太ももの骨である大腿骨の外傷による骨折
大腿骨(だいたいこつ)骨折とは、太ももの骨である大腿骨の外傷による骨折。
太ももは、上半身を支え、かつ歩行するのに使う重要な部位で、太い大腿骨と筋肉が付いています。太ももの損傷は、筋肉などにも起こりますが、大腿骨が骨折する場合もあります。
大腿骨は、股(こ)関節と膝(しつ)関節の間にある人体最大の長管骨で強靭(きょうじん)な構造になっているため、若い人に骨折が生じるのは極めて強い外力を受けた時です。受傷の原因は交通事故が最も多く、ほかに高所からの落下、ラグビーなど激しい運動中の外部からの衝撃、小児の遊戯中の事故などがあります。
しかし、高齢者、特に閉経した女性の高齢者で骨粗鬆(こつそしょう)症にかかっている場合は、立ち上がる際によろけて転倒したり、歩行中に段差につまずいて転倒したり、ベッドから落ちるだけでも骨折が生じます。
この大腿骨骨折は、上側の股関節側から順に、大腿骨頭、大腿骨頸部(けいぶ)、大腿骨転子(てんし)部、大腿骨転子下、大腿骨骨幹部、大腿骨顆部(かぶ)の骨折に分けられます。
交通事故などによる強い外力による大腿骨骨折の場合は、ほかの部位の骨折や頭部、胸部、腹部の重要臓器の損傷を合併することが少なくありません。大腿骨の下3分の1の骨折では、主要な膝窩(しつか)動脈や総腓骨(そうひこつ)神経などの損傷を合併することがあります。
大腿骨の骨折部には、内出血によるはれ、皮下出血、異常な動きを認め、起立は不可能になり、受傷した脚の自動運動もできなくなります。膝窩動脈の損傷があると、足の指の色調は不良となり、足背部で拍動を触れなくなります。神経まひがあると、足首や足指の運動が不可能となります。
骨折部でかなり大量の出血があるため、血圧低下やショック症状を起こすことがあり、合併損傷が多いほど強くなります。
大腿骨骨折が発生した際は、応急処置として副木を当てて骨折部が動かないようにします。大量出血が予想され、さらにほかの部位に損傷を合併することがあるので、体を起こさずに横にしたまま医療機関に運びます。
大腿骨骨折の検査と診断と治療
整形外科の医師による診断は、局所の症状で容易につきます。X線(レントゲン)検査で、骨折部位、骨折型、転位の程度を調べます。ただし、大腿骨のずれが小さい亀裂骨折で、受傷した後も歩けている状態の場合は、X線検査では判別しづらいこともあり、CT(コンピュータ断層撮影)検査やMRI(磁気共鳴画像撮影)検査を行います。
整形外科の医師による治療は、大きく分けて手術療法、ないし保存療法を行います。特に高齢者の場合は、全身状態が許せば手術によって早期に痛みをとって体重をかけられるようにし、リハビリを開始することが望ましいと考えられています。
股関節にある関節包より内側で骨折する大腿骨頸部の骨折(内側骨折)の手術では、ずれが少ない場合や若い人の場合に、ずれを元に戻して骨折部をネジで固定します。高齢者で、ずれが大きい場合には、金属製の人工骨頭に置き換えます。
関節包の外側で骨折する大腿骨転子部の骨折(外側骨折)の手術では、骨のずれが大きいことが多いので、プレートとネジ、または骨の中に入れた金属のくぎとネジを組み合わせたもので固定します。
一方、保存療法を選択するのは、大腿骨頸部の骨折(内側骨折)で骨のずれがほとんどなく、比較的若い人の場合と、骨がくっつく可能性が高く、数カ月間寝たきりでいてもそれほど大きな問題が起きない場合です。ただし、大腿骨頸部の骨折は骨折部の血流が悪いために骨がくっつかないまま偽関節になったり、折れた骨が壊死したりする可能性があります。
また、手術や麻酔というのは体にかなり負担がかかりますので、全身状態が悪いため、寝たきりでいる危険性より手術をする危険性のほうが高いと判断される場合には、保存療法を選択します。手術しない場合でも、数カ月安静にしていると痛みは落ち着いてきます。
大腿骨頸部の骨折の場合、基本的に骨がくっつくことはありません。従って、足に体重をかけることはできませんが、あまり痛みなく車椅子(いす)に座っていることは可能です。場合によっては、よいほうの足に体重をかけて立つことができることもあります。痛みが落ち着き次第、できるだけ早く車椅子に移って寝たきりを防ぐことが重要です。
大腿骨転子部の骨折(外側骨折)の場合、安静を保っていれば骨はくっつきます。通常3~4週間程度で多少動かしても骨がずれなくなり、2~3カ月程度で体重をかけて歩く練習を開始します。
小児の大腿骨骨折の場合は、骨癒合が良好で変形がよく矯正され、1センチまでの短縮は自家矯正が可能なため保存療法を行います。長期間ベッド上で固定されても全身的な合併症や関節の拘縮が起こらないので、年齢に合わせてベッド上でいろいろな牽引(けんいん)療法を行います。
2〜3歳以下に対しては、垂直に両下肢を牽引するブライアント牽引を行います。3〜8歳児に対しては、股関節を30度曲げた位置にして牽引するラッセル牽引を行います。また、2〜12歳児に対しては、股関節と膝関節を90度曲げた位置にして牽引するウエーバー牽引を行います。
一般的に、高齢者の骨折後の歩行能力は、手術をしたとしても1ランク落ちるといわれています。例えば、家の外を自由に歩いていた人は杖(つえ)が必要になる、杖で歩いていた人は主に家の中での生活になる、家の中をつかまりながらやっと歩いていた人はベッドからポータブルトイレや車椅子への移動がやっとになる、といった具合です。
しかし、リハビリテーションの進み具合は個人差が大きく、本人の意欲、痛みの程度、体力、合併症、認知症の有無などによって大きく変わってきます。認知症状が強い場合には、リハビリがあまり進まないことが予想されます。
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