ラベル 病気(き) の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 病気(き) の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2022/08/13

🇸🇲キアリ奇形

脳の奇形の一種で、後頭部にある小脳や延髄の一部が頭蓋骨から頸椎に落ち込む疾患

キアリ奇形とは、本来は頭蓋骨(とうがいこつ)の中に納まっているべき、小脳扁桃(へんとう)や延髄が頭蓋骨の下縁にある大後頭孔を超えて、頸椎(けいつい)を上下に貫いている脊柱管に脱出、下垂する疾患。脳の奇形の一種です。

脱出した小脳扁桃が間脳、中脳、橋、延髄などで構成されている脳幹を圧迫したり、頭蓋骨と頸椎の移行部で脳脊髄液の通過を障害したりして、症状を出すことがあります。しばしば、脊髄(せきずい)の中に空洞が生じ、内部に脳脊髄液が貯留する脊髄空洞症を合併します。

胎児期に後頭骨から頸椎上部の骨の形成異常によって起きる先天性と、出生時の外傷による頭蓋骨の変形によって起きる後天性があり、詳しい原因はわかっていません。

また、脱出、下垂した脳組織や合併する疾患によって、キアリ奇形は1型、2型、3型に分類されます。

キアリ奇形1型は、小脳扁桃だけが脊柱管内に下垂するものです。先天的に脊椎骨が形成不全となって、脊椎骨の背中側の一部が開放し、脊髄や髄膜の一部が骨の外に露出する脊髄髄膜瘤(りゅう)の合併はなく、神経系の奇形を合併することはまずありません。

通常は単独の疾患ですが、時に脳脊髄液による脳の圧迫が脳機能に影響を与える水頭症や、頭蓋骨縫合早期癒合症(小頭症)、脳腫瘍(しゅよう)、脊髄係留などの疾患によって、後天的にキアリ奇形1型を認めることもあります。通常は、遺伝性はありませんが、まれに家族間で発生することもあります。

キアリ奇形2型は、小脳虫部や脳幹まで脊柱管内に下垂するもので、アーノルド・キアリ奇形とも呼ばれます。キアリ奇形1型より重症で、ほとんどで水頭症を伴うとともに、原則として脊髄髄膜瘤を伴い、神経系の奇形を合併します。

キアリ奇形3型は、小脳、延髄が頸椎上部の脊髄髄膜瘤の中に下垂するものです。生命予後は、不良です。

キアリ奇形1型を発症すると、頭痛、後頸部痛、めまい、手足の感覚障害、脊柱側湾症、筋肉が緊張しすぎて歩きにくくなる痙縮(けいしゅく)を生じます。頭痛や後頸部痛は、くしゃみやせきで誘発されることが多いのが特徴的です。まれに睡眠時無呼吸症候群を起こすこともあります。

一般には、数年から十数年かけてゆっくり進行し、高校生ぐらいから40歳くらいの女性に症状が出ることが多いのですが、小児期から症状を出すこともあります。

小児のキアリ奇形1型では、年齢によっても症状が異なります。2歳以下では、食物を飲み込みにくくなる嚥下(えんげ)障害や、胃食道逆流などの症状が約80パーセントに認められるのに対して、3歳をすぎると、合併する脊髄空洞症による腕から手にかけてのしびれや筋力低下、頭痛、脊椎側湾症といった症状が多くなります。

脊髄空洞症も2歳以下では、約30パーセントにしか伴いませんが、3歳をすぎると、85パーセント程度と高率に伴うようになります。

キアリ奇形2型の多くは、乳幼児期に発症しますが、やはり年齢によって症状が異なります。

2歳以下では、嚥下障害、呼吸障害が主な症状で、重症な場合は気管切開や、腹部に開けた穴から管で胃に栄養分を送る胃ろうが必要になることもあります。2歳以上では、キアリ奇形1型と類似した症状になってきます。脊髄髄膜瘤が致死的経過をとることもあるため、特に乳児では症状が出た場合に準緊急的な対応が必要になります。

キアリ奇形の検査と診断と治療

脳神経外科、脳外科の医師による診断では、頭部のMRI(磁気共鳴画像撮影)検査を行い、小脳扁桃が大後頭孔より下垂していると、キアリ奇形1型と確定します。

脊髄のMRI(磁気共鳴画像撮影)検査により、脊髄空洞症の有無を調べます。また、CT(コンピュータ断層撮影)検査やX線(レントゲン)検査を行い、頭蓋骨の形成異常、側湾など脊椎骨の変形を調べます。

キアリ奇形2型に対しては、合併する水頭症、脊髄髄膜瘤を併せて評価します。

脳神経外科、脳外科の医師によるキアリ奇形1型の治療では、基本的には小脳扁桃が下垂して空間が狭くなり、延髄などが圧迫されている大後頭孔部の減圧術を行います。

後頭骨の一部を削除した後、人工硬膜を用いて硬膜を形成し、空間を広げます。この手術で、合併する脊髄空洞症も改善する場合がほとんどです。改善しない場合は、空洞内にカテーテルを入れて、たまった脳脊髄液をくも膜下腔(こう)へ流す手術を行う場合があります。

キアリ奇形1型の80〜90パーセントは、手術により症状が改善し、予後良好とされています。

キアリ奇形2型の治療では、脊髄髄膜瘤に対する修復術と、水頭症に対する脳脊髄液の一部分を頭蓋骨の外へ流す処置や、シャントチューブと呼ばれる細い管を用いて頭以外の腹腔へ脳脊髄液を流す仕組み作りを優先します。

これらの治療にもかかわらず明らな症状が認められるようになった場合には、キアリ奇形1型に対するのと同じ減圧術を行います。しかし、予後は不良です。

🇲🇹奇異性尿失禁

排尿障害があって十分に排尿できないために起こる残尿の一時的な漏れ

奇異性尿失禁とは、排尿障害があって十分に排尿できず、常に膀胱が伸展しているために、一時的な少量の漏れを示す尿失禁。溢流(いつりゅう)性尿失禁とも呼ばれます。

尿失禁というと、尿を流す部分が緩んで垂れ流しになることと思われがちですが、一時的な漏れではなく、一日中、常に漏れ続ける失禁は真性尿失禁、または全尿失禁と呼び、代表例として挙げられるのは尿管開口異常などの先天性尿路奇形によって常に尿が漏れているもの、または手術などの際、尿道括約筋を完全に損傷したものです。

一方、一時的な漏れを示す奇異性尿失禁は、排尿障害があって尿が出にくい状態になっているのに、尿が無意識に漏れるものです。尿が出にくくても、新しい尿は腎臓(じんぞう)から次々に膀胱(ぼうこう)に送られてくるのでたまっていき、膀胱がいっぱいになると尿がチョロチョロと少量ずつあふれて出てきます。

膀胱に尿を保持できるものの、排尿しようとしても十分に排尿できずに、尿が少量ずつ漏れ出る状態であり、尿を保持できない尿失禁とは異なるために奇異性尿失禁といわれます。

この症状は、前立腺(ぜんりつせん)肥大症による下部尿路閉塞(へいそく)が原因となることが多いので、中高年男性に多くみられます。

前立腺肥大症による排尿トラブルは、膀胱への刺激による頻尿から始まります。前立腺は膀胱から出てすぐの尿道を取り巻いているので、前立腺肥大によって膀胱の出口や尿道への刺激が強くなり、夜中に何度も排尿のために起きるというような頻尿が始まります。同時に、会陰(えいん)部の不快感や圧迫感、尿が出にくいといった症状も現れます。

次に、排尿に際して尿が出切らずに、膀胱にたまる残尿が発生するようになります。この段階では排尿障害が次第に強くなり、息んで腹圧をかけないと出ないようになってきます。さらに、肥大した前立腺によって尿道が狭くなっていくと、慢性尿閉となります。残尿が多くなって膀胱は尿が充満した状態になり、尿意を感じなくなって気付かないうちに尿が少量ずつあふれて漏れる奇異性尿失禁の状態になります。

ほかには、女性が子宮がんを手術した後、糖尿病や脳血管障害で膀胱が収縮しなくなった場合に、奇異性尿失禁がみられます。

女性の場合は尿が出やすい体の構造なので、男性に比べて奇異性尿失禁の状態になるケースはまれですが、子宮がんや直腸がんの手術の後で一時的に膀胱が収縮しなくなった場合、大きな子宮筋腫(きんしゅ)で膀胱の出口が圧迫され尿閉になった場合、子宮脱や子宮下垂などで尿道が開きづらくなった場合に、奇異性尿失禁がみられます。

また、糖尿病や脊髄(せきずい)損傷、脳血管障害などによって、膀胱を中心とする末梢(まっしょう)神経系が器質的に傷害されると、膀胱が収縮しなくなる神経因性膀胱となり、たまった尿があふれて漏れる奇異性尿失禁がみられます。糖尿病では知覚がまひするために、尿意を感じないまま膀胱が膨らんで、1000ミリリットルもたまることがあります。

奇異性尿失禁がみられると、下着がぬれる、臭いが気になるなど、しばしば不快感を覚えることになります。最近は尿パッドも普及してきましたが、外出や人との交流を控えることにもつながりかねません。次第に日常生活の質が低下することも懸念されます。

奇異性尿失禁を放置していると、膀胱にたまっている尿に細菌が繁殖して尿路感染症や腎機能障害などを起こしたり、腎不全になることもあります。症状がみられたら、泌尿器科、ないし婦人科など専門医を受診してください。

奇異性尿失禁の検査と診断と治療

泌尿器科、ないし婦人科の医師による診断では、症状および各種検査を総合し、奇異性尿失禁の原因を確定します。一般的には問診、尿検査、超音波検査、血液検査、尿流動態(ウロダイナミクス)検査(膀胱内圧、腹圧、排尿筋圧、外尿道括約筋活動、尿流量測定)、尿路造影検査、内視鏡検査などを行って、奇異性尿失禁の原因を探ります。

泌尿器科、ないし婦人科の医師による治療は、奇異性尿失禁の原因になる疾患の種類によって異なり、基礎疾患があればその治療が第一です。前立腺肥大症や子宮脱、子宮下垂と診断すれば、その治療を行います。また、必要に応じて膀胱を収縮させる薬を用いることもあります。

前立腺肥大症が奇異性尿失禁の原因の場合は、症状が軽い場合は薬物療法から始め、症状がひどい場合や合併症を引き起こしている場合は手術療法を行います。

神経因性膀胱が奇異性尿失禁の原因の場合は、治療が可能ならばまず基礎疾患に対して行いますが、神経の疾患はなかなか治療の難しいことが多く、薬物療法、排尿誘発、自己導尿法などで排尿効率を高めることになります。

自己導尿法は、尿が出にくく残尿が多い場合に、1日に1〜2回、清潔なカテーテルを自分で膀胱内に挿入し、尿を排出させるものです。 これで、とりあえず症状は改善し、外出も容易になります。

🇲🇹キーンベック病

手首を構成する骨の一つである月状骨が壊死する疾患

キーンベック病とは、手首を構成する8個の骨の一つである月状(げつじょう)骨に、血流障害による壊死が起こる疾患。月状骨軟化症とも呼ばれます。

1910年、キーンベックによる初めての報告以来、この疾患名がつきました。月状骨は、手首(手関節)を構成する8個の小石のような骨(手根骨)のほぼ中央に位置します。つまり、周囲がほぼ軟骨に囲まれていて血行が乏しいために、血流障害に陥って壊死を起こしやすく、つぶれて偏平化します。体の中で、このような血流障害による壊死を起こしやすい部位は、ほかに大腿(だいたい)骨頭が挙げられます。

キーンベック病はバドミントン、テニスなどの手首をよく使うスポーツで発症することが多く、捻挫(ねんざ)や打撲などの軽微な外傷を切っ掛けに発症することもあります。職業的には工員、大工、農漁業など手をよく使う20、30歳代の男性に多く発症します。明らかな外傷や職歴のない女性、高齢者に発症することもあります。

何らかの原因で月状骨への血行が絶たれて発症すると考えられていますが、根本的な原因は不明です。

一説には、手首の使いすぎ、軽微な外傷の繰り返しなどが月状骨に損傷を起こし、血行障害に陥った骨では修復能力が乏しいため、次第に偏平化を引き起こすと考えられています。また、肘(ひじ)と手の間に位置する前腕に2本ある骨、橈骨(とうこつ)と尺骨(しゃっこつ)の長さのバランスの違いにより、手関節内の月状骨にかかる圧力が強くなる場合に、発症しやすいと考えられています。

主な症状は、手首を動かしたり力を入れた時の痛みや、はれ、握力の低下、手首の動きの制限。壊死が進行すると、痛みのために手関節の変形性関節症の状態になり、日常生活で多大な不自由を生じるようになります。

10歳代前半で発症した場合などは自然治癒も期待できますが、成人では完全な治癒は期待しにくく、壊死が進みます。しかし、手首の使いすぎを抑えるとともに、痛みが落ち着いてくることもあります。

整形外科の医師による診断では、X線検査で月状骨に輝度変化が生じていたり、硬化像、偏平化が認められれば確定できます。MRI検査をすれば、より詳しい状況がわかります。

治療法は、症状、年齢などによって変わります。初期や痛みが強い時には、ギプス、装具などで固定を行い、しばらく安静にします。治らない時には、進行度などに応じていろいろな手術が行われます。月状骨にかかる力を減らして痛みを緩和するために橈骨短縮骨切り術や、部分手関節固定術が行われたり、手首のそばから血管や、血管をつけた骨を月状骨内に移植する方法なども行われます。

末期では、壊死した月状骨を隣の舟状骨、三角骨とともに切除する近位手根列切除術などが行われます。変形性関節症が生じた場合は、手首が動かないように固める全手関節固定術などが行われます。

🇲🇹期外収縮

心臓が本来の拍動のリズムを外れて、不規則に収縮する不整脈

期外収縮とは、異常な電気刺激によって心臓が本来の拍動のリズムを外れて、不規則に収縮する不整脈の一つ。

不整脈は、一定間隔で行われている心臓の拍動のリズムに、何らかの原因によって乱れが生じる疾患の総称。この不整脈は、脈が正常よりも速くなり、1分間当たりの心拍数が100回を大きく上回る症状をみせる頻脈性不整脈、脈が正常よりも遅くなり、1分間当たりの心拍数が60回未満まで下回る症状をみせる徐脈性不整脈、そして、普段規則正しく打っている脈が不規則なリズムになる期外収縮の3つに分類されます。

期外収縮は、不整脈の中で一番多く起こります。健康な人でもみられ、年齢を重ねていくにつれてみられる頻度も高くなっていきます。

脈が不規則になり、「トン、トン、トン」と規則正しく打っている脈の中に時々「トトン」と早く打つ脈が現れたり、急に心臓の1拍動が欠け、1秒飛んで2秒後に拍動するといったリズムの乱れを伴います。心室性期外収縮と、より良性の心房(上室)性期外収縮に分かれますが、いずれの場合も心臓がドキンとしたり、心臓が一時止まったように感じたりします。

心臓は全身に血液を送り出すために、規則正しいリズムで収縮と拡張を繰り返しています。心臓の右心房にある洞結節(どうけっせつ)という部位で電気刺激が発生し、電気刺激は房室結節を通って心室へと伝えられます。期外収縮は洞結節以外の部位で電気刺激が発生し、心臓に伝えられるものです。心房で電気刺激が発生した場合が心房(上室)性期外収縮、心室で電気刺激が発生した場合が心室性期外収縮に相当します。

通常の洞結節から発生する電気刺激よりも、早いタイミングで心臓に伝えられるため、脈をとった時に「早いタイミングで打つ」、「リズムが不規則になる」、「脈拍として触れることができず、脈が一拍飛ぶ」ように感じます。

期外収縮は起きても無症状であることが多いのですが、胸の違和感や痛み、喉(のど)の詰まった感じなどの症状が出ることもあります。連続して起こると、血圧の低下や動悸(どうき)、めまいなどが生じることもあります。

心室性期外収縮であれば、命の危険にかかわる心臓の疾患から起きている可能性もあります。突然死の原因にもなる心筋梗塞(こうそく)や、心機能の低下を来すこともある心筋症、心臓に負担がかかる弁膜症などです。

心房(上室)性期外収縮であれば、発生する数も少なく、無症状であれば、ひとまず心配はありません。ただし、症状が連続して起こる場合には、心房細動などの危険な不整脈へと移行することがあるので注意が必要です。通常は洞結節から規則正しく1分間当たり60~100回の電気刺激の発生がみられますが、心房細動では1分間当たり400~600回も心房が不規則に動きます。心房内の血液の流れは悪くなり、意識の消失や心機能の低下、血栓を生じて脳梗塞を招くこともあります。

健康診断などの検査で期外収縮を指摘されたり、自分で脈をとった時に脈が飛ぶなどして期外収縮だと感じたりした場合は、1日に起こる回数や頻度などを確認してみるといいでしょう。頻繁に起こるような場合は、医療機関で検査を受けて確認してみるといいでしょう。

期外収縮の検査と診断と治療

循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科の医師による診断では、心電図検査が基本となります。一般的に通常の検査は限られた時間の中で情報を集めますが、詳しく検査する場合はホルター心電計を利用します。これは胸に電極をつけて24時間にわたる心電図を記録する携帯式の小型の装置で、運動中や食事中、就寝中などでの期外収縮の出現頻度と出現形態を確認できます。

また、基礎心疾患の有無や運動前後での期外収縮の出現頻度をみる目的で、心臓超音波検査や運動負荷心電図を行います。

循環器科、循環器内科、不整脈科、不整脈内科の医師による治療では、健常な人でも自分の年齢数くらいは期外収縮が現れてもおかしくないので、単発の期外収縮で無症状であれば、日常生活に制限を設けません。

症状が強い時には、まず抗不安薬を投与します。それでも症状がある場合には、抗不整脈薬を使うことになります。薬物治療を行う場合には、副作用のリスクを考慮して、十分に検討した上で慎重に行います。

運動をすると期外収縮が頻発する場合には、期外収縮の連続による頻脈(頻拍)や持続性の頻脈が生じる可能性があるので、運動を控えるよう制限を設けます。逆に、運動によって期外収縮がなくなる場合には、運動制限を設ける必要はありません。

期外収縮自体の予後は、良好です。しかし、心室性期外収縮が引き金になって致死的な頻脈が生じることがあります。このような場合は治療が必要で、鼠径(そけい)部などから挿入した細いカテーテルにより、心臓の期外収縮の原因組織を高周波電流で焼灼(しょうしゃく)する経皮的カテーテル心筋焼灼術を行うことがあります。

一般的な期外収縮の予防には、規則正しい生活とバランスのとれた食事を心掛け、ストレスの低減、睡眠不足を避けることなどが大切です。喫煙や過度の飲酒も控えます。

🇬🇷気管支炎

気管支炎とは、太い気道である気管から枝分かれした、左右の気管支に起こる炎症です。通常、細菌やウイルスの感染によって起こりますが、気道から吸い込んだガスや粒子の刺激によっても起こります。

気管支炎には、風邪症候群などによる急性気管支炎、原因不明の痰(たん)と咳(せき)が長期間に渡って続く慢性気管支炎などがあります。

急性気管支炎

急性気管支炎は、急性の炎症が気管支粘膜に起こる疾患で、アデノウイルス、インフルエンザウイルスといったウイルス、百日咳菌、肺炎球菌といった細菌などの感染や、刺激の強い化学ガスの吸入といったことが原因で起こります。

最も多いのは、風邪や風邪症候群、インフルエンザの原因となるウイルスの二次的な感染によって起こるもので、この場合には、炎症は気管支だけにとどまらず、喉頭(こうとう)、気管にも及びます。ほぼ連続的に気管に起こる炎症は、急性気管炎と呼びます。

主な症状は、咳です。炎症の起こり初めは、痰を伴わない空咳ですが、やがて少量の痰を伴うようになります。ウイルス性気管支炎での痰は無色か白色で粘っこいものですが、黄色または黄緑色の膿性(のうせい)の痰に変化すると、細菌感染を合併したサインとなります。

冷気や乾燥した空気、ほこりなどを吸い込むと、その刺激で急に咳き込みます。また、強い咳が続くと、胸部や腹部の筋肉が痛くなることがあります。

重症になると、発熱し、全身倦怠(けんたい)感、白血球の増加、呼吸困難、チアノーゼなどがみられます。

慢性気管支炎

慢性気管支炎は、「持続性あるいは反復性の痰を伴う咳が少なくとも連続して2年以上、毎年3カ月以上続くものをいう」 と定義されています。ただし、肺結核、肺化膿(かのう)症、気管支喘息(ぜんそく)、気管支拡張症等の肺疾患や心疾患を伴うものは除外します。

はっきりとした原因は不明ですが、男性に多くみられ、たばこの煙、汚染した空気、ほこり、刺激性の化学物質が呼吸と一緒に入ってくると、その刺激がもとで粘液分泌が増加したり、繊毛が減少することが、発病に関係していると考えられています。

また、老化によっても体の防御機構としての働きが弱まって、増えてしまった粘性のある痰が、喉に押し出されにくくなり、咳で痰を出すようになります。このため、気管や気管支は弱くなり、粘膜は咳き込んだ時にすぐに傷付いてしまい、炎症が深くなっていきます。

症状は、頑固な咳と痰ですが、痰は朝に目立ち、量が多いのが特徴です。冬季に悪化することが多く、夏季には軽快します。普通、熱は出ません。

痰が切れにくくなると喉に絡まり、気管支喘息のような「ゼーゼー」という喘鳴を伴うこともあります。病気の進行そのものは緩慢で、適切な治療を行えば問題はありませんが、長期間に渡って放置すると心臓に負担がかかり、特に老人は心不全を起こすことがあります。

気管支炎の治療

急性気管支炎の治療では、呼吸器疾患の治療薬を症状に合わせて服用します。去痰剤による痰の除去、鎮咳剤による咳の沈静化が行われ、細菌感染の場合は抗生物質が使用されます。

一度、快方に向かい始めたら、確実な治療を行えば大体1週間以内に軽快します。栄養のある食事を心掛けて安静にし、喫煙者はたばこを控えることが大切。冷たくて湿った環境は、なるべく避けるべきです。

慢性気管支炎の治療では、ネブライザー吸入療法や、体位(性)ドレナージによる気道の浄化が行われます。ネブライザーの吸入薬剤としては、喀痰(かくたん)溶解剤、気管支拡張剤、抗生物質、副腎(ふくじん)皮質ステロイド剤等が用いられます。体位ドレナージは、足のほうを高くしたり、頭のほうを低くしたりして、痰が喉頭のほうへ流出しやすい姿勢をとるもので、バイブレーターなどで背中に振動を与えると、より効果的です。

原因の除去のため、大気汚染からの転地、職場汚染からの転職、たばこの禁煙が勧められます。

🇬🇷気管支拡張症

■気管支が部分的に拡張した疾患

乳幼児期に発病し、慢性化する場合は、各種のウイルス性肺炎、麻疹(ましん)、百日咳(ぜき)などの後遺症として起こります。

青年期以降では、肺結核、肺炎、肺化膿(かのう)症、蓄膿(ちくのう)症などの後遺症として起こってきますが、実際には、直接の原因の分からないものが一番多いようです。前者を続発性気管支拡張症、後者を特発性気管支拡張症と呼びます。

まれに、原発性線毛機能(運動)不全症候群など、先天的に気管支が拡張している例もあります。この先天性のものにカルタゲナー症候群といって、気管支拡張症、心臓などの臓器の位置が左右逆である内臓逆位症、蓄膿症(慢性副鼻腔炎)の3症状を持つ病気があります。カルタゲナー症候群では、家族内に発病者が出やすいこと、両親に血族結婚が多いこと、そのほかの先天異常を合併しやすいことなどから、遺伝的要素が濃厚です。

■激しい咳と濃い多量の痰

気管支拡張症の症状として、激しい咳(せき)と濃い多量の痰が慢性的に続きます。痰は黄色から緑色のことが多く、起床後、運動後に大量に出ます。中には、気管支の炎症により血痰、喀血(かっけつ)が起こることも。また、拡張した気管支には痰がたまりやすいために、細菌の感染を併発して発熱することもよくあります。進行すると、全身衰弱、呼吸困難も出てきます。

気管支拡張症が急性悪化し、発熱したり、呼吸困難を起こす原因としては、インフルエンザ菌、肺炎球菌、嫌気性菌の感染が最も多いと見なされます。感染症を起こした時は、入院治療をするようにしましょう。

また、予防法が特にありませんので、咳や痰などの呼吸器症状が出てきたところで、早めに医師に診てもらうようにしましょう。

■感染症が起きたら入院治療

医師による診断を決定するためには、CT検査が行われます。かつては、気管支内に造影剤を注入し、気管支造影法が行われていましたが、最近ではほとんど行われていません。

感染症状が強い時には、適切な治療を施すために、痰の細菌学的な検査も行われます。

いったん拡張した気管支を元に戻すことはできません。気管支拡張症で最も重要な治療法は、痰の体位(性)ドレナージです。気管支拡張症のある部位を高くした体位を起床後、就寝前など1日数回、20~60分間とり、咳をしたり、背中にバイブレーターで振動を与えたりして、痰の喀出を図ります。この際、気道に湿気や薬液を供給する噴霧器であるネブライザーで、去痰薬や喀痰溶解薬を吸入させると、痰がさらに出やすくなります。

また、気管支拡張薬も必要に応じて投薬されます。気管支の炎症を抑えるためは、抗生物質の一種であるエリスロマイシンの少量長期投与も行われます。

喀血が続き、なかなか止まらない場合には、止血薬の内服、点滴注射、気管支ファイバースコープによる出血部位への血液凝固薬の注入が行われます。出血量があまりに多い場合には、輸血が行われることもあります。

内科的治療が成功しない場合には、外科的な処置が必要となります。気管支の拡張部位が一つの肺葉(はいよう)に限られている場合にも、外科的な手術が検討されます。

🇬🇷気管支狭窄

気管支の一部の内腔が恒久的に細くなった状態

気管支狭窄(きょうさく)とは、気管支の一部の内腔(ないくう)が通常に比べ細くなった状態。

ぜんそく発作の際にも気管支は細くなりますが、これは気管支を取り巻く平滑筋が一時的に収縮するため生じます。これに対し気管支狭窄は恒久的な狭窄で、気管支の粘膜や気管支壁に傷ができた跡が硬く縮んだり、気管支の周囲に腫瘍(しゅよう)などが増殖して、外から圧迫されるようになるために起こります。肺結核によって長年に渡って気管支粘膜が傷付けられたり、肺がんなどによって引き起こされることがあります。

狭窄の程度にもよりますが、太い気管支に狭窄が起こると、空気の通り道が狭くなるために息苦しくなったり、呼吸困難が現れるようになります。

この気管支狭窄が起こって、休息時あるいは運動時に、肺が適切なガス交換の機能を果たせなくなった場合には、呼吸不全がみられます。

慢性的な呼吸不全になると、呼吸が正常に保てず、酸素不足の状態になります。こうなると全身の機能低下を防ぐために、酸素吸入などの措置が必要となることもあります。

気管支狭窄の検査と診断と治療

医師による診断では、レントゲン検査やその他の画像検査が行われますが、血管造影や内視鏡などの特殊な検査方法も必要なことがあります。また、原因となっている疾患の診断には、他の検査が必要になります。

治療としては、気道の狭窄を取り除き、呼吸不全の発現を防ぐために、手術やレーザー照射が行われます。近年では、ステントという金属を入れて、気管支の内側から広げる方法も行われています。

気管支狭窄が原因となってその奥に分泌液がたまり、感染を起こして肺炎になった場合は、抗生物質や粘膜溶解剤を投与して、感染と炎症を抑えます。

何よりも気管支狭窄の原因となっている疾患の治療が必要です。

🇮🇹気管支ぜんそく

●気管支ぜんそくとは

気管支ぜんそくとは、原因物質であるアレルゲンや個人の生活環境から生じる刺激物質などによって、気道が過敏に反応して内腔が狭くなった結果、突然、咳(せき)が出て、ゼーゼー、ヒューヒューといった音を伴う呼吸となり、息苦しくなる病気です。しかも、繰り返すことが特徴です。

この病気の怖い点は、重症の発作を起こすと死亡するケースもあることです。年間の死亡者は、6000人前後を数えています。年齢別に見ると、男女とも15~29歳の若年層で増加の傾向を示しています。さらに、死亡例を気管支ぜんそくの重症度別に見た時、軽症、中等症の気管支ぜんそくでの増加が、小児、成人ともに指摘されています。

小児の気管支ぜんそくが増加していることも、注目されています。また、以前は乳幼児の気管支喘息は比較的まれでしたが、最近では著しく増加しています。増加の原因として、さまざまな説がありますが、明確な答えが出ていないのが現状です。

●気管支ぜんそくの症状

成人でも小児でも、生まれ付きアレルギー反応を起こしやすいアトピー素因がある人では、突然、出現する呼吸困難、息苦しさ、息を吐く時にゼーゼー、ヒューヒューといった音がする喘鳴(ぜんめい)、夜間、早朝で出現しやすい咳が繰り返し起こり、軽い場合は特別な治療もせずに治まってしまうことがあります。

春先とか秋口になると毎年、喘鳴や咳が見られ、1~2カ月続くという人もいれば、1年中発作が続く人もいるなど、繰り返すパターンは人によって異なります。

気管支ぜんそくは多くの場合、アレルギー性の病気ですから、さまざまな病気を合併していることがあります。アレルギー性鼻炎、花粉症、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹(じんましん)などが、代表的な病気。

よく見られるものとして、運動誘発性ぜんそくがあります。運動をした直後に、ぜんそく発作を起こすタイプと、運動後6時間以上経って発作を起こすタイプがあります。特に、後者の診断には注意が必要です。

●気管支ぜんそくの予防法

気管支ぜんそくの予防については、発病しないための一次予防と、すでにかかっている人の発作を防ぐ二次予防に大別できます。

発病に関係する因子と一次予防

気管支喘息の発病には、三つの因子がかかわっていると考えられます。

かかりやすくする因子:環境アレルゲンに反応しやすいアトピー体質があります。また、小児では女児より男児に多く見られます。成人では、男女に差がなくなります。

原因となる因子:ちり、ダニ、ペット、カビなどの室内アレルゲンや、花粉などの屋外アレルゲンがあります。特に小児では、室内のちり、ダニなどが多い環境で生活すると発病しやすいので、室内環境を整えなければなりません。また、職業によっては、頻繁に接する物質が発病の原因になることがあります。さらに、アスピリンなどの消炎鎮痛剤や着色料などの食品添加物が、原因になることもあります。

発病の可能性を高める因子:たばこの煙や花火の煙、線香の煙なども、気道粘膜を刺激します。光化学スモッグなどの大気汚染も、悪影響を及ぼしているのではないかと考えられています。また、新建材や接着剤などから放出される化学物質なども、悪影響があります。

その他、乳幼児期のウイルス呼吸器感染症や出生時体重、母乳栄養や出生後の食事、寄生虫感染などの関与も、無視できません。

遺伝子が関与する因子については予防できませんが、生活環境の整備は大切です。これを一次予防といいます。具体的には、下記のようなことが考えられます。

〇室内のちり、ダニをできる限り除去する

〇妊娠中の人や小児に受動喫煙させない

〇職場での感作(アレルギーの素地を作ること)を避けるための衛生対策を講じる

〇妊娠中の栄養状態を良好に保ち、早産や出生児の低体重の原因を回避する

症状の悪化に関係する因子と二次予防

すでに気管支ぜんそくを発病してしまっている人にとっては、薬によるコントロールとともに、発病の原因となった物質などを回避することが、何よりも重要となります。これを二次予防といいます。

室内のちり、ダニの除去に努め、発病の原因となった物質や悪化させた因子を避けるようにして生活しましょう。

ただし、例えば運動誘発性ぜんそくが起こったとしても、小児における運動は心身の発育に不可欠ですので、医師の指導に従って運動種目を選択し、時には予防のための薬を使用して、適切な運動をしましょう。

また、悪化させた因子をすべて回避することは困難ですので、掛かり付けの医師や看護師、学校の先生などとよく相談して、望ましい環境を整えていきたいものです。

🇮🇹気胸

肺に穴が開き、肺がつぶれてしまう疾患

気胸とは、肺から空気が漏れて胸腔(きょうくう)にたまり、肺の一部または全体がつぶれる疾患。時に、肺の大部分または全部がつぶれると、突然激しい呼吸困難が起こります。

正常な状態では、胸腔内の圧力は肺の内部よりも低くなっています。肺胞が破れるなどで肺に穴が開き、空気が胸腔に入ると、胸腔内の圧力が肺の内部よりも高くなり、肺が空気に押されてつぶれ、小さくなるため、気胸になります。

気胸は、原発性自然気胸、続発性自然気胸、外傷性気胸、医原性気胸、月経随伴性気胸に分類されます。

原発性自然気胸は、交通事故やナイフで刺されたというような明らかな理由もなく、発生するものをいいます。普通、肺の表面のややもろくなった部分である肺胞内嚢胞(のうほう)が破裂するために起こり、40歳以下の背が高く、やせて胸の薄い男性に最もよくみられます。

この原発性自然気胸の大部分は、運動中には起こりません。ダイビング中や高い高度を飛行中に起こることがあり、肺の内部の圧力が変化するのが原因です。ほとんどの人は一時的に空気が漏れますが、すぐに閉じて完治します。漏れた空気は、血液に溶け込んで次第に消失します。問題なのは、穴がふさがらず、空気が漏れ続ける時です。また、しばしば再発を起こすことも問題です。

続発性自然気胸は、肺にある広範囲の疾患が原因となって起こるものをいいます。原因疾患の分布から高齢者に多くみられます。この気胸で最も多いのは、肺気腫(きしゅ)のある高齢者で肺胞内嚢胞が破裂して起こるものです。そのほか、嚢胞性線維症、ランゲルハンス細胞肉芽腫症、サルコイドーシス、肺膿瘍(しゅよう)、肺結核、カリニ肺炎などの肺疾患がある場合にも起こります。肺に原因疾患があるため、続発性自然気胸の症状および経過は一般的に良くありません。原発性自然気胸と同じく、しばしば再発を起こします。

外傷性気胸は、交通事故などで折れた肋骨(ろっこつ)が肺を傷付けたり、胸部が強く圧迫されたり、刃物などで胸を刺されたりすることで起こるものをいいます。

医原性気胸は、病院で針を刺すような、胸腔内に空気が入りやすい治療や検査を受けたことが原因となって起こるものをいいます。人工呼吸器も、肺に気圧外傷を与え気胸を起こす場合があります。これは、重症の急性呼吸促迫症候群の患者に最もよくみられます。

月経随伴性気胸は、生理の前後に発症するものをいいます。この変わった気胸の原因は、子宮内膜症が横隔膜に広がり、生理の時に横隔膜に穴が開くことにより胸腔に空気が入るため、あるいは肺に子宮内膜症があり生理に際して穴が開くためと考えられています。気胸は女性には比較的少ないので、女性が気胸を起こした時は、月経随伴性気胸の可能性を考えておかなくてはなりません。治療は、外科療法かホルモン療法を行います。

気胸の主な症状は、胸痛、呼吸困難、せきです。多くの場合、鋭い胸の痛みや息切れ、時には乾いた空せきが突然始まります。気胸を起こした肺はしぼみ切っており、機能不全状態になっているため酸素の供給量が著しく低下し、息切れを感じやすくなるのです。また、気胸で開いた穴から胸腔に空気が流れ込み、気圧が高まって肺を圧迫するため、痛みを感じやすくなるのです。肩、首、腹部に痛みを感じることもあります。

胸腔に流れ込む空気の量が多くなると、緊張性気胸となります。緊張性気胸では、突然発症し、進行性の胸痛と呼吸困難が生じ、血圧が低下します。疾患のある側の肺は空気で置き換えられて完全につぶれており、気胸の起こっていない肺も次第につぶされていきます。大量の空気が心臓を圧迫して、心停止させてしまうこともあり、非常に危険です。

一方、ゆっくり進行する気胸では、急激に進行する気胸よりも症状が軽い傾向にあります。まれに、症状がないのに胸部レントゲン検査で発見されることがあります。

緊張性気胸や非常に広範囲の気胸を除き、症状は体が肺のつぶれた状態に順応するにつれて大抵治まり、胸腔から空気が再吸収されるのに伴って、肺はゆっくりと再びふくらみます。

気胸の検査と診断と治療

胸部X線写真で肺の紋様がない領域が胸腔内に確認されれば、気胸と診断されます。健康な長身、やせ型の青年男子で急に胸痛や息切れを訴える時は、原発性自然気胸を疑います。ほとんどの症例では、胸部レントゲン写真で診断がつきます。判断に迷う時は、息を吐いた時と吸った時の写真を比較します。

軽度の気胸の場合は、特別な治療をしなくても安静にしていれば、自然に治癒します。軽い原発性自然気胸では、重い呼吸障害は起こらず、たまった空気は数日間で吸収されます。外来で時々、胸部X線検査を行って経過観察をします。

より広範囲の気胸では、空気が完全に吸収されるのに2〜4週間かかりますが、入院して胸腔ドレナージを行えば、より早く空気を除去できます。胸腔ドレナージでは、胸壁を切開して挿入したチューブで、たまっている空気や新たに漏れた空気を外に排出します。チューブからの空気漏れがなくなったら、チューブを抜去し、肺のふくらみが良好なら退院です。

自然治癒を見込めないほど気胸の範囲が大きい場合、胸腔ドレナージを行って空気の漏れが止まらない場合、気胸が再発した場合、左右両側の肺が気胸の場合などでは、全身麻酔による胸腔鏡下手術で肺嚢胞の切除が行われます。従来の開胸手術においては、初回の気胸について手術をすることはありませんでしたが、胸腔鏡下手術は入院期間も1週間程度ですむため、初回から手術して今後起こりうる病変まで切除してしまうこともあります。

しかし、胸腔鏡下手術には、切除した周囲の組織が気胸を起こしやすくなるというデメリットがあります。そのため、セルロース製のメッシュシートを被せるカバーリング法が、新たに注目を浴びています。セルロース製のメッシュシートは、肺組織に吸収されて厚みを増すため、気胸の再発防止に効果を発揮します。

再発率は内科的に治療した場合、初回の気胸が起こってまた再発するのが約50パーセント、2回起こるとまた再発するのが80パーセント以上と考えられています。内科的治療と比べると外科治療の成績は格段によく、再発率は数パーセント以下です。

続発性自然気胸の場合は、肺に原因疾患があるため、手術は危険な場合があります。手術が行えない際は、胸腔から空気を抜き取ったチューブを通して薬を入れて、肺を周囲と癒着させ気胸を起こさないようにします。この薬を使って気胸を起こした組織をやけどさせた状態にしてふさぐという治療法は、手術と比較して効果が不確実です。

外傷性気胸や緊張性気胸の場合は、迅速な治療が求められます。緊張性気胸では、血圧が低下しショックを起こすので、直ちに治療をしないと数分間で死に至ります。大きな注射器をつけた針を胸部内に挿入し、すぐに空気を抜き取ります。その後、継続的に空気を抜くために別のチューブを挿入します。

🇮🇹奇形精子症

精液に含まれる精子の96パーセント以上が形態の異常を伴う状態

奇形精子症とは、射精された精液に含まれる精子の96パーセント以上が形態の異常を伴う状態。精子奇形症とも呼ばれます。

運動能力を持つ男性の精子は、精巣(睾丸〔こうがん〕)の中で精原細胞から分化して作られ、精子を運ぶ精管が精巣のすぐ近くで膨れている精巣上体(副睾丸)において成熟し、精嚢腺(せいのうせん)と前立腺(ぜんりつせん)で分泌された精液と一緒になって、尿道に出ていくのが射精です。

男性の誰(だれ)しも精子の100パーセントが正常な形態ということはありませんが、形態の異常を伴う奇形の精子が多く、正常な形態の精子が4パーセント未満の場合は、奇形精子症に相当します。

精子には、精液中の数はもちろんのこと、濃度、運動率、奇形率などさまざまな要素があります。その中でも精子の奇形率が高い場合、日常生活におけるパートナーの妊娠率の低下が引き起こされます。

奇形精子症は、精子の奇形のパターンによって、大きく2つに分類されます。1つは尾部の奇形、2つ目は頭部の奇形です。

2つのうち、頭部が明らかに小さい、異常な形態をしているなど頭部の奇形に関しては、遺伝子情報である核DNAを含有する頭部に奇形があるため、受精自体が非常に困難になり、妊娠率が非常に低くなります。精子尾部の奇形に関しても、結合して個体を生成するために卵子を目指し、鞭毛(べんもう)を振動させて泳いでいく運動能力を尾部が担っているため、妊娠率の低下が引き起こされます。

奇形精子症は原因不明であることが多く、精索静脈瘤(りゅう)、逆行性射精、染色体異常、過度なストレスなどが原因となって発生することもあります。

奇形精子症の検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断では、4~5日間の禁欲後に、マスターベーションにより精液を採取し、精液検査とクルーガーテストを行って判断します。

クルーガーテストでは、特殊な溶液で精子を色付けして、奇形率と奇形のパターン、あるいは正常な形態の精子がどれだけいるかを顕微鏡で調べます。

泌尿器科の医師による治療では、原因となる疾患があれば、その治癒をまず図ります。

パートナーの妊娠を期待する場合は、できる限り状態のよい精子を選んで、人工授精や体外受精、顕微授精を試みます。正常な形態の精子が15パーセント以上であれば自然妊娠が期待できますが、4パーセント未満である奇形精子症では自然妊娠が見込めないためです。

通常、顕微授精を試み、場合によって体外受精から試みたり、パートナーが20歳代と若くて不妊症がなければ人工授精から試みたりすることもあります。

射精された精液中に奇形精子しかいない場合は、精巣上体精子回収法を行って、精巣上体から正常な形態で運動良好な精子を回収して顕微授精を試みます。精巣上体から回収した精子も奇形精子であった場合もしくは精子が見付からない場合は、精巣生検を行って、精巣から後期精子細胞を回収して顕微授精を試みます。

🇵🇹器質性尿失禁

膀胱や尿道、その筋肉や神経に問題があって尿が漏れる状態

器質性尿失禁とは、膀胱(ぼうこう)や尿道、その筋肉や神経に問題がある場合に、自分の意思と関係なく尿が一時的に漏れる状態。器質性とは、症状や疾患が臓器や組織の形態的異常に基づいて生じている状態です。

この器質性尿失禁は、腹圧性尿失禁(緊張性尿失禁)、切迫性尿失禁(急迫性尿失禁)、溢流(いつりゅう)性尿失禁(奇異尿失禁)、反射性尿失禁の4タイプに大別されます。

腹圧性尿失禁

腹圧性尿失禁は、せきやくしゃみ、運動時など、腹部に急な圧迫が加わった時に尿が漏れます。尿意とは無関係に、膀胱にたまった尿が一時的に漏れるもので、その程度はさまざまで、軽度の時は少量の一方で、重度になると多量に尿が漏れることもあります。

腹圧性尿失禁は頻度が高く、中年以降の出産回数の多い女性にしばしば認められるほか、比較的若い女性にもみられます。起こる原因は、膀胱を支え、尿道を締めている骨盤底筋群が加齢や出産、肥満などで緩んで、弱くなったためです。骨盤底筋群の緩みが進むと、子宮脱、膀胱瘤(りゅう)、直腸脱などを合併することもあります。

まれに、放射線治療やがんの手術によって、尿道を締める神経が傷付くことが原因となることもあります。

腹部に急な圧迫が加わるような動作をした時、例えばせきやくしゃみをした時、笑った時、階段や坂道を上り下りした時、重い荷物を持ち上げた時、急に立ち上がった時、走り出した時、テニスやゴルフなどの運動をした時、性交時などに、一時的に尿が漏れます。通常、睡眠中にはみられません。

この骨盤底筋の衰えによる腹圧性尿失禁と、急に強い尿意を感じてトイレに間に合わず尿を漏らしてしまう切迫性尿失禁の両方の症状がみられる場合もあり、混合性尿失禁(混合型尿失禁)と呼ばれます。混合性尿失禁は骨盤底筋群の緩みがベースにあり、膀胱と尿道の両方の機能低下が加わることで起こりやすくなります。そうした症状は加齢により増えてくるので、閉経期から後の高齢の女性に次第に生じる率が高くなります。

切迫性尿失禁

切迫性尿失禁は、急な強い尿意を催し、トイレにゆく途中やトイレで準備をする間に、尿が漏れます。トイレが近くなる頻尿、夜中に何度もトイレに起きる夜間頻尿が、同時に生じることもあります。

この切迫性尿失禁は、自分の意思に反して勝手に膀胱が収縮する過活動膀胱が主な原因です。普通、膀胱が正常であれば400~500mlの尿をためることが可能で、尿が250~300mlくらいになると尿意を感じて排尿が始まりますが、過活動膀胱では100ml前後の尿がたまると膀胱が収縮するために、突然の尿意を催して、我慢できなくなるのが特徴です。膀胱が正常であれば、尿意を感じ始めて10~15分ぐらいは我慢できることもありますが、過活動膀胱ではそれも難しいとされています。

過活動膀胱の人はとても多く、日本では40歳以上の男女のうち8人に1人は過活動膀胱の症状があり、その約半数に切迫性尿失禁の症状があると報告されています。近年40歳以下でも、過活動膀胱の症状に悩まされている人が大変多くなってきています。

女性が過活動膀胱になる最も多い原因は、膀胱を支え、尿道を締めている骨盤底筋群や骨盤底を構成する靱帯(じんたい)が弱まる骨盤底障害です。骨盤底筋群や靱帯が弱まってたるむと、膀胱の底にある副交感神経の末端が膀胱に尿が十分にたまらないうちから活性化して、突然強い尿意が出るようになるのです。

女性は若い時は妊娠や出産で、また、更年期以降は老化と女性ホルモン低下の影響で骨盤底障害になりやすいので、男性よりも多くの発症者がいます。男性の場合も、老化や運動不足で骨盤底筋や尿道括約筋が衰えることによって過活動膀胱になることがあります。

また、男女ともに、脳と膀胱や尿道を結ぶ神経のトラブルで起こる過活動膀胱も増えています。こちらは、脳卒中や脳梗塞(こうそく)などの脳血管障害、パーキンソン病などの脳の障害、脊髄(せきずい)損傷や多発性硬化症などの脊髄の障害が原因となります。

過活動膀胱のほか、切迫性尿失禁は膀胱炎、結石などによって膀胱の刺激性が高まって起こるものもあります。

溢流性尿失禁

溢流性尿失禁は、排尿障害があって十分に排尿できず、常に膀胱が伸展しているために、一時的な少量の漏れを示す尿失禁。

排尿障害があって尿が出にくい状態になっていても、新しい尿は腎臓(じんぞう)から次々に膀胱に送られてくるのでたまっていき、膀胱がいっぱいになると尿がチョロチョロと少量ずつあふれて出てきます。

この症状は、前立腺(ぜんりつせん)肥大症による下部尿路閉塞(へいそく)が原因となることが多いので、中高年男性に多くみられます。

前立腺肥大症による排尿トラブルは、膀胱への刺激による頻尿から始まります。前立腺は膀胱から出てすぐの尿道を取り巻いているので、前立腺肥大によって膀胱の出口や尿道への刺激が強くなり、夜中に何度も排尿のために起きるというような頻尿が始まります。同時に、会陰(えいん)部の不快感や圧迫感、尿が出にくいといった症状も現れます。

次に、排尿に際して尿が出切らずに、膀胱にたまる残尿が発生するようになります。この段階では排尿障害が次第に強くなり、息んで腹圧をかけないと出ないようになってきます。さらに、肥大した前立腺によって尿道が狭くなっていくと、慢性尿閉となります。残尿が多くなって膀胱は尿が充満した状態になり、尿意を感じなくなって気付かないうちに尿が少量ずつあふれて漏れる溢流性尿失禁の状態になります。

ほかには、女性が子宮がんを手術した後、糖尿病や脳血管障害で膀胱が収縮しなくなった場合に、溢流性尿失禁がみられます。

女性の場合は尿が出やすい体の構造なので、男性に比べて溢流性尿失禁の状態になるケースはまれですが、子宮がんや直腸がんの手術の後で一時的に膀胱が収縮しなくなった場合、大きな子宮筋腫(きんしゅ)で膀胱の出口が圧迫され尿閉になった場合、子宮脱や子宮下垂などで尿道が開きづらくなった場合に、溢流性尿失禁がみられます。

また、糖尿病や脊髄(せきずい)損傷、脳血管障害などによって、膀胱を中心とする末梢(まっしょう)神経系が器質的に傷害されると、膀胱が収縮しなくなる神経因性膀胱となり、たまった尿があふれて漏れる溢流性尿失禁がみられます。糖尿病では知覚がまひするために、尿意を感じないまま膀胱が膨らんで、1000ミリリットルもたまることがあります。

溢流性尿失禁がみられると、下着がぬれる、臭いが気になるなど、しばしば不快感を覚えることになります。また、溢流性尿失禁を放置していると、膀胱にたまっている尿に細菌が繁殖して尿路感染症や腎機能障害などを起こしたり、腎不全になることもあります。

反射性尿失禁

反射性尿失禁は、尿意を感じることができないまま、膀胱に尿が一定量たまると反射的に排尿が起こる状態。

尿意を感じることができないため排尿の抑制ができず、腎臓から尿が膀胱に送られた時に刺激が加わると、膀胱壁の筋肉である排尿筋が反射的に収縮して、自分の意思とは無関係に、不意に失禁が起こります。

脳、脊髄など中枢神経系の障害や、交通事故などによる脊髄の損傷などによる後遺症の一つとして、脳の排尿中枢による抑制路が遮断されてしまうことによって起こります。膀胱には物理的に十分な量の尿がたまっているにもかかわらず、尿意が大脳まで伝わらないので尿意を催すことがなく、排尿を自分でコントロールすることができません。

膀胱からの感覚は、脊髄反射により直接的に膀胱括約筋を刺激して、反射的に膀胱収縮を起こして排尿を起こします。漏れ出る尿量は多いことが、特徴です。

逆に、排尿筋が反射的に収縮して膀胱が収縮する時に、外尿道括約筋が弛緩(しかん)せず尿道が閉鎖したままになると、膀胱内の圧力が異常に高くなり、腎臓に尿が逆流する膀胱尿管逆流症を起こします。尿の逆流を放置して進行すると、腎機能障害が起こりやすくなります。

尿失禁は恥ずかしさのため医療機関への受診がためらわれ、尿パッドなどで対処している人も多いようですが、外出や人との交流を控えることにもつながりかねません。次第に日常生活の質が低下することも懸念されます。器質性尿失禁の4タイプによる失禁の症状が続くようであれば、泌尿器科を受診することが勧められます。

器質性尿失禁の検査と診断と治療

泌尿器科の医師による診断では、症状および各種検査を総合し、器質性尿失禁の原因を確定します。

一般的には問診、尿検査、超音波検査、血液検査、尿失禁定量テスト(パッドテスト)、尿失禁負荷テスト(ストレステスト)、尿流動態(ウロダイナミクス)検査(膀胱内圧、腹圧、排尿筋圧、外尿道括約筋活動、尿流量測定、残尿測定)、尿路造影検査、内視鏡検査などを行って、器質性尿失禁の原因を探ります。

問診では、出産歴、手術歴、婦人科疾患の有無、便秘の有無、尿失禁の状況などを質問します。切迫性尿失禁の主な原因となる過活動膀胱かどうかを調べるための過活動膀胱スクリーニング質問票(リンク)や、過活動膀胱の症状の程度を調べるための過活動膀胱症状質問票(OABSS)という簡単な質問票を、問診のために使うこともあります。

尿失禁定量テスト(パッドテスト)では、パッドをつけた状態で水分を取ってもらい、せき、くしゃみ、手洗い、足踏みなど腹部に圧迫が加わりやすい動作を行ってもらい、1時間後のパッドの重量増加で尿失禁の程度を確認します。

泌尿器科の医師による治療では、難産を経験した女性、40歳を過ぎた女性で腹圧性尿失禁、切迫性尿失禁、その2つが重なる混合性尿失禁を起こしている場合には、尿道、膣(ちつ)、肛門(こうもん)を締める骨盤底筋体操が割合効果的です。肛門の周囲の筋肉を5秒間強く締め、次に緩める簡単な運動で、仰向けの姿勢、いすに座った姿勢、ひじ・ひざをついた姿勢、机に手をついた姿勢、仰向けになり背筋を伸ばした姿勢という5つの姿勢で、20回ずつ繰り返します。

朝、昼、夕、就寝前の4回に分けて、根気よく毎日続けて行うのが理想的です。3カ月以上続けても効果のない場合には、手術が必要となる可能性が高くなります。

骨盤底筋の強化を目的として、電気刺激によって骨盤底筋や尿道括約筋など必要な筋肉を収縮させる電気刺激療法もあります。また、腟内コーンという器具を腟内に15分程度、1日2回ほど保持し、それを徐々に重たいものに変えていくことで骨盤底筋を強化し、症状を軽減する方法もあります。

切迫性尿失禁の主な原因となる過活動膀胱の場合には、できるだけ尿意を我慢して、膀胱を拡大するための訓練をします。毎日訓練すると、膀胱が少しずつ大きくなって尿がためられるようになりますので、200~400mlくらいまでためられるように訓練します。排尿間隔を少しずつ延長させ、2時間くらいは我慢できるようになれば成功です。尿道を締める筋肉の訓練も必要です。

薬物による治療としては、交感神経に働いて膀胱壁の筋肉である排尿筋の収縮を阻止し、尿道括約筋を収縮させる作用のある抗コリン剤(ポラキス、BUP−4)、または排尿筋を弛緩(しかん)させるカルシウム拮抗(きっこう)剤(アダラート、ヘルベッサー、ペルジピン)を用います。抗コリン剤を1~2カ月内服すると、過活動膀胱の80パーセントの発症者で改善されます。状況に応じて、抗うつ薬を用いることもあります。閉経後の女性に対しては、女性ホルモン剤を用いることもあります。

重症例や希望の強い場合などには、手術による治療を行います。尿道括約筋の機能が低下している場合には、尿道の周囲にコラーゲンを注入する治療や、尿道括約筋を圧迫するように腹部の組織や人工線維で尿道を支えるスリング手術、日本ではあまり行われていない人工括約筋埋め込み術などがあります。

溢流性尿失禁の場合は、原因になる疾患の種類によって異なり、基礎疾患があればその治療が第一です。前立腺肥大症や子宮脱、子宮下垂と診断すれば、その治療を行います。また、必要に応じて膀胱を収縮させる薬を用いることもあります。

前立腺肥大症が溢流性尿失禁の原因の場合は、症状が軽い場合は薬物療法から始め、症状がひどい場合や合併症を引き起こしている場合は手術療法を行います。

神経因性膀胱が溢流性尿失禁の原因の場合は、治療が可能ならばまず基礎疾患に対して行いますが、神経の疾患はなかなか治療の難しいことが多く、薬物療法、排尿誘発、自己導尿法などで排尿効率を高めることになります。

自己導尿法は、尿が出にくく残尿が多い場合に、1日に1〜2回、清潔なカテーテルを自分で膀胱内に挿入し、尿を排出させるものです。これで、とりあえず症状は改善し、外出も容易になります。

反射性尿失禁の場合は、原因となる脊髄損傷がある時に機能を回復させる手術を行うことで、失禁を起こさないようにします。神経の疾患はなかなか治療の難しいことが多く、尿道括約筋の機能が低下している場合には、内視鏡によるコラーゲンなどの注入療法、各種の失禁防止手術を行うこともあります。

🇵🇹器質性便秘

腸や肛門の疾患、あるいは腸の先天的異常などが原因で引き起こされる便秘

器質性便秘とは、腸や肛門(こうもん)の腫瘍(しゅよう)や炎症、閉塞(へいそく)などの疾患、あるいは先天性巨大結腸症のような腸の長さや大きさの先天的異常などが原因で引き起こされる便秘。

便秘とは通常、排便回数が少なく、3日に1回未満、週2回未満しか、便の出ない状態を意味します。便が硬くなって出にくかったり、息まないと便が出なかったり、残便感があったり、便意を感じなかったり、便が少なかったりなど多様な症状も含みます。便の水分が異常に少なかったり、うさぎの糞(ふん)のように固い塊状なら便秘です。

器質性便秘を引き起こす原因となる疾患としては、大腸がん、大腸ポリープ、潰瘍(かいよう)性大腸炎、クローン病、腸閉塞(イレウス)、腸捻転(ねんてん)、腸狭窄(きょうさく)、腸管癒着、大腸憩室、後腹膜腫瘍、子宮筋腫や卵巣嚢腫(のうしゅ)が腸を圧迫する腸管外性圧迫、直腸がん、直腸ポリープ、直腸脱、直腸重積(じゅうせき)、直腸瘤(りゅう)、痔(じ)、肛門周囲腫瘍などがあります。

器質性便秘を引き起こす原因となる腸の先天的異常としては、先天性巨大結腸症(ヒルシュスプルング病)、S字結腸過長症などがあります。

大腸がん、大腸ポリープでは、がん細胞やポリープが大きくなるにつれて腸管が狭くなり、便の通過が妨げられて便秘が起きます。便に血や粘液がついたり、便の形がいびつになります。

腸管癒着では、腸管の癒着によって便の通過が妨げられて便秘が起きます。虫垂炎などによる腹部手術後に、腸管癒着がみられることもあります。

大腸憩室では、大腸壁に袋状のくぼみができて便が入り込み、炎症を起こすと腸管が狭くなって便秘が起きます。

先天性巨大結腸症では、先天的な腸異常によって結腸の閉塞を起こし、幼児期から便秘が続きます。

S字結腸過長症では、先天的に結腸が過度に長く、合併症としてしばしば腸捻転を併発し、幼児期から便秘が続きます。

器質性便秘は、疾患によって引き起こされた2次的疾患であるといえます。便秘以外の諸症状が出ている場合は、市販の便秘薬や浣腸(かんちょう)、腹部マッサージなど、腹部に刺激を与えるタイプの便秘解消法を行うと、原因疾患に悪影響を及ぼすことがあります。

それまで規則的であった排便が便秘に変化した場合や、便に血が混じる場合、腹痛を伴うような場合は、器質性便秘が疑われるので、早めに肛門科、あるいは消化器科、婦人科を受診し検査を受ける必要があります。

器質性便秘の検査と診断と治療

肛門科、あるいは消化器科、婦人科の医師による診断では、問診による病歴の聞き取りに続いて、腹部の触診、直腸の指診を行います。

腹部の触診では、腹部腫瘍の有無、腹筋の筋力をチェックします。直腸の指診では、肛門部病変、肛門と直腸の狭窄あるいは腫瘍、直腸内の便の有無、便の潜血反応を調べます。

通常の検査として、検便、検血、腹部X線(レントゲン)検査を行い、便秘が持続していたり腹痛がある場合には、肛門から腸の中に軟らかい造影剤を注入してX線撮影をする注腸造影検査、あるいは大腸内視鏡検査を行い、がんやポリープ、炎症性腸疾患などをチェックします。

腹部腫瘍、腸閉塞などが疑われる場合には、腹部超音波(エコー)検査やCT(コンピュータ断層撮影)検査を行います。

肛門科、あるいは消化器科、婦人科の医師による治療では、器質性便秘を引き起こす原因である1次的疾患を治すことが中心となります。1次的疾患を治し、その後ふだんの生活に戻れば便秘も解消することがほとんどです。

🌀気象病

気象の変化が原因で症状が出現したり、悪化したりする一連の疾患

気象病とは、気象の変化や一定の気象条件下で、症状が出現したり、悪化したりする一連の疾患。

体調不良、気分の落ち込み、頭痛、めまい、関節痛、古傷の痛みなどの症状が代表的で、患者数は増加傾向にあり、1000万人以上が悩んでいるとの推計もあります。

主な原因は、気温や湿度ではなく、気圧の変化です。飛行機に乗ったり、エレベーターで移動したりすると、耳がおかしく感じることがあります。耳の鼓膜の奥には、気圧の変化を感じる内耳という器官があり、脳は内耳から伝わった情報を基に、周囲の環境に体を順応させようとします。

しかし、内耳のセンサーが敏感に反応しすぎると、わずかな気圧の変化でも脳に過剰な情報が伝わってしまいます。この結果、自律神経が乱れて、体にさまざまな変調が起きます。

自律神経のうち交感神経が活発になると痛みを感じ、副交感神経が活発になるとだるくなったり眠くなったりします。心臓発作やぜんそくなどの持病が悪化する恐れもあり、軽く考えるのは禁物です。

気圧の変化が急なほど、気象病の症状が強く出現します。中には気圧が上昇する時に症状を訴える人もいますが、多くの人が症状を訴えるのは気圧が低下する時です。

特に気象病の症状が出やすい季節は、雨をもたらす低気圧が定期的に通過する春や秋、梅雨時、そして台風が日本付近に接近する晩夏から秋にかけて。冬に低気圧が日本の南岸を通過すると、太平洋側に雪が降ることがありますが、この時に症状を訴える人もいます。

気象病の治療と予防

耳鼻科、神経内科、あるいは気象病外来/天気痛外来の医師による治療では、気象病の予兆であるめまいが出るタイミングで、抗めまい薬を服用することが効果的です。抗めまい薬には、内耳のリンパ液の循環をよくする働きがあり、内耳の状態を整えて、内耳のセンサーが敏感に反応するのを抑えます。

抗めまい薬と同様の「ジフェニドール」などの成分が入った乗り物酔い止め薬を服用するのも効果があります。乗り物酔い止め薬は、薬局などで市販されています。

漢方薬を使う場合もあります。五苓散(ごれいさん)には、気圧の低下で体内に貯留する水分の循環をよくする作用があり、抗めまい薬と似た効果があります。抑肝散(よくかんさん) には、神経の高ぶりを抑えたりする作用があります。

気象病の改善に効くとされるツボも、手や足にあります。

ただ、抗めまい薬などで気象病の元になる持病までは治らず、それぞれの持病に対応した治療が必要なことはいうまでもありません。

普段から内耳のリンパ液の循環をよくしておけば、自律神経が整い、気象病の予防や改善につながります。その点で、マッサージも有効で、両耳を軽くつまんで、上下横に5秒ずつ引っ張ったり、耳を横に引っ張りながら後ろに回したりします。

また、家庭用の気圧計などを使って、毎日の天気、気圧、体調の変化を記録し、気象病の症状がいつ出るのかを予測すれば、あらかじめ薬で対処できます。地域ごとに気象病に注意すべきタイミングをスマートフォンなどで知らせてくれるアプリもあります。

自律神経を整えるためには、十分な睡眠、適度な運動も不可欠で、規則正しい生活を心掛けます。

🇪🇸キス病

主にEBウイルスの経口感染で起こり、15~30歳くらいに多くみられる疾患

キス病とは、主にEB(エプスタイン・バー)ウイルスの経口感染で起こり、15~30歳くらいの青年期に多くみられる良性の疾患。伝染性単核球症、EBウイルス感染症とも呼ばれています。

ヘルペスウイルスの仲間であるEBウイルスはBリンパ球に感染しますが、感染Bリンパ球を排除するためにTリンパ球が増加します。サイトメガロウイルス、トキソプラズマ、またHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染した場合でも、同様の症状がみられることがあります。

EBウイルスに感染する時期によって、症状の現れ方が異なります。日本人の70パーセントは2〜3歳までに初感染しますが、乳幼児期では病原菌に感染しても症状が現れない不顕性感染が多く、症状が現れても軽度です。

思春期以降に感染すると、約50パーセントが発症します。ただし、感染してもほとんどが4~6週間で、症状は自然になくなるといわれています。20歳代では90パーセント以上が抗体を持っているといわれていますが、成人になってから初感染した場合、症状が重くなります。6カ月以上症状が続く場合は、重症化している可能性があります。

EBウイルスは一度感染すると、その後は潜伏感染状態となり、終生に渡って共存します。そのため、急性感染症以外にもいろいろな疾患を引き起こすことがわかってきました。再感染はしないものの、免疫力が低下した場合に発症することもあります。

キスや飲み物の回し飲みなどによる、既感染者の唾液を介した経口感染が、主要な感染経路です。まれに、輸血により伝播(でんぱ)されます。感染してから発症するまでの潜伏期間は、4~6週間といわれています。

主な症状は、発熱、頸部(けいぶ)リンパ節の腫脹(しゅちょう)、咽頭(いんとう)痛。 まず、頭痛、熱感、悪寒、発汗、食欲不振、倦怠(けんたい)感などの前駆症状が数日間続き、その後38℃以上の高熱が1~2週間続きます。発熱のないこともありますが、通常は発症から4~8日が最も高熱で、以後徐々に下がってきます。

頸部リンパ節の腫脹は、発症2週目ころから現れ、時に全身性のリンパ節腫脹もみられます。上咽頭のリンパ節腫大による鼻閉も、よく起こります。口蓋扁桃(こうがいへんとう)は発赤、腫脹し、口蓋に出血性の粘膜疹(しん)が出て咽頭痛が生じます。発疹は、抗生物質、特にペニシリン系を投与された後に現れることがしばしばあります。

肝臓や脾臓(ひぞう)が腫大することもあり、急激な腫脹のためにまれに脾臓の破裂を招くことがあります。

発熱が1週間続く場合は、内科あるいは耳鼻咽喉(いんこう)科の医師を受診し、精密検査を受けることが勧められます。症状が進行して、劇症肝炎や血球貪食(どんしょく)症候群などを併発すれば、生命の危険があります。リンパ節腫大が長引き、悪性リンパ腫と誤診されることがあるので、要注意です。 ほとんどの大人は既感染者なので、他人への伝播を気にする必要はありません。

キス病の検査と診断と治療

内科、耳鼻咽喉科の医師による診断では、血液検査を行い、白血球の増加、特に末梢(まっしょう)血中の単核球(リンパ球)の増加と、正常なリンパ球と異なった形の異型リンパ球の出現がみられることを確認します。ほとんどのケースで肝機能異常を認め、EBウイルス血清中抗体価が陽性となることなどで、総合判断します。

このキス病に特異的にみられるポール・バンネル反応を調べる血清試験があり、これが陽性ならば診断が決められます。しかし、日本人では検査が陽性にならないものが多く、頼りになりません。

ほかのウイルス感染や悪性リンパ腫、リンパ性白血病などとの区別が、必要になります。

内科、耳鼻咽喉科の医師による治療では、抗EBウイルス薬はないため、安静と対症療法が中心です。咽頭痛がひどい場合は、アセトアミノフェンなどの消炎鎮痛薬を用います。血小板減少や肝機能障害の程度が強く、症状が長引く場合は、ステロイドホルモン剤を用いることもあります。肝機能障害には、肝庇護(ひご)剤を用いることもあります。 発疹が現れることがあるため、抗生物質、特にペニシリン系抗生物質の投与は避けます。

安静にしていれば経過は比較的良好で、1〜2週間で解熱し、リンパ節のはれも数週から数カ月で自然に消えます。

重症の場合は、血漿(けっしょう)交換療法や抗がん剤が用いられます。アシクロビル(ゾビラックス)などの抗ウイルス薬の有効性は、証明されていません。

異型リンパ球は、少数ながら数カ月残存しているケースもあります。肝臓や脾臓のはれも1カ月ほどで回復しますが、まれに脾臓破裂を起こすことがあるので、治った後も2カ月ほどは腹に圧力や衝撃がかかる運動などは避けるようにします。

また、疾患が治ったと思っても、数週間たってから肝機能障害などが悪化することがあるので、リンパ節のはれがなくなっても数週間は経過に注意し、医師の指示を受けることが大切です。

🇵🇹偽性アルドステロン症

副腎からアルドステロンが過剰に分泌されていないのに、高血圧、むくみ、カリウム喪失などの症状が現れる疾患

偽性アルドステロン症とは、血圧を上昇させるホルモンであるアルドステロン(鉱質コルチコイド)が副腎(ふくじん)から過剰に分泌されていないにもかかわらず、アルドステロンが過剰に分泌されているかのような高血圧、むくみ、筋肉の弱化、高ナトリウム血症、低カリウム血症などの症状が現れる疾患。偽アルドステロン症とも呼ばれます。

アルドステロンは副腎から分泌され、体内にナトリウム(塩分)と水をためこみ、尿の中へのカリウムの排出を促して、血圧を上昇させるホルモンです。このホルモンが過剰に分泌された結果、高血圧、むくみ、筋肉の弱化、ナトリウムの蓄積による高ナトリウム血症、カリウムの喪失による低カリウム血症などの症状を起こす疾患が、アルドステロン症と呼ばれています。

偽性アルドステロン症は、アルドステロンが過剰に分泌されて血中のアルドステロンが増えていないのに、アルドステロン症と同様の症状を示します。

主な症状は、体からカリウムが失われることによる筋肉の弱化により、手足の力が抜けたり弱くなったりする、体内にナトリウムと水がたまりすぎることで、むくみが起こり、血圧が上がるなどです。

これに次いで、筋肉痛、体のだるさ、手足のしびれ、こむら返り、まひ、頭痛、顔や手足のむくみ、のどの渇き、食欲の低下、動悸(どうき)、気分の悪さ、吐き気、嘔吐(おうと)などがあります。

症状が進むと、意識がなくなる、体を動かすと息苦しくなる、筋肉が壊れて歩いたり立ったりできなくなる、赤褐色の尿が出る、尿がたくさん出たり、出にくくなったりすることもあります。低カリウム血症によるインシュリン(インスリン)分泌不全により、糖尿病が悪化することもあります。

主な原因は、甘草(かんぞう)、あるいはその主成分であるグリチルリチンを含む医薬品の服用です。甘草やグリチルリチンは、漢方薬、風邪薬、解熱鎮痛剤、健胃薬、胃腸薬、婦人用薬、肝臓の病気の医薬品、口中清涼剤の仁丹(じんたん)などに含まれています。

甘草はマメ科の多年草で、根に配糖体の一種であるサポニンを含むため、古来から醤油(しょうゆ)などの調味料、菓子に用い、根や根茎を乾燥したものを薬に用いてきました。甘草の主成分であるグリチルリチンは腸内細菌によりグリチルリチン酸となり、強い抗炎症作用を示します。また、体内の水分を保つ働きもあります。

このような理由により、約7割の漢方薬に配合されており、甘草による偽性アルドステロン症は、漢方薬による副作用としては最も頻度が高いことで知られています。女性、高齢者、低身長・低体重など体表面積が小さい人に、とりわけ生じやすいとされています。

また、ほかの鉱質コルチコイド(ミネラルコルチコイド)作用を有する医薬品や、サイアザイド系(チアジド系)利尿薬、ループ利尿薬、薬局などで購入した一般用医薬品の服用が、偽性アルドステロン症の原因になることもあります。

さらに、リドル症候群、鉱質コルチコイド過剰症候群(AMA症候群)、先天性副腎皮質過形成など遺伝子の異常による疾患、DOC(11ーデオキシコルチコステロン )産生腫瘍(しゅよう)などが原因になることもあります。

偽性アルドステロン症の初期症状に気付きながらも放置し、起立困難、歩行困難になるなど重症化させてしまうケースが多いため、何らかの医薬品を服用していて初期症状が認められた場合には、内科、内分泌代謝内科、循環器内科、泌尿器科などを受診することが勧められます。

数週間あるいは数年にわたって医薬品を服用してから、初めて症状が出る場合もあります。また、複数の医薬品の飲み合わせで起こる場合もあります。

受診する際には、服用した医薬品などの種類と量、どれくらいの期間にわたって服用したのかなどを伝えてください。その際、ほかの医療機関で処方された医薬品や、一般用医薬品などについても、服用しているものがあれば、伝えてください。

偽性アルドステロン症の検査と診断と治療

内科、内分泌代謝内科、循環器内科、泌尿器科などの医師による診断では、医薬品の服用に伴い、副腎皮質から分泌されるアルドステロン、および腎臓から分泌され血圧を上昇させるレニンの両ホルモンが低値を示すとともに、血圧上昇や低カリウム血症が生じ、これらが医薬品の服用中止により正常化した場合に、医薬品の副作用としての偽性アルドステロン症と確定します。

内科、内分泌代謝内科、循環器内科、泌尿器科の医師による治療では、原因と推定される医薬品の服用を中止することが第一です。

甘草やグリチルリチンを含む医薬品を原因とするものでは、甘草含有物の摂取中止後、数週間の経過で多くは症状の消失と血清カリウムの上昇を認めます。

低カリウム血症に対してカリウム製剤を投与することも多いものの、尿中へのカリウム排出を増すばかりで、あまり効果がないとされます。抗アルドステロン薬でカリウム保持性の利尿薬であるスピロノラクトン(アルダクトン)の通常用量の投与が、有効です。

適切な対応が行われれば、偽性アルドステロン症の予後は良好です。

🇦🇩季節性アレルギー性鼻炎

花粉などの抗原に接触することが原因で、一年の特定の時期にだけ出現する鼻炎

季節性アレルギー性鼻炎とは、花粉などの空気中を漂う物質に接触することが原因で、一年の特定の時期にだけ出現する鼻炎。いわゆる花粉症です。

アレルギー性鼻炎は、鼻の粘膜でアレルギー反応が起こるもので、発作反復性のくしゃみ、鼻水(鼻汁)、鼻詰まり(鼻閉)の3つを主な症状とします。これらの症状は、体への異物の侵入を阻止し、排除しようとする防御のメカニズムの現れです。

Ⅰ型アレルギー反応(即時型アレルギー反応)により起こる疾患で、ほかに気管支喘息(ぜんそく)、アトピー性皮膚炎、アレルギー性結膜炎などがあります。これらアレルギー性の疾患は、しばしばアレルギー性鼻炎と同時に起こります。

アレルギー性鼻炎は、季節性アレルギー性鼻炎と通年性アレルギー性鼻炎の2種類に分かれています。

通年性アレルギー性鼻炎のほうは、季節に関係なくいつでも発症し、1年中続くこともあります。鼻から吸い込まれた抗原(アレルゲン)が鼻の粘膜でアレルギー反応を起こして、通年性アレルギー性鼻炎を発症することから、空気中を浮遊している抗原が原因となります。代表的な抗原は、1年中存在しているダニ、ハウスダスト(室内のほこり)、カビや細菌です。

季節性アレルギー性鼻炎も、鼻から吸い込まれた抗原(アレルゲン)が、鼻の粘膜でアレルギー反応を起こして発症することから、空気中を浮遊している抗原が原因となります。代表的な抗原は、風の媒介で受粉する風媒花の雄しべの中にある花粉などです。

花粉が抗原の場合は、例えばスギ、ヒノキは春、イネ科の植物は夏、ブタクサ、ヨモギは秋というように開花の時期に一致して症状が突然、出現します。また、花粉は地域の植生や気象状況で飛散量が異なるため、花粉症が猛威を振るう年や地域に違いのみられることがあります。

外部からスギ、ヒノキの花粉など異物である抗原が侵入した時に、その抗原に対応する特定の抗体(IgE抗体)が体内に存在すると、抗原と抗体が結合し、抗原抗体反応が起こります。抗原抗体反応が起こると、免疫システムを構成する細胞の仲間である肥満細胞や、白血球の一種である好塩基球などからヒスタミン、ロイコトリエン、トロンボキサンなどの化学伝達物質が遊離され、その作用でアレルギー反応が起こります。

ヒスタミンが鼻の粘膜の三叉(さんさ)神経を刺激したり、自律神経のバランスを崩して副交感神経の働きを優位にするために、くしゃみや、透明なさらさらとした鼻水の過剰分泌、鼻のかゆみなどが起こります。ロイコトリエンやトロンボキサンなどは、鼻の粘膜の血管を刺激して拡張させるために、鼻詰まりも起こります。

花粉などの空気中に漂う抗原が目に直接接触するとアレルギー性結膜炎を合併することも多く、目のかゆみや充血、流涙がみられることもあります。口の中とのどのかゆみ、のどの痛み、外気に触れている部分の皮膚炎などが起こることもあります。

進行すると、鼻の付け根や前頭部がずきずきしたり、耳が詰まったように感じる耳閉感、鼻が詰まってにおいがわからなくなる嗅覚(きゅうかく)低下、頭が重いように感じる頭重感などの症状を生じることもあります。

鼻の奥と中耳をつないでいる耳管がはれることもあり、特に小児では聴力が低下したり、慢性中耳炎になったりすることがあります。また、鼻の周囲にあって骨で囲まれた空洞である副鼻腔(ふくびくう)炎を繰り返すことで、鼻の粘膜組織が増殖して鼻ポリープができることもあります。

季節性アレルギー性鼻炎のある人の多くは、気管支喘息(ぜんそく)も発症して喘鳴を起こします。気管支喘息の原因は、季節性アレルギー性鼻炎やアレルギー性結膜炎を起こすのと同じ抗原である可能性があります。

季節性アレルギー性鼻炎の始まりは、突然です。スギ、ヒノキの花粉にアレルギー反応を起こして発症した場合は、春先のある日、昨年までは何の症状もなかった人が、立て続けのくしゃみと止まらない鼻水に悩まされるようになります。その症状は、花粉が飛ぶ春から夏の間にかけて続き、空気中に花粉がなくなると自然に治まってきます。しかしながら、一度症状が出ると翌年以降、雄性の配偶体である花粉が飛来する季節の到来とともに、再び症状が出始めます。

この季節性アレルギー性鼻炎はかなり最近の疾患で、1961年に日本で初めてブタクサによる発症者が発見され、その2年後にスギによる発症者が発見されました。

近年、季節性アレルギー性鼻炎の発症者が増加していますが、その誘因には、体質や遺伝的素因としての内因と、環境や栄養などの外因とがあります。

季節性アレルギー性鼻炎の発症者の家系調査によると、アレルギーの体質は遺伝するといわれています。また、抗原抗体反応に関係なく、鼻粘膜の過敏性や化学伝達物質の遊離、自律神経のバランスの崩れやすさも遺伝するといわれています。

植林が盛んになりスギ林が多くなるにつれて、スギの花粉も増えています。このような抗原の増加も、季節性アレルギー性鼻炎の増加の誘因の1つと考えられています。

自動車、特にディーゼル車の排気中の物質が、抗体の産生を促す方向に作用するともいわれています。さらに、排気ガスや塵埃(じんあい)などの大気汚染物質のほか、たばこの煙も、季節アレルギー性鼻炎の増加に関係しているといわれています。

そのほか、食生活の欧米化による高蛋白(たんぱく)・高栄養の食事が抗体の産生に結び付くともいわれ、ストレスの増加による自律神経のバランスの崩れも誘因と考えられています。

近年、花粉症などの季節性アレルギー性鼻炎と、通年性アレルギー性鼻炎の両方を発症する人も増加傾向にあります。冷暖房が普及して住宅の空気が密閉されるようになったことで、ダニやハウスダストが室内に蓄積されやすくなり、通年性アレルギー性鼻炎を発症する人も増えているためです。

常に鼻炎に悩まされている人は、耳鼻咽喉(いんこう)科を受診して、症状を引き起こす原因が何かを調べることが勧められます。原因が特定できれば、日常生活の中でそれを避ける工夫ができ、症状の軽減につなげることが可能になるためです。

季節性アレルギー性鼻炎の検査と診断と治療

耳鼻咽喉科の医師による診断では、まず鼻炎の症状がアレルギー性かどうかを検査で調べます。検査には、問診、鼻鏡検査、鼻汁検査などがあります。

問診では、くしゃみ、鼻水、鼻詰まりの3つの症状が始まった時期、症状が1年中起こるのか特定の季節と関連して起こるのか、症状の種類と程度、過去の病歴、気管支喘息やアトピー性皮膚炎などほかのアレルギー性疾患の併発の有無、副鼻腔炎や鼻ポリープの併発の有無、家族の病歴などを明らかにします。

鼻鏡検査では、専用のスコープを使って直接鼻の粘膜の状態を観察し、副鼻腔炎、鼻ポリープなどほかの疾患があるかどうかも観察します。

鼻汁検査では、綿棒などで採取した鼻水の中に、白血球の一種の好酸球という細胞がどの程度含まれているかを調べます。抗原抗体反応が起こると、鼻水の中の好酸球が増加するので、アレルギー性鼻炎の診断の助けになります。

アレルギー性であれば、原因となる抗原は何かを検査します。検査には、特異的IgE抗体検査、皮膚テスト、鼻粘膜誘発テストがあります。

特異的IgE抗体検査では、抗原抗体反応を起こす抗体(IgE抗体)が血液中にどの程度含まれているか、その抗体がどんな種類の抗原(アレルゲン)と結合するか、採血して調べます。

皮膚テストでは、可能性のある抗原のエキスを前腕の皮膚に注射するか、皮膚につけた引っかき傷に滴下して反応を調べます。15〜20分後に、皮膚が赤くはれる面積と程度で判定します。

鼻粘膜誘発テストでは、可能性のある抗原エキスの染み込んだ小さな紙を鼻の粘膜に張り付け、アレルギー反応を調べます。5分後にくしゃみ、鼻水、鼻詰まりがどの程度出現するかで判定します。

鼻汁検査、特異的IgE抗体検査または皮膚テスト、鼻粘膜誘発テストの3つのうち2つ以上が陽性の場合に、アレルギー性鼻炎と確定し、症状が特定の季節と関連して起こる場合に、季節性アレルギー性鼻炎と確定します。

耳鼻咽喉科の医師による治療では、まず抗原の除去、回避に努めます。花粉の飛散期の外出をできるだけ控え、マスクや眼鏡で花粉との接触を避け、帰宅したら洗眼、うがいをして鼻をかんだり、室内に空気清浄機を設置したりすることで回避に努めます。

次に、減感作療法(特異的免疫療法)という体質改善の治療や、抗アレルギー薬で症状を抑える治療を行います。

減感作療法は、抗原に体を慣れさせ、抗原に接しても症状を起こしにくくする治療です。現在のところ、長期にわたって症状の出現を抑えることが可能な唯一の方法であり、週に1回くらいの割合で抗原希釈液を注射し、徐々に濃度を濃くしていく治療を2~3年続けます。治療終了後にも、症状の改善が持続します。

最近、長期にわたる通院の負担を軽減するのを目的として、急速減感作療法がいくつかの医療機関で行われています。副作用の出現も危ぶまれるために入院して行う場合もありますが、従来の減感作療法と同じか、それ以上の効果があるといわれています。

薬物療法では、ヒスタミンなどの化学伝達物質の作用を抑える抗ヒスタミン薬や、化学伝達物質の遊離を抑えるいわゆる抗アレルギー薬、副腎(ふくじん)皮質ホルモン薬、自律神経薬などを、症状やそのほかの状況に応じて内服薬、点鼻薬として使用します。

症状を抑える薬を使用すると、その時は改善しても、再発することが多く、完全に治ることが難しいため、長期間の経過観察も行います。花粉が飛散する前から薬物を予防的に投与し、症状の発現を遅らせて、花粉飛散期の症状を軽くする初期療法を行うこともあります。

薬物療法に効果を示さない場合は、手術療法を行うこともあります。鼻詰まりに対しては、鼻粘膜の一部を固める電気凝固術やレーザー手術、凍結手術、鼻粘膜の一部を切り取る鼻粘膜切除術などがあります。また、鼻水に対しては、自律神経の副交感神経を遮断する後鼻神経切断術が行われることもあります。

副鼻腔炎や鼻ポリープがある場合も、副鼻腔からの粘液の排出をよくしたり、感染物質を除去したり、鼻ポリープを切除したりするために、手術療法を行うこともあります。手術の前後に、温水や生理食塩水で副鼻腔を定期的に洗浄すると有効なこともあります。

🇦🇩季節性うつ病

ある季節にだけ現れる、うつ病に似た症状

季節性うつ病とは、抑うつ気分などの、うつ病に似た症状が特定の季節に限って現れる精神疾患の一種。多くは冬に症状が出る冬季うつ病ですが、夏など他の季節に症状が現れる人もいます。

季節性情動障害、季節性気分障害、季節性感情障害などとも呼ばれます。英語ではSeasonal Affective Disorderと呼ばれ、この頭文字を取ってSADと呼ぶのが一般的です。

季節性うつ病の中で最も一般的な冬季うつ病は、秋冬うつ病ともいわれており、10~11月ごろに抑うつが始まって、1~2月ごろに症状が重くなり、3月になると次第に軽くなっていくというサイクルを繰り返します。

過眠、過食の症状がみられるのが特徴で、特に夕方になると眠くなり、過食による体重増加、炭水化物や甘い物を欲する傾向が強まります。気分の憂うつ、焦燥感、無気力、日常活動に対する関心の低下や引きこもりなど、うつ病に似ている症状もあります。

冬型の季節性うつ病は、冬が長く厳しい南北の高緯度地域における発症率が高いことから、日照時間が短くなることに原因があると考えられています。もともと、うつ病は日照時間との関係が強く、高緯度地域の人ほど多くみられ、低緯度地域の人はあまりうつ病になりません。

発症のメカニズムはまだよく分かっていないところもありますが、体内時計をつかさどるメラトニンの分泌の変化が原因という説があります。脳の中央部にある松果体が産生するホルモンであるメラトニンは、普通なら夜間に分泌されます。日照時間が短くなることで、その分泌時間が長くなって分泌が過剰になったり、分泌のタイミングが遅れたりするために、体内時計が狂ってしまうのが原因というものです。また、光の刺激が減ることで、神経伝達物質のセロトニンが減り、脳の活動が低下してしまうのが原因という説もあります。

冬型の季節性うつ病の多くのケースでは、春から夏になるにつれて回復していきますが、反動で一時的に躁(そう)状態になる人もいます。症状が急転し、エネルギーに満ちて活動的になり、睡眠への欲求が低下し、食欲が減退するなど、冬の症状とは正反対の症状を示すもので、春夏軽躁病ともいわれます。

夏型の季節性うつ病では、食欲低下、不眠、体重減少などの症状がみられるのが特徴です。

なお、季節性うつ病の多くの症例では、途中から季節性を獲得したり、途中で季節性を失ったりと、不安定な経過を示すようです。

季節性うつ病の治療

冬型の季節性うつ病(冬季うつ病、秋冬うつ病)の治療には、高照度光療法が最も効果があります。閉め切った部屋で人工光を浴びる方法で、治療の目的で特定の季節を再現するため、光の照射時間を夏は長く、冬は短くといった形でコントロールします。光療法の装置は、日本の電気メーカーが市販もしています。

日光浴、特に朝日を浴びるのも効果的です。薬品による治療も行われますが、通常のうつ病に効く抗うつ剤は、季節性うつ病にはあまり効果がありません。眠らないで起きている断眠療法が行われることもあります。

🇦🇩偽痛風(軟骨石灰化症)

高齢者に多発性の関節痛を起こし、痛風とよく似た疾患

偽(ぎ)痛風とは、多発性の関節痛を起こし、痛風とよく似た疾患。軟骨石灰化症とも呼ばれます。

高齢者では、特に風邪などの切っ掛けもなく、急にあちこちの関節が痛み出すことを比較的よく経験します。血液検査でも関節リウマチや痛風の反応は異常がなく、医師が診断に苦しむことがあります。このような疾患の中に、偽痛風があります。

この偽痛風は、関節液中にピロリン酸カルシウム(CPPD)結晶という結晶が沈殿することによって起こります。よく似た痛風は、血中の尿酸が増加して高尿酸血症となり、関節液内に尿酸ナトリウム結晶が生じることによって起こります。

ピロリン酸カルシウムの結晶ができる原因としては、軟骨変性が重要です。軟骨内の結晶は関節破壊により関節腔(くう)内へ脱落し、関節腔内では白血球、単球などがこの結晶をきれいに掃除しようとします。その時に、細胞からはさまざまな化学物質が放出されて、炎症はいよいよ強くなります。痛風発作でも同様に、白血球などが尿酸の結晶を掃除しようとして炎症が起こります。

偽痛風の発症年齢は、痛風に比べて60~80歳の高齢者での発症が多いと見なされています。痛みの起こりやすい部位は膝(ひざ)の関節が最も多く、次いで手、足、股(また)、肘(ひじ)の関節など比較的大きな関節で、男女差はありません。痛風が男性に圧倒的に多くみられ、痛みの部位も足首や足の親指の付け根に起こりやすいのと対照的。

偽痛風の発作は数日、ないしそれ以上持続し、1カ所から数箇所の関節炎が特徴です。痛風発作のように突然出現して自然に軽快しますが、痛風より痛みは軽度。急性発作時には、関節腫脹(しゅちょう)、局所発熱、痛みがあり、関節の動きが悪くなります。腕や足の関節に慢性の痛みやこわばりが長引くこともあり、関節リウマチと混同されることもあります。

偽痛風の検査と診断と治療

医師による診断では、膝関節痛などに多発性関節炎の所見がみられ、X線検査で軟骨石灰化症の存在が認められ、関節腔内に針を刺し関節液を吸引してその結晶を調べることにより、偽痛風と判断されます。偽痛風では、血液中の尿酸値は基準範囲内ですが、痛風でも発作時の尿酸値は正常のことが多くあります。

偽痛風のほかにも、多発性関節炎は慢性関節リウマチ、リウマチ性筋痛症、膠原(こうげん)病、乾癬(かんせん)性関節炎、サルコイド関節炎、悪性腫瘍(しゅよう)に伴う関節炎、再発性多発軟骨炎、感染症に伴う関節炎、変形性関節症などいろいろな疾患で起こり、診断が困難なことも多くあります。長期間の経過観察により診断が明らかになる場合が多いのですが、それでも診断ができないケースもあります。

治療法はほとんどが対症療法で、完治につながるような決定的な治療法はありません。炎症をコントロールすることで痛みを抑えるために、ステロイド剤や非ステロイド系抗炎症剤などが用いられます。治療により急性発作を止めて、次の発作を予防することが可能ですが、関節へのダメージを防ぐことはできません。

発作のない時には、通常の変形性関節症のような病像をとりますが、多くの発症者では膝の変形と慢性的な運動痛、動作の開始時の痛みで特徴とされる変形性関節症に移行します。

🇪🇸喫煙者口蓋

長期間の喫煙により口腔粘膜、とりわけ口蓋粘膜が厚く、硬くなる病変

喫煙者口蓋(こうがい)とは、喫煙により口腔(こうくう)粘膜、とりわけ上側の部分の口蓋粘膜が厚く、硬くなる病変。ニコチン性口内炎とも、口蓋ニコチン性白色角化症とも呼ばれます。

喫煙歴の長いヘビースモーカーにみられ、たばこの煙に含まれるニコチンなどの化学物質の蓄積や、たばこ喫煙時の熱刺激が原因となって起こります。

ニコチンのみが直接の原因かどうかは不明で、たばこの煙に含まれるどの化学物質が影響しているかということまでは、わかっていません。たばこの煙には、ニコチンのほか、タール、一酸化炭素、非常に発がん性の高いベンツピレンなど200種以上の有害な化学物質が含まれることは、わかっています。

長期間の喫煙により、口の中が熱く、乾燥したたばこの吸気にさらされ続け、口腔粘膜が刺激されることも、原因の一つとなります。

発症の初期では赤い発疹(はっしん)ができ、すぐに白色になります。口蓋粘膜は白色になって、厚く、硬くなり、時に表面がシワ状、あるいは敷石状になることもあります。やがて、口蓋粘膜に点在する小唾液腺(しょうだえきせん)が炎症により赤くはれるため、白色の口蓋粘膜に赤い点が散在しているように見えるようになります。

痛みなどの自覚症状はほとんどありませんが、時には熱い物、冷たい物が染みることもあります。重症になると、小唾液腺がふさがれ唾液が出にくくなることもあります。

たばこの悪影響はよく知られているところで、タール、ベンツビレンを始めとする発がん物質を含んでいるため、喫煙者口蓋においても口腔がんに発展することがあります。

喫煙者口蓋の検査と診断と治療

歯科口腔外科、内科の医師による診断では、臨床症状や喫煙歴などから判断は容易で、通常、組織検査は不要です。

歯科口腔外科、内科の医師による治療では、禁煙すること、もしくは喫煙本数を減らすことにより、数週間から数カ月で改善します。

喫煙者口蓋はがん化する恐れも指摘されており、口腔がん予防の意味からも禁煙の意義は大きくなります。

🇪🇸吃音症

頭の中で思い描いた言葉を円滑に発することができない疾患

吃音(きつおん)症とは、頭の中で思い描いた言葉を発する際に舌や口唇などがうまく動かず、言葉を円滑に発することができない疾患。吃音、どもりとも呼ばれます。

話し言葉の流暢(りゅうちょう)性とリズムの障害であり、コミュニケーション障害の一種に相当します。

この吃音症には、大きく分けて連声型吃音症(連発型吃音症、連続型吃音症)、伸発型吃音症、難発型吃音症(無声型吃音症、無音型吃音症)の3つがあります。

連声型吃音症は、ありがとうが「あ、あ、あ、ありがとう」のように、最初のある言葉を連続して発するもの。

伸発型吃音症は、ありがとうが「あーーーーりがとう」のように、語頭のある音を引き伸ばして発するもの。

難発型吃音症は、ありがとうが「あ…………(無音)」のように、最初のある言葉から続く言葉を発することができないもの 。

原因は特定されていませんが、素因的なものがあるともいわれ、それに加えて発達的な要因、環境的な要因、つまりコミュニケーションの環境や親の養育態度、さらに自律神経の失調などが複合的に関係しているのではないかと見なされています。

吃音症は一般的に、言葉の数が急に増え、話し言葉が活発になる2歳から5歳位の幼児期に始まります。特別な原因はないのにどもり始める場合がほとんどで、これらを発達性吃音症といい、吃音症の9割以上が相当します。

一方、成人になって言語を習得した後に、疾患によって失語症など言語に障害を生じ、その症状としてどもることがあります。また、心理的に大きなショックを受けた場合に、どもることがあります。これらを獲得性吃音症といいます。

発達性吃音症は、子供の5パーセント弱にみられます。とりわけ男子に多く、女子1人に対して男子は3~7人位の割合です。その原因は不明ですが、男子のほうが言葉の発達がやや遅めで、ストレスの影響を受けやすいからではないかなどといわれています。

吃音症には、1~4段階のどもりのレベルがあります。第1段階レベルの吃音は、本人がどもりだとあまり自覚していない時期。第2段階レベルの吃音は、本人が連声型の吃音を気にし始める時期で、次第に語頭の音を引き伸ばす伸発型の吃音が現れるようになります。

第3段階レベルの吃音は、自分が吃音だと強く自覚するようになる時期で、伸発型の吃音の時間が長くなり、最初の言葉から続く言葉を発することができない難発型の吃音になります。この時には、口元のけいれん、身振り、身悶(もだ)えなどの随伴運動が起こります。

第4段階レベルの吃音は、吃音のことを気にせずにはいられず、どもりそうな言葉や場面をできるだけ避けたり、話すこと自体や人付き合いを避けたりします。さらに、自分がどもりだと自覚した後でどもりを放っておくと、対人恐怖症や緊張症などの二次障害を引き起こす可能性があります。

主に、幼児期には連声型の吃音が多くみられ、成長するにつれ難発型の吃音が現れるようになります。難発型の吃音が現れるのは、連発型の吃音を隠そうとするゆえに無意識的に獲得した条件反射であると見なされます。

幼児期に吃音症を発症しても、小学校入学前後で平均50パーセント位の子供が自然に、あるいは軽い治療や指導でよくなります。大人になると、有病率は1パーセント弱になります。

吃音症状が激しく、自分の吃音に関して深刻に思い悩んでいるのは思春期から30歳代にかけての比較的若い世代が多く、40歳代、50歳代と年を重ねるにつれて、吃音症状が目立たなくなって吃音率も軽減してくるという傾向もあります。

これは生理的な自然治癒力によるものと考えるより、仕事や家庭を持つことによって、どうしても話さざるを得ない機会が増えてくることによって、話す量も増えてゆく結果、話すこと自体がリハビリの効果を生み、自然と慣れてくるためだと見なされます。そのため、ある程度年配でも、吃音症状が変わらないという人も見受けられます。

子供に吃音症の心配がある際は、言語聴覚士のいる医療機関を受診することが勧められます。基本的には、言語聴覚士が言語障害などを治療しますが、診断は吃音症の治療を手掛けている言語聴覚士がいる耳鼻咽喉(いんこう)科などの医師が行います。

また、神経内科などでも医師に吃音症の知識があり、吃音症の治療を行う言語聴覚士がいれば、診断可能な場合もあります。精神科や心療内科などでも、通院・在宅精神療法や投薬治療を受けず、初診料と再診料のみの診療報酬請求しか行わないならば、吃音症のみの診断名で基本的には受診可能です。

吃音症の治療

言語聴覚士による治療では、精神の緊張を取り除き、話すトレーニングを忍耐強く行います。一般的に完璧な吃音症に対する医学的な治療法はないといわれていますが、トレーニングで改善することは可能とされています。

その中で最も多く取り入れられているのが、発音トレーニング。息を大きく吸って、何度でもいいので、1語1語を少し長めに伸ばすような勢いで発音してゆきます。下腹部に力を入れ、普段の会話を意識しながら、すべての発音が難しければ最初の一言だけでかまわないので、慣れるように無理せず少しずつ発音してゆくことが肝心です。

そして、慣れてきたら少しずつ長めの単語を話すようにしてゆきます。この時点でも無理はせず、その様子を録音して定期的に改善されているかチェックします。

すぐに効果が出るのは難しいものの、忍耐強く少しずつ1日数分でもやることによって、改善されていくケースも多くみられます。

🟪インフルエンザの患者数が注意報の基準を超える 新型コロナと同時に流行ピークの恐れも

 インフルエンザの感染状況について、厚生労働省は20日、全国約5000の定点医療機関から9〜15日の1週間に報告された感染者数が1医療機関当たり19・06人だったと発表しました。前週(9・03人)と比べ2・11倍に急増し、「注意報」の基準の10人を超まし た。  都道府県別では...