肉、すなわち前方から肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋があります。これらの筋肉が上腕骨頭に付く部分の腱は、それぞれ境目がわからないように板状に付着しているために回旋筋腱板と呼ばれます。

回旋筋腱板は肩関節のさまざまな運動により圧迫、牽引、摩擦、回旋などの刺激を受けており、加齢とともに変性し、40歳ごろから強度の低下による損傷の危険性が高まります。重い物を持ったり、転倒による肩の打撲など軽微な外力が加わって損傷する場合もありますし、若年者ではスポーツ障害としてみられることもあります。

特に、肩峰および上腕骨頭に挟まれた棘上筋の腱は、肩関節の挙上時には肩峰と烏口肩峰靭帯によって圧迫を受けています。これらの要因により退行変性を起こしやすく、回旋筋腱板の中では最も損傷を起こしやすいところです。

スポーツ障害としての回旋筋腱板損傷は、野球の投球、ウエートリフティング、ラケットでボールをサーブするテニス、自由形、バタフライ、背泳ぎといった水泳など、腕を頭よりも高く上げる動作を繰り返し行うスポーツが原因で起こります。腕を頭より高く上げる動作を繰り返すと、上腕骨の上端が肩の関節や腱の一部と擦れ合うため、腱の線維に微小な断裂を生じます。痛みがあってもその動作を続ければ、腱が断裂してしまったり、腱の付着部位の骨がはがれてしまうことがあります。

腕を頭より高く上げる動作や背中から回す動作を繰り返すと、上腕骨の上端が肩関節の反対側の骨である肩甲骨と擦れ合い、炎症を起こします。スポーツ選手では、激しい動きの際に肩を安定化させるインナーマッスルの機能が低下していると、回旋筋腱板損傷が発生します。

加齢により肩甲骨の動きが悪くなることも一因で、明らかな外傷によるものは半数で、残りははっきりとした原因がなく、日常生活動作の中で損傷が起きます。40歳以上の男性の右肩に多いことから、回旋筋腱板の老化と肩の使いすぎが原因となっていることが推測されます。

回旋筋腱板損傷の症状としては、肩が痛む、肩が上がらない、肩を上げる際に力が入らない、肩を上げる際に肩の前上面でジョリジョリという軋轢(あつれき)音がする、ある角度で痛みがあるなど、自然軽快しにくい特徴があります。肩の痛みは当初、腕を頭よりも高く上げたり、そこから前へ強く振り出す動作の際にだけ生じます。後になると、握手のため腕を前へ動かしただけでも痛むようになります。

通常は、物を前方へ押す動作をすると痛みますが、物を体の方に引き寄せる動作では痛みはありません。炎症を起こした肩は、特に夜間などに痛むことがあり、眠りが妨げられます。また、腕を肩よりも高く上げた状態で肩峰を抑えると、痛みます。

手が後ろに回らなくなる、いわゆる四十肩、五十肩と診断され、長い間治らない人の中に、回旋筋腱板損傷が見逃されていることがあります。

ルーズショルダーは肩の関節のつくりが不安定で、あらゆる方向に正常以上に動いてしまう状態

ルーズショルダーとは、肩の関節のつくりが不安定で、あらゆる方向に正常以上に動いて、不安定感を伴う状態。動揺性肩関節症、動揺肩とも呼ばれます。

大抵は先天的なもので、両側性が多く、肩関節以外にも指、足、肘(ひじ)、膝(ひざ)の関節が軟らかい人に多くみられます。男女とも13~14歳で発症することが多いとされていますが、自然治癒することもあります。

こういうルーズショルダーの人が肩を使いすぎると、その最中に肩の痛みや疲れ、だるさを感じます。肩の不安定感、脱臼感、脱力感、可動域の制限、腕や手指のしびれ感、肩凝りを伴うこともあります。

野球では、投球の最後に腕を振り切る動作であるフォロースルーの際に、肩が抜けるように感じることがあります。これは肩関節の90度外転位での外旋運動、その後の急激な内旋運動の繰り返しによって、つくりが不安定な肩関節が常にストレスにさらされるために起こります。

バレーボールのスパイクやサーブ、テニスのサーブ、ハンドボールのシュート、やり投げ、砲丸投げ、ボウリング、水泳などでも肩の痛みが起こります。

ルーズショルダーの人は、野球やバレーボールなどのスポーツが不向きという潜在的要素を持ち合わせていますので、それらのスポーツを無理に続けた場合、肩から肘にかけての大きな骨である上腕骨頭が肩甲骨関節窩中央からいろいろな方向へずれてしまうことで、関節窩の縁にある線維軟骨性の関節唇の剥離(はくり)を起こしたり、肩関節で上腕を保持している筋肉と腱の複合体である腱板の損傷を起こすこともあります。

ルーズショルダーの原因としては、肩甲骨の外転外旋筋力低下によるもの、肩甲骨関節窩の後下縁の形成不全や傾斜角度の異常によるもの、肩甲骨関節窩に肩峰および烏口突起までを含めた機能的関節窩の形成不全によるもの、肩関節を包んでいる関節包や、関節の周囲にある滑液包といった軟部組織の膠原(こうげん)繊維の異常によるものなど、さまざまあります。

リトルリーグ肩は少年期の野球のピッチャーに最も多くみられる肩の障害

リトルリーグ肩とは、少年期の野球のピッチャーに最も多くみられる肩の障害の総称。リトルリーガーズショルダーと呼ばれます。

特に、満9歳から12歳までの少年少女たちを対象とした野球組織であるリトルリーグに所属していたりする、小学生高学年から中学生の野球のピッチャーなどが、利き腕を後方に引き上げてから力を入れて前方に振り下ろす動作を繰り返すことで、肩を酷使して発症することが多くみられます。バレーボールやバドミントンの選手が発症することもあります。

15歳未満の成長期では、骨や関節、筋肉がまだ未発達なため、繰り返すボールの投球動作などでストレスを繰り返し受けることによって、利き腕の上腕骨上端部の成長軟骨に障害が起こり、肩の痛みを発生します。

まず、上腕骨骨頭の成長軟骨である骨端(こったん)線に損傷が起こり、投球動作をした時や肩周辺を押した際に痛みを感じます。放置したまま投球動作を続けると、骨端線が離開して骨折のような状態になることがあります。

初めは、投球動作をした時だけの痛みであることが多く、肩の付け根の前方に鈍い痛みがあって速いボールを投げることができなくなります。そのほかの日常動作ではほとんど痛みが出ないのですが、損傷や離開が進行していくと日常の動作でも痛みを訴えるようになります。痛みの範囲は、肩関節を中心に肩甲骨や鎖骨周囲、上腕外側にみられ、前腕に至る場合もあります。

肩にだるさを感じ、腕が上がらないこともあります。発症初期はみられませんが、症状が進行するとともに、肩周囲の筋肉の委縮を起こす場合があります。

骨端線は骨を成長させる重要な部分なため、治療せずに放置すると上腕骨の成長障害を起こすことがあり、腕の長さが短くなったり、肩の動きが悪くなったりすることがあります。

リトルリーグ肩の症状としては、まず一球の投球動作で急に痛みが出ることは少ないので、徐々に痛みがある時は要注意です。

肩甲上神経損傷は肩の使いすぎなどにより、肩の筋肉を支配している神経が損傷する疾患

肩甲上神経損傷とは、野球のピッチャーなどの投球動作による肩の使いすぎにより、肩の筋肉を支配している神経が損傷する疾患。

肩甲上神経は、首の付け根から出て、肩甲骨の上のほうにある肩甲切痕(せっこん)という骨の溝を擦り抜けるようにして、肩の筋肉である棘上筋、棘下筋へつながっている末梢(まっしょう)神経です。棘上筋と棘下筋の動きを支配しており、腕を上げるのに必要とされています。

元来、肩甲切痕の部分の肩甲上神経の走行に無理があるため、野球のピッチャー、バレーボールのアタッカーなどのように腕を上げる動作を繰り返すと、肩甲上神経が引っ張られ、なおかつ周囲の組織によって圧迫を受けるので、肩甲上神経損傷を生じることがあります。

また、骨のとげである骨棘(こっきょく)やガングリオン(結節腫〔(しゅ〕)が肩関節にできることによって圧迫されて、肩甲上神経損傷を生じることもあります。

結果として、腕を上げる動作や腕を外に広げる動作がしづらい、肩が重い、肩が疲れる、肩に力が入らない、肩が痛い、肩がしびれるなどの症状が出ます。

また、棘上筋にある肩甲切痕の部分で肩甲上神経が圧迫を受けると、棘上筋と棘下筋の筋肉がやせてきます。一方、棘下筋にある肩甲切痕の部分で肩甲上神経が圧迫を受けると、棘下筋だけがやせてきます。

腕が上がらない、肩の周囲の筋肉がやせてきているといった症状が出たら、整形外科を受診することが勧められます。

野球肩の検査と診断と治療


インピンジメント症候群の検査と診断と治療

整形外科の医師によるインピンジメント症候群の診断では、MRI(磁気共鳴画像)検査が有用です。また、いくつかの方向に腕を動かしてみて、特定の動きや、特に腕を肩よりも高く上げる動作で痛みやピリピリ感を伴うことで、インピンジメント症候群と診断されます。

スポーツなどによる疲労性のものでは、肩の痛み、特に運動時痛を伴います。広範囲断裂では、布団の上げ下ろしや洗濯物を干すなどの挙上障害などがあります。外傷によるものでは、受傷時に突然肩の挙上が不能となり、同時に肩関節痛を感じます。断裂が小さいと、挙上は除々に可能となる場合もあります。

整形外科の医師によるインピンジメント症候群の治療では、腱板や滑液包、二頭筋腱に負担をかけている肉体労働やスポーツを控えて肩を休め、肩の筋肉を強化します。安静時や夜間の痛みが強い場合には、内服や外用の消炎鎮痛剤、関節内注射により和らげます。物を前方へ押しやる動作や、肘を肩より高く上げる動作を伴う運動はすべて避けます。

肩の筋肉強化では、ゴムチューブによるカフ(腱板)エクササイズを行い、インナーマッスルを鍛え、肩の腱板のバランスを回復させます。カフエクササイズは肩関節の疾患において一般的な訓練となっており、ゴムチューブによる軽い抵抗、もしくは徒手による無抵抗にて、外旋や肩甲骨面上の外転などを行って、腱板の筋活動を向上させます。強すぎる抵抗は大胸筋や三角筋に力が入ってしまい、軽い抵抗に反応する腱板の働きを阻害してしまうので、十分注意する必要があります。

カフエクササイズでは、腕を体側に付けて、前腕を床と平行にしてゴムバンドを持ちます。肘を支点としてゴムバンドを引きながら、この腕を前方向、後ろ方向、横方向(手が体から離れる向きと、腕を胸の前に引き寄せる向き)に動かします。この運動は、肩の腱板のバランスを回復させ、腕を頭よりも高く上げる動きを含む動作中に腱板がぶつからないようにする働きがあります。

損傷が特に重度な場合は手術も行われ、腱板が完全に断裂していたり、1年たっても完治しない場合が対象となります。手術では腱板がぶつからずに動かせるように、肩の骨から余分な部分を切除します。同時に、腱板の修復も行います。

回旋筋腱板損傷の検査と診断と治療

整形外科の医師による回旋筋腱板損傷の診断では、MRI(磁気共鳴画像)検査が有用で、上腕骨頭の上方の回旋筋腱板部に断裂の所見がみられたりします。また、いくつかの方向に腕を動かしてみて、特定の動きや、特に腕を肩よりも高く上げる動作で痛みやピリピリ感を伴うことで、回旋筋腱板損傷と確定されます。

スポーツなどによる疲労性のものでは、肩の痛み、特に運動時痛を伴います。広範囲断裂では、布団の上げ下ろしや洗濯物を干す際の挙上障害などがあります。転倒などの急性外傷によるものでは、受傷時に突然肩の挙上が不能となり、同時に肩関節痛を感じます。断裂が小さいと、挙上は除々に可能となる場合もあります。

整形外科の医師による回旋筋腱板損傷の治療では、断裂などの損傷を生じた肩関節の回旋筋腱板を使わずに休め、肩の筋肉を強化します。回旋筋腱板のすべてが断裂することは少ないので、残っている回旋筋腱板の機能を賦活させる肩の筋肉強化は有効です。

安静時や夜間の痛みが強い場合には、内服や外用の消炎鎮痛剤、関節内注射により和らげます。水溶性副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の局所注射も、炎症を抑えるのに用います。物を前方へ押しやる動作や、肘を肩より高く上げる動作を伴う運動はすべて避けます。

断裂が特に重度な場合は手術も行われ、回旋筋腱板が完全に断裂していたり、1年たっても完治しない場合が対象となります。手術には、関節鏡視下手術と通常の直視下手術があります。

関節鏡視下手術のほうが体に負担がかからず、手術後の痛みが少ないために普及してきていますが、大きな断裂では、縫合が難しいために直視下手術を選択するほうが無難です。

手術では回旋筋腱板がぶつからずに動かせるように、肩の骨から余分な部分を切除します。同時に、回旋筋腱板の修復も行います。手術後は、約4週間の固定と2~3カ月の機能訓練が必要です。

ルーズショルダーの検査と診断と治療

整形外科の医師によるルーズショルダーの診断では、X線(レントゲン)検査で、おもりを持ってもらって撮影を行うと、肩から肘にかけての大きな骨である上腕骨骨頭が外れた状態が映ります。

整形外科の医師によるルーズショルダーの治療では、痛みが続く場合、三角巾(きん)固定による安静、非ステロイド性消炎・鎮痛剤の投与、肩峰下滑液包、腱板、烏口突起などへの局所注射を行います。

そのほか、肩の周囲の筋力を積極的に鍛えてもらいます。筋力を強化しても、ルーズショルダーが治るわけではありませんが、痛みを軽くする効果があります。

肩をすぼめ猫背の姿勢の場合、不良姿勢の矯正が大切で、肩甲骨の安定を図り、姿勢をよくするバンドを装用してもらうこともあります。また、やや大股(おおまた)歩きで早足の歩行は、姿勢矯正に有効です。

重い物を持たないようにし、肩甲骨を中心とした部位である肩甲帯の下垂を助長しやすいショルダーバックは避けます。

野球やバレーボールなどの継続している限り自然治癒が望めないスポーツを禁止するか、必要に応じて運動量を制限することを勧めます。野球の投球フォームやバレーボールのスパイクフォームが正しくない場合は、フォームを矯正することを勧めます。テニスなどのラケット競技の場合では、サーブやストロークに際してなるべく肘を伸ばすことで、肩関節にかかる外旋ストレスを小さくすることが可能です。

氷を用いたアイスマッサージやアイシング(冷却)も痛みの軽減に効果があるので、スポーツ直後に実行することを勧めます。

症状が重度な場合や保存療法が無効な場合は、肩関節を包んでいる関節包を縫い縮める手術や、肩甲骨の傾きを正しくするために大胸筋腱を肩甲骨の下部に移動する手術などを行うこともあります。

リトルリーグ肩の検査と診断と治療

整形外科の医師によるリトルリーグ肩の診断では、問診をしたり、上腕の内旋運動と外旋運動を強制して関節の動きを調べ、上腕上端部の成長軟骨に沿って圧痛がある場合に、リトルリーグ肩を疑います。

X線(レントゲン)検査を行い、成長軟骨やその隣接する骨に損傷がみられれば骨端線損傷、いわゆるひびや骨折状態であれば、完全な離断がなくても骨端線離開と確定します。

整形外科の医師によるリトルリーグ肩の治療では、安静が基本となります。従って、投球動作の禁止を指示した上で、除痛や消炎目的で消炎鎮痛剤を処方したり、三角巾による固定を行います。また、転位のある骨端線離開では、整復処置とギプス固定などを行う場合もあります。

固定後約3週間が経過したら、自動運動による運動療法を開始します。骨端線の修復が完成されるのに要する期間は、その損傷の程度により3カ月から6カ月と見なされています。

修復の完成後にキャッチボールを許可し、完全復帰までは早くても6カ月、場合によっては1年以上を要することもあります。また、スポーツに復帰する場合には、再発防止のために投球フォームなどのスポーツ動作のチェックや指導を行い改善していくことがあります。

肩甲上神経損傷の検査と診断と治療

整形外科の医師による肩甲上神経損傷の診断では、症状や電気生理学的検査などにより判断します。神経伝導検査と筋電図検査を行うことで、肩甲上神経の障害の程度や正確な障害部位を確認します。また、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査を行うことで、肩周辺部の骨棘やガングリオンなどの肩甲上神経を圧迫している病変を確認します。

鑑別すべき疾患には、いわゆる四十肩、五十肩といわれる肩関節周囲炎や頸椎(けいつい)疾患、腱板損傷があります。

整形外科の医師による肩甲上神経損傷の治療では、筋委縮が軽度の場合は、オーバーヘッドスローイング動作をしばらく中止し、委縮した棘上筋、棘下筋などを強化していくようにします。同時に、肩周辺筋力のバランス強化を行います。副腎皮質ホルモンの注入や、肩甲切痕を広げて神経の圧迫を取り除く手術を行うこともあります。

痛みがひどく、筋委縮が重度の場合は、肩甲上神経を圧迫している骨棘やガングリオンなどを摘出する手術を行います。ガングリオンでは、太めの針の注射器で腫瘍中のゼリー状の内容物を穿刺(せんし)吸引する方法もありますが、再発しやすいのが欠点です。

🏟野球肘

投球動作による上腕の使い過ぎで、利き腕の肘に炎症や痛みが起こる関節障害の総称

野球肘(ひじ)とは、投球動作による腕や手首の使い過ぎで慢性的な衝撃がかかることによって、利き腕の肘に炎症や痛みが起こる関節障害の総称。

この野球肘は、利き腕の上腕を肩より上に上げてボールなどを投げたり、打ったりするオーバーヘッドスローイング動作を行うスポーツ全般で生じる傾向にあり、野球のピッチャー、キャッチャーのほか、バレーボールのアタッカー、アメリカンフットボールのクォーターバック、あるいはサーブやスマッシュを行うテニス、ハンドボール、陸上競技のやり投げ、水泳のクロールとバタフライ、ウエートリフティングなどでも生じます。

野球肘は、内側(ないそく)型野球肘、外側(がいそく)型野球肘、後方型野球肘に大別されます。

内側型野球肘は、小学生から中学生の少年期では骨の損傷が多いのに対し、成人以降では靭帯(じんたい)の損傷が関与することが多くなります。外側型野球肘は、少年期に多くて後遺障害を残しやすく、早期発見が重要になります。後方型野球肘も、少年期には骨の損傷が多いのですが、成人期以降では尺骨(しゃくこつ)神経まひを伴うこともあります。

内側型野球肘は手首や腕の使い過ぎで、利き腕の肘の内側に炎症や痛みが起こる障害

内側型野球肘は、投球動作による手首や腕の使い過ぎで慢性的な衝撃がかかることによって、利き腕の肘の内側に炎症や痛みが起こる関節障害。正式な医学的名称は上腕骨内側上顆(じょうか)炎で、一般にはリトルリーガー肘、リトルリーガーエルボー、ベースボール肘、ベースボールエルボーとも呼ばれます。

利き腕の上腕骨は肩から肘にかけての大きな骨で、その肘の部位には親指側と小指側に2つの突起部があり、手のひらを天井に向けた時に肘の親指側の突起部が外側上顆、肘の小指側の突起部が内側上顆です。外側上顆には手の甲を顔に向ける回外筋群や、指や手首を伸ばす伸筋群が付いており、内側上顆には手のひらを顔の方へ向ける回内筋群や、指や手首を手のひら側に曲げる屈筋群が付いています。

内側型野球肘は、手首を過剰な力で手のひら側に曲げる投球動作によって、上腕骨内側上顆に慢性的な衝撃が繰り返し加わり、回内筋群や屈筋群に微小断裂や損傷を来して起こると考えられています。

内側型野球肘は、一定の動作を繰り返し行うことで症状を発症するオーバーユース症候群として知られています。特に、成長期に当たる少年野球の投手がボールを投げすぎると生じやすいことが知られていますが、中年以降のテニス愛好家にフォアハンドストロークの繰り返しで生じやすいためにフォアハンドテニス肘、ゴルフの一部のスイングをやり過ぎると生じやすいためにゴルフ肘、重いスーツケースを持ち運び過ぎると生じやすいためにでスーツケース肘とも呼ばれ、スポーツや手の使いすぎが原因となって、誰にでも発症する可能性がある関節障害でもあります。

内側型野球肘を起こす要因としては、肩や手の筋肉が弱い、投球動作をやり過ぎる、投球フォームに無理がある、テニスでサーブを強打したりオーバーハンドサーブやトップスピンサーブをする、濡れて重くなったボールを打つ、ラケットが重すぎるかグリップが細すぎる、ラケットのガットの張りが強すぎるなどが挙げられます。

症状としては、野球では投球のリリースのたびに、テニスではフォアハンドストロークのたびに、ゴルフでは一部のスイングのたびに、肘の内側に疼痛(とうつう)が現れます。ズキズキする痛みがあるのに運動を続けると、筋肉を骨に結び付けている腱(けん)が上腕骨内側上顆からはがれてしまい、出血を起こすこともあります。

また、野球やテニス、ゴルフ以外の日常生活でも、物をつかんで持ち上げる、タオルを絞る、ドアのノブを回すなどの手首を使う動作のたびに、肘の内側から前腕の小指側にかけて疼痛が出現します。多くの場合、安静時の痛みはありません。

外側型野球肘は野球のピッチャーに多く発症し、利き腕の肘の外側に炎症や痛みが起こる関節障害

外側型野球肘は、投球動作による腕や手首の使い過ぎで慢性的な衝撃がかかることによって、利き腕の肘の外側に炎症や痛みが起こる関節障害。

外側型野球肘の代表的なものは、肘の外側にある上腕骨小頭の骨軟骨が壊死(えし)する肘離断性骨軟骨炎で、上腕骨小頭骨軟骨障害とも呼ばれます。特に、満9歳から12歳までの少年少女たちを対象とした野球組織であるリトルリーグに所属していたりする、小学校高学年から中学校低学年の野球のピッチャーなどが肘を酷使して発症します。ピッチャーに次いで多く発症するのは、キャッチャー。

成長終了後の野球のピッチャーなどが肘を酷使して発症する外側型野球肘には、橈骨頭(とうこっとう)障害、尺骨神経まひがあります。橈骨頭障害は、肘から手首にかけての長い骨である橈骨と、肩から肘にかけての長い骨である上腕骨がつながっている部分、つまり肘頭(ちゅうとう)周囲に骨の出っ張りである骨棘(こつきょく)が生じ、関節の動きが悪くなったりする障害です。尺骨神経まひは、肘の皮膚の表面近くを通る尺骨神経が損傷して、まひを生じ、手指のしびれや感覚障害、運動障害が起こる障害です。

ここでは、小学校高学年から中学校低学年の野球のピッチャーなどが肘を酷使して発症する肘離断性骨軟骨炎について説明します。

肘離断性骨軟骨炎は繰り返す投球動作における微小な外反ストレスの蓄積により、上腕骨小頭の骨軟骨、すなわち肘関節を形成する上腕骨の遠位端の外側部にある球状の部位に変性、壊死が生じます。症状として、肘関節を伸ばしたり、曲げたりする時に痛みが出たり、動きが悪くなったりします。この初期の段階では、投球動作を中止することのみで、自然治癒が促されることがあります。

実際は、練習や試合での投球動作の終了後は速やかに痛みが消失するために、単なる使いすぎによる痛みと勘違いされることが多く見受けられます。

放置して投球動作を続けると症状が進行し、壊死を起こした骨軟骨片が肘の関節面から遊離して関節内遊離体となり、関節の中をあちらこちらと移動することになります。

この関節遊離体に最も特有な症状が、嵌頓(かんとん)症状。肘関節の運動の最中に、突然、遊離体が関節の透き間に挟まってしまい、激しい痛みを起こして関節の運動が不能となる状態です。何かの拍子に遊離体が外れれば、急速に痛みは治まりますが、嵌頓症状を繰り返していると、滑膜炎と呼ばれる関節内の炎症や変形性関節症を起こしやすくなります。しかし、遊離体があっても、嵌頓症状が必す起こるわけでもありません。

そのほか、関節遊離体の症状として、関節の痛みや、だるさ、はれを感じたり、肘の曲げ伸ばしができなくなったり、関節に水がたまったりすることもあります。

肘離断性骨軟骨炎が進行してしまうと、投球動作にかかわるスポーツが十分できなくなるどころか、遊離したことで生じた上腕骨小頭の骨軟骨の欠損は成人期以降も肘の変形性関節症を発症し、痛みが出たり、動きが悪くなったりする後遺障害を残しやすくなります。

早期発見、早期治療を行う必要がある典型的な疾患が、肘離断性骨軟骨炎です。野球少年が投球時に肘の痛みを訴える場合は、早めに整形外科を受診することが勧められます。

後方型野球肘は少年期の野球のピッチャーに多く、腕の使い過ぎで肘の後方に炎症や痛みが起こる関節障害

後方型野球肘は、投球動作による腕の使い過ぎで慢性的な衝撃がかかることによって、利き腕の肘の後方に炎症や痛みが起こる関節障害。

後方型野球肘は、小学生から中学生の野球少年に多くみられますが、成人以降の野球選手にもみられます。

野球の投球動作では、ボールが手から離れ腕の動きが減速されるリリース期から、最後に腕を振り切るフォロースルー期にかけては肘が伸ばされるため、肘の後方に牽引(けんいん)力や張力が加わり、肘を伸ばす筋肉である上腕三頭筋が付着する肘頭は、少し上にある肘頭窩(か)と衝突するようなストレスを受けます。

成長期の少年では、肘頭のすぐ下に、膨張することで骨が大きくなる成長軟骨の部分である骨端線があります。骨端線の部分は、骨の成長が終了すると均一で強固な骨になりますが、成長が終了する直前には逆に軟骨層の部分が薄くなっていて、外力に弱く、関節にかかるストレスを受けやすくなっています。

そのため、投球動作の繰り返しにより、肘頭の成長軟骨の部分である骨端線に微小なストレスが蓄積すると、骨端線が損傷され、離開、剥離(はくり)を起こしたり、疲労骨折を起こし、後方型野球肘を生じます。

症状としては、投球時や投球後に肘が痛くなります。肘の伸びや曲がりが悪くなり、急に動かせなくなることもあります。肘の後ろの肘頭、時に肘頭窩に圧痛がみられることもあります。

成長期の小中学生の後方型野球肘では骨の障害が多いのに対し、成人以降では肘頭周囲に骨の出っ張りである骨棘が生じ、関節の動きが悪くなったり、肘の皮膚の表面近くを通る尺骨神経が骨棘の圧迫で損傷されて、まひを生じ、手指のしびれや感覚障害、握力が落ちるなどの運動動障害が起こる尺骨神経まひを伴うこともあります。

少年にみられる後方型野球肘の場合、初期の痛みは投球時のみで、すぐに症状がなくなるので軽くみられがちですが、発症初期に投球動作を休止しないと骨端線の閉鎖が遅れたりする状態になって骨の変化を来し、結果的に数カ月から数年の投球禁止を余儀なくされます。

肘の痛みが3週間以上続いたり、肘の曲げ伸ばし角度が悪くなった際には、整形外科を受診することが必要です。

野球肘の検査と診断と治療


内側型野球肘の検査と診断と治療

整形外科の医師による内側型野球肘の診断では、肘の内側に圧痛が認められます。また、抵抗を加えた状態で手首を甲側に曲げてもらうトムセンテスト、肘を伸ばした状態で椅子を持ち上げてもらうチェアーテストなどの疼痛を誘発する検査を行い、肘の内側から前腕にかけての痛みが誘発されたら、内側型野球肘、すなわち上腕骨内側上顆炎と確定診断します。X線(レントゲン)検査やMRI(磁気共鳴画像)検査も、診断に有効です。

整形外科の医師による内側型野球肘の治療法は、大きく分けて4つあります。1つは、肘の近くの腕をバンド状のサポーター(エルボーバンド、テニスバンド)で押さえること。2つ目は、痛い所を冷やして行う冷マッサージ、超音波を当てるなどのリハビリテーションを行うこと。3つ目は、痛みや炎症を抑える飲み薬や湿布薬を使用する薬物治療を行うこと。4つ目は、炎症を抑えるステロイド剤と局所麻酔剤を混合して痛い部分への注射を行うこと。

同時に日常生活では、強く手を握る動作や、タオルを絞る、かばんを持ち上げるなどの動作をなるべく避けるようにします。物を持つ時には、肘を曲げて手のひらを上にして行うことを心掛けます。

このような治療で、大部分の人が3〜6カ月ほどで治ると考えられています。障害が治癒したら、患部の筋肉と、手首や肩の筋肉を強化します。手術が必要となることはまれで、多くの場合、安静や投薬といった保存的治療で治ります。治癒を早める目的で、筋肉から瘢痕(はんこん)化した組織を切除するニルシュル法が行われることもあります。

手指や前腕の筋肉は日常生活で非常によく使うため、安静がなかなか取れずに痛みが長引く場合もありますが、根気よく治療を続けることが大切です。治っていないのに野球やテニスなどの運動を続けると、内側側副靭帯(そくふくじんたい)の緩みや骨に付着する部分での断裂を起こし、靭帯を修復するための手術が必要になることもありますので、無茶は禁物です。

外側型野球肘の検査と診断と治療

整形外科の医師による外側型野球肘の代表である肘離断性骨軟骨炎の診断では、問診をしたり、関節の動きを調べ、上腕骨小頭部の圧痛がある場合に、肘離断性骨軟骨炎を疑います。

確定診断は、X線(レントゲン)検査により行います。病巣は、初期には骨の陰が薄くなった状態として、進行すると病巣部の骨軟骨片が上腕骨小頭から分離、遊離した状態として撮影されます。しかし、初期には病変を認識することが難しいこともあります。また、正面と側面からの肘関節2方向撮影法、肘関節を45度屈曲した位置で正面像を撮影する撮影法が有用です。そのほか、CT(コンピューター断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像)検査は、骨軟骨がはがれやすい状態であるかどうか確認するなど病態を調べるのに有効です。

整形外科の医師による肘離断性骨軟骨炎の治療では、初期の場合、局所安静、投球禁止により病巣の修復、治癒が期待できます。しかし、実際には6カ月から1年間、場合によっては1年以上の長期にわたり投球動作を禁止することもあり、投球の再開により再発するケースもあります。

従って、初期の場合であっても長期の投球禁止を望まないケースや、再発例では、手術を行うこともあります。

進行した場合では、再び投球を可能にし、将来的な障害を残さないために、手術を行うことになります。具体的な手術としては、壊死した骨軟骨を切除し関節遊離体を取り除く方法を基本として、遊離しかけた骨軟骨片を再固定し、病巣部に新たな骨ができることを促す方法、遊離した骨軟骨片の再固定が困難な場合に、欠損した肘の関節面に体の他の部位から骨軟骨を移植し、関節面を形成する方法などがあります。

手術後のリハビリテーション、投球再開の時期は病期、手術法により異なりますが、おおむね6カ月程度で全力投球が可能になります。

肘離断性骨軟骨炎の発生の予防には、基本的には肘関節の使いすぎによるところが大きいため、練習日数と時間、投球数の制限が重要です。また、投球フォームにより肘に負担がかかりすぎるケースも多くあり、適切な筋力トレーニングと投球フォームの指導、正しいスケジュール決定も必要です。

後方型野球肘の検査と診断と治療

整形外科の医師による後方型野球肘の診断では、問診をしたり、関節の動きを調べ、投球時の肘の痛み、肘後方の圧痛がある場合に後方型野球肘を疑います。

X線(レントゲン)検査を行い、肘頭の骨変化、亀裂骨折、疲労骨折像を認めれば、後方型野球肘と確定します。

整形外科の医師による後方型野球肘の治療では、主原因である投球動作を数週間禁止し、電気治療や、リハビリでのストレッチを行います。

骨変化が認められる場合は、投球動作を3カ月以上禁止します。3カ月以上経過観察し、軟骨部分の骨癒合による修復傾向がみられない場合は、手術で遊離しかけた軟骨片を再固定します。 遊離骨片が肘の関節の透き間に挟まって、関節の運動が不能となっている場合は、手術で軟骨片を摘出します。

🛏夜驚症

夜驚症は、主に子供に見られる睡眠障害の一つです。夜間、寝始めて2~3時間後に、急に起き上がって悲鳴を上げながら体を振り回したり、何かにおびえたように泣きわめいたり、歩き回ったり、走り回ったりすることがあります。落ち着かせようとしても、反応のないことがあります。

この夜驚症は普通、深い眠りのノンレム睡眠中に起こるといわれ、脈は速くなり、呼吸も荒くなり、発汗、目を見開くなどの症状が見られます。

3~10歳くらいの神経質な男児に多く見られ、特に、疲れていたり、昼間に強烈なストレスを体験した場合に多く見られます。子供は通常、自分に起きた現象を覚えていません。

病的なものでは、入眠時の幻覚、睡眠中の精神運動性てんかん発作などがあります。精神運動性てんかん発作では、目的のはっきりしない運動や動作、錯覚や幻覚が発作的に起こり、発作後に本人はこれらの異常行動を思い出すことができません。

大抵の子供は成長するに従って、発作を起こさなくなります。成人が夜驚症の発作を起こす場合は、精神的な不安やストレス、アルコール依存が関連していることがあります。治療には、抗うつ薬が有効である場合があります。

💊薬害エイズ

1980年代に、エイズウイルス(ヒト免疫不全ウイルス、HIV)が混入した非加熱濃縮血液製剤が販売され、投与された血友病患者らに感染が広がりました。日本国内で、600人を超える死者が出ました。

薬害エイズの原因は、エイズウイルスに感染したと推定される外国の供血者からの血液を原料に製造された血液凝固因子製剤を、加熱処理によってウイルスの不活性化を行わないまま、製薬会社が製造、販売し、国が承認し、医療機関が治療に使用したことです。

ウイルスを加熱処理で不活性化した物を加熱製剤と呼ぶのに対し、従前の非加熱で薬害の原因となった物を非加熱製剤と呼びます。加熱製剤が開発された後も、日本では2年4カ月以上もの間、承認されず、非加熱製剤を使い続けたために、多数のエイズウイルス感染者およびエイズ患者を生み出しました。加熱製剤の承認は、1985年12月。

また、日本では、人口に比べて世界の血液製剤消費に占める割合が高く、安易に治療に用いる傾向があります。その結果として、血友病だけでなく各種の病気や手術後の出血予防に血液製剤を投与し、感染被害を拡大することになりました。

1989年、薬害エイズの被害者らが国と製薬会社に損害賠償を求めて起こした民事訴訟では、1996年に国と製薬会社が原告一人当たり4500万円を支払うことで和解が成立。厚生労働省のまとめでは、合意に基づいて1382人が和解しました。

なお、薬害エイズ被害の反省を踏まえて2003年、医療用の血液の国内自給を強調する血液法が施行され、自給率は上向き、血液製剤の使いすぎも少しずつ是正されています。

🛏薬原性不眠

医療用医薬品や一般用医薬品の服用が原因で、引き起こされる不眠

薬原性不眠とは、医療機関で処方される医療用医薬品や、薬局、薬店で市販されている一般用医薬品の服用が原因となって、引き起こされる不眠のこと。

疾患の治療などで医薬品を常用している人の中には、服用後に強い眠気を感じて活動できなくなったり、朝目覚めた後でもボーっとした状態が続いてしまうという症状が、引き起こされることがあります。こういった医薬品の副作用による睡眠障害の症状は、同じ医薬品を使っているすべての人に現れるわけではありません。体質によって現れ方が違ったり、以前までは平気だった同じ人が体調の変化によって不眠や過眠の症状を引き起こすこともあります。

不眠症の治療に使われる睡眠薬や睡眠導入剤、精神疾患の治療に使われる抗うつ剤などは、日中でも強い睡魔に襲われるという作用が多くみられる医薬品です。特に高齢者が服用すると、眠気が解消せずに翌日まで持ち越されてしまうため、次の医薬品の服用でさらに長期間ボーっとしたり、うつらうつらと意識がはっきりしない状態になってしまう場合もあります。また、日中激しい眠気を感じるため、夜になると反対に目が覚めて眠れなくなることもあります。

花粉症やアトピーなどの治療に使われる抗アレルギー剤(抗ヒスタミン剤)も、アレルギー症状を引き起こすヒスタミンやセロトニンなどの化学伝達物質の働きを抑制する医薬品であり、服用後に眠くなるものが多いのが特徴です。同じように、風邪薬として扱われている医薬品の中にも、抗ヒスタミン作用のあるものが多く、眠気を感じるという副作用があります。こういった服用後に眠気を催す医薬品は、体調、生活習慣などを十分に考慮した上で適切に使用しないと、体内時計のリズムが崩れやすく睡眠障害を引き起こす可能性が高いことが知られています。

胃潰瘍(かいよう)やパーキンソン病の治療に使われる医薬品や、膀胱(ぼうこう)炎、腎盂腎炎(じんうじんえん)、高血圧などの治療に使われる利尿作用のある医薬品も、長期間使い続ける必要があるものが多くあり、不眠や過眠といった睡眠障害を引き起こしやすいことが知られています。こういった身体疾患の治療中に睡眠障害の症状が現れた場合には、医師と相談して対処する必要があります。

さらに、サプリメントなどでも薬原性不眠になる場合があります。常用している医薬薬がなくても睡眠障害の症状が現れている場合には、早めに専門の医療機関を受診するか、薬局、薬店の薬剤師に相談しましょう。

薬原性不眠が起こってしまっている場合には、医薬品の使用をやめるか、使用方法を変更する必要があります。この際は、専門的な知識を持っている人が状況に合わせて正しく対処しなければいけませんので、自己判断で使用方法を変えてはいけません。

♊薬剤起因性腸炎

抗生剤などの薬剤の副作用で発生する急性腸炎

薬剤起因性腸炎とは、疾患の治療のために投与された薬剤の副作用で発生する急性腸炎。薬剤性腸炎とも呼ばれます。

原因となる薬剤は、一般に抗生剤(抗生物質)が多く、非ステロイド性消炎鎮痛剤、抗がん剤などでも起こります。抗生剤によるものは抗生剤起因性腸炎とも呼ばれ、それらはさらに偽膜性腸炎と急性出血性腸炎に大別されています。非ステロイド性消炎鎮痛剤では胃潰瘍(かいよう)がよく起きますが、まれに大腸炎が起きます。

偽膜性腸炎は、何らかの疾患のために抗生剤を投与されている人に現れる急性腸炎。偽膜とは、大腸粘膜に発生するうみの塊です。

基礎疾患のある高齢者に多くみられ、抗生剤を投与された5〜10日後に、水のような便が出る下痢に見舞われます。大量の粘液を含んだ便が出たり、その中に血液が混じっていることもあります。腹鳴、下腹の鈍痛、腹部膨満感、中等度の発熱も伴います。ひどい場合には、複数の症状を起こし、ショック状態になることもあります。

偽膜性腸炎を起こす薬剤としては抗生剤が最も多く、そのほか非ステロイド性消炎鎮痛剤、抗がん剤、免疫抑制剤、重金属製剤、経口避妊剤などの薬剤も誘因となることがあります。

原因としては、疾患に対する治療を目的に投与された抗生剤、特にセフェム系やリンコマイシン系の抗生剤がその目的に反する副作用として、腸内細菌のバランスの乱れを引き起こし、ディフィシル菌が異常増殖し、それが作る毒素が大腸粘膜の循環障害を引き起こすとされています。

抗生剤は微生物を原料にして作られた薬剤で、副作用は少ないのですが、人によってはアレルギー反応が起きたり、発疹(はっしん)、のどの渇き、めまいなどの症状が現れることもあります。

一方、急性出血性腸炎も、偽膜性腸炎と同じく、何らかの疾患のために抗生剤を投与されている人に現れます。急性出血性大腸炎とも呼ばれます。

高齢者よりも若年者から中年者に多くみられ、風邪などの治療のためにペニシリン系抗生剤を投与された3~4日後に突然、激しい腹痛と血性下痢に見舞われます。血液の混じった下痢が頻回に渡って現れ、ちょうどトマトジュースのように見える便が出ます。ただ、大腸のびらんの程度が低い場合では、下痢ないし軟便で下血を伴わないこともあり、腹痛も軽微なことがあります。

合成ペニシリンが主な起因薬剤とされていますが、セフェム系や他の抗生剤も誘因となり得ます。抗生剤のほか、非ステロイド性消炎鎮痛剤、抗がん剤、免疫抑制剤、重金属製剤、経口避妊剤などの薬剤も誘因となることがあります。

急性出血性腸炎のメカニズムは、いまだに解明されていません。疾患に対する治療を目的に投与されたペニシリン系抗生剤が、副作用として何らかのアレルギー反応を引き起こし、大腸の血流を障害してびらんや潰瘍などの炎症を引き起こし、腹痛、下痢、下血を起こすと見なされています。

何か薬剤を服用している期間中に、思い当たる原因もなく腹痛や下痢、発熱が続くような症状が現れたら、内科、消化器科、胃腸科の医師に相談します。

薬剤起因性腸炎の検査と診断と治療

医師による偽膜性腸炎の診断では、まず、抗生剤の投与歴を確認します。あれば、抗生剤の内容も確認します。次いで、便中のディフィシル菌毒素の検出や便の培養検査を行います。

大腸内視鏡検査を行うと、大腸粘膜に、黄白色で半球状に隆起したうみの固まりである偽膜が多発しています。偽膜が互いに融合して、地図のような形になっているものもあります。この変化は直腸下端から始まることが多いので、前処置なしに検査できる直腸鏡でも診断することができます。ひどい場合には、偽膜が全大腸に及んでいることもあります。

治療はまず、投与中の抗生物質をすぐに中止すること。次いで、ディフィシル菌に著しい効果を示すバンコマイシンや、メトロニダゾール(フラジール)という抗生剤1〜2グラムを5日間投与しますが、1〜2週間で病状は改善します。

時には、内視鏡検査を行うだけで、改善するケースもあります。これは検査によって大腸へ空気が注入されることが、細菌の増殖に何らかの影響を与えるためではないかと考えられています。

医師による急性出血性腸炎の診断では、偽膜性腸炎と同じく、まず抗生剤の投与歴を確認します。あれば、抗生剤の内容も確認します。偽膜性大腸炎と違い、抗生剤の服用後2、3日と早い段階で起きやすく、投与経路では経口投与の場合が多いようです。

次いで、大腸内視鏡検査を行うと、横行結腸を中心にS状結腸から結腸の粘膜に発赤、びらんが認められ、潰瘍が認められることもあります。血液検査では、白血球の増加などを認めるものの特徴的ではありません。糞便(ふんべん)検査では、クレブシエラ・オキシトカ菌が高率に検出されます。この菌の毒素産生は認められませんが、何らかの関与が考えられています。

抗生剤が原因となった急性出血性腸炎は、その抗生剤を中止することが第一の治療法です。脱水を認めれば、輸液を行います。下痢がひどい場合も、腸の安静を保つために、点滴による栄養の補給を行います。そのほか、症状に応じて、腸の動きを抑えて痛みを和らげる作用のある鎮痙(ちんけい)剤、腸内細菌のバランスを整える整腸剤などの投与を行います。これらの対症療法だけで急速に症状が改善し、2〜4週間ぐらいで治癒します。

ただし、薬剤が原因であると考えられる場合でも、自分だけの判断で服用を中止せず、担当の医師の指示に従うことが大切です。原因となる薬剤は、一般にペニシリン系抗生剤が多いもの、ほかの抗生剤や非ステロイド性消炎鎮痛剤などでも起こることがあるからです。

☣薬剤性大腸炎

抗生物質など薬物の副作用で引き起こされる急性腸炎

薬剤性大腸炎とは、疾患の治療のために投与された薬物の副作用で発生する急性腸炎。薬剤起因性腸炎とも呼ばれます。

原因となる薬物は、一般に抗生物質が多く、時には消炎鎮痛剤、抗がん剤などでも起こります。抗生物質によるものは抗生物質関連大腸炎とも呼ばれ、それらはさらに偽膜性腸炎と急性出血性腸炎に大別されています。

◆偽膜性腸炎◆

偽膜性腸炎は、何らかの疾患のために抗生物質を投与されている人に現れる急性腸炎。偽膜とは、大腸粘膜に発生するうみの固まりです。

基礎疾患のある高齢者に多くみられ、抗生剤を投与された5〜10日後に、水のような便が出る下痢に見舞われます。大量の粘液を含んだ便が出たり、その中に血液が混じっていることもあります。腹鳴、下腹の鈍痛、腹部膨満感、中等度の発熱も伴います。ひどい場合には、複数の症状を起こし、ショック状態になることもあります。

偽膜性腸炎を起こす薬剤としては抗生剤が最も多く、そのほか非ステロイド性消炎鎮痛剤、抗がん剤、免疫抑制剤、重金属製剤、経口避妊剤などの薬剤も誘因となることがあります。

原因としては、疾患に対する治療を目的に投与された抗生物質、特にセフェム系やリンコマイシン系の抗生物質がその目的に反する副作用として、腸内細菌のバランスの乱れが引き起こし、ディフィシル菌が異常増殖し、それが作る毒素が大腸粘膜の循環障害を引き起こすとされています。

抗生物質は微生物を原料にして作られた薬剤で、副作用は少ないのですが、人によってはアレルギー反応が起きたり、発疹(はっしん)、のどの渇き、めまいなどの症状が現れることもあります。

◆急性出血性腸炎◆

急性出血性腸炎は、偽膜性腸炎と同じく、何らかの疾患のために抗生物質を投与されている人に現れる急性腸炎。急性出血性大腸炎とも呼ばれます。

高齢者よりも若年者から中年者に多くみられ、風邪などの治療のためにペニシリン系抗生物質を投与された3~4日後に突然、激しい腹痛と血性下痢に見舞われます。血液の混じった下痢が頻回に渡って現れ、ちょうどトマトジュースのように見える便が出ます。 ただ、大腸のびらんの程度が低い場合では、下痢ないし軟便で下血を伴わないこともあり、腹痛も軽微なことがあります。

合成ペニシリンが主な起因薬剤とされていますが、セフェム系や他の抗生物質も誘因となり得ます。抗生物質のほか、非ステロイド性消炎鎮痛剤、抗がん剤、免疫抑制剤、重金属製剤、経口避妊剤などの薬剤も誘因となることがあります。

急性出血性腸炎のメカニズムはいまだに解明されていませんが、疾患に対する治療を目的に投与されたペニシリン系抗生物質が、その目的に反する副作用として何らかのアレルギー反応を引き起こし、大腸の血流を障害してびらんや潰瘍(かいよう)などの炎症を引き起こし、腹痛、下痢、下血を起こすと見なされています。

薬剤性大腸炎の検査と診断と治療

何か薬剤を服用している期間中に、思い当たる原因もなく腹痛や下痢、発熱が続くような症状が現れたら、内科、消化器科、胃腸科の担当医に相談します。

◆偽膜性腸炎◆

医師による診断では、まず、抗生物質の投与歴を確認します。あれば、抗生物質の内容も確認します。次いで、便中のディフィシル菌毒素の検出や便の培養検査を行います。

大腸内視鏡検査を行うと、大腸粘膜に、黄白色で半球状に隆起したうみの固まりである偽膜が多発しています。偽膜が互いに融合して、地図のような形になっているものもあります。この変化は直腸下端から始まることが多いので、前処置なしに検査できる直腸鏡でも診断することができます。ひどい場合には、偽膜が全大腸に及んでいることもあります。

治療はまず、投与中の抗生物質をすぐに中止すること。次いで、ディフィシル菌に著しい効果を示すバンコマイシンや、メトロニダゾール(フラジール)という抗生物質1〜2グラムを5日間投与しますが、1〜2週間で病状は改善します。

時には、内視鏡検査を行うだけで、改善するケースもあります。これは検査によって大腸へ空気が注入されることが、細菌の増殖に何らかの影響を与えるためではないかと考えられています。

◆急性出血性腸炎◆

医師による診断では、偽膜性腸炎と同じく、まず抗生物質の投与歴を確認します。あれば、抗生物質の内容も確認します。投与経路では、経口投与の場合が多いようです。

次いで、大腸内視鏡検査を行うと、横行結腸を中心にS状結腸から結腸の粘膜に発赤、びらんが認められ、潰瘍が認められることもあります。血液検査では、白血球の増加などを認めるものの特徴的ではありません。糞便検査では、クレブシエラ・オキシトカ菌が高率に検出されます。この菌の毒素産生は認められませんが、何らかの関与が考えられています。

抗生物質が原因となった急性出血性腸炎は、その抗生物質を中止することが第一の治療法です。脱水を認めれば、輸液を行います。下痢がひどい場合も、腸の安静を保つために、点滴による栄養の補給を行います。その他症状に応じて、腸の動きを抑えて、痛みを和らげる作用のある鎮痙(ちんけい)剤、腸内細菌のバランスを整える整腸剤などの投与を行います。これらの対症療法だけで急速に症状が改善し、2〜4週間ぐらいで治癒します。

ただし、薬剤が原因であると考えられる場合でも、自分だけの判断で服用を中止せず、担当の医師の指示に従うことが大切です。原因となる薬剤は、一般にペニシリン系抗生物質が多いもの、他の抗生物質や消炎鎮痛剤などでも起こることがあるからです。

♉薬剤性低血糖

糖尿病の薬などの服用により、血液に含まれる糖が少なくなりすぎて症状が現れる状態

薬剤性低血糖とは、糖尿病の薬などの服用が原因で、血液に含まれる糖(ブドウ糖)が少なくなりすぎて特有の症状が現れる状態。

経口血糖降下剤やインスリン注射などの薬物療法を必要とする糖尿病患者では、それらの薬剤を服用している限り、日常生活において低血糖が現れる可能性は常に潜んでいます。また、糖尿病治療薬以外の薬剤の服用による副作用として、薬剤性低血糖の症状が現れることもあります。

血液に含まれる糖は、生きるために欠かせないエネルギー源。糖尿病でない人の血液に含まれる糖の量、すなわち血糖値は約70mg/dLから140mg/dLの間に維持されています。しかし、糖尿病ではこの糖の量を一定に維持することができません。食事から取り入れた糖を体や脳のエネルギーとして消費するという需要と供給のバランスが崩れ、血液中の糖が増えすぎると高血糖、逆に薬が効きすぎるなどして血液中の糖が少なくなりすぎると低血糖になります。

一般に、血糖値が70mg/dL以下になると、人の体は血糖値を上げようとします。また、血糖値が50mg/dL未満になると、脳などの中枢神経が糖不足、すなわちエネルギー不足の状態になります。その時に現れる特有の症状を低血糖症状といいます。

人によっては、血糖値が70mg/dL以下にならない場合でも、治療などによって血糖値を下げるインスリンの過剰な状態になった時に血糖値が急激に大きく下がることで、低血糖症状が現れることがあります。逆に、血糖値が70mg/dL以下になった場合でも、低血糖症状が現れない人もいます。

低血糖になる原因は、いくつか考えられます。経口血糖降下剤やインスリン注射の量の多すぎ、糖尿病の薬を服用した後の食事時間の遅れのほか、食事の量や炭水化物の不足、運動の量や時間の多すぎ、空腹での運動、飲酒、入浴など。

一般に低血糖を起こしやすい糖尿病の治療薬は、経口血糖降下剤のスルホニル尿素薬(SU薬)とインスリンです。経口血糖降下剤のビグアナイド薬(BG薬)、α-グルコシダーゼ阻害剤(アカルボース、ボグリボース、ミグリトールなど)、速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)といった薬でも起こることがあります。インスリン注射は、正しい手技を身に着けておくことが重要です。

糖尿病治療薬以外で低血糖を起こしやすい薬剤は、合成抗菌剤(ニューキノロン系、ST合剤)、不整脈用剤(ジソピラミド、シベンゾリンなど)、脳循環代謝改善剤(ホパンテン酸カルシウム)などです。

低血糖の時には、その値に応じて、体にさまざまな低血糖症状が現れます。集中できなかったり、いつもしていることに時間がかかってしまう場合は、低血糖の可能性もあります。

睡眠中に低血糖が起きていても、気付かない場合が多々あります。日中に起きる低血糖と症状や原因が異なり、寝る前の運動や食事、入浴などのちょっとした行動が原因になることもあります。さらに、夜間低血糖を起こすと、その反動で翌朝、高血糖になることがあり、その高血糖が尾を引くと一日の血糖コントロールに悪影響を及ぼすことも少なくありません。

血糖値が約70mg/dL以下になると、交感神経症状が現れ、異常な空腹感、発汗、手の震え、動悸(どうき)などの症状が出てきます。さらに血糖値が下がり50mg/dL程度になると、中枢神経症状が現れます。

ただし、ふだんから低血糖がよく起こる人や、低血糖症状の自覚が少ない人は、空腹感、発汗などの交感神経症状が現れないまま、無自覚性低血糖になることがあります。無自覚性低血糖の状況になると、血糖値を測ると60mg/dL程度まで低下していることに気付いたり、血糖値が50mg/dLより低くなって、突然さらに重い中枢神経症状が現れ、意識障害を示すことがあります。

そして、血糖値が30mg/dLよりも低くなると、重症低血糖に陥って意識レベルが低下し、昏睡(こんすい)など意識のない危険な状態になってしまうことがあります。これは大変深刻な状態で、死に至ることもあります。

低血糖になった時は、できるだけ早い段階で速やかに対応をしなければなりません。意識があり経口摂取が可能な時は、砂糖15グラムから20グラムを飲みます。糖分を含む缶ジュース、缶コーヒーでも構いません。10分から15分で回復しない時は、再度同量を摂取します。

α-グルコシダーゼ阻害剤であるアカルボース(商品名:グルコバイ等)、ボグリボース(商品名:ベイスン等)、ミグリトール(商品名:セイブル)など、消化管の二糖類をブドウ糖に分解する消化酵素の働きを抑えることで血糖の急激な上昇を抑える糖尿病の薬を飲んでいて低血糖を起こした時には、砂糖を飲んでもすぐに吸収されないため、回復に時間がかかることがあります。

そのため、低血糖時にはブドウ糖、またはブドウ糖を多く含む清涼飲料水を飲むようにします。

深刻な低血糖で意識障害を来した時には、自身でブドウ糖を飲み込むのが難しいことがあり、家族や周囲の協力が必要になります。その場合は、無理にブドウ糖を飲ませると、誤嚥(ごえん)や窒息の原因になります。周囲の人は、ブドウ糖や砂糖を水で溶かして、口唇と歯肉の間に塗り付けます。

医療機関の指導を受けた上で、周囲の人が血糖値を上げるためのグルカゴンという注射を行うこともあります。肝臓のグリコーゲンを分解し、ブドウ糖を放出する作用があるグルカゴン注射で回復した後は、軽く経口摂取しておくことが必要です。なお、アルコールの飲みすぎで低血糖になった時は、肝臓内のグリコーゲンが枯渇しており、グルカゴン注射は効きません。

救急処置でも回復しない時は、すぐに救急車を呼び、医療機関へ搬送しましょう。

意識がはっきりしない状態にまでなった低血糖は、一時的に血糖値が改善してもその後にまた血糖値が下がり、同じ症状が現れる可能性が高くなります。低血糖が続く場合も、必ず医療機関で診察を受けましょう。

薬剤性低血糖の検査と診断と治療

内科、内分泌代謝内科などの医師による診断では、低血糖症状があってもなくても、血糖値が70mg/dLより低い場合、血糖値が70mg/dLより高くても、低血糖症状がある場合に、低血糖と判断します。意識障害で重症低血糖の患者が搬送されてきた場合には直ちに緊急の処置を行いますが、それでも可能であれば血液検査を行い、血糖値を確認します。

内科、内分泌代謝内科などの医師による治療では、意識が保持され経口摂取が可能な場合には、ブドウ糖10〜20グラムを経口摂取します。低血糖昏睡を起こし経口摂取が不可能な場合には、まず50%のブドウ糖液 20〜40 mlを静注し、その後5%のブドウ糖を点滴し、血糖値を100~200 mg/dlに保ちます。特にスルホニル尿素薬(SU薬)を内服している場合には、ブドウ糖液の静注で血糖が上昇したからといって安心せず、数時間後に再発することがあるため、入院の上で十分な管理を行います。

低血糖に関しては、予防に優る治療はありません。食事を規則正しく摂取する、食前の過激な運動は避ける、運動前に補食するなどの注意が必要です。

また、自身が糖尿病治療のために使用している薬、あるいは糖尿病治療薬以外の抗菌薬、抗不整脈薬などの薬剤が、低血糖を起こしやすいか否かを把握することも、必要です。

軽い低血糖症状が現れた時は、できるだけ早い段階で速やかに対処して、重症低血糖を防ぎます。無自覚低血糖を起こすようなケースでは、こまめに血糖を自己測定し、血糖が下がっていれば症状がなくても早めに対処することが必要です。

低血糖を起こした時、いつ、どこにいてもすぐに対処できるように、ペットシュガーやブドウ糖ゼリーなどを常時携帯しておきます。特に運動療法で外出するような時は忘れずに持っていきます。

もしもの時に備えて、糖尿病患者であることを示す糖尿病手帳や、携帯用の糖尿病患者用IDカード(緊急連絡用カード)を常に携行しておけば、昏睡で医療機関に搬送された時でもすぐに適切な処置が受けられます。

♈薬剤性難聴

病気の治療のために使用している薬剤の副作用により、内耳が障害を受けて発症する難聴

薬剤性難聴とは、病気の治療のために使用している薬剤の副作用によって、耳の奥にある内耳が障害を受けたことで発症する難聴。

正常な場合よりも聴力が低下した状態である難聴は、伝音(でんおん)難聴(伝音性難聴)、感音(かんおん)難聴(感音性難聴)、混合難聴(混合性難聴)の3つに大きく分けられます。

伝音性難聴は、空気の振動として耳に入ってくる音が外耳の一部である外耳道や、外耳と中耳の境目にある鼓膜、中耳内にある耳小骨を震わせて振動を伝えていく部分に、障害が生じたために起こります。音が十分に伝わっていかないため、音が鳴っていること自体を把握することが難しい性質を持っています。

感音難聴は、音を感じる内耳から聴覚中枢路にかけて障害が生じたために起こる難聴。突発性難聴や騒音性難聴の場合も、感音難聴に含まれます。

混合難聴は、伝音難聴と感音難聴の両方の特徴を併せ持った難聴。多くの老人性難聴は混合難聴ですが、どちらの度合が強いかは個人差が大きいといえます。

また、難聴の度合は一般的に、平均聴力レベルが20デシベルまでを、ささやき声もよく聞こえる正常聴力として、40デシベルまでを、小声が聞きにくい軽度難聴、70デシベルまでを、普通の声が聞きにくい中度難聴、70デシベル以上を、大きな声でも聞きにくい高度難聴、90デシベル以上を、耳元での大きな声でも聞こえない重度難聴、100デシベル以上を、通常の音は聞こえない聾(ろう)に分けます。

こうした難聴を引き起こす薬剤は耳毒性薬剤とも呼ばれ、結核の治療に用いられる抗生剤(抗生物質)のストレプトマイシンやカナマイシン、ゲンタマイシンなどが代表として挙げられます。

ストレプトマイシンなどは、アミノ配糖体系というグループに属する薬剤で、普通の炎症に用いる薬剤にもこのグループに属している薬が多く、アミノ配糖体系の薬剤は程度の差はあれ、すべて耳毒性(聴器毒性)を持っています。しかも、注射で全身的に使用した場合だけではなく、点耳薬のように局所的に使用した時にも難聴が起こることがあります。

抗生剤のほかにも、利尿剤のフロセミド、抗がん剤のシスプラチンやアルキル化薬、リウマチ治療剤のサリチル酸などが、難聴を引き起こす薬剤として挙げられます。その耳毒性は、アミノ配糖体系薬剤よりは軽度です。

いずれの薬剤でも、内耳の感覚細胞の障害が発生します。また、薬剤の種類により、音を感じる蝸牛(かぎゅう)に主に障害が起こる難聴と、体の平衡感覚に関係する前庭・三半規管に主に障害が起こる難聴とに分けられます。

薬剤性難聴の症状としては、蝸牛に主に障害が起これば、耳鳴りから始まり、続いて難聴に気付くパターンが多いのですが、耳鳴りはない場合もあります。

初期段階では高い周波数の難聴から始まり、次第に会話で使うような低い周波数の難聴へと進行してゆきます。難聴は両方の耳に同時に起こることが多く、症状が進むと、両耳とも全く聞こえなくなることもあります。

また、薬剤によって前庭・三半規管に主に障害が起これば、めまい感やふらつきが生じ、時には吐き気、頭痛が現れるケースもあります。特に、両側の前庭・三半規管が高度に損なわれた場合には、歩行時に景色がぶれるようになり、歩行障害や転倒の原因になります。

難聴を引き起こす薬剤には耳毒性があるため、難聴以外の症状が出ることがあり、注意が必要です。薬剤の使用開始後に耳鳴り、難聴、めまい感、ふらつきが現れたら、すぐに耳鼻咽喉(いんこう)科を受診し早期発見することが必要です。

薬剤性難聴の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、純音聴力検査により難聴の程度、平衡機能検査により平衡障害の程度を評価します。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、副作用の症状を認めた場合、原因となる薬剤の特定を行い、中止してもよい薬剤であれば、直ちに使用を中止します。ほかの薬に切り替える場合もあります。

薬剤の使用を中止しても難聴が治らないばかりか、さらに悪化する場合があります。ステロイド剤(副腎皮質ホルモン)、ビタミン剤などによる治療を行っても、治療効果が期待できない場合がほとんどです。

従って、アミノ配糖体系の薬剤など耳毒性のある薬剤を病気の治療に使う前には検査を行い、使用中も定期的に聴力検査を繰り返し、日常生活に支障を来すほどの難聴が起こらないように予防することが大切になります。

アミノ配糖体系の薬剤で難聴が起こるかどうかは個人差が大きく、長期間使用しても難聴にならない人もいますし、短期間の使用で難聴になる人もいます。このため、薬の使用量から難聴の起こる時期を予測することはできません。日常会話で難聴を自覚していなくても、耳鳴りが起こったら、高い音から聞き取れなくなる内耳障害が起こっていないか、聴力検査を受ける必要があります。

なお、アミノ配糖体系の薬剤には、耳毒性だけではなく、腎(じん)毒性もあり、利尿剤のフロセミドを併用すると内耳と腎臓に対する毒性が増強します。また、腎機能が低下している人や高齢者は薬が体内に蓄積しやすく、難聴が起こりやすくなることを念頭においておく必要があります。

2022/07/18

💊薬剤性鼻炎

市販の点鼻薬や内服薬を使用し続けた時、その副作用で起こる鼻炎

薬剤性鼻炎とは、治療のために使用している薬物によって、鼻粘膜がうっ血して膨張し、鼻詰まりを起こした状態。薬剤誘発性鼻炎とも呼ばれます。

この薬剤性鼻炎には、市販の血管収縮性点鼻薬によるものと、内服薬によるものとがあります。

鼻には、吸い込んだ空気を加温、加湿する役目があります。鼻の中には甲介骨(こうかいこつ)という数枚の骨が突き出しており、ちょうど暖房器の放熱板のように表面積を広くして、呼気を加温、加湿しやすくしています。とりわけ下鼻甲介骨の表面には、海綿状静脈洞という分厚い血管網が取り巻き、その表面をさらに粘膜が覆っていて、吸い込んだ呼気と温かい血液の間で熱交換することで呼気を温めます。

このように血管が豊富な鼻粘膜の組織が、さまざまな鼻疾患によって充血して病的に膨張すると、鼻の空気の通り道が狭くなって鼻詰まりが生じます。鼻詰まりに対して、市販の血管収縮性点鼻薬は即効性があり、海綿状静脈洞の血管を急激に収縮させてその場で鼻詰まりを取ります。最初は4時間程度効果が続きますが、長期間に渡って連用すると効果が少なくなり、さらには生理的な血管調節が障害され、鼻粘膜はかえってはれ上がります。

鼻炎が悪化すると、血管収縮性点鼻薬の効き目が切れる時の呼吸困難感は耐えられず、何度も血管収縮性点鼻薬を使用するという悪循環を繰り返します。使用をやめると、症状が以前よりも悪化することがあります。使用している人に、血管収縮性点鼻薬が鼻炎の悪化の原因になっているという自覚がないこともあります。

症状としては、鼻詰まりを主に、嗅覚(きゅうかく)障害、鼻漏(びろう)、前頭部の頭痛などがみられるほかに、鼻部の不快感や乾燥感、イライラ感、鼻出血なども生じることがあります。また、血管収縮性点鼻薬を常用する切っ掛けとなったアレルギー性鼻炎や、花粉症などのの症状を合併している場合もあります。

血管収縮性点鼻薬を大量に使用すると、心臓の血管が収縮し、心筋梗塞(しんきんこうそく)を起こした報告もあります。薬物依存を起こし、重大な副作用の原因にもなるので、薬局、薬店では買わず医療機関で相談してから使用するのが安全です。

一方、原疾患の治療のために使用している内服薬にも、長期間に渡って連用すると薬剤性鼻炎の原因となって、鼻詰まりなどの副作用を発現するものがあります。原因となる内服薬には、高血圧薬として使われる交感神経遮断性降圧剤やベータ受容体刺激性降圧剤、アスピリンやイブプロフェンなどの非ステロイド系抗炎症鎮痛薬、点鼻用血管収縮薬、利尿剤、抗精神病薬、抗パーキンソン薬、気管支拡張剤、経口避妊薬、勃起(ぼっき)不全治療薬などがあります。

薬剤性鼻炎の自己治療と医師による治療

薬剤性鼻炎の症状を治すには、常用している血管収縮性点鼻薬などの中止が第一です。1〜2週間の完全中止で、血管収縮性点鼻薬の影響はおよそ消失するといわれます。

しかし、鼻詰まりの症状を苦にして血管収縮性点鼻薬を常用するようになったのであり、使用を中止すれば、少なくとも一時的には鼻詰まりが強くなることが多いため、急に中止することが困難なこともしばしばあります。この際は、まず副腎(ふくじん)皮質ステロイドの入った抗アレルギー用の点鼻薬を併用して、血管収縮性点鼻薬の使用は就寝前などに制限して減量していき、1ないし3週間かけて完全に中止します。

また、血管収縮性点鼻薬を常用する切っ掛けとなった原疾患が存在するならば、その治療を行わなければ、たとえいったん血管収縮性点鼻薬を中止できても、問題を解決したとはいえません。

症状がひどいケースでは、耳鼻咽喉(いんこう)科の医師によるアレルギー性鼻炎などの原疾患に対する手術も行われます。はれ上がった下鼻甲介骨粘膜を電気やレーザーで焼いて取り除いたり、アルゴンガスの中に特殊な高周波電流を流すことで生じるプラズマで焼いて取り除いたりして、鼻詰まりを取ります。

☕薬剤抵抗性

薬剤抵抗性とは、人や動物の病気の原因になる細菌などの微生物、あるいは植物や動物の病害虫などを殺すために、同じ種類の薬剤を使い続けることにより、微生物や病害虫が抵抗力を身につけて、薬剤の効き目がなくなったり、効き目が弱くなること。

近年、人の頭に寄生するアタマジラミが世界的に増えていますが、これはピレスロイド系駆除薬に薬剤抵抗性のあるアタマジラミが増えているためと考えられます。

感染症の原因となる微生物などに対して、抗生物質などの薬剤(抗菌剤)の効果がなくなる場合は、薬剤耐性と呼ぶのが一般的。

薬剤耐性を獲得した細菌が別の細菌と接触して、薬剤耐性の遺伝子を伝達することも確認されています。元来、抗生物質は微生物が作り出しており、自然界にも耐性遺伝子は存在していると考えられています。

人や家畜、ペットの治療現場で発生した耐性菌や耐性遺伝子は、食物連鎖などを通じて人の生活圏と自然界を循環している可能性があります。

☕薬疹

薬物の内服、注射、吸入によって引き起こされる皮疹や、粘膜疹のことです。原因のほとんどが、アレルギーと考えられています。

軽症の場合、おおむね予後は良好で、重症型に移行さえしなければ、原因となる薬剤を中止するだけでよいと見なされます。しかし、じんましんの出る薬疹の場合、皮疹そのものは次第に治まるものの、気道過敏による呼吸困難やアナフィラキシーショックを伴うことがあるので、注意が必要です。

ちなみに、呼吸困難や血圧低下などの全身的な反応をアナフィラキシー、生死に関わる重篤なショック症状を伴うものをアナフィラキシーショックと呼びます。

☕薬物依存症

精神依存と身体依存の両面がある精神疾患

薬物依存症とは、麻薬、覚醒(かくせい)剤、睡眠薬、精神安定剤などの薬物の摂取によって得られる精神的、肉体的な薬理作用に強く捕らわれて、自らの意思で連用行動をコントロールできなくなり、強迫的に連用行為を繰り返す精神疾患。

医学上は、依存性のある治療薬など、あらゆる薬物への依存が薬物依存症に含められます。また、「薬物」を法制上禁止されている薬物という意味合いに捕らえ、特に麻薬や違法とされる向精神薬、覚醒剤などによる薬物依存症のことを指す言葉として用いられることもあります。

薬物依存症を引き起こす薬物は、中枢神経系を興奮させたり抑制したりして、心の在り方を変える作用を持っています。これらの薬物を連用していると耐性がつき、同じ効果を求めて使用の回数や量を増やしていくうちにコントロールが利かなくなって、連続的、強迫的に使用する状態になります。

薬物依存症には、最初の使用で味わった気持ちよさや高揚感を求めたり、あるいは気分の落ち込み、イライラ、不安などを解消するために薬物を求める精神依存と、薬物の連用を中断すると特有の離脱症状(禁断症状)を示す身体依存との両面があります。

離脱症状とは、摂取した薬物が体から分解、排出され、血中濃度が下がってきた際に起こるもので、イライラを始めとした生理的に不快な感覚です。このような離脱症状を回避するために、再び薬物を摂取することを繰り返し、やがて薬物依存症という段階に足を踏み入れることとなります。

そのために、薬物使用によって身体障害や精神障害を始め、社会的な問題である退学、失業、離婚、借金、事故、犯罪などが引き起こされていても、誘われたり薬物を目の前にすると、使用したいという渇望感が強くなり、手を出してしまうのです。

摂取した薬物の種類や量、摂取の期間は発症者によってまちまちでも、依存に向かうプロセスは驚くほど共通しています。

薬物依存症でみられる一般的な症状としては、急性中毒症状、 精神依存の表現である薬物探索行動、身体依存の表現である各薬物に特有な離脱症状、さらに薬物の慢性使用による身体障害の症状と精神障害の症状があります。

何とかして薬物を入手しようとする行動を薬物探索行動といいますが、うそをついたり、多額の借金をしたり、万引きや恐喝、売春、薬物密売などの事件を起こすこともしばしばあります。

日本で流行している乱用薬物では、比較的高率に幻視、幻聴、身体幻覚や被害関係妄想、嫉妬(しっと)妄想などを主体とする中毒性精神病を合併し、まともな判断ができないために、凶暴な事件にもつながりやすいのです。

平成19年(2007年)における薬物事犯の件数は、 大麻によるものが3282件、覚醒剤によるものが16929件、向精神薬によるものが1088件、アヘンによるものが57件となっています。

麻薬、覚醒剤、睡眠薬、精神安定剤への依存

麻薬依存

アヘン、ヘロイン、モルヒネ、コデイン、コカイン、LSD、MDMA、大麻(マリファナ)などの麻薬依存は、比較的手に入りやすい医療関係者や、手術、痛みのために麻薬注射を受けた人などが陥りやすい傾向があります。

最初は主に鎮痛の目的で使うわけですが、それがやがて習慣となり、痛みもないのに、麻薬による陶酔感や酩酊(めいてい)感を求めるようになります。

大麻の場合では、葉などをあぶってその煙を吸うため、乱用すると気管支や、のどを痛めるほか、免疫力の低下や白血球の減少などの深刻な症状も示します。大麻精神病と呼ばれる独特の妄想や異常行動、思考力低下などを引き起こす場合もあります。また、乱用を止めてもフラッシュバックという後遺症が長期に渡って残るため、軽い気持ちで始めたつもりが一生の問題となってしまうこともあります。

覚醒剤依存

メタンフェタミン、いわゆるヒロポンへの依存が代表的なものです。戦後多発し、大きな社会問題となりましたが、厳しい取り締まりで一時は廃れていました。しかし、最近はまた増える傾向にあります。

初めは眠気覚まし、疲労回復の目的で使うのですが、効果が著しいために、続けていると病み付きになり、やがて離脱症状が出てきてやめられなくなります。

覚醒剤で困るのは、統合失調症と似たような状態になること。幻聴、幻視などの幻覚や、被害妄想が出てきます。これが各種の犯罪行為の原因になったり、さらに進行すると、自閉的な生活に落ち込み、廃人同様の身になることもあります。

睡眠薬依存

睡眠薬は比較的に手に入りやすく、しかも常用する人が多いため、注意が必要です。麻薬や覚醒剤と異なり、睡眠薬は体に障害を引き起こすのではなく、これがないと眠れないという精神依存が一番の副作用となります。

しかし、長期間、使用を続けていると、耐性が次第に上がってしまい、同じ効果を出すには、ますます多量の薬を必要とするようになります。感情の不安定や能率の低下、意欲の衰え、時には幻覚、妄想、けいれん発作などの副作用が起こることもあります。

睡眠薬を使う場合には、自己判断で使わないで、医師の指示に基づいて使用することが大切です。

精神安定剤への依存

トランキライザー(抗不安薬)などの精神安定剤も、睡眠薬と似たような面を持っているので、安易に使うのは禁物。実際、ろれつが回らなくなったり、のどが渇いたり、体がふらふらしたりする副作用も問題になりますが、使用をやめられなくなる精神依存を招くことに気を付けねばなりません。

自己判断で精神安定剤を使うケースでは、とかく同一の薬を長く服用することになりがちで、次第に量が増えていってしまいます。こういう服用の仕方が一番危険で、精神依存を招き寄せているようなもの。

精神安定剤には実に多くの種類があり、取捨選択してうまく使いこなすのは専門家でも難しいくらいですので、医師に相談の上で使うことが大切です。

薬物依存症の検査と診断と治療

薬物依存症という段階にいったん足を踏み入れたら、意志の力で使用をコントロールすることはできなくなります。たとえ一時的に使用をやめたり、薬物の種類を変えたり、量を変えたりしてコントロールしているように見えても、結局は元のような使用に戻ったり、別の薬物にすり替わっただけだったりします。そして、やがては生活のすべてを犠牲にしても薬物を求めるようになります。

いずれの薬物依存症でも、早く入院させて薬物の使用をやめさせることが必要となります。そして、精神科専門医によって、薬物を連用するに至った原因を探り、精神療法などの方法で矯正していくことが大切です。

医師による薬物依存症の診断は、本人や家族などからきちんと使用薬物や使用状況、離脱症状の経過などが聴取できれば、比較的容易です。

合併する肝臓障害、末梢(まっしょう)神経障害などの身体障害や精神障害は、それぞれ専門的な診断を必要とします。静脈内注射による使用者では、特にB型肝炎、C型肝炎、HIV感染をチェックする必要があります。

中毒性精神病が発病していれば、薬物から隔離、禁断するために、精神科病院への入院が必要。本人が承諾しない時は、家族の依頼と精神保健指定医の診断によって、医療保護入院で対応します。

中毒性精神病を合併しない場合では、できるだけ本人から治療意欲を引き出して、任意入院で対応するのが原則となります。

なお、麻薬に指定されているアヘン、ヘロイン、モルヒネ、コデイン、コカイン、LSD、MDMA、大麻(マリファナ)のほか、覚醒剤、幻覚剤、精神安定剤、トルエン、シンナーといった有機溶剤など法的に規制された薬物による依存を診断した医師には、「麻薬および向精神薬取締法」によって届け出の義務が課せられています。

薬物依存症の治療に関しては、オールマイティーな治療プログラムはありませんが、周囲にいる家族などの協力が求められます。

薬物依存症の治療の主体は依存者自身なのですが、薬物依存の結果引き起こされた借金や事故、事件などの問題に対して、周囲にいる家族などが後始末をつけたり、転ばぬ先の杖(つえ)を出している限り、周囲の努力は決して報われることはありません。

依存者の薬物中心の生活に巻き込まれて、際限なく依存者の生活を丸抱えで支えている家族などは、イネイブラーと呼ばれています。このイネイブラーの役割を演じている家族などが、自分の行っている支援にきちんと限界を設け、各種の問題の責任を依存者自身に引き受けさせるようにしていけば、依存者は底付き体験によって断薬を決意することもあります。

底付き体験とは、社会の底辺にまで身を落とすということではありません。自分の本来あるべき姿、例えば同級生の現状で代表される姿などと、現在の自分の姿を比較して、このままではどうしようもないと自覚することをいいます。

さらに、断薬継続のためには、同じような境遇の人々が集まり、お互いに影響を与えるNA(ナルコティクス・アノニマス)などの自助グループに参加することが、有効な場合もあります。

なお、喫煙、飲酒を経験したことのある未成年者は、薬物乱用、依存のハイリスク集団です。薬物の乱用、依存は素人でも診断できてしまい、素人判断で対応をしてしまうことが、かえって重症化を進めてしまいます。

トルエン、シンナーなどの有機溶剤、メタンフェタミンなどの覚醒剤などを乱用している疑いがあれば、早期に児童相談所、教育相談所、地元警察署少年課、精神保健福祉センター、薬物依存専門の精神科病院に相談することが、重症化を防ぐことにつながります。

☕薬物乱用

薬物乱用とは、覚醒(かくせい)剤など法律で使用が禁止されている薬物を使用したり、医薬品を本来の目的以外に使用、あるいは使用容量を大きく外れて使用すること。

乱用される主な薬物には、覚醒剤、シンナーなどの有機溶剤、大麻、コカイン、ヘロイン、合成麻薬(LSDやMDMA)などがあり、医薬品には向精神薬、睡眠薬、鎮痛薬などがあります。

睡眠薬遊びやシンナー吸引は、たとえ1度でも薬物乱用に相当します。

薬物は脳に作用して気分の変容、幻覚、興奮などを引き起こします。その快感を得ようと繰り返し使用するうちに、同じ量では効かなくなり、使用量や回数が増えて自分の意志だけでは止めることができなくなります。

こうして薬物中心の生活に陥った状態が、薬物依存です。通常、薬物依存は薬物乱用よりも重症と考えられ、薬物を求める強い衝動があり、いろいろなトラブルがあっても薬物使用をやめられない状態です。

☕薬物乱用頭痛

薬物乱用頭痛とは、頭痛薬を服用し続けているうちに服用回数や量が増え、それが原因となって起こる頭痛のこと。薬剤誘発頭痛ともいいます。

原因は、頭痛薬の常用で脳の神経が痛みに対して過敏になったり、血管が拡張しすぎたりすることで、頭痛剤を飲んでも効かなかったり、頭痛剤を飲むことでかえって頭痛を悪化させたりしてしまいます。

薬の効果が切れると痛みが増強するため、さらに薬を飲むという悪循環にも陥りやすく、市販薬だけでなく医師が処方する薬によっても起こり得ます。頭痛を起こしやすい薬は、トリプタンやエルゴタミン製剤などの片頭痛特効薬や一般の鎮痛薬です。

医師による治療では、まず原因となる頭痛薬を中止し、中止した後に起こる頭痛に対応します。予防のため、頭痛薬の服用は月10回以内に抑える必要があります。

☪やけど(熱傷)

熱湯など高熱の物質に接した際に生じる皮膚の損傷

やけどとは、熱湯、炎、蒸気、湯たんぽなど、高熱の物質に接した時に生じる皮膚の損傷。熱傷とも呼びます。

数ある外傷のうち、最も危険な結果を招くことがあり、厳重な予防が必要です。最も多いのは家庭内で起こるやけどですが、重症例は火事や工場災害で多くみられます。

症状としては、やけどの重症度を、その広さと深さにより判定します。ことに、皮膚が焼けた深さは、第1〜3度で表されます。

第1度(表皮熱傷)は、いわゆる日焼けの状態で、放っておいても治ります。

第2度(真皮熱傷)では、水疱(すいほう)ができ、深いものでは潰瘍(かいよう)を形成し、手術が必要となります。

第3度のやけどでは、熱傷の深さが皮下組織に達して、皮膚は全く死んでいますので、自然に治ることはありません。

そのほか、やけどは部位により治療が難しかったり、気管に火や煙を吸い込んで起こる気道熱傷のように、死亡率が非常に高くなるものもあります。年齢も救命に大きく関係し、年齢が低いほど重症です。

やけどの検査と診断と治療

やけどでは、受傷したらすぐ水で冷やすことが治療の第一歩です。大きなやけどでは、衣服を脱がす前に水をかけ、冷やしてから救急隊に連絡し、専門医に連れていってもらうことです。

重症のやけどでは、全身治療による救命がまず問題となります。

局所的な治療としては、軟こうを塗布するのが主となりますが、成分が不明の軟こうなどは感染を助長することがあるので避けます。軽いやけどのように見える場合でも、感染を起こすと深くなり瘢痕(はんこん)を残すので、形成外科医の治療を受けます。

一般に、やけどで死んだ皮膚を切り取って、自分自身の健康な皮膚を植える植皮の手術は、瘢痕の状態に応じて行います。

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 静岡県は26日、直近1週間(15~21日)のデータから「RSウイルス感染症が流行入りしている」と発表しました。定点医療機関となっている小児科1カ所当たりの患者数は1・64人で、県が流行入りの目安としている「1人」を大きく上回りました。前週の0・9人よりも8割増加し、急拡大が懸...