全身性の結合組織障害で、特徴のある体形を示す遺伝性の疾患
マルファン症候群とは、体を構成する組織や器官をつなぐ結合組織に、異常を来す遺伝性の疾患。主に骨格系、視覚器系、心臓血管系に異常が認められ、特徴のある体型を示します。
染色体の異常な遺伝子による疾患で、常染色体優性遺伝を示します。フィブリリン遺伝子の異常により、体に必要な結合組織を作るフィブリリンという物質に異常が起こるため、正常な蛋白(たんぱく)質を生産できなくなり、結合組織が弱くなります。
また、TGFβ(ベータ)R2という別な遺伝子の異常によることもあります。約25パーセントは遺伝ではなく、卵子または精子での異常遺伝子の出現、すなわち自発的な新たな突然変異によって引き起こされると見なされています。
人種や民族にかかわらず男性にも女性にも等しく現れるものとして1896年、マルファン博士により初めて報告された疾患で、日本人では2万5000人から4万1000人の発症者が存在すると見なされています。
骨格系の異常により、背が高くやせており、長い手足と指を持つ体形を示します。脊椎(せきつい)側湾や、脊椎の胸椎部が後方へ曲がって突き出している亀背(きはい)などの背骨の異常、鳩胸(はとむね)や漏斗胸、関節痛や脱臼(だっきゅう)を起こしやすい関節の過可動性などがよく認められます。
生命にかかわる心臓血管系の疾患が、重要です。無症状の段階で診断されやすいものとしては、大動脈弁を含む大動脈基部の拡張、大動脈弁閉鎖不全、僧帽弁閉鎖不全があります。血管壁の結合組織が弱くなっている場合には、血管内の圧力により少しずつ大動脈が拡張して、大動脈弁が閉じなくなり、血流の逆流を生じたり、血管壁に解離が起きて危険な状態になることがあります。胸背部の激痛がみられた時には、大動脈解離を考える必要があります。
視覚器系の症状としては、目の水晶体亜脱臼、偏位、近視などがみられます。また、腰椎仙骨部の硬膜の拡張により、腹部や足の痛みが起こることもあります。
ただし、マルファン症候群になったからといってすべての症状や特徴が必ず現れるわけではなく、症状が現れたとしても、その度合いは個人差があり、人によって異なります。そのために、マルファン症候群であると気付くのが遅れたり、自分はマルファン症候群ではないと考えてしまうことがあり、心臓血管系に現れる症状などは年が経つにつれて進行することがあるので、最悪の結果になることがあります。
マルファン症候群の検査と診断と治療
小児科、内科などの医師による診断は、家族歴と多臓器における特徴的所見に基づいて臨床的に行われます。加えて、骨格系のX線検査、心エコー検査、眼科的検査、腰椎仙骨部のCTやMRIなどが行われます。遺伝子検査も、原因を調べるために行われます。
生命にかかわる突然の事態を少しでも回避するには、心臓血管系の対策が最も重要です。大動脈基部が5センチ以上に拡張したり、大動脈解離を生じた時は手術が勧められます。手術の成績は、昔に比べて非常によくなっています。
治療に使用される薬剤は、血圧を下げたり血管の保護を目的として、β遮断薬やACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬などが主に使用されます。
このマルファン症候群は人によって症状が異なるため、定期的に主治医と相談し、症状や心臓血管系の状態に合わせて生活管理をする必要があります。血圧を上げる動作や激しい運動、体が接触する運動は避けて、大動脈や目、骨が傷付く危険を回避することも必要です。適切な治療により、発症者の平均余命は一般人の平均余命に近いものになります。
喫煙はマルファン症候群の人にもともと不足している蛋白質であるエラスチンを破壊しますので、避けたほうがよいでしょう。
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