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2022/08/31

🇧🇬委縮性鼻炎

鼻腔の粘膜が委縮し、鼻腔が広がって乾燥が進む鼻炎

委縮性鼻炎とは、慢性鼻炎の一種で、鼻腔(びくう)の粘膜が委縮し、鼻腔内が極度に広くなって乾燥が進む鼻炎。

正常な鼻腔は血管が密集した粘膜に覆われており、広い表面積と多くの血管があることで、外から入ってくる空気を素早く温め、加湿することができます。また、正常な鼻腔の粘膜には、線毛と呼ばれる極めて細かい毛のような突起を持っている多列円柱上皮という細胞があり、この多列円柱上皮は適度な量の粘液を分泌し、ほこりなどの異物粒子をのどの奥へと運んで取り除く働きをします。

委縮性鼻炎になると、多列円柱上皮細胞が失われ、皮膚のような重層扁平(へんぺい)上皮という細胞に置き換わって、鼻腔の粘膜は薄く硬くなります。

そうなると鼻腔の中は潤いがなくなって乾燥するために、かさぶたが多量に付着するようになります。かさぶたは汚く、雑菌が増えることで悪臭がするようになります。

鼻出血を繰り返すことも多く、鼻詰まりや頭痛が起こります。症状が進行すると、嗅覚(きゅうかく)も鈍くなり、臭いがわかりにくくなります。しばしば、のどが乾燥し、痛みや違和感が出ます。

鼻腔に引き続く副鼻腔の粘膜も、線毛を持ち粘液を分泌する細胞でできた粘膜で覆われており、委縮性鼻炎になると、副鼻腔の粘膜も次第に委縮してゆくため炎症や感染が起こりやすくなり、慢性副鼻腔炎の症状も加わってきます。

委縮性鼻炎が生じる原因はいまだ特定されていませんが、ビタミンAやDの慢性的な不足で抵抗力が低下することで、発症すると考えられています。また、女性の場合はホルモン異常により、さまざまなホルモンのバランスが崩れることで、発症することもあると考えられています。

さらに、慢性副鼻腔炎の根治手術で鼻腔内の骨や粘膜のかなりの部分を切除した人が、委縮性鼻炎を発症することもまれにあります。

昔に比べて近年は、委縮性鼻炎は随分少なくなっています。その理由としては、生活習慣の変化や栄養改善による鼻腔の粘膜の変化、抗生剤治療の発達による感染症の軽症化と短期化、アレルギー性鼻炎の増加など、さまざまな要因が考えられています。

委縮性鼻炎の長く症状が続いた場合は、早めに耳鼻咽喉(いんこう)科を受診することが勧められます。

委縮性鼻炎の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、特別な検査は行わずに、鼻鏡を用いて鼻の入り口から鼻腔内を調べ、鼻腔が広くなっていて、臭いの強いかさぶたが多量に付着していることで、委縮性鼻炎と確定します。

ウェゲナー肉芽腫(にくげしゅ)症、悪性リンパ腫(しゅ)、梅毒などと区別するために、血液検査や病理検査を行うこともあります。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、かさぶたができることを防ぎ、悪臭をなくし、感染を抑えるために、抗生剤含有の軟こうや、副腎(ふくじん)皮質ホルモンなどのステロイド剤含有の軟こうを鼻腔の中に塗布、あるいは噴霧します。鼻腔、副鼻腔を洗浄することもあります。

同時に、ビタミンA剤やビタミンD剤、あるいは女性ホルモンのエストロゲン剤も内服して、鼻腔内の粘膜が粘度を取り戻せるようにします。冬の空気が乾燥する季節には、保湿効果のあるワセリン基剤の点鼻剤を塗布して、鼻腔内が乾燥しないようにします。

広くなった鼻腔を狭くするため、粘膜や骨の移植手術を行うこともまれにあります。移植手術を行うと、鼻を通る空気の量が少なくなり、かさぶたの形成が減るという効果があります。

2022/08/30

🇧🇬肉芽腫性鼓膜炎

外耳と中耳の境界にある鼓膜に、肉芽やびらんが生じる慢性の炎症疾患

肉芽腫(にくげしゅ)性鼓膜炎とは、外耳と中耳の境界である鼓膜の薄い膜の外側表面に炎症が起き、肉芽やびらんの生じる慢性疾患。

鼓膜は、耳に入ってくる音を振動に変換し、耳小骨経由で内耳に伝える働きのほか、外耳と中耳を境界する役目をしている器官です。その構造は、直径約9ミリ、厚さ0・1ミリの薄い膜状で、耳の入り口から約3センチのところに位置しており、外耳道のほうに向かって開いたパラボラアンテナのような形態をしています。

体の中には、いくつかの膜状構造物がありますが、鼓膜は常に外界に交通しているため、外力に弱い器官といえるでしょう。

この肉芽腫性鼓膜炎は、細菌感染が主な原因といわれていますが、まだはっきりしません。子供よりも20〜40歳代の成人女性に多く、両側の耳に起こることはまれです。

肉芽腫性鼓膜炎が引き起こされると、鼓膜の表皮が異常に増殖して、赤く柔らかい粒状の結合組織である肉芽や、赤くただれているように見えるびらんを生じます。

軽度の痛みを覚え、慢性的で頑固な耳垂れが続きます。肉芽などの影響によって鼓膜が肥厚化した場合には、耳の奥のほうのかゆみ、耳の詰まった感じや耳鳴り、難聴を覚えることもいます。

鼓膜の奥にある中耳の慢性炎症の影響を受けていることもあります。

肉芽腫性鼓膜炎の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、顕微鏡やファイバースコープで、鼓膜を拡大して観察します。観察すると、20パーセントに小さな穴を認め、中耳の慢性炎症の影響を受けていることがあります。

中耳の疾患が疑わしい場合は、側頭骨CT(コンピュータ断層撮影)検査なども行うことがあります。また、耳垂れを調べて起炎菌を検出し、その感受性検査を行います。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、耳垂れの起炎菌の感受性検査の結果から、適切な抗生剤を耳浴、点耳などで局所投与します。耳垂れは短期間で止まるものの、しばらくするとまた再度、耳垂れが出てくることもあります。

根本的に耳垂れを治すためには、鉗子(かんし)で耳垂れを出す肉芽を切除し、トリクロリールなどの薬品で焼灼(しょうしゃく)することもあります。肉芽を切除すると、その部位に小さな穴があることがありますが、通常は非常に小さく、自然に閉じます。

薬物療法のみでなく、適切な焼灼などの局所処置が重要で、週1〜2回根気よく繰り返すことで徐々に軽快していきます。

肉芽がなくなると耳垂れの繰り返しの再発はなくなりますが、時に肉芽が再発することがあり、その場合は同じ局所処置が必要となります。とりわけ、中耳に炎症が隠れていると再発しやすくなり、治療が長期にわたることもあります。

肉芽腫性鼓膜炎の予防法は、解明されていません。いったん発症した場合は、耳に水が入らないように気を付けることが重要です。

🇷🇴鼻詰まり

■慢性的な鼻詰まりの原因は?

●空気の通る道が狭くなる状態

 私たち人間の鼻の中は、鼻腔(びくう)と呼ばれる空洞が広がり、鼻腔の表面はひだ状の粘膜で覆われています。鼻には、この鼻腔上部の粘膜上皮に約五百万個ある嗅細胞でにおいを嗅ぐ嗅覚機能のほかにも、呼吸作用を効率よく行うための役割があります。

 まず、鼻から吸い込まれた冷たい空気がそのまま肺に送られとよくないので、鼻甲介の血管の収縮によって、空気を吸い込んだ瞬間に三十度くらいまでに温度を上げる暖房の機能、加温機能があります。

 その次は加湿機能で、鼻の中の粘膜は水分が九十五パーセント前後あり、入ってきた乾燥した空気に湿り気を与え、喉などの粘膜を保護するわけです。

また、鼻腔内の数百万本も生えている繊毛によって、外から侵入するホコリなどを体外へ排出する浄化機能という役目も、鼻は果たしています。

 しかしながら、風邪のウイルスや異物などが鼻粘膜の内部にまで入り込み、さらに細菌感染も加わって炎症を起こすと、粘膜が腫れるために過剰な粘液が分泌されて、空気の通る道が狭くなります。この状態が、鼻詰まりなのです。

 長く続く鼻詰まりで圧倒的に多いのはアレルギー性鼻炎で、それに続くのが慢性副鼻腔炎、鼻中隔わん曲症。それらが重なっているケースも、多く見られます。

 鼻詰まりの症状がひどいと、日常生活にも支障が出るので、適切な対処をする必要があります。注意したいのは、嗅覚障害や頭痛、睡眠不足などを招いたり、乾燥した空気を吸うために呼吸器系に悪影響を与えたりすることです。集中力が欠ける原因や、口臭の原因にもなります。 

●多くみられる鼻詰まりの原因

 それぞれの病気や症状により、薬物療法や手術などが医師によって行われます。

アレルギー性鼻炎

 鼻から吸い込んだ異物に対して免疫システムが過剰に反応するため、すなわちアレルギー反応を起こすために、鼻腔の粘膜が腫れて、くしゃみ、鼻水、鼻詰まりを招きます。透明で水のような鼻水が出るのが特徴ですが、少し黄色い場合も。

 代表的なのは、スギ、ヒノキなどの花粉によって起こる花粉症。そのほかにハウスダスト、ダニ、カビなどが原因となりますので、原因物質を避けることが大切です。 

慢性副鼻腔炎(蓄膿症)

 副鼻腔とは、鼻腔に続いて周囲の骨内に陥入している四対の小さい空洞です。鼻詰まりが長引くと、副鼻腔の中でも炎症が起こり、うみがたまります。この状態が3カ月以上続くのが慢性副鼻腔炎で、急性副鼻腔炎と違って治りにくいとされています。黄色く粘り気のある鼻汁が特徴で、うみが口臭を引き起こすこともあります。

 耳鼻咽喉科では、定期的に鼻腔や副鼻腔内を洗浄し、噴霧薬や内服薬などによる治療が行われます。内服薬では、粘膜によい影響があるとされるマクロライド系の抗生物質が最近、一般的に使われ、少量ずつ、効果を確かめながら2、3カ月服用します。ひどい症状のケースでは、手術も。 

鼻中隔わん曲症

 鼻中隔とは、鼻腔を左右に分ける隔壁であり、板状の薄い骨からなっています。前方は軟骨で、周囲は三つの骨で構成されていますが、それぞれの骨の成長速度の違いから、隔壁がわん曲します。日本人の約85パーセントは、左か右、どちらかに曲がっているとされています。

 その曲がり方がはなはだしい場合は、鼻詰まりの原因となります。鼻中隔わん曲症は、10歳から15歳の成長段階に発症する鼻の構造異常。鼻中隔が飛び出ている側だけでなく、反対側も粘膜が厚くなって、左右とも鼻詰まりになりますが、比較的安全な手術で治ります。 

●その他の鼻詰まりの原因

鼻たけ

 鼻たけとは、鼻の粘膜にできる寒天状のポリーフ。慢性副鼻腔炎が進行してできるケースが多く、空気の通り道が狭くなるために、鼻詰まりを招きます。軽い副鼻腔炎で、大きな鼻たけができるケースもあります。

 長い期間をかけて作られるので、口呼吸が習慣化している人では、鼻詰まりの自覚症状がない場合もあります。 

アデノイド肥大

 アデノイドとは、鼻の奥にある扁桃(へんとう)組織です。幼児期に大きくなり、10代以降は自然に小さくなります。

 そのため、小学生までの子供にはアデノイド肥大は珍しくなく、鼻詰まりがはなはだしかったり、炎症を起こしたりしなければ問題はありませんが、大きいケースは手術も行われます。 

腫瘍

 鼻の中に、鼻たけに似たブヨブヨした腫瘍がいくつもできると、鼻詰まりの原因になります。腫瘍はほとんどが良性ですが、まれには鼻腔がん、副鼻腔がんなどの悪性の腫瘍もあります。

 片側の鼻が常に詰まっていたり、少量の鼻血が度々、出たりするケースでは、耳鼻咽喉科の診察を受けましょう。 

■心掛けたい「鼻詰まり」対策

●鼻うがいの実行を

 鼻の炎症を抑えるには、鼻うがいも効果的です。蒸留水か生理食塩水で鼻の中を洗い流す際には、市販されている鼻うがい専用の器具を使うのがよいでしょう。

 なお、蒸留水は薬局で購入できますが、生理食塩水は医師の処方箋が必要となります。 

●鼻は強くかまない

 鼻は優しくかみましょう。鼻の奥には耳に通じる穴があり、強く鼻をかむと、その圧力で鼻にたまったうみが耳へと流れ、中耳炎を起こす病原菌となってしまう可能性があるからです。 

●点鼻薬は一日一回まで

 血管収縮性(粘膜収縮性)の点鼻薬は粘膜を縮ませますので、すぐに鼻詰まりに効きます。しかし、効果は一時的で依存性もあるものなので、使用は鼻詰まりで眠れない時などに限って、一日一回までに。

 長期にわたって乱用すると、作用しにくくなったり、かえって使用前よりも粘膜が腫れる点鼻薬性の鼻炎を起こすので、注意が必要です。 

●風邪をひかない 

 風邪をひかない、ひいたらこじらせない。二点が、鼻詰まりへの最も有効な対策です。鼻への刺激を減らすには、マスクが有効。空気が乾燥すると、鼻の粘膜は炎症を起こしやすいため、特に冬期には有効です。

 また、花粉症の人も早めにマスクの利用を。スギ花粉の平均的な飛散開始時期は、九州や四国の南部が2月上旬、関東南部が2月中旬、関東北部が2月下旬、東北地方は3月で、気温の上昇に伴って増加します。

●食材で風邪を予防する

 風邪のウイルスに打ち勝つためには、ビタミンA(お勧め食材は春菊、ホウレンソウ、ニラなどの青菜類)、ビタミンC(お勧め食材はジャガイモ、サツマイモ、カボス、スダチ、ユズ)、ビタミンE(お勧め食材はゴマ、豆乳、カボチャ)と良質なたんぱく質が必要です。

ビタミンAは、鼻やのどの粘膜を強化します。ビタミンCは、体内の抗酸化力を高めます。ビタミンA、Cの働きを助けるのが、ビタミンEです。

体を温めることも大切で、鍋料理がお勧め。体を温める効果があるショウガ、ネギ、ニンニク、唐辛子などの香辛野菜を、料理に添えることも忘れずに。

2022/08/27

🇬🇶航空性中耳炎

飛行機の離着陸時の上昇、下降に伴う気圧変化が原因で起こる中耳炎

航空性中耳炎とは、飛行機や飛行船、気球などの航空機の離着陸時の上昇、下降に伴う気圧変化が原因で起こる急性中耳炎の一種。多くは、上昇よりも下降に伴って起こります。

耳の鼓膜と内耳との間にある中耳には、少量の空気が入っており、耳管と呼ばれる管で、鼻の奥にある上咽頭(じょういんとう)部とつながっています。この耳管は通常閉じていますが、唾(つば)を飲み込んだ時や、あくびをした時などに一瞬だけ開いて空気を通すことにより、外部の気圧と中耳の気圧を一定に保っています。

乗客として飛行機を利用した際は、離陸時に上昇すると気圧は低下して中耳の中に入っている空気が膨張し、逆に着陸時に下降すると気圧は上昇して中耳の中に入っている空気が収縮します。このように気圧が急激に変化した時には、本来は鼻側の耳管が開いて外部の気圧と中耳の気圧を一定に保ちますが、耳管が開きにくくなっていたり閉じていると、外部の気圧と中耳の気圧の差が生じて航空性中耳炎が起こります。

飛行機以外でも、高層ビルのエレベーター、高山でのドライブなどで急激な気圧の変化にさらされた時に、航空性中耳炎が起こることもあります。

軽症の場合、耳が詰まるような感じや軽い痛み、難聴、頭痛が出ますが、数分から数時間で治ります。重症の場合、内耳のリンパ液が漏れて、針で刺されるような激しい痛みや、ゴーという低い耳鳴り、めまいが現れます。

風邪を引いていたり、アレルギー性鼻炎や副鼻腔(びくう)炎があって鼻の粘膜がはれていたり、上咽頭部に腫瘍があると、重症になります。この場合には、適切な治療や処置を行わなければ、数時間から数日間症状が続きます。

さらに重症になると、鼓膜の内側の中耳に血液が混じった液体がたまり、痛みも激しいものになります。

軽症の場合は、水やジュースを飲む、アメなどをなめる、またはあくびをすることで症状が改善されます。これで改善されない場合は、耳抜き(トインビー法)を試み、鼻をつまんで唾を飲み込みます。これを数回繰り返します。

やや重症の場合には、耳抜き(バルサルバ法)を試み、最初に鼻をかみ、次に鼻をつまんで空気を吸い込み、口を閉じて吸い込んだ息を耳へ送り込みます。これを耳が抜ける感じがするまで、数回繰り返します。

効果のない場合、血管収縮剤を含んだ点鼻薬を噴霧し、10分ほどしてから繰り返します。日本の航空会社では、点鼻薬が機内に常備されていることもあります。

どの方法も効果がなく、飛行機から降りても耳の痛みが緩和されない場合は、速やかに耳鼻咽喉(いんこう)科、耳鼻科を受診します。

航空性中耳炎の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科、耳鼻科の医師による診断では、何らかの気圧の変化の確認と、顕微鏡で鼓膜の発赤、血管拡張、内側への陥没、中耳の貯留液を認めれば、容易に航空性中耳炎と判断できます。

また、耳管の上咽頭開口部に、むくみや発赤などの炎症を認めることがあります。ティンパノメトリーという鼓膜の動きの程度を調べる検査を行うと、可動性障害を認めます。

耳鼻咽喉科、耳鼻科の医師による治療では、通常の中耳炎に対する治療と同様の処置を行います。細菌感染を伴うと炎症が悪化するため、抗生剤、抗ヒスタミン剤、消炎酵素剤などの内服や、耳管から空気を入れる通気療法が主体です。

痛みなどの急性症状は数日以内に改善することが多いものの、耳閉感、難聴は改善するまでに週単位で時間がかかることもあります。

薬による保存的治療で症状が改善しない時や、中耳に貯留液や膿汁(のうじゅう)を認める時には、鼓膜切開を行うこともあります。鼓膜を切開しても聴力に影響はなく、切開した穴も普通は自然にふさがります。繰り返し貯留液や膿汁を認める時には、鼓膜に排出するチューブを留置することもあります。

風邪や鼻炎がある場合は、その治療も行います。鼻呼吸障害が原因となっている場合は、それに対する手術も行います。

予防としては、乗客として飛行機に搭乗する当日に、風邪やアレルギー性鼻炎の症状があったら、市販の点鼻薬を搭乗前と着陸時の下降前に使用し、飛行機が上昇、下降した時に耳抜きを繰り返します。

また、眠っていると唾の飲み込みなどの運動が極端に少なくなるので、気圧が急激に変化する下降時には、目を覚ましていることが予防になります。飲酒も耳管周囲の粘膜をはれさせるため、避けることが予防になります。

🇸🇿好酸球性中耳炎

中耳の粘膜に好酸球が浸潤し、にかわ状の滲出液がたまる中耳炎の一種

好酸球性中耳炎とは、中耳の粘膜から、血液中の白血球の一種である好酸球が浸潤し、にかわ状の粘度の高い滲出(しんしゅつ)液がたまる中耳炎の一つ。

好酸球は、免疫にかかわる白血球の一種で、ある種の寄生虫に対して体を守る免疫機能を担い、アレルギー反応の制御を行う一方で、高度の浸潤があると組織障害を引き起こし、気管支喘息(ぜんそく)、アレルギー性鼻炎などの疾患を引き起こす一因にもなる細胞です。

好酸球性中耳炎は、多くの場合は成人発症型の気管支喘息に合併して発症しますが、好酸球性副鼻腔(ふくびくう)炎から発症する場合もあります。

にかわ状の粘度の高い貯留液が中耳腔にたまることにより、 難聴(伝音難聴)や耳閉感、耳鳴りなどが生じます。特に気管支喘息の発作時に増悪することが多く、発作の軽快とともに耳の症状が治まることもあります。

しかし、音を感じる内耳にも障害を与えることがあり、この場合は耳鳴り、めまいが生じ、治癒不能な難聴(感音難聴)を引き起こすこともたびたびあります 。

細菌感染が合併すると、鼓膜肥厚、鼓膜穿孔(せんこう)、膿性耳漏(のうせいじろう)、肉の塊である肉芽(にくげ)などができることがあります。

40~50歳代での発症が多く、女性にやや多くみられます。好酸球性中耳炎は、進行が速く難治性で、難聴を生じるリスクも高く、発症者の約5割が聴力の低下を来しているといわれます。約8割は両耳に発症し、片側もしくは両側とも聴力を失う可能性もあります。

好酸球性中耳炎の検査と診断と治療

耳鼻咽喉(いんこう)科の医師による診断では、中耳にたまった貯留液中の好酸球を確認します。

鼓膜の視診と聴力検査を行うこともあります。鼓膜の視診では、耳鏡を使って状況などを観察します。聴力検査では、音を聴神経へ伝える外耳・中耳・鼓膜に障害が生じたために起こる伝音難聴か、音を感じる内耳から聴覚中枢路にかけて障害が生じたために起こる感音難聴かを調べて、症状の進行状況を把握します。

耳と鼻の間にある細い管の働きを調べる耳管機能検査を行うこともあります。

また、よく似た疾患に好酸球性多発血管炎性肉芽腫(しゅ)や好酸球増多症、ウェゲナー肉芽腫症に伴う中耳炎があり、これらと区別します。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、抗菌剤や鼓膜切開など従来の中耳炎に対する治療法の効果が乏しいため、鼓膜換気のためのチューブ留置や中耳の洗浄、中耳内へのステロイド剤の局所投与、ステロイド剤の内服による全身投与などを行います。

ただし、まだ治療法は確立はされていません。ステロイド剤の局所投与や内服などで、一時的には改善しますが、再発を繰り返すケースが多くみられます。

感音難聴が生じた場合も、ステロイド剤の投与を行いますが、必ずしも聴力改善が認められるわけではありません。通常手術は無効ですが、高度の細菌感染を伴う場合には手術を行うこともあります。

また、多くの場合に気管支喘息を伴うため、内科や呼吸器科の医師と連携した治療も行います。

🇲🇼好酸球性副鼻腔炎

血液中の白血球の一種である好酸球が活発になって、副鼻腔粘膜を破壊する疾患

好酸球性副鼻腔(ふくびくう)炎とは、血液中の白血球の一種である好酸球が活発になって、副鼻腔粘膜を破壊する難治性の副鼻腔炎。多くは喘息(ぜんそく)を合併します。

好酸球は、免疫にかかわる白血球の一種で、ある種の寄生虫に対して体を守る免疫機能を担い、アレルギー反応の制御を行う一方で、喘息、アレルギー性鼻炎などの疾患を引き起こす一因にもなる細胞です。副鼻腔は、鼻の周囲にあって骨で囲まれた空洞で、ほおの奥の上顎(じょうがく)洞、鼻の両わきの篩骨(しこつ)洞、まゆ毛の部分の前頭洞、篩骨洞の奥のほうの蝶形骨(ちょうけいこつ)洞の4種類があります。

好酸球性副鼻腔炎はまだ不明点が多い疾患ですが、難治性副鼻腔炎の多数を占めているといわれます。成人に多く発症し、約3万5000人から5万人の発症者がいるとされます。

ウイルス感染とそれに引き続く細菌感染で発症し、上顎洞の病変が中心となる一般的な副鼻腔炎と異なり、好酸球性副鼻腔炎では篩骨洞の病変が中心で、嗅覚(きゅうかく)障害が多くみられ、副鼻腔全体の病変がみられることも多くみられます。血液中の好酸球値が高く、気道や副鼻腔粘膜組織に好酸球の浸潤がみられます。

>喘息の中で、引き金となるアレルゲン(抗原)が特定できない非アトピー性喘息、特にアスピリン喘息に合併することが多いものの、引き金となるアレルゲン(抗原)が特定できるアトピー性喘息にも合併するという報告もあります。非アトピー性喘息、特にアスピリン喘息では、鼻茸(はなたけ)、すなわち鼻ポリープが合併することが非常に多く、鼻茸のための鼻閉と、粘り気があって濃い鼻汁を示します。鼻茸の中にも好酸球の浸潤がみられます。

行すると鼻の症状以外に、著しく好酸球が含まれた耳漏が出現します。好酸球性中耳炎という疾患ですが、難治性であり徐々に聴力障害が進行し、難聴から最終的に聾(ろう)に至ります。嗅覚障害も進行し、においが全くわからなくなることが多くみられます。

好酸球性副鼻腔炎の検査と診断と治療

耳鼻科の医師による診断では、鼻茸(鼻ポリープ)の多発、喘息の合併、早期の嗅覚障害の出現などの症状のほか、鼻汁細胞診による好酸球に富む粘性の鼻汁の確認、CT検査やMRI検査による画像所見の確認、あるいは病変の一部を採取して顕微鏡で調べる生検による気道や副鼻腔粘膜組織への好酸球浸潤の確認が行われます。

耳鼻科の医師による治療では、まず内視鏡手術によって鼻茸を除去し、鼻と副鼻腔内の通気性を確保した後、通院による保存的治療が必須となります。

通院治療では、経口および局所の副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)を主体に、鼻と副鼻腔内の洗浄や、抗生剤(抗生物質)、抗アレルギー剤も併用されます。

手術することによって、鼻閉や鼻汁が少なくなり、喘息の症状も著しく改善するケースも少なくありませんが、手術後も風邪を引いたり、喫煙を継続していると鼻茸が再発する場合が多く、治療は長期化する傾向にあります。一般的な副鼻腔炎では95パーセント以上が改善しますが、好酸球性副鼻腔炎の場合は60パーセント程度になり、2~3年後には再発の可能性が高くなります。

🇩🇯耳管開放症

耳管開放症とは、通常は閉鎖されている耳管が開放されたままの状態になり、耳閉感や、自分の声が大きく聞こえる自声強聴などの症状を引き起こす疾患。耳鼻咽喉(いんこう)科医のジャーゴによって、1867年に初めて報告されました。

耳管は鼻咽腔(くう)と中耳腔をつないでいる管で、大気と中耳腔の圧調整を行っています。通常、ふさがっていますが、あくびや嚥下(えんか)運動を行うと、耳管が短時間開放します。

この耳管が開放されたままの状態になる耳管開放症の発症機序は不明ですが、最近増加傾向にあり、女性がやや多くなっています。疲れや睡眠不足の状態が続いたり、急に体重が落ちた時に起こりやすくなります。

誘因として、ストレス、妊娠、経口ピル、中耳炎、運動、放射線照射、顎(がく)関節症、頸部(けいぶ)自律神経異常、吹奏楽器演奏も報告されています。

耳閉感、自声強聴の典型的な症状のほか、ゴーゴーという自分の呼吸音の聴取、低音域の難聴、非回転性めまいが起こることもあり、耳痛、音程のずれなどの症状も起こります。

耳閉感は頭を下にしたり、横に寝たり、お風呂に入ると一時的によくなりますが、激しい運動をしたりすると悪化します。

耳鼻科、耳鼻咽喉科の医師による診断では、症状が典型的であれば、問診だけで確定できます。体重の急減の有無や、体の位置で症状が変化するか、鼻すすりで一時的に軽快するかを確認できればよく、鼓膜が呼吸によって動揺するのを認めれば確実です。顕微鏡で鼓膜を観察すると、鼓膜の弛緩(しかん)部が呼吸とともに動くのがわかります。特に座位で顕著に観察され、仰臥(ぎょうが)位で鼓膜の動きは消失します。この鼓膜の動きは、チンパノメトリーという検査法でも観察できます。

治療は大きく分けて保存的治療と外科的治療になりますが、決定的に優れた方法はありません。軽度のものは、自然の経過でよくなることもあります。重症な場合は、耳管の鼻側の開口部(耳管咽頭口)に注射をして膨れさせて開口部を狭くする方法や、薬を噴霧して耳管に炎症を起こさせて粘膜を膨らませることにより耳管を狭くするといった方法も試されています。これらは効果の持続時間が短いのが、欠点です。

時に鼓膜チューブ留置術により、自覚症状が改善することがあります。治りにくい場合には、耳管周囲への脂肪やコラーゲンの注入、ピンの挿入といった方法も試されています。

医師によっては、加味帰脾湯(かみきひとう)という漢方薬を中心とした治療も行っています。1~2週間で効果が出る人もいます。

🇩🇯耳管狭窄症、滲出性中耳炎

耳管が狭窄した疾患と、中耳に液がたまる疾患

耳管狭窄(きょうさく)症とは、中耳腔(くう)と鼻の奥の鼻咽腔(びいんくう)をつなげている、耳管という管が狭窄を起こした疾患。狭窄の結果、時に中耳腔に液がたまると、滲出(しんしゅつ)性中耳炎を起こします。

耳管は中耳腔と外耳道の圧を調節するためのもので、唾液(だえき)や食べ物を飲み込んだり、あくびをした際などは、この耳管が開き、中耳腔に空気が入る仕組みになっています。この圧の調節によって、鼓膜の内外は圧が等しくなり、振動しやすくなります。

耳管が狭窄すると、中耳腔の気圧は外気圧より低くなり、耳内がふさがった感じ、難聴、自分の声が強く響く、耳鳴りなどの症状が出てきます。

飛行機が急に下降した際や、新幹線がトンネルに入った際、スキューバダイビングで海に潜った際などにも、同じく中耳腔と外気の圧のアンバランスが起こり、似たような症状が起こります。これを航空性、または気圧性中耳炎といいます。

耳管狭窄症の原因となるのは、風邪などによって炎症を起こす耳管炎、アデノイド増殖症、上咽頭のがんなど。この耳管狭窄症は、子供の難聴の主な原因になっています。

滲出性中耳炎の原因となるのは、不完全な急性中耳炎の治療、弱毒性菌による中耳炎ともいわれています。近年、小児にたいへん増えており、大きな問題となっています。

耳管狭窄症、滲出性中耳炎の検査と診断と治療

耳鼻咽喉(いんこう)科の医師による耳管狭窄症の診断では、鼓膜の観察や聴力検査を行ったり、鼻からカテーテルという管を入れて、耳管の通り具合を調べます。

治療では、狭窄を起こす原因をなくすことが第一とされます。空気を送って中耳腔に入れる通気法が、一般に行われています。

中耳腔に液がたまる滲出性中耳炎の診断では、鼓膜を観察したり、インピーダンスオージオメトリーという検査を行ったりします。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、鼓膜を穿刺(せんし)、または切開して液を出します。それでもよくならなければ、鼓膜を通して中耳腔に小さな管を入れ、たまった液が外に出るようにします。

自ら中耳腔に空気を送る方法として、鼻をつまんで、ゴクンと唾液を飲むと空気が耳に入ります。簡単にできるので、1日に何回かやってみます。ただし、風邪の最中には、耳管の炎症が中耳腔に及んで中耳炎を起こすため、勧められません。

2022/08/26

🇪🇬耳硬化症

耳小骨の中で最も深部にある、あぶみ骨が動かなくなって難聴を来す疾患

耳(じ)硬化症とは、鼓膜の裏側の中耳にある3個の小さな骨である耳小骨の中で、最も深部にあって最も小さい、あぶみ骨が動きにくくなる疾患。

3個の耳小骨には鼓膜の振動を内耳に伝える役割があり、内耳へ通じる中耳の窓にはまり込んでいる、あぶみ骨の底板と周囲の骨が硬化して、あぶみ骨の可動性が損なわれると、伝音難聴を起こします。進行すると、感音難聴や混合難聴を起こします。

聴力が低下した状態である難聴のうち、音を聴神経へ伝える外耳、鼓膜、中耳に障害が生じたために起こるのが伝音難聴、音を感じる内耳から聴覚中枢路にかけて障害が生じたために起こるのが感音難聴、伝音難聴と感音難聴の両方の特徴を併せ持っているのが混合難聴です。

耳硬化症を発症する原因はいまだに不明ですが、遺伝的要因があり、東洋人や黒人より白人に多い疾患です。女性に多くみられ、妊娠や出産を切っ掛けに難聴が悪化することもあるため、ホルモンの影響も考えられています。

日本人では、難聴自覚年齢が30歳ころ、医療機関を受診し診断が付く年齢が40歳ころにピークがあります。難聴は、両側の耳に起こることが多く、片側だけの耳に起こることもあります。両側の耳に起こったケースでは、難聴の進行程度が左右で異なることもあります。ある難聴のレベルに達すると、日常生活にも大きな支障を来すことになります。

約7割では、耳鳴りを伴い、約3割では、耳がふさがったように感じる耳閉塞(へいそく)感を伴い、約1割では、めまいを経験しています。

思春期以降に発症する進行性伝音難聴で、鼓膜が正常であれば、耳硬化症の可能性が高くなります。しかし、日本人では、全耳疾患の1パーセント程度と発症率が低いことから、耳硬化症という疾患名の知名度も低く、正確な診断がなされずに、補聴器装用などで対応されていることも少なくありません。

耳硬化症はあぶみ骨の手術により高い率で聴力の改善が得られる一方で、内耳障害によって聴覚を喪失する可能性もあるので、耳鼻咽喉(いんこう)科を受診します。

耳硬化症の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、症状と問診、聴力検査で容易に判断できます。

聴力検査を行うと、気導聴力が低下しており、骨導聴力が正常かやや低下した程度の伝音難聴、または混合難聴があります。ただし、病変が内耳にまで波及すると、感音難聴となります。

そのほか、鼓膜の動きの程度を調べるティンパノメトリー検査や、側頭骨CT(コンピューター断層撮影)検査を行うこともあります。ティンパノメトリー検査では、あぶみ骨筋反射の消失などの特有なパターンを示します。側頭骨CT(コンピュータ断層撮影)検査では、耳硬化症の病変はあまりはっきりしないことが多いものの、ほかの耳小骨の固着や発育不全が原因の難聴を確認できます。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、通常、あぶみ骨切除術か、あぶみ骨小開窓術という手術を行います。どちらの手術も、局所麻酔で行えますが、手術後、数日間はめまいが起こることがあるので、短期間の入院、安静が必要となります。

手術後10日目ごろから聴力が徐々に回復し、耳鳴りも消失することが多いようです。ただし、術後数カ月間、舌の味覚異常が続くこともあります。

手術を望まない場合は、補聴器の装用で聴力を補うこともできます。

内耳障害によって聴覚を喪失して、聾(ろう)になる可能性がある場合は、セラミクス人工耳小骨を埋め込む手術を行います。埋め込んだ人工耳小骨は、一生使えるので取り換える必要はありません。

🇩🇿耳垢栓塞

耳垢が塊になって、耳の穴をふさいだ状態

耳垢栓塞(じこうせんそく)とは、耳垢(みみあか)が塊になって、耳の穴である外耳道をふさいだ状態。

耳垢を長く取らないでおくと、耳の穴である外耳道をふさいでしまうことがありますし、水泳をしたり、頭を洗ったりして、耳垢が水分を吸うと膨れ上がってふさぐこともあります。

症状としては、違和感を覚えることもありますが、無症状であることがほとんどです。完全に耳の穴がふさがれてしまうと、その側の耳に詰まったり、こもったりする感じが生じる耳閉感や、軽度から中等度の難聴が起こり、耳鳴りも起こります。

ほうっておくと、その刺激で耳の穴の皮膚が炎症を起こし、外耳道炎を合併し、痛みが出てきます。

 耳掃除や入浴後に突然、症状が出た場合は耳垢栓塞が疑われますので、耳鼻咽喉(いんこう)科を受診し耳垢を除去してもらうとよいでしょう。

また、耳垢栓塞のできやすい体質の人は、定期的に耳鼻咽喉科を受診し、耳垢がたまらないよう掃除をしてもらうとよいでしょう。

耳垢栓塞の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、耳の中の視診により耳垢栓塞の状態を調べます。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、ピンセットや耳垢用の鉗子(かんし)、吸引管で、耳垢を取り除きます。

カチカチに固まっているものに対しては、重曹とグリセリン水の合剤である耳垢水を1日何回か、あるいは数日間、耳に流し込んで、硬くなった耳垢を軟らかくしてから、外耳孔から水で洗い流し出すか、ピンセットや耳垢用の鉗子、吸引管で少しずつ取り除きます。

跡に皮膚のびらんなどが残ることがあるので、そこには抗生物質入りの軟こうを塗ります。

🇨🇺歯性上顎洞炎

歯に感染している細菌が近接している上顎洞に入り込んで、うみがたまる疾患

歯性上顎洞炎(しせいじょうがくどうえん)とは、虫歯、歯周炎(歯槽膿漏〔しそうのうろう〕)の原因となっている細菌が、鼻の両横に位置する副鼻腔(ふくびこう)の1つである上顎洞に入り込んで、炎症を起こす疾患。

元来、上顎洞は上あごの歯と近接しており、硬い物をかむことが減った現代人では、歯の根が上顎洞に突き出ている人も多くなっています。そのため、虫歯、歯周炎を長い間治療せずに放置していると、細菌が上顎洞に入り込んで炎症を起こし、歯性上顎洞炎になることがあります。

原因となる細菌は、黄色ブドウ球菌が最も多く、連鎖球菌、紡錘菌、大腸菌、肺炎菌、口腔スピロヘータなどでも起こります。上あごの歯では、第一大臼歯(きゅうし)が最も原因になりやすく、次いで第二小臼歯、第二大臼歯の順です。従って、これらの歯が虫歯の時には、歯性上顎洞炎に注意する必要があります。

急性に起こる場合と、慢性に起こる場合があります。急性の場合には、歯の痛み、歯茎のはれに続いて片側の鼻が詰まり、突然、悪臭が強く、うみを含んだ鼻汁が出ます。片側の目の下の部分の拍動性の痛み、はれや、ほおの部分の痛み、はれが現れたり、頭痛、発熱、倦怠(けんたい)感などの全身症状が現れることもあります。

慢性の場合には、歯の痛みは比較的少なく、明確な症状に欠けることも多く、片側の鼻詰まり、軽度の頭痛、頭重感などが生じることがあります。

片側だけの鼻の詰まりが続き、上あごの奥歯に痛みを感じるようであれば、歯性上顎洞炎の可能性があります。

歯科での虫歯、歯周病の治療と、耳鼻咽喉(いんこう)科での上顎洞炎の治療が必要で、歯科と耳鼻咽喉科の両方がある病院などを受診することが勧められます。

歯性上顎洞炎の検査と診断と治療

歯科、耳鼻咽喉科の医師による診断では、上あごの歯、特に第一大臼歯、第二小臼歯、第二大臼歯に虫歯があり、その歯を軽くたたくと痛みや違和感がある場合に疑います。鼻の中に、うみを含んだ鼻汁が認められ、X線(レントゲン)検査で上顎洞に陰影があれば、ほぼ確定できます。

原因となっている歯を特定し、感染源となり得る小さな病巣を見付けるためには、CT(コンピュータ断層撮影)検査を行います。原因歯は1本でなく、2~3本あることもあります。

歯科、耳鼻咽喉科の医師による治療では、急性に炎症が起こった場合、原因歯を抜歯するとともに、鼻の入り口近くから針を刺して上顎洞を生理食塩水で洗浄して、うみを洗い流し、抗菌剤の投与を行います。抜歯した部位に穴が開き、口の中と上顎洞がつながってしまうことがあり、手術で閉鎖しなければならないこともあります。

慢性に炎症が起こった場合は、歯の根や歯周組織の治療で感染源の除去を行い、改善を図ります。改善できなければ、原因歯を抜歯するとともに、上顎洞を生理食塩水で繰り返し洗浄して、うみを洗い流し、抗菌剤の投与を行います。

抜歯で改善できなければ、内視鏡下に鼻腔と上顎洞をつないでいる自然の穴を大きく広げ、中のうみを除く手術を行い、抗菌剤の投与を行います。

炎症が上顎洞に広がり、抗生剤を投与してもうみが止まらなければ、口の中から上顎洞に向けて骨に穴を開け、骨内部の空洞内面を覆っている粘膜部分を取り除く根治手術が行われることもあります。この根治手術は5~10年後に、術後性上顎嚢胞(のうほう)という疾患が起きてしまうことがあるため、近年は以前ほど行われなくなっています。

🇨🇺耳性帯状疱疹

耳を中心に起こった帯状疱疹で、耳介や外耳道に痛み、水膨れが出現

耳性帯状疱疹(じせいたいじょうほうしん)とは、耳を中心に起こった帯状疱疹。耳(みみ)ヘルペスとも呼ばれます。

ヘルペスウイルス属の1つである水痘(すいとう)・帯状疱疹ウイルスに乳幼児期に初感染すると、水ぼうそう(水痘)になります。全身に次々と小さな水膨れが現れ、かゆみ、発熱を伴います。水膨れは胸の辺りや顔に多くみられるほか、頭髪部や外陰部、口の中の粘膜など、全身の至る所にみられます。水膨れの数が少なく軽症な場合には、熱も38~39℃くらいで3~4日で解熱します。重症の場合には、39℃前後の熱が1週間ほど続くこともあります。

また、かゆみを伴うために引っかいてしまうと、細菌の二次感染を起こす危険性があります。水膨れが乾燥し、かさぶたになってから、2週間くらいでかさぶたはとれます。少し跡が残ることがあります。

乳幼児期に一度かかると免疫ができるため、この水ぼうそうに再びかかることはほとんどありません。しかし、水ぼうそうの原因である水痘・帯状疱疹ウイルスは、水ぼうそうが治った後も体のいろいろな神経節に潜伏しています。そして、数十年後に、疲れがたまったり、体の抵抗力が落ちたりするなど、何らかの切っ掛けにより、潜んでいたウイルスが再び暴れ出すと症状が現れます。

この場合、水ぼうそうのように全身に水膨れが現れることはなく、神経に沿って帯状に水膨れが現れる帯状疱疹として発症します。体のどこにでも帯状疱疹の症状は現れますが、胸から背中にかけてが一番多く、顔や手足、腹や尻(しり)の下などに現れることもあり、耳を中心に起こった帯状疱疹が耳性帯状疱疹に相当します。

耳性帯状疱疹を発症すると、発熱、寒けなどとともに、外に張り出している片側の耳介や、耳の穴から鼓膜まで続く外耳道に激しい痛みが現れ、数日の内に小さな水膨れができます。軟口蓋(なんこうがい)や舌など、口の中にも発生することがあります。また、顔面神経まひを伴うこともあります。

顔面神経まひのほかに、感音難聴、耳鳴り、めまいなどの内耳障害を伴うものをラムゼー・ハント症候群(ハント症候群)といいます。これは、顔面神経の膝(しつ)神経節という場所に潜んでいた水痘・帯状疱疹ウイルスが再活性化し、顔面神経やその周辺の聴神経に感染して起こるものです。

片側の耳に痛みや水膨れができ、片側の顔の動きが悪いことに気付いた時には、早期に耳鼻咽喉(いんこう)科の医師の診察を受けることが勧められます。

耳性帯状疱疹の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、耳や口の中などの視診により帯状疱疹の有無を調べます。水膨れ中か唾液(だえき)中の水痘・帯状疱疹ウイルスのDNAを検出するのが最も確実な診断法で、中の抗水痘帯状疱疹ウイルスIgM抗体価の上昇を確認するのも、診断の助けになります。

>顔面神経まひがあれば、筋電図検査、神経興奮性検査を行って、まひの程度、顔面神経の障害部位を診断します。難聴、めまいがあれば、聴力検査、平衡機能検査、脳神経検査など通常の耳科的検査も実施し、他の脳神経に異常がないかどうかを調べます。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、水痘・帯状疱疹ウイルスが原因であることがはっきりすれば、アシクロビル製剤、バラシクロビル製剤などの抗ウイルス薬を注射します。発症から約3~4日以内に投与すれば回復が早いとされています。

これに加え、神経周辺の炎症を抑制する副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)の注射か内服、ビタミンB12剤、代謝を活性化するATP剤、鎮痛薬の内服、病変部への軟こうの塗布(とふ)などを行うこともあります。

顔面神経まひには、顔面マッサージが行われます。これらの治療を行っても、顔面神経まひが治らず、発症者が希望した場合は、顔面神経減荷術という手術が行われ、まひが回復することもあります。

後遺症として、耳介や外耳道の水膨れが治った後も長期間にわたって、痛みが続く帯状疱疹後神経痛が起こることは、胸部に起こる帯状疱疹に比べて少ないといえます。

なお、水痘・帯状疱疹ヘルペスウイルスは体内の神経節に潜み、体力や抵抗力が低下した時に増殖し、発症する特徴があるので、再発を防ぐ上でも疲労、ストレス、睡眠不足を避け、免疫力を維持しておくことも大切です。

🇨🇺耳石浮遊症

頭の位置加減によって、突然めまいが起こる良性の障害

耳石浮遊症とは、急に頭を動かすなど頭の位置加減によって、内耳にある耳石の位置がずれ、突然めまいが起こる障害。良性発作性めまい、良性発作性頭位めまい、良性発作性頭位変換性めまいとも呼ばれます。

耳が原因で起こるめまいの中で最も頻度の高いもので、発症年齢は20~70歳代までに渡り、好発年齢は50~70歳代です。男女比では、女性が男性の1.8倍とやや多くなっています。

ほとんどの場合、起き上がる、横たわる、寝返りを打つ、見上げるために頭を後ろに反らすなど、頭の位置を変える動作が引き金になって、急激に回転性の激しいめまいが起こります。人によって、めまいが起こりやすい頭の位置があります。

症状は数秒から数分で自然に落ち着くことがほとんどですが、また頭を動かすとめまいが反復します。吐き気を伴うこともあります。通常、耳鳴りや難聴などの聴覚の症状、頭痛、しびれ、体のふらつきは自覚しません。2~3週間くらいは、何度かめまいが起こります。

この耳石浮遊症は、内耳の中の耳石が頭の位置により、バランス機能を補助している三半規管の中に入り込んで、三半規管の有毛細胞を刺激するために起こります。

耳の一番奥にある内耳は、聴覚器官である蝸牛(かぎゅう)と、平衡器官である前庭という二つの部分から構成されています。そして、前庭器官にある耳石器の上には、炭酸カルシウムでできている耳石が多数乗っています。正常であれば、頭が動くと耳石が三半規管の内側にある神経受容体(毛細胞)を刺激し、これらの細胞が頭の動いた方向を示す信号を脳へ送ります。

しかし、この耳石が何らかの原因で本来の位置からずれ、入り込んだ三半規管内の1カ所で塊になって浮遊したり、三半規管内のクプラと呼ばれる部位に付着することがあります。この状態で頭を動かすと、過大な信号が送られ、頭が実際以上に動いたとする誤った情報が脳へ伝わります。この誤った情報と目からの情報にずれが生じると、回転性めまいの発作が起こるのです。

耳石浮遊症を起こしやすいのは、交通事故などで頭部外傷を負った人、慢性中耳炎を患う人、過去に結核を患いストレプトマイシンでの治療を受けたことのある人、中耳ないし、あぶみ骨という中耳の中にある耳小骨の一つの手術を受けた人とされています。

耳石浮遊症は、次第に症状が軽くなってくることが多く、それほど深刻な疾患ではありません。通常は2~3週間で治癒します。回転性めまいを起こす姿勢をとらなければ避けられますので、めまい発作の起こる頭の位置を見付け、その頭位を避けるようにして対処します。

心理面でもそれほど怖くないのですが、中には、まためまい発作が襲ってくるのではないかと不安を募らせ、恐怖心を抱く人もいます。また、この疾患に似た症状で、内耳の障害ではなく脳の疾患の場合もありますので、耳鼻咽喉(いんこう)科の専門医の診断を受けます。

耳石浮遊症の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、平衡機能検査を行うと、めまいが起こる頭の位置で、眼球が不随意に小刻みに揺れ動く眼振(がんしん)が現れ、次第に増強、減弱します。

ほとんどの場合、聴力検査、温度眼振検査で異常を認めることはありません。まれに、外耳道に冷たい水や温かいお湯を入れて、内耳の三半規管が刺激されて眼振、めまいが起きるどうか調べる温度眼振検査で、患っている側の耳の温度反応が高度に低下したり、反応がなくなったりすることもあります。体全体のバランスが悪くなることはありません。

耳鼻咽喉科の医師による治療としては、内耳の機能を改善するための抗めまい剤や脳循環改善剤、ビタミン剤、めまいに伴う吐き気を抑える抗ヒスタミン剤などが用いられます。めまい発作ががまた出るのではないかという不安、恐怖心が強い人には、心理的不安を取り除くための抗不安剤などが用いられることもあります。

めまいが少し軽くなってきたら、積極的にめまいが起こりやすい頭の位置をとるといった理学療法によるリハビリテーションをすることも治癒を早めます。その頭位を何度も繰り返しとると、その都度めまいは出現するものの、次第に軽くなって、やがてめまいは消失します。

最近では、エプリー法、パーンズ法、セモン法などといって、頭位と体位を変換する姿勢をとることで、遊離した耳石の塊をほぐして三半規管全体に再度行き渡らせる理学療法が開発され、良好な成績を上げています。エプリー法などにより、およそ9割以上の発症者は薬を使わずに、回転性めまいが治っています。発症者の一部は回転性めまいを再発するため、エプリー法などを自宅で繰り返し行う必要があります。

理学療法が全く効果を発揮しないで、めまいの症状が反復して起こる場合には、手術が行われることもありますが、極めてまれなケースです。このような場合、手術を検討する以前に、この疾患と同様な症状であっても、内耳障害ではなく脳障害の場合があるので、専門医の診断が必要となります。

🇧🇸耳せつ

外耳道の入り口に生えている毛穴から細菌が入って、炎症が起きる疾患

耳(じ)せつとは、外耳道(がいじどう)の外側3分の1に位置する軟骨部外耳道に起こる限局性外耳道炎が悪化し、膿瘍(のうよう)ができる疾患。急性化膿(かのう)性限局性外耳道炎、急性限局性外耳道炎とも呼ばれます。

外耳道炎は、耳の穴の入り口から鼓膜までの空洞である管腔(かんくう)、つまり外耳道の皮膚に、細菌が感染して炎症が起こる疾患であり、この外側3分の1に位置する軟骨部外耳道に起こる限局性外耳道炎と、内側の3分の2に位置する骨部外耳道に起こるびまん性(広汎〔こうはん〕性)外耳道炎とに分かれます。

耳せつに悪化する以前の限局性外耳道炎の症状は、耳がツンとしたり、かゆかったり、熱いような感じがします。耳鳴りを伴うこともあります。この時に耳に触るとチクッとした痛みを感じるのが特徴で、これが耳を触らなくても痛む中耳炎と異なる点です。

口を開けたり、食事をした時にも、痛むことがあります。炎症がひどいと、軽い難聴を伴うこともあるものの、一般的には聴力に影響するようなことはありません。

限局性外耳道炎の症状が進んで、毛穴から化膿菌が入って増殖し、毛を包んでいる毛包とその周囲に膿瘍ができる耳せつになると、耳に触らなくても痛むようになり、痛みも強くなってきます。時には痛くて夜眠れないということもあります。

炎症がピークを過ぎると膿瘍が破れて、膿(うみ)が出てしまい、痛みは自然に治まります。

鼓膜に近付くと毛は生えていないので、耳せつが外耳道全体に広がることは、ほとんどありません。鼓膜や中耳への影響も、ほとんどありません。

びまん性外耳道炎の場合も、かゆかったり、熱いような感じがするのが一般的な自覚症状です。慢性化すると、かゆみがひどくなり、時に耳が詰まる感じがする耳閉感が出てきます。病変が鼓膜方向に進展すると、鼓膜の炎症、肥厚を合併することがあります。

耳せつなどの外耳道炎の原因は、耳かきや不潔な指先で外耳道をいじって傷を付けたため、そこから細菌、主にブドウ球菌が入り、その細菌に感染して起こるのが一般的です。中耳炎などで耳垂れ(耳漏)があると、その細菌が外耳道に侵入し、感染して起こることもあります。

また、洗髪時や水泳時などに水が耳に入ったままになって、細菌感染を起こすこともあります。白髪染めや化粧品なども、要注意です。さらに、免疫が低下した糖尿病の人にも起こりやすく、複数の耳せつができて、何度も症状を繰り返し、治りにくいとされます。

耳せつを発症しても、炎症が軽度で元の外耳道が健康であれば、多くの場合は放置しても自然に治ります。1〜2日たっても症状が軽快しない場合は、耳鼻咽喉(いんこう)科を受診することが勧められます。

耳せつの検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、耳介の後ろ下や前方の下部がはれていて、触ると痛く、耳垂れに血や膿が混じっていても、ねばねばした粘液が混じっていないことなどから、判断します。

また、X線(レントゲン)検査で骨の部分に異常がなく、聴力検査で異常がないことも、判断の目安となります。細菌検査を行うと、ブドウ球菌が頻繁に認められます。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、まず耳垢(みみあか)を取り除きます。鼓膜内視鏡で耳の中を見ながら、耳垢鉗子(じこうかんし)や耳専用の器具で耳垢をつまんだり、細い吸引管で耳垢を吸い取ります。耳垢が硬くて取り除きにくい場合は、薬で耳垢を軟らかくしてから洗浄、吸引する方法を行います。

耳垢を取り除いた後は、外耳道の消毒を行って清潔にした上で、抗生剤やステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン剤)を含んだ軟こうの塗布、抗生剤の内服を行います。

耳の痛みがある場合には、鎮痛剤を内服して痛みを抑えます。耳のかゆみがある場合には、かゆみ止めを内服してかゆみを抑えます。

さらに、耳せつの自潰(じかい)、つまり、破れて膿が出るのを早めるために、温湿布、サリチル酸の塗布、また、綿花で作ったタンポン(ゴットスタイン・タンポン)で圧迫します。

耳せつが明らかに目立つ場合や、激痛を伴う場合は、耳せつをメスで切開することもあります。

🇸🇭耳閉感

耳が詰まったり、耳がこもったりする感じが生じる症状

耳閉感とは、耳が詰まったり、耳がこもったりする感じが生じる症状。耳詰まりとも呼ばれます。

耳閉感はごく有り触れた症状で、耳がふさがれた感じ、音が耳や頭に響く感じ、さらに耳の圧迫感、軽い痛みを感じることもあり、誰でも何度か経験していることと思いますが、原因はいろいろなことが考えられます。

外から見える耳の部分から鼓膜までの外耳に原因のある耳閉感としては、耳垢(みみあか)が塊になって耳の穴をふさぐ耳垢栓塞(じこうせんそく)、外耳炎、水滴・髪の毛・綿棒の先端・子供ではプラスチックのおもちゃや消しゴムなどが耳の穴に詰まる外耳道異物で起こります。

鼓膜の内側から耳小骨あたりまでの中耳に原因のある耳閉感としては、滲出(しんしゅつ)性中耳炎で最も多く起こります。大人も風邪引き後などに滲出性中耳炎になることがあり、耳管の働きが悪くなるために耳閉感を生じます。

そのほかの中耳疾患では、好酸球性中耳炎で高率に耳閉感を生じます。好酸球中耳炎は喘息(ぜんそく)に伴いやすい中耳炎で、中耳に粘液がたまることにより難聴を生じます。滲出性中耳炎に似ていますが、音を感じる内耳から聴覚中枢路にかけて障害が生じたために起こる感音難聴も合併しやすいので注意が必要です。

体の平衡感覚を保つ三半規管や、脳に音を直接伝える蝸牛(かぎゅう)などの器官がある内耳に原因のある耳閉感としては、急性低音障害型感音難聴で片側、まれに両側の耳閉感を生じます。

メニエール病の発作時にも、耳閉感が起こります。耳鳴りやめまいを伴うのが特徴です。

耳閉感の検査と診断と治療

耳鼻咽喉(いんこう)科の医師による診断では、まず問診で、耳の聞こえは悪くないか、風邪を引いていなかったか、耳に何か入れなかったか、ストレスが多くなかったかなどを確認します。

次に視診で、顕微鏡を使用して耳の中を丹念に診ることにより、外耳や中耳の病変はおおよそ把握できます。外耳、中耳に異常がなければ、消去法で内耳の疾患の可能性が高くなります。中耳炎があれば、鼻の中もよく診ます。

標準純音聴力検査で、難聴の有無も調べます。もし難聴があれば、音を聴神経へ伝える外耳・中耳・鼓膜に障害が生じたために起こる伝音難聴なのか、音を感じる内耳から聴覚中枢路にかけて障害が生じたために起こる感音難聴なのかを調べます。

🇦🇷めまい

■脳からのサインを見逃さずに■

 めまい(目眩、眩暈)は、「目がまわること、眼がくらむこと、げんうん」などと、辞書では定義されています。

 「目舞い」と当て字をすることもあるように、「目がぐるぐると舞ったような感じ」のことを指します。ただし、人によっては、「ふわふわした感じ」や「立ちくらみ」などをめまいと呼ぶこともあり、感じ方は一様ではありません。

 一般的には、周囲や天井がぐるぐると回る「回転性めまい」と、体がふらついて真っすぐに歩けない「浮動性めまい」に大別され、主として耳と脳の病気で起こります。

 私たち人間は、両耳の内耳と、脳の中の小脳・脳幹とに、体の平衡感覚をつかさどる機能を備えています。そのいずれかにトラブルが発生し、体のバランスが崩れた場合に、めまいが起こりやすい、と見なされているのです。

 耳の最深部で、側頭骨の岩様部に囲まれた内耳には、体の平衡感覚に関係する三半規管と耳石、音の受容に関係して、その内側にリンパ液を満たす蝸牛(かぎゅう)管などの器官があります。三半規管、耳石、蝸牛管などの情報は脳の神経に伝えられるので、自分の頭や体がぐるぐる回転したように感じるめまいの症状は、内耳障害の可能性が高いのです。内耳に原因があると、音の聞こえが悪く、耳鳴りがして、耳が詰まるように感じることも、多くなります。 

 専門医の見解では「めまいの強さは必ずしも、危険度と一致しない」とされ、顔面や手足のしびれ、舌のもつれ、物が二重に見える複視、頭痛などの症状を伴う時に、注意が必要となります。脳の小脳や脳幹など生命維持に重要な部分のほうに、問題が発生している場合があるからです。

 ちなみに、脳の小脳の役割は、 大脳の命令で筋肉が動く時に、筋肉をうまく動かすためのコーディネーター。アルコールで小脳が麻痺(まひ)すると、舌と唇の動きが合わなくなり、うまく話せなくなります。脳幹のほうは、いわゆる「脳の幹」。大脳で発せられた命令は、小脳のコーディネートによって脳幹を通って、知覚・運動をつかさどる神経に伝達されるのです。 

■めまいの原因をチェック■

●内耳の疾患に起因するめまい 

 めまいを感じた場合、めまい以外の症状を確かめることが、必要となります。その症状によって、どんな病気かチェックし、受診する科を判断するといいでしょう。

 なぜなら、めまいを引き起こす病気は極めて多彩なため、医師側にとっても診断が難しく、間違いやすいとされているからです。 

 めまいと同時に、耳鳴り、難聴の症状が伴う場合には、内耳に障害がある可能性が高くなります。考えられる病気は、突発性難聴、メニエール病、内耳炎、聴神経腫瘍(しゅよう)、外リンパろうなどが挙げられます。

 まずは、耳鼻咽喉科へ行くのがいいでしょう。顔面神経麻痺、吐き気、嘔吐(おうと)、「真っすぐ歩けない」といった歩行障害などがある場合も、耳鼻咽喉科へ。   

●めまいを起こす代表的な内耳疾患  

 メニエール病  フランスの内科医メニエールによって発見された病気で、吐き気や嘔吐を伴うぐるぐる回るようなめまいを繰り返し、内耳の中に水腫(すいしゅ)、すなわち、むくみができるもの。肉体的・精神的ストレスが誘因となって、メニエール病が起こることもあります。

 良性発作性頭位(とうい)めまい症  めまいでは、メニエール病が著名ですが、実はそれほど多くはありません。最も多いのは、良性発作性頭位めまい症なのです。

 40歳以上の女性に多く、布団から急に起き上がった時や、お辞儀をした時、上のほうを向いた時、シャンプーをしている時、あるいは車をバックさせるために後ろを見た時などという同じような動作の後、数十秒にわたって回転性のめまいが続きます。ほとんどは自然に治りますが、再発して発作を繰り返す場合には、良性発作性頭位めまい症の可能性が高くなります。

 内耳にある耳石に障害がある時になりやすいため、耳鼻咽喉科へ行くのがいいでしょう。頭を動かす理学療法により、短期でよくなるケースもあります。

●脳の疾患に起因するめまい

 話し方が少しゆっくりになる、ろれつが回らないといった言語障害や、歩く際にふらつく、立ちくらみを覚えるといった平衡障害、また激しい頭痛を伴うような場合には、脳梗塞や小脳出血を始めとする脳血管障害、聴神経腫瘍などが疑われます。

 めまい外来、神経内科、脳外科での受診が、お勧めです。視力障害、手足のしびれや麻痺、不眠などを伴う場合も、そちらへ。

とりわけ小脳出血は危険ですので、緊急に神経内科や脳神経外科に行く必要があります。小脳に障害があると、回転性のめまいに加えて、ふらつく、ろれつが回らない、物が二重に見えるなどの症状がありますが、小脳出血では激しい頭痛、嘔吐を伴うのが特徴で、麻痺を伴う場合もあります。

 とにかく、以下のような症状が見られる、危険なめまいの場合には、すぐに専門医に掛かることです。

□激しい頭痛や吐き気

□手足の運動障害

□顔面神経の麻痺

□眼振(目がひとりでに動いてしまう) 

●全身に疾患に起因するめまい

 脳梗塞や小脳出血などの脳血管障害のほか、血圧の上昇・下降、不整脈などの循環器病、心筋梗塞などの虚血性心疾患、糖尿病などでも、めまいを起こす場合があります。

 さらに、夜更かし、暴飲暴食、大量喫煙、過労、睡眠不足、職場などでの対人関係ストレス、自律神経失調症、更年期障害、高血圧症、低血圧、貧血、アレルギー体質、高脂血症などが原因となって、めまいを起こす場合があります。 

■対策へのアドバイス■ 

●めまいを感じたら、体を横たえる

 まず、横になって休むこと。左右どちらかを下にして、めまいがひどくなるようなら仰向けに寝ます。休んでいてもめまいが治まらないようであれば、近くの内科か耳鼻咽喉科で診察してもらいましょう。 

 めまいが少し治まってきたら、天井や壁などを見てみましょう。模様が揺れて見えないか、揺れて見える場合にはその揺れ方などをチェック。受診の際に、医師に伝えましょう。

●専門医によるめまいの検査を

 めまいの時には、「めまい外来」のある病院が近くにあるなら、そこへ行きましょう。なければ、めまい以外の症状によって受診する科を判断して、耳鼻咽喉科、神経内科、脳外科などを受診しましょう。

 病院では、めまいの原因となる病気が内耳にあるのか、脳にあるのかを検査します。目が左右に激しく動くかどうかの眼振検査、体のバランスが乱れているかどうかの体平衡検査、聴力検査、耳に注水して人工的に三半規管を刺激する温度刺激検査などを行います。脳の検査としては、目の動きの検査(ENG検査)や画像検査(CT検査、MRI検査)などを行います。 

●病院での受診時にはメモの用意を 

 病院で診察を受ける時には、めまいが治まっていることが多く、問診でその症状を詳しく尋ねられることがあります。そこで、次のような点をメモしておくとよいでしょう。 

□ いつ、どこで、何をしていた時に起こったか

□どんなめまいだったか(「ぐるぐる回る」、「ふわふわする」、「真っすぐ歩けない」など)

□めまい以外の症状(吐き気、耳鳴り、手足のしびれなど)

□ めまいが起こる前の生活状況(体調、ストレス、睡眠状況など)

●日常生活にも工夫を

□早寝早起きで睡眠を十分にとる

 不眠症も、立派なめまいの原因となります。睡眠は人間が生きていく上で大切ですが、最近では夜型人間が増え、同時に睡眠障害を訴える人も増えています。これら睡眠が規則正しくない人は、めまいを起こすこともあります。まさに、生活習慣の乱れがめまいを起こすので、めまいも「生活習慣病」の一つに数えてもいいかもしれません。

 意外と不眠症や不規則な睡眠がめまいの原因だと気が付かない人も多いので、めまいを感じたら、自分の睡眠を一度、振り返ってみることが必要です。

□適度の運動を心掛ける

 どの年代にもお勧めの運動は、ウオーキング。ぺたぺた歩かず、両足は踵(かかと)から地面に着いて、爪先(つまさき)でけるようにします。腕を振りながら、上半身も使って、一分間に80メートル以上の速さで歩きましょう。

□ストレスをためず、気分転換を図る

 先にも触れたように、対人関係などによるストレスによっても、めまいが引き起こされます。過度のストレスが続くと、メニエール病や自律神経失調症やパニック障害、起立性調節障害などの心身症が起こり得ますが、それらの障害はめまいを伴うことがあるので、うまく気分転換を図りましょう。

2022/08/25

🇨🇦上顎洞炎

鼻の両横に位置する上顎洞に細菌が入り込んで、うみがたまる疾患

上顎洞炎(じょうがくどうえん)とは、鼻の両横に位置する副鼻腔(ふくびこう)の1つである上顎洞に、細菌が入り込んで炎症を起こす疾患。副鼻腔炎、いわゆる蓄膿(ちくのう)症の一種です。

上顎洞の上方は鼻腔と自然の穴でつながっているため、風邪などで鼻腔の粘膜に細菌が入り込んで炎症が起きると、それが上顎洞まで波及して上顎洞炎になることがあります。また、虫歯、歯周炎(歯槽膿漏〔しそうのうろう〕)が、上顎洞炎の原因となることもあります。

元来、上顎洞は上あごの歯と近接しており、硬い物をかむことが減った現代人では、歯の根が上顎洞に突き出ている人も多くなっています。そのため、虫歯、歯周炎を長い間治療せずに放置していると、細菌が上顎洞に入り込んで炎症を起こし、上顎洞炎になります。この場合の上顎洞炎は、歯性上顎洞炎といいます。上顎洞炎全体の1〜2割は、歯性上顎洞炎が占めます。

歯性上顎洞炎は、上あごの歯では第一大臼歯(きゅうし)が最も原因になりやすく、次いで第二小臼歯、第二大臼歯の順です。従って、これらの歯が虫歯の時には、歯性上顎洞炎に注意する必要があります。

上顎洞炎と歯性上顎洞炎の原因となる細菌は、黄色ブドウ球菌が最も多く、連鎖球菌、紡錘菌、大腸菌、肺炎菌、口腔スピロヘータなどでも起こります。

鼻の粘膜の炎症が原因の鼻性の上顎洞炎の場合は、両側の上顎洞が炎症を起こすのに対して、虫歯、歯周炎が原因の歯性上顎洞炎の場合は、原因歯のある片側だけの上顎洞炎が炎症を起こすのが特徴です。

鼻性の上顎洞炎の症状には、鼻汁(鼻水)、鼻詰まり、頭重感、目やほおが重かったり、痛いなどがあります。鼻汁は粘液性のものだったり、うみを含む膿性(のうせい)のものだったりすることもあります。また、後(こう)鼻腔からのどへと鼻汁が多く回り、これを後鼻漏(こうびろう)と呼びます。朝起きて、せきや、たんがやたらに出る人は、後鼻漏の可能性が高くなります。鼻詰まりのため口呼吸となり、のどへ回った鼻汁が気管支へ入り、気管支炎を起こすこともあります。

頭重感は前頭部に起こることが多いのですが、頭全体が重苦しいこともあります。このほか、嗅(きゅう)覚障害を起こしたり、精神的に落ち着かず、集中力が低下することもあります。

一方、歯性上顎洞炎が急性に起こった場合の症状としては、歯の痛み、歯茎のはれに続いて片側の鼻が詰まり、突然、悪臭が強く、うみを含んだ鼻汁が出ます。片側の目の下の部分の拍動性の痛み、はれや、ほおの部分の痛み、はれが現れたり、頭痛、発熱、倦怠(けんたい)感などの全身症状が現れることもあります。

歯性上顎洞炎が慢性に起こった場合には、歯の痛みは比較的少なく、明確な症状に欠けることも多く、片側の鼻詰まり、軽度の頭痛、頭重感などが生じることがあります。

片側だけの鼻の詰まりが続き、上あごの奥歯に痛みを感じるようであれば、歯性上顎洞炎の可能性があります。

鼻性の上顎洞炎になった場合は、耳鼻咽喉(いんこう)科を受診することが勧められます。一方、歯性上顎洞炎になった場合は、歯科での虫歯、歯周病の治療と、耳鼻咽喉科での上顎洞炎の治療が必要で、歯科と耳鼻咽喉科の両方がある病院などを受診することが勧められます。

上顎洞炎の検査と診断と治療

歯科、耳鼻咽喉科の医師による診断では、鼻の中に、うみを含んだ鼻汁が認められ、X線(レントゲン)検査で上顎洞に陰影があれば、鼻性の上顎洞炎、歯性上顎洞炎ともほぼ確定できます。

歯性上顎洞炎の場合には、上あごの歯、特に第一大臼歯、第二小臼歯、第二大臼歯に虫歯があり、その歯を軽くたたくと痛みや違和感があります。原因となっている歯を特定し、感染源となり得る小さな病巣を見付けるためには、CT(コンピュータ断層撮影)検査を行います。原因歯は1本でなく、2~3本あることもあります。

歯科、耳鼻咽喉科の医師による鼻性の上顎洞炎の治療では、上顎洞内の粘液を排出しやすくして、粘膜のはれをとるために、鼻腔内に血管収縮薬をスプレーします。次いで、粘液を出してきれいになった鼻腔、上顎洞に抗菌剤(抗生物質)、副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)などの薬液を吸入するネブライザー療法を行い、炎症やはれを抑えます。

 また、タンパク分解酵素薬を内服することで、粘液、膿汁を少なくします。近年、マクロライド系抗菌剤の少量長期間内服が、効果的と判明し行われています。

これらの治療が有効なのは軽度の場合で、程度によっては手術をします。手術には、鼻腔内から上顎洞を開放して、うみや粘膜を取り除く方法、上唇の内側と歯肉の境目の口腔粘膜を切開し上顎洞を開放して、うみや粘膜を取り除く方法があります。最近では、内視鏡を用いる手術が盛んになっています。

歯科、耳鼻咽喉科の医師による急性の歯性上顎洞炎の治療では、原因歯を抜歯するとともに、鼻の入り口近くから針を刺して上顎洞を生理食塩水で洗浄して、うみを洗い流し、抗菌剤の投与を行います。抜歯した部位に穴が開き、口の中と上顎洞がつながってしまうことがあり、手術で閉鎖しなければならないこともあります。

慢性の歯性上顎洞炎の治療では、歯の根や歯周組織の治療で感染源の除去を行い、改善を図ります。改善できなければ、原因歯を抜歯するとともに、上顎洞を生理食塩水で繰り返し洗浄して、うみを洗い流し、抗菌剤の投与を行います。

抜歯で改善できなければ、内視鏡下に鼻腔と上顎洞の上方をつないでいる自然の穴を大きく広げ、中のうみを除く手術を行い、抗菌剤の投与を行います。

炎症が上顎洞に広がり、抗菌剤を投与してもうみが止まらなければ、口の中から上顎洞に向けて骨に穴を開け、骨内部の空洞内面を覆っている粘膜を取り除く根治手術が行われることもあります。この根治手術は5~10年後に、術後性上顎嚢胞(のうほう)という疾患が起きてしまうことがあるため、近年は以前ほど行われなくなっています。

🇨🇦上顎洞がん

副鼻腔の1つである上顎洞に発生する悪性腫瘍

上顎洞(じょうがくどう)がんとは、鼻の両横に位置する副鼻腔(ふくびくう)の1つである上顎洞に発生する悪性腫瘍(しゅよう)。

上顎洞、前頭(ぜんとう)洞、篩骨(しこつ)洞、蝶形骨(ちょうけいこつ)洞と4つある副鼻腔に発生するがんでは、最も頻度が高く、日本での年間推定発症者は約1000人で、50歳以上の発症者が多く、男性のほうが女性より2倍多い傾向がみられます。

組織型としては、偏平上皮がんの頻度が最も高くなっています。

多くのほかのがんと同様に、明らかな原因は不明ですが、蓄膿(ちくのう)症とも呼ばれる慢性副鼻腔炎との関係が指摘されています。慢性副鼻腔炎を長期間患うと、上顎洞内にある多列線毛上皮が、重層偏平上皮に化生し、偏平上皮がんを発生することがあります。

初期の主な症状として、左右どちらか片側の鼻腔のみの鼻詰まり、鼻水がみられます。これは、鼻の左右両横にある上顎洞に、同時にがんが発生することはほとんどないためです。

がん細胞が周辺の組織を侵食していくと、鼻水には出血や膿(うみ)が混じり、悪臭のある粘度の高いものになります。上顎洞は上顎や目に近いため、がん細胞が巨大化すると、歯の痛みや歯肉のはれ、頬部(きょうぶ)のはれ、頬(ほお)のしびれ、眼球突出、視力障害などが現れることがあります。

しかし、がん細胞が上顎洞内だけにある場合は自覚症状がほとんど出ないので、発症に気付かず、放置してしまうこともあります。頸部(けいぶ)リンパ節への転移があれば、頸部腫瘤(しゅりゅう)が現れます。

症状があれば、設備の整った総合病院の耳鼻咽喉(いんこう)科を受診することが勧められます。

上顎洞がんの検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、がんが鼻腔にまで進行していると、内視鏡の一種の鼻腔ファイバースコープで確認できることがあります。検査の結果、疑わしい病変部位が発見された場合には、病変の一部を採取し、顕微鏡で調べる生検を行います。

鼻腔ファイバースコープで病変の一部が採取できない場合は、歯茎の一部を切開して、上顎洞から病変の一部を採取します。この生検では、できた病変ががんであるかどうか確定診断をすることができます。

がんの広がり具合や、周辺の組織や他臓器への転移の有無などを調べるためには、CT(コンピュータ断層撮影)検査、MRI(磁気共鳴画像撮影)検査、超音波(エコー)検査を行います。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、放射線治療、化学療法(抗がん剤)、手術療法を組み合わせた三者併用療法を行います。かつては上顎を全部摘出する手術療法のみでしたが、最近では三者併用療法により、上顎の温存が可能になりつつあります。

放射線治療や化学療法の効果が得られないほどに上顎洞がんの進行が進み、症状の悪化がみられる場合には、眼球や上顎の一部もしくは全部を摘出する手術療法を行います。

早期がんでは、内視鏡を鼻腔から入れ、がんを切除する方法が適用できますが、進行がんでは、歯茎を切開して上顎洞がんを切除する必要があります。

🇺🇸上顎洞真菌症

副鼻腔の一つである上顎洞に真菌が入り込んで、副鼻腔炎の症状を起こす疾患

上顎洞真菌症(じょうがくどうしんきんしょう)とは、カビの仲間である真菌が副鼻腔(ふくびくう)の一つである上顎洞に入り込むことが原因で、副鼻腔炎の症状を起こす疾患。副鼻腔真菌症の一つであり、真菌性上顎洞炎とも呼ばれます。

鼻の穴である鼻腔の周囲には、骨で囲まれた空洞部分である副鼻腔が左右それぞれ4つずつ、合計8つあり、自然孔という小さな穴で鼻腔とつながっています。4つの副鼻腔は、目の下にある上顎洞のほか、鼻の上の額にある前頭(ぜんとう)洞、目と目の間にある篩骨(しこつ)洞、その奥にある蝶形骨(ちょうけいこつ)洞です。

4つの副鼻腔は、強い力が顔面にかかった時に衝撃を和らげたり、声をきれいに響かせたりする働きがあるとされますが、その役割ははっきりとはわかっていません。鼻腔や副鼻腔の中は、粘膜で覆われており、粘膜の表面には線毛と呼ばれる細い毛が生えています。線毛は、外から入ってきたホコリや細菌、ウイルスなどの異物を粘液と一緒に副鼻腔の外へ送り出す働きを持っています。

真菌は、カビ、酵母(イースト)、キノコなどからなる微生物の総称で、菌類に含まれており、健康な人の体内に常にいるものや、空気中のあらゆる所に浮いている胞子が体内に入ってくるものなど、さまざまな種類があります。

健康である限り真菌に感染することはありませんが、体の抵抗力が落ちている人や高齢者、抗生物質を飲んでいる人、あるいは免疫の疾患などで副腎(ふくじん)皮質ホルモン(ステロイド剤)を飲んでいる人、免疫抑制剤を飲んでいる人など、免疫力が低下している人、糖尿病や悪性腫瘍(しゅよう)などの基礎疾患がある人が、真菌の胞子に接触すると日和見感染し、副鼻腔真菌症や、その一つである上顎洞真菌症を起こすことがあります。

上顎洞に入り込んだ真菌が増殖し、多くの場合は塊を形成するので、強い炎症が起こります。真菌の中でも、呼吸器を侵すアスペルギルスが最も多い原因となっています。それ以外には、肺や鼻や脳を侵すムコール、口や肺などを侵すカンジダなどが原因になっています。

症状としては、左右どちらか片側の鼻腔から膿(のう)性、または粘性の鼻水が出てきます。悪臭を伴ったり、チーズ様の乾酪(かんらく)性物質が鼻腔から出てくることがあります。頬部(きょうぶ)痛、頬部腫脹(しゅちょう)、鼻詰まり、鼻出血などの症状が出る場合もあります。

大半は上顎洞に限られた炎症にとどまることが多いものの、糖尿病が非常に悪化したり、免疫機能が低下したりして全身状態が悪くなると、目や脳の中に炎症が進み、上顎洞の骨を破壊して周囲に広がることがあります。この場合には、高熱、激しい頭痛、頬部腫脹、眼球突出、視力障害などを起こします。

糖尿病や悪性腫瘍などの基礎疾患があり、虫歯がないのに左右どちらかの鼻腔から悪臭を伴った鼻水が出てきて、反対側は全く症状がない場合は、要注意です。早めに耳鼻咽喉(いんこう)科、耳鼻科を受診することが勧められます。

上顎洞真菌症の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科、耳鼻科の医師による診断では、CT(コンピュータ断層撮影)検査を行います。画像には通常、左右どちらか片側の上顎洞に影が見られ、影の中心にはモザイク状の石灰化が見られるのが特徴的です。長期にわたる炎症を反映して、上顎洞の壁の骨が厚くなって見えることもあります。

鑑別を必要とする疾患には、悪性腫瘍、急性副鼻腔炎、歯性上顎洞炎があります。

耳鼻咽喉科、耳鼻科の医師による治療では、上顎洞内を複数回洗浄します。洗浄のために上顎洞内に針を刺したり、細い管を挿入するので、痛みを伴います。真菌に対する抗真菌剤の投与は、一般に行われません。

洗浄で改善しなければ、手術を行います。内視鏡下に行う鼻内副鼻腔手術で、上顎洞と鼻をつなぐ自然孔を広げた上で、上顎洞の真菌の塊を完全に摘出し、粘膜を洗浄します。手術後は、広げた自然孔から上顎洞洗浄を定期的に行います。ほとんどの場合は、手術後2~3カ月で上顎洞の粘膜は正常になります。

まれに悪化し、上顎洞の骨が破壊された場合は、真菌に対する抗真菌剤を全身投与し、鼻の外側から切開して感染した病変を完全に取り除く必要が生じます。目や脳の中に炎症が進んだ場合は、病変を完全に取り除くことが困難であることが多く、手術は不可能となります。

2022/08/24

🇦🇩職業性難聴

騒音の出る職場で長期にわたって過ごすことが原因になって起こる難聴

職業性難聴とは、騒音の下で長時間就業することにより起こる難聴。騒音性難聴とも呼ばれます。

職業性難聴を引き起こす騒音の大きさは80デシベル以上と定義されており、就業期間が長くなるとともに、難聴の症状も進行することになります。

騒音の激しい工事現場、機械の作動音の大きい工場、機械音や音楽に満ちたパチンコ店やカラオケ店で働く人、電話交換手などは、長年繰り返して騒音を聞き続けることで職業性難聴になることがあります。オーケストラや吹奏楽などでトロンボーンの直前にいる奏者が、職業性難聴になるといったことも起きています。

職業性難聴になるかどうかは個人差が大きく、同じような状況下にいても難聴になる人とならない人がいます。

なお、職業性というわけではないのですが、いつもヘッドホンやイヤホンを装着し、大きな音で音楽を聞いている人は、自ら騒音に満ちた生活環境を作り出しているようなものです。結果的に、職業性難聴と同じ形の聴力の低下を来すこともあります。

異なる周波数の音が混じった騒音の下で就業した人を比較すると、疾患の初期には4000ヘルツ付近の高音部を中心とする類似した聴力低下を示します。従って、騒がしく、大きな音により内耳の蝸牛(かぎゅう)内の限られた部位に感覚器障害が発生することが、疾患の発生原因と考えられています。感覚器を障害するのは、同じ大きな音でも、低音よりも3000ヘルツを超えるような高音のほうが強いといわれています。

しかし、初期には4000ヘルツより低い日常会話音域は問題なく聞き取れるため、異常に気付かない人も多くなっています。

そのまま騒音を聞き続けると、高音部から低音部も聞こえにくくなり、会話音域の500〜2000ヘルツまで聴力低下が及んだ時に、初めて難聴を自覚することになります。

異常に気付いた時には取り返しがつかなくなっているという例が、後を絶ちません。また、発症者の中には、耳鳴り、めまいなどの症状を訴える例も多くなっています。

職業性難聴は左右両側の耳に起こることが多く、両側の耳が同程度の難聴になります。

騒音のある職場では特殊健康診断が行われており、難聴が発生した場合には、その障害の程度に応じて労働者災害補償保険法による補償が行われています。申請書類の記入のために耳鼻咽喉(いんこう)科への受診が必要です。

職業性難聴の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、難聴の程度を調べるために純音聴力検査を行います。疾患の初期には、4000ヘルツ付近の高音部を中心に特徴的なC5dipと呼ばれる聴力低下像がみられ、比較的容易に診断できます。

しかし、進行すると老人性難聴や薬剤性難聴と似た聴力像を示すようになります。従って、騒音下での作業の職歴の有無が、職業性難聴の診断には極めて有用です。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、慢性の難聴のため、現時点では有効な治療手段はありません。対症療法として、循環改善薬やビタミン薬などが用いられる場合もあります。

難聴を自覚した時には、すでに疾患はかなり進行しており、元に戻すことは困難です。従って、騒音の下で長時間就労する場合には、耳栓、イヤーマフなどの防音具の装着による予防が必要です。騒音過多の職場の環境を変えることができれば、何よりの予防になります。

🟪インフルエンザの患者数が注意報の基準を超える 新型コロナと同時に流行ピークの恐れも

 インフルエンザの感染状況について、厚生労働省は20日、全国約5000の定点医療機関から9〜15日の1週間に報告された感染者数が1医療機関当たり19・06人だったと発表しました。前週(9・03人)と比べ2・11倍に急増し、「注意報」の基準の10人を超まし た。  都道府県別では...