老人に多い、太ももの骨の股関節に近い部分の骨折
大腿骨頸部(だいたいこつけいぶ)骨折とは、太ももの骨である大腿骨の脚の付け根に近い部分の骨折。股関節(こかんせつ)の関節包の外側で骨折する外側(がいそく)骨折と、関節包より内側で骨折する内側(ないそく)骨折とに分けられます。
関節包とは、文字通り関節の包みのことで、この内側が股関節の中ということになります。関節包の外側は血流がよいため骨がくっつきやすいのですが、内側は血流が乏しいため折れた骨はなかなかくっつきにくいことで知られています。
大腿骨頸部骨折は高齢者、特に女性に多く、骨粗鬆(こつそしょう)症などで骨がもろい状態で起こりやすくなります。また、この骨折の95パーセントは転倒によって起こります。日本では年間約10万人の人が受傷しており、高齢化が進むにつれて今後も増えていくことが予想されます。外側骨折は50歳以上に多く、内側骨折は60歳以上に多く起こっています。
転倒によることが多いといっても、つまずく、ベッドから落ちるなど、若い人では起こり得ないような軽い外力で起こることがほとんどです。特に原因が思い当たらず、いつの間にか骨折していたということも3〜5パーセントにみられます。
典型的には、骨折した直後から脚の付け根の痛みとはれがあり、歩くことができなくなります。内側骨折よりも外側骨折のほうが症状は激しく、外側骨折では骨折したところからかなり出血するため、早期に適切な処置を行わないと貧血が進んで危険な状態になることもあります。
骨折のタイプや程度によっては、骨折直後は痛くなかったり、立ち上がったり歩いたりできる場合があります。脚の付け根ではなく、膝(ひざ)が痛くなることもあります。認知症(痴呆〔ちほう〕症)のある高齢者の場合には、しばらく気付かれないこともあるので注意が必要です。
大腿骨頸部骨折は単に、骨が折れたというだけではすまず、さまざまな問題を引き起こします。まず、痛くて歩けないまま寝たきりの状態でいるために床擦れ、尿路感染症、肺炎、認知症などが起こる可能性が高くなります。次に、体を動かさないために関節拘縮や筋力低下などが起き、たとえ骨折が治ったとしても歩けなくなることがあります。実際の統計では、自分で歩けていた人の約3分の1が、歩けない、または介助で歩ける、という状態になっています。
治療法には大きく分けて、手術療法と保存療法があります。特に高齢者の場合は、全身状態が許せば手術によって早期に痛みをとって体重をかけられるようにし、リハビリを開始することが望ましいと考えられています。
内側骨折の手術では、ずれが少ない場合や若い人の場合に、ずれを元に戻して骨折部をネジで固定します。高齢者で、ずれが大きい場合には、金属製の人工骨頭に置き換えます。外側骨折の手術では、プレートとネジ、または骨の中に入れた金属のくぎとネジを組み合わせたもので固定します。
一方、保存療法を選択するのは、内側骨折で骨のずれがほとんどなく、比較的若い人の場合と、骨がくっつく可能性が高く、数カ月間寝たきりでいてもそれほど大きな問題が起きない場合です。ただし、内側骨折は骨折部の血流が悪いために骨がくっつかないまま偽関節になったり、折れた骨が壊死したりする可能性があります。
また、手術や麻酔というのは体にかなり負担がかかりますので、全身状態が悪いため、寝たきりでいる危険性より手術をする危険性のほうが高いと判断される場合には、保存療法を選択します。手術しない場合でも、数カ月安静にしていると痛みは落ち着いてきます。
内側骨折の場合、基本的に骨がくっつくことはありません。従って、足に体重をかけることはできませんが、あまり痛みなく車椅子(いす)に座っていることは可能です。場合によっては、よいほうの足に体重をかけて立つことができることもあります。痛みが落ち着き次第、できるだけ早く車椅子に移って寝たきりを防ぐことが重要です。
外側骨折の場合、安静を保っていれば骨はくっつきます。通常3~4週間程度で多少動かしても骨がずれなくなり、2~3カ月程度で体重をかけて歩く練習を開始します。
一般的に、骨折後の歩行能力は手術をしたとしても1ランク落ちるといわれています。例えば、家の外を自由に歩いていた人は杖(つえ)が必要になる、杖で歩いていた人は主に家の中での生活になる、家の中をつかまりながらやっと歩いていた人はベッドからポータブルトイレや車椅子への移動がやっとになる、といった具合です。
しかし、リハビリテーションの進み具合は個人差が大きく、本人の意欲、痛みの程度、体力、合併症、認知症の有無などによって大きく変わってきます。認知症状が強い場合には、リハビリがあまり進まないことが予想されます。
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