冠動脈が狭くなっている際の運動などが誘因となって起こる狭心症
労作(ろうさ)性狭心症とは、主に階段を上るなどの運動時に、激しい痛みが心臓部に生じる疾患。
人間の心臓は、筋肉でできた袋のような臓器で、1日に約10万回収縮し、全身に血液を循環させて、酸素や栄養を送り届けています。もちろん、心臓の拍動にも多くの酸素や栄養が必要ですが、心臓自身は心臓の中を通る血液からではなく、表面を取り巻く冠動脈から、血液を受け取っているのです。
この冠動脈に、動脈硬化などによってプラークという固まりができて、血液の通り道が狭くなったり、詰まったりすると、心筋が酸欠状態に陥ってしまい、狭心症や心筋梗塞(こうそく)を招くのです。心筋梗塞のほうは、冠動脈が完全に閉塞、ないし著しく狭まり、心筋が壊死してしまった状態です。
狭心症にはいろいろなタイプがありますが、よく知られているタイプは、労作性狭心症と安静時狭心症の二つです。
労作性狭心症は、動脈硬化などで冠動脈が狭くなっている際に、過度のストレス、精神的興奮、階段や坂道の昇降運動といった一定の強さの運動や動作が誘因となって心臓の負担が増すことで、心臓の筋肉である心筋に十分な血液が送られなくなり、心筋が一時的な酸素欠乏になって起こります。
安静狭心症は、就寝中や早朝など、比較的安静にしている際に起こるものです。心不全などを合併することも多く、労作性狭心症よりも重症です。
40歳以上の男性に狭心症は多く、女性では閉経期以後や卵巣摘出術を受けた人に多くみられます。誘因として考えられるのは、高血圧、高脂血症、肥満、高尿酸血症、ストレス、性格など。
症状としては、狭心痛という発作を繰り返す特徴があります。典型的な狭心痛は突然、胸の中央部に締め付けられるような痛みが起こり、痛みは左肩、左手に広がります。まれに、下あご、のどに痛みが出ることもあります。
発作の時間は数分から数十分で治まりますが、発作中は顔面蒼白(そうはく)、胸部圧迫感、息苦しさ、冷汗、動悸(どうき)、頻脈、血圧上昇、頭痛、嘔吐(おうと)のみられるものもあります。
初めての発作は見過ごしがちですが、症状を放置した場合、一週間以内に心筋梗塞、心室細動などを引き起こす可能性もあります。治まったことで安心せずに、病院へ行くべきです。特に高齢者や、発作が頻発に起こる人は、注意が必要となります。
労作性狭心症の検査と診断と治療
循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓外科などの医師による診断では、症状が典型的な場合、狭心症を疑うのは比較的容易で、問診で詳しく伝えてもらいます。
さらに、運動負荷心電図(トレッドミル検査)、ホルター心電図、心臓超音波検査(心エコー)、心臓核医学検査(心筋シンチグラム)、冠動脈CT検査、冠動脈造影検査(心臓カテーテル検査)などを行い、診断を進めます。
運動負荷心電図では、無症状時の心電図からは狭心症であるかどうかわからないため、フェベルトコンベアー上を歩いてもらうトレッドミルなどにより負荷をかけ、心電図に現れる変化から狭心症らしいかどうか、またどの程度運動が可能かを評価します。
ホルター心電図では、携帯式の小型の心電計を付けたまま帰宅してもらい、長時間の記録から、体を動かしている時や、寝ている時に心電図がどう変化するかをみます。
心臓超音波検査では、心臓の大きさ、心筋の動き、弁の機能などを評価します。
心臓核医学検査では、微量の放射性物質で標識した薬剤を静脈に注射し、心筋の血流の様子などを評価します。運動負荷や薬物負荷試験と組み合わせることによって、心筋虚血があるかどうかを判断するだけでなく、その広がりの範囲や心筋障害の程度などもわかります。
冠動脈CT検査では、造影剤を静脈に点滴し、心電図と同期させながらCT(コンピュータ断層撮影)をとることで、冠動脈の狭窄の有無を調べます。画像診断装置の進歩により、体に負担を与えずに冠動脈全体の性状を評価できるようになりました。
これらの検査の結果、狭心症が強く疑われる場合には、通常、心臓カテーテル検査を行います。
心臓カテーテル検査では、カテーテルという細長いチューブを手首や肘(ひじ)、足の付け根の血管を通して心臓まで挿入し、造影剤を注射して冠動脈のX線撮影を行います。冠動脈の狭窄の程度、部位、病変数などを詳細に評価でき、狭心症の確定診断、重症度の評価、治療方針の最終決定ができます。
循環器科、循環器内科、心臓血管外科、心臓外科などの医師による治療では、すべてのタイプに共通して、血栓ができるのを防ぐために、アスピリンなどの抗血小板剤の投与による治療が行われます。
発作を止めるために、ニトログリセリン、硝酸イソソルビドなどの硝酸薬、発作を予防するために、硝酸薬、β(ベータ)遮断薬、カルシウム拮抗(きっこう)薬が投与されるほか、経皮的冠動脈形成術、冠動脈大動脈バイパス移植術などの外科的治療も行われます。
いずれの治療法を選択した場合でも、動脈硬化の危険因子を修正するための生活習慣の改善は、並行して実践しなければなりません。
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