血管の病変が手足の動脈に慢性的に起こっている疾患
末梢(まっしょう)動脈疾患とは、手足の血管の動脈硬化によって引き起こされる疾患。PAD(Peripheral Artery Disease)とも呼ばれます。
日本では閉塞(へいそく)性動脈硬化症、もしくは慢性動脈閉塞症と呼ばれている疾患ですが、海外ではPAD、すなわち末梢動脈疾患という疾患名が一般的です。 主に40〜50歳以降に発症します。
動脈に脂肪分が沈着して粥状(じゅくじょう)硬化(アテローム硬化)が起こると、血管の内膜が肥厚して内腔(ないくう)が狭くなったり、潰瘍(かいよう)ができたりします。結果として、血流に障害が起き、血液が固まって血栓を生じ、詰まりやすい状態になります。こういった血管の病変が末梢(まっしょう)動脈、すなわち手足の動脈に慢性的に起こっているのが、末梢動脈疾患です。
末梢動脈疾患のある人は、手足の動脈だけでなく、全身の血管にも動脈硬化を来している場合が少なくありません。3割の人で冠動脈疾患の合併、2割の人で脳血管障害の合併が認められます。
発症しやすいのは、糖尿病、高血圧、高脂血症、喫煙などの動脈硬化の危険因子を持っている人。食生活やライフスタイルの欧米化により、動脈硬化を基盤とする末梢動脈疾患が急速に増えています。
初期の症状は、足の冷感やしびれです。進行すると、短い距離を歩いただけで、ふくらはぎや太ももの裏側が重くなってきたり、痛みを感じるようになります。2〜3分休むとよくなり、再び歩くことができます。この間欠性跛行(はこう)や足のしびれなどの症状が神経痛の症状と似ているために、勘違いされて見逃されることも多く見受けられます。
さらに進行すると、安静時にも痛みが現れるようになります。病変がある動脈で、急に血液が固まって急性閉塞が起きた場合には、24時間を経過した後で、筋肉に壊死(えし)が起こることもあります。
末梢動脈疾患の検査と診断と治療
歩くと下肢が痛くなる原因にはいろいろあり、神経痛などほかの疾患と勘違いして、末梢動脈疾患(PAD)を悪化させてしまうこともまれではありませんので、循環器科や心臓血管外科を受診します。
医師による検査では、血管が閉塞した部位より先の動脈は、拍動が触れなくなります。四肢の血圧から足関節/上腕血圧比を測ることにより、さらに詳しく下肢の虚血を診断できます。確定診断には、血管造影検査が必要になります。
初期の冷感やしびれに対しては、血管を広げる血管拡張薬や、血液を固まりにくくする抗血小板薬を中心に治療が行われます。手足の痛みが強く、ひじや、ひざから上の比較的狭い範囲で慢性の動脈閉塞が起きている場合には、カテーテル治療、レーザー血管形成術、バイパス手術、血管新生療法などが行われます。
カテーテル治療は、狭心症や心筋梗塞(こうそく)の治療で行われるバルーン療法と同じ血管内治療。閉塞した部位にカテーテルを通し、そこで風船を膨らませて閉塞を治した後、再閉塞を防ぐためにコイルを留置します。レーザー血管形成術は、閉塞部近くまでカテーテルを挿入し、レーザー光を発して血栓や肥厚した内膜を霧状に散らす療法。
バイパス手術は、閉塞した動脈の代わりに静脈や人工血管を使ってバイパスを作り、動脈の血行を再建する治療。血管新生療法は、肝細胞を増殖させる物質の遺伝子が血管を新しく作ることがわかったため、それを使って行う新しい治療。血管を新生する因子(HGF)を産生する遺伝子を含む医薬を筋肉に注射し、新しい血管を誕生させて血流をよみがえらせます。
治療方法は数多くあるものの、末梢動脈疾患が重症になり、壊死が進行した場合は、足の切断が必要になることがあります。日本では毎年、1万人程度が足の切断を余儀なくされていると推定されます。
この末梢動脈疾患は、糖尿病や高血圧、高脂血症がある人に起こりやすいので、このような既往症のある人は、食生活を正して食べすぎを避け、減塩を守ること、ストレスを解消すること、禁煙をすることが必要です。
また、足の症状が出るまでは、休みながらも繰り返し歩くように心掛けます。歩くことにより、側副血行路が発達し血行が改善します。靴下、毛布などを使って、足の保温にも努めます。寒冷刺激は足の血管をさらに収縮させ、血液の循環を悪くさせるからで、入浴も血行の改善に役立ちます。足はいつも清潔にしておき、爪(つめ)を切る時は深爪をしないようにし、靴も足先のきつくないものを選ぶようにします。
なお、末梢動脈疾患(PAD)の日本における保険適応上の疾患名は、閉塞性動脈硬化症もしくは慢性動脈閉塞症となります。
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