鼻腔の粘膜が委縮し、鼻腔が広がって乾燥が進む鼻炎
委縮性鼻炎とは、慢性鼻炎の一種で、鼻腔(びくう)の粘膜が委縮し、鼻腔内が極度に広くなって乾燥が進む鼻炎。
正常な鼻腔は血管が密集した粘膜に覆われており、広い表面積と多くの血管があることで、外から入ってくる空気を素早く温め、加湿することができます。また、正常な鼻腔の粘膜には、線毛と呼ばれる極めて細かい毛のような突起を持っている多列円柱上皮という細胞があり、この多列円柱上皮は適度な量の粘液を分泌し、ほこりなどの異物粒子をのどの奥へと運んで取り除く働きをします。
委縮性鼻炎になると、多列円柱上皮細胞が失われ、皮膚のような重層扁平(へんぺい)上皮という細胞に置き換わって、鼻腔の粘膜は薄く硬くなります。
そうなると鼻腔の中は潤いがなくなって乾燥するために、かさぶたが多量に付着するようになります。かさぶたは汚く、雑菌が増えることで悪臭がするようになります。
鼻出血を繰り返すことも多く、鼻詰まりや頭痛が起こります。症状が進行すると、嗅覚(きゅうかく)も鈍くなり、臭いがわかりにくくなります。しばしば、のどが乾燥し、痛みや違和感が出ます。
鼻腔に引き続く副鼻腔の粘膜も、線毛を持ち粘液を分泌する細胞でできた粘膜で覆われており、委縮性鼻炎になると、副鼻腔の粘膜も次第に委縮してゆくため炎症や感染が起こりやすくなり、慢性副鼻腔炎の症状も加わってきます。
委縮性鼻炎が生じる原因はいまだ特定されていませんが、ビタミンAやDの慢性的な不足で抵抗力が低下することで、発症すると考えられています。また、女性の場合はホルモン異常により、さまざまなホルモンのバランスが崩れることで、発症することもあると考えられています。
さらに、慢性副鼻腔炎の根治手術で鼻腔内の骨や粘膜のかなりの部分を切除した人が、委縮性鼻炎を発症することもまれにあります。
昔に比べて近年は、委縮性鼻炎は随分少なくなっています。その理由としては、生活習慣の変化や栄養改善による鼻腔の粘膜の変化、抗生剤治療の発達による感染症の軽症化と短期化、アレルギー性鼻炎の増加など、さまざまな要因が考えられています。
委縮性鼻炎の長く症状が続いた場合は、早めに耳鼻咽喉(いんこう)科を受診することが勧められます。
委縮性鼻炎の検査と診断と治療
耳鼻咽喉科の医師による診断では、特別な検査は行わずに、鼻鏡を用いて鼻の入り口から鼻腔内を調べ、鼻腔が広くなっていて、臭いの強いかさぶたが多量に付着していることで、委縮性鼻炎と確定します。
ウェゲナー肉芽腫(にくげしゅ)症、悪性リンパ腫(しゅ)、梅毒などと区別するために、血液検査や病理検査を行うこともあります。
耳鼻咽喉科の医師による治療では、かさぶたができることを防ぎ、悪臭をなくし、感染を抑えるために、抗生剤含有の軟こうや、副腎(ふくじん)皮質ホルモンなどのステロイド剤含有の軟こうを鼻腔の中に塗布、あるいは噴霧します。鼻腔、副鼻腔を洗浄することもあります。
同時に、ビタミンA剤やビタミンD剤、あるいは女性ホルモンのエストロゲン剤も内服して、鼻腔内の粘膜が粘度を取り戻せるようにします。冬の空気が乾燥する季節には、保湿効果のあるワセリン基剤の点鼻剤を塗布して、鼻腔内が乾燥しないようにします。
広くなった鼻腔を狭くするため、粘膜や骨の移植手術を行うこともまれにあります。移植手術を行うと、鼻を通る空気の量が少なくなり、かさぶたの形成が減るという効果があります。
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