●苦しい時は適切な対応を
息切れが気になっても、年齢や風邪のせいにしていませんか。適切な対応をしないと、生死にかかわるケースもあるので、注意したいところです。
●肺は壊れると元に戻らない
人体の臓器の中で唯一、直接外気に触れているのが、呼吸器である「肺」です。容量も臓器の中で最大で、左右一対ある肺には一日、約1万リットルの空気が出入りしています。
肺に空気が運ばれていく通路が「気管」で、気管は胸のほぼ中央で左右に分かれて「気管支」となります。気管支は「肺門」から肺に入り、肺の奥に進むにつれて枝分かれして細くなっていき、末端は「肺胞」と呼ばれる小さな袋の集まりとなっています。
肺胞の数は大人で3億~7億個、総面積はおよそテニスコート1枚分。肺胞の壁は毛細血管と接しており、空気中の酸素と血液中の炭酸ガスの交換が絶え間なく行われています。
酸素と炭酸ガスの交換を一般に「呼吸」と呼びますが、呼吸は脳の呼吸中枢によってコントロールされていて、肺だけではなく鼻、のど、胸郭、横隔膜などが複雑に動き、血液の循環とも密接な関係にあります。
こうした一連の動きがうまくいかない時、私たちに息切れが起こります。そのため、息切れにはさまざまな原因が考えられるのです。
急性の息切れでは、緊急に対応しないと命にかかわることもありますので、すぐに病院へ行く必要があります。慢性の息切れのケースも、放置は厳禁です。
肺は一度、壊れたら元に戻らないことが、怖いのです。肺の機能が衰えると、苦しいために体を動かさなくなり、やがては全身の筋肉が弱まってしまい、寝たきりになる危険性があります。
●息切れの原因のチェック
◎慢性の息切れ
◎COPD(慢性閉塞性肺疾患)
中高年にみられる呼吸器の病気の代表格。たばこや大気汚染によって、肺胞が壊されたり、細い気管支の壁が厚くなって管が細くなったりした結果、肺の中の空気が出しにくくなるもので、肺気腫、慢性気管支炎が含まれます。
徐々に進行し、症状が息切れ、せき、たんであるため、慢性的な風邪と勘違いしているケースもあります。喫煙者の15~20パーセントに起こる、と見なされているところ。
◎気管支ぜんそく
全年齢層にみられる病気。気管支が慢性的な炎症で狭くなり、空気が通過しにくくなります。せき、たんが出るのはCOPDと同様ですが、夜中や夜明けに症状が出るケースが目立ちます。
原因はアレルギー、と見なされているところ。
◎その他
高度の貧血によって、全身の臓器に酸素がいきわたらないと、息切れになります。
肺が徐々に硬く縮み、空気を吸い込むことができずに息切れするのは、間質性肺炎や肺線維症です。
また、肺結核、肺がんや気管支拡張症、神経や筋肉の疾患、甲状腺疾患、緑内障の点眼薬(βブロッカー)の副作用などでも、息切れが起こります。
◎加齢によるもの
肺機能は男女とも25歳がピークで、加齢とともにゆるやかに低下していきます。健康であっても、誰にでも起こること。日常生活に支障がなければ、問題はありません。
ただし、体力が落ちていて日頃から元気のない高齢者の場合、肺炎を起こしても息苦しさや、高熱などの症状が現れにくいことに、注意が必要です。「おかしい」と思ったら、手遅れにならないように、早めに医療機関へ。
◎危険な急性の息切れ
◎自然気胸
若い元気な人に多く、突然起こります。肺に穴が開き、肺から出た空気によって、肺が圧迫されて縮んでしまいます。急激な息切れ、胸痛を伴います。
◎うっ血性心不全
心筋梗塞などによって、心臓のポンプ機能が低下し、体に十分な血液が送り出せない状態になると、肺に水分がたまり、呼吸が速くなります。「寝ると息苦しい」、「水っぽい、たんが出る」などの症状があります。
◎エコノミー症候群
前触れもなく、急に息苦しくなります。飛行機の座席などで、水分不足のまま何時間もじっとしていると、脚の静脈に血栓ができます。その血栓が肺動脈に運ばれ、急に血流を止めてしまうケースがあります。
●心掛けたい息切れ対策
◎専門医を受診する目安
息切れの感じ方は人によってさまざまで、痛みの感じ方と似ています。中には、実際には病気があるのにあまり感じない人もいます。
息切れに伴って、せき、たんがある場合には一度、専門医を受診しましょう。また、同年代の人と一緒に歩いている際に自分だけ歩調が遅れるのも、重要なシグナルとなります。
◎COPDには禁煙が最も有効
年齢が上がるにつれて増加するCOPDの主要因は、たばこです。たばこの煙の粒子は非常に小さく、肺の奥深くまで入り込んで沈着し、炎症を起こすのです。
喫煙者でも、元には戻らないものの、たばこをやめた時点から肺の機能低下がゆるやかになるので、すぐに禁煙を実行しましょう。
◎ウォーキングと腹式呼吸を
COPDの人の場合、息が切れると動くのが面倒になり、運動不足になって運動機能が低下し呼吸困難がさらに悪化する、という悪循環になりがちです。そのため、全身の筋肉を鍛えることが大切になります。
最も勧めたい対策は、ウォーキングなどの軽い運動です。腹式呼吸も効果的で、横隔膜を十分に使って呼吸することで、肺の容量が大きくなります。腹筋を縮めるようにして、口をすぼめた状態でゆっくり息を吐く、口すぼめ呼吸も効果的で、気管や気管支での空気の通りがよくなります。
◎日常生活を楽にする工夫
COPDの人は、体に余計な負担をかけない工夫をすると、日常生活が楽になります。床に置いたものを取る際には、かがんで持ち上げるといった工夫です。
重症になると、息を吸う時に横隔膜だけでなく、首や腕などの筋肉の助けも必要になります。これらの筋肉を使わない、息を吐く時だけ体を動かすように、そしてリズムをつけて動くようにしましょう。階段を上がる際には、息を吐きながら歩を進め、息を吸う時は立ち止まりましょう。
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