全身の皮膚、あるいは体の一部の皮膚に発汗がみられない状態
無汗症とは、皮膚からの発汗がみられない状態。
先天性無汗症と後天性無汗症とに大別されます。また、汗の出ない部位が全身の皮膚にわたる全身性無汗症と、体の一部の皮膚に限られる限局性無汗症とがあります。
全身の皮膚には、エクリン汗腺(かんせん)が分布して汗を分泌しており、汗には体温を下げる作用があります。人は体温が上昇すると汗をかき、汗は蒸発する際に身体から熱を奪って体温を下げる役割をします。
そのエクリン汗腺からの汗は、交感神経の刺激により分泌されるので、中枢神経、 脊髄(せきずい)神経、末梢(まっしょう)神経、エクリン汗腺自体のどこかに異常があると、汗が出なくなります。
体温調節の大切な役割を果たす汗は、体温を下げ、熱中症などから身を守るだけでなく、熱疲労も改善してくれます。 暑いということを知覚中枢が感じ取り、それを体温中枢に伝え、そこから自律神経などが体の発汗部位であるエクリン腺に伝えることで汗をかきます。一連のサイクルでどこかの調節障害が原因となり、無汗症は起こります。
先天性無汗症は、先天性無汗性外胚葉形成不全症の部分症状として生じます。組織学的に汗腺を欠いて無汗のため、夏季や運動後などに発熱します。先天性全身性無汗症では、体毛や歯の異常を伴うことがあります。
先天性の場合、遺伝的要因で、脳神経細胞に何らかの形成異常が生じていて、出生時から、温覚、痛覚がない、または極度に低下しているため、発汗しないだけではなく、発熱や痛みにも反応しない「先天性無痛無汗症」とされています。運動機能が発達するにつれすぐに高体温状態になり、成長と共に運動機能などの様々な障害が生じ、将来的にも完治は難しいといわれる難病です。
後天性全身性無汗症では、発汗刺激時に皮膚に痛みを伴うことがあります。皮膚がピリピリ痛む(コリン性蕁麻疹)。 後天性の場合、神経疾患、内分泌、代謝疾患、薬剤による影響、自己免疫疾患などが挙げられます。多くの原因があるため、診断により原因を探して治療します。
広範囲の皮膚で汗が出ない全身性無汗症では、運動時や高温が長時間続く環境下で汗が出ないために体温調節ができなくなり、体温が上昇して倦怠(けんたい)感が現れます。熱中症の危険も増します。
広範囲に及ぶ全身性無汗症では、体温調節ができなくなり、夏場には体温が上昇やすく、冬場には低体温になりやすい、痛みや熱さ冷たさを感じにくくなるのが特徴です。
乳児期では、熱に伴う痙攣やてんかんが高頻度で見られ、急性脳症を発症する場合があります。また、歯が生える頃には舌や指先を傷つけてしまうことがあります。幼児期では、怪我や骨折、骨髄炎などを繰り返し、幼少時から成長するに連れて、運動機能障害などさまざまな症状が見られるようになります。
狭い範囲の限局性無汗症では、汗が出ないという以外は特に症状はなく、偶然に気付くことがあります。
無汗症には多くの原因があります。皮膚科、ないし皮膚泌尿器科を受診し、適切に対処することが大切です。
無汗症には多くの原因があるため、神経疾患の場合は神経内科、その他の疾患は内科など疾患によって専門的治療を行います。まずは、皮膚科専門医で診察を受け、どの科で治療をするのが適切なのかを判断します。
近年エアコンなどの影響で一年中、汗をかかない生活をしているために、汗腺の機能低下が原因で汗をかきにくい人が増えているといわれています。
無汗症、乏汗症ともに発汗障害には様々な要因があるため、汗が出ない、かきにくいという自覚症状が少しでもあれば、皮膚科を受診しましょう。原因によっては内科や各専門医の受診や治療が必要な場合もあります。早めの受診をおすすめします。
また、糖尿病や高血圧、腎臓病や甲状腺機能低下などにより、汗腺機能が弱まり汗が出にくくなることもあります。
元々汗の分泌経路の異常、または水代謝のサイクル異常などが考えられますが、まずは皮膚科か内科を受診し、元の病気を調べて治療します。
無汗症の検査と診断と治療
皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による診断では、中枢神経系、脊髄神経系、末梢神経系の疾患があると汗が出なくなるので、これらの異常の有無を調べる神経学的検査や画像検査を行います。
エクリン汗腺自体に異常があるかどうかを調べるためには、アセチルコリンを皮内に注射しエクリン汗腺を刺激して、発汗の有無を見ます。コリン刺激薬をイオンフォレーシスで導入して、発汗の有無を調べる検査方法もあります。
皮膚科、皮膚泌尿器科の医師による治療では、神経疾患やそのほかの疾患に伴う無汗症に対しては、原因になっている疾患を治すことが第一です。
先天性無汗症に対しては、よい対処法がありません。熱中症にならないように、環境に注意しながら生活してもらいます。
無汗症を予防する方法や治療法は確立されていません。ただし、体温調節ができないため、熱中症などにならないように高温などの環境に気をつけながら生活をすること、場合によってはクールベストと呼ばれる着衣を必要とする場合もあります。子どもの場合、運動障害やケガなどの繰り返しでストレスをためやすい状態にあります。ストレス最小限に抑えるための周りの理解も大切です。
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