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2022/09/14

🇬🇭体臭

■体臭のメカニズム■

《汗と体臭と、個性と》

 広辞苑によると、「体臭」とは「皮膚の汗腺・皮脂腺の分泌物から生ずる一種の臭気」、現代実用辞典に至っては、「からだのにおい」と素っ気ない表現で片付けています。

 しかし、汗をかく季節には、体臭を気にしないでいられる人は、少ないのではないでしょうか。特に潔癖症、臭い過敏症ともいえる現代人にとっては、自分や他人の体臭が気になります。そこで、そもそも体臭とは何かといった点から、考えてみましょう。

 体臭ができるメカニズムは、ほぼ解明されています。皮脂や汗など脂質の酸化が、その大きな原因です。同時に、体臭が「HLA」という遺伝子に関係しており、人によって臭いの種類も違えば、臭う強さも違うなど個人差があることも、わかっています。 

  私たち人間が動物である以上、他の動物と同様に、その個体を識別するものが「体臭」といったところが、妥当な認識ではないでしょうか。このように考えれば、「一般的に体臭が薄い」といわれる日本人でも、人によって臭いがほとんどなかったり、あるいは体臭そのものがよい香りだという幸運な人がいる一方、臭いが強かったり、あるいは自分の体臭は悪臭だと思い込んで悩む人がいるのも、納得できます。

 「自分の体臭は悪臭で、人に嫌われるのではないか」といった不安や悩みを持つことこそが、現代人の深刻な心の病の一つだとも、一説にいわれています。まずは、自分の個性の一つとして、体臭を前向きにとらえることから、対処してみたいものです。

《体臭の発生源とその理由》

発生源
働き
体臭となる理由
皮脂腺

皮脂を分泌し、体の表面を守り、潤いを与える。

空気に触れることで酸化し、臭いが生じる。

汗腺(エクリン腺)

汗を出すことで、体温と水分を調整している。

汗そのものは、ほとんど臭いがない。ただ、上記の皮脂と混ざり合い、雑菌が繁殖するなどして、臭いを発生させる。

汗腺(アポクリン腺)

異性へのアピール!?

脇の下、乳輪、外陰部など限られた部分にのみあり、この腺から分泌される汗には脂肪、鉄分、尿素、アンモニアなどが含まれ、汗そのものに大なり小なり臭いがある。

《実は、においに恋してる?》

 興味深い調査結果が、あります。未婚の女性に、男性の着たTシャツの「におい」をかいでもらい、好き嫌いの関係を探ったところ、父親由来のにおいの遺伝子(HLA)を多く持つ男性に対して、好意を持つ傾向があったというのです。

 これを推測していくと、女性は父親の、男性は母親のにおいと似ている異性を好むという仮説も、成り立ちます。また、特に脇の下のにおいは、思春期以降に出てくるため、フェロモンと関係しているといった説も、根強くあります。とかく否定されがちな存在ですが、体臭はもしかしたら、異性に好き嫌いを判定させる好材料なのかもしれませんね。

 因みに、日本ではあまり発達してこなかった化粧品に、香りの強い順に「香水」、「オードトワレ」、「コロン」などの種類がある「フレグランス」があります。まことしやかに語られてきた説では、「体臭が日本人より強い欧米人がにおいを隠すために、フレグランスを使う文化を発達させてきた」としていますが、まったくの俗説に属します。彼らが体臭を気にし始めた歴史より、香料を愛用し始めた歴史のほうが、圧倒的に古いからです。 

 このフレグランスを選ぶ際、おおかたの人は「香りが好き」といった基準で、つい選びがちなのではないでしょうか。しかしながら、フレグランスは自分の体臭や体温と相まって香りを醸し出すもの。最初から「体臭ありき」で発想し、選ぶのが正解なのです。

 かの女優、マリリン・モンローがシャネルNo.5をネグリジェにしていたという話は、あまりにも有名です。シャネルの香水がモンローの体臭と組み合わされた時、とても魅惑的な香りを放ったことと想像されます。

 自分の体臭と体温、それとの組み合わせで選ぶフレグランス。そのような視点で楽しめば、体臭そのものが自分の魅力をいっそう引き出す要素となるのです。香水やオードトワレの場合は、香りが強くて持続性もあるので、使用する量に気を付けましょう。自分にとってはよくても、周囲に不快感を覚えさせたり、必要以上に「派手な人」といった印象を与えることもあるので、配慮をお忘れなく。

《こんな臭いにはご用心》

 体から発せられるにおいには個人差があり、においの強さもまた人それぞれではありますが、時には、臭いの原因が病気に基づくこともあります。

 例えば、糖尿病になると甘い臭いがするようになり、甲状腺機能亢進症やパーキンソン氏病になると、皮脂腺が刺激され、独特の体臭が出るようになるといわれます。また、口臭がひどい場合は、内臓疾患の可能性もあります。

 大切な体をしっかりセルフチェックするためにも、日頃の自分の体臭を知っておくことが、大切となります。「体臭がいつもと違う」、「体のにおいが変わってきた」、「ケアをいろいろしても、臭いが軽減されない」…こんな時は、一度専門医に相談してみましょう。

■体臭防止の傾向と対策■

《清潔第一。食べ物注意》

 体臭は個性、あなたの魅力とはいえ、猛暑の夏に体臭が強くなっては、自分でもうっとうしいもの。周りから「汗くさい」なんていわれないためにも、生活や食事に一工夫していきましょう。

 臭い対策でまず最初に押さえておきたいのが、気持ち的なポイント。「汗をかきたくない」、「汗をかくと臭い→人に嫌われる」といった頭の中の思考回路を一

度、断ち切ることです。

 なぜかといえば、気にすれば気にするほど、汗をかく要因になるからです。これを「精神性発汗」といいます。例えば、緊張すると冷や汗が出たり、手に汗が浮いたりするのが、精神性発汗です。「汗をかくことは自然なことで、汗へのケアをすればよい」と気持ちを切り替えて、必要以上の心配は抑えていきましょう。

 次にケア。こちらは清潔第一。毎日、お風呂に入る、まめに下着を取り替えるといったことが基本ですが、近年はさまざまな制汗剤が出回っているので、出掛ける前に使用しておくのもよいでしょう。

 因みに、制汗剤とデオドラント剤では、もともとの発想が違うことをご存知ですか。制汗剤は、汗腺に働きかけて汗を出にくくするもの。デオドラント剤のほうは、臭いを作り出す雑菌を退治したり、繁殖を阻止するもの。覚えておくと、何かと便利でしょう。

 第三に、汗をかいたら、こまめの対処を。汗を拭(ふ)き取り、サッパリと。こちら用にもシート状の拭き取り剤が多数市販されているので、便利です。汗をかけば、誰でも気持ちが悪いもの。肌だって、同じなのです。汗をかいたまま放置されれば、肌が臭いを発生させる。つまり、汗臭さや体臭が強くなるのは、「不快だ」という肌からのサインともいえましょう。

 そして、もう一つ気を付けたいのが、食生活。下表で示すように、基本的に肉類の多い食生活をしていると、体臭は強くなるといわれています。欧米人の体臭が強いのも、食生活に一因があるとされています。

 逆に多く取りたいのが、抗酸化食品。先にも述べた通り、体臭の原因は脂質などの酸化。酸化を防げば、体臭も抑えることができるわけです。

《体臭を抑えるために控えたい食品》

控えたい食べ物
その理由
動物性たんぱく質

動物性たんぱく質や脂肪を多く含む肉や乳製品を多く摂取すると、脂質の分泌が増え、臭いのもととなる。汗も、かきやすくなる。肉・牛乳・チーズなどは、控えめにしよう。

辛いもの、臭いの強いもの

辛いものを食べると汗が出るのは、誰もが経験したことがあるはず。また、ニンニク・ニラ・ネギ・ラッキョウなどが臭いの原因であることも、周知の事実。夏は食べる時間や場所を選びたい。

《意識して取りたい抗酸化食品》

種類
多く含まれる食品
ビタミンE

小麦胚芽、植物油、アーモンド、ピーナッツ、うなぎ、緑黄色野菜など

ビタミンB2

どじょう、うなぎ、レバー、さば、干ししいたけ、強化米、納豆など

《部位別の臭いの原因とケア法》

 特に気になる部位には、適材適所の臭い対策を。

部位
臭いの原因
対策

頭皮や髪に皮脂がたまると、細菌に分解されて、臭いが発生。たばこなどの臭いが移りやすいことも、悪臭の原因に。

まめの洗髪を心掛ける。また、濡れていると臭いが移りやすいので、よく乾かす。

口 

唾液の分泌が少なくなると、細菌が繁殖し、食べカスの分解や発酵が進むために、悪臭が発生。

よく噛んで食べて、唾液の分泌を促す。食後は歯磨きをし、臭いの原因となる食べカスを残さない。口の中が渇いたら、適度な水分を補給する。ない場合には、ガムなどでも。

脇の下

アポクリン腺による独特の臭いが発生。

吸汗性の高い下着を身に着ける。消臭剤を利用する。食生活に注意する。

生殖器

アポクリン腺と恥垢によって、臭いが発生。

こまめに洗う。ただし、石鹸などの洗い残しがあると、それ自体が臭いの原因に。シャワーなどで洗い流す程度が、最もよい。

足の裏に密集したエクリン腺からの汗を、雑菌が分解。脂質とも混ざり合い、悪臭が発生。

程よいゆとりがあり、通気性の高い靴を選ぶ。2日続けて、同じ靴を履かない。とりわけ冬は体が汗をかかないぶん、手足が汗をかきやすくなる。時々、靴内をアルコールで拭くなどして、靴内の雑菌を排除する。足も、アルコールの入ったウエットティッシュで拭いたり、汗を抑える足用スプレーを使う。

 

🇹🇷脱毛、薄毛

■脱毛のメカニズム

 なぜ、人間は髪の毛が抜け落ちて、ハゲや薄毛になるのでしょうか。ハゲることに関しては、「ホルモン悪人説」と「血統・遺伝説」という二大原因説があります。

●ホルモン悪人説とは

 性別を問わず、私たち人間の毛髪はさまざまホルモンの影響を受けていますが、ハゲや薄毛には男性ホルモンが深く関わっています。中でも、人間の毛髪に影響を及ぼす男性ホルモンは、「テストステロン」と「DHT(5α-デヒドロテストステロン)」の2種類で、とりわけDHTはハゲや薄毛の引き金となる怖いホルモンです。 

 DHTは、毛根鞘にある5α-リダクターゼという還元酵素によりテストステロンが変身したもので、頭髪以外の体毛には多毛化を促す反面、頭髪に対してだけは成長を抑制するため、結果的にハゲ・薄毛へと導くことになります。これが「ホルモン悪人説」です。 

 このDHTは皮脂腺活性も高進させる作用を有するため、ハゲの人は皮脂過多になりやすい状況にあります。そのため、頭髪の皮脂軽減が発毛の根幹のように宣伝される傾向がありますが、皮脂の取りすぎはリバウンドで、さらに脱毛を悪化させることもありますので、適度がよいでしょう。 

 「ホルモン悪人説」の元凶とされるDHT以外に、人間の毛髪に影響を及ぼすホルモンには次のようなものがあります。

人間の毛髪に影響を及ぼすホルモン

1. テストステロン(男性ホルモン)

 テストステロンは、筋肉の増強を促し、男らしい体付きをつくります。

2. エストロジェン(女性ホルモン)

 頭髪が成長し続ける期間を長くする作用があり、全体からみれば頭髪の成長にプラスに働いているといえます。男性の頭髪成長期よりも、女性のほうが時間的に長いため、女性は腰のあたりまで髪を伸ばすことが可能なのです。

3. サイロキシン(甲状腺ホルモン)

 休止期にある頭髪の成長開始(成長活動)を早くするように、促す役目を持っています。同じ頭部でも、側頭部や後頭部はこの支配を受けているため、ハゲにくいといえます。

4. コルチゾン(副賢皮質ホルモン)

 甲状腺ホルモンとは逆に、頭髪成長期の開始を遅くします。しかし、分泌が過剰になると、全身多毛ということになります。   


 このように頭髪にはいろいろなホルモンが複雑に関係し、毛の成長をコントロールしています。その中でも、脱毛、抜け毛、ハゲ、薄毛に大きく関わってくるのが男性ホルモンであることは、間違いのないところです。

●血統・遺伝説とは 

 若いうちからハゲてしまう若ハゲ(若年性脱毛症)は、遺伝性であることが非常に多く、それも家系の中で男性だけに現われる遺伝形式(伴性優性遺伝)で受け継がれていきます。男性型禿髪症の実に80%以上が遺伝性といわれるほどで、この場合もDHTに影響されやすい体質が受け継がれてしまうのです。これが「血統・遺伝説」です。 

 では、どのように血統が遺伝していくのでしょうか。私たちは両親から一個ずつの毛髪に関する遺伝子をもらいます。その遺伝子の組み合わせは、下の主な3つです。 

両親から受ける毛髪遺伝子の組み合わせ

 1. 正常な遺伝子と正常な遺伝子

 2. ハゲ・薄毛の遺伝子と正常な遺伝子

 3. ハゲ・薄毛の遺伝子とハゲ・薄毛の遺伝子

  男性は優性遺伝のため、ハゲ・薄毛の遺伝子が一つでもあればハゲてしまう確率は高くなります。

 その確率は次のとおりです。

遺伝子によってハゲる確率

 A. 父親にハゲ・薄毛の遺伝子が一つでもある→50%

 B. 母親にもハゲ・薄毛の遺伝子がある→75%

 これに比べて、両親ともに正常な遺伝子を持っていた場合、子供にハゲ・薄毛が現われることは、遺伝子学的にはありません。ただし、食生活や生活環境の乱れ、ストレスなどで薄毛になることもありますので、注意しましょう。 

 ちなみに女性にはハゲが少なく、あっても薄毛程度なのは、頭髪の成長にプラスに働く女性ホルモンが常に男性ホルモンより優位にあることのほかに、脱毛の仕方に違いがあるからです。

 毛は通常、一つの毛根から2〜3本が生えています。脱毛の時、女性はその中から1本だけが抜けますが、男性は一つの毛根から生えているすべての毛が一度に抜けてしまうのです。

■脱毛、薄毛を予防する3ポイント

 遺伝的要因を退治することは、不可能です。それでは、日常生活でできる中でハゲないためには、どうしたらよいのでしょうか。ポイントは、頭皮を清潔に保つことと、健康的な生活習慣を心掛けることにあります。 

ハゲを予防する3つのポイント

 1、効果的なシャンプー

 2、効果的な食事

 3、ストレスからの解放

●効果的なシャンプー

 毎日たくさんの脱毛に悩み、「シャンプー時には生きた心地がしない」という人は、意外に多いものです。だからといっても、頭皮を清潔に保つためにもシャンプーは欠かせません。

 脱毛の悩みのある人は、皮脂過剰でベタつきがちな頭皮の場合が多いのですが、使用するとスッとするミント感覚のシャンプーや、「フケ防止」とうたう硫黄分が配合されているシャンプーは、かえって頭皮を刺激しすぎる結果となり、リバウンド現象としてますます皮脂を出してフケを増やしてしまうことがあります。

 頭皮を保護するために最もお勧めできるのは、「ベビー用の低刺激性シャンプー」。頭皮を傷付けないように、毎日サッと洗うことです。もし、頭皮がパサついているようなら、シャンプー前にベビーオイルかオリーブオイルでマッサージしてから、髪を洗うようにしましょう。 

●効果的な食事

 ハゲ、薄毛によいというので、海藻類を多く食べるようにしたけれども、大した変化はみられなかった。こんな経験をお持ちの方も、少なくないと思います。その他にも、毛の成分であるタンパク質を多く取るのがよいという人もいます。

 確かに、海藻などは毛髪の質を良くする効果はあるでしょう。しかし、それを食べることが髪が生えるための重要なポイントであるとはいえません。

 より大切なことは、体の健康を保つための基本的な方法として、バランスのとれた食生活を心掛けることです。特に注意する点としては、皮脂が過剰にならないように、脂っこいものを食べすぎないようにすることです。

●ストレスからの解放

 大きすぎるストレスは、脱毛を促進させるだけでなく、心身全体に悪い影響をもたらします。そこで、毎日のリラックス法をいろいろと考えましょう。

 普通、人はストレスが高じるとイライラして髪をかきむしったり、食事、飲酒、喫煙などで発散させようとします。ところが、度がすぎると睡眠不足なども加わり、当然のように体や髪の健康に悪影響をもたらすことになります。

 暴飲暴食は頭皮の血行を悪くしてしまい、喫煙も毛細血管を縮めるので、やはり血行を害してしまいます。髪にうまく栄養が送られなくなれば、脱毛はますます進むことになります。

 また、いろいろな悩みで苦しんだりすると、精神だけでなく頭皮にも緊張が生まれ、血行が悪くなってしまいます。自分自身の心身を絶えずチェックして、ストレスを解消するように工夫し、体全体の代謝バランスを整えることが、髪にも必要なのです。

2022/08/26

🇵🇪帯状疱疹

■水ぼうそうウイルスが再活動

私たちが子供の頃によくかかる病気の一つに、水ぼうそう(水痘)があります。ウイルス性の病気である水ぼうそうは、一度発症して治ってしまうと一生感染しません。

ところが、その時のウイルスは死んでしまったのでなく、長い間、体の中の神経節に潜り込んでいたのです。このウイルスが、病気などで抵抗力が弱くなった時や疲れた時、あるいは年を取ったことにより再び活動を始めることがあります。これが、皮膚の病気「帯状疱疹(たいじょうほうしん)」です。

ただし、子供の頃に水ぼうそうにかかったといっても、必ずしも帯状疱疹になるわけではありません。10人に1〜2人の確率とされています。

■体の片側に出る帯状の水ぶくれ

帯状疱疹は神経の通っている部分に、それも体の左右どちらかに帯のように現れます。

初めはピリピリ、チクチクした痛みから始まり、しばらくするとその部分が帯状に赤くなり、やがて水ぶくれになって神経痛のような激しい痛みを伴います。

一番、多いのは、肋間(ろっかん)神経のある胸から背中にかけてです。顔面にある三叉(さんさ)神経に沿って現れる場合は、失明や顔面神経麻痺を伴うこともあるので、特に注意が必要です。この他、下腹部、腕、足、おしりの下などにも現れます。

痛みが始まってから水ぶくれが治るまでの期間は、通常、約3週間〜1カ月です。痛みは水ぶくれが治る頃に消えますが、治った後も長期間にわたって、しつこく痛むことがあります。こちらは「帯状疱疹後神経痛」と呼ばれ、高齢者に多いものです。

帯状疱疹の自覚症状は非常にわかりやすいものですから、帯状疱疹後神経痛にまで進行する前に、できるだけ早く皮膚科で診てもらうようにしましょう。

■体力が低下した時が要注意

加齢、病気、疲労、ストレスなどで体の抵抗力が落ち、おとなしかったウイルスが活動し始めることで、帯状疱疹は起こります。

完全に帯状疱疹を予防する方法はありませんが、日ごろから栄養と睡眠を十分にとり、適度に運動を行うなど、心身の健康に気を配って体力を低下させないことが、最も大切な予防法です。

■できるだけ初期に治療を

どんな病気でも同じですが、帯状疱疹にかかった場合も、できるだけ初期に治療を始めたほうが早く治ります。

帯状疱疹後神経痛は、ウイルスによって神経が破壊されることが原因と考えられています。従って、治癒に時間がかかるほど、また発症時の痛みが強いほど、帯状疱疹後神経痛に進みやすくなります。

帯状疱疹の治療では、原因療法として抗ウイルス剤、対症療法として消炎鎮痛剤が処方されています。

抗ウイルス剤は、ウイルスの増殖を阻止して治癒を早めます。神経がまだ破壊されていない初期の段階で使用すれば、帯状疱疹後神経痛の予防が期待できます。

また、痛みがひどい場合は、神経ブロックを行って痛みを止める治療法が有効です。

神経ブロックとは、局所麻酔剤を用いて、神経の流れを一時的に遮断する治療法です。この治療法によって血液循環がよくなるとともに、神経の緊張が和らぎ、その神経が支配している領域の痛みを止めることができるのです。

🇵🇪対称性壊疽

手足の指が変色し、しびれや痛みを感じる疾患

対称性壊疽(えそ)とは、寒冷刺激や精神的ストレスに反応して、手や足の指が真っ白になったり、青紫色になったりし、しびれ、冷感、痛みなどの症状を伴う疾患。レイノー病とも呼ばれます。

虚弱体質で比較的若い女性に多くみられ、左右対称に現れるのが特徴です。

冷たい水に触る、冷気に触れるなどの寒冷刺激、精神的ストレスなどを受けると、指の先の細い動脈が過敏に反応、収縮して血液が滞るために起こります。なぜ細い動脈に過敏な発作が生じるのかは不明ですが、交感神経や副交感神経中枢の異常によると考えられています。

こういうレイノー症状が、膠原(こうげん)病の人や、振動工具を使って作業をした人に起きることもあります。こちらはレイノー症候群といって、原因となる基礎疾患を持たない対称性壊疽と区別しています。

対称性壊疽の症状は秋から冬に多くみられ、突発的に手の指が真っ白になり、次いでチアノーゼのように青紫色に変色し、通常10〜30分の経過で肌色に戻って正常に回復します。中には、白い変色のみを示したり、しびれ、冷感、痛みを左右の手に示す場合もあります。進行すると、足の指や口唇などにも症状が現れるようになります。

重症な場合、指先の潰瘍(かいよう)や変形、組織が死ぬ壊疽を起こすことがまれにあります。

対称性壊疽の検査と診断と治療

内科の医師による診断では、症状から対称性壊疽(レイノー病)を考えます。次いで、血液検査や血管造影により、膠原病や血管疾患などの基礎疾患を除外するための検査を行います。冷水に手を入れる冷水誘発試験や指尖(しせん)容積脈波・サーモグラフィーを行うこともあります。皮膚の色調変化が左右対称に突然生じ、ほかに原因と考えられる疾患がない時に、対称性壊疽と確定します。

内科の医師による治療では、細い動脈に過敏な発作が生じる原因がわからないので、根本的な治療法はありません。薬物療法としては、さまざま種類の血管拡張剤を用います。重症の場合には、交感神経切除術が行われます。β(ベータ)遮断薬や経口避妊薬の使用は避けます。

発作時以外には臨床的な問題はありませんが、症状の繰り返しを避けて悪化させないようにするには、手袋や靴下などで手足の保温を心掛け、寒冷刺激を避けます。また、たばこ、香辛料、コーヒー、紅茶などの刺激物も控えます。精神的ストレスをためない注意も必要です。

一般的に予後は良好ながら、医師と相談しながら経過を追っていくことも必要です。当初は原因となる基礎疾患が不明であっても、数年後に膠原病などの疾患が明らかになることもあるからです。

2022/08/21

🇵🇰ターナー症候群

低身長を特徴とし、女性だけに起こる先天的な疾患

ターナー症候群とは、染色体異常のうちの性染色体異常の代表的な疾患で、女性にだけ起こる先天的な疾患。その最も大きな特徴は、背が低いことです。

他にも、首の回りの皮膚がたるんでいるためにひだができる翼状頸(よくじょうけい)、ひじから先の腕が外向きになる外反肘(がいはんちゅう)、乳房が大きくならない、初潮が来ないといった二次性徴欠如などの特徴があります。

ただ、症状にも個人差は大きく、例えば二次性徴に関して、中学生になっても性の発達が見られない女性が多い一方、ほぼ正常に二次性徴が現れるターナー症候群の女性もいます。中学生くらいまでは、低身長以外、あまり気になる症状がない女性も多くいます。また、合併症として、後天的に治療を要する症状が出てくる場合もあります。中耳炎、難聴、骨粗鬆(こつそしょう)症、糖尿病などがその例で、思春期年齢以降に起こることがあります。

ターナー症候群という疾患名は1938年、これを初めてきちんとまとめたアメリカの内科医ヘンリー・ターナーの名前に由来します。それから約20年後の1959年、染色体の検査が開発され、以後、ターナー症候群は染色体検査できちんと診断でき、幅広く見付けられるようになりました。しかし、この疾患は染色体異常が原因のため、今のところ疾患そのものを治す方法はありませんが、成長ホルモン治療で身長は改善し、二次性徴も女性ホルモン剤の使用で治療が可能です。

染色体は、体を作るすべての細胞の内部にあり、2つに分かれる細胞分裂の一定の時期のみ、色素で染めると棒状の形で確認できます。染色体には22対の常染色体と2対の性染色体とがあります。父親から22本の常染色体と1本の性染色体、母親から同じく22本の常染色体と1本の性染色体を受け継いで全部で46対の染色体を持つことになります。性染色体にはXとYという2つの種類があり、Xを2本持つ場合は女性に、XとYを1本ずつ持つ場合は男性になります。染色体は女性だと46XX、男性だと46XYということになります。

ターナー症候群の女性の場合の典型的な例は、45Xであり、Xが1つしかないものです。また、X染色体が2本あるのに先が欠けていたり、時には小さなY染色体の一部を持っていたり、46XXと45Xとが混ざり合っているモザイクを持つなど要因はさまざまです。

ターナー症候群の発生頻度は、1000~2000人に1人と推定されています。先天的な疾患の中では、かなり多いほうといえるでしょう。しかも、この染色体構造を持っていると圧倒的に流産の確率が上がりますので、受精卵の段階での発生数はかなりであろうと考えられます。

ターナー症候群の検査と診断と治療

早期発見が重要です。ターナー症候群という体質を正しく理解する時間的余裕が、本人と家族に得られます。背が低いのを少しでも高くしてほしいという女性に対して、よりよい治療成績も得られます。ターナー症候群における低身長症は成長速度が遅いわけですので、発見が遅れれば遅れるほど標準的な身長との差は開いて、せっかく治療しても取り戻すことが難しくなってきます。

また、低身長症の裏に重大な疾患が隠されていた場合、それを早い段階で見付けて、早く治療することが大事です。成長を促すホルモンを出す脳や甲状腺(せん)、あるいは栄養を体に活かす役割を担う心臓、腎(じん)臓、肝臓、消化器官そのものに異常がある場合は、一刻も早くその元凶を治していかなければなりません。

ターナー症候群の日本人女性は成長ホルモン治療を受けなかった場合、最終身長が平均139センチなので、治療希望の人には早期発見、早期治療は極端な低身長を防ぎ、最終身長を平均身長に近付ける上で効果が見られています。

ターナー症候群であることが確定すれば、そのすべての人に成長ホルモン治療が公費でできます。成長ホルモン治療の方法は、自己注射方法で、家庭で注射を行います。そのため、医師の適切な指示により注射をすることが必要です。年齢に応じ、夜寝る前に毎日、あるいは2日に1回注射をします。小さいうちは、親などが注射をし、自分でできるようになれば本人が行います。注射針はとても細く、痛みは少ないので心配ありません。

成長ホルモン注射は基本的に、最終身長に達するまで続けることが必要です。具体的には、年間成長率が1センチになった時か、手のレントゲンで骨端線が閉じる時まで、すなわち15〜16歳ころまで続けることになります。しかし、思春期の早い遅い、性腺刺激ホルモン分泌不全の有無によって治療期間が異なり、20歳を過ぎることもあります。身長の伸びの程度もさまざまな条件が関係してきますが、一般的にホルモン不足が重症なほど成長率も高いといえます。

成長ホルモン治療ではまれに、副作用がみられることもあります。注射した場所の皮膚が赤くなったり、かゆくなったり、注射部位がへこむこともあります。同じ場所ばかりに注射するのでなく、毎回注射する場所を変えることが重要です。 身長が伸びるのに伴って、関節が痛むこともあります。多くはいわゆる成長痛で、一時的なもので心配いりません。しかし、股関節の痛みが強い時や長時間続く時は、大腿骨(だいたいこつ)骨頭すべり症なども疑う必要があります。

一時期、成長ホルモン治療と白血病発症との関連性が心配されましたが、現在ではその関連性は否定されています。 原則として安全な治療薬ですが、治療中はもちろん、治療後も定期的に検査を行うなど、副作用がないかを専門医で調べる必要があります。

🇦🇫第一ケーラー病

足の中央部にある舟状骨が変形して、痛みが生じる子供の疾患

第一ケーラー病とは、足の中央部にある舟状骨が変形して、痛みを生じる疾患。幼児、小児期にみられ、特に4歳から7歳くらいの男児に多くみられます。

1908年に、ドイツのケーラーによって初めて報告されました。持続的な負荷がかかるなど何らかの原因で、舟状骨への血行障害が生じると、骨自体の組織が壊死(えし)するために変形して、偏平化します。両足に発生する例が約3分の1にみられ、症状に左右差があることも多くみられます。急性に発症することはまれで、慢性に経過することが多い傾向にあります。

土踏まずに痛みが生じ、はれることもあります。そのため、足の外側に体重を掛けて歩くために歩き方がおかしい、歩きたがらないといった症状を示します。しかし、足の形は正常で、関節の動きは障害されませんが、足首の内返しによって痛みを訴えることもあります。

多くの例では、1~2年後に自然経過で元の通りに戻ります。舟状骨が足の骨の中でも重要な役割を持っているため、歩行障害を生じることもあります。

成長期の子供に足の痛みの訴えがある場合は、小児整形外科を受診し適切な治療や経過観察を受けるべきです。

医師による診断では、X線写真を撮ると舟状骨の偏平化が見られます。リウマチ性疾患、捻挫(ねんざ)、骨髄炎との鑑別が必要ですが、X線像から区別は容易です。

治療では、軽度の場合、中足部にパッドを着けた厚い中敷きを作って靴に入れ、舟状骨、土踏まずへの体重負荷を減らして痛みを軽くし、他の疾患がないか時々X線写真で確認します。室内では自由に歩行して差し支えありませんが、激しい運動や、長距離の歩行などは控えめにします。

一般に予後は良好で、数カ月から数年で痛みもX線写真上の変化も消え、後遺症は残りません。万一、痛みが残った場合には別の疾患を考える必要があります。

痛みが強い場合、歩行用ギプスで3~6週間安静を保ちます。その後は軽度の場合と同様、靴の中敷きを用います。

🇦🇫第1中手骨基底部骨折

母指の中手骨の根元にある母指CM関節で関節内骨折が起こり、脱臼も生じる外傷

第1中手骨(ちゅうしゅこつ)基底部骨折とは、母指(親指)の先端部から根元に向かって強い力が加わったことにより、母指の中手骨の根元にある母指CM関節で関節内骨折が起こり、脱臼(だっきゅう)も生じる外傷。ベネット骨折、母指CM関節脱臼骨折とも呼ばれます。

ボクシングやけんかでパンチを出して自らの母指の先端部に衝撃が加わった時や、野球でボールが母指の先端部に当たった時、スキーでストックを握った状態で手を突いた時、自転車やバイクのハンドルを握ったまま転倒して母指の根元を打撲した時などに発生します。

母指CM関節は第1手根中手骨関節とも呼ばれ、母指の手前の甲の骨である第1中手骨と、母指の手根骨で手首にある第1手根骨(大菱形骨〔だいりょうけいこつ〕)の間にある関節で、母指が他の指と向き合って、物をつまんだり、握ったりなどの動作をする上で、大きな働きを担っています。

第1中手骨基底部骨折が発生すると、関節周辺に、はれや痛みが起こり、母指を動かしにくくなります。さらに、第1中手骨の根元に連結する筋肉である長母指外転筋が、母指を手首の方向に引っ張るので、第1中手骨の根元が外側に脱臼してきて、母指が変形してきます。

適切に治療せずにほうっておくと、脱臼を繰り返したり、関節の変形を生じたり、不安定性が残って痛みの原因となることがあります。けがで母指の根元に、はれや痛みが起こったら、早めに整形外科、ないし手の外科を受診することが勧められます。

第1中手骨基底部骨折の検査と診断と治療

整形外科、ないし手の外科の医師による診断では、症状から第1中手骨基底部骨折と判断し、X線(レントゲン)検査を行って確認します。

整形外科、ないし手の外科の医師による治療では、手で徒手整復して骨を元の位置に戻し、整復した状態が維持できる場合は、母指(親指)と示指(人差し指)を離した格好でギプス固定を施します。ギプス固定期間は、約4~5週間となります。

痛みに対しては、消炎鎮痛剤の内服、ステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン)の関節内注射を行います。

整復した状態が維持できず、骨折部がずれたり、関節内の骨片が安定しない場合は、鋼線と呼ばれる金属で骨を固定する手術か、金属のネジで骨を固定する手術を行います。その後、ギプス固定を施し、骨折が治癒した後に固定具の鋼線、ネジを除去します。

>痛みが強く、脱臼、亜脱臼を伴う高度な関節の変形が見られる場合には、第1手根骨(大菱形骨)の一部を取り除いて関節を作り直す関節形成術、関節を動かないように固定する関節固定術、人工関節を使う人工関節置換術などの手術を行います。

🇦🇫大血管転位症

大動脈が右心室から、肺動脈が左心室から出ている疾患

大血管転位症とは、正常の人とは反対に、右心室から大動脈、左心室から肺動脈が出ているもの。生まれ付き大血管の位置関係が反対、すなわち転位になっている先天性心臓病です。

この疾患には、完全大血管転位症と修正大血管転位症の2種類があります。右心房と右心室がつながり、左心房と左心室がつながっているのが完全大血管転位症、右心房と左心室がつながり、左心房と右心室がつながっているのが修正大血管転位症です。

完全大血管転位症は、新生児期にチアノ-ゼを来す先天性心臓病の中では最も多いものです。極めて重症の心臓病であり、心室中隔欠損や心房中隔欠損がなければ、あるいは動脈管が開いていなければ、全身に酸素を含んだ血液を送ることが不可能で生きていられないため、1950年代までは助ける手段がありませんでした。動脈管を開存させるプロスタグランディンという薬の登場と、心臓外科の進歩により、治療成績は飛躍的に向上し、今日では90パーセントを超える救命率に達しています。

合併している心臓病の有無により、症状、経過は異なります。心室中隔欠損を合併していないものでは、生まれた直後からチアノ-ゼを認め、以後進行します。心室中隔欠損を合併しているものでは、チアノ-ゼは軽度ながら、泣いた時などに顕著に現れます。生後3週間から6週間で、多呼吸、頻脈、多汗などの心不全症状が明らかとなります。心室中隔欠損と肺動脈狭窄(きょうさく)を合併しているものでは、症状と経過はファロ-四徴症に類似し、肺動脈狭窄の強いものはチアノ-ゼもより高度になります。手術治療を受けなければ、生後1年以内に90パーセントは死亡します。

一方、修正大血管転位症は比較的まれな疾患であり、左右の心房と心室の関係が入れ替わり、さらに心室と出口の大血管の関係が入れ替わっているために、血液の流れが大静脈→右心房→左心室→肺動脈→肺静脈→左心房→右心室→大動脈→大静脈となっています。体から戻ってきた静脈血が肺へ送られ、肺から戻ってきた動脈血が全身に送られて、血液の流れは修正されているため、修正大血管転位症と呼ばれるのです。

血流からは大きな異常がなく、正常に過ごすことも可能ですが、この修正大血管転位症でも、多くの例で心室中隔や心房中隔の欠損症や不整脈を伴い、それにより重症度に差があります。生後1カ月以内に心不全症状を来すものから、80歳まで天寿を全うするものまで、症状、経過は個々の症例によりさまざまです。

心室中隔欠損を合併し、肺動脈狭窄がないものは、症状出現が早く、乳児期早期に心不全症状を起こします。右心室の入り口の弁である三尖(さんせん)弁閉鎖不全を来すものは、幼児期以降に運動時の息切れを起こします。心室中隔欠損と肺動脈狭窄を合併するものは、チアノ-ゼを起こします。心室中隔欠損や肺動脈狭窄の合併のないものでは、成人期まで症状もなく経過し、健康診断での心電図異常で判明したり、房室ブロックなどで不整脈から息切れや意識消失発作を来たして見付かる場合もあります。

大血管転位症の検査と診断と治療

完全大血管転位症では、心臓超音波検査で診断が確定します。さらに、心臓カテーテル検査を行い、心臓を養う血管である冠動脈の走行、心室中隔欠損の有無や位置などを確認し、治療方針、手術方法が検討されます。また、心臓カテーテル検査に際しては、心房中隔欠損を通じる血流交通が十分かどうかも調べ、場合によっては、風船カテーテルを用いて左右の心房間の交通を広げる、バス(BAS:Balloon Atrial Septostomy )治療を行って、チアノ-ゼの改善を図ります。

修正大血管転位症では、健康診断で通常行われる診断聴診所見、胸部X線検査、心電図といった検査で疑われた場合、循環器を専門にしている医療機関で心臓超音波検査を受ければ確定診断がつきます。いろいろな不整脈を合併していることが多いため、24時間心電図や負荷心電図なども必要。手術治療が考慮される場合には、心臓カテーテル検査でさらに詳しく冠動脈、三尖弁、肺動脈弁の形態や他の合併疾患を調べることがあります。

完全大血管転位症の治療では、まず動脈管の開存を維持するプロスタグランディンの点滴投与を行って、肺への血流を維持します。上記のように、心臓カテーテル検査に際してバス治療を行って、チアノ-ゼの改善を図る場合もあります。

外科治療では、肺動脈狭窄がない場合、入れ替わっている大血管を元に戻す手術である大動脈スイッチ手術(ジャテネ手術、ジャテーン手術)が第一選択になります。この手術に際しては、単に出口の血管を入れ替えるだけでなく、大動脈の根元近くから出ている冠動脈を移植する必要があります。乳児期以降には、心房内血流転換手術(マスタード手術、セニング手術)を行う場合もまれにあります。

肺動脈狭窄を伴っていて、大動脈スイッチ手術が適さない場合には、体肺動脈短絡術などを行って肺への血流を増やした後に、3~5歳で肺動脈の再建を伴うラステリ手術が行われます。ラステリ手術は、動脈血を心室内導管を通して大動脈に、静脈血を心外導管を通して肺動脈に流すものです。

手術直後は、人工心肺の影響などから、強心剤や利尿剤を投与します。一時的に肺高血圧の悪化を生じる場合もあり、注意が必要です。長期的には、多くの場合は正常児に近い発育が見込まれますが、手術後に肺動脈狭窄、大動脈弁逆流、不整脈などを起こすことがあり、定期的なフォローアップが必要です。

修正大血管転位症の治療においても、合併する心臓病によって手術が必要な場合があります。特に、小児期にチアノ-ゼ、心不全を生じる場合は手術により、その後の発育、生活の質の改善が見込まれます。症例によっては、大動脈スイッチ手術と心房内血流転換手術を組み合わせたダブルスイッチ手術を行うことで、より長期に良好な心機能が期待できる場合もあります。

成人期の心不全症状に対しては内科的治療が第一となりますが、三尖弁逆流が進行してきた場合は外科治療も考慮されます。また、完全房室ブロックで徐脈による運動時の息切れ、意識消失発作などの既往があれば、ペースメーカー治療が考慮されます。動悸(どうき)発作など脈が速くなる頻脈性不整脈には、抗不整脈薬やカテーテル治療が考慮されます。

🇮🇷第5中足骨基部骨折

足の甲の部分に位置する第5中足骨の足首に近い基部に起こる骨折

第5中足骨(ちゅうそくこつ)基部骨折とは、足の第5趾(し)(小指)の根元、足の甲の部分に位置する長い骨である第5中足骨の足首に近い基部に起こる骨折。

第5中足骨基部はよく骨折を起こす部分で、骨折しても歩けることも多く、足首をひねった捻挫(ねんざ)と同じ形で受傷するので捻挫と思われがちですが、痛みのある部分や、はれのある部分が違いますので、よく観察すると区別が付きます。

骨折による症状は、足の甲の外側や小指の付け根の痛み、はれ、押すと痛む圧痛、歩行障害です。

骨折を起こす部分により、下駄(げた)履き骨折とジョーンズ骨折に、第5中足骨基部骨折は大きく分けられます。2つの骨折部の違いはわずか1センチほどですが、治療法や予後は大きく異なります。

下駄履き骨折は、ジョーンズ骨折より足首に近い基部での骨折で、かつて高下駄(げた)を履いている時に足をひねるとよく生じていました。現在は下駄を履く機会があまりありませんので、なくなったかというとそうではありません。下駄は履かなくても、裸足やサンダル履きの時、普通の靴を履いている時にも足をひねると発生することがあります。特に、厚底靴やハイヒールを履いている時は要注意です。

しかし、骨折に至っても、周辺に靭帯(じんたい)や腱(けん)が残存していて骨片の動きが少ないため、ある程度以上ずれることはあまりありません。比較的よく治り、ギプスがいらないこともあります。骨癒合しないこともありますが、動きがほとんどないため、関節部ではないのに関節のようになる偽関節になっても、症状を来すことはほとんどないとされます。

一方、発見者の名前に由来して称されるジョーンズ骨折は、下駄履き骨折より小指に近い第5中足骨基部での骨折で、前足部でみられる骨折の中でも難治性であるといわれています。サッカーやラグビーなど、カットプレーやステップターン、サイドステップやスワーブを行うスポーツをする人によくみられます。

つま先立ちの姿勢で足をひねり、一回の外力でこのジョーンズ骨折が生じる場合もありますが、一般には疲労骨折であると考えられています。カットプレーやステップターンなどで足の外側に体重がかかり、それを繰り返すことによって、第5中足骨基部にストレスがかかり、折れてしまうと考えられています。

中足骨は真っすぐな骨ではなく、丸くアーチ状になっていて、第5中足骨基部には3方向のストレスが常にかかります。最も足の外側にあるために地面からの力を直接受けやすいという条件下にあり、カット動作などを行う時、アーチがたわみ、ストレスがさらにかかり、針金が何度も曲げられると折れてしまうように、骨が疲労骨折してしまいます。

偏平足の人やアキレス腱の硬い人などがジョーンズ骨折を生じやすいといわれていますが、擦り減ったシューズを長年使用していたり、床が硬いところでプレーを続けることでも生じます。

疲労骨折は症状が急激に現れるのではなく、少しずつ痛みが慢性化していき、発生当初はレントゲンにも映らないため、痛みがあるままスポーツを続ける人も多くなってしまいます。

痛みがあるままプレーをすることで、疲労骨折が完全骨折になってしまったり、偽関節になってしまうこともあるので、痛みが続く場合は原因となるスポーツをしばらく休むことが必要です。

また、疲労骨折の場合は癒合に時間がかかる上、ジョーンズ骨折が生じる部分は血行が他の部分に比べて少ないので、骨が癒合しにくく、治りにくくなります。

第5中足骨基部骨折の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、第5趾の中足骨の根元に明らかな圧痛を認め、内反ストレス(内返し)を加えると激痛を生じます。レントゲン検査の前後像と斜位像の2方向撮影で、確定診断されます。

しかし、ずれ(転位)のないケースでは、受傷した足部の状態を再現したストレスレントゲン撮影を行わないと、骨折が発見できないことがあります。従って、自覚症状と診察所見で第5中足骨基部骨折が疑われる場合は、必ずストレスレントゲン撮影を行うことが大切です。

整形外科の医師による治療では、下駄履き骨折の場合、骨折部のずれが少ないか亀裂(きれつ)骨折であるため、実際に手術の対象となる場合はまれです。ずれがなく痛みやはれが少ない場合は、湿布と弾力包帯だけを使用することもあります。厳重に固定をしなくても、骨折部の骨膜や靭帯の連続性が保たれているため、骨折部のずれが大きくなることはほとんどありません。

骨折の状態によって、ギプス療法や装具療法で経過観察します。ギプス装着の期間は1~4週間と状態によって異なり、また、取り外しができる足部だけの簡単なシーネなどで固定することもあります。 シーネやギプスをしない場合の注意事項は、痛みの出る動作を極力しないことです。一般的には、痛みがほぼなくなるには約1カ月、はれがなくなるには2~3カ月を要します。

ずれが著明なケースでは、経皮的骨接合術や内固定術などの骨接合術を検討します。

ジョーンズ骨折の場合、骨癒合が悪い部分であるため、保存治療を行っても治りにくい場合には、骨接合術を行うことがあります。

骨癒合や症状の状況に応じて、ストレッチング、筋力増強訓練なども行われます。治療後にサッカーやラグビーなどのスポーツを続ける人には、外側縦アーチを守るため、足底板をシューズに入れることを勧めることもあります。アーチを支える構造になっている足底板は、外側縦アーチにかかるストレスを小さくすることができます。足全体で体重を支えることを目的として、親指側にも足底板を追加することもあります。

🇮🇷第五病(伝染性紅斑)

ほおがリンゴのように真っ赤になるウイルス感染症

第五病とは、ほおがリンゴのように真っ赤になるウイルス感染症。伝染性紅斑(こうはん)、リンゴ病とも呼ばれます。

第一病が麻疹(ましん、はしか)、第二病が猩紅(しょうこう)熱、第三病が風疹(ふうしん、三日ばしか)、これらに似た赤い発疹が現れるものの実体がはっきりしない疾患が第四病というような分類が以前からあり、比較的最近認識された伝染性紅斑は五番目の赤い発疹が現れる疾患というわけで、第五病とされています。なお、第六病は、突発性発疹です。

また、日本においては、第五病(伝染性紅斑)は、感染症法での五類の小児科定点把握疾患であり、全国約3000の小児科定点医療機関で患者発生が把握されています。

第五病は、ヒトパルボウイルスB19(パルボウイルスB19)という大きさが20ナノ・メーターと小さなウイルスの感染によって、幼児から学童に多く発症します。年齢を重ねるとともに発生は減少する一方、20歳以上の大人の発生も少ないながらあります。

季節的には、春から初夏にかけて流行することが多いようで、限られた地域や集団の中での流行となるケースが多くみられます。感染力はそれほど強くなく、のどの分泌物の飛沫(ひまつ)によって、気道から主に感染し、ヒトパルボウイルスB19は骨髄の赤芽球前駆細胞で増殖します。その後、抗体が作られるとウイルス血症は消退し、発疹が出ます。

10~14日の潜伏期間を経て、両側のほおの赤い発疹から始まるのが普通です。1~2日後には肩から腕、太ももに赤い発疹が出現し、数日後にはまだらなレース編み模様になります。この発疹は、腕の露出した部分に最も強く現れて、手のひらや足の裏にはほとんど現れません。発疹がかゆいこともあります。

微熱や気分の不快、あるいは風邪の症状が、発疹が現れる2、3日前に出ることもあります。子供は通常、それほど具合は悪くなく、発疹は7〜10日で消えます。

ただし、数週間たってから、日光や運動、熱や発熱、精神的なストレスなどを切っ掛けに、いったん消失した発疹が再燃する場合もあります。

病原体であるヒトパルボウイルスB19に対して免疫を持っていない成人が第五病にかかった場合には、全く症状が出ないこともありますが、第五病の典型的な発疹が出たり、手や腕、膝(ひざ)、腰の関節のはれ、痛みが出ることもあります。関節のはれ、痛みは、通常1、2週間で治まりますが、数カ月続く場合もあります。

通常は軽度な疾患ですが、妊婦がヒトパルボウイルスB19に感染すると、重大な合併症が起きる可能性があります。風疹と同様に、第五病ではヒトパルボウイルスB19は胎盤を通過して胎児に感染を起こし、流産や死産、胎児の皮膚のむくみと貧血などを生じる胎児水腫(すいしゅ)を起こすことがあります。特に妊娠初期と中期の感染が危険で、妊娠前期の感染による胎児死は10パーセント未満に上ります。

子供の第五病では、ほおが赤くなった時はすでに感染する時期をすぎているので、学校や保育所に行ってもかまいません。ヒトパルボウイルスB19に感染した子供は、発疹が現れる前の初期の段階で、感染源となり得るからです。

あまりにも真っ赤なほおの時、かゆみが強くなった時、高い熱が出た時、元気がなくなってきた時なら、2~3日休ませ、内科、小児科の医師の診察を受けたほうが無難でしょう。

第五病(伝染性紅斑)の検査と診断と治療

内科、小児科の医師による診断は通常、第五病(伝染性紅斑)の流行状況、学童の感染が多いこと、両側のほおの赤い発疹が認められれば困難ではなく、検査を行うことはありません。多形滲出(しんしゅつ)性紅斑、じんま疹、薬疹など、斑状丘疹性疾患との区別を要することがあります。

確定診断のために、血清中の抗B19抗体(IgMおよびIgG抗体)の測定、または血清中のB19抗原もしくはウイルスDNAの検出を行うこともあります。ウイルス血症時に血液検査を行った場合、網状赤血球、好中球、血小板、ヘモグロビンなどの減少がみられますが、これらの値は発疹が出た時期には回復していることが多くなっています。

内科、小児科の医師による治療では、ヒトパルボウイルスB19の特効薬はないため、必要に応じて対症療法を行います。かゆみが強い時は、抗ヒスタミン剤を処方します。年長児~成人で膝や腰に発生することがある関節痛に対しては、鎮痛剤が使われることがあります。

子供では、特別な治療を受けなくても、時期がくれば自然に治り、予後は良好です。

予防法としては、手によってウイルスを運んでしまうケースもあるので、よく手を洗うことが有効です。第五病に対するワクチン(予防接種)は、ありません。

🇮🇷体質性黄疸

遺伝的体質により、生まれながらにしてビリルビンが体内から排出されにくいために黄疸を生じる疾患

体質性黄疸(おうだん)とは、遺伝的体質により、生まれながらにしてビリルビン(胆汁色素)が体内から排出されにくいために、黄疸を生じる疾患。

血液の赤血球の中には、ヘモグロビン(血色素)という物質が含まれています。ヘモグロビンは酸素を運ぶ役割を担っているのですが、寿命を120日とする赤血球が古くなって壊される際に、ヘモグロビンが分解される過程でビリルビンが作られます。

本来、脾臓(ひぞう)などで作られたビリルビンは血液に入って肝臓に運ばれ、肝臓で生成される消化液である胆汁の中へ排出され、その胆汁の成分として胆道を通って小腸の一部である十二指腸の中に排出され、最終的には便と一緒に体外へ排出されます。便の黄色は、このビリルビンの色です。

ビリルビンが体内で異常に増え、体内に一定量以上残った場合は、組織に蓄積するために皮膚などが黄色くなり、これを黄疸といいます。

従って、赤血球や肝臓の細胞が急に壊された時や、胆道が結石や悪性腫瘍(しゅよう)などで閉塞(へいそく)した時などに、黄疸はよく現れます。しかし、このような疾患がないにもかかわらず、しばしば黄疸を認める場合は体質性黄疸が疑われ、その原因はビリルビンの肝臓の細胞の中への取り込みや、十二指腸の中への排出がほかの人より行われにくいという遺伝的なものと見なされます。

この体質性黄疸は、クリグラー・ナジャール症候群、ジルベール症候群、デュビン・ジョンソン症候群、ローター症候群の4つに分類されます。クリグラー・ナジャー症候群は重い疾患で治療が必要ですが、ほかの3つの症候群は体調が崩れた時に黄疸が生じる程度で、ほとんど治療の必要はありません。

クリグラー・ナジャール症候群が新生児期から発症して黄疸を来すのに対して、ほかの3つの症候群では思春期以降の発症になります。

クリグラー・ナジャール症候群では、脂溶性で細胞毒性の強い間接型ビリルビンが優位となり、ジルベール症候群でも、間接型ビリルビンが優位となり、思春期以降に発症します。これとは反対に、デュビン・ジョンソン症候群とローター症候群では、水溶性で細胞毒性の弱い直接型ビリルビンが優位となり、いずれも発症は思春期以降です。

クリグラー・ナジャール症候群は、細胞毒性の強い間接型ビリルビンを細胞毒性の弱い直接型ビリルビンに変換する唯一の酵素の活性が低下しているため、間接型ビリルビン優位の高ビリルビン血症を示すことが特徴です。

このクリグラー・ナジャール症候群には、変換酵素の活性が完全に欠けているため、生後まもなくから長引く核黄疸、もしくはビリルビン脳症と呼ばれる状態を示す生命予後の不良な重症型と、酵素の活性は正常の10パーセント未満を示すものの、問題なく成長し、黄疸以外の症状は認められない軽症型があります。

いずれの型も家族性に発症し、遺伝形式は常染色体劣性とされていますが、軽症型の中には、常染色体優性遺伝の形式をとるものもあります。

活性がゼロの場合には、高度の新生児黄疸を来してビリルビンが脳細胞まで侵すことがあり、後遺症を残したり、幼児期のうちに死亡してしまうこともあります。

ジルベール症候群は、体質性黄疸の中で最も多くみられるのもので、100人に3人くらいにみられます。肝臓の細胞による間接型ビリルビンの取り込みから、直接型ビリルビンに変換するまでのいずれかの部位の障害が原因で発症します。

常染色体優性遺伝の形式を示す頻度が高いものの、原因が単一でないため遺伝形式もさまざまです。黄疸の程度は軽度にとどまり、日常生活に何ら支障はありません。

デュビン・ジョンソン症候群は、肝臓が色素の沈着により特徴的な黒色を示し、ローター症候群は、肝臓の色素沈着はありません。両症候群とも、黄疸以外にはほとんど症状はなく、日常生活に何ら支障はありません。

体質性黄疸の検査と診断と治療

小児科、内科、消化器科の医師による診断では、主に問診と画像検査を行います。問診では、体質性黄疸を患っている家族の有無、過去の黄疸歴・手術歴・輸血歴などの有無、黄疸に伴う意識障害や貧血などほかの症状とその発症時期、尿便の色、皮膚の掻痒(そうよう)感、全身状態など細かく調べます。

問診でわからなかった場合に、画像検査を行います。主に超音波(エコー)検査が行われ、これによって確定します。

クリグラー・ナジャール症候群の診断では、血清中の間接型ビリルビン値の上昇、および胆汁中の直接型ビリルビン値の低下により判断します。重症型と軽症型の区別には、フェノバルビタールという薬剤を投与し、間接型ビリルビンを直接型ビリルビンに変換する酵素の有無を調べる方法があり、酵素の活性が残っている場合には活性の上昇が認められます。

小児科、内科、消化器科の医師による治療では、ほとんどの体質性黄疸の場合、黄疸の程度は軽度なことが多く、日常生活に支障がないので治療はしません。ただ、体調が優れない時に黄疸が濃く出る場合があるので、ストレスのかからない生活を心掛けてもらいます。

美容的な観点から黄疸を軽くしたい時には、フェノバルビタールの内服が有用ですが、原則はあくまで無治療です。

クリグラー・ナジャール症候群の重症型では、間接型ビリルビン値を下げるために、光エネルギーでビリルビンをサイクロビリルビンに変化させて排出させる光線療法を行ったり、ビリルビン合成を抑えるための薬剤、便への排出を促すための薬剤を投与します。しかし、成長とともにこれらの治療効果が低下し、最終的には肝移植療法が必要になります。軽症型では、フェノバルビタールの投与が有効です。

🇮🇶退職うつ病

会社を定年退職後に、抑うつ気分に陥り日常生活に支障が出る状態

退職うつ病とは、今まで勤めてきた会社を定年退職後に、抑うつ気分などの、うつ病の症状が現れ、日常生活に支障が出てくるようになった状態。定年退職うつ病、退職症候群、定年症候群などとも呼ばれます。

うつ病は、気分障害の一種であり、抑うつ気分や不安、焦燥、精神活動の低下、食欲低下、不眠症などを特徴とする精神疾患。一般に、うつ病を発症しやすい年齢は25歳から35歳ですが、何歳からでも起こる可能性があり、退職や転居といった人生の節目、生活の大きな変化で起こる場合もあるのです。

退職うつ病は、定年退職後になるばかりでなく、定年の数年前から退職後の年金生活などに不安を感じて、抑うつ的になってしまう人もいます。退職うつ病を発症しやすいタイプは、学校を卒業してからずっと同じ会社に勤め、仕事中心にひたすら頑張ってきた会社人間の人です。40年前後働き続けて定年退職を迎えると、自分の人生の中心であった仕事を失い、何をしてよいのやら途方に暮れてしまいます。また、会社を辞めるということは、愛着を持ってきた仕事、地位や肩書き、所属していた集団、経済的基盤といったものを失い、さまざまな喪失感を伴うものです。

特に、現代社会では寿命が長くなり、60歳代もまだまだ働ける年齢です。多少の衰えは感じていても、自分としては十分働く気がある時期に会社を辞めなくてはならないというのは、社会から必要とされていないように思ってしまい、必要以上に自分を過小評価したり、劣等感にさいなまれたり、むなしさ、寂しさを感じたりもします。それとともに、家庭では主(あるじ)としての地位が揺らいでいることを感じ、プライドさえも打ち砕かれます。

同時に、これまでの生活リズムが一気に大きく変化し、行動範囲が会社から地域へと変化します。出勤する必要がなくなった長い一日をどのように過ごしたらよいか、わからなくなってしまい、気分が沈み込んで何かをする気力がなくなったり、回りのことに興味が持てなくなって人生が味気なく感じられるようになります。意欲減退、無気力、無感動のほか、頭が重い、めまいがする、胃の調子が悪い、疲れやすいなどの身体症状が現れたり、記憶力が衰えるというようなこともあります。

そのような状態が長く続くと、食欲も低下し、睡眠障害なども起こって、日常生活に支障が出てくるようになります。最悪の場合は、自分を責め、自殺を図ることさえあります。

うつ病の原因は十分にわかっていませんが、脳内の神経伝達の一部が一時的に悪くなって、情報(刺激)の伝わり方が部分的に悪くなっているのではないかと考えられています。だから、うつ病の人がやる気をなくしてぐったりしているのは、決して怠けているわけではないのです。脳、あるいは神経という臓器が一時的に不調になっていると考えたほうが、わかりやすいかもしれません。

退職うつ病の症状がみられたら、早期に発見して治療を受けるようにしましょう。うつ病と診断された場合は、抗うつ薬による薬物療法がメインに行われます。SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と呼ばれる抗うつ薬を中心に、気分を安定させる気分安定薬や抗精神病薬、不安や不眠を改善する抗不安薬や睡眠薬など、さまざまなものが選択されます。

薬を服用することで、落ち込みやイライラが改善され、気分が安定して楽になりますが、3カ月から6カ月、1年くらいの時間がかかります。風邪の熱が解熱剤で翌日には下がったというような治り方はせず、一進一退で、調子が悪くなったり調子がよくなったりという状態を繰り返しながら、次第に軽快していき、ある日気付いてみたら、全く元通りの健康な状態になっていたというような経過をたどります。

調子がよくなったり、副作用が出たりからといって自己判断で薬の服用を中止すると、うつ病が再発することもあるので、注意が必要です。医師と相談しながら、根気よく治すことが大切です。

なお、周囲の人が励ますとかえって本人が重荷に感じ、症状が悪化することもあるので、ストレスを与えないような気配りが必要です。

退職うつ病を予防するには、早めに定年後の第二の人生の計画を立て、その準備をしておくことです。定年前から、仕事以外に熱中できる趣味などを持つようにしましょう。また、休日は家族と一緒にどこかへ出掛けるなど、家庭でのコミュニケーションを増やし、自分の居場所を作っておきましょう。趣味のサークル、地域の行事などに積極的に参加し、会社や家庭以外の人間関係も築いておくのもよいでしょう。

何よりも定年退職後の人生を明るく前向きにとらえ、「これからは、今までやりたくてもやれなかったことをやる」というような考え方をすれば、うつ病とは無縁な第二の人生が送れるでしょう。

🇮🇶大前庭腺炎

膣の入り口付近に位置する左右一対の大前庭腺に、細菌が侵入して炎症が起こる疾患

大前庭腺炎(だいぜんていせんえん)とは、膣(ちつ)の入り口付近に位置する左右一対の分泌腺に、細菌が侵入し、その細菌に感染することが原因で炎症が起こる疾患。バルトリン腺炎とも呼ばれます。

大前庭腺は、バルトリン腺とも呼ばれ、女性が性的興奮を起こした時に、性行為を滑らかにする薄い乳白色の粘液を分泌する働きがあります。男性の尿道球腺、あるいはカウパー腺、クーパー腺とも呼ばれる分泌線に相当します。

大前庭腺の存在について最初に記述されたのは17世紀で、デンマークの解剖学者キャスパー・バルトリン(1655年〜1738年)によります。

その粘液の排出管である大前庭腺は、長さ約2センチのスポイトのような袋で、腟の入り口の横、小陰唇の下端にある腟前庭に開口しています。

エンドウ豆ほどの大きさの大前庭腺の開口部から、ブドウ球菌、淋菌(りんきん)、クラミジア・トラコマーティス、あるいは腸内細菌のバクテロイデスや大腸菌などが侵入し、それらの細菌に感染すると、急性期には排出管に炎症が起こり、開口部が発赤して、はれ、痛み、違和感が現れます。時には、小陰唇の外側、大陰唇にまで、発赤、はれ、痛みが現れます。

大前庭腺炎による炎症が治まった後に、開口部の閉鎖が起こると、本来は外に分泌される粘液が排出管内部にたまり、拡大して嚢胞(のうほう)を形成します。嚢胞は液体を満たした袋を意味し、これを大前庭腺嚢胞といいます。

多くは大前庭腺の片側だけに形成され、小さい際には気が付かないこともあります。次第に大きくなって、嚢胞がクルミ大ないし鶏卵大などさまざまな大きさになると、膣の入り口付近の時計に例えると5時または7時の位置に、紙でふいた際に丸いものが手に触れるようになってきます。

歩行時や性交時に軽い痛みが生じることもありますが、細菌感染を伴っていなければ無痛性のことも多く、また自然に開口部が再び開いて、排出管内部にたまった粘液が流れ出して、嚢胞が縮小してしまうこともあります。

一方、大前庭腺嚢胞内に細菌感染が起きると、うみが排出管内部にたまって、膿瘍(のうよう)を形成します。膿瘍はうみの塊を意味し、大前庭腺膿瘍といいます。

発赤、はれ、痛みがはっきりしてきて、膿瘍全体に押すと痛む圧痛を認めます。

さらにひどくなると、大陰唇も膨張して熱感を伴う腫瘤(しゅりゅう)を形成し、歩行時や性交時に痛みが生じたり、何もしていないのに感じる自発痛が生じたりします。ひどい痛みによって、歩行困難に陥ることもあります。

大前庭腺炎が悪化して、大前庭腺膿瘍になる前に症状に気付き、婦人科、産婦人科を受診することが勧められます。

大前庭腺炎の検査と診断と治療

婦人科、産婦人科の医師による診断では、嚢胞のある位置や、圧痛のある膿瘍の位置で判断し、排出管内部にたまっている粘液やうみを培養して原因となっている菌を特定します。

婦人科、産婦人科の医師による治療では、急性期では、抗生物質(抗生剤、抗菌剤)の全身投与、局所の湿布を行います。大前庭腺炎の段階では、多くが抗生物質の投与で治ります。

慢性化して嚢胞を形成した場合は、排出口をつくる手術を行うこともあります。膿瘍を形成し、痛みが強い場合は、切開してうみを出す手術を行います。再発を繰り返す場合や、嚢胞や膿瘍が大きい場合は、嚢胞や膿瘍を摘出する手術を行います。

予防法は、膣や外陰部の清潔を保ち、大前庭腺内への細菌の侵入を防ぐ以外にありません。特に、大小便の排出の時や性交渉の時に清潔を心掛けることです。

🇮🇶大腿外側皮神経痛

大腿の感覚をつかさどる神経が傷害されて、痛みなどが生じる神経痛の一つ

大腿外側皮(だいたいがいそくひ)神経痛とは、大腿の前面と外側の感覚をつかさどる外側大腿皮神経が傷害されて、痛みなどが生じる神経痛の一つ。外側大腿皮神経痛、知覚異常性大腿痛とも呼ばれます。

外側大腿皮神経は第2、第3腰椎(ようつい)から出て前方へ向かい、腰の部位で急激に曲がって鼠径(そけい)部の辺りから皮膚の下に出て、大腿の前面と外側の皮膚に分布します。そのため、腰椎部で神経が圧迫された時に、大腿の周辺に痛みや知覚異常が生じることがあるほか、外側大腿皮神経が鼠径靭帯(じんたい)を貫通する骨盤の前上腸骨棘(こっきょく)部で筋肉や靭帯により圧迫された時にも、大腿の周辺に痛みや知覚異常が生じることがあります。

前上腸骨棘部で外側大腿皮神経が圧迫された時には、股(こ)関節の位置や格好で症状が生じたり、治まったりすることもあります。コルセットの着用、窮屈な下着やズボンの着用、べルトの締めすぎ、自動車のシートベルトの締めすぎなどにより、前上腸骨棘部で外側大腿皮神経が圧迫された時にも、痛みや知覚異常が生じます。

また、肥満、妊娠により骨盤周囲の筋肉の緊張が強くなることで、外側大腿皮神経が障害されることもあります。妊婦においては胎児が正常な位置にいない場合に、大腿外側皮神経痛としてしびれが出ることもあります。鼠径ヘルニアの手術や股関節の手術の後に、一時的な外側大腿皮神経の圧迫により障害されることもあります。

症状は、大腿の前面から外側にかけて、ヒリヒリと痛んだり、しびれが出たり、知覚が鈍くなったりします。服が皮膚にこすれるのが苦痛になることもあります。しかし、外側大腿皮神経は感覚だけをつかさどる神経で運動をつかさどらないため、足がまひして上がらなくなったり、歩行に支障を来すことはありません。大腿の内側や膝(ひざ)より下に、症状が出ることもありません。

大腿外側皮神経痛の多くは、姿勢や動作によって症状に変化がみられます。

骨盤の前面を走る前上腸骨棘部で外側大腿皮神経を直接圧迫することによって、痛みが憎します。起立や歩行時は、外側大腿皮神経が牽引(けんいん)気味になり痛みが増します。

股関節の伸展は、外側大腿皮神経を牽引し痛みが増します。反対に、股関節を深く屈曲することでも、外側大腿皮神経自体を圧迫し痛みが増します。うつぶせに寝ている時は、外側大腿皮神経が軽く圧迫され、股関節が伸展されるので痛みが増強する傾向があります。仰向けに寝て軽く膝(ひざ)を曲げている時は、痛みが軽減します。

案外多い病態ですが、正確な診断を受けていないことが多いようです。もし、大腿外側皮神経痛の症状に思い当たることがあれば、整形外科、神経内科の医師を受診することが勧められます。

大腿外側皮神経痛の検査と診断と治療

整形外科、神経内科の医師による診断は、特徴的な症状と、前上腸骨棘部の周囲で軽く皮膚の上をたたくと大腿の前面と外側に響くようなしびれと痛みが出るチネルサインで判断します。念のために、腰椎や骨盤のX線写真、MRI検査などで、変形性腰椎症や腰椎椎間板ヘルニアなどの疾患がないかどうかをチェックします。

坐骨(ざこつ)神経痛との鑑別が必要ですが、しびれなどの場所が坐骨神経痛と大腿外側皮神経痛では違いますので、鑑別は簡単です。坐骨神経痛では、尻(しり)から大腿の裏側、下腿などにしびれや痛みが出ます。

整形外科、神経内科の医師による治療は、外側大腿皮神経を圧追する原因を取り除くことが第一です。体重を減らすことや、骨盤部の矯正、窮屈な下着やズボンの着用の禁止などが、効果を発揮します。

また、消炎鎮痛剤の内服、外用を行い、痛みが強い場合は局所麻酔薬を注射して痛みを和らげる神経ブロックを行います。この場合、1 回の注射では一時的に症状が緩和しても、数時間から1日で元の症状に戻ったりしますので、何回か注射を繰り返すこともあります。局所麻酔薬と一緒に、ステロイドホルモン剤という炎症を抑える薬を注射することもあります。

腰椎部で神経が圧迫された時には、脊髄(せきずい)の周囲の硬膜外腔(がいくう)に局所麻酔薬を注射して、神経の痛みを和らげる硬膜外ブロックを行います。

症状が治まらず、日常生活に支障を来す場合は、外側大腿皮神経を剥離(はくり)、または切離する手術を行うこともあります。炎症を起こした神経は周囲の靱帯や筋肉と癒着した状態にありますので、その癒着を手術で解き放つのを剥離、神経そのものを切除して痛みを感じなくするのを切離といいます。

🇴🇲大腿骨頸部骨折

老人に多い、太ももの骨の股関節に近い部分の骨折

大腿骨頸部(だいたいこつけいぶ)骨折とは、太ももの骨である大腿骨の脚の付け根に近い部分の骨折。股関節(こかんせつ)の関節包の外側で骨折する外側(がいそく)骨折と、関節包より内側で骨折する内側(ないそく)骨折とに分けられます。

関節包とは、文字通り関節の包みのことで、この内側が股関節の中ということになります。関節包の外側は血流がよいため骨がくっつきやすいのですが、内側は血流が乏しいため折れた骨はなかなかくっつきにくいことで知られています。

大腿骨頸部骨折は高齢者、特に女性に多く、骨粗鬆(こつそしょう)症などで骨がもろい状態で起こりやすくなります。また、この骨折の95パーセントは転倒によって起こります。日本では年間約10万人の人が受傷しており、高齢化が進むにつれて今後も増えていくことが予想されます。外側骨折は50歳以上に多く、内側骨折は60歳以上に多く起こっています。

転倒によることが多いといっても、つまずく、ベッドから落ちるなど、若い人では起こり得ないような軽い外力で起こることがほとんどです。特に原因が思い当たらず、いつの間にか骨折していたということも3〜5パーセントにみられます。

典型的には、骨折した直後から脚の付け根の痛みとはれがあり、歩くことができなくなります。内側骨折よりも外側骨折のほうが症状は激しく、外側骨折では骨折したところからかなり出血するため、早期に適切な処置を行わないと貧血が進んで危険な状態になることもあります。

骨折のタイプや程度によっては、骨折直後は痛くなかったり、立ち上がったり歩いたりできる場合があります。脚の付け根ではなく、膝(ひざ)が痛くなることもあります。認知症(痴呆〔ちほう〕症)のある高齢者の場合には、しばらく気付かれないこともあるので注意が必要です。

大腿骨頸部骨折は単に、骨が折れたというだけではすまず、さまざまな問題を引き起こします。まず、痛くて歩けないまま寝たきりの状態でいるために床擦れ、尿路感染症、肺炎、認知症などが起こる可能性が高くなります。次に、体を動かさないために関節拘縮や筋力低下などが起き、たとえ骨折が治ったとしても歩けなくなることがあります。実際の統計では、自分で歩けていた人の約3分の1が、歩けない、または介助で歩ける、という状態になっています。

治療法には大きく分けて、手術療法と保存療法があります。特に高齢者の場合は、全身状態が許せば手術によって早期に痛みをとって体重をかけられるようにし、リハビリを開始することが望ましいと考えられています。

内側骨折の手術では、ずれが少ない場合や若い人の場合に、ずれを元に戻して骨折部をネジで固定します。高齢者で、ずれが大きい場合には、金属製の人工骨頭に置き換えます。外側骨折の手術では、プレートとネジ、または骨の中に入れた金属のくぎとネジを組み合わせたもので固定します。

一方、保存療法を選択するのは、内側骨折で骨のずれがほとんどなく、比較的若い人の場合と、骨がくっつく可能性が高く、数カ月間寝たきりでいてもそれほど大きな問題が起きない場合です。ただし、内側骨折は骨折部の血流が悪いために骨がくっつかないまま偽関節になったり、折れた骨が壊死したりする可能性があります。

また、手術や麻酔というのは体にかなり負担がかかりますので、全身状態が悪いため、寝たきりでいる危険性より手術をする危険性のほうが高いと判断される場合には、保存療法を選択します。手術しない場合でも、数カ月安静にしていると痛みは落ち着いてきます。

内側骨折の場合、基本的に骨がくっつくことはありません。従って、足に体重をかけることはできませんが、あまり痛みなく車椅子(いす)に座っていることは可能です。場合によっては、よいほうの足に体重をかけて立つことができることもあります。痛みが落ち着き次第、できるだけ早く車椅子に移って寝たきりを防ぐことが重要です。

外側骨折の場合、安静を保っていれば骨はくっつきます。通常3~4週間程度で多少動かしても骨がずれなくなり、2~3カ月程度で体重をかけて歩く練習を開始します。

一般的に、骨折後の歩行能力は手術をしたとしても1ランク落ちるといわれています。例えば、家の外を自由に歩いていた人は杖(つえ)が必要になる、杖で歩いていた人は主に家の中での生活になる、家の中をつかまりながらやっと歩いていた人はベッドからポータブルトイレや車椅子への移動がやっとになる、といった具合です。

しかし、リハビリテーションの進み具合は個人差が大きく、本人の意欲、痛みの程度、体力、合併症、認知症の有無などによって大きく変わってきます。認知症状が強い場合には、リハビリがあまり進まないことが予想されます。

🇴🇲大腿骨頸部疲労骨折

正常な大腿骨頸部に骨折を起こさない程度の負荷が、ランニングで繰り返し加わった場合に生じる骨折

大腿骨頸部(だいたいこつけいぶ)疲労骨折とは、太ももの骨である大腿骨の頸部に、正常な状態では骨折を起こさない程度の負荷が、ランニング中心のスポーツ活動で繰り返し加わった場合に生じる骨折。

骨折は、骨が壊れることを意味し、ヒビも骨折ですし、骨の一部分が欠けたり、へこんだ場合も骨折です。正常な骨では、かなり大きな負荷がかからないと骨折しませんが、正常な骨に小さい負荷がかかる場合でも、同じ部位に繰り返し長期間かかり続けて、骨にヒビが入る微細な骨折を生じたり、ヒビが進んで完全な骨折に至る状態が疲労骨折です。

疲労骨折のほとんどは、スポーツ活動で激しいトレーニングをしている運動部の学生や社会人に生じます。陸上、サッカー、野球、バスケットボールなどあらゆるスポーツ活動で発生する可能性があり、それぞれのスポーツ活動ごとに疲労骨折を生じやすい部位があります。

下肢の中で最も太く、股(こ)関節から膝(しつ)関節に至る長い骨である大腿骨のうち、付け根に近い部位の頸部に疲労骨折を生じるスポーツ活動としては、まず陸上のマラソン、長距離走が挙げられ、そのほかのスポーツ活動でも、走り込みを続けることで生じます。

長時間のランニングによって、股関節を介した体重の荷重が上方から繰り返し加わることにより、大腿骨頸部の上部、あるいは下部に疲労骨折が発生します。

大腿骨頸部の上部に疲労骨折が発生するタイプは、伸張型と呼ばれ、張力が加わることで発生し、体重の荷重がかかるベクトルが骨折部を開こうとする方向へ働くため、離解して骨折が転位することがあります。

大腿骨頸部の下部に疲労骨折が発生するタイプは、圧迫型と呼ばれ、圧迫力が加わることで発生し、骨折が転位する可能性はほとんどありません。

この大腿骨頸部疲労骨折は、ランニング中心のスポーツ活動をしている女性にとりわけ多くみられるのが特徴です。過度のダイエットを行ったり、ホルモンのバランスが崩れることにより、骨の脆弱(ぜいじゃく)化が起こりやすいために、女性に多いと考えられています。

大腿骨頸部疲労骨折を生じても、一般の外傷性骨折のように皮下出血や著しい腫脹(しゅちょう)を伴うことはありませんが、骨折部は軽度の腫脹を伴い、股関節周辺に痛みを生じます。

痛みは、ランニングの開始時に強く出て、運動途中は痛みが軽くなります。運動終了時から終了後にかけて、痛みが強くなります。運動を休んでいる間は、痛みはほとんど出現しません。

骨折部の悪化とともに、ランニング時の痛みが強くなり、通常の歩行に際しても痛みが出るようになることもあります。また、大腿部や膝(ひざ)などに痛みを感じることもあります。

短期的に集中的なランニングを行った時に、大腿骨頸部疲労骨折が生じることが多いのも特徴です。競技者の要因としては、筋力不足、筋力のアンバランス、走る姿勢や走法のアンバランス、O脚やX脚や外反足などの下肢の構造的アンバランス、体の柔軟性不足などが考えられ、環境の要因としては、オーバートレーニング、競技者の体力や技術に合わないトレーニング、不適切なシューズ、練習場が硬すぎたり軟らかすぎるなどが考えられます。

明らかな外傷がなく、ランニング中心のスポーツ活動時に股関節周辺の痛みを感じる場合は、疲労骨折が疑われます。整形外科を受診することが勧められます。

大腿骨頸部疲労骨折の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、骨の痛みがある部位と症状、スポーツ活動の種類などから判断します。

骨折の初期の段階では、X線(レントゲン)検査を行ってもほとんど異常を示さず判断が難しいこともありますが、骨折後1カ月程度で骨膜反応という骨折の修復により異常がわかります。骨シンチグラフィー検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査を行うと、骨折の初期の段階の病変でも判断することが可能です。

骨折の初期の段階で診断を確定できない場合に、痛みを誘発して再現するテストを行って、骨折の可能性を検査することもあります。大腿骨頸部の骨折では、片脚ジャンプで股関節周辺に痛みが誘発されます。そのほか、股関節を内側にひねると痛みを誘発されたり、股関節の可動域の制限を生ずることもあります。

整形外科の医師による治療では、骨折部に負担のかかるランニングなどのスポーツ活動を休止し、必要に応じて固定を行い、骨の癒合を図ります。一般には、4〜8週間の固定が必要となることが多く、激しい負荷のかかる競技者の場合には、12〜16週間の固定による安静が必要となることも珍しくありません。

固定による安静期間の後に、徐々にリハビリを開始します。まずは、日常生活だけのリハビリを行い、続いて、痛みが生じない範囲に制限してスポーツ活動を再開します。疲労骨折の場合、同じ部位が再骨折する可能性が高いため、慎重に運動を再開する必要があります。

転位のある骨折の場合や、大腿骨頸部の上部に骨折のある場合は、手術が必要となることがあります。また、手術後のリハビリが最低6カ月間必要となります。

再発予防としては、疲労骨折が発生した要因を検討し、通常のトレーニングが過度にならないようにしたり、運動前後にストレッチを行ったりして、普段からコンディションの調整をすることも大切です。

🇴🇲大腿骨骨幹部疲労骨折

正常な大腿骨骨幹部に骨折を起こさない程度の負荷が、ランニングで繰り返し加わった場合に生じる骨折

大腿骨(だいたいこつ)骨幹部疲労骨折とは、太ももの骨である大腿骨の骨幹部に、正常な状態では骨折を起こさない程度の負荷が、ランニング中心のスポーツ活動で繰り返し加わった場合に生じる骨折。

骨折は、骨が壊れることを意味し、ヒビも骨折ですし、骨の一部分が欠けたり、へこんだ場合も骨折です。正常な骨では、かなり大きな負荷がかからないと骨折しませんが、正常な骨に小さい負荷がかかる場合でも、同じ部位に繰り返し長期間かかり続けて、骨にヒビが入る微細な骨折を生じたり、ヒビが進んで完全な骨折に至る状態が疲労骨折です。

疲労骨折のほとんどは、スポーツ活動で激しいトレーニングをしている運動部の学生や社会人に生じます。陸上、サッカー、野球、バスケットボールなどあらゆるスポーツ活動で発生する可能性があり、それぞれのスポーツ活動ごとに疲労骨折を生じやすい部位があります。

下肢の中で最も太く、股(こ)関節から膝(しつ)関節に至る長い骨である大腿骨のうち、中央部にある骨幹部に疲労骨折を生じるスポーツ活動としては、まず陸上のマラソン、長距離走が挙げられ、そのほかのスポーツ活動でも、走り込みを続けることで生じます。

長時間のランニングによって、過度の体重の荷重が上方から繰り返し加わったり、地面をける際に生ずる突き上げが下方から繰り返し加わったり、大腿四頭筋、ハムストリング、内転筋などの大きな筋群による張力が繰り返し加わることによって、大腿骨骨幹部の構造的な弱点といえる部位に疲労骨折が発生します。

大腿骨骨幹部は大腿骨の中央部にあって、皮質骨で囲まれている海綿骨と骨髄からなる円筒形のほぼ真っすぐか、軽く湾曲している部分で、股関節に近い上方部分、中間部分、膝関節に近い下方部分の3つに区切ると、中間部分と膝関節に近い下方部分に多く起こります。また、骨幹部の内側に起こることが特徴で、これは内転筋(内もも)による牽引(けんいん)張力のためだと考えられています。

大腿骨骨幹部疲労骨折を生じても、一般の外傷性骨折のように皮下出血や著しい腫脹(しゅちょう)を伴うことはありませんが、骨折部位は軽度の腫脹を伴い、内側を手や指で押さえると痛みを生じます。股関節に近い上方部分の骨幹部の疲労骨折では、股関節や鼠径(そけい)部に痛みを生じることもあります。中間部分や、膝関節に近い下方部分の骨幹部の疲労骨折では、膝関節に痛みを生じることもあります。

痛みは、ランニングの開始時に強く出て、運動途中は痛みが軽くなります。運動終了時から終了後にかけて、痛みが強くなります。運動を休んでいる間は、痛みはほとんど出現しません。

骨折部の悪化とともに、ランニング時の痛みが強くなり、通常の歩行に際しても痛みが出るようになることもあります。

短期的に集中的なランニングを行った時に、大腿骨骨幹部疲労骨折が生じることが多いのも特徴です。競技者の要因としては、筋力不足、筋力のアンバランス、走る姿勢や走法のアンバランス、O脚やX脚や外反足などの下肢の構造的アンバランス、体の柔軟性不足などが考えられ、環境の要因としては、オーバートレーニング、競技者の体力や技術に合わないトレーニング、不適切なシューズ、練習場が硬すぎたり軟らかすぎるなどが考えられます。

症状が時としてわかりにくいことがあるのも大腿骨骨幹部疲労骨折の特徴で、痛みのある部位が漠然としていることが多いともされています。これは、骨の感覚神経系の同一感覚領域(スクレロトーム)において放散痛や関連痛が起こり、手や指で押さえると痛みを生じる圧痛部位と一致しないこともあるためです。

明らかな外傷がなく、ランニング中心のスポーツ活動時に大腿部の中央部などに痛みを感じる場合は、大腿骨骨幹部疲労骨折が疑われます。整形外科を受診することが勧められます。

大腿骨骨幹部疲労骨折の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、骨の痛みがある部位と症状、スポーツ活動の種類などから判断します。

骨折の初期の段階では、X線(レントゲン)検査を行ってもほとんど異常を示さず判断が難しいこともありますが、骨折後2、3週間程度で骨膜反応という骨折の修復により、皮質骨に局所的腫脹や軟骨が生じることで異常がわかります。骨シンチグラフィー検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査、CT(コンピュータ断層撮影)検査を行うと、骨折の初期の段階の病変でも判断することが可能です。

骨折の初期の段階で診断を確定できない場合に、痛みを誘発して再現するテストを行って、骨折の可能性を検査することもあります。大腿骨骨幹部の疲労骨折では、片脚ジャンプで股関節周辺や膝関節周辺に痛みが誘発されます。そのほか、股関節を内側にひねると痛みが誘発されたり、股関節の可動域の制限が生ずることもあります。

すでに骨折部が悪化して骨の破壊が進んでいれば、X線(レントゲン)検査でも明らかな骨のヒビや骨の離断像が映り出されます。

整形外科の医師による治療では、骨折部に負担のかかるランニングなどのスポーツ活動を休止し、必要に応じて固定を行い、骨の癒合を図ります。一般には、4〜8週間の固定が必要となることが多く、激しい負荷のかかる競技者の場合には、12〜16週間の固定による安静が必要となることも珍しくありません。

固定による安静期間の後に、徐々にリハビリを開始します。まずは、日常生活だけのリハビリを行い、続いて、痛みが生じない範囲に制限してスポーツ活動を再開します。疲労骨折の場合、同じ部位が再骨折する可能性が高いため、慎重に運動を再開する必要があります。

転位のある骨折の場合や、骨の完全離断のある場合は、手術が必要となることがあります。手術では、骨のずれを元に戻して骨折部をネジ、あるいはプレートとネジ、さらに骨の中に入れた金属のくぎとネジを組み合わせたものなどで固定します。また、手術後のリハビリが最低6カ月間必要となります。

再発予防としては、疲労骨折が発生した要因を検討し、通常のトレーニングが過度にならないようにしたり、運動前後にストレッチを行ったりして、普段からコンディションの調整をすることも大切です。

🇰🇼大腿骨骨折

太ももの骨である大腿骨の外傷による骨折

大腿骨(だいたいこつ)骨折とは、太ももの骨である大腿骨の外傷による骨折。

太ももは、上半身を支え、かつ歩行するのに使う重要な部位で、太い大腿骨と筋肉が付いています。太ももの損傷は、筋肉などにも起こりますが、大腿骨が骨折する場合もあります。

大腿骨は、股(こ)関節と膝(しつ)関節の間にある人体最大の長管骨で強靭(きょうじん)な構造になっているため、若い人に骨折が生じるのは極めて強い外力を受けた時です。受傷の原因は交通事故が最も多く、ほかに高所からの落下、ラグビーなど激しい運動中の外部からの衝撃、小児の遊戯中の事故などがあります。

しかし、高齢者、特に閉経した女性の高齢者で骨粗鬆(こつそしょう)症にかかっている場合は、立ち上がる際によろけて転倒したり、歩行中に段差につまずいて転倒したり、ベッドから落ちるだけでも骨折が生じます。

この大腿骨骨折は、上側の股関節側から順に、大腿骨頭、大腿骨頸部(けいぶ)、大腿骨転子(てんし)部、大腿骨転子下、大腿骨骨幹部、大腿骨顆部(かぶ)の骨折に分けられます。

交通事故などによる強い外力による大腿骨骨折の場合は、ほかの部位の骨折や頭部、胸部、腹部の重要臓器の損傷を合併することが少なくありません。大腿骨の下3分の1の骨折では、主要な膝窩(しつか)動脈や総腓骨(そうひこつ)神経などの損傷を合併することがあります。

大腿骨の骨折部には、内出血によるはれ、皮下出血、異常な動きを認め、起立は不可能になり、受傷した脚の自動運動もできなくなります。膝窩動脈の損傷があると、足の指の色調は不良となり、足背部で拍動を触れなくなります。神経まひがあると、足首や足指の運動が不可能となります。

骨折部でかなり大量の出血があるため、血圧低下やショック症状を起こすことがあり、合併損傷が多いほど強くなります。

大腿骨骨折が発生した際は、応急処置として副木を当てて骨折部が動かないようにします。大量出血が予想され、さらにほかの部位に損傷を合併することがあるので、体を起こさずに横にしたまま医療機関に運びます。

大腿骨骨折の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断は、局所の症状で容易につきます。X線(レントゲン)検査で、骨折部位、骨折型、転位の程度を調べます。ただし、大腿骨のずれが小さい亀裂骨折で、受傷した後も歩けている状態の場合は、X線検査では判別しづらいこともあり、CT(コンピュータ断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査を行います。

整形外科の医師による治療は、大きく分けて手術療法、ないし保存療法を行います。特に高齢者の場合は、全身状態が許せば手術によって早期に痛みをとって体重をかけられるようにし、リハビリを開始することが望ましいと考えられています。

股関節にある関節包より内側で骨折する大腿骨頸部の骨折(内側骨折)の手術では、ずれが少ない場合や若い人の場合に、ずれを元に戻して骨折部をネジで固定します。高齢者で、ずれが大きい場合には、金属製の人工骨頭に置き換えます。

関節包の外側で骨折する大腿骨転子部の骨折(外側骨折)の手術では、骨のずれが大きいことが多いので、プレートとネジ、または骨の中に入れた金属のくぎとネジを組み合わせたもので固定します。

一方、保存療法を選択するのは、大腿骨頸部の骨折(内側骨折)で骨のずれがほとんどなく、比較的若い人の場合と、骨がくっつく可能性が高く、数カ月間寝たきりでいてもそれほど大きな問題が起きない場合です。ただし、大腿骨頸部の骨折は骨折部の血流が悪いために骨がくっつかないまま偽関節になったり、折れた骨が壊死したりする可能性があります。

また、手術や麻酔というのは体にかなり負担がかかりますので、全身状態が悪いため、寝たきりでいる危険性より手術をする危険性のほうが高いと判断される場合には、保存療法を選択します。手術しない場合でも、数カ月安静にしていると痛みは落ち着いてきます。

大腿骨頸部の骨折の場合、基本的に骨がくっつくことはありません。従って、足に体重をかけることはできませんが、あまり痛みなく車椅子(いす)に座っていることは可能です。場合によっては、よいほうの足に体重をかけて立つことができることもあります。痛みが落ち着き次第、できるだけ早く車椅子に移って寝たきりを防ぐことが重要です。

大腿骨転子部の骨折(外側骨折)の場合、安静を保っていれば骨はくっつきます。通常3~4週間程度で多少動かしても骨がずれなくなり、2~3カ月程度で体重をかけて歩く練習を開始します。

小児の大腿骨骨折の場合は、骨癒合が良好で変形がよく矯正され、1センチまでの短縮は自家矯正が可能なため保存療法を行います。長期間ベッド上で固定されても全身的な合併症や関節の拘縮が起こらないので、年齢に合わせてベッド上でいろいろな牽引(けんいん)療法を行います。

2〜3歳以下に対しては、垂直に両下肢を牽引するブライアント牽引を行います。3〜8歳児に対しては、股関節を30度曲げた位置にして牽引するラッセル牽引を行います。また、2〜12歳児に対しては、股関節と膝関節を90度曲げた位置にして牽引するウエーバー牽引を行います。

一般的に、高齢者の骨折後の歩行能力は、手術をしたとしても1ランク落ちるといわれています。例えば、家の外を自由に歩いていた人は杖(つえ)が必要になる、杖で歩いていた人は主に家の中での生活になる、家の中をつかまりながらやっと歩いていた人はベッドからポータブルトイレや車椅子への移動がやっとになる、といった具合です。

しかし、リハビリテーションの進み具合は個人差が大きく、本人の意欲、痛みの程度、体力、合併症、認知症の有無などによって大きく変わってきます。認知症状が強い場合には、リハビリがあまり進まないことが予想されます。

🇰🇼大腿骨頭壊死

血液供給が断たれて、大腿骨の頭の部分が壊死

大腿(だいたい)骨頭壊死(えし)とは、大腿骨の頭の部分への血液供給が断たれて、骨頭の一部、あるいは大部分が生命力を失う疾患。

原因不明で起こるものを突発性大腿骨頭壊死といいます。これに対して、もとに何か疾患、あるいは疾患的状態があるために、大腿骨頭壊死を来す場合もあります。例えば、老人によく起こる大腿骨頸部(けいぶ)骨折では、大腿骨頭に栄養を送っている血管が骨折を起こした際に損傷され、後に大腿骨頭壊死を生じます。

突発性大腿骨頭壊死は、30〜40歳代の成人、しかも男性に多く起こり、アルコール愛飲者や副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の投与を受けた人に多くみられます。原因は完全には明確になっていませんが、大量のアルコール飲酒による肝臓障害が骨まで侵す危険性があることは否定できませんし、副腎皮質ホルモンの投与については、期間の長さより1日の投与量の多さが原因となりやすいことがわかってきています。

しばしば、股(こ)関節、大腿、ひざにかけての痛みが、突発的に起こります。多くのものは安静にしていれば2〜3週間で軽快しますが、次第に運動時にも安静時にも、痛みが持続して起こってくるようになります。

片側に発症すると、約半分くらいの割合で1年くらいのうちに、反対側にも骨頭壊死が生じてきます。

X線写真を撮ると、疾患の初期には骨頭輪郭の不整や、骨陰影の濃い部分の存在などの変化にすぎませんが、次第に進行すると、骨濃厚部が陥没して関節面が不整となります。

さらに経過すると、大腿骨頭変形に基づく変形性股関節症を合併します。

大腿骨頭壊死の検査と診断と治療

大腿骨頭壊死の診断には、単純X線撮影、骨シンチグラム、CT、MRIなどの検査が用いられます。早期に確実な診断ができるのはMRIで、骨シンチグラムなどと併用して確実な診断が下されます。

骨頭の変形が軽度で進行が遅いような場合は、つえの使用、体重のコントロール、筋力トレーニング、長距離歩行の制限、重量物の運搬禁止などでカバーすることができます。痛みに対しては、鎮痛消炎剤の服用で対処します。つえを使うことには最初は抵抗があるかもしれませんが、痛みを軽減するには有効です。また、つえの正しい使い方、筋肉トレーニングの方法は、整形外科医やリハビリの専門医から指導を受けます。

しかしながら、これらの保存的治療では症状の進行防止は大きく期待できないため、進行が予想される場合は手術が行われます。骨頭壊死がそれほど進行していないものに対しては、骨頭を温存して荷重部を変えることを目的とした骨切り術を行って、陥没を防止します。骨切り術としては、前方回転骨切り術、後方回転骨切り術、内反骨切り術、骨移植術などがありますが、骨移植術はあまり行われません。

最も多く行われている前方回転骨切り術は、骨頭を一度切り離して前方へ回転させ、壊死している部分を前のほうへ持っていく手術。壊死は骨頭の前方の部分に発生しやすいため、後方の正常な部分を一番上に回してきて、体重を受け止めるという方法です。切り離した骨頭は約10cmのボルトで固定し、数年後に骨が完全に結合していることを確認して、ボルトを抜き取ります。使用する金具類はチタン合金製で、体内に長期間入れておいても体への影響はほとんどありません。

壊死範囲が広いものや、すでに骨頭変形が進行したものに対しては、人工骨頭や関節置換を行わざるを得ません。関節置換では、全関節を人工関節に置き換えます。

この疾患の好発年齢が30〜40歳代と、人工骨頭や関節置換の適応年齢よりもかなり低いために、長期間に渡って挿入された場合、緩みや摩耗などの問題が生じます。近年、人工骨頭自体の構造も改良され、摩擦による骨の障害をできるだけ少なくする工夫もされています。

🇰🇼大腿骨頭すべり症

成長期の子供にみられ、大腿骨の股関節に近い大腿骨頭の骨端線が本体部分からずれる疾患

大腿骨頭(だいたいこっとう)すべり症とは、成長期の子供の成長軟骨に障害が起き、大腿骨の股(こ)関節に近い大腿骨頭の骨端線が本体部分の骨幹部からずれる疾患。

太ももの大きな太い骨である大腿骨が骨盤と股関節をつくる部分を大腿骨頭といい、子供では大腿骨頭のすぐ下に、膨張することで骨が大きくなる成長軟骨の部分である骨端線(成長軟骨肥大細胞層)があります。

骨端線の部分は、骨の成長が終了すると均一で強固な骨になりますが、成長が終了する直前には逆に軟骨層の部分が薄くなっていて、外力に弱いため、骨頭に無理な力がかかると、その部分で後下方にずれてしまい、大腿骨頭すべり症を起こします。

10歳から16歳の成長が盛んな思春期の男子に多くみられ、とりわけ肥満型の男子に多くみられます。原因の1つに成長ホルモンや性ホルモン、副腎(ふくじん)皮質ホルモンなどの異常があるといわれ、ホルモンバランスが悪い肥満傾向の男子では、骨端線の成長の終了が遅れ、強度が弱い時期が長引くために、多くみられることになります。

外傷を切っ掛けにして、突然、強い股関節の痛みが起こり、歩けなくなる急性型と、日常動作や比較的軽微な外力によって、徐々に股関節の痛みが強くなって、脚を引きずって歩く慢性型があります。発症時期がはっきりせず、慢性の経過をたどる慢性型のほうが、多くみられます。

大腿骨頭すべり症を起こすと、股関節の近くの骨端線がずれて変形するため、股関節の痛みや動きの異常、歩行の障害が現れます。左右両側の下肢に症状が現れることもあります。

慢性の経過をたどる慢性型では、痛みが著しくないことが多く、医師の診断および治療が難しいなどの特徴を持っています。長い期間、正確な診断がつかない場合もありますが、大腿骨頭すべり症は適切に治療しなければ、成人してから変形性股関節症を引き起こす恐れがあります。

日常での歩行や、階段の上り下りでも股関節が痛ければ、整形外科を受診することが必要です。

大腿骨頭すべり症の検査と診断と治療

整形外科の医師による診断では、X線(レントゲン)検査を行って骨頭が後下方へずれているのを確認し、CT(コンピュータ断層撮影)検査を行ってずれの程度を調べます。

整形外科の医師による治療は、急性型と慢性型で異なります。

急性型では、股関節の痛みが強いので比較的診断がつきやすく、診断がつき次第入院になります。急性に生じたずれは、手術で骨に鋼線を通して牽引(けんいん)し、大腿骨頭の骨端線のずれをゆっくり整復するか、麻酔をかけた上で手でゆっくりと骨端線のずれを整復します。骨端線のずれを戻した後に、再びずれを生じないように骨端線を貫くようにねじ釘(くぎ)で固定して、骨の成長が終了した後に釘抜きを行います。

一方、慢性型では、長い経過をたどって大腿骨頭の骨端線のずれが生じており、痛みは激しくないので、診断が難しいことがあります。また、時間がたっていると、骨端線のずれを戻す整復は困難です。無理な整復を試み、骨端線の軟骨細胞を痛めると、長期的に股関節の変形や痛みを生じることがあるためです。

骨端線のずれが軽い場合には、そのままの位置で骨頭と骨幹部をねじ釘で固定します。大腿骨には傾きを復元しようとする働きがあり、やがてバランスが取れるようになります。骨端線の変形が著しい場合には、手術で骨切り術を行い、変形により股関節の動きの異常が出ないように整復し、金属で固定します。

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