アキレス腱の前部と後部にある滑液包が炎症を起こし、痛みが生じる疾患
アキレス腱(けん)滑液包炎とは、アキレス腱の前部にある滑液包と、アキレス腱の後部にある滑液包の一方、もしくは両方が炎症を起こし、痛みが生じる疾患。
アキレス腱は、ふくらはぎの筋肉と踵(かかと)の骨である踵骨(しょうこつ)をつないでいる腱です。滑液包は、皮膚と骨や腱の部分の間にある袋状の軟部組織で、ゼリー状の少量の滑液が含まれています。滑液包の本来の役割は皮膚と骨や腱などが直接こすれ合うのを防止することですが、一定の動きにより圧迫や摩擦が長期間続くと炎症を起こしていきます。
炎症が起こると痛みが生じ、滑液の分泌量が多くなって滑液包の中に過剰な滑液がたまります。また、炎症が続くと、滑液包自体が肥厚することもあります。
アキレス腱の前部(深部)にある滑液包に炎症が起こるものは、アキレス腱と踵骨の後部との間にある踵骨後部滑液包に起こる踵骨後部滑液包炎(アキレス腱前滑液包炎)。
アキレス腱の後部(浅部)にある滑液包に炎症が起こるものは、踵の皮膚とアキレス腱との間にある踵骨下部滑液包に起こる踵骨下部滑液包炎(アキレス腱後滑液包炎、アキレス腱皮下滑液包炎)。
踵骨後部滑液包炎は、扁平足(へんぺいそく)やハイアーチ(凹足)の人が、起こしやすいといわれています。扁平足は、土踏まずのくぼんだ部分がなくなって、起立時や歩行時に足の裏のアーチがつぶれ、足の裏全体が地面にくっ付く足です。ハイアーチは、足の甲が極端に高く、起立時や歩行時に土踏まずの部分が地面に接しない足です。
また、踵骨後部滑液包炎は、踵骨後部滑液包が圧迫や摩擦を受けやすいパンプスやハイヒールなど踵の部分が固い靴を履いている人や、足関節の運動に伴うアキレス腱のオーバーユース(使いすぎ)を起こしやすい長距離走のランナー、バスケットボールの選手、バレーボールの選手などに起こることもあります。
踵骨後部滑液包炎を生じると、踵の後ろの部分がはれて硬く盛り上がり、押すと痛みが生じたり、靴を履いて歩くと痛むようになります。靴の着用や歩行が困難になることもあります。
踵骨下部滑液包炎も、踵骨後部滑液包炎とほぼ同じ発生メカニズムで、ほぼ同じ人が起こしやすいとされています。症状としては、踵の後ろの部分がはれて硬く盛り上がることが多いのが特徴で、パンプバンプ(パンプスによるこぶ)と呼ばれています。
アキレス腱滑液包炎の検査と診断と治療
整形外科、形成外科、ないし足の外科の医師による診断では、アキレス腱滑液包が位置する部分に圧痛があれば見当は付きますが、念のためX線(レントゲン)検査や超音波(エコー)検査を行います。超音波検査により、滑液包のはれなどを確認できることがあります。
整形外科、形成外科、ないし足の外科の医師による治療では、原因となったアキレス腱や踵骨に負担のかかるスポーツ活動があるなら中止し、通常、痛みを和らげる湿布が基本となります。
日常の歩行時に痛む場合は、踵を少し高くするヒールパッド(ヒールウエッジ)を靴に挿入して、靴の踵部分が患部に当たらないようにするか、圧迫や摩擦が少なく踵との適合性が高い靴と交換します。
痛みがひどい場合、再発を繰り返す場合は、患部にステロイド剤(副腎〔ふくじん〕皮質ホルモン)と麻酔剤を注射したり、アキレス腱滑液包内を洗浄したりします。
踵や足部の形状に異常があり、慢性化の傾向を示す場合は、滑液包と踵骨の隆起部分を切除する手術を行うこともあります。
通常、アキレス腱滑液包炎の予後は良好ですが、踵骨下部滑液包に形成されたパンプバンプは慢性化すると痛みを感じなくなり、そのまま固まって残存することがあります。
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