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2022/09/02

🇩🇪妄想性障害

不自然でない妄想を抱く精神疾患

妄想性障害とは、脳および心の機能的、器質的障害によって引き起こされる精神疾患の1つ。偏執症とも呼ばれます。

1つ以上の奇異ではない内容の妄想、すなわち誤った思い込みが、少なくとも1カ月間持続するのが特徴です。

妄想性障害における妄想は、理にかなっていて、不自然な内容のものではありません。例えば、妄想性障害では「友人はスパイで、自分は隠しカメラで監視されている」、「隣人はスパイで、犬を毒殺しようと企てている」などという妄想を抱くのに対し、統合失調症では「友人が小さくなって、自分の耳の中に入っている」、「隣人が蚊に変装し、窓の外を舞っている」などという明らかに不自然な妄想を抱きます。

統合失調症が健康な状態と明らかに一線が画される重度の精神疾患であるのに対して、妄想性障害では人格は保たれ、感情や行動の異常は見られません。この妄想性障害は、しばしば統合失調症、器質性精神疾患、妄想性人格障害、うつ病のような他の障害と同時に起こります。発症する年代は一般的に、成人期中期から後期にかけてです。妄想性障害の亜型も、いくつか知られています。

すべての妄想性障害の本質的な特徴は、偵察される、だまされる、陰謀を企てられる、追跡される、毒を盛られる、感染させられる、わざと中傷される、嫌がらせを受ける、配偶者や恋人に裏切られるなどという被迫害信念のような妄想システムで、実生活でも起こり得るような状況を含んでいます。

一般的に、怒り、恨み、そして時折の暴力は、これら誤った被迫害信念に付随したもの。疑い深さも共通しており、誰(だれ)にでも向けられるか、または一人あるいは複数の人に向けられます。

妄想性障害の病型として、 色情型、誇大型、嫉妬(しっと)型、被害型、身体型、混合型、特定不能型の7タイプが認められています。

色情型では、他の誰か、通常は社会的地位の高い人が自分と恋愛関係にあるというのが、妄想の中心的なテーマになります。電話、手紙、メール、さらには監視やストーカー行為などで、妄想の対象と接触を図ろうとすることもあり、この妄想から出た行動が法律に触れることもあります。

誇大型では、肥大した価値、権力、知識、身分、あるいは神や有名な人物との特別なつながりに関するものが、妄想の中心的なテーマになります。例えば、自分には偉大な才能があるとか、重要な発見をしたなどと思い込みます。

嫉妬型では、自分の性的パートナーが不誠実であるというのが、妄想の中心的なテーマになります。あいまいな証拠から誤った推測をして、配偶者や恋人が浮気をしているなどと思い込みます。このような状況では、傷害事件に発展する恐れもあります。

被害型では、自分、もしくは身近な誰かが何らかの方法で悪意をもって扱われているというのが、妄想の中心的なテーマになります。陰謀をたくらまれている、見張られている、中傷されている、嫌がらせをされているなどと思い込み、裁判所など行政機関に訴えて、繰り返し正当性を主張しようとすることもあります。まれに、害を及ぼそうとしている想像上の迫害者に報復しようとして、暴力的な手段に訴えることがあります。この被害型は、犯罪行動、特に暴力的な犯罪行動と最も関連がある病型なのです。

身体型では、自分に何か身体的欠陥がある、あるいは自分が一般的な身体疾患にかかっているというのが、妄想の中心的なテーマになります。体に異常があるとか体臭がするなど、体の機能や特性に捕らわれ、寄生虫感染といった想像上の身体疾患の形を取る場合もあります。

混合型では、妄想が上記の病型の2つ以上によって特徴付けられますが、どのテーマも優性ではありません。 特定不能型では、妄想のテーマが特定できません。

妄想性障害の検査と診断と治療

妄想性障害は、もともと妄想性人格障害がある人に発症します。その妄想性人格障害の人は成人期初期より、他人の行動や行動理由に対して全般的な不信と疑い深さを示します。発症初期には、人に利用されていると感じる、友人の誠実さや信頼に執着する、悪意のない言葉や出来事の中に自分を脅す意味が隠されていると読む、恨みを抱き続ける、軽視されていると感じるとすぐに反応するなどの症状がみられます。

医師による診断では、妄想を伴う統合失調症などの他の精神疾患のほか、薬物乱用や投薬、一般的な身体疾患による直接的な生理的作用がないことが確認されれば、本人の病歴に基づいて妄想性障害と判断されます。

医師の側は、発症者の危険性がどの程度か評価する必要があります。とりわけ、本人がどの程度妄想に捕らわれていて、自分の妄想に基づいてどのような行動をするつもりなのかを評価することが、犯罪行動を防ぐ意味からも重要です。

妄想性障害から重度の障害に至ることは、まずありません。しかし、次第に妄想に深くのめり込むようになることがあります。大抵の場合、仕事を続けることができます。

医師と発症者の良好な関係が、妄想障害の治療に役立ちます。危険な病態だと判断されるケースには、入院治療が必要となります。一般に、抗精神病薬は用いられませんが、場合によっては症状を抑える効果があります。長期治療の目標は本人の関心を妄想からもっと建設的で満足感のあるものへ移すこととされますが、かなり難しい目標です。

2022/07/21

🇮🇩毛孔性紅色粃糠疹

毛穴に一致して癒合しやすい紅斑が現れ、手のひら、足の裏が赤く硬くなる皮膚病

毛孔性紅色粃糠疹(もうこうせいこうしょくひこうしん)とは、毛穴に一致して癒合傾向のある紅斑が現れ、手のひら、足の裏が赤く硬くなる皮膚疾患。まれな疾患で、炎症性角化症の一種です。

乳幼児に現れる若年型と、成人になって現れる成人型があります。どちらのタイプも原因はいまだはっきりとしていませんが、若年型は遺伝傾向があり、常染色体優性遺伝が考えられています。

手指の背、肘(ひじ)、膝(ひざ)、腹部などに、一つ一つは粟粒(ぞくりゅう)ほどの大きさで、毛穴に一致した硬い紅斑の小隆起が現れます。白っぽい垢(あか)を伴い、一部の紅斑は癒合します。手のひら、足の裏も赤く、がさがさし、垢の層が厚ぼったくなります。日光は悪化の誘因になることがあります。

紅斑が癒合して全身に広がる場合もありますが、必ずどこかに正常な皮膚が残ります。かゆみなどの自覚症状はない場合が多いようです。

重症になるとすべての紅斑がつながり、全身真っ赤になる紅皮症といわれる状態になり、発熱や関節痛も起こるようになります。

毛孔性紅色粃糠疹の検査と診断と治療

皮膚科や皮膚泌尿器科の医師の診断では、特徴的な紅斑とその分布、経過から判断します。診断を確定するためには、紅斑の一部を切って顕微鏡で調べる組織検査を行います。 鑑別すべき疾患として、脂漏性皮膚炎や乾癬(かんせん)があります。

医師の治療では、副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤が外用剤として多く用いられます。そのほか、活性型ビタミンD3外用剤も使用され、一定の効果が得られています。がさがさがひどい時は、皮膚軟化剤(尿素軟こう)なども併せて用いられます。

重症の場合は、ビタミンA類似物質の内服剤であるレチノイド(チガソン)や、 免疫抑制剤であるシクロスポリン(ネオーラル)が用いられることがあります。ビタミンAの多量の内服が効くこともあります。治りにくい場合は、光線療法(PUVA〔プーバ〕療法)も行われています。

重症の場合には、入院治療を行うこともあります。

🇲🇳蒙古斑

日本人の新生児の9割にみられ、尻や腰、背中の下部に現れる青い染み

蒙古斑(もうこはん)とは、生後1週から1カ月ころまでに、新生児の尻(しり)や腰、背中の下部に現れる青い染み。

胎生期に皮膚の深い部分の真皮に生じたメラノサイト(メラニン細胞)の残存と考えられています。通常は表皮にあって、メラニンという皮膚の色を濃くする色素を作り出すメラノサイトが、表皮に出ていけずに真皮にとどまって増殖しているために、青い染みに見えてしまうのです。

日本人の新生児の9割にみられ、誰でも知っているあざの一種ですが、濃淡には個人差があります。多くは中心が濃くて、境界線付近は薄くはっきりしていません。境界線もはっきりして、ほくろのように濃い蒙古斑もあります。小さいとほくろのようですが、蒙古斑は隆起がないのが特徴です。

この蒙古斑は生後2歳ころまでには青色調が強くなり、その後は徐々に薄くなって、5、6歳までには、遅くとも10歳前後までには自然に消失し、さほど問題にはなりません。

まれに、尻などの通常の部位以外の手足や顔、腹部、背中の上部、胸などにも、青みを帯びた黒色調の蒙古斑が見られることがあります。これは異所性蒙古斑に相当し、通常の蒙古斑よりも消えにくい特徴があります。

といっても、異所性蒙古斑の大半は学童期までに消失することが多く、蒙古斑同様に治療の必要はありません。中には、青い染みが学童期になっても残る場合があります。しかし、その大半は成人期までに消えることが多く、放置しておいてもかまいません。

なかなか消えない異所性蒙古斑が衣服に隠れない露出部などに現れている場合は、子供が気にしてしまうケースもあり、外見的コンプレックスになることがあります。いくつかの側面から考えて、治療の対象にするべきか、皮膚科、皮膚泌尿器科、あるいは形成外科の医師と対処を考えることが勧められます。

なかなか消えない青いあざの中には、まれに異所性蒙古斑ではなく、青色母斑(せいしょくぼはん)であることもあります。この青色母斑の中でも細胞増殖型と呼ばれるものは、幼少時に異所性蒙古斑と区別がつかないこともあり、悪性化することもあって治療法も異なるため、通常の部位以外にみられる青いあざは時々専門医の診察を受けることも必要でしょう。

蒙古斑の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科、あるいは形成外科の医師による診断では、特徴的な色素斑なので、ほとんどは見ただけで診断はつきます。細胞増殖型青色母斑の確定診断は、切除した小結節を顕微鏡を用いて病理組織検査することでつきます。

細胞増殖型青色母斑が疑われる場合は、リンパ節転移を起こすことがあるため、CT(コンピュータ断層撮影)検査やシンチグラム検査(RI検査、アイソトープ検査)といった全身の検査も行う必要があります。

皮膚科、皮膚泌尿器科、形成外科の医師による治療では、通常の蒙古斑の場合、ほとんどが自然に消えるのでそのまま経過をみます。異所性蒙古斑の場合は、悪性化の心配はほとんどないため、見た目の問題で気になるならQスイッチレーザーにより、あざを除去します。

Qスイッチレーザーには、ルビーレーザー、アレキサンドライトレーザー、ヤグレーザーなどがあり、レーザーの種類により多少の効果や経過の違いがみられます。特定のレーザー光線を患部に照射すると、皮膚の中にあるメラニン色素に対してのみ反応するため、周辺の正常な皮膚組織へのダメージを極力抑えながら、あざの元になっているメラニン色素だけを破壊することができます。

いずれのレーザー治療も痛みを伴うため、麻酔シール、注射などを使用して痛みの緩和を行います。治療対象となる異所性蒙古斑の色が濃く、範囲が広い場合、1~2回程度のレーザー照射では終わらない場合もあります。

異所性蒙古斑の治療の難しさは、治療をすべきかどうか、その見極めにあるともいわれています。乳幼児に現れた大半は、成長とともに消えてしまう、あるいは薄くなるケースが多いことから、早い時期に治療を選択してしまうことで、かえって傷跡を残してしまう恐れがあるためです。また、手の甲に境界線のはっきりしない異所性蒙古斑ができた場合、レーザーを照射することで逆に色を目立たせてしまう結果に至ることもあります。

一方で、異所性蒙古斑は、まだ皮膚の薄い幼児期に治療したほうが、レーザーが皮膚内に届きやすく、治療効果が高いといった意見もありますので、担当医とよく相談し、治療の有無を決めるようにします。

細胞増埴型青色母斑が疑われる場合は、原則として、局所麻酔による手術で深く広範囲に切除します。リンパ節転移が見付かった場合には、リンパ節を切除します。

🇦🇹毛細血管腫

出生時から認められ、皮膚の毛細血管の拡張、充血でできる赤あざ

毛細血管腫とは、赤ぶどう酒のような鮮紅色から暗赤色をした平らなあざ。 赤あざの一種で、毛細血管奇形、赤ぶどう酒様血管腫(しゅ)、ポートワイン母斑(ぼはん)、単純性血管腫などとも呼ばれます。

普通は出生時から認められ、形は不規則、境界は鮮明で、滑らかな表面が赤インクで染まったように見えます。顔面に最も多くみられますが、体のいずれの部位にも発生します。皮膚を圧迫すると、赤みは一時的に消えます。乳児の成長に比例して面積が増しますが、それ以上に拡大することはありません。

自然に消えてなくなることはなく、加齢によって色調が濃くなります。また、加齢とともに少し膨らみ、いぼ様の隆起が出現することもあります。

この毛細血管腫は、胎児期における血管の構成上の形成異常により、真皮の上の部分の毛細血管が拡張、充血するために生じます。毛細血管の細胞が増殖することはありません。多くは、美容的な問題があるだけであり、放置してもかまいません。

ただし、この型の大きな血管腫が目の周囲など顔の片側にある時は、スタージ・ウェーバー症候群といって、眼球や脳の中に血管腫が合併することがあり、緑内障、てんかんを生じることがあります。また、片側の腕や下肢に大きな血管腫がある時は、クリッペル・ウェーバー症候群といって、その部分の筋肉や骨の肥大などの合併症がある場合があり、成長とともに患肢の肥大、延長、静脈瘤(りゅう)、動静脈ろうなどが明らかになる場合がありますので、注意が必要です。

乳児に毛細血管腫の症状が認められた場合には、皮膚科、ないし皮膚泌尿器科を受診して、診断を確定するとともに治療法についても相談します。

毛細血管腫の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師は通常、見た目と経過から診断します。毛細血管腫を早期に的確に診断することは、必ずしも簡単ではありません。スタージ・ウェーバー症候群やクリッペル・ウェーバー症候群が疑われる場合には、画像検査などが必要になります。

毛細血管腫に対しては、パルス色素レーザー治療が第一選択です。うすいあざなので、手術をすると残った傷が目立つためです。パルス色素レーザー治療は、従来のレーザー治療に比べて傷跡が残ることが少なく、また効果も優れていますが、まだ完全に赤みを消せるとまではいえません。また、数回以上の照射が必要になることも多いようです。乳幼児期から開始する早期治療が、有効です。

顔面の赤あざが心理的にかなり重荷になる場合は、カバーマークによる化粧で色を隠すのも、選択肢の一つです。

🇨🇮妄想性人格障害

他人に疑いや不信を抱く人格障害

妄想性人格障害とは、思考、感情、行動などの統一性を失う統合失調症に近い特徴を伴う人格障害。他人に対して強い猜疑(さいぎ)心や不信を抱く、人格の著しい偏りにより、対人関係の機能が障害され、自分自身や他人、または両方を苦める傾向が目立ちます。

精神医学の領域において使われる人格障害(パーソナリティー障害)とは、生来持っている人格傾向が思春期、青年期に顕著に出てきて、その人格のために、社会生活を営むことが著しく困難な状態を指します。精神病や不安障害(神経症)とは異なりますが、正常ともいえない、行動や物事の認識の仕方が逸脱した状態です。

人格障害にはさまざまなパターンがあり、時代や国によって分類方法が変わってきます。この妄想性人格障害も、統合失調症質人格障害、統合失調症型人格障害、反(非)社会性人格障害 、境界性人格障害、演技性人格障害、強迫性人格障害、回避性(不安性)人格障害、依存性人格障害など数ある人格障害の中の一種です。

妄想性人格障害は、統合失調症質人格障害、統合失調症型人格障害とともに、統合失調症に近い人格障害に分類されています。これらの人格障害の特徴は、統合失調症のようなはっきりとした精神症状はありませんが、それとよく似た傾向を持っています。自閉的で、妄想を持ちやすく、奇妙で風変わりな傾向があります。

より具体的には、次の7つの兆候のうち、4つ以上の兆候が当てはまるものが、妄想性人格障害と見なされます。 

1. 十分な根拠もないのにかかわらず、他人が自分を利用する、危害を加える、だますという疑いを持つ。

2. 友人などの誠実さや信頼を不当に疑い、それに心を奪われている。

3. 情報をもらすと自分に不利に使われるという恐れのために、他人に秘密を打ち明けようとしない。

4. 悪意のない言葉や出来事の中に、自分をけなす、または脅す意味が隠されていると思い込む。

5. 侮辱された、傷付けられた、または軽蔑(けいべつ)されたと感じると、恨みを抱き続け、相手を許さない。

6. 自分の評判などに敏感に反応し、攻撃されていると感じ取り、すぐに怒ったり、逆襲する。

7. 何の根拠もないのに、配偶者や恋人の貞節に対して疑いを持つ。 

つまり、妄想性人格障害の人は、極端に疑い深く、嫉妬(しっと)心の強い性格で、他人の動機を悪意あるものと解釈する傾向、経験した物事を歪曲(わいきょく)して受け止める傾向、ちょっとした状況の変化に敏感な傾向があります。

他人とのトラブルで憤慨して自分が正しいと思うと、口論に及んだり、法的手段に訴えることもあります。対立が生じた時、その一部は自分のせいでもあることには思い至りません。ほんのささいな言動を取り上げて、裏切られたという反応を起こしたりもします。

相手の弱点や欠点を指摘ばかりするのにもかかわらず、自分のことをいわれると激怒するようなことがあったり、自分の能力、ないし潜在能力について現実離れした妄想を持っていることもあります。

また、人を信頼することができないので、親密な友人はほとんどいないことが多いようです。職場でも概して、距離をとった対人関係を持つことが多く、比較的孤立した状態にあります。中には、親密な対人関係を築いて周りをコントロールしようとするタイプの人もいるようです。

妄想性人格障害者の心と治療

妄想性人格障害の治療には、長い時間がかかります。人格障害は一時的な心の病ではなく、問題が人格といえるほどに発症者の心の奥底まで浸透し、安定していますので、社会適応の妨げとなる特性が短期間で改善されることはあまり望めません。

人格障害の人は何よりも他人を信頼しないので、医師との治療関係に持っていくまでが大変ですし、治療関係自体を良好なまま維持していくのにもちょっとした工夫が必要です。

何らかの精神症状が出ている場合、妄想の内容が過激で生活にかなりの支障が出ている場合には、薬物を投与しながら治療していくほうが好ましいとされます。薬物療法や環境ストレスの低減により、不安や抑うつなどの症状はすぐに軽快します。ただし、薬には症状を緩和させるだけの限られた効果しかなく、人格障害から起こる不安や悲しみなどの感情は、薬で十分に軽減されることはまずありません。

薬物療法や環境ストレスの低減により、不安や抑うつなどの症状を軽減した後、心理・対話療法が行われ、その人独自の思い込みを少しずつ解いていくことが試みられます。

本人は自分の行動に問題があるとは思っていないため、状況に適応していない思考や行動が引き起こす有害な結果に、直面させる必要があります。それにはまず、本人の思考や行動パターンから生じる望ましくない結果を、心理療法士が繰り返し指摘する必要があります。時には、怒って声を張り上げるのを禁じて、普通の声で話させるなど、行動に制限を加えることも必要とされます。

家族の行動は、本人の問題行動や思考に良くも悪くも影響するため、家族の関与は治療に役立ち、多くの場合不可欠でもあります。グループ療法や家族療法、専用施設での共同生活、治療を兼ねた社交サークルや自助グループなどが、社会的に望ましくない行動を変えていく上で役立ちます。

心理・対話療法は通常、不適応行動や対人関係のパターンに何らかの変化がみられるまで、1年以上は続けなければなりません。医師と発症者の間に親密で、協力的な信頼関係ができると、本人はそこから自分の悩みの根源を理解し、不信、ごう慢、人に付け込むといった対人問題の原因となる態度や行動を、より明確に認識するのに役立ちます。一般的に、不適応行動の変化は1年以内に生じますが、対人関係の変化にはなお時間がかかります。

🇩🇰毛巣瘻

肛門の少し上の仙骨部の皮膚の下に、小さな穴が開いている状態

毛巣瘻(もうそうろう)とは、肛門(こうもん)の少し上の仙骨と尾骨の結合部、またはその近辺のの皮膚の下に、1個から数個の小さな穴が開いている状態。毛巣洞、毛巣洞炎とも呼ばれます。

生まれた時から毛巣瘻がある場合は、皮膚の表面から体の内側に向かって管が伸びており、先天性皮膚洞とも呼ばれます。ふだん症状はありませんが、痛みがあって、穴の回りがはれたり、穴から膿(うみ)などが出てきたりする場合は、細菌による炎症が起こっている可能性があります。炎症が起こっている間は、椅子(いす)に座るのが困難になるほどの痛みを伴うこともあります。

穴の回りにはしこりができ、皮膚の下の管の内部には分泌物がたまっていて、時に毛が2、3本認められることがあります。膿が出て時間がたつと炎症が小さくなり、また時間がたつと炎症を起こすことを繰り返すケースも、多くみられます。

この生まれ付きの毛巣瘻では、まれに穴が脊髄(せきずい)神経につながっていたり、脊椎破裂や二分脊椎などといった背骨や脊髄神経の疾患があったりすることもあります。原因は、胎生期に受精卵から臓器ができ上がっていく時の不具合です。

生まれた後に毛巣瘻ができる場合は、座ることによって押さえつけられたり、擦られたりした毛が皮膚の中に埋まり、炎症を起こすことが原因とされています。長時間の運転をする職業の男性の臀部(でんぶ)によく起こりますが、肛門の周囲以外に、わきの下などの毛深い部分にもできます。

体毛の多い人にみられ、多くがホルモン活動の活発な20歳代までに発症します。男女比は3対2といわれています。

炎症を起こした時の症状が痔瘻(じろう)に似ているため、間違えられることもありますが、別の疾患です。原発口や肛門管との連絡が見当たらないことから、痔瘻と区別できます。

毛巣瘻の検査と診断と治療

ふだんは管の中が便などで不潔にならないように気を付けるだけでよいのですが、炎症が起きた場合は肛門科の専門医を受診します。また、生まれ付きの毛巣瘻では、まれに背骨や脊髄神経の疾患があったりする場合もありますので、子供の臀部に小さなくぼみや穴を見付けたら、一度は肛門科を受診することが勧められます。

医師による治療では、炎症が起きている場合には抗生物質や炎症を抑える薬を投与したり、皮膚を切開して膿を出す処置をしたりします。この薬の投与や膿を出す処置だけでは、いったん炎症が治まっても再発する場合が多いとされています。

完全に治すためには、穴から伸びる管やその内部の毛などを、周囲の組織とともに切り取る手術が必要です。手術は、日帰りですむこともあります。

手術をした場合、炎症を起こしていないものは1回でほとんど治りますが、炎症を繰り返しているものは再発することがあります。手術後の再発予防に、局所の剃毛(ていもう)や永久脱毛、除毛クリームの使用なども行われています。

2022/07/20

🇩🇰毛嚢炎

毛穴の奥で毛根を包んでいる毛嚢にブドウ球菌が感染して、発疹が生じる皮膚疾患

毛嚢(もうのう)炎とは、毛穴の奥で毛根を包んでいる一つの毛嚢(毛包)にブドウ球菌が感染して、発疹(はっしん)が生じる皮膚疾患。毛包炎とも呼ばれます。

黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌を主とするコアグラーゼ陰性ブドウ球菌、あるいは両方が同時に、感染する場合があります。毛嚢部にごく軽い傷が付いた場合、皮膚の湿った状態が長く続いた場合、あるいは、副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤を塗っている場合などが、誘因となります。

表在性毛嚢炎と深在性毛嚢炎があり、表在性毛嚢炎の場合は、毛嚢の上部だけの浅い部分の感染症で、個々の発疹は毛嚢に一致した赤い丘疹、ないしは中央にうみを持った膿疱(のうほう)で、回りに赤みがあります。かゆみはなく、痛みもほとんどありません。かみそり負け(尋常性毛瘡〔もうそう〕)や、無駄毛の毛抜きによる処理によって生じる一つ一つの丘疹も、表在性毛嚢炎に相当します。

深在性毛包炎は、毛包の奥深い部分の感染症で、丘疹や膿疱の部分がやや硬く触れる根を持ちます。せつ(おでき)の軽度のものに相当し、軽い痛みがあり、表皮ブドウ球菌より黄色ブドウ球菌による場合が多いようです。

毛嚢炎は、首の後ろ、太もも、尻(しり)などにできることが多く、1個あるいは数個~数十個になることもあります。

ブドウ球菌の感染による炎症が毛嚢とその周囲、皮下の脂肪組織にまで及ぶと、せつ、ように移行する可能性があります。せつは、毛嚢に一致した小さな赤いしこりで始まり、次第に大きくはれ、鶏卵大までの自発痛、圧痛のある赤いしこりとなり、その中心にうみの集合した膿栓を作ります。顔面にできたせつは、特に面疔(めんちょう)と呼ばれています。

ようは、せつが数個以上集合したものをいいます。それと同時に、周囲のリンパ腺(せん)もはれ、激しい時には、全身の発熱を伴うこともあります。ようはせつより症状が重いことが多く、大抵はうみが出て治った後、皮膚に瘢痕(はんこん)が残ります。できることが多いのは、首の後ろ、肩、尻、太もも。

毛嚢炎がたまにできる程度であれば、気にすることはありません。次々とたくさんできる場合は、毛嚢炎ができる切っ掛け、例えば首筋や太ももではいつも衣類で皮膚が刺激を受けていないかどうか、副腎皮質ステロイド剤を必要以上に塗っていないかを考えてみましょう。

思い当たる誘因もなく、長く続くようであれば皮膚科、あるいは皮膚泌尿器科の医師を受診しましょう。

毛嚢炎の検査と診断と治療

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、膿疱のうみを培養すると、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌を主とするコアグラーゼ陰性ブドウ球菌、あるいは両方の菌が検出されます。

にきび(尋常性痤瘡〔ざそう〕)の一つ一つの丘疹は毛嚢炎ですが、にきびは毛嚢炎、黄白色に見える毛穴が詰まった状態で炎症がない面皰(めんぽう)、にきび痕(こん)が混在している状態をいい、思春期の人たちの顔、胸、背中の上部に多くみられます。

あせもにブドウ球菌が感染して起こるエクリン汗孔(かんこう)炎や汗孔周囲炎は、毛嚢炎に似ていて区別は難しいのですが、乳幼児の首周囲や肘(ひじ)の内側など汗のたまりやすい場所にみられ、夏に多いことが診断の参考となります。

皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、丘疹の数が少ない場合には無治療で経過を観察することがあります。特に治療をしなくても、患部を清潔に保つことで自然に治ります。

次から次にたくさんできる場合や、痛みがあり、せつ(おでき)に近いものは、化膿止めの抗菌剤を3~4日間内服します。

なお、せつ、ようの治療としては、抗菌剤を内服し、痛みの強い時には消炎鎮痛剤を併用し、局所の安静を行います。化膿が進んでいる時には、メスで切開排膿したほうが治りが早く、痛みも楽になります。ようでは、抗菌剤の点滴注射を行うこともあります。

🇩🇰網膜芽細胞腫

眼球内の網膜にできるがんで、ほとんどが3歳までに発症

網膜芽細胞腫(しゅ)とは、眼球内の網膜にできるがん。ほとんどが3歳までに発症します。

網膜は、眼球の後ろ側にあって、光の像を結ぶフィルムに相当するところです。ここに網膜芽細胞腫ができると視力が低下しますが、乳幼児の場合は視力の状態がよくわかりません。網膜の黄白色の腫瘍(しゅよう)が光に反射して、ネコの目のように白く光って見えることで、家族に発見されることがよくあります。

発症の割合は1万6000人に1人。多くは片側の目だけにできますが、両目にできることもあり、両眼性のものは優性遺伝形式で遺伝することがわかっています。片眼性のものの中にも、遺伝に関係したものが一部あります。染色体の13番目の長腕の部で、がんを抑制する遺伝子が欠失している時に発症します。

両眼性のものは6カ月未満に発症し、片眼性のものは1歳以後に発症する傾向があります。疾患が進行すると、眼球の外へ広がったり、視神経を通って脳に転移することが多く、リンパ節や骨などに転移することもあります。

初期の段階ではあまり症状がありませんが、ある程度進行すると暗い所でネコの目のように瞳(ひとみ)が光って見えます。網膜の中心にがんができると物を見詰めることができなくなり、瞳の位置がずれる斜視になることもあります。そのほか、結膜の充血、視力の低下や、緑内障を起こして目を痛がることもあります。脳に転移すると、頭痛や嘔吐(おうと)を起こします。

網膜芽細胞腫の検査と診断と治療

乳幼児の目がネコの目のように光って見える時は、急いで眼科を受診します。遺伝性があるので、家族に発症者がいる場合は乳幼児の目の様子を時々観察します。小児がんの中では治癒率が高いがんなので、初期のうちに発見することが望まれます。

医師の側では、網膜芽細胞腫の疑いがある場合は子供に全身麻酔を施し、水晶体と虹彩(こうさい)を通して両目の網膜を観察して検査します。CT検査やMRI検査でも、がんは特定できます。いずれの検査でも、がんが脳に転移しているか否かを確認できます。脳脊髄(せきずい)液を採取して調べ、中にがん細胞が検出された場合は、がんが脳に転移した兆候となります。骨髄も採取して検査します。

腫瘍が小さく視力が十分に残っている場合には、眼球をそのままにして、レーザー光凝固や冷凍凝固、抗がん剤による化学療法、放射線照射などを行います。がんが大きくなっている場合は、手術で眼球を摘出することになります。摘出した後は、義眼を装着します。両眼性の場合は進行の遅いほうの眼球をできるだけ残し、片側だけを摘出します。

発見が遅れてがんが眼球の外にまで広がらなければ、生命はまず助かります。治療後は2〜4カ月ごとに目の診察を行い、がんの再発がないかどうかを調べます。遺伝性の網膜芽細胞腫がある子供は、がんが再発する率がかなり高くなります。

網膜芽細胞腫がある子供の近親者は、定期的な眼科検診を受けるほうがよいでしょう。家族内のほかの子供は網膜芽細胞腫の検査を、家族内の大人は網膜細胞腫の検査を受けます。網膜細胞腫とは、同じ遺伝子から起こる非がん性の腫瘍です。がんの症状がみられない家族は、網膜芽細胞腫の遺伝子がないかどうかを調べるDNA分析検査を受けることもできます。

🇨🇮網膜色素変性症

網膜の中の視細胞が障害される疾患

網膜色素変性症とは、目の中で光を感じる組織である網膜に異常がみられる疾患。遺伝性、進行性で、夜盲を来す疾患の中でも特に重要なものです。

通常、日本人の4000~8000人に1人の割合で、起こるといわれています。比較的多めに見積もるとおよそ5000人に1人、少なめに見積もるとおよそ10000人に1人と考えられます。

一般的に、幼年期から思春期ごろ両眼性に発症します。初期は、夜間や暗い場所での視力、視野が著しく衰え、目がよく見えなくなる夜盲、俗に呼ばれる鳥目が主です。生活環境によっては、夜盲に気が付きにくいことも多いようです。

最初に、視野狭窄(きょうさく)が起こることもあります。人にぶつかりやすくなったり、車の運転で支障が出たりといったことが、視野が狭くなっていることに気付くきっかけになります。

最初に夜盲を起こした人も徐々に進行すると、視野が周辺部から狭くなってきます。続いて、視力の低下を自覚するようになり、色覚の異常を自覚する場合もあります。この視力低下や色覚異常は、後から出てくるのが典型的です。

なお、ここで視力というのは、網膜の能力を表す矯正視力、すなわち眼科でレンズを使用して測定する視力のことです。裸眼視力の低下は、疾患の進行や網膜の能力と関係ありません。

進行はゆっくりですが、40~50歳ごろになると、視野狭窄が顕著なため、竹の筒から外を見るような感じになり、一人で歩くことが困難になります。

この網膜色素変性症では、目の中にあってカメラでいえばフィルムに相当する網膜に存在している各種の細胞のうち、視細胞が最初に障害されます。視細胞は目に入ってきた光に最初に反応して、光の刺激を神経の刺激である電気信号に変える働きを担当しています。電気信号は視神経から脳へ伝達され、人間は物を見ることができるわけです。

視細胞には、大きく分けて二つの種類の細胞があります。一つは網膜の中心部以外に多く分布している杆体(かんたい)細胞で、この細胞は主に暗いところでの物の見え方や、視野の広さなどに関係した働きをしています。もう一つは網膜の中心部である黄斑(おうはん)に分布して錐体(すいたい)細胞で、この細胞は主に中心の視力や色覚などに関係しています。

網膜色素変性症では、二種類の視細胞のうち杆体細胞が主に障害されることが多いために、暗いところで物が見えにくくなったり、視野が狭くなったりするような症状を最初に起こしてくるのです。

視細胞や、視細胞に密着している網膜色素上皮細胞に特異的に働いている遺伝子の異常によって、網膜色素変性症は起こるとされています。遺伝が関係する場合、血族結婚の子供に多くみられ、いろいろな遺伝形式をとることが知られています。

しかし、明らかな遺伝傾向が確認できる人は全体の50パーセントで、後の50パーセントの人では確認できず、親族に誰も同じ疾患の人がいません。その遺伝が確認できない場合でも、体を作っているさまざまな物質の設計図に当たる遺伝子のどこかに異常があると考えられ、ほとんどは何らかの形で遺伝と関係するものと捕らえるべきです。

遺伝傾向が確認できる人のうち最も多いのは、常染色体劣性遺伝を示すタイプで、全体の35パーセント程度を占めます。次に多いのが、常染色体優性遺伝を示すタイプで、全体の10パーセント。最も少ないのが、X連鎖性遺伝(X染色体劣性遺伝)を示すタイプで、全体の5パーセント程度となっています。少し特殊になりますが、ミトコンドリア遺伝を示すタイプもあります。常染色体性の遺伝では、発病に性差がほとんどみられません。

常染色体劣性の遺伝の仕方は、両親に同じ疾患が認められず、兄弟姉妹に同じ疾患の人がいる場合に疑われます。両親が血族結婚であったり、同じ地域の出身同士、親戚同士であったりすると、可能性が高くなります。父親由来の遺伝子と母親由来の遺伝子がありますが、常染色体劣性遺伝の仕方をとる場合は片方の変化だけでは発症せず、網膜色素変性症を起こす遺伝子の同じ変化を両親からそれぞれ受け取ると発症します。

常染色体優性遺伝は、親子で同じ疾患がある場合に疑われます。両親から受け取った遺伝子のどちらか片方にある変化によって、疾患を発症します。網膜色素変性症を持つ人から子供へ、同じ遺伝子の変化が伝わる確率は、50パーセントとなります。

X連鎖性遺伝は、通常男性が網膜色素変性症を発症します。その場合、祖父が同じ疾患で、その娘に当たる母親が遺伝子異常を持っているが、発症しない保因者という形をとります。保因者の母親を詳しく検査すると、軽い変化が見付かることがあっても、自覚症状はほとんどありません。

以上のタイプの遺伝傾向が確認できる場合、原因となる遺伝子異常には多くの種類があり、それぞれの遺伝子異常に対応した網膜色素変性症の型があるため、症状も多彩となっています。

基本的には進行性の疾患ですが、症状の進行の早さにも個人差がみられます。さらに、症状の起こる順序や組み合わせにも個人差がみられ、最初に視力の低下や色覚の異常を自覚し、後になって夜盲を自覚する人もいます。

他の目の病気も合併します。水晶体が濁ってくる白内障は高齢になると増える病気ですが、網膜色素変性症の一部の人では、より若い時から起こるために見づらくなることもあります。白内障の治療は 通常の手術と同じように行なうことができます。

網膜色素変性症を発症してから長い経過の後に、矯正視力0.1以下の字が読みにくい状態になる人は多いのですが、暗黒になる人はあまり多くありません。

網膜色素変性症の検査と診断と治療

同じ網膜色素変性症であっても、それぞれの遺伝子異常に対応した型があり、症状も多彩で、症状の進行の早さにも個人差があることを、十分に理解して下さい。その上で、自分の疾患の重症度や進行度を、専門医に診断してもらうとよいでしょう。

医師の側が進行度をみるためには当然、1回の診察だけでは診断が不可能です。定期的に何回か診察や検査を受けて初めて、その人の進行度を予想することができます。

網膜色素変性症の人の眼底を検査すると、灰白調に混濁し、黒い色素斑(はん)が多数散在しています。網膜電位図検査で波形が平坦(へいたん)化することから、診断は比較的容易です。

網膜色素変性症には現在のところ、網膜の機能を元の状態に戻したり、確実に進行を止める根本的な治療法はありません。対症的な治療法として、遮光眼鏡の使用、ビタミンAやその仲間の内服、循環改善薬の内服、低視力者用に開発された各種補助器具の使用などが行われています。

通常のサングラスとは異なるレンズを用いている遮光眼鏡は、明るいところから急に暗いところに入った時に感じる暗順応障害に対して有効であるほか、物のコントラストをより鮮明にしたり、明るいところで感じる眩(まぶ)しさを軽減したりします。

ビタミンAは、アメリカでの研究で網膜色素変性症の進行を遅らせる働きがあることが報告されています。しかし、この効果についてはさらなる検討が必要と見なされ、通常の量以上に内服して蓄積すると副作用を起こすこともあります。

循環改善薬の内服による治療は、必ずしも全員に対して有効であるわけではありません。内服によって、視野が少し広がったり、明るくなる人もみられます。

確実な治療法がない現在、大切となるのは、非常に進行の遅い眼科疾患であることを理解して視力や視野の良いうちから慌てないこと、矯正視力や視野検査結果を理解して自分の進行速度を把握すること、進行速度から予測される将来に向けて準備をすること、視機能が低下してきても各種補助器具を用いて残存する視力や視野を有効に使い生活を工夫することです。

補助器具のうち拡大読書器などを使えば、かなり視力が低下してからも字を読んだり、書いたりすることが可能です。コンピューターの音声ソフトを使えば、インターネットに接続したり、メールを送受信することも可能です。

さらに、遺伝子治療、網膜移植、人工網膜など、網膜色素変性症を治療するための研究が、主として動物実験で行われています。これらの治療法はまだ実際に誰に対しても行える治療法とはなっていませんが、その成果は次第に上がってきています。

アメリカとイギリスでは2007年から、常染色体劣性遺伝を示す原因遺伝子の一つであるRPE65の変化で起こり、子供のころから発症する重症な網膜色素変性症の遺伝子治療が、少数の患者で試みられています。安全性の確認とその効果について検討されていて、有効性が期待できそうであるという報告がされています。

また、網膜の視細胞をできるだけ長生きさせるように、神経保護因子を長く作り続ける細胞を入れた小さなカプセルを、目の中に埋め込む治療も試みられています。

日本ではまだ、これらの治療は始められていませんが、新しい治療への動きは着実に始っています。

網膜色素変性症は、厚生労働省の事業の一つである医療費助成制度の適応疾患です。矯正視力が0.6以下で視野の障害がある場合、本人の申請があれば医師が難病患者診断書、網膜色素変性臨床調査個人表を記載します。それを管轄の保健所に提出し、基準を満たすと判断されれば、医療費の助成を受けることができます。詳しくは、担当医に相談して下さい。

🇦🇹網膜硝子体出血(眼底出血)

外から見てもわからない眼球内の出血

網膜硝子体出血とは、網膜表面の血管が破れたり、ふさがったりすることで起こる眼球内の出血。眼底出血とも呼ばれますが、これは病名でなく、眼底のいろいろな疾患の時にみられる異常所見の一つです。

網膜硝子体出血は、網膜出血や脈絡膜出血、硝子体(しょうしたい)出血など、眼底の網膜から硝子体にみられる出血を指します。 眼底とは、瞳(ひとみ)から入った光が突き当たる眼球の奥の部分のことで、肉眼で見えるものではありません。普通の充血や結膜下出血をみて、網膜硝子体出血、すなわち眼球出血と誤解して慌てる人もいますが、結膜と眼底の血管はつながっていませんし、出血の原因も異なります。網膜硝子体出血は、外から見てもわからないものなのです。

出血の量自体は微小で、貧血などの原因となるものではありません。視力と関係ない網膜の周辺部にごくわずかな出血があって、痛みもない場合には気付かないこともありますが、多くは視野の変化や飛蚊(ひぶん)症を自覚します。さらに、出血が網膜の中心に位置する黄斑(おうはん)部に及んだ時や、硝子体全体に広がった時には、重度の視力障害を来すこともあります。

網膜硝子体出血の原因として代表的なものは、高血圧や動脈硬化と関係の深い網膜中心静脈閉塞(へいそく)症で、静脈が閉塞や狭窄(きょうさく)を起こして出血します。

このほか、静脈の炎症による網膜静脈周囲炎(イールズ病)、糖尿病性網膜症、高血圧性網膜症、腎臓(じんぞう)病や妊娠中毒症に伴う網膜症、白血病やそのほかの血液の疾患、加齢黄斑変性、ぶどう膜炎、外傷時の網膜裂孔(れっこう)などでも、網膜硝子体出血がみられます。

 網膜組織の出血部位によって、 網膜前出血、網膜色素上皮下出血、網膜深層出血、網膜下出血、脈絡膜出血などに分類されます。これらの分類は、出血部位の色調、辺縁の性状によって可能です。

網膜はいくつかの種類の神経細胞が複雑に連絡し、それぞれの細胞が規則正しく配列している組織であり、一定の厚みを持っていますので、網膜のどの層、どの部位からの出血であるかによって色調、性状が異なってくるからです。例えば、網膜前出血は半円形、網膜深層出血は斑(はん)状あるいはしみ状となり、脈絡膜出血は暗赤色を示します。

網膜硝子体出血の検査と診断と治療

網膜硝子体出血(眼底出血)では、網膜の周辺部にごくわずかな出血があって、痛みもない場合には自覚症状もないため、検査などで見付かっても本人はあまり深刻に考えず、軽視する傾向があります。しかし、網膜硝子体出血は、ほかの重大な疾患を見付ける目安ともなる症状の一つ。眼底検査を受けることで、こうした全身の疾患を発見できることも少なくありません。

 医師に網膜硝子体出血と診断された場合、すぐに治療が必要なものもありますので、指示に従って対処することが大切です。

網膜硝子体出血の治療法は、症状や原因によって異なります。糖尿病や高血圧などが原因で起こった場合は、飛蚊症の症状がみられます。この場合の治療は、まず原因となる糖尿病や高血圧などの疾患の治療から行い、安静と止血剤などで出血を抑えて吸収させます。

出血が軽いものなら自然に吸収されることもありますが、出血がひどい場合や硝子体に濁りが起こると、視力障害が起こる場合があります。この場合の治療は、止血剤や血管強化剤などの投与が行われたり、レーザー光での凝固術が行われます。レーザー光凝固術は、出血部の網膜を焼き固めて、網膜の血流をスムーズにし、出血の吸収と再出血を防止させるために有効です。

それでも出血の吸収傾向がみられない時には、硝子体切除術を行ない、出血で濁った硝子体を取り除いて、視力回復を試みます。硝子体切除術は、まず角膜の周辺から特殊な器具を挿入し、目の奥にたまっている血液や濁った組織、またゼリーのような硝子体も切除、吸引します。

硝子体は眼球の丸みを保つために必要な組織ですから、切除すると同時に、代わりの液体やガスを注入する必要があります。この方法は、硝子体置換術と呼ばれます。

硝子体手術を行った後は、出血や術後感染症、角膜混濁、網膜剥離(はくり)などの合併症に十分注意する必要があります。医師の指示を守り、しばらくは安静に過ごすことです。

🇧🇼網膜静脈閉塞症

網膜の静脈が詰まり、眼底出血などを引き起こす眼疾

網膜静脈閉塞(へいそく)症とは、網膜の静脈に血栓ができて、血液の流れが悪くなる眼疾。多くの場合、高血圧や動脈硬化などが原因で起こります。

網膜の静脈が血栓で詰まると、その部分から末梢(まっしょう)にかけての静脈が拡張して曲がりくねり、血液が血管外にあふれ出して眼底出血や、むくみを引き起こします。発症のピークは60~70歳代ですが、40~50歳代と比較的若い年代にも見られます。

この網膜静脈閉塞症は、詰まる部位によって網膜中心静脈閉塞症と網膜分枝静脈閉塞症の2種類に分けられます。一般に、網膜中心静脈閉塞症では、症状が強く出ます。網膜分枝静脈閉塞症では、血栓で詰まる部位によって症状の現れ方が違い、全く自覚症状がないことも珍しくありません。

網膜中心静脈閉塞症は、網膜の一番太い静脈である中心静脈が閉塞するもの。高血圧や動脈硬化、視神経の炎症などが原因となって起こりますが、さらに非虚血性と虚血性の2種類に分けられます。

非虚血性の網膜中心静脈閉塞症は、網膜の出血も軽度で、毛細血管の閉塞のないものをいい、若い人にもみられます。出血が起こっても、著しい視力の低下がなければ、治療によって改善することもあります。一方、虚血性の網膜中心静脈閉塞症は、出血が多いものをいい、非虚血性より圧倒的に多い頻度でみられます。

虚血性の網膜中心静脈閉塞症は、次のような形で起こります。心臓から送られた血液が通る動脈と、心臓へ戻る血液が通る静脈は、どちらも視神経の中を通って枝のように網膜に張り巡らされています。その動脈と静脈は、視神経の中で同じ鞘(さや)に包まれています。動脈に硬化が生じると、硬くなった動脈が同じ鞘にある中心静脈を圧迫することから、網膜全体の血の戻りが悪くなり、静脈の内圧が上がって、血液が網膜全体にあふれ出てきます。また、出血のために、網膜にむくみも起こってきます。

出血やむくみが、網膜の中心部の黄斑(おうはん)部に及ぶと、視力が低下します。一般的には、視力が0.1、もしくはそれ以下にまで下がり、ほとんどの場合、 視力が元に戻ることはありません。出血が全体に広がり、出血性緑内障を合併すると、眼圧の上昇で視神経が圧迫されて傷付き、失明につながることもあります。

網膜分枝静脈閉塞症は、視神経乳頭から4方向に枝分かれしている4本の太い静脈である上耳側静脈、下耳側静脈、上鼻側静脈、下鼻側静脈のいずれかに閉塞が起こるもの。糖尿病と並んで眼底出血を起こす代表的な疾患で、発症者の数も網膜中心静脈閉塞症の約10倍と、圧倒的に多くみられます。

原因は、動脈硬化です。網膜のあちこちにある動脈と静脈の交差部分に、動脈硬化が起こると、静脈が圧迫されて血流が悪くなります。それによって、その先の毛細血管の内圧が上がり、出血やむくみを引き起こします。

最も閉塞が起こりやすいのは、黄斑部の中心窩(か)の上を走っている上耳側静脈。 ここに閉塞が起こると、黄斑部に出血やむくみがかかりやすく、視野欠損や視力低下が起こる確率が高くなります。 逆に、鼻側の静脈に閉塞が起きても、ほとんど自覚症状はみられません。そのため、静脈から出血しても気が付かず、他の疾患の検査などで閉塞が見付かるケースがかなりあります。

また、網膜分枝静脈閉塞症では、硝子体(しょうしたい)出血を合併することもあり、目の前に黒いゴミのようなものがチラチラ見える飛蚊(ひぶん)症などの症状が現れます。出血量が多ければ、失明することもあります。

網膜静脈閉塞症の検査と診断と治療

視野欠損や視力低下を最小限に抑えるには、なるべく早めに眼科を受診して、適切な治療を受けることが必要です。

眼底検査を行えば、容易に診断はつきます。検眼鏡などを使って眼底を見ると、典型的な網膜中心静脈閉塞症の場合は、視神経乳頭を中心に放射状の出血が認められるほか、静脈の拡張と蛇行が認められます。また、上耳側の静脈に閉塞が起きている網膜分枝静脈閉塞症の場合は、詰まった部位を要にした扇形の出血、上耳側静脈の拡張と蛇行、細動脈の硬化が認められます。

眼底検査では毛細血管までは調べることができないため、造影剤を血管に入れて、眼底カメラで網膜の血管の閉塞の場所や程度を詳しく観察する蛍光眼底検査も行われます。

治療としては、非虚血性の網膜中心静脈閉塞症で視力が比較的保たれている場合には、血管強化薬(ビタミンC)、むくみを取る消炎薬、血流を改善する抗血小板薬などを内服する薬物療法が行われます。これで出血が止まらず、視力の低下がみられる場合には、レーザーで出血やむくみを吸収するレーザー光凝固が行われます。

虚血性の網膜中心静脈閉塞症の場合は、治療をしても視力の回復はほとんど望めません。しかし、そのまま放置すると、出血性緑内障を合併することが多いので、予防のためにレーザー光凝固が行われます。同時に、原因となる高血圧や動脈硬化の治療も行われます。

網膜分枝静脈閉塞症の場合には、非虚血性の網膜中心静脈閉塞症と同じく、まず薬物治療が行われるのが一般的。薬で出血が吸収されない場合は、やはりレーザー光凝固が行われます。

網膜の出血した部位やむくみの多い部位にレーザーを照射して、出血やむくみを網膜の外側の組織である脈絡膜側に吸収させます。ただし、黄斑部の中心窩(か)にはレーザーを照射できないため、中心窩に出血やむくみがある場合は、近くまで照射して間接的に吸収させます。

出血やむくみが吸収されれば、視力は改善します。ただし、黄斑部の出血やむくみを長期間放置すると、治療で出血が吸収できても視力の改善は難しくなりますので、発症後3~4カ月以内には治療することが求められます。

網膜分枝静脈閉塞症で硝子体出血を合併した場合は、硝子体切除術が行われ、出血で濁った硝子体を取り除いて、視力回復を試みます。硝子体切除術は、まず角膜の周辺から特殊な器具を挿入し、目の奥にたまっている血液や濁った組織、またゼリーのような硝子体も切除、吸引します。硝子体は眼球の丸みを保つために必要な組織ですから、切除すると同時に、代わりの液体やガスを注入する必要があります。この方法は、硝子体置換術と呼ばれます。

硝子体手術を行った後は、出血や術後感染症、角膜混濁、網膜剥離(はくり)などの合併症に十分注意する必要があります。医師の指示を守り、しばらくは安静に過ごすことです。

♍網膜前膜

網膜の黄斑部の手前に膜が癒着し、物がゆがんで見えたり、視力が低下する疾患

網膜前膜(ぜんまく)とは、網膜の中心部の黄斑(おうはん)部の手前に線維性の膜が癒着した結果、網膜にしわが生じ、物がゆがんで見えたり、視力が低下する疾患。黄斑前膜、黄斑上膜、偽黄斑円孔(えんこう)とも呼ばれます。

加齢に伴う老化現象のほかに、他の眼底の疾患に続いて、あるいは網膜剥離(はくり)や網膜裂孔の治療後に生じることもあります。

老化現象による網膜前膜の場合は、50歳、60歳代に多く、女性に多い傾向があります。初期には、血管が膜に引っ張られて蛇行するものの、膜が透明のために視力などは正常で自覚症状はありません。進行して、膜の厚みが増したり、網膜の収縮の度合いが増して、網膜にしわが生じたり、網膜がずれたり、網膜の中心部の中や下に水がたまったりすると、物がゆがんで見えたり、大きく見えたり、霧がかかったように見えたり、視力が低下したります。

線維性の膜ができる原因は、網膜に接している硝子体(しょうしたい)の加齢による変化です。眼球の内部は透明なゼリー状の物質である硝子体で満たされていますが、硝子体は年齢とともに少しずつ液体に変化して、体積が小さくなってきます。そのために、60歳くらいになると硝子体が眼底から離れてきます。これは誰にでも起きる状態で、後部硝子体剥離といい、物がチラチラ見えるようになります。

硝子体と網膜の癒着が強いと、うまく離れないで硝子体の一部だけが網膜に張り付いてしまいます。残った硝子体の一部から、新しい細胞が増殖してきたり、眼球内のごみが付着して、少しずつ膜を作ってきます。これが黄斑部の手前を覆う前膜です。

網膜前膜では、網膜の黄斑部に穴が開く疾患である黄斑円孔のように視野の中心が全く見えなくなることはありませんが、頻度的には黄斑円孔よりも多くみられます。

網膜前膜が自然に治る可能性は5パーセント程度とされていますので、物がゆがんで見えたり、視力が低下するなどの自覚症状がある場合は、眼科を受診し手術を受けたほうが、症状が改善する可能性が高くなります。

網膜前膜との検査と診断と治療

眼科の医師による診断では、眼底検査で簡単に網膜前膜と確定できます。OCT(光学的干渉断層計)を使用すれば、黄斑部の手前を覆う前膜の下にある網膜の状態をきれいに映し出すことができ、有用です。

眼科の医師による治療では、硝子体手術が唯一の方法となります。網膜前膜を薬で改善させることはできませんし、進行を止めることもできませんので、疾患が進行したら、手術が必要になります。最近では、手術法の進歩によりかなり治せるようになってきました。

手術をする場合、視力がかなり低下してしまってからだと、膜を除去しても視力がよくならないことがあります。ただし、急に悪化するような疾患でもないので、急を要することもありません。ゆがみが気になったり、視力低下が気になるようなら手術を行います。視力の目安としては、0・6くらいと考えられます。

適切な時期を選んで手術を行い、硝子体を取り除き、黄斑部の手前に癒着している薄い膜を除去すれば、視力は正常になります。薄い膜を除去した後の網膜の状態によっては、眼球内にガスを注入して終了することがあり、その際は手術後、うつ伏せの姿勢を保つ必要があります。

手術の合併症として一番多いのが、白内障です。多くの場合、白内障も同時に手術します。手術法が進歩した最近では、内境界膜という網膜の最表面にあり、後部硝子体皮質と接する膜を併せて取り除く方法が広まっており、網膜前膜の再発は少なくなっています。

手術後、視力が落ち着いてくるのは、半年から1年です。最終的な視力は、手術前の状態によりさまざまですが、物がゆがんで見える変視症は手術後も残ることが多く、改善するのは50パーセントくらいにとどまります。

♐網膜動脈硬化症

全身性の動脈硬化症に伴う病変が、網膜動脈に起こる疾患

網膜動脈硬化症とは、全身性の動脈硬化症に伴って、病変が網膜動脈に起こる疾患。

全身に張り巡らされた血管は、その内腔(ないくう)を休むことなく血液が流れているため、早くから動脈硬化などの異常が出やすい組織です。動脈硬化は老化現象の一つと考えられていましたが、近年では若い人にも起こることがわかってきました。

動脈は弾力性に富んで、高い血圧にも耐えられるようになっていて、簡単には詰まったり、破れたりはしません。しかし、高血圧が何年も続いたりすると、動脈は次第に弾力を失い、血管壁の性質も変化して厚くなり、もろくなったり、内腔が狭くなったり、詰まったりするといった病的な変化が起こることがあります。この病態を総称して動脈硬化症といい、この病変が網膜に栄養や酸素を送っている網膜動脈に起こったものが、網膜動脈硬化症に相当します。

この網膜動脈硬化症の自覚症状は、まずありません。よくあるのは、内科で高血圧の治療を受けている人が、眼底検査のために眼科を受診して、初めて網膜動脈硬化症を指摘されるケースです。網膜動脈の硬化が起こっていると、動脈の壁が厚くなり、血液の流れが細くなったり、厚くなった動脈壁に静脈が圧迫されるため、動脈と静脈が交差している部分がくびれて見えます。動脈硬化が進むと、動脈の壁は白く濁って見えます。

網膜動脈硬化症のために視力が低下することはほとんどありませんが、動脈の内腔が詰まる網膜動脈閉塞(へいそく)症、静脈が強く圧迫されて血流障害が起こる網膜静脈閉塞症、視神経へ栄養を送る血管の循環障害、すなわち虚血によって視機能の低下が生じる虚血性視神経症など、視力が低下する疾患の原因になったり、脳梗塞(こうそく)になる前の段階ともいわれているので、注意が必要です。

網膜動脈硬化症の検査と診断と治療

眼科の医師による網膜動脈硬化症の診断は、目の網膜を眼底カメラや眼底鏡という器具で直接見る眼底検査を行うことで確定します。健康な人の眼底の動脈と静脈はその血管壁が透明なため、眼底検査を行うと、流れる血液の色が見えます。動脈血は静脈血より赤いため、容易に見分けられます。

眼底の動脈と静脈は所々で交差しており、網膜動脈が硬化すると、コレステロールなどの沈着により動脈の壁が厚くなり、動脈の下で交差している静脈の血管がちょうど途中で遮られたように見えます。これを交差現象といい、動脈硬化を示す重要な所見となります。また、硬化が進んだ動脈の壁は透明性を失い、白く濁って見えます。時には、銅線や銀線のように見えることもあります。 これらの変化は、医学的にいくつかの段階に分類され、内科での診断や治療の参考にされます。

網膜動脈硬化症の治療では、原因となっている何年も続く高血圧の解消、動脈硬化のコントロールなどの内科的治療を中心に行って、これ以上動脈硬化が進行しないようにします。初期のうちに治療を受ければ、悪化せずにすみます。降圧剤などの薬だけでなく、食事を始めとした生活についても医師の指導、注意をよく守って改善し、定期的に眼底検査を受けるようにします。

♌網膜動脈閉塞症

網膜に栄養を送る血管が詰まって、血液が流れなくなる眼疾

網膜動脈閉塞(へいそく)症とは、網膜に栄養を送る血管である網膜動脈が詰まって、血液が流れなくなる疾患。目の疾患としては、重いものの一つです。

血液の供給が途絶えた網膜の細胞は、酸素不足に陥って壊死(えし)を生じます。詰まる部位によって、網膜中心動脈閉塞症と網膜分枝動脈閉塞症があります。詰まり方には、血栓と塞栓があります。血栓は、動脈の中に血の塊ができて内腔(ないくう)をふさぎます。塞栓は、心臓など他の部位から血の塊が流れてきて、動脈が詰まります。

年齢が高いほど起こりやすく、加齢による血管や血液の変化が基礎にあると考えられます。糖尿病、高血圧症、動脈硬化症、心臓弁膜症の人は、起こる率が高くなります。

若い人にも起こることがあり、その場合の原因には膠原(こうげん)病など自己免疫疾患、動脈の炎症、経口避妊薬の内服などがあります。

血の通わなくなった網膜はすぐに機能を失うので、症状は突然現れます。網膜中心動脈閉塞症では、痛みはないものの、閉塞が生じた側の目の視野全体が暗くなり、視力も大きく低下します。分枝動脈閉塞症では、閉塞した部分に対応する視野が暗くなります。閉塞した部分に網膜の中心が含まれれば視力は低下し、含まれなければ低下しません。

一瞬、片方の目が暗くなってしばらくして治るというような前駆症状が何回か起こり、その後本格的に発症することもあります。

網膜中心動脈閉塞症では、網膜は乳白色に濁り、動脈は異常に細く、視神経が眼底に顔を出している部分の視神経乳頭も真っ白になっています。この状態が続くと、その後に血液が流れるようになっても、網膜の機能は回復しません。再発することも珍しくありません。

網膜動脈閉塞症の検査と診断と治療

早期発見が大切で、緊急に治療を必要とする疾患です。特に、一過性に目の前が暗くなるような症状が現れたら、すぐに眼科を受診し、診断と治療を受ける必要があります。

検眼鏡による眼底検査で、ほとんど診断できます。網膜中心動脈閉塞症では、網膜全体が白く濁り、中心だけが赤い斑点のように見えます。網膜分枝動脈閉塞症では、閉塞した範囲の網膜が白く濁り、正常な網膜との境目がはっきりわかります。

蛍光色素を静脈から注射した上で網膜の画像を撮影する蛍光眼底検査を行えば、網膜の損傷の程度がよくわかり、治療方針を決めるのに役立ちます。網膜動脈の血液の流れを観察するために、ドップラー超音波検査を行うこともあります。

治療の根本は、網膜が壊死を生じる前にできるだけ早く網膜動脈を拡張させて、血液の流れの回復を図ることです。治療の方法としては、血管を拡張する薬物や血栓を溶かす薬物、副腎(ふくじん)皮質ステロイド薬の内服、点滴を行うのが一般的です。

閉じたまぶたの上から指で目を周期的にマッサージすると、上昇した眼圧が下がることがあります。また、点眼薬で目を麻酔してから、角膜と水晶体との間にある前房に針を刺し、中の液体(房水)を少量抜き取ると、眼圧が急激に下がって血管が拡張することもあります。これを前房穿刺(せんし)といいます。

眼球マッサージや前房穿刺で眼圧が下がると、詰まっている血の塊や塞栓がその場所から離れて。血管の先端方向の細い場所へと移動することがあり、これにより網膜の損傷領域を小さくできます。

視機能が戻るかどうかは、血管が詰まっていた時間の長さによります。早い段階で血流が再開すればかなり見え方は戻りますが、長時間詰まっていると戻りにくくなります。

♎網膜剥離

眼底から網膜が、はがれてしまう疾患

網膜剥離(はくり)とは、何らかの原因で網膜が眼底からはがれて、硝子体(しょうしたい)中に突出する疾患。治療せずに放置した場合、網膜の機能の回復が難しく失明する可能性が高くなります。

どの年齢でも網膜剥離になる可能性がありますが、20歳代と50歳代の近視の人に多いといわれています。男女の性差は、はっきりしていません。

目の奥にある網膜は、物を見るための神経の膜で、厚さ約0.1~O.4ミリ。物を見る時、光は角膜を通って瞳孔(どうこう)から眼球内に入り、水晶体で屈折された後、硝子体を通って網膜に到達します。この時、網膜で感じ取られた光の刺激が視神経を介して脳に伝えられ、見えると認識されます。

網膜の中央に位置して、物を見る中心部分を黄斑(おうはん)と呼び、ここは光に対して非常に敏感な部分です。また、網膜は10層の組織から構成されていて、内側の9層は神経網膜といい、最も外側の1層を網膜色素上皮と呼びます。神経網膜には、光を感じる細胞が並んでいます。

硝子体は、細かい繊維でできたゲル状の透明な物質で、眼球の中に満たされています。光が通りやすく、目の形を保つのに役立っています。

網膜色素上皮と神経網膜の接着は弱いため、何らかの原因で神経網膜が網膜色素上皮からはがれて、硝子体の中に浮き上がってしまうのが、網膜剥離です。

原因はさまざまで、網膜に穴が開くことによって起こるものや、滲出(しんしゅつ)液という水分が網膜の下にたまって起こるものなどがあります。網膜に穴が開く原因として挙げられるのは、老化、高度の近視、網膜の委縮などで、誘因として挙げられるのは、目の外傷、強い体の振動、過労などです。

最も多いのは、網膜に網膜裂孔という穴が開いてしまい、液化硝子体という硝子体の中にある水がその穴を通って、網膜の下に入り込むことで発生する裂孔原性網膜剥離です。中高年になると、硝子体に液化硝子体ができて、眼球の動きとともに硝子体が眼球内で揺れ動くようになっています。硝子体と網膜が強く癒着している部分があると、眼球の動きで網膜が引っ張られ網膜裂孔ができてしまい、液化硝子体が入り込んで網膜がはがれるのです。

また、ボールが目に当たるなど、強い力が目に加わって網膜が剥離してしまう外傷性網膜剥離も、裂孔原性網膜剥離の一つです。

糖尿病網膜症では、出血しやすい血管を含んだ膜が網膜の上にでき、この膜が収縮して網膜を引っ張ると、網膜が剥離してしまう牽引(けんいん)性網膜剥離が起こります。

ぶどう膜といって、眼球の外側の強膜の内側にあって、眼球を覆う脈絡膜、毛様体、虹彩(こうさい)からなる膜に炎症があったり、眼球内に腫瘍(しゅよう)などがあると、網膜血管や脈絡膜から血液中の水分がにじみ出し、網膜下にたまって網膜が剥離する続発性網膜剥離が起こります。これらの病変による場合は、その原因となっている疾患の治療がまず必要となります。

一般に、初めのうちは剥離した網膜の範囲は小さくても、この範囲が時間とともにだんだんと拡大するというような経過をたどります。重症の場合は、すべての網膜がはがれてしまいます。

はがれた網膜は、青灰白色に混濁して、しわが寄り、光の刺激を脳に伝えることができません。また、はがれた網膜には栄養が十分に行き渡らなくなるため、網膜剥離の状態が長く続くと、徐々に網膜の機能が低下してしまいます。そうなると、たとえ手術によって網膜が元の位置に戻せたとしても、見え方の回復が悪いといった後遺症を残すことがあります。

網膜剥離の先行的な症状として、黒い点や小さなゴミのようなものが見える飛蚊(ひぶん)症や、視界の中に閃光(せんこう)のようなものが見える光視(こうし)症を自覚することがありますが、無症状のこともあります。

病状が進んでくると、カーテンをかぶせられたように見ている物の一部が見えにくくなる視野欠損や、見たい物がはっきり見えない視力低下が起きます。網膜には痛覚がないので、痛みはありません。

網膜剥離の検査と診断と治療

飛蚊症や光視症のような網膜剥離の先行的な症状を自覚した場合には、早めに眼科医の診察を受けることが大切です。

網膜剥離で最も大切な検査は、眼底検査です。点眼薬で瞳孔を開き、眼底の様子を調べます。硝子体出血などで眼底が見えない時には、超音波検査を行います。

見えない部分の位置を調べる視野検査も行われます。見えない部分と、病変の部分は対応しています。

網膜裂孔だけであれば、レーザーによるレーザー光凝固術で、高エネルギーの光線を瞳孔を通して送り、網膜を焼いて裂け目の周囲をふさぎ、網膜剥離への進行が抑えられることもあります。

すでに網膜剥離が発生してしまった場合、多くは手術が必要となります。手術には、大きく分けて二つの方法があります。

一つの方法は、目の外から網膜裂孔に相当する部分に当て物をし、さらに穴の周りに熱凝固や冷凍凝固を行って、剥離した網膜をはがれにくくし、必要があれば網膜の下にたまった水を抜くというやり方です。はがれた網膜を目の中から押さえつけるために、眼球内に空気や特殊なガスを注入することがあります。

もう一つの方法は、目の中に細い手術器具を入れ、目の中から網膜剥離を治療する硝子体手術という方法で、網膜に裂け目ができた時に血管からの出血によって濁った硝子体を取り除きます。この方法では、はがれた網膜を押さえるために、ほぼ全例で目の中に空気や特殊なガスを入れます。

眼球内に空気や特殊なガスを注入した場合は、手術後に、うつぶせ姿勢による安静が必要です。空気やガスは軽いので、上方に向かう特性があります。うつぶせ姿勢を保って安静にすることで、空気やガスは網膜を元の位置に戻し、くっつける手助けをします。

手術療法によって、多くの網膜剥離は元の位置に戻す網膜復位が可能ですが、一度の手術で網膜が復位しないために、複数回の手術を必要とすることもあります。また、最大限に手を尽くしても、残念ながら失明してしまう場合もあります。

手術後の視力に関しては、網膜剥離が発生から間もない状態であり、はがれている範囲も小さい場合は、手術も比較的簡単で、見え方も元通りに回復する可能性が高いといえます。物を見る中心部分の黄斑がはがれていない場合には、手術前と同程度にまで回復する場合もあります。黄斑がはがれてしまっていた場合には、元通りの視力に戻ることは難しくなってしまいます。

手術を受ける側の心構えとしては、あまり動くと剥離が広がる恐れがあるので、手術を受けるまで安静にします。ストレスを感じたり、むやみに心配したりして、精神的に緊張するのもよくありません。不安なことや不明なことがあれば、遠慮せず担当医に相談し、心身ともにリラックスして手術を受けるようにします。

手術の後は、担当医の指示に従って安静にします。レーザー光凝固術の場合は、入院の必要はなく、通院治療を行います。その他の手術では経過によりますが、多くは約10日間程度で退院できます。

手術後に目を動かしても、手術の結果に大きな影響はありませんが、眼内の状態が落ち着くまでに1~3カ月必要です。少なくとも手術後1カ月間は、疲れない程度に目を使用します。

網膜剥離の重症度や個々のケースにもよりますが、事務織や管理職の人は手術後1カ月目から、運転手や重労働の人は2カ月ごろから仕事に復帰できます。日常生活でも、手術後1カ月間は重い物を持ったり、走ったり、車の運転をすることなどは避けます。また、年に1、2回の定期検査を必ず受けましょう。

🔥燃えつき症候群

勤労意欲が高く、誠実に、かつ活発に働いてきた人が突然、燃えつきるように急速に、無気力状態に陥ることをいいます。体重減少、不眠、抑うつ、全身倦怠(けんたい)感があり、興味や関心が低下した状態を示すことが多くなります。

管理職や専門技術者においてみられる一種の現代病で、社会の生活様式や価値観、技術面の変化が急速で、これに追従することに疲れ果てた状態と考えられます。

うつ病と類似した無気力、易疲労感、イライラ、不眠などの症状を訴えても、抗うつ薬の投与はあまり効果がなく、いまだ治療法は十分確立しているとはいえません。休養すれば回復するわけでもなく、精神療法を含めた人間学的な接近が必要とされます。

👣モートン病

足指や足指の付け根にしびれ、痛みを感じる疾患

モートン病とは、体のバランスを保つ中足骨(ちゅうそくこつ)の間の神経がはれて、足指や足指の付け根にしびれ、痛みを生じる疾患。モルトン病、モートン神経腫(しゅ)、趾間(しかん)神経痛とも呼ばれます。

古くから靴の文明が発達していた欧米人に多く見られた足指の神経痛の一種ですが、1876年にトーマス・モートンが足指の第3趾と第4趾の間の付け根にある神経の炎症であると報告して以来、モートン病という疾患名が使われるようになりました。日本では第2次世界大戦中に、多くの陸軍の歩兵がこのモートン病に悩まされたといわれており、行軍腫とも呼ばれています。戦後は、おしゃれな靴が好まれるようになり、多くの女性が悩まされることとなりました。

ハイヒールや窮屈な靴の使用、足の前部に体重がかかる中腰の姿勢での作業、ランニングなどの反復性のスポーツ活動による足への負担、足底の横アーチの低下などが、モートン病の原因となります。足への負担によって、中足骨の間の神経が圧迫されることでしびれ、痛みを感じるようになります。一般的には、障害部位は第3趾と第4趾にまたがって起きます。

足の中足骨は深横中足靭帯(じんたい)によってつなぎ止められていて、その間を指神経(固有底側指神経)と呼ばれる感覚の神経が通っています。そして、足指の第3趾と第4趾の間の付け根には、指神経が交錯する神経腫と呼ばれる神経の固まりがあります。

この神経腫が深横中足靱帯と地面の間で圧迫されて、足指や足指の付け根にしびれ、痛みを生じるほか、第2趾と第3趾の間の付け根にある滑液包と呼ばれるクッションが繰り返される刺激によって炎症を起こして、指神経を圧迫し、足指や足指の付け根にしびれ、痛みを生じることもあります。

症状として、前足部に体重がかかったり、ハイヒールや窮屈な靴を履くと、足指や足指の付け根にしびれ、痛みや、異物感を感じます。歩くだけで激しい痛みを感じる場合があり、足指にかけての知覚障害が発生する場合もあります。時には、痛みが下腿(かたい)まで及ぶこともあります。障害部位は、第2趾と第3趾、第4趾と第5趾にまたがることもあります。

通常片側の足だけに生じるものの、時には両足に同時に障害が起こることもあります。圧迫部の近位に仮性神経腫といわれる有痛性の神経腫が形成される場合は、足底から第3趾または第4趾の付け根を圧迫すると痛みがあったり、前足部を手で両側から締め付けるようにすると痛みが誘発されます。

モートン病の検査と診断と治療

整形外科、神経内科の医師による診断では、障害神経の足指間に感覚障害があり、中足骨頭間足底に有痛性の神経腫と、同部をたたくとその支配領域に放散痛が生じるチネルサインがあれば、診断は確定できます。また、足指を背屈するか、つま先立ちすると痛みが強くなります。

確定診断には、X線(レントゲン)検査、筋電図検査、MRI検査、超音波検査などを必要に応じて行います。

整形外科、神経内科の医師による治療では、ハイヒールの使用や中腰での作業の禁止といった局所の安静、抗炎症剤などの薬剤内服、足の横アーチを支える足底板の靴底への挿入、筋肉の伸びを制限することで痛みの緩和を図るキネシオテーピング 、靴の変更、運動療法、痛みを和らげるブロック注射などを用いた保存的療法を行います。発症から治療までの期間が短ければ短いほど、保存療法で治る割合が高くなっています。鍼灸(しんきゅう)治療が有効な場合もあります。

3カ月ほど様子を見て症状が回復しないものでは、手術が必要になることもあります。手術には、神経剥離(はくり)、神経腫摘出、深横中足靱帯の切離などがあります。

予防は、不適合な靴を履かないこと、足の前部に体重がかかる中腰の姿勢での作業を長く続けないことが一番ですが、歩きすぎや肥満も原因になります。

♏ものもらい

まぶたの分泌腺に起こる急性の化膿性炎症

ものもらいとは、まぶたの縁などが赤くはれて、痛む急性の化膿(かのう)性炎症。ものもらいは俗称で、正式には麦粒腫(ばくりゅうしゅ)と呼ばれます。

原因は、主に黄色ブドウ球菌、連鎖球菌などの細菌感染です。まぶたの表面についている細菌が、まぶたの分泌腺(せん)である皮脂腺、瞼板(けんばん)腺(マイボーム腺)、アポクリン腺に入り、感染して化膿が生じます。

まつげの根元にある皮脂腺や、汗を出すアポクリン腺に感染した場合を外麦粒腫、特殊な皮脂腺の一つである瞼板腺(マイボーム腺)に感染した場合を内麦粒腫と呼びます。

まぶたの不衛生、コンタクトレンズの汚れ、目をこする行為などが、細菌感染を引き起こす要因として挙げられます。また、風邪と同様に、季節の変わり目、寝不足や体調不良で疲れがたまっている時に、生じやすい性質があります。

初めは、まぶたに局所的な赤みが出現して、はれ、しばしば軽度の痛み、かゆみを伴います。炎症が強くなってくると、赤み、はれ、痛みが強くなり、熱を持ったりすることもあります。まぶたの内側にできる内麦粒腫では、かなり痛みがありますが、まぶたの外側にできる外麦粒腫では、まばたきをした時に異物感がある程度です。

化膿が進むと、はれた部分が自然に破れて、うみが出ることがあります。うみが出てしまえば、その後症状は回復に向かい、多くは自然に治癒します。しかし、うみがたまって大きくなった時には、切開してうみを出す治療が必要になることも。

まれに、眼窩蜂窩織(がんかほうかしき)炎、敗血症など重い疾患を引き起こすことがあります。ものもらいの局所をいじらないようにして安静にし、早めに治療を受けることが大切となります。

熱が出た時は、入院治療が必要なこともあります。繰り返して再発する時は、ほかに糖尿病や免疫疾患がないかを調べる必要があります。

なお、「ものもらい」という名称から伝染病のような印象を受けますが、普通に皮膚表面に存在する細菌によって起こるため、他人に伝染することはありません。

「ものもらい」は関東などの俗称で、大阪などにおける「めばちこ」、京都などにおける「めいぼ」「めぼ」、あるいは「めばち」、「めこじき」、「めかんじん」、「めんぼう」など、地方によってさまざまな呼び方をされています。

「ものもらい」、「めこじき」、「めかんじん」の呼び名は、かつての日本に他人から物を恵んでもらうと、この疾患が治癒するという迷信が存在したことに由来します。「めばちこ」は、この疾患の発症者が目をぱちぱちさせる様子に由来するのではないか、と推測されています。

ものもらいの検査と診断と治療

ものもらい(麦粒腫)の多くは、そのまま安静にしておけば自然に治癒します。しかし、「ものもらいができたな」と思った時には、放置せずに薬剤師や眼科医に早めに相談をするのがお勧めです。「そのうちに」と放置しておいて、はれや、かゆみがひどくなると面倒です。

特に、化膿が悪化した場合には、まぶたの切開によってうみの排出を必要とすることがあるので、はれがひどい場合には、眼科を受診します。うみを出すために針などでつつくと、かえって悪化する原因になるので、注意して下さい。

医師による治療は、抗生物質が入った点眼液や眼軟膏(なんこう)の処方が主で、場合により抗生物質の飲み薬を服用することもあります。なお、ものもらい用の市販薬も、販売されています。

治療を開始して2~3日で症状が軽くなり、4~5日すると治るのが普通です。この時期は、かゆくても、まぶたを触らないようにします。コンタクトレンズの装用も控えるようにします。かゆみが強い時は、目の周りを冷やすと少し落ち着きます。

手が汚かったり、栄養不足など、環境によっては再発することもあります。家庭でも、患部の清潔とバランスの取れた食事を心掛けます。

日常のものもらい予防対策としては、 前髪が目に掛からないようにする、コンタクトレンズを不潔な指で脱着しない

目の周りをしっかりと化粧しない、花粉症でかゆくてもあまり目をこすらない、などが挙げられます。

🧠もやもや病

原因不明で、脳底部にもやもやとした異常血管網が現れる脳血管疾患

もやもや病とは、日本人に多発する原因不明の脳血管疾患。ウィリス動脈輪閉塞(へいそく)症、脳底部異常血管網症ともいいます。

厚生労働省指定の難病の一つで、1950年代の後半に初めてその存在が気付かれました。脳底部のウィリス動脈輪に狭窄(きょうさく)や閉塞(へいそく)がみられ、脳虚血症状を示し、体の各部のまひ、知覚異常、不随意運動、頭痛、けいれんなどを起こします。

脳血管撮影をすると、脳底部にもやもやとした異常血管網が認められます。大脳へ血液を送る頸(けい)動脈が頭の中で狭くなったり、詰まったりするために、脳の深い部分の細い動脈が不足する脳の血流を補うための側副血行路として発達して太くなり、異常な血管網の構造を示すことになります。

脳への血液の供給が足りない状態である脳虚血や、脳の血管が破綻(はたん)して出血する脳出血で発症しますが、発症時の年齢分布には2つピークがあり、5歳を中心とする10歳までの子供は脳虚血で発症することが多く、30〜40歳代の大人は脳出血で発症することが多くなっています。もちろん、子供での脳出血、大人での脳虚血もありますが、前者が小児(若年)型、後者が成人型と区別され、その症状とその発症機序が異なっています。

女性と男性の比率は1・8対1とされ、女性の発症者のほうが多くなっています。発症頻度は10万人に対して0・35〜0・5人とされ、日本では年間に約400〜500人の新たな発症者が発生し、常に約4000人の患者がいます。世界中で、もやもや病の報告はありますが、なぜか東アジアに多く、中でも圧倒的に日本に多く発生しています。

疾患の原因はいまだ不明で、先天性血管奇形という先天説や、感染症などの生後に何らかの原因があるとする後天説がありました。兄弟や親子間での発生が約10パーセント弱と多いことや、日本人に多く発生することなど遺伝的な要素もあり、現在では遺伝子で規定された要素に、何らかの後天的要素が加わって発症すると考えられています。細菌やウイルスが原因の感染症ではありませんので、周辺の人に移る可能性は全くありません。

小児型もやもや病では、元気だった子供に突然、脳卒中のような発作、つまり左右半身の脱力や運動障害、ろれつが回らないなどの言語障害、視野の一部が欠けるなどの視力障害、意識障害、感覚異常が一過性に出現し、症状が出てもすぐに元に戻るのが典型的な症状です。その他の症状としては、手足が勝手に前後・上下に動く不随意運動、けいれん、頭痛などがみられます。

脳卒中のような発作は、泣いたり、大声で歌ったり、笛やハーモニカを吹いたり、熱いラーメンやうどんをフーフー吹いて食べたり、全力で走ったりする時の過呼吸により誘発されます。過呼吸状態では、脳血管の拡張に必要な血中の二酸化炭素が低下し、もやもやとした血管網も含めた脳血管が収縮するために、それまで辛うじて維持されていた脳血流が急に低下し、脳の代謝に必要な酸素の不足により脳虚血発作が生じます。

脳虚血発作は一過性に出現し繰り返す場合が多くみられますが、重症な場合には、脳梗塞(こうそく)を来し、運動障害、言語障害、知能障害、視力障害などが固定症状として残ります。

成人型もやもや病では、脳内出血、脳室内出血、くも膜下出血などの頭蓋(ずがい)内出血による発症が一般的で、症状は出血の部位や程度により異なり、軽度の頭痛から重度の意識障害、運動障害、言語障害、精神症状までさまざまです。代償性に拡張した数多くの細いもやもやとした血管網に、血行力学的なストレスが加わり、薄くなった血管壁が破綻すると考えられています。

出血の場所と大きさにより、後遺症が全く残らない場合から、さまざまな後遺症が残る場合まであります。命にかかわるのは、頭蓋内出血を起こした場合が多く、再度、出血を起こすことも多くなっています。

もやもや病が疑われた場合は、脳神経外科、神経内科、小児神経(内)科などを受診することが必要です。強い頭痛、吐き気、嘔吐(おうと)、意識がなくなる、まひ、言葉が出ない、視野の一部が欠けるなどの症状が出た時は、すぐに受診するべきです。

もやもや病の検査と診断と治療

もやもや病の医師による診断は、臨床所見と画像診断で行われます。ラーメンを食べる時に時々、手の力が抜ける、大泣きしたら手足がしびれるといった典型的な症状の一過性脳虚血発作であれば、診断はさほど困難ではありません。

しかし、てんかんや不随意運動で発症した場合には、わかりにくい場合もあります。てんかんと診断されて、抗けいれん薬を投与され、その後、脳虚血の症状が出た場合など、もやもや病の診断まで時間がかかる場合もあります。ほかに、精神的なものとか自閉症と誤診されることもあります。

もやもや病の画像診断は、主にカテーテルによる脳血管撮影と、核磁気共鳴画像法(MRI)によって行われます。脳血管撮影は、直径1・3ミリほどの細い管であるカテーテルを足の付け根の動脈から入れて行います。このカテーテルを頸部の動脈まで持っていき、造影剤を注入して撮影します。そのため検査自体にわずかながら危険性が伴うため、その適応は慎重であるべきです。大人では、足の付け根への局所麻酔だけで可能な検査ですが、小学生やそれ以下の場合は全身麻酔で行います。

近年は、強い磁場を利用した核磁気共鳴画像法(MRI)による診断法が、主に行われています。この診断法は、入院の必要はありませんし、検査時間は30分ぐらいで寝ている間に可能です。小さな子供の場合は、眠り薬が必要です。X線を使った断層撮影であるX線CTも、緊急時の脳虚血と脳出血の鑑別に有用です。

急性期のもやもや病の治療は、他の原因で起こる脳虚血や脳出血の治療と同じです。脳虚血の場合は、脳細胞保護薬、抗血栓薬、循環改善薬などの点滴が行われます。脳出血で小さな出血の場合は、保存的な治療が行われます。脳室内の出血の場合は、緊急で細い管を脳室に入れて、髄液や血腫(けっしゅ)を抜く手術が行われます。大きな脳内出血の場合は、開頭による血腫除去術を必要とする場合もあります。脳圧を下げ、脳のはれを改善する点滴治療も行われます。けいれん発作があれば、抗けいれん薬が投与されます。

慢性期のもやもや病の脳虚血に対する内科的な治療としては、抗血小板薬、抗凝固薬、血管拡張薬などの投与が行われます。これらの薬剤を積極的に投与する医師と、そうでない医師に分かれます。けいれんのある場合には、抗けいれん薬が投与されます。

虚血発作の再発を抑える目的で、血管吻合(ふんごう)術が有効とされています。この血管吻合術には、耳の前の頭皮内を走行している浅側頭動脈と頭蓋内の中大脳動脈の枝を顕微鏡で見ながら吻合する直接吻合と、脳を包んでいる脳硬膜や側頭部の筋肉やその筋膜を脳の表面に置き、その間に自然に小さな血管の吻合が形成されるのを待つ間接吻合があります。直接吻合を行う場合、大なり小なり間接吻合と組み合わせるのが一般的です。

もやもや病は、左右に病変があるため、両側の手術が必要なことが多く、普通2回に分けて、症状の強い側の手術を先に行います。手術の効果はすぐに現れるものではなく、虚血発作が徐々に減少し、その後、消失します。その時間経過は、脳循環の状態、手術方法などによりさまざまです。

慢性期のもやもや病の脳出血に対する治療として、血管吻合術が行われる場合があります。側副血行路になっている脳の深部の細い血管に負担がかかり、破綻するのが脳出血の原因と考えられているため、この負担を軽減するために行われますが、この吻合術が再出血を予防するとは必ずしも証明されていません。血圧の高い発症者には、降圧剤を投与します。

脳梗塞や脳出血により、運動障害、言語障害、知能障害、視力障害などが残った場合には、早期に運動療法、作業療法、言語療法などのリハビリテーションを開始することが重要です。特に小児の場合は、適切なリハビリで大きな障害がかなり軽減するケースもあります。

👣モルトン病

足先への過度の荷重が原因で、足にしびれ、痛みが現れる疾患

モルトン病とは、足の指と指の間に有痛性神経腫(しゅ)ができ、しびれ、痛みなどの神経症状が現れる疾患。モートン病とも呼ばれます

神経腫といっても本当の腫瘍(しゅよう)ではなく、指にゆく足の裏の外足底神経が、足の指(中足骨)を連結する靭帯(じんたい)と地面の間で圧迫されて変形し、腫大する仮性神経腫といわれるものです。

足の指の障害部位は、主に第3趾(し)と第4趾の間で、第2趾と第3趾の間、第4趾と第5趾の間のこともあります。

現れる神経症状はさまざまで、体重をかけると前足部の足底に焼けるような痛みが走り、歩くのがままならなくなることもあります。時には、痛みが下腿(かたい)まで及ぶこともあります。

足先への過度の荷重が発症の原因とされていて、中腰の作業やハイヒールの常用などで、足の指の付け根の関節でつま先立ちをする格好が長時間続く人に、起こりやすくなります。幅の狭い靴、底が薄くて硬い靴を履くことの多い人、硬い床の上でダンスや運動をする人に、起こることもあります。

また、モルトン病は足のアーチの崩れとも関係していて、足が徐々に偏平になってくる中年以降の女性に多く発症します。

整形外科の医師による診断では、障害部位の足趾(そくし)間に感覚障害、中足骨頭間の足底に仮性神経腫があり、仮性神経腫をたたくとその支配領域に痛みが放散するティネルサインがあれば、モルトン病と確定できます。また、足趾を背屈するか、つま先立ちをしてもらうと痛みが強くなります。X線(レントゲン)検査、筋電図検査、MRI検査、超音波検査なども、必要に応じて行われます。

治療では、まず中腰の作業やハイヒールを禁止して局所の安静を図り、消炎鎮痛剤などの薬剤内服、足のアーチを整える足底挿板などを使う装具療法、温熱療法、運動療法などを用いた保存的治療をします。それでも効果がない場合や、神経腫の塊が触れるような時は、塊の部分にステロイドの注射を行います。

3カ月ほど様子をみて、保存療法で症状が回復しなかったり、日常生活に支障を来すようなら、手術で神経腫や靱帯などを切除することもあります。しかし、神経腫を切除しても痛みが楽にならないこともあるので、神経腫状態にしないことが肝心です。

そのためには、足指と足底筋を鍛えて足のアーチを維持する必要があり、足じゃんけん、ビー玉拾いエクササイズ、歩行運動などが勧められます。足じゃんけんは、指全体を曲げてグー、親指だけ立ててチョキ、全部広げてパーをするもので、風呂の中などでするのも一案です。

また、足に負担をかけないためにも適切な体重を維持するとともに、自分の足に合った靴を選ぶことも大切です。お勧めの靴は、つま先に1~1・5cmくらいの余裕があり、靴紐(ひも)かマジックベルトが付いていて、靴底は硬めで、ある程度の重さのあるタイプ。

🟧RSウイルス感染症が「流行入り」 静岡県が注意呼び掛け

 静岡県は26日、直近1週間(15~21日)のデータから「RSウイルス感染症が流行入りしている」と発表しました。定点医療機関となっている小児科1カ所当たりの患者数は1・64人で、県が流行入りの目安としている「1人」を大きく上回りました。前週の0・9人よりも8割増加し、急拡大が懸...