全身性の動脈硬化症に伴う病変が、網膜動脈に起こる疾患
網膜動脈硬化症とは、全身性の動脈硬化症に伴って、病変が網膜動脈に起こる疾患。
全身に張り巡らされた血管は、その内腔(ないくう)を休むことなく血液が流れているため、早くから動脈硬化などの異常が出やすい組織です。動脈硬化は老化現象の一つと考えられていましたが、近年では若い人にも起こることがわかってきました。
動脈は弾力性に富んで、高い血圧にも耐えられるようになっていて、簡単には詰まったり、破れたりはしません。しかし、高血圧が何年も続いたりすると、動脈は次第に弾力を失い、血管壁の性質も変化して厚くなり、もろくなったり、内腔が狭くなったり、詰まったりするといった病的な変化が起こることがあります。この病態を総称して動脈硬化症といい、この病変が網膜に栄養や酸素を送っている網膜動脈に起こったものが、網膜動脈硬化症に相当します。
この網膜動脈硬化症の自覚症状は、まずありません。よくあるのは、内科で高血圧の治療を受けている人が、眼底検査のために眼科を受診して、初めて網膜動脈硬化症を指摘されるケースです。網膜動脈の硬化が起こっていると、動脈の壁が厚くなり、血液の流れが細くなったり、厚くなった動脈壁に静脈が圧迫されるため、動脈と静脈が交差している部分がくびれて見えます。動脈硬化が進むと、動脈の壁は白く濁って見えます。
網膜動脈硬化症のために視力が低下することはほとんどありませんが、動脈の内腔が詰まる網膜動脈閉塞(へいそく)症、静脈が強く圧迫されて血流障害が起こる網膜静脈閉塞症、視神経へ栄養を送る血管の循環障害、すなわち虚血によって視機能の低下が生じる虚血性視神経症など、視力が低下する疾患の原因になったり、脳梗塞(こうそく)になる前の段階ともいわれているので、注意が必要です。
網膜動脈硬化症の検査と診断と治療
眼科の医師による網膜動脈硬化症の診断は、目の網膜を眼底カメラや眼底鏡という器具で直接見る眼底検査を行うことで確定します。健康な人の眼底の動脈と静脈はその血管壁が透明なため、眼底検査を行うと、流れる血液の色が見えます。動脈血は静脈血より赤いため、容易に見分けられます。
眼底の動脈と静脈は所々で交差しており、網膜動脈が硬化すると、コレステロールなどの沈着により動脈の壁が厚くなり、動脈の下で交差している静脈の血管がちょうど途中で遮られたように見えます。これを交差現象といい、動脈硬化を示す重要な所見となります。また、硬化が進んだ動脈の壁は透明性を失い、白く濁って見えます。時には、銅線や銀線のように見えることもあります。 これらの変化は、医学的にいくつかの段階に分類され、内科での診断や治療の参考にされます。
網膜動脈硬化症の治療では、原因となっている何年も続く高血圧の解消、動脈硬化のコントロールなどの内科的治療を中心に行って、これ以上動脈硬化が進行しないようにします。初期のうちに治療を受ければ、悪化せずにすみます。降圧剤などの薬だけでなく、食事を始めとした生活についても医師の指導、注意をよく守って改善し、定期的に眼底検査を受けるようにします。
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